2016-10-17 06:06:00 更新

概要

二週間前、更迭されて監禁される下田鎮守府の提督と、特防の瑞穂のやり取りと関係。
ホットケーキを食べる、堅洲島の提督と秘書艦たち。

提督は武術の修練場所として、旧堅洲島小学校のカギを借りるが、そこには何かが「出る」らしい。

そして、波崎鎮守府の鹿島は危険に気付く。

太平洋を旅する熊野と朝雲のやりとり。

そして、戦艦の設計プランの見直しをする、提督と扶桑。


前書き

前半に性的描写があるので、苦手な人はスルーしてください。

複数の出来事が同時進行していますが、やがて少しずつ収束していきます。

鹿島がとてもいい子です。

叢雲の進水日が絡んでいたため、今回は叢雲がちょっと出てきますが、
頭に浮いている艤装がぶっとんだ便利ツールと判明します。
でも、変なところが有線です。


[第二十一話 真面目の度合いは人それぞれ]






―二週間少し前。伊豆半島、下田鎮守府。


下田鎮守府の提督「は?いきなり更迭ですか?なぜ?」


特防室の瑞穂「はい。理由は自分の胸に手を当てて考えれば良いと思いますが、一つはまず、特定のスタイルの艦娘を贔屓するような言動、運用が目立ち、艦娘の育成と運用が適切ではない事。二つ目は、司令部からの作戦司令を、さも上層部に敵勢力が入り込んでいるかのように指摘して、無視した事。この二点です」


下田提督「一点目はまあ仕方ねぇ。けど二点目は納得がいかねーな、実際に統計を取ってたんだよ、実はさ。大規模作戦の小規模作戦も、総司令部からの作戦だけ、妙に敵の待ち伏せが多いんだ。これは偶然なんかじゃねぇ」


特防室の瑞穂「それは軍事法廷ででも証言なされば良い事です。命令不服従が許される立場にはありません。現時刻を持って更迭といたします。身の回り品を持って、特防の車両に乗ってください。横須賀に到着次第、聴取がありますから」


下田提督「けっ、犯罪者扱いか、やってらんねーな。アンタも艦娘のくせに、ずいぶん冷たい雰囲気にしゃべり方だ。おーやだやだ。艦娘のいいところが一つもねぇ。深海出身なんじゃねえのか?」


特防室の瑞穂「・・・そのくらいにしてください(小声)」ボソッ


下田提督「どうせ適当な罪状まとめて処理されんだろ?なら、言いたいことくらい言わせろよ。この深海瑞穂が。艦娘のくせに血の通わない仕事なんかしやがって」


特防室の瑞穂「きさマ・・・(小声)」


―この時、下田提督は瑞穂の手が小刻みに震え、激しい怒りのまなざしを自分に向けているのに気付いた。


下田提督(なんだよこいつ、全然瑞穂みたいじゃねぇ。えらい怒ってんなぁ。サイコかよ)


―それから数時間後。


下田提督「・・・は?どこだよここは?」


―気づくと、殺風景な部屋で、椅子に座らされ、後ろ手に縛られていた。


特防室の瑞穂「意外に感覚が鋭い人ですね。いつから気付いていたんですか?」


下田提督「は?何が?そんなもん、注意深く見てれば誰だって気づくだろ(情報漏れの件かな?)」


特防室の瑞穂「なるほど・・・」


―ここで、瑞穂の眼が燃えるような赤に代わり、髪は影のように黒く、肌は骨のように白くなった。


下田提督「ああ?嘘だろ?アンタそれは・・・!」


水母棲姫「ユダンシテイタワ。ミヌカレルナンテ。ココデシマツスルヒツヨウガアルワネ!」


下田提督「いやおれは、アンタの正体を見抜いていたとかそんなんじゃ・・・。でもマジかよ!まさか本当に司令部に深海が入り込んでんのかよ。あーあ、アイツら上手くやってくれよ?おれはここまでみてーだな。んで、深海のねぇちゃん、殺すんなら痛くなくさっさと殺してくれや」


水母棲姫「コレカラクスリヲワタス。ソレヲノンデシネ」


下田提督「やなこった。何で毒を自分で飲んで死ぬんだよ。深海なんだから大砲で・・・あ、ねぇのか。腕力とかでたたきつぶすとか、なんかこう、一撃で死ぬ系の何かがあるんだろうが!」


水母棲姫「・・・ソレハムリダ」


下田提督「は?何で?」


水母棲姫「ワレワレハニンゲンヲ、チョクセツコロセハシナイ。トクニ、テイトクニナレルニンゲンハナオサラナ。ダカラ、ジブンデシネ。デナケレバ、ウエジヌンダナ」


下田提督「初耳だけどそうか、そうなのかもしれねーな。お前らは人間に直接手を下せないのか。船は沈めたりしても。・・・でさ、薬飲んで死ねとか、餓死しろとか、そんなの無理に決まってんだろ。バカなの?」


水母棲姫「ニンゲンフゼイガ!」


下田提督「でも実際そうだろうが。殺すんなら一思いにサクッとやるか、釈放すりゃいいだろ。あ、それは無理か。ああもうめんどくせぇな。逃げ続けても面倒だし、戻っても面倒だし。全くよ」


水母棲姫「・・・シヌノハコワクナイノカ?」


下田提督「こんなざまでどうしろってんだよ。もともと提督なんか向いてねぇんだ。鎮守府の子だって敵意を向けてくる奴や、ひたすら無視してくる奴らばっかりでな。提督の仕事はもうしたくないし、かと言って取ったデータをほっとけば、真面目にやってる所が余計な被害を受ける。おまけに更迭されたから、明るい未来も無い。家族もいねぇし、こんな状態だ。別に死んだっていいや」


水母棲姫「・・・・・」


―そのまま一時間以上、沈黙が続いた。


下田提督「なあ、本当にこう、一思いに殺すとか無理なの?」


水母棲姫「ムリダ!」


下田提督「じゃあ、逃がすのは?」


水母棲姫「ムリダ!」


下田提督「どうしろってんだよ、まったくよ!」


水母棲姫「ドウスレバ、イウコトヲキイテシヌノダ?」


―水母棲姫は、下田提督と向かい合わせに、簡素な病院にでもあるようなベッドに腰かけていた。何とも不思議な光景だな、と提督は思う。


下田提督(うわ、すげえなこれ・・・)


―よく見ると、瑞穂から水母棲姫に変わったせいか、秘書艦服の胸のボタンがはじけ飛びそうな状態になっていた。


下田提督「なあ、胸元が苦しいなら、ボタン外したらどうだ?」


水母棲姫「ソウダナ・・・」プチプチッ・・・バインッ!


―水母棲姫がボタンを外すと、はじけるように胸元が開いた。


下田提督(うっわ!こりゃすげえ!摩耶っぱいより大きいんじゃないか?見慣れると、こいつ凄くいい女だし。そういや摩耶のやつ、ほとんど触ってねえのに毎回グーで殴りやがって・・・)


―ここで下田提督の頭の中で、おかしなアイデアがひらめいた。


下田提督「なあ、薬を飲んで死んでもいいぞ。ただ、やりたい事がある」


水母棲姫「ナンダ?」


下田提督「アンタのその立派な胸、好きなだけ触らせてくれたら、その後は薬を飲んでとっとと死ぬよ。ただ、もう死ぬって時も、その胸で抱きしめててくんないかな?」


水母棲姫「・・・・」


下田提督(これで怒り狂えば、流石にぶっ殺す気にもなるだろ)


水母棲姫「・・・イイダロウ」


下田提督「だよなぁ・・・え?いいの?」


水母棲姫「ドウスレバイイ?ハヤクイエ」


下田提督「じゃあ、手を自由にさせてくれ。部屋の隅に鎖と輪っかもあるだろ?あれで足を繋げば逃げられないからさ」


―水母棲姫は提督の右足首とベッドを、鉄の輪と鎖で繋いだ。


水母棲姫「アトハドウスルノダ?」


―提督はベッドに腰かけた。


下田提督「あとは、おれの前に座ってくれ。それで勝手にする」


水母棲姫「イイダロウ」トサッ


―間近で見る水母棲姫は、思った以上に良い女で、いい香りがした。肌が透き通るように白い。


下田提督(人生の最後に、こういうイイ女のおっぱいを触って死ぬ、か。神様も最後くらいはおれに優しかったんだな・・・)


下田提督「じゃあ、失礼して・・・」モゾモゾ


水母棲姫「・・・・ウッ」ピクッ


下田提督(ん・・・ちょっとひんやりしているが・・・でかい!柔らかい!吸い付くような肌だな!人生最後に、人生最高のおっぱいに出会うとはなぁ)ムニムニムニ


水母棲姫「ンッ!・・・マダカ?」


下田提督「始まったばかりだろ?・・・早く終わらせたいなら、上着を脱いでくれ」


水母棲姫「イイダロウ・・・・」バサッ


下田提督(こういう方面の知識は全然ないのか?・・・しかしキレーな身体だな。どうせ最後なんだ、好きにさせてもらうか)バサッ


―提督も上着を脱ぎ、水母棲姫を背中から抱くように密着すると、優しく、しかし欲求のままに胸を揉んだ。提督時代のストレスが、解けて流れ出して、心が軽くなっていくような気がする。


下田提督(大体、艦娘はむやみに魅力的なんだよ。なのにほとんどの奴らはおれに冷たく当たりやがって・・・くそっ!)


―提督は特に、駆逐艦勢からの蔑むような視線を思い出していた。が、次第にそういう気持ちも薄れてきた。今の最期の幸せを大切にするべきだ。


水母棲姫「ンッ・・・ンンッ!・・・ハァ・・・ナンダコレハ?ナニカ、ヘンダ」


下田提督「変じゃない。普通。みんなこういう事が好きなんだよ」


水母棲姫「ンッ・・・ナライイ。オマエハマンゾクシテイルカ?」


下田提督「とてもいいが、まだもう少し。こういう時はあまりしゃべらないもんなんだぜ?」


水母棲姫「ワカッタ」


ーしかし、次第に水母棲姫の警戒心は薄れ、身体からも力が抜けていった。逆に、提督はストレスから解放されたり、死の危険のせいか、収まりがつかないほど昂り出した。


下田提督(ああ、提督だってのに深海棲艦の胸を揉んで欲情して、つくづくおれは。でも、こいつの魅力がありすぎるんだよ・・・)


―もう今は、水母棲姫はほとんど提督に寄りかかって、なすがままにされている。


水母棲姫「ン・・・ア・・・」


下田提督(もう提督は無理だな。こういう子を沈めているなんて知ったら、無理だ)


水母棲姫「・・・」トローン


―下田提督は水母棲姫の身体を支えつつ、右腕で胸を包み込むと、左手をそっと下に伸ばした。


水母棲姫「ナニヲ・・・スル・・・ンンッ!?」ビクッ


―・・・ヌル・・・。


下田提督(驚いた。人間の女と同じか。・・・ああ、もう収まりがつかねぇ)


―水母棲姫の身体をベッドに横たえる。


下田提督「水母棲姫、いいか、おれはこれから、お前に生殖行為をする。もうそういう気持ちで、収まりがつかねぇんだ。なるべく優しくするから、嫌なら言ってくれ」


水母棲姫「フン・・・アヤシイワザデウゴケナクシテオイテ・・・オマエノスキニスレバイイ・・・」プイッ


―水母棲姫はそういうと、わずかに赤くなった顔を横に向けて、そっぽをむいてしまった。


下田提督(ああ、可愛いな、こいつ・・・)


瑞穂「それと、名前を呼ぶなら瑞穂にしてください」


―一瞬だけ、水母棲姫の眼の赤い光が消え、瑞穂の口調でそう言った。


下田提督「わかった。瑞穂、パンツ取るぞ」モゾゴソッ


―二時間後。水母棲姫は瑞穂に戻り、下田提督の腕枕ですやすやと寝息を立てていた。


下田提督(どうなってんだ?おれはどっちとしたことになるんだろう?まあいいや、最高の時間だった。もう心残りはねえな)


瑞穂「ん・・・起きたんですか?」


下田提督「よう、起きたのか。痛くないか?」


瑞穂「大丈夫です。よく、棲姫状態の私を抱きましたね」


下田提督「言いたい事がわかんねぇ。おれには魅力の塊にしか見えなかったしさぁ。胸だけの約束だったのに、手を出してしまって悪かったな。でも、十分に満足はした。薬をくれ。気分のいいうちに死にたい」


瑞穂「そうですね、約束は守ってもらいます。これを・・・」


―瑞穂はベッドわきに置いたバッグから、小さなアンプルを取り出した。


瑞穂「これを飲んでいただければ、意識を失い、そのまま心肺停止します。苦痛はありません」


下田提督「わかった。じゃあ、またさっきの姿になってくれ。あの胸で死にたい」パキン


―瑞穂は再び、水母棲姫の姿になった。


下田提督「でかくていい胸だ。じゃあ、最後にいい時間をくれてありがとうよ」グイッ


―バシッ、パシャン


―水母棲姫は下田提督の飲もうとしたアンプルをはたき落とし、毒薬入りのアンプルは落ちて割れてしまった。


下田提督「おい!なにを?」


水母棲姫「マダ、オマエニハリヨウカチガアリソウダ」


下田提督「やっぱりまだ死ぬなって事か?勝手だな。せっかく覚悟したのによ」


水母棲姫「ソノトキハ、マタ、キョウノヨウニシテヤル。ソレカラシネバイイ」


下田提督「え?最後までって事か?また?」


水母棲姫「・・・フフクカ?」


下田提督「いや、嬉しいよ?嬉しいけどさぁ・・・」


瑞穂「なら、問題ありませんね。いずれにせよ、あなたの命は私の管理下です。しばらくここにいてもらいますが、死ぬのはもう少し先でもよいでしょう」



―そして、現在。


下田提督(あれから二週間か。こいつと何回かやったが、全然飽きねぇや。イイ女だし。何だか幸せだな。バカみてぇな話だがよ)


―下田提督は外の雨の音と、瑞穂・水母棲姫の感触や寝息、香りを感じ、満足に包まれて眠りに落ちた。入れ違いで、瑞穂・水母棲姫が目を覚ます。


水母棲姫(コノヒト、アタタカイ。イテホシイ・・・)


瑞穂(どうしましょう?どうしたら・・・?)


―おそらく自分は使い捨ての立場だったのだと瑞穂は気づいていた。深海棲艦であり、スパイである自分が、特防では自分を強姦したうえで逃走したとされている、この提督とともに生きる方法、という出口の無い難問の解決法ばかりを今は必死に考えていた。



―12月28日、ヒトマルマルマル。堅洲島鎮守府。特殊帯通信室。


参謀(特殊帯通信)「君の具申案は非常に高く評価されている。年内にさっそくロケット発射基地と、E.O.B海域への二方面作戦を行い、かつ、遭遇した敵は全て撃滅するという作戦を立案した。要は君の案そのままだ」


提督(特殊帯通信)「ありがとうございます。おそらく、今までとは違った情報や戦果が期待できるはずです。または、敵の進撃が大幅に鈍るか。いずれにせよ、この上ない展開かと思われます」


参謀(特殊帯通信)「うむ。ところで、現在の元帥が特防に君の鎮守府の調査を働きかけたらしい。おそらく、陸奥の件等で粉を掛けてくる腹積もりだろうが、実はそれさえも奴の降格のネタになる段取りだ。君が大元帥と個人的な付き合いがあり、太東鎮守府の提督が大元帥の息子と知った時は驚いたよ。元帥の動きは筒抜けで、奴の首は年内に飛ぶことになった。私は年明けの三日から元帥に返り咲くよ」


提督(特殊帯通信)「それは、おめでとうございます、と手放しに行っていい物かどうか」


参謀(特殊帯通信)「まったくだ。それと、特防に査察を入れる予定だ。情報がやはり漏れ過ぎている。併せて、新しい防諜活動もそちらに案を求めたい。よろしく頼むよ。では、あとは大淀君に代わる」


提督(特殊帯通信)「諒解いたしました」


大淀(特殊帯通信)「通信代わりました、大淀です。提督さん、『ASU-DDB-800』の当初の搭載予定兵装カタログを送信いたします。併せて、この艦には幾つか新機軸のサポート兵器が提案されていました。上層部より、この艦の兵装の見直しも提督さんに一任されていますので、なにとぞ精査・ご提案をお願いいたします。また、試験兵装の性能評価を行いたい場合はご連絡ください。現在『ASU-DDB-800』は兵装以外はほぼ完成状態にあります。しかし、ある理由により兵装搭載工事は中断しており、再開のめどは立っておりません」


提督(特殊帯通信)「それは、なぜです?また、もし工事を再開したとして、工期はどれくらいで収まりますか?」


大淀(特殊帯通信)「当初搭載予定の兵装であれば、突貫で二か月で完工できる試算です。特殊訓練施設の防壁の内側は『純水含有硬化蛋白壁』という、特殊な処理の施された壁です。これは、信号の含有された特殊帯通信を初期化し、分散させる性質があります。分かりやすく言いますと、『ASU-DDB-800』は、深海側に非常に探知されやすくなる強力な干渉波を常時出力しているため、これをステルス化しているのがあの覆いなのです」


提督(特殊帯通信)「なるほど、つまり、工事をしようと壁を取り払うと、深海側にここの位置、いや、あの戦艦の位置が丸わかりになる、という事ですか?」


大淀(特殊帯通信)「ご理解が早くて助かります。この問題が解決するのが、年明け以降なのです」


提督(特殊帯通信)「なるほど・・・」


大淀(特殊帯通信)「『ASU-DDB-800』に関する様々な書類は、工廠の特殊帯サルベーション読み取り機経由で、報酬建造の要領で受領してください。それでは、よろしくお願いいたします」


提督(特殊帯通信)「諒解いたしました!」プツッ


提督「今の元帥はやっぱり無能者か。しかし、新しい防諜活動に戦艦の兵装の確認かぁ。忙しいこって。まあまた具申してみるか」


―執務室ラウンジ。


提督「なあ、なんかホットケーキ食べたくないか?」


叢雲「何でホットケーキ?でも、食べたい気もするわね」


漣「作りましょうか?ご主人様」


足柄「あら、私も作れるわよ?」


曙「私が作るわ。みんなと提督には迷惑かけたし」


提督「いや、間宮さんとこに行くって発想だったんだが。どうもおれの中のホットケーキゲージが急に下がったらしくてな」


叢雲「なに?ホットケーキゲージって。また面白い事を言ってるのね」


提督「ある時何かを急に飲み食いしたくなる時ってないか?おれはそんな時、「ゲージが下がった」って言うのさ。ちなみに、叢雲ゲージなんてのもあるんだぜ?」


叢雲「えっ?ばっ、馬鹿な事を言うのはやめなさいよ」


足柄「あら、それなら私には、『カツゲージ』があるわね」


提督「ん?カツってあのカツ?」


足柄「そうよ?縁起もいいし、食べてもパワーが出るからよく食べるの!」


提督「ああ、いいね!おれはカツカレーが好きで、良く食ってたなぁ」


足柄「えっ?提督、私の得意料理はカツカレーなのよ!何てこと、素晴らしいわ!今度作ってあげてもいいかしら?」


提督「ほんと?いやそれは嬉しいな。しばらく食ってなくて、食わないまま着任しちゃったから、ちょっと寂しかったんだよなぁ」


曙「で、ホットケーキはどうなったの?」


提督「そうだ!ほっとけない話題だな」


叢雲「くっ!」


提督「ん?どうした叢雲?」


叢雲「な、なんでもないわ(絶対わざとよね?)」


提督「ふーん?とりあえず、みんなで間宮さんとこに行くか。今日も頭を使うから、ホットケーキくらい食べてもいいだろう」


磯波「そうしたら、今の書類はどうしますか?」


提督「そう長く離籍するわけでもないから、ペーパーウェイトでも置いて、少しほっとけばいい」


叢雲「くうっ!」


提督「ん?どうした叢雲?」


叢雲「な、なんでもないわ!」


提督「ふーん?」


―だが、実はこの時、もう一人必死に笑いをこらえている艦娘がいた。


曙(くっ・・・さっきから地味に笑わせに来てる。叢雲さんがやられてる!)プルプル


―曙である。


―軽食・甘味処『まみや』


間宮「・・・それでホットケーキですか。たまに食べたくなる気持ち、よく分かります。では、さっそくおつくりいたしますね!」


提督「あ、飲み物はホット・コーヒーでお願いします」


曙・叢雲(今のも絶対狙ってた!)プルプル


漣(なんだろ?何か面白い雰囲気を感じるなぁ)


足柄(何かしら?この空気)


―しばらくして、ホットケーキと飲み物が出てきた。


提督「おれはホットケーキは蜂蜜派なんだよ。みんなはどっちかな?」


漣「私はバターとメイプルシロップ派です、ご主人様!」


足柄「私もそうね」


曙「私はバターと蜂蜜よ」


叢雲「私はどっちだろ?あまり考えたことも無かったわね」


磯波「私もあまりこだわりは無いですね」


提督「叢雲と磯波なら、黒糖シロップとか好きそうだが」


叢雲「じゃあそれにしてみるわ。・・・間宮さん、黒糖シロップありますか?」


磯波「私も、ちょっと試してみます」


間宮「ありますよ?それならきな粉を合わせてもいいかもしれませんね」


提督「ああ、いいかもね」


―ガラガラッ


金剛「あ、提督と秘書艦の皆さん、おはようデース!ホットケーキですかー?」


提督「よう金剛。一緒に食う?」


金剛「仕事中なのに悪いデース」


提督「いや休憩中だしさ。ここに座んなよ」


足柄「そうよ。間宮さん、ホットケーキ追加お願いします!」


金剛「とても嬉しいデース!皆さんありがとうネー」


漣(なんかキラッキラしてるなぁ、金剛さんて)


―ガラガラッ


初風「こっちにみんな来てたのね?帰ってきたわ。これから寝・・・ホットケーキ美味しそうね!」


提督「おかえり初風。ホットケーキ食う?」


初風「うう、食べたいのはやまやまだけど、これから寝るのよね」


提督「じゃあ、起きたら食べられるように間宮さんに言っとくよ」


初風「ありがとう。じゃあ皆さん、おやすみなさい」


―ガラガラッ


金剛「oh!初風で思い出しました。提督ゥ、私も銃を申請しますヨー?」


提督「お!金剛が?何にするの?」


金剛「エンフィールド・リボルバーNo.2 Mk.1でお願いしたいネー」


提督「うわ渋っ!しかし、なかなか似合うな」


金剛「デショー?提督をお守りするのはあくまで戦艦の実力ネー。でも、持っておいた方がイイなら、これでお願いしマース!」


提督「わかった。いやー、これはおれも見たいわ。金剛は良い趣味してるよ。まったく。届いたら一緒に射撃がやりたいね」


金剛「そういう時間も楽しいカナ?と思ったので申請することにしたんデース!」


曙「あの、ク・・・提督、磯波が装備しているような、私にも扱える、連射力の高い銃ってあるの?」


提督「曙かぁ。んー・・・グロック18Cあたりがお勧めかな。取り回しも楽なはずだし」


曙「ちょっと待ってメモするから。あとは自分で調べてみるから!」カキカキ


提督「いいね、真面目なのは良い事だ。・・・あと、狼ちゃん、間に合えば年内に、ダメでも年明け早々に銃火器のカタログが来るから、眼を通してくれたらいい」


足柄「わかったわ!」


漣(くっくっく、ぼのってばご主人様に気を使ってクソ提督って言えないでやんの)ニヤニヤ


曙「ん?漣、あんたなんでニヤニヤしてるのよ?」


漣「べっつにぃー?」


曙(絶対私の事だこれ!)


間宮「はいどうぞ、黒糖シロップときな粉ですよ」


叢雲「なるほどね、いただくわ・・・」カチャッ・・・モグモグ


磯波「いただきます」


叢雲「・・・!」パアァァ・・・キラキラ


提督(ほう、口に合ったようだな)


叢雲「・・・ん?何よ?」


提督「いや別に。口に合ったみたいだなぁと。ちなみに蜂蜜もうまいぞ?美味しいものを食べた時の叢雲の反応は何度見てもいいね」


叢雲「そういえば、アンタってやたらおいしいものを食べさせようとするわね。そういう事だったの?」


提督「日頃の感謝もあるが、そういうのもあるよ」


叢雲「ふ、ふーん・・・変なの。まあ私は、悪い気はしないけど」


金剛「そういえば提督の初期秘書艦は誰だったんですカー?」


提督「叢雲だぞ」


金剛「そうだったんですネー!叢雲にした理由は何ですカー?」


叢雲(あっ、金剛さん、なんてことを聞くのよ・・・)


提督「ん?理由かぁ。名前と見た目かな。あとは一番頼りになりそうな気がしたからさ」


叢雲「ふ、ふーん・・・」


金剛「確かに一番大人っぽいかもしれませんネー。あと、叢雲は美人さんデスネー」


叢雲「そっ、そんな事ないわ!」


漣「そういえばご主人様、私も初期秘書艦候補だったりするんですが、私を選ばなかったのは何でですかー?」ニヤリ


提督「その質問は絶対いつか来ると思ってた。ぶっちゃけると、上層部の漣に関する説明が少なすぎる。分かってたらたぶん、どちらかを秘書艦にして、すぐにもう一人も、って流れになっていたろうな。つまり、遅かれ早かれこうなっていたわけさ」


漣「模範解答(゚∀゚)キタコレ!!」


提督「いやいや本当だってば!」



―同じ頃、太平洋上。


熊野「今日も何もない海ですわね。ところで朝雲さん、本来私がお仕えするはずだった提督さんて、どんな方でしたの?」


朝雲「えーと、特務第二の提督さん?ごめんなさい、私も良く知らなくて。特務鎮守府は他の鎮守府とは、任務でもない限り交流しないらしいわ。そして今回が初めての合同作戦だったと思うから」


熊野「そうなんですのね。あなたの所の提督さんはどんな方でしたの?」


朝雲「うーん・・・そんなに話したことないからなぁ。駆逐艦は練度の高い子が沢山いたけど、私は改になってからはほとんど任務も無かったくらいだから。うち、凄く大所帯で、提督はまんべんなく練度を上げようと大変だったみたい。私なんかはかなり後発の着任だったから、これでも目を掛けてもらっていたほうかも」


熊野「あら・・・」


朝雲「何だかごめんなさい。何か話せることでもあれば良かったんだけど」


熊野「いいえ、そんな事はないわ。もしも提督や誰かと凄く親しかったら、この旅はきっともっと、何倍も辛く悲しいものだったかもしれませんもの。私もあなたも、かかわりが薄くて救われている部分もあるかもしれない、と考えましょう?」


朝雲「そうね。・・・熊野さんて、結構前向きなのね」


熊野「うふふ。前を向かないと、ちょっと遠い旅ですもの」


朝雲「そうね。ねぇ熊野さん、もしかして私たち、違う提督のところに着任になるのかなぁ?」


熊野「恐らくそうなると思いますわ。無事にたどり着けたら、の話ですけれど」


朝雲「私も、新しい提督がどんな人か、楽しみに考えようっと!・・・そういえば、日付変更線を過ぎるまではほとんど空白地帯だけど、そこから先、日本に向かい始めたあたりからが危険になるよね?」


熊野「ええ。夜は交代でポッドで睡眠をとり、見張り続けなくてはダメね。幸い、電探とポッドの干渉波感知機能がかなり使えますから、そうそう不意打ちは食らいませんわ」


朝雲「台風が発生する季節じゃないのもありがたいわね」


―日付変更線を超え、経度がオーストラリアを超えたあたりから日本にかけては、深海勢力の影響が強い海域が多い。そこからが本当に難しいところだ。



―同日午後、堅洲町役所。


提督「・・・というわけで、ある程度メンテナンスはこちらで致しますので、この、『旧堅洲島小学校』を教練や武術の練習場として使用させていただけないかと思った次第であります」


担当者「正直なところ、時々メンテナンスもされていますし、撮影やイベントで利用されていたこともあるのですが、・・・その、利用者の方から妙な噂がしばしば出まして、町としては使用に消極的にならざるを得ない部分があるのです」


提督「妙な噂、ですか?」


担当者「はい。ありがちな話で恐縮なのですが、その、出る、とか、変な事が起きるという・・・」


提督「いわゆる幽霊ですか?」


担当者「はい。町の人は誰も近づきません」


提督「なるほど・・・。なかなか興味深い話ですね。要は、その部分さえ自分たちで消化していれば何も問題は無い、という事ですか」


担当者「はい。そうなります。事前に調査していただいても構いませんし、使用してメンテナンスをしていただける分には、こちらとしてもありがたいのですが」


提督「わかりました。ひとまず鍵を預からせていただいて、一度現地を踏査してみます。劣化箇所等は写真撮影の上、報告書の作成でよろしいでしょうか?」


担当者「そこまでしていただければ助かります。よろしくお願いいたします」


―役場の駐車場。


叢雲「どうだったの?」


提督「ただいま。問題は無いんだが、出るらしい」


叢雲?「へ?出るって何が?」


提督「コレだとさ」


―提督は幽霊のマネをした。


叢雲「・・・何を馬鹿な事を言ってるのよ。そんなもの、いるわけないでしょ?」


提督「まあ普通、そうだよな。とりあえず調査してみることになった。こちらで、何か変な現象が起きても気にしないなら、好きに使ってよいそうだし」


叢雲「使うの?」


提督「幽霊なんて、いるわけがない!という前提でな」


叢雲「ふーん・・・」


提督「ん?叢雲、頭の上のアレ・・・イクシード・オービットが見当たらないぞ?」


叢雲「なにそれ?勝手に変な名前つけないでよ!ステルスモードにしてるだけ。あるわよ、ここに」ボヤッ


提督「光学迷彩?何気にすごい高性能だな!」


叢雲「それほどでもないわ」ドヤァ


提督「そういや、それの正式名称はなんて?」


叢雲「さあ?補助艤装としか聞いてないわね」


提督「そのまんまだな。どんな機能があるんだ?」


叢雲「ん?珍しいわね、そんな事を聞くなんて」


提督「いや、かなり初期から聞こうと思ってて、いつもタイミングがズレるんだよ」


叢雲「えーと、まずね、計算やケアレスミスの補助をしてくれるのよ。あとは私の体調や心の状態が発光素子の色で把握できたり・・・」


提督「ふむ」


叢雲「ほかに、先端部分がライトになってるでしょ?」


提督「ほう、それは便利だな!」


―提督はジープのエンジンをかけると、鎮守府に向かい始めた。


叢雲「あとは、コードを繋ぐと、耳をふさがないでも音楽やラジオが聞けたり」


―叢雲はそう言って補助艤装を外すと、提督に見せた。『LINE IN』ジャックが付いている。


提督「なるほど・・・?(有線なの?)」


叢雲「ポケットWi-Fi機能と、ハンディスキャナーの機能、スマートフォンと連動して、pdf形式の書類やウェブページを立体視できるようにしたり」


提督「ええ・・・?」


叢雲「カーナビみたいに道案内させることもできるのよ?こんなふうに」ゴソゴソカチッ


機械音声「その先、『堅洲島役所前』の信号、200m先、左折です」


提督「やたら多機能だな!艦娘としての補助機能は他には?」


叢雲「うーん、これは他の子には言わないでほしいのだけれど・・・」


提督「わかった(叢雲がそこまで言うとはな・・・)」コクリ


叢雲「アンタがたまに、ノートタブレットやパソコンでこっそり遊んでいる、艦艇のゲームがあるじゃない?」


提督「・・・あれ?何で知ってんの?」ギクゥ


叢雲「誰の秘書艦だと思っているのよ?」ドヤァ


提督「ま、まあ、遊んでるね。『ウォーシップワールド』かな?」


叢雲「そうそれ!あのゲーム、魚雷の攻撃可能範囲とかが可視化されるじゃない?」


提督「されるねー。・・・ってまさか?」


叢雲「うん、あんな感じで色々可視化されたり、燃費をアナウンスしてくれたりするのよ」


提督「めちゃくちゃ便利だな、それ!」


叢雲「他にもたくさん機能があるらしいけれど、正直、把握しきれないのよね」


提督「いや、それはそうだろう。まさかそんなに便利だったとは。・・・あ、じゃあ龍田の頭に浮かんでいる、天使の輪みたいなのもそんな感じかな?」


叢雲「たぶんそうかも。龍田さんとは、何だか艤装のデザインセンスとかが似ている気がするのよね。あ、天龍さんもたぶんそうかも」


提督「ああ、そういや似ている気もするな(艦娘の艤装ってどうなってんの・・・)」



―同じ頃、波崎鎮守府、鹿島の新しい部屋。


鹿島「提督さん、ありがとうございます!一人部屋にしていただいて」


波崎提督「もちろん、これから活躍してもらうし、いつも一生懸命やってくれてるからな。君の当然の権利だ」


鹿島「ありがとうございます!」


波崎提督「外商任務は頑張ってるか?」


鹿島「はい。正直、はじめは少し戸惑いましたが、やっと少し慣れてきました!」


波崎提督「そうか。頑張れよ」


鹿島「はい!」


―部屋の引っ越し作業を終わらせた鹿島は、コンビニの仕事に出ていった。


―それからしばらく後、深夜。波崎鎮守府の食堂。鹿島はコンビニの仕事から帰ってくると、一人でミルクティーを淹れて、一息ついていた。


鹿島(ふぅ、今日も疲れたなぁ・・・)


―ガヤガヤ、イヤーツカレタデチー、チョットネルノネー、オナカスイター・・・。


鹿島「あら?」


ゴーヤ「あっ、鹿島ちゃんでち!」


はっちゃん「こんばんは!鹿島ちゃん」


イク「鹿島ちゃんとやっと会えたのねー!」


イムヤ「よろしくねー!鹿島ちゃん!」


鹿島「わあ!一人でいたから嬉しいです!一緒に休憩してもいいですか?遠征の帰りでしょうか?」


―鹿島は遠目に潜水艦勢と会う事はあっても、こうして話すのは初めてだった。全員とても親しげなので、仕事帰りの鹿島にはとても嬉しかった。


イク「鹿島ちゃん、なんかとってもかわいいものを飲んでいるのね!」


鹿島「もしよかったら、皆さんの分もお淹れしましょうか?」


イムヤ「え?いいの?」


ゴーヤ「それはとっても嬉しいでち!」


鹿島「コンビニ帰りで一人だったから、とてもうれしいです!ちょっと待っててくださいね!」


はっちゃん「あ、私も手伝いますね!」


―こうして、鹿島と潜水艦チームの深夜のお茶会になった。


ゴーヤ「鹿島ちゃんはいなくなっちゃった憲兵さんと話したことはあるんでち?」


鹿島「いつもコンビニに行ってるから、お話したこともないですよ?」


イク「イクたち、いつもはもーっと遅い時間に帰ってくるのー。でもそうすると憲兵さんが巡回してて、よく憲兵さんとお茶してたのね」


イムヤ「オリョールから帰ってくると、いつも『任務お疲れ様です』って言ってくれてたね。怖い人かと思ったら、優しくて真面目な人だったの」


はっちゃん「いなくなっちゃったもんね・・・」


鹿島「そうだったんですね・・・」


ゴーヤ「いなくなった憲兵さん、もう三人目でち・・・(小声)」ボソッ


鹿島「えっ?そうなんですか?(小声)」


―ゴーヤの雰囲気で、鹿島も思わず小声になった。


イムヤ「憲兵さんとお茶する前は、前の鹿島ちゃんとも仲良しだったのよ」


鹿島「前の鹿島、ですか?」


はっちゃん「読書が好きな子で、よくこうしてお茶するときに本を交換したりしてお話ししたんですよ?感想を言い合ったりしてね」


鹿島「どんな本をよく読む子だったんですか?」


はっちゃん「中原中也の詩集とかかなぁ。愛読書だって言ってましたよ?」


ゴーヤ「あの鹿島ちゃんも急にいなくなっちゃったから、お部屋に本とかも残ってるはずでち!」


鹿島「急に、ですか?」


イク「あまり練度が高くなかったけど、北方海域の任務か何かに出ることになって、そこで轟沈しちゃったのね・・・」


鹿島「轟沈、ですか・・・」


イムヤ「提督の秘書艦をしていて、ケッコンしている鹿島さん以外は、みんないなくなっちゃうのよね、なぜか」


鹿島「えっ?」


イク「イムー、あまりその話はしちゃいけないのね」


はっちゃん「鹿島ちゃん、変な話になっちゃってごめんね」


鹿島「・・・いいえ、大丈夫です」


ゴーヤ「でも、何かおかしいなって思ったら、自分でこっそり調べてみるのは大事な事でち。あ、これはひとりごとでち」


イムヤ「鹿島ちゃん、私たちはお友達になりたいし、鹿島ちゃんが来る前からの事も色々知っているの。もし、何か聞きたい事があったら、こうして夜中に食堂で会えば話せるからね?」


鹿島(あ、これは、みんな私に何かを遠回しに伝えようとしているのね・・・)


イク「昔の事って言えば、秘書艦だった夕張さんなら詳しいのね!それ以外の人には聞かない方がいいかもなのー」


はっちゃん「そうね、何でもそうだけど、本当の姿って、自分が思っているのと違う事はいっぱいあるから。気を付けないとだめよね」


鹿島(なんだろう?みんな、すごく大事な事を伝えようとしてくれているみたいだけど)


イムヤ「ごめんなさいね鹿島ちゃん、初めてお話したのに、よく分からないお話になっちゃって。次はもっと楽しくお話しましょ?」


ゴーヤ「もしも鹿島ちゃんが嫌でなかったら、またお話ししたいでち。私たちの予定は出撃船渠近くの通路に貼りだしてあるから、それを見た方がいいでちね」


イク「鹿島ちゃん、私たちの話、よーく思い出してみてね。とっても、とーっても大事な事なの。遠回しでゴメンナサイなの」


鹿島「ううん。そんなことないです。皆さんありがとう!良く考えて行動してみますね」


―潜水艦たちはその後、鹿島に挨拶すると、少ない睡眠時間を最大限に使うために、忙しく部屋に戻っていった。鹿島も新しい部屋に戻る。


鹿島(たぶんみんな、私の特性を知ってて、ああいう話し方をしてくれたのね)


―練習巡洋艦は、いくつか、普通の艦娘には無い能力がある。記憶力や、会話の再現性などもその一つだ。


鹿島(そして、きっと直接的に言ったら、うまく伝わらない事なんだわ。・・・調べてからのほうが良さそうね。なら、まずは・・・)


―鹿島は自分の新しい部屋を見回した。八畳ほどの広さの洋室で、ベッドと机、そして、側面に大きなクローゼットがある。


鹿島(中原中也の詩集を探せという事かしら?)


―机の一番大きな引き出しの奥に、中原中也の詩集がぽつんと置いてある。


鹿島(あった!これね?)


―しかし、本のどこにも、カバーを外しても、手掛かりは無いようだ。


鹿島(特に何も・・・)


―適当にページをめくろうとした時、小さな紙切れがはらりと落ちた。


鹿島(えっ?何かしら?)


―紙切れには『1Fトイレ点検口』とメモされていた。


鹿島(そんなところに隠さなくてはならない何か?)


―幸い、今は真夜中だ。鹿島はすぐにトイレに向かうと、天井の点検口を探す。それはすぐに見つかった。


鹿島(手の届く高さのものは、と・・・)


―用具室に小さな脚立があった。持ってきて、点検口の中を覗き込む。


鹿島(これは?)


―一冊のノートが置いてあった。鹿島の働いているコンビニで扱っているものと、同じ仕様だった。そっと片付けて点検口を元に戻すと、鹿島は足早に、静かに自室に戻った。睡眠時間なので、内鍵をかけてノートを開く。


鹿島(この字、きっと私の字だわ・・・)


―ノートには、以前の鹿島がこの部屋に移ってからの、日記のようなメモが書いてあった。最初は、希望にあふれ、とりとめもない内容ばかりだったが、次第に何かを警戒するような、不安を感じているようなものに変わっていった。


日記『よくよく考えたら、高練度でケッコンしている鹿島が既にいるのに、私は何のためにここにいるんだろう?コンビニで働く事の、どこが任務なんだろう?』


日記『着任の履歴を調べたら、私で12人目の鹿島だった。でも、作戦は成功していないのに、捜索にばかり力を入れているのはなぜなの?』


日記『過去の鹿島はみんな、解体や轟沈でいなくなっている。なのに沢山鹿島を探すのはなぜなの?ケッコンしている鹿島も既にいるのに』


日記『提督に疑問をぶつけたら、見たことが無いくらいの勢いで怒鳴られた。でもその後、謝ってくれて、通常任務の着任を約束してくれた』


日記『いつも気にかけてくれる憲兵さんにその話をしたら、憲兵さん、ちょっと様子が変だった。次の日から、憲兵さんは行方不明になった。なぜ?』


日記『ちょっと難しい海域での作戦に起用されることになった。とてもうれしい!』


鹿島(・・・現状で、高練度でケッコンしている鹿島が既にいるんだもの。部屋を用意してもらったり、何でも役割や仕事があるだけ、まだ・・・)


―鹿島は心が激しく動揺しているのを抑えたくて、自分を納得させるような考え方をしようとした。


―ぱらり、と次のページをめくる。


鹿島(え?何これは・・・)


日記『任務の朝、空がキレイ。私、こんな事の為に生きて、死ぬのね。今までの鹿島もみんな。どうして』


―日記はここで途切れている。


鹿島(これ・・・そんな・・・まさかそんな・・・)


―鹿島は自分の手が震えていることに気付いた。そして、おそらく、提督が一番信用してはいけない相手だと気づいてしまった。まだ確証はない。しかし、確証を集めるヒントは貰っている。


鹿島(みんな、何をされて消されたの?ここにはどんな秘密があるの?怖いよ・・・でも)ギュッ


鹿島(憲兵が三人も行方不明なら、上層部だって、もう何かを把握しているはず。必ず切り抜けて、本当に私を必要としてくれる提督さんのところに行きたい!)


―どこまでも自分の役割にひたむきな鹿島の、静かな戦いが始まった。



―その少し前、堅洲島鎮守府。執務室ラウンジ。


金剛「ヘーイ提督ゥー!みんなと一緒にビール飲みませんカー?って、アレ?」


―提督はソファーで居眠りしており、窓際のカウンター席では如月がぽつりと読書をしていた。


如月「あ、金剛さん!もう執務はとっくに終わっているんです。けど、提督がソファで寝ちゃってて起きなくて。一応、寝る前に『ほっといてて大丈夫』とは言っていたんですけど」


金剛「oh!提督お疲れデスねー。如月だけここにいるのはなぜカナー?」


如月「みんな別の仕事や任務がある時間帯なんです。提督は大丈夫だからとは言っていたんですけど、特にすることも無いし、一応近くにいた方が良いかなぁ?なんて思って」


金剛「ンー、提督がそう言ったなら、毛布でもかけてそっとしといてあげた方が良いかもしれませんネー。こっそり添い寝するチャンスですヨー?」


如月「ええっ?それは流石にまずいんじゃないかなぁ?」


金剛「んふふー、どうでしょうネー。私は添い寝してもらってるので、何とも言えないデース!」


如月「私は、まだ何もできていないから。秘書艦見習いでお側に置いてもらえるだけでも、今は十分なんです」


金剛「如月は控えめなんですネー!そういうのもとっても大事だと思いマース!私が言うのもアレだけど、積極的な子ばかりでは、提督も疲れちゃう時もあるからネー!」


―金剛はそういって、片目をつぶってみせた。


如月「ふふっ」


金剛「じゃあまたネー!・・・あ、もし遅い時間に扶桑が来たら、交代してあげてネー。提督は戦艦の設計で扶桑と打ち合わせしたいみたいだケド、扶桑の帰投は遅くなるのデース」


如月「あ、はい!わかりました!」


―金剛はそう言うと、手を振り振り、執務室ラウンジを出ていった。


如月(自分の事をあんな風に冗談で言えるなんて、いいなぁ。金剛さんみたいになりたいな・・・)フゥ


―深夜。執務室ラウンジ。提督は目を覚ました。


提督「・・・ん?あ、夜中か?・・・あ!」


―向かいのソファーに、扶桑が座って眠っている。時間はもうすぐ午前三時だ。扶桑の帰投時刻はマルヒトサンマルの予定だったはずで、そうすると相当待たせてしまった可能性が高いと気づいた。


提督(・・・冷えるな)


―提督は近くの宿直室から毛布を取ってくると、扶桑にかけた。


扶桑「ん・・・あっ!申し訳ございません提督、扶桑、いつの間にか寝てしまったみたいで!」ガバッ


提督「いや、そもそもおれが寝すぎなんだ。申し訳ない。みんな、そっとしといてくれていたんだな」


扶桑「しかも、うたた寝してしまうだなんて、お見苦しいところをお見せいたしました」


提督「いや、眼福だよ。寝姿も絵になる感じだな」


扶桑「そんな、眼福だなんて・・・提督はお上手ですね」カアァ


提督「お世辞は言うのも言われるのもキライな方なんだぜ?・・・しかし、こんな時間ではなぁ。今日は扶桑に来てもらった件の概要を説明して、あとはどうするか?って感じだな。ちょっと待っててくれ。とりあえず飲み物でも用意して・・・」


扶桑「いいえ、私がご用意させていただきます。提督はお仕事を優先なさってください」


―数分後。提督と扶桑は、扶桑の淹れた提督仕様のコーヒーを飲みつつ、分厚い資料をめくっていた。


扶桑「この時代に、こんな戦艦が・・・」


提督「困ったことに、これのダウングレード版を二艘、深海側が鹵獲して保有しているらしい。こちらは数ある試験・実用兵装から、最適解を導き出して完成にこぎつけ、戦いに勝利していかなくちゃならない。で、戦艦の事は戦艦が一番知っている、というわけで、まず扶桑に相談して、今後意見を求めていきたいと考えた次第さ」


扶桑「わかりました。対深海棲艦と、通常の対艦戦、両方を考慮した運用と兵装を決めていきたい、ということですね」


提督「これがここにあり、運用まで任されるという事は、近い将来何度も一か八かの戦局を潜り抜けなくてはならないって事だ。練りに練っていこう」


扶桑「そうなりますよね。でも提督、なぜ・・・私なんですか?卑屈な言い方になりますが、史実では、私たちは・・・」


提督「いや、それは圧倒的不利な戦況での結果論であって。しかし、明確な理由は有る。・・・まず、金剛は高速戦艦や巡洋戦艦の部類で、運用法もコンセプトも明確だ。これは、長門型や大和型にも言える。足すも引くも、あまりすべきではない。同様に、本人たちも過不足なく感じているだろう。しかし、扶桑型は違う。基本的な大火力は持ちつつも、完成形ではなかったし、航空戦艦へ改装案もあった。幅広い運用状況の想定や、戦艦の理想形を考えやすい下地があるように思えるんだよ」


扶桑「私たちの事を、提督はそのように見ていてくれたんですか?」


提督「そのようにって?」


扶桑「とても良いような解釈です。欠陥戦艦や、結果の出せない戦艦だとか、思っていないのですか?」


提督「あれは戦局が悪すぎて、参考にならないさ。それに、今の扶桑や山城の活躍を見ていると、本来はこうだったんだろうなと思うよ?」


―この時、扶桑の胸の中の、何か大きくつかえていたものが消えていくような気がした。


扶桑「提督・・・それは・・・山城にも聞かせてあげたい言葉です」


提督「おまけにすごい美人だしな!」フッ


扶桑「(あまり大きく受け止める必要は無い、と言ってくれているんですね)・・・提督は本当に、気配りの上手な方です」


提督「いや、そんな事ないぞ?女性と話すのは慣れてないから、舌を噛みそうだ」


扶桑「うふふ、まさかそんな」クスッ


提督「というわけで、動揺を隠すために取り急ぎ概要を説明するよ」


扶桑「はい!よろしくお願い致します」


―こうして、『最後の戦艦』の建造が、再び動き始める事となった。




第二十一話 艦



次回予告


真夜中に散歩する、提督と扶桑。


波崎鎮守府で、提督にばれないように慎重に過去の調査を開始する鹿島。


摩耶と二航戦たちは古巣の下田鎮守府に向かうが・・・。


その頃、下田提督に自分の成り立ちを語る瑞穂。


横須賀の『艦娘矯正施設』では、時雨が聞き取りを受けていた。



次回「月の色」 乞う、ご期待!


叢雲『読まなかったら酸素魚雷を食らわすわよっ!』



後書き

今回から、次回予告を艦娘にしめてもらう事にしました。
イベントでのレア艦掘りの際、よく「書くと出る」と言いますが、
これは本当だと思います。
SS書き始めのころは鹿島が居なくて、キャラの把握がしたいので夏イベで掘ろうとしていたら、
攻略中にあっさり来てくれて、本編での鹿島の登場に間に合いました。


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1: SS好きの名無しさん 2016-10-01 17:14:52 ID: Mv4O4pFc

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