2016-12-22 09:58:37 更新

概要

来訪してきた魔理沙に連れられ幻想郷ツアーズ(?)二日目の行程へ…
今回は吸血鬼の館へ行くらしいが…

え?それって大丈夫なの…?


前書き

このssは、東方Projectの二次創作です。

また、筆者はこの作品が処女作となります。
至らぬ点も多いとは存じ上げますが、以下の点にご容赦いただける方は、ぜひ観覧していっていただければと思います。

【注意点】
・筆者はにわか東方ファンかもしれません。原作設定を無視してしまっている可能性があります。

・展開がベッタベタです。(鈍感主人公・どこかで見た展開)そうならないように注意してもそうなってしまう不思議

・直接的な性描写はありませんが、ちょっと匂わせるような展開があったりするかもしれません。一応R-15くらいです。

・一応長編にするつもりで書いてます。現在18話ぐらいまでは書き溜めているので、続きが読みたい!という奇特な方がいらっしゃれば、評価なりコメントなりをしていただけると筆者は大変喜ぶと思います。

以上の点について、何卒ご了承の上、観覧いただければと思います。


[第十一話]

"彗星"









アリス、魔理沙、吉と俺で朝食を食べた後、食後のお茶を飲んでいると。


「と、いうわけで今日は幻想郷ツアーズ二日目の行程だぜ!」


「…魔理沙。何がというわけでなのかわからないが…一昨日やったばかりじゃんか…」


「うるさい。私は昨日ハブられて怒っているんだ。今日は私を楽しませろ」


お前はどこのジャイ○ンだ。


「いや、俺としても幻想郷の案内をしてくれるのは正直助かるところはあるんだ、だがな…」


「だが、なんだよ?」


「昨日も一昨日も、アリスの手伝いなんにもできてないしな、今日は出来れば家で掃除とか薪割りとかしようと思うんだが…」


「むむむ…それじゃ私が面白くないじゃないか!」


…知らねーよ…


「幸祐?行ってきてもいいわよ?」


「アリス?いいのか?食事当番だってほとんど出来てないと思うんだが…」


「うん。今日は私も最近できてなかった魔法の研究とか人形のことをやりたいと思うし…だからあなたも自由にしていいわ」


「うーん…そうか?ならいいのかなぁ…」


「おうおう理解のある嫁さんだなぁ!さすがアリス!」


…まだそのネタひっぱってくのか


「よ、嫁?!」


…アリスも、反応すると魔理沙が喜ぶだけだから。


「…まぁいいけど。つーわけで魔理沙、アリスの許可も出たからな、行くよ」


「よしきた!」


「で、この前は博麗神社に案内してくれたわけだが、今日はどこに行くんだ?」


「んーそうだなぁ…よし!私も別件でちょっと用があるから、今日はレミリアんとこにいこう」


「レミリア?」

たしか霊夢の話の中で出てきたような…


「吸血鬼よ。…まぁちょっと…いや、だいぶ尊大でワガママで好戦的だけど…まぁ悪い奴じゃないわ」

アリスが補足してくれる。


「…えぇ…大丈夫なのかそれ…」


「そうね…たぶん大丈夫だと思うけど…一応保険は必要かもね、ちょっと待ってて」

と、言いながら、アリスはキッチンの方に向かっていった。


「…なぁ魔理沙、アリスも言ってたが、大丈夫なのか?」


「だいじょーぶだいじょーぶ!まぁいざとなったら私が守ってやるさ!」


うーん、心強いっちゃ心強いけどなぁ…まぁ行ってみなきゃわからんか。


「おまたせ」

ほどなくして、アリスが何か包装されたモノを持って戻ってきた。


「これ、手土産に持っていっていいわよ。昨日飲まなかったワインが丸々一本余ってたからね。

まだ空けてないし、それなりに上等なやつだから手土産としては十分でしょう」


「いいのか?アリス?」


「うん…まぁ保険ね。あなたが血を飲まれるような事になったら、私も嫌だし…

あいつもワイン好きだったはずだから、これを渡せばそれなりには歓迎してくれるでしょう」


「…ありがとう、助かるよアリス」

…魔理沙じゃないが、アリスは本当にいい嫁さんになりそうだなぁ…

アリスが奥さん…うーん、もしそうなった奴がいたら、そいつは幸せ者に違いない。


「準備はいいかー?じゃあそろそろ行こうぜ!」


「あぁ、はいはい。吉ー起きてくれ」

食後、リビングのソファでくつろいでいた吉を呼ぶ。

「出かけるの?主人」


「うん、魔理沙に案内してもらってね」


「なんだ?にゃんこも連れてくのか?」

あぁ、そうか。魔理沙は昨日いなかったからな。


「いや、昨日練習して俺も飛べるようになったんだけどね。俺が飛ぶには吉の協力が必要なんだ」


「ふーん…なんか本格的に使い魔みたいだな。私もなんか考えようかなぁ」


…使い魔ってのがどんなことをするのかはわからんが…

もし魔理沙にそんなのが出来たら、その使い魔はとんでもなく苦労しそうなので止めた方がいいと思う。


「よしおっけー。魔理沙、準備できたぞ」

吉を肩に乗せ、アリスからもらったワインを持つ


「うっし!じゃあいくか!旦那借りてくぜ、アリス」


「だ、旦那じゃないわよ。…気を付けてね幸祐、いってらっしゃい」

「ありがとう。じゃあ行ってくるよ、アリス」

うーん、魔理沙に感化されたわけじゃないが、なんか新婚気分でちょっといい気分だぞ。








魔理沙とともに幻想郷の空を飛ぶ。

今日は前回と違い、魔理沙の箒には世話になっていないためスピードは控えめだ。


「ほーうちゃんと飛べるじゃないか、感心感心」

魔理沙に褒められた。


「まぁなー…つってもさっきも言ったけど、飛んでるのは吉のおかげなんだけどな」

肩にぶら下がっている吉をなでながら言う。


「でも使ってる霊力は主人のものらしいから、一概にそうとも言えないわよ」


「ふーん…まぁ細かいことはどうでもいいんじゃないか?それより、弾幕も打てるようになったって?霊夢から聞いたぞ。

なんでも、あの紫に土をつけたらしいじゃないか」


「ああ…まぁだいぶ極端なハンデもらって…だけどな」

ついでに言うとあのやり方は初見じゃないと通用しない、二度目はないと思うけどね…ないよな?


「それでもあの紫に勝ったんだから十分すごいと思うぜ。今度私とも弾幕ごっこやろうな!」


えぇ、あのごんぶとレーザーと戦うのかよ…

「…そのうちもし機会があったら前向きに検討してみるかもしれないな」

と、やんわりと拒否してみたら…


「よし!言質とったぜ。楽しみだなぁ」


…ポジティブに受け取られてしまった。

ま、まぁ、そうそうそんな機会なんかないだろうから大丈夫だろう…たぶん、きっと。


「お、そろそろ見えてきたぜ。あれがレミリアが住んでる『紅魔館』だ」

魔理沙が指差す前方を見る。まだかなり先だが、そこには遠目にもかなりの大きさの赤い洋風の館があった。


「うわぁ…いかにも、って感じだな」


「まぁあんまり趣味がいいとは言えないな…さてと」

魔理沙が体勢を前傾姿勢にし、何か光を帯び始める。


「…魔理沙?」


「さっきも言ったが私は別件がある、先に行くから後から入ってきな。

なに、用事が済んだら紹介ぐらいしてやるさ」


「…別件はわかったんだが、なんで力溜めてるんだ?」

それぐらいは、なんとなくわかる。


「それは…こういうことだぜ!いっけー!

彗星『ブレイジングスター』!!」


そう叫ぶとともに、とんでもない速さで、とんでない量の光を伴って、魔理沙が館に突撃した。


「来ましたね!今日こそは侵入を阻止させてもらっ…もげらっ」


…途中なんか女の人が轢かれてたように見えたが、大丈夫なのだろうか…










魔理沙が紅魔館とやらに突撃したあと、俺と吉はゆっくりと紅魔館へ向かっていた。


「なぁ吉よ」

「なに主人?」

「…どうみても魔理沙は紅魔館とやらに突撃したように見えるんだが、俺たちはこれから挨拶にいくんだよな?」

「…そうね」

「どう考えても好意的ではない対応が待ち構えている気がするんだが、大丈夫なのだろうか」

「…」

「…帰るか?」

うん、ひよった。


「ま、まぁ魔理沙ってこの前からあんなとこあるし…あれもいつもの感じなんじゃないかしら?だ、だからきっと大丈夫よ」


「…そうかなぁ」

そう言えばさっき女の人が轢かれてたっぽいけど大丈夫なのかな…たしかこの辺だったような…


「あ、いた」

地面の方を注視すると、おそらく先ほど魔理沙に轢かれたと思われる女性がのびているのを見つけた。

うーん…さすがに連れがした粗相なわけだし、ほっておくのは良くないよな…


「吉、あの人のそばに降りてくれ」

「りょーかい」


のびている女性の側に降り立つ。


「おのれ白黒め~…」


「あのー大丈夫ですか…?」

目を回している女性を支え、ひとまず抱き起す。

む、この人も美人だなぁ、なんだろ?チャイナドレスっぽいの着てるし、中国感がすごい。

…それに…これは服の上からでもわかるきょにゅ…ゲフンゲフン


「…主人、顔」

はっ、いかんいかん


しばらく支えていると女性が目を覚ました。


「う~ん…はっ!あなたはさっき白黒と一緒にいた人間!さてはあなたも我が館に侵入するつもりですね!」

と、同時に起き上がり構えをとられた。


「あ、いえ!たしかに魔理沙とは知り合いですが…その、今日は、えーと…紅魔館にご挨拶に伺わせていただきまして…」

決してあの突撃娘と同類ではないことを念押ししておく。


「あ、これはどうもご丁寧に…お客様でしたか、それは失礼いたしました」

ちょろっ!

いいんかそれで!

いや納得してくれたのは助かるんだけども…


「私は紅魔館の門番を務めさせていただいております。紅美鈴と申します。よろしくお願いいたします。

…お名前をお聞きしても?」


「あ、ご丁寧にどうも…えーと俺は1か月ほど前に外の世界から来た添木幸祐と申します。

あ、こっちは飼い猫の吉です」


「添木さん…ですね。えーと、当家にご挨拶に来ていただいたとのことですが…

申し訳ありません、私ではお目通ししていいかの判断が出来ないもので…一緒に門まで来ていただいてもよろしいですか?」


「構いません。よろしくお願いします」

紅さんと連れ立ち、紅魔館の門の方向へ向かう。

うーん、まだそんなに色んな人に会ったわけじゃないけど、アリスと同じくらい常識人でいい人っぽいなぁ。


…でも、どことなく、損な役回りをしてそうな気がするのは…たぶん間違ってない気がする。



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[第十二話]

"侍従"









紅さんと連れだって歩いて五分ほどで、真っ赤な門の前に到着した。


「すいません。こちらで少々お待ちいただけますか?」

「あ、はい」

「ありがとうございます。えーと…咲夜さーん?」

紅さんが誰かに呼びかける、さっき言ってた判断できる人を呼ぶのかな…


と、

「なに美鈴?呼んだかしら?」

いきなり紅さんの隣に人が現れた。

え?いま突然でてきたよな…どゆこと?紫さんのスキマみたいに空間から出てきた感じでもなかったし…


「あ、咲夜さん。えーとですね、当家にご挨拶に来てくださったお客様がいらっしゃいまして…なんでも外来人の方みたいで」


「あらそう、ありがとう。こちらの方がそうかしら?」

現れた女性がこちらに振り向く。

メイドっぽい服装(スカートはミニだが)に銀髪の髪、スラっとしたスタイル、うーん。

…毎度のことだが美人なんだよなぁ…なんだ、幻想郷には美人かかわいい子しかおらんのか、けしからん。


「はじめまして、当館にご挨拶に来ていただいたとのこと、ありがとうございます。

わたくし、当家でメイド長をさせていただいております、十六夜咲夜と申します」


「ご丁寧にありがとうございます。外の世界から来ました、添木幸祐と申します、で、こっちが飼い猫の吉です。

あ、これ…当主の方がワインがお好きとお聞きしたので…手土産です」


「まぁ…これはこれは。ありがたく頂戴させていただきます。

…こんな手土産までご用意してくださって、添木さんはご丁寧な方なようですので、私の判断で通してしまっても構わないのですが…一応、当家の主に確認させていただいてもよろしいかしら?」


「構いません。突然の来訪にも関わらず、ご対応いただきありがとうございます」


うん、この辺は伊達に外の世界で社会人やってない。対応としては問題ないはずだ。


「…では、少々お待ちくださいませ。

あ、あと美鈴。あなたまたあの白黒を通したでしょう。今日はご飯抜きだから」


「え!咲夜さんそんな!」


と、紅さんが言い終わるかぐらいで、また十六夜さんは消えてしまった…


うーんどうなってんだろあれ…瞬間移動?

というか紅さん…やっぱり損な役回りの人だったのね…







五分ほど後…


最初に現れたときの様に、十六夜さんがまた突然現れた。


「大変お待たせいたしました。主に確認したところ、通して構わない、とのことです。

また、いただいた手土産をお渡ししたところ、大変喜んでおられました。改めてお礼申し上げますわ」


「いえ、喜んでいただけたなら、なによりです」

ふぅ、なんとか歓迎してもらえたみたいだ、アリスありがとう…


「ではこちらへ…」

十六夜さんが門を開け中へと促す。


「あ、ありがとうございます。…紅さんもありがとうございます、また後でお話しさせてください」


「美鈴で構わないですよ~。はい!お帰りの際にまたお話ししましょう!」


「ではどうぞお入りください」

十六夜さんに連れられ、館の中に入っていく。うーん内装も見事に赤が多いなぁ…にしてもでかい…


「立派な館ですね…」


「ありがとうございます。ところで、添木さんは外の世界からいらしたとのことですが、いつごろこちらへ?」


「一ヶ月ほど前になりますね…」


「では、いまは人里で生活を?」


「あ、いえ。アリス…アリス・マーガトロイドさんの家でお世話になってます」


「ああ、あの人形遣いの…彼女は積極的に人間の面倒を見るようなタイプには見えなかったですが…」


「まぁその辺はいろいろありまして…」

まぁそんな色々あるわけじゃなく、ただ居させてもらってるだけなんだが…そこは言わんでもいいだろう。


「なるほど…まぁ深くはお聞きしませんが」


「お気遣いありがとうございます」


「さて、着きましたわ。こちらで主のレミリア・スカーレットがお待ちです」

ひときわ大きな部屋の前で止まり、十六夜さんがそう言う。


「案内ありがとうございます」


「いえ、仕事ですので…それでは中にご案内しますが、くれぐれも失礼の無いようにお願いいたします」


「承知しました」


「…まぁ他の連中と違って添木さんなら大丈夫だとは思っていますが、では…

お嬢様、お客様をお連れしました」

十六夜さんがドアをノックし、中に呼びかける。


「入りなさい」

すると、中から女性の声がした。

…名前からして女性かと思ったが、やっぱり女性だったか…てーかこのパターンだと、どう考えてもまた美人なんだろうなぁ。


「失礼します…」

ドアを開けて中に入る、とそこには…


「ようこそ紅魔館へ、当主のレミリア・スカーレットよ、はじめまして」


…でかいイスにふんぞり返っている幼女がいた。

ん、あれ?想像とちょっと…いやだいぶ違うぞ…俺の予想だとそれはもうまた妖艶な女性が待ち構えてると…

いや、可愛いは可愛いんだがね、どう見積もっても小学校高学年がいいとこだ。


「…いま、なにか失礼なことを考えなかったかしら?」

あ!やべえ!えーとここは…ある程度正直に…


「…すいません。想像よりも大変お若かったもので、正直驚いてしまいました。申し訳ないです」


「…ふむ、なかなか見どころがあるじゃない。あと私はこれでもあなたよりだいぶ年上よ」

…えぇ、まじで…?まぁ吸血鬼って言ってたし、歳をとらないとか、そーいう類のアレなのかな…


「それで、咲夜から聞いてはいるけど、一応名前を聞いてもいいかしら?」


「…添木幸祐といいます。ひと月ほど前に外の世界から来ました。

本日はレミリアさんにご挨拶をさせていただこうと思いまして」


「それはわざわざありがとう。…ああそれと手土産にいただいたこのワイン、早速いただいてるけど、それなりに美味しいわね。

礼を言うわ」


「それはよかったです」


「さて、挨拶も済んだことだし、よかったら外の世界の話とか、いろいろ聞かせてくれないかしら?」


「…わかりました」


うん、なんとか掴みは大丈夫っぽいな…アリス…あらためてありがとう…








十六夜さんが入れてくれた紅茶をいただきながら、レミリアさんと外の世界の話や、幻想郷に来てからの俺の話をしていると。


ドーン!と突然大きな音がした。


「うわ、なんだっ?!」

雷でも落ちたかのような音だったぞ…


「あぁ、あれね…たぶん、うちの妹と白黒の奴が弾幕ごっこでも始めたんでしょう」


…また魔理沙か…あいつは落ち着きって言葉を知らんのかね…


「っていうか魔理沙がご迷惑おかけしたみたいで、すいません…」

あれ?この言い方だと俺が魔理沙の保護者みたいじゃないか…?


「別にあなたが謝る必要はないわ。…大方、ここまで案内してくれるっていうからついてきたら、あいつが一人で突撃しだしたんでしょう?」

「あはは…ご明察です」


…すげえな

つーかレミリアさん、たしかに見た目は幼女なんだが、雰囲気は全然違う、なんでも見通してるって言うか…


「それにアレはアレで妹のいい遊び相手になってるからいいのよ」


「そういうもんなんですか…」


「そういうものなの。ところで幸祐?あなたこの後の予定は?」


「予定…ですか、いまのところは特に…」

魔理沙もアレだしな…


「そう、なら咲夜に案内させるから、よかったらこの館を見学していったらどうかしら?」


ふむ、館を見学ね…特にすることもないし、いいかもな。


「よろしければ、ぜひ」


「決まり、ね。咲夜」

レミリアさんが十六夜さんを呼ぶ。


「ここに。お呼びですか、お嬢様」

おう…またいきなり現れた…ホントどうやってんだろ。


「幸祐に館を案内してやってちょうだい」


「かしこまりました。では添木様、こちらへ」


「はい。…レミリアさん、また後で」


「ええ」

十六夜さんと連れだって部屋を出る。


「すいません十六夜さん、お手数おかけして」


「いえ、先ほども申しましたが、仕事ですので」

うーんTHE完璧って感じ…仕事できそうだもんなぁ。


「あと、『十六夜』…と呼ばれるのはあまり慣れていないので、出来れば『咲夜』と呼んでいただいてもよろしいですか?」


そうなん?十六夜ってなんかかっこいいけどなぁ。


「わかりました咲夜さん。それなら俺のことも幸祐でかまいません」


「いえ、添木様はお客様なので、そのようなことはできません」


「そ、そうですか」

クールだなぁ…


「…ですが」


「ですが?」


「…もしプライベートでお会いすることがあれば、その時はそう呼ばせてもらいますね」

と、ちょっとだけ微笑まれウィンクされてしまった


…やば…可愛い、さっきまですごいクールだったから、ギャップがやばい…


「では、参りましょうか」

すっ…と咲夜さんは元通りのクールさに戻り、振り返り先導して歩き出す。

その姿に数瞬ボーッと見とれ、我に返ったあと慌ててついていくと。


「…主人?アリスに言うわよ」

肩に乗る吉にボソッと言われた。


「ななななんでそこでアリスが出てくる?!」

関係ないやろ!


「さて、ね…」


「…と、ところで、お前いまのいままでずいぶん大人しかったな?」


「…そうね、下手に口を挟めなかった…というか、正直ビビってたわね」


「ビビる…?たしかに吸血鬼らしい高貴さというか、尊大さみたいなものはあったけど、そんな怖い感じじゃないと思うが…」


「主人は人間だからね、動物のあたしの方がたぶんその辺、敏感なのよ。単純な強さだけで言えば霊夢とか魔理沙も相当なものなのかもしれないけど…なんていうかあのレミリアって子からは生物としての絶対的な格の違いがビシビシと伝わってきて…ね」


「…そういう意味だと紫さんも妖怪みたいだが…」


「紫からもそれに近いのは感じるんだけど…あっちは意図してその辺うまく隠してるって感じだし…

それに紫のは怖いというより…よくわからない、って方が正しいわね。

レミリアから感じるのはもっと単純で、圧倒的な恐怖よ」


「…よくわからんが、注意した方がいいってことか?」

と、ここまで小声でやり取りしていたのだが…


「お言葉ですが、添木様。ご心配される必要はございません」

と、咲夜さんに言われる。どうやらばっちり聞こえていたみたいだ。


「あ、いえ。すいません、ご主人に対して失礼を」


「かまいません。そちらの猫ちゃんが感じている恐怖も、当然といえば当然ですしね。

ですがご安心ください。お嬢様は生物として絶対的な力を持っていることは確かですが、あなたをお気に召されていることも、また確かです」


…それは…うーん、光栄というか助かったというかなんというか…


「ですので、添木様が礼を逸した言動をしなければ、お嬢様もまた添木様に対して友好的であることでしょう」


「…肝に銘じておきます」


「なにぶん、お嬢様も退屈されていることが多いですからね。あなたのように外の世界の話などをしてくれる方は貴重な存在でしょう。また、この幻想郷は礼儀を知らない人間が多いですから…適度な緊張感と恐怖を持ち、かつ丁重に挨拶に訪れてくださった添木様に好意的になるのも、自然なことです」


「なるほど…」

つまり、対応を間違えていれば危なかったらしい…まぁそりゃ吸血鬼、だしな。


というか、その吸血鬼の館に突撃してる魔理沙はなんなんだ…

ああ、アレが礼儀を知らない人間の代表か…まだたった数日の付き合いだが、イイヤツではあるっぽいんだがなぁ。


咲夜さんの後ろを歩きながら、今後もレミリアさんに対する礼儀はちゃんと心得ておこう、と固く心に誓ったのだった。


…なお、今後の二人の関係がいまとはちょっと違ったものになるのは…

この時からレミリアさんは分かっていたらしい。


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[第十三話]

"泥棒"









咲夜さんに案内され、紅魔館の中を見学する。


ちなみにさっきまでは、庭園に案内され、門番兼庭師でもあるらしい美鈴さんと改めて自己紹介し、他愛もない話をしてきたところだ。

「さて、次は…図書館にご案内させていただきます」


「図書館まであるんですか…ホントにすごいですね」


「いえ、それほどでも。それに図書館に関しましては管理されているのはお嬢様ではございません」


「と、いうと?」


「当館にはお嬢様のご友人のパチュリー・ノーレッジ様という魔法使いが住まわれているのですが、図書館に関しましてはそのパチュリー様の管轄となっております」


なるほど…というか、アリス・魔理沙に続いてまた魔法使いか…結構幻想郷だとポピュラーなのかね…


「ところで咲夜さん」


「はい。なんでしょう」


「俺の勘違いじゃなければ…さっきからだんだんと、ドカンドカンと鳴り響いてる方に近づいて行ってる気がするんですが…」


どう考えても爆発音みたいなのが聞こえる…間違いなく空耳ではない…

これってさっきレミリアさんが言ってた、魔理沙と妹さんとのやつじゃ…


「ご安心ください」


咲夜さんはニッコリ笑うと

「勘違いではございません」


そうのたまった。


……ご安心できないんですが?!


「えーと咲夜さん?それってもしかしなくても危険なんじゃ…」


「まぁ始まってから結構経っておりますし、いつもの感じならそろそろ終わる頃ですので、大丈夫でしょう」


えぇ…いつもこんなことやってんのかよ…ちょっとバイオレンスすぎません?

お前らアリスを見習えアリスを…いや、アリスも意外とバイオレンスではあったな…他は…ダメだ、見習わせる奴がいねぇ…


そんなことを考えているうちに咲夜さんに連れられ、大きな扉の前に到着した。

…どうやら咲夜さんの言っていたことは本当のようで、すでに先ほどまでの騒音は無くなっていた。


「こちらが紅魔館の図書館『ヴワル魔法図書館』となります。では…パチュリー様、咲夜です、失礼いたします。」

咲夜さんが扉をノックし、中に入る。すると…


「はっはっは!ちょっとだけ危なかったが、今回も私の勝ちみたいだなフラン!」

「むぅー!!」


箒に乗って幼女に向かって高笑いしている魔理沙がいた。

どうやら弾幕ごっことやらは魔理沙の勝ちだったらしい、妹さんと思わしき幼女はふくれっ面になってるしな…

てーか何やってんだよ魔理沙…


「お、こーすけ。いやぁすまんすまん!別件が長引いちゃってな!」


別件て…この弾幕ごっことやらのことかい…


「いいけどさ…あんま小さい子をいじめるなよ」


「おいおい人聞きが悪いな。これはいじめじゃなくて遊んでやってただけだ、それにレミリアに会ったのなら分かると思うが、こいつも私らより全然年上だぜ」


…まぁ遊んでやってると考えればいいことなんだろうか…?レミリアさんもいい遊び相手だと言ってたしなぁ。


「って、げっ!咲夜!」

魔理沙が咲夜さんを見て、いやーな顔をする。


「…はぁ、またパチュリー様の蔵書を盗みに来たのね、この泥棒は」


…ん?泥棒?盗み??


「それも人聞きが悪いぜ。何度も言ってるが、私は死ぬまで借りてるだけだ」


…どんな言いぐさだ…つーか魔理沙そんなことやってんのかよ、別件てお前…


「まぁいいわ、いま取り返すから…」


「やべっ!逃げろっ」


「待て魔理沙」


「待てと言われて待つ奴が…」


「いいから待て。咲夜さんもすいません、少しいいですか」


「…添木様?どうされましたか?」


「連れの不始末です…少し、任せてくれませんか?」


…実はさっきのを聞いて、ちょっとだけ俺も頭に来てる。連れてくるだけ連れてきて、自分は泥棒をしていたとはなかなかにひどい。

まぁ、実際は気のしれた仲間同士のおふざけの延長なのかもしれない…けど、こちらとしても少しは意趣返しをしないと気が済まない。

「魔理沙、勝負をしよう」


「…勝負?」

すでに逃走体勢に入っている魔理沙が興味をもつ。よし、おそらく魔理沙の性格的にこういう勝負事には興味を持ってくると思った。


「そう、勝負だ。さっき言ったろ?機会があれば弾幕ごっこをやろうって」

…こんな早くその機会が来るとは思ってなかったが。


「ほーう、いいじゃないか!じゃあさっそく…」


「まぁ待て、そこで…だ。情けないんだがハンデがほしい。

いかんせん俺はまだ弾幕ごっこ二回目の初心者だ。このまま戦ってもお前が圧勝で、なんも楽しくないだろう?」


「ふむ…なるほど。それはまぁたしかに…そうかもしれないな」


よしよし、のってきた。ここまで作戦通りだ。


「そこで、ルールと勝負の結果の精算を俺に決めさせてほしい、もちろん俺が圧倒的に有利になるようなルールだと感じたら異議を唱えてくれても構わない」


「…まぁいいだろう。言ってみろよ」


「一つ目。勝負のルールだが、お前は俺に攻撃を当てたら勝ち、こっちは俺達がお前のそのトンガリ帽子をとったら勝ちとさせてくれ」


「…いいけどなんでだ?」


「まぁまず第一に俺は普通に死にたくないからな、『堕としたら勝ち』ってしたら死にそうだ。

あ、ちゃんと威力は手加減してくれよ」


「…むぅ。まぁいいや。で、お前の勝ちの条件はなんでそうなった」


「そっちについては、俺はいまんとこ二個しか弾幕の種類がないからな、正直お前に当てられる気がしない。

だからまぁ、鬼ごっこの要領でタッチしたら勝ちってことにしてほしい。で、それが『帽子をとれたら』てわけだ」


「ふーんまぁそっちは全然かまわないぜ。どうせ触れられやしないからな」

よし、飲んだ。


「ありがとう。次に二つ目、勝負の結果の精算についてだが、魔理沙お前が勝ったら俺を一日好きにこき使ってくれてかまわない」


「ほーう。どんなことでもいいのか?」


「うん、まぁ殺したり大けがさせたりしなけりゃな…遊びでも研究でも仕事でもなんでも手伝ってやる」


「…なかなかいいねぇ。で、お前さんが勝った場合は?」


「俺が勝ったらお前はその盗品を置いていけ、そんでもって…さっきの咲夜さんの『また』って口ぶりから察するに、お前の家にまだまだあるんだろ?それをちゃんとここに返すこと。これでどうだ」


「えー。それはなんか私のが重くないか?」

重くねぇ、普通にちゃんと返せ。

…まぁでも渋られたら元も子もない。しょうがない…子供だましな挑発だが…


「…おいおいなんだよ?まさか空を飛べるようになって数日の若造に、普通の魔法使い様が、負けるのが怖いのか?」


「…言うじゃねーか。いいぜ、コテンパンにしてこき使ってやる」


「よし。成立だな」


ふぅ、なんとかなったか。

…たぶん俺の目論見が上手くいけば…普通の弾幕ごっこでは勝ち目がなくても、帽子をとるくらいはなんとかなるはずだ。

あとは吉の回避能力を信じるだけか…


「添木様…」

と、ここまで静観していてくれた咲夜さんに声をかけられた。


「あ、すいません咲夜さん。勝手なことして…」


「いえ。これでもし、パチュリー様の蔵書が帰ってくれば、パチュリー様もお喜びになるでしょう…ですが」


「ですが?」


「あの白黒。…魔理沙はかなり強いですよ?さすがに少々無茶かと…」


「…まぁ一応勝算があって提案した勝負です。任せてください」


「…そういうことでしたら」


「あ、あと俺が負けたら…こちらの図書館で一日雑用にでも使ってくれてかまいません。

咲夜さんの邪魔をしてしまいましたので…」


「い、いえ、そちらに関してはお気になされずに結構でございます」

うーん、優しい。そしてくーるびゅーちー。


「…主人、顔」

む、いかんいかん。

「吉。というわけで、悪いけど頼む」


「いいけど…正直勝てるかわからないわよ?弾幕を避けるのは頑張ってみるけど、近寄ったらやられる気がするわ」


「いいんだ。近寄れたら、たぶん俺の勝ちだ」


「…どういうこと?」


「つまり…ゴニョゴニョ…」

吉に耳打ちで作戦を伝える。


「…ふむふむ、あーなるほどね。たしかにそれなら勝ち目はあるかもね、でもいいの?たぶん結構危険な気がするけど…」


「う…ま、まぁ大丈夫だろ、たぶん…」


「それに、こき使っていいだなんて…勝手にそんな約束しちゃって…アリスが聞いたら怒るわよ?」


「…まぁそうだよなぁ。本来なら居候させてもらってる礼にアリスの手伝いしなきゃいけないのに、一日こき使われたら食事当番も掃除当番もできないもんなぁ」

…やっぱ怒るよなぁ。


「…はぁ…それでいいわもう」

…吉にあきれられた。なぜなのか


さて、まぁ痛いのは嫌だけど…がんばりますか…


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[第十四話]

"勝敗"









「おーい、もう作戦会議はいいのかー?」


図書館の上空から魔理沙に呼びかけられる。というか、この図書館の広さすごいな…

ツッコまなかったが、弾幕ごっこした後らしいのに、壁に並んでる本とかに傷一つない…何かで保護してるのかな。


「ああ、すまん。もういいぞ。…じゃあ吉、作戦通り頼む」

「わかったわ」

吉に合図して俺も魔理沙と同じ高さまで上がる。


「ねえ咲夜、あのお兄ちゃん誰?」

「妹様、あの方は紅魔館へのお客様の添木幸祐様です。なんでも、パチュリー様の本を取り返すのを手伝ってくれるみたいですよ」

下の方でなんかレミリアさんの妹さんと思わしき女の子と、咲夜さんが話している。


「…ふーん、なんか弱っちそうだけど大丈夫なの?」

うっ…そーゆうこと言わないで欲しいな~、事実だけど…


「そのようなことを言ってはいけませんよ、妹様。添木様は妹様のかたき討ちのためにも頑張ってくださるんですからね」

おお!咲夜さんナイスフォロー!

そんなつもりはなかったが、まぁたしかにそうとも取れなくもないしな。


「ふ、ふーん…そうなんだ。じゃあ応援しないとね…お兄ちゃーん、がんばってねー!」


おろ、応援してくれてる。…さて簡単に負けたらみっともないからな…がんばりますか。


「…もういいか?というか、なんかさっきから私が悪者みたいなのが気に食わないんだが…」

魔理沙が不満げに話しかけてきた。

いや、魔理沙よ、普段のお前は良いもんかもしれんが、泥棒は普通に悪者だ。


「悪い。いいぞ、じゃあはじめようか」


「よしきた!いっくぞー!」

魔理沙が箒にまたがり高速で移動しながら弾幕を撃ってくる。


「吉!任せた!」

「あいよ!」

と、同時にこちらも弾幕を周囲に展開し、吉に制御を任せ回避に入る。


「っくぅうう…!」

紫さんと対峙した時と同じく、めちゃくちゃな起動で弾幕を回避する。

相変わらず気持ち悪い…が!男なら気合いで我慢だ!


「ははっ!なんだ!ずいぶん避けれるじゃないか!見直したぜ!」

魔理沙がなんか言ってるが、こちとら体への負担に耐えるので精一杯だっての…


「ぐぅ…!吉、こっちもレーザーだ!撃てぇ!」

周囲に展開した弾幕からレーザーを発射する、素人目にも魔理沙の弾幕よりだいぶしょぼいが、今の俺にはこれしか攻撃方法がない。案の定魔理沙は簡単に回避してしまった。


「おいおいなんだよ!回避は上等だが攻撃はからっきしだな!こんなか細い攻撃じゃ一生私のことを止められないぜ!」


「…それはどうかな…こんな弾幕でも頭の使いようによっては何とかなるかもしれないぞ」


「どこぞのアリスみたいなこと言いやがって…弾幕はなぁ…パワーなんだよ!」

魔理沙の弾幕の嵐が一層強くなる。


「吉!回避しながら近づいてくれ!出来るだけでいい!頼む!」

「…わかった!なんとかやってみる!」


「くそぅ!思ったより避けるなぁ…あーまどろっこしい!一気に決めるぜ!」

魔理沙が距離をとって、箒の上に立つ

「いくぞー!恋符…!」

げっ!あれは前にルーミアって子にごんぶとレーザー打った時に言ってた掛け声!

あいつ、ここであのごんぶとレーザー撃つつもりかよ?!手加減どこいった?!


「くそ!吉、残りの弾幕全部だ!撃て!あと、ここで決めるぞ!」

あらかじめ決めといた作戦を実行することを吉に伝える。

「りょーかい!いっけー!」

と、同時に周囲の弾幕からレーザーを発射、レーザーは魔理沙の方に向かわず、前方に放射状に拡散した。


「はっ!最後の攻撃も全然見当違いだったな!決めさせてもら…」

魔理沙がそういうと同時に、放射上に拡散した20本近いレーザー全てが不規則に屈折しながら魔理沙の方に向かった。

…思った通りだ。前回の紫さんの時もそうだったが、どうやら俺は弾幕を自由な方向に屈折させられる。


「うわ!なんだこれ!」

さすがに魔理沙もびっくりしたのか、一旦箒に乗り直し、後方に回避する


「はーびっくりしたぜ…でもこれがお前の奥の手だったみたいだな。

じゃあ改めていくぜ!恋符…」


「…魔理沙」


「あん?なんだよ?降参か?」


「降参?冗談じゃない…それより…悪いが俺『達』の勝ちだな」


「ははっ!負け惜しみにしてはセンスがないぜ!

いっけー!『マスタースパー…』」

魔理沙がまさにごんぶとレーザーを撃とうとしたその時。


「…もらったわ!!」

…吉が魔理沙の背後から魔理沙の帽子を咥えていった。


「なっ?!」


「残念ね魔理沙!私『達』の勝ちよ!」


「よし!よくやった吉!…って」

…あれ?なんか魔理沙から…今まさにレーザーが…


「あ、やべ」

やべ…じゃないでしょうがぁぁぁああ!


「『時よ』」







………


「うわぁぁぁぁ…て、あれ?」

魔理沙のレーザーがものすごい熱量を持って上空を通過していった。

あれ?外した?ってか俺なんで地面にいるんだ?いつのまに?


「大丈夫ですか?添木様」

と、困惑していると、いつの間にか隣にいた咲夜さんに話しかけられた。


「…あれ?咲夜さん?えーと…これは?」

…わけがわからないよ?


「悪い悪い咲夜!ついつい発射しちまったぜ!」


魔理沙が降りながら咲夜さんに謝ってくる。


「…咲夜さんが助けてくれたってことですか?」


「はい。私の『時間を操る程度の能力』で、時を止め、その間に添木様をこちらまでお連れいたしました」


…えぇ…時間を操るって…ほぼチートじゃないっすか…

というかそんな能力があったなら、俺が頑張るより咲夜さんが最初から時止めて魔理沙から奪い返した方がよかったのでは…

な、なんか申し訳ないことしたな…


「主人、大丈夫?」

吉も心配して降りてきてくれた。


「あ、ああ。咲夜さんが助けてくれたからな…すいません咲夜さん、ありがとうございます」


「いえ、お客様を助けるなど、メイド長として当然のことをしたまでです」

うーん、クールだ…


「それより魔理沙。…猫ちゃんが帽子を盗った時点で勝敗は決していたでしょう。

その後に攻撃するのはマナー違反よ」

咲夜さんが魔理沙を責める。


「うっ…悪かったよ、驚いてついつい発射しちまったんだ…すまん。

で、でも!勝敗に関しては異議があるぞ!あれじゃ二対一じゃないかっ!ズルだ、ズル!」


「いや魔理沙…俺は最…」

「いいえ魔理沙、あなたの負けよ。

…添木様は最初に勝敗の条件を決めるとき、ちゃんと『俺達が帽子を盗ったら』と言っていたわ。

つまり、猫ちゃんが帽子を盗ろうと、『俺達』がとったことに変わりはないのよ」


おお…すげえ。ちゃんとそこまで理解してたんだ…

…セリフとられちゃったけど…ちょっと決めたかった…


「ぐ、ぐぬぅ…はぁ、わかったよ。私の負けだ、負け。潔く今日の戦利品は置いていくぜ」

魔理沙が脱力して本が入った大袋を地面に降ろす。


「それだけじゃないわよ、ちゃんと『前に盗んだ本も返すこと』でしょ。いいわね?」


「わ、わかってるよ。そっちは今日は無理だから、今度家で整理してから持ってくるよ。

…はぁ~とんだ災難だぜ…」


…元々災難なのは、本を盗まれてたパチュリーさんとやらだぞ、魔理沙。


「じゃあ私は帰って部屋の片づけからしなきゃいけないからな、もう帰るぜ。フラン!また弾幕ごっこやろうな!

…あと、こーすけ、次は勝つからな!覚えてろよ!」


魔理沙はそういうと、箒にまたがって扉から飛び去ってしまった…

覚えてろよって…出来ればこんな荒事はそうそうしたくないから覚えてたくないんだが…



あ、てゆーか置いてかれた…幻想郷ツアーズってなんだったんだよ…


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[第十五話]

"七曜"









魔理沙が立ち去ったあと、咲夜さんが時を操って一瞬で紅茶を入れてくれたので、図書館にあった椅子に腰かけ紅茶と簡単なお茶菓子をいただいている。

どうでもいいがこのお菓子も紅茶も咲夜さんのお手製だ、ちなみにすごい美味い。


「添木様、改めて、ありがとうございます。お見事な作戦でございました」


「あ、いえ。全然ですよ。躱されるか、気づかれる可能性もあったので、正直賭けなところもありましたし…」

ぶっちゃけ、魔理沙が攻撃に集中してくれたから気づかれなかったところが大きかった。


こっちが弾幕を撃つと同時に、吉だけ弾幕に紛れ上空から魔理沙の背後にまわる、そして魔理沙が弾幕を避けた後、吉が接近し帽子を奪い取る…ていう作戦だったわけだが、上手くいって本当に良かったなぁ。ほら、痛いのは嫌だしさ。


「というか、咲夜さんがやっちゃった方が早かったですよね…邪魔してすいません…」


「いえ、それは違います添木様。たしかに私が時を止めても、あの白黒からパチュリー様の本を取り返すことはできたでしょう。

ですが、それでは今回だけです。

…添木様が勝ったことにより、今回の本と、それに今まで盗まれた本を取り返すことができました」


うーん…まぁそれはたしかに…そうなのかな?


「それに、魔理沙もあの様子では、相当今回の負けが悔しかったように見えます。

アレもいっぱしの魔法使い、少なくとも添木様にリベンジできるまでは、この図書館に盗みに来ることはないでしょう」


…まぁそう言われると、体を張ったかいがあるってもんかな…


「…その通りよ。人間にしてはなかなか見事な手前だったわ」

と、背後から声がした。

振り向くと、色白の、なんというかふわっとした服を着た女の子がこちらに向かって歩いてきていた。


「パチュリー様」

咲夜さんが女の子に向かってそう言う。

ああ、この子がこの図書館の主で、レミリアさんの友人のパチュリーさんか。

もう何度目かわからんが、相変わらず美人だらけだな…見た感じ薄幸の美少女…って感じ。


「咲夜。手間をかけさせたわね、ちょっと奥で大事な研究をしてて、ね」


「いえ、私は何も…こちらの添木様が対応してくださいました」


「途中から見ていたわ。…改めて私からも礼を言うわ、添木さん」


「あ、いえ。…一応連れの不始末ですので…というか図書館で暴れてすいません。パチュリーさん」


「いいのよ…いやまぁ、良くはないんだけど。大事な本を盗まれなかったことの方が大きいわ」


「それなら良かったです」


「ああ、そうそう。順番が前後しちゃったけど、改めて挨拶させてもらうわ。

この図書館の管理をしている、魔法使いのパチュリー・ノーレッジよ、よろしく」

パチュリーさんに握手を求められる。


「あ、こちらこそ挨拶が遅れてすいません…外の世界から来ました、添木幸祐です。よろしくお願いします。」

と、応えて握手し返す。

…なんか幻想郷に来てから女の子の知り合いばっかり増えてるな…しかも美人美少女ばかり、や、だからなんだってわけでもないんだがね。

というかあれ?握手された手が離れない、なんぞこれ?


「…ふぅん。なるほどね…中々面白いじゃない」


「は?」

パチュリーさんが小声でなんか言った気がしたが…


「…いえ、こっちの話よ。気にしないで」

「は、はぁ」

そのセリフはなんだかフラグにしか聞こえないんですが、それは。


「パチュリー様、そういえば小悪魔はどうしたのですか?」


「ああ、あの子にはいま実験で必要な材料を集めてもらっているのよ。とはいえまぁ、あの子がいても、あの白黒を撃退するのは無理だったでしょうけど…添木さん、あなたもここで司書として働かないかしら?弾幕の素質もなかなかありそうだし…魔力は…ほぼないみたいだけど、面白い体質をしているしね」


「え?いや、えーと?」

なんかいきなり振られたけど、正直話に全然ついていけない。


「パチュリー様、添木様もいきなり言われても困惑されてしまいますので…」


「あら失礼。それもそうね…それより…ほら。フラン、いい加減隠れてないで出てきなさい」

パチュリーさんが少し離れた本棚に向かって声をかける。


フランって…さっき応援してくれたレミリアさんの妹さんだよな…


ん、よく見たらなんか本棚の陰から、枝に宝石みたいのがついたのが半分出てピコピコ動いている。

と、思ったらさっき見た女の子がひょこっと顔を出し、こちらにてててと走ってきた。


「え、えと…は、はじめまして、お姉様の妹のフランドールだ…です」


「この子ったら普段は人見知りなんてしないのに…男のお客様なんてほぼ初めてだから緊張してるのかしら」


「パ、パチェ!」


「はいはい。添木さん、よかったら仲良くしてあげてね」


「あ、はい。えーと…はじめまして、こんにちは、フランドール…ちゃん?添木幸祐です。よろしくね」

あ、レミリアさんの妹さんならこの子も俺より全然年上なんだろうか…

なんとなく親戚の小さい子を相手にする感覚で話してしまったが…まずかったか?


「フ、フランでいいよ。…え、えと、幸祐…さん?」


「あはは、別にそんなかしこまらなくていいよ。好きなように呼んでくれていいから」


「じゃ、じゃあ!お兄ちゃんて呼んでいい?!」

お、お兄ちゃん…ま、まぁいっか…霊夢もなんか知らんがそう呼び出したしな…

い、いや、よくないのか?いま俺は全世界の妹萌えの諸兄を敵に回しているのかもしれん。


「…うんいいよ。改めてよろしくね」


「やた!ねぇねぇその猫ちゃんはなんていうお名前なの?」


「ん、こいつ?こいつは吉っていうんだ。ほら吉、挨拶しな」


「…こんにちは、主人の飼い猫の吉よ」


「わっ!しゃべった!お兄ちゃん、吉ちゃん触ってもいい?!」


「いいよ。乱暴にしないようにゆっくりね」


「う、うん。そーっと…わーふかふかだ!」

…なんか心なしか吉が震えてる気がする。というか、まさに借りてきた猫みたいに大人しい…

そういえば吸血鬼に本能的にビビってるって言ってたな…まぁでもいい子そうだし、大丈夫…かな。吉よすまん。


「ねぇねぇお兄ちゃん!一緒に遊ぼうよ!何がいい?かくれんぼ?鬼ごっこ?それともやっぱり弾幕ごっこ?」

う…い、いやぁ弾幕ごっこはもう勘弁かなぁ…さっきのでもうだいぶ疲労困憊だし…


「妹様。添木様は、先ほども弾幕ごっこをやられてお疲れですので、あまりワガママを言ってはいけませんよ」


咲夜さんがフランちゃんを優しく窘める。

咲夜さんナーイス!さすが時を止めるパーフェクトメイド!そこにしびれるあこがれるぅ!


「…えー…じゃあ、あっちで一緒にご本読もうよ!それならいいでしょ?」


「…妹様…申し訳ありませんが、いまはお嬢様の命により、添木様を案内している最中ですので…」


「あー…咲夜さん?それぐらいなら全然かまわないですよ。…それにもうずいぶんと館も見せていただけましたので…

案内していただきありがとうございます」


「やった!ほら咲夜!お兄ちゃんもいいってさ!」


「…添木様がそうおっしゃるならば…妹様、くれぐれも失礼の無いようにお願いいたしますよ」


「もう!咲夜ったら!わかってるわよ!いこ?お兄ちゃん」

フランちゃんに手を引っ張られる。


「わかったわかった。…パチュリーさん、すいません。というわけで、ちょっとだけこのまま図書館にいさせてもらってもいいですか?」


「構わないわよ。あまり騒がしくしないようにね」


「はい。ありがとうございます」


「はーやーくー!」

あ、あれ…力強くない?そういやこの子も吸血鬼なわけで…あれ?俺もしかして早まった?


「いたたた…は、はいはい、今行くから」


うーん、しかし行動のソレは完全にただの子供だ…同じ吸血鬼でも、レミリアさんとこうも違うもんなんだなぁ…









フランちゃんにお願いされ、紅魔館の図書館で本を読み聞かせてあげている。

いま読んでいるのは、外の世界にもある小学生ぐらい向けの昔話だ。


「ふんふーん…あ、お兄ちゃん!いまのはどういう意味なの?」

で、当のフランちゃんはというと、俺の膝の上に座って足をプラプラさせてご機嫌なご様子だ。

そんでもって、今みたいにちょっと難しい言い回しがあると、その意味を聞いてくるので、そのたびに説明してあげている。


「いまのはね…」

と、そんな風にしていると…


「あら、フラン。幸祐に本を読んでもらっているの?良かったわね」

「あ、お姉様」

レミリアさんが咲夜さんを伴って俺達のところへ来た。


「ありがとう、幸祐。フランの面倒を見てくれて。この子も結構退屈していることが多くてね…助かるわ」


「いえ、これぐらいのことでそんな…」


「えへへーいいでしょー!お兄ちゃんね、わかんない言葉があると教えてくれるの!」


「あら、よかったわね…ところで幸祐、もうそろそろ夕方だけど、あなた夕食はどうするの?」


…げ、窓がないから全然気づかなかったが、いつのまにかそんなに時間が経ってたのか…

さ、さすがに夕飯の準備もあるし、そろそろ帰らないとマズイな…


「あー…そうですね…アリスの家で夕飯を作らないといけないので…そろそろお暇しようかな…と」


「あらそう。良かったら夕飯も食べていったらと思ったのだけれど…残念ね」


「…すいません」

いくら自由にしてきていいと言われたからといって、さすがに居候させてもらってる身でフラフラしてばっかってのは良くないしな…

「えー…お兄ちゃん帰っちゃうの?いいじゃんーご飯も食べていきなよー!ね?お姉様!」


「フラン、あまりワガママを言わないの。幸祐にも都合があるのよ」


「…えー…」

ざ、罪悪感が…とはいえこればっかりはどうしようもないからなぁ…


「…ごめんね、フランちゃん。でもまたすぐに遊びに来るからさ」


「…ほんと?」


「うん、約束するよ」


「…じゃあガマンする」


「ありがとう、フランちゃんはえらいね」

頭を軽くポンポンしてあげる、と


「えへへ…って私そんな子供じゃないもん!もうちゃんとしたレディなんだからね!」

がーっと怒られてしまった。いや顔が半分ぐらいゆるんでるし、そんな真っ赤になって反論されてもなぁ。

年齢的には、たぶんレディというかレディすら通り越してる気がするが…レミリアさんはともかく、フランちゃんは完全に子供だよなぁ。



そんなこんなで、玄関までレミリアさん・フランちゃん・咲夜さんがお見送りに来てくれた。

…ちなみに美鈴さんは居眠りしてて咲夜さんに叩き起こされてた…合掌。


「すいません、長々と。お邪魔しました。いろいろありがとうございます」


「礼を言うのはこちらよ。…また遊びに来て頂戴」


「レミリアさんが良ければ、ぜひ」


「お兄ちゃんまたね!吉ちゃんも!」


「うん、またね。じゃあ吉、帰るぞ」

「…わかったわ」


…吉さんはどうやら生きた心地がしなかったみたいです…すまんな。

帰ったらオヤツ多めにやるか…


さて、アリスも待ってるだろうし、早く帰って夕飯の準備しないとな…



…ちなみに…

帰ってからアリスに血を吸われてないかめちゃくちゃ確認された。

そ、そんなに心配しなくても…


後書き

※十五話までご覧いただきまして、ありがとうございます。
ある程度の今後の展開は考えてあるので話の流れはあまり変更できませんが、文章の構成等、こうした方が読みやすい、などご意見いただければ、可能な限り反映しようと思います。

では今後ともよろしくお願いいたします。


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