2016-10-17 05:55:52 更新

概要

鎮守府が始動したころ、捨て艦扱いされた二人の艦娘の捜索特務の連絡が入る。
受ける提督と、向かう青葉。ボロボロで冬の海をさまよう磯波と望月の運命は?

いよいよ建造と作戦が始まったほかに、捜索任務まで入った、第五話です。

磯波、望月回かもしれません。


[第五話  増える仲間たち、胎動 ]




―「にしのじま」出発の前日、ヒトハチマルマル、執務室


青葉「提督、お呼びでしょうか?」


提督「飯時に急に呼び出して済まないね。実は、明日からの作戦行動、君だけ近海で別行動を取ってもらいたいと思ってね」


青葉「え?青葉だけ、みんなと別々なんですか?」


提督「うん。本当は加古や古鷹たちとデビュー戦を飾ってほしいと思っていたんだが、・・・ちょっとこれに目を通してくれないか?参加は任意だが、特務が入ってね」パサッ


青葉「作戦の資料でしょうか?ちょっと読ませていただきますね」パラッ


提督「どう思う?私はやったほうが良いと思うんだけど」


青葉「・・・これ、こんな事って。事実、なんですか?」


提督「うん、残念ながら事実だよ。この不祥事を起こした鎮守府の提督は、もう更迭済みだそうだ。職業軍人上がりなのに、ずいぶんひどい事をする」


青葉「確かこれ、『捨て艦』とか言われている運用ですよね?しかも、大破判定前に放置って、ひどくないですか?」


提督「艦娘をロストすると、その分資源の手当てが増量されるから、とか何とか、色々あるらしいが、いずれにせよおれには必要のない知識だよ。とにかくだ、大破未満なのに打ち捨てられた子が4人いて、そのうち二人は轟沈が確認されたそうだが、あとの二人は轟沈確認されておらず、海流に流されながら帰還中の可能性があるらしい」


青葉「それで、明日の未明から正午くらいまでが、この書類の海域に到着する可能性が高い、という事なんですね?」


提督「うん、そういう事らしい。今もこの寒い中、海流に流されながら自分の鎮守府に帰ろうとしている可能性があるって事だ」


青葉「この真っ暗な冬の海の上を、ですか・・・」


提督「書類によると、もう五日も飲まず食わずのはずだ。しかし、本部からの通達では、まだどこかで生きている可能性が高いとの事なんだよ」


青葉「青葉にこの任務のお話をしたのは、なぜですか?」


提督「不測の事態があっても、この海域なら重巡一人で十分に対応可能な事、航続距離が長い事、あとは何より、君は良く目端が利いて注意力が高い。発見可能性が少しでも上がるかと思ってね」


青葉「わっかりました!抜擢ありがとうございます!青葉これから準備して、少し仮眠したら、燃料を抑えるために夜中早めに出発して海域に向かいますね。絶対、見つけてきます!」


提督「ありがとう!けど無理は禁物だ。二人分の戦闘糧食とダメージコントロールは準備しておくよ。何時ごろ出発する?」


青葉「マルニーマルマルの出発で、マルゴーマルマルには捜索海域イに到着できると思います」


提督「では、準備完了後、マルヒトサンマルに執務室で。なお、本作戦は特務の為、作戦成功時までは秘密任務扱いとする。以上!」


青葉「青葉、諒解いたしました!」ピシッ


―マルヒトサンマル、執務室


青葉「青葉、出撃準備完了です!」


提督「よし、じゃあこれを持って行ってくれ!」ドサッ


青葉「わ!何だか硬そうなバック?・・・リュックですねー!」


提督「そいつは密閉していると水に浮く優れものだよ。退屈なときは浮かべて椅子代わりにできるから、今回の任務に適しているかと思ってね。艦娘用の装備作成に着手した民間企業からのコンペ品でね。一応、使い心地等もあとでレポートしてほしい」


青葉「へぇー、それも任務なんですね?」


提督「そう。ここは他の鎮守府と違って、そういうデータ取りの仕事もかなり入ってくるらしくてね。・・・それと、中に入っているのはおにぎりと、二つの水筒はみそ汁と濃い目のお茶だな。たっぷりあるから、三人でそこそこ食事になるはずだよ。あと、司令部配給の提督用タブレットの予備を入れといたから、座標の確認と連絡に使用してくれ。・・・あ、中のソーシャルゲームは勝手に課金しないように」


青葉「配給品で何やってるんですか・・・わかりました。では、青葉、出撃します!」


提督「ん。ではこれより、友軍の捜索を開始する。作戦終了時間はヒトフタマルマル、現地判断で一時間まで延長可能とする」


―現在、捜索海域ロ、マルナナマルマル


青葉(まさか雪が降ってくるなんて。視界がかなり狭められて良くないですねー。しかもとっても寒いです。生きているらしい二人、大丈夫でしょうか?頑張って探さないと!)


―同じころ、捜索海域の南西25海里


磯波「・・・望月ちゃん、望月ちゃん!大丈夫?」


望月「・・・ん・・・、ああ・・・あたしまだ・・・生きてたのか・・・」


磯波「気をしっかり持って!だいぶ、本土の方に流されてきたと思うから」


望月「アンタも奇特・・・だよね。あたしなんか・・・もう捨てちゃえばいいのにさ・・・」


磯波「ダメです!そんな事言わないで!」


望月「気持ちはマジ嬉しいんだけどさー・・・アンタだけでも生き残って欲しいんだよ・・・」


磯波「少しだけ、練度も上がったし、帰ったらきっと次は捨てられないですよ!」


望月「あたしはそうは思わ・・・ないよ。どうせ解体・・・されるか・・・また捨て・・・」


磯波「うそ?望月ちゃん?望月ちゃん!」ユサユサ


望月「・・・ごめん・・・気が遠くなった。・・・また少し・・・寝るね」


磯波「うん、うん!安心して寝てて、きっと帰るから!」


磯波(お腹空き過ぎて気持ち悪い・・・。雪まで降ってきて・・・。望月ちゃんの言うとおり、帰ってもどうなるかわからない。でも、でも・・・)


磯波「こんな雪の降る海の中で、死にたくないよ・・・」


望月「・・・ん?ひとり・・・ごと?・・・そうだね・・・もう少しマシな・・・」


磯波「望月ちゃん、わたし、まだ頑張る・・・」


望月「・・・・」


―マルキューマルマル、捜索海域ハ


青葉(この地域には珍しい雪がだんだんひどくなってますねー。でも、青葉はこういうの、何かのフラグだと考えます。最悪の状況が逆転する前触れの。・・・視界も悪いですが、ギリギリまで探すつもりでいきます)


―同じころ、捜索海域の南西18海里


磯波(ああ、雪が吹雪に・・・。そういえば、吹雪ちゃんとは会えないままだなぁ。このまま微速で進んでいても、もうじき燃料も無くなっちゃう。・・・寒いなぁ)


磯波(望月ちゃん、頭に雪が積もっちゃって。まだ心臓は動いているけれど、このままじゃ死んじゃう・・・)サッサッ


磯波(戻っても、また使い捨てにされるか、解体されるかもしれないんだよね・・・)グスッ

磯波(別に、戦ってて死ぬのはいいの。でも、ここまで使い捨てにされるなんて・・・)


磯波「うっ・・・ぐすっ・・・。こんなの、ひどいよ・・・」


―ザバー!


―近くの海面がいきなり盛り上がった


磯波「えっ?なに?」


―ザバン、プシュー!


磯波「クジラの、親子?」


―大きなクジラの親子が現れると、磯波たちに合わせるように、近くの海面を漂い始めた


磯波「クジラさん、わたしたちが珍しいから、見に来たの?」


クジラの親子「・・・・」


磯波「もしかして、励ましてくれてるの?」


クジラの親子「・・・・」


磯波「・・・うん、わたし、もう少し頑張るね!」


―クジラの親子は、今まで磯波たちが進んでいた方向より、やや北東寄りに進むようだ


磯波「あなたたちの方向に、わたしたちも進むね」


―ヒトフタマルマル、捜索海域イ


青葉(みんな今頃、海の上でしょうか?雪はちょっと収まってきましたね。作戦時間の延長を送ります)


青葉(SNS):「対象見つからないです。ヒトサンマルマルまで、捜索を延長したいです」


青葉(送信っと)


―ピコン!


青葉(返信はやっ!)


提督(SNS):「許可します。みんな無事出港。大淀さんが来てる。夕食はラーメンの予定。風邪ひくなよ?」


青葉(SNS):「諒解いたしました!」


青葉(お昼ごはんは、二人を見つけるか、作戦完了までお預けです。頑張りましょー!)


―同じころ、捜索海域の南西3海里


磯波「クジラさんたちのおかげで、早い海流に乗れたみたい。うまくいけば、どこかの島とか見つけられるかも・・・」


クジラの親子「・・・・」


磯波「雪も収まってきたし、あなたたちのおかげで、何だか、元気が出ました!」


望月「・・・あれ?・・・すこし雪が収まってきたの?・・・・うわ!クジラがいる!」


磯波「あ、望月ちゃん、目を覚ましたの?」


望月「・・・少し、寒さが収まったのが良かったかな。・・・ていうか、磯波なんで落ち着いてんの?本物のクジラだよ?うわあー!」キラキラ


磯波(もしかして、クジラ好きなのかな?元気が出たみたいで良かったぁ!)


望月「親子だ―!しかもナガスクジラじゃん!」キラキラ


磯波「珍しいの?」


望月「すっごい珍しいよー!マジ嬉しい。絶対いいことあるよ。助かるかも!」キラキラ


磯波「望月ちゃんに元気が出てよかったぁ!」


望月「たぶんまだ沈まないからさ、自分で移動してもいい?」


磯波「ダメそうだったらすぐに引っ張るからね?」


望月「背負われっぱなしじゃ悪いしさー・・・よっと!」


磯波「良かった!大丈夫みたいだね!」


望月「磯波、ありがと!あたしももう少し頑張るよー!」


磯波「ありがとう、クジラさんたち!」


クジラの親子「・・・・」


―ヒトサンマルマル、捜索海域ロ、外縁部


青葉(雪はだいぶ収まってきたけど、もう発見は無理そうですね・・・。最後に海域外縁部を回って、帰投しますか。・・・残念だなぁ)


―同じころ、捜索海域の外縁部


望月「なんか、ボロボロだけど寒さも疲れも吹っ飛んじゃったよー。すごいテンション上がっちゃった。あたしらが心配で近くにいてくれてるのかな?」


磯波「わからないけど、このクジラさんたちはもうずっと近くにいてくれてます。もう三時間以上かな?」


望月「そんなに?やっぱりクジラって優しいんだなぁ」キラキラ


磯波「あ!急にスピード上げて、・・・ああっ!」


―バッシャーン!


望月「うわー、すごいジャンプしたー!」


―同じころ、青葉


青葉「視界はだいぶ良くなったけど、見つかりませんねぇ・・・」キョロキョロ


ーバッシャーン


青葉「あっ!遠くでクジラが跳ねましたね!カメラも望遠レンズもちゃんと持ってきているのです!」サッ


青葉「もう一度跳ねてくれないかなぁ?」ズーム


ーバッシャーン


青葉「来たー!いただきです!」パシャッパシャッ


青葉「あっ!あの子たちは?見つけたっ!」


―磯波、望月


磯波「クジラさんたち、さよならの挨拶だったんでしょうか?何度かジャンプして、行っちゃいましたね」


望月「・・・それもだけどさ、磯波ー、あたし頭がおかしくなったのかな?なんか、あの辺に手を振ってる艦娘が見えるんだけど・・・」


磯波「えっ?・・・あっ!きっと救助ですよ!幻じゃないもん!こっちに来る!」


望月「マジか・・・あたしら助かるんだ・・・」


青葉「おーいおーい!大丈夫ですかー?助けに来ましたよー!」


磯波「大丈夫です!」


青葉「こんにちは!堅洲島鎮守府の重巡、青葉です!ギリギリまで捜索して良かったぁ!やっと会えましたね!」


磯波「利島鎮守府の駆逐艦、磯波と望月です。救助、ありがとうございます!」


望月「疑うようで悪いけど、堅洲島鎮守府なんて聞いたことないんだけど・・・」


青葉「特務鎮守府ですから、情報は公開されていません。あなたたちの捜索も、うちの鎮守府にのみ、受諾自由で来ていたものを提督が受けたそうです。・・・それと、言いづらいのですが、利島鎮守府の提督は更迭され、所属していた艦娘は新しい提督の着任待ちです」


磯波「そんなことに?」


望月「マジか!」


青葉「話が長くなるので、まず二人とも、これ渡しますんで発動してください」


―ダメージコントロールを発動させた


青葉「あと、提督が作ってくれたおにぎりとお茶と、お味噌汁があります。少しずつ食べながら移動しましょうか」


磯波「ありがとうございます!・・・良かった!これで望月ちゃんも大丈夫だね・・・」グスッ


望月「あんたはなんであたしの心配ばっかしてるのさー。マジ泣けるからやめろよー・・・」グスッ


青葉「良かった。ちょっと提督に端末で報告しますね」


青葉(SNS):「磯波、望月の二名と接触。救助完了。作戦成功です。あと、ナガスクジラのジャンプする写真撮れました!」


提督(SNS):「作戦成功おめでとう!受諾して良かったよ。二人に色々説明よろしく!ところで、磯波って確か、武人口調で話すかわいい子じゃなかったっけ?あまり遭遇できないタイプの」


青葉(SNS):「それはきっと磯風と間違えてますねー。本人を前にして間違えちゃダメですよ?」


提督(SNS):「あっぶな。それなら確か、控えめだけど頑張り屋さんな子だね。あと、クジラの写真は私にもくれ。では、気を付けて帰投してね。帰投予定時刻がわかったら連絡もよろしくー」


青葉「よし、と。じゃあお二人さん、帰りましょうか。ただ、現時刻をもって、所属が堅洲島鎮守府に変わりますけれど、いいですか?」


望月「あたしはいいよー。提督が居なくなっても、前の鎮守府の雰囲気は、正直ちょっとイヤだったからね」


磯波「断ると、どうなりますか?」


青葉「仮所属扱いになり、本部の通達待ちになります。でも、うちの鎮守府の存在を知ってしまったし、練度もまだ高いわけではないので、あまり良い対応はされないんじゃないか?と、提督は言ってました」


磯波「そうですよね。救助とはいえ機密に触れてしまったんですし。・・・わかりました。わたしもお世話になります!よろしくお願いいたします!きっと、このご恩はお返ししますね」


青葉「そんな固い感じでなくても大丈夫ですよー。うちの提督は民間から登用だし、わたしたち艦娘をとても大事に考えてくれてる人ですから」


磯波「そうなんですか?」


青葉「時には命がけで守ったりするくらいの人ですよ。お腹が大丈夫そうなら、そのおにぎりでも食べてみるといいです。きっと、二人がお腹を空かせてると思って、提督が作ってくれたものだと思いますから」


磯波「あ、ありがとうございます・・・」


青葉(警戒心と緊張が途切れてないですねー。無理もないのはわかるんですけど・・・)

青葉「色々お話ししながら、落ち着いて帰りましょうか。何でも聞いてくださいね」


青葉(SNS):「帰投時間、イチキューマルマル頃になる模様です」


提督(SNS):「諒解。帰投後、二人の事は執務室にて引き継ぎ、青葉は明日一日は休暇で。気を付けて帰投せよ」


青葉(SNS):「諒解いたしましたー!」


―同日イチキューサンマル、執務室


青葉「青葉、ただいま帰還いたしましたー!・・・って何ですか?この書類の山は」


提督「お疲れ様!良くやってくれた!・・・この書類はね、大淀さんが色々持ってきてくれたんだよ。しばらくは書類整理に追われそうだな」


望月・磯波(提督が士官服着てないし、メイド姿の子がいる・・・)


望月「初めまして、望月です。今回は本当にありがとうございました。・・・でも、わざわざあたしらを助けるなんて、提督はちょっと変わってるねー」


提督「そんなことないさ。寒かったし、腹減ったし、ひどい目に遭ったんだろう?なら、それを何とかしてやりたい。おまけにうちは人手不足もいいとこだからね。十分な理由だよ」


磯波「あの、磯波と申します。今回は本当に、なんて言ったらいいのか・・・ありがとうございました。御恩は必ずお返ししますね」


提督「いや。それよりも、早いとこ警戒心を解いてくれ」


磯波「えっ?」


提督「経過からも状況からも、無理もないんだけどさ。君が心配するようなことは、ここには何もないよ。助けられて、ここに所属になったからと言って、こき使われるわけでも、何か見返りを求められるわけでもない。警戒心とあきらめない心は戦闘に取っといて、嫌な事はさっさと忘れちゃいな」


磯波「(見抜かれちゃった!)・・・あ、はい!すいません。失礼しました」


提督「じゃあ、よろしくね。来てくれて嬉しいよ」ニコッ


漣「初めましてー!七駆の漣です。二人ともボロボロだから、まずは入渠して疲れを取ってくださいね。お部屋もお食事も用意してあるし、ゆっくり眠ってもいいですよー」


提督「あとは漣、よろしく頼むよ。・・・青葉もごくろう、ゆっくり休んで。望月と磯波は、十分に休息が取れたら漣に言ってね。では、本日の執務はここまで。・・・あ、ここの温泉は最高だからね?」


望月・磯波「諒解いたしました。ありがとうございます!」


漣「ほいさっさー!お任せ、ご主人様!・・・ぼの、わたしが忙しいからってご主人様にデレ過ぎちゃだめだよ?」


曙「いちいちうっさいわね!そんな事しないわ!」


提督「わかった、適当に触っとく」サワッ


曙「こっ、こんのクソ提督―!お尻まで触り始めたわね!」


青葉「じゃあ、青葉はちょっとお休みしますね」


―同日、フタサンマルマル、望月と磯波の部屋(和風客室)


望月「高速修復材まで使ってくれちゃったよー。眠気も吹っ飛んだし、司令官が作ったっていうラーメンも美味しかったし、もしかしてあたしら死んじゃってんのかなー?」クスッ


磯波「それはないよ望月ちゃん。・・・でも、いままでの鎮守府と違いすぎるし、頭が追い付いていかない感じかも」


望月「なんか、こたつとミカンまで用意されているんだけど!リゾート施設を改装した鎮守府って言ってたけど、まだそんなに艦娘もいないみたいだよね。でもなんかさー、助けられたからって言うわけじゃないんだけど、以前の司令官とこっちの司令官では、こっちの司令官のが、底が見えない感じがするね。どっか気持ちに余裕があるし」


磯波「提督はさっき、わたしの警戒心の事を気にしてたけど、前の提督だったら、誰のどんなことも気遣わないで、作戦の成功しか見てなかったから、絶対気付かなかったと思うの」


望月「だよねー。それにほら、前の提督は曙が嫌いで・・・改にしてからずっと放置されてて、大規模作戦でだけボロッボロに使い倒されていたけど・・・」


磯波「こっちの提督は、メイド服着た曙さんを秘書艦にして、楽しそうに仕事してたね」


望月「カルチャーショックだよう。司令官が違うだけでこんなに違うなんてさー。捨て艦にされてから、まさかこうなるなんてさ。・・・なんか、沈んでいったみんなにちょっと悪いなぁ」


磯波「望月ちゃん、わたし、助かるとは思っていなかったの。だから、悪いって事は無いんだと思う。本当にたまたま、こうなっただけで」


望月「そうだねー。司令官も、さっさと忘れろって言ってたもんね。・・・よくよく考えたらさ、出撃の日に初めて顔合わせただけで、あんたとこんなに話すことになるとも思ってなかったもんなぁ」


磯波「わたしもです。でも、一人でなかったから助かったんだろうなぁって」


望月「お風呂入って気分替えようか・・・」


磯波「温泉ですよね?わたしも行きます!」


―大浴場


望月「なにこれ・・・やっぱりあたしら死んで天国に来ちゃってんのかなー」キラキラ


磯波「すごい・・・」


―40分後


望月「ふぃー、堪能した。磯波はまだ入ってんの?あたしは部屋でこたつに入ってミカン食べようかなって」


磯波「あっ、望月ちゃん、色々なお風呂があるから、もう少し入ってようかなって」


望月「おー、いいねぇ。いい傾向だねぇ。そうだよ、楽しまなきゃーだめだね。じゃあ、あたしは先に戻ってるから、ゆっくり楽しんできたらいいよー。・・・というかさ」


磯波「はい?」


望月「髪おろすと美少女なんだね、知らなかったよ」


磯波「えっ?・・・そ、そうかな?でも、眼鏡取った望月ちゃんもすごくかわいいけど」


望月「実は眼鏡の方が本体なんだよ、艦娘としての」


磯波「ええっ?」


望月「冗談だけどねー。でもありがと。んじゃー、先いってんねー!」ガラピシャッ


磯波「うん、またねー!・・・(露天風呂、一度入ってみたかったの)」ザバッ、ザバッ


磯波(このあたりが落ち着きやすそ・・・え?)


提督「・・・んむ?おわっ!」パチッ


磯波「きゃああぁぁぁ!」ザバッ


提督「えっ?ちょっ?君は誰だ?」


磯波「すいません、居ると分かりませんでした!磯波です」


提督「あーすまん、漣が伝え忘れたのかもだな。昨日から、怪我の治療かねて長い時間風呂で寝ているんだ。君がこの時間に来るとは想定してなかったよ。ごめん」


磯波「あっ、その、怪我されているんですか?」


提督「うん。そんなひどくは無いけれども。・・・というか、ほらこれ、でっかいタオル。目ぇつぶってるからさ、これ巻けば大丈夫でしょ?巻いたら教えて。せっかくだからお風呂楽しんでいきなよ。遠慮して上がる事なんてない」ポイッ


磯波「あっ、わかりました!・・・あの、お邪魔じゃないですか?」パッ、モゾモゾ


提督「邪魔じゃないし、別になんもしないし、聞きたいことがあったら聞いてくれ。ウトウトしてるけど、話すのも嫌じゃないから、好きに過ごしててくれ」ノビー


磯波「いえ、驚かせてすいません。・・・タオル、巻きました」


提督「うん。いいお風呂でしょ?もともと温泉は好きなんだけどさ、怪我が続いたから、痛みを抜くために長い時間入っているんだよ。ほとんど寝ているんだけどね」


磯波「はい!望月ちゃんともお話してたんですけれど、冬の海に捨てられてから、助けられて、今こんな感じなので、何だか不思議な感じです」


提督「ふふ。そうかもしれないな。・・・でも、これから先は戦いも多いから、今の感覚をよく覚えておいたらいい。死地がいきなり逆転することは、運の強い者には良くあることだから。この経験の多い者を、歴戦と言うんだよ」


磯波「歴戦、ですか。わたし、強くなれるでしょうか?」


提督「強さってのも意味が広すぎるからなぁ。まず、戦いに行っても、毎回キッチリ生きて帰ってきて、大切な日常を続けていく事を心がけたらいいよ。こちらは提督として、なるべく無理のない作戦計画を立てていくから。強さなんて、本当に大切なものが増えていけば、勝手についてくるもんだ」


磯波「そうなんですか?」


提督「例えばさ、磯波はなぜ、沈まずに生きて帰ろうと、あんなに頑張ったの?」


磯波「・・・このまま捨てられて沈んでいくなんて、納得できなかったんです。もっと色々なものを見て、経験したくて。きっと、望月ちゃんもわたしと同じ気持ちだと思ったから」


提督「それが君の大切なものってやつだよ。それを大事に生きたらいい。色々なものを見て、経験したら、大切なものもたくさん増えていく。そうすれば、自然に強くなっていくよ」

磯波「なんだか、提督は、以前の鎮守府の提督とは言う事が全然違いますね」


提督「そうかい?」


磯波「任務の完遂に徹しろ、兵器としてひたすら自分の練度を高めろ、当たり前のことをやれば、当たり前の結果が出る・・・って」


提督「それは全部正しいぞ?軍人としては模範解答だ」


磯波「そうですよね。頭ではわかっていたつもりなんです。実際に捨てられるまでは・・・」


提督「効率の追求さえ行きすぎなければ、至極正しい考え方だ。でも、世の中に起きる大事は、大抵、正攻法が通じなくなる。この戦いも、そういうもんだったってだけだろう。・・・だから、おれみたいなのが提督やってるんだけどね。された事は確かに酷過ぎるが、良いところだけは教訓として吸収しとけばいいんだよ。考え方の手札は多い方が良い」


磯波「そうですね、もうわたし、ここの子ですもんね」


提督「そうそう。ここの子です」


磯波「・・・ところで、提督、その・・・」モジッ


提督「ん?」


磯波「さっき、見ちゃいましたか?」


提督「ああ、ハダカ?」


磯波「・・・はい」カァァ


提督「・・・ごめんしっかり見ちゃった。なので、冷静なふりしてそれっぽい事言ってたんだけど、そりゃ気になるよね。ごめん。借りにしとくよ」


磯波「いえ、大丈夫です(見られちゃった!しっかりって言ってた!)」マッカ


提督「・・・とはいえ、責任と言っても多少のものでは釣り合わんよなぁ。ケッコン(仮)しろって言われても断れないレベルのものだ。困ったぞこれは。どうしたらいい?」


磯波「えっ?そんな・・・それほどの事では「あります!」」


提督「こういうのしっかりしとかんと、いずれ、おれ自身に良くないんだよ。どこの美少女だよ?って思ったぞ。うちの鎮守府の誰とも一致しなかったから」


磯波「そんな・・・(美少女って言われた!)そういうものなんですか?・・・えーと、じゃあ、秘書艦としてお仕事させていただく、とかは?・・・ダメですよね」


提督「え?人手不足だからありがたいけど、そんなもんでいいの?かえって負担が増さない?」


磯波「いいんですか?それがいいんです!」


提督「・・・ん、わかった。じゃあよろしく頼むよ。十分に休息が取れたと思ったら、昼間、執務室に来てくれたらいい」


磯波「わかりました。頑張りますね!じゃあ、そろそろわたし、上がります。提督もお大事にしてください」


提督「ん、ありがとう。じゃあまたしばらく寝てるよ。また明日ね。ゆっくりお休み」


―望月と磯波の部屋


磯波「ただいま、望月ちゃん」


望月「おかえりー、ゆっくりしてきたー?ここのミカン美味しいよー?」


磯波「お風呂で提督と会っちゃった。わたしたちが居たころには、奥の方で眠ってたみたい」


望月「あー、誰かの服が有ったような気がしたんだけど、あれ提督のかー」


磯波「えっ、そうだったの?」


望月「まさか提督とは思わなかったからさー。でも、何も変なことなかったでしょ?つーか、なんか楽しそうじゃない?」


―磯波は経過を話した


望月「・・・なるほどねー。ほら、うちらってさ、提督の数だけ居るって言われてるじゃん?そのあと、提督の影響をすごい受けて、少しずつ差異ができて成長していくって。きっと、うちらの提督はあの人なんだよ」


磯波「望月ちゃんは、何でそう思うの?」


望月「あたしさー、前の鎮守府で、高練度の六駆の子たちが炬燵のある部屋だったの、羨ましかったんだよね。んでさー、捨てられてあんたにおぶさってる最中、死ぬ前にラーメン食べたいなって思ってたんだよね。そうしたら、助けられて、提督手作りのラーメン食べて、今は炬燵でミカンだよ?これは運命だよー!」


磯波「そういえば、わたしも秘書艦になっちゃった・・・」


望月「あたしらみたいになって、沈んで行っちゃった子たちのぶんも、頑張って楽しく生きないと!」


磯波「うん!」


―現在、ヒトゴーマルマル、執務室


磯波「提督、いませんね・・・」


望月「漣も曙もいないねー。ここ、すんごい広いから・・・あっ、今日の予定表とここの見取り図がある」


磯波「工廠ね、行ってみましょうか」


―工廠


提督「そろそろ時間だな」


漣「うーん、ガチャガチャやってる気分」


曙「身も蓋もないなぁ。・・・そんな感じは確かにするけど」


望月「おっ、新しい仲間ー?元気になったから、顔出しに来たよー」


磯波「挨拶に上がりました。執務室、ご不在だったのでこちらかなって」


提督「お、元気になったね。・・・タイミングだ、どれ」ポチッ、プシュー、ガコン


―建造キャニスターがもやを出しながら開く


秋雲「秋雲着任!提督ぅ、よろしくね!」


雪風「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です!どうぞよろしくお願いします!」


提督「おおっ?二人ともかなり珍しいんじゃないのか?どうも、提督です。よろしくー!」


曙「レベル4の情報ってすごいわね・・・」


漣「雪風さんのいる鎮守府の提督は、幸運なので雪風提督、なんて呼ばれるらしいですよ?ご主人様」


雪風「雪風は幸運なんかじゃないですよ!しれぇ、皆さん、よろしくお願いしますね!」ペコリ


秋雲「なになに~?何でいきなりメイド服着た子が二人もいるの~?提督ー、隅に置けないねぇ!」


望月「いきなり雪風かよー、前の鎮守府にはいなかったんだよなー。たいしたもんじゃん」


提督「じゃあ磯波、漣と曙と協力して、新任の二人にここの案内や部屋の準備をしてあげて」


磯波「はい!」


提督「っと、その前に。漣、曙、今日から磯波ちゃんも秘書艦として仕事をサポートしてもらう事にしたよ。人手不足がやばいから、渡りに船だね。仲良くやってくれ」


曙「わたしは問題ないわよ。よろしくね」


漣「わたしも、よろしくね!・・・うーん、隠されたスペックが高そうだもんなぁ。ぼのの強力なライバルになったりして」マジマジ


磯波「えっ?」


曙「わたしにかこつけてるけど、漣って提督が大好きなのよ。気にしないでね」


漣「ほー、簡単にデレだしたと思ったら、言うじゃないですか曙さん。『提督の事、嫌いじゃないかもって』いでっ!」スパァン


曙「セクハラされないからって妬いてんじゃないのー?わたしは恩を感じてるだけで、別にクソ提督にデレてなんかないし!」


漣「お尻蹴ったな!ご主人様にもそんなプレイされた事無いのに!」


提督「・・・絶対突っ込まんぞ」


雪風「雪風、よくわかりません!」


秋雲「ふふーん、どうやらモチーフに事欠かない鎮守府ね」


望月「なんかさあ提督、ダラダラしたかったら遊びに来るといいよー。あとさー、ミカン美味しかったよ。いいチョイスだねぇ」


提督「それは何より。しかし、四人増えただけでこれだと、先がえらいことになりそうだな」


磯波「あの、わたしは楽しそうで、いいと思います」


提督「しかし一発目から雪風って。よし、今度は余勢をかって、最低値でもう一回だけ」


漣「え?資源大丈夫なんですか?ご主人様」


提督「あまりだいじょばないけど、大丈夫。転送貯蔵庫の支給予定が更新されてるはずだよ。二人の救出に成功したし、初期建造も手当てが出るはずだから。まあ何より、こんな時は勢いが大事だよ」


漣「なるほどー、じゃあ最低値で一基だけ建造にしますね・・・よし、と。一時間二十二分ですね、今度は」


提督「ちょっと長いな。とりあえず工廠の整理をするか。第一開発室を曙、漣が掃除、第二開発室を望月と磯波が整頓して、第三開発室は雪風と秋雲、これでいこう。部屋の案内はもう一人増えてからでよいね」


一同「諒解!」


―一時間二十二分後


夕張「はーい、お待たせ?兵装実験軽巡、夕張、到着いたしました!・・・って、視線が集中してません?」


提督「おおー!良かったぁ!広い工廠にぴったりの子が来てくれた!」


夕張「あっ、提督ですか?初めまして。確かに広ーい工廠ですね。本格的な工作艦の方が来るまで、自由に使わせていただきますね!」


提督「よろしく頼むよ。うちの鎮守府初の軽巡だよ、君は。ここの鎮守府は艤装のみならず、工作任務もとても多いんだ。事情はおいおい説明するので、好きなだけ腕を振るってほしい」


夕張「わかりました!ご期待に沿えるよう、頑張りますね!」


提督「こうなると、早めに北方海域に進出したくなるなぁ」


―同じころ、特殊輸送船『にしのじま』内、艦橋指令室


陸奥「敵戦力が思ったより薄いわね。提督の言うとおり、ひたすら仲間を集めてローテーションして、初期練度を上げていきましょうか」


叢雲「とはいえ、まだ空母クラスの敵が出てきていないから、あまり油断はできないわね。予想敵戦力からしたら、扶桑さんたちの瑞雲でも、まあまあ制空権は取れると思うのだけれど」


陸奥「扶桑と山城、絶好調よね。ル級やリ級を袋叩きにしているもの。初期練度が十分なんだわ。この海域では」


叢雲「大型タンカーを襲撃しようと定期的に出張ってくる敵だから、あまり練度も高くないのもあるわね」


陸奥「もう少し南下すると、緩衝防衛線に到達するわ。そこでは空母戦力もしばしば確認されているわね」


叢雲「確か、提督の指示では、各海域ごとにここまで仲間に加入出来たら次の海域に進出可能、みたいなリストがあったわね。あれに従ってもう少しこの海域で戦闘と捜索を繰り返した方が良さそうね」


陸奥「とすると、ちょっと待って、まだ加わっていないのは・・・ああ、まだまだね。南下する前に鳳翔を仲間にして、練度を上げなくてはならないようだけれど、それ以前にノルマがまだまだ未達だわ。頑張りましょう」


叢雲「遭遇報告を見ると、この初期海域だけでも相当に戦力の充実が図れるわ。これはひたすら戦って探して、だわね」


陸奥「早く鎮守府を充実させて、あの人が好きに仕事できるようにしてあげたいわね」


―同じ頃、鎮守府、特殊訓練施設のどこか、生体保存筒(キャニスター)内


姫「雪風は私からのプレゼント。でも、その後に夕張を引くのはさすがね。・・・ああ、姉さまたちの波動が動き始めたのを感じる。また悲しみと怒りを積み上げて、より深みに沈んでいく気なのね、できる限り全てを巻き込みながら。・・・まだ気づかないでほしいものだわ。この光の事は」




第五話、艦


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1: SS好きの名無しさん 2016-07-15 23:32:09 ID: EuXgjaks

読みやすくて面白い

2: SS好きの名無しさん 2016-07-18 22:47:46 ID: BHPRTe4u

ぼのタソ可愛い

3: ヒース・オセロー 2018-06-26 21:48:35 ID: VU9F7b1G

間違っていたらすみませんが、『りょうかい』は『了解』では無いのですか?

『了解』ではなく、本当に『諒解』なのなら何故かという理由がいただければ幸いです。

4: 堅洲 2018-06-26 22:19:35 ID: XAPTSMFv

ヒース・オセローさん、コメントありがとうございます。

『諒解』と『了解』は同じなのですが、艦娘たちが艦艇だった時代は『諒解』の方が用いられていたため、

私たちが『りょうかい』と言えば『了解』と脳裏に浮かびますが、艦娘たちは『諒解』を思い浮かべ、また書きます。

それを表現するため、このSSの世界観では『了解』は、『諒解』であり、提督や艦娘もこちらの文字を使っている、という細かな設定です。

艦娘たちは当用漢字にはない昔の漢字をよく知っていたりするのですが、そういう小さなこだわりに気付いてもらえてとても嬉しいです。




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