2017-01-15 00:27:15 更新

前書き

とある高校に通う上条当麻は風紀委員になって4年目
117支部の中堅の委員として活躍していた。
そこに新人委員である白井黒子、初春飾利、絹旗最愛の3人が新たに117支部に加わる。
そんな3人の教育係兼班長を任された上条当麻は、嫌々ながら、学園都市のためと一念発起するのだが


ーー風紀委員177支部ーー


上条「えぇーっ、という訳で、みなさんこんにちは! 休日にも関わらずお集まりいただきありがとうございます! 俺の名前は上条当麻といいます! 風紀委員になって4年目の高校一年生です! 今日から皆さんの教育係をすることになりました! どうぞ、よろしくね!」ニコニコ


「……」


上条「え、えー、皆さん入ったばかりで分からないことも多いと思いますが! 遠慮無く質問していいし! 困ったことがあったらいつでも相談してくれて構いませんので! みんな、頑張っていこうね!?」ニコニコ


「……」


上条「みんな、緊張してるのかな? そんなに気を張らなくても大丈夫だからね? ここにいる先輩方はみーんな優しい人たちだから! もっとこう力抜いて大丈夫ですよ! はいっ!」ニコニコ


「……」


上条「は……ははっ」


上条(ああ、気まずいよ! そりゃこんな空気になるでしょう!? この子たちは緊張してるし、俺は変にテンパってるし! ていうか、こういう時どういう話していいかなんて知らねぇよ!?)


上条(そもそも何で俺が教育係なんだよ!? 俺、3年生じゃないよ!? 仕事を覚えて『よぉーし、頑張るぞーっ!』て、一番やる気があって脂がのってる時期だよ!? ねぇ固法先輩!?)


固法「…!」プルプル


上条(笑ってんじゃねぇよ!? 元々、固法先輩の担当だからね!? 俺はむりくり押し付けられたんですからね!?)


上条「そ、それじゃー、みなさん! 何か質問はありますかーっ!?」


上条(本来、教育係ってのは引退前の高校3年生の仕事だ。2年生に主な仕事を託した3年生は、司令や巡回に回って、尚かつ新入生に長年の経験を活かしてワンツーマンで指導するのだ)


上条(だから本来は固法先輩含めた3年生達や、警備員の仕事であり、そもそも1年生が一人で何人も相手にするもんじゃ……、うーん納得いかない!!)


??「あのー、一つ質問をよろしいでしょうか?」


上条「ええ、どうぞ……えぇーっと」


??黒子「私、白井黒子と申しますの。よろしくお願いいたします」


上条「ごめんね、まだ名前覚えきれてなくて。それで質問は何かな?」


黒子「本来教育係は高校3年生の仕事だと伺ったのですが……何故、3年生ではなく4年目の上条先輩が指導係なんですの?」


上条(痛いとこつくなーっ! 俺が一番聞きたいよ!! 俺が一番不思議に思ってるよ!!)


上条「……固法先輩?」


固法「……」


上条(えっ? こっちにふんの? って顔は良くないよ!)


固法「えぇっと……3年目全員で話しあった結果ね、上条……上条君が一番適任じゃないかって話になったのよ。それで上条君が教育係に決まったの」


上条(他の先輩方、本当ですか?)


先輩(……)スッ


上条(目を逸しやがった!? あれだな!? こいつら面倒だからって俺に押し付けやがったな!?)


黒子「そうでしたの……それなら構いませんわ」


上条「えぇ、そういうことらしいので! よろしくお願いします!」


上条「それじゃ、他に質問ある人いるかな?」


??「はい」


上条「それじゃあそこの花飾りつけた君」


??初春「私、初春飾利っていいます。よろしくお願いします」


初春「えぇーっと、上条先輩はいつもそんな感じなんですか? すごい何と言うか……うるさいです」


上条「君、すっごいストレートに言うね? 俺はいいと思うよその姿勢。おかしいと思ったらおかしいと言える。その姿勢は素晴らしいです」


上条「いつもは……こんなうるさくはないと思います。ちょっと緊張しててテンパってるのでこんな感じになってしまっています。普段は、普通だと自負しているので……うーん、人並みです」


初春「わかりました。ありがとうございます」


初春「あ、それともうひとついいですか?」


上条「ええ、どうぞ」


初春「上条先輩は街の噂ですと……『女たらしの喧嘩っ早いボランティア精神あふれる、たらし喧嘩ボランティア野郎』ということなんですけど、その認識で大丈夫ですか?」


上条「良くないね!! 全然大丈夫じゃないよ!? 待ってその噂どこから流れたのかな? 場合によっちゃあ俺も怒るよ? ありもしない噂流されちゃたまんないからね!?」


黒子「……うわぁ」


上条「白井さん、ひかないで!? 事実無根だからね!? 最後にボランティアつけてフォローしてるつもりだろうけどフォローしきれてないからね!? あれを信じちゃいけないよ!?」


上条「ということで、初春さん、その噂は真っ赤な嘘です! その噂を流してる張本人を見つけたら私のところまでご同行してください! はい!」


初春「やっぱり上条先輩うるさいですね」


上条「ねぇ初春さん。自覚してる? 自分が原因だって自覚してるかな?」


初春「うわぁ……喧嘩っ早い」


上条「……質問は以上でいいかな?」


初春「ええ、ありがとうございました!」ニコッ


上条(あっさりだなー。おとなしい顔してすごいこと言うわこの子)


上条「それじゃあ最後に……そこのフードつけてる君、なにか質問あるかな?」


??「……特にないです」


上条「そ、それじゃあ名前だけでも教えてもらっていいかな?」


??絹旗「……絹旗最愛……です」


上条「絹旗さんね? これからよろしく!」


絹旗「……」


上条(うーーーん、気まずいっ!)


上条「えー、それじゃあ質問が無いようでしたら、皆さんの教育係である俺が何をするかっていう説明とかしたいんだけど、いいかな?」


「」コクッ


上条「それじゃあ説明をしますねー、具体的にいうと俺は皆さんの先生。のような感じだと思ってください! 俺と皆さんで班を組んで4人で行動する事が主になります。その班の中で担当を割って活動していくのですが、それは後々行っていきます」


上条「まずはローテーションを組んでそれぞれの仕事を体験してもらうので、最初の1ヶ月は色々な業務を体験して貰います」


上条「という、ことでよろしいですかね?」


黒子 スッ


上条「あ、白井さんどうされました?」


黒子「おさるさ……上条先輩が私達の先生。ということはわかったのですが、担当割というのは具体的にどうわかれるのですか?」


上条「今、お猿さんって言おうとしたよね? もしかして俺のことかな? ん?」


上条「担当割りについてはですね、簡単に分けると内業と外業になります。データ整理だったり情報の提供を、行ったりするのが内業。実際に外に出て活動するのが外業だと思ってくださいっ」


上条「それで作業時の連絡先や、服装なんかはこのあとのレクリエーションで教えていくので、10分後にまたここに集まってください!」


上条「後のことはおいおい教えていきますので……こんなもんでいいですか?」


「……」


上条「そ、それじゃあ早速今日から風紀委員として活動していただくので、みなさん本日からよろしくお願いしますね!!」


ーーー休憩室ーーー


上条「あぁーっ! 疲れたぁ! 無理ぃきついぃん!」


固法「お疲れ上条。ほら牛乳あげるわ」ホイッ


上条「お疲れじゃないっすよ……しかもなんで牛乳」


固法「美味しいからに決まってるでしょ。文句あるの?」パカッ


上条「いや、ないです」


固法「だったらいいわ」ゴクッ


上条 パカッ


上条 ゴクッ


上条・固法 プハァーッ


固法「どう? 結構すごい子たちでしょ」


上条「えぇ……けっこうクセが凄いですね」


固法「でしょー? だから正直私達の手に負えないと思ったのよねー」


上条「無責任な! なんて無責任な!」


固法「まぁまぁまぁ……上条を選んだのはしっかり理由があるのよ? もちろん上条なら嫌と言えないってのもあったんだけど」


上条「後半の理由だけじゃないんですか? 『お人好し野郎だから何でも言うこと聞くっしょw』みたいな」


固法「卑屈にならないの上条。まずあなた、あの子達がどれくらいの実力かってのは知ってる?」


上条「いやぁ、全く知らないですね」


固法「今年の新入生の中で、実力に関してはトップ3よ?」


上条「えっ!? そうなんですか!?」


固法「そうよ。白井さんは文武ともにぶっちぎりのトップで今年の主席、初春さんはプラグラミングに関しては文句無し。現役の子達でも勝てる子はいないと思うわ。絹旗さんは、白井さんとはまた違った意味ですごくてね、成績には現れないんだけど潜在能力が凄く高いわ。特に『ルール無し』の格闘なら桁違いよ」


上条「えぇ……。なんでそんな子たちがうちに来るんです?」


固法「それは私にもわからないわよ。上の方針としか言いようがないわ」


上条「そうなんでせうか」


固法「そうよ。それにさっき言った理由ってのも、上の方の意見なのよ」


上条「俺が教育係に選ばれた理由ですか?」


固法「そうそう。本当はね、面倒くさいけど私達がする予定だったんだけどね、通達があって上条にやらしてくれ。て話になってね」


上条「えぇ。なんて迷惑な」


固法「まぁねー。私も押し付けられたらそう思うわ」


固法「けど、ね? 任されたからにはしっかり育てないと、ここにいる間はずっと響くわよ?」


上条「響くといいますと?」


固法「そりゃあ、さっきも言った上位三名を適当に教えたりしてみなさい、上はカンカンなんてもんじゃ無いでしょうね。上条に対してとことん圧をかけてくるようになると思うわ」


固法「とりあえず……大学進学は、厳しくなると思ったほうがいいわ」


上条「元から目指してないんで大丈夫です」


固法「あなた、なんのために学園都市に来たのよ……」


固法「それは別としてあの子達はしっかり育てないとダメよ? 上条を育てるのと違うんだから責任重大よ?」


上条「ちょっと待て。今ど直球に、俺のことをコモン扱いしたよね?」


固法「だって、あなたは勝手に育ったじゃない。内業はからっきしだったけど」


上条「えぇ。まぁ頭が弱いのは認めますけど」


固法「だから、割とあなたは例外なのよねー……あれ? 教わったことのない人に人を教えられるの……?」


上条「ここに来て、そんな不安そうな顔しないでくださいよ!? さっきまでのノリノリ感はどこに行ったの!? ねぇ!?」


固法「それに……あれ? 上条の頭もあんまりよくない……!?」


上条「さっきそれ俺が言ったよね? 予防線張ったよね? 何? 追い打ちなの?」


固法「女たらし……!? あの子達が危ない……!?」


上条「固法先輩よぉ、それはちょいと聞き捨てならんぜ? えぇ?」


固法「ま、まぁとりあえず! 貴方に指導は一任してるから! ほら、そろそろ仕事の説明はじめごろだし」


上条「はじめごろってなに!? 食べ頃てきな使い方はしないよね!?」


固法「大丈夫! 私信じてるから! 流石に中学1年生には手を出さないって信じてるから!」


上条「ださねぇよ!? てか誰にも出したことないからね!?」


固法「いくら女たらしのクソ野郎でも分別はつくはずよね!?」


上条「ショックだなーっ! 凄くショックだなーっ!! 固法先輩、俺のことそんな風に見てたんだぁ!」


固法「大丈夫。きっと大丈夫。流石にこいつは獣じゃないわ」


上条「ねぇ、誰に言い聞かしてるの? ねぇ?」


固法「それじゃあ上条、任せたわよ!!」


上条「え? あぁっ、はいぃっ!?」







ーーー第6学区ーーー



上条(……という訳で任されてしまったわけだが)


上条(一人で三人の相手をするのは流石に無理があるわけで、内業の方は固法先輩にお願いしたわけだが……うーん、厳しい!)


上条(何を教えればいいのかとかわからないし。固法先輩から信頼されてないし。ていうかそんなに教えることがあるのか……!?)


上条(先ほどまで行っていたレクリエーションはこれまた中々疲れるものであった。俺の説明に対し、少しずつ毒づきだした白井さん。『バナナは連絡先に入りますか?』とかいう、もはや意味すらわからない質問をぶっこんできた初春さん。理解したのかしていないのかわからない絹旗さん。ああ、胃に穴が開きそうな時間だったぜ)


上条(そしてレクリエーションを終えたあと作業に入ったわけで、作業説明のために新入生3人を2組にわけた。分け方は至ってシンプルなじゃんけん。勝った人が外業に、負けた人が内業にという分け方でだった)


上条(そんで2組にわけた内の外業のメンツが)


初春「上条先輩?」


上条「ああ、ごめんね初春さん。ちょっと考え事してて」


初春「ああ、私達をほっといて考え事ですか。先輩って、いい御身分なんですね」


上条「やっぱ君すごいよ。そこまでいくと才能だよ?」


初春「ありがとうございます」ニコッ


上条(そう、よりによってこの子だ。最初手探りでどう教えようか考えていこうと思ったけど、そうしたら間違いなく俺のメンタルが持たないわけで……ああ、最初からクライマックスだぜ!)


上条(ほんで、初春さんが言った『私達』のもう一人のほうが)


絹旗「……」


上条(この子の訳で……まぁやりづらいよね?)


初春「それで、上条先輩。風紀委員とは普段どういう仕事をするんですか?」


上条「うーん、それは外業の仕事についてでいいのかな?」


初春「? ええ、それ以外に何があると?」


上条「そうですねすいません! 外業の説明をさせていただきます、はい!」


上条「外業はパトロール、つまり繁華街だったり学校周辺だったり色々なところを巡回するのが主になります! 生徒達の安全を守るのがお仕事ですはい!」


初春「なんでそんな必死なんですか?」


上条「それで、どうして俺らがパトロールをするのかは、わかる? 生徒達の安全を守るのは勿論なんだけどさ」


初春「スルーするんですねーっ」


初春「うーーーーん……わからないです」


上条「そんな怖い顔で睨まないでよ初春さん。君、大人しそうな顔して、なかなかすごい目するね」


上条「絹旗さん、わかる?」


絹旗「……パトカーと一緒ですか?」


上条「そう、鋭い! 絹旗さんほぼ正解!」


絹旗「……どうも」


初春「? どういうことですか?」


上条「学園都市の生徒からしてみれば、俺らは警察官。ここだったら『警備員』と変わらないんだ。悪いことをしたら捕まえられるっていう認識があるからな。実際にはそんな行動、滅多にしないんだけど」


上条「だから、俺たちが『風紀委員』として街を歩くだけである程度の犯罪抑止力が生まれるんだ。ほら、巡回中の警備員がいたら、少し背筋がピンとなるだろ?」


初春「それは上条先輩だけだと思いますよ? なんかやましいことがあるんですか?」


上条「無いとはいいきれないよごめんね!」


上条「それでつまり! 俺たちが街を歩くことが、少しだけど学園都市の平和に繋がるわけだ」


上条「他にも道に迷っている人の道案内をしたり、困っている人を助けたりとか、ボランティア活動だったり。緊急時の避難誘導や、情報伝達だったり、警備員の仕事の手助けも大事な仕事になってくるな」


初春「へぇ、いろいろあるんですね」


上条「あるぞー。細かいことをいったらきりがない。というか困っている人がいる限り色々な仕事があるんだけどな。それはやりながら覚えていくといいよ」


初春「なるほどぉ」


上条(なんだ。思ったより素直な子じゃないか)


初春「そうやって適当に教えるんですね」


上条「やっぱり捻くれてたわ。うん、わかってたよ、うん」


上条「絹旗さん、何か質問とかあるかな?」


絹旗「……無いです」


上条「そ、そうか」


上条(や、やりずらいなぁ)


絹旗「……あ」


上条「? どうしたの絹旗さん。急に立ち止まって」


絹旗「……いや、何でも無いです」


上条「いや、なんでも無いって……」


絹旗「……大丈夫です」


上条「そ、そうかぁ」


上条(さっき絹旗さんが観ていた方向には)チラッ


『アセロラミントモナカアイス〜チーズをふんだんに添えて〜』


上条(やけに名称の長いアイスを売っているお店があるわけで)


上条(あるよねーああいうの。こういう繁華街だと特に。なんか凄い好奇心をわかせる名前してるけど食べてみたらあれ? てなって。一ヶ月くらいでなくなるやつ。いや別にディスってはないからね? 俺はわりかしああいうの好きだからね?)


上条(そんで、なんでも無い。といった絹旗さんは)


絹旗 チラッチラッ


上条(……と、見ているわけで、まぁまぁそりゃあ年頃の女の子だからね? 惹かれちゃってもしかたないわな。アイスおいしいもん)


上条「……絹旗さん、アイス食べない?」


絹旗「え、ああ、いや超大丈夫です。別に食べたくなんかないです」


上条「そ、そうかー」


上条(とかいいつつも)


絹旗 ソワソワソワソワ


上条(それはそれはすごい勢いでソワソワしてるわけで……いや、まあ見過ごせないよね?)


上条「それじゃあ俺はちょっとアイス食べに行こうと思うんだけど、二人とも食べる? 今日は奢ってあげるよ」


初春「本当ですか!? 食べます食べます!!」キラキラ


絹旗「……」


絹旗「わ、私は」


初春「ほら、絹旗さん? 食べに行きましょう!!」キラキラ


絹旗「え、ああっはいっ」



ーーーアイスショップーーー



店員『いらっしゃいませ! マイクに向かってご注文をどうぞ!』


上条「ねぇ、なんでマイク越しなのかな? ここ世界的チェーン店のドライブスルーじゃないよね?」


店員『こんにちは! マイクに向かってこんにちは!』


上条「こ、こんにちは。とはならねぇよ? どこで仕入れた知識かは知らないけどスルーするために使うのは良くないと思うよ?」


店員『ドライブスルーだけに?』


上条「バニラ1つ、いちご1つ、それとアセロラミントモナカアイス、チーズをふんだんに添えてを1つ」


店員『スルーですねぇ。それじゃあ隣のレジの方におねがいします』


上条「これ、直接レジで注文すればよくないかな? ドライブスルーは無いけど、店内は某世界的チェーン店のマク○ナルドとほぼほぼ変わらないんだからさ? それにこっからマイクで喋ってる人見えてるしさ、ねぇ雲川先輩。なに、こんなとこでバイトしてるんですか?」


??雲川『ああ、どこかで聞いた声だと思ったら上条だったのか。別にどこでバイトをしよう私の勝手だと思うのだけど?』


上条「どこかで聞いた声って、あなた今俺の正面にいますよね? 距離的には取調室と変わらないし。何より注文の時からこちらを見据えてたよね?」


雲川『取調室はあの壁一枚でかなり遠い距離にいると思うのだけど』


上条「そうですけど、そうですけど! 物理的な意味では近いからセーフだよね?」


雲川『それとも私と上条の距離がそれくらい遠いという比喩なのかな?』


上条「ち、ちがうから! なんかそのツッコみづらいのは止めてください」


上条「てか、雲川先輩バイトする必要あるんですか? わりかし金銭的には有り余ってる記憶があるんですけど」


雲川『まぁそうなのだけど。ほら、社会勉強的な意味で少し働いてみようかと思って』


上条「あぁ、なるほど」


雲川『うん。ところでそこの二人は……ああ、遂に年下に手を出したのか上条』


上条「ちょっと何言ってるかわからないですねぇ。というか年上にも手を出した覚えはないんですけどねぇ」


雲川『ふーん……そうならいいのだけど』


雲川『(まぁ、どうせ上条の毒牙にやられるのだろうけど)』


雲川『ところで、そっちのパーカーの子は……ああ麦野さんのとこの子?』


上条「知り合い?」


絹旗「……えぇ、まあ」


雲川『この子が一緒に住んでる人なんだけど、麦野さんて言って凄く有名な学者がいるのだけど』


雲川『普段から少しだけ付き合いがあってね。仲良くさせて貰っているのだけど』


雲川『それにしてもあんなに小さかった子がこんなに大きくなっているとは』


絹旗「……」


雲川『ふふふっ。まぁ随分と大きくなって。なんだか嬉しくなるのだけど』


絹旗「……どうも」


雲川『ところで、土日に制服で歩いているということは……風紀委員の活動中?』


上条「はい、そうです」


雲川『ふーん……あれ? 活動中にこんなとこきていいの?』


上条「まぁ、この子たちが初日なのもありますけど、たまにはいいかなー。と」


雲川『ああ、なるほど。それでそれで』


雲川『それなら風紀維持に頑張っているあなた達のために奢ってあげてもいいのだけど?』


上条「ああ、それはありがたいです。お言葉に甘えさせて貰います」


雲川『ふふふ。それではレジの方で受け取ってほしいのだけど』


上条「ありがとうございます」


雲川『たまには先輩らしいところを見せてあげたいのだけど』フフン


上条「それは頼もしいです」


雲川『ふふふ、いつでも買いに来てほしいのだけど。しばらくはここで働くつもりだから、甘味が欲しくなったら是非待っているのだけど』


上条「またお邪魔します」


雲川『それは嬉しいのだけど』ニコッ


雲川『後ろの二人もいつでも食べにおいで? 私がいる時は奢ってあげるのだけど』


初春「あ、ありがとうございます!」


絹旗「……どうも」


雲川『ああ、ところで上条。今晩空いてる?』


上条「ええ、まあ空いてますけど」


雲川『それなら……な、どうだ? 私はいつでも待っているのだけど?』


上条「……考えておきます」


雲川『ふふ、期待しているのだけど』


雲川『それじゃあお仕事、頑張ってくれ。私も仕事に戻ろう』


上条「ええ」


上条「それじゃ二人とも自分のぶん持ってな? 少し休んで仕事に戻ろうか」


初春「はい!」


絹旗「……どうも」


雲川『いらっしゃいませ! マイクに向かってご注文をどうぞ!』



〜〜〜とある噴水前〜〜〜



上条「それじゃあいただこうかな」


初春「いただきます!」


絹旗「……ます」


上条(まぁ正直あんまり期待しちゃいないが)


上条「それじゃあ一口」パクッ


上条(口に入れた瞬間に花が開くように広がる濃厚な乳製品の香りと、舌の上を震わせるような甘く浸ったアイスクリームの味が俺の心を一瞬で奪う。こ、これは!)


上条・初春・絹旗「「「う、うまい!!」」」


上条「なにこれ!? めちゃくちゃうめぇじゃねぇか!? なんなの!? アホなの!?」


初春「生きていて……よかった」ツー


絹旗「」パクッパクパクッパクッ!!!!


上条(うまい、うますぎる! さっきまでさんざん言ってた自分を殴り飛ばしたいぐらいにうまい! なにこれ? アイス? アイスなの? こんなに美味しいアイスが存在していいの?)


上条「美味しいなこれ! ねぇ絹旗さん!」


絹旗「はいっ! 超美味しいです!」パクパクッ


絹旗「この全く違う味がからみ合っているところや、チーズの旨味が効いているところが超たまらないです!」


上条「そ、そうか! それならよかった」


上条(なんだ普通に喋れるじゃないか)


絹旗「……あ」


絹旗「……す、すいません変にはしゃいじゃって」


上条「いや、全然いいよ。ほらはしゃぎたいときにはしゃげるってのは凄くいいことだと思うしさ」


絹旗「……はい」


上条(うーん、やっぱり難しいなぁ)


初春「いやー、それにしても上条先輩のそれ美味しそうですねぇ。一口頂いてもいいですか?」


上条「あ、うん。全然いいけど」


初春「それじゃあ一口」パクッ


初春「あ、美味しいですね! スタンダードなのもたまらないですね!」


上条「そうでしょ? かなりいけるよな」


初春「へへーん」


初春「上条先輩、上条先輩。間接キスしちゃいましたね」


上条「そ、そうだな!」


初春「そんな年下相手に動揺してどうするんですか。お盛んなお猿さんなんですか?」


上条「自分で種を撒いておいて、途中でぶった切るのはヒドイと思うなぁ? やっぱり君すごいよ」


初春「まぁいいじゃないですかーっ!」ギュッ


上条「うおっ!? 腕を巻き付けてくるんじゃありません!?」


初春「ふふっ」ギュー


上条(何だ、この子小悪魔か?)


初春「」ニタァ


上条(ああ、ちげぇな悪魔だわ)


絹旗「」パクパクッ


上条(と、まあ何となくな。アイスを一緒に食べたことでね。この子たちとの距離が少しでも縮んでくれたならいいなぁ。とか思いつつ、この子らとわかりあうのは難しいかもしれないという思いだ)


初春「そういえば、上条先輩。さっきの女の人って誰ですか?」


上条「さっきの女の人? ああ雲川先輩のことか?」


初春「くもかわせんぱい?」


絹旗「」パクパクッ


上条「さっきの店にいた『マイクに向かってこんにちは』の人だろ? あの人は『雲川芹亜』って言ってな、俺が……小6の時からの付き合いがある人でね、なんつーかすげぇ頭のいい先輩なんだよ」


初春「へぇ、そうなんですか。なんていうか凄いクセのある喋り方をする人でしたね」


上条「確かにそうだな。語尾に『けど』って付けたがるからな」


上条「あんなに特徴的な人も、なかなかいないだろ」


初春「そ、そうですねー」


〜〜〜〜〜


黒子「」クシュンッ


固法「大丈夫白井さん? 風邪?」


黒子「いえ、ご心配なく。大丈夫ですの」


固法(……ですの)


〜〜〜〜〜〜


絹旗「……あ」


上条「どしたの絹旗さん? アイスが溶けたの?」


絹旗「……いや、そういう訳ではないです」


絹旗「……あそこに超挙動不審な人がいて」


上条「え、どこ?」


絹旗「……あそこです」 


上条(そう言われて俺は絹旗さんが指を刺した先、道路を挟んで反対側にある、ビルの隙間の暗い空間を覗く)


上条(そこにいた、絹旗さんが見つけた『超挙動不審な人』は、比較的長い髪を一つに束ね、全身を黒で統一した服装をおり、そわそわした様子で足踏みを踏んだり、周りを見渡したりしている。……ああ、もうこれは)


上条「……見るからに怪しいな」


絹旗「……」コクッ


上条(様子を見る限り待ち合わせ……じゃないよな? 待ち合わせだとしてもまともな感じじゃないし)


上条(それに手元には……金属製のアタッシュケース? 旅行で使うようなサイズじゃないよなありゃ。人の拳より大きいぐらい。デパートなんかに売っていた、1000円くらいのおもちゃの宝箱をイメージすれば早い)


上条(それに、何より異質なのは)


絹旗「……手に握ってるあれは」


上条「……ああ」


上条(アーミーナイフ。いわゆる十徳ナイフだな)


上条(いくら土日とはいえ、あんなん持ち歩いている奴がいたら間違いなく補導対象な訳で……。ああ、こりゃ怪しいとか関係なくやばい奴だわ)


上条(……ちょっとまずいなー)


初春「ど、どうするんですか?」パッ


上条「初春さん、とりあえず今の位置と不審人物の情報を、177支部に連絡してくれるかな? そしたら警備員が派遣されるはずだからさ。番号はレクリエーションで教えたところにお願いしていい?」


初春「は、はいっ!」


上条(……こういう時に捻くれなくてよかった……流石にわきまえてるみたいでよかった)


絹旗「……私は」


上条「……」


上条(絹旗さん……は確か格闘能力が高いんだったか……な? あれだったら俺と絹旗さんで路地を塞ぐんだけど……)


上条(いや、けどまだ初日だぞ? 風紀委員になってからたかだか数時間だ。『一人で不審人物と遭遇する可能性を作る』なんて危険なことはさせられないし……そうだな)


上条「絹旗さんは近くにいる風紀委員を呼んできてくれないかな? この時間帯なら他の委員もパトロールに当たってるからさ」


絹旗「……わかりました」


絹旗「」タッタッタ


上条(……さて)


上条(とは言ったものの……正直これといった対応策はないんだよなー。能力者なら右手で、なんとかなるかもしれないけど……相手が凶器を持っていることと、''不審人物が一人とは限らない''ということはかなり大きい)


上条(ナイフは言わずもがな、切りつけられたら無傷じゃすまないし。目の前に不審人物は手元に不自然な大きさの箱を持っているあたり何かの取引を行う可能性があるということだ。つまり、いつ取引相手が来ないとは限らない。相手の戦力は未知数な訳だ)


上条(絹旗さんが、いくら格闘が得意だからって正直な話、絹旗さんがどれくらい戦えるはわからない。だってまだ中1だぞ? 相手は少なくとも俺よりは年上だ。どうしても身体的なの力の差が出てくる。そんな相手と対峙させるのは……あぁ、初日云々関係なく危ないなこりゃ)


上条(……とりあえず応援がくるまでひっそりと監視しておこう。それが一番だ)





〜〜〜〜〜〜


上条(……10分経った)


上条(状況は変わらずさっきのまんまだな)


上条(二人はそれぞれ応援を呼びに、不審者は動きを見せる様子もなく、相変わらずというか落ち着かない様子でそわそわとしている……というわけで何にも変わりはないね)


上条(……てか、なんか、あれだよね。しばらくこう何にもないと、本当に通報してよかったかな? て不安になってくるよね)


上条(いやいや、ナイフを持ってる時点で通報するべきなんだろうけど……うん、そうだ! ナイフを持ってる時点であやしいんだ!)


上条(……と納得させて見たものの、正直なところ、もしかしてこいつそんなに危なくないんじゃね? とか俺は思いつつあるわけだ)


上条(だって少なくとも俺らが来てから10分、友達との待ち合わせでは普通かもしれないけど、仮に取引相手との待ち合わせ……だとしてだ。10分もこんなところで待ち合わせるかという話なわけだ)


上条(だって10分も取引相手を待たせるなんて普通ありえなくないか? 寛容な映画の世界ですらそんなに待たせたらドンパチだ。それに路地裏とはいえこんな目立つ街中で取引をするなんて何を考えてんの? ていう話になってくる)


上条(そこから導かれる答えは……)


初春「はぁっはぁっ! 上条先輩っ! 連絡が繋がりませんでした!」


絹旗「……周りに誰もいないです」


上条「まあ、だろうな……」


初春「だ、だろうなって! 緊急事態なんですよね!?」


上条「あー、なんていうかなー緊急事態''だった''てのが正しいのかも」


初春「???」


上条「絹旗さん」


絹旗「……はい」


上条「ちょっと聞きたいんだけど……絹旗さんの格闘能力が高いってのは、能力なしでの事かな? それとも『能力込み』で?」


絹旗「……無しでも込みでも」


上条「それじゃあ……無しで殴り込んくれるかな? 俺も一緒に行くからさ」


初春「えぇっ!? そ、それって!!」


絹旗「……私が行く必要があるんですか?」


上条「多分無いな。けど」


上条「俺が一人で行ってもつまらないだろ?」


絹旗「……私の考えと上条先輩の考えが一緒だとしたら、そうだと思います」


初春「いやいや!! だって相手はナイフを持っているんですよね!? 危ないですよ!!」


上条「いいからいいから」


上条「それじゃあ俺は路地の反対側から回りこむから、絹旗さんはこっちに残っててくれ」


上条「そんで、俺が適当になんか音立てるからそしたら始りな。バーっと攻めてもらっていいかな?」


絹旗「……超わかりました」


初春「いや、そんな! 相手にバレバレですよ!?」


上条「大丈夫、大丈夫。もし俺の考えが外れていたとしても、最悪俺一人で取り押さえられるから」


初春「さっきから考え考えって何なんですか!?」


上条「まぁまぁ初春さん、そんなに怒らないで」


上条「それじゃ始めようか」


絹旗「……はい」


初春「えーっ!! えーっ!?」


ーーービルを挟んで反対側ーーー


上条(というわけで付きましたよっと。大通り沿いだったおかげで案外すぐについたね)


上条(そんで、その問題の不審者がいるところ。つまりビルの隙間はおおよそ幅1.5mの直線60m……うん。こっから絹旗さんが見えるくらいの距離だ)


上条(もし取引だとしたら……計画性無さ過ぎだろこれなぁ。両側から見える上に裏路地にしてはかなり広いところだし、それにここらへんは繁華街であるわけで路地の両端を封じられたら間違いなく逃げられないし……見るからに怪しい格好じゃ、路地から出てくるときに絶対怪しまれるし)


上条(つまり、こんな慎重にする必要はないっちゃ無いんだけど……まぁこれも練習だな!……っと)


上条(それじゃあ絹旗さん、準備いいかな)フリフリ


絹旗「」コクッ


上条(ああ、確定だわ)


上条(けど、準備してもらったからには、せっかくなんで乗ってあげましょうかねっと)


上条(それじゃあ)スッ


上条(さっき拾ったこの空き缶を)


上条 (アイキャンフラーイ!!)ポイッ


カランカラーン!!!!


??「!? な、なんだ!?」


上条「風紀委員だ!! 今すぐナイフを降ろせ!」


??「!! くうっ!!」


上条(と言って勿論俺の指示に従うわけもなくナイフをこちらに身構える)


上条(てか、サングラスとマスクをつけた、ザ・不審者なんて本当にいるんだな)


上条「降ろさないのなら実力行使に移りますよ?」


??「!! 来るなら来い!!」


上条(それなら遠慮……はしつつ行きますよーっと)


上条(そう心の中で言いながら俺は不審者に気づかれないようにゆっくりと減速しつつ、拳を振り上げる)


上条(完全にこちらを見据えた不審者に向けて背後から迫る絹旗さん。絹旗さんから不審者までの距離がグングンと縮まる)


上条(そして)


絹旗 ブンッ!!


??「!!」ヒョイッ


上条(背後からきた絹旗さんの拳に対して、不審者は必要最低限の動きで避ける。並の鍛え方じゃないなこれは)


絹旗 ブンッブンッ!!


?? ヒョイッヒョイッ


上条(絹旗さんが流れるようにフックとアッパーを繋げる)


上条(速い。俺の思っていた以上に絹旗さんの動きは速い。なるほど固法先輩が言っていたことの意味がわかるな。確かにこれは新入生の中で『圧倒的に強い』と、言われても誰も疑わない)


上条(けど、流石というか相手も速い。常に絹旗さんの動きに対して最小限の動きで避けていく)


上条(しかし動きの速さでは)


絹旗 バシッ


??「っ!?」


カツッ


??「……なかなかやるじゃん!」


上条(絹旗さんの方が1枚上手だ!)


上条(絹旗さんが相手の手首へとピンポイントに蹴りを当てた。その蹴りに耐えられなかった指がほぼ反射的に開き、それと同時にナイフが宙へと舞い力なく地面へと落ちた)


絹旗「……とりあえずその箱を下ろしたらどうです? やる気が無いんですか?」


??「……」


上条(不審者が箱を地面へと置く……か置かないかというタイミングで)


絹旗 ブンッ


??「ッ!」


上条(屈んでいた不審者の帽子を絹旗さんの拳がかすめる)


上条(更に、絹旗さんは止まらない)


絹旗 ブンブンブンブンッ! ドゥッ!


?? スッスッスッススッ


上条(絹旗さんの拳が字のごとく目に見えない速さで繰り出される)


上条(いや割とマジでボクシングのスーパーフライ級で世界一狙えるぞこれ。それくらい絹旗さんの動きは本当に速い。そしてそれを避ける不審者も相当すげぇ)


絹旗 ブンッ!!


?? ガシッ


絹旗 グググ


上条(すげぇな。速いだけじゃなくあの体格で大人と張りあうとは……しかも能力を使ってないでこれって……相当すげぇな)


絹旗 バッ


??「……なんだ? 怖気づいたのか?」


絹旗「……はぁーあぁ……。これじゃやるきが出ませんよ」


絹旗「……ったく、いい加減そっちからきたらどうですか? こちらは超手を抜いてあげてるんです。能力を持っていない大人を超イジメても何にも楽しくないじゃないですか」ヤレヤレ


??「……へぇ、随分と言ってくれるじゃんよ」


上条(あぁーっもうやっぱりそうだ)


上条(このままやらしてあげてもいいんだけど……ほら、ここは繁華街な訳で大きな音出したら間違いなく通報されちまうよなぁ……。そしたら手を出した大人の地位が確実にマズくなるよな。ああ間違いなくマズイ)


上条(絹旗さんの本気を見てみたい気持ちはあるんだけど)


上条「はい、ストーップ!! ストップストップッ!!」


??「な、急に何するじゃ……んだ!!」


上条「全くもう……何やってんですか、黄泉川先生……」


??黄泉川「なっ!? ……なんでバレたじゃん?」


上条「いや、どう考えてもバレバレでしょうに」


黄泉川「わ、私の計画は完璧だったはず……!?」


上条「悪役っぽいこと言ってるけど先生、警備員ですよね? しかもこれが計画だとしたら計画性なさすぎでしょう」


黄泉川「ず、随分と言ってくれるじゃんよ」


上条「だって、そうとう穴だらけっていうか……ねぇ」


上条「そもそも前提条件として、いる場所も時間も酷いですよね? なんでこんな街中で、それも日中に取引をするんですかね?」


上条「しかもこんな周りから簡単に見える場所で。通る人が路地を覗きこんじゃったら間違いなく怪しいなって思われますよね?」


黄泉川「そ、それもそうじゃん」


上条「そこまで考えて、これだけ警戒心が無いとなると……例えばチンピラだとしても、まぁ大したヤツではないと思うわけじゃないですか」


上条「まぁ、そこまではあくまで疑問だったわけで、俺らが路地を塞いだ時点で、もう確信に変わりますよねあれ」


上条「なーんで後ろめたいことしてる人が、路地の端を見ないんですか? 俺、結構堂々と手を降ってたと思うんですけど。それに、絹旗さんの方も割と覗きこんでましたよね? 誰かが来たと思ったのなら普通逃げるかどうか、しますよね? ……まぁ一本路地なんでどうやっても逃げらないんですけど」


上条「その時点でもうチンピラじゃない。大したことないやつじゃなきゃ、その場でどうにかできる対策を組んでいるでしょう」


上条「ということは気づかれること前提でそこにいるわけだ。その時点じゃまだ怪しいけど、支部に連絡しても連絡がつかなかったり、周りに風紀委員がいなかった時点でもうね。ほら、明らかに舞台のセッティングが出来ているわけで、俺らの関係者である可能性が遥かに高くなってくるわけじゃないですか」


黄泉川「……そこからどうやって私の名前にたどり着いたわけ?」


上条「声と語尾聞いたらわかるじゃん?」


黄泉川「そ、それもそうじゃんよ」


上条(指摘された黄泉川先生はむぐぐっと頭を掻いた)


黄泉川「だーっ! もう! 新人の子と戦う前に終わっちゃったじゃんよー。ねぇ絹旗ちゃん!」


絹旗「……なんで私の名前を」


黄泉川「そりゃあ風紀委員の新入りの子の名前くらい把握してるじゃんよー」


黄泉川「あー、もー! 折角すごい子が入ったって聞いたからさー! すこーし手合わせしてみたかったじゃんよー!」


上条「駄々をこねないでくださいよ……訓練場とかですればよかったじゃないですか」


黄泉川「実践でやらないと意味ないじゃんよー!」


上条「けど、バレちゃったら元も子もないですよね?」


黄泉川「た、確かにそうじゃん……」


上条(黄泉川先生がふぅーっと肩を降ろす。絹旗さんはすっかりやる気はなくなったらしくパーカーのポケットに両手をつっこんでいた)


黄泉川「それじゃあ……もうほら、こんなとこにいてもあれだし一旦177支部に戻るじゃんよ。ここにいる理由もなくなったし、こんな変な格好じゃ威厳も何もないじゃんよ」


上条(そこから威厳を取り戻すのは難しいんじゃないですかね……とは決して口に出さず)


上条「それもそうですねー。それじゃあ絹旗さん、初春さんを回収して支部に戻ろうか」


絹旗「……わかりました」


黄泉川「はぁーあー! 上条が止めなけりゃなぁ」


上条「止めなけゃ大変なことになってたでしょうに」


上条(しかし、まぁ本気を出さないであれとは、絹旗さんの力はほんと底がしれないな。勿論、黄泉川先生も本気では無かっただろうが……そんな事抜きにして凄かった。一体、本気を出したらどれだけのものなんだろうか)


絹旗「……」


上条(……まぁそれは後々知れるかな?)


上条「あ、ところで黄泉川先生」


黄泉川「ん? どうしたじゃん?」


上条「もしかしてっていうか、ここまでレクリエーションなんですよね? ほら黄泉川先生と一戦交えるまでが」


上条「なんていうか新人の力を見るまでがレクリエーションだった的な?」


黄泉川「え? いやいやこれは私の独断じゃん?」


上条「そうなんですか? ……いや、だって連絡がつかなかったり周りに風紀委員がいなかったのは」


黄泉川「いやー、、多分ーだけど、たまたま……じゃん?」


上条「え? それじゃあ……?」


??「やっと見つけました!!」


??風紀委員1「風紀委員です! そこの不審者! 両手をあげなさい!」


黄泉川「えっ!? わ、私!?」


風紀委員2「通報がありましたので、連行させていただきます!」


黄泉川「いや、ちょっと! 私は警備員じゃんよ! それに中々の大人数でっ! 誰か私の事を知ってる人は……ものの見事にいないじゃんよ!」


風紀委員3、4「大人しく連行されてください!」


黄泉川「い、いやいや! マジで怪しいもんじゃないって!」


風紀委員5、6「問答無用っ!」


黄泉川「そ、そんなぁ!」


黄泉川「た、助けて! 助けて上条ぉ!!」


上条「……まぁ、そりゃそうなるよなぁ」



ーーー177支部ーーー


黄泉川「というわけで改めまして! 白井さんと初春さんは初めましてだけど、私の名前は黄泉川愛穂って言うじゃんよ! 高校の先生をしつつ、警備員として学園都市の治安を守る仕事もしてるじゃん! みんなよろしくじゃん!」


「……」


黄泉川「あ、あれ?」


上条(既視感だなーっ、すっげー既視感)


上条(黄泉川先生が捕まった。もとい任意同行されたあと、俺らはちょっとしたトラブルに襲われた……まぁトラブルって言うほどでも無いんだけど)


上条(簡潔に言うと一人だった迷子が二人に増えた訳だ)


上条(連れてかれた黄泉川先生と別れた絹旗さんと俺は、至って普通に路地を出た。そんでそこで気づく『あれ? 初春さんどこ行った?』と)


上条(さっきまでは間違いなくいたはずなのだが現に目の前にいない。まあ訳がわからないよね)


上条(もしかして本物の不審者に誘拐されたのでは? と自分の監督不足を恨みながら支部に連絡しようと俺の携帯に目を向けてみると不在着信が15件。しかも全て同じ電話番号から)


上条(まさか。と思い電話をかけると……まぁ驚いた)


初春『うぇえぇええん。迷子になっちゃいましたぁああっ』


上条(……とのこと)


上条(話を聞いてみると、俺らを待っている間に迷子の男の子をみつけた初春さんは、風紀委員として男の子を案内しようとしたのだが、いかんせんこの辺の土地勘がなかったため自分自身が道に迷ってしまったらしい。まぁまぁミイラ取りがミイラになってしまったわけだ)


上条(その後、携帯のGPS情報を送って貰ったこともあり事無きを得たのだが、その事で初春さんはえらく落ち込んでしまった)


上条(そんで、なんだかんだここまで帰ってきて今に至るわけだ)


黄泉川「え、えーっと、それじゃあ3人は今年新入りということでいいの……かな?」


「……」コクッ


黄泉川「えぇーっと……その」


黄泉川「……」


上条「……」


固法「……!」プルプル


黄泉川「ま、まぁいいじゃんよ! 最初は緊張しても仕方ないじゃん!! ちょっと緊張してるくらいが可愛げがあっていいってじゃんよ!」


上条「黄泉川先生、顔真っ赤ですよ?」


黄泉川「う、うるさいじゃんよ!」


上条(そう言って黄泉川先生が、勢い良くお茶を飲む)


黄泉川「……それで? 聞いたところでっていうか、ここの3人ともかなり成績優秀な子たちらしいじゃん」


上条「そうらしいですね」


黄泉川「らしいですねってそりゃないじゃんよ。いやー、上条羨ましいじゃん。そんな子たちと仕事が出来るなんてさー」


上条「いやいや俺なんか力不足なんで、この子たちについていけるか心配ですよ」


黄泉川「それは謙遜しすぎじゃんよー。確かに上条は馬鹿だけど、すっごい馬鹿だけどハートは人一番強いじゃん?」


上条「黄泉川先生、うちの学校の先生だよね? なんでそんなに追い打ちをかけるんですか? えぇ?」


上条「それにハートが強いってのは何のフォローにもなってないよね? 力不足のとこには触れてないもんね」


黄泉川「まぁまぁ、親しい仲だからこそ言える悪ぐちもあるじゃんよ」


上条「いやだとしても先生が言っちゃいけないでしょうよ」


上条(黄泉川先生の言葉を聞いた固法先輩がウンウンと頷く。いやいや固法先輩のは本当に心ない本音だったよね?)


黄泉川「あ、そうだ。それはそうと固法。確か今日は固法が内業の担当だったじゃん?」


固法「えぇ、そうですけど」


黄泉川「にも関わらず、不審者がいるっていう連絡が支部に届かなかったってのは、ちょっとどういう事か気になるじゃん?」


固法「え? 何のことですか?」


黄泉川「えっ? だって上条がそんな事を言ってたじゃん? 117支部に連絡がつかなかったみたいな」


上条「えぇ、まぁはい。そうだよね初春さん?」


初春「え、えと。は、はいっ」


固法「いや、普通に通報きましたよ? 『全身黒ずくめのナイフ持った危ない人がいますーっ!』 て」


黄泉川「そ、それなら風紀委員の子たちが来た辻褄はあうんだけど……なんか腑に落ちないじゃん」


固法「うーん……そうね……」


固法「うーん……初春さんもしかしてだけど、うちの電話番号間違えて登録してない?」


初春「ふぇ? ちょ、ちょーっと待ってくださいね」ゴソゴソ


初春「えぇーっと携帯携帯……あ、ありました」


固法「ちょっと電話してみてくれるかしら?」


初春「あ、はい」ピッピッピッ


プルプルプル プルプルプル


初春「……」


固法「……やっぱり繋がらない?」


初春「そ、そうですねー」


固法「はぁ……まぁ初日にそれがわかってよかったわ。後で番号教えとくからしっかり登録しておいてね?」


初春「す、すいませんでした! しっかりと登録しておきます……」


上条(初春さんがそう言う姿は、少し元気が無かった……初日から失敗が続いちゃったらそりゃあ落ち込むよな)


上条(とりあえず後でフォローしとこうか)


上条「ところで白井さんの方は内業をやってみてどうだった? 何となくはわかったかな?」


黒子「えぇ。とりあえず仕事はあらかた覚えましたの」


上条「すげぇなおい」


黒子「いえそんな。あくまで基本的なところを覚えただけですので」


上条「いやいや十分すげぇよそれは。俺は基本すら出来ずに諦めたからな」


黄泉川(それは上条が馬鹿すぎただけじゃん」


固法「……!」プルプル


上条「オイコラ。内心駄々漏れすぎだろオイ。それと固法先輩、いちいち笑いすぎ」


黄泉川「バ上条」


上条「うるせーよ!?」


固法「……!!!」


上条「だから、笑いすぎですって!」


黄泉川「まぁまぁいいじゃんよーっ。馬鹿っぷりを笑い話に出来るくらい、外業が出来てるってことの裏返しじゃん」


上条「そ、そうですか?」


固法「そうよ。どうしょうもないくらい馬鹿だけど仕事はできるもの」


黄泉川「そうだな。馬鹿だけどイイやつだからな」


上条「もうさっきから、馬鹿馬鹿言われすぎてそれしか頭に残らないんだけど。俺はいつまでディスられ続ければいいんです? えぇっ?」


黄泉川「だってディスられてる時が上条の一番輝いてる瞬間じゃんねーっ」


黄泉川・固法「「ねーっ」」


上条「こ、こいつら……っ! ニヤニヤしながらこっちを見るんじゃありません!」


黄泉川「だって事実じゃんねーっ」


黄泉川・固法「「ねーっ!」」


上条「くそっ! 何も言い返せないよ……っ!」


黒子「あ、あの、、おばかさ……上条先輩。非常に言いづらいのですが、そろそろ帰りの支度をしないと寮の門限がありますの」


上条「今おばかさんって言おうとしたね。ん? お猿さんだけじゃ飽きたらなかったのかな?」


上条「そういえば白井さんは、常盤台だったな。てことは門限が厳しいわけか」


上条「それじゃ……もういいくらいの時間だし、少しだけミーティングをして今日は解散しようか。今日の反省だったり、これからの方針なんかを決めたりしたらすぐに終わりにするからさ」


黒子「わかりました。それでお願いしますの」


黄泉川「おっ? いいじゃんミーティング。私も参加していい?」


固法「先生には始末書が来てますよ?」


黄泉川「いや、どうせ大したことないじゃん?」


固法「ホントですか?」ドッサリ


黄泉川「あぁあああぁっ」


上条「それじゃあ隣の部屋に移動して、とりあえず今日の反省から始めようか」


「」コクッ




〜〜〜〜〜〜






ーーー帰路ーーー


上条(……なーんか今日は疲れたな。大したことはしてないはずなんだけど)


上条(指導係になったもののそんな指導っぽいこともしてないし、黄泉川先生も実際に戦ったわけじゃないし……大したことはないよね)


上条(まぁ……疲れた原因を強いて考えてみると主にな……)


初春「……」トボトボ


上条(まぁ、この子になるわけだ)


上条(凄い暴言を浴びせられて、凄い懐かれて? 凄い落ち込まれてと、まあこの子には振り回されたような?)


上条(そりゃまぁ、日頃、年下の女の子とあんまり話す機会がないからさ、それが疲れた原因になったんだろうとも思うんだけど)


上条「あのー……初春さん?」


初春「……」トボトボ


上条(……まぁ、仕方ないよなー)


上条(結論からいうとミーティングは凄く簡潔なものだった。ひとりずつ今日の感想を言って意見をまとめたあとは、これからのスケジュールなどについての説明や、次の活動の時、つまり明日の仕事の割り振りなんかについて話して終わりだった)


上条(そんな込み入った話はしていないつもりだったのだが、彼女自身やはり思うところがあったらしく途中から少しずつ涙目になっていた)


上条(周りの二人もそれに気づいていたはずだが何も指摘しなかったあたり……まぁ二人なりの優しさだったんだろう)


上条(……まぁ、もし俺が初春さんの立場だったとしても相当へこむだろうし。こうなっちゃうのは仕方ないよね)


初春「……上条先輩」


上条「ん? どうした?」


初春「私、風紀委員向いてないんですかね……」


上条「……どうしてそう思う?」


初春「だって皆にすごく迷惑かけてたじゃないですか……」


上条「まぁ……そうだなぁ」


初春「そうだなぁって……馬鹿な上条先輩は後輩を慰めることも出来ないんですか」


上条「そうやって言えるうちはまだ大丈夫だろ」


初春「……ふんっ」


上条(とかいいつつ……こりゃ相当応えてるな)


上条(さっきまであんなに毒づいていた初春さんの毒に全くキレがないし何よりも)


初春「……」グッ


上条(一生懸命唇を噛み締めてるあたり……まぁそりゃあ嫌にもなるよなぁ)


上条(誰にでも失敗や、辛いことはある。けどそれが最初にどっと来たらどう思うか。ああ、私は駄目なんだなって考えてもしまっても仕方がないよな)


上条「……そうだ。ところで初春さんはどうして風紀委員になろうと思ったの?」


初春「……そんなの聞いてどうするんですか?」


上条「いやまぁいいじゃん。折角なんだから教えてよ?」


初春「……周りの友達に言われたからです。『風紀委員になってみたらいいんじゃない?』て」


上条「まぁ、きっかけはそんなもんだなっ。俺も最初は周りからの勧めだったからな」


上条「それで友達からそう言われた初春さんはどうして風紀委員になったんだ?」


初春「それは……言われたから」


上条「ホントにそうか?」


初春「……」


上条「周りに言われたから。で入るのはわかるよ。けどそんな気持ちであの訓練を乗り越えられるか?」


初春「……」


上条「俺だったら無理だわ。3日もしないうちに逃げ出すと思うし。並大抵の気持ちじゃ無理だよな」


上条「よっぽどの決意がないと実際に風紀委員になるのは難しいと思うぜ?」


初春「……それじゃあ上条先輩はどうして風紀委員になったんですか?」


上条「それは……まあその時は夢があったからかな?」


初春「夢……ですか?」


上条「そうだ。夢だ夢」


上条「ちょっと自分語りするけどいいか?」


初春「嫌です」


上条「まーそういわずにさせてくれよ。ほら先輩の弱みを握るチャンスだぜ?」


初春「……だったら聞きます」


上条「よっしゃそれじゃ話すぞ?」


上条「俺はなー昔から、ほんっと小学校の低学年の頃からあんまり勉強が出来なかったんだよ」


上条「だからなー、先生からも期待されて無かったし、能力もいつまでたってもレベル0だし。何にも取り柄がねー。と自分自身でも思ってたんだよ」


上条「馬鹿なりにさ、悩んで悩んで凄く嫌になった事もあった。本当に嫌なときは常に劣等感に押しつぶされそうだったんだ」


上条「けどそんな時にな、とある先輩に出会ったんだ。それでその先輩がすごいかっこ良くて、その先輩に憧れたんだよ」


上条「すごくなんていうか……人を惹きつける力があってな。こういう人のことを『凄い人』っていうんだって、何となくだけど思ったことを今でも憶えてる」


上条「そんでその時に思ったんだ。その先輩みたくなりたいってな。そんでついでに学園都市の平和も守りたいって」


上条「……やばい。なんか恥ずかしくなってきた」


上条「で、どうだ? くだらないだろ?」


初春「……くだらないです」


上条「ははっ、そうだろ? 自分でもそうだと思うよ」


初春「(……けど私も似たような感じだ)」


上条「ん? 何て?」


初春「……何でもないです」


初春「それで……上条先輩は夢を叶えられたんですか?」


上条「それは……まだわかんないな」


上条「けどいつか夢を叶えたいと思ってるし、俺は叶えるつもりだよ。その為に今ここにいるんだからな」


初春(あれ? この感じ……)


上条「だから初春さんもさ、きっと夢があると思うし、今無くたって何か見つかるはずだと思うんだ。だからさ少し頑張ってみないか?」


初春「(……やっぱりそうだ)」


上条「ん?」


初春「……」ニコッ


初春「何でもないですっ! いい年になってヒーローに憧れてる中二病上条先輩は黙っててください!!」ニコッ


上条「辛烈だなーっ! ちょっと気にしてることを言うねぇ!」


初春「バ上条先輩は自分語りが好きなナルシストで痛い勘違い野郎だということはわかったんで、とりあえず拡散しときますね?」ニコニコ


上条「何がとりあえずなのかわからないなーっ! どこがどう繋がって拡散に繋がるのかなーっ!」


初春「私、こう見えてもパソコンには強いんですよ? やろうと思えば上条先輩の個人情報も色々と好き勝手にイジれるんですよ?」


上条「マジで!? いやそれ凄すぎねぇか!?」


初春「ふふっ!」ニコッ


上条(そう言って笑う初春さんは少しだけ吹っ切れた様子で……まぁ俺の話が少しでも為になったんなら良かったかな?)


初春「それじゃあ上条先輩、私はこの辺で」


上条「おっ、そうか。家まで送んなくて大丈夫か?」


初春「大丈夫です! 先輩に家を知られたらストーキングされるかもしれないですから!」ニコッ


上条「は……ははっ! 笑顔で随分と言ってくれるな」


初春「それじゃあお疲れ様でした!」


上条「それじゃあな」


初春「はいっ!」


初春 タッタッタッ


初春(……)


初春(あの人だ……きっとそうだ)


初春(こんなところで会えるなんて……)


初春「……明日は迷惑かけないように頑張らなくっちゃ!」



〜〜〜〜〜〜



上条(とりあえずやべぇな。どうしよう? 本当に俺の情報をイジられそうな気がしてきた。春なのに背中の悪寒が止まらないよ?)


上条(ちょっと、まぁ何ていうか……喋りすぎたかな?)


上条(まぁいいや。少しでも元気になってくれたんなら、それくらい大したことないよな)


上条「……いや、ありまくりだわ」


上条(固法先輩が言ってたけど初春さんの実力は凄いらしいわけで……現役の風紀委員に勝てるやつがいないってのは相当ヤバイよな?)


上条(けどまぁ仕方ない! 仕方ないようん! そんな事したら自分の身が危なくなるかもしれないってことは初春さん自身わかってるはずだからね! 流石にやらないでしょうっ!)


上条(にしても今年の新入生はホントすげぇな……。俺なんかとは桁が違うじゃねぇか……いや、マジで俺力不足じゃね?)


上条(聞いたところによると……? 白井さんと絹旗さんはレベル4。しかも白井さんは『空間移動』を持ってるときた……いや、レベル4の『空間移動』ってもう訳がわからねぇよ。もしかして自分ごと移動しちゃうとか?)


上条(そんで絹旗さんはあの格闘能力、初春さんはとんでもないらしいプログラミング技術……いやマジで俺の手に負えそうもねぇよなぁ)


上条(け、けど! とは言っても風紀委員としてはまだまだし? 俺の方が経験はあるし!? 何とかなるよね!!)


上条(だけどあの子達もこれから着々と仕事を覚えていくわけで……うん! いつかは間違いなく追い抜かれるよね!)


上条(……ホントレベル0の俺の手に追えますかねぇ……?)


上条(と、心の中でわりかし無意味な葛藤をしているうちに自分の部屋の前につく)


上条(えーい! 考えたって仕方ない! 任されたからにはやるっきゃないよねっ!? と自暴自棄ぎみではあるけど半ば強制的に納得させてみた!)


上条(だって帰ってきたんだもん! 俺は仕事は家に持ち込まない主義だもんねっ! ……と)


上条(俺の唯一の楽園……は言いすぎだがやっぱり自分の部屋が一番落ち着くからね。そんなとこにいざこざを持ち込みたくは無い)ゴソゴソッ


上条(こう、ね。普段風紀委員として活動していると職業病というか。どうしても色んな所に目が言ってしまう訳だ)ゴソゴソゴソ


上条「あれっ? 鍵が見つかんねぇな」


上条(北を向けば道に迷ってる子ども、南を向けば喫煙している学生。西を向けばたむろするスキルアウト、東を向けばやましいことをしている教職員。まぁかなりオーバーではあるが、色々な事がどうしても目に入ってきてしまう)


上条(そんな生活をしていれば当然ストレスが貯まるわけで……必然的に代わり映えのない我が家が心のオアシスになるのだ)


上条「あったあった」


上条(ああ愛おしかったよマイパラダイス! フリーダムな日常空間だぜ!!)ガチャッ


上条(……そして部屋の鍵を開けるとそこには)


雲川「あら、当麻おかえり。乙女が一人寂しく待っていたのだけど」


上条「……なにやってんだ芹亜」


上条(ああ、これが俺の日常だ)



〜〜〜〜〜〜



雲川「というわけで当麻。早く一緒に寝るのだけど」


上条「何がというわけだかわかんねぇよ。こら、勝手に人のベッドに寝転がるんじゃありません」


雲川「おいでおいで」ポンポン


上条「ポンポンされても行きませんよー」


雲川「」プクーッ


雲川「私は当麻と寝たいのだけどー」ゴロゴロ


上条「ゴロゴロしない。てか、まだ帰ってきたばっかじゃねぇか」


雲川「確かにそれもそうなのだけど……」


上条「それに芹亜。今日まだ夕飯食べてないんだろ?」


雲川「じゃなきゃここに来ないのだけど」


上条「だと思った。直ぐに準備するから待っててくれ」


雲川「……」


上条「……あー、もう。そんな顔すんじゃねぇよ」


上条「飯食べ終わったら一緒に寝てやるから」


雲川「」バタバタ


上条「バタバタしない」


上条(と、まぁ……いつもよりワガママな気もするが至って『いつも通り』の我が部屋だ)


上条(俺と芹亜。もとい雲川先輩との付き合いはわりと長い。俺が小6の頃からだから……もう4年くらい経つのかな)


上条(まぁどうやって出会ったかっつーのは取り敢えず置いといて。今みたいにこうやって部屋に入り浸るようになったのがここ3年。俺の部屋の合鍵を無許可で作られて、好き勝手に部屋に入り始めたのがここ1年ってところだ)


上条(最初は一回一回注意してたし、合鍵を作られた時なんか特に俺も抵抗してた気がするんだけど、、まぁ慣れって怖いよね!)


上条(今では当たり前のように俺の部屋にいるし、俺も特に気にすることなく過ごしているわけで。まぁ最初は何事だと思ってたけど、気がつけばこれが日常になってたって感じだ)


雲川「当麻、テレビ見ていい? 見たい番組があるのだけど」


上条「いいよー。リモコンはそのへんにあると思うから」


雲川「ありがとー」


上条(と芹亜からしてもこれが当たり前になってんのかな?)


上条(正直、どう考えても芹亜の住んでる部屋の方が快適だし過ごしやすい気もする。というか確実に過ごしやすいはずなんだけどね)


上条(マンションタイプの学生寮にある俺の部屋は至って普通の1LDKだ。リビングがあってキッチンがあって洗面所があって。娯楽の品といえば漫画とゲームとCDくらい。これほど普通の部屋ってのもなかなか珍しいんじゃねぇかな? と自分では思ってる)


上条(んで芹亜の部屋がどんな部屋かっつったら、一言で言えば『めちゃくちゃすげぇ』部屋だ)


上条(細かいところまで伝えると終わりが見えないので簡潔に言うと、部屋の中に『1万冊の書斎』と『水族館ばりにでけぇ水槽』、それに『旅館見たいな風呂』がある)


上条(なんつーかもう、最初見た時は信じられなかったよね。『え? ここマンションの一室だよな?』てめちゃくちゃ驚いた記憶がある)


上条(それについて芹亜に聞いたところ、過ごしやすいっちゃ過ごしやすいけど、なんか変に緊張する。ということらしく……まぁダラダラする分には俺の部屋くらいが丁度いいんじゃないかな? ほら安値で作った別荘的な。豪華じゃないけど気楽だぜみたいなね)


『デデーン! アリサアウトー』

『エーッ! ソンナーッ!』


上条(リビングの方から騒がしい音が聞こえる。どうやらバラエティ番組を見ているらしい)


雲川「♪」


上条(あれ? テレビにARISAでてんじゃん。これは見ないとな)


上条(この頃人気がうなぎのぼりの歌手『ARISA』は、俺みたいな高校生からしてみればまさしく憧れの的だ)


上条(超本格派の歌手にも関わらず、バラエティから映画までなんでもこなす彼女は、ルックス・キャラともに文句のつけようがない。現役のアイドルと比べたって相手にならないくらい完璧なのだ。ああ、可愛いよ『ARISA』……とりあえずこの番組は見なきゃそんだぜ!)


上条(……と見入っている内に、こちらに向けられた険しい視線に気づく。そんな怖い顔しないでよ芹亜さん)


上条(それに今日は早くゆっくりしたいし……とりあえず早く夕飯の準備を終わらせようかな)



〜〜〜〜〜〜


雲川「ごちそうさま! 凄く美味しかったのだけど」


上条「俺もごちそうさまっと。そりゃそうだ。俺の作った飯だぜ?」


雲川「お世辞のつもりだったのだけど」


上条「やめて! さっきの俺が恥ずかしい!! 自信満々だった俺が恥ずかしいよ!!」


雲川「何が恥ずかしい?」


上条「全部恥ずかしいよ! 自信満々で行った台詞を速攻で否定されるんだぜ?」


雲川「『そりゃそうだ。俺の作った飯だぜ?』」ドヤッ


上条「あぁああああーっ!!」


雲川「そんなに激しく床に頭を打ちつけなくてもよくないか? なんだか顔が真っ赤なのだけど」


上条「俺の気持ちがわかるか? めちゃくちゃドヤ顔したのに間違ってた俺の気持ちが? えぇっ?」


上条「あるじゃん? めちゃくちゃ自慢気に話してんのに間違ってる時って。なんか聞いてる方もさ、すげー顔引きつってるんだよね。口元を若干にやけさせながら『あっ(察し)』みたいな顔してんだよ」


上条「そんで後日な。会話の中でごく自然に訂正してくる訳だ。あの恥ずかしさわかる? ねぇっ?」


雲川「うーん……間違えたことがないからわからないのだけど」


上条「そういえば、そうでしたね! 俺と比べるのが間違いだっだぜ! どうせ俺の人生は間違いだらけですよ!」


雲川「『なあ? 熱膨張って知ってるか?』」ドヤッ


上条「うっ、頭が……!? そんなこと言った覚えはないのに、何故か頭が痛いよ!」


上条「なんでそんな事言っちゃたんだろうね! いや、俺は言ってないんだけどね!」


雲川「まぁ……さっきのは冗談だったのだけど。普通に店開けるくらいには美味しいと思うのだけど」


上条「マジで? そこまで? いやーそう言われると嬉しいなぁ」


雲川「復活早いな当麻。本当にこれはお世辞じゃないのだけど」


上条「そう言われると、ホント作ったかいがあるよ。わざわざ飯を食いに来てくれる人なんて芹亜くらいだからな」


雲川「それは本当か?」


上条「本当だ本当。そもそも俺の部屋に入ったことあるのが、芹亜と土御門くらいだしな」


雲川「土御門……舞花の方か?」


上条「な訳ねーだろ。元春の方だ。女の人は芹亜以外入ったことねーよ」


雲川「ふふ、それは嬉しいのだけど」


雲川「それじゃあ夕飯も食べ終わったわけだし……」


雲川「よし! 早速ベッドに行こうか!」

 

上条「急だなおい。ちょっとインターバル置こうぜ? 飯食ってからすぐ寝ると牛になるぞー」


雲川「別に私はゴロゴロすると言ってている訳ではないのだけど。それに横になると太るというのはほぼほぼ迷信なのだけど」


上条「え、そうなの?」


雲川「学者毎に意見が違うからな。『個人によって異なります』という意見にたどり着くのだけど」


雲川「それに、ゴロゴロしたら太ると言うのなら、運動すれば問題ないのだけど」ニュッ


上条「そのジェスチャーは良くないね! それに、少なくとも飯前後にする話題ではないよね?」


雲川「一緒に寝るとはそういう事だと思うけど?」ニュニュッ


上条「両手に増やすんじゃないっ! なんかすげー奇妙な光景だよ!」


雲川「違うのか?」


上条「まぁ。そうなんだろうなぁとは思ってたけど。それに俺もそのつもり……ってにやけるな芹亜。すんげー顔してるぞおい」


雲川「ふふふ。嬉しいことに喜んで何が悪いのか」


雲川「それに、すごい顔だとしても、当麻以外に見せなければ問題ないけど?」


上条「……素でそういうこと言うとこがずるいよな」


雲川「……ふふーん」ギュウッ


上条「わざわざ、こっちまで来て抱きつかなくても」


雲川「こうしていないと不安になるのだけど」


上条「……なんでだ?」


雲川「……私は少し嫉妬している」


上条「え? 何に? もしかして土御門?」


雲川「違う。あんな金髪グラサンに嫉妬などしない」


雲川「当麻はさっきARISAに見惚れてたと思うけど」


上条「え? まぁ、うん」


雲川「……少し寂しいのだけど。同じ部屋に私がいるのに、他の女の人にああいう目はして欲しくないのだけど」


上条「いや他の女の人って、ARISAはあくまで他人だし芸能人だし。ついでにテレビの中だし」


雲川「関係ないけど」ギュッ


雲川「お願いだから二人の時は私のことだけを見ててほしいのだけど」


上条「……わかったわかった。悪かったよ芹亜。二人の時はお前だけ見てるよ」


雲川「……ふふっ、それならいいけど」ハプッ


上条「だぁ! いきなり耳を噛むんじゃありません」


雲川「ちょっともう我慢できないのだけど。若者言葉でいうと『ヤバイ』のだけど」カプカプ


上条「わかった! わかったから! とりあえず夕飯片付けるから、それからでもいいだろ? な?」


雲川「それなら、私も手伝いをするけど。それの方が早く終わるだろう?」ハムハムハム


上条「はっ、はむはむするなっ!? それは助かるからっ! とりあえず食器とかキッチンに運んでもらっていいか?」


雲川「ふふっ、任せてほしいけど」


〜〜〜〜〜〜


上条(……というわけで夕飯を片付けた俺らは部屋の墨に置かれたベッドに二人並んで座っていた)


雲川「さぁ、当麻始めようか」


上条(そう言う芹亜は、はしゃぐ子供みたいにワクワクした様子で目を閉じる。目を閉じた芹亜の姿は凄く大人っぽく艶めいていて、ワクワクした様子とのギャップが堪らない)


上条(そして芹亜の方からゆっくりとこちらに近づいてきて……)


上条「いや、ちょ待て。ストップストップ」


雲川「むぅ、何だ当麻。私は片付けが終わるまで我慢したぞ」


上条「嘘つけ!? 途中で何回脱がせようとしてきやがった!? 親しい仲だとは思うけど凄く危機感を感じたよ!?」


雲川「だってもう、ムラムラが止まらないのだけど」


上条「さらっていうんじゃありません。少しは恥じらいをもとうよ。ね?」


雲川「恥じらいなど捨てた! 当麻と愛しあえるなら何でもいい! さあヤろう!」


上条「すげぇなおい! 欲望に素直だな! そこまでいくと尊敬するよ!?」


雲川「だろう? さぁ私を褒めるのだけど」


上条「褒めるようなことじゃあねぇよなぁ? 何をもって褒められると思ったのかな?」


雲川「エロい女は嫌いか?」


上条「嫌いじゃないです好物です! だからその凶器(胸)を押し付けてくるのはやめてください!」


雲川「ふふーん。かなり自信があるのだけど」


上条「知ってる! 知ってるから!! 俺が一番知ってるから! だからその凶悪な胸を一度お離しくださいませ!」


上条「ていうか少し話をしよう! な? ことに及ぶのはそれからでもいいだろ!?」


雲川「何だ? 新手の焦らしプレイか? 焦らされる事は好きだけど」


上条「……まぁ、そう思っていただいてもよろしくてよ」


雲川「それじゃあ堪えよう。私の我慢が切れるまで話をするのだけど」


上条「そうか。それじゃあ話を……」


雲川「当麻ーっ!♡」ドサッ


上条「なぁっ!? いきなり押し倒してくるんじゃないっ!? 我慢するっていったろ!?」


雲川「やっぱり無理! もう我慢の限界だけど!」ギュッ


上条(芹亜の胸に押しつぶされる感覚が、胸が触れている俺の腹部から、身体全身へとビリビリと伝わる。やばい。頭がクラクラしてくる)


上条「ちょ、タ、タイム!」


雲川「嫌なのだけど」ギュウッ


上条「せ、芹亜っ!? 待てって!?」


雲川「……」ギュウゥッ


上条(芹亜がさっきまでより強く、俺を抱きしめる)


上条「……せ、芹亜?」


雲川「……何で当麻はそんなに今日は嫌がるんだ? 私が何か嫌なことをしたか?」


上条「なんで、そんな」


雲川「だってさっきから、何かと止めたがるし、なかなかしてくれないし」


雲川「……嫌なことをしたのなら謝るけど」ウルッ


上条「……泣くなよ芹亜。俺は別に嫌がってなんかないし、芹亜に嫌なことなんて何もねぇよ」


雲川「だったらなんで嫌がるんだ?」グスッ


上条「だから嫌がってなんかないっての。ただ本当に話が、ていうか質問したいことがあったんだよ。それだけだって」


雲川「だったら……質問に答えたらしてくれるのか?」ウルッ


上条「勿論だ。朝まで……は風紀委員があるから無理だけど、出来る限り思いっきり抱いてやるっての」


雲川「だったら答える! 早く質問をするのだけど!」ギュッ


上条「だから強く抱きつくなっての!」


雲川「うるさい! 早く質問をしろ!」


上条「わかったよ……んじゃまずなんであんなとこでバイトやってたんだ? 社会勉強と言ったって、もっと色々あっただろ?」


雲川「それはアイスが美味しそうだったからなのだけど。それにもしかしたら当麻に会えるかもって思ったからあそこにしたのだけど」


上条「……可愛いやつめ!」


上条「そんじゃ次だ。なんで今日はそんなにワガママなんだ? いつもはもっと大人しいだろ?」


雲川「……ワガママな私は嫌か?」


上条「いやぁ? 別に嫌じゃないんだけどただ気になっただけだよ」


雲川「……今日当麻が女の子といた」


上条「え? ああ。風紀委員の後輩の事だよな? それで?」


雲川「……」


上条「……」


雲川「……」ギュッ


上条「顔をうずめるんじゃありません。……もしかしてだけど妬いてる?」


雲川「……」コクンッ


上条「……可愛いやつめ!!」ギュッ


雲川「バ、バカ当麻! いきなり抱きついてくるな! 妬いたら悪いのか!?」


上条「馬鹿。悪いなんて言ってねぇじゃねぇか。あーもう、芹亜はいちいち可愛すぎるんだよこんにゃろー」


上条「それに俺は、そんなだれこれ相手にするような節操無しじゃねぇよ。芹亜としかしたことないしな」


雲川「わ、私だって当麻としか無いのだけど」


上条「何張り合ってんだ。だから心配するなっての。な?」


上条「俺は芹亜しか見てないし、芹亜も二人の時は俺だけみてればいいんだよ。それでいいだろ」


雲川「……当麻、結構さっきから恥ずかしい事言ってるけど、わかってる?」


上条「わかってるよ! 自分でも似合わねーこと言ってるなーて思ってるっての! けどさ」


上条「言葉にしないと芹亜も不安になっちまうだろ?」


雲川「……よくお分かりで」ギュッ


上条「だから今日は思いっきり言葉にしました! はい!」


雲川「なんでそんなに自暴自棄気味なんだ……」


上条「芹亜」


雲川「ん? どうした当麻……て、ひゃっ!」ドテンッ


雲川「ば、馬鹿! い、いきなり押し倒してくることも無いと思うのだけど! そ、それにいきなり顔が近い!」


上条「こっ恥ずかしさを誤魔化してんだよ……俺もこうでもしねぇと持たねぇっての」


上条「芹亜」


雲川「ふ、ふぇっ?」


上条「……とりあえず、目閉じろ」


雲川「う、うん」コクンッ


上条(そういって芹亜がギュッと目を閉じる。芹亜から伝わってくる激しい鼓動と俺の心音が混ざり、俺の心臓が芹亜の鼓動につられて徐々に速度を上げている)


上条(……いや本当は最初からやばかったんだぜ? あんなに可愛い巨乳先輩から攻められてみろ。耐えられるわけねぇっての!!) 


上条(それを必死に抑えた、もとい気を散らしてレベル0状態にキープした俺とマイサンを褒め称えてほしいぜ! VIVA DA MY SON! 立派なことをいいながらマイサンがレベル5とか救いようがねぇからな! 恥ずかしすぎるぜ!)


上条(……とまぁ心の中で叫んでいる内にも芹亜は待っているわけで……まぁ、今日は思いっきり抱いてやろかなっ! と)


上条(目をつぶって待っている芹亜に俺は少しずつ近づいていく)


上条(お互いの吐息がわかる位置まで近づく。何度やっても、ここにくるとドキドキするんだよな)


上条(そしてゆっくりと近づいていき、唇と唇が触れるかどうかの距離に近づき)


ピッピッピッピッ


上条「あーマジかー」


雲川「……なんでこんな時にくるんだ」


上条(芹亜のケータイから無機質な電子音が響く。この音がした時は……緊急の連絡が入った時だ)


雲川「……当麻」


上条「? どうした芹亜?」


雲川「サボっていいかなぁ」ハァッ


上条「それはまだわかんねぇぞ。本当に連絡だけかもしれないし」


雲川「それじゃあ」


上条(身体をどかした俺に続き、芹亜がダラダラと立ち上がる。あ、こんなダラダラした芹亜を見るのは珍しいかも)


雲川「……」


雲川「……はぁ」


上条「呼び出しだった?」


雲川「……だるいのだけど」


上条「仕方ねぇよ呼び出しだったら」


雲川「そうだけど……はぁーっ。当麻、私の制服はどこにあるんだ?」


上条「いつもクローゼットに入ってるっての」


雲川「ああそうだったな」


上条(そういうと芹亜は服を脱ぎだし)


上条「待て待て。ちょっと離れて着替えない? こう目の前で着替えられると……目のやり場に困るっていうか」


雲川「マジマジと見てくれてもいいけど?」


上条「いやー、あのさー」


雲川「わかってるわかってる」


上条(そういうと芹亜はキッチンへと行き、着替え始めた)


上条(いやホント自分で言うのもあれだけどやべぇんだよ今は。芹亜にあんだけ言っといてあれだけど俺の理性も割と際どいとこまできてる。そんな時にあんな危険物見せられてみろ。たまったもんじゃねぇよ)


雲川「当麻ー。私の下着どこにある?」


上条「たしかー。タンスの一番下じゃなかったか? てかシャワーはいいのか?」


雲川「シャワーは当麻が帰ってくる前に浴びたけど。なるほどそこにあるのか」ペタペタ


上条「だからそのまま歩いてくんなっての! やべぇから! 上条さんのあれがああなってああなるから!」


雲川「あれとかああじゃわからないのだけど」


上条「察してください雲川先輩」


雲川「……それなら、ファストフードセックスでもするか? 私は当麻が満足してくれればいいけど」


上条「それは……また何か違うんじゃねぇか? 芹亜と一緒に満足しないと意味ねぇよ」


雲川「ふふっ。当麻ならそう言ってくれると思ったのだけど」


上条「おいおいなんだそれ」


上条(そう言った芹亜はこちらを気にする様子などなく下着を脱ぎ始めた。俺はそんな芹亜を見ないように、ベッドに寝転がり天井を見上げる。とっくに上条さんの上条さんはレベル2になっているから、寝転がってもギリ安心なんだぜ!)


上条「しかしまぁ、こんな時間に呼ばれるなんて珍しいな。何かあったのか?」


雲川「まぁちょっと色々な。最近やんちゃなところがあるらしくてな。それで忙しいのだけど。それで……何かあったら当麻にも応援を頼むかもしれないのだけど」


上条「ああ、任せとけ。いつでも飛んでってやるよ」


雲川「ふふっ。それは頼もしいのだけど」


雲川「それじゃあそろそろ行こうかな」


上条(そう言った芹亜は、いつも通りの格好である俺が通う高校の制服に着替え、赤いカチューシャを頭につけた)


上条(芹亜の制服姿は誰も守っていないであろう規定通りの長さである丈でスカートを履いており、あくまで健全な学生にしか見えない。そこだけ見たらすっげぇ真面目だもん。しかし、規定外のサイズの胸をむりやり抑えつけようとした制服のシャツは、芹亜のナイスバディ(巻舌)に嘲笑われており、規程通りの制服であるにも関わらずへそ出しファッションと化すという凄く不健全なことになっている)


上条「ホントさ、もうワンサイズくらい大きい制服とかなかったの? もうたゆんたゆんがパツンパツンになってるんだけど」


雲川「当麻、それはセクハラのつもりか? 胸に合わせるととんでもなく大きな制服になるし、いろいろ試した結果これに落ち着いたのだけど」


上条(そう言って芹亜は胸を強調してくる。やめろ! 心臓に悪いんだぜ!)


雲川「ふふっ。冗談なのだけど」


雲川「それじゃあ当麻行ってくるよ」


上条「あ、芹亜ちょっと待って」


雲川「えっ? 何……んっ」チュッ


雲川「んっ……ふっ……ぷはぁ」クチュクチュッ


雲川「……い、いきなりは卑怯なのだけど」


上条「悪い悪い……流石に耐え切れなかったから」


雲川「……ちょっとだけ嬉しいのだけど。けど、できればもう少し軽いのがよかったかな?」


上条「がっついちゃってごめんなさいっ! ホント耐え切れなかったんですぅ!」


雲川「ふふっ。次から気をつけてくれればいいのだけど」


雲川「それじゃあ……『上条』行ってくるよ」


上条「あ、ええ。『雲川先輩』頑張ってきてください」


雲川「ふふっ。あ、そうだ上条」


上条「? なんですか?」


雲川「さっき私は、私だけを見ていてくれと言ったが」


雲川「私が見ていなければ何をしてもいいんだからな?」ニヤニヤ


上条「えっ? どういうこととですか?」


雲川「上条……当麻だって思春期だ。それはもう凄まじい性欲だろう」


上条「ひ、否定はしないよ!?」


雲川「それくらいが丁度いい」


雲川「別に私以外の女を愛してもいいのだからな? 最終的に……その愛の鱗片でもいいから私に向けてくれればいいのだけど」


雲川「まぁ、そういう私は当麻以外に股を開くつもりもないがな」ニヤッ


上条「え、あぁ、うん」


雲川「まぁ、そういう事だ。私にバレなければ浮気は公認だからな」


上条「何がそういうことなのかわからないなぁっ」


雲川「私に相応しい立派な男になってくれ。ということなのだけど」


上条「が、頑張ります?」


雲川「ふふっそれでいい」


雲川「それじゃあな上条。明日の夜は楽しもう」


上条「は、はいっ」


上条(そう言って芹亜……雲川先輩は笑顔で手を振ったあと玄関の外へと出て行った……いや公認の浮気って言われてもなぁ)


上条「……そもそも浮気する相手がいないんですけども」


上条(雲川先輩は昔からこういう人だ。すごく大人っぽく振るってるくせに、中身は子供みたいな人で。凄く自信家で、いつもふわふわとしてて雲みたいに掴むことが出来なくて。考えが読めないくらいすげぇ頭が良くて、それで常に信念を持っていて……)


上条「俺はそういうところに憧れたんだよなぁ」


上条(俺が風紀委員を目指した理由の一つが雲川先輩との出会いだ。俺はこの人に憧れて……今の俺になったんだ)


上条(……まぁ、それはいいとして、とりあえず今の時間は……あ、もう12時回ってんのか。明日も風紀委員があるし)


上条「とりあえず今日は寝ようかな」


上条(明日もまた活動があることを思い出した俺は、さっきまで二人だったベッドにひとりで寝ることにした)





ーーー翌日 117支部ーーー


上条「と、言う訳で今日は昨日の逆の仕事をしてもらいまーす」


黒子「上条先輩、大丈夫ですの? 死んだ魚の様な目をしてらっしゃいますけど」


上条「え、ああ心配させてごめんね? 大丈夫だから大丈夫」


初春「そんなやる気の無い風に教えようなんて、上条先輩頭湧いてんじゃないですか?」


上条「HAHAHA 初春さんそんな言葉どんなところで覚えたんだい。そんな言葉聞いたらジョニーもビックリしちゃうよぉ」


初春「え? あぁはいそうですね!」


上条「HAHAHAHA」


絹旗「……生きてますか?」


上条「生きてますよー生きてます! そう! Life is Beautifulだぜ! ヒャッハーッ!」


初春「こ、これは」


黒子・初春「(昨日の間に何があったんですか(ですの)!?)」


絹旗「……超壊れてます」


固法「大丈夫上条? 休んだら?」


上条「だ、大丈夫でしてよ? 上条さんはいつでも元気でしてよ?」


固法「床に突っ伏しながら言われても何の説得力も無いわよ?」


絹旗「……超ゴミみたいです」


黒子「絹旗さん、なかなか言いますわね」


初春「いや、あのー……なんかあったんですか?」


上条「いやーっ? 別に何もないよーっ? いつも通りいつも通り」


黒子「……これが、いつもどおりですの……!? まさか昨日は例外!?」


初春「そ、そんな!?」


固法「そんな訳無いでしょ? 今日の上条は異常よ異常。疲れた感じなのはいつもだけど、本当に疲れてんのはホント稀よ。というか、私もこんな酷い上条初めて見るわ」


絹旗「……大丈夫ですか? ソファーで超休みますか?」


上条「だ、大丈夫ですよー。直ぐに立ち上がりますのー」ウネウネ


黒子「何かうねうねしてて……ちょっとキモいですの」


固法「そ……そうね。流石に私もこれは引くかも」


上条「……わりぃ。やっぱちょっと30分でいいから寝かしてもらっていいかな? みんなの情操教育的にもこういう先輩はよろしくないと思うんで」


固法「そうしなさい。ホント生きてる様には見えないもの」


上条「んじゃあ、寝かせていただき……」フラフラ 


上条 バタン


固法「か、上条!?」


黒子「綺麗に倒れましたの!?」


絹旗「……80点」


初春「た、倒れ方を褒めてる場合じゃ無いですよ!?」


固法「せ、生存確認を!!」


固法「……」


固法「し……死んでる?」



〜〜〜〜〜〜


上条(……あ、あれ? ここはどこだ!?)


上条(……とは、まぁならないよね。ここは……支部の休憩室で、そんで俺は……ああソファーの上に寝転がってるのか)


上条(確か……ふらっふらになりながら支部まで来て……そんで倒れたんだっけ? そのへんの記憶が曖昧なのが不安なところではあるが)


上条(なんで倒れたかっていうのを思い出してみると……まぁ長くなるので端折るんだけど、簡潔にいうと朝まで頑張った。うん、ちょー頑張ったよ俺)


上条(昨日、芹亜が帰ったあと俺は、それはまぁぐっすりと寝てたわけだ)


上条(そんで家の玄関の鍵が開く音が聞こえてきたのが夜中の2時半頃だったかな?)


上条(俺の部屋は玄関からリビングまで直で繋がってるわけで、それくらいの音がしたらまぁ起きるよな)


上条(そんで寝ぼけた俺の視界に入ってきたのが)


雲川『ふふっ、当麻。大変お待たせしたのだけど』


上条(それはもう見惚れてしまうほどにいい笑顔の芹亜だったわけだ。まぁ律儀に鍵を開けてくる時点で、なんとなーくは察しがついていた訳だが)


上条(そんでそこからはまぁ……凄かった。何が凄かったかは言わないけど、言わないけどねっ!? いやー、もう凄かった。身体が持たないってのはああいう事を言うんだと思う。そこから朝の8時までサタデーナイトフィーバーだったわけだ。そんで、シャワーを浴びてそのまま風紀委員に来て……今に至る)


上条(……いや疲れたよホント。身体がボロ雑巾みたいにヘナヘナだぜ!)


上条(けどまぁ……やっちゃったもんはしかたないよねっ)


上条「あれ? そういや今何時だ?」


黒子「丁度お昼ごろですの」ヌッ


上条「うおっ!? びっくりしたーっ!?」


黒子「聞いておいて、おどろくのは酷いと思いますの」


上条(俺が寝ていたソファーの右側。つまり俺の頭の上の方向で、椅子に腰掛けていた白井さんが、呆れたような顔でこちらを見る)


上条「いやいやいや。まさか人がいるとは思わなかったから……あれ? いつからそこにいたんだ」


黒子「上条先輩が倒れてからずっとおりますの」


上条「あ、そうなのか? なんかわりぃな」


上条「昼ぐらいってことは3時間くらい寝てたわけか……なんか、変わったこととかなかった?」


黒子「特別変わったことはないのですが……その」


上条「なんか……あったのか?」


黒子「その……上条先輩が」


上条「え? 俺?」


黒子「その言いづらいのですが……さっきまで『やめて! 上条さんのライフはもうゼロよ!』とか『もう無理だって! ギブ! ギブ!』とか、なんかもう色々と凄いうなされてました」


上条「俺そんなにうなされてたの!?」


黒子「えぇ。一体どういう夢を見ていたのやら」


上条「ちょっとわかんないですね」


上条(夢にまで出てたのか)


黒子「私も流石にキモいと思……ごほんごほん。酷く不快に感じてしまい、生理的に無理だと思ってしまいましたの」


上条「わざわざ言い換えなくていいよ! 丁寧にしたほうが余計心に響くよっ!?」


黒子「でしたら……ごめんなさい、キモくて引きましたの」


上条「いいよ! それくらいストレートでいい! それでいいんだ!」


黒子「……」ドンビキ


上条「……ごめん。俺、だいぶ疲れてるみたいだわ」


黒子「い、いえいえ」


上条「てか、ごめんなー。俺が寝込んだせいで今まで外業できなかったんだろ?」


黒子「ええ、まぁ。それは全然よろしいのですが」


上条「いやいや、よろしくねぇよ。ごめんなーこんな先輩で」


黒子「いえいえ……というか上条先輩。昨日とは随分雰囲気が違いますのね」


上条「そうか?」


黒子「なんというか……まず喋り方がだいぶ砕けたような」


上条「ああ。そりゃあまぁ……な? 最初は誰と話す時もちょっと丁寧に話すだろ? それがなくなったってのと……多分だけど疲れてるから丁寧語を使う余裕が無いんだろうなぁ」


黒子「それに……なんというか……やさぐれました?」


上条「安心しろ。これが通常だ。俺は年中やさぐれてましてよー」


黒子「そ、そうですの。それとー」


上条「それと?」


黒子「何と言うかこう『悟りきった顔』をしているような? 例えるなら……賢者のような」


上条「ああそういうことか……まぁ、なんていうか」


黒子「なんていうか?」


上条「……ふっ」


上条「人には……色々あるんだぜ?」キラッ


黒子「そ、そうですの」


黒子(やっぱり……ちょっと受け付けませんの)


上条「あ、そういえばここまでは……俺、どうやって来たんだ? 歩いてきた?」


黒子「そんなまさか。執務室で倒れましたのに、どうやって歩いてくるんでしょう」


上条「え? それだったら誰が運んでくれたんだ?」


黒子「……絹旗さんが」


上条「絹旗さんが!? あのちっちゃい絹旗さんが!?」


黒子「あんまり、大きな声でそういうことを言うと怒られますのよ?」


〜〜〜〜〜〜


絹旗「」クチュンッ


固法「大丈夫絹旗さん?」


絹旗「……超大丈夫です」チーン


固法(可愛い)


初春(可愛いです)


〜〜〜〜〜〜


黒子「最初は私が運ぼうとしたのですが……なぜか上条先輩には能力が効かなくて」


上条「白井さんの能力は……空間移動だったっけ?」


黒子「ええ、そうですの」


上条「え? 空間移動で運ぼうと……えっ? 人運べんの? それ超凄くね!?」


黒子「ええ、しかし上条先輩には効きませんでしたが」


上条「ええまぁ……それは俺の体質がちょいと特殊だからな」


黒子「そうなんですの?」


上条「まあな。……取り敢えずその話は置いとくとして。いくら絹旗さんとはいえ、俺みたいな高校生を運べるってすげぇな」


黒子「ええ、私も驚きましたの。絹旗さん、上条先輩の事を容赦なく引きずって行くものですから」


上条「え、俺引きずられたの!? 担がれたとかじゃなくて!? そんな遠慮なく引きずられたの!?」


黒子「ええ、それはもう見事なものでしたの。まるでボロ雑巾のようにズルズルと引きずるものですから」


上条「え、そんな……あ、ちょっと脇腹の方が汚れてる!」


黒子「そっちの手を引っ張られたんでしょうねぇ」


上条「ちくしょー!」


上条(……とは言いつつも、意識の無い高校生を引きずるってどんな力だよ。と)


上条(いくら初春さんとはいえ、一回りも大きい人を引きずるなんて、それも白井さんの言い分を聞く限りズルズルとって……並の力じゃねぇぞおい。能力を使っているとして……どんな能力だ? 肉体強化?)


上条「てか、もう昼頃って言ったっけ?」


黒子「ええ、そうですの」


上条「ほー……白井さん、もうお昼ごはん食べた?」


黒子「いやまだですの」


上条「だったらちょっと飯食ってから外業に行こうぜ。結構いい店知ってんだよ。それに俺、朝からなんも食ってねぇし」ヨイショッ


黒子「それは、よろしいですが……上条先輩。お着替えはされませんの?」


上条「ああ、するする」


黒子「……」


上条「……」


上条「え、何? 見たいの?」キャーッ


黒子「さ、先に執務室に行ってます!」


上条「おー、了解っ……と」


上条(まぁ、Yシャツ着替えるくらいだし、そんな焦られなくてもいい気がするんだけど……お年ごろだもんねっ! 流石に上条先輩もそれくらいのことは気がつきますよっ!)


上条(とはいえ、朝から……まぁ半日か。白井さんを待たしちゃってるわけだし、そのぶんも挽回しないとなぁ……なんつーか上条先輩の立場が二日目にしてかなーり低くなってる気がしますよ?)


上条(なんか色々と評価が下がりっぱなしだよね? 第一印象は酷かったし、新人の子たちに罵声を浴びせられるし……ああ、世知辛い世の中だぜ!)


上条(……世の中は関係ねぇか。けどなんとかして……まずは信頼を取り戻さないとなぁ)


上条(まぁ、考えたって仕方ない! とりあえず頑張りましょうかね! 行動はきっと結果を伴うさ!)



ーーー第6学区ーーー


ガラガラッ


アリガトウゴザイマシターッ!


黒子「ごちそうさまですの上条先輩。随分いいお店をご存知なんですのね」


上条「おっそうか? お気に召されたようなら光栄でしてよ?」


黒子「ええ、気に入りましたの」


黒子「ラーメンは久し振りに食べましたが……あんなにあっさりしているのは初めてですの」


上条「だろ? あそこはなー。魚介と鶏ガラをベースにしててな。脂控えめでのレモン風味で、ラーメンの癖にあんまカロリー高くないんだよ。それで必然的にあっさりするというか」


黒子「そうなんですの?」


上条「ああ。しかも塩分も抑えてて、野菜たっぷりだからな。なかなかヘルシーなんだぜ」


黒子「なるほど。それで女性のお客さんも多かったんですのね」


上条「そうそう。『ラーメン食べたいけど、ちょっと脂っこいのは駄目なんだゾ☆』ていう人をターゲットにしてる店だからな」


黒子「それが女性のモノマネですの?」


上条「ああ、俺が知る限りもっとも一般的な女性像なんだゾ?」


上条「それに女の人が多い店だと白井さんも入りやすいだろ?」


黒子「あら、そこまで考えてらしたんですの?」


上条「当たり前だろ。いくら美味しい店でも、味以外で嫌な思いしちゃったらそれだけで台無しだからな」


黒子「ほほう。お猿さんのくせにそこまで気配りをすることが出来ますのね。おどろきですわ」ビックリ


上条「ナチュラルな罵倒だなおい」


黒子「うそうそ。冗談ですの。本当はちょっとだけ見直しましたの」


上条「マジで?」


黒子「ええ。本当に上条先輩のことは、デリカシーの無いヒステリー先輩気取り野郎だと思っていましたの」


上条「言うねーっ。ホント初春さんもあれだけど君も大概だよね?」


黒子「ええ。ですがそれはさっきまでの印象ですの」


黒子「さっきの話といい、店の選択といい少しは常識のある方だと知れてよかったですの」


上条「少しかよおい。けどそりゃ嬉しいわ。そう言われると仕事のやる気も出ますよーっと」


黒子「ええ。私も一緒に外業をする方が、野蛮なお猿さんではないとわかってよかったですの」ニコッ


上条「いやいや野蛮じゃないだけで、紳士的なお猿さんかもしれないぞ?」


黒子「上条先輩が紳士的……!?」


上条「ごめん冗談だ。俺が悪かった。そういえば俺はただのお猿さんだったよ、うん。だからさ、そんなに引くのはやめてくれるかな?」


上条(まぁ、わかってはいた事だけど、やっぱり俺の第一印象は相当ひどかったみたいだな)


上条(さっき、服を着替えて執務室に出た時もみんなにすごい顔をされたしな。なんというか、可哀想なものを見るようなそんな目だったよね。なぜか固法先輩まで俺のことを凄く憐れむような目で見てたのは凄く気になるところだけど)


上条「ところで白井さん、外業の説明は……」


黒子「全て頭に入ってますの」


上条「すっげーなおい」


黒子「いやそんな」フフン


上条「その顔は謙遜する顔じゃないよね? すっげー誇らしげだなおい」


黒子「えぇ。なので外業の説明はよろしいので」


黒子「……さっき話されていた上条先輩の『体質』の話を聞きたいなぁと」


上条「……あ、やっぱ気になる?」


黒子「それはもう」


上条「うーん、どうしようかなぁ……」


黒子「気になりますの」


上条「うーん…………そうだ。白井さんは『原石』って知ってる?」


黒子「原石? ああ、知ってはいますの」


上条「おお、知ってんのか。まぁそりゃ、そうだよな。軽く都市伝説だもんな」


黒子「ええ。詳しくは知りませんが小耳に挟んだくらいですの」


上条「だったらちょっと詳しく教えちゃうと、能力開発を受ける前から備わっていた天性の能力。能力開発で得た能力がスタンガンだとしたら、『原石』は天然の雷。そういうふうに称されるあれだな。そんで世界中に50人いるとか云々かんぬんっていう」


黒子「……嘘くさいですの」


上条「まぁそう言うなよ。話が進まねぇじゃねぇか」


上条「そんで『原石』の形は様々だ。気持ちに比例して力が出たり、甘い香りで吸血鬼を呼び寄せて殺したり。実際に使えるかどうかってのは別としてそれはそれは希少なものばかり」


黒子「ふーん」


上条「んでだ、その『原石』が実際にある……て言われたら、白井さん信じる?」


黒子「あくまで測定誤差の範疇ですの。気持ちに比例してなんてのは、それこそ誤差の範疇ですし、甘い香りに関しては、吸血鬼なんているはずもないのに、そんな能力がある意味も理由もありませんの」


上条「まぁ、そうだよなーっ」


黒子「……」


上条「……」


黒子「……えっ? 終わりですの?」


上条「えっ? だって原石を信じてもらわないと、話が進まないっていうか」


黒子「なんですのそれ……まさか上条先輩が原石ってオチですの?」


上条「そうだ! よくわかったな!」


黒子「…………」ハァ


上条「えっ? 何? 何のため息?」


黒子「いや……だってほら、くだらないというか、なんというか」


黒子「だってそんなことありえないですの。能力は能力開発を受けて初めて使えるようになるものですのよ? そんな適当なことが……ねぇ」


上条「本当にありましてよ? 世界は不思議であふれていますの」キラキラ


黒子「私の口調を真似するのはやめてくださいまし。それにそんな目を輝かされても困りますの」


上条「だって考えてみろよ。どうやったら能力開発で能力を無効にするなんていうもんが生まれるんだよ」


黒子「偶然ではないですの?」


上条「頑なに理解を拒むなぁ……まぁいいよ別に信じてもらえなくて。実際、この話を真剣にして友達3人なくしたし」


黒子「3人!? 話をしたから3人!?」


上条「そうだぞ。話したやつからは中二病拗らしたヤバイ奴だと思われてたっぽいからな。嫌いになったとかじゃなくて、純粋に関わるのをやめようと思われたらしい」


黒子「ふ、ふーん」


黒子(私もちょっとそう思ってるなんて言えないですの)


黒子「……それでは百歩譲ってその『原石』があるとして、上条先輩はどんな能力をお持ちですの?」


上条「お? 信じてくれる? 中二病拗らしてるやつだなんて思わない?」


黒子「それはまた別の話ですの。ですが上条先輩の能力、もとい体質は気になりますので」


上条「うまく流しやがったな! まぁそれは別にいいんだけど。そんでさっきの話から引っ張ってる俺の体質ってのはな……なんと! 相手の能力を無効化出来るんだぜ!」


黒子「それは知っていますの」


上条「知ってんのはわかってんだけどさ、ほら勢いって大事じゃん?」


黒子「ありすぎてもうるさいだけだと思いますの」


上条「し、知ってるし! 自分でもちょっと自覚してるし!」


黒子「それが一番タチが悪いですの」


上条「な、何も言えないよ!!」


上条「そんで話に戻るけど。能力を無効化出来るとは言っても、実際に無効化出来るのは俺の右手がふれたとき限定なんだけどな」


黒子「え? 右手?」


上条「そうそう。俺の右手で触れたものの能力を無効化出来るんだ」


黒子「ということは、右手以外で触れないことには相手の能力を無効化出来ないと?」


上条「まあ、そうだな。例えばだけど右手以外にビリビリされたらすげえ痛いし。つまりそういう事になるな」


黒子「それはまぁ何というか……随分狭いですのね」


上条「るっせーな! 俺もちょーっとだけ気にしてるっての! 狭いよな! 使用範囲限らせすぎだよな!!」


黒子「まぁまぁまぁ……右手に触れれば無効化出来るのはわかりましたが、それならなぜ私の能力が効きませんでしたの? 私は上条先輩の右手には触れていないのですが」


上条「うーん…………、俺も自分の能力を完全に把握してるわけじゃねぇから詳しくはわかんねぇんだけど、多分物理的なもの、あ、ここでの物理は直に当たるものと定義してくれな? 炎とか電撃とかは右手で触れないと無効化できないんだけど。それ以外のほら、『精神感応』とか白井さんの『空間移動』とかなんつーかやんわりしてるもの? は身体全体でも無効化できるとかなのかな?」


黒子「……よくわかりませんの」


上条「まぁわかんなくても仕方ねぇよ。俺の説明が下手くそなのもあるけど、説明してる俺自身もくわかってんねーんだから」


上条「けど確かに言えるのは『空間移動』を右手以外で受けても右手以外テレポートするっていうグロッキーな感じにはならねぇってこった」


黒子「な、なるほどですの」


黒子(ホントそうならなくてよかったですの)


黒子「しかしまぁ……右手だけとはいえそれだけの力があるのならなかなかというか、軍を抜いて希少ですの……ということはもしかして上条先輩はレベル5ですの?」


上条「んにゃ、0」


黒子「レベル0ですの!?」


上条「おお、0だよ0。能力測定しても結果が出ないからな。常に0点扱いだぜ」


黒子「それはまぁ何とも不遇な」


上条「まぁ最初はおいおい。と思ってたけど、よく考えてみたら『科学の研究』的には何の意味も無いみたいだし、能力開発で生まれたもんじゃないし。そう考えたらまぁ仕方ねぇかなー。とも思ってくるもんだぜ」


黒子「そういうものですの?」


上条「そういうもん。そういうもん。まぁ欲を言えばもうちょい奨学金が欲しかったりするんだけど」


黒子「そうですの」


上条「だぞー……べ、別に同情しなくてもいいんだからね! 同情するなら金をくれとか思ってないんだからね!!」


黒子「急にツンデレですの!? いやデレてはないですが!!」


上条「おかげで自炊してるから料理の腕も上がったんだからね!」


黒子「いや、それは……いいことじゃないですの?」


上条「最近、パスタ作りに凝っててな。知り合いには『店をだせると思うのだけど?』て言われたぐらいには腕が上がったぜ」


黒子「それお世辞ではありませんの?」


上条「君も同じこと言うんだね? いいもん! 俺は我が道を征くもん!」


黒子「そ、そうですの? パスタでどこに征くつもりなのかはわかりませんが。というか何を声高らかに拗ねてらっしゃるんですの?」


上条「世の中お金じゃないもん! 質素な暮らしでも幸せはあるもん!」


黒子「話を聞いて上条先輩。そんな泣きそうな顔をしながらそう仰らなくても。そんな顔されると同情しか浮かびませんの」


黒子「というか何で急にそんな荒れだしましたの? 私何か地雷を踏みました?」


上条「だって……だってなぁ。白井さんは……あれだよなぁ?」


黒子「あれというと?」


上条「常盤台でレベル4だよなぁ?」


黒子「えぇ、まぁ、そうですの」


上条「……」


黒子「……」


黒子(あっ、もしかして妬んでらっしゃるんですの?)


上条「くそうっ! 本当に可哀想なものを見るような目をしやがったな! 育ちも能力も資金も負けてるぜこの野郎! どつきまわすぞ!!」


黒子「誰に怒ってますの!? 私だとしたら八つ当たりすぎますの!?」


上条「くそう! くそう!」


黒子「まぁ……何というか頑張ってくださいまし?」


上条「くそう!」




〜〜〜そのころ117支部〜〜〜



ピーッピーッ ニュウリョクコウモクニアヤマリガアリマス


固法「……うーん、絹旗さん内業はあんまり得意じゃないみたいね」


絹旗「……超難しいです」


固法「これに関してはホント得意不得意わかれるもの。まぁ仕方ないわよ」


絹旗「……外に超行きたいです」グルーン


固法「こら。椅子に乗ってぐるぐる回らないの」


絹旗「」グルグルグル


固法「全く……」


固法「それで、初春さんは……」


初春「」カタカタカタカタカタカタカタカタ


固法「何この子凄い……! 初日にして支部のデータを手中に収めてる……!? 待って何そのデータ!? そんなの教えてない!? 私もそんなデータ見たことないわよ!?」


初春「」カタカタカタカタカタカタカタカタ


固法「『学園都市統括管理システム』……!? その情報どこから引きだしたの!? ねぇ初春さん!? もしかしてだけどそれ、色々とマズイやつじゃないのかな!?」


初春「大丈夫です。ダミーは仕掛けました」カタカタカタカタカタカタカタカタ


固法「ダミー!? そんなもの作らないといけないようなところに、一体どうやって入ったのよ!?」


初春「……ふっ」カターン!


固法「何この謎の実力。何なの? 凄腕のハッカーなの?」


絹旗「……初春さん超すごいです」グルグルグル


初春「ふっふっふ。もっと褒めてくれても……ん?」


固法「? どうしたの初春さん?」


初春「いや、あのですね……ちょっと待って頂いて」カタカタカタ


固法「え、ああうん」


初春「」カタカタカタ


絹旗「」グルグルグル


固法「……」


固法(……あれ? もしかして初日にして私、初春さんに越されてる? というか、もしかして初春さんの方がシステムを使い慣れてる?)


固法(そういえば何教えても『あ、わかるんで大丈夫です!』て言われて流されてるし、使うの初めてのはずなのに『あれ? おかしいですね。前とデータの位置が変わってますね?』とか言われるし……)


固法(……まぁ前半はともかく、いや十分不味いんだけど、後半は完全にアウトよね。不法アクセスをしてた臭いがプンプンするもの。これは真っ黒だわ)


固法(それで朝から教えるにも教えられず、絹旗さんにワンツーマンで指導してたら、いつのまにか私が触ったこともないようなデータを自由に使ってるし……どうしよう、この子すごく怖い)


固法(まぁけど……絹旗さんの方は)


絹旗「」グルグルグル


固法(仕事がどうこうは抜きとして、とにかく可愛い。すごく無口だけど)


初春「あ、ありましたありました。少し気になる箇所がありまして……」


固法「?」


初春「あ、ここですここです。ここのデパートの事なんですけど……」


固法「どれどれ?」


絹旗「」グルグルグル




〜〜〜第6学区〜〜〜



上条「ごめんなさい白井さん! 少し取り乱しました! 反省してます!」


黒子「あれが少しですの!? ……いや確かに朝のあれからしたらマシですけども」


上条「朝のあれって何? なんか凄くこわいんだけど」


黒子「あら、覚えてらっしゃいませんの? まぁ……人には知らなくていいこともありますの」


上条「そ、そうでせうか」


上条(自分のことながら何があったんだ)


黒子「まぁさっきことは、上条先輩にも色々事情がおありのようですので、あまり攻めはしませんが……」


黒子「取り敢えず土下座をするのを止めていただけませんか? 周りからの視線が痛々しいですの」


上条「これが俺の誠意だ!!」ドーン


黒子「そんなどこぞの海賊みたいな感じで言われても、迫力も何もないですの」


黒子「というか、今の声で駅から降りてくる学生たちが凄く怪訝な顔をしてますの」


黒子「土下座の形が異様なほど綺麗なことは認めますが、ひとまず顔を上げてくださいまし。それかまだ土下座を続けるというのなら、とりあえず腕章を外して欲しいですの。というか風紀委員がそんなことでよろしくて?」


上条「うっ、普通に説教されて普通に大人な対応されたよっ!」


黒子「当然ですの。なんかもう、冷めた目でしか見れませんの」


上条「くそうっ! 折角信頼を得たのに! また三下に見られちまうぜ!」


黒子「いや、そこまでは言ってないですの」


上条「くそうくそうっ」


イ-タミーヘノレークーイレーム カーナーシーミトヒーキーカーエーニー♪


黒子「? 何の音ですの?」


上条「あ、俺の携帯の着信音だな」ゴソゴソゴソゴソピッ


上条「もしもしーっ? あ、初春さん?」


黒子「土下座の姿勢のまま電話を!? 器用すぎますの!?」


上条「今どこにいるかって? 駅の前で土下座してるけど……え? いや何にもない何にもない。よくあることだから」


黒子(よくあること!?)


上条「それでなんの用……え? 近くにデパートが無いかって?」キョロキョロ


上条「ああ、あるよあるよ。あのどデカいところだよな?」


上条「んっ?……ああ、了解。わかった。それじゃあ引き続き頼むね」ピッ


黒子「何の電話でしたの?」


上条「ちょっと初春さんから連絡があっ!?」ヨイショット


上条「あ、痛ってぇ!? 筋捻った!?」


黒子「そりゃあそうですの。あんな無理な体勢してればどこかしらやりますの」


上条「痛ててて……こりゃあ暫く響くわ。……まぁ喜べとは言えないけど、初日にして白井さんの腕の見せ所が出来たぞ」ヨイショット


黒子「……と言いますと?」


上条「デパートに向かおう白井さん。風紀委員としての初仕事だ」


ーーー駅前近く デパート前ーーー



黒子「……これが、仕事ですの?」


上条「ああ、仕事だ。ベリーインポータントな仕事だ」


黒子「……本当ですの?」


上条「ああ本当だ本当だ。だからそんな怖い顔をしないで白井さん」


上条「この辺りの支部全部にスクランブルが出て、風紀委員を集めさせるぐらい大事な仕事だ」


黒子「……」


「ミンナー! モリアガルジュンビハイイカナー!?」


「「「「キャーーーーーーッ!!!!!!」」」」


「ミンナーアイシテルヨー!!」


「ア、ムリタオレチャイマス」「コモエセンセイ? コモエセンセイ!?」


黒子「……これはなんですの?」


上条「学園都市で結成された学生の学生による学生の為のアイドルグループ『Un Install』だ」


黒子「はぁ」


上条「学園都市内のイケメン生徒33人で結成された男性アイドルグループでな……ほら、見ての通りイケメンとイケメンがイケイケしてイケイケなんだ」


黒子「はぁ……そうですの」


上条「通称『あんス○』つってなゲーム化もされてて……ほらファンの数が凄いだろ?」


黒子「確かに……立ち見の客がいるにも関わらずそれでも会場に収まっていませんの」


上条「見た感じ、だいたい2000人位は集まってるぽいな」


「キミノハートニアイヲトドケルヨ!!」


「「トオトイ!! マジトオトイ!!」」 「「リツサマー!! リツサマー!!」」


黒子「は……ははっ」ヒキッ


上条「おお白井さん、いい引きっぷりだな」


黒子「ええまぁ何というか……いや何とも言えませんの」


上条「ああ、それが正常な反応だ」


黒子「それで……私の仕事と言うのは」


上条「えーっとな簡単に言うとここの警備だな」


黒子「え? ……本当ですの?」


上条「本当だ本当。初春さんから連絡があって、『凄い面白そうなイベントやってて、なんか滅茶苦茶人集まりそうなんで会場の警備を頼みますーっ』てことでな」


黒子「はぁ」


上条「ここの立地が駅前ってことでただですら人が集まるところなのに、更に人が密集するとなれば必然的に警備や誘導係が必要になってくるわけだ。ついでに大きな道路も目の前にあるしな」


黒子「はぁ」


上条「あからさまにやる気が出ないのはわかるけどな、ほら? この会場を見てどう思うよ? これ警備がしっかりついとかないと間違いなく暴動がおきるぞ。それくらいこの会場は」


「「キャアアァァァァーッ!!!!!!」」ズドドドドドドド


上条「危険なわけだ」


黒子「確かに地響きが出るほどとは相当ですの」


上条「そういうことだ。このままじゃマジで(理由はどうあれ)死人が出てもおかしくは無いからな」


黒子「妙な溜めは気になりましたが……取りあえず了解しましたの」


上条「おーけーおーけーそれならいいな。他の風紀委員もかなり集まってるはずだから、警備の詳しいことなんかは周りの先輩たちに聞いたりしてくれな」


黒子「ええ、わかりましたの」


黒子「というか、その言い方ですと上条先輩は警備にあたらないように聞こえるのですが」


上条「えぇっと……まぁそうなるな」ポリポリ


黒子「そうですの……それで用事というのは?」


上条「ちょっと整骨院行ってきます。さっきのでマジで変な筋捻ったぽくてさ。相当痛えよ」


黒子「ああ、わかりました。……まぁ、それはデスノ○トのリ○ークみたいなトリッキーな動きをすれば筋の数本くらい痛めますの」


上条「そう言ってくれるなよ。マジで痛えんだからな。あんな動きしても痛まねぇってあいつ人間じゃねぇよな」


黒子「そりゃあリュ○クは死神ですし。間違いなく人じゃありませんの」


上条「りんごだけ食べてたら死神になれるかしら?」


黒子「まともな結果にはならないと思いますの」


上条「ま、それもそうだな」


上条「という事で整骨院に行くことは固法先輩とかには伝えてあるから、一人にして悪いけど後はよろしく頼むわ」


黒子「ええ了解ですの」


上条「んじゃな。あんス○楽しんでこいよー」フリフリ


黒子「善処はしますの……っと」


黒子「……さて」


黒子(正直なところ、活動時間中に整骨院に行くとは……少々あれだなとは思いますが)


黒子(散々一年目の子はとかなんだかんだ言ってたらしいですが……適当な人ですの)


白井(けど……まあ仕方ありませんの。あれだけ捻れば大惨事であろうと思いますし。とりあえず周りの先輩方を探すところから始めないと……)チラッ


「ミンナスキダゾー!!」


「スバルキューン!! スバルキューン!!」「ペロペロシタイ!! ナメマワシタイ!!」


「ミンナダイスキー!! ボクハミンナノオウジサマダニャー!!」


「ダマレモトハルー!!」「エムシーノクセニシャシャンジャネェゾバイトフゼイガ!!」「ブッコロスゾ!!」


「ヒ、ヒドイニャー!!」


白井「……まぁ任されたからには頑張りますの」



ーーー駅前近く デパート内ーーー




上条(あーーー、やっぱちょーっと強引だったかな。もうちょいマシな言い訳を考えればよかったかも)


上条(多分今ごろ色々思われてるんだろうなぁ『仕事すっぽかしましたの』とか『三下ですの』とか、まぁ酷いことをいろいろと)


上条(仕方ないんだもん! 素直になれないもん! それに俺にあそこは耐えられないもん!)


上条(……まぁそれは冗談として、てか土御門も小萌先生も何やってんだ。小萌先生は……まぁわかる。だってファンなんだよね! そうだよね! なんか『あんス○』の法被着てたしね! ああいう人がアイドルを支えてるんだもんね!)


上条(そんで土御門は……本当なにしてんだろな。あんなとこでバイトして罵声浴びせられて……まぁ何かあったんでしょう! お金に滅茶苦茶困ってるとか! うん!)


上条(デパートに入った俺はとりあえず店内の様子を確認しようと周りを見渡す)


上条(デパートの構造としては至って普通の9階建てのデパートで、一階にはスーパーマーケットやブランドショップ、パン屋さんなどが並んでおり、上の階に行くとアミューズメント施設や衣料品店、電化製品店などが軒を連ねている)


上条(そんな普通の店内の中で、ただひとつ特徴的なのは、天窓につけられたスタンドグラスだ)


上条(マリア像をかたどったそのステンドグラスは、1階から9回まで吹き抜けになっている店内を燦々と照らし、光当たる場所を鮮やかに彩る。かといってその光は、見境なく光を放っているという訳ではなく、気にしなければ気づかないほどに優しく脆い。あくまで心地良い光であるのだ)


上条(……けどなんでまたマリア像? いや綺麗だからいいとは思うんだけども)


上条(……まぁ、それじゃあそろそろとりかかりましょうかねぇっと)


上条「それで? 固法先輩。俺はどこに向かえばいいんですか?」


固法「あら、気づいてたの」


上条「そりゃあ気づきますよ。さっきからすぐ後ろにいたじゃないですか……て近い近い近い! 人の肩に頭を乗せるんじゃありません!!」


固法「疲れてんだから仕方ないでしょー。支部からここまで急いで来たんだから。ホントあちーっての」


上条「暑いのは分かりますから、ね? それはもう凄い勢いで熱が伝わってきてますし。とりあえずそこから離れましょうか」


固法「もー、仕方ないわねーっ……」


固法「というか……あら? 白井さんは置いてきたの?」


上条「そりゃそうです。一年目の子に危険な事はさせられないですよ」


固法「へぇ〜っ、それはまた最初から無茶ばっかしてたあなたの言葉とは思えないわね」


上条「だからこそです。それで? どこに何があるんですか? 詳しい話は何も聞けてはないんですけど」


固法「詳しい話を聞いていないのに、危険と判断しちゃうあたり鼻が聞くというかなんというかっていう感じなんだけど」


固法「さっき初春さんがね、あー……大きな声ではあんまり言いたくはないんだけど、何か凄いシステムに入っていってね』」


上条「凄いシステム?」


固法「ええ。私も見たことないようなシステムで……それで、ええっとどこだったかしら初春さん」


初春『あーあー、聞こえますか上条先輩?』


上条「聞こえる聞こえる。てか固法先輩のケータイ音量すげぇな」


上条「それで? どこがどうなってんだ?」


初春『話に入るのが早いですねぇ、バ上条先輩は挨拶も無しですか。えーっとですね、そのデパートの中の……9階ですか? そこの衣料品コーナー……アパレルショップからですね。なんというか……ノイズ? みたいな音が流れてるみたいでして』


上条「ノイズ?」


初春『ええ。アナログテレビの砂嵐みたいな音が流れてるみたいなんです』


上条「みたいってのがちょっと引っかかるけど……それは何かデパートで使う電子機器の音とかじゃないのか?」


初春『私もそうじゃないかなーっと思いまして、デパートの方に確認をとってみたんですけど『そんなとこに電子機器は置いてねぇ』という返事が』


上条「ああ、なるほど。それで? デパートの従業員は確認作業はしてないのかな?」


固法「それについてはさっき私が聞いたんだけど、『下が忙しくて仕方がねぇ』ということらしくて」


上条「そうなんですね。あれだけ盛況したりゃまぁ……それで俺と固法先輩で確認にというわけですか?」


絹旗「……私もいます」


上条「おぉっ!? 絹旗さん!?」


絹旗「……超お疲れ様です」


上条「え、ああお疲れ……てそうじゃなくて!」


上条「固法先輩、何でこの子を連れてきたんですか!?」


固法「だってねぇ、中より外がいいっていうんだもんねーっ」


絹旗「……」コクッ


上条「いやだからって、ほら何かあったらどうするんですか?」


固法「その言い方だと私はどうなってもいいみたいね? なーんか絹旗さんの心配ばっかしちゃってねー」


上条「え? いや、あの……えぇーっと……」


固法「冗談よ冗談。まぁ、いいじゃないの。内業は初春さんが完璧なくらいにこなしててね、中にいても何も仕事がないのよ。だったら外で何かしたほうがいいでしょ?」


上条「まぁ、えぇ」


固法「ちゃんと警備員も来る予定だし。それにもし何かあったら上条が守ってくれるんでしょ?」


上条「そりゃまぁ最善は尽くしますですけど」


固法「だったらよし! ぱぱっと現場を見て警備員に引き継いで帰りましょう!」


上条「ええ……まぁ了解です?」


固法「それじゃあ9階に行きましょうか!」


上条「ええ」


絹旗「……」スタスタ


上条(……なんつーか強引に決められてしまったような気もするけど……確認だけみたいだし、まぁ大丈夫かな?)


上条(危なっかしい……例えば強盗を捕まえるとかっていうイレギュラーなら絶対にやらせてたくはないんだけど……今日は固法先輩もいるし大丈夫かな?)


上条(それに昨日の絹旗さんの動きを見る限り、絹旗さんは相当鍛えてるみたいだし、もし何かあってもきっと大丈夫だよね? ……まぁそれはいいとして)


固法「見て絹旗さんアイス売ってるわよ? 食べる?」


絹旗「……結構です」ソワ


固法「そんか強がっちゃってぇ、食べたいくせにぃ」


初春『アイス売ってるんですか!? いいですねーっ! 私も食べたいです!』


固法「支部まで持って行ったら溶けちゃうでしょうが。食べるときは今度でも奢ってあげるからそんときにしなさい」


初春『やったーっ!!』


上条(パッと原因を見つけて帰りましょうかね。警備員に任せられるなら安心でしょう)


絹旗「……」チラッ


上条(……? どうしたんだ急にこっちを見て)


絹旗「……」ソワソワ


上条(……何だろ)


絹旗「……超美味しそうです」ソワソワソワ


上条「……ええ、まあそうだな」


絹旗「……」ソワソワソワソワ


上条「……え?」


絹旗「……」スタスタスタスタ


絹旗「……超食べたいです」グイッ


上条「いや固法先輩に奢ってもらえよ」




ーーーデパート 9階ーーー



上条「ああっ……!! 上条さんの財布が……っ!?」


固法「なんかごめんなさいね上条? あんなに高いとは思ってなかったの」


上条「ふざけんなよぉおっ! なんで!? なんでブランドショップにアイスが売ってんだよ!?」


絹旗「……超上手いです」フンスッ


初春『いいですねーっ、ブランド物のアイスいいですねーっ!』


固法「でしょう? 今度おごってあげるからね、上条が」


初春『やったーっ!』


上条「固法先輩が奢れよおぉ!? 値段に怖気づくんじゃねぇよ!!」


固法「泣かないで上条。ほらハンカチ使う?」


上条「それも俺が買ったやつぅ!! なんで? 何で固法先輩も便乗して買ったの? サラッと買わされてびっくりしたよ?」


固法「やーりふぅーっ」


上条「やかましいわっ! 眼鏡しか共通してねぇよ!」


絹旗「……先輩も食べますか?」


上条「いや、別に……って、もうそれコーンしか残ってないよね? なんでコーンだけ残してあげようと思ったの? そんなにコーン嫌いなの? てか凄いね綺麗にアイスだけ食べてるね」


絹旗「」フンスッ


上条「いや、威張らんでいいよっ。あぁもう捨てようとしない。食べるから! 俺が食べるから!」


固法「上条うるさいわね。少し静かにしてくれないかしら?」


上条「原因は誰だ! 絹旗さんは……まぁいいよ仕方ない! アイス美味しいもんね! それにまだ入ったばっかだもんね!」


上条「固法先輩はこの中で一番のベテランだよね? なのになんで? なんでそんなちょくちょくフリーダムになるの?」


固法「…………まぁ、それはいいとして場所はこの辺で良かったのかしら?」


初春『ええ、そうです。その周辺のアパレルショップにあるとかないとかっていう』


上条「露骨に話逸しやがったな……まぁいいよ別に、うん」パクパク


絹旗「……美味しいですかそのコーン?」


上条「うめぇよ。アホみたいにうめぇよこのコーン。俺の知ってるコーンじゃねぇ」


上条「それで……避難は既に済ましてるみたいだな。周りには誰もいないみたいだし」


初春『ええ、勿論です。しっかりとマニュアルは読みましたからね!』


上条「おー、えらいえらい」


初春『どうもどうも。まぁノーセクハラノーライフの上条先輩に褒められてもあまり嬉しくはありませんけど」


上条「どうして素直に受け取ってくれないのかな? それに今のどこにセクハラ要素があったの? ねぇ?」


固法「そりゃ日頃の行いでしょう」


上条「日頃がそんなに酷いかなぁっ?」


固法「無自覚な引っ掛け野郎には一生わからないでしょうね」


上条「……な、何も言うまいっ!」


固法「自覚してんのかしてないのか……」


固法「まぁそれはいいとして避難してるなら安心ね……それじゃあとりあえず始めましょうか」


上条(そういうと固法先輩は一つ息を吐き集中させる)


固法「……」グッ


上条(能力を発動する)


上条(固法先輩の能力は『透視能力』だ。その字の如く、物を透過してみるとができる能力だ。その対象は例え火の中水の中、そしてあの子のスカートの中。そうこの世の全ての男が羨む透視能力だ……っ!)


上条(……睨まないでくれよ絹旗さん。何? もしかして君『精神感応』か何か持ってるのかな?)


上条(固法先輩がぐるっと周りを見渡す。フロアの端から端までじっくりと不審物がないか探しているのだ)


上条(そして手持ち無沙汰な俺たちは)


絹旗「……この服超安いです」


上条「お、ホントだな。けどこっちの方が品質が良くないか?」


絹旗「……3000円の壁は超でかいです」


上条「わかる。わかるよ。その値段超えてくると買おうか買わまいか迷ってくるよね」


絹旗「……そんなに長く使わないものにそこまでのお金をかけるのはちょっと」


上条「さっき君はそれ以上のアイスを買わせたよね? しかも無慈悲に捨てようとしたよね?」


絹旗「……ちょっと何のことだかわからないでふ」


上条「嘘つけ確信犯め!」


固法「ちょっとそこうるさい。ちょーっと気が散るんだけど?」


上条「ご、ごめんなさい」


上条「それで……固法先輩、何か見つかりましたか?」


固法「いやそれが何も見つからないのよねぇ」


固法「ねぇ初春さん。ホントにここであってるのかしら?」


初春『えぇ、そこのはずなんですけど……』


固法「うーん……おかしいわねぇ。どこ見ても見つからないのよねぇ」


上条「固法先輩に見つけられないとなると厳しいですね」


固法「えぇちょっと手こずるかもしれないわね」


上条(透視して見つからないとなれば一体どこにあるんだ? 天井か? 床下か?)


上条(もしくはノイズ自体が実在はしてなくてどこかしらから流れてて……いやそれなら音の発生源はあるはずで……)


上条「いや、わからん。これはマジでわからん」


固法「そうね。警備員もまだ来ないし……来るまでちょっと待ちましょうか」


上条「そうですね……てあれ? 絹畑さんその手に持ってるものは何?」


絹旗「……ああアパレルショップの入り口の前に不似合いなゲコ太人形がありましたんでから何かなーっと」


上条「ああ、確かに不似合いな悪趣味ゲコ太……」


上条(ちょっと待て? なんで不似合いなゲコ太がアパレルショップにあるんだ? 店のイメージを大事にするのがアパレルショップだ。店ごとに個性がありそれを売りだす)


上条(そんでもってここの店はどんなイメージかというと、至って爽やかな服を売ってる。マリンファッションとか至極爽やかな服たちだ)


上条(それによく考えてみたら固法先輩は『入り口より外を透視してない』わけで……あれ? このゲコ太は確認してない……)


初春『あ、今いるところが割とピンポイントデ……』


固法「初春さん? 初春さん!?」


固法「急にノイズが……」


上条(ノイズが入るってことは電波が乱れたってことだよな? ……けどここは学園都市だ。そんじゃそこらの電波妨害でへこたれるような回線ではないはず)


上条(……ということはそれだけ強い電磁波が、ノイズが放たれているわけで……そんだけ強いノイズが放たれていれば何かの機器。例えば監視カメラについたセンサーに反応してもおかしくはない……ということは)


上条(……あるぇ? これってもしかして)


固法「フラグ……かしら?」


上条「絹旗さん! 今すぐそのゲコ太を捨て……」


絹旗「……あ」


上条(そう一言だけ発した絹旗さんの胸で)


上条(誰も目を向けないであろう悪趣味なゲコ太が)


上条(目を覆いたくなるほどの光を放ちながら)


上条(空気を切り裂くように爆発した)




ー駅前近く デパート内ー


「アイシテルヨミンナー!!」


「「キャーッ!!!」」「「ワタシモアイシテマスーッ!!」」


黒子(……さっきからこればっかりですの。間に困ったら『愛してるーっ!(低めの声)』しか言いませんの)


「アイシテルンダー!!」


「「ワタシモー!!」」「「ワタシノホウガーッ!!」」「「キャァァァァアアアッ!!」」


黒子(……)


黒子(……いや正直キツイですのこれ。観客の盛り上がり方は異常ですしアウェー感がすごいですし、それに周りに知っている人がいない中での作業は……こう中々来るものが)


黒子(上条先輩が整骨院に行ってから30分。ステージの盛り上がりは衰えることを知らない様子で、それどころかだんだんと熱気は増すばかり)


黒子(こういうときに一人なのは最高にきついですし……ホント上条先輩は何をしてらっしゃるのか。整骨院はよろしいですが……ねぇ)


「アイテルヨー!!」


「キャァァァァアアアッ!!」


黒子(……よく見ると風紀委員もチラホラ観客に混じっているような……なんかもう滅茶苦茶ですの)


「ソレジャアミンナ!! ツギノキョクデキョウハサヨナラダヨ!!」


「「ソンナーッ!!」」「「イカナイデミンナ!!」」「「イヤァアアアアッ!!!」」


「ダカラマタオレタチニミツイデライブスルオカネタメサセテネ!!」「カキンダカキンダァ!!」


「「ヨロコンデ!!」」「ライゲツバイトフヤサナキャ!!」「センセイノキュウリョウガキエテイキマスー!!」


「ハイ、ミツゲ!!ミツゲ!!」


「「「ミツグ!!ミツグ!!」」」


黒子(……わかってはいますが、なかなかクレイジーですのね。いやあんな公然と貢げ貢げと……ねぇ?)


「マタアエルカラ!! ダイジョウブダイジョウブ!!」「ソレジャアサイゴノキョクヲハジメルヨ!!」


黒子(……あ、けどやっと終わりですの……よかった開放される)


「ソレジャアラストソング!!」「イツモノテイバンノアレダヨ!!」「ソレジャアミンナデイッショニコールシテクレ!!」


「エ~ウマクイルカシラーッ!」「マカシテ!!ワタシコールニハテイバンアルノー!!」「マジトオトイ!!マジトオトイ!!」


黒子(ステージ上の……アイドル? がゆっくりと口元に手を当て静粛を促す)


「……ジュンビハイイカナ~」「キョウハミンナニトッテワスレラレナイヒニナリマスヨウニ!!」


「イクヨ〜 ……セーノッ!!!!」


「「「「ハナビ!!」」」」


黒子(そしてステージ上のアイドルの呼びかけに対て、観客全員のコールが終わるか終わらないかのタイミングで)


ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!


「「キャー!!!」」「ナンノオト!?」


黒子「っ!? 何事ですの!?」


黒子(遥か頭上の方から爆発音が駅周辺に響き渡る)


黒子(音がした空の方向を見上げると、駅前にそびえ立つデパートの最上階。無機質な学園都市から遥かなる空へと向かい祈る『聖母マリア』が見るも無残な姿に飛び散っていた)


黒子(聖母マリアを象っていた極彩色のガラスが太陽に照らされる光景は、思わず見惚れてしまうほどに綺羅びやかな光景でその美しさに、一瞬の静寂が生まれる)


「……ガ、ガラスガオチテクル!!」「ニ、ニゲナイト!! ミンナアブナイ!!」


黒子「……はっ!! 見ている場合ではありませんでしたの!!」


黒子(このままじゃ……大変なことになる!!)


黒子(静寂をつき破る2000人の悲鳴が会場……だけでなく街全体に響き渡る。会場はただただ混乱に包まれていた)


黒子「考える……考えますの!」


黒子(ほぼ真上から降り注ぐガラスと、その下に群がるおおよそ2000人……今から避難させるのは確実に無理)


黒子(だとしたら……私ができることは!)


黒子「……やるしかありませんの!!」



〜〜〜〜〜〜


上条「……ってぇ」


上条(全身から走る痛みで目が覚めた俺は、ぼんやりする頭を少しずつ動かしていく。背中に伝わるずっしりとした重い感覚と、一日の終わりのような脱力感)


上条(……もしかして俺寝転がってんのか。全身の部位という部位がズキズキと痛む。爆発の勢いでどこかに叩きつけられたみたいだな)


上条(視界に入るのは…。むき出しになった鉄筋コンクリートと無残にも焦げ果てた店内のショーケース。鮮やかな色を無くし、よどんだ雲を通す元ステンドグラス。そして俺の胸の中で目を閉じる固法先輩)


上条(いつもなら突っ込むとこだけど……まぁもうそれどころじゃねぇ。痛みが……痛みが痛いよ!!)


上条(固法先輩は……無傷というわけでは決してなくあちらこちらに擦り傷が目立っているわけで……やめて! その制服の破れ方は卑怯だよ! 目が! 目がそこに言っちゃうの!!)


上条(……とまぁね。ひとしきり頭を動かしたところで……なんでこんなテンション高いかっていうと……あんだけの爆発があったはずなのに固法先輩と、もう一人確かに視界に映り込んでいたからだ)


上条「……すげぇな絹旗さんあんだけの爆発で無傷だなんて」


絹旗「……どうも」


上条(あの爆発の中心地にいたはずの絹旗さんは、そんなことがどうした? といったふうに整然と立ちすくんでいた)


上条「一体……どんな能力使ったらそんな平然としてられるんでせうか?」


絹旗「……窒素装甲です。空気中の窒素を超自由に動かして壁を作れるんです。……というか上条先輩は私の能力をご存知なんじゃないんですか?」


上条「……いやーっ? 残念だけど知らないなぁ。けど本当よかったよ。能力のおかげで無傷みたいで……あの爆発をもしもろに受けてたら……三人ともどうなってたか」


絹旗「……上条先輩の右手でどうにかなったんじゃないですか?」


上条「……それはたまたま、能力者のものだったら守れたかもしれないけど……これが普通の爆発だったらどうにも出来ないし、能力だとしても流石にあの距離の絹旗さんまではカバー出来なかったよ」


上条「それに。絹旗さんが俺らを守ってくれたんだろ? だから俺らの傷はこんなに少ないわけで」


絹旗「……」


上条「ありがとう、助かったよ本当」


絹旗「……どうも」


上条(……さて。けどここからが大変だ。絹旗さんが俺らを守ってくれたのは嬉しいし、そのお陰でビルも倒れなかったんだけど)


上条(……残念ながら絹旗さんが爆発を逸らした方向はステンドグラスだったわけだ)


上条(ガラスが飛び散って落ちるということは、当然下にいた人たちは……くそっ!)


??「上条先輩! 絹旗さん!」


上条「ん?」


絹旗「……お疲れ様です白井さん」


??黒子「お疲れ様ですじゃありませんの! こんなところで爆発に巻き込まれて! 生きてるのが奇跡ですのよ!!」


黒子「それに……上条先輩、一体何が整骨院に向かうですの。こんなところでボロボロになられて」


上条「わりぃわりぃ……整骨院探してたらこうなったわ」


黒子「冗談言ってる場合ではありませんの! とりあえず搬送を……」


上条「……ああ、ありがとう。けど、俺はとりあえず大丈夫だから……先に固法先輩から頼むわ。まだ意識が戻らないっぽいからさ」


黒子「了解しましたの。それでは固法先輩をこちらに」


上条「あ、その前に布団頼むわ。流石にこの状態じゃ……ねぇ?」


黒子「そ、それもそうですの。少々お待ちくださいまし。直ぐに体を覆えるものを」


上条(スタスタと白井さんが歩いて行く。白井さんがこっちに来てるってことは……下は大丈夫だったぽいかな。取り敢えず安心だな)


上条(絹旗さんは無傷だし、固法先輩も……きっと大丈夫だ。俺の身体で頭を守れてるっぽい。命に関わるようなことは無いだろう)


上条(爆発の割りには……最小限の被害に抑えられたんじゃないかな……良かったよ。あの子達には悪いけど、頑張ってもらえたおかげで)


上条(あれ? なんだろ。少しずつ頭がぼーっとしてきた)


絹旗「……上条先輩、大丈夫ですか?」


上条(……視界がぼやける。急だな。俺の身体どうなってんだ?)


上条(どうにかこうにか首を上げてみると、ベリッという乾いた音が聞こえた)


絹旗「!? 上条先輩!?」


上条(ああ、なんだ俺後頭部から血出てんのか。そりゃあぼーっとする訳だわ)


上条(すぅーっと自然に目が閉じて薄目のような状態になる。やべぇ力すら入らねぇか)


絹旗「上条先輩!! 上条先輩!!!!」


上条(絹旗さんの叫ぶような声が聞こえてくる。なんだ大きな声も出せるんじゃん……とそんなこんなを考えているうちに聞き覚えのある声が耳に入ってきた)


??「絹旗どうした……て上条!? 上条大丈夫じゃん!? 意識はあるか!?」


上条(……絹旗さんが首を振る姿がぼんやりながら目に入った。そんで……ああこの声は黄泉川先生か……。おかしいな。声が……声が遠くに聞こえる)


上条(……あれ? なんだろ……意識……が)


絹旗「上条先輩!! 目を! 目を開けてください!!」


??黄泉川「救急車を早く回すじゃん!二人とも!  二人とも意識が危ないじゃん!」


上条(あ……無理。駄目っぽい)


上条(…………こうして俺の意識はぷつりと途切れた)



〜〜〜駅前近く デパート前〜〜〜


ピーポーピーポーピーポーピーポー


絹旗「……」


黒子「……」


黒子(……さて、どうしたものでしょうか。上条先輩と固法先輩は病院に。警備員は爆破箇所の調査、他の風紀委員の先輩方は警備員の手伝いや会場の清掃活動)


黒子(……本来なら私達も清掃活動に加わらなければならないところなのですが……)チラッ


絹旗「……」ブルブルブルブル


黒子(……こんなに震えている絹旗さんを置いて行く訳には行きませんの)


黒子「大丈夫ですの絹旗さん? 顔色が悪いようですが」


絹旗「……」ブルブル


黒子「……どうしたものか」


黒子(結論から言うと、今回の爆発での負傷者は上条先輩と固法先輩のお二人のみ。ガラスが降り注いだライブ会場では誰一人として怪我をしていませんの)


黒子(それは決して私の能力でどうにかなった。という訳ではなく……何か黒いものが、私達をガラスから守ったわけですの)


ーーーーーー


黒子『っ!? テレポートが追いつきませんの!!』


黒子『(私ひとりの能力に対して、ガラスの数は無数……それに私以外に誰かが能力を使っているような様子はなし)』


黒子『(ガラスの破片が細かすぎて……演算が出来ない!!)』


『キャァァアアアッ!!』


黒子『駄目っ!! 間に合わな』


スゥウウウウウウウウゥ


黒子『何事ですの!?』


スゥウウウウウウウウゥゥゥゥ…………


黒子『黒い……影が空を覆って……ガラスが消えた?』


『タ、タスカッタ……』『セ、センセイハコシガヌケテシマッタノデス』


黒子『今のは……いったい』


ーーーーーー


黒子(……今でも何が起こったのかさっぱりですの)


初春「白井さん! 絹旗さん!! 無事ですか!?」


黒子「ああ初春。私達はなんともありませんの」


初春「そ、それはよかった、です」


黒子(そういう初春は汗だくで……急いできたことが伺えましたの)


初春「上条先輩と固法先輩は……」


黒子「固法先輩は軽い擦り傷だけですので、大丈夫ですの。もう少ししたら気を取り戻すかと……ですが」


絹旗「……上条……先輩が」ブルブル


黒子「正直……軽傷とは言えませんの」


絹旗「……」グッ


初春「うっ……うっ……うえぇぇぇぇぇん」


黒子「きゅ、急にどうしましたの初春? そんな泣かないでくださいまし?」


初春「だって! ……だって私が気づかなければこんなことには……!」


黒子「初春?」


初春「うぐっ……えっ……私が気づいてっ……先輩たちが……デパートに行ったから……うぇっ……ううぅ」


絹旗「……」ブルブル


黒子「……大丈夫です初春。あなたのせいではありませんの。もしあなたが気づかなければ、もっとたくさんの人が大変なことになっていたかもしれませんのよ?」


黒子「あなたが気づいたから、店員が逃げることが出来ましたの。あのデパートの最上階の従業員とお客様を救ったのは初春、あなたですのよ?」


初春「うっ……うぇえええぇぇぇええぇぇん!!」


黒子「よしよし。ひとしきり泣きなさい。私の胸でよければ貸しますの。それですっきりしてくださいまし」


初春「うぇぇぇええぇ……」


絹旗「……」ブルブル


黒子「……さて」


黒子(……爆発の原因やさっきの黒い影など、謎は残るばかりですの)


黒子(このまま警備員に引き渡す。もとい任せることが最善かもしれませんが……)


黒子「それでは……私の気がすみませんの」


黒子(新人で何様だと思われてもかまいません。私は……)


黒子「……二人ともよく聞いて下さいまし。私は……いや、私達は」


黒子「二人の敵をとりますの」


〜〜〜〜〜〜


……ウマ! トウマ!


上条(……なんだ? 何の音だ?)


……トウマ! メヲアケルノダケド! トウマ!!


上条(この声は……あれ? 誰だっけな……何となくは覚えてるような)


……トウマ!! オネガイダカラ!! オネガイダカラ……メヲ……アケテ


上条(……ああ、そうか。俺、意識を失って……倒れたんだったか。そんでその後は……多分病室に運ばれたんだろう。そんで俺が運ばれたってことは……カエル先生のとこだな。それも緊急処置室だ)


上条(そんでもってそこに入れる人間は……)


上条「……どうしたんだよ芹亜。そんな大声だして」


雲川「うぐっ……えぐっ……とうまぁ……」


上条「……そんな泣くなよ俺は生きてるよ」


雲川「うぅ……カエル先生がいなければ……駄目だったの……だけどぉ……うぇぇっ」


上条「カエル先生がいたお陰で助かったんだ。まぁよかったじゃねぇか」


上条(ぽんぽん。と頭を撫でてやりたがったけど……駄目だ。まだ身体は動かないらしい)


雲川「よかったぁ……当麻がいなくなったら私は……」


上条(芹亜が俺のことをギュッと抱き締める。抱きしめられても痛みがないのは流石カエル先生の腕の良さだと思うところだ)


上条「なぁ、芹亜。その抱きつきたい気持ちはわかるんだけど……人の目もあると思うし、あんまこう……な? わかるだろ」


雲川「……人の目なんて知らないのだけど」


上条「……ったく」


上条(……ま、いっか。カエル先生は俺らのことを知ってるわけだし……な)


上条「……そんで? さっきの爆発はあれか? 最近やんちゃなあれか?」


上条(はぁーっ。と芹亜が大きく息を吐く)


雲川「……ご察しの通りなのだけど」


上条「……だと思ったわ」


上条(はぁーっ。と俺も思わず息を吐いた)


上条「ったくよぉ……暴れるのはいいんだけど、目立ったことはして欲しくないんだけどなぁ」


雲川「全くなのだけど……。昨日も邪魔をしやがって。……あ、そうだ当麻。今からやろうか?」


上条「怪我人の怪我を広げるようなことは止めてくれ」


雲川「ふふっ……でもな当麻。ひとつだけ不可思議な点があるのだけど」


上条「というと?」


雲川「先ほどの爆発、あれだけの爆発にも関わらず怪我人は当麻と風紀委員の眼鏡の子だけなのだけど」


上条「ああ固法先輩のことな? あれだけガラスが飛び散ったのに怪我人がいねぇのか? すげーなおい」


雲川「全くだ……と言いたいところだけどそれだけなら私は不可思議とは言わない。なんせここは学園都市だ。誰かが能力でガラスの破片ぐらい消し飛ばしたといってもおかしくはないだろ?」


上条「まぁ、そうだな」


雲川「そのガラスの破片を吹き飛ばしたのが、『垣根帝督』本人でなければな」


上条「……マジで?」


雲川「マジなのだけど。監視カメラに『未元物質』が確かに写っていたのだけど」


上条「……わけわかんねぇなそれは」


雲川「そうなのだけど。当麻一人を狙うのならもっと違う手段を取るだろうし。テロにしてはやつらがそんなモノを起こすメリットが見当たらないのだけど」


上条「確かにそうだな……爆発を起こしたのがスクールじゃないって可能性は?」


雲川「誰が爆弾を作ったかはわからないが、設置したのは間違いなくスクールだ。付近の監視カメラにスクールのメンバーが写り込んでいた」


上条「なーるほどな……そりゃあ……わかんねぇな」


雲川「……まぁスクールの目的が何にしろ、『営業中』のビルを破壊したことは間違いない。どんな形であれ制裁を加えるのが筋だな」


上条「ああ、そうだろうな」


上条(そういう芹亜は、ひどく怒った様子で……ああ俺も見慣れたつもりだったけど今でも背筋が凍ってしまう。それくらいに芹亜の怒った顔は怖い)


上条(しかし……ホントどうにかしないとな。スクールは実質、垣根と心理定規だけだと思っていたが……なんかこう引っかかるんだよな。何か……とんでもないバックがついていそうな。そんな気がする)


上条(……考えものだな)


雲川「……という訳で当麻ぁ!!」ギュッ


上条「だぁっ!? 尚更抱きつくんじゃない! たわわにった宝物の恋がっ!?」


雲川「できそうかい?」


上条「やかましいわ! だから俺身体動かねぇんだって!! ちょストップ!! 鎖骨を! 鎖骨を噛むな!!」


雲川「かぷかぷ」


上条「ストォーップ!! ここは公共の場だろ? な? 落ち着け? 落ち着けよ?」


雲川「むしろそれがいい」


上条「よくねぇよ!? ちゃ、あ、あ、あぁあっ!?」


カエル「それじゃあ診察を……」


上条「あ、あ、あがっ……」


雲川「かぷかぷかぷかぷ」


カエル「げ、元気そうでいいね?」


上条「た、助けて先生ェ!? 痴女に! 痴女に襲われてる!?」


カエル「……ここの部屋は僕以外これないから……そうだね3時間あれば足りるかな?」


雲川「かぷかぷかぷかぷかぷかぷ」グッ


上条「サムズアップを止めろぉ!! そして先生も察しないで!? ここは怒るところだよ!?」


カエル「大丈夫。休憩料金はとらないよ?」


上条「そういう問題じゃねぇよ!? いつのまに緊急処置室はラブホと化したんですかぁ!? えぇ!?」


カエル「……おだいじに?」


上条「止めてよぉぉぉおお!? 出て行かないで先生!! 患者が! 患者が苦しんでるぅううう!?」


雲川「さあ当麻! 服を脱がすぞ!」ハァハァ


上条「あ、ホントにホントに出て行った! ちょ、あ、あ、あっ」


アアアアアアアアアアアアアアアァァアァァァァァアアアッッッッ!!!!



ー学園都市 とある歩道ー


上条「……死ぬかと思った」


上条(病室を数時間で退院させられた俺は自宅に向かって歩いていた)


上条(それは決して色々と……うん色々とあったから追い出されたというわけではなく、一日で治療が終わったわけで、先生の診察から『きっちり3時間後』に退院させられたわけだ)


上条(……まぁ過程はさておいて、一日で素人目にも危なかったであろう怪我の治療を終わらせ退院させられるところを見る限り、その辺は流石先生という一言に尽きるのだが……)チラッ


雲川「♪」ギュッ


上条(うーん、この)


上条「なぁ、芹亜。いい加減離れないか? ほら、さっきのとこはともかくここはさぁ……な。人目が多すぎると思うんだけど」


雲川「嫌。離れたくないのだけど」ギュウッ


上条(そう言って芹亜は更に力を入れて俺の腕を抱き締めてくる)


上条「……ほら。色々と不味いだろこれは」


上条(流石に周りの目がここは多すぎる)


雲川「不味くないのだけど。別にカップルとしか思われないのだけど」


上条「それが不味いんだよなぁ」


上条(芹亜がぷんっ。と頬を膨らませる)


雲川「不味くない! それに不味いとしても、今は不味くないってことでいいのだけど!」


上条「いやそれは不味いってことじゃないかな? かなり不味いんだよね? ん?」


雲川「……私は心配したのだけど。当麻が本当にいなくなっちゃうんじゃないかと思って」


上条「……」


芹亜「……だから当麻は私を心配させたのだから……私に安心を与える義務があると思うのだけど」


上条「……ったく」


雲川「♪」ギュウッ


上条(芹亜らしくない滅茶苦茶な理論だ。けど……そんだけ俺のことを心配してくれたんだろうな)


上条(まぁ今日ぐらいは仕方ねぇか。現に芹亜に心配をかけちゃったし。……まぁホントは色々不味いんだけどな)


上条(……ま、いいか。流石に芹亜もそこまで考えが無いわけじゃあるまいし、こうやって町中でベタベタとするのも何か考えがあるんだろう。だったらここは……芹亜に流されるかな)


上条「んじゃ部屋に戻るか」


雲川「さっきの続きをするのか?」


上条「ホントやることしか頭にねぇな。てか、流石に今日はもう出来ねぇよ。これ以上やると死ぬわ」


上条(芹亜が残念そうな顔をする)


雲川「それもそうかぁ……それじゃ一発だけ!」


上条「ねぇ、聞いてた? それ三時間ぶっ通しで襲われた人にいうセリフじゃないよね?」


雲川「むぅ……」


上条(芹亜が再び頬を膨らませる)


雲川「……当麻は私を心配させた」


上条(そう言って芹亜は俺の服の袖を力強く握りしめた)


上条「ったく……そう言われたら何も言い返せねぇよ」


雲川「やった!」ギュウッ


上条「だあっ! 後ろから抱きつくんじゃない!!」


上条(たわわな! 豊満な真夏の果実が……っ!)


雲川「〜♪」


上条「ったく……」


上条(あ、そうだ。というふうに芹亜が俺の目の前に飛び出してくる)


上条「? どうしたんだ芹亜?」


雲川「ということで当麻。早く一緒に部屋に行こうか。乙女が襲われたら大変だからな」


上条「……芹亜?」


雲川「な?」


上条(……そう言って芹亜は俺の方を見て笑った)


上条(一切目元を動かさずに)


上条「……そうだな。何かあったら大変だからな」


上条(俺がそう言うと芹亜は俺の頬に唇を近づけ)


雲川「……狙われているのだけど」


上条「……こんな町中でか?」


上条(芹亜が頬ずりをする……肯定ってことか?)


上条(……そして芹亜は俺の耳元で)


雲川「……道を変えるぞ。ここは危ないのだけど」


上条「……了解した」


上条(芹亜がにこっと笑い俺の頬にキスをする)


雲川「よぉーっし! そこのピンクなホテルに入るぞ当麻!」


上条「やる気満々じゃねぇーか!? てか、なんちゅうもん作ってやがんだ学園都市!! 色々アウトだろおい!?」


雲川「さぁて! 宿泊コースだぞ!!」


上条「いや、ちょっ、えぇっ!?」


雲川「〜♪」


上条(……と言う事で、そうして俺らはホテルに入った)


ーラブホテル内ー


上条(ホテルの外観の割に長すぎね? というほどの廊下を抜けた先にぽつん。と部屋が置かれていた)


上条(部屋番号は404号室。ホテルにとっては番号を飛ばすかどうかを検討する程のアンラッキーナンバー。また、なんでこんな部屋に……と芹亜に聞いてみると『いざというときの秘密基地』との事であった)


上条(ていうかここのホテルって三階建てじゃなかったっけ? という疑問も浮かんだのだが……多分ここも芹亜の何かなのだろう)


上条(……と、いう俺の予想は当たっているらしくラブホテルに似つかない厳重なカードキーと指紋認証を抜けた先にあるその部屋には、これまた似つかないエレベーターが設置されていた)


上条(そしてそのエレベーターで下っていった先にはどこまでも続く白い壁とエスカレーター……いや、これどうなってんだ? ちょっと頭が追いつかないよ?)


上条(そしてそんな俺の疑問なんて些細な事だというふうに芹亜は話しだした)


雲川「……さて、当麻。これからどうする?」


上条「いやぁ……どーするって言われてもなぁ……正直わからねぇよ」


雲川「まぁ、そうだろうな。私にも最善はわからん」


上条(そう言って芹亜はふふっと笑う)


雲川「まぁ、あれだ。とりあえずエスカレーターに乗ろうか」


上条(俺と芹亜はエスカレーターに乗り込む)


雲川「さて、この建物のことについて……色々疑問はあると思うのだけど……まぁそれは後から話すとして」


雲川「恐らく……というか、このタイミングから考えるにさっきの人物はスクールの一員だという予想でいいかな?」


上条「あぁ、そう……だと思う」


雲川「だとしたらさっきの爆発は……もしかしたらだが、当麻を狙ったものかもしれないな。だから……学園都市統括管理システムに不審なデータを送りこんで呼び出したわけだな」


上条「それで通報して、呼びだされて……さっきに至ると」


雲川「まぁ、そうだろうな。なんでまた……初春飾利だったか? がそのシステムに入れたかってのはまたわからないのだけども」


上条「なるほどな」


上条(……だとすると疑問が残るよな。なんでそんな回りくどい方法をとったのか。芹亜が言ったとおり今年初春さんがきたから成功したものの、学園都市統括管理システム? を使える人がいなければどうするつもりだったのか。そしてなぜあんなに大掛かりな爆発を起こしたのか)


上条(もし俺を狙ったというのなら、銃弾を使えば一発な訳だ。何せ俺に能力は右手があれば効かないけれど、実弾や刃物は関係なく効くわけで……ならそっちを使ったほうが間違いなく効果的なはずだ。……なぜそっちを使わない)


上条(……スクールは何を考えているんだ?)


雲川「あ、当麻。そろそろ着くぞ?」


上条「ん、ああ」


上条(そしてエスカレーターを降りた俺は芹亜に着いて行き、とある部屋に出たのであった)


〜〜〜〜〜〜



上条「えぇーっと……雲川先輩。ここは……もしかして?」


雲川「ん? ああ私の部屋だな。というかなんで敬語なのだけど?」


上条「いや、だってほら……あそこからここに繋がるとは思ってもいなかったというか」


上条(エスカレーターを降りた先で繋がったのは、落ち着いたインテリアと、驚くほど静かな空間で構成された芹亜の部屋だった。窓から見える景色は全て見渡せるのではないか? と思ってしまうほどに広く、いつの間にか夕闇に包まれつつある学園都市を確かに見下ろしていた)


雲川「ふふっ、だからこそだ。だからこそここに繋げているんだ。ここなら襲われないし、襲われたところで襲った側が痛い目を見るだけだ」


上条「……なーるほど」


上条(確かに芹亜の部屋はセキュリティ。という言葉では済まされないほどの警備がなされている。防弾防音防熱は当たり前。通報や不審な人物の探知があったとたんに……俺も詳しくは知らないが通報を受けた側はまず無事では済まない。そんな仕組みが出来ているらしい)


上条(そしてこの部屋がどこにあるのかというと……学園都市の要人が住むマンションにあるわけで、まぁよっぽどの物好きでない限り襲おうともしないし、そもそも襲うことすら出来ないのだ)


雲川「あ、そうだ当麻。コーヒーでも飲む?」


上条「ん? ああ貰おうかな」


雲川「ふふっ少し待っていて欲しいのだけど」


上条(そう言って芹亜はキッチンの方へと向かっていった)


上条(やがて、コーヒーを豆から煎る音が聞こえてく。まぁ芹亜もこんだけリラックスしてる訳で……とりあえず安心なのかな?)


雲川「当麻ーっ、ちょっと時間かかりそうだから待っていてほしいのだけど」


上条「りょーかい」


上条(しかしここが安全だからといって……こんだけリラックス出来るっつーのは流石というか。さっきまで『学園都市第二位』に狙われていたかもしれないというのに、そんなことまるで関係ないようにいつも通りに過ごしている)


上条(……なんつーかやっぱ芹亜ってすげーわ)


上条(と、考えているときだった)


プルプルプルプル プルプルプルプル


上条「んあっ? 電話か」


雲川「着信?」


上条「ああ、そうみたいだな」


上条(番号は……知らない番号だな。これはどこから……もしかしてスクール?)


上条 チラッ


雲川「……」


上条(芹亜はじっとこちらを見つめている……なんだ出ろってことか?)


上条(部屋の中はコーヒーを煎る音だけ……こんな静かな中での電話って地味に緊張するんだけどなぁ……)チラッ


雲川「……」


上条(……なーんて言ってる場合じゃねぇか)


上条「……よしっ」ピッ


上条「……もしもし?」


??『あ、繋がった! もしもし!? 上条当麻さんのお電話ですか!?』


上条「ん、あぁそうですけど……えぇと、どなたですかね?」


??初春『私です! 初春です! 良かったぁ繋がった……。ホントに良かったです……私のせいであんななっちゃって」


上条「あー初春さん、いやいや大丈夫大丈夫。割と日常茶飯事だから」


初春『日常茶飯事!? 爆発が日常茶飯事は色々と危ないですよね!?』


上条「たしかにそう……かも?」


初春『いや、かもって……。けど無事で本当何よりです』


上条(そういう初春さんは電話越しにでも伝わるほどに安心した様子で……まぁよかったと思う)


初春『あ、それで上条先輩今どこにいらっしゃるんですか!? 病院の先生からは、もう退院したと伺ったんですけど』


上条「え、あぁっと……俺んちだ。俺んち。ちょっと身体がきついからな。ゆっくり家でやすんでるとこ」


雲川「ここは当麻の家……っ!」


初春『……大丈夫ですか? なんか悶える声が聞こえますけど?』


上条「気のせいだ気のせい。ロンリーだから俺。マジロンリー」


上条「ところで今初春さんはどこにいるんだ? 爆発から……結構時間は経ってると思うんだけど」


初春『今ですね、さっきまで上条先輩が入院……というよりは治療ですかね? をやってた病院の目の前にいるんですよ。ちょっと風紀委員の呼び出しがかかりまして』


上条「呼び出し?」


初春『ええ、そうです。病院の目の前の建物が火事になってまして。交通整理のためだったりで、猫の手も借りたいような状況らしいんですよ』


上条「なるほど……」


初春『ええそうなんです。正直なところ新入生に任せないで上条先輩にも手伝って欲しいところなんですけど』


上条「厳しいなぁおい」


初春『ええ冗談です冗談。て冗談言ってる場合じゃないですよね。ホントすみませんでした』


上条「ああ、うん。いいよいいよ。初春さんのお陰で被害は最小限で済んだんだ。上出来だよ」


初春『そう言って貰えると助かります……』


上条「いえいえ……それでちょっと聞きたいんだけど……もしかして燃えてる建物って宿泊施設か何か?」


初春『よくわかりましたね上条先輩! ホテル……ですかね? がけっこう派手に燃えてるんですよ。幸い怪我人は出てないみたいなんですけど』


上条「やっぱりそう……」


上条(ということはやっぱりスクールとみて間違いないか……やっぱり俺が狙いなのか?)


上条(……待てよ。なにか引っかかる)


初春『ええそうなんです。こんな近くで二件立て続けなんて怖いなぁっていう感じなんですけど……て上条先輩聞いてます?』


上条「ああ聞いてる聞いてる。それで? その建物は……もしかして言いづらいかもしれないけど、こうなんつーかな……休憩料金のあるホテル?」


初春『休憩料金? そんなものがあるホテルがあるんですか?』


上条「いやなかった。そんなものなかったねうん」


上条(危ない危ない。とんだ勘違いで中1の心を汚すところだったよ)


上条「それで? だとしたら……どんなところが燃えてるんだ?」


初春『なんていうかこう……教会っぽいと言うんですかね? 中に結婚式場もついてるようなお高いホテルらしくて……えぇっと……ちょっと変わります!』


上条(変わる?)


ーーーホテル前ーーー


初春「し、白井さん! 上条先輩からお電話です!」


黒子「何、息を荒らしてらっしゃいますの……はい、今変わりますの」


黒子「お疲れ様です。白井ですの」


上条『ああ白井さんか。初春さんと一緒にいるんだな』


黒子「ええ、支部ごとに箇所が決められているので」


上条『なるほどな』


黒子「えぇえぇ。それで今回燃えている場所のことなのですが……学園都市に住む大人たちのためのホテルというべくですかね」


上条『……』


黒子「……何を考えているのかあまり詮索はしませんが」


黒子「学園都市にいくら学生が多いからと言って、大人が全く住んでいないという訳ではありませんの。当然、学校の先生方からその他研究機関の関係者。その他商業関係者から諸々まで」


上条『まぁ、そうだな』


黒子「そういう方々のためのホテルでして……簡易的ではないでしょうかありますが教会やチャペル。それに学園都市外の高級ホテル。もしくはそれ以上の施設があったらしいですの」


上条『なるほどな……あ、そういえば絹旗さんも一緒にいるのか?」


黒子「ああ、いえ。絹旗さんは……その、ちょっと気分が優れないようでしたので、先に帰らせましたの。無理をさせるのもあれですし」


上条『まぁあれだけの爆発の中にいたんだ無理もないな。それと固法先輩はどうだ? 大丈夫そう?』


黒子「ええ。先ほど意識が戻られましたの。あれだけの爆発があったにも関わらず、すり傷だけですんでいたようなので」


上条『なるほどな。それならよかった』


黒子「えぇえぇ……。それでは私達はこれから、交通整理がありますので」


上条『おう、そうだな。わざわざありがとな』


黒子「いえいえ、それでは」ブツッ


黒子「……それでは初春さん。さっき言ったとおり今から移動しますの。早速準備を……」


初春「は、はいっ!」


黒子「……なんでそんなにお顔が真っ赤なんですの」




ーーー雲川芹亜宅ーーー


ツーツーツーツー


上条(……さて)


上条「と、いうことで芹亜。そういうことらしい」


雲川「当麻の家っ!! 当麻の家ぇええっ!!」


上条「……いつまで悶てんだ」



〜〜〜〜〜〜


雲川「よし」


上条「やっと復活したのか。コーヒー冷めてるぞ」


雲川「ああ、さっきの間に淹れてくれたのか。それはありがたいのだけど」


上条「それは全然構わないんだけど……さっきの電話の内容は聞いてた?」


雲川「まぁなんとなくは……私と当麻の愛の巣窟が、あまりあまって爆発したという話だろう?」


上条「違う。なーんも聞いてねぇな。爆発と病院のところまでしか聞いてねぇな」


雲川「むぅ」


上条「頬を膨らますんじゃありません。概要だけ。ていうか俺もそれくらいしか聞いてないんだけど、病院の目の前にあるホテルが炎上してるらしいんだわ」


雲川「それは、愛がヒートアップ的な意味で?」


上条「違う。まだ普通に物理的に燃えてる。なんかチャペルとかもある結構いいとこのホテルらしいんだけど」


雲川「あーーー、ブライング施設とかパーティ会場がある、あの大きなホテルか」


上条「なんだ知ってんのか?」


雲川「まぁ……立場柄、会議することもあってそこに行くことがあったけど……そこが燃やされたのか」


上条「ああ。そこが燃えてて、今風紀委員が交通整理なんかで掻き集められてるらしい」


雲川「ふーん……なるほどな」


上条(芹亜は冷めたコーヒーを口に含み、一呼吸置いて飲込んだあと、仰ぐように天井を見上げた)


雲川「それは1年目というか2日目の子達も呼ばれているんだな?」


上条「あぁ、話を聞く限りな。うちの3人も……まぁ一人はちょっと色々あって行けてないんだけど」


雲川「なーるほど……じゃあ今、ホテル前以外のところは手薄になっているわけだ」


上条「……というと?」


雲川「だってそこは第6学区の駅前近く。ただですら人の多い密集地域だ。そこで交通整理となると、人や車の動きを考えるとどう考えても建物の前だけでは済まないのだけど。駅前から通りの端まで、どうにかこうにか動かさないといけない」


雲川「しかもその対象はホテル前だけじゃない。さっきのデパートの前もだろう? 私の記憶が正しければ……たしか一本違う通りだったな」


雲川「そうなると当然、多くの人が必要になる。緊急時に新人……というか本当入ってすぐの子が呼ばれるなんて相当人手の足りていない状態な訳だ。少なくとも駅周辺数キロに支部がある風紀委員とその範囲外でも現場に行ける委員は、ほぼ全員駆りだされていると思うけど」


雲川「するとどうなるか? 確実にそこ以外は手薄になる。つまり『監視カメラはあれど、取り締まる人はほとんどいない』わけだ。目があったって手段が無ければ見ることしかできないからな。それに、やつらからしてみればカメラに映ることなんて些細なことだ。ということは」ピッ


上条「なんだ急にテレビなんて点け……」


アナウンサー『学園都市の第6学区で3軒目の爆発が発生しました。場所は駅前からほど遠いところにある酒造場で、警備員は同一犯の可能性が高いとの見方を……ブツッ


雲川「こういうことだ。取り締まられる前にまた次のところが燃やされる可能性があるのだけど」


上条「……何が目的でこんなことを」


雲川「それはスクールじゃなければ、もしかしたらスクールですら、わからないのかもしれないけど」


上条「スクールですら?」


雲川「ああ。あくまで私が想像しうる限りだけど……スクールが、というか垣根帝督がこんなことを起こすメリットは何もないのだけど。むしろこんな事件を起こしてしまえば……学園都市から何かしらの制裁を受けることになるのが筋だろう?」


上条「……まぁ、そうだな。学園都市に少なからず損害を与えているわけで……。もし力を示したい。という目的だったとしてもやり方が荒すぎるな」


雲川「ああ。その目的だとしても、あまりにも『お粗末』な上、他の暗部組織や学園都市自体になんの圧力もかけられないということは……仮にも学園都市第2位に選ばれる男だ。理解しているはずだけど」


上条「そうだよな……だとしたら何でこんなことを」


雲川「そんなリスクを冒してでも、何か得るものがあると判断したんだろう。……あくまで推測にすぎないのだけど、そうなると『何かしらの組織』がスクールと取り引きをして今回の爆発を引き起こしているっていうのが私の予想かな。まぁ奴らが単独で暴れまわっている可能性も否定は出来ないが」


上条「なるほどな……だったら何を得るために」


雲川「それがわからないから、困っているのだけど」


上条(ハァーっと息を吐きながら、芹亜はダラーンと椅子にもたれかかる)


雲川「……けど、とりあえずはあれだ。さっきのラブホが燃やされていないあたり当麻を狙っていないということがわかったのだから……目的はどうであれやつらの動きを止めることがまずは先決だ。それから何かしらの制裁を加えるとして……当麻動けるか?」


上条「可愛い可愛い雲川先輩のお願いとなれば、喜んで動きますのよ?」


雲川「それは頼もしいけど……それじゃあさくっと止めに行こうか。さっそく車を寄こさせよう」


上条「ああ。そうだなっ……と。ところでそうは言っても場所はわかるのか?」


雲川「さっきも言っただろう。人はいないが目はあるんだ。場所ぐらいはすぐにつかめる」


上条「りょうかい。それならいいな。さっさと移動しよう」


雲川「そうだな……あぁ当麻」


上条「ん? どうした……て、うぷっ!?」


雲川「んっ……んんっ……んぷっ」チュクチュク


上条(芹亜が不意に口づけをし、求めるように舌を絡ませてきた)


雲川「んっんっ……ぷはぁ」タラーン


上条「……よだれ垂れてんぞ」


雲川「じゃあ拭きとらなきゃな……んっ」


上条(そう言って芹亜が俺の口の周りを舐め回す)


雲川「これで綺麗になったか?」


上条「……ったく」


雲川「なんだ。まだ物足りないか……って、っ!? にゃ!? わ、私の口の周りはんんっ!!」


雲川「んんっ……んっ……ん…………あっ」チュッ……チュチュ


上条「……お前の口からよだれが垂れてたっての。さっきのじゃ綺麗にならねぇだろうが」


雲川「う……うん」


上条「……んじゃ行くか。下に降りる頃には着いてるだろ」


雲川「と、とうま!」


上条「? どうした芹亜?」


雲川「……ちょっとムズムズしてきちゃったかもしれないのだけど」


上条「おっ始めるからだろうが、おい」




ーーー第6学区 路地裏ーーー



??「さっさと運んだらどうですか? そろそろこっちにも警備員が回ってきますよ?」


??「わかってるっての。あいつらが動くのが遅ぇんだろうが」


部下1「はぁ……はぁ……なんで、人力で運ばないといけないんだ……」


部下2「全くだよな。回路とスイッチだけとはいえ、中々の重さだぞ。……『垣根』さんも少しは手伝ってくれればいいのにな」


??垣根「なんか言ったか!? あぁ!?」


部下1、2「な、何でもないです!」


垣根「だったらいいんだよ。クソが」


??「随分荒れてるみたいですね」


垣根「うるせぇ『弓箭』。テメェも荷物運べよ」


??弓箭「なんでですか。私には別の仕事があるんですよ」


垣根「荷物運ぶ途中は何も仕事ねぇだろうが。協調性がなさ過ぎて人と協力プレイ出来ませんって正直に言え」


弓箭「酷いですね。せっかく手伝ってあげてるのに」


垣根「うちのメンバーなんだから当然だろうが……ったく」


垣根「心理定規と誉望は?」


部下3「今、所定の位置についたとの連絡が」


垣根「オーケー……ヘマすんなと伝えとけ」


部下3「了解です」


弓箭「……それで、まだ今回の目的は教えてくれないんですか?」


垣根「ああ。っつーかさっきから言ってるけど俺だって知らねーっての。頼まれたからやるだけだ」


弓箭「ふーん……そうですか」


誉望『垣根さん、お疲れッス』


垣根「ああ? どうした?」


誉望『さっき、雲川と上条が動いたっていう情報が入ったんすよ。もしかしたらこっちに向かってるかもしれないッス』


垣根「別に構わねぇよ。あいつら二人きたとこで対して変わらねぇ。今日は弓箭もいるしお前だっているんだ。遠くから撃てば終わりだろ」


誉望『……二人を殺るんすか?』


垣根「ああ。なんか問題があるか? これさえやり遂げりゃ何の問題もねぇだろ? あぁ?」


誉望『……了解ッス』


垣根「……んじゃやるか」


垣根「お前ら荷物置け。壁にその回路とスイッチつけろ」


部下1「さっきのとこまでと一緒の手順でいいんですよね?」


垣根「ああ。昨日までにあらかた設置は終わってるからな。それさえつけりゃ完璧だ」


部下2「了解っす」


垣根「……あと3つだ」


弓箭「何がですか?」


垣根「爆破する建物の数だ……あと3つ、あと3つやればいいんだ」


垣根(……この爆発さえやりきれば)


部下3「垣根さん! 準備出来ました!」


垣根「よし。んじゃ荷物持って移動するぞ。通りのバンに戻れ」


部下1、2、3「はいっ!」


垣根「それじゃあ俺らも移動だ。さっさ歩け」


弓箭「了解です」


垣根(もう俺らに恐れる場所はねぇ)


垣根(たかだか230万人の世界で上に怯えてたなんてよくよく考えたら馬鹿げた話だよな。何が理事会だ。何が学園都市の頭脳だ。ふざけやがって)


部下1「垣根さん、座席どうぞ」


垣根「ああ」


垣根(設置したところから、バンに乗り込んだ俺らは走り去る)


ズドドドドドドドドド


弓箭「……爆発したみたいですね」


垣根「……そうだな」


垣根(ビルが流れるように崩れ落ちて行く)


垣根(……くだらねぇよな)



〜〜〜少し前。4ヶ所目の爆破現場近く〜〜〜


黒子(一体どこですの……!!)シュッ


黒子(探しはじめてから暫く経ちましたが……まだ手掛かりすら掴めません)シュッ


黒子(恐らく……爆破している人物は同じ……集団か個人かはわかりませんが……)


黒子(……早く見つけないと!)シュッ


初春「ちょ、ちょっと白井さんっ! れ、連続テレポートは少し気分が」


黒子「そんなこと言っている場合ではありませんの! 早く見つけないと」シュッ


初春「は、はわわわわわ!! 私も解析する仕事があるんですよ!?」


黒子「飛びながらやりなさいな!!」シュッ


初春「無茶ですよ!? 通信が安定しないですし、て高い高い! 私高いところダメなんですよ!?」


黒子「もう少し我慢して下さいまし! 初春さんだって壁にめり込みたくはないでしょう!?」


初春「そ、それは嫌ですけど!」


黒子「なら悪いですがこれでいきますの!」


初春「は、はい!」


黒子(流石に半日動き回ってからのテレポートは流石にキツいですの……集中力が切れてきました)


黒子(ですが……目的地には大分近づいて……)


黒子 シュッ


初春「うわっ!」ドテン


初春「きゅ、急に下ろさないでくださいよ!」


黒子「はぁ……はぁ」


初春「白井さん大丈夫ですか!?」


黒子「大丈夫ですの……それより早くそこで解析を」


初春「こ、ここって? ビルの屋上みたいですけど」


黒子「ずっと探し回していましたの……昨日内業をしたときにちらっと見ただけでしたので実際使えそうかどうかは不安でしたが……」


黒子「……そこにパネルがありますでしょう?」


初春「えぇ……ってえぇっ!? これって!?」


黒子「177支部の屋上にありました。支部のサーバーですの」


初春「まさかですけど……」


黒子「直挿しで調べたら早いのではなくて?」


初春「……色々大丈夫ですかね? あとで問題になったりしないですか?」


黒子「証拠の隠蔽は出来ませんの?」


初春「出来ないことはないですけど」


黒子「ならよし。早くやって下さいまし」


初春「えぇ……わかりましたけど…………いや、中に入った方が早くないですか?」


黒子「正直、今の状態で中までテレポート出来るとは思いませんですし。それに中に入るよりこっちのほうが早いですの」


初春「……了解です……それじゃあやりますよ」


初春「ケーブルを繋いで……ロック解除して……っと。接続完了です。……というかなんかあれですね。いいことをしてる気がしないんですけど」


黒子「最終的によければ万事解決ですの」


初春「そんなもんですかねぇ……学園都市統括管理システムから監視カメラシステムに侵入。……セキュリティシステムから探知されましたが……コードを組み込んでイレギュラーを解消。後には残らないように足跡を消して……よし、あとは解析作業を進めるだけです。やっぱりというかすごいですね! さっきまでの何十倍もの速さで繋がっていきます! 学園都市内なんでフリーのワイファイでも対して変わらないと思ったんですが全然違いますね!」


黒子「なんせ科学が発展した街ですの。きっとネットワーク技術は世界の何百倍でしょうに」


初春「ホントそうかもしれないですね……今、学園都市全体のカメラに繋がりました。あとはさっきの爆発があったところに集中して、そこからログを遡っていけば……」


ズドドドドドドドドド


初春「空振が……!」


黒子「また爆発ですの!!」


黒子(……これで4ヶ所目……何ヶ所爆破するつもりですの!!)


黒子「初春さん! 監視カメラの解析はまだですの!?」


初春「ちょっと待ってください……今爆発したところの半径1kmに監視カメラを絞ります……よし、絞り込み完了。それじゃあ後は最後のコードを解けば……」


黒子「急ぎなさいな!」


初春「急かさないでくださいよ! これでも急いでるんですから……!」


黒子(爆発のペースが早いですの……1箇所の爆発は今日の午後二時頃。でしたが、以降の3つは午後6時の爆発を皮切りにここ1時間の間に立て続けに起きている……。前々から準備していたのでしょうか?)


黒子(だとしたら何の目的で? 何も考えていない可能性もあるかもしれませんが……こんなことして何がしたいのでしょうか?)


初春「……出ました!」


黒子「どうでしたの!? 犯人は!?」


初春「ああ、そんなに肩を揺らさないでください! ……映像を見てもらえばわかると思いますけど、爆破を行ったと思われる人物が映り込んでいます。どうやら複数人らしいようで……学園都市内の全学生のデータと示し合わさないければいけないので爆破犯の顔から個人を特定するのにはもう少し時間が掛かりそうですが……移動手段は特定出来ました」


黒子「本当ですの!?」


初春「はい……ナンバーが0✕2△の社用車登録された黒色のバンです。監視カメラの情報から行くと今、すぐそこの大通りを北上してます」


黒子「社用車登録? ……盗難車両の可能性もありますね。了解ですの……それじゃあ移動しますの!」


初春「ま、またテレポートですか!? というか白井さん大丈夫ですか!?」


黒子「ご心配には及びませんの。走って追おうとしたって、どうせ車に追いつくことが出来ませんですし」


初春「で、ですけど」


黒子「疲れたところで死ぬわけではありませんの。それにテレポートするのが一番手っ取り早いですの」


黒子「なので……私は先に進みますので、初春はここで引き続き監視と解析をお願いしますの!」シュッ


初春「……了解です」


ーーー同時刻 とあるセダンの中ーーー


雲川「……誰かが監視カメラに侵入しているみたいだな」


上条「なんだと?」


雲川「綺麗に足跡が残さないように掃除してるみたいだけど……一回踏み込んだ時点で足跡をが残ることに残念ながら気づいてないらしい。まぁ……大抵の人は気づかないくらい綺麗に掃除されてるけど」


上条「なるほどな……よくわかんないけどそれって褒めてるのか?」


雲川「及第点なんてもんじゃない。もしかしたら私かよっぽど詳しい人。それこそ開発者じゃなきゃ気づかないほどの腕前だけど……ホント凄いな。今まで侵入されたことは何度かあったけど……ここまで上手く入り込む、それも個人は初めて見た」


上条「……芹亜がそこまで言うなんて相当だな。それで? 何を見てるんだそいつは?」


雲川「私達と同じだな。垣根の後を追ってるらしい」


上条「他の暗部組織が侵入している可能性は?」


雲川「無いな。奴らが動くかどうかは別にして、私から位置情報は送信しているのだけど」


上条「それなら、ないか」


雲川「ああ。ただな……一つ気になることがあるのだけど」


上条「気になること?」


雲川「ここに侵入している接続先が……ピンポイントで『177支部』のサーバーだけど」


上条「……マジで? だったら風紀委員が動き出したっていうことは……」


雲川「無い。こういう事態が起きれば先に警備員が動くはずだ。それに警備員であればわざわざ侵入しなくても監視カメラに入れるし、もっと言えば風紀委員だって監視カメラのアクセスはコードさえ打てば入れる。ということは、侵入している人物は、177支部にサーバーがあることを知っていて、なおかつコードを知らない上、学園都市統括管理システムに侵入することができる人物になるけど」


上条「……」


雲川「思い当たる節がある?」


上条「むしろ……ねぇ。一人しか思い当たらないっていうか」


上条「……杞憂に終わればいいんだけどさ」ピッ


雲川「待て。電話をするのはマズイ」


上条「なんでだよ?」


雲川「考えろ? なぜ彼女がカメラに侵入したことを当麻が知ってるんだ?」


上条「そ、そうだけどさ。このままだったらどうなるか」


雲川「今は落ち着け。やつらだって……あくまで一般の人達に危害を与えたらどうなるかはわかってるはずだけど……それに、彼女に関わらず警備員、風紀委員対策はもう打ってある」


上条「対策?」


雲川「ああ、当然そこまで折り込み済みだけど。案件が案件だから一般人が入れないようにはしてある」


上条「芹亜がそういうなら安心……かな」


雲川「ふふ、褒めてくれてもいいのだけど」


上条「よくやった。よしよし」ナデナデ


雲川「ふにゃあ」


ーーー学園都市。とある大通りーーー


黒子(……早く、早く追いつかないと!)


黒子(追いはじめてから数分経ちましたが……距離的にはそろそろ追いつくはずですの)


黒子「初春! あと距離はどれくらいですの!?」


初春『えぇーっとですね……今の白井さんと車の位置と速度から考えて……あと3kmくらいです』


黒子「了解ですの!」


黒子「あと3kmなら……1分もかかりませんの!」


初春『白井さん、本当に気をつけてくださ……てあれ? あれぇ!?』


黒子「どうされましたの!?」


初春『く、車の情報が消えました!!』


黒子「なんですって!?」


初春『外部からジャミングされてるみたいで……けど、これくらいならすぐ解けます!!』


黒子「頼みますの!」


黒子(こんなタイミングで……! 初春さんの情報が頼りですのに!)


黒子(上からじゃ、夜の暗さと相まってナンバーを確認することは不可能ですし……何よりどの車がバンなのかすらわかりませんの!)


初春『ここを……こうして、こうして……よし解けた……っ! て、ええ!? そんな!?』


黒子「何がありましたの!?」


初春『バ、バンの情報が……大変なことに』


黒子「何が!? 一体何が大変ですの!?」


初春『モニター上に……何十台ものバンが示されてます!? それにナンバー情報も数秒ごとに点々としていて……どれがどの車か特定出来ません!』


黒子「……くっ! それじゃあ目視で探すしかないということですの!?」


初春『残念ながら……そうなります』


黒子「……」ギリッ


初春「で、ですけど実行犯の名前はヒットしました!」


黒子「本当ですの!? 一体誰が!?」


初春「じ、実行犯の名前は……」


ーーーとあるセダンの中ーーー


初春『土御門元春です!』


上条「ぶっ!!」


雲川「どうした当麻? 何かあったか?」プルプル


上条「何で土御門をチョイスした!? てか笑ってんじゃねぇーよ!?」


雲川「だって……なぁ? 適任がそいつしかいなかったからなぁ」


上条「えぇ……」


雲川「まぁまぁまぁ……安心しろ。奴には言ってあるし掲示されてる顔だってまったくの別人だ。スキルアウトから適当に選んでおいたけど」


上条「それなら……いいけどさぁ。だったら土御門の名前にする必要が無くないか?」


雲川「まぁ……ノリかな?」


上条「ノリって……他の警備員とかの中には土御門のこと知ってる奴だっているだろうに。ほら、黄泉川先生とか」


雲川「むしろそれが本望だな。違うということがわかれば更に捜査は混乱する。万が一の偶然がない限り垣根にはたどり着けなくなるけど」


上条「それなら……いいか?」


雲川「いいさ。一人でも巻き込まないのが理想だからな」


雲川「ま、というわけで奴らのところまであと数分だ。初春さんのところから見て真南の方向だな」


上条「そこから操作してたのか」


雲川「そらそうだ。少しでも偶然は避けたいけど」


上条「芹亜、流石だな。すげぇよ」


雲川「褒めてくれてもいいのだけど?」


上条「よーしよしよし」ナデナデ


雲川「うなぁ」


ーーーとあるビルの前ーーー


部下1「垣根さん到着しました!」


垣根「着いたか……」


垣根(……これが終わればあと二箇所。直ぐだ。直ぐに終わる……)


垣根「……」


部下2「か、垣根さん?」


垣根「あぁ? 何ダラダラしてんだ。さっさ準備にかかれ」


部下2「は、はい!」


部下1「急いで準備するぞ! おい部下3お前もさっさ動け!」


部下3「……」


部下1「ぶ、部下3?」


垣根「あ? どうした? お前もさっさ動け……!?」


弓箭「!?」


部下1「おい、どうした部下1……!? お前……」


部下2「……寝てんのか?」


部下1「それにしちゃあ……ぐったりしすぎだろ?」


弓箭「気を失ってるみたいですね……」


部下1「何でまたこのタイミングでお前……さっきまで運転してただろうが」


部下2「お前なんかあったっけ……え!?」


ズバァァァアン!!


弓箭「な、なんの音ですか!?」


部下1「お、おい天井が凹んでるぞ!?」


部下2「な、なんだこりゃ……何か降ってきた割りには……て、おいこれ人の形……」


スタッ


??「……」グイッ


??「超……許せないです!」ブンッ


部下1「ぎゃあっ!?」


部下2「うわぁっ!! 目が! 目が回る!」


弓箭「何ですか!? 車が飛ばされてる!?」


垣根「……チッ! めんどくせーな!!」スゥッ


部下1「ぐわぁあああっ!!」


部下2「うっ!!」


弓箭「……!!」


垣根「……間にあったか」


絹旗「……空中で車が止まりました」


部下1「……た、助かった?」


部下2「……何が起こったんだよ」


弓箭「暗黒物質をクッションに……流石学園都市第2位ですね」


垣根「あぁーもう……クソッ! お前ら荷物を調べろ! 故障してたら台無しだぞ!」


部下1「け、けど部下3が!」


弓箭「大丈夫です。頭をぶつけた感じはないですし」


部下2「そ、それならいいけどさ!」


垣根「……チッ、こんなこと出来んのは……アイテムんとこのガキか!」


??絹旗(飛ばされた車の周りを超黒色の物質が包み込みんで……ゆっくりと車が地面へと降ろされていきます)


絹旗「……さっきデパートでチラッと見えたあれに……間違いないみたいですね」


垣根「……ったく何しに来やがったんだ……あいつには何もしてねぇだろ」


垣根(つーか、あいつに何かしたってんなら……第4位が来るはずなんだが……どういうこったおい)


垣根「けど……俺らを狙ったことに間違いはねぇーよなぁ? ……人違いでしたじゃ済まねーぞ」


垣根「弓箭、やれ」


弓箭「了解です」スチャッ


弓箭「見た感じ子どもみたいですけど……まぁこんなことしたのが運の尽きですね」


弓箭「後悔してください。リアガラスごとやるんで皆さん注意してくださいね?」


部下1「ちょ、弓箭お前、車内から発砲は……!!」


タァァァン!!


部下2「み、耳が!?」


絹旗「……! 銃弾!?」


絹旗「……うっ!!」


弓箭「ヘッドショット……ふふ完璧ですね。これで超絶美人スナイパーへの道が繋がりましたよ」


垣根「繋がってねーよ。つーかもし本当にあいつだとしたら……」


カランカラン


絹旗「……銃まで持ってやがるんですか」


弓箭「何!? 効いてないじゃないですか!」


垣根「まぁ……だろうな。だがこれで確信が持てた」


垣根「おらっ!」


部下1「あ、危ないですよ垣根さん! ドアをそんな急に開けちゃ!」


垣根「うるせぇ! それどころじゃねえんだよクソ!」


垣根(ドアを降りた先にいたのは……ああ、やっぱ予想通りだ。『窒素装甲』のガキじゃねぇーか)


垣根「ああーもう、めんどくせぇなホント……テメェ何しにきやがった。つーかどっからついてきてたんだよ」


絹旗「……さっきの爆発のところからです」


垣根「……どうやってついてきやがった」


絹旗「屋根に超引っ付いてました。案外誰も気づかないもんですね」


垣根「そっからか……まぁよ……くはねぇけどなぁ」


垣根「つーか……さ。あーもうよく聞け? いいか? 俺はテメェに何かするつもりはねぇ。だから今すぐ回れ右して家に帰りやがれ。そしたら見逃してやる」


絹旗「見逃してやる?」


垣根「あぁそうだ。別にテメェ含め……誰かとやりあうつもりはねぇからな……つーかテメェを一方的にボコる時間さえ勿体ねぇし、実際今テメェとだべってるこの時間すら勿体ねぇんだよ。だからさっさ失せやがれっつってんだ」


垣根「おら、さっさお前ら荷物運べ。つーか荷物無事だったか?」


部下1「はい! 無事です!」


垣根「ならいい。ほら、急げ」


部下2「はいっ! ……てうわぁっ!」


垣根「……!? っぶねぇ!!」


弓箭「……」パンッ!


ツタァァァン!!


絹旗「……ピンポイントで当てましたか」


垣根「テメェ……何投げやがった」


絹旗「さっき拾った空き缶です。クソみてぇなテメェらには空き缶が超お似合いだと思ったんで」


垣根「……この野郎。俺が言ってたこと聞いてたか?」


絹旗「クソ野郎のいい分なんて聞くわけないです。ていうか野郎じゃないです撤回してください」


垣根「……あぁ前言撤回だ」


垣根「テメェはここで俺が殺す。何も抵抗させずに一方的に殺す。……黙って回れ右すれば助かったのによ……生きて帰れると思うなよ?」


絹旗「こっちの台詞です。テメェが何者かは知りませんが……先輩の敵は討ちますよ?」


〜以下執筆中〜


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1: SS好きの名無しさん 2016-08-27 00:32:34 ID: GUaiF_pF

期待

2: SS好きの名無しさん 2016-09-22 01:09:13 ID: S8Gvu6zU

テンポも良くて面白い!
続き楽しみに待ってます。

3: SS好きの名無しさん 2017-02-26 00:23:54 ID: cm3ssGrJ

おぉ~。
これからどんな感じになっていくのか期待です!
御坂妹「ま、精々頑張ってください。とミサカはエールします。
そして、お姉さまはいつ出ますか?、とミサカは催促します。」

4: 鈴谷 幻一 2017-03-12 01:34:04 ID: 8tdf5hd3

いや~、面白いですね~。
続きを早く読みたいところです!

5: 鈴谷 幻一 2017-03-13 16:27:48 ID: wnoPW4Xj

できればハーメルンに投稿してくださいませんか?
結構面白いので、ハーメルンだと良い感じに読んでくれると思いますよ。(^^)b

6: SS好きの名無しさん 2019-03-29 09:25:11 ID: S:Jf15rz

雲川先輩 可愛い(*≧з≦)よねぇー
てか、可愛すぎぃ~
可愛いな!コンチクショウメ

7: SS好きの名無しさん 2019-05-22 10:46:17 ID: S:Y7Xxrn

やる気がねぇんなら最初から書くんじゃねーよクソ死ねや

8: SS好きの名無しさん 2019-05-22 10:46:53 ID: S:QVjNCw

やる気がねぇんなら最初から書くんじゃねーよクソが


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1: 鈴谷 幻一 2017-03-13 16:26:11 ID: wnoPW4Xj

結構良い"とある"小説です!
美琴がまだ出てませんが、近いうちに出るでしょう。
自分は、この作品に期待をしています!


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