2015-02-06 21:51:07 更新

放課後 1年生教室


櫻子「あかりちゃん、ちなつちゃん。今日は天気もいいし、どっかで

   パーっと遊ぼうよ!」


あかり「ごめん、櫻子ちゃん。今日はあかり用事があって早く帰らなきゃ

    いけないんだよぉ」


櫻子「えぇーッ!?これだけの遊び日和なのに…。ちなつちゃんは?」


ちなつ「私も今日は用事があって…」


櫻子「そんなー!?こんなのってないよ!二人とも示し合わせてどっかに

   遊びに行くんじゃないの?」


あかり「あかり、今日はお姉ちゃんと一緒にお夕飯を作るんだ。お姉ちゃんの

    お友達さんが遊びに来るから、張り切って準備するよぉ」


ちなつ「私もお姉ちゃんと一緒に出かける予定があってね」


櫻子「うぅ~楽しそうでいいなぁ。うちなんか冷たいねーちゃんしかいないし…」


――

向日葵「櫻子、そもそも今日は生徒会の仕事がありますわよ」


櫻子「へっ?そうだっけ」


向日葵「責任感がなさすぎますわ…」


櫻子「ちょっと忘れてただけだって!さぁ、未来の副会長は仕事仕事~♪」ダッ


向日葵「調子がよすぎですわ…」


――

櫻子「向日葵、早くしろよー。置いていくぞー!」


向日葵「あなたに急かされなくてもわかっていますわ!」


櫻子「そんなジャマなおっぱいを付けてるから動きが

   トロいんだよ!」ワーワー


向日葵「胸は関係ありません!」ギャーギャー


ちなつ「相変わらず仲いいよね、二人とも」


あかり「ケンカするほど仲よしさんだよぉ」


――

階段


櫻子「だいたいさぁ、向日葵はいっつもあーだこーだ

   うるさいんだよ」


向日葵「あなたがやかましいから注意してるだけですわ」


櫻子「うっさい!櫻子様に説教するな!ガミガミおっぱい!」


向日葵「本当にもう、あなたってひとは…」フラッ


櫻子「!?向日葵危ないっ!」ガシッ


――

向日葵「あっ…」


櫻子「こ、こんなところで急にふらつくなよ!」


向日葵「すみません、少し眩暈が…」


櫻子「わかった!さてはまたダイエットしてるんだろ!」


向日葵「ち、ちがいますわ!?」ギクッ


櫻子「ウソだ。だって今日、昼ごはんのときにいなかったし」


向日葵「そ、それは…」


櫻子「ウソついてるときの眼だ。昔っからの仲だからわかるん

   だよ」


――

向日葵「参りましたわ…」


櫻子「ったく、ダイエットなんてバカなこと考えるなよ」


向日葵「そんなこと言ったって…」


櫻子「もしさっき倒れて頭でも打ってたら、どうなってたと

   思うんだ」


向日葵「…」


櫻子「みんな心配するぞ。楓にも心配かけるのか?」


向日葵「わ、わかりましたわ。ダイエットはもう止め

    ます…」


櫻子「それでよろしい」


――

櫻子「それじゃ、ちょっくら購買寄るかー」


向日葵「えっ、今から生徒会でしょう?」


櫻子「あのさぁ、そんなロクに食べてない状況で仕事できる

   と思ってるわけ?」


向日葵「そ、そうですわね…」


櫻子「向日葵がこんな状況じゃ、私も張り合いがないからさ」


――

向日葵「あの、櫻子…」


櫻子「なに?まだなんかあるわけ?」


向日葵「さっきは…ありがとうございます。とっさに手を

    伸ばしてくれなかったら、ケガをしていましたわ」


櫻子「そ、そんなのトーゼンのことをしたまでだしっ!」


向日葵「ですが、少し力が強すぎますよ?あなたの掴んだ

    部分、アザになってしまいましたわ…」ジンジン


櫻子「ご、ごめん…」


――

生徒会室


綾乃「もうすぐ文化祭が近いわね。生徒会も準備に

   関わるから、これから忙しくなるわよ」


櫻子「はーい!頑張りまーす!」


千歳「大室さん、えらいやる気やなぁ。頼もしいわ」


櫻子「なんてったって、次期副会長ですから!」


りせ「…」


奈々「やる気のある後輩がいて頼もしい、と松本は言って

   いる」


――

綾乃「西垣先生、いつの間に…」


奈々「今日は文化祭関連の話をするのだろう?当日の

   ステージ時間を少しばかり拝借しようと来たわ

   けだ」


綾乃「ステージって、何をするつもりですか?」


奈々「それはもちろん、最先端科学によるばくは…」


綾乃「却下します」キッパリ


奈々「そう固いことを言うな。日頃から学校に尽くしている

   奈々ちゃんのためにも、と松本も言っている」


りせ「…」フリフリ


綾乃「ねつ造はダメです」


――

綾乃「そんなことより、ステージ関連の仕事は生徒会にも

   まわってきてるわ。今日はそのための準備に使います」


綾乃「出演希望の対応は千歳にお願いするわ。毎年、締切

   ギリギリでの応募があるから、そこらへんは適宜

   うまくやってもらえないかしら」


千歳「わかったわ~」


綾乃「あっ、それと一応ごらく部みたいな非正規のところに

   も声はかけておいてね。その、歳納京子のことだから

   何かやりたがるかもしれないし…//」


千歳「うちに任せといてや~」ダラダラ


向日葵「先輩、もう鼻血が…」


――

綾乃「古谷さんは、去年までの資料を整理してもらえる

   かしら。だいたい、スケジュールや出し物は例年

   どおりになるだろうから、今のうちにチェックで

   きるようにしておいたほうがいいわ」


向日葵「かしこまりました」


綾乃「会長もお願いしますね。これまでの資料もファイ

   リングするとなると、分量も多いと思いますし」


りせ「…」コクリ


櫻子「せんぱーい、私には何かないですか!」


――

綾乃「それじゃあ…ちょっと手間だけどお願いしてもいいかしら」


櫻子「はい、やります!何でも言いつけてください!」


綾乃「文化祭で使う照明が屋上の倉庫にあるはずなの。

   それを確認してきてもらえないかしら」


櫻子「了解です!」


綾乃「去年使った分は体育館横の倉庫に入れてあるんだけど、

   屋上倉庫にもあるそうなのよ。ステージを盛り上げる

   ためにも、もう1個が必要なのよね」


櫻子「わかりました!それじゃ行ってきまーす!」


綾乃「ちょっと待って!屋上と倉庫の鍵は職員室にあるから

   先にそっちに寄ってね」


櫻子「おーとっと、聞き忘れるところだった!」


向日葵「櫻子に任せてると、どうも不安ですわね…」


櫻子「うるせーやい!」


綾乃「それと大室さん。照明が置いてあるかの確認だけで

   いいのよ。運ぶときは人数が必要だわ」


櫻子「わっかりましたー!」


――

廊下


櫻子「さてと、鍵ももらったし…」


櫻子「後は屋上に行くだけか」


櫻子「そういえば、屋上って行ったことないよなー」


櫻子「入学してすぐのころに、一回くらいは見学したかな?」


櫻子「ま、いっか。とりあえず仕事仕事!大室櫻子は仕事も

   デキる美少女だということを、向日葵にトクと見せつ

   けてやる!」


――

屋上


櫻子「ここが屋上かー。けっこう広いなー」


櫻子「おおーっ、なかなか見晴しがいい!グラウンドどころか

   もっと遠くまで見える!」


櫻子「鍵かけておくのがもったいないなぁ。フェンスもあるから

   全然危なくないし」


櫻子「合鍵作っていつでも入れるようにしたら面白いだろう

   なー」


櫻子「歳納先輩みたいに、ここで勝手に部活してみたり!」


――


櫻子「授業だるいときはここで昼寝してさ」


櫻子「昼もここで食べる!弁当は下僕の向日葵に作らせる!」


櫻子「夕焼けとかきれいだろうなー」


櫻子「向日葵と一緒に見て…」


櫻子「って、向日葵なんかどうでもいいし!てか仕事仕事!」


――

屋上倉庫


ギィ~ッ


櫻子「うわっ、カビくさいなぁ」


櫻子「何年も閉めきってたみたいだ…。ドアの音も雰囲気

   出過ぎでしょ…」


櫻子「とりあえず電気電気っと…」カチッ


櫻子「よかった。さすがに電気はつながってるか…」


櫻子「ひっ!?」ビクッ


――

櫻子「だ、誰なの!そこにいるの!?」


櫻子「あ…」


櫻子「な~んだ、鏡か…」


櫻子「びっくりした~。ずいぶん大きな鏡だなぁ」ペタペタ


櫻子「高そうだけど、こんなところに置かないでよ。心臓

   止まるかと思った…」


櫻子「向日葵に見られてたら、絶対バカにされてたな…」


――

櫻子「おー、あったあった。これが杉浦先輩の言ってた照明

   か」


櫻子「確かにデカい。重さもありそうだし…」


櫻子「でも、これを運べば大室櫻子、大絶賛まちがいなし!」


櫻子「そうとわかれば、引き下がるわけにはいかないね!」


櫻子「仕事のデキる大室櫻子こそ、次期生徒会副会長に

   ふさわしい!」フンヌッ


――

櫻子「櫻子様の腕力をナメるなよ!火事場のバカぢからは

   ねーちゃん譲りだいっ!」ググッ


櫻子「よし、なんとか持っていけそうだ」トトト


櫻子「あっ、でもこれだと鍵閉められない…」


櫻子「まぁ、それは後でもいいよね!」


――

廊下


櫻子「よ~とっと」


櫻子「さすがに重いかな?」


櫻子「でも、ここまできて置きっ放しにはできないし…」


櫻子「こういうときにあかりちゃんでも来てくれないかな~」チラ


櫻子「…」


櫻子「そんな都合よくはいかないか…。ていうか、今日はもう帰ってるよね」アッカリーン


櫻子「あ~、なんかダルくなってきた…」ヨット


櫻子「とりあえず、ここに置いて誰か呼んでこようかな…」


向日葵「櫻子」


櫻子「うおっ、びっくりした!」


――

櫻子「さ、サボってなんかないぞ!このまま運ぶつもり

   だったから!」


向日葵「櫻子、私も手伝いますわ」スッ


櫻子「へ?あ、ありがと…」


向日葵「櫻子…」


櫻子「な、なんだよ」


向日葵「一人で運ぼうと思ったのですね」


櫻子「い、いいだろ!運べそうだったんだし!てか、生徒会室に

   いたんじゃなかったのかよ」


――

向日葵「櫻子は…責任感が強いのですね」


櫻子「へ?」


向日葵「少しでも多く仕事をして、まわりの負担を軽く

    しようとしてくれたんでしょう?」


櫻子「ま、まぁそうだけど」


向日葵「私は…櫻子のそんなところが好きですわ」


櫻子「!?」


――

櫻子「ほ、褒めてるわけ?何か気持ち悪いな…」


向日葵「櫻子が仕事熱心なのは、私が一番よく知って

    いますわ」


櫻子「ち、ちょっとさぁ。何かたくらんだりしてない?

   向日葵、普段と違いすぎるんだけど」


向日葵「普段…ですか」


向日葵「私は、自分の気持ちに素直になろうと決めたのです」


――

向日葵「今まで…私は素直になれなかったのです」


向日葵「櫻子はいつも、明るくて、活発で、みんなの人気者で…」


向日葵「櫻子は、私にないものをたくさん持っている」


向日葵「でも、それを認めると、櫻子がどこか…私の手の届かない

    ところに行ってしまいそうで…」


向日葵「だから…あなたのいいところからわざと目をそらして、張り合お

    うとしてたのです」


――

向日葵「でも櫻子は、そんな私にもいつも…優しくしてくれました」


向日葵「小さいころからずっと変わらず、いつも私のそばにいてくれ

    ました…」


向日葵「だから私は思ったのです。素直になろうって」


向日葵「そうすれば、いちばん大切な櫻子と、ずっと一緒にいられる

    はずだって…そう思ったのです」


櫻子「ひ、向日葵…」


――

櫻子「私のこと、そんな風に思ってくれてたんだ…」


櫻子「な、なんか変な感じだな。その、向日葵のほうが私よりも

   すごいとこ、いっぱいあるじゃん?」


向日葵「櫻子…。ごめんなさい。突然こんなこと言い出したら、

    戸惑いますよね」


櫻子「い、いや。そんことないって!その…悪い気はしないし…」


――

櫻子「いやー、それなら私も素直になっちゃおうかなー?」ハハッ


櫻子「ぶっちゃけると私もさ、向日葵とおんなじこと考えてたよ」


櫻子「向日葵は勉強もできるし、料理とか編み物もできて女の子

   らしいし」


櫻子「私はそーゆー方面からっきしダメだしさ」


櫻子「向日葵に突っかかって張り合わないと、私との距離がどんどん

   遠くなっちゃいそうで…」


――

櫻子「あーもう、何か今日は変だなー」


櫻子「変なついでに全部言うけどさ」


櫻子「私は、向日葵のそばにいたいんだ。他の誰よりもね」


櫻子「ちなつちゃんに編み物教えてたとき、正直さみしかった」


櫻子「向日葵がとられちゃいそうで、すっごくさみしかった」


櫻子「小さいときからずっと一緒だったよね、私たち」


櫻子「だから…だからちょっとでも離れそうになると怖くなるんだ」


向日葵「櫻子…」


――

櫻子「あー、何言ってんだろ、私…//」

   

向日葵「私は…嬉しいですわ。櫻子に必要に思われていることが」


櫻子「いま言ったことさぁ、絶ッ対誰にも言わないでよ?恥ずかしい

   から…」


向日葵「わかっていますわ」フフッ


櫻子「てゆーかさ、手伝いに来てくれたわけでしょ?」


向日葵「えぇ」


櫻子「だったらさっさと運んじゃわない?これ、重いからさ」


向日葵「わかりましたわ」


――

櫻子「そんじゃ、いくぞ~」ヨット


向日葵「ふ、二人がかりなら何とかなりそうですわね」ググッ


櫻子「あ、あんまり無理はするなよ?」


向日葵「大丈夫ですわ。櫻子が一緒ですから」


櫻子「~//」


櫻子「(ほんと調子狂うなぁ…)」


櫻子「(あっ、向日葵のアザ治ってるじゃん…。良かった、痕がついたら

    アレだもんね)」


――

櫻子「こっから階段だから気をつけろよー」


向日葵「えぇ、わかかりましたわ」


櫻子「よーとっと。さすがに二人いれば何とかなりそうだな」


櫻子「あ、でもこれじゃ私一人で運んだことにならないじゃん」


櫻子「ちぇー、せっかく副会長になるアピールチャンスだったのに…」


向日葵「それなら心配する必要はないですわ」


――

向日葵「私は…次期副会長には櫻子になってほしいのです」


櫻子「えっ、何で?」


向日葵「櫻子は自分から前に出て動くことができますわ。リーダー

    シップがある櫻子が副会長になるのがいいと思います」


櫻子「向日葵はどうすんだよ?」


向日葵「私は…櫻子を支える存在になりたいですわ」


向日葵「池田先輩が杉浦先輩を支えているように、私も櫻子を

    支える存在になりたいのです」


――

櫻子「向日葵、そんな風に考えてたんだ…」


櫻子「バカだな私。向日葵の気持ちもわからないで張り合って…」


櫻子「これじゃあ、幼馴染失格だよね…」


向日葵「そんなことはありませんよ。櫻子は私の大切な存在です」


櫻子「決めた!私も素直になる!」


櫻子「もう変に意地張ったりしない!向日葵と仲良くしたい!」


櫻子「向日葵、これからもよろしくね!」


向日葵「えぇ、いつまでも…一緒ですわよね?」


櫻子「もちろん!ずっと!向日葵とはずうっと一緒にいる!」


――

向日葵「よかったですわ、櫻子に本当の気持ちを伝えられて」


櫻子「えへへっ、嬉しいけどなんか恥ずかしいな…」


向日葵「私たち、ずっと一緒ですわね」


櫻子「よーし、早速二人の絆の強さの出番だ!これ運んで、二人が

   これからの生徒会を支えるのをアピールだ!」


櫻子「気合い入れていくぞー!」


向日葵「はいっ」ニコッ


――

櫻子「(あ~あ、どうしてこんなカンタンなことに気付かなかったんだろ)」


櫻子「(ほんの少し、素直になればよかったんだよね)」


櫻子「(そうすれば、向日葵ともっと仲良くなれたんだ)」


櫻子「(これまでもったいないことしたな…意地になって張り合って)」


櫻子「(でも、それももうおしまい)」


櫻子「(これからは、向日葵に対して素直な気持ちになるんだ)」


櫻子「(こどものころみたいに…いや、もっと仲良くなれるはず)」


櫻子「(そうだよ…私と向日葵ならきっと)」


――

櫻子「ねぇ、向日葵…」


向日葵「なんですか」


櫻子「…大好き」ボソッ


向日葵「…」


櫻子「…」


向日葵「…」


櫻子「な、なんか言えよ!恥ずかしいだろ!//」


向日葵「私も…櫻子のことが大好きですわ」


――

櫻子「もー、なんでためるんだよ」


向日葵「私は…真剣ですもの」


櫻子「そ、それじゃあ私たち両想いだな!」


櫻子「やばっ、自分で言って恥ずかしくなってきた…」


向日葵「えぇ、両想いですわ」


櫻子「く、繰り返さなくていいから!」


――

櫻子「あぁもう、早く運ぶぞ!先輩たち待たせてるんだから…」


向日葵「そうですわね」


櫻子「まったく、さんざんな日だな…」


向日葵「きっと、大切な日になりますわ。私たち二人にとって」


櫻子「なんだよそれ、意味ありげに」ハハハ


向日葵「櫻子、ずっと一緒ですわよ。どこにも行かないでほしいですわ」


櫻子「わかったって。向日葵とはずうっと一緒!」































向日葵「櫻子、遅いですわね。何をやっているのかしら…」


――

生徒会室


向日葵「いくらなんでも遅すぎますわ」


綾乃「そうね、もうとっくに戻ってきてもいいはずなんだけど…」


向日葵「櫻子のことですから、きっとどこかで油を売っているのですわ」


千歳「それにしても、ちょっと心配やな。うちが見てこようか?」


向日葵「いえ、先輩のお手を煩わせるわけには…。私が見てきますわ」


――

放課後 生徒会室


向日葵「まったく櫻子は責任感のかけらもないのですから…。私が見つけて

    連れ戻してきますわ」


綾乃「それじゃあ、古谷さんにお願いするわね」


千歳「どこかで具合でも悪くしてなきゃええんやけど」


向日葵「櫻子にかぎってそれはないと思いますわ。頑丈なのだけが取り柄ですから」


りせ「…」


向日葵「それでは、見てきますね」


奈々「おや、大室はもう帰ったのか?それなら私も帰るとするか」


綾乃「先生、まだいらっしゃったんですか…」


――

屋上


向日葵「職員室で鍵は借りたみたいですわね。そうなるとここに来ている

    はずですが…」


向日葵「倉庫の扉も空いてますわね」ギィ


向日葵「電気もつけたまま…」


向日葵「あら、こんなところに鍵が」チャリ


向日葵「櫻子ったら、鍵も返し忘れてどこに行ったのやら…」マッタク


――

ごらく部前


向日葵「おそらく、櫻子は戻ってくる途中にどこかに遊びに行ってしまった

    はず」


向日葵「となると、ここが一番怪しいですわね」コンコン


向日葵「失礼します」ガラッ


京子「おぉー、ひまっちゃんじゃないか!どうしたの?」


向日葵「歳納先輩、櫻子がお邪魔していませんか」


京子「櫻子ちゃん?今日は来てないなー」


向日葵「そうですか…」


京子「お役に立てずごめんよ。まぁ、ひまっちゃんが知らないなら私たち

   もわからないかなー」ニヤニヤ


向日葵「え、それはどういう意味ですか?」


京子「いえいえ、お気になさらず」ニヤニヤ


向日葵「…?」


京子「それよりさ、ちょっとゆっくりしていかない?結衣しか

   いなくて退屈で」


結衣「退屈で悪かったな」


向日葵「せっかくですが、生徒会の仕事がありますので…。もし櫻子が来たら、すぐ

    生徒会室に戻るようお伝えいただけませんか?」


京子「はいよー、承った!」


――

廊下


向日葵「てっきりごらく部にお邪魔していると思いましたが…」


向日葵「教室にもいませんでしたし…」


向日葵「まったく、どこをほっつき歩いているのやら…」


――

赤座家


あかり「お姉ちゃん、材料はこれでいいかな?」


あかね「えぇ、これでいいわよ。今日はメニューが多いから

    手際よく進めていきましょう」


あかり「あかり、頑張ってお姉ちゃんのお手伝いするよぉ!」


あかね「ありがとう、あかり。お姉ちゃん、嬉しいわ(あぁ、あかりの

    エプロン姿かわいいわ…)」


――

生徒会室


向日葵「申し訳ありません、櫻子が見つからなくて…」


綾乃「おかしいわねぇ、まさかそのまま帰るはずもないし…」


千歳「大室さんの荷物、ここに置いたままやで」


りせ「…」


奈々「急用で帰ったのではないか、と松本は言っている」


綾乃「でも、そんなに大事な用なら、むしろ荷物を取りに戻って

   くるのが自然じゃないですか」


千歳「せやな。古谷さん、大室さんの携帯電話に連絡はいれてみた?」


向日葵「それが、あの子ったら携帯をここに置きっぱなしで…」ヒョイ


綾乃「なんだか狐につままれたみたいね」


――

2時間後


向日葵「櫻子、本当にどこに行ったのかしら…」


綾乃「もう遅いわね。今日はここまでにしましょう」


向日葵「申し訳ありません。櫻子の分の仕事を先輩がたに割り振って

    いただいて」


千歳「それは別にええんやけど、古谷さん。帰りに大室さんの家に寄って、帰って来てるか

   確認したほうがええんちゃう?」


向日葵「そうですわね、荷物も置きっぱなしですし」


りせ「…」


――

赤座家


あかね「今日はあかりのおかげでとってもはかどったわ。あとは

    お客様が来るのを待つだけね」


ピンポーン


あかり「あっ、お姉ちゃん。もしかしたらお友達じゃないの?」


あかね「そうね、ちょうど頃合いだし。あかり、一緒にお出迎えするわよ」


あかり「はーい」トテトテ


――

ガチャ


あかね「いらっしゃい、ちょうどいいタイミングだったわ」


ともこ「こんばんは、あかねちゃん」


あかり「あっ、ちなつちゃんのお姉さんだ!」


ともこ「あかりちゃん、今日はご招待ありがとうね」


ちなつ「私もいるよー」


あかり「お姉ちゃんのお友達って、ちなつちゃんのお姉さんのこと

    だったんだね」


――

リビング


ちなつ「うわー、すごく豪勢!」


ともこ「あかねちゃん、作るの大変じゃなかった?」


あかね「そうね。でも、あかりが手伝ってくれたおかげで

    だいぶはかどったわ」


あかり「えへへ」


あかね「ともこを招待するんですもの、しっかりおもてなし

    しないといけないわ」


ともこ「あかねちゃん、私のためにこんな…//」


――

あかね「さぁ、冷めないうちに召し上がって頂戴」


ともこ「あかねちゃん、本当にありがとうね。いただきます」


ちなつ「いただきまーす」


あかり「あかりが取り分けるよぉ」


あかね「うふふ。よろしくお願いね、あかり」


あかり「よいしょっと…どうぞ、ちなつちゃんのお姉さん」


ともこ「ありがとう、あかりちゃん。さっそくいただくわ」


――

ともこ「おいしい…!すごいわ、どうやって味付けしたの?」


あかね「下ごしらえに一手間かけるだけで、簡単にできるのよ」


ちなつ「(これだけおいしい料理ができたら、きっと結衣先輩の

     ハートも鷲掴みにできるはず…)」


ちなつ「あかりちゃんのお姉さん、ぜひ秘訣を教えてください!」


あかね「えぇ、いいわよ。レシピのメモがあるから後で教えてあげるわ」


あかり「お姉ちゃんの料理、あかりはとっても大好きだよぉ」


あかね「ありがとう、あかり。そう言ってもらえると、お姉ちゃんすごく

    嬉しいわ(そう、この笑顔のためならどんな手間も惜しまないわ…!)」


――

ともこ「あかりちゃんはちなつと同じ部活動なのよね?確か、えぇと…」


ちなつ「ごらく部だよ、お姉ちゃん」


ともこ「そうそう、それそれ。ごらく部っていうのは、どんな活動をして

    いるの?」


あかり「えーと、ごらく部ではですね…(どうしよう。ただまったりしてる

    だけなんて言いづらいよぉ)」


ちなつ「ま、それはね。色々あるかな…(まいったな。こういうとき、京子先輩

    なら適当にごまかせるんだろうけど)」


――

ともこ「そう…?そういえば、茶道部の部室を使っているそうね」


あかり「は、はい」


ともこ「懐かしいわ。私も七森中茶道部だったのよ」


あかり「そうだったんですか?それじゃあ、私たちの先輩なんですね」


あかね「あら、私も七森中OGよ。茶道部ではなかったけれど」


ともこ「えーっ、あかねちゃんって七森中出身だったの!?」


あかね「そうよ。でも、私たち中学生のころはお互い知り合ってなかった

    わよね」


ともこ「全然気づかなかったなぁ。もしかして、クラスも1回くらい

    同じになったことがあるんじゃない?」


あかね「そうかもしれないわねぇ」


あかり「お姉ちゃんたち、すごく楽しそう」


ちなつ「私たちもいつか卒業したら、こんな風に思い出話ができるのかなぁ」


――

ともこ「あかねちゃんは、きっと中学のころからクラスで人気者

    だったんじゃないの?」


あかね「人気かどうかはわからないけど、あちこちの部活動から勧誘は

    あったわね」


あかり「お姉ちゃん、どんな部活動をしてたの?」


あかね「私は手芸部だったけど、運動部からはずいぶんアプローチされ

    たわ。試合のときだけでもいいから来てほしい、とか」


あかり「お姉ちゃんすごいな~」


あかね「そんな大げさなものでもないわよ(全国大会上位の子をねじ伏せた

    程度ですもの)」


――

ともこ「やっぱりあかねちゃんはすごいなぁ。それにくらべて私は、何の

    存在感もなかった記憶しかないよ」


あかり「そ、そうなんですか?(なんだか他人事とは思えない気がするよぉ)」


ともこ「私、昔はすごく引っ込み思案で、クラスの子たちと話すこともできな

    かったの」


あかね「あら、意外ね。ともこは誰とでも仲良くやっていけそうなのに」


ともこ「なんてことない会話に交じったりするのにも、ずいぶん時間がかかったの

    を覚えているわ。茶道部に入ったのも2年生の後期になってからだし」


ちなつ「いまのお姉ちゃんからは想像もつかないなぁ」


ともこ「そうね。私もここまで変われるとは思ってなかったわ。それまでは、いつも

    一人で淋しかったな…」


――

大室家前


向日葵「櫻子のことだから、きっと今ごろ家でのほほんとしていますわ」


向日葵「生徒会役員として、きつく叱っておかないと…」ピンポーン


花子「ひま姉、どうしたし」ガラッ


向日葵「花子ちゃん、櫻子は帰ってきてませんか?」


花子「櫻子、まだ帰ってきてないし。夕飯の当番なのにありえないし」


向日葵「そうですか…」


撫子「おっ、ひま子。どうかした?」


向日葵「撫子さん、実は櫻子が荷物も置いたまま学校からいなくなってしまって。」


撫子「まったくあの娘は世話が焼けるね…。ひま子、わざわざ持ってきてくれてありがとね」


向日葵「撫子さんたちにも、何の連絡もしてないのですか」


撫子「家にもケータイにも、まったく音沙汰なしだよ」


向日葵「まさか、事故や事件に巻き込まれたとか…」


撫子「う~ん、櫻子にかぎってそういうことはないと思うけど」


花子「きっと、どこかをほっつき歩いてるにちがいないし」


向日葵「そ、そうですわよね。きっと」


――

夜 古谷家


向日葵「今日は一日中、櫻子に振り回されましたわ…」ハァ


楓「おねえちゃん、なんだか元気ないの」


向日葵「そ、そんなことありませんわ」


向日葵「(考えすぎですわ。明日になったら、けろっとした顔で出てくるに

     決まっていますもの)」


向日葵「(櫻子のことでこれ以上気持ちが煩わされるのは勘弁ですわ。今日は疲れたし

     早く休みましょう…)」


――

赤座家 玄関


ともこ「話し込んでたらすっかり遅くなっちゃったわ。あかねちゃん、長居して

    ごめんね」


あかね「いいえ、とても楽しい時間が過ごせたわ」


ともこ「今日は招待してくれて本当にありがとう。とっても美味しかったよ」


あかね「そう言ってもらえると、あかりと一緒に作ったかいがあるわ」


ちなつ「あかりちゃんのお姉さん、私もお姉さんみたいに料理が上手になれる

    よう頑張ります!」


あかね「頑張ってね。きっとちなつちゃんなら上手にできるはずよ」


ともこ「それじゃあ、あかねちゃん。また明日ね」


あかね「えぇ、それじゃあまた」


ちなつ「あかりちゃん、明日は私が迎えに行くから一緒に学校行こうよ」


あかり「うん、待ってるよぉ」


――

翌日 通学路


向日葵「(結局、昨日は櫻子が戻ってきたのかわからないままでしたわ)」


向日葵「(まったく、連絡の一つでもよこせばいいものを…)」


向日葵「(心配かけて…本当に櫻子はバカですわ)」


向日葵「(今日は迎えにいってあげませんからね)」


ちなつ「あっ、向日葵ちゃん。おはよう」


向日葵「おはようございます、吉川さん」


ちなつ「向日葵ちゃん、これからあかりちゃんを迎えにいくんだけど、

    一緒にこない?」


向日葵「(櫻子は…まぁいいですわ。少し反省させないといけませんし)」


向日葵「ご一緒させていただきますわ」


――

赤座家前


あかり「おはよう、ちなつちゃん、向日葵ちゃん」


ちなつ「これでそろったね。それじゃあ行こうか」


向日葵「(いつものメンバーに櫻子がいないだけで、なんだか落ち着かない

     ですわね…)」


あかり「向日葵ちゃん、どうかしたの?」


向日葵「い、いえちょっと考え事を。さぁ、行きましょう」


――

1年生教室


ちなつ「それでね、その後結衣先輩と二人っきりになって、これはチャンスと

    思ったら京子先輩が入ってきてさぁ…」ギギギ


あかり「ちなつちゃん、顔が怖いよぉ…」


向日葵「(櫻子は…まだ来てないようですね)」


向日葵「(迎えに行ってあげなかったから、寝坊しているのかもしれませんわ…)」


向日葵「あらっ…?」


――

向日葵「(櫻子の机がありませんわ)」


向日葵「(ど、どういうことなんでしょうか。まさかいじめ…?)」


あかり「どうしたの?」


向日葵「い、いえ。櫻子の机が見当たらなくて…」


あかり「さくらこ…ちゃん?」


――

向日葵「えぇ、櫻子の机が」


あかり「…」


向日葵「赤座さん?」


あかり「う~ん、あかり誰のことか思い出せないよぉ~」


向日葵「えっ!?」


――

向日葵「そんな…赤座さん、冗談はよしてください」


あかり「でも、本当に思い出せないよぉ」


ちなつ「このクラスにはさくらこちゃんなんていなかったと思うけど。その子、向日葵

    ちゃんの友達なの?」


向日葵「吉川さんまで…。櫻子ですよ。大室櫻子のこと、忘れたのですか?」


ちなつ「ごめん、思い出せないなぁ」


向日葵「(まさか、お二人も櫻子をいじめているのでしょうか?まるで櫻子がいないかの

     ように振る舞って…)」


向日葵「(いえ、そんなはずはありませんわ。お二人にかぎって、そんなひどいことが

     できるわけありませんもの…)」


向日葵「そうですわ、名簿を確認すれば…」ツカツカ


ちなつ「向日葵ちゃん?」


向日葵「大室、おおむろ…」ペラッ


向日葵「うそですわ…櫻子の名前だけなくなってるなんて…」


――

ちなつ「向日葵ちゃん、大丈夫?なんか今日はちょっと変だよ」


向日葵「携帯…そうですわ、携帯電話のアドレスを…」カチャ


向日葵「…」


向日葵「どうして…どうして櫻子のアドレスもメールも消えているんですの!」


あかり「ひ、向日葵ちゃん?」ビクッ


――

向日葵「どうして!どうしてなんですの!」


向日葵「櫻子の写真も全部消えてるなんて…」


ちなつ「向日葵ちゃん、そのさくらこちゃんっていったい誰のことなの?」


向日葵「…ッ」


向日葵「どうしてわからないのですか、櫻子のことが!」バン


向日葵「いつも一緒にいたのに、どうして忘れるんですか!」


ちなつ「ひ、向日葵ちゃん。落ち着いて!」


向日葵「うそですわ…みんなが私のことを騙しているのですわ!」グスッ


あかり「向日葵ちゃん…」オロオロ


京子「おーい、何やってるの~?」


ちなつ「京子先輩、ちょうどいいところに…。向日葵ちゃんが急にパニックに

    なって…」


京子「う~ん、なんかよくわからないけど、とりあえず私がなんとかしてみせよう!」


――

京子「ひまっちゃん、どうかしたの~?」


向日葵「歳納先輩…」ぐすっ


京子「ほら、ハンカチあるからこれ使ってよ」


向日葵「あ、ありがとうございます…」


京子「ひまっちゃんが昂奮してるのも珍しいね。あかりたちとケンカしちゃったのかな?」


向日葵「うぅ…だって、こんなことって…あんまりですもの…」ひぐっ


京子「あぁ、無理に話さなくてもいいよ。ここじゃなんだから、とりあえず、ごらく部に

   行こうか」


向日葵「はい…」


京子「あかりー、ひまっちゃんは私と一緒だからって先生に言っといて。それとちなつちゃん、

   私も1限休むって結衣に伝えといてね。場所は保健室ってことでよろしくー」


――

ごらく部


京子「まぁ、とりあえず適当に座ってよ」


向日葵「失礼します…」


京子「いまお茶いれてくるね」


向日葵「い、いえお気遣いなく、歳納先輩」


京子「いいから、いいから。飲んだら気分も

   落ち着くと思うよ。はいっ!」


向日葵「ありがとうございます…」


京子「どうかなー。ちなつちゃんに比べると下手だと

   思うけど」


向日葵「いえ、そんなことありませんわ。とても美味しい

    です」


京子「おぉ、やったー!ひまっちゃんに褒められた!」


――

向日葵「歳納先輩、何から何まですみません…」


京子「いいってことよ!困ったときの京子たんだからね!」


向日葵「ふふっ」


京子「おっ、ようやく笑ってくれた」


向日葵「歳納先輩のおかげで、少し気分が落ち着いて

    きましたわ」


――

京子「それじゃあ、ぼちぼち訳を話してもらえるかな?

   あかりたちとケンカしちゃったのかな」


向日葵「いえ、赤座さんや吉川さんのせいではありません

    わ。ただ…自分でもよくわからない状態になって

    いるのです」


京子「どういうこと?」


向日葵「歳納先輩は櫻子のことを…大室櫻子のことを

    覚えていますか?」


京子「櫻子…ちゃん?えぇと、ひまっちゃんのクラス

   メートかな?」


向日葵「やはりわかりませんか…」シュン


京子「ひまっちゃん?」


向日葵「歳納先輩、私の話を聞いていただけないで

    しょうか?あまりに荒唐無稽かと思われる

    かもしれませんが…」


京子「う、うん。わかった。私でよければ聞くよ」


向日葵「ありがとうございます。」


――

向日葵「実は、私の幼馴染が突然消えてしまったのです」


向日葵「櫻子…大室櫻子は私のクラスメートで、生徒会

    でも一緒でした」


向日葵「ごらく部のみなさんともよく一緒になって遊んで

    いましたわ。歳納先輩とも何度も顔を合わせてい

    ます」


向日葵「それなのに、昨日の生徒会の仕事中に突然いなく

    なってしまって…」


向日葵「今朝になったら、赤座さんや吉川さんも櫻子の

    ことを覚えていませんでした…」


向日葵「それどころかクラス名簿にも、私の携帯電話から

    も櫻子の存在すべてがなくなってしまって…」


向日葵「あまりのことに、先ほどは取り乱してしまったの

    です…」


――

向日葵「おかしいですよね、歳納先輩。こんな、まるで

    魔法がかかったみたいに人一人が消えてしまう

    なんて…」


向日葵「信じるほうが無理な話ですよね…」


向日葵「うぅ…」グスッ


京子「信じるよ、私は」


向日葵「歳納先輩…」


――

京子「私も、その櫻子ちゃんのことは思い出せない」


京子「でも、ひまっちゃんがこんなに悲しむくらいに

   大切な友達だってことはわかるよ」


京子「夢でも幻でもない。私たちが思い出せないだけで

   きっと櫻子ちゃんはどこかにいるはずだよ」


向日葵「歳納先輩…うっ、ひぐっ…」


――

京子「だから元気出して。櫻子ちゃんはきっと

   見つかるよ」ギュッ


向日葵「あ、ありがとうございます…。わたし、不安で。

    このまま誰も櫻子のことを思い出せないままだと

    思うと不安で…」ヒクッ


京子「私も協力するよ。一緒に櫻子ちゃんを探そう」


向日葵「…」コクリ


――

昼休み 1年生教室前廊下


あかり「向日葵ちゃんのお友達が消えちゃった…?」


ちなつ「な、なんかまだピンとこないです…」


京子「確かに不思議な話だよ。でも、ひまっちゃんが

   嘘をついてるわけないって私は思う」


あかり「うん…。あかりも向日葵ちゃんは嘘をついたり

    しないと思うよぉ」


ちなつ「それは私もそうですけど、神隠し…ってやつです

    か?」


京子「しかもただの神隠しじゃない。私たちの記憶だけ

   じゃなくて、名簿や携帯電話からも櫻子ちゃんの

   存在そのものが消えてるんだ」


あかり「摩訶不思議だよぉ」


――

京子「とりあえず、私は誰か櫻子ちゃんのことを覚えて

   いないか確認してみるよ」


あかり「あかりたちは何をすればいいの?」


京子「あかりとちなつちゃんは、ひまっちゃんのそばに

   いてあげて。かなり落ち込んでるみたいだから」


あかり「わかったよぉ」


京子「自分にとって大切な存在が突然いなくなる。しかも

   そのことに自分しか気づかない。とても恐ろしい

   ことだと思うよ。ひまっちゃん、きっとすごくつら

  いはずだから…」


結衣「京子、遅れてごめん」


京子「おぉ、これでごらく部全員集合だ。それじゃあ私は

   結衣と一緒に櫻子ちゃん捜索活動を開始するよ」


あかり「よろしくね、京子ちゃん」


――

結衣「それで、京子。どうするつもりなんだ?」


京子「ひまっちゃんが言うには、その櫻子ちゃんって子は生徒会

   の役員だったみたいなんだよね。ってことは、生徒会室に

   何か手がかりがあるかなーって」


結衣「まぁ、それが順当だろうな。あかりたちの話だと、教室には

   何も手がかりがなかったみたいだし」


京子「というわけで、まずは生徒会副会長様の協力を仰ぐとしようか」


――

京子「おーい、綾乃ー」


綾乃「と、歳納京子!?いきなり何よ!」


京子「ちょっといいかな?綾乃にどうしても協力してほしいことが

   あって…」


綾乃「な、何よ改まって…。わ、私は忙しいんだから、用件を早く

   伝えなさい」


京子「その、生徒会室で調べたいことがあるんだ」


綾乃「調べもの?でも、生徒会室は図書室と違って特に資料はないわよ」


京子「全校生徒の名簿、それと入学式とかのイベントの写真。生徒会室にあるはずだよね」


綾乃「あぁ、それならあるわよ。でも、そんなものを調べて何をするの?」


京子「まぁまぁ、気にしないで」


綾乃「気になるわよ!」


――

京子「…実を言うと、こういうわけでね」


綾乃「そんなことが…」


京子「ひまっちゃんのためにも、何とか櫻子ちゃんの痕跡を見つけたいんだ」


綾乃「…私も大室さんって子がいたなんて覚えてないわ。でも、そういうことなら協力するわ」


京子「え、いいの?」


綾乃「もちろんよ。古谷さんのこととなれば放ってはおけないし、その、あなたの頼みでもあるから…//」


京子「ありがとう、綾乃!」


――

京子「まずは名簿からいくか」


結衣「クラスの名簿からは、大室さんは見つからなかったみたいだね」


綾乃「古谷さんたちの入学年度の名簿はこれよ」


京子「おぉ、さんきゅー。ふ~む…」ペラッ


結衣「どうだ、京子?」


京子「ないなぁ」


――

綾乃「今年の写真はこのアルバムで管理してるわ」


京子「ふむ…。これは入学式か」


結衣「こっちの写真、あかりが写ってるぞ。ということは、大室さんが写ってる可能性もあるんじゃないか」


京子「う~む…いないなぁ」


綾乃「ところで、大室さんってどんな子なの?外見の特徴がわからないと、探しようがないわ」


京子「そうか、綾乃にはまだ伝えてなかったっけ。明るいウェーブのかかった茶髪の子だよ。ヘアピンは2つ。あと、ひまっちゃん曰く活発な感じらしいよ」


結衣「こっちにも該当しそうな子は写ってないなぁ」


――

京子「うぉっと、もう昼休み終わりそうだ」


結衣「続きは放課後だな。綾乃、放課後もお邪魔していいかな?」


綾乃「もちろんよ。千歳にも手伝ってもらうわ」


京子「櫻子ちゃん、どこに行ってしまったんだー」ウガー


――

放課後 生徒会室


京子「さて、早速作業に取り掛からないと」ガラッ


奈々「おや、歳納くん。アカデミックな爆発実験に興味があるのか?」


りせ「…」


京子「い、いえ。遠慮しておきます」


奈々「そうか、それは残念だ。ところで、生徒会室に何か用かね」


――

京子「(そうだ、西垣ちゃんなら何か櫻子ちゃん失踪の手がかりがわからないかな。科学的な理由があるかもしれないし)」


京子「あの、西垣先生。相談があるんですが…」


奈々「何かね。この超弩級プロフェッショナルサイエンティストの西垣奈々にできることなら、何でも協力しよう」


京子「人が突然いなくなるってこと、科学的にありえますか?」


奈々「おぉ、いわゆる神隠しというやつか。それなら、実際は事件や事故の類が大半だな」


京子「周囲の記憶や、電子機器からも存在の痕跡すべてが消えるってことは…どうですか」


奈々「む、それは興味深いな。詳しく話を聞かせてくれ」


――

京子「…というわけなんです」


奈々「ふむ。奇奇怪怪としているが、科学的に説明できる余地はありそうだ」


京子「本当ですか!?」


奈々「その大室くんとやらは、異世界に迷い込んだのかもしれん」


京子「異世界、ですか」


奈々「そうだ。ファンタジー小説の類で、パラレルワールドというのがあるだろう。あれに近いものだ」


――

奈々「我々はこの世界で生活しているが、空間的に裏の世界が存在するかは、いまだ証明できていない。つまり、科学的に否定もできない状況だ」


奈々「わかりやすく言うと…そこにホワイトボードがあるだろう」


京子「はい」


奈々「松本、ちょっとボードの裏に立ってみてくれ」


りせ「…」トコトコ


奈々「ボードのこちら側が我々の世界。松本が立っている側が裏の世界だと思ってくれ」


奈々「このボードは生徒会室という同じ空間に存在する。しかし、表に存在するものは、裏に存在するものを感知できず、干渉もできない。逆もまた然りだ」


奈々「ところが、何かの拍子でこの境界線が壊れたとする。松本、ボードをたたんでくれ」


りせ「…」ヒョイッ


奈々「ほら、さっきまでは見えなかった松本が見えるだろう。ボードを飛び越えれば、こちらの世界に来ることも可能だ」


――

奈々「表の世界は、現にそこに存在するものだけで構成される。例えば私がボードの裏側に行くとすると」スタスタ


奈々「こちらの世界では、私という存在が消える。パズルのピースが欠けたら、そこが気づかないうちに埋まってしまうのと同じだと思ってくれ」


京子「つまり…櫻子ちゃんは裏の世界に行って、存在そのものが消えているってことですか」


奈々「そのとおりだ。歳納くんは飲み込みが早いな」


京子「どうやったら櫻子ちゃんを連れ戻せますか?」


奈々「おそらく、大室くんは最後に姿を見られたこの七森中学の周辺で、裏の世界につながるゲートへ足を踏み入れてしまったらしいな。ゲートが残っているかぎりは、本人の意思で戻ってくることは可能だ」


奈々「もっとも、裏の世界はパラレルワールド…。すなわち、この世界とほとんど変わらない可能性もある。大室くんは裏の世界に入ってしまったことに気付かず生活しているかもしれん」


京子「私たちの方からゲートを探せませんか?」


奈々「異空間への入り口には放射性物質が多く見られると聞く。原子の破壊を伴ってゲートが構成されているからな。つまり、放射能量を測定することが手っ取り早い」


京子「先生、そういうの持ってないですか」


奈々「前に作ったやつはある。今すぐ調整をしてこよう」スッ


京子「よしっ!待ってろ櫻子ちゃん」


――

通学路


向日葵「今日は色々とご迷惑をおかけしました」


ちなつ「そんなことないよ。その、私たちもびっくりしたけど」


あかり「あかりたちで協力できることなら何でもするよぉ」


向日葵「ありがとうございます。今日は家で休んでいますわ」


ちなつ「明日も向日葵ちゃんの家まで迎えに行くよ」


――

古谷家


向日葵「はぁ…」


向日葵「櫻子がいないと、こんなにも静かなのですね」


向日葵「櫻子…」


向日葵「櫻子の家には何か手がかりがないでしょうか」


向日葵「じっとしていられませんわ」スッ


――

大室家


向日葵「こんにちは、花子ちゃん。ちょっとお邪魔しても構いませんか?」


花子「ひま姉ならいつでも歓迎するし」


向日葵「早速で申し訳ありませんが、アルバムを見てもよいでしょうか」


花子「アルバム?確かリビングの本棚にあったはず…」


――

花子「アルバムならこれで全部だし」


向日葵「あらっ、これは撫子さんですわね。私も写っていますわ」


花子「撫子お姉ちゃんとひま姉で行ったピクニックのときの写真だから…花子はまだ産まれてないときだし」


向日葵「懐かしいですわね」ペラッ


花子「ひま姉、急にアルバムなんか見てどうしたし?」


向日葵「いえ、ふと昔のことが懐かしくなりまして。うちのアルバムよりも、撫子さんや花子ちゃんと一緒に撮ったものが多いですからね。ですからお邪魔したわけです」


――

古谷家


向日葵「あの後、何冊もアルバムを探しても、櫻子の写真は見つかりませんでしたわ」


向日葵「櫻子の部屋も、花子ちゃんの部屋になっていて…。おそらく撫子さんも花子ちゃんも櫻子のことを覚えていませんわ」


向日葵「櫻子、いったいどこに行ってしまったの…」


向日葵「昨日までいたはずの櫻子が、影も形もなく消え去って…。どうしてこんなことに…」


向日葵「これは現実なのでしょうか?信じられませんわ…」


向日葵「それとも、おかしいのは私の方…?」


向日葵「まさか、いえ、そんなことは…」


――

……



??『ねぇ、そんなとこに一人でいてどうしたの?』


向日葵『わ、私もみんなと一緒に遊びたいの。でも、どうやって声をかけたらいいかわからないの…』


??『ふ~ん。それじゃ、私と一緒に遊ぼうよ!』


向日葵『いいの?一緒に遊んでくれるの?』


??『一人より二人のほうが楽しいよ!』


向日葵『あ、ありがとう!えっと…』


??『私の名前は櫻子。大室櫻子だよ』


向日葵『櫻子ちゃん?私は向日葵。古谷向日葵』


櫻子『向日葵ちゃん?それじゃ、ひまちゃんって呼んでもいい?』


向日葵『うん!』


櫻子『じゃあ、ひまちゃんと私は友だちだ!あっちで遊ぼう!』ダッ


向日葵『あ、待ってよ櫻子ちゃん!』


――

櫻子『ひまちゃんと私は、小学校も同じなんだって』


向日葵『さーちゃんと一緒のクラスがいいなぁ』


櫻子『もしクラスが違っても、休み時間になったら必ずひまちゃんのところに遊びに行くから!』


向日葵『えへへ、それならさみしくないかな』


櫻子『それにしても、小学校だとベンキョーしないといけないんだって。私、いやだなぁ』


向日葵『さーちゃんがわからないところがあったら、私が手伝ってあげる!』


櫻子『やった!それなら私でもなんとかなりそうだ!』


――

向日葵『さーちゃん、今日はクラブなの?』


櫻子『うん。天才フォワードの私がいないと試合にならないからね』


向日葵『そっかぁ、それじゃ今日は先に帰ろうかな』


櫻子『ひまちゃんさえよければ、練習試合観にこない?』


向日葵『いいの?でも、私サッカーのルールなんてわからないし…』


櫻子『簡単だよ。私にボールがまわったら応援して、シュート決めてガッツポーズしたら拍手して!』


向日葵『あはは、それなら私でもできそうだね』


――

向日葵『生徒会?』


櫻子『中学校には生徒会っていうのがあるんだ。こないだの見学で見たけど、かっこよかったなぁ。私もなりたい!』


向日葵『さーちゃん、生徒会に入るんだ…』


櫻子『っていうかさぁ、もうさーちゃんって呼ぶのやめてよ?恥ずかしいから』


向日葵『えっ、でも…。何て呼んだらいいの?』


櫻子『櫻子でいいよ。もう私たちも6年生なんだし』


向日葵『櫻子…。なんだかしっくりこないよ』


櫻子『向日葵はいつもおどおどしてるから子どもっぽいんだよ。私みたいにもっと大人っぽくしなって』


向日葵『そんなこといわれても…』


櫻子『そうだ!お嬢様言葉でしゃべれば大人っぽくなるはず!』


向日葵『ど、どうやるの?』


櫻子『おはようございます、櫻子。今日もご機嫌麗しゅう…ほら、やってみなって』


向日葵『お、おはようございます、櫻子。今日もご機嫌麗しゅう…』


櫻子『あはは!こりゃ傑作だ!』ゲラゲラ


向日葵『もうっ、さーちゃんってば…』


――

向日葵『さーちゃんが生徒会に入るなら、私も入りたいな。そうすればさーちゃんといつでも一緒にいられるし…』


櫻子『おーい、何一人でブツブツ言ってるんだよ?』ポン


向日葵『櫻子…急に現れたらびっくりしますわ』


櫻子『ぷっ、お嬢様も板についてきたんじゃないの?』


向日葵『からかわないでください。あなたはいつもそうなのですから…』マッタク


櫻子『そんなことより見てよこれ。これで私も晴れて天下の生徒会役員様だ!』ドヤァ


向日葵『加入届を出したのですね』


櫻子『これで私は向日葵よりもえらいことになった。すなわち王と平民の差があるってこと!』


向日葵『生徒会はそういうものじゃないでしょう…』


櫻子『うるせー、おっぱい星人!』


向日葵『あなたが生徒会役員では仕事になりませんわ。私も生徒会に入って監視をします』


櫻子『な、なんだよそれー!』ムキー


向日葵『(ごめんね、さーちゃん。本当は一緒にいたいだけなんだけど…)』


――

櫻子『私が次期生徒会副会長になるのはもはや時間の問題だね』


向日葵『何を言っていますの。寝言は寝ているときだけにしてほしいですわ』


櫻子『なんだとこのー!』


向日葵『あなたみたいにがさつで騒がしいひとは副会長には向いてません!』


櫻子『向日葵みたいにガミガミうるさいのには誰も投票しないと思うけどね!』ベー


向日葵『なんですって!?』


櫻子『悔しかったらここまでおいで!おっぱいが重くて走れないだろうけど!』ダッ


向日葵『こら、櫻子待ちなさい!』


















『う~ん、あかり誰のことか思い出せないよぉ~』


『向日葵ちゃん、そのさくらこちゃんっていったい誰のことなの?』


『どうして…どうして櫻子のアドレスもメールも消えているんですの!』


『櫻子、いったいどこに行ってしまったの…』


――

向日葵「まさか…」


向日葵「櫻子は…大室櫻子は、子どものころのさみしかった私が作り出した幻の友だち…?」


向日葵「信じられませんし、信じたくありません。しかし、これならすべて説明がつくのも事実…」


向日葵「みなさんが櫻子のこと忘れたわけではない。私が、存在しないはずの櫻子と一緒にいただけ。いたと思い込んでいただけ…」


向日葵「名簿にも携帯電話にも、写真にも残っていないことの説明がつきますわ…」


向日葵「私は…ありもしない妄想を、ずっと真実だと思い込んで…」


――

向日葵「うぅ…」グスッ


向日葵「いえ、後悔はありませんわ。引っ込み思案で臆病な私を、いつも櫻子が支えてくれていたのは紛れもない真実…」


向日葵「私にとって、櫻子と一緒に過ごした時間は、かけがえのない大切な思い出でしたわ」


向日葵「泣いてたら、さーちゃんを心配させるよね…」


向日葵「私なら大丈夫。さーちゃんがいてくれたから、これからも強く生きていけるよ…」


向日葵「ううん。そうだよね、さーちゃんは今でも私の心の中で一緒だよね…」


向日葵「今までありがとう、さーちゃん。これからもずっと一緒だよ…」


――

洗面所


向日葵「涙で顔がぐしゃぐしゃですわ。顔を洗わないと…」


向日葵「いつまでも元気がないと、楓にも心配をかけてしまいますし…」


向日葵「今日から気持ちを新たに過ごしていきませんと…」


向日葵「ふぅ、さっぱりしましたわ」


向日葵「…?」


向日葵「これは…どういうことですの?」


向日葵「櫻子…やっぱり櫻子は幻なんかではないですわ!」


――

『!?向日葵危ないっ!』


『さっきは…ありがとうございます。とっさに手を伸ばしてくれなかったら、ケガをしていましたわ』


『そ、そんなのトーゼンのことをしたまでだしっ!』


『ですが、少し力が強すぎますよ?あなたの掴んだ部分、アザになってしまいましたわ…』


『ご、ごめん…』


向日葵「櫻子が幻なら…アザが残っているはずがありませんわ」


向日葵「間違いありません。櫻子は必ずどこかに…」タッ


楓「お姉ちゃん、どこに行くの?」


向日葵「ちょっと学校に戻る用事ができましたわ!」


――

七森中 廊下


奈々「これが先ほど話した放射能測定器だ」


京子「これで櫻子ちゃん失踪の手がかりが掴めそうですね」


奈々「歳納くんの話では、異世界のゲートはこの七森中にありそうだが…特に強い反応はないな」


京子「場所が違うんですかね?」


奈々「同じ校内でも、もう少し場所が絞れるとよいのだが」


――

京子「あれ、ひまっちゃん?」


向日葵「歳納先輩…」ハァハァ


京子「今日は帰ったはずじゃ…それに、ずいぶん慌てているみたいだけど大丈夫?」


向日葵「櫻子は…絶対にいますわ。私の妄想なんかじゃありません。きっとどこかにいるはずです…」


京子「いまちょうど西垣先生の発明品で手がかりを探しているところだよ。ひまっちゃんはどこか櫻子ちゃんがいなくなる直前に行った場所に心当たりはない?」


向日葵「あの日は生徒会の仕事でちょうど文化祭の準備をしていて…」


向日葵「そうですわ、屋上ですわ!屋上倉庫に行ってから櫻子が消えましたの!」


京子「屋上か…」


奈々「どうやら手がかりに一歩近づいたようだな」


――

屋上


京子「屋上ってけっこう広いんですね」


奈々「普段は開放されていないからな。ふむ…まだ計測器に変化はないな」


向日葵「櫻子はここの倉庫に来ていました。職員室で借りた鍵をここに落としていたのです」


奈々「では、件の倉庫を探索してみるとするか」ガチャ


――

屋上倉庫


奈々「むっ…」


京子「何かありました?」


奈々「わずかだが、放射能レベルが高くなっている。答えはすぐそこかもしれんぞ」


向日葵「櫻子…必ず見つけてみせますわ」


京子「う~ん、これといって変なところはないか…」キョロキョロ


向日葵「あら、この鏡…」


――

京子「ひまっちゃん、何かあった?」


向日葵「この鏡…何かひっかかりますわ」


京子「鏡が?」


奈々「鏡の中の異世界…そういう可能性も十分にあるな。測定値も鏡に近づくほど高くなっている」ピピッ


向日葵「櫻子…。ここにいますの?」フッ


京子「あっ!?」


――

京子「ひ、ひまっちゃんが鏡に吸い込まれた!?」


奈々「どうやらこの鏡が異世界のゲートのようだな。我々も後を追うぞ」


京子「あれ?先生、この鏡通り抜けられないですけど…」


奈々「何だと?」


京子「だめです。押しても叩いても変わりません!」ペタペタ


奈々「大室くんと接点の強い古谷にしか後は追えぬようだな…」


京子「先生、どうします?」


奈々「ここはひとまず古谷に任せよう。うまくいけば、大室くんを連れて帰ってこられるかもしれん」


――

屋上倉庫?


向日葵「か、からだが鏡をすり抜けましたわ…!」


向日葵「ここは…屋上倉庫?」


向日葵「しかし、歳納先輩も西垣先生もいらっしゃりませんし…」


向日葵「鏡を通れば元の世界に戻れるようですね」スッ


向日葵「ともかく、櫻子を探さないと…」


――

異世界 七森中 廊下


向日葵「同じ…まったく同じ世界ですわ。ここは七森中のようですね」


向日葵「櫻子は…こちらの世界を元の世界と勘違いして、そのまま残っているのでしょうか?」


向日葵「だとすると、櫻子はどこに…」キョロキョロ


あかり?「どうしたの、向日葵ちゃん?」


向日葵「赤座さん!」


向日葵「(驚きましたわ。こちらの世界にも、元の世界と同じ方がいるのですね)」


向日葵「赤座さん。櫻子を見かけませんでしたか?」


あかり?「櫻子ちゃん?あれ、さっき向日葵ちゃんと一緒に生徒会室に戻ったんじゃなかったっけ」


向日葵「(もう一人の私もいるのですね。そして、この世界には櫻子が存在している…)」


向日葵「ありがとうございます、赤座さん。それでは、急ぎますのでこれで」


――

生徒会室前 廊下


櫻子「いやー、重かったけどなんとか運び終わったなぁ」


向日葵?「えぇ、櫻子が頑張ったからですわ」


櫻子「いやいや。向日葵が手伝ってくれなかったら、さすがに一人ではムリだったって」


向日葵?「櫻子の役に立てて光栄ですわ」


櫻子「そんじゃ、生徒会室戻ろう。先輩たちにも、運び終わったこと報告しないと」


向日葵?「そうですわね」


櫻子「さ、行くぞー」ギュッ


向日葵?「櫻子…なぜ私の手を?」


櫻子「私がそうしたいから!」


向日葵?「ふふっ」



























向日葵「そこまでですわ!」


――

櫻子「向日葵?えっ、どういうこと!?向日葵が二人…?」


向日葵「櫻子、この世界はあなたがいるべき世界ではありません。横にいる私も偽りの私です。さぁ、早く元の世界に帰りましょう」


櫻子「ひ、向日葵が偽物?そんなことって…」


向日葵?「櫻子、騙されてはいけません!あちらの私は偽物の私です。あなたを別の世界に連れて行く気なのです」


櫻子「ど、どういうことなの?わけがわからないよぉ…」


向日葵「櫻子…」グスッ


櫻子「向日葵!?」


――

向日葵「あなたがこちらの世界に迷い込んでから…私の心の中はからっぽでした」


向日葵「あなたがいない世界…不安で、恐ろしくて…とても寂しかった」


向日葵「あなたがそばにいること。当たり前と思っていたことが、こんなにも私の胸の内を締め付けて…」


向日葵「辛くて、悲しくて、心が壊れてしまいそうで…」


向日葵「お願いです。私を信じて…私のもとに戻って来てください…」


向日葵「もう、ひとりぼっちはいやだよ。さーちゃん…」


櫻子「ひま…ちゃん…」


――

櫻子「…」スッ


向日葵?「櫻子!?だめです、行ってはいけません!」


櫻子「ごめん…。きみは、本物の向日葵じゃない…」


向日葵?「違います!私が本物の古谷向日葵です。あなたの幼馴染でクラスメートの古谷向日葵です!」


櫻子「本物の向日葵はね…」


櫻子「いつも口やかましくて、態度が鼻につくし、全然素直じゃないし…」


櫻子「すぐ怒るし、おっぱい星人だし、櫻子様の足元にも及ばないけど…」


櫻子「でも、私のために涙を流してくれる友だちは、向日葵だけなんだ」


櫻子「さっきの態度ですぐにわかったよ。向日葵は…この世界にたった一人しかいないんだから…」


――

向日葵?「どうして…どうしてですの!?私の方が…あなたにふさわしいのに。私と一緒にこの世界で暮らせば、あなたはもっと幸せになれるのに…!」


櫻子「きみの気持ちも嬉しかった。私だって…本当は向日葵に対して素直になりたい」


櫻子「でも、それは自分の意思で決めないといけないんだ。時には傷ついて、傷つけてしまうかもしれないけど、それが友だち…。私と向日葵の関係なんだ」


向日葵「櫻子…」


櫻子「向日葵、心配かけてごめん…」


向日葵「いいえ。あなたが戻って来てくれるなら、何も言うことはありません。さぁ、帰りましょう。私たちの世界に」


――

異世界 屋上倉庫


向日葵「この鏡から元の世界に帰れますわ」


櫻子「それにしてもなぁ、別の世界に迷い込むなんて…。あかりちゃんたちに話したらびっくりするだろうなぁ」


向日葵「あらっ…」


櫻子「どうしたの?」


向日葵?「…」


向日葵「邪魔はさせませんよ」


向日葵?「どうして?どうして私はいつも一人ぼっちなの?」


向日葵「櫻子、聞く必要はありませんわ。あなたを引き止めようとする気ですわ」


櫻子「…」スッ


向日葵「ちょっと、櫻子…!」


――

櫻子「ごめんね、私は元の世界に帰らないといけないんだ」


櫻子「でも、誰にでも…きみにだって友だちはできるよ」


向日葵?「どうやって…?」


櫻子「ほんの少し勇気を出して、自分から前に進んでみるんだ。きみが前に進んだ分、友だちとの距離はぐっと近くなる」


向日葵?「本当…?」


櫻子「大丈夫、自分を信じて。友だちはきっときみを待ってる」


向日葵?「私にも…私にも友だちができる…?」


櫻子「そう!絶対に大丈夫!友だちの私がそう言ってるんだから!」


向日葵?「友だち…」


向日葵「櫻子、もう行きますわよ」グイッ


櫻子「わーっ、タンマ向日葵!まだこの子の本当の名前を聞いてな…」


フッ


向日葵?「…」


向日葵?「私の…私の名前は…」


――

元の世界 屋上倉庫


京子「うわっ、ひまっちゃんが鏡から戻ってきた!」


奈々「うまくいったようだな、古谷」


向日葵「歳納先輩に西垣先生…。よかった、無事に戻ってこれたようですね」


櫻子「もうーッ、向日葵のバカ!さっき話の途中だったじゃん!」


京子「おぉ、櫻子ちゃんも。あれ?そもそも私たちは何をしにきたんでしたっけ?」


奈々「それは…古谷が鏡の中に消えたから、対策を練っていたのだろう。しかし、何か大事なことを忘れているような気がするが…」


向日葵「(櫻子が戻って来たから、みなさんの記憶にも櫻子は存在しているようですね)」


向日葵「ひとまず、これで一件落着ですわね」ホッ


櫻子「よくない!あの子の名前聞きそびれたじゃん!」ギャーギャー


――

数日後 放課後 1年生教室


櫻子「今日はちなつちゃんのうちでお泊り会だよね!楽しみだなー!」ワクワク


ちなつ「今日の夕飯は私が腕によりをかけてふるまうからね。なんたって、あかりちゃんのお姉さん直伝のレシピだから!」フンス


あかり「あかりも楽しみだよぉ~」


櫻子「夜はまくら投げ大会ね!」


向日葵「だめですよ櫻子、吉川さんに迷惑でしょう」


櫻子「そんじゃ、怪談大会やろう!」


ちなつ「そ、それならまくら投げの方がいいかな…」


――

櫻子「う~ん、不評だなぁ。怪談大会は中止かな…」


あかり「そういえば…あかりこの間、七森中の七不思議を友だちから聞いたよぉ」


櫻子「何それ、面白そう!あかりちゃん、今ここで聞かせてよ!」


あかり「いいけど…ちなつちゃんは大丈夫?」


ちなつ「ま、まぁそんなに日も暮れてないし…大丈夫だとは思うけど」


櫻子「それじゃ、早速始めてよ。あかりちゃん!」


あかり「えっとね、この七森中にもよくある七不思議があるんだよ。3年生の教室、2階のトイレ、理科準備室、放送室、プール、焼却炉、それに屋上の話なんだ」


向日葵「屋上…ですか?」


――

ちなつ「屋上って普段は入れないよね。どういう話なの?」


あかり「それじゃあ、屋上倉庫の話から始めるよぉ」


櫻子「屋上倉庫…?」


あかり「ここの屋上ってフェンスもしっかりしてて、本当は鍵なんかかけなくても安全なんだよね。このお話は、どうしてそんな屋上に鍵をかけるようになったかって話だよぉ」


ちなつ「そういえば、校内見学したときはフェンスもあったような…」


あかり「それで、少し前の話なんだけどね。この学校に友だちができなくて悩んでた子がいてね」


あかり「その子はいつもひとりぼっちで、休み時間はいつも屋上にいたんだって」


あかり「教室にいても友だちもいないから、仕方なかったんだろうね」


あかり「その子は、屋上に聞こえてくる他の生徒が友だちと遊ぶ声を聞いて、いつもうらやましく思っていたんだ」


あかり「その想いはどんどん強くなっていって…でも、その子に友だちができることはなかった」


櫻子「ど、どうして?」


あかり「友だちができる前に…亡くなったからだよ」


――

あかり「屋上には、今でもその子の霊が友だちを求めてさまよっているんだ」


あかり「もし屋上の倉庫に入って、中にある古い鏡を覗いてしまうと…」


あかり「亡くなったはずのその子が映って、鏡の中の世界に引きずり込まれてしまうらしいよ」


あかり「鏡の中の世界で、いつまでもその子の友だちでいないといけなくなる…」


あかり「こんな噂がどんどん広まって…屋上自体に立ち入れないよう、鍵がかけられるようになったんだ…」


――

ちなつ「あ、あかりちゃん。初めっからすごく怖いよ!私、もう屋上には近づかない!」


あかり「大丈夫だよ、屋上に行くことなんてないわけだし。まして、倉庫には入ることがないからね」


ちなつ「確かにそうだけど…もう怖い話はやめにしようよ…」ガクブル


櫻子「そ、そうだね」


向日葵「それがいいと思いますわ」


――

通学路


ちなつ「はぁ~、あかりちゃんの話が怖すぎてテンション下がるよ…」


あかり「ご、ごめんね。ちなつちゃん」


櫻子「なぁ向日葵、あかりちゃんのさっきの話…」


向日葵「わかっていますわ。どうやら私たちが会ったのはその女の子のようですわね」


櫻子「私、向日葵が迎えに来てくれなかったら、ずっとあのままだったのか…」


――

吉川家 リビング


ちなつ「それじゃ、私は夕飯の支度をするから、みんなはくつろいでてね」


あかり「ちなつちゃん、何かお手伝いしなくてもいいの?」


ちなつ「そうだね~、あかりちゃんに手伝ってもらった方が早くできそうかな」


あかり「あかりも一緒に準備するよぉ」


ちなつ「ありがとう!櫻子ちゃんと向日葵ちゃんは私の部屋でゆっくりしててね。すぐお菓子と飲み物を持って行くから!」


――

ともこ「あら、ちなつのお友だちね」


櫻子「こんにちわ!」


向日葵「大勢で押しかけてご迷惑をおかけしますが…」


ともこ「いいのよ。ちなつのお友だちならいつでも歓迎するわ。今日はお泊り会ね」


櫻子「はい!昨日から待ち遠しくて眠れませんでした!」


ともこ「そう言ってもらえると嬉しいわ。狭いかもしれないけど、ゆっくりしていってね。今からちなつの部屋に行くのかしら?」


向日葵「はい」


ともこ「それなら、私が飲み物とお菓子を持って行くから、先にあがっていて」


櫻子「いいんですか?よーしっ、向日葵行くぞー!」タタタ


向日葵「あっ、こら。待ちなさい、櫻子!」


――

ともこ「ちなつも素敵な友だちがたくさんいるようね」


ともこ「それにしても…さっきの子、どこかでみたような…。前にちなつの紹介で会ってたかしら?」


ともこ「それに、なんだか似ているのよね」


ともこ「私の、初めての友だちに…」


おわり


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SS好きの名無しさんから
2016-03-31 23:27:11

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36: SS好きの名無しさん 2016-06-15 22:57:35 ID: TTjNfbsD


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