2016-09-24 03:37:15 更新

概要

ここは鎮守府の一角、普段は誰が使うでもない薄暗い地下室。
そんなサピれた一室も金曜日だけは穏やかな活気に包まれる。
鎮守府Bar『HAYASHIMO』本日開店


前書き

電波が降って湧いて出ました。
もしかしたらシリーズ化するかもしれない(白目)


今日は噂を聞きつけた艦娘が一人・・・。

扉の向こうのマスターがそっと微笑み、ドアベルの音が来訪者を快く迎え入れてくれる。


早霜「ようこそ、鎮守府Bar『HAYASHIMO』へ―――」


鎮守府Bar『HAYASHIMO』本日開店


―――――――――

那智 ~初めてのお客様~


早霜「ふふふ・・・。那智さん、いらっしゃい」

那智「ほお、ここが噂の鎮守府バーか。間接照明がいい味を出しているな」にっこり

早霜「内装にはちょっとこだわってみたんです。お褒め頂いて、うれしいわ」ニコニコ

那智「うむ、この落ち着いた雰囲気、流れるジャズ、やはりバーはこうでなければな」うっとり

早霜「私は・・・、私はあまり鎮守府の外へ出ないから本物は分かりませんが、満足いただけたのなら何よりです」

那智「ほう、そうなのか。中々の出来具合だと思うんだが、どこで知識を仕入れたんだ?」

早霜「漫画とか、ドラマとか・・・。見様見真似なんですけど、」

那智「ふむ、ならば今度一緒に街に言ってみるか?」

早霜「ええ、是非お願いしますわ」

那智「まあ、貴様にはまだ酒は早いかもしれんがな」ハハハ

早霜「那智さん、立ち話もなんですし、御掛けになってくださいな」

那智「ああ、失礼する」


那智「しかし、思ったよりも人が居ない・・・。というか客は私だけか?」

早霜「ふふ、実は今日が開店初日なんですよ」

那智「・・・何だと?確かに貴様本人からここの事は聞いたが、それは本当か?」

早霜「ええ、ずーっと決めてたことなんです。最初のお客さんは那智さんがいいなって」

那智「それは光栄なことなんだが、何故私なんだろうか?」

早霜「いつも司令官と一緒に達磨をお飲みになってますよね?私、あの空気がとても好きなんです」

那智「空気、か」

早霜「私はあまりお酒を飲めませんけど、いつも大人っぽく呑んでいる那智さん、かっこいいなって思って」

那智「なるほど、褒められるのは悪くはないが照れるな。だが私だけが客、というわけでもないのだろう?これからどうするんだ?」

早霜「その件ですが、できれば口コミで広めてたいと考えているんです」

那智「隠れ家バーみたいなやつだな。わかった、せっかくだから姉妹たちや他の連中にも伝えておこう」

早霜「ふふふ、ありがとうございます」


早霜「ところで、お飲み物はどうします?メニューはこちらです」

那智「うむ、どうしろもこうしろも、やはりここはひとつ…」

早霜「サントリーオールド、『ダルマ』ですか?」ニッコリ

那智「なんだ、わかっているなら話が早い」

早霜「呑み方はいつも通り、ロックで?」

那智「ああ、頼む」


カラン

トットットットッ…


早霜「お待たせしました」スッ

那智「あぁ、ありがとう」クイッ

早霜「あら、いい呑みっぷり」

那智「私と可愛い後輩、二人きりの静かで極上の空間で好物なダルマだ。不味いわけだろう?」

早霜「あら、お上手ですね」

那智「何、本当の事を言ったまでだ。ふふ、今夜ばかりは呑ませてもらおう」ニコッ

早霜「…」ジー

那智「…ん?なんだ、私の顔に何かついているか?」

早霜「いえ、そうではなくて…。那智さんはお酒を呑む時におつまみは食べられないのですか?」

那智「ツマミ、か。別に食べないという訳では無いんだがな…」

早霜「無いんだが…?」

那智「色々と試してみたのだが、なかなかこれと言って合ったツマミがなくてなあ」トオイメ

早霜「あら、そうだったのですか?」

那智「うむ、さすがにナッツばかりだと飽きてしまう」

早霜「ナッツ以外の選択肢はなかったんですか?」

那智「むしろ私がナッツ以外の選択肢を知らなくてな…。何かあれば試してみたいではあるのだが、チーズはあまり好みではなかったんだ」

早霜「…そういうことなら、少々お待ちくださいね」トテトテ

那智「ふむ、何を用意してくれるのだろうか」ワクワク


5分後


早霜「お待たせしました。スモークサーモンのマリネです」

那智「マリネってこんなに早くできるものだったか…?」

早霜「実は那智さんに召し上がって貰おうと思って用意してたんです」

那智「…余計なことかもしれんが、私にその気はないぞ?」

早霜「……」ジロリ

那智「…いや、その、済まない」

早霜「要らないなら下げますが…?」

那智「た、食べる!食べるに決まっている!」パク

早霜「…いかがでしょう?」ドキドキ

那智「むむ?!う、美味い!美味いぞ早霜!」グビッ

早霜「…ふふ、…ふふふふ」

那智「っぷは!なるほど、これは合う!ダルマとの相性は抜群に合うぞ?!程よい塩気と胡椒の香り、そしてスモークのスモーキーな風味がダルマの味を引き立ててくれる!」

早霜「良かったです…」フゥ

那智「それだけではないな。オリーブオイルの油っぽさは玉ねぎのさっぱりとした味が中和してくれて、それにこの爽やかな酸味は…!!」

早霜「ええ、実は隠し味にレモン果汁とアプリコットを入れてみたんです」

那智「アプリコット?たしかそれはオレンジで作ったジャム、だったか?」

早霜「その通り、ジャムです。これらを入れる代わりに通常入れるワインビネガーは入れてはいません」

那智「なるほど、だからこんなにスッキリして後を引かない酸味だったのか。早霜、貴様は良い嫁になるな…」

早霜「うっ、そ、その、…あ、ありがとうございます」テレテレ

那智「むむ?うむむ…。あ、あまりの旨さに酒が進みすぎて飲み終わってしまった…」

早霜「じゃあおかわり、いきますよね?」

那智「もちろんだ!もう一杯ダルマを…!」

早霜「ふふ、那智、とっておきがあるんですよ?」

那智「とっておき、だと…」

早霜「ダルマはダルマでも、こういうダルマはいかがでしょう?」スッ

那智「そ、それはッ!甘みの中にもガツンとした酸味であとを引かず、それでいて香りも芳醇な日本古酒の最高傑作!近年では海外での人気も高まり、尚且つその値段故に中々手を出せない高級酒!『達磨政宗』だと?!」ワナワナ

早霜「…ご説明ありがとうございます」

那智「まさかこんなものまで仕入れているとは…。早霜貴様…、……どこから引っ張り出したんだ?」

早霜「………間宮さんや鳳翔さんにお願いしました」シラー

那智「早霜、ルートの話じゃないぞ。……予算だ」

早霜「うふ、うふふふふ、うふふふふふふ。それを聞いてしまいますか、那智さん?」クックック

那智「黒い、黒いぞ早霜!何故可愛いお前からそんな黒いオーラが出てくるんだ?!何をした?!」アワアワ

早霜「…聞きたいのですか?…聞きたいのですね?……聞いてしまうのですね?」

那智「っ!!」ゴクリ

早霜「ま、私財を投じただけなのですけれどもね」フッ

那智「…期待して損したのだが?」

早霜「那智さん、お酒を呑むとノリが良くなるのですね。ちょっと楽しかったです」フフフ

那智「わ、私だって抜くときくらい抜くぞ!だが、私財って…、まさかこの店の物すべてそうなのか?」

早霜「ショバ代がかからなかったので安くは済んでますよ?」

那智「ショバ代とか年頃の女子は言わないからな?しかし、溜め込んでいたのだな…」

早霜「私、趣味とかないですし、あまり鎮守府の外にも出ませんし」シンミリ

那智「……ふむ」

早霜「司令官みたいに卑猥な冊子を買うわけでも銀バイ中毒の陽炎さんたちみたくアレコレ闇取引するわけでもないですし」

那智「オイ」

早霜「そんな私でも皆が幸せそうな顔をしてお酒を呑んでいる所を次第見るのは好きなんです」

那智「ふむふむ」

早霜「特に酔って暴れたりキスを迫ったりあられもない姿を晒しているザマを見るのが好きで…」

那智「待て、影のある美少女が言ってはいけないことを言っている」

早霜「ダメ、でしたか?」

那智「ダメだろ…」

早霜「でも、皆が幸せそうに楽しくお酒を呑めるのは皆が無事な証拠です」

那智「あっ…」

早霜「私達は艦娘。いつ沈むかもわからない戦争の駒ですもの…」

那智「…確かにな。命懸けの戦いであるからこそ心を癒やす場には大きな意味が生まれる…」

早霜「だからこそよっぱげな那智さんが脱いでくれるのを期待して…」

那智「流れ台無し?!」

早霜「ふふ、那智さんのツッコミはキレがありますね」

那智(早霜ってこんなキャラだったか…?)

早霜「…なにか?」キョトン

那智「天然か…」


早霜「さて、それじゃあお待ちかねの達磨政宗を」

那智「むむっ!」

早霜「升に冷えたグラス…」

那智「ぐぐぐっ…」ゴクリ

早霜「トットット、と注いで」

那智「ああ…っ、あぁぁ…」アッアッ

早霜「どんどん甘ぁい蜜が、溢れて、溢れて…」

那智「は、早霜!焦らすな!」アバババ

早霜「ふふふ、升も溢れないように注いで、注いで〜…」

那智「早霜ぉ!もう、もう辛抱堪らんっ!!」ビグンビグン

早霜「ふふふ、那智さんったら、卑しんぼね」ニヤニヤ

那智「頼む!後生だ!そいつを寄越せ!いや、下さい!!」

早霜「さ、どうぞ」スッ

那智「っっ!!」グビッ…


那智(?!な、なんだこれは!!琥珀色の見た目の美しさも去ることながら聞きしに勝るこの甘さ、そしてその向こう側からふんわりと、そして雷光のように駆け巡る酸味ッ!極上…、いや、もはやこれは至高ッ!!原料がコメとは到底思えない芳醇さ!トロリとした喉越しの後から込み上がってくる熱量!ダルマはダルマでもこのダルマはまさに格べ……、な、な、なにぃぃぃ?!あのラベル!早霜の手に潜む便のあのラベルは、び、ビンテージモノだとぉ?!現状最高ランクの昭和五十年産んんん???!!!馬鹿な!あれ一本で四万円以上の超高級酒ではないか!!!なぜそんな物がこんな辺鄙な鎮守府の一角にあるのだぁ?!いや、それだけじゃあないぞ…っ!そもそもここにある全ての酒、グラス、っていうかこの部屋の中にあるものすべてを、まさか早霜の私財で、だと?!いくら何でも溜め込み過ぎだろうが!!そしてそれを放出しすぎだろう?!しかもそんな高級酒をわざわざ私なんかのために開けてくれるだなんて、なんて出来た駆逐艦だ!!嗚呼、もう足柄も羽黒も誰かにくれてやるから早霜を私の妹にしてくれ!!って言うかもう娶る!那智、早霜、娶る!娶る!!!うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!早霜ぉぉぉぉぉ!!うーまーいーぞぉぉぉぉぉ!!」


早霜「那智さん、声に出てますよ…」テレテレ

那智「ハっ!!」

早霜「……、娶って、下さるんです?」ウワメヅカイ

那智「うむ、……それも悪くない気がしてきた…」テレテレ

早霜「ふふ、うふふ、笑顔になっていただけたみたいで何よりです」ニッコリ

那智「天使だ…。天使が私の目の前にいる…!!」

早霜「ホント、那智さんはお上手なんですね」

那智「私が男なら即座にプロポーズするくらいだよ。お世辞じゃない。」

早霜「でもお酒も飲めないようなお子様ですよ?」

那智「酒の飲める飲めないは関係ないさ。呑むというのは心で酔えるかどうかなんだからな」ニカッ

早霜「もう、どうしようもない呑兵衛さんですね。さぁ、おかわりもおつまみもありますし、たんと、呑んでくださいね」

那智「当たり前だ!こうなれば朝まで呑んでやる!酒と肴を持ってこーい!」


――――――――――――


那智「ウゴゴゴゴ……。あ、頭が、割れる………」ウップ

早霜「…調子に乗って呑むからですよ。服も破れてないのに中破みたいになってますもの」

那智「見苦しいところを、済まない…。だが、今日は楽しめた。まあ来るぞぉぉぉぁぁああ頭がァァァァァ…」グワングワン

早霜「気をつけて帰ってくださいね…?何なら部屋まで送りますよ?」

那智「ぐぐぐっ、そこまで世話にはなれないさ…。タダ飯というわけにも、いかないだろう?お代は払う。何円だ…?」

早霜「………こちらを」スッ

那智「あぁ、うむ、どれどれ…。えーっと、いち、にー、さん、しー、ごー……、ろ、ろく……?」アオザメ

早霜「……締めて十二万飛んで五百三十円ですよ」

那智「あっ…、あっ……」パクパク

早霜「初回サービスで大負けに負けて九万円でどうかしら?」

那智「………つ」


那智「ツケで、頼む」バターン


―――――――――――


その日那智は、あまりのショックで起き上がることができなかったという


早霜「那智さんはお酒が入るととても饒舌になるのね」

早霜「それに、娶るだなんて、もう……」マッカ

早霜「でもまさか、サントリー七本と政宗一本軽々飲むなんて、戦艦クラスだったらどうなるのかしら…」


早霜「ふふふ、来週は、誰が来るかしらね?」


鎮守府Bar『HAYASHIMO』本日はこれにて閉店


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