2017-03-11 00:19:16 更新

前書き

文章力無いです_(:3」∠)_


ここがいけないんじゃないか?と思ったらお手数でなければコメントしていただきたいです(伊10さんいつもありがとうございます!!)

多分毎週金曜(時々土曜)の夜更新

ヒマだったら絡んできてください!


「やめてくれ!!」


…そう叫んだつもりだった…だが相手には通じない、


当たり前だ


もう喉がおかしくなってしまっているのだから……


だが…


このまま自分の意思を伝えられないままなのは嫌だ…


だから…


「うぉおおおおん!!」


ただただ叫び暴れた


叫び続ければきっと


自分の‘声’が


通じる


そう信じたくて………


~~~


[#1 序章:まどろみの中で]


自分を呼ぶ声が聞こえた気がした


何処か遠くで…それでいて近くで…


知っているけど…分からなくて…


「提督、起きて下さい」


「うん…」


鈴の音のように軽やかで優しい声だ


この声の主は神通だろう


何回も聞いてきている秘書官の声


そんな彼女の声を特定することなど提督にとっては朝飯前なのだ


神通「もう朝ですよ」


起きる時間?…って事はもう朝なのか?


重たい瞼を持ち上げ、体をムクリと起こす


…と同時に瞳孔が開ききった目に光が差し込む


「うわ…眩し…」


その光の眩しさに思わず手で目を隠す


そして、その眩しい光を直視しないようにして右壁にある時計を見た


短針は6時を指していた…


…もう6時か…


働かない頭で時刻を反芻(はんすう)する


ものすごく眠い


とても寝た気がしない


…と、中々返事をしない提督を不審に思ったのだろうか


神通が再度起きるように催促してきた


「提督?起きて下さい」


「……う…ん…」


目をつむった状態で軽く頷きながら生返事を返す


そして、流れるようにそのまま布団に潜って…


「提督!?」


「ひぃっ!?」


神通の怒りを孕んだ声に、底知れぬ恐怖を覚え、俺はガバッと跳ね起きた


もちろん目はぱっちり覚めた


「今すぐ起きないと…」


「わっわかった…わかったよ…今起きるから…」


慌てて布団から這いずり出た


神通はエスパーなんじゃないか?…という疑念を抱きつつ、ずり落ちたズボンを穿き正す


…と、突然フワッと…鉄っぽい香りが辺りを漂った


「………?」


場違いな匂いに違和感を感じ、少し立ち止まり考え…ようとしたが止めた


今はその違和感を探る余裕が無いのだ


バタバタと扉の前に駆け寄ると、そのレバーを回し、手前へと引く


目の前には笑みを称えた神通が立っていた手を後ろで組むようにして立っていた


「おはようございます提督」


「おっおはようございま…す…」


思わず言葉が尻すぼみになる


まるで悪いことがばれたときの生徒と、それを優しく叱る先生だ


「昨日言いましたよね?今日は午前中から新しい娘が着任する予定ですって」


一見優しい口調だが提督にとっては恐しく感じた


笑顔で怒られたからではない、相手が神通だからだ


―ヘマでもして神通の機嫌を損ねたら殺される気がする!ー


「はい…ゴメンなさい…」


命惜しさに、俺はそう言って頭を下げた


本来、提督は艦娘の上司である筈なのだが、ものの見事に立場が逆転していた


神通が上司で俺が部下…もしも今の場面だけを見た人いたとするのならばそう思うだろう


そんな情けない俺の謝罪を受け、神通はふと口調を和らげ、ニコリと笑った


「反省しているのならそれでいいです、それよりも歯磨きと洗顔をして来て下さい」


そして左手に持っていたポーチを差し出してきた


中には歯ブラシや洗顔道具等が入っている


俺がそれを受け取ると神通は思い出したかのように、あ、と声をあげた


「私は先に食堂に行ってますから火をかけっぱなしで来てしまいました」


ポーチを受け取りながらそれとなく返事を返す


「おお、了解、俺も準備出来たら食堂行く」


身支度と言っても、せいぜい10分程度で終わるだろう


「それと20分程度ならお風呂に入る時間もありますから」


「お?…おお…分かった…」


それじゃあニ十分間余計に寝れたじゃん…


…という余計な一言を腹に抑え、俺は、洗面場所へと向かった


~~~


神通の怒りの声によって一度は目覚めた…のだが


今現在の俺の両目は、閉じていた


一旦、目を覚ましたら普通はそのまま一日を過ごせる筈なのだが


よっぽど質のいい睡眠が取れていないのだろう


「……ああ……ねむ……ねむい……」


そう呟きながら、(目を閉じた状態で)フラフラと洗面台があると思われる場所へと近づいた


手探りで蛇口を探し、レバーを押し上げる


と、水の匂いと共にジャーと水の出る音が響いた


ポーチから歯ブラシと歯磨き粉を取り出し、歯磨きを開始


シャコシャコシャコ


刻みのよい音をたて、歯ブラシの毛束が歯垢をこそぎ落としてゆく


歯が磨かれていく感覚が、俺の思考回路を次第に目覚めさせていった


―数分経過―


一通り歯を磨き終え、蛇口をキュッと捻る


俺は(目を閉じたまま)蛇口から流れ出る水を手で掬(すく)い、水を口に含んだ…


やはり、未だに眠いのである


…とその時、ゴワゴワとしたものが親指の付け根を軽くこすった


「………?」


予想していなかった感覚に、目をパチリと開ける


「………んん?」


目の前の鏡には黒い髭を蓄えた俺が立っていた


そう、俺だ


俺が黒い髭を生やした状態で立っていたのだ


つまり、先ほどのゴワッとした感覚は髭によるものだったのだ


「んん?何で?」


「俺……昨日髭剃ったよな………?」


何となく、髭の毛束を摘み、グイッと引っ張ってみる


「痛っ!!」


その痛みで、自分の口の周りにある髭が本物の髭だと確信した


「……何で髭生えてんの……?」


昨晩に何かがあったのか…


……うん……頭が働かない…


「…とりあえず…風呂浴びよう…」


混乱する頭をリフレッシュさせるために俺は脱衣所へと向かった


~~~


―時刻06:30―


「神通―?」


5分で体と髪を洗い、3分で髭を剃り、2分で洗顔し、1分30秒で体を拭き、着替える(髪は乾かしていない)という荒業を成し遂げ、俺は食堂に到着していた


ややあって、髪を後ろで束ねた割烹着姿の神通が(入口から見て右手にある)厨房から出てきた


「はいはい、もう朝ごはん出来ましたよ」


神通が持つお盆には、朝食が乗せられていた


朝食の定番である焼き鮭が香ばしい香りをたて唾液腺を刺激し、少し厚めに切ってある卵焼きの黄色にさらに涎が分泌される、そして極めつけは白い湯気をふわりとたてたシジミと豆腐のみそ汁


俺は思わずゴクリと喉を鳴らしてしまっていた


「いただきましょう、提督はご飯をよそって下さい」


「はい!かしこまりました!」


自分で言うのもなんだが…


もし、俺にしっぽがあったら全力で振っていただろう


~~~


二人向かい合うようにして座り、俺と神通は手を合わせた


「「いただきます」」


先ずは香ばしい香りを立てる焼き鮭に箸を伸ばし、その身に箸の先端を押し付ける


クイッと軽く力を込めるとその身はホロリとほぐれ、身と身の間から脂がジワリと漏れた


―うまそうだ-


ほぐれた身を箸で掴み、白いご飯の上に乗せ、一気に頬張った


―うまい!!―


絶妙な塩加減と、香ばしい香りに思わず顔がほころぶ


―さて、次は…―


今度は少し厚めに切ってある卵焼きに箸を伸ばした


綺麗に切られた断面を箸で挟み、持ち上げる


少しズシリとした重みを感じ、落とさないように手皿をしつつ、大きく開けた口へ放り込んだ


噛んだ


出汁の上品な味が口いっぱいに広がり、香りが鼻を抜けた


更に噛む


―シャリー


「ん?」


卵だけではない、絶妙な歯ごたえがそこにはあった


―これは…ネギか?


どうやら厚焼き玉子の中にネギが入っているらしい


―シャリ、シャリー


噛むたびに軽快な音が聞こえた


―ゴックン…ー


気が付けば、あんなにも口の中を占領していた卵はほぼ無くなっていた


無意識に飲み込んでいたのだ


「……ほっ…」


俺は緩やかに溜息をつき、前方へと顔を向けた


「………」


何故か、神通とバッチリと目が合う


「………」


「………」


俺は口をポカンと開けたまま、神通の目をじっと見つめた


…と神通もこちらの顔を更にじっと見てきた


その視線は何かを求めている様で少し落ち着かない


「………」


「………」


「………」


「………」


二人の間に沈黙が流れる


もちろん、目をバッチリと合わせた状態で


「………」


「………」


そのよく分からない空気に、俺はたまらず口を開いた


「あ…こっ…これ全部神通が作ったのか?」


「全部では無いですけど…殆どは…」


「いやあ!凄いなあ!」


僅か30分でここまで作れるのか…


焼き鮭の焼き加減は然り、卵焼きの味付けも実に好み


そうかそうか、と頷きながら、俺はみそ汁のお椀に手を伸ばし、ズズズッと啜った


「…ふう…みそ汁もおいしい…このみそ汁なら毎日飲みたいよ…」


「……むう……」


「へっ?」


美味しい、と言ったのに…何故か、神通の不機嫌そうな声が聞こえた


「…それは間宮さんが作ったみそ汁です…」


ドス暗い声が室内に響く


恐怖が体の中心をピシリと走り、身体が硬直した


先程まで持っていた箸が、硬直した指をすり抜けポロリと落ち、お盆の上に落ちた


カランカラン!


二人の間の重静かな空気を、箸の立てた甲高い音が走り抜けた


「あっあれ?そっそうだったんか」


俺は動揺を隠しながら箸を拾った(手はプルプルと震えていた)


そして、そのまま焼き鮭の身を掴み、口に運んだ


「うっうん!!うまい!!鮭の焼き加減も最高だ!!」


「もっもちろん!!この卵焼きもとても美味しいと思うぞ!!」


そう言って、提督は左奥にあった厚い卵焼きを箸で掴み、頬張った


モグモグと咀嚼する


チラリと神通を見ると、その顔からは暗さが消えていた


「取ってつけたように…」


そう言うと、神通はムスッとした表情でそっぽを向いた


しかし、ご丁寧にも口の端が少しだけつり上がっていた


少し、嬉しかったのかもしれない


そんな神通の様子を咀嚼しながら眺めていると、突然バシンッと背中を誰かに叩かれた


…と、同時に頭上から元気そうな声が降ってきた


「な~に?朝からイチャついちゃってさ~」


神通の姉、川内だ


「いや、別にイチャついてはいないが……と言うかどうした川内、こんな朝早くから珍しい」


夜戦バカである彼女が、こんな時間に起きて来ることは珍しい


鎮守府内でも起床時間が最も遅い艦娘の一人なのだ


はっきり言って、この時間に彼女の姿を見ることは、奇跡なのだ


「いやー、困ったよ、昨日気がついたら寝ちゃっててさー」


それが本来の人類の有るべき姿なのだ、困ったのはお前の頭だぞ


「あ、今失礼な事考えたでしょ」


「お前…エスパーかよ」


はい、おめでとうございます、本日二人目のエスパー誕生です


「今日は新入りの艦娘が来るのですよ、姉さん」


と、下らない事を考えている俺に変わって神通が川内に重要事項をさらりと述べる


「あれ?そうなの?それは嬉しいな~!」


「そうですね、いったいどの様に鍛えようか楽しみです」


傍から見れば、姉妹のほほえましい談笑なのだが、内容が少し怖い


と言うのも、神通のしごきは相当なものだった…と記憶しているからだ…


可哀そうに…


しかし、俺は新人の子の無事を願う事しか出来ないのだ


俺はまだ顔も見ぬ新人の艦娘に手を合わせた


[#2 ]


「駆逐艦島風です、スピードならだれにも負けません、速き事島風の如し、です」


元気いっぱいに自己紹介しているのは島風、

露出度の高い服装、明るい髪にウサギの耳の様なリボンが特徴の女の子だ、

正直言って目のやり場に困る…


「よろしく、私がこの鎮守府の提督だ」


なるべく島風の顔を見るようにして、こちらも自己紹介をする


「一緒に海に出ることは無いと思うがよろしく頼む、そして彼女が秘書艦の神通だ」


「神通です、よろしくお願いしますね島風さん」


「よろしくお願いします」


はきはきと答えるその様子が、とても可愛らしい


新人の子特有の可愛らしさがある


「……この鎮守府では最初の一か月は他の艦娘と共同生活をしていただきます」


「共同生活ですか?」


「はい、新人の艦娘に早く鎮守府になれてもらうため、とロリコンの手から守るためです」


そう言うと、神通は俺の顔をちらりの見てきた


それにつられ、島風も俺の顔をちらりと見る


「提督は…ロリコンなのですか?」


このっ…


「……違うよ?」


笑顔を崩さないようにして、やんわりと否定する


俺はデキるお兄さんだからな、簡単に怒ったりは…


「島風さん?人には言えない事実があります……ですから…」


「あ……はい、分かりました、気をつけます」


………


島風の中で、俺はロリコンとなったのだろうか


「………神通お前なんて事を……」


「……鼻の下伸ばしているからこうなるんですよ…」


「なっ…別に伸ばしてなんか……」


「あ……あの~…」


「はい?どうしましたか?島風さん」


「知り合いがこの鎮守府に居ないので……誰と共同生活すればいいのかが分かりません…」


「………」


「…それでしたら私の部屋で一か月過ごすのはいかがですか?」


「……そうします…」


「それじゃあ神通、頼むよ」


「はい承知しました」


こうして島風は鬼教官神通の下で一か月生活することとなった


~~~


神通「鍛え甲斐がありそうな娘ですね」


提督「…まっ…まあ…死なない程度にな…」


………


もう一度だけ手を合わせておこう…


心が折れませんように、と



[#2 忍び寄るモノ]


痛い……苦しい……全身が熱い……


息をするだけで喉にヒビが入ったかのように痛む


実際、夜寝る前に似たような症状になったことはあったが…今回は異常だ…


しかも絶望的な事に“周期的に考えて今日がピークでは無い”という事実が存在する


そう……これは周期的なものなのだ…


これ程では無いにしても何度も経験した


…ああ…明日にはもっと酷い状態になっているんだ…


考えるだけでもおぞましい…


……今はとにかくこの痛みを何とかしたい


とりあえず窓を開けよう…体を冷やせば痛みも引くかもしれない


痛みを堪えながら体を持ち上げ、顔と体を窓に向ける


目に飛び込んできたのはほぼ満ちた状態の月…


その瞬間、俺は気を失った


~~~


夢を見た


とても安らかな夢だった


夢の中には神通がいて


とても優しい顔だった


俺は神通の膝の上に頭を預け横たわっていて


神通は優しく頭を撫でてくれた


鈴の音のような子守歌が流れていた


とてもきれいな歌だった


………

……



~~~


朝だ…


全身がダルい


体の節々が痛い


「………はぁ…」


ため息が出る…


朝からこんな状態で今日一日乗り切れるか心配だ…


「……まあいい…考えるだけ無駄だ……」


ひどくしわがれた声だ…


「………」


「…顔でも洗おう…」


~~~


洗面所に行き顔を洗う…鏡を見る


…酷い顔だ…


目の下のクマがひどい…しかも目がらんらんと光っている…


今にも人を殺しそうな眼…


頬も痩せこけている…


「提督、おはようございます」


後ろから声をかけられた、この声は神通だ


俺はそれに応じるように後ろを向いた


「おお、おはよう神通」


顔を向けると神通は心配そうな顔でこちらを見ていた


「提督、目の下にクマが出ています」


「ああ…何でだろうね…昨日は睡眠時間をしっかりと確保したはずなのに…」


差し出されたタオルを受け取りながら答える


「眠りの質が悪いのだと思います」


「そうだな…そうかもしれない」


「医師の方に精神安定剤でも処方してもらいましょうか…」


「そうだな…そうしよう…」


「では明石さんに頼みましょう」


「あ…そうだ…痛み止めも欲しいな…」


流石にもうあの痛みには耐えられない…


「分かりました、頼んでおきましょう」


~~~


痛み止めを飲んでいた為か、その夜は全身の痛みはそこまでひどくは無かった…が…少し失敗した様だ…


今度は逆に寝る時になると痛みが気になって眠れなくなってしまった


「……嫌になるな…」


昨日もあまり寝れていないのに今日も寝れないとなると困る


脳も体も疲れ切っていているのに休めないなんて…


こんな時はどうすりゃいいんだろうな…


………


何となく何気ないことを思い浮かべようとする…


………


ぼんやり浮かんだのは神通の顔だった


神通…


………


そう言えば昨日の夢に神通が出てきたな…


………


もしかして今日も夢の中で会えるのかな…


………


…いやいや…会えるかなって…


……俺は一体何を考えているんだ…


朝になれば彼女に会えるじゃないか…


………


いやそういう事じゃない


自分で自分にツッコミを入れる


俺が夢の中で神通に会いたいのは…夢の中の神通の歌声とか…あの微笑みとか…あの温もりとかが……凄く安心したから…


………


そうだ、きっとそうだ


………


何で…自分に言い訳をしているんだろう…?


………


……ああ……恥ずかしい……


………


ただ…夢で神通に凄く安心出来たのは事実だ……


………

……



~~~


俺は部屋いる…


目の前には“敵”がいて…俺はそいつと戦っている…


俺は何度も相手に攻撃を与えようとするが避けられ、ひものようなものを俺の体に絡ませてくる


………


……ん?口が開かない…


ひもで俺の口が固められたようだ


………これはマズイ……


自分の攻撃手段が減ってしまうのはとてもマズイ…


こうされてはすぐに負けてしまうだろう


…と、


奥の扉が開いた


……仲間を呼ばれたか?


しかし、現れたのは敵を一回り小さくしたような存在


「………!!」


敵もその存在に気付いたらしく


焦っていた…


動きに一瞬の隙が出来る


その隙を突き、絡むヒモごと俺は敵の仲間に一瞬で距離を詰めた


そして…


「ダメッ!!」


敵が仲間を庇い……


俺の右爪が敵の背中を切り裂いた


………


血が飛び散り…


すべてが変わった……


全ての物に色がついたような錯覚に陥り…


つぼみが開き、花が咲くように、閉じていた記憶がブワッとよみがえる


………


全てを理解した瞬間


俺は絶句した


(……なん……で……?)


目の前で神通が血を流していて


神通が島風を守っていた


(神通……)


声が出ない


………


俺がやったのか?


俺が…この手で…神通を…


手を見ようとするが


そこにあるのは血に染まった醜い獣の前足


(は?……何で?……)


頭が混乱する


理解不能だ


神通と目が合う


「…提…督……ごめんな…さい…」


…えっ…なんで?


「ハイハイゴメンねー!!」


突然川内の声が耳に飛び込んできた


…と同時にみぞおちに衝撃が走る


「本当……手荒な真似してゴメンね」


「でもまあ、これすべて夢だから許して」


夢か……


夢……なの……か……


~~~



                          [第三章: 希望と現実 ]




「………て……く……てく……い………」



…声が聞こえる…



「……いとく………て」



………ん…?…



「…提督…起きて…」



……だれ?…



「起きろー!!」



提督「うわっ!!」



不意打ちとはこのことだ



川内「あっはっは!提督驚きすぎだよー」



耳元でいきなり叫ばれて驚かないやつはいない…アホかコイツは…



あからさまにふて腐れた顔を見せると



川内「いやゴメンゴメン、提督の起こし方が分からなかったものだからさ」



笑いながら謝ってくる



朝からテンション高いなぁ…



提督「…まあ起こしてくれたことには感謝するけど…」



お礼は言っておく



いくら腹が立っても感謝の心は忘れてはいけない



川内「どういたしまして!さあ!起きて!準備して!朝ごはん食べに行くよ!」



………少しは悪びれてくれよ…



~~~



川内「今日のご飯はなーにっかなー?」



提督「………」



川内「どうしたの?提督、もしかしてまだ怒ってるの?」



……コイツ…怒っていたことに気付いてたのか



提督「……いや、その件はどうでもよくなった」



そんな事より気になる事がある



提督「神通は?」



川内「……ふーん…」



提督「なんだよニマニマして」



川内「いやぁ…やっぱりあの娘がいないと寂しい?」



何言ってるんだコイツ?



提督「いや、そういう事じゃなくて…」



川内「んふふ冗談だよ、まあ、実は私も分からないんだよね~」



提督「えっ?」



川内「いきなり起こされたかと思ったら用事があるからって…」



提督「……そっか…」



アイツも色々大変なんだ…



俺の見ていないところで色々仕事して…



…俺よりよっぽど偉いし凄い奴だな



…でも働きすぎな部分もあるし…



…うん



…今度休みでもあげよう



そしてその分を川内に働かせよう



うん、それがいいな



川内「あっ噂をすれば」



不穏な事を考えていることを露知らず川内が嬉しそうに声をあげる



前に目をやると神通がちょうど食堂に入るところだった



神通「提督、おはようございます」



提督「おはよう神通」



神通「あの……すみませんでした…朝から用事が出来てしまって…」



提督「いやいいよそんなの別に、むしろいつもありがとうな」



川内「そうそう、それに朝から私に会えて嬉しいって言ってたよ」



神通「えっ…」



提督「いや、言ってねえよ」



ナチュラルに嘘をつくな



~~~



提督「さて、始めますか」



神通「はい」



今日もやるべきことが沢山ある



主に、資料の整理、他の鎮守府との演習の取り決め、輸送艦への護衛艦の配備などなど…



実は最近、深海棲艦の動きが静かになっており



出撃することはほとんど無い



そのため資料の整理などが今日のやるべきことの大部分を占めていた



提督「そういえば島風の調子はどう?」



この鎮守府に慣れてくれていればいいんだけど…



神通「実は…色々あったらしく…体調を崩してます」



提督「…あー…そうかー…それは大変だな…」



来た早々に体調を崩すとは…可哀想に…



提督「後でお見舞いに行こうかな…」



ま…無理は良くない



~~~



ただ黙々とやる、いつも通りの光景



提督「……ふぁ…」



いつもと違うのは、眠気が凄い事だ…



お茶でも淹れるか



そう思い立ち上がる



ついでだし神通の分も淹れておこう



そう思い、ふと神通を見る



……顔が青い…



提督「おい、神通、どうしたんだ?顔色が悪いぞ」



呼びかける…が応答が無い



普段の彼女ならあまりない事だ



提督「神通?」



不思議に思い、神通の近くによって声をかけてみる



提督「じんつ…」



神通「!…てっ提督…すみません…何か御用ですか?」



提督「………」



彼女の顔をまじまじと見る



神通「あの…提督?」



目の下に少しクマができており、目は潤んでいた



相当疲れているのだろう



提督「神通、今日はもう休もうな」



神通「えっ…」



ちょっと困惑した表情だ



まさかこんな事言われるとは思っていなかったのだろう



神通「しかし…まだやるべきことが…」



提督「こんなもの俺一人で終わる」



神通「ですが…二人でやった方が…」



提督「いいか神通、これは命令だ」



神通「う……はい…分かりました」



命令と言われてしまっては彼女も聞くしかないのだろう



大人しく引き下がった



神通「それでしたらせめて…この資料だけでも……」



そう言いながら立ち上がり



突然前に倒れこむ



提督「あっおい!」



あわてて前から抱き止める



提督「神通?おい、神通!」



神通「………」



呼びかけるが応答が無い



提督「……ああ!もうっ!」



とりあえず医務室まで神通を運んだ



~~~



明石「過労です」



提督「……えっ?」



明石「睡眠不足、生活リズムの乱れ、などが原因でしょうね」



提督「………はい…」



明石「とりあえず点滴しておきます」



提督「ああ…頼む」



提督「なあ、明石」



明石「はい?」



提督「…神通は…大丈夫なのか?」



明石「……あと数時間くらいで意識は回復すると思います」



提督「分かった」



明石「ただし…!神通さんが意識を回復させたからといって、すぐに働かせたりはしないで下さいね…!」



提督「はい」



明石「以上です」



提督「はい」



明石「……何か質問は?」



提督「あの……こんな時に俺が神通にしてやれることって何ですか?」



明石「……自分で考えましょう」



提督「はい…」



明石「……さて、それでは申し訳ありませんが提督はこの部屋から退散して下さい」



提督「え…もう少し…」



明石「今から着替えさせるんですから、男の方は出ていって下さい!!」



提督「しっ失礼しました!」



慌てて医務室を飛び出した



明石の奴怖いな…



普段はあそこまで怖くないんだけどな……



………



やっぱり神通を過労の状態に追い込んだから怒っているのかな……



………



はあ……俺の責任だな……



「キャッ!!」



突然医務室の中から悲鳴が聞こえた



明石の悲鳴だ



提督「どうした!!何かあったのか!?」



医務室の中に飛び込む



まず目に飛び込んできたのは



白い布をもって固まっている明石と…



力なく横たわる神通の背中…



そしてそこには獣の爪によるものと思われる大きな傷跡…



提督「……ああ……成る程…ね…」



夢であって欲しかったのだが…



明石「あっ…てっ提督!駄目ですよ入ってきては!」



我に返った明石が慌てて注意してくる



だがこっちとしてはそれどころでは無い



提督「すまない明石、島風はどこにいる?」



明石「えっ?島風ちゃんですか?」



提督「ちょっと島風に用がある」



                          [第四章: 人狼 ]




島風のベットはカーテンで仕切られていた



今は誰とも話したくないという事なのか…



しかし、ここで引き下がる訳にもいかない



提督「失礼します」



少し緊張しながらカーテン越しに声を掛けると



どうぞと返事が返ってきた



どうやら起きてはいるようだ



カーテンを開け、中に入る



島風はベットに横たわり、ぼんやりとしていた



そしてゆっくりとこちらに顔を向ける



島風「……あ…ひっ提督さん」



体がビクッと震え



感情が見られなかった顔が徐々にこわばっていく



予想通りの反応ではある



それに対してどうこう言うつもりは毛頭ない



それよりも重要な事がある



提督「突然きてしまって申し訳ない…だがどうしても確認したいことがあるんだ」



島風「………」



提督「単刀直入に聞くが…昨日の夜、キミは何をしていたんだい?」



島風「………」



提督「………」



島風「……うっ…ひぐっ…」



提督「えっ…しっ島風?」



まさか突然泣き出すとは思っていなかったから対処の仕方が分からない



えっと…こんな時はどうすれば…



川内「あー…やっちゃってるねぇ提督…」



うろたえていると背後から川内のあきれ声が聞こえた



地獄の中の仏とはこの事



提督「…ああぁ……川内ぃ…こんな時はどうすればぁ……」



鼻水を垂らしながら助けを求める



川内「うわぁ…情けないなぁ…」



その通りでございます



自分でも情けないと思いました



川内「全く……」



川内は小さな溜息をつくと俺にティッシュを差し出してくれた



そして、島風に近寄り



そっと抱きしめる



川内「まったく……あれだけ強い口調で迫られたら誰だって怖いよ」



そう言いながら島風の頭を優しく撫でる



島風「う…ぐっ……ううっ…」



島風も少しづつ落ち着いてきているようだ



川内「いきなり女の子に対して強い口調で行っちゃ駄目だよ?」



提督「はい、ごめんなさい…」



川内「私じゃなくてしっかり島風に謝んなよー」



提督「島風…本当にごめんなさい…」



島風「……うん…大丈夫……」



鼻をすすりながら大丈夫と頷く



とりあえず川内様には感謝してもし足りません



~~~



川内「いやーしかし…お見舞いに来たら何故か提督いるし…しかも島風泣いてるし…驚いちゃったよ…」



そう言いながら丸椅子を引っ張り出し、島風の横に座る



提督「ごめん…」



謝罪しつつ、自分も近くの丸椅子に腰を下ろす



島風から見て右側に川内と俺が隣り同士で座っている状態だ



川内「で、どうしたの?提督も島風のお見舞いに来た感じ?」



首をかしげながら聞いてくる



提督「うーん……」



少し言いよどんでしまう



島風のお見舞いに来たかったのは事実だが…



本当は違う…



神通が倒れたから来たのだった



川内「なに?なんかあったの?」



何かが起こったのだと察したらしく、少し不安気に聞いてくる



言うべきか言うまいか……



………



提督「実は…神通が倒れてな」



島風「えっ神通さんが!?」



川内「なっ!……えっ!?…なんで!?」



2人そろって素っ頓狂な声をあげる



普段神通を近くで見ている者にとって、彼女が倒れることが想像出来ないのだろう



川内「で…あの子は大丈夫だったの?」



提督「あ……ああ……過労が原因で失神したんだろうって言われた……」



島風「過労?……えっと…つまり…働すぎってこと?」



提督「そうだ、働き過ぎて倒れたんだ」



思わず指先に力を込める…



提督「不甲斐ない…俺のせいだ…」



そう言いながら唇を噛みしめる



……悔しい……



全ては俺のせいじゃないか……



自分の大切な艦に対して多大な迷惑をかけて…



自分はそれに気づかず……



本当に情けない……



川内「………いや……うーん……」



川内は腕を組みながら首を傾げた



川内「真面目過ぎる性格が災いしたんだと思う…私が偉そうに言えることじゃ無いけど」



川内「こればっかりは自分を責めちゃ駄目だよ提督、何だかんだ言って神通も悪いんだからね?」



少し困ったような表情で俺を見る



提督「しかし……俺は神通を殺そうとした…」



提督「…挙句の果てには…」



口をつぐんだ



これ以上島風に嫌な事を思い出させてどうするんだ…



川内「…うーん…それに関しては私が悪いんだけどね」



少しバツがわるそうに島風を見る



島風「……違います…私が悪いんです……私が勝手に神通さんの後についていったから…」



そしてそれに対して島風も言いたいことがあったようだ…



首を振りながら自分にも非がある事を伝える



提督「………」



川内「………」



島風「………」



3人がお互いを擁護するような形になってはいるが、結局攻撃したのは俺だ



その事実は変わらない



……



だが、この場でそれを言ってもらちが明かないのは火を見るよりも明らか



…ここは素直に話題を変えた方が良さそうだ…



提督「……ところで突然なのだが…俺は一体何なんだ?」



川内「うーん……まあ、人狼かな」



唐突な質問に対し、あっさり答える



島風「人狼?」



提督「人狼…いわゆる狼人間って奴か」



川内「そう、その人狼」



多分ね、と小さく付け加えた



川内「でもまあ…初めて見たときはそりゃびっくりしたよー」



提督「…最初もやっぱり襲われたのか?」



不安になり聞くいてみると少し意外な答えが返ってきた



川内「いや、そんな事は無かった、初めは普通の人間にちょっと毛の生えた程度だったよ」



…毛の生えたって…



川内「てゆーか最初の方は人狼の状態でスヤスヤ寝てたし」



何それダサいんですけど



川内「何かもう、ダサいよねー」



提督「………」



自分で思っといて言うのは何だけどさ…



ダサいって言われるとちょっと腹立つな



つーか何で頷いてんだよ島風



そこは同意すべき所じゃないだろ…



提督「……それじゃあ日に日に凶暴になっていったのか?…」



川内「……うーん……まあ……ちょっと違うかなー?」



川内「……徐々に凶暴になっていったんじゃなくて…突然凶暴になったというか…」



川内「あー、でも突然ってのも違うなー…」



上手い言葉が見つからないらしい



頭を抱えて体ごと傾げる



川内「えーっと……まず人狼である期間が延びたんだよね」



提督「えっ?」



川内「そう…最初の方は満月の夜に提督の体が人狼よりになる…みたいな感じだったんだけど」



提督「……どのくらい延びたんだ?」



川内「…今日で7日目だね」



島風「へっ?」



提督「えっ?」



予想していた数字よりもはるかに大きい数字だ



川内「……しかも、これで終わりじゃないんだよねー」



そう言うと川内は溜息をついた



川内「……私の予想だと13日くらいになると思う」



提督「………」



言葉を失った



川内の予想だとこれがさらに6日間も続くのだ



これは気が滅入ってしまう…



……



島風「あのぉ……」



島風がちょっと遠慮がちに声を発する



島風「…私が来たのって…7日前くらいだったような…」



提督「そうだな、でもそれが…」



それがどうかしたのか?と言いかけてふと思い出す



あの時の血の匂い…



提督「その時って…もしかして…神通にケガとかさせたり…」



川内「してないよ」



提督「へっ?」



川内「私達は全くの無傷だったよ?」



提督「うん?」



おかしい、予想と違う



川内「てゆーか周期から外れてたから私達は普通に寝てたんだよねー」



提督「あ…そーなの…」



川内「そんでもって朝、神通が提督の部屋に行ってみたらうめき声が聞こえたらしくってさ」―」



川内「ちょっと心配になって部屋を覗いたら血だらけの提督がいたらしくて」



提督「血だらけ!?」



島風「え?一体何が…?」



川内「いやーそれもダサい理由でさー」



それもダサいのか…



もう勘弁してくれよ…



川内「夜中に蚊に刺されたところを掻いちゃったからなんだよね…ブフッ」



島風「……プッ」



何だよその理由!?



提督「つーか何でそれで血だらけになるんだよ!?」



川内「そりゃあ人狼の状態で本気で掻いたら血も出ると思うよ?」



提督「なんだよ…それ……」



ちょっとアホ過ぎないか?



あの時の血の匂いって……



痒くて掻いた結果出た血の匂いなのか…?



………



うわぁ……



何だよぉ……



川内「ま、それは高速修復剤かけてうやむやにしたんだけどね」



何ちゅうもんかけてんだよ!?



川内「おかげでばれずに済んだよー」



提督「……はあ……色々と酷いな……」



泣きたくなってきた…



川内「まあそんな感じ…そこから日を追う毎に提督の凶暴性が増していった」



提督「……それじゃあ…」



何かを言おうとした瞬間



けたたましいサイレンが鳴り響く



―鎮守府近海にて敵艦隊を発見!繰り返す!鎮守府近海にて敵艦隊を発見!-



提督「なっ!…深海棲艦!?」



川内「あ~あ…何だってこんな時に来るかな~」



軽口を叩きながら口の端をへの字に曲げる…



…が目は全く笑っていなかった…



…何かを決意した様な目だ…



川内「あっそうそう!」



そして、何かを思い出したかのように俺たちと突然向き合う



川内「これだけは言わせて」



川内「これは本当に提督のせいじゃないし、ましてや島風のせいでもないから!」



川内「じゃあね!」



そう言い残し、川内は走って行った…



提督「………はあ……」



島風「………あの…?」



提督「うん?」



島風「私も…出撃した方が…」



提督「いや、大丈夫だ、あいつらならきっとやってくれるさ」



島風「……そうですか…」



提督「ふふっ、そんなに心配するな、うちの鎮守府は全員強いんだ」



島風「…はい…」



提督「…………」



提督「さて…」



覚悟を決めよう



今夜は激しい戦いになりそうだ…



                         [第五章: 戦いの始まり ]




温かい……



何か懐かしいものに包まれているような感覚…



…ここは何処なのだろう?…



目を開け、辺りを見回すとそこは神通の部屋だった



神通「あれ?なんで私は…」



さっきまで執務室で……



「神通ちゃん」



首をかしげていると背後から声がかかる



その声は……



神通「那珂ちゃん!」



振り向くと、那珂が少し心配そうな顔つきで立っていた



那珂「大丈夫?ちょっとうなされてたよ?」



うなされていた…?



………ああ…そっか……そういうことね……



神通「うん…大丈夫だよ」



心配しないで、と小さく付け加える



那珂「もしかして…提督が夢に出てきた…?」



神通「提督…?」



…ううん……



そうじゃないの……



それに昔いた提督は相当酷かったけど…



今は……別の提督になってかなりマシになっている…



だから夢に提督が出て来る事があっても…



もう、うなされるような事は無いの…



だって…今の提督が…私の提督だから……



神通「ううん…出てきていないよ…」



でも、そんな事は言わない…



那珂「そっか……でも、無理しないようにね?那珂ちゃんからのお願い」



神通「うん、分かった」



そのお願いに笑顔で答える



那珂「ふふっ、約束だよ?」



神通「うん、約束」



そう言いながら二人で指切りげんまんをする



那珂「ところで神通ちゃんはお腹空いてたりするかな?」



神通「うん、空いてるよ」



那珂「そっかー!!なら今から一緒に行こう!!ついでに川内ちゃんも誘おっか!!」



神通「うんっ」



笑顔で頷き、部屋の扉を開ける



……と目の前に執務室が現れた



提督「おいどうした?そんなに物悲しそうな顔してよぉ?」



聞きたくなかった声が耳に入ってきた



…そして酷い嫌悪感が生まれる…



提督「もしかして那珂の事でまだメソメソしてるのかぁ?」



怒りがこみ上げる…



そう……



那珂は轟沈したのだ



作戦と言うにはお粗末すぎる作戦で


………



作戦が悪ければ上手くいくものも上手くいかない…



様々な無理がたたり那珂は大破した



その艦隊では主戦力であった彼女が大破してしまってはどうしようもない



もう、これ以上やっても勝ち目も無く、撤退する以外道が無い事は火を見るよりも明らかだった…



…にもかかわらず…



彼は進撃させたのだ…



………



あんなにも明るかった彼女が…



あんなにも努力家だった彼女が……



こんな……こんな奴のせいで……



提督「なんだ?泣いているのか?」



気が付くと



涙が頬を伝っていた



神通「いえ……泣いていません…」



否定をする



しかし、その声は震えていた



……嫌だ、こんな男の前で泣きたくない……



……今すぐ涙を止めたい…



しかし、涙は止まってはくれない



すると、提督は何かを思い出したかのように上着のポケットを探りながら近づいてきた



提督「もう忘れろよ、ほら、これでも吸え、気持ちが楽になるぜ」



ニタニタと笑いながら白い紙で巻いた何かを差し出してくる



多分麻薬か何かなのだろう…



神通「要らないです……そんなもの……」



涙を拭いながら渡された‘ソレ’を手で払う



パサッと言う乾いた音をたて、白い粉が床にぶちまけられた



提督「……あ?反抗すんのか?」



とりあえず、反抗してきたので脅そう…という考えなのだろうか



そう言いながら、私の顎のあたりを掴み、睨みつけてきた



しかし、もうそれで怯えてあげられる程優しくはなれなかった



神通「………」



そのまま提督を睨み返す



提督はまさか反抗してくるとは思っていなかったようだ



私の反抗的な目に少したじろく



その時だった…



「おい…今すぐ私の妹から離れろ…」



静かな…冷たい声が執務室に響いた



提督「……ちっ……川内か……」



提督は軽く舌打ちをし、私から離れる



提督「一体何の用だ?」



川内「………」



提督の問いを無視し、私の服の裾を引っ張って私に後ろに行くように促す



提督「おい!聞いているのか!俺は忙しいんだ!」



少し気が立っているのだろう、提督は声を荒げる



…と、ここでようやく川内が口を開いた



川内「今までは、提督だから仕方なく私達も逆らわなかったんだけど…」



川内「流石にもう許せないんだ…」



口調は至って穏やかだ……だが…



川内「もう、私としては…アンタを殺したっていい…」



顔は全く笑っていなかった



川内「だけど…やっぱり人間を殺すと法律で罰せられちゃうからね…」



川内「とりあえずさ」



川内「私達の前から居なくなってよ、永遠に」



しかし、提督にはその要求を呑みこむほどの理解力が無かった



提督「何を訳の分からない事をごちゃごちゃと言っているんだ?」



提督「那珂のようになりたくなければこの部屋から出ていけ!」



…その言葉で…



川内「私をこれ以上怒らせんな、クソ野郎」



川内は怒りをむき出しにし…



艤装の砲口が一斉に提督に向く



川内「もう一度だけ言う!」



川内「選びな!死か!それとも一生私たちの目の前から居なくなるか!」



突然の川内の変貌ぶりに怯みながらも減らず口を叩く



提督「おっお前は誰に対して口を聞いているんだ?お…俺は提督だぞ?艦娘が偉そうな…」



ドンッ!



言い終わる前に



提督の足元に穴が空いた



提督「ひっ!!」



川内「死にたいようだね」



まるでゴミを見るかのような目つきで川内は言い放つ



提「ひっひぃっ!?」



腰が抜けたようだ



提督はその場にへたり込む



そして、そのままでは殺されてしまうと思ったのだろう



無様な恰好で逃げようとする



……が体がうまく動かない



川内はその様子をつまらなそうに一瞥した後、引き金に指をかけた



提督「俺が悪かった!!殺すのだけは止めてくれ!!もう一生お前たち目の前から居なくなるから!



川内「………知らないね…」



ドンッ!!



提督「ひっひいぃぃ!!」



今度は提督の足元すれすれに着弾した



川内「あ~あ…外しちゃったよ…まあ…次で当てればいいか」



そう言い、ゆっくりと提督に近づく…



提督「やっ……やめ……助け……」



喉の奥から絞り出すように助けを乞う…



しかし…川内は止まらない



川内「………」



そのまま提督の横に片膝をつき…提督のこめかみに銃口を当てた…



恐怖で歪んでいた提督の顔がさらに歪み



川内が引き金を引いた、と同時に突然けたたましい警報音が鳴り響いた



~~~



―鎮守府近海にて敵艦隊を発見!繰り返す!鎮守府近海にて敵艦隊を発見!-



目を覚ますと緊急事態を知らせるアナウンスが耳に入ってきた



敵艦隊?



しかもこのタイミングで……?



………



まるで私が倒れるのを見計らっていたような……



………



やはりこの鎮守府には工作員が紛れ込んでいる…



神通「…読み通りですね……」



神通はそう、小さく呟いた。



                         [第七章: 明らかな違和感 ]




空には真っ赤な夕焼けが広がり



海を赤く染め上げる



………



時刻は6時



…カチ…カチ…カチ…



提督「………」



喋る者は誰もおらず



…カチ…カチ…カチ…



ただ時計の針の進む音が響く…



提督「………」



彼女らが抜錨してから6時間が経過しようとしていた



…と、その時



川内から戦闘開始を知らせる電信が入った



川内「こちら川内!!第一艦隊、敵艦隊と遭遇!!これより戦闘態勢に入る!!」



提督「こちら提督!了解した!」



すぐさま対応し、さらに別の艦隊に連携を頼む



提督「第二艦隊に告ぐ!先ほど第一艦隊旗艦が敵艦隊と遭遇した模様!直ちに支援に回ってくれ!!」



瑞鶴「こちら瑞鶴!了解しました!」



瑞鶴からの返信を確認した後、思わず大きなため息をついた



提督「………はぁ…」



これで10回目だぞ…



提督「…一体何を考えているんだ…?」



その問いに対し、答えるものはいなかった



~~~



川内「これで!!最後!!」



ドゴーン!!



駆逐イ級「ウォオオオ!!」



川内の放った魚雷が見事命中し、最後の獲物が沈んだ



その様子を見て江風が思わずため息をつく



江風「…いやぁ……凄いっすねぇ…川内さんの放つ魚雷ってのはどうしてこうも綺麗に当たるのか…」



江風の感想に共感したのだろう、他の艦娘も頷く



それに対して川内は少し得意げに胸を反らした



川内「そりゃあ経験が違うからね!!」



江風「そりゃあそうすけど……なんか…こう……あるじゃないすか…」



川内「いやあー、分かんないねー、結構カンで撃ってるから」



そしてアッハッハッと愉しそうに笑った



…と遠くの方から川内を呼ぶ声が聞こえた



瑞鶴「川内!!」



第二艦隊の旗艦…瑞鶴だ



川内「あ!瑞鶴じゃん!随分と遅かったね!もう片付いちゃったよ!」



瑞鶴「五月蠅いわね!!私が遅いんじゃなくて、あんたが早すぎんのよ!!」



川内「あ!そっかー!」



そんな川内を見て瑞鶴は溜息をつく



瑞鶴「………はあ……」



瑞鶴「……ねえ川内…」



川内「なぁに?」



瑞鶴「……何か変じゃない?…」



川内「うん変だね」



問に対してあっさりと答えるあたり、彼女も違和感を感じていたようだ



川内「戦力を小出しにしている感じがする…」



瑞鶴「ええ…」



川内「それに随分と練度が低いね」



そう…艦隊数は多い…のだが……



そのほとんどが駆逐艦や軽巡洋艦など……それも練度の低い艦ばかり……



瑞鶴「何でなのかしら…?」



川内「……さぁ?あっちの提督に聞いてみないと分かんないんじゃない?」



瑞鶴「………そう……」



川内「でもまぁ…私たちを鎮守府から離したい…みたいな思惑はあると思うよ?」



そして、頭の後ろで手を組みながら呟く



川内「多分、このままだと鎮守府が襲撃されるんじゃないかな」



瑞鶴「襲…撃?」



川内「そ、襲撃」



突然のカミングアウトに瑞鶴は信じられない物を見るような目つきで川内を見た



瑞鶴「あ…あんた何でそんな重要な事早く言わなかったのよ!!」



川内「いや……だって、たった今会ったばっかりじゃん」



瑞鶴「無線で知らせるとか!」



川内「傍受されてたらどうするの?」



瑞鶴「う……それはそうだけど……」



川内「それにここで下手に動いて作戦を変更されたらこっちだって対処の使用が無いんだよね」



瑞鶴「そっそれなら対策は練っているんでしょうね?」



川内「まあね、でも、まぁ、実際練っているのは神通なんだけどね」



瑞鶴「神通……あれ?確か今も倒れているんじゃ…」



川内「………あっ…」



瑞鶴「………」



川内「………さっさと帰るよ!!」



瑞鶴「川内のアホ―!!」



~~~



…カチ…カチ…カチ…



川内達が抜錨してからもう既に6時間以上が経過している



あと30分程で日も完全に落ちるだろう



……それにしても……



提督「…ふぁ…」



これだけ長い時間椅子に座っていれば眠くなってしまうな



そんな時思っている矢先だった…



またもや川内から無線が入る



川内「こちら川内!!提督!!神通の様子はどう!?」



提督「ああ!りょうか………え?」



予想外だった



提督「えっ?神通?」



川内「もう起きてたりするの!?」



提督「いや!分からん!」



川内「今すぐ容態確認して!!」



提督「えっ?いっ今!?」



相当焦っているようだ、声に余裕が見られない



川内「そう!!早く!!」



提督「わっ分かった!!とりあえず神通の様子を見て来る!!」



川内「頼んだよ!!」



―ブッ―



慌てて無線を切り、医務室までダッシュする



医務室の扉を開け、神通のベッドを探す



提督「神通!」



閉まっていたカーテンを開ける



…が、そこはもぬけの殻だった



提督「あれ?……何で?」



予想外だ…



まさか居なくなっているとは…



確かに既に起きていてもおかしくは無い



しかし…



点滴をしているのだからそこまで動こうとは思わないはず…



提督「……どうしたものか…」



提督「とりあえず川内に連絡だな…」



~~~



瑞鶴「で!どうだったの!?」



かなりの速度で移動しているため、大きな声になってしまう



川内「分かんないって言ってた!」



瑞鶴「えっ!?」



川内「今から確認するって!」



瑞鶴「それじゃあ起きていない可能性高いじゃない!」



川内「分からない!今はもう神通が起きてくれていると願うしかない!」



江風「てゆーか!もう提督さんに言っちまえばいいじゃンか!」



川内「いや!傍受されているかもしれないから迂闊な事は言えない!」



瑞鶴「でも!敵と遭遇していないから、帰投しているってバレているんじゃないの!?」



川内「いや、見つからなければ相手だって確証は得られない筈!!」



瑞鶴「確かにそうだけど…」



川内「今はとりあえず鎮守府に攻め入られるまでの時間を早めないようにしたい!!」



~~~



瑞鶴は焦っていた



なにしろ、突然鎮守府が襲撃されると知らされたからだ



自分の大切なものが壊されてしまうのは誰にだって耐え難いし



それを防ぎたいと普通は思うだろう



ここで神通が起きてくれていれば…



……と、どうやら提督から通信が入ったようだ、川内が突然大声をあげた、



川内「通信入った!!」



そして焦る気持ちを抑えたような表情で通信を受ける



川内「こちら川内!どうだった!?」



が…提督の答えは予想とは大きく外れていたらしい



川内「……はっ?」



一瞬で彼女の表情が疑問符で一杯になる



そしてそのまま押し黙ってしまった



川内「………」



何かを考えているのだろう、目線を様々な方向へと移動させる



が…すぐに諦めたのだろう、大きく溜息をついた



そして…決心したように目をつむり、



川内「提督!神通を見つけたら色々危ないって言っておいて!」



そう、言い残し、川内は通信を切った



もう、彼女にとってなりふり構っては居られない状態だったのだろう



そこまで追い詰められているのがひしひしと伝わってくる



実際、無線傍受されていなければ済む話だし



そもそも、鎮守府に敵が攻めてこなければそれで済む話なのだが…



いかんせん、判断材料が少ないのだ



今のやり取りで何となく察し、川内を見やる



瑞鶴「ダメだったの?」



その問いに対して、彼女は首を左右に振った



                          [第八章: 守りたいもの ]




通信を終え、提督は一息をつく間もなく走り出した



特に当てがある訳では無いのだが、それでもじっと座っていられる余裕が提督には無かったのだ



この時、提督には今、何が起こっているのか分からなかった



が…川内の口調からして緊急事態であることは分かったし



神通を見つけ、川内からの言葉を伝えないといけない事は分かっていた



まあ…それだけと言われればそれだけなのだろうが…



まずは工房を覗き込む……が神通はそこにはいなかった



続く食堂、入渠場にも神通の姿は見られない



提督「……はぁ…はぁ…一体どこにいるんだ」



息を切らせながら倉庫を覗き込む



……と、奥の方に何かがいるような気配を感じた



提督「……なんだ?…誰か居るのか?」



恐る恐る歩を進め、その‘何か’をけん制するように大声を出す



提督「誰だ!!」



その声に…



「……っ」



―ガタッ―



何かが反応し…



物音が発生する



提督「……そこか……?」



そして提督が歩を進め先には…



提督「じんつ…!」



目を赤く腫らした神通が立っていた



目が合う…



その目は普段の神通とは似ても似つかない、か弱い少女の目



脆く、儚く、愛おしい存在…



守らなければ…という感情が頭を巡り



目が離せなくなる



数秒間見つめあっただけなのだろう



しかし、提督にとっては無限時間に感じられた



…先に沈黙を破ったのは神通だった



神通「…昔の事を思い出していたのです…」



提督「昔…?」



神通は提督がこの鎮守府に来る前から居る



川内、明石に関してもそうだ、



きっと提督が知らない思い出なのだろう



…少し、嫉妬してしまう…



そんな提督を尻目に、神通は上を仰ぎ、そして目をつむった…



神通「まだ、私に妹がいた頃の事です…」



提督「妹…」



川内型3番艦…那珂の事だろう



昔はこの鎮守府に居たのだが、数年前に近海で轟沈した…と資料に書いてあった



…きっと神通が目を腫らしていたのは那珂の事を想って泣いていたためなのだろう…



提督「………」



神通「………」



…再び沈黙が流れ…



またもや沈黙を破ったのは神通だった



神通「そういえば提督と初めて会った場所も倉庫でしたね」



提督「ああ、そうだったな」



初めて着任した際、鎮守府の内装が分からず



執務室に向かう筈が何故か倉庫に行ってしまったのだ



その時、倉庫で偶然、初めて会ったのが神通だった



その後、初めて会った艦娘という理由で秘書艦を務めてもらい



結果、様々な事で関わるようになった



言うまでも無く、提督にとっては思い入れの強い艦娘だ



…と、いきなり神通が本題を切り出す



神通「ところで提督は何をしに工房へ?」



………



……忘れていたとは口が裂けても言えなかった…



提督「あ……ああ、川内から神通に伝言を預かっているんだ…」



神通「それは、敵襲でしょうか?」



提督「……へ?」



神通「まあ、それと似た内容だとは思います、違いますか?」



提督「いや、合っている…かな?」



川内に言われた言葉は“色々危ない”だった



常識的に考えればこれは敵による‘何か’が起こると考えることが出来る



提督が頷きながら肯定すると神通は、静かに頷いた



神通「鎮守府近海で深海棲艦が出現した時点で大体予想はついていました」



彼女は超人か何かなのだろうか、普通はそんな事考えつきはしない



提督「え……それじゃあ…」



神通は力強く頷き、言い放った



神通「迎え撃つ準備は出来ています」



その眼光は鋭く、まさに侍そのものだった



~~~



焦り続けるには長すぎたのかもしれない



瑞鶴は次第に自分が冷静になっていくのを感じていた



ふと川内を見ると何やら通信機の様な物に対し何やら小さな声で話している



そして小さく頷き、無線機を取り出た



川内「あ!通信入った!」



自分で無線機を取り出しておいて通信が入ったとはずいぶんと酷い演技だと思うだろう



実際瑞鶴はそう感じた



川内「あ!提督!?神通見つかったの!?」



どうやら、提督が神通を見つけたらしい



わずかな希望が見えた瞬間だった



周りからも安堵の溜息が聞こえた



…そして…



川内「あれ?結局医務室で寝てたんだー!」



…その希望は絶望へと変化した



瑞鶴「なっ…ちょっと…」



何故そんなにも明るくものを言えるのかが瑞鶴には分からなかった



今から鎮守府は敵の猛攻を喰らい、成す術も無く潰されてしまうのだ



瑞鶴「あんた…ちょっ…むぐ」



思わず川内に食ってかかろうとするが



口を手で押さえられた



そして川内はそのまま笑顔で話し続けた



川内「こっちはもう大丈夫!だから神通の看病してあげてね!」



あろうことかこのバカは何にも問題は無い…と同じニュアンスの言葉をのたまわった



大丈夫ではない



そう、大丈夫ではない



全く持って大丈夫では無い



川内「ううん、何でも無い!あ…それとさー!」



川内「あと、少しで鎮守府に着くからー!」



そう言い切り、川内は通信を切った



…と同時に皆に黙るようにジェスチャーを送る



そして…



川内「ところで瑞鶴」



何故か話題を変えてきた



瑞鶴「……なっ…何よっ…」



よく分からない緊張で言葉が詰まる



そんな瑞鶴を尻目に川内は笑顔でとぼけた質問を投げかける



川内「さっき拾った資源ってどこにあるの?」



瑞鶴「はあ?」



流石に意味が分からなかった



今、現在、資源に何を求めるというのか



瑞鶴だけでは無かった



川内を残してその場にいた全員が疑問符を浮かべた



そんな異様な状況にも全く動じず川内は自分のペースを貫く



川内「確かー…五月雨?…と…海風だっけ?…資源運んでたの」



五月雨「ひぇっ?そっそうですけど…」



海風「あっ…はい」



二人の返事に満足げに頷き、川内は二人の方へと近づいた



先ほどから訳の分からない行動を起こしている夜戦バカに近づかれて逃げ出したくならない奴は居ない



可哀想に、二人は怯えた表情で固まってしまった



川内「ふーん…こんな感じかー」



そんな彼女達を気にも留めず、川内は資源をまじまじと眺め…



川内「あ!!しまった!!」



あろうことかその資源を全て投げ捨てた



瑞鶴「ちょっ!!あんた!!」



突然の出来事に言葉に詰まる



見渡すと他の艦娘も口を開けてポカーンと立っていた



普通の思考能力を持っている艦娘に資源すべてを投げ捨てることなど出来るわけがない



川内「ごめんごめん!!あの資源、なんか変な電波出してたからさ~」



正常だった頃の彼女はもう戻って来ないのだろうか…



異常電波を理由に資源を投げ捨てることは、並大抵の人間ならしないだろう



そもそも人間には電波を肉眼で感知する能力など無いし



これは艦娘にも同様のことが言えるのだ



瑞鶴「あんた……いい加減に……」



せっかく冷静になった瑞鶴の頭に血がのぼった



そんな瑞鶴を江風が慌ててなだめる



江風「ちょっ瑞鶴先輩、落ち着いて…」



瑞鶴「落ち着いてられるかー!!」



江風「ひっ!?」



海風「あああ…瑞鶴さんが……」



吠える瑞鶴、怯える江風、オロオロする海風…



まさにカオス



流石にマズイと思ったのか川内も瑞鶴をなだめる



川内「ちょっ…ちょっと待ってよ、今から種明かしするからさー」



種明かしとは一体どういうことなのか…



すると川内は何処からともなく黒い箱の様なものを2つ取り出した



川内「はい、これ」



片方は黒い箱にはメーターが付いていて、もう一方の黒い箱にアンテナの様な棒が付いていた



瑞鶴「……何よこれ?…」



少なくとも瑞鶴には見たことも無い機械だったし他の艦娘も見たことが無かった



川内「電磁波測定器、と妨害電波発生器」



何だってこんなものを…



その場にいる全員がそう思った



川内「まあ、偶然持っていたんだよねー」



………



…嘘つけ…



その場にいる全員g(以下略)



川内「…で、思いついた作戦がこの機具を使って相手の裏をかく…という作戦さ」



そう言うと川内は誇らしげに胸を張った



瑞鶴「……ふーん…」



そんな川内の胸と自分の胸を見比べ、瑞鶴は悔しそうに唇をゆがめた



川内の胸の方が瑞鶴の胸よりも立派だったからである



瑞鶴「チッ…何でよ…」



疑問に思う方がおかしいとは誰も言わなかった



そんな様子に気が付かないフリをしながら江風と海風は真面目に疑問を投げかけた



江風「えっ?裏をかくって…」



海風「敵の作戦を知ってないと…」



その一言に対し



川内「ふっふっふ…」



川内はよくぞ聞いてくれましたとばかりに笑い声をあげた



川内「まず、敵の目標は、提督の殺害、神通の鹵獲、そして鎮守府の機密事項の奪取なんだよね!」



まあ…ありえなくは無い話ではある…が、瑞鶴には一つ気になる所があった



瑞鶴「どうやって知ったの?」



それに対し、川内は面倒くさそうに顔をしかめた



川内「ちょっと説明するのが面倒くさいからしなくてもいい?」



その言葉に瑞鶴の頭の中の何かが切れた



―プチッー



川内「ひっ!?」



江風「ずっ瑞鶴先輩落ち着いて!」



海風「これ以上はいけません!」



川内に殴りかかろうとした所を江風、海風、その他大勢に阻まれ、瑞鶴は仕方なく拳を収めた



瑞鶴「…後でキチンと説明しなさいよ…」



瑞鶴に怯えつつ、川内はコクリと頷いた



川内「うっうん、後でちゃんと説明する」



そして声のトーンを落とし、再び真面目な話を始めた



川内「さて、それじゃあ話を戻そう…」



~~~



―同時刻、鎮守府―



夕日が鎮守府を赤く染め上げ、波の音が染み渡り



鎮守府は静かに佇んでいた



嵐の前の静けさとはこの事なのだろうか…



提督と神通は医務室の外観を視認出来る工房にて待機



川内との通信から既に数分が経過しており



いつ攻撃が来てもおかしくは無い状況であった…



そのため、工房は張り詰めた空気に支配されていた…



提督「……なあ神通…」



話しかけづらい空気ではあったが



提督には、気になる事があった



そんな提督に対し



神通「皆、医務室で待機しています、大丈夫です」



と頷きながら答えた



神通もあらかた提督の質問を予想していたのだろう



いや、提督の性格を何となく理解していた彼女だから提督の気持ちが分かったのかもしれない



そんな神通に、提督は内心驚きつつ、少し恥ずかしそうに笑った



提督「そうか、ありがとう」



神通「いえ…犠牲者はなるべく減らしたいですから…」



提督「…そうだな…」



…と、いきなり神通は思い出したように提督の方を向いた



神通「ところで提督、薬は飲みましたか?」



提督「あ……」



神通「そう思ってあらかじめ明石さんから預かって来ました」



すると神通は二錠のタブレット型の薬を取り出した



神通「これを飲んで下さい、種類は違いますがこれも痛み止め、精神安定剤の役割を担っています」



提督「あ…ああ、ありがとう」



用意が良すぎる彼女に舌を巻きながら薬を受け取った…その時



―ドゴォオオオン!!―



轟音が鳴り響く



提督「来たか!?」



医務室の方を見やるとそこには瓦礫の山が積み上がり、もうもうと煙が上がっていた



神通「来たみたいですね…」



そう言うと、神通は艤装から魚雷を外し、床に静かに置いた



~~~



医務室に砲撃されてから数分が経過…



そこにはうごめく影が六体あった



おそらく大きさからして戦艦四体、それに重巡二体…



神通「それでは…行きます…」



緊張の面持ちで神通は立ち上がった



その姿に…提督は声をかけずにはいられなかった



提督「なあ…神通?」



神通「はい?」



何か言おうとしても言いたいことがあり過ぎて言葉が詰まる



だから…



ただ…正直に…自分の一番願っている事を言った



提督「…何があっても…絶対に帰って来いよ…」



その言葉に…神通は顔をほころばせた



神通「はい、絶対に帰ってきます」



~~~



医務室から見て海側の壁沿いに神通は居た



敵の艦種は、重巡洋艦リ級が二体、戦艦ル級が二体、戦艦タ級が二体



そのまま、砲撃戦をやれば、神通が不利である事は確実であった



そんな状況下においても、彼女の目には迷いが無かった



神通「やりますか…」



神通はそう、小さく呟くと



気配を消し、近くにいるリ級の背後に近づいた…そして…



リ級の首を一瞬で絞め上げた



リ級「カハッ………」



抵抗の意思を見せる間もなく意識を刈り取られ…そのまま動かなくなる



―残り五体―



神通は動かなくなったル級の首から腕を外しさらに歩を進めた



続くリ級二体目の背後にも近づく…が



―カランッ-



足場が脆くなってた為か瓦礫の破片が崩れ、音が出てしまう



―しまった-



そう思った時には時すでに遅し…



リ級「ン?」



その音に、二体目のリ級が反応し…



リ級「………」



神通「………」



二人の目が合う



リ級「テッテキ!」



神通「っ!」



リ級が叫ぶのと同時に神通はル級の顔面に右フックを打ち込んだ



―ゴスッ-



リ級「オゴッ…」



―ドサッ-



脳震盪をおこしたのだろう、リ級は崩れるように倒れ込んだ



―残り四体―



視線を正面に戻すと



四体は砲口をこちらに向けていた



タ級「見ツカラナイト思ッテイタラ、コンナ所ニイルトハナ…」



獲物を見つけた獣の様な目つき…



まさに、狩る者の目つきだった



神通「親友を探しているんですよ…知りませんか?」



タ級「ハア?オ前ノ親友?…知ラナイネ」



神通「そうですか…それは残念です…」



タ級「ソンナ事ハドウデモイイ、今カラオマエヲ半殺シニサセテモラウ」



敵全員が引き金に手をかけるのと



神通が高く跳んだのは同時だった



「「ナッ!?」」



慌てて照準を空中に合わせ引き金を引く



―ダダダンッ!ダダンッ!ダダダンッ!!-



弾は神通の頭上を大きく越え、戦艦タ級、戦艦ル級の全員が大きく後ろに倒れる



………



そもそも、海上とは違い



地上では砲撃の反動を逃がしきれないのだ



加えて瓦礫が積み上がって出来た足場…



バランスを崩すのには十分すぎるほどの条件が整っていた…



神通は着地すると一瞬で戦艦ル級に距離を縮め、ローキックを顎に喰らわせた



そしてそのままの勢いで残る戦艦ル級、戦艦タ級の顎にもローキックをクリーンヒットさせ、意識を刈り取ってゆく



―残り一体-



神通「後はおしゃべりなタ級のみ」



残されたタ級の方を向くと、ちょうど体制を立て直している最中だった



タ級「オ前!コレヲ狙ッテイタノカ!」



神通「なんの事ですか?」



タ級「テメエ…」



タ級は体を立て直すと砲口を神通へと向ける



神通「覚悟して下さい」



が、神通の方が先だった



一瞬で距離を詰め右手を振りかざす



タ級「ッ!?」



タ級は慌てて体を反らし、ガードの体制に入る



そこへ神通は右手を止め、逆足で足払いをかけた



タ級「ナッ!」



視界の外側からの足払いをモロに喰らい、バランスを崩す



その瞬間、神通は右手でタ級の顔面を鷲掴みにし、そのまま大外刈りの要領で容赦なく地面に叩きつけた



後頭部を強く打ち、そのまま動かなくなるタ級…



もはや圧倒的だった…



戦艦六隻はたった一隻の軽巡によって翻弄…



―いや、蹂躙された…の方が正しいのだろうか…



それも素手で…



ともかく、その場において神通以外に動く影はもう無い



提督「すげえ…」



提督は思わず息を飲んだ



~~~



川内「……というわけ」



ひとしきり作戦の内容を伝え終え、川内は質問は無い?とでも言うかのように見回した



川内の説明をまとめると、無線傍受を逆手に相手の動きを制限し、その間に神通に色々な準備をさせる



準備が整ったら神通から別な周波数を用いた無線機で連絡をしてもらう…



そして、敵に時間が無いと悟らせ、攻撃を仕掛けさせる…



神通と提督の安否を確認しに陸に上がって来た所を一気に叩きのめす…



瑞鶴「……成る程ねぇ…」



確かに常に海上…もしくは海中にいる深海棲艦にとって、陸で戦う事は難しいだろう



…自分には短時間でそんな作戦を考えつくことは出来ない…



瑞鶴「……何よ…夜戦バカのクセに凄いじゃない…」



瑞鶴は思わず呟いていた



そんな瑞鶴の言葉に苦笑いしながら川内は苦しそうに呟いた



川内「でも、この作戦が上手く行くかどうかは分からない」



川内「帰ったら何も無かった……なんてこともあるかも知れない…」



川内「その事だけは…覚悟しておいて」



                          [第八章: 猛襲 ]




神通の猛撃から数分が経過…



深海棲艦六体をロープで縛り終え



提督と神通は瓦礫の上に腰を下ろしていた…



先程まで赤々と輝いていた西の海は輝きを潜め



海が静けさを取り戻した



聞こえてくるのは波の打ち寄せる音のみ



戦いが終わった安心感からか提督の口からため息が漏れる



提督「…はあ…終わったな…」



神通「そうですね…それに、あと少しで川内姉さん達も帰ってきます」



提督「そうだな……」



川内達が帰ってくる…



それだけで物凄い安心感が得られた



提督「しかし…よく襲撃されることが分かったな」



すると、神通は少し笑いながら答えた



神通「……偶然ですよ」



提督「……そうか…」



話したくないのか…話せないのか…もしくは本当に偶然なのか…



どうであれ、提督はそれ以上聞くことはしなかった



そしてふと、後ろを向いた



綺麗な月が昇っていたのだ



提督「……ほぼ、満月だな…」



神通「……そうですね…」



満月では無いにしろ、月を見るのは実に久しぶりだ



ここ、何年かは月をまともに見れていない…



………



提督「何でだ?」



神通を見ると彼女もおかしいと思ったのだろう、



少し困惑した表情でこちらを見ていた



提督「おかしい…」



その時だった…



神通「電探に感あり!!」



神通が突然叫び



提督の肩に鋭い何かが突き刺さった



………



突然走る激痛



何かが血管に注入されている感覚…



不意を突かれ、ただ茫然とされるがままになる…



…と、怒声にも似た、怒りを孕んだ声が響いた



神通「離れなさい!!」



すると神通は物凄い速さで‘ソレ’を鷲掴みにし、無理矢理、剥がし取った



………



…想像していたわけでは無かった



しかし、正直予想外だった



……剥がし取った‘ソレ’の形状は敵型の艦載機に針を付けたような形状のものであったのだ



何故、艦載機がここに?



提督「なんで、こ…」



…と、さっきまで動いていた口の筋肉が突然強張り、顔が固まった



そしてそのまま全身の筋肉が一斉に強張り



体中が発熱を始めた…



神通「提督!?…提督!!」



必死の形相で呼びかけられる…



がそれに対して反応出来るほどの余裕が提督には無かった



それはそうである…



提督の全身の組織はブチブチと嫌な音をたてながらちぎれ…



想像を絶する激しい痛みが全身をくまなく支配していたのだ…



もはや、気を失えばいっそ楽になる程の痛み…



提督が気を失うのは時間の問題であった…



しかし、現実にはそうはならなかった



提督が気を失いかける寸前…



またもや轟音が鳴り響いた



失いかけていた意識が無理矢理引き戻される



提督「な……ん…だ?」



動かない筋肉を無理矢理動かし、轟音が発生した先を見やる…



…と、そこには攻撃的な笑みを浮かべた軽巡棲鬼が立っていた…



~~~



まさに絶対絶命と言ったところだろう



前方にはこちらを殺す気満々な軽巡棲鬼が…



後方には一寸も動くことが出来ない、まさに満身創痍な提督がいるのだ



誰かを守りながら戦う事はかなり難しい



戦う相手がこちらを本気で殺しに来ているのなら尚更だ



そんな絶望的な状況に神通は静かに悪態をついた…



神通「最悪のタイミングで現れたわね…」



その顔には珍しく焦りの色…



余裕が無いことは確かなようだ…



すると、神通は左前方に大きく跳躍した



提督から大きく離れたことを確認し、探照灯を明転



強烈な光が放たれ、あまりの眩しさに軽巡棲鬼は目をつむり、顔をしかめた



そんな軽巡棲鬼に対し、神通は主砲を向けつつ、大きく吠えた



神通「那珂ちゃん!」



その声には覚悟を決めた、確固たる意志が込められていた



神通「私には!あなたをここで殺す義務がある!」



神通「だから!手加減はしない!」



神通「姉として!戦友として!…そして親友として!」



神通「ここで!…あなたを楽にしてあげるから!」



その言葉に軽巡棲鬼は一瞬、苦しそうな表情を浮かべた



軽巡棲鬼「…グ…!」



…が一瞬だった…



次の瞬間には全ての砲口が提督の方へと向いていた



神通「なっ!」



突然の事で判断が一瞬遅れる



神通「提督!!」



―ドン!-



神通が地面を蹴ったのと、軽巡棲鬼が砲撃をしたのは同時…



………



全ての物が、神通にはスローモーションに見えた…



たった一発の砲弾が軽巡棲鬼の主砲から発射され



うなり声をあげながら地上数十センチを這うように‘飛んだ’



そして…提督の左膝に突き刺さり



…提督の左足をふき飛ばした…



                         [第九章: 生き残った者と ]




ふと、目を開ける



………



どうやらここは部屋の中らしい



窓から入ってくる暖かな日差し…



畳から香る、何とも言えない香り…



全身が毛布で包まれているような感覚…



まさに、安らぎの空間がそこにはあった



―ガラッ-



「おっ?目を覚ましたんだね」



川内が入ってきたようだ



そのまま少し騒がしく足音を立て、寄ってきた



そして、何故か頭を撫でてきた



………



は???



混乱する俺をよそに、川内はいい笑顔で俺の頭を撫でまわす



川内「モフモフだねー」



モフモフ…?



何を言っているんだ…?



………



思いっきり首を捻り、無理矢理体を見た



そこにはモフモフした毛に覆われた胴体があった



………



うん???



……流石に理解が出来ないな



とりあえず自分の手を見る



そこにはモフモフした毛に覆われた前足があった



……あれぇ???



何これ?



もう何が何だか分からないんだけど?



助けを求めるような目つきで川内を見た



すると川内はペットの話しかけるような口調で話しかけてきた



川内「何?どうしたのワンコ?」



ワン…コ…?



激しく混乱している俺に構わず、川内は俺を撫で続けた



ただただ優しく…撫で続けた



………



あれ?



俺の知っている川内ならもっと乱暴に撫でそうだけど…



そんな俺の下らない疑問を他所に



川内はふと口を開いた



川内「よく…生きていてくれたね…」



…声が震えていた…



川内「…神通も…提督も…居なくなっちゃったから…」



居なくなった…?



それはどういう…



川内「キミだけでも…生きていて…くれて…っ…」



………



もう、胸の苦しみに耐えられなかったのだろう



川内はもう何も言わず、ただ俺を撫で続けた



愛おしそうに…



何度も何度も…



………



鼻のすする音と、時々聞こえる何かを堪えるような声…



泣くのを堪えているのが手に取るように分かる



………



俺は駄目な奴だな…



こんな時に一体どうすればいいのかが分からない…



数秒間の熟考ののち、俺の導き出した考えは“何も考えない事”だった



言い方を変えると、考えるのを止めたのである



今は動く時じゃない



そう、情報を整理することが、今の俺には必要なんだ



………



先程、川内が言っていた情報を整理する



……とりあえず…



俺は犬で…



俺だけ生き残っていて…



提督と神通が居なくなった…んだっけ?



………



でもって、俺は人間で…提督で…



………



うん?



つまり…俺は提督で…



川内が悲しんでいるのは神通と提督が居なくなったから…



…と言う事は…



川内を悲しませている原因の50%は俺なわけで…



………



伝えなければ



考えるよりも体が先に動いた



撫でる川内の手を勢いよく払いのけ、俺はベットから飛び降りた



「ウォウォウォン、ウォンウォウォウォン(俺は生きている)」



一瞬、ビックリした様な様子で目を見開いていた川内だったが



………何故か突然、笑い出した



川内「………ぷっ…あっはっはっはっ!」


~~~


結局、川内が笑い終わるまで俺は待つ羽目になった


理由は忠犬だから…とか、人の楽しみを奪うような真似をしたくない犬だから…とか、紳士的(?)な理由ではない


ただただ、言葉が通じなかったのだ


いや、正確には言葉を発することが出来なかったのだ


言葉を伝えようとして声を発生させようとするも、喉から出るのは「ワン」「キャン」「ウォン」等々…


そんな俺に彼女の笑いを止める術など無かったのだ…


困り果てた俺は、困り顔で川内の顔面を凝視…


そんな俺を見て、さらに笑いが込み上げてしまう川内…


………


まさにカオス…


言葉を喋れなくなった今、まさに思う…


…言葉の有難さが身に染みる…


俺は、バフッと溜息をつくと、解放された扉の向こう側へと視線を送った


……瑞鶴と目があった…


俺と目が合うと瑞鶴は(しまった!)とでも言うかのようにサッと隠れた


―何故隠れるのだろう…?―


そう言った疑問がすぐに湧き出たが、今はそんな事を考えている暇はない


何しろ、川内以外に人が現れたのだ


ひょっとしたら、自分の意思を伝えられるかもしれないのだ


このチャンスを見逃すわけにはいかない!!


俺はベットからとび降りると、勢いよく駆け出した


そして、そのまま部屋を飛び出し、瑞鶴が隠れた方向へと向きを変えた


瑞鶴「わっ!ちょっ!」


突然目の前に現れた存在に驚く瑞鶴の姿を確認し、俺は執務室へと走り出した


瑞鶴「ちょっ!待ちなさい!」


後ろから慌てた声と、地面を蹴る気配が感じとれた


ようやく、話が通じるかも知れない…


そんな期待を胸に、俺は執務室へと猛ダッシュした


~~~


言葉が話せないのならば、字を書いて伝えればいい


そう思って執務室に走ったはいいのだが、俺には一つ誤算があった


…そう


執務室に鍵が掛かっていたのだ


せっかく一生懸命後ろ足だけで立ち上がってバランスとったのに…


せっかく慣れない手つき(前足つき)でドアノブを回そうとしたのに…


嘗めてんのかよ


心の中でボソッと暴言を吐き、執務室の茶色の扉を睨みつけた


材料は樫の木とでもいった所だろうか


固そうである


到底ぶち破れそうにない


………


困った…


これでは筆談が出来ない…


一体どうしたものか…


…と、どうやら瑞鶴がやっと追いついたようだ、


瑞鶴「…ぜぇ…ぜえ…ちょっと…あんたっ…」


後ろを振り返ると瑞鶴が肩で息をしていた


その目は恨めしそうに半目になっており、俺に対して何か不満がある事がひしひしと伝わってきた


しかし、今の俺には瑞鶴の不満などに構っていられる程の余裕は無かった


踵を返し、執務室の扉に向きなおると、俺はペちぺちと執務室の扉を叩いた


瑞鶴「………うん?」


始めは俺が何をやっているのかが分からなかったようだった


だが、俺がもう一回ペちぺちと扉を叩くと、何となく意味を理解した様だ


瑞鶴「何よ?開けろって事?」


瑞鶴の方へと向き直りコクリと頷いた


すると、今度は瑞鶴が嫌そうに顔をしかめた


瑞鶴「嫌よ、これ以上面倒な事は起こしたくないの」


どうやら彼女にはちょっとリスクがあるらしい


……が、リスクとしてはそこまで大きくはないだろう


ここは交渉してみよう


数秒間の熟考の末、


俺はころんと転がり腹を見せた


瑞鶴「あ~っ!もうっ!今度は何よ!」


よく分からない犬のよく分からない仕草にイラつく瑞鶴


これはマズイ、なんかマズイ


……が、こちらが焦ってしまっては交渉どころの話では無くなるかもしれない


俺は、落ち着きはらい、前足で自分の腹チョイチョイと示した


(モフッて良いぞ?)


今度はすぐに俺の言いたいことを理解してくれた


瑞鶴「何よ?撫でろって事?」


寝っ転がったまま頷いた


瑞鶴「………」


突然の沈黙だった


機嫌でも損ねたのか…


ちらりと瑞鶴の顔を見ると…


…一言では言い表せないような表情をしていた…


不機嫌そうに曲げられた眉、迷いが感じられる目…


少しつり上がった口角…そして、それを抑えるかのように噛みしめられた下唇…


……あれ?


…口角がつり上がってる?


突然湧き出た違和感に、薄い飛行甲板から顔へと目線を戻す


……つり上がってる…


本来、口角は嬉しい時にしか上がらない筈じゃ…


もしくは楽しい時とか…ニヤニヤしちゃう時とか…


………あれ?


……もしかしてニヤけているのか?


…と、瑞鶴が何かに語りかけるようにしゃべり始めた


瑞鶴「だっ…駄目よ瑞鶴…軽率に撫でたりしたら何が起こるか分からないわ…」


どうやら俺のことが信用できないらしい


当然の反応だし、俺だってそう思う…


…それにしても…


瑞鶴「そう…もふっては駄目…」


…焦点が合わない目で俺の腹を見つめるのはやめて欲しい


正直怖い…


瑞鶴「もふっては駄目…もふっては駄目…もふっては…」


………


そう言えば、同じ事を繰り返すようになったら死期が近いって爺ちゃんいってたなぁ…


瑞鶴「うにゃぁぁあああ!!」


とうとう、瑞鶴が発狂した


お疲れ様です


~~~


結論から言うと…んっ…


瑞鶴「もっふもっふ」


瑞鶴は俺の腹をもふっている…んんっ!!


瑞鶴「もっふもっふ」


目を輝かせながら…あっ…


瑞鶴「もっふもっふ」


凄くテクニシャ…んあっ♡…そこらめっっ♡…


~割愛~


~~~


数十分モフられ続け、俺は解放された




何が彼女をそうさせたのかは分からなかった


とにかく地獄だった


いき地獄ってやつ?


……


とりあえず、瑞鶴はいい笑顔で余韻を楽しんでいて…


瑞鶴「もっふもっふ…」


んあ♡………っておい!


つい体が反応してしまったじゃないか!


………


これがパブロフの犬ってやつか


………


まあいいや


俺は立ち上がると目をつむって余韻に浸っている瑞鶴の肩をポンポンと叩いた


瑞鶴「……何よ…人がせっかく余韻に浸っているのに…」


不機嫌そうな返事が返ってきた


しかし、そんな事を気にしてはいけない


俺はくるりと向きを変えると執務室の扉をペちぺち叩いた


瑞鶴「あ~…開けて欲しいんだっけ?」


瑞鶴はふっと溜息をつくと、ゆっくり立ち上がった


瑞鶴「仕方が無いわね~私が開けてあげる」


そう言うと、瑞鶴は鼻歌まじりに矢筒から矢を取り出し、弓の弦にかけた


……っておいおいおい


慌てる俺を他所に、艦載機が飛べるように、と長い廊下の方へと体を向ける瑞鶴


瑞鶴「全機爆装!目標!執務室の扉!」


えっ…ちょ…まっ…


瑞鶴「発艦始め!」


ヒュッ!という風切り音と共に矢は放たれた


数秒後、放たれた矢が艦載機へと姿を変え、執務室の扉が跡形もなく消し飛ばされた


~~~


執務室の中に歩を進めると、目の高さは違えど、俺のよく知る執務室の景色が広がっていた


板張りの床に漆喰の壁、向かって右側には大きな窓があり、左手には本棚、ソファ…etc


そして、それらすべてに傷がついていない事を確認すると、俺はホッと溜息をついた


執務室の家具には高価なものが多いのだ、傷をつける訳にはいかない


無論、大穴でも開けたら高い修理費を請求される


ちらりと瑞鶴の方を見ると、そんな俺の心の内を知ってか知らずか、ソファーに四肢を投げ出すかのようにして、座っていた


瑞鶴「絶対に家具とかに触っちゃだめよー、結構高いんだからー」


もし、俺が喋れたなら、「お前には言われたくない」とでも言っていただろう…


扉をぶっ壊したのだから


俺は机へと近づき、後ろ足をピーン、と伸ばして前足を縁の上に乗せるようにして机上を覗きこんだ


見ると、机の上には資料などの紙の束が大きく積み上がっていた


俺はそこから紙を一枚取り出し、さらに左手前に立ててあった万年筆を取ると、それを口で咥えるように様にして、


紙に―俺は提督だ-と書き込んだ。


ミミズがのたうち回ったような字になってしまったがどうにか読める字だ


…よし!!


俺は、その紙を咥えると、ソファで眠りこける瑞鶴へと駆け寄った


そして、瑞鶴を起こすために思い切り吠えた


「ワン!」


瑞鶴の体がビクッと跳ね上がる


瑞鶴「わひゃっ!?」


マヌケな悲鳴を上げながら、瑞鶴がパチリと目を開けた


…と俺がもっているものが目に入ったのだろう


マジマジと紙を覗き込んできた


瑞鶴「えっと…?何これ?」


瑞鶴「…お…れは…ていとく…だ…?」


寝起きのせいか、字が汚いせいか、瑞鶴の顔は疑問で一杯になった


しかし、時間が経つにつれ、顔が次第に疑問から驚きのソレへと変化していった


瑞鶴「っえ、えーー!!??」


                    [第十章: 真実と消えた記憶 ]



先程までの苦労がウソだったかのように物事はトントン拍子に進んだ


最初は俺が提督であることはあり得ないと疑っていた瑞鶴だったが、次第に俺が提督だと確信が持てたらしい


瑞鶴「……それにしても……色々な事が起こるものなのね…」


そう言うと、瑞鶴はふっと息を吐いた


提督が犬に変わっていた、という怪現象を‘色々な事’とまとめあげられるあたりを見ると、彼女は相当懐が広いのだろう


…が、そんな彼女の懐に感心するよりも俺にはやらなければならないことがあった


俺は再びペンを咥えると、近くに落ちていた紙に文字を書きなぐった


―随分と人が居ないな―


確かにこの鎮守府は総勢40人程度のとても小さな鎮守府だ


しかし、誰も執務室前の廊下を通らないのはとても珍しい


これだけ長い時間が経過しているのだから一人ぐらい通ってもいいはずだ


その問いに対し、瑞鶴は大事な事を何でもない事のように言ってのけた


瑞鶴「皆どっかに飛ばされるから、身支度とかで寮でバタバタしてるのよ」


…皆が…飛ばされる?


―飛ばされるって?―


瑞鶴「ここの鎮守府はもう閉鎖されるの、だからほかの鎮守府に移らなきゃ」


閉鎖…?


瑞鶴「深海棲艦の襲撃に遭って壊滅状態…とまでは行かないけど…工房とかが壊されちゃったから…ね…」


深海棲艦の襲撃?



工房が…壊された…?


瑞鶴「…それに……神通も……行方不明だし…」


神通が行方不明…?


………


…なんで?


あいつは…ずっと寝てて…


……いや、違う!…アイツは戦ったんだった!…


深海棲艦六隻と戦って…戦闘不能にしたんだ…


それで…その後に…


その後に…


『生きて!…生きて!…生き抜いて…そしてどうか私達を元に戻して!…』


……!!


キーンという耳鳴りと共に激しい頭痛が押し寄せてきた


そして、同時に何者かに脳がかき回されされているような気持ち悪い感覚が押し寄せてくる


「ぐ……ああ……!!」


何処からか、くぐもったうめき声が漏れた


俺はたまらず、痛みと気持ち悪さから逃げるように首を内側に折り曲げ、頭を抱えた


瑞鶴「ちょっと!?大丈夫!?」


上から瑞鶴の慌てたような声が降ってきた


…しかし、俺にはそれに答える余裕は無かった…


『きっと…私の心が弱かったのがいけないんです…』


『私の心が弱かったから…だから…こんな結果になってしまったの』


走馬灯のように‘声’が頭に流れ込む


『…私はこの後鹵獲…もしくは殺されます…』


『だから…きっとこれが最後の機会なのだと思います…』


その‘声’は…まるで鈴の音を思わせるような…悲しげな声で…


『…提督…これだけは言わせて下さい…』


『…今まで…ありがとうございました…そして…』


『…大好きです…』


…神……通……?


直後…目の前が赤黒く塗りつぶされ


俺の意識は何処か遠くへと飛んだ


~~~


左横腹に軽い違和感を感じ、ゆっくりと瞼を開けた


蛍光灯の強い光に目をしばたたかせながらも、周囲を見回す…と、見覚えのある様子が広がっていた


―医務室だ-


どうやらあの後、俺は医務室のベットに寝かされたらしい


喉に微かな痛みをおぼえつつ、俺は腹の方向へと顔を向けた


「……すぅ……すぅ……」


瑞鶴がベットに突っ伏しるようにし、安らかな寝息を立てていた


そして、その右腕は伸ばされるような形で俺の腹に手を乗せられていた


左腹に感じる違和感は、この手の重みによるものだろう


違和感の原因の特定が済み、今度は他に誰か居ないかとあたりを再び見回した


すると、俺の背中側にある窓側のベットで膝を抱えるようにして外を眺めている人影を見つけた


川内だ


「ああ、起きたんだ」


ふと川内が口を開いた、どうやら俺が起きたことに気が付いたらしい


そして、そのまま体をこちら側へと向けベットに腰掛けるようにして俺の方へと顔を向けた


川内に対して答えるように軽く頷くと、彼女は、ふと微笑み瑞鶴に視線を移した


「瑞鶴もいろいろあって疲れているらしいから、もう少しだけ寝かせてあげてね」


川内の目線につられるようにして瑞鶴の顔を覗き込むと、その安らかな寝顔に疲労の色が見えた


色々あったのかな…


きっとあったのだろう…


「おう…分かった…」


疲れている人をそのまま寝かせてやるのも優しさだ


それに今は川内に聞かなければならない事が沢山あるのだ、瑞鶴を起こすだけでも時間のロスが生じてしまう


それに……


……友達だと思っていた人間に不信感を抱かせるのは避けたい……


俺は瑞鶴から川内へと視線を移しながら口火を切った


「なあ、せんだ………………何だよその顔は……」


川内はひどく間の抜けた顔をしていた


「えっ?なに?喋れんの?」


「へっ?」


突拍子もない発言に思わず間抜けな声を出してしまった


「さっきまでは喋れなかったじゃん、ただの犬だったじゃん」


「あ…ああ…」


言われてみれば確かに、さっきまで俺は喋れなかった


いや、喋れなかった…と言うよりかは喉が犬の喉だったのか?


「なんで?」


なんでって……


「い…いや…何でって言われても……俺にはさっぱり……」


まっすぐな疑問に思わずたじろぐ


“なんで?”は質問文の中でも一番厄介だ


思わず目を伏せ考え込む


どうやって説明すればいいんだ…?


熟考に熟考を重ねた結果


川内のペースに乗せられていると気が付くまで、既に十数秒が経過していたのだった


~~~


あの時、瓦礫の中で気絶していた犬が提督だったなんてな…


そう、懐かしむように川内は一生懸命考え込む‘犬’を見た


どうやら犬になっても彼の律儀な性格は変わっていないらしい


あんなにも答えにくい質問に対して一生懸命考えるなんて…


その一生懸命さに少し頬が緩むのを感じた…


しかし、十八秒経過した辺りで流石に律儀な彼もおかしいと気が付いたらしい、


はっと顔をあげると、私を睨みつけるようにして声をあげた


「~っあー!!もう!!こんな事をしている場合じゃないだ!!」


そして、今一番聞かれても困る質問をしてきた


「そんな事より!!神通はどうしたんだ!?」


その質問に対し、私は素っ気なく肩をすくめ、ただ一言


「分かんない」


と答えた


実際に分からないのだ…


あの日、帰港した時には既に神通はおらず、月光に照らされた大量の瓦礫と、瓦礫埋もれた灰色の大きな犬が残されていただけで手がかりらしきものが

何一つ残っていなかったのだから


「え…いや、分かんないって…」


当然の反応だろう、私だって同じ立場だったらそうなる


しかし、同情したところで質問に答えられるようになるわけでは無いのだ


「ゴメン、本当に分からないんだ」


目を見て再度同じ事を伝える


嘘はついていない


それだけは分かって欲しかった


すると相手も何となく分かったらしい、軽く頷くと今度は別な質問をしてきた


「じゃあ別な質問」


「何?」


またもや素っ気なく応える


別に機嫌が悪い訳では無いのだが答えられることがあまり無いのだ


そんな態度に対して、相手は特に気にするそぶりを見せず淡々と質問を投げかけた


「深海棲艦が来るって予測してた?」


そうか、そう来たか…


私は、ふうっと溜息をつくと視線を床に落とした


「予測してたよ」


その解答に対して、提督はああ…と言葉を漏らした


「…そうか…そうなのか…」


別にショックを受けている様子では無い様だ、寧ろ納得がいった…の方が近いだろうか


感情に左右されることのない、彼らしい反応だ


その様子が川内には少し面白く感じられた


「それじゃあ、神通も知っていたのか?」


「知ってたよ」


「いつぐらいから?」


「結構前から」


「じゃああの時神通が倒れたのは」


「まあ、偶然じゃないね」


「攻めてくる日だったのに?」


「違うよ?攻めて来る日に神通が倒れたんじゃ無いよ?」


「えっ?」


「神通が倒れたから深海棲艦が攻めて来たんだよ」


「………へっ?」


言葉の意味を簡単に理解出来ても、その内容は理解し難い


提督の今の顔は、(犬の顔なのだが)まさにそれを物語っていた


~~~


神通が倒れた…だから攻めて来た…


目を閉じ、その言葉を反芻する


何で?…どうやって?…


そして、二つの疑問がぽっと脳裏に浮かび上がったのだった


方法に関しては…きっと情報漏洩だろう、つまり…


「情報を漏洩したスパイがいたのか?」


「そう、スパイがいたんだ」


川内は、少し笑いながら答えた


ああ…そうか…そういう事なのか


…だったら…


俺は川内の目をじっと見つめ、多分してはいけないであろう質問をした


「あの時はもう気が付いていたんだよな?スパイに」


「うん、気がついてたよ」


川内は目を離す事をせず、まっすぐに目を見て答えた


私は嘘をついていない、何でも正直に答える


…そう、瞳が言っている様な気がした


「じゃあ…神通が倒れたのって…」


「あれはワザと…っていうか血糖値を下げて一時的に意識を無くさせただけ」


血糖値…?


何故血糖値を下げたんだ?


「回復した後に糖分を接種すれば、筋肉内に大量にエネルギーを貯められるかなって思って」


「成る程、グリコーゲンローディングか」


人の体には、―時的にある特定の栄養素が欠乏すれば、その欠乏していた栄養素を接種した際に、より多くの栄養素を溜め込もうとする性質がある


グリコーゲンローディングは、その性質を利用したものだ


「そう、なにしろ神通一人で戦わなきゃいけなかったからね」


「…一人で……戦って…」


その時、突然脳裏に‘あの時の’神通の顔が浮かび上がった


…不甲斐ない自分への憎悪と共に…


あの時…


『提督!!しっかりして下さい!!大丈夫ですから!!止血すれば大丈夫ですから!!』


あの時俺が…


『絶対に気を失わないで下さい!!今応急処置します!!』


あの時俺が意識を保ったまま………


『提督!!お願いです!!返事をして下さい!!提督!!』


自害していれば良かったんだ


「提督!!」


川内の大きな声に、はっと我に返る


目の前には川内の真剣そうな顔が迫っていた


「……すまん……何でもない……」


一つ溜息をつき、何でもないよと首を振った


「……で……話を戻すけどさ……」


平静を装い、先ほどの体制へと状況を戻しにかかる


もちろん、呼吸はかなり乱れていたし、心臓もバクバクと音を立てて動いていた


だが、俺には時間があまり無い…そう、頭の中の誰かが言っている様な気がしたのだ…


「なんであんな事をしたんだ?深海棲艦を出現させるメリットなんて無いだろう?」


単純な興味でもあった


神通が自らの命と天秤にかけた‘それ’の理由が知りたかった…というのもある


が、一番の理由としては、そこには何か大切な情報がある…という半ば勘の様なものがあったのだ


「………色々あってさ……」


そう言うと、川内はふと窓の方へと顔を向け、目を細めた


川内の目は何も捉えておらず


それでいて、何も無い空間に何かを捉えていた


愉しい思い出なのか


つらい訓練の日々なのか


……それとも悲しい過去なのか…


「……那珂って…知ってる?…」


唐突に開かれた口から出た名前は、資料でしか見たことの無い名前だった


「那珂?」


「……うん……」


知ってはいるが良く知っている訳ではない


そんな微妙な立ち位置だ


「名前は聞いたことがある」


「………そっか…」


川内は、そっか…と呟きながらゆっくりと頷いた


そして話を続けた、懐かしむように目を細めながら


「川内型って元々三人だったんだ、長女が私、次女が神通、三女が那珂って感じね」


「それで、まあ、話が飛ぶけど、前の提督が……色々と酷くてさ…」


「セクハラ、パワハラ、恐喝、恫喝、暴力…まあ他にも口では言えない事を、私達艦娘に平気でやってきたような人間なんだけどさ…」


そこで、区切りをつけるように川内はふうっ、と溜息をついた


「特に神通が酷い目に遭ってたんだ」


―神通が酷い目に遭っていた-


その言葉で、心をザワリと騒めき


その騒めきが、さざ波のように広がっていくのを感じた


「……そうか……」


腹の底から何とか声を搾り出し


何事もなかったかのように振る舞う


―心を落ち着かせなければ―


そう思った矢先だ


「なんか、神通の事が好きだったらしい」


―神通の事が好きだったらしい―


その言葉が、落ち着きかけていた心に隕石のように突っ込んで来た


最早、騒めき処では無かった


心がジワリと痛むのを微かに感じた


モテるんだよね…と川内は呟いた


いい人間にも、悪い人間にも


川内は俺の方をちらりと見た


その目線が妙に居心地が悪く、俺は思わず川内から顔を背ける


「続き」


その一言だけをポツリと言った


それに対し、川内は再び話を続けた


「姉妹を助けるのは当然だし、当たり前の事だと思っていたから那珂と二人で神通を庇ったりしてたんだけど」


「なんだか人の恋路を邪魔してる…みたいに取られたのかな…」


「それで、那珂と私が提督の恨み買ったんだ」


「そこから私達二人は意味のない出撃の連発…それも別々に…」


「何だかんだ言って提督って私達の上司だからさ、反抗出来ずに毎日毎日…休みなしで…」


「それで…まあ色々あってさ、那珂が轟沈しちゃったんだよ…ね」


川内はそこで口をつぐんだ


そしてふう、とため息をついた


それにつられるようにして俺もほうっ、とため息をつく


ちらりと左後ろの瑞鶴を見やる


寝顔こそ見えないが、肩が微かに上下していた


きっと夢を見ているのだろう


―いい夢であって欲しいものだな-


そして、再び川内へと顔を向け、視線を移した


「それだけ辛い思いして最後は轟沈ってさ…嫌じゃない?」


発せられた川内のその声は微かに震えていた


「だから…せめて…遺体は見つけてあげたくてさ…明石と神通とで探したんだ…」


…色々探したよ…ポツリとつぶやくと川内は口元をおかしそうに歪め、肩をすくめた


まるで今から悪い冗談でも言うかのように


~~~


「びっくりしちゃったよ…流石に……深海棲艦になっているなんて……」


そう言った時の彼の反応は、予想していたものとは異なっていた


きっと驚く…もしくは納得したように頷く程度だと思っていた


「軽巡棲鬼…か?」


彼はそう言ったのだった


思わず眼を剝いた


「なんで知ってるの…?」


少なくとも提督には知られていないと思っていた


というより、そもそも知る機会が無い


確かに、軽巡棲鬼の目撃資料は存在している


身体の特徴、使用武器、出現場所、想定しうる最高速度…etc


そう言った情報は既に軍全体に広まっている


しかし那珂=軽巡棲鬼という事象は認められていない


何故なら‘その’事象は目撃例がほぼ無く‘一般化されていない’事象なのだ


川内や神通が言う、那珂が軽巡棲鬼になった…という事だって言ってしまえば‘根拠’が無いもの…


いわゆる、面影による判断であったのだ


でっち上げと言われても反論できないような代物


つまり、提督の持つ情報は資料から得られた情報では無く…


「…まさか…あの夜に…」


鎮守府に現れたのだろうか


あの、軽巡棲鬼が


あんな短時間で


「…俺さ…実を言うとさっきまで記憶が消えてたんだ…」


ぽつり-と呟いた提督の声は悲しそうだった


「でも、今思い出した、確か神通が軽巡棲鬼の事を那珂って呼んでいた」


そして…と続ける


「この手で殺すって…言ってた…」


………


「うん…そうだろうね」


別に動揺はしない、自分だって那珂…いや、軽巡棲鬼を殺すつもりだったのだから


チラリと胸の奥で痛みが生じたが、目をつむり無視する


―今更変えられない―


―もう引き返せないのだ-


「何で殺すんだ?」


誰もが思うであろう問いを投げかけてきた


そんな事…


「……ッ!!」


落ち着け私…


彼は当たり前の事を当たり前に聞いているだけ…


……そう……


彼の言いたいことは分かる…


理屈では分かる…


理解できる…


間違ってない…


「時々…艦娘が救助されるよね」


その問いには答えずに川内は静かに切り出した


「何で練度が振り出しに戻っているんだと思う?」


その問いに、彼は眉をしかめた


「振り出し?」


ああ…そうか…


話してなかったんだ…


「深海棲艦は轟沈した艦娘の内、死ななかった者が最終的になるモノ…って言われてる」


曖昧な説明だが、こうとしか言いようがない


何故なら、確実な情報ではないからだ


あの時、明石に頼んで探ってもらった数少ない情報


その中でも一段と曖昧な部類に属する


「未練がある艦娘がなりやすい…のかな?」


これも明石によってもたらされた情報だ


もし、これが本当だとしたら那珂はよっぽど未練があったらしい


あんなに明るかった彼女に限って、全く想像つかないのだが


そう考えつつ、川内は提督を見た


「さて、何で練度が振り出しに戻るんだと思う?」


意地の悪い問だったのかもしれない


提督は首を傾げながら、問いに対し訝しげに答えた


「今での記憶を全てリセットするから?」


ほぼ、正解である


「そう、記憶を全てリセットする…いや、されるから…かな」


無理矢理される


いや、無理矢理にでもしなければならないのだ


「もちろん、理由はある」


そう言うと、川内は軽く伸びをした


そして、姿勢を整えた


ここから先、長いよ


そう言って、川内は少し笑ったのだった


~~~


窓から差し込む夕日の光が、室内を赤く染め上げる


壁掛けの時計を見ると、短針は五を、長針は四と五の間を示していた


チッチッチ…と秒針が時を刻む音が静まり返った部屋に鳴り響く


「……………」


「……スゥ………スゥ……」


チッチッチ…


今現在、この部屋に川内は居ない


つい先程、明石に連れていかれたのだ


随分と慌てた様子だった


一応、川内の話は一区切りついていたし


一気に入った情報を少し整理する時間が欲しかったところだ


提督は目をつむると、先ほど川内に言われた事を頭の中で整理し始めた


様々な情報があったが、それらをまとめるとこうだ


轟沈した艦娘は、(時と場合に依るが)深海棲艦へと姿を変える


それは、深海棲艦の細胞が持つ特性によるものだ


近しいモノは近しいモノとリンクするのだろう(繋がる)


そうやって、最終的には艦娘以前の海に沈んだ大量の記憶と繋がり、記憶に浸食されてゆく


その記憶は、その海域で命を落とした者の思い出であったり、家族への思いだったり


はたまた、想い人への伝えられない想いだったり…


もしくは、死ぬ間際の計り知れぬ恐怖だったり…


深海棲艦でいる時は、自我が無い(主に上位種に見られる)ため、特別に問題は起こらない


問題は深海棲艦から艦娘へ戻った時なのだ


正気に戻った時、彼女たちはその流入した記憶によって、精神に異常をきたしてしまうのだ


自殺する者、もしくは自殺未遂を繰り返す者、自分を自分と認識不可能となった者…etc


それらの事象を無くす為、深海棲艦から艦娘に戻った艦娘は、艦娘時代の記憶を全てリセットすることにしている


その艦娘の意思に関わらず


「……死んだと同義だな……」


仕方が無い…と言えばそれまでなのだが…


何だか後味が悪い…


「……神通は大丈夫かな……」


ぽつりと出た呟きは、虚空へと消える


チッチッチ


「…スゥ…………スゥ……」


「……………」


「…スゥ…………スゥ……」


「なあ瑞鶴…起きてんだろ?」


答える者は居ない


「………はぁ……どうすりゃいいんだよ…」


空しさ…


不安…


焦燥…


提督の頭の中でそれらがグルグルと渦巻いていたのだった


                     [第十一章: 絶望の淵 ]



―ポタッ…―


黒くて硬い地面に雫が落ちた


その様子を、神通は蹲(うずくま)った状態で眺めていた


目には生気が無く、着ている服もボロボロで、所々穴が開いていた


そしてその穴からは、生々しい火傷の痕や青痣がチラリと覗いていた


コツリ…コツリ…


ふいに足音が聞こえてきた


その音に表情の無かった神通の顔が、少し強張った


コツリ…コツリ…コツリ…


少し顔をあげ、音のする方向を見ると、白い皮靴に白いズボンが見えた


―あの男だ-


そう、神通は確信した


その白色は音を響かせながら歩を進め、やがて神通の目の前でピタリと止まった


「よお…気分はどうだい?」


ぬるりと湿り気を帯びたそうな…そんな声が降ってきた


その声に、神通は顔を下に向け、目を合わせないようにして答えた


「最悪です、あなたが目の前にいるので」


「ほう?それは意外だ」


「………」


「理由を聞かせてくれるかい?」


そう言うと男はしゃがみ込み、神通の顔を覗き込んだ


「感動の再会じゃないか、なあ?」


「………」


神通は答えない


「………」


「………」


―ポタッ…-


二人の沈黙を裂くように、雫が落ちた


「あの時必死に命乞いして良かったよ」


「………」


「だから、こうして君と再会出来た、それも…」


「…君の大好きなこの顔でね…」


そう言うと、男はぬるりと腕を伸ばし、柵の向こう側にいる神通の頭に手をかざした


「顔あげろよ」


そう言うと、男は髪を掴み、上に引き上げた


髪を掴まれた神通は苦しそうに呻き、その動きに従う


無理矢理持ち上げられた神通の目線が男の全身を捉えた


その姿は、神通が一番見たい姿で…


神通が一番見たくない姿だった…


「松田久則君だよね?」


そう言うと彼はニコリと笑った


―松田久則-


神通が所属している鎮守府で提督をやっている男の名前だ


18歳で士官学校に入学し、21歳で海軍少尉に任官


その後順当に実績を積み、数年で提督となった男


そして、神通の所属している鎮守府の提督


目の前の男は、まさに彼の姿をとっていた


~~~


一瞬なのか


それとも長い時間経ったのか


はっ…と気が付くと目の前にニコニコと笑う男の顔があった


「随分と驚いたようだね、嬉しいよ」


男は本当に嬉しそうに言った


まるで子供のように…


残酷な笑顔で…


「あっそうそう…こんなセリフも言ってみたかったんだ」


そう言うと男は顔を崩す事無く、私の顔を覗き見た


「大好きだよ、神通」


「………ッ!!」


その言葉が、自分の中に流れ込むのを感じた


その言葉が、自分の乾いた心を潤すのを感じた


その言葉が…


「っ!!…黙れ!!」


大声を出し、耳に残った声の余韻を払い去るように、神通は勢いよく首を横に振った


その言葉が、自分の想う相手ではない


その言葉は、彼の気持ちではない…のに…


「気持ち悪い…」


一瞬でもそれを受け入れようとしてしまった自分が、酷く気持ち悪かった


比喩的な表現ではない


本当に吐き気がしたのだ


「おい、元上司に随分と失礼じゃないか?」


頭上から降ってきた言葉には、怒りが込められていた


気持ち悪い、という言葉に反応したのだろうか


「礼儀を教えてやろう」


そう言うと、男は後ろを向いた


「おい、実験開始してくれ」


すると、男の後ろの闇から白衣の男が音もなく現れた


白髪交じりの角刈りに、暗くくぼんだ目、小さく丸まった背中


貧相な男だ


まるで骸骨ね…


私はそう思った


骸骨はゆっくりと歩を進めると、私と檻を挟んで向かい合った


「随分と大人しそうだ…同じ姉妹でもこうも違うのか…」


そう言うと、骸骨は着ている白衣の左内ポケットをゴソゴソと探り始めた


一体何が始まるというのか…


しかし、その疑問はすぐに消えた


解決されたのでは無い


恐怖という感情に押し流されたのだ


骸骨の手には黒い拳銃が握られていた


「まあ、すぐにうるさくなるだろう」


そう言うと、骸骨は拳銃を私に向け、引き金を引いた


~~~


パァン!という炸裂音が響き渡った


その音に対し、彼女は渋い顔をした


「もう、始まったのですか…」



パァン!パァン!


更に立て続けに二回炸裂音が二回響き渡った


「……一発でいいと言った筈なのですが…」


深く刻まれた眉間のシワがさらに深くなった


彼女のその表情は、イライラしている様にも、悲しんでいる様にも、怒っている様にも見えた


「はあ…」


そんな彼女は大きなため息をついた


それに合わせて、黒い部屋にミスマッチなピンクの髪がふわりと揺れる


「ネエ…」


私は何故か彼女に声をかけた、一体何故、私は彼女に声をかけたかは分からない、強いて言うなら口が勝手に動いたのだ、そうとしか言えない………い

や……もしかしたら、彼女の少し寂しそうな雰囲気が私にそうさせたのかもしれない


「ダイジョウブ?」


私の問いかけに、彼女は笑っているような悲しんでいる様な表情で答えた


「……大丈夫……私はね」


~~~


俺が犬になってから一週間が経とうとしていた


変化が全く無い


あの日の出来事が嘘だったと錯覚する程、ただただ平穏に時が過ぎて行った


最初の方は執務室で資料を読み漁っていた俺も、何となく虚しさを感じるようになってしまい、気が付けば医務室のベットに座り海を眺めるようになってい



「ねえ…提督さん?」


隣でベットに腰掛け、一緒に海を眺めていた瑞鶴が話しかけてきた


「何?」


「神通…元気かな…」


「……さあね…」


「………神通の事だから生きてはいると思うんだけど……」


「……ああ……」


「………」


「………」


一週間前の俺だったら、きっと今の俺に怒っていたと思う


海を眺めている暇があるのなら神通を探せ


とでも言うだろう


しかし…悲しい事に自分に出来ることは無いのだ


誰かが、神通を連れて帰ってくれるのをただ待つしかない


全くの非力


無能


「……明石の方はどうなんだ?」


「明石さんは……多分今も調査していると思う…」


「そうか……申し訳ないな……」


「……仕方ないよ……」


「……ああ…そうなのかな」


餅は餅屋、だから俺のやるべき事ではない


そう、割り切れたらどれだけ楽なのだろうか…


残念ながら俺の思考回路はそこまで上手く出来ていない様だ


「ねえ、提督さん」


「うん?」


「あと一週間でここも立ち入り禁止になっちゃうけど大丈夫なの?」


「あ…そうか…」


先の出来事で、工房が壊滅状態となったため、新しい艦娘を誕生させることも、装備を開発することも出来なくなってしまった


さらに、提督(俺)の行方が分からなくなり、鎮守府としての機能すらも失われてしまった


そんな場所に艦娘達が居ることに意味がない事は火を見るよりも明らかである


そこで上層部が出した答えは、残り一週間程で艦娘達を別の鎮守府に移動させ、ここの鎮守府は封鎖する


元々古い建物で老朽化も激しかったため、立て直すよりもいっそのこと別な場所に新しい鎮守府を作った方がいい…らしい


実に合理的な考え方だ


当事者で無い者からしたら…の話ではあるが…


「環境変わってもアイツら大丈夫かな…」


「さあ…分かんない…」


「……だよな……」


「転属書類とか…本当は俺が色々と書かなきゃいけないのに…」


「しょうがないよ…今は…」


「……ああ……」


結局皆には、俺が提督である事は秘密にしてある


…と言うのも下手したら余計な混乱を招き、円滑に動くことが出来なくなってしまうからだ


それに、俺が死んでいないことが知れたら更に深海棲艦から襲撃を受けるかも知れない


そうなったら厄介なのだ


「知っているのは私と夜戦バカだけか…」


そう、他の艦娘達にとって、俺は単なる犬だ


つまり、他の艦娘がいる場所では俺もただの犬として振る舞わなければならない


本音を言うと、少し大変だ…だが


「…まあ、もう少しの辛抱だ…」


そう、あと一週間でこの鎮守府は閉鎖される


だからあと一週間の辛抱なのだ


俺はベッドに顎を付け、伏せた


目を閉じ、波の音に耳を澄ませる


神通もこの音を聞いてくれているだろうか…


「ねえ…提督さん」


「なんだ?」


「一週間後どうするの?」


「どうするって……」


「一週間後には提督さんの住むところ無くなっちゃうんだよ?」


「そうだな」


「そうだなって……」


「大丈夫、そこらへんは抜かりなく考えている」


「………」


「むしろ瑞鶴の方が心配だけど?」


「私?」


「お前、もう引退するんだろ」


「うん」


「でも、正式な書類を提出してないじゃないか」


「……別に後回しに出来るから……」


「後回しにしてどうするだよ、艤装返さなきゃ迂闊に外にも出歩けないんだぞ?」


「………」


「使えない艤装は寧ろ生活に支障をきたす、早めに返した方がいい」


「分かってるよそんなの…でも」


「おーい!瑞鶴さーん!…とクロー!」


突然割り込んできた声に体が数センチ程跳ね上がる


声の主は誰かと後ろを向くと、そこには江風が立っていた


「夕飯一緒に食べようってー!」



壁掛けの時計を見ると、その短針は5を指していた


「はーい、今行きまーす」


瑞鶴の返事に合わせるように俺は体を起こし、皆の集まる食堂へと歩を進めたのだった…


~~~


―ポタ…ポタ…-


一体どれだけの時が経ったのか、神通には分からなかった


時を知らせるものは何も無く、水滴が一定のリズムで落ちるだけ


序盤に湧いていた怒りも、もう既に湧かなくなっていた


焼けるような激しい痛みに、まともに思考する事すらも出来ず


ただ痛みに耐えながら、目を瞑りうずくまる


変化が無い……


………


……いや……変化はあったのか


黒かった床が、自分の血で紅く染まった


………


まあ、その程度と言えばその程度だが…


………


カツン…カツン…


遠くから聞き覚えのある足音が響く


空間の変化に、精神を締め付ける何かが緩むのを感じた


その足音は次第に大きくなっていく


目を少し開け、音のする方を見ると白い革靴のかかとが地面を蹴っているのが見えた


カツン、と音が響く


やはりあの男だ


白革靴は目の前の地面をかかとで蹴ると止まった


「深海棲艦になるまで、あとどの位だ?」


…と、男の問いに答えるようにしゃがれた声が響いた


「十日程かと」


このしゃがれた声は骸骨だろうか


「そうか…随分と早いな」


その答えに、男は満足そうに揺れた


「躰への負担は考慮したのか?」


「ええ、もちろん」


「一瞬で姿を変化させている所を一週間に伸ばしているのですからねぇ」


「ゆっくりと…じわじわと…確実に神通を壊してあげましょう」


そこまで言うと、しゃがれ声はケタケタと乾いた笑い声をあげた


「これも全て明石のお陰ですね」


「ああ、いいスパイに恵まれた」


スウッと意識が遠のくような感覚に陥り、景色が暗転する


突然の出来事に思考が対応できない


―ああ、まずい…


―早く薬を嚙み潰さないと……


………


……




~~~


「あと三日…」


ポツリ呟いた言葉は、波の音にかき消された


別に誰かに聞いてほしい言葉では無いから


だから、返ってこない返答も気にはならない


そんなふうに考えながら、川内は空を見あげた


青い空がとても眩しく見えた


こう見ると、昼の空は綺麗だ


夜とは違う


………


何故なのだろう


こんなにも青空が綺麗だと感じるのは


艦娘を引退するときめたから、趣味趣向が変わったのだろうか


………


それともここから先、刑務所で一生を過ごすからなのか…


………


まあ、どうでもいい


どうでもいいのだそんな事は


妹二人を守れない様な人間のその先の人生なんて


考えるだけ無駄だ


そんな事より


「明石はまだかな…」


明石による捜索は、まだ難航しているのだろうか…


~~~


「後は川内と鎮守府を潰すだけだ」


口を開いたのは白い軍服の若い男だ、骸骨はそれに対し薄笑いで返す


「はたして川内が残っていれば…の話ですが…」


「残っているさ、というか残るしかないだろう?何しろ可愛い妹が二人もこちらにいるんだからな」


「美しい姉妹愛、いいですなぁ」


美しい…と再度呟く骸骨に同調するように白軍服は頷いた


「ああ、それに彼女は艦娘を辞められないからな」


「辞められない?どうしてです?」


「アイツは昔、上司に向かって銃を向けたんだ」


「おや、穏やかな話では無いですね」


「そうだろう?艦娘を辞めたらその時点で刑務所行きさ」


「辞めようが無いですな、そしてこの海に未練もあると…」


「きっと何かしらの形で残るだろう、そこを戦死させてあげればよい…もしくは」


「艦娘の未来のために、彼女にも深海棲艦になって大暴れして貰うか…ですな」


「ああ…どちらにせよ、艦娘にとっていい話だ」


「これで艦娘という、平和とはかけ離れた可哀そうな存在を排除する動きが活発になりますね」


「そうだな、そしてこれは国の平和の為にも必要なことだ…」


「そう思うだろう?」


白軍服は、柵の奥に横たわる人影に向かって呼びかけた


「なあ、神通」


「………」


返事はない


「どうした?もう口が聞けなくなったのか?」


再度、挑発するように呼び掛ける…が…


その言葉に対する返答も無い


「どうやら意識が無くなっているようですな」


骸骨が口を開いた


その口調はどこか楽しんでいる風にも聞こえた


すると、白軍服は少し驚いた様な表情を見せた


「もう移行するという事か、随分と早いな」


「ええ、予定より三日ほど早いですな」


「ほう?どういう事だ?」


「さあ、分かりませんが…ちょうど来たようですよ」


そう言うと骸骨は通路の奥を見やった


奥からピンクの髪の艦娘、明石がこちらに向かって歩いて来ていた


それを白軍服は目ざとく見つけると歩いてきた明石の正面に歩みを進めた


「おい明石、お前の研究データは狂っているんじゃないか?」


白軍服の挑発的な言動に、明石の言葉にいら立ちが籠る


「あれだけ投与すれば周期が早まってもおかしくないです!何しろ確実な研究データがありませんから!」


そして、明石は白軍服を睨みつけた


「何故、あの投与方法を採用したのですか?通常の投与方法では駄目だったのですか?」


「確実に薬を注入するには最善だ、俺の判断は間違ってはいない」


「最善なわけないでしょう!死ぬリスクだってあったのに!」


明石の怒りが爆発したようだ


その怒声が、狭く暗い空間を反響する


だが、白軍服がそれに動じることは無かった


冷めた目つきで明石を見るだけ


それに対し、怒り心頭の様子で白軍服を睨みつける明石


そんな一触即発な状況に、骸骨が突然口をはさんだ


「さて、この後どうします?まあ、予定に変更はないのでしょうがね…」


無理矢理話題が変更され、場の空気が少し軽くなる


明石はフイ と顔を背け、カツンカツンと足音をたてながら闇の奥へと消えた


白軍服はそれを気にすることなく骸骨の方を向いた


「いや、鎮守府を少し早く潰すことが出来るからな、少し計画を早めよう」


「あそこには、どうしても消さないといけないものがあるからな」


~~~


あれから数週間が経過した


神通に関する情報が得られる事も無く、遂に別れの時が来てしまった


小規模であったが、確かに一緒に戦い抜いた艦娘達の所属が変更され


自分の知らない、見ず知らずの提督の鎮守府へと籍を移すのだ


…当然だが、全員の所属が一致する事は無い


確かに、所属が同じになる者も居るが、それも少数


もう会えないかと思うと、今まで言えなかった日頃の感謝を伝たくなる


それは人の心理だ


目の前の少女もそうなのだろう


もっとも…彼女の場合は伝える相手が居ないのだが……


「もし、神通さんが見つかったら、今まで本当に有難うございました…と…」


そう言うと島風は川内にペコリと頭を下げた


本来なら、川内でなく神通に伝えたかった言葉だろう


だが、その願いは叶わない


「本当に、神通さんにはお世話になりました……だから……」


だから…の後に続く言葉は、一体何なのか…


その言葉を紡ごうとするも、せり上がってくる何かが邪魔して言葉が出ない


自分の認めてはいけない事実を受け入れてしまうような気がして


自分の心が壊れてしまいそうな気がして


その表情は今にも泣き出しそうな表情


川内はそんな島風を、明るい口調で慰めた


「神通は殺されても死なないタイプだから大丈夫!」


そして、彼女はくしゃりと笑った


曇り一つ無い笑顔


まるで太陽のように、見る者全ての心を温めるような笑顔


その言葉に、笑顔に、多少は救われたのだろうか


島風は、ふと笑った


「皆様にもお世話になりました、それと、提督にも沢山お世話になりました…」


「…皆さんの分まで頑張ります」


そして、再度川内にお辞儀をすると今度は明石の方へと向かった


きっと同じようにお礼を言うのだろう…


すると、今度は明るい声が飛んできた


「川内さん、お世話になりました!」


いつの間にか江風が海風と一緒に川内の目の前に立っていた


そんな江風に対し、川内も今まで通り返す


「私も江風と一緒に戦う事が出来て楽しかったよ!海風を困らせないようにね!」


~~~


その後も、艦娘同士の挨拶は続いた


互いの健闘を祈る声、


互いの別れを惜しむ声、


亡き者を悼む声


その声は様々で


その声は、疎外感を生み出していった


死んだ者は、その場に混ざることすらも許されない


別れの言葉すら言う事が出来ない


その事実が提督の胸をチクリチクリと刺していった


―しょうがない-


―死者なのだから-


言ってしまえばそうなのだが


無理なものは無理だ


疎外感を振り払うように、提督は床に体を伏せて目を瞑った


周りの声が聞こえないように


更に耳も前足で塞いだ


その行為から、何かが生まれる事は絶対無いのに……



                      [第十二章:最期の出撃]



「何事も無く、終わったな」


現在の時刻は16時と言った所か


移籍組はとっくに鎮守府を出発し、鎮守府はもぬけの殻と化していた


残った者も、特にやる事も見つからず


川内は海が見たいと言い出し砂浜へ、瑞鶴はそれについて行った


俺も二人についていけば良かったのだが、何故か行く気になれず、現在は倉庫で明石が資材を確認しているのをぼんやりと眺めている


「燃料よし、弾薬よし、鋼鉄よし、ボーキサイトよし、全部よし!」


…と、どうやら資材の確認は終わったらしい、明石は右手に持った紙の束を棚の上に乗せた


「提督は」


「ん?」


「……提督は……いったい何を考えているのです?」


今現在の話だろうか…?


「………ここを砲撃されたら俺たちは確実に死ぬなって思っていた……」


「確かに…二人まとめて死にますね…」


「そうだな」


…コイツ…


「……なあ明石」


「はい?」


「神通と、那珂は、生きていると思うか?」


「はい、生きていると信じていますよ」


「そうか…」


それじゃあ…、と口を開きかけた瞬間だった


「軽巡棲鬼、軽巡棲姫、共に鎮守府近海に出現!!」


瑞鶴の焦った声が鎮守府全域に響き渡った


「このタイミングで…か…」


明石の方を見ると、特段焦った様子も無く出撃準備を行っていた


「なあ、明石」


「なんですか?」


明石は目線を自身の艤装に向けたままだ


「使わない艤装は無いか?」


「ありますよ?」


「俺が使ってもいいか?」


大丈夫ですよ


と明石は何でも無いかのように答えた


~~~


「銃口を向けられた瞬間か、撃たれたと分かった瞬間からなら発砲できます」


淡々とした明石の説明に川内は「はいよ」と短く答えた


「分かっているとは思いますが、本来出撃することはおろか、武器の所持も禁じられています」


「これ以上罪を重ねない様に正当な理由を見つけて発砲しなきゃって事でしょ?」


そう答えると、律儀な明石は安心したように頷いた


しかし、それとは対照的に瑞鶴は呆れたような顔を見せた


「発砲すること前提かよ…」


夜の海に、明石、瑞鶴と並んで波間を滑る


この感覚が何とも懐かしい


昔はよくこうやって出撃したものだ


そして、無事に帰ってきた時には、互いに無事であった事を、ささやかではあるが、喜びあった…


もし、今が緊迫した状態でなければしみじみと過去を懐かしむことが出来たのだろうか


「何笑ってるのよ」


後ろから投げられた瑞鶴の怪訝そうな声に、川内は思わず口元を抑えた


「あっ…ちょっとね…」


「気を抜かないで下さい、軽巡棲鬼、軽巡棲姫、共に近くにいますから」


「うん、分かってる」


再び気を張る…


が…、 その気持ちとは裏腹に、海はただただ静かであった


深海棲艦特有の肌に吸い付くような殺気が微塵も感じられない


「しかし…」


今度は瑞鶴だ


「提督さん、この後どうするんだろ」


「提督?」


今度は明石が怪訝そうな顔を見せた


川内は瑞鶴をジロリと睨みつける


“それは言ってはいけない”


とでも言うように…


「ゴメン!何でもない!」


川内の視線に気づき、瑞鶴は慌てて否定した


最早この嘘は必要の無い嘘だが、敵との戦闘が控えている中、明石を混乱させるわけにはいかない


余計な事を言って、無駄な情報を増やしてはいけないのだ


「瑞鶴ったら寝ぼけてんの?」


からかうような口調で、川内は珍しく瑞鶴を“イジった”


そのおかげで明石の違和感も消えたらしい


「…まあいいでしょう、兎に角今は気を抜いてはいけません、敵はすぐ近くにいます」


「しかし…初弾を上手く…ねぇ…」


その瞬間だった、明石が突然叫び声をあげた


「敵部隊発見、駆逐ホ級一体 ハ級一体 ロ級二体!!」


「「了解!」」


瞬間、三人を覆う空気が一変した


明石と瑞鶴の砲塔には砲弾が装填され、同時に弾薬の残数を確認


いわゆる、刀に柄を握った状態


対し、川内は引き金に指をかけ、狙いを定めていた


いわゆる刀を抜き身で構えた状態


狙いが定まった瞬間に砲撃を開始するだろう


「川内」


直ぐに気が付いた明石がそれを抑えようとする、が…


川内はそれを止めようとはしない


「私は法律とか考えない人間だから」


臓物が冷える程、冷たい声だった


「考えないって…」


親友の豹変ぶりに、瑞鶴は少し戸惑いを見せる


…が、その様子を意に介す様子も無く、川内の口からは矢継ぎ早に口から言葉が放たれる


「戦争に法律は無いけど、ルールはある」


まるで口が自分の意思で動いているみたいだった


意識は敵に向かい、口以外の機能全てが敵を射殺さんと働いている


そう、瑞鶴は感じた


「勝てば官軍…つまりどんな手を使ってでも勝て」


「死んだら何も残らない」


「………」


沈黙


重苦しい空気と、緊張に押しつぶされそうになる感覚を覚えた


波の音と、スクリューが水を切る音だけが耳につき、それが一定のリズムを刻む


動くことすら出来ない状態で、額を一筋の汗がつぅと垂れた…


「敵影消失」


その言葉と同時に川内の殺気が消えた


「逃げたって事?」


空気が少し軽くなるのを感じながら、瑞鶴はふと湧いた疑問を口にした


「分からない……でも」


川内はスン、と鼻を鳴らしながら答えた


「“何か”にやられたのかも」


「何かって…」


「もしかしたら…だけど、明石が発見した時点でアイツらは轟沈寸前だった」


「誰かに攻撃され、撃沈したという事ですね」


その誰か、と言うのが問題なんだけど…


川内は小さく呟いたが、風によってかき消された


「深海棲艦と対等に戦えるのって……」


「深海棲艦以外に何があるのよ」


深海棲艦が深海棲艦を殺す…


何度も彼らと対峙してきた彼女達からすると、色々な側面でありえない話だ


少なくとも彼らは統率が取れているし


縄張りがある、というわけでも無い


ただ単に、人型のモノを殺す


そういったことに長けている機械


そんな印象だ


だから、だからこそ、互いに殺しあう事はあり得ない


そこまでの知能は無い


「あり得ないけど…でも、可能性が無いわけじゃない…ですね」


深海棲艦を倒しうるものは、深海棲艦と同等か、それ以上の戦闘能力を持つモノ


艦娘か、深海棲艦しかいない


「艦娘であって欲しいよね」


そう言うと川内は黒い端末を取り出した


~~~


荒い息をつきながら提督はその場に座り込んだ


辺りは固い岩場


目の前には月の光に照らされた海がキラキラと広がっている


天候は晴れ、夜という事もあって風は沖に向かって吹く


辺りに人目が無い事を確認し、提督は背中に括り付けた艤装をガシャリと下ろした


流石戦艦用とあって、その重さはかなりのものだ

事前に弾薬やコンクリート、計算機器等を運ぶために何往復もしたとあって、かなりの疲労が生まれていた


だが、ゆっくり休んではいられない


直ぐに地面に固定しなければ武器として使う事は出来ないのだ


提督は「ふう」と息を吐きながら重い腰をあげた


するとその時だ、耳に括り付けた無線から聞き覚えのある声が流れてきた


「提督」


川内の声だ


「どうした、何かあったか」


「現時点で、深海棲艦が出現したかどうか調べて」


「…えっ?」


「もし発見されていたら発見時刻を教えて」


「あ、ああ了解、少し待っててくれ」


慌てて横に置いてあるカバンからノートPCを取り出し


深海棲艦対策本部のページを開く


しかし、そこには緊急速報のページや、警戒情報のページすらなく


最近行われた記念式典の様子や、活動内容の様子が大まかに書かれたリンクが貼ってあるだけだった


~~~


「おう、出てないそうだ」


「了解」


提督からの知らせを受け、川内はしかめっ面をした


もはや発見すらされていないのだ


「仕方ない、撤退しよう」


そう言うと川内は方向転換した


「「はあ!?」」


その行動に、二人は素っ頓狂な声をあげ川内の後を追うように方向転換を開始した


「なんで!?なんで突然撤退!?」


「深海棲艦が発見されていないらしいから別の鎮守府からの援護は受けられない、だから撤退」


「理由になってない!」


「仮に敵と遭遇したって、私たちの練度なら耐久戦に持ち込んだ時点で勝ちって思っていたんだけど!」


「耐久戦の時点で勝てっこ無い!」


「そうじゃ無くて監視の目がザルって事!これじゃあ敵に遭遇したって事すら知られない!緊急出動してもらえないって事!」


「あ…そうか」


「ところでさ!」


「何!」


「前方に小型船らしきものがあるんだけど!」


「はあ!?」


そもそも安全が確保されていない海に船が出ている事自体おかしな話なのに


それが小型船という時点でかなりの自殺行為だ


しかも深海棲艦が出現したと思われる海


「それはマズイです!この辺りは危険だから早く知らせないと!」


三人は進路を小型船へと切り替え、速度を上げた


小型船の影は次第に大きくなる


やがて、それがクルーザーであると視認出来る距離にまで近づくと、それと同時に白い人影が船上現れた


月夜に照らされた甲板には男が立っていた


それも、


「提督…?」


この前まで、自分の司令官だった男だ


「久しぶりだな川内、元気だったか?」


そう言うと男は懐に手を入れた


脳が混乱する


「提督…何で?」


そこから先、言葉が出ない


「どうした?」


男はにこやかな笑みを浮かべた


「久しぶりだな」


だが、その言葉に返すための言葉が川内には見当たらなかった


代わりに、後方から声が生じた


「何で二人もいるのよ」


すると、男は訝しげに目を細めた


「……あ?」


その声に、川内ははっと我に返る


「……偽物!」


そう叫ぶと、川内は手の甲にある銃口を眼前の男に突き付けた


…と同時にパンッ…と甲高い音が響き渡った


「川内…!」


後方から瑞鶴の悲鳴にも似た叫び声が耳元に届く


何だろうと思い、自身の右のわき腹辺りを触るとぬちょりとした触感


手を見ると黒い何かが手にへばりついていた


血だ


そう認識した瞬間、思い出したかのように鈍痛が走った


燃えるような痛み


その痛みは徐々に徐々に右測部から広がっていく


状況からして背後から撃たれたのだろう


後ろを振り仰ぐと、明石の顔が青白く浮いて見えた


その手には黒い獲物


「まさか……味方から撃たれるとはね……」


川内は苦しそうに呻いた


わき腹からは、黒っぽい液体がだらりと垂れる


「明石あんた!!」


瑞鶴の三連装副砲が明石に狙いを定めた


しかし、それと同時に明石の獲物が瑞鶴にピタリと向けられた


「………」


「………」



膠着状態だ


どちらもピクリとも動かず静かに相手を見据える


「……私は…貴方達みたいに目先の事しか考えられない様なタイプじゃない」


ポツリと明石は呟いた


「…それは…」


その言葉の続きは、叫び声に遮られた


「撤退!」


その声と同時に激しい轟音が響き、瑞鶴と明石の間に大きな水柱がたった


動いたのは川内


そのまま瑞鶴の手を掴むと岸の方向へと速度ベクトルを上げた



続く!


後書き

読みにくくて
ごめんなさい

ドリメタさんのss読んでたらなんとなく思い浮かんだネタを書いてみました('ω')
こちらも出来るだけ頑張って更新していく予定です( ̄ー ̄)
誤字脱字等ありましたら指摘していただけると嬉しいです
展開遅くてごめんなさい!!
更新遅くてごめんなさい!!
書くのって難しいなー(ノД`)・゜・。
毎回伊10さんには助けられています(;一_一)


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1: SS好きの名無しさん 2016-07-19 22:15:02 ID: A2kdwTph

神通メインかな?
楽しみ

2: たぬポン 2016-07-19 22:28:50 ID: UDgNw9Rx

コメントありがとうございます
楽しみと言っていただき嬉しいです(*^_^*)
ちょっとこれから忙しくなり、更新出来ない日も出て来るかもしれませんが
それでも頑張って更新していく予定ですので宜しくです!('ω')ノ
ちなみに神通メインですよ

3: AQ 2016-07-20 15:57:51 ID: O77cR_iK

かの有名なたぬポンさんじゃないですか!
更新楽しみに待ってるんで忙しさに負けず無理じゃない程度に頑張って下さい!

4: たぬポン 2016-07-20 16:26:31 ID: CKEOx-wr

うおぉぉ!AQさんじゃないですか!
お久しぶりです!(>_<)
そしてありがとうございます!(≧∀≦)
そうですね…今回は無理じゃない程度に頑張るんでよろしくお願いいたしますm(_ _)m

5: SS好きの名無しさん 2016-07-22 22:34:32 ID: gBlTOHfo

島風...
いいヤツだった...

6: たぬポン 2016-07-22 23:03:47 ID: tK6rZBkN

コメントありがとうございます

そうですね…かわいそうですが…

何事にも犠牲はつきものですね(すっとぼけ

7: SS好きの名無しさん 2016-07-25 17:40:05 ID: ZaHYngrv

続きが凄い気になる...
この提督に一体何があったんだろう?
「神通の秘密」って何なのかまだ分からないしなぁ...

とにかく、続きを全裸待機です!!

8: たぬポン 2016-07-25 23:24:15 ID: lgh1YhKA

コメントありがとうございます!!

続きが気になるって言ってもらえて嬉しいです!!

提督は……まあ色々あるんですよ
次回から次々回辺りで明らかにしますよ
神通の秘密ってのも……まあいろいr(略

なにがともあれ、なるべく服を着た状態で待機オナシャス!!

9: 伊10 2016-08-04 03:16:59 ID: W_ZKzT3o

お節介かもしれませんが、誤字がひとつ...
冒頭の「時計を見ると単針の方が」の部分ですが、
「単針」→「短針」と置換しないとイケナイですね。

あと一言余計に付け加えれば、
「時計を見ると」で一度読点を付けることで文を区切り、代名詞「その」を先行して挿入して、
「時計を見ると、その短針は6時を〜」
という文にしたら、提督が時計を見ているというシーンをさらに強調出来ると思います!
...あくまで参考にしていただければ幸いです。

10: たぬポン 2016-08-04 09:20:11 ID: KoH0-aH2

伊10さんコメントありがとうございます

変換ミスのご指摘ありがとうございます
次回の更新時に直させていただきます(^-^)

それとアドバイスありがとうございます!!
代名詞と句読点を用いることで強調できるのですね!!
近いうちに文章の手直しをしたいと思います!!

本当にありがとうございました
また、何かあったら指摘していただけると、とても嬉しいです

11: 伊10 2016-08-04 15:19:21 ID: 8aLG98Sb

>>たぬポンさん

滅相もないですw
自分の癖なのか分かりませんが誤字脱字をまず探すなんていうよく分かんない性分がお役に立ったようで何よりです:( ;´꒳`;):

と、またその変な癖が発揮されてしまったのでもう一つ・・・

一番最後(8月5日時点)の
「と突然けたたましい警報音が鳴り響いた」
という一文なのですが、その前文の「川内が引き金を引く」シーンと、「警報が鳴る」シーンは別の出来事ですよね?(もし違っていたら取り消します・・・)
この2文を別の文として、且つリンク付けするには「と」と「突然」の間を読点で区切り、「と」の側の文を修飾する為の「同時に」という言葉を盛り込んだら文章にワクワクドキドキといったリアリティ感が増すと思いますよ!!

12: たぬポン 2016-08-04 16:44:21 ID: KoH0-aH2

あぁぁぁ!!伊10さんコメント&評価ありがとうございます!!

そして、ご指摘ありがとうございます!!
確かに「引き金を引くシーン」と「警報が鳴るシーン」別の出来事ですね
なので伊10さんの意見をそのまま参考にさせて頂きます(;・∀・)

貴重なアドバイス、本当に有難うございます…

13: 伊10 2016-08-08 10:01:11 ID: OLzf3eOw

ドーモ、たぬポン=サン。

8月5日更新分の最後の文章、川内の台詞なのですが、「攻めいらせる」という1文に違和感を感じました。

川内の願望を深海棲艦による鎮守府侵攻までの時間を遅めたい、という風に設定していたならば、「攻めいらせる」という文は「攻め入られる」に置換した方が良いですよd( ̄  ̄)

14: たぬポン 2016-08-08 12:05:38 ID: A582AKtq

伊10さんコメントありがとうございます!!

確かに「攻めいらせる」では良くないですね(;・∀・)

これは更新時に修正させていただきます(^-^)

いつもいつも…本当にありがとうございます…(ノД`)・゜・。

15: グッドフェロー 2016-08-12 03:53:12 ID: tnzuQZ4_

どうも、たぬポンさん
一言言わせて頂くと......自分より遥かにSSの構成が上手や......
序盤の文とかよりシリアス感出てますやん...自分そういうの出来ないというか、後々からシリアスを軸にしていたSSとかもう殆どコメディになりますし......
本当に社交辞令でも無く、本当に上手いです......(悔しい...)

16: たぬポン 2016-08-12 11:58:48 ID: U_m4Gz_z

グッドフェローさんコメントありがとうございます!!

実はこのss最初はこんな話では無かったというか…最初はもうちょっとコメディよりで考えていたのが最終的にこんな感じになっていったというか…

ぶっちゃけ偶然のなんですよね…(;´∀`)

でも、とても嬉しいです!!これからもお互い頑張りましょう!!

17: 伊10 2016-08-13 04:00:50 ID: Oki80ctj

校正の時間です、たぬポン=サン。
最新更新分の最後の辺り、
「電波を資源を」→「異常電波を理由に電波」

あともう一つ、気になった点が・・・
「そもそも、電波を~出来るわけがないのだ」
この文なのですが、「ましてや」という単語のせいで艦娘は人間より力量的に下に見られていると思わせられてしまいます。
オススメの表現方法としては、
「そもそも人間には電波を肉眼で感知する能力など無いし、これは艦娘にも同様のことが言えるのだ。」
ご一考のほどを。

18: 伊10 2016-08-13 04:16:51 ID: Oki80ctj

校正した文も間違ってるし・・・
「電波を資源を」→「異常電波を理由に資源を」

19: たぬポン 2016-08-13 08:23:00 ID: xZAfvqz2

ああぁぁ…伊10さんありがとうございます!!!
確かにそうですよね…電波を資源を…というのはおかしいですね…
伊10さんの案を採用させていただきます(>_<)
ましてや…に関してもそうですよね…
こちらも伊10さんの案を採用させていただきます(^^)
いつも本当にありがとうございます(>_<)
ご迷惑でなければ引き続き間違い等々指摘していただけると嬉しいです!!(土下座)

20: 伊10 2016-08-13 09:38:01 ID: Oki80ctj

いえ、「ましてや」という文に関しては自分も勉強になった面もありますし、他人の文章を見て自分にとって感ずる所を散策するという行為も一興だと考えている人間ですので迷惑だとかは全く思ってないですよwむしろこっちが余計な厄介を掛けてるのかなと心配になってしまうくらいです・・・w

てか先ほどの校正なのですが、「異常電波を理由に資源を投げ捨てる理由には~」という文もよっぽどおかしいですねw
「異常電波を理由に資源を投げ捨てることは、並大抵の人間ならしないだろう」だと違和感は無くなると思います!
「電波を資源を投げ捨てる理由には」の「理由には」を完璧に見失ってました、申し訳ないw

21: たぬポン 2016-08-13 21:59:39 ID: 7Ea2195O

伊10さんコメントありがとうございます!!

確かに読み返してみると変かもしれませんでしたね(笑)

更新時に前後の文との関わりを見て、伊10さんの意見を参考にしつつ文章を直していきたいと思います(^-^)

ありがとうございます!

22: 伊10 2016-08-22 17:33:26 ID: UFGyoRYV

誤字を見つけた(顔をほころばせながら)

深海棲艦と神通が邂逅するシーンで、神通の思惑に嵌った深海棲艦達がガレキに足をとられてすっ転ぶシーンがあるじゃないですか?
その一文の「戦艦タ級、戦艦ル級の全員が」が「戦艦タ級、戦艦ル"の"級全員が」という感じで誤字をおこしていますよ!

23: たぬポン 2016-08-22 22:54:02 ID: 4MGEJ4vn

伊10さんコメントありがとうございます!!(喜びの舞を舞いながら)

確かにルの級になっちゃってますね!!
これは恥ずかしい…///

更新ついでに修正させていただきます

ご指摘ありがとうございました!!('ω')ノ

24: Ahogarasu 2016-09-17 01:45:29 ID: BQ6-p1zh

同じくss書いてる身として凄く参考になります。頑張ってください!

25: たぬポン 2016-09-17 13:21:54 ID: KUsLusRS

Ahogarasuさんコメントありがとうございます!!

読んでいただきとても嬉しいです(*^_^*)

お互い頑張りましょう!!

26: 伊10 2016-09-23 07:37:15 ID: ox-wz8rQ

た、「畳」が... 「畳み」に... うっ

_人人人人人人人人人人人_
>0~( 、' 3っ   )っ<
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

27: たぬポン 2016-09-23 23:35:30 ID: rQZvPGhQ

ありゃ!?こりゃいかんのう!!

たたみみになっちょるじゃないか!!

これは早急に直さねばならんのう…

とにかくありがとうございまする_(:3」∠)_

28: グッドフェロー 2016-11-14 00:33:04 ID: 99dcuw90

たぬポンさん、少し違和感を感じた所、ありました。
現在一番後半の”知ってはいるが知っている訳ではない,,
これ、そのまま読むとただ単に矛盾している一文になっているので、
”知ってはいるが【良く】知っている訳ではない,,などに変えた方が良いかも知れません。

29: たぬポン 2016-11-14 08:11:56 ID: yyByVfMr

グッドフェローさんご指摘ありがとうございます!!
確かに文章が矛盾していますね( >_<)
後で直させていただきます( ^-^)
本当にありがとうございます!

30: たぬポン 2016-11-14 08:13:15 ID: yyByVfMr

あっ!!
オススメありがとうございますグッドフェローさん!!
とても励みになります!!

31: 伊10 2016-12-02 09:59:49 ID: N5cKi-3t

どうも、お久しぶり=デス。

最新更新分の川内と提督とのやり取りに二つの違和感を感じたんで失礼します!

①川内のセリフ「記憶が全てリセットする」→「記憶を全てリセットする」

②川内?のナレーション「無理矢理しなければ〜」→「無理矢理にでもしなければ〜」

②の方はまあ、参考程度に読み取ってほしいです。

そう言えばなんですけど、章タイトルのアレって仕様です? なんか[ #1 序章:xxx ]だけ確認できたんですけど、それ以降は見つからなかったんで気になりました。

32: たぬポン 2016-12-02 10:11:28 ID: dFhI06so

伊10さんコメントありがとうございます(>_<)

違和感に関しては伊10さんの仰ったとおりだと思います(>_<)

後で直させていただきます(>_<)

章に関しては次回更新時に割り振らせていただきます
ご指摘ありがとうございます(>_<)ゞ

33: グッドフェロー 2016-12-02 18:05:20 ID: etiPlzc2

ども!たぬポンさん!
またあったのですが......よろしいですかな!?かな!?
最後ら辺に「提督は首を傾げながら、おそるおそる答えた」
という部分が有りますけど......。
どうにも自分には提督が”恐がっている描写,,が見つけられないので、
少し変かもしれません。


34: グッドフェロー 2016-12-02 18:12:30 ID: etiPlzc2

訂正としては「提督は首を傾げながら、”その問いに対し、訝しげに,,答えた」
など少し不審がる様な言葉がいいかも知れません。
ちなみに......此れはついでですけど、「首を傾げながら」の所は、
「提督は首を傾げ、」と変えた方が良いと思います。傾げながら言葉を発するのは、何が変な気がするので......。



......たぬポンさん、時間が空いていたら何ですが...
自分にも誤字や訂正すべきところがあったら、コメントよろしくお願いします。
もしあったら、今までたぬポンさんに言っていたのが、
”自分にはそんな資格無いやん!,,と分かって、発狂してしまいそうなので...
あっ、でも指摘されたらされたで発狂しそう......


35: たぬポン 2016-12-02 20:17:14 ID: v8xYPWx8

グッドフェローさんコメントありがとうございます!!(>_<)
確かに違和感がありますね(-ω-;)
訂正させて頂きます( ^-^)
それと訂正の件、了解致しました(>_<)ゞ
グッドフェローさんが発狂するように目を皿にしてしっかり探させて頂きます(人のことを言う資格無し)

36: SS好きの名無しさん 2019-01-25 13:54:06 ID: S:AiT7pS

この作品もう続き更新しないですよね?


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1: SS好きの名無しさん 2016-09-01 20:22:16 ID: uPHpLS1N

地の文下手くそすぎだろ

2: グッドフェロー 2016-11-14 00:28:26 ID: 99dcuw90

とても面白い展開になってきている.........!
たぬポンさん、頑張って......!


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