2016-10-25 19:24:09 更新

概要

12月28日の夜から、12月29日の朝にかけての、各キャラクターの長い夜、後編。

横須賀鎮守府、芸能部の眠れない榛名と、意外な来訪者。

しかし、榛名のマネージャーは何か良くない事を考えているようで・・・。

波崎鎮守府の鹿島は悪夢で全てを理解する。

その頃、提督に寄り添って眠る金剛もまた、漣や叢雲のように、「不思議な場所」の夢を見る。

そして、「汚れ仕事専門」の特務第七の提督の登場と、夕立の温泉旅行。


前書き

特務第七の提督と夕立の性的な描写が出てくるので、苦手な人はスルーしてください。

汚れ仕事専門の特務第七の提督と、その部下が二人出てきます。

どうやら、他の部下もいるようですが、川内が衝撃的な事を言っていますね。

榛名のマネージャーは汚い世界の大人そのものですし、これからどうなっていくんでしょうか?


[第二十五話 長い夜・後編 ]




―12月29日未明、横須賀第鎮守府、第二部「芸能部」詰所。榛名の私室。


榛名(やっぱり、今夜もそう・・・眠れない・・・)


―榛名は消していた照明を点けると、クローゼットの奥の木箱を引っ張り出した。榛名の、眠れない時の習慣のようなものだ。木箱には、毛筆でこのように書いてある。


―『上州榛名山勧請死返開耶姫』


榛名(今の私には、この箱を開く資格なんて無いから・・・)


―二年以上前、まだ姉妹たちと連戦連勝していた頃に、その功績を称えて国から贈られた刀だった。以前は箱を開け、順に沿って刀を取り出し、たまに刀身を眺めていたりしたが、最近は手入れの時以外は、それが躊躇われた。


榛名(私の心は、もう濁ってしまったから・・・)


―榛名は刀の箱をしまうと、芸能部の詰所を出た。今夜もマネージャーの車がない。


榛名(あ、またマネージャー、どこかに出かけている・・・。仕事もないし、無理もないか)


―榛名のマネージャーは敏腕で通っていたが、仕事の激減やえり好みで、夏前に大げんかしたあたりから、ほとんど言葉を交わさなくなっていた。最近は芸能部の詰所にいない事も多い。


―冬の闇の中を歩き、横須賀鎮守府の武道館に向かった。特殊帯リーダーに触れると、扉が自動的に開錠する。


榛名(静かね)


―もう年末なのも理由だろうか?誰もいない。いつもは、こんな時間でも誰かが自主トレをしていたりするのだが。


―榛名は自分の背丈程度の燭台を三つ並べると、蝋燭に火を点けた。次に、壁に掛けてある棒術用の棒を取ると、一通り、槍と棒の『型』を行い、その後燭台の蝋燭にめがけて『突き』をした。


―ボッ・・・フッ・・・


―最初の蝋燭の火の30センチほど手前で棒の先端は止まったが、三つの蝋燭の火は消えた。槍や棒を相当に極めないとできない、絶技の一つだ。


榛名(鈍ってはいない。けど、心がダメ・・・)


―パチ・・・パチ・・・パチ・・・


―ゆっくりした拍手が、背後から聞こえてくる。


榛名「誰ですか!?」バッ


??「怖いなぁ、榛名さん。そんなもの投げようとするなんて」


榛名(気づかれた?)


―榛名は腿のベルトの隠し苦無に手を伸ばしていたが、武道館の入り口に寄りかかる『影』は、それに気づいているようだった。


榛名(この暗さで・・・)


??「殺気なんかないの、わかるでしょ?二年ぶりかなぁ?元気みたいね。心はともかく」


榛名「川内?矯正施設から異動になったとは聞いたけど、どうしてここに?」


―非常灯の中に進んできた影は、黒い艤装服とマスクを身に着けた川内だった。と言っても、現在の横須賀鎮守府にいる川内ではない。榛名の同期で、最初に横須賀鎮守府にいた川内だ。榛名たちより先にアイドル活動をしていたが、芸能関係者に妹を傷物にされたので、相手を半殺しにした。そして矯正施設に送られてしまったが、その後異動した。榛名が知っているのはそこまでだ。


川内「んー、ボスの為に抜け駆けで榛名さんをスカウトに来たんだけど、多分無理かなぁ。ちょっと私じゃ勝てないかもね」


榛名「スカウト?それであなたが来たの?ボスってあなたの提督の事?」


川内「やさぐれたって聞いたけれど、なんだかんだで榛名さんはいい子ちゃんだよね。大事なものは奇麗なままにしてるし・・・タバコも、肺まで吸わないんだったらやめたら?」


榛名「いつから?どこで何を見ていたの?」


川内「忍者にそれは愚問だよ。榛名さん」


榛名「あなたは突き抜けたみたいですね。芸能界にたまに入り込んでいる、危険な人みたいな空気を感じるもの」


川内「んー、ごめん。綺麗ごとだけじゃ世の中まわらないし、今の仕事や立場も大事なんだよ?裏切り者や邪魔者を片付けるのも、国や軍隊の大切な仕事でしょ?綺麗な榛名さんにはわからないかな?」クスッ


榛名「・・・私と戦いたいなら、そう言えばいいのよ!」ヒュオッ!バンッ!


―榛名は川内に棒を振り下ろしたが、川内は歩くように身を逸らしただけでかわした。


川内「やっぱり前言撤回。だいぶ気が短くなってるね」


榛名「以前が長すぎたのよ」カカッ・・・ビュン


川内「もー、私にはそんなの通じな・・・んっ!」ガクン


―榛名の薙ぎ払いを、川内は跳んでかわそうとしたが、マフラーがいつの間にか、床に苦無で「縫われて」いて、動けなかった。その喉元に、榛名の棒の先がぴたりと止まる。


榛名「言われたとおり、綺麗でない戦い方をしてみたわ。なかなかいいですね」


川内「くっ・・・榛名さんやっぱり強いね~。相打ちが手一杯かぁ」クイッ


榛名「相打ちですって?・・・あっ」ゴトトッ


―榛名の胸元から、畳まれたままの折り畳みナイフが、二本落ちた。


川内「まあそれが、ナイフだったり手榴弾だったりするんだけどねー」


榛名「・・・やりますね。汚れ仕事専門の部署にでも移ったという事ですか?」


川内「んー、特務鎮守府のそういう仕事専門の所だね。ただね、最近、うちのボスが引っ張ろうとしている子が、ほとんどみんな、新しい特務鎮守府に引っ張られちゃうようで、ボスの機嫌があまり良くないんだよねぇ。榛名さんもそうだし。だから、抜け駆けでスカウトに来たんだけど、無理みたいね」


榛名「私の知らないところで、勝手にいろいろな話が動いているみたいですね。気に入らないな」カチッ・・・シュボッ


―榛名は、本当は吸えないタバコに火を点けた。


川内「私たちは軍属で兵器だもの。女の子の心とか身体の方が余計なんだってば。だから神通はあんなクズに廃人同様にされちゃったし、榛名さんだって悩んでるわけでしょ?」


榛名「・・・否定はしないわ。で、仲間や人を殺す仕事に私をスカウトしに来たって事は、今の立場にはそこそこ満足しているんでしょ?」


川内「んー、まあ、思っていたほど辛くはないかな。自分が深海化しているのに気付いてない子を沈めるのは、本当に気が狂いそうになるけれど、ボスにうまい事使われている感じ」


榛名「ふーん、それは良かったじゃない。でも、私には関係のない話ね。私の希望は、武技でも私を倒せるような、隙の無い提督のもとに行く事だから。そうでないと納得できないしね」


川内「要するに、グレるくらい辛くなった自分を救い出してくれる王子様を待ってるお姫様だよね。かっわいいなぁ!」


榛名「ずいぶん煽るのね。もう戻れない過去を見れば、毒づきたくなる気持ちもわかるわ」


川内「ふーん・・・ケンカ売られてるのかな?」


榛名「でも、思ったよりもあなたが元気そうだったのは、素直に嬉しいわ。良い提督なのね」


川内「良いっていうかまあ、あの提督でないともう無理だから。で、榛名さん、うちの鎮守府に来る気はない?色々な理不尽への怒りは解消できると思うけど」


榛名「私は・・・そうね、確かに理不尽にも怒っているし、自分にも怒っているわ。でも、理不尽の中に身を置いたり、理不尽そのものになりたいわけではないの。私は、何かに納得したいだけ」


川内「まあ、ちょっと戦って分かったけどね。今度来る提督が、王子様だと良いね」


榛名「・・・茶化しているの?」


川内「んーん、割と真面目に言ってるよ」


榛名「そう。でも、そんな人が居ないことくらい、わかっているから。いつかはあなたの所にお世話になるかもね」


川内(なんだかんだで、まだまだ綺麗な世界にいるなぁ・・・)


榛名「・・・どうしたの?」


川内「なんでもないよ。じゃあね、榛名さん。会えて嬉しかったよ。・・・あ、私と会った事は忘れてね?」


榛名「わかってるわ。特務なんでしょう?」


川内「うん、じゃあ」


―川内は静かに、しかし一瞬で、出入り口に移動した。


榛名「・・・死なないようにね」


川内「ありがと」


―川内は外の闇と同化するように消え、気配もかき消えた。


榛名(あの雰囲気・・・人も、何人か片付けたのね・・・。そう、私はまだ、甘い幻想から抜けられないのかもしれない。そして、そんな自分が一番嫌いなのよ!)


―ここしばらくなかった感情の波が、眠りをもたらしてくれる気配を感じた。榛名はシャワーでも浴びて、眠ることにした。


―武道館そばの建物の屋上。


川内(んー、思っていたよりかなり強いなぁ。ちょっと真面目に話すと、根の良さが出ちゃうところもウチ向きじゃないし。まっ、いいよね)


―今の自分とあれくらい戦える榛名を、納得させて引き込める提督など居るはずがない。川内の提督も銃を扱わせたら相当なものだが、武技で榛名とやり合えるかと言えば、どうだろう?そんな提督はおそらくいない。


川内(あれじゃあ、いずれウチに所属になるのは間違いないだろうしね。でも、来てほしくないなぁ・・・)


―川内は、榛名と戦って少し高ぶった闘争心が、自分の心の、複数の余計なところに火を点けたのを感じた。それを消せるのは提督しかいないが、それを考えると、火はもっと勢いを増してしまう。嫉妬と、欲求という名の可燃物まで巻き込んで。


川内(あー最低。もっと榛名さんと遊べばよかったかな)


―提督に会えば、大抵は笑って「静めて」くれる。でも今、提督は別の艦娘への「ご褒美」で、西日本の温泉地にその子と泊まっているはずだ。


川内(色々と面白くないなぁ・・・任務、増えないかな?)


―年末年始にかけて、横須賀近辺に複数の監視・暗殺対象が出るかもしれず、その為に川内は横須賀に潜伏していた。榛名に関しては、正確には監視・護衛任務が出ている。


川内(ま、何か起きるでしょ。予感がするし)


―川内が見下ろしている、横須賀の町や鎮守府は、夜の闇とはまた別に、「濁って」見えている。これは、何かが起きる前触れだ。戦いの中に身を置き続けて得られる感覚の一つだった。



―同じ頃、波崎鎮守府のどこか?


鹿島(提督、ここはどこですか?)


―鹿島は不安になりながら、提督に付いていった。提督は地下の機械室に下りていくと、分電盤を開け、奥に隠してある鍵を取り出すと、開いたところを見たことも無い資材庫の鍵を開け、中に入った。


鹿島(なに?この部屋は・・・)


―ガチャリ


―背後で、ドアの鍵が閉まる音が聞こえ、鹿島の心に不安が押し寄せてきた。


―パチッ


―暗めの照明が付くと、その部屋には、白い簡素なベッドと、ソファ、仕切りのないトイレと、洗面所。そして、天井から鎖がぶら下がっていた。


鹿島(営倉か、監禁部屋みたいな・・・)


―景色が暗転した。


鹿島(・・・え、鎖?何これ?)


―鹿島は、ほの暗い部屋で、自分の両手が天井から下がる鎖に繋がれていることを知った。


鹿島(・・・ひどく驚いている、私・・・)


―おかしな感覚だった。ひどく驚いていると同時に、それを眺めているもう一人の自分もいるような。どちらも自分だ。


―何かが起きて、暗黒と絶望と、痛みと諦めの海に沈んでゆく。


鹿島(ああ・・・もう、消えてしまいたい。こんなの嘘よ・・・うっ!)


―次は、鹿島は長椅子かソファにずり下がったようにもたれかかっていた。その姿勢をどうにかしようにも、背もたれに両手首が結ばれ身動きが取れない。


鹿島(やめて・・・やめて!)


―両足首を誰かがつかみ、それを高く持ち上げると、妙な慎重さでその相手の身体が近づいてきた。ぬかるみで車にひかれたような絶望感が、さらに別の痛みと傲慢な暴力で、上書きされていく。


鹿島(なぜ・・・こんな・・・事を・・・)


―めった刺しにされ、殺されていくような気持ちの中、頬を伝う涙だけが、妙に冷たかった。そして、快楽に歪んだ顔で、提督がこちらを見ていた。


鹿島「・・・ああっ!」ガバッ!


―目覚めると、冬の冷気が少しだけ漂う、自分の部屋だった。時計は午前二時を回ったくらいだ。


鹿島「・・・うっ・・・ううっ・・・なんてひどい事を」グスッ・・・ポタポタ


―鹿島は、声を殺して泣いた。机の上にぼんやりと見える詩集が、さらに悲しみと涙を誘う。詩集を読んでいて、前向きに生きていた自分が、あんな事をされ、轟沈させられた。


鹿島(本当に、なんてひどい事を・・・うっ!)


―胃のあたりが冷たく、また吐き気が込み上げてきた。


鹿島(落ち着いて、大丈夫。とてもひどいけれど、これは私ではない、別の『鹿島』の記憶。大切な手掛かりなの。参っている場合ではないわ・・・)スゥ


―鹿島は練習巡洋艦らしく、深呼吸して心を整え始めた。


鹿島(こんな時は、そう、素数を数えると良いのよ・・・)


―なぜそう思ったかはわからないが、鹿島は素数を数え始めた。しばらく、素数表を思い出して数えてゆく。


鹿島(・・・3491っと)フゥ


―9000くらいまで行くかと思ったが、予想より早く落ち着きを取り戻せた。自分自身の記憶ではないから、だろうか。


鹿島(身体だって、まだ汚されていないもの。記憶も、私のものではないわ。しっかりしないとダメ。あんな事をされないために)


―あと一日で、鎮守府は年末年始の休みに入る。噂では、提督は毎年海外に旅行に出るようだ。その期間を利用して、夢の裏付けを取ったり、調べ物をして対策を立てないとダメだ。


鹿島(それにしても・・・)


―鎮守府の皆が言う『えっちな事』や、コンビニの成人向けコーナーにある本の、『行きつくところ』が一気に理解できてしまった。


鹿島(ただ命が助かるだけではダメ。あんな事ならなおさら、いつか私を大切にしてくれる人の為に、身体も絶対に守らないと!)


―どうやら自分は、追い込まれると力を発揮する性格なのかもしれない。でも、そんな自分に心強さも感じ始めていた。


鹿島(負けるもんですか!)



―同じ頃、堅洲島鎮守府。エレベーター内。真夜中なので、提督と金剛は廊下で話すのは自粛していた。


提督「金剛、さっきの片言やめたいって言葉もそうだけど、何だか雰囲気がいつもと違うぞ?倒れた件は本当に悪かったから、金剛のせいって思うのはやめてくれ」


金剛「提督ゥ、陸奥に聞いたよ?一緒にお風呂に入ったそうですね。叢雲もだけど」


提督「水着かタオル必須だぞ?」


金剛「私も一緒にお風呂に入りたいって言ったら、OKするノー?」


提督「そりゃ、するよ。節操がないみたいな感じにはなりつつあるが」


金剛「ンー、提督って、理性も確かにあるけど、それだけではないですネー。あの陸奥や叢雲が一緒にお風呂に入ってたり、漣とあんなに仲が良かったり、私が一緒に寝てるのに何もないなんて、ちょっとおかしいです」


提督「いや、むっちゃんにもそりゃ、色々その部分で心配かけてるけど、そもそも何かあっちゃいけないんだぜ?金剛だってさ、おれにくっついて寝たいと言ってはくれているが、それ以上どうこうって関係ではまだないだろうし」


―エレベーターは既に7階についている。


金剛「かと思えば、戦ってみたらとーっても強いし。提督は秘密だらけネー」


提督「隠しているわけではないんだぞ?」


金剛「うん。陸奥からも聞いたから、把握はしたワー」


―提督は先にエレベーターを出ると、自室に歩き始める。金剛は改めて提督の背中を見た。確かに鍛えてあるし広い背中だが、さっきとは違い、鷹揚で隙だらけだ。


金剛(いろんな面があるし、わからない事も多くて、だだっ広くてどこを好きなのかわからなくなる感じですネー。中途半端に好きだと、独りよがりになっちゃう感じです。強いと思えば、あんな風に倒れちゃったりする部分もあるし)


―提督の私室、30分後。提督はシャワーを浴び終えてベッドに横になり、本を流し読みしていたが、ふと思い出して、ガウンを着て髪を乾かしている金剛に聞いた。


提督「で、片言やめたいなんて、どうしたのさ?」


―カチューシャも外して、ストレートにしている金剛は、もう全く普段とは印象が違う。


金剛「例えば今の私って、全然『金剛』じゃないでしょ?」


提督「まあ、普通に奇麗な女の子だよな」


金剛「またそういう・・・なんかもうネー、色々あったから『金剛』じゃない自分を大切にしたい気持ちがあるんです。変かナー?」


提督「いや、それでいいと思うよ?あれだけ否定されたら、そうもなるよな」


金剛「でもネー、提督はとーっても厄介な相手です。私の、『金剛』の溢れる愛情をぶつけたら、大抵の提督はそれで一杯になって私しか見なくなるのに、提督にはいくらぶつけても余裕で倉庫にしまっておけるような雰囲気があるネー」


提督「ふふふ、ハズレ」


金剛「えっ?」


提督「それはさ、たいていの人が持つ『心の器』の問題だな。しかし残念なことに、おれには『器』ってもんがない。何も入れておけず、ただ過ぎ去り、こぼれるだけだよ。だから金剛、おれにくっついてくれるのは嬉しいが、あまりとらわれずに有意義に「イヤ!」」


金剛「器がどうこうなんて知らないネー。私も皆と同じく、提督が良いんデス・・・ううん、あなたがいいのよ」


―金剛から、いつもの金剛らしさが消えて、初めて会ったような女の子がそこにいる。どこか柔和な笑みを浮かべて。


提督「ん?何だか金剛、雰囲気が・・・?」


金剛「高速戦艦・金剛から、高速戦艦と艦娘の部分を取ったのが今の私。高速戦艦・金剛は、沈まない限り、ずっとあなたの武運でいるけれど、じゃあ、女の子である私はどうしたらいいかなー?」


提督「そういう事ね。質問に質問を返して悪いが、金剛はどうなりたいんだ?」


金剛「迷惑じゃない範囲で、もっとあなたの事を教えて欲しいな、仲良くなりたいなって、思ってますヨー」


提督「さっきからその、片言が抜けたり、抜けなかったりするのが可愛いな、金剛」


金剛「ううっ、漣も言ってますけど、提督の直球は効くので程々にしてくださいネー」


提督「よく言われるけど、そんなつもりはないんだがな。ま、冷えるから寝ながら話すか」


―本音を知りたい、もっと近づきたい、と言ってくれているが、それだけではない。おそらく、金剛は自分が倒れたことをとても気にしていて、自分の感情の話にすり替えて気遣おうとしているのだ。


提督「金剛ってさ、なんだかんだですごく気遣うよな。別にさ、片言であろうがなかろうが、伝わる相手には伝わるよ。もうそんな、気にしなくていいんだって」



金剛「・・・うーん、そう先回りされちゃうとネー。そこまで指摘しなくていいのにー」


提督「おれには気を使わないでほしいだけだよ。」


金剛「ンー?」


―提督は起き上がると、遮光カーテンを閉じ、ベッドランプを点けて、常夜灯を消した。


提督「もう寝ないとな」


金剛(ンー、なんか静かな感じですネー。もう寝ちゃうんですネー)


―かなり頑張って自分を引っ張ってくれた人だから、こうして一緒に眠ってくれるのはとても嬉しい。そんな自分に対して、親し気に接してくれる他の艦娘たちも、金剛は大好きだ。


金剛(でも・・・)


―別に、様々な和を乱すつもりもないし、抜け駆けする気もない。ただ、こんな距離でもこの提督が冷静なのは、理性や自制心だけでは説明がつかない気がしたし、それをそのままにしておくと、いつかとても後悔するような、そんな気がする。


金剛「提督、お邪魔しますネー(小声)」


提督「ん、おやすみ・・・今日は済まなかったな」


―金剛はガウンを脱いで、白い寝巻になると、いつものように提督のベッドに入り、左腕をそっと掴んだ。大抵、朝起きると左腕を抱きしめた感じになっているが、そんな時でも提督は静かに寝息を立てている。


金剛(優しくて、とーっても強くて、私を力と機転でもぎ取った人なんですよネー)


―自分でさえ捨てようとした自分を、この人は拾ってくれた。提督と艦娘という関係以上に、この人は自分を自由にする権利がある、と金剛は考えている。


金剛(でも、そんな空気さえ微塵も出さない。誠実な人・・・なのかナー)


―金剛には、その部分がどうしても引っかかる。みんな、提督とはとても親しいが、無意識に一定以上のラインには触れないように見えるからだ。これは、提督が誰ともケッコンしないと言っていることだけが理由ではないように思える。


金剛(頑張ってすごく近づいたら、どうなるのかな?)


提督「ん?どうした?眠れないとか?(小声)」


金剛「提督ゥ、変な事を聞くけど、私ってそんなに魅力ないかナー?」


提督「・・・いや、魅力の塊だが。いい匂いもするし」


金剛「(またそんな事をさらっと・・・)でもぜーったい、私に何もしませんよね」


提督「そりゃそうだ。そんな事がしたくて連れてきたんじゃない。金剛には、好きに生きて欲しいしな」


金剛「好きに?」


提督「辛かったろうしさ。別に、おれと親しくなろうがなるまいが、ここで楽しくやってくれればそれでいいんだ」


金剛「私はもっとずーっと、提督と親しくなりたいですけどネー。なんかちょっと寂しいです。一緒に寝てるのに、私がダメなのかナー?」


提督「おれはこれでも、なかなか楽しいし幸せなんだがな。そっか・・・色々あったから、これくらいでは寂しいか・・・。ケッコンはしないって言っちゃってるしな。本当は、向こうの提督に認めてもらいたくて、練度を頑張って上げていたくらいだもんな」


金剛「あ、そういう意味ではないです。提督は、私がこうして寝ていても、何かしたくなったりしないのー?」


提督「んー、どうなんだろうなぁ・・・。性急すぎる気がするがな。もっと金剛の事を知りたいしさ。金剛だって、これからは落ち着いて生きられるから、もっと色々知って変わっていくだろうしな。そうなる前に関係だけ深くなるのはどうなのっと」


金剛「言ってることはすごく嬉しいですけどネー。でも私にとっての男性って、やっぱり提督だけなんです。ずっとネ」


提督「それもそうなんだよなぁ。でもさ、決定的な事はしなくても、もう少し関わり様はある。ただ、それだって影響が大きいかもしれない。みんな、結構端折って生きている気がするからさ」


金剛「ンー?何の話ですか?」


提督「・・・金剛、今日は左側じゃなくて右側に寝なー」パチッ、ゴソゴソ


―既にベッドランプの常夜灯さえ、少しまぶしいくらいだ。


金剛「?・・・わかりました」ゴソゴソ


―金剛はベッドを出ると、いつもと違って、提督の右側に入った。


提督「もう少しこっちに寄って、頭を上げてくれ」


金剛「こうですか?・・・あっ・・・提督、腕枕してくれるノー?」


提督「うん。すぐ寝ちゃうけどな・・・」ファ


金剛「無理とかしてたりは・・・」


提督「ないない。おれがしたいからしてる。たださ、なぜかわからないが、君らに触れると、すごい眠気が襲ってきて、よく眠れちゃうんだよな」


金剛「そうなんですか?」


提督「うん。気のせいじゃないと思うな。心の奥深くの疲れが引っ張り出されて、深く眠れる感じというか・・・だから、今日もそんな感じで、少し甘えさせてもらうことにしたよ」


金剛「甘えてるのは私ですけどネー」


提督「そんな事ないって、ほら」グイッ、ギュッ


金剛「あっ!・・・提督・・・」


―提督は腕枕の状態から、金剛の肩に手をまわして引き寄せると、そのまま金剛を抱きしめた。ぴったりと寄り添った姿勢になる。


提督「わあ、上官の横暴だー。こんな事しちゃいけないんだけどなぁー。役得を遥かに超えたセクハラだなー(棒)」


―既に提督は、だいぶ眠そうな声でそんな事をつぶやいている。


金剛「・・・相手が同意しているし、そういう時間と場所です。提督、私、とても幸せな気分です」


提督「なら良かった・・・おやすみ金剛。夢で会ったら、遊びまくろうぜ・・・多分なんでも、無料だからな・・・」スゥ


金剛「そうですね。おやすみなさい、提督・・・」クスッ


―こんな事になったら、とても興奮して眠れないはずなのに、決してそんなことはなかった。提督はどんな時でも面白い事を言うし、何か、心が温かい。確かに、自分は焦り過ぎていたのかもしれない。こんなのんびりした、暖かな関係はとても安心できる。ちゃんと、自分の居場所を作ってくれているのだから。


金剛(なんだか私、幸せですネー)


―不思議な事に、金剛もすぐに眠りに落ちてしまった。



―不明な場所。


金剛「あ、アレ?ここはどこですカー?」


―気が付くと、金剛は白い砂丘の点在する海辺に立っていた。深く青い、寂しげな海に、馬の背のような白い砂丘が、どこまでも続いている。


金剛「ンー?」


―情景はとても寂しげで、涙が流れそうなほど胸に迫るが、暑い日差しと風が、静かに心を燃やすような気もする。矛盾した、妙な気持ちだ。


金剛「だーれもいませんネー。私、ヴァルハラに来ちゃったんでしょうか?」


―でも、戦って沈んだ記憶は無い。ここに来る前に、どこかとても、暖かな場所にいたはずだ。この日差しと、風のような。


金剛「ンー、まあ、歩きましょうかネー」


―金剛は遠くの海を眺めながら、砂丘を登った。いつか戦いの果てに沈んで、訪れる死後の世界がこんな世界なら、そう悪くない気もする。ただ、一人は寂しい。


金剛「あっ!」


―はるか遠くの砂丘に、海を見て佇む人を見つけた。その人は金剛に気付かず、背を向けて歩き始めている。


金剛「追いつきますヨー!」


―金剛は走り始めた。きっとあれは・・・。



―同じ頃、神戸の温泉地。政府御用達の温泉宿の庭。


―大きな甕風呂に、長髪の男がのんびりと浸かっていた。男は若いが、長髪には所々にまとまった白髪が混じり、鍛え抜かれた身体には沢山の傷跡がある。特に、チタン製のドッグタグが光る胸には、二つの銃創があった。明らかに戦場経験者だ。


長髪の男「雪か・・・。やっぱり日本の温泉は最高だな・・・」グビッ


―男は傍の岩に置いてあったジャックダニエルの瓶を取ると、一口飲んで、真夜中の雪空を眺めた。が、いきなり誰かが飛び込んできた。


??「ぽーいっ!」バッシャァ


長髪の男「うわっぷ!夕立、オマエ疲れて寝たんじゃねーのかよ!」


夕立「もう回復したっぽい?」


長髪の男「はっや!」


夕立「ねぇ提督、もう一回か十回くらいしたいっぽい・・・」ウワメヅカイ


長髪の男「なんだよその二択・・・提督の銃はもう弾も切れたし砲身も焼けました。お湯につけて疲れを癒さないと死んでしまいます。ぐー・・・」


夕立「寝たふりしちゃダメっぽい。いい子にしてるから起きてー!」


―ポーン


―官給品の防水スマートフォンに、秘匿回線の通知が入った。


長髪の男「はい、特務第七提督、鷹島です。・・・あー、夜戦は間に合ってます。じゃ」


川内(通話)「ちょっとちょっと、切らないでよもー!」


鷹島提督「なんだよもー、おじさんは思春期をこじらせた女の子の性欲に付き合わされてボロボロなんですけど」


川内(通話)「提督はまだお兄さんじゃん。それよっか、榛名さん強いけど、うち向きじゃないねー。もうすっごい帰りたいんだけど」


鷹島提督「ダーメ。下田鎮守府の提督が横須賀の町に潜伏しているようだし、特防の瑞穂がクロっぽい。その榛名ちゃんの周りには悪いおじさんたちが居るみたいだし、最近うちの邪魔になってる特務第二十一の提督も横須賀に来るらしい。だから適当に遊んで来いよ」


川内(通話)「えー・・・。いいけど、戻ったら私とも遊んでよね?」


鷹島提督「お前ら性欲にばっか目がいって、性欲を持て余してるからなぁ。もっとこう、純愛方向に進めばおれも楽なのによ」


川内(通話)「そんなもん、無いの知ってるくせに。・・・わかった。適当に遊んでくるよ。仕事になりそうだしね」


鷹島提督「頼むぜ。あと、注意事項は?」


川内(通話)「『対象Dとだけは交戦するな』でしょ?」


鷹島提督「ハイよくできましたー!・・・あと、一応アメリアちゃんもそっちに向かわせてるから、なんかあったら合流して対応してねー。・・・じゃ」プツッ


川内(通話)「えっ、私あの子苦手なんだけど!ちょっ・・・あーあ、切られた。はぁ、仕事になるけど厄介なのね。あの子深海だから苦手なのになぁ・・・」ハァ


―しかし、単独行動を任されている艦娘はそう多くない。そこは誇れる。そして、状況が発生しなくても、単独任務にはご褒美もある。そう、あと何日か過ごせばいいだけだ。


川内「まあいいや、楽しむか。それにしても・・・」


―『対象Dとだけは交戦するな』とは、特務第七での冗談交じりの合言葉だ。注意喚起のまとめに使われるが、要するに『自分より強い相手とは戦うな』程度の意味だ。が、今の自分にそんなものが存在するとは、川内には考えられなかった。


夕立「ねぇ提督、本当にその対象Dっているの?いつも聞く言葉だけど」


鷹島提督「ああ、聞いてたのか夕立。実在はしていたさ。・・・昔な、そりゃあもうとんでもなく強い男がいた。兵士ではなく、戦士と言ってもいいような奴さ。だが、沢山の敵を殺したそいつは、次第に味方の、特に上層部からも恐れられていってな。乱戦状態の時に、敵の仕業に見せかけて殺せ、と、そいつの仲間に密命が下ったのさ」


夕立「・・・ひどい話だね」


鷹島提督「ま、お前らだったら深海化しちゃうような話だよな。で、腕のいい狙撃兵が、敵のアサルトライフルで、乱戦状態の時にそいつを殺そうとした。三年の間に、二度もな」


夕立「どうなったの?」


鷹島提督「対象が夜の闇の中、敵を斬って、撃ってを繰り返している時、たまに、呼吸を整えるために動きを止めることがある。そのタイミングで、引き金を引こうとすると・・・気が付けば病院で目が覚めるのさ。しかも、そいつに助けられてな」


夕立「ええっ?何が起きたの?」


鷹島提督「それがこの二つの銃創だよ。距離とドックタグに助けられた。その男が対象Dさ。冗談みたいな話だろ?だから冗談なのさ」


夕立「なーんだぁ」


鷹島提督「あいつは敵なんか見ちゃいねぇ。それどころか何も見てない。殺気を感じて、自動的にそれを排除する殺戮機械だ。だからおれは、兵士をやめた。ああはなりたくないからな」


夕立「えっ、本当の話なの?」


鷹島提督「さぁな、だが、この話をすると当時を思い出して昂るんだよ。・・・夕立、壁に手を付け。もう一回抱いてやる」


夕立「・・・うん。夕立はいつでも大丈夫だよ」ザバッ


鷹島提督「もう少しこっちに尻を突き出しな。・・・うん、そんな感じで。いけそうだな」ズッ


夕立「んっ!・・・好き、提督・・・」


鷹島提督「おれもだよ、オマエは可愛いな・・・」


―あの男を思い出すと、いつも死が間近に感じられて昂る。今生きている人類で、一人で最も多くの人間を殺した男。そして、誰にも殺せなかった男。だが、その男には心の死が訪れたと聞いた。重度の戦闘ストレス障害だ。


鷹島提督(まあ、もう出くわすことはないだろう。あれほどの男も、最後は廃人だ。おれはどうにか、生を楽しめているしな)


―あり得ない事だが、次にあの男と敵対したら、必ず自分は殺される。だから、あの男とだけは絶対に敵対してはいけない。任務を捨ててもだ。二度、殺そうとして、殺されかけ、命を救われたのだから。



―同じ頃、夜、ケニア、ダダーブ近郊(時差により午後10時ごろ)。宿泊施設。


ハンドレッド「思った通り、ここもまた煮えたぎるな。武器が良く売れる」


女傭兵(右)「政治的には安定したはずなのに、なぜ、各部族の緊張が高まっているんですか?」


ハンドレッド「以前は、残忍なガニ族を雇う力を持つものが、この地域の覇権を握れたんだ。彼らは金や食糧と殺戮に目が無かったからね。しかし、三年ほど前に、ガニ族の男はほぼ皆殺しにされ、見せかけの平穏が訪れた。そしてもうすぐ、自分たちの手で争う事になるんだよ」


女傭兵(左)「ガニ族もなりを潜めましたね。以前は市場でたくさん、ガニ族の、血と殺戮の神ツァバの赤い置物や仮面が売られていたのに。何か見慣れない、黒いものに変わっていたし」


ハンドレッド「あれはガニ族の新しい神、黒衣の審判者だ」


女傭兵(左)「新しい神、ですか?」


ハンドレッド「彼らの新しい神話はこうだ。『殺戮の神ツァバに従い、黒い人同士で戦っていたが、白い人や黄色い人も戦いに加わった。ツァバは黄色い人を何人か殺したが、それはしてはいけない事だった。黄色い人に混じった、黒衣の審判者は、ツァバを祀る男たちを皆殺しにし、ガニ族が戦えないようにした。こうして、滅びをもたらすツァバは追いやられ、審判者を信奉し、二度と争いに加わらないことにした』」


女傭兵(右)「ガニ族の男のほとんどを殺した・・・それはまさか?」


ハンドレッド「そう。『ラスト・スタンディング・マン』と呼ばれた男。堅洲島の提督だよ。彼はここでは神様にされてしまったらしい。まったく」フフフ


女傭兵(右)「なんてこと・・・」


ハンドレッド「ガニ族も悪いのだ。国連軍や日本人の兵士の死体から、内臓や腕や足、顔の皮を切り取り、殺戮の神にささげて力を得る儀式の材料にしようとしたり、蛮刀で武装して基地や小隊に奇襲をかけようとしたり。彼はそれをすべて排除しただけだ。まあ、人を斬るのに最適化された武器を特殊金属メーカーに発注する辺りは、彼も中々の狂気を持っている気がするがね」


女傭兵(左)「彼は何者なのですか?」


ハンドレッド「さぁねぇ?そもそも、彼が何者かなんてどうでもいい事さ。ルーデルしかり、シモ・ヘイへしかり、彼のような人間はいつの時代にも居るからね。多すぎる人類には、そのような人間もまた、必要だと僕は思うよ」


女傭兵(左)「そこまでの戦闘適正が?」


ハンドレッド「あくまで例えだよ。ただ、あの提督は彼らとも大きく違う点がある」


女傭兵(右)「違う点、ですか?」


ハンドレッド「彼は重度の戦闘ストレス障害になったのだが、なった理由も、その症状が消えた理由も、今一つ不明だ。ただ、戦う自分に対して否定的なスタンスを取っている部分がある。そのあたりが、高い戦闘適正を持つ人間としては、少しずれている。そこに興味が持てるのだよ」


女傭兵たち「私たちには理解しづらい感覚です。そもそも、戦いの中にあって自分を否定するなど・・・」


ハンドレッド「そう。愚か極まりない事だ。彼がなぜそうなったのかが知りたいものだよ。武器を手にしておきながらそうなる人間は、普通は非常に傲慢なのだがね・・・」


―武器を扱っていると、多くの場合、肌の色も文化の違いも関係なく、人間の本質はほぼ同じだと断言できる。これは、武器を売るために世界を狭く渡り歩く者にできる『人間の理解の仕方』だ。それだけに、ハンドレッドの心の中に『あえて記憶しておきたい人間』は、そう多くない。その中にあってさえ、理解しがたい人間は珍しい。


ハンドレッド(まあいい。僕は幸い、いずれは全てを知れる立場なのだ)


―蒸し暑い外の闇の中、ガニ族の家庭では『素行の悪い子供は、夜の闇から現れた、黒衣の審判者に殺される』と言い聞かせているそうだ。その『黒衣の審判者』とやらは生きているのに。


ハンドレッド(まったく、笑わせる)


―しかし、ハンドレッドにとっては、そんなアフリカの未開な民族も、先進国の首都でスーツを着て働いている人間も、何の違いも無かった。


ハンドレッド(年明けには大商いの話になるだろうな・・・)


―天井のヤモリが、小さな蜘蛛をとらえた。


ハンドレッド「神と神の対話か・・・ふふ」


女傭兵「?・・・何の話ですか?」


ハンドレッド「いや・・・悪い冗談の話だよ」



―同じころ、横浜。あるキャバクラ。


ガラの悪い男「ほらよ、必要な分の金だ。・・・で、あの話はいつごろ実現しそうだよ?」


スーツの男「いつもありがとうございます。榛名の異動の話はあと二件程度ですが、どうせ実現しませんよ。もうだいぶ自暴自棄になっているし、自分にもだいぶ迷惑が掛かっていると認識しているはずなので、もうひと押しですね」


ガラの悪い男「まあ、来年中に実現すればいい話だからな。お前さんにゃずいぶん金を融通したからよ。昔みたいにキッチリ頼むぜ」


スーツの男「・・・ええ。もちろんです。もう三千万近く借りてますが、この話が成功すれば五千万円の報酬で、差し引いても二千万ですからね」


ガラの悪い男「まあそういうこった。よろしく頼むぜ、悪いマネージャーさんよ!『榛名』の出るAVの価値は計り知れねーからよ。稼げるぜぇ。ふっふっふ」


榛名のマネージャー「そうですね。私もあの面倒な子の世話はもうこりごりですよ。さっさと楽になりたいもんです」


ガラの悪い男「ま、実現しなかったらキッチリ働いて返してもらうけどな。そうならないためにも、しっかり頼むぜ?何年も肉体労働なんてしたくねぇだろうしよ」


榛名のマネージャ「全くですよ。まあお任せください。説得がダメな場合の手も考えてありますから、いずれにせよ実現する話なので」


ガラの悪い男「悪いマネージャーだぜ!まったくよ。ふっふっふ」


榛名のマネージャー「いえ、これもまた、マネージメントですから。光る石はより輝かせ、光らなくなったら価値のあるうちに売って、また別の石を磨く。この業界では当たり前の事なので」


ガラの悪い男「まぁそうだよな。そうやって持ちつ持たれつよ。なあ!」


榛名のマネージャー「ええ。お任せください。では、そろそろ・・・」


ガラの悪い男「おう、またな!」


―榛名のマネージャーは挨拶すると店を出た。外はもうじき明け方だが、まだまだ暗いし、寒い。どうせ、榛名が眠りにつくのはこの時間からだし、会ったところで碌な事にはならない。


榛名のマネージャー(得体の知れない艦娘なんかのマネージャーなんてコリゴリなんだよ。おれはまだやれるんだ・・・まだ・・・)



―再び、堅洲島鎮守府。提督の私室。


金剛「ンー?」パチッ


―頬や目のあたりが少し冷たくて目が覚めた。


金剛(アレ?私、夢でも見て泣いてたかな?)


―少しだけ身体を動かそうかと思ったが、今の自分は提督に肩を抱かれていたので、動けば提督を起こしてしまいかねない。


金剛(腕、苦しくないのー?)


―しかし、提督の眠りはとても深いようだ。


金剛(それにしても、提督は着やせする人ですねー。腕と胸もそうだけど、全身かなり鍛えてありますネー)


―金剛はシャツ越しの提督の胸に、あらためて密着してみた。普段はどこかだらりとした緩い空気を持っている人だが、こうして寄り添ってみると、筋金入りでとても心強い。


金剛(なんだか私も良く眠れます。私も提督も、何かに疲れているのかもね)


―思えば、青ヶ島にいた頃の自分は、孤独感と疎外感からの焦りで、かえって提督に遠ざけられるような言動も多かったのかもしれない。性急にケッコンを求めても、心が追い付いていないのだから、うまくいくはずがなかった。しかし、今は何も焦る必要がない。


金剛(相手を知ろうともしないで、私も悪かったわ・・・)


―もし、自分が今の自分の提督のようにゆっくりと青ヶ島の提督に接していたら、時間はかかるがより良い関係になっていたかもしれない。そこは反省が必要な気がする。


金剛(でも・・・)


―うまくいかなくて、今の提督と出会って、こうして寝ている自分の方が、とても幸せな今を生きられている気がする。だからきっと、これでいいのだ。


金剛(あとは榛名ですねー。あの子は良くも悪くも真っ直ぐだから・・・)


―妹としてはとてもいい子だ。提督を取り合えば厄介な相手だが、その厄介さも可愛い。ただ、こうして提督と一緒に居る時間は確実に多少、減るだろう。いつまでも甘えていられないのも分かっている。しかし、今の金剛には全てが楽しみだ。


金剛(この人の事をもっと知りたいです。謎が多いし、底が見えませんネー。この人の心の奥底の疲れか何かを、私が癒したいです)


―だが、実は今のこの時間が、提督の心を癒していることに、金剛は気づいていない。


金剛(はぁ、もう丸一日くらいこうしていたいですねー。私には長くて、短い夜です)


―金剛はもう少しだけ、眠ることにした。


―こうして、それぞれの長い夜が終わる。



第二十五話 艦



次回予告



秘書艦たちを連れて、年末の買い出しと、総司令部への報告・調整に向かう提督。


そこで、特務第八鎮守府の名物婆さん提督に出くわし、榛名の異動について揉める。


『艦娘矯正施設』の時雨と提督は顔合わせし、時雨はある決意をするが・・・。


総司令部と特防に顔を出した特務第七の川内は、状況の確認を行うが、艦娘の深海化の可能性について知り、衝撃を受ける。


そして、下田鎮守府の提督と特防の瑞穂は『わだつみ』に侵入を試みる。



次回、第二十六話 『横須賀・前編』 乞う、ご期待。



山城『読んでくれなかったら、・・・不幸だわ』



後書き

作中で説明がないので補足しますと、榛名が国から贈られた刀

『上州榛名山勧請死返開耶姫』は、

「じょうしゅうはるなさんかんじょう まかるがえしさくやひめ」と読みます。のち、意味は作中で物知りなアイツが説明してくれるでしょう。


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