2016-03-22 19:25:43 更新

概要

艦これの潜水艦を主人公にした話です。
潜水艦の戦いを描きたかったため、この話を書いてみました。


 音のない澄み切った青の世界。

 やはり海の中は地上と違って落ち着く。

 周囲を見渡すと、眼下にはごつごつとした岩肌が広がっており、頭上からは太陽の光が細く差し込んでいる。

 私にとってはこの程度の明かりで充分だが、普段陸上にいる仲間達からしたら暗くて怖いと感じるだろう。

 時折小魚が視界を遮っていくが、同じ場所でじっとしていると、何だかこの世界の時が止まってしまったかのように感じる。

 その静けさもまた、私にとっては心地良い。

 これから戦闘が始まるといった状況にも関わらず、心は落ち着いている。

 いったいどのくらいの時が過ぎただろうか。

 作戦海域に到着し、その場で待機という指示があってから、私は岩陰に身を潜めることにした。

 もうそろそろ海上の仲間達も近くに来る頃だろう。

 今回の作戦の目的は、接近してくる敵部隊の殲滅だ。

 何としても迎撃すべく、こちらの編成は戦艦一隻に加え、重巡洋艦と軽巡洋艦という、ここ最近の作戦と比べて火力重視のメンバーとなっている。

 その中で私の役割は、敵の囮役である。

 仲間達よりもさらに全線で一人待機し、敵近づいてきたところで私がまず魚雷を打つ。

 その際に敵を一隻でも沈められのが理想だ。

 魚雷の攻撃を受けたことにより敵は私の存在に気づき、こちらに注意が向いている隙に私の仲間が一気に接近し敵を討つ。

 という作戦だ。

 これまで何度も同じ方法で成功を収めてきた。今回も上手く行く。

 そう自分に言い聞かせた。

 頭上をに目を向けると、前方から黒い影がこちらに迫って来ていた。

(……来たか)

 まだ距離はだいぶある。

 随伴艦として,幾つかの小さな姿も見受けられる。

 敵の編成は戦艦が一隻、駆逐艦もしくは軽巡洋艦が三隻といったところだろうか。

 数が多かろうと私にはそんな事は関係ない。

 見つからなければいいだけなのだから。

 岩陰からゆっくりと離れ、私は敵を見据えた。

 腰に手を添えると、そこには無機質の冷たい感触があった。

 敵を沈める為に私が使う武器、酸素魚雷だ。左右に二本ずつ装備している。

 一本でも敵を沈められる程、威力は充分にある。

 数が少ない分無駄撃ちは出来ない。

 ……だいぶ敵がこちらに近づいてきた。

 狙いを定め、いつでも発射出来る体制を整える。

 心臓が早鐘をうち、早く魚雷を打ちたい衝動に駆られる。

 だがまだ早い。もう少し引き付けなければ。

 十秒ほどが過ぎただろうか。

 敵の影が狙いの範囲に入った。

(……今だ!)

 右の魚雷発射管から、一本魚雷を放った。

 泡しぶきをまといながら、一直線に凄まじいスピードで敵目がけて突き進んでいく。

 数秒後、大きな爆発音とともに敵へと命中した。

 一隻倒せたようだ。

 敵はこれで私の存在に気づき、反撃をしてくるだろう。

 すかさず私はもう一本魚雷を放った。

 水を裂きながら天へと向かって行く。

 そして爆発音。

 しかし先程とは違って音が軽かった。

 致命傷は与えられなかったようだ。

 どうするか……。

 追撃は仲間に任せて別の敵を狙うべきだろうか。

 思案していた時、頭上から一本の白い筋をまとった物がこちらに迫って来ていた。

(爆雷か!)

 私は咄嗟にその場を離れた。

 その数秒後、さっきまでいた場所で爆発がおこった。

 一撃でもまともに食らったらただでは済まないだろう。

 身を隠すべく、近くにあった大きな岩影に身を隠そうと、私は進んで行った。

 その間も敵の爆雷による攻撃は続いた。

 身を躍らせながらそれらを避け、攻撃が止んだ隙をついて一本魚雷を放った。

 だが敵も甘くはないらしい。

 上手く避けられ、大きな水しぶきを上げるだけの結果になってしまった。

 自分の中で焦りが大きくなっていた。戦果を上げなくては……。

 冷静になっていなかったせいだろうか。

 すぐ近くまで爆雷が迫っているのに、私は気づかなかった。

(なっ!?)

 直撃は免れたものの、大きな衝撃が身を襲った。

 その勢いで私は、もう近くまで迫っていた岩へと叩き付けられた。

 体中の骨が軋み、口からは大量の空気が漏れた。

 痺れが襲い、上手く体が動かない。

 どうやら敵は、それなりに戦闘経験のある奴のようだ。

 これ以上油断していたら、『殺られる』。

 頭の中でその言葉が浮かんだ。

 とその時、ここまで響くほどの轟音が聞こえた。

(やっと来たか!)

 味方の戦艦による砲撃が敵を貫き、一隻が水底へと沈んでいった。

 続いて味方の援護射撃が続く。

 負けじと敵も応戦し、戦闘は一気に激しさを増した。

 私も負けてはいられない。

 体の痺れは無くなり、もう動けるようだ。

 腕に若干損傷はあるものの、問題はない。

 残る魚雷は一発。

 確実に当てなくては。

 狙いを定めようと敵を見た瞬間、視界の隅を何かが通り過ぎていった。

 目を向けてその姿をとらえた瞬間、私は衝撃を受けた。

(仲間が!?)

 仲間の一人が水底へと向かって落ちてきていた。

 体のあちこちが負傷し、鮮血が尾を引いて溢れている。

 まだ意識はあるらしく、見開かれた瞳と視線が合った。

 何かにすがるかのようにして、こちらに手を伸ばした。

 だがその姿はあっという間に通り過ぎていき、深く暗い水底へと消えていった。

 ……今までに何人もの仲間の死を見てきた。

 もう慣れているつもりだった。

 慣れるしかないと思っていた。

 だけど私は今、込み上げてくる感情を抑えきれなかった。

(うああぁあああぁぁっ!!)

 戦場にいる以上、常に冷静にいなければいけないのかもしれない。

 だけど私はそこまで強くない。

 仲間を失って悲しくないわけがない。

 仇は私が討つから!

 敵を睨み付け、魚雷の狙いを定めた。

(今だっ!)

 最後の一発を発射しようとしたが、何も起こらなかった。

(故障!? ……さっきのあの時か!?)

 先程敵の爆雷を受けて岩に叩き付けられた時に、発射管が故障したのだろう。

 このままでは仲間の無念を晴らすことが出来ない。

 ならば……。

 私は水中を蹴り、敵に向かって一直線に突き進んでいった。

 魚雷を脇に抱え、絶対に放さないよう腕に力を込めた。

 敵との距離がどんどん縮まっている。

 この一撃を……!

 と決意した瞬間、狙いをつけていた敵が爆炎を上げながら大きく吹っ飛んだ。

 私は呆気にとられ、そのばで急ブレーキをかけた。

 味方がやってくれた。そう気づくのに数秒かかった。

 海面はもう、すぐそこまで迫っており、太陽の明るさを全身で感じられる。

 ……いったい私は何をしようとしていたのだろう。

 頭がボーッとして上手く思考が働かない。

 腕に込めていた力も抜け、抱えていた魚雷がゆっくりと水底へ落ちていった。

 とその時、海面から何かが私の腕を掴み、私を水の中から引き上げた。

「命を大事にしろ。君がいなくなると皆が悲しむ」

 我が艦隊のリーダーの姿がそこにあった。

 周りを見ると敵の姿はなく、仲間の姿のみがあった。

 傷ついている仲間もおり、今回の被害はかなりのものとなってしまった。

 悲しさや悔しさな色々な感情が溢れ、視界が揺らぎ涙が頬を伝った。

 空を見上げると、海の中にも負けない程の澄み切った青が広がっている。

 いつかこの綺麗な景色を、心から楽しめる日が来るのだろうか。

 早くこの戦いが終わらせなくては。

 私はそう心に誓った。


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