2017-04-26 16:24:43 更新

概要

艦娘たちの間で噂される通称 "監獄" と呼ばれる一つの島。

わけあり艦娘が集まるそんなこの島に、一人の駆逐艦娘がやってきた。


前書き

※注意※

地の文が入ります
作者のオリジナル設定が含まれます

2作目です。設定もろもろ模索中。




プロローグ




提督「ふむ」ペラ



提督「航空母艦、赤城」



赤城「は、はいっ!」



提督「本日付で秘書艦を解任、前線鎮守府へ戻ることを許可する」



赤城「!」



赤城「・・・」



提督「どうした、突然の事で言葉も出ないか?」



赤城「いえ…嬉しいです。やっと元いた鎮守府に戻れるのですから」



提督「……そうか」



赤城「色々、お世話になりました」ペコ



提督「ああ、もう戻ってくるなよ。お前がいたらここの食材が無限にあっても足りん」



赤城「し、失礼な!そもそも無限というのはですね!」ペラペラ



提督「・・・」



提督(ふっ、よく喋るようになったな。お前も)










1章 出会い、そして別れ




『今し方、赤城がこちらに到着しました』



提督「そうですか…わざわざご連絡感謝します」



提督「後ほど報告書はまとめてそちらの方に送付しますので」



『了解しました。それでは』ピッ



提督「・・・」チラ




シーン.....




提督「……随分静かになったな」




コンコン




提督「!」



提督「入れ」




ガチャ




霧島「失礼します」



提督「霧島か…ちょうどいい。これを送付しておいてくれ」スッ



霧島「分かりました。ではこちらからも」スッ



提督「……感傷に浸る暇もくれないのか。まったく」ウケトリ



霧島「これがこの鎮守府の役割ですから」



提督「・・・」ペラ



霧島「どうされますか?」



提督「……霧島、今日から秘書艦を任せる」



霧島「ふふっ、そう言うと思いました。お任せください」クイ



提督「・・・」



提督(次はどんな問題児が来るのやら・・・)






・・・






霧島「司令、新しくここに来る艦娘が到着したそうです」



提督「うむ。時間厳守で何よりだ」カリカリ



提督「悪いが迎えに行ってやってくれ。ここまでかなり道が入り組んでるからな」カリカリカリ



霧島「了解しました。それ、後で私も手伝いますので」



提督「ああ、助かる」ポン




ガチャリ パタン




提督「・・・」ピタ



提督「新しい艦娘…か。また忙しくなりそうだ」






・・・






船員「ここまでだ。後は自分で歩いて行け」



??「……ここが噂の…寂しいところね」



霧島「霞さん、ですね。長旅ご苦労様でした」スタスタ



霞「!」



霞「こんな辺境に鎮守府があったなんて…噂だけかと思ってました」



霧島「まだ公には明かされてませんから。さあ、鎮守府まで案内します」



霞「・・・」スタスタ






・・・






霧島「着きましたよ。ここが我々の鎮守府です」



霞「……どうも」チラ



霞「・・・」



霞(ふーん・・・もっとボロボロで、今にも潰れそうな鎮守府を想像してたわ)



霧島「先ずは司令の所へ行きましょう。色々ここでの生活についての説明もありますし」



霞「ええ、わかっ



「あっ!あなたが例の新入りさんですか?!」



霞「!」サッ



霧島「またあなたですか…あまり驚かさないでくださいよ。青葉さん」



青葉「あはは、すみません。でもやっぱり気になっちゃうんですよね〜」ニコニコ



青葉「そうだ、何か一言もらってもよろしいでしょうか!」



霞「・・・」



霞(何なのこいつ・・・顔は笑ってるのに目が・・・・・)ゴク



青葉「ほぅ…なるほどなるほど」カキカキ



青葉(これは、取材のしがいがありそうですねぇ)ニタァ



霞「っ?!」ゾワ



霧島「青葉さん、あなたまた独房にぶち込まれたいんですか?」



青葉「あははは!嫌だなぁ、ちょっとこの子の力量を測っただけですよぉ!」



霧島「余計なことはしないで結構です」クイ



霧島「行きましょう、提督室はこちらです」



霞「・・・」チラ



青葉「?」ニコ



霞(っ・・・やっぱり変、こいつ)タッタッタ






・・・






スタスタ.....ピタッ




霧島「ここでお待ちを」




コンコン ガチャ




霞「・・・」グッ



霧島「どうぞ、お入りください」



霞「……ええ」スタスタ






・・・






提督「長旅ご苦労だった」



霞「・・・」



霞(こいつが・・・・・)キッ



霧島「それでは司令、私は演習があるのでこれで」



提督「ああ、頼む」




ガチャ パタン




霞「・・・」



提督「そう睨むな。殺気が出てるぞ」



霞「……あんたがここの提督?」



提督「まあそのようなものだな。ただし、お前の知っている "提督" とは少し異なる」



霞「どうだか。提督なんてみんな一緒でしょ」



霞「自分の無能を艦娘に押し付け、自分はただ椅子に座ってるだけ」



霞「どいつもこいつもクズばかり……!」ギリ



提督「……こちらからも一つ問おう」



提督「霞…お前がここに配属になった理由はなんだ」



霞「!」






・・・






提督「お前も薄々勘付いてるとは思うが、ここは普通の鎮守府ではない」



提督「そしてここにいる艦娘たちも当然、普通ではない」



霞「艦娘たちの監獄…噂通りね」



提督「監獄か。趣味の悪いネーミングだな」



提督「だが罪を犯した者を拘禁する施設、という点では的を得ている」



霞「……私が罪を犯したって言いたいわけ?」



提督「自覚なしか。ならば教えてやろう」スッ



霞「・・・」キッ!!




コンコン




提督「……入れ」



霞「・・・」



霞(私が罪を犯したですって・・・?ふざけんじゃないわよ・・・!)グッ





ガチャ




??「失礼します!」ビシ



提督「ふむ…いいタイミングだ」



霞「!」



霞「……まさかあんたまでここにいたなんてね。朝潮」



朝潮「!」



朝潮「えっ、霞?!どうしてここに……」



提督「朝潮、悪いが霞にここでの事を色々教えてやってくれ」



朝潮「は、はっ!お任せください!」



朝潮「霞、私についてきて」スタスタ



霞「……ええ」




ガチャ パタン




提督「・・・」



提督「さて…




ジリリリリリン.....ガチャ




提督(やはり一人だと仕事が進まんな)ハァ



提督「はい、提督です」



提督「・・・」



提督「……分かりました。後ほど資料を送付します」






・・・






朝潮「鎮守府の中は以上になります」



霞「・・・」



霞(結構広いじゃない・・・監獄のくせに)



朝潮「さてと、次は鎮守府の外ですね。先ずは演習場に行きましょう」スタスタ



霞「演習場まで…ねえ、ここって何なの?」



霞「私あいつから何も聞かされてないんだけど」



朝潮 ピタッ



朝潮「そうですね…ここには訳あって、前の鎮守府にいられなくなった者たちが集まっています」



朝潮「例外もいますけど」



霞「へぇ…じゃああんたも何かやらかしたんだ。クソ真面目なあんたが一体何やらかしたっての?」



朝潮「っ…私は……」



「よう、お前が例の新入りか?」



霞「!」



??「なるほどな。お前の姉妹艦だったのか」



朝潮「天龍さん…演習お疲れ様です」



天龍「おう!またボコボコにされたけどな!」ハッハッハ



天龍「そういやお前も今日演習だろ。霧島の姉貴が待ってるぜ」



朝潮「あっ……」チラ



霞「私のことはいいから、早く行ってきなさいな」



朝潮「……うん…行ってくる」タッタッタ



天龍「頑張れよー」



霞「・・・」スタスタ



天龍「おい、新入り」



霞 ピタッ



霞「なに?あと新入りじゃなくて、名前で呼んでくれるかしら」



天龍「ここで過去のことを持ち出すのはNGだ。覚えといた方がいい」



霞「……あっそ」






・・・






霞「……は?」



提督「明日から霧島と秘書艦交代、そう言った。何度も言わせるな」



霧島「申し訳ありません…急遽大本営の方から召集がかかりまして……」



霞「だ、だからって何で私が!!他に適任ならいくらでもいるでしょ!」



提督「残念だがお前以外の適任はいない。それに、私の言うことは聞いておいた方がいいと思うが?」



霞「っ!」



霧島「司令、もう少しソフトに」ボソ



提督「……そこにマニュアルがある。明日までに目を通しておいてくれ」スッ



霞「やらない…お断りよ。朝潮にでも頼めば」



提督「もう一度言うが、この鎮守府にお前以外の適任は




バン!!




提督「!」



霞「……もう一度言います。私、秘書艦なんてやりません」



霞「それと今後一切、あなたの命令にも従いません」



霞「それがあなたの言う "罪" になるのなら、解体するなり雷撃処分するなりどうぞご自由に」スタスタ



提督「・・・」



霧島「はぁ……」




ガチャ




霞「それでは、失礼します」



提督「……お前は一つ、勘違いをしている」



霞 ピタッ



提督「私は命令した覚えはない」



霞「・・・」




ギィィィィ バタン






・・・






カーン カーン カーン




提督「・・・」カンカンカン




パシャパシャ




青葉「大きな穴ですね〜。久しぶりにいい絵が撮れました!」



提督「……カメラは禁止だと言ったはずだぞ。青葉」



青葉「これは青葉の生き甲斐なんですよ!これがないと青葉、生きていけません!」



提督「・・・」スタスタ



青葉「それより何ですかこの穴。物は大切にしないとダメですよ」



提督「お前には関係のないことだ。用がないなら出て行け」カリカリ



青葉「むぅぅ…あっ、そうだ!青葉が秘書艦やりますよ!」



提督 ピタッ



青葉「秘書艦、断られたんですよね?」



提督「・・・」



青葉「青葉しかいないと思いますよ?」



提督「……マニュアルがそこにある。明日までに目を




コンコン




青葉「っ…バッドタイミング」ボソ



提督「開いている。入れ」




ガチャ




朝潮「し、失礼します!」ビシッ






・・・






ーー 数分前 ーー




バタン




霞「……クズが」



朝潮「霞!」タッタッタ



霞「何だ…あんたか。何か用?」



朝潮「い、いえ…提督室から大きな音が聞こえたものですから……」



朝潮「でもその様子だと、何かあったって訳ではなさそうですね」ホッ



霞「……あんた、そんなにあいつのことが好きなの?」



朝潮「っ?!」カァァァ//



霞「図星か。ほんっと分かりやすい性格よね」



霞「単純というか何というか。哀れだわ」



朝潮「むっ…それはどういう意味ですか」



霞「分からない?そんな性格してるから、命令なんて言葉に縛られるのよ」



朝潮「!」



霞「ま、私には関係ないけど」スタスタ



朝潮「・・・」



霞「あっ、そうだ。あいつの秘書艦、あんたやれば?」



霞「譲ってあげるから」フリフリ



朝潮「……霞が頼まれたのなら…自分でやるべきです」



朝潮「どうして逃げるんですか……?」



霞 ピクッ



霞「私のどこが逃げてるって?」



朝潮「私も最初はそうでした…だから分かるんです」



霞「はっ!あんたなんかに同情されるなんてね。心外だわ」



霞「私はあんたみたいに弱くないから!」



朝潮「……そうですか。なら明日のーーーー






・・・






朝潮「それでは、失礼します」ビシッ




ガチャ バタン




提督「・・・」ペラ



提督「全ては明日の演習次第…か」






・・・






ーー 演習場 ーー



天龍「よーし、そろそろ始めるぞ。準備はいいな?」



朝潮「はい!問題ありません!」



霞「はぁ…右に同じ」



天龍「ルールはさっきも言った通りだ。お互い全力でやるように」



霞「・・・」グッ



朝潮「・・・」グッ



天龍「そんじゃ、スタートだ」バン!!










青葉「あっ、始まりましたよ司令官!」



青葉「それにしてもいきなり朝潮さんとやらせるなんて、司令官も酷ですねぇ」



提督「霞の実力は未知数だ。この演習で見極める」



提督「……同時に朝潮もな」



青葉「!」



青葉「なるほど。今度は朝潮さんですか」



提督「ああ、だから記録漏れがないように注意しろよ」



青葉「はーい」






・・・






ーー この演習でお前を見極める


ーー ここで経験した事がお前にとって、無駄ではなかったと証明してみせろ




朝潮(司令官・・・・・)




ヒュゥゥゥゥゥ.....




朝潮「!」サッ



霞「少しは集中したら?次は当てるわよ」



朝潮「前演習した時よりも遥かに速い…成長しましたね、霞」



朝潮「ですが私だって、ここへ来てただぼーっとしていた訳ではありません」スゥゥゥ.....



霞(雰囲気が変わった・・・やっと本気になったってわけね)



霞(なら・・・・・)ガコン



霞「最大戦速、間合いを詰めて砲弾を叩き込む……!!」バッ



朝潮「・・・」






・・・






提督「・・・」スタスタ



青葉「どこ行くんですか司令官。まだ演習の途中ですよ?」



提督「いや、もう十分だ。後は任せる」



青葉「はい?!ちょっと待ってくださいよしれ ズドン ドゴン ドガン!!



青葉「っと、カメラカメラ…って司令官!!」






・・・






『俺の目に狂いが無ければ、大丈夫そうだ』


『あの若さで一鎮守府を任せるに足るモノを持ってる』



提督「……分かった。着任は三日後だったな」ペラ



『ああ、間に合いそうか?』



提督「問題ない。それまでにまとめてそっちに送る」



『へいへい。そんじゃな』ピッ



提督「・・・」ピッ




コンコン ガチャ




青葉「青葉、はいりまーす。演習が終わったので報告に来ましたー」



提督「ノックするようになった所は褒めてやる。だが私はまだ入っていいとは言っていない」カリカリ



青葉「演習の結果を報告しに来たんです!!誰かさんが途中で帰っちゃうから!」バン!!



提督「そうか。ならそれは霞にやるといい」



提督「自分の動きを見て、改善するのも良い練度向上に繋がるからな」



青葉「はい?!」



提督「他にないならもう下がれ。今はお前に構っている時間がない」カリカリ



青葉「……そうですか。よーく分かりました」



青葉「青葉、秘書艦は降りさせていただきます。一人で執務、頑張って下さい」シュタ



提督「・・・」カリカリ



提督(難儀なものだな・・・提督ってのは)






・・・






ザザーン.....ザザーン.....




霞「・・・」



霞「……惨めね」



天龍「よお、新入り…じゃなくて霞、だっけか」スタスタ



天龍「補給まだだろ。早く済ませちまいな」



霞「何よ…私を笑いに来たの……?あんだけ偉そうな口叩いといて、手も足も出なかった私を」キッ



天龍「ははは、そう卑屈になるなって。俺だって朝潮には勝てねえんだ」



霞「そんなの言い訳にならない!!前やった時は勝てたのよ!」



霞「今回だって、負ける気なんてなかったのに……」



天龍「・・・」



天龍(俺これでも軽巡なんだがな・・・・・)ズーン



霞「あんたは悔しくないわけ?駆逐艦に劣る軽巡なんて聞いたことないわよ」



天龍「!」



天龍「何だ、気付いてたのか。俺が軽巡だって」



霞「艤装見れば一目で分かるし」フン



天龍(へぇ・・・よく見てるなこいつ)



天龍「そうだな…悔しくないって言ったら嘘になるな」



天龍「……だがあいつは、ここで誰よりも訓練に励んでいた。その結果があれだ」



霞 ピクッ



霞(訓練・・・?)



天龍「ここはそういう場所だ。ま、詳しいことは提督に聞け」



霞「・・・」






・・・






ーー 建物内 廊下 ーー



霞(ここは監獄・・・佐世保の奴らはみんなそう噂してた)スタスタ



霞(それなのに何よここは。普通の鎮守府と何ら変わりないじゃない)



霞「……不本意ではあるけど…あいつに聞くしかないか」



朝潮「あっ、霞!」タッタッタ



霞「・・・」ピタッ



霞(はぁ・・・朝潮型のネームシップは空気も読めないの・・・?)



朝潮「提督室に行くんですか?なら一緒に行きましょう!」



霞「あんたねぇ…私の顔見て察しなさいよ」



朝潮「?」



霞「? じゃない!ついさっき、あんたにボコボコにされたのよ私!」



霞「暫く声かけないのが普通でしょうが!」



朝潮「うっ…すみません……」



霞「ったく、分かったら放っておいて」スタスタ






・・・






ーー 提督室 ーー



提督「それで、なぜ二人が一緒にいる。私は朝潮しか呼んでいないはずだが」カリカリ



霞「・・・」プイ



朝潮「すみません司令官。私が連れてきました」



提督「……まあいい。話を戻そう」ペラ



提督「朝潮型駆逐艦一番艦、朝潮」



朝潮「は、はいっ!」



提督「今日までご苦労だった。明日より呉鎮守府への転属を命ずる」



霞「!」



霞(呉ですって・・・?)



朝潮「……了解しました。司令官」



霞「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!幾ら何でも急過ぎない?!」



提督「呉鎮守府に新しい提督が着任する事になった。朝潮にはその提督の初期艦になってもらう」



霞「なっ……!」



提督「これは決定事項だ。出発は明日の正午、それまでに荷物をまとめておくように」



朝潮「……失礼します」ペコ スタスタ



霞「あ、朝潮!」




ガチャ バタン




提督「……聞きたい事があるなら今のうちだぞ。私も暇ではない」



霞「何で朝潮が呉に…ここから普通の鎮守府に戻れるの?」



提督「当然だ。まあ、他の鎮守府からの要請次第だがな」



霞「・・・」



霞(誰よ、ここが監獄とか言い出した奴!)グッ



提督「ここはいわゆる左遷島。私の仕事はここへ来た艦娘たちを更生させ、元の鎮守府に戻すことだ」



霞「左遷島…ね。向こうじゃこの島、艦娘たちの監獄って呼ばれてたけど」



提督「お前のように問題を起こして来る者もいる。それが原因だろう」



霞「!」



提督「止める船員を殴ったらしいな。着任から二日目で飛ばされてきた奴は、お前が初めてだ」



霞「……私は悪くない。あの時はああするしかなかったのよ」



提督「……それが結果的に、自分の首を絞めることになってもか」



霞「はぁ?私は艦娘よ。周りの目なんてクソ食らえだわ」



提督「・・・」フッ



霞「なに、何か文句ある?」



提督「いや、文句はない。だが今のままではそれは、口だけの愚か者だ」



提督「それは先の演習で身に染みただろう」



霞「っ…手も足も出なかった」



提督「今のお前が朝潮に勝てるわけない。それはここにいる者全員が知っていた」



霞「・・・」ギリ



提督「……お前もここで一から訓練し直すといい」



霞「!」



霞「そ、それで強くなれるの……?朝潮みたいに」



提督「それは分からない。全てはお前次第だ」



霞「・・・」



霞「……やるわよ。どのみちここに来た以上、何かやらないと鈍っちゃうし」



提督「決まりだな。早速で悪いがその書類は呉宛だ」カリカリ



提督「そっちは本営宛、間違えないように頼む」



霞「??」



霞「ちょ、ちょっと待ってよ!何の話?」



提督「秘書艦。引き受けてくれると非常に助かる」



霞「……私断ったはずだけど」



提督「これは命令ではない。頼みごとだ」カリカリ



霞「・・・」



提督「・・・」カリカリカリ



霞(これも強くなるため・・・か)スタスタ



霞「左遷島の割に忙しそうじゃないの。本営も人使い荒いわね」



提督「そのうち慣れる」



霞「……あっそ」クス






・・・






ーー 鎮守府内 駆逐艦寮 ーー



朝潮「・・・」ゴソゴソ



朝潮「ふぅ…私物が少ないと片付けも楽でいいですね」パタン



朝潮「・・・」チラ



朝潮「夕食まで時間もありますし、少し歩きましょうか」




ガチャ




天龍「おっ、朝潮じゃねえか」



朝潮「!」



朝潮「お疲れ様です、天龍さん。今日はありがとうございました」



天龍「いいってことよ。俺も間近でお前らの模擬戦見れて楽しかったしな」



天龍「同時にお前の動きも観察させてもらった。次は負けないぜ」



朝潮「……天龍さん…次はもう、無いかもしれません」



天龍「?」



天龍「おいおい、どうした。何でそんな今にも泣きそうな顔してんだよ」



朝潮「っ…泣いてません。それと私は明日から、呉鎮守府に転属になりました」



朝潮「だからもう……」



天龍「!…そうか。お前もとうとう卒業か……」



朝潮「・・・」コク



天龍「ま、お前ならどこの鎮守府に行ってもうまくやれるだろ」



朝潮「……はい」



天龍「・・・」グッ



天龍「そ、そういえば腹減ったな!提督に飯まだか聞いてくるわ!」タッタッタ




シーン.....




朝潮「・・・」スタスタ






・・・






ーー 鎮守府裏 菜園 ーー



朝潮「ここも今日で見納めですね。明日からは霞にお世話を頼みましょう」ザァァァ



霞「へー。まさかとは思ったけど、本当にあったんだ」スタスタ



霞「これ全部あんたが?」



朝潮「いえ、私は司令官の代わりです。司令官のお仕事が忙しい時、こうして水やりを」



霞「うっそ…あいつこんな趣味あったんだ。何か気味悪いわね」



朝潮「本営から定期的に物資が輸送されてきますけど、それだけでは足りない場合もありますから」



霞「この島にいるのって私含めても四人だけでしょ?そんなに足りないの?」



朝潮「戦艦や空母の方が来た場合に備えているらしいです。あくまでも備え、そう言ってました」



霞「・・・」



霞(色々考えてるのね・・・あいつ)



朝潮「霞、この子たちのお世話をお願いしてもいいでしょうか」



霞「……え、私?」



朝潮「私は明日でこの島を去ります。だから代わりに…お願い」



霞「……分かった。任せなさい」



朝潮「ありがとうございます」ニコ






・・・






霞「ほら、もう夕食の時間よ。みんな待ってるから」



朝潮「あっ、すっかり忘れてました!今日の配膳係、私なのに!」タッタッタ



霞「・・・」



霞「……いつまでそこに隠れてるつもり。覗きなんて趣味悪いわよ」チラ




ガサ.....




提督「覗きではない。それとこれは趣味ではなく仕事の一環だ」



霞「はぁ…あんたいつからそこにいたのよ」



提督「霞が来る少し前。いや、ほぼ同時だったか」



霞「その間、水やりしてる朝潮をずっと眺めてた訳ね。やっぱり趣味悪いわ」



提督「……そうかもしれんな」



霞「もっと朝潮と話したら?明日でここ出るんでしょ、あの子」



提督「それは出来ない」



霞「ねえ、どうしてよ。今思えば、朝潮を秘書艦にしなかったのも変だし」



霞「新参の私よりずっと向いてるもの。朝潮の方が」



提督「……ここが居心地いいと思われてしまっては、困るんだよ」



霞「えっ?」



提督「何でもない。忘れてくれ」スタスタ



霞「ちょ、待ちなさいよ!」タッタッタ






・・・






ーー 左遷島 停泊所 ーー



船員「本営からの物資、資材のリストです。間違いがないかチェックをお願いします」



提督「分かりました。霞、手を貸してくれ」



霞「はぁ…仕方ないわね」スタスタ





天龍「何だあいつ。秘書艦やるの嫌がってなかったか?」



青葉「司令官の秘書艦は骨が折れますからねぇ…いつまで続くやら」



朝潮「・・・」



霧島「霞さんが秘書艦ですか…なるほど。いい人選です」クイ



天龍「あっ、霧島の姉貴!!」



青葉「お〜、お久しぶりです」



霧島「ご無沙汰してます。皆さんお元気そうですね」



天龍「今度はどれぐらいこの島にいるんだ?そうだ、後でまた演習やってくれよ!」



霧島「残念ですが、私は今任務中の身です。朝潮さんを本営まで送り届けなければなりません」



朝潮「……よろしくお願いします」ペコ



天龍「そうか…そりゃあ残念だ」




ボゥゥゥゥゥゥゥ.....




霧島「おっと、そろそろ時間のようですね」チラ



霧島「朝潮さん、行きましょう」



朝潮「……はい」



天龍「じゃあな、朝潮。呉の奴らなんかに負けるなよ!」



青葉「お元気で。こちらもお手紙出すよう、司令官に言っておきますから」ニコ



朝潮「お世話になりました。お二人も、お体には気をつけて下さいね」ビシッ






・・・






天龍「……行っちまったな」



青葉「あれ、寂しいんですか?」ニヤニヤ



天龍「・・・」



青葉「何か言い返して下さいよ。天龍さんらしくもない」



天龍「……今はそういう気分じゃねーんだよ」



青葉「……確かに…そうですね」






・・・






提督「霞、そろそろ時間だ。降りるぞ」



霞「はいはい。ったく、人使い荒いっての」




霧島「ご苦労様です、司令」



朝潮「……司令官」



提督「霧島か。そっちもご苦労だった」



霞「どうも」プイ



霧島「ふふっ、優秀な秘書艦に恵まれたようですね」



提督「……早く行け。私も暇ではない」



霧島「分かりました。それでは、失礼します」



霞「しっかりやんなさいよ。あんたがしっかりしないと、朝潮型全員が舐められるんだから」フン



朝潮「霞は厳しいですね…分かってます。ここでのことは決して無駄にはしません」



提督「・・・」



朝潮「司令官、今までありがとうございました。お手紙、待ってますね!」タッタッタ



提督「えっ」




ボゥゥゥゥゥゥゥ.....






・・・






提督「・・・」



霞「最後ぐらい何か言ってやればよかったのに。ほんっと、あんたってクズね」



提督「……戻るぞ」スタスタ



霞「このクズ!クズクズ!クズ司令官!!」ギャーギャー



提督「それよりも、自分の心配をすることだ」



提督「明日から予定通り、一からお前を鍛え直す」



霞「はっ!上等よ。何だってこなしてやるわ」



提督「ふっ…その言葉、忘れるなよ」






・・・






朝潮「・・・」



朝潮「……よし、もう大丈夫です。司令官の教えを忘れずに、呉でも頑張ります!」



「あっ、いたいた。あなたが朝潮でしょ?」



朝潮「!」



朝潮「は、はい!朝潮型一番艦、朝潮です!」



「一番艦かぁ…あたしと同じね」ヒョコ



陽炎「陽炎型一番艦、陽炎よ。よろしく!」



朝潮「こちらこそ、よろしくお願いします!」ビシッ










2章 霞の左遷島猛特訓




「くっ…重い……!」



 左遷島の演習場に降りた霞は、予想以上の体の重さに足をふらつかせた。

 その様子を見ていた天龍は思わず駆け寄る。



天龍「おいおい、大丈夫かよ。あんまり無茶すんな」


霞「平気…始めてちょうだい」


天龍「ったく、頑固な奴だな」



 渋々航行し始める天龍。その後ろを霞はまるで波線のように、ふらふらと航行しながらついていく。



霞(見てなさい・・・私は絶対にやり遂げる・・・・・!)

 


 そう心の中で自分に言い聞かせ、桟橋に立っている男を睨みつける。ここで負けたら、呉に行った朝潮に顔向けできない。

 歯を食いしばり、もう一度全身に力を入れる。今度は先程よりふらつくことはなかった。

 


 

 

 時刻は朝の10時。霞の左遷島特訓メニュー、午前の部が開始された。






・・・






提督「艤装の出力を50%まで引き下げる」


霞「……は?」



 何を言ってるんだこいつは、と言わんばかりの声を上げる霞。

 提督は続けて言う。



提督「艤装とはお前たち艦娘にとって必要不可欠なモノ。艤装がなければ海に浮けず、深海棲艦と戦えない」


提督「ではその艤装の力が、極端に抑え付けられたらどうなるか」

 


 そう言い残すと提督は霞の艤装に触れる。何かゴソゴソやった後、その場を離れた。

 一方、霞の頭の中では「?」が量産されていた。提督が何を言っているのか、いまいち理解に欠けていたからだ。

 しばらく考えた結果、今の自分では理解できないことなんだろうと気づき、質問するのも面倒くさいので話を進めることにした。



霞「んで、肝心の特訓メニューとやらは考えてあるんでしょうね」


提督「……まあいい。今のお前には理解できないだろう」


提督「天龍が演習場で待機している。今日から天龍がお前の嚮導艦だ。後は天龍に聞くといい」


霞「ふーん……」



 提督も面倒くさかったのか、初めから霞に説明する気は無かったようだ。

 少し人を小馬鹿にしたような態度が目立ったが、霞は早く特訓に入りたかったので何も突っ込まなかった。

 艤装を身に付けると、提督と霞は工廠を後にする。すると桟橋に立っている天龍が目に入った。



天龍「おっ、来たな」



 既に艤装を身に付け、いかにも準備万端という感じだ。心なしか、その表情も生き生きとしている。

 そして二人が来るのを見た天龍は、演習場へと降りて行った。

 その後ろをムスっとした顔の霞が追いかける。提督は二人の様子を観察するため、桟橋で待機。



提督「さて、お手並み拝見といこうか」



 そう呟くと提督は、懐から何やらメモ帳のようなモノを取り出し、ペンを走らせた。






・・・






 天龍型一番艦である天龍はこの日、少なからず気分が高揚していた。それは至極単純で、提督に霞の嚮導艦を命じられたからである。

 天龍自身もとある理由でこの島に転属になった訳だが、今日まで誰かの嚮導など任されたことはなかった。むしろ天龍はその逆の立場だったのだ。

 

 だからこそ頭の中で、いつか自分が嚮導艦を任された時のことを想定していた。それと同時にある決心もしていた。

 俺は「鬼」になる、と。だがその決心も後ろを振り向く回数が増える度に、どんどん煙となって消えていく。



天龍(やっぱ俺には向いてないっぽいな・・・・・)



 ため息をこぼしつつ、霞の元へ駆け寄る。

 霞は額に汗を浮かべながら、バランスを取ろうと右往左往していた。艦娘は艤装を身に付けている限り沈みはしないが、バランスを崩して派手に転倒することもある。


 艦娘になる為の適正テストでは、このバランス感覚が最も重要視されるのだ。



霞「だからって…こんなの反則でしょうが……!」


天龍「どうだ、キツイだろ」


霞「体が重い。思うように動かない感じ」



 霞の艤装は今、提督の手によって50%まで出力が抑えられている。これはつまり、通常の2倍近い負荷を霞の体に与えていた。

 ここでいう負荷とは、体力であり、精神力であり、艦娘にとって重要なバランス感覚のことでもある。

 考えれば考えるだけ色々と滅茶苦茶だが、霞は何一つ文句は吐かなかった。これが自分にとって必要な、強くなる為に必要なことだと直感したからだ。


 天龍も霞の意を感じ取ったのか、再び航行し始める。そして前向きのまま霞に告げた。



天龍「んじゃ、先ずはこの島を一周するぞ。ついてこい」


霞「了解」



 速力を原速まで戻し、2人は左遷島の演習場を後にする。

 今度は後ろを振り返ることはなかった。






・・・






提督「ふむ…予想以上の逸材だな」



 午前の執務を終え、一息入れながら提督は、ここ一週間のことを頭の中で振り返っていた。

 この一週間という期間は、霞が左遷島での訓練を開始してからの日数を指している。

 

 その時、不意に提督室の扉が開いた。



霞「あー、しんっど」


提督「ノックしてから入れ」



 「忘れてたわ」と霞。どうやら霞の方も午前の訓練を終えたようだ。肩を回し、首をコキコキ鳴らしている。

 僅かながらその顔に疲労感が漂っているが、そのまま秘書艦専用の机に向かい、腰を下ろした。

 霞は秘書艦も兼任している。そのため、訓練が終わっても休む暇はない。無論、ちゃんとした休憩時間も設けられているが。

 席に着くとすぐさま自分が処理すべき書類等に目を通し、ペンを走らせる。もうこの光景も見慣れたものだ。



提督(佐世保の提督には申し訳ないが、このまま返すわけにはいかないな)



 提督は机の上にある一枚の用紙を手に取り、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。

 もちろん霞が見ていないのを見計らってからである。これは秘書艦よりも先に、本土から送られてくる書類に目を通すことが出来る、提督の特権とも言えるだろう。


 チラッと霞に目をやる。何やら先程からずっと、目の前の書類と睨めっこを繰り返している。

 するとこちらの目線に気付いたのか、霞は顔を上げた。いい機会だったので提督も口を開く。



提督「難しい所があるなら聞いてくれて構わん」



 一先ずこれで様子見。なぜなら今日の書類は、提督の記入した書類に判を押すだけの簡単な作業なのだ。

 本来ならペンなど必要ない。つまり、何か別の作業をしていることになる。

 ストレートに聞いてヘソを曲げられては敵わないため、わざわざ遠回しな聞き方になってしまった。

 だが霞は意外にも、簡単にそれを口にした。



霞「手紙よ手紙。呉からのね。今その返事を書いてるとこ」


提督「手紙…なるほどな。それでさっきから難しい顔をしていたわけか」



 呉からの手紙。それはつい先日、この島を去った朝潮からのものであった。

 どうやら霞は、定期的に朝潮と手紙のやり取りをしているらしい。

 提督は提督で、呉の提督と別のやり取りをしていたため、朝潮の様子はその時に伺っていた。

 「優秀」の一言に尽きる、と。呉の提督は既に秘書艦の朝潮に頭が上がらないとか。



霞「頑張ってるみたいね。ま、あの子なら何だってこなすでしょうけど」



 そう言うと霞は再びペンを走らせる。手紙でのやり取りは提督も気になったが、これ以上は突っ込まなかった。

 暫しの沈黙。壁にかけられた時計の秒針の進む音と、ペンの進む音だけが提督室に響き渡る。

 先に口を開いたのは霞であった。



霞「ふぅ…こんなものか」



 ペンを置いた霞の表情は、どこか満足気だ。疲労感も消えているように感じる。

 提督もそれに合わせて口を開いた。



提督「終わったなら先に昼食を取れ。午後の訓練までそう時間はないぞ」


霞「えっ、もうそんな時間?!まだこっちは何も手つけてないのに」



 ハッと我に帰った霞は、目まぐるしい速さで机の上の書類を処理していく。

 そして最後の一枚の処理を終えると、そのまま机に突っ伏した。



霞「疲れた…少し寝る」



 そのまま静かな寝息を立て、動かなくなった。

 提督は「やれやれ」と音を立てないように立ち上がると、そのまま提督室を後にした。






・・・






霞「うーん…あれ……?」



 目を擦りながら霞は、自分の置かれている今の状況を認識する。

 どうやらここは提督室、のソファーの上。体が冷えないよう、ご丁寧に毛布までかけられている。

 窓から差し込んでくる光は既に、昼時のそれではない。そこから察するに、今はもう夕暮れ時。ヒトナナマルマル辺り、といったところだろうか。


 そこまで状況を理解して霞は飛び起きた。



霞「嘘、もうこんな時間?!何だって起こしてくれないのよあのクズ!!」



 急いで提督室を後にし、艤装を取りに装備保管庫へと向かう。

 素早く、手短に艤装を身に付け、そのまま演習場へとダッシュ。寝起きで体は重いが、そんなものは気にしていられない。

 そして演習場が見渡せる桟橋へと到着。しかしそこには誰の姿もなかった。

 疲れがドッと足に、そして体全体にのしかかる。ここまで全速力で走ってきたのだ、当然といえば当然なのだが。



霞「はぁ…はぁ…どうしよう……」



 途方に暮れていたその時、霞の背後から声がした。

 その声に思わず、ビクッと肩を震わせる。そっと振り返ると声の主は、こちらに近付くことなく喋った。



提督「今日はもう休むといい」


霞「……悪かったわよ…天龍さんは?」


提督「今はいない。少し出てもらっている」


霞「どこに?」


提督「お前には関係のないことだ」

 


 明らかに不機嫌な顔になる霞。先ほどまであった罪悪感の塊は、提督の一言によってどこかに吹き飛んでいった。

 たまらず質問を繰り返す。



霞「関係ないってなによ。普通に言えばいいじゃない」


提督「もう一度言う。今日は休め」



 それ以上、提督が口を開くことはなかった。

 桟橋に一人取り残された霞は、提督の背中に「このクズ!!」と数度ほど連呼すると、演習場へと降りて行った。






提督「……状況を報告しろ」



 懐から小型の無線機のようなモノを取り出し、通信を開始する。

 背後の演習場から、砲撃音やら罵声やらが幾度となく耳に入ってくるが、気にしない。



提督「そうか…いや、いい。帰投してくれ」



 通信を終えると、再びそれを懐に納める。

 演習場の砲声は、先ほどよりも激しさを増しているようだった。



提督「はぁ…うちの秘書艦は頼もしいな」



 ため息と同時に、フッと笑みを浮かべると、提督は砲声の元へと向かって行った。






・・・






 この島での夕食は全員が食堂に集まり、決められた時間、フタマルマルマルより配膳が始まる。

 基本的にどの鎮守府でも食事を作る人間が必ず複数人は在籍しており、軍の規定にも記されている。これは日々戦いに明け暮れる艦娘への配慮とも言えるだろう。


 だがそれは基本的な鎮守府の話であって、左遷島では異なっていた。



青葉「さあ、今日の料理当番はこの青葉です!皆さん遠慮なくどうぞ!」


天龍「おお!カレーじゃねえか!やるなぁ、青葉さん」



 このように、この島では艦娘が自分たちで調理する。ここはあくまでも左遷島、人員を寄せる訳にもいかないのだ。



霞「痛たた…あのクズ、容赦ないんだから」



 そこにムスっと顔の霞も合流。食堂は一際、賑やかな空気に包まれた。



天龍「おい寝坊助、提督はどうした」


霞「知らない。あと寝坊助言うな」



 天龍の問いに即答しつつ、カレーを頬張る。一瞬その口が緩んだように見えたが、直ぐにいつものムスっと顔に戻ってしまった。

 今度は青葉が口を開いた。



青葉「霞さん霞さん、司令官とどのような訓練を?青葉、気になります!」



 その問いに対し、更に不機嫌な表情を見せる霞。心なしか殺気さえも放っているように感じる。

 これはよっぽどの事があったんだろうと、2人は唾を飲み込んだ。


 だがそれ以上は聞けなかった。食堂にもう一つ、別の声が響いたのだ。



提督「そんなに気になるならお前もやるか、青葉」


青葉「げっ、司令官……」


天龍「遅いぜ提督。何やってたんだ?」


提督「艤装の整備」



 そう言うと提督も席に着き、カレーを口へと運んだ。

 艤装の整備は本来、専門の整備士が担当するものであり、提督の仕事ではない。しかし、先にも述べたようにここは左遷島。整備士を寄せる訳にもいかないのだ。



提督「やれやれ。人使いが荒いのは果たしてどちらだろうな」



 提督の声に霞の肩がぴくっとする。これには霞も声を上げた。



霞「あんたがあんな無茶やらせるからでしょうが!おかげで体中あざだらけよ!」


提督「攻撃が単純すぎる。あれでは見切られても文句は言えん」


霞「だからって何で組手やらせるわけ?深海棲艦と殴り合えっての?」


提督「………」


霞「何とか言いなさいよ!!」



 霞の言い分は最もである。艦娘は自身の艤装を駆使し、深海棲艦と戦う。艤装は艦種によってそれぞれ異なるが、これは全ての艦娘にとっての当たり前であって、素手で戦う艦娘なんてのは聞いたことがなかった。


 ましてや霞は駆逐艦。駆逐艦は全艦種の中でも取り分け耐久値が低く、轟沈のリスクも極めて高い。霞自身、それは自覚済みだ。

 だからこそ組手なんてやらせた提督が理解できないし、艦娘である自分がただの人間である提督に、1本も取れなかったことが非常に腹立たしかった。


 すると、早くも2杯目のカレーを食べ終えた天龍が口を開いた。



天龍「いずれ分かるさ。提督の訓練はだいぶ変わっちゃいるが、やっといて損はないぜ」


青葉「そうですよ、霞さん。焦らずに頑張りましょう」


霞「っ……」



 いつの間にか形勢逆転。霞はそれ以上何か言うことなく、2杯目のカレーを注ぎに厨房へと駆けて行った。






・・・






 その日の夜、霞はベッドへと潜ったまま、頭の中でイメージトレーニングに励んでいた。

 食堂ではああ言ったものの、心の中では1本も取れなかった自分が情けなくて仕方なかったのだ。

 

 夕刻の提督の動きを想像し、どう対処してどう攻撃を繰り出せばいいか、綿密にシミュレートしていく。

 そのうちイメトレだけでは飽き足りなかったのか、霞はベッドから飛び出し、軽快なフットワークを始めた。



霞「そう、ここで足を崩す。そしてすかさず裏拳!」



 体を半回転させ、イメージした提督の顔面に拳を繰り出す。

 何度かそれを繰り返した後、霞は再びベッドへと戻った。心なしかその顔は満足気だ。



霞(明日は絶対1本取る・・・絶対・・・・・zzZ) 



 疲れていたのか、意識を手放すまでそう時間はかからなかった。

 時刻はフタサンマルマル、霞の秘書艦としての1日が終わった。




 だが、霞はまだ知らない。左遷島が単に艦娘を更生させるだけの島ではない、ということを。







青葉「そろそろ試し時じゃないですか?」



 未だ明かりの消えない提督室。提督室には提督と青葉、2人の姿があった。



提督「まだ早い。せめて私から1本取れるようになってからだ」



 目の前の書類にペンを走らせたまま、提督は答えた。

 それでも青葉は引かない。



青葉「既に通常の駆逐艦娘のレベルは超えています。それに佐世保から催促されたんですよね?」


提督「………」


青葉「だったら早くに見極めるのもありかと」


提督「……分かった。許可する」


青葉「やった!ありがとうございます!」



 今にもスキップをしだしそうな足取りで、提督室を後にする青葉。

 提督は相変わらず目の前の書類にペンを走らせたまま、静かにため息をこぼした。






・・・






 翌朝。

 霞は日課である早朝マラソンに励んでいた。本土なら鎮守府の周りを走るだけで済むのだが、この島ではそうはいかない。

 その理由は単純なもので、鎮守府自体が他の鎮守府と比べてもかなり小規模だからだ。鎮守府と呼べるのか怪しいぐらいである。

 これではマラソンにならないため、霞は島全体をぐるっと周ることにしたのだった。



霞「ふぅ…こんなものね。っと、朝食の前に汗流さないと」



 時刻はマルナナサンマル。あと30分も経てば朝食の時間だ。

 基本この島の朝は、一般的な鎮守府のように起床ラッパが鳴ることはない。

 自分たちで起きて、自分たちで朝食の支度をし、自分たちで後片付けをする。ごく当たり前のように聞こえるだろうが、艦娘にとってはかなり異質な内容となっていた。


 霞自身、最初は提督に猛反発したものだ。しかし、提督が後片付けをしている様を目の当たりにしては、艦娘は何も言えない。

 だからもう慣れてしまったのだ。この妙な慣習に。



霞(本土の奴ら、ここに来たら絶対腰抜かすわ)



 そんなことを考えながら、軽くシャワーで汗を洗い流し、身支度を整え食堂へと向かう。

 食堂には既にエプロン姿の青葉と、テーブルに突っ伏している天龍の姿があった。



青葉「あっ、おはようございます。今できますから」


霞「そんなに急がなくてもいいわよ。何か手伝う?」


青葉「大丈夫です。もう配膳するだけなので」


天龍「おーい…飯はまだかぁ……」


霞「ちょっとあんた、だらしないわよ。顔洗ってシャキッとしなさい」


青葉「天龍さんは朝が弱いんですよねぇ…これじゃいつまで経っても本土に戻れませんよ」



 ため息混じりに話す青葉。霞も釣られてため息をこぼす。

 そこに上から下までジャージ姿の提督が合流。提督は無言のまま席に着いた。

 提督が入ってきたところで別段何かが変わるわけでもなく、天龍は相変わらず机に突っ伏し、霞はソッポを向いている。

 そんな中、青葉はテーブルの上に朝食を並べていき、全員に行き渡ったところで自分の席へと腰を下ろした。



青葉「それでは、いただきましょうか。おかわりもあるので遠慮なく」


霞「……いただきます」


天龍「おお、できたのか…って、提督いたのかよ?!」


提督「………」



 提督は何も言わず、無表情のまま味噌汁を啜っている。

 今朝の朝食のメニューは、白米に豆腐の味噌汁と目玉焼き。それにプラスで、好きな人には納豆も付いてくる。

 納豆は霞以外の3人だけが食していた。



天龍「朝はやっぱ和食に限るよなぁ。霞もそう思うだろ?」


霞「別に、どっちでも。食えれば何でもいいし」


青葉「青葉は朝はパン派ですね〜」



 広い食堂に響く、3人の何気ない日常会話。

 そして、ずっと無言だった提督がようやく口を開いた。



提督「今日は特に整理すべき書類はない。霞は訓練に集中するといい」



 提督はそれだけ言うと、器を流しに置いて早々に食堂を去って行った。






・・・






 マルキュウマルマル。

 普段なら提督室へと赴く霞であったが、今日は違った。食堂を後にし、更に僅かな食休みを取ったあと、足早に装備保管庫へと向かう。

 装備保管庫には既に、艤装を身に纏った天龍の姿があった。



天龍「おっ、来たな。今日の訓練はいつもの二倍増しだ。覚悟しとけ」


霞「ふ、ふん。上等よ」



 自分の艤装保管スペースから艤装を引っ張り出し、迅速に装備していく。

 全てを装備し終わり、最後に「よし」と頬に軽く気合を入れ、装備保管庫の扉を閉めた。



霞「んで、今日は何やるの?そろそろ、砲撃戦やら魚雷戦の訓練もやりたいんだけど」



 桟橋から演習場へと向かう橋の上で、霞は言った。



天龍「そうだな…ま、お前次第だ」


霞「あんたそればっかじゃない。偶には他の言い回しとかないわけ?」


天龍「仕方ないだろ。それに今日に限っては、そんなこと言ってられないぜ」



 ふと演習場の方を見下ろす天龍。そこには満面の笑みを浮かべる青葉がいた。



霞(えっ、何であいつがここに・・・・・)



 全身の毛が一斉に逆立つのと同時に、脳内の危険信号がチカチカと激しく点滅する。

 本能的に直感したのだ。あいつは危険だ、と。



天龍「分かってるとは思うが…あの人は俺みたいに甘くないからな」


霞「………」



 ゴクリと唾を飲み込む。そして動揺を隠しながら、青葉の待つ演習場へと降りた。






・・・






 左遷島へ来て初めてこの人の顔を見た時、なぜか怖かった。

 目を合わせた瞬間、冷や汗が止まらなかった。

 どうしてか、自分でも理由は分からない。でも、だからこそ嫌いなのだ。

 この人の笑顔が。



霞「はぁ…はぁ…ちっ、あんたの方が深海棲艦よりよっぽど怖いっての……!」



 訓練開始から早1時間が経とうとしている。1時間ずっと動きっぱなしで、そろそろ疲れてきた。

 だが気は抜けない。少しでも抜いたらあいつは容赦なく、訓練用の砲弾を当ててくるだろう。訓練用といっても当たれば痛い。

 それに今は味方もいない。1人で全て対処するしかないのだ。

 あいつを相手に。



青葉「いいですね〜。天龍さんが一目置くだけのことはあります」


天龍「おい、あんま余計なこと言うなよ」



霞(疲れた・・・せめてあと一人・・・いや、そうじゃないでしょうが)



 思わず弱音を吐きそうになるが、何とか奥へと飲み込む。

 そして再び戦闘態勢。



霞(これを超えて・・・私はもっと強くなる!)

 


 気休めだろうか。心なしか、体がさっきより軽くなった気がした。

 改めて "敵" との距離を確認。そして艤装をフル稼働させる。



青葉「さあ、どこからでもどうぞ」


霞「その余裕も今のうちよ!」



 霞の12.7cm連装砲が火を噴く。砲弾はそのまま青葉の手前に着弾した。



青葉「惜しい!」



 余裕の表情を見せる青葉。だが何も、一発で仕留めようというわけではない。

 再び自らの主砲を構え、やや射角を上げてまた撃つ。



霞「撃てー!」


青葉「おっとっと、またハズレです」



 今度は青葉の奥に水柱が上がった。そう、これでいい。

 


霞「目標夾叉!ふん、この状況でも余裕ぶってられる?」


青葉「むっ……?」



 夾叉。

 それは弾着によって、目標を挟み込んだことを意味する。あとは砲の角度を調整して、目標を確実に捉えるのだ。

 今、正に青葉は霞の砲撃によって挟まれている。次の砲弾は、先の2発よりも青葉に当たる確率が極めて高い。

  


霞「これで終わりよ!撃てー!!」



 これを狙っていたかの如く、霞は自らの主砲を放った。

 砲弾はそのまま真っ直ぐ、吸い込まれるかのようにして青葉へと向かっていく。

 それを見た霞は勝利を確信した。



霞(よし、これで私の勝ち


青葉「とか思ってます?ダメですよー、霞さん。最後の最後まで気を抜いたら」



 次の瞬間、空中で何かが爆発するのと同時に、大量の色取り取りの染料が海面にぶち撒けられた。



霞「……は?」



 思わず言葉が漏れた。

 目の前で起きた事実に頭が追いつかない。



青葉「足が止まってますよ、霞さん」


霞「っ、やばっ!?」



 一瞬の隙をついた青葉の正確無比な砲撃。

 20.3cm連装砲から放たれたペイント弾は、これまた真っ直ぐ霞へと吸い込まれるようにして飛んでくる。

 不意を突かれた霞に回避運動をする余裕はなく、ペイント弾は全弾命中した。



青葉「午前の訓練はここまでにしましょう」


霞「………」



 染料まみれになった霞を見ても、青葉は特に何か言うことなく桟橋へと上がって行った。



天龍「ほら、俺たちも戻るぞ。そろそろ昼飯の時間だしな」



 青葉に続き、天龍も桟橋へと引き上げて行く。

 演習場には1人、霞だけが取り残された。






・・・






霞「あんのクズ重巡…少しは手加減しろっての」



 ペイント弾によって色鮮やかになった全身を綺麗さっぱり洗い流し、提督室へと続く廊下を歩いていた霞は、頭の中で先の演習を振り返っているうちに思わず本音が溢れた。



霞「大体、駆逐艦が重巡に勝てるわけないじゃない。何なのあのクズ司令官、意味分かんないったら」


霞「……はぁ…やめなさい霞。油断してペイント弾の直撃を受けたのはクズ司令官のせいじゃないわ」



 目標を夾叉したまではよかった。だが仕留められなければ意味がないのだ。

 現に青葉にペイント弾を命中させることは出来ず、逆に返り討ちにあった。実戦では間違いなく轟沈していただろう。

 その現実が霞に重くのしかかっていた。



霞「もっと…強くならなくちゃ……」



 そしてたどり着いた提督室のドアを勢い良く開ける。

 中にいた提督は一瞬、目を見開いたようだった。そして手に持っていた何かを耳から遠ざけた。



霞(通信・・・?相手もよっぽど暇なのね)


提督「入る時はノックしろ。何回言わせれば気が済むんだ」


霞「自分の部屋に入るのに、わざわざノックする奴がいるとでも?」


提督「ここはお前の部屋じゃない」


霞「どうでもいいけど、あんた通信中でしょ」


提督「はぁ……」



 あからさまに大きなため息を吐く提督。

 霞は気にせずいつも自分が使っている席に座った。

 

 しばらくすると提督も話が済んだのか、通信を終えて机の上にあった1枚の用紙を手に取る。

 いつにも増して無愛想な表情になっていく提督を見た霞は、興味はなかったが通信の内容を聞き始めた。



霞「ねえ、誰と話してたの?」


 

 その問いに提督は、意外にも簡単に答えてくれた。

 だが提督の口から出てきた名前は、霞にとってはかなりのビッグネームだった。



提督「お前が着任するはずだった佐世保の提督だ。お前を早く寄越せってうるさくてな」


霞「えっ、私を……?」



 提督は更に続けて言う。



提督「お前の決断次第では、次の輸送船が来たら戻ってもいいぞ」


霞「……は?!」



 驚いた。

 この監獄から戻ってもいいと、帰ってもいいとそう言われたのだ。



提督「秘書艦としての仕事も申し分ない。訓練にも手を抜かず、艦娘間の関係も良好」


霞「………」


 

 手に取った用紙を見て淡々と書かれた文字を読み上げる。

 そして目線を霞へと向けた。



提督「駆逐艦、霞。本日付で秘書艦を解任、佐世保鎮守府への配属を命ずる」 






・・・






青葉「よし!今日の訓練はここまでにしましょう!」


天龍「お疲れさんー。んじゃ、今日の夜飯当番俺だから先に上がるわ」


青葉「お疲れ様です。青葉も直ぐ行きますから」



 ヒトハチサンマル。

 日も傾き、月が見え始めるこの時間まで訓練は続いていた。

 午前中の激しい戦闘訓練とは打って変わり、午後は航行訓練と先日提督と行った組手が主な訓練メニューであった。

 この島に来て一週間が過ぎたが、そんな今でも常に心の中で思っていることがある。

 

 一体本土の連中はどんな訓練をしているのだろうか、と。



霞「はぁはぁ…もう無理…死ぬ……」


青葉「お疲れ様です、霞さん。ここに来て間もないっていうのに、随分動ける様になりましたね。青葉、感心しちゃいます」



 にこにこ顔で手を差し伸べる青葉。

 だが霞はその手を取ろうとはしない。

 たった今この身を投げた相手の手を取るほど、霞はお人好しではないのだ。

 

 青葉はそういう霞の意図を読み取ったのか出していた手を引っ込め、そして背を向けながらも言った。



青葉「ふふっ、大丈夫です。霞さんは確実に強くなっています。ここを去っても十分やっていけるほどに」


霞「………」



 その言い様はまるで霞の心の内を全部知ったような、そんな口振りであった。






・・・






 訓練を終えた霞は提督室へと向かっていた。

 秘書艦を解任された今となっては特に足を運ぶ必要のない場所ではあるが、なにぶん習慣とは恐ろしいものである。

 すっかり秘書艦としての行動パターンが染み付いてしまったのだ。



霞「入るわよー」



 とは言ったもののノックはしない。

 中へ入ると相も変わらず無愛想な顔をした提督が、席を立とうとしていたところだった。

 既に格好も見慣れたジャージ姿へと変わっている。



霞「ねえ、あえて突っ込まなかったけど…ジャージはないんじゃない?」


提督「動きやすければそれでいい。それよりノックを忘れるな。本土に戻って恥をかくのはお前だぞ」



 最後の方だけ何だか言い回しが強かったのは気のせいじゃないだろう。

 だが霞は気にしない。



霞「はいはい、すみませんでした。謝りますごめんなさい。これでいい?」


提督「はぁ…もういい。あとは佐世保の連中に色々一から指導してもらえ」



 提督の物言いに霞は少しムッとした。自分でも何でかは分からないが。



霞「指導してもらうことなんてないわ。もう私は十分強くなったし」



 堪らず見栄を張る。

 正直なところ、あの2人を前にしては自分がどれだけ成長したか実感できるはずもないのに。



提督「中身の話だ」



 ふと時計の方を見る。

 時刻は夕食の時間まで1分をきっていた。

 提督は明りを消し、提督室のドアを開ける。そして言った。



提督「まあいい。それだけ自信がついたというのは悪いことじゃないからな。その調子で訓練に励め」


霞「っ……!」



 まただ、と霞は思った。

 先ほどから感じているこの何とも言い難い苛立ちは何なのだろう、と。

 気がつくとそれは言葉となって吐き出されていた。



霞「言っとくけど、私まだ佐世保に行くって決めたわけじゃないから」


提督「……は?」



 何を言っているのだ自分は、そう後悔した時には時すでに遅し。

 だがまあ、この無愛想な男の素っ頓狂な様が見れただけよしとするか、そう開き直ることにしたのだった。






・・・






 提督は考える。

 今は仕事中ではなく夕食中、だから思考も提督としてのものではなく、あくまでも一個人としてのだ。



提督(本来であれば霞を佐世保に送り出すのには反対だ。こんな中身が空っぽな娘を送り出すほど俺も素人じゃない)


提督(だが佐世保の提督に逆らえないのも事実・・・今まで通り問題なく事が運んでくれればいいんだが)



 提督は「ふぅ」と一息つくと一旦考えることをやめた。

 天龍ら3人は既に今晩の夕食である天龍特製ラーメンを啜っているところであった。

 いかにも美味そうな匂いが提督の鼻を突く。



提督「いただきます」



 手を合わせ、箸を持つ。一口目を啜ろうとした瞬間、霞が口を開いた。

   


霞「ねえ、あんたからも何か言ってよ。この脳筋共に」


提督「……何の事だ。話の趣旨が見えん」



 気にせず一口目を口へと運ぶ。今度は青葉、続けて天龍が言った。



青葉「いやいや、これが普通なんですってー!」


天龍「今は辛くてもそのうち慣れる。朝潮だってそうだったしな」


霞「どこが普通よ!!ありえないったら!」


提督「はぁ……」


 

 仕方なく話を聞いてると、どうやら霞がこの島での訓練内容に不満を持っている様だった。

 それを青葉と天龍がはぐらかすような答え方をするから、霞の怒りがどんどん増しているように見える。



霞「とにかく!この島へ来て一週間、そろそろ色々教えてくれてもいいんじゃないの?」


天龍「………」


青葉「………」



 3人の視線が提督の元へと集まる。

 提督はまたもや深いため息を吐くと、残ったスープを一気に飲み干した。






・・・






 左遷島。

 本土で何かしらの問題を起こした艦娘が集うことから、そう呼ばれるようになった。

 どんな問題かはまあ、ご想像にお任せするとしよう。ただ、人殺しまでは含んでいないとだけ予め言っておく。

 そしてこの島の役目は、ここへ来た艦娘を更生させ、本土へ送り返すことである。

 霞が行っていた訓練はその一環なのだ。



霞「………」


天龍「ま、簡単に言えばそういうことだ」


青葉「本土の艦娘たちと実力差をつけないために、少々ハードな訓練になってしまいました」


霞「……本当に私は、強くなってるの……?」



 下を向き、いつになく自信なさげな様子の霞。

 天龍と青葉は顔を見合わせた後、はっきりと言った。



青葉「もちろんです!さっきも言いましたけど、霞さんはちゃんと強くなってますよ!」


天龍「当たり前だろ。誰が嚮導やってると思ってんだ」



 最後に二人は提督へと目を向ける。

 これは提督からも、という二人のサインだ。



提督「……私はお前に本土に戻ってもいいと言った。つまりはそういうことだ」



 提督の言葉はこの一言だけだった。

 霞は顔を上げる。

 提督はいつも通り、自分の食器を流しへ。天龍と青葉も、何やら騒がしく話をしている。



霞(そっか・・・そうだったんだ・・・)



 ここで霞はようやく気が付いた。

 それは以前、提督に朝潮を秘書艦にしたらと進言した時のこと。

 提督は意味深に「ここが居心地いいと思われてしまっては困る」と、そう言っていた。あの時はその言葉の意味が分からなかった。

 でも、今なら分かる。

 今度、朝潮に会ったら聞いてみよう。この島の事について色々。

 そう心の中で決心しながら、残ったスープを一気に飲み干した。






・・・






 翌日。

 秘書艦を解任された霞はいつも通り、天龍と青葉らによる訓練に励んでいた。

 内容は簡単な航行の訓練。三人で出来る艦隊運動を、旗艦である青葉の指示で一通り行うというものだ。 

 提督の手によって艤装のパワーを半分に抑えられている今の霞には、かなり辛い訓練内容の一つとなっていた。



青葉「次行きますよ!両舷前進、第二戦速〜!」


天龍「あいよー」


霞「っ……!」



 先頭の青葉の速力がぐっと上がる。

 次いで霞、天龍も速力を上げ、青葉の後を遅れることなくついていく。

 


青葉「随分その艤装にも慣れてきたみたいですね〜、霞さん」



 航行中、前を向きながら青葉が言った。

 それに対しての霞の返答はない。黙ったまま青葉の後ろをついていく。

 代わりに天龍が口を開いた。



天龍「ああ、今だって遅れることなくちゃんとついて行ってる」


青葉「そうですか!ではこのまま速力をもう一段上げて、之字運動を」


霞「ちょっとたんま!!」



 ここで慌てた霞のストップが入る。



霞「こ、これ以上は無理よ…今だってついていくだけで精一杯…なんだから」


青葉「じゃあやりましょう!最大戦速です、ついてきてください!」


霞「っ?!だから無理だってーーーーーー」



 とは言わせてくれないのが、この青葉という重巡洋艦娘である。

 徐々に青葉との距離が離れていくのが見える。



霞(あのクズ重巡・・・!)



 こうなったらやるしかない。じゃないと後ろの天龍と衝突することになってしまう。

 ギリっと歯を食い縛り、自身の艤装をフル稼動させる。

 それによって水しぶきが幾度となく全身に降り注いだが、そんなことは気にしていられなかった。

 徐々に距離を詰めていく。だがそれでもあと一歩、元の隊列に戻るには届かない。



霞「こんの……!」



 しかし、ここで踏ん張るのが霞という駆逐艦娘だ。今一度、全身に力を入れて速力を上げようとする。

 不思議とさっきより体が軽くなったような気がした。

 そして気が付けば青葉との距離も元に戻っており、後ろの天龍と衝突せずに済んだのだった。






・・・






 午後。

 いつも通り午前の訓練を終えた霞は、菜園へと足を運んでいた。



霞「はぁ…慣れって怖いわね。あれだけ激しい訓練したっていうのに」



 訓練初日から今日の訓練までの自分の成長を振り返りつつ、菜園へと到着した。

 ジョウロを手に取り、そして水を入れ、そのまま満遍なく菜園の野菜たちに水をやる作業。

 この作業も今では霞の日課となっている。



霞「本土の連中は水やりとかするのかしら……」



 と、自分でもくだらないと思いつつ、それを口に出す。

 それはたぶん、平和であるという事の証明かもしれない。

 実際この島は深海棲艦の襲撃もなければ、出撃すら皆無である。

 まあ左遷島だから当然といえば当然なのだが・・・。



提督「ここにいたのか」


霞「!」



 提督の声であった。

 急な声に肩をビクッとさせるも、平常心を装う。



霞「何よ。何か用?」


提督「この後の予定だ。青葉、天龍と共に島周辺の哨戒に出てもらう」


霞「え、哨戒?」


提督「ああ。お前にもそろそろ実戦経験を積ませなければならない。でないと佐世保に行った時、使い物にならないからな」



 確かに、提督の言う通りである。

 霞はまだ実戦を経験した事がない。つまり、深海棲艦と対峙した事がないのだ。

 当たり前の事ではあるが、訓練と実戦はまるで違う。

 実戦では常に轟沈、いわゆる "死" と隣り合わせであり、訓練では動けていても実戦では動けないという可能性も否めない。

 そういう意味では実戦経験を積むというのは非常に大切な事なのだ。



霞「……分かった。でも意外だわ、ここにいる間は出撃なんてないものだと思ってたから」


提督「艦娘によりけりだ。お前は問題ないと判断した」


霞「ふーん…ま、いいけど」


提督「ヒトヨンマルマル、桟橋にて待機。いいな」


霞「ええ、了解」



 提督はそれだけを言いに来た様で、早々と菜園から去って行った。



霞「………」



 出撃。霞にとって初めての実戦だ。

 霞は拳をグッと力強く握ると、謎の高揚感と共に駆け出した。






・・・






 そしてヒトヨンマルマル。



霞「いよいよか……」



 装備保管庫にて艤装を纏った霞は、時間を確認するとそう呟いた。

 艦娘になって初の実戦、表には出さないが少しばかり緊張もしている。



青葉「大丈夫ですよー。今の霞さんなら戦艦だって怖くありません」



 横から青葉が言った。

 チラッと横目で青葉を見る。両手の20.3㎝連装砲が不気味に光って見えた。



天龍「でも油断はすんなよ。南方海域じゃエリートはもちろん、フラグシップ級まで出やがるからな」



 今度は天龍だ。

 カチャカチャと音を立てながら、自身の艤装を整備している。



霞「分かってるわよ。初陣で轟沈とか笑えないし」


青葉「万が一何かあったら、青葉と天龍さんがしっかり援護しますので」


天龍「おう。任せとけ」


霞「……ありがと」


 

 ボソッと、独り言のようにそれを呟く霞。

 青葉と天龍はその言葉に笑みを浮かべた。






このSSへの評価

12件評価されています


SS好きの名無しさんから
2017-02-09 15:09:51

SS好きの名無しさんから
2017-01-28 09:40:45

SS好きの名無しさんから
2017-01-03 07:09:51

がっくらさんから
2016-12-31 10:11:23

SS好きの名無しさんから
2016-12-21 19:29:19

SS好きの名無しさんから
2016-11-11 23:55:10

SS好きの名無しさんから
2016-11-10 23:44:49

SS好きの名無しさんから
2016-10-26 01:30:00

SS好きの名無しさんから
2016-10-24 02:11:13

SS好きの名無しさんから
2016-10-17 12:16:30

京哉提督@暇人さんから
2016-09-29 00:29:24

戦艦れきゅーさんから
2016-09-28 01:27:56

このSSへの応援

14件応援されています


SS好きの名無しさんから
2017-01-28 09:40:41

がっくらさんから
2016-12-31 10:11:25

SS好きの名無しさんから
2016-11-08 01:07:06

SS好きの名無しさんから
2016-10-24 02:11:11

おりおんさんから
2016-10-21 01:58:03

SS好きの名無しさんから
2016-10-17 12:16:32

SS好きの名無しさんから
2016-10-14 07:20:51

SS好きの名無しさんから
2016-10-12 23:29:24

SS好きの名無しさんから
2016-10-04 20:02:26

SS好きの名無しさんから
2016-09-30 01:51:51

2016-09-29 07:38:57

SS好きの名無しさんから
2016-09-28 23:54:11

戦艦れきゅーさんから
2016-09-28 01:27:52

京哉提督@暇人さんから
2016-09-28 00:50:38

このSSへのコメント

1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2016-11-15 16:38:18 ID: hsp_J5lU

ママ頑張って!


このSSへのオススメ

1件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2016-10-02 01:31:54 ID: NJCUDQtx

展開が気になる作品だ


オススメ度を★で指定してください