2015-01-19 11:08:18 更新

朝 通学路


京子「うひゃーっ、遅刻ちこくッ!!」


京子「結衣が起こしに来てくれると思ってたけど、今日は

   日直で先に行ってるのを忘れてたーッ!」



――

七森中 下駄箱


京子「ふい~、間に合った・・・。」ゼイゼイ


京子「ん?何か下駄箱に・・・手紙?」


京子「これって、もしかして・・・」


京子「ラブレター!?」


――

京子「そうだよ、間違いない。どこからどう

   見てもラブレター!」


京子「だとすると、送り主は・・・」


京子「きっとちなつちゃんだー!」キラキラ


――

京子「うへへ、まさかちなつちゃんのほうか

   らアプローチをしてくるとは・・・」


京子「私の日頃の想いが届いたということだ!」ドヤァ


京子「ではでは、ちなつちゃんからの愛のメッセージを

   いざ拝見・・・」キーンコーンカーン


京子「おっと遅刻しちゃう!とりあえず、昼休みまでは

   お預けかな」ダッ



――

教室


京子「京子たん、華麗に参上ッ!」ガラッ


綾乃「と、歳納京子!遅刻は罰金バッキンガムよーっ!」


京子「え~、ギリギリセーフでしょ?」


綾乃「そんなこと言ったって、あなたは今月だけで5回も

   遅刻してるのよ。今回もアウトだわ!」


京子「そんな~。ねっ、綾乃。今回だけ・・・」ウワメヅカイ


綾乃「うっ・・・。し、仕方ないわね。今回だけなんだか

   らね!//」


京子「やったー!綾乃、ありがとう!」


綾乃「べ、別にあなただから大目に見たわけじゃ・・・//」


千歳「朝から眼福やわぁ~」ドクドク


――

京子「やあおはよう、結衣さんや」


結衣「あんまり綾乃に迷惑かけるなよ・・・」


京子「まあまあ、過ぎたことを言っても仕方がないことで」


結衣「都合よく判断するな」


――

京子「(ちなつちゃんのラブレター、早く見たいなぁ)」ニヤニヤ


結衣「・・・何かあったのか?」


京子「え?なんで?」


結衣「妙に機嫌がいい気がする」


京子「ま~たまた~、京子たんはいつでもこのスマイル

   だよ!」ニカッ



――

昼休み 屋上


京子「ここならじっくりとちなつちゃんからのラブレター

   を堪能できるってわけで・・・」


京子「いざ、解禁!」バッ


歳納京子さんへ


突然こんな手紙を出してごめんなさい


これ以上、気持ちに嘘はつけません


いつも見ています


今日の6時に、七森中学の裏山の公園で


待っています


歳納京子さんの都合がよければ


来てください


京子「おぉ~、ちなつちゃんってば私にゾッコンか!」


京子「それにしても大げさだなぁ、わざわざフルネームで

   書くなんて。いや、でもこのほうが緊張感が伝わって

   きていいかもね」


京子「ちなつちゃん、愛しの京子先輩がその想いに応える

   から待っていてくれたまえ!」ニシシ



――

放課後 ごらく部


京子「ちなちゅ~!」ダキッ


ちなつ「ちょ、京子先輩!」


京子「恥ずかしがらなくていいんだよ!私たちは両想い

   なんだから!」


ちなつ「寝言は寝てるときだけにしてください!」


結衣「おい、それ以上やると完全にセクハラだぞ」


京子「何を言ってるかね、結衣さん!私とちなつちゃんは

   永遠の愛を誓いあう関係なんだよ!」


結衣「朝から変だとは思ってたけど、何か悪いものでも

   食べたか?」


京子「だったらお見せしましょう、ちなつちゃんから私への

   愛のメッセージを!」ズビシッ


結衣「手紙・・・?」


――

京子「どうだね、これでよ~くわかっただろう」


結衣「確かにこれはラブレターだな」


京子「いや~、やっぱり私とちなつちゃんは結ばれる運命

   にあったんだよ!」


ちなつ「・・・私、こんなの書いてませんけど?」


京子「へっ・・・?」


――

京子「え・・・うそ?ちなつちゃんじゃないの?」


ちなつ「当たり前です!なんで私が京子先輩にラブレター

    を出すんですか。私の想い人は結衣先輩だけです!」


京子「そんな~、ちなつちゃんじゃなかったのかぁ」ガックシ


結衣「むしろ、どう考えたらちなつちゃんからのラブレター

   って結論になったんだ」


京子「直感です」キッパリ


結衣「おまえの発想がときどきうらやましくなるよ」


――

京子「それにしても、ちなつちゃんじゃないとしたら誰なの

   かな~。あっ、もしかして千鶴?」


結衣「どうしてそう可能性が低いほうから考えるんだ」


京子「どっちにしろ、6時に公園に行ってみればわかるよね」


ちなつ「えっ、本当に行く気なんですか?」


――

京子「そりゃもちろん。誰が送ったのか確かめないと、この

   歳納京子、気になって夜も眠れません」


ちなつ「でも、知らないひとだったらどうするんですか。

    危ないですよ!」


京子「そんな大げさな・・・」


結衣「私もちなつちゃんの考えに賛成だな」


京子「結衣まで・・・」


――

京子「ちょっとお二人さん、考え過ぎですよ。どうせ七森中

   の誰かが送ってきたんだから・・・」


結衣「どうしてそう言い切れるんだ?」


京子「そりゃ、私の家の郵便受けならともかく、下駄箱に

   入ってたんだから、学校の誰かに決まってるじゃん」


結衣「よく見ろ。このラブレター、手書きじゃなくてパソ

   コンで打ってあるぞ」


京子「あ、ほんとだ」


結衣「いや、最初から気付けよ」


――

結衣「普通、ラブレターをパソコンで打つか?」


ちなつ「ありえないです!気持ちを込めるラブレターを

    手書きにしないなんて、味気ないですよ」


京子「まぁ、そうかもしれないけど。さては結衣さん、ラブ

   レターを書いた経験でもおありですかな?」


結衣「話を茶化すな」


――

ちなつ「妙ですよね。手紙自体はちゃんとしたものを使って

    るのに、肝心の文章だけ手書きじゃないなんて」


結衣「そこなんだよ。普通に考えたら明らかに変なことを

   してる。つまり・・・」


京子「つまり?」


結衣「これを書いた人間が普通じゃないのかもしれない」


――

京子「・・・ぷっ、あははは!結衣ってば、何言ってんの」


結衣「京子、笑いごとじゃないぞ。本当に変質者か何かが

  これを書いたんだとしたら、公園に行くのは危険だ」


京子「だって、そんなストーカーみたいなのが都合よくい

   るわけないじゃん!」


ちなつ「でも、何かあってからじゃ遅いですよ」


京子「もしかしたらただのイタズラかもよ?櫻子ちゃん

   あたりが私を驚かそうとして・・・」


ちなつ「それならそれでいいですけど、櫻子ちゃんはここ

    まで手の込んだことはしないと思いますよ」


結衣「だいたい、一番こういうことをしそうなのはおまえ

   だからな。そのおまえのもとに送られてきた時点で

   イタズラの可能性は低いよ」


――

京子「あ~、もういいよ。しらけちゃったし、帰ろうっと」


結衣「京子、私は本気で心配して・・・」


京子「わ~かったって!今日はまっすぐ帰るよ。どうせ

   ミラクるん観るから早く帰らないといけないし」


ちなつ「京子先輩・・・」


京子「それじゃ、ばいびー!これももういらないや」ポイッ


――

ちなつ「行っちゃいましたね・・・」


結衣「まぁ、大丈夫だとは思うけど・・・。私も少し神経質

   になりすぎてたかな?」


ちなつ「ミラクるんで思い出しましたけど、京子先輩って

    コムケで同人誌出したりするのって長いんですか?」


結衣「2年くらいにはなるかな。でも、それがどうかした?」


ちなつ「いえ、有名な作家さんにファンがストーカーする

    とかってよく聞くじゃないですか」


結衣「確かにそうだね。熱狂的なファンなら、全く不自然

   でもないか・・・」



――

廊下


京子「まったく、結衣のやつも心配性だな~。おや、あれに

   見えるは・・・」


あかり「あはは、そうですよね~」アッカリアッカリ


りせ「・・・・・」


京子「あかりと会長?珍しい組み合わせだな・・・」


――

あかり「あっ、京子ちゃん!今から部室に行くの?」


京子「いや、今日はもう帰るよ。あかりこそ会長と一緒で

   どうしたんだ?」


あかり「あかり、先週から生徒会のお仕事を手伝ってるん

    だよぉ~。ごらく部にあんまり顔出せなくてごめん

    ね?」


京子「そっか、あかり最近いなかったのか。気付かなかった」


あかり「んん?いま、さりげなくひどいこと言われた気が

    するよ!」アッカリーン


りせ「・・・・・」ヨシヨシ


あかり「うぅ~、会長さんなら優しいから、あかりの存在感

    の薄さをからかったりしないよぉ~」トホホ


京子「それじゃ、私はもう帰るからな~」



――

夕方 京子自宅


京子「もうすぐ6時かぁ・・・」


京子「ちょっと気になるけど、今からじゃ間に合わないよね」


京子「いいや、もう。忘れよっと。どうせイタズラだろうし」


京子「さ~て、気を取り直してミラクるんでも観るか!」



――

朝 通学路


京子「おっはよ~ん!」


結衣「朝から元気だな」


京子「結衣のテンションが低いんだよ。この心配性め」コノコノ


結衣「京子、まさかあの後公園に行ったりとか・・・」


京子「行ってないって!あれだけ結衣に言われたら行く気

   もなくなるっつーの」


結衣「そっか。それならよかった・・・」


京子「へ~、なんだかんだ言って私のこと心配してくれる

   んだ~」


結衣「当たり前だろ」


――

京子「でもさぁ、何か悪いことしたような気もするな~」


結衣「何が?」


京子「だってさぁ、あの手紙がイタズラじゃなかったとし

   たら、ずっと相手を待たせてたわけじゃん?」


結衣「まぁ、そうなるな」


京子「私にゾッコンだとしたら、ちょっと可哀そうだった

   かな~」


結衣「おまえが気にするようなことじゃないだろ」



――

七森中 下駄箱


京子「(今日はさすがに入ってないか)」


京子「(まぁ、やっぱりイタズラって線が妥当だよね)」


結衣「どうした?早くしないと置いていくぞ」


京子「待ってよ~。ツンデレ結衣にゃん」


結衣「つっこむ気にもなれん」ハァ



――

教室


京子「綾乃おはよーっ!」


綾乃「・・・・・」


京子「綾乃?」


綾乃「あ、ああ歳納京子。おはよう・・・」


京子「どしたの綾乃?何か元気ないよ」


綾乃「そ、そんなことないわよっ」


京子「?」


――

京子「綾乃どうかしたのかな?」


結衣「さぁ・・・。具合でも悪いんじゃないか」


京子「ズバリ、女の子の日ですかな!?」


結衣「おまえにはデリカシーってもんがないのか」



――

放課後 生徒会室


綾乃「はぁ・・・」


千歳「綾乃ちゃん、ちょっとええ?」


綾乃「えっ?ああ、いいわよ。どうかした?」


千歳「綾乃ちゃん、あんまり無理せんほうがええよ」


綾乃「へっ?私は別に無理なんか・・・」


千歳「そんなん言うてもバレバレよ~。綾乃ちゃん、朝

   からずうっと元気なかったで?」


綾乃「そ、そうかしら?ちょっと疲れが出たのかしらね」


千歳「教室じゃ言いにくかったけど、歳納さん関係のこと

   なんやろ?」


綾乃「そ、そんなワケっ・・・。どうして私が歳納京子の

   ことで悩むのよ」


――

千歳「うちにだけは正直に言うてや。綾乃ちゃんが一人で

   悩んでるの、見ててつらいわぁ」


綾乃「うっ、やっぱり分かってたのね・・・。それならもう

   話すわ」


千歳「一人で背負いこむとカラダに毒やで。うちでも、話を

   聞くくらいなら協力できるわ」


綾乃「ありがとう、千歳。あのね、実は昨日・・・」


――

綾乃「・・・そういうわけなのよ」


千歳「なるほどなぁ。それはショックやわ」


綾乃「私、勇気を出してトライしたのよ。でも、こんな

   結果になるなんて・・・。もう歳納京子に顔を合わ

   せるのもつらいわ・・・」


千歳「綾乃ちゃん・・・」



――

教室


京子「えっ、結衣今日部室こないの?」


結衣「ああ。来週の課題のことで、図書室で調べることが

   あるんだ」


京子「そんなのいいから遊ぼうよ~」


結衣「だめだ。そもそも、おまえだって課題があるだろ」


京子「そこは頼れる結衣先輩のお力添えで・・・」


結衣「媚びてもムダだ」


――

京子「ちぇ~、もういいよ。部室でちなつちゃんをモフ

   モフしてくるから」


結衣「ちなつちゃん、今日は部活こないよ」


京子「なんですとーッ!?」


結衣「お姉さんと一緒に出掛けるらしいよ。だから今日は

   早く帰るって」


京子「ぐぬぬ・・・。かくなるうえは、ごらく部を解散す

   るしかあるまい!部長の私自らの手で!」


結衣「ひとりでやってろ」スタスタ



――

下駄箱


京子「なんだよもう。みんなして好き勝手に・・・」


京子「この京子たんを退屈させた罪は重いぞ!」


京子「帰ろ・・・」トボトボ


京子「・・・えっ?」


京子「うそ・・・。また手紙来てる」


――

京子「い、イタズラだよ。きっとそう。」


京子「私をコケにするのもいい加減にしろよなー」スッ


歳納京子さん


昨日は来てくれなかったのですね


想いが届かなかったのですか


どうして


どうして


待っていました


ずっと


なぜ


いつまでも


わからない


待っていたのに


この手紙を見て


どうして


そんな顔をしているのですか


来て


来てほしかったのに


あきらめない


ずっと


どうして


離さない


――

京子「!?」


京子「な、何これ。気持ち悪い・・・」


京子「こんなの書くの、ストーカー・・・だよね?結衣が

   言ってたみたいに」


京子「朝にはなかったのに・・・」


京子「いまも近くにいるの・・・?」ゾクッ


京子「帰らなきゃ・・・」



――

通学路


京子「うぅ・・・」


京子「気のせいだよね?さっきから視線を感じる・・・」


京子「・・・ッ!」クルッ


京子「い、いま誰か角に隠れたような・・・」


京子「いや・・・嫌ッ!」ダッ



――

大通り


京子「はぁっ、はぁっ・・・」


京子「こ、このへんまで来ればひとも多いし・・・」


京子「遠回りになっちゃうけど、こっちを通っていこう」


京子「はぁ~」


京子「あっ、そういえばここゲーセンあったなぁ」


京子「・・・気晴らしにちょっと寄っていこう」



――

ゲームセンター


京子「おお~!ミラクるんエクストラフィギュア!」


京子「プライズモノにしては、及第点の出来かな」


京子「けど1クレ200円かぁ~」


京子「ツメはあんまり期待できそうにないし、こりゃ

   半額デーまで様子見かな」


京子「・・・・・」


京子「なんだろう。楽しいはずなのに、気持ちが盛り上

   がらない・・・」


京子「心配しすぎだよね・・・。結衣のこと笑えないよ」


京子「早く帰ろう・・・」



――

通学路


京子「けっこう遠回りだったなぁ」


京子「でも、ここまで来たらあと少しだし」


京子「早く帰ってコムケの新作でも・・・えっ?」


京子「・・・・・」チラッ


――

京子「(いま、絶対誰か隠れた・・・)」


京子「(そこの塀の後ろに、誰かいる・・・)」


京子「(つけられてたんだ、ずっと・・・)」


京子「うっ・・・」ジリッ


京子「に、逃げなきゃ・・・」


京子「だ、だめ・・・脚が震える・・・」ガタガタ


綾乃「歳納京子」


――

京子「ひ、ひいッ!?」ガクン


綾乃「ど、どうかしたの?」


京子「あ、あ・・・」ガタガタ


綾乃「歳納京子?」


京子「あ、綾乃・・・。ううっ・・・」ジワァ


綾乃「!?」


――

京子「綾乃、た、助けて・・・」ダキッ


綾乃「え?ち、ちょっと!?」


京子「うぅ、怖かったよぉ~」グス


綾乃「ちょっと!何があったのよ?」アセアセ


京子「うぅ、ひっく、えぐっ」ポロポロ


綾乃「ど、どうしたらいいのかしら」オロオロ


――

綾乃「そうだわ、船見さんに連絡すれば・・・」


綾乃「歳納京子。ちょっとだけ待ってて。いま、船見さんに

   連絡をとるから」


京子「い、行かないで!お願い!」


綾乃「だ、大丈夫よ!どこにも行かないから」ピポパ


綾乃「(お願い、船見さん早く電話に出て・・・)」テュルル


――

結衣『もしもし、綾乃?どうかした?』


綾乃「あっ、船見さん!いま、時間大丈夫かしら?」


結衣『別にいいけど?』


綾乃「あ、あのね。いま歳納京子と一緒にいるのよ」


結衣『京子と?』


綾乃「それで、その、歳納京子の様子がおかしいのよ」


結衣『様子がおかしい?』


綾乃「なんだかすごく怯えてて・・・。私と会ったとたん

   に泣き出したの」


結衣『待って。それどういうことなの!?』


綾乃「私にもわからないわ。ただ、助けて、怖い、って」


結衣『あ、綾乃。いまどこにいるの!?』


綾乃「ええっと、なもり書店のすぐ近くよ」


結衣『わかった、すぐに行くから。それまで京子をお願い!』


綾乃「え、ええ」



――

10分後


結衣「綾乃!」


綾乃「こっちよ、船見さん!」


結衣「はぁはぁ・・・。ごめん、学校からだから少し時間が

   かかったよ」


綾乃「ううん。すぐに来てもらえて助かったわ」


京子「ゆ、結衣ぃ・・・」ヒック


結衣「京子!大丈夫か?」ギュッ


京子「怖かった・・・。怖かったよぉ・・・」


結衣「もう大丈夫だよ・・・」


――

結衣「ここからだと私のアパートの方が近いな。いったん

   移動しよう。京子、歩けるか?」


京子「うん・・・」


結衣「綾乃も来てくれないかな。伝えないといけないことが

   あるんだ」


綾乃「え、えぇ。いいわよ」



――

結衣のアパート


結衣「京子、とりあえず落ち着こう。そこに座って」


京子「うん・・・」


結衣「いま飲み物をとってくるから」


京子「・・・・・」コクリ


綾乃「歳納京子・・・」


――

数分後


結衣「京子、話せそうか?」


京子「・・・・・」コクン


結衣「例の手紙が関係してるんだろ・・・?」


京子「うん・・・」


綾乃「て、手紙?」


結衣「あぁ、ごめん。綾乃には話してなかったね。昨日の

   ことなんだけど、京子がラブレターをもらったんだ」


綾乃「ら、ラブレター!?歳納京子に!?誰、誰が送った

   の!?」


結衣「あ、綾乃落ち着いて・・・。ラブレターっていっても

   普通じゃないんだ」


綾乃「ど、どういうこと?」


――

結衣「・・・かいつまんで言うと、こういうわけなんだ」


綾乃「確かに、ラブレターなのに手書きじゃないっていう

   のは引っかかるわね」


結衣「手紙はごらく部に置きっぱなしのはずだから、あと

   で直接見せるよ」


綾乃「それで、歳納京子。いったい何があったの?」


京子「手紙、また来た・・・」


綾乃「えっ?」


――

結衣「京子、それはどこにあったんだ」


京子「下駄箱・・・。帰るときに見たら、あった・・・」


京子「怖くなって、すぐ帰ろうと思ったんだけど」


京子「誰かにつけられてた。絶対、見間違いじゃない

   よ・・・」


京子「どうしたらいいかわからなくなったときに、ちょうど

   綾乃に会って・・・」


京子「ほっとしたら、涙が止まらなくて・・・」


綾乃「歳納京子、本当に怖い思いをしたのね・・・」


――

結衣「手紙が下駄箱にあったってことは、犯人は学校の

   なかに入ってきたわけだ」


綾乃「そうね。これは大問題よ」


結衣「とにかく、学校のほうに伝えておかないと。ごらく

   部にある手紙を持っていけば信じてもらえるとは思う

   けど」


綾乃「歳納京子、2通目の手紙はいま持ってる?」


京子「怖かったから、下駄箱のところに置いたままだよ・・・」


綾乃「証拠として早く回収したほうがいいわね。千歳に

   連絡して保管しておいてもらうわ」ピポパ


――

結衣「京子、大丈夫か?」


京子「うん・・・。少し落ち着いた」


結衣「私も一緒についていくから。手紙のこと、ちゃんと

   話そうな」


京子「ありがとう、結衣・・・」


綾乃「私も協力するわ。生徒会を通したほうが話が早いと

   思うし」


京子「綾乃、ありがとう・・・」



――

翌日 七森中 ごらく部


結衣「おかしいな。確かにこのへんに置いたままのはず

   なんだけど・・・」


京子「そ、そんな。どうしてないの!?」


綾乃「誰かが片づけたってことはないの?」


結衣「いや、昨日は私もちなつちゃんも部室には行かな

   かったよ」


京子「来たんだ・・・」


結衣「京子?」


京子「犯人が来たんだ!部室にまで来てるんだ!」


――

綾乃「お、落ち着いて歳納京子!」


京子「こ、怖いよぉ・・・」ガタガタ


綾乃「大丈夫よ、私たちがついてるわ」


京子「うぅ・・・」


結衣「まだ犯人がやったかはわからないよ。あかりが来た

   のかもしれないし」


綾乃「そうね。やみくもに探すより、赤座さんに確認

   したほうが早いわ」



――

1年生教室


あかり「手紙?」


結衣「そう。あかり、部室で手紙を見なかったか?」


あかり「あっ、そういえばあったよぉ」


結衣「本当!?それで、手紙はどこに?」


あかり「大事なものだと思ったから、奥の戸棚に入れて

    おいたけど・・・」


結衣「そうか。ありがとう、あかり」


あかり「ゆ、結衣ちゃん。その手紙がどうかしたの?」


結衣「ごめん。今は忙しいんだ。後で話すよ」


あかり「そ、そう・・・」



――

廊下


結衣「綾乃っ、一通目の手紙あったよ!」


綾乃「よかった。これで、千歳に回収してもらった二通目

   の手紙とセットになるわね」


結衣「改めて見ると、本当に異常な感じがするよな」


綾乃「えぇ。特にこの二通目。こんなものを贈られたら、

   誰だって不安になるわ・・・」


結衣「それじゃあ京子、職員室まで行こうか」


京子「う、うん・・・」


綾乃「私たちもいるから大丈夫よ」



――

放課後 2年生教室


先生「・・・というわけで、登下校の際には特に気をつけて

   ください。学校内でも職員による巡回を行いますが、

   あまり遅くまで残らないように。以上です」


結衣「先生たちもすぐ動いてくれたな」


綾乃「そうね。警察に学校近辺のパトロールも強化してもら

   ったみたいよ」


結衣「綾乃のおかげだよ。京子がほとんど話せなかった分、

   先生たちに一生懸命説明してくれたから」


綾乃「そ、それは歳納京子のため・・・じゃなくて、生徒会

   副会長として当然のことをしたまでよ//」


結衣「ふふっ、ありがとう、綾乃」


――

1年生教室


櫻子「いやー、不審者だって不審者!なんかテンションあが

   るー!」


向日葵「あなたは本当にバカですの?危機感がまるでない

    ですわ・・・」


櫻子「なんだとー!きっと向日葵が最初に狙われるよ。こん

   だけおっぱいでかければ目立つし!」


向日葵「まったくもう!現にこの学校の生徒が被害に遭いかけ

    ているんですよ。生徒会役員として不謹慎な発言は

    おやめなさい!」


櫻子「へーんだ。いざ狙われても守ってやらないぞー!」


向日葵「誰があなたなんかに助けを求めますか!」


――

あかり「今朝、結衣ちゃんが言ってた手紙って、このことだ

    よねぇ・・・」


ちなつ「うん。ストーカーされたのは京子先輩だよ」


あかり「そうなんだ・・・。京子ちゃん、大丈夫かなぁ」


ちなつ「私たちも気を付けたほうがいいね。あかりちゃんも

    生徒会で遅くなったときとかは気をつけたほうがい

    いよ」


あかり「うん。ありがとうちなつちゃん、心配してくれて」


――

下駄箱前廊下


櫻子「だいたいさぁ、不審者だかなんだか知らないけど、

   私の中高一本拳でイチコロだよ!」シュッシュッ


向日葵「またあなたは荒唐無稽なことを・・・」


櫻子「いっそのこと、この櫻子様が犯人とやらをしょっぴい

   てやろうかな~?」


向日葵「さ、櫻子!そんなのは無茶ですわ!おやめなさい!」


櫻子「あれ、もしかして心配してくれてるの?」


向日葵「な・・・ちがいますわ!あなたが余計なことをすれば

    迷惑がかかるからです//」


櫻子「ふ~ん?」


――

奈々「はははっ、日も暮れないうちに熱いな、二人とも」


向日葵「せ、先生。熱いだなんて、そんな・・・//」


櫻子「せんせー、こんなところでどうしたんですかー?」


奈々「いやなに、不審者とやらが出たとかで、教員が持ち回り

   で巡回をすることになってな」


向日葵「先生もお気をつけてくださいね」


奈々「ああ、私なら大丈夫だ。この特製万能誘導地雷グレイナ

   モリアで不審者も粉微塵だ」ウィーン


櫻子「おぉー!カッコいい!」


向日葵「(西垣先生のほうがよっぽど危険ですわ・・・)」



――

通学路


京子「・・・・・」キョロキョロ


結衣「京子、大丈夫だよ。誰もいないよ」


京子「結衣、離れないで・・・」ギュウ


結衣「わかってるよ。京子を一人になんかしない」


京子「ありがと、結衣・・・」


――

京子「ねぇ、結衣・・・」


結衣「どうした、京子」


京子「一人じゃさみしい。結衣のアパートに泊まりたい」


結衣「京子・・・気持ちはわかるけど、今日はだめだ」


京子「ど、どうして!?」


結衣「学校でも対応はしてもらったけど、まだストーカーは

   捕まってないし、いつまた接触してくるかもわからな

   い。この状況で私のアパートに来ても、かえって隙が

   できるだけだ」


京子「・・・・・」


結衣「一緒にいてやりたいけど、京子の安全を考えたら、

   やっぱり親御さんのところにいるのが一番いいよ」


京子「結衣・・・」


結衣「ごめんな。京子を守れるだけの力がなくて・・・」


京子「じゃあ、うちに来てよ」


結衣「私が京子のうちに?」


京子「それならいいでしょ?ね、お願い!」


結衣「親御さんの迷惑にならないならいいけど・・・」



――

京子自宅


京子「ただいま」


結衣「おじゃまします」


京子母「あら、結衣ちゃん。いらっしゃい」


京子「ね、お母さん。今日、結衣に泊まってもらってもいい?」


京子母「あら、それはまた急ね。結衣ちゃんの迷惑にならない

    かしら?」


京子「結衣はいいって言ってくれてるよ!」


結衣「あの、ご迷惑なら日を改めますんで・・・」


京子母「迷惑だなんて、そんな・・・。結衣ちゃんさえよければ

    いつでも歓迎よ」


京子「やったー!結衣、泊まってくれるんだ!」


結衣「いいんですか、こんな時期に?」


京子母「えぇ。あんなことがあって京子もだいぶ落ち込んでる

    の。結衣ちゃんがそばにいてくれたら、京子も安心す

    るわ」


結衣「そうですか。それならお言葉に甘えて・・・」


――

京子「結衣、早くあがってよ!一緒にゲームしよ、ゲーム!」


結衣「ま、待てって。そんなせかすな・・・」


京子母「ふふっ、やっぱり結衣ちゃんに来てもらって正解ね。

    あの子ったら、昨日とは大違いだわ」


結衣「昨日、相当落ち込んでましたか?」


京子母「えぇ、それはもう。あの子がしゃべらないせいで、うち

    中が灯の消えたような感じだったもの」


結衣「そうですか・・・」


京子「結衣ー!なにしてるの、早く来てよー!」


結衣「わかったわかった、いま行くから!」



――

夜 京子自室


京子「はぁ~、今日はすっごく楽しかった!」


結衣「まったく、泣いたなんとかがすぐ笑うってやつだな」


京子「だって、結衣がうちに来てくれたのひさしぶりなんだ

   もん。一緒にご飯食べて、遊んで、おしゃべりして、

   お風呂にも入って・・・」


結衣「まぁ、でもおまえが元気になってよかったよ」


京子「えへへ、ありがと、結衣」


結衣「珍しく素直だな」


京子「だって、やっぱり私のこと守ってくれるのは結衣

   なんだもん!小さいころから、ずっと!」


結衣「京子・・・」


京子「結衣が守ってくれるから、私、学校にも行けるよ」


結衣「そうだな。私がおまえを守らないとな・・・」



――

翌日 朝


京子「行ってきまーす!」


京子母「いってらっしゃい。結衣ちゃん、京子のことお願い

    ね」


結衣「はい。それじゃ、行ってきます」



――

通学路


あかり「京子ちゃん!結衣ちゃん!」


京子「おぉー、あかり!ちなつちゃんも!」


ちなつ「おはようございます。京子先輩、結衣先輩」


結衣「おはよう、二人とも。京子のために来てくれたんだね」


あかり「あかり、京子ちゃんが悩んでたの知らなかったよぉ。

    でも、これからはちなつちゃんと一緒に京子ちゃんを

    守るよぉ」


ちなつ「まぁ、京子先輩がいつものテンションじゃないと調子

    くるいますからね」


京子「あかりぃ、ちなつちゃん・・・」ウル


結衣「京子、おまえは一人じゃないんだ。みんな、京子のこと

   を大切に想ってるんだよ」


京子「あ、ありがとうみんな・・・」グスッ


ちなつ「ほらほら、朝からそんな顔してたらだめですよ!」


京子「そ、そうだね。えへへっ」


あかり「わぁい。あかり、京子ちゃんの笑顔だぁいすき!」


結衣「ふふっ」



――

七森中 2年生教室


京子「おはようっ、綾乃!」


綾乃「おはよう、歳納京子。今日は元気そうね」


京子「うん。私、ずっと一人で悩んでたけど、一人じゃなかった

   んだ。結衣にあかり、ちなつちゃん、それに綾乃。みんな

   私のことを心配してくれてた。それがわかって、すごく

   勇気づけられたよ」


綾乃「それはよかったわ。私だって、その、あなたの元気な

   姿が見られたら安心するし・・・//」


京子「ありがとうね、綾乃!」ギュウ


綾乃「ち、ちょっと!?//」


千歳「か、会心の一撃や・・・」ダバダバ



――

1年生教室


櫻子「ふっふっふ、完全犯罪を目論んだんだろうが、そうは

   問屋がおろさない!」


向日葵「朝から何をやっていますの?」


櫻子「なっ、これを見てもわからないのか。バカおっぱい!」


向日葵「野球帽をかぶってルーペ片手にシャボン玉を吹く

    さまを見せつけられても意味がわかりませんわ」


櫻子「こーれーはー!探偵なの!探偵!」


向日葵「もしかして、シャボン玉はパイプのつもりですの?」


櫻子「そうそう。おっぱいにしては鋭い。褒めてやろう」


向日葵「帽子は・・・とりあえず手近にあったものを選んだの

    ですわね」


櫻子「そう!なんだー向日葵、おまえ探偵の才能あるな」


向日葵「で、どうして朝から探偵ごっこなんてしているの

    ですか?」


櫻子「ごっこじゃない!本物の探偵なの!名探偵櫻子様が

   不審者の正体を暴くのだ!」


――

向日葵「またそんなことを・・・。無理に決まってますわ」


櫻子「なんでだよ!やってみなきゃわかんないだろー!」


向日葵「それじゃ聞きますけど、今回、七森中の誰が被害に

    遭いかけたかご存知なのかしら?」


櫻子「えと・・・それは知らない」


向日葵「犯人に結び付く証拠は見つけましたの?」


櫻子「そ、それはまだ・・・」


向日葵「こんな状況でどうやって犯人を探すのです?やっぱり

    櫻子はバカですわ」


櫻子「なんだとー!だったら、私が犯人突き止めたらプリン

   10人前おごれよ!絶対だからな!」


向日葵「まぁ、結果はわかりきっていますけど・・・」


櫻子「む、ムキーッ!」



――

昼休み 2年生教室


京子「は~やれやれ、ようやく昼休みだ~」グタッ


綾乃「歳納京子、少し疲れてるんじゃない?」


京子「なんのなんの、これしきでは疲れません!」


結衣「さっきの体育でもずいぶん動いてたからな。あんまり

   テンション高すぎても困るぞ」


綾乃「そうよ。ここ何日かはドタバタしてたわけだし。

   無理は禁物よ」


京子「へーきへーき!・・・あっ」フラッ


――

結衣「おい、大丈夫か!?」ガシッ


京子「あ、ありがと・・・。えへへ、ちょっと疲れてる

   かも」


綾乃「午後は無理しないで保健室で休んでいたほうが

   いいわよ」


結衣「そうだぞ、京子。あせって体調を崩したら元も子も

   ないからな」


京子「・・・そうだね。二人のいうとおりにするよ」



――

保健室


結衣「放課後にまた迎えに来るから。それまでおとなしく

   休んでるんだぞ」


京子「りょうかーい」


綾乃「それじゃあ、そろそろ予鈴の時間だし、私たちは

   戻りましょう」


結衣「そうだね」


京子「二人とも、病人搬送ご苦労であった!」ビシッ


結衣「それだけ軽口がたたけるなら大丈夫そうだな」クスッ


――

京子「ん・・・結衣ぃ。ラムレーズン・・・」ムニャ


京子「はっ・・・寝ちゃってた」


京子「あっ、もう放課後か」


京子「教室に戻ってもいいけど、結衣たちと入れ違いに

   なると困るよなぁ」


京子「先生もどこか行ってるみたいだし、伝言も頼め

   ないか」


京子「このまま待ってよっと」


――

ギィ・・・


京子「あ、来た」


京子「おい結衣~。かわいい京子たんを待たせるなんて

   薄情じゃないか~」


京子「どしたの?早く入ってきなよ」


ギ・・・


京子「結衣・・・?」


京子「な、なんだよ。脅かそうたってそうはいかない

   からな~」


京子「結衣じゃないの?あ、綾乃かな?」


京子「いつもみたいな勢いでドア開けないの~?」


京子「・・・・・」


――

京子「な、なに?新手のジョーク?面白くないよ、

   こんなの~」


京子「ねえってば!返事してよ!」


京子「ここからじゃドアが見えない・・・」


『まだストーカーは捕まってないし、いつまた接触してくるかもわからない』


京子「う、うそだ。そんなのありえない・・・」


京子「誰なの。ねぇ、誰なの!?」


京子「うっ・・・」ゾクッ


綾乃「ごめんなさい、遅くなったわ」ガラッ


――

京子「あ、綾乃!?」


綾乃「どうしたの、そんなに驚いて」


京子「あ、綾乃はいま来たの?」


綾乃「そうだけど・・・。それがどうかしたの?」


京子「い、いま保健室の前に誰かいなかった?」


綾乃「えっ、誰も見てないわ」


京子「・・・・・」


綾乃「具合はどう?いま船見さんも来るけど、帰れそう

   かしら。荷物も持って来たわよ」


――

京子「だ、大丈夫。休んだから疲れもとれたよ」


綾乃「それならよかったわ」


結衣「ごめん、遅れちゃって」ガラッ


綾乃「船見さんも来たことだし、今日は早く帰って

   休んだほうがいいわ」


結衣「帰るぞ、京子。あかりたちも待ってるから」


京子「う、うん」


――

廊下


京子「(さっきの、気のせいなんかじゃない)」


京子「(綾乃が入ってくる3分前くらい、誰かドアの

   前に来たんだ)」


京子「(でもどうやって?あれ以来、部外者が入ってくる

   隙なんてほとんどないのに)」


京子「(・・・・・)」


――

結衣「どうした京子、ぼーっとして」


京子「え・・・?あぁ、うん。なんでもないよ」


結衣「そうか?それならいいけど」


京子「(やっぱり気になるなぁ)」


――

下駄箱


綾乃「私も一緒に帰りたいところだけど、今日は生徒会

   で仕事を片付けないといけなくて・・・」


結衣「そっか。綾乃も忙しいからね」


綾乃「船見さん、歳納京子のことよろしくね」


結衣「わかった。京子は私たちで守るよ」


綾乃「ありがとう。ごらく部のみんながいれば、歳納

   京子もきっと大丈夫ね」


あかり「結衣ちゃん、お待たせ~」


ちなつ「遅れてすみません、結衣先輩」


結衣「これで全員そろったね。それじゃ、綾乃。

   また明日ね」


綾乃「えぇ。あら?歳納京子はどこに行ったのかしら?」


結衣「えっ?あ、本当だ。忘れ物でもしたのかな」


――

奈々「ほぅ、今日は赤座くんと一緒に帰れなくて落ち込んで

   いるのか」


りせ「・・・・・」ショボン


奈々「まぁ、あせって好機を逃すのは得策ではないな。

   恋愛も科学も、腰を据えて挑むものだからな」


りせ「・・・・・」コクン


京子「西垣せんせー!」


奈々「おぅ、歳納くんか。どうした」


京子「先生、今日も巡回ですか」


奈々「あぁ。今日は放課後少し前からスタンバってたぞ。

   本当なら、こうしている間にも有益な爆発実験を

   したいのだが」


京子「あの、不審者とかいませんでした?」


奈々「いや、見てないな」


――

京子「そうですか・・・」


奈々「どうした、不審者がいないなら喜ぶべきことだろう」


京子「そ、それはそうですけど、早く逮捕につながる

   証拠が出てきたほうが安心かなって・・・」


奈々「そういえば歳納くんは被害者だったな。その反応は

   科学的にもおかしくない。だが、心配は無用だぞ」


京子「ど、どうしてですか」


奈々「あれを見ろ。カメラがいくつもあるだろう」


京子「ありますね」


奈々「あれは私特製の超高感度プラズマカメラだ。自動

   監視モードにしてるから、ここら一帯の画像は鮮明

   に撮れている」


――

奈々「外部から立ち入るには、ここの建物の構造上、下駄箱

   を通る必要が必ず出てくる。そこをカメラで激写する

   わけだ」


京子「それじゃ、部外者が入れば必ずわかるんですね」


奈々「そのとおりだ。テープは毎日確認しているが、怪しい

   者は一人も映ってなかったぞ」


京子「すごい・・・。これ、全部先生がしてくれたんです

   よね。私のために」


奈々「そうだ。歳納くんも松本も、私のかわいい教え子だからな。

   安心して過ごせる教育環境にしなければなるまい」


京子「先生・・・ありがとうございます」


――

結衣「おーい、京子。何してるんだ、早く帰るぞ~」


京子「あっ、ごめん結衣。いま行くから!」


奈々「どうやら帰り道も大丈夫そうだな」


京子「先生、それじゃ私帰りますね」


奈々「あぁ、気を付けて帰るんだぞ」


りせ「・・・・・」ジ-ッ


奈々「松本も、生徒会の仕事はサボって赤座くんと一緒に

   帰ったらどうだ?」


りせ「・・・・・」フルフル


奈々「そうか、松本は責任感が強いな。えらいぞ」ナデナデ



――

通学路 京子の家の前


結衣「よし、今日もなんともなかったな」


あかり「みんなと一緒なら心強いよ。ねっ、京子ちゃん」


京子「う、うん・・・」


ちなつ「どうしたんですか、京子先輩?」


結衣「まだ不安なのか。まぁ、無理もないよな」


京子「うん。まだ少し不安かな。でも、みんな私のことを

   思ってくれてて嬉しいよ」


結衣「みんな京子の味方だからな。それじゃ、わたしたちも

   帰るよ」


あかり「またねぇ、京子ちゃん」


ちなつ「京子先輩、早く元気になってごらく部にも戻って

    きてくださいね」


京子「あ、ありがとうみんな!」


――

京子の部屋


京子「・・・ふぅ」バタン


京子「さっきの保健室の音、聞き違いなんかじゃないよ」


京子「きっと、いままで手紙を送ってきた犯人と同じ」


京子「でも、部外者なら西垣先生のカメラに映ってるはず

   だよね」


京子「だとしたら・・・」


京子「あの手紙も、全部学校の誰かがやったってこと?」


――

京子「そ、そんなわけ・・・。でも、それ以外考えられな

   いし・・・」


京子「そもそも、なんで部外者がやったって思ってたん

   だろう・・・?」


『でも、知らないひとだったらどうするんですか。

 危ないですよ!』


京子「そうだ、ちなつちゃんが言い出したんだっけ。それに

   結衣も同調して・・・」


京子「・・・ちなつちゃん?」


京子「いつも私がベタベタするの、正直嫌がってたよね」


京子「私を困らせるために、あんなことを・・・?」


――

京子「いやいや、ちなつちゃんを疑うなんてどうかしてる

   よ!さっきだって私のこと心配してくれてたのに」


京子「そうだよ、ちなつちゃんじゃない・・・」


『あかり、先週から生徒会のお仕事を手伝ってるん

 だよぉ~。ごらく部にあんまり顔出せなくてごめん

 ね?』


京子「あかり、そういえばしばらくごらく部から離れてた

   よな・・・」


『うぅ~、会長さんなら優しいから、あかりの存在感

 の薄さをからかったりしないよぉ~』


京子「あかりも・・・あんまりいじるから内心では私の

   こと嫌ってたのかもしれないな」


京子「それに、最近やけに会長と仲がいいし・・・」


京子「会長があかりのために私に仕返しを・・・?」


京子「西垣先生も、まさか会長が犯人だなんて思わない

   だろうしな・・・」


――

京子「い、いけない。私、どうしてみんなのことを疑ったり

   してるんだろ。サイテーだよ・・・」


『と、歳納京子!』


『歳納京子さんへ』


京子「綾乃・・・?」


京子「そうだ、手紙のメッセージ・・・。私のことを

   フルネームで・・・」


京子「普段から私のことフルネームで呼んでるのは綾乃

   だけ・・・」


『だってさぁ、あの手紙がイタズラじゃなかったとし

 たら、ずっと相手を待たせてたわけじゃん?』


『私にゾッコンだとしたら、ちょっと可哀そうだった

 かな~』


『どしたの綾乃?何か元気ないよ』


京子「あ、綾乃・・・!」


――

京子「そうだよ、手紙を無視した次の日だ。綾乃が元気

   なかったのは・・・」


京子「綾乃・・・ずっと私を待ってたの?」


京子「綾乃が私のこと気にしてるのはわかってたけど、

   本当に私のことが好きだったの・・・?」


京子「後をつけられた日も、さっきの保健室でも、綾乃が

   いつもそばにいたよね・・・」


京子「綾乃なの?あんな怖いことしたの、綾乃なの?」ゾクッ



――

翌日 七森中 昼休み 2年生教室


京子「ねぇ、結衣・・・」


結衣「どうした京子?」


京子「話があるの。ちょっとごらく部まで来て」


結衣「なんだよ改まって。ここじゃだめなのか」


京子「ここじゃだめなの」チラッ


結衣「・・・わかったよ。あんまり時間とらないでくれよ」


綾乃「・・・・・」


――

ごらく部


結衣「で、いったいどうしたんだ?」


京子「結衣は・・・例の犯人誰だと思う?」


結衣「誰って言われても・・・。まだ捕まってないんだから

   わかるわけないだろ」


京子「私はね、綾乃だと思うの・・・」


結衣「はぁっ!?どういうことだ、それ」


京子「犯人は部外者じゃないよ。下駄箱のカメラには

   映ってなかったし」


結衣「で、でも。なんで綾乃が犯人になるんだ」


京子「だって、いろいろ不自然なんだもん。綾乃が犯人なら

   全部説明できるよ」


――

結衣「いいかげんにしろよ、京子!」


京子「ひっ!?」ビクッ


結衣「ご、ごめん大声出して・・・。でも、綾乃が犯人な

   わけないよ。あんなに京子のこと心配してたじゃな

   いか」


京子「・・・・・」


結衣「京子が不安なのはわかるよ。私も犯人は絶対許さない。

   でも、京子のことを心配してくれる仲間を疑うのはま

   ちがってると思う」


京子「結衣・・・」


結衣「綾乃は京子を傷つけるようなことは絶対にしない。

   それはっきり言える」


京子「ごめん、結衣・・・。私、不安で・・・。綾乃だけ

   じゃない。あかりやちなつちゃんまで疑ってたん

   だ・・・」


結衣「京子・・・」


京子「私のこと、嫌いになったよね・・・?」グスッ


結衣「そんなわけない」ギュッ


――

京子「結衣・・・!?//」


結衣「私が京子のことを嫌いになるわけないだろ。京子の

   ことを守るのは・・・私なんだから」


京子「ゆ、結衣ぃ・・・」ヒック


結衣「犯人はきっと捕まるよ。だから京子、もうみんなを

   疑ったりしないって約束してくれ」


京子「わかった・・・。約束する」



――

数日後 ごらく部


ちなつ「京子先輩、いまお茶淹れますね」


京子「ありがとう、ちなつちゃん」


ちなつ「今日はいつもとちがう茶葉にしてみたんです

    けど、どうですか?」


京子「おいしい!やっぱりちなつちゃんの淹れてくれる

   お茶は最高だなぁ」


ちなつ「ありがとうございます、京子先輩」


結衣「おっ、京子。もう来てたんだな」ガラッ


京子「わっ、どしたの結衣。その大荷物は」


結衣「京子のごらく部復帰記念だからな。お菓子を

   奮発したよ」


ちなつ「それにしてもけっこうな量ですね。結衣先輩、

    私も運ぶの手伝います!」


結衣「ありがとう。それじゃ、こっちのペットボトル

   のほうをお願いするよ」


京子「結衣、私のためにこんなに・・・」


結衣「なんだ、遠慮するなんて京子らしくないぞ。ほらっ、

   ラムレーズンもあるから」


――

あかり「みんなもう来てたんだ~」ガラッ


ちなつ「あかりちゃん、ナイスタイミング。もう少し

    遅れてたら京子先輩の復帰パーティー始まって

    たよ」


あかり「ひゃあ、あかりまた存在を忘れられるところ

    だったよぉ~」


京子「そんなことないって。あかりが来るまでちゃんと

   待ってるつもりだったよ」


結衣「それじゃあ、ごらく部全員集合ってことで乾杯し

   ようか」


ちなつ「はい、あかりちゃんもグラス持って。ぴっちょん

    オレンジでいいよね?」


あかり「ありがとう、ちなつちゃん。準備できたよぉ」


結衣「よーし、京子のごらく部復帰を祝って」


一同「かんぱ~い!」


――

京子「(ひさしぶりにごらく部に復帰した私を、みんな

   温かく迎えてくれた)」


京子「(それなのに、私はみんなを疑うようなことを

   したんだ)」


京子「(自分の臆病さが憎らしい。でも、あの不安な

   気持ちも本当なんだ)」


京子「(ごめんね、結衣。私、まだ心のどこかで引っか

   かってる)」


京子「(誰かが、私のまわりの誰かがやったんじゃない

   かって)」


――

翌日 七森中廊下  昼休み


京子「(もやもや、まだとれないな・・・)」


京子「(みんな私に優しくしてくれる。それはすごく

   嬉しい)」


京子「(でも、私は知りたい。本当のことを)」


京子「(そうじゃないと、この先もずっとこのまま

   だよ)」


京子「はぁ・・・、ひとりで考えてるとどうにかなり

   そう」


京子「でも、結衣に相談したらまた怒られるだろうし」


京子「誰かに相談したいな・・・」


――

櫻子「捜査の基本は張り込み!張り込みといえばあんぱん

   に牛乳!つーわけで向日葵、買ってきて!」


向日葵「まだ続けていましたの?いい加減諦めなさいな」


櫻子「うっさい!超天才探偵櫻子様にかかれば、どんな

   悪党もお縄につくんだい!」


向日葵「そんなに大声を出してたら張り込みの意味が

    ありませんわ」ハァ


櫻子「あっ・・・。こ、これは!犯人を油断させるため

   なの!」


――

京子「(櫻子ちゃんにひまっちゃん・・・)」


京子「(そうだ、ひまっちゃんに頼むのはありかも)」


京子「(結衣には相談できない。ちなつちゃんやあかり

   に相談しても、たぶん結衣に言うだろうし)」


京子「(綾乃にはもちろん相談できない)」


京子「(でも、ひまっちゃんなら結衣に話が伝わる

   可能性はないだろうな)」


京子「(綾乃とは生徒会でつながりがあるけど、綾乃が

   誰か他に協力させてるなら、きっと千歳のはず)」


京子「(ひまっちゃんなら、櫻子ちゃんとちがって口も

   固いだろうし)」


京子「(とにかく、このまま一人で抱え込むよりはよく

   なるはず・・・)」


――

櫻子「あーもうッ、向日葵のせいで集中力切れたー。

   これからは単独捜査に切り替える!」


向日葵「勝手にやってなさい。でも、学校の中だけに

    しなさいよ。外でうろうろしてたら危ないで

    すわ」


櫻子「そんなこと言われなくてもわかってる!」プイッ


――

向日葵「行ってしまいましたわ。まったく櫻子は・・・」


京子「古谷さん、ちょっといいかな?」


向日葵「歳納先輩。どうかなされました?」


京子「今日の放課後、時間あるかな。少し話があるんだ」


向日葵「放課後ですか?今日は生徒会の仕事もないので

    大丈夫ですけど」


京子「そっか、それならよかった。私の家まで来てもらえる

   かな」


向日葵「えぇ、かまいませんけど。お話でしたら私がごらく

    部まで参りますが」


京子「いや、古谷さんと二人で話がしたいんだ。面倒かけて

   悪いけど、私の家まで来てほしいんだ」


向日葵「そ、そうですか」


京子「あ、あと私の家に来ることは誰にも言わないで。櫻子

   ちゃんにもだよ」


向日葵「わかりましたわ」


――

京子「それじゃ、放課後に迎えに行くからよろしくね」


向日葵「はい、待っていますわ」


向日葵「(歳納先輩、急に改まってどうしたのでしょう)」


向日葵「(いつもの軽い感じではありませんわ)」


向日葵「(二人っきりで話だなんて・・・。ま、まぁ

    滅多なことは起きませんわよね//)」



――

放課後 2年生教室


結衣「えっ、今日は部活に来ないのか」


京子「うん。家のことで用事があって」


結衣「でも、まだ一人で帰るのは止めておいたほうが

   いいぞ」


京子「大丈夫!今日はちょうどひまっちゃんと帰るから」


結衣「古谷さんと?」


京子「生徒会も今日は休みみたいでね。さっき頼んで

   きちゃったよ」


結衣「そうか。まぁ、古谷さんが一緒なら大丈夫かな」



――

1年生教室


京子「古谷さん、お待たせ」


向日葵「あ、あの歳納先輩」


京子「どうかした?」


向日葵「櫻子が私と一緒に帰るといって聞かなくて」


京子「そ、そうか~」


向日葵「歳納先輩、ひとまず櫻子もいれて帰りましょう。

    櫻子と別れてから、私が歳納先輩のお宅へお邪魔

    しますわ」


京子「それがいいね。もし場所がわからなくなったらメール

   してよ」


向日葵「わかりましたわ。ご迷惑おかけして申し訳ありま

    せん」


櫻子「おーい向日葵、早く帰るぞー!」



――

通学路


櫻子「それでさぁ、今日もあかりちゃんがさぁ」ペラペラ


向日葵「・・・・・」キョロキョロ


櫻子「こら、おっぱい!シカトするな!」


向日葵「櫻子、少し黙ってなさい。気が散りますわ」


櫻子「な、なんだよそれ!」


向日葵「もう忘れましたの?例の不審者はまだ見つかって

    ないのですよ。あなたも周りの安全くらい確認しな

    さいな」


櫻子「あ、そっか。大丈夫ですよー歳納先輩!不審者なんか

   私の空手チョップで一撃ですから!」チョップ


京子「あはは・・・ありがとう大室さん。頼りにしてるよ」


櫻子「私がついてるからには、泥船に乗ったつもりでいて

   ください!」


向日葵「それじゃ沈みますわよ、バカ娘」



――

京子宅前


京子「それじゃ二人ともまた明日ねー」


櫻子「はーい!お疲れ様でーす!」


向日葵「歳納先輩、それではまた」チラッ


京子「それじゃーねー」コクッ


櫻子「・・・?」


――

櫻子宅前


櫻子「向日葵ー、今から遊びに行くからお菓子用意

   しといて」


向日葵「今日は用事がありますの」


櫻子「は?そんなの聞いてないし!」


向日葵「聞かれませんでしたから」


櫻子「櫻子様の命令が聞けないのかー!」ムキーッ


向日葵「とにかく、今日は忙しいのです。あなたに

    構っているひまはありません」


櫻子「やだー!向日葵と遊ぶったら遊ぶー!」ゴロゴロ


花子「櫻子、うるさいし。玄関で騒ぐなし」ガラッ


櫻子「あっ・・・」ピタッ


――

花子「何してるし。まるで子どもだし」

      

櫻子「う、うるせー!//」


花子「どうせまたひま姉に迷惑かけてたんだし」


櫻子「だって向日葵が私の命令聞かないんだもん!」ジタバタ


花子「はぁ・・・、こんなバカが自分の姉だと思うと

   恥ずかしいし。ひま姉とチェンジしたいし」


向日葵「私はそろそろ行きますわ。櫻子、あまり花子ちゃん

    の手を煩わせてはいけませんよ」


花子「ほら、櫻子。早く家に入るし」ズズッ


櫻子「こらー!櫻子様を引きずるなー!」ジタバタ



――

京子宅前


ピンポーン


京子「はい」ガチャ


向日葵「遅くなって申し訳ありません」


京子「いや、大丈夫だよ。いま鍵開けるから待って

   ててね」



――   

京子の部屋


向日葵「失礼しますわ」


京子「少し散らかってるけどごめんね~」


向日葵「それで、歳納先輩。大事なお話というのは」


京子「あぁ、そうだったね。こんなこと相談できるの、

   古谷さんしか思いつかなくて・・・」


向日葵「私でよければお話ください」


京子「古谷さん、さっきも話に出てたけど、例の不審者

   騒動はもちろん知ってるよね」


向日葵「え、えぇ。知っていますけど」


京子「あれ、狙われたの私なんだ」


向日葵「えっ!?」


――

京子「意外だった?」


向日葵「は、はい。先ほどご一緒したときもそうでしたが、

    特に不安げな感じはお見受けしませんでしたので」


京子「今はね。私も最初はすごく怖かったよ。まぁ、事の

   発端から話したほうがいいかな」


――

京子「・・・長くなったけど、だいたいこんな感じかな」


向日葵「概要はわかりましたわ。ところで歳納先輩、どう

    してそれを私に?」


京子「古谷さんなら相談できるかなーって」


向日葵「ですが、学校のほうでもう対策はしてますわ。

    それに、相談であれば私より船見先輩や赤座さん

    にしたほうがよろしいのでは。その、私を信頼して

    いただいたのは嬉しいですが」


京子「・・・鋭いね。やっぱり古谷さんに相談して正解

   だったよ。実はこの話には続きがあるんだ」


――

京子「・・・というわけなんだ」


向日葵「つまり、歳納先輩は部外者ではなく、七森中の

    誰かが犯人であると?」


京子「そういうことになるね。古谷さんはどう思う?

   全部私の妄想だって思うかな」


向日葵「いいえ、そうは思いませんわ。下駄箱のカメラ

    という動かぬ証拠もありますし。少なくとも、

    保健室での一件については外部犯ではなさそう

    ですわね」


京子「・・・・・」


向日葵「歳納先輩?」


京子「あぁ、ごめん。すごく嬉しくて・・・。その、私の

   こと信じてくれて」


――

京子「結衣に同じこと話したら、友だちを疑うなんて最低

   だって言われて・・・」


向日葵「歳納先輩・・・」


京子「私もみんなのこと信じたいよ。でも、いったん不安に

   なると、自分じゃどうしようもできないんだ」


京子「古谷さんにも・・・綾乃のことを疑ったなんて言った

   ら、口も聞いてもらえないかもって思ったりもしたよ」


向日葵「歳納先輩、ずっと一人で抱え込んでいたのですね」


京子「うん。でも、古谷さんに話を聞いてもらえて、信じて

   もらえて・・・すごく楽になったよ」


――

京子「今日はありがとう。わざわざ来てもらって」


向日葵「いえ、少しでもお役にたてたのなら幸いですわ」


京子「気持ちがすっきりしたよ。古谷さんに相談できて

   よかった」


向日葵「私も歳納先輩から信頼していただけて光栄ですわ」


京子「それじゃあ、また明日学校でね」


向日葵「えぇ、それではまた」



――

翌日 放課後 生徒会室


櫻子「・・・・・」ムスーッ


向日葵「いい加減、機嫌なおしなさいよ・・・」


櫻子「うっさい、いま仕事中。しっかり仕事して私が

   次期副会長になるの。そしたら公約で向日葵を

   七森中から追放する」


向日葵「はぁ・・・」


櫻子「・・・・・」モクモク


綾乃「あの、大室さん。頑張って仕事してもらえるのは

   嬉しいけど、少し休憩したらどうかしら。今日は

   働きづめよ」


櫻子「いえ、私は向日葵とちがって責任感が強いですから。

   仕事はきっちりやり遂げます」


綾乃「そ、そう・・・」


りせ「・・・・・」


――

櫻子「ふんぬっ!」


向日葵「それ、一人で運ぶのは無理ですわよ」


櫻子「向日葵なんかに手伝ってもらう気はないからっ!」ググッ


向日葵「いつまで意地を張っているのですか・・・」


櫻子「うっぐぅ~、あっ」ヨロッ


ドシャーン


――

櫻子「いたた・・・」


向日葵「櫻子、大丈夫ですの!?」


櫻子「ひ、向日葵なんかに心配してもらわなくていい!」


向日葵「何を言っているのです。あぁもう、腰を打ったん

    じゃありませんの?」


櫻子「なんだよ、冷たくしたり優しくしたり・・・」


向日葵「あなたに冷たい態度をとる気なんかありませんわ。

    昨日は本当に用事があったんですの」


櫻子「・・・だったら今回だけ許してやる」


向日葵「まったく櫻子は・・・」


綾乃「どうやら一段落ついたようね」ホッ


――

りせ「・・・・・」ヒロイヒロイ


千歳「大室さんにケガがなくてよかったけど、こりゃ

   片付けに一手間かかりそうやなぁ~」


散乱したプリントの山「ドーン」


櫻子「す、すみません」


綾乃「みんなでやれば何とかなるわ」


向日葵「ほら櫻子、さっさと片付けますわよ」


櫻子「はーい・・・」


――

櫻子「あれ、何だこれ?」


向日葵「どうかしましたの」


櫻子「何か変な手紙があるー!うわっ、キモい内容。

   ストーカーじゃん」


綾乃「あぁ、それは歳納京子に送られたストーカーの

   手紙よ」


櫻子「へっ?あっ、ほんとだー。歳納先輩宛てになってる!」


向日葵「(これが歳納先輩に送られた手紙・・・)」


綾乃「職員室に見せにいくときにコピーをとっておいたのよ」


櫻子「ってことは、例の不審者騒動の被害者は歳納先輩

   だったんですか!?」


綾乃「ええ、そうよ。でも、言いふらさないようにね」


――

櫻子「ふいー、やっと片付いたー」


綾乃「けっこう時間がかかっちゃったわね。今日はこれで

   終わりにしましょうか」


櫻子「杉浦先輩、戸締りは私がしますから」


綾乃「いいの、大室さん?」


櫻子「私のせいで片付けに時間がかかったわけですし、

   そのくらい私にさせてください!」


綾乃「そう、それじゃお願いするわね」


――

櫻子「それでは先輩方、お疲れ様でしたー!」


向日葵「珍しいですわね、あなたが率先して仕事を

    引き受けるなんて」


櫻子「ふっふっふ、これにはワケがあるのだよ」ジャーン


向日葵「それ、歳納先輩宛ての手紙ですわよね」


櫻子「そう!物的証拠が手に入った以上、名探偵櫻子様の

   出番だ!」


――

向日葵「(そういうわけでしたの。まぁ、これは私にとって

     も好都合ですわね)」


向日葵「櫻子、私にも見せてくださいな」


櫻子「いいよー。我が忠実なる弟子、向日葵よ」ホレッ


向日葵「なるほど、現物はこんな感じだったのですね」


櫻子「こんな妄想めいた文章を書くということは、ずばり

   犯人は異常者である!歳納先輩に一目ぼれしたどこか

の変質者が学校に忍び込んで届けたんだ!」


向日葵「当たらずとも遠からずってとこでしょうか」


櫻子「へっ?どう考えても私の考えで間違いないでしょ!」


――

向日葵「(そういえば櫻子は詳しい事情は知らなかったので

     したわ。櫻子はおしゃべりだから教えるのは気が

     引けますが・・・)」


向日葵「櫻子、大事な話なのでよくお聞きなさい」


櫻子「な、なんだよ急に改まって」


向日葵「私はあなたのことを信頼しています。ですから、今

    から話すことは絶対に誰にも話してはいけません」


櫻子「う、うん・・・」


向日葵「信じていますからね、櫻子」


櫻子「わ、わかった!約束する!向日葵との約束は

   絶対守る!」


向日葵「そう言ってくれると思ってましたわ。それでは、

    話しますからね」


――

向日葵「・・・かいつまんで言えば、以上です」


櫻子「そ、それじゃ杉浦先輩たちが犯人かもしれないって

   こと・・・!?」


向日葵「あくまでその可能性もあるというだけです。私も

    最初は外部犯としか思っていませんでしたけど」


向日葵「歳納先輩から聞いたカメラの話、それにこの

    手紙を見て内部犯の可能性は高まりましたわ」


櫻子「この手紙で?で、でも証拠になりそうなのは何も

   ないよ」


向日葵「一つずつ説明しますわ」


――

向日葵「まず、手紙の文章はどちらもパソコンで打って

    ありますね」


櫻子「うん」


向日葵「吉川さんと船見先輩は、ラブレターを手書きでは

    なくパソコンで打ったことを不審に思っていまし

    た。そこから、櫻子がさっき言ったように異常者

    の線を疑ったのです」


櫻子「そうだね」


向日葵「ですが、こうも考えられませんか。犯人が歳納

    先輩の身近な存在だとしたら・・・手書きの場合

    すぐにわかってしまう可能性があります」


櫻子「あっ・・・」


向日葵「パソコンで打てば、筆跡はわかりませんからね」


――

向日葵「手紙での歳納先輩の呼び方もここに関係しますわ」


櫻子「歳納京子って書いてたよね。杉浦先輩がいつもそう

   呼んでるけど・・・」


向日葵「歳納先輩もそれで杉浦先輩を疑ってましたね。とこ

    ろで、櫻子。櫻子はいつも歳納先輩をなんて呼びますか」


櫻子「へ?私は歳納先輩って呼ぶけど。それがどうかしたの」

   

向日葵「そうですね。私も歳納先輩と呼びますわ。他の

    みなさんはどうでしょう」


櫻子「杉浦先輩は歳納京子って呼んでるでしょ。あと、池田

   先輩は歳納さんって呼んでる」


向日葵「赤座さんは京子ちゃん、吉川さんは京子先輩と

    呼んでいますね。船見先輩は京子って呼んでいま

    したわ」


櫻子「だけど、それって何か関係があるの」


向日葵「呼び方が分かれるのですよ。歳納先輩の身近な

    方々で。あえてフルネームで書いたのは、呼び方

    から身元が割れるのを防ぐためだとは思いません

    か?」


櫻子「なるほどー」


向日葵「文章がやけに短文になっているのも、手紙に自分

    のくせが表れないようにするためだと思うのです

    よ」


――

向日葵「それに、この手紙にはとても不自然なところがあり

    ますわ」


櫻子「不自然?んー、わからない・・・」


向日葵「主語が一度も出てこないのですよ」


櫻子「しゅご?」


向日葵「普通なら、『私は』いつも見ていますとか、

    『私は』諦めませんと書くでしょう」


櫻子「ほんとだっ。だから変な感じがしたのかー」


向日葵「ここまで不自然にしたのは、徹底的に自分の

    くせが文章に出てこないようにするためだ

    と思いますの」


櫻子「だから身近な誰かが犯人ってことか・・・」

    

――

向日葵「もう遅いですわね。櫻子、早く帰りましょう」


櫻子「ねぇ、向日葵は杉浦先輩が犯人だと思う?」


向日葵「私は・・・そうは思えません。仮に杉浦先輩が

    犯人だとしたら、先ほどの手紙が出てきたときに

    少しは慌てると思いますし。そもそも、手紙の

    コピーを生徒会室に置いたままなんてことはしない

    はずですわ」


櫻子「そうだよね・・・」


――

翌日 昼休み 廊下


櫻子「ふわ~あ、何か眠い。もう帰りたいな~」


あかり「まだ午後の授業があるよぉ」


綾乃「あら、大室さんに赤座さん」


櫻子「す、杉浦先輩!こんにちは」


綾乃「どうしたの、なんだか慌てているわ」


櫻子「き、気のせいですよ。あははっ」



――

1年生教室


櫻子「(向日葵は杉浦先輩が犯人じゃないって言ってた

    けど、けっこう怪しいんだよなぁ)」


櫻子「(歳納先輩がストーカーにつきまとわれたとき、

    必ず杉浦先輩が近くにいたわけだし・・・)」


あかり「どうしたの、櫻子ちゃん?何か考え事?」


櫻子「(そういえば、あかりちゃんはしばらく生徒会の

    仕事を手伝ってたんだよね。何か杉浦先輩に

    関係しそうなこと見たり聞いたりしてないかな)」


櫻子「ねぇ、あかりちゃん。最近、杉浦先輩の様子が

   おかしかったとかない?」


あかり「え、杉浦先輩が?」


櫻子「うん。どんな些細なことでもいいから」


あかり「う~ん、特にないと思うよぉ。あっ、でも

    一回だけ杉浦先輩がすごく落ち込んでたときが

    あったよ」


櫻子「そうそう、そういうのが聞きたかったの!」


――

櫻子「(向日葵が歳納先輩から聞いた話だと、確か

    手紙が来た次の日に杉浦先輩が落ち込んで

    たんだよね)」


櫻子「(目撃証人を見つけたなんて言ったら、向日葵も

    びっくりするぞー)」ニヤニヤ


櫻子「あかりちゃん、その話詳しくお願い」


あかり「えっとね、あかりがお手伝いするために生徒会室

    に入ろうとしたときなんだけど、中から杉浦先輩

    と池田先輩が話してるのが聞こえて」


櫻子「ふむふむ」


あかり「あかり、そんなつもりはなかったんだけど、つい

    ドアの前で立ち聞きしちゃったんだよぉ」


櫻子「それでそれで?」


あかり「その日、杉浦先輩は一日中元気がなかったみたいで、

    池田先輩が心配して理由を聞いてたんだ。そうしたら

    理由が京子ちゃんと関係してたって」


――

櫻子「(おおーっ、これって決定的証拠になるんじゃない

    の!?見てろよ、向日葵ー!)」


櫻子「そ、それで歳納先輩がどう関係してるの!?」


あかり「その、杉浦先輩は京子ちゃんにプレゼントをしよう

    と思ってできなかったみたいだよぉ」


櫻子「(プレゼント?そっか、手紙で呼び出して何か渡す

    つもりだったんだ!なんだろう、結婚指輪とか?)」


櫻子「杉浦先輩は何をプレゼントするつもりだったの?」


あかり「プリンだよぉ」


櫻子「ぷ、プリン!?」ガクッ


――

あかり「杉浦先輩、『グルメポン』っていう格安通販

    サイトで有名店のプリンを買って京子ちゃんに

    プレゼントしようとしたみたいなんだけど」


あかり「届いてみたらサンプルと全然ちがって、とても

    プレゼントできるような感じじゃなかったん

    だって」


あかり「そんな風に池田先輩に嘆いてたよぉ」


櫻子「そ、そうだったんだ・・・」


櫻子「(杉浦先輩はシロなのかなぁ?)」 


――

放課後 図書室前


櫻子「向日葵ー、こんなとこで何すんの」


向日葵「櫻子、今から図書室に入ってもらいますわ」


櫻子「なんで?」


向日葵「訳は後で話します。中に船見先輩がいますから、

    櫻子は近くで先輩のことを見ていてください」


櫻子「わかったよ」


向日葵「5分ほどしたら戻ってくるのですよ」


櫻子「りょーかい。それじゃ行ってくる」テクテク


向日葵「これでよし、と」ピポパ


向日葵「もしもし、歳納先輩ですか?先ほどのお話どおりに

    お願いします」


――

5分後


櫻子「向日葵ー、戻ったぞー」


向日葵「お疲れ様です、櫻子」


櫻子「何も変わったことはなかったけど、結局何だった

   わけ?」


向日葵「何もなくていいのですよ」


櫻子「どうゆうこと?」


向日葵「櫻子が船見先輩の近くに待機した後、私のほうから

    歳納先輩に連絡を入れましたの」


櫻子「歳納先輩に?」


向日葵「えぇ、船見先輩の携帯電話に連絡を入れてほしいと」


――

向日葵「櫻子、船見先輩の携帯電話は鳴りましたか?」


櫻子「ううん。バイブ音もしなかったよ」


向日葵「つまり、船見先輩は携帯電話の電源を切っていたと

    いうことですわ」


櫻子「でも、それがどうかした?図書室なんだから電源を

   切るのが当たり前なんじゃない?」


向日葵「そのとおりですわ。ですが、そうなると一つ

    おかしなことになりますの」


櫻子「へっ?」


向日葵「思い出してみなさい、櫻子。歳納先輩が放課後に

    後をつけられたとき、船見先輩は課題のために

    図書室にいたのですよ」


櫻子「そうだね」


向日葵「そして、歳納先輩と会った杉浦先輩が船見先輩に

    電話をかけた」


櫻子「あっ・・・!」


向日葵「もうわかりましたね。船見先輩は電話に出たので

    すよ。すぐに」


櫻子「ほんとだ・・・。電源を切ってるからわからないは

   ずなのに」


向日葵「つまり、船見先輩は図書室にはいなかったと考え

    るのが妥当ですわ」


――

櫻子「そ、それじゃあ犯人は船見先輩・・・?」


向日葵「可能性は一番高いですわ。杉浦先輩だけでは

    ありません。船見先輩も歳納先輩に何か起きた

    ときには必ず近くにいましたわ」


向日葵「おそらく、船見先輩は歳納先輩の後をつけて、

    杉浦先輩からの電話があってから駆け付けた

    ように見せたのですわ」


櫻子「保健室のときは・・・?」


向日葵「あのとき、杉浦先輩は歳納先輩の分の荷物も

    持って保健室に行きましたわ。その間に船見

    先輩が先回りすることは十分可能です」


向日葵「それに、歳納先輩が手紙を見つけたときは、

    ちょうど船見先輩が一緒にいないときなの

    ですよ」


向日葵「部外者の犯行と考えたのは吉川さんだけでは

    ありません。むしろ船見先輩のほうが誘導し

    ていますわ」


向日葵「内部の犯行と歳納先輩が考えたときもきつく

    否定していますし」



――

通学路


櫻子「やっぱり、船見先輩がやったのかな・・・」


向日葵「断定はできませんわ。あくまで情況証拠しか

    ありませんし」


向日葵「それに、動機がありません。こんなことをしても

    船見先輩には何のメリットもありませんから」


櫻子「そうだよね。私も、船見先輩がこんなことをした

   なんて信じたくないよ」


向日葵「これ以上調べても特にわかることはなさそう

    ですし、私たちの探偵ごっこもこのあたりで

    終わりにしましょう」


櫻子「うん。調べていくうちに、なんだか怖くなってくる

   よ。」


向日葵「すべてを知ることが最善とはいえませんわね」


櫻子「もう家か・・・。それじゃ向日葵、また明日」


向日葵「櫻子、少し元気がありませんわよ。今日は早く

    休みなさい」


櫻子「そうする・・・」



――

大室家 リビング


櫻子「はぁ~」グダ~


撫子「櫻子、ぐだぐだするなら自分の部屋に行きな」


櫻子「なんだよねーちゃん、実の妹にそんな言い方ない

   だろー」ブーブー


撫子「妹は花子だけで十分だよ」


櫻子「ひどっ!?」


撫子「早く行った行った。私は本を読むのに忙しいんだ」


――

プルルル


撫子「もしもしー?あぁ、いまヒマだよ。どしたの、

   急に電話してきて」


櫻子「なんだよ、本読むんじゃないのかよ」ボソッ


撫子「あぁ、こないだ話してたあれね。確か部屋に

   閉まってあったと思うけど」


櫻子「行ったな・・・」


櫻子「へへーんだ。櫻子様を邪険に扱った罰だ!しおり

   の位置変えちゃおーっと」ヒョイ


――

櫻子「それにしてもねーちゃん、どんな本読んでるんだろ」


櫻子「なになに、世界の異常犯罪者大辞典?」


櫻子「なんでこんなもん読んでんだよ・・・」ペラペラ


櫻子「あっ・・・」


櫻子「これってもしかして・・・」


――

撫子「櫻子、何してるんだ。さてはろくでもないイタズラ

   しただろ」


櫻子「ち、ちがうって!それよりねーちゃん、この本

   少し貸して!」


撫子「櫻子、そういう趣味だったの?」


櫻子「だからちがうって!と、とにかく借りるからね」


――

櫻子「おーい、向日葵!」


向日葵「櫻子?今日は休んでなさいと言ったでしょう」


櫻子「これ、ちょっとこれ見てみて!」


向日葵「なんですの?」


櫻子「これなら説明できるよ!」


向日葵「・・・!確かにこれなら説明がつきますわ」



――

数日後 放課後 下駄箱


京子「おっ、ひまっちゃんに櫻子ちゃん!」


向日葵「歳納先輩。今から帰りですか?」


京子「今日、久しぶりに結衣のうちに泊まるんだ。

   なんてったって第2の我が家だからね。今

   からわくわくが止まらないよ!」


向日葵「歳納先輩、お元気そうで何よりですわ」


京子「ひまっちゃんのおかげだよ!心につっかえてた

   モヤモヤがとれてすっきりしたよ」


櫻子「いや~、うちの向日葵でも役に立てて光栄です!」


向日葵「あなたのものではありませんわ」


――

結衣「京子、待ったか?」


京子「結衣、早く帰ろうよ!結衣のうちでラムレーズン

   食べたい!」


結衣「おまえはいつもそれだな」クスッ


向日葵「先輩方、それでは私たちはこのへんで」


京子「おうっ、達者でね!」


――

通学路


櫻子「これでよかったのかな?歳納先輩に何も伝えなくて」


向日葵「たとえ伝えても、歳納先輩が混乱するだけですわ。

    歳納先輩は船見先輩のことを少しも疑っていません

    でしたし」


櫻子「もし、何かあったらどうしよう・・・」


向日葵「信じるしかありませんわ、船見先輩を」


――

向日葵「(櫻子が持って来た本)」


向日葵「(世界の異常犯罪者大辞典というおどろおどろしい

     タイトルのその本には)」


向日葵「(代理ミュンヒハウゼン症候群という病気に

     ついて書かれていた)」


向日葵「(ある看護師は、病気に苦しむ患者を助けたいと

     いう思いが高じて、自らの手で患者に劇薬を

     投入)」


向日葵「(何食わぬ顔で、必死になって治療しようと

     していた)」


向日葵「(ある母親は、病弱な娘を看病する健気な母を

     演じるために、自らの手で娘を罹患させて看病

     に励んでいた)」


向日葵「(すべては、理想の自分を演じきるために。その

     ためには、大切な存在を自ら傷つけることも

     ためらわない)」


向日葵「(船見先輩が同じ症状だという証拠はどこにも

     ない)」


向日葵「(ただ、船見先輩が幼馴染の歳納先輩を守る

     自分を演じようとしていたら)」


向日葵「(説明に矛盾はない。ただそれだけのこと)」


――

櫻子「私には理解できないな。大切なひとを自分の

   手で傷つけるなんて・・・」


向日葵「櫻子は優しいですからね。船見先輩の想いも

    きっと偽りではないと思いますわ」


向日葵「ただ、その方向がどこか歪んでしまっただけだと

    思うのです」


櫻子「歳納先輩に何かあったら、私たちが船見先輩を

   問い詰めることになるの・・・?」


向日葵「そうなりたくはありませんわね。私は、今でも

    船見先輩を信じたいですわ」



――

結衣のアパート


京子「祖国よ、私は帰ってきた!」


結衣「いつからおまえの祖国になったんだ」


京子「ほんと久しぶりだなぁ。いっつも結衣のうちに

   来てたのに・・・」


結衣「まあな。あんなこともあったし」


京子「でもさ、結果オーライだと思うんだ」


結衣「なんで?」


京子「だってさ、みんなの優しさが身に染みてわかったん

   だもん。私が気付いてないだけで、みんな私のこと

   を心配してくれて・・・すごく嬉しかった」


結衣「そうだな」


京子「それに・・・私には結衣が必要だよ。小さいとき

   から、ずっと私のことを守ってくれてたんだ」


結衣「京子・・・」


京子「これからも私のこと守ってね、結衣」ギュッ


結衣「あぁ、約束するよ・・・」


京子「えへへ、嬉しいのになんだか涙が出てくる・・・」


――

結衣「京子は変わってないな。すぐに泣くんだから」


京子「でも、私が泣いてるときはいつも結衣が来てくれる。

   いつでも一緒にいてくれる」


結衣「私にはそれくらいしかできないからな」


京子「結衣・・・大好きだよ」


結衣「京子・・・」


――

京子「泣いたらおなかすいちゃった」


結衣「まだ夕飯まで時間あるぞ」


京子「ラムレーズン食べたい」


結衣「仕方ないな。1個だけにするんだぞ」


京子「やったー!」


――

結衣「(京子、大丈夫だよ。京子のことは私が守る)」


結衣「(これからもずっと、私が守る)」


結衣「(きっとうまくいくよ。だって)」


結衣「(今回だってうまくいったんだから)」ニヤリ


おわり


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SS好きの名無しさんから
2022-04-07 22:52:45

バードンさんから
2015-07-30 14:11:28

SS好きの名無しさんから
2015-03-18 13:43:37

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-: - 2015-11-24 22:53:41 ID: -

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-: - 2015-11-27 12:22:34 ID: -

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-: - 2015-12-06 01:38:22 ID: -

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-: - 2015-12-06 12:27:47 ID: -

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39: SS好きの名無しさん 2015-12-20 00:52:53 ID: nVF6phAc

40: SS好きの名無しさん 2018-03-02 17:31:09 ID: wdQKAFE0

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