2017-01-19 23:07:35 更新

概要

記憶喪失の男が漂着したのは艦娘のいる島であった。
なんやかんやで提督となった男は地下の部屋で死んだはずの元提督を見つけてしまう。
それを快く思わない加賀によって幽閉された彼はどうなってしまうのか。


前書き

海から来た人の続編です。
前作を見てない人はそっちから見ないと分からないと思います。
自己満足全開の妄想で書いていくのでよろしくお願いします。


プロローグ




 苦しい戦いだった。

 紙一重の攻防だった。

 ほんの僅かでも歯車が狂っていれば、朝日を拝むことは出来なかったであろう。

 それでも生きていた。

 ゆっくりと瞼を開く。

 見慣れたボロボロの天井に壊れた蛍光灯。

 ひび割れた窓ガラスから差し込む太陽の光。

 そしてそれに照らされる電と、暁、響、雷の三人。

 そう、彼女らと一緒に寝たのだ。

 仲良く。

 語り合い。

 笑いあい。

 時には泣いて。

 感情をぶつけあって。

 あの頃のように。

 幸せに床に就いたのだ。

 夢のようだ。

「ん……」

 電が目を覚ました雰囲気を察したのか、雷も目を覚ます。

 彼女はゆっくりと上体を起こすと、ぐっと伸びをして大きな欠伸を一つ。

「おはよう、電」

 そして柔らかい笑顔で言うのだ。

 あの頃のように。

「はい。おはようなのです、雷ちゃん」

「もう、……朝かい?」

 続いて響も目を覚ます。

 が、暁だけはどうやら深い夢の中にいるままだ。

「ほら、朝よーっ」

 雷が布団を引っ張って暁がベッドから転がり落ちた。

「ふぎゃっ!」

 レディらしからぬ悲鳴が早朝に響き渡る。




 【誰かの手記】

 知ってしまった私はどうすれば良かったのでしょうか。

 見なかったことにすれば。

 目を逸らし、なかったことにすれば。

 この幸せな日々は続いたのでしょうか。

 けれども、それはとても空しい幸せなのでしょう。

 故に、壊そうと思ったのです。

 痛みを伴おうとも。

 愚かな私を許して下さいと。

 嘆き、慟哭しても。

 それでも尚、突き進む茨の道を。

 歩むと決めたのです。




 激しい音が部屋に鳴り響いた。

 音の発生源は部屋の扉であった。

 蝶番ごとぶっ壊す勢いで開け放ったのが原因である。

 そしてそれ程の勢いで入ってきたのは夕立であった。

 右肩から腕にかけて包帯を巻いた姿である。

 彼女がとんでもない形相で肩を震わせている。

 真っ青な顔色に大量の汗。

 ただ事ではない。

「どうしたのですか?」

「いない……、っぽい」

「いない、ですか?」

「海人がっ……、どこにもいない、っぽい!」

 沈黙が部屋を支配した。

 夕立の荒い息だけが聞こえる。

「どう、いう。意味なのですか?」

「どうもこうも、島中のどこを探しても海人が見当たらないんだってばっ!」

 まるで世界の終わりのような声色で夕立は叫ぶ。

「とにかく、探すのを手伝って欲しいっぽい。川内さんや山城さんはもう手伝ってくれているから、時雨も!」

「わ、わかったのです!」

「仕方ないわね」

「そういうことなら手伝おう」

「わ、私も手伝うんだからね!」

 島にいる艦娘総動員での必死の捜索も空しく、日が落ちても海人は見つからなかった。

 日が暮れても探すと譲らない時雨と夕立と川内の必死の捜索も空しく、この島のどこを探しても彼の姿を見つけることは叶わなかった。

 まるで霞のように。

 何も残さずに。

 消えてしまったのだ。

「きっと記憶が戻ってこの島を出て行ったのよ」

 意気消沈する夕食の場で、加賀がそう呟いた。

 それが、いけなかった。

 机が宙を舞う。

 夕食を吹き飛ばし、それでも不動の加賀の襟首を鷲掴みにした時雨が睨みつける。

「発言には気を付けるべきだよ。僕の手が滑らないとも限らないからね」

 彼女の手には鋭利な刃物が握られていた。

 それが加賀の腹部を静かになぞる。

「何もおかしなことは言っていないでしょう? 記憶を取り戻せば、彼にも帰る場所があるのだろうし」

「海人は僕たちを見捨ててどこかに行くなんて絶対にしない」

「大した自身ね。根拠もないのに」

「やめてください」

 一触即発の二人に電が割って入る。

「確かに海人の記憶が戻ればこの島を出ることもあるでしょう。否定はしません。けれど、相談もなくいきなり消えてしまう可能性は低いと思うのです。……、何か不測の事態が起きたと考える方が自然なのです」

 電の言葉に耳を傾けた二人は怒りの矛先を収めた。

「……不用意な発言だったわ」

「僕も熱くなってしまったよ。ごめん」

 時雨は俯き、加賀の横を通り過ぎる時に。

 静かにこう告げた。

「もしも君が原因だったなら、僕は自分を抑える自信がないよ」

 と。

 電は疲れた様子で自分の席に戻った。

「お疲れ様。やっと皆で集まって食事が出来るようになったのに前途多難だね」

 響が言う。

 そうなのだ。

 ようやく楽園から解放された艦娘の何名かが希望して、電らと一緒に食事をすることが出来るようになったのだ。

 これも全て海人のおかげである。

「海人がいないだけで皆情緒不安定なのです」

「そりゃ海人がいたからこそまともになった連中の集まりだからね。とくに心酔していた時雨や夕立、ほの字っぽい山城が不安定になっているね」

 響の冷静な分析通り、確かにその三名は海人が行方不明になってからというもの精神的に危なげであった。

「いつの間にか、この島で海人がとても大切な支えになっていたのね」

 夕食のスープを口に運びながら雷が言う。

「電はどう考えているの? 海人がどこに行ったのか」

 暁が問う。

「分からないのです。……ただ、推測される可能性は多くはないのです」

「それは?」

 電は答えない。

 それは口に出すべき可能性ではないからである。

 一つは深海棲艦に連れて行かれたという可能性。あり得なくはない。

 もう一つは海人本人の意思で姿をくらましたという可能性。彼の記憶が戻った場合。もしくはそれが特定の艦娘を救うための手段ならば、彼の性格上実行する可能性は少なくない。

 そして最後は他の艦娘によって監禁されている可能性。

 一番考えたくはない可能性だが、現実的に考えれば加賀が実行したと考えるのが自然だろう。

 彼女にはそれをする理由が十分にある。

 一騎打ちの模擬戦の結果で彼女は海人を殺すことが出来ない。口約束を破るのは簡単だろうが、それを実行すれば彼女の人権はもはや島にはないだろう。

 故に監禁する。

 殺しはしないが、実質の島からの退場だ。

 人間を極限まで憎む彼女ならば実行しても違和感がない。

 しかし決めつけは良くない。

 それを前提に思考を進めればきっと痛い目を見る事だろう。

「……今は、何とも言えないのです」

 それが、嘘偽らざる彼女の現状の答えであった。




 【誰かの手記2】

 それを知ったのは私だけではありませんでした。

 しかし知った者は悩み、苦しみ。

 そして例外なく一つの結論に辿り着くのです。

 壊そうと。

 終わらせてしまおうと。

 この偽りだらけの島を。

 犠牲の上に成り立つ幸せに身を任せるのは嫌だったのでしょう。

 動き出した歯車は止められません。

 幾つかの思いを乗せた計画は動きだしました。

 もとより、誰一人後戻りする気はありませんでした。

 私も、彼女がいれば。

 最後まで傍にいれば。

 後悔することもなかったのでしょうか。

 今は、後悔しかありません。

 いったいどれ程の罪を贖えば良いのでしょうか。

 それでも、この醜い自分を肯定は出来ませんが。例え汚れても、無様でも、滑稽でも。

 叶えたい願いがあったのです。

 それは本当に酷く身勝手で、許されざる。

 願いだったのです。

 きっとこの手記は懺悔なのでしょう。

 許される罪とも、思えませんが。




第一章 牢獄と過去




 そこは静かな場所であった。

 音はなく。

 明かりは壁に備え付けられた松明のみ。

 松明の僅かな明かりが殺風景な部屋を照らしている。

 部屋には粗末なトイレとベッドが一つずつ。他は何もない。

 床は冷たいコンクリートで、壁も同じ材質で囲まれている。

 目の前には堅牢な鉄格子。

 鉄格子は鍵の掛かった扉と、食事を配膳する為の僅かな隙間があるのみだ。

 もちろん、人が通れるような隙間ではない。

 トイレの脇には水で流すためのバケツが三つ。水が満タンにくまれた状態で置いてある。

 どうやら、加賀が定期的に補充しているようだ。

 そんな牢獄に男二人。

 一人は海人で、もう一人は提督と名乗る。死んだ筈の男であった。

 薄暗い部屋で黙して壁に背中を預ける二人。

 ここを訪れた際に真っ暗だったのは、鍵をなくした加賀が松明の油を補充出来なかったからだろう。

 今はごうごうと音を立てて燃えている。

 一酸化炭素中毒で倒れないのは空気が流れているからだ。

 どこかに換気するような空間があるのだろう。

 海人は大きく溜息を吐く。

「……捕まっちまった」

「僕から見た感じだと、わざと捕まったように見えたけど?」

「ご明察。こうでもしないと、アンタと話せないと思ったんだよ」

「僕のことを知っていたのかい?」

「いやなに、加賀が隠す秘密が何かと想定して。一番ヤバそうなのを考えたら、アンタだっただけの話だ。人生、当たってほしくない最悪の想定程よく当たる。……困ったことに」

「僕に聞きたいことでもあるのかな?」

 薄暗くて顔がはっきりとは見えないが、男は静かに笑ったような気がした。

「ああ、この島の過去を知りたい。……いったいここで何があったんだよ?」

「君はどこまで知っているのかな?」

 どこまで、難しい質問である。

「大本宮との合同作戦でこの島が囮となり、島の設備は壊滅。多くの艦娘が沈んだ。敵の本拠地を強襲した部隊は成功するも大打撃を受け、提督は死亡。戻ってきた島で生き残りが静かに暮らしている。……隠された建物に住む艦娘達がいる場所は、楽園と呼ばれていた。その程度のことは知っている」

 それが海人の知るこの島の過去だ。

 しかしそれは全てではない。

 事実ですらないのかもしれない。

 死んだ筈の提督がここに確かに生きていることは、海人の知る過去からしたら矛盾そのものである。

 誰かが隠し、他の誰も知らない事実が、恐らくあるのだろう。

 それをこの男は知っている。

 そう確信したからこそ、海人は抵抗せず加賀に捕まったのだ。

「……長くなるけど構わないかな?」

「どうせ暇で寝るくらいしかすることもない。ゆっくり話してくれ」

 そうして、男は語り始めた。




 【誰かの手記3】

 私は誘惑に負けたのです。

 許されないことと知りつつ。

 それはあってはならない裏切りだと理解しつつ。

 それでも尚、縋りつくしかなかったのです。

 それほどまでに、私にとって貴女は大切で。失い難い存在だったのです。

 隠しきらなければ。

 手に入れるその日まで。

 もう一度、肩を並べるその日まで。

 この悲劇を、奇跡に変える為に。

 私だけが知る本当の真実。

 楽園の裏側に隠された地獄。

 この島に鎮守府がある本当の理由。

 それにもし、私以外の誰かが辿り着いたならば。

 全てを壊し、消し去ってくれることを切に願います。

 私には出来なかったそれが。

 きっと正しい道なのだから。




 海人が消えた日の深夜。

 彼女たちは静かにその場所に集まっていた。

 そこは星空と月明かりだけが照らす薄暗い場所である。

 夜の静けさに彼女らの息遣いと虫の鳴き声だけが響く。

 そこに集まったのは三人の艦娘であった。

「準備はいい?」

「覚悟も、だよ?」

 川内が問い掛け、時雨が付け加えた。

 それに夕立が頷く。

 月に雲がかかる。

 暗闇が広がり、それに乗じて三人は音もなく移動した。

 風が流れ、雲が空を奔る。

 月が再び世界を照らすとき、彼女たちの姿はもう既にそこにはない。

 目的地は近いが最短距離を移動するは愚かだと言えた。故に海人がいた部屋ではなく、山の方から向かう。

 山城と鈴谷から情報を得ている。

 獣を捉える罠を設置するルートから少し外れた場所に、岩陰に隠れた洞窟の入り口があるのだと言う。

 そこから海人、山城、電は迷宮から生還したのだと言う話だった。

 洞窟から迷宮に入り、その最深部にある扉が今回の目的地である。

 時雨は確信を持って言う。

「海人を監禁しているのは間違いなく加賀さんだよ」

「根拠は?」

 問う川内に時雨は用意していた言葉を並べた。

「夕食で僕が加賀さんに挑発した時、彼女が無反応無表情だったからだよ」

「無反応で無表情なら関係ないってことじゃないっぽい?」

 夕立が首を傾げる。

 川内もそこには同意見だ。

「いや、僕の知る加賀さんなら無実だとすれば、僕の挑発に無表情だとしても無感情はあり得ない。多少なりとも苛立ちを感じる筈なんだ。でも、一切の無反応だった」

 それはつまり。

「加賀さんは完全に感情をコントロールして抑え込んでいたんだよ。そんなこと、本当に無関係ならする必要はないからね。逆なんだよ。反応がないからこそ、関わっていると断言出来るんだ」

 多少加賀が犯人であると決めつけて考えている節は見受けられるが、間違っているとも思えない。

 感情を含めなくても。

 現状加賀が最も疑わしいのである。

 そもそも他の艦娘に海人を監禁するメリットが思い浮かばない。

 いや、監禁することで己の愛欲を満たす性癖を持つ艦娘がいないとも限らないが。

「ちょっと前ならともかく、今の体力が回復した海人が簡単に捕まるとも思えないしね」

 川内は言いながら思い出す。

 加賀との模擬戦を。

 油断しているときの不意打ちならばともかく、正面から海人を拘束できる自信は川内にもあるか怪しい。

 かなりの実力者が相手で、武装していた。もしくは海人が自らの意思で捕まった。と、考えるのが妥当だろう。

 海人の考えは読めず、こちらの思惑を大きく外れることが多い。故に彼が自ら捕まったという可能性はそれなりに高い。

「とにかく、最低限海人が危機的状況かどうかだけでも確かめよう」

 と、言いつつ。川内は海人の身柄に危険が迫っているとは思っていなかった。

 不自由はするだろうが、あの加賀が約束を違えてまですることとは思えない。

 川内の知る加賀はそういう心の持ち主であった。

「ここら辺のはずっぽい」

 夕立が言う。

 周囲を散策すると確かに非常に気付き難いが、岩陰に洞窟の入り口がある。

 人間一人分の僅かな隙間だ。

 遠目で見れば岩の亀裂に見え、とても奥に空間が広がっているとは思えない。

 そしてよく見れば、それが人の手が加わって出来た人工的な細工だと分かる。

 誰かが作ったのだ。

 迷宮の隠れた入り口を。

「先頭は一番夜目が効く私がいくね」

 川内が最初に亀裂に入った。

「後ろは気配と音の察知に敏感な夕立に任せるよ、僕が次に行く」

 時雨がそれに続いた。

「後ろは任せるっぽい」

 可能性が低いとはいえ襲撃の可能性は考慮すべき問題であった。

 想定する相手は白兵戦でも強く、さらにその本領は静かに標的を射抜く弓にある。

 一瞬の油断が命取りとなるだろう。

 彼女が命まで狙うとは思えないが。一切の可能性を排除するのは愚か者のすることだ。

 慎重に、かつ素早く進む。

 話を聞く限りここはかなりの迷宮らしい。

 故にここは時雨の特技に頼らせてもらった。

 彼女は脳内に正確に地図を引くことが出来る。通った道を全て覚えているのは最低限として、僅かな道の勾配から高低差までも把握し、それを立体的に結んで地図とするのである。

 歩幅から距離を、動物染みた方向感覚で方位を常に違えず。

 彼女は自分がどこを歩いているのかを正確に割り出すことが出来るのだ。

 海域でも活用するこの特技を時雨はこの迷宮で驚異的な精度で行う。

 結果、驚異的な速さでこの迷宮を突破することとなった。

 山城から聞いた風景と一致する。

 ここがその場所だろう。

「こんなところまでよくもまぁ来てくれたものね」

 予想した声が静かな暗闇に響く。

「やっぱり、貴女だったんだね……」

 持ってきた懐中電灯でその人物を照らした。

 そこには空しい程に感情を殺した、加賀がいた。

「時雨ね、あの迷宮を突破したのは。ここを教えたのは山城と鈴谷かしら? まったく余計な真似をしてくれたものだわ……」

 歴戦の猛者である川内と夕立が飛び退く。

 加賀に対して脅威を感じた訳ではなく。

 目の前の、仲間である筈の時雨に対して。

 本能的な恐怖を感じ取ったからである。

 川内の脳内に疑問符が浮かび上がった。

 彼女の知る時雨の気迫ではない。場を掌握する程の圧倒的な殺気。これは普段の彼女とは別の種類の、黒い。まるで汚泥のようにどろりとした濃密な死の気配であった。

 夕立が呟く。

「やばいっぽい……」

「やばいのは雰囲気で分かるよっ! これどういうことなのっ!?」

「時雨と夕立は提督さん、海人じゃない方の前の提督さんに特別な訓練を受けていて……」

 事情を説明する前に、時雨がゆらりと動いた。

 死人を連想させる頼りない足取りだった。

「僕、……言ったよね?」

 その力ない足取りに、音はない。

 体重がないかのように左右に体を振りながら歩くさまはとても無気味であった。

「自分を抑えられないって」

 消える。

 消えたとしか言い表せない。

 瞬きの間の出来事だった。

 そして気付けば、加賀の後頭部が時雨に蹴られていた。

 否。

 後頭部と時雨の足の間に加賀の腕が挟まれている。

 防いだのだ。

 音もなく、影さえも置き去りにしたような身のこなしに反応したのである。流石加賀と言える状況だが、防ぎ切れてはいなかった。

 直撃寸前に腕を差し込んだだけの為、その驚異的な威力を込めた蹴りの威力を殺しきれなかったのである。

 後頭部に貫通した衝撃が抜けた加賀の足元がよろけた。

 それを見逃すほど時雨は甘くない。

 腰から抜いたナイフがその首筋を狙う。

 加賀はあえて膝の力を抜くことで重力に従い、それを躱す。

 屈む頃には足はしっかりと動く。

 縮めたばねを解き放つかのように時雨から離れた。

「…………」

 沈黙する加賀の額から、滴がひとつ。零れ落ちた。

 一瞬たりとも時雨の姿から目が離せなかった。

 瞬きなどもってのほかである。

「な、……なにあの動き?」

 川内の知る時雨の動きではない。

 あれは夜戦時の川内の戦闘力を大幅に上回っている。

 下手をすれば加賀さえも。

「な、なんなのこれ?」

「スイッチが入ったっぽい……。ああなったら目標を殺すまで、止まらない。夕立でも、止められない。止められるのは夕立と時雨をこうした、提督さんだけ」

「スイッチって?」

「対象を暗殺する為の、殺戮マシーンになるスイッチ」

 なんだ、それは。

 聞いたことがない。

 そんな訓練を何故この二人が積んでいるのか。

「スイッチの入った夕立と時雨はほぼ同等っぽい。夕立も発動するとどちらかが死ぬまで終わらない、だから、時雨を止める方法が、ない、……と、思う」

「それは、……困ったね」

 口調は軽いが状況は重い。

 夜とはいえ。

 あの戦闘力の艦娘が殺す気で向かっているのを止める実力は川内にはない。

 しかし、加賀を殺す気で来た訳ではない。

 時雨は最初からそのつもりで来たのだろうが、川内はそうではない。恐らく止めたいと言う意思がある以上、夕立もそうなのだろう。

 なにより、ここで加賀を殺すのは絶対に間違っている気がするのだ。

 海人的な意味で。

 彼がそれを望むとは思えない。

 が、暴走する時雨を止める手段が思い浮かばないのだ。

 装甲悩んでいるうちに加賀と時雨の壮絶な殺し合いが続いていた。

 いや、違う。

 実力の劣る川内でも分かった。

 加賀は時雨を殺す気がない。あくまでも取り押さえるような戦い方をしている。

 ここまで明確な殺意を向けられて尚、彼女は時雨の命を尊重する。

 ならば何故。

 どうして。

「海人を捕まえるなんてこと、……するのさっ」

 川内はもどかしさを吐き出すように叫ぶ。

 その先で、時雨の攻撃が速度と威力を確実に増していく。

 繰り出されるそれは気を抜けば加賀でさえも一瞬で殺されるだろう超絶技巧の連続である。

 並大抵の艦娘では正面からでも瞬殺。

 油断を突かれれば、相手がだれか把握する間もなく息絶える事だろう。

「……なるほど、貴女たちがやっていたのね」

 加賀は初めて感情を見せた。

 それは悲しみだった。

 そして憐みであった。


「深海棲艦に落ちかけた艦娘を、殺していたのは」


 夕立が震える。

 同時に、時雨の動きも止まった。

「どう、……して、それ、を……」

「あの人の秘書艦の一人ですもの」

 時雨の瞳が赤く、染まる。

 怒りに身を任せ。

 負の感情が心を焼き尽くす。

「やめなさいっ!」

 加賀が叫んだ。

「殺してやルッ」

 時雨も叫ぶ。

「だめっ、負の感情に身を任せてはいけないっ!」

 時雨の刺突が加賀の頬を掠る。

 飛ぶ鮮血。

「私たち艦娘は、憎悪に身を任せてはいけないのっ!」

「死ね、死ね、シねェェェェッ」

 瞳が燃えるように。

 赤く。

 赤く。

 濁っていく。

「怒りと、憎悪と、絶望に支配されてはっ」


「おすわりぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 突然の野太い声と、壁に叩きつけられる時雨。

 その人物は加賀でさえも捌くのがぎりぎりの速度の攻撃を見切り、受け流し、時雨の重心を見事に操ってその勢い全てを掌握して投げ飛ばしたのである。

 おまけに彼女の握るナイフを奪うまでしてのけている。

 そして壁に叩きつけられた時雨は体勢を整えるや否や、素早く正座して背筋を正している。

 その瞳は赤くはなかった。

 いつもの時雨が、そこにはいた。

「あれ? 僕はいったい……?」

「どうして、貴方がここに」

 加賀が驚愕の声を上げた。

 川内も目の前の人物を信じられない目で見ている。

 夕立に至ってはおすわりの命令を聞いて同じく正座していた。

 そこには時雨からナイフを奪った何故か上半身裸の海人がいたのである。

「どうしてだって? 聞きたいことが聞けたから、とりあえず脱獄したに決まっているだろう」

 何でもないことのように、海人は笑いながら言った。

「そうしたらここに出くわした訳だが。これどういう状況なんだ?」

 本当に、思惑を大きく外れる男であった。




 【誰かの手記4】

 幾度となく諦めて殺してしまおうと思いました。

 けれど、私にはその覚悟がなかった。

 あの卑劣で醜い男を殺すことなど造作もありません。むしろ殺す理由は数え切れないほどある。それだけの恨みと憎しみは抱えていました。

 けれど。

 彼女を諦めることは私には出来なかったのです。

 他の艦娘には絶望を見せて。

 深海棲艦化を防ぐ為とはいえ。

 嘘の楽園を作り上げておいて。

 なんという裏切りでしょう。

 私がこの島で、最も醜く薄汚い。

 自覚しても、いくら後悔しても。

 この男を生かし、この島の深部に隠したのはほかならぬ私。

 従わぬ艦娘を地下牢に捕え。

 拷問してからいたぶり、殺して。

 深海棲艦化しそうな艦娘を殺す。

 これも全て、私の責任なのでしょう。

 故に、望みが叶ったら。

 一瞬でも叶ったら。

 私は全てを抱えて死にましょう。

 この身を海の底に沈めましょう。

 それが私の決意と責任です。

 その時はもちろんあの人も一緒に道ずれに。

 この島の本当の姿と一緒に。

 沈めて、消すのです。

 仲間が、これ以上絶望することのないように。

 この手記も、見つかる前に消さなくてはなりませんね。

 いや、この場所を見つけられたのならば。

 この手記を見られても手遅れという気もしますが。




 男は静かに語り始めた。

「僕は主席での卒業後、いくつかの戦場を経験し、運良く生き残った。結果、気付けば最年少で提督に任命されたんだよ。任された鎮守府は本土から離れに離れたこの島だったんだけれどね」

 自傷するように男は笑う。

「それに最年少もその半年後に記録を抜かれてしまったし」

 男の言葉が何故か海人の記憶を刺激する。

『君は最年少記録を更新してしまったんだよ。半年前に記録を残した彼には気の毒なことだが……』

 誰の声だろうか。

 記憶の奥底が叩かれる感覚であった。

「初期艦である電と協力して少しずつ任務をこなし、徐々に鎮守府を盛り上げていった」

 違う。

 初期艦は電ではない。

 彼女は。

『あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りなさい!』

 なんて上から目線で。

 孤高で。

 気高く。

 そして自信に見合った努力も怠らず。

 それでいて実は優しい。

 そんな少女だった筈だ。

 いや、これはなんだ。

 微かに過るこの光景は誰のものだ。

 頭痛が、記憶の海を塞き止める。

「初めて鎮守府に戦艦が着任した時は嬉しかったよ。彼女の名前は扶桑と言ってね」

 扶桑。

 ではない。

 金剛型だ。

 金剛型とはなんだ。

 分からない。

 いや、思い出せ。

 痛みを、苦痛を無視して力尽くでも記憶の糸を手繰り寄せるのだ。

『高速戦艦、  、着任しました。あなたが提督なのね? よろしくお願い致します』

 痛みが加速する。

 彼女を思い出すと、耐えきれない程の痛みが。

 痛みは脳が割れるかと思う程だ。

 それでも。

 心の奥底が暖かかくなる。

 忘れていてはだめなのだ。

 彼女の名前は、何があっても。

 死んででも、手放してはいけない。

「初の空母は加賀だった。彼女は、僕のケッコン相手でもある。結婚ではないよ? ケコンカッコカリなんて恥ずかしい名前の戦力強化があってさ。指輪を渡すんだよ。特別な想いを結んだ相手としか出来ないらしい。戦争が終わったら一緒になろうという仮の婚約。だからケッコンカッコカリなんだってさ」

 ケッコンカッコカリ。

 知っている。

 知っているとも。

 当然だ。

 海人はそれを経験しているのだから。

 薬指に輝く銀色の光。

 だが、それが漆黒に染まる。

 意識が薄れかねない痛みが襲う。

 体中が痙攣している。

 薄暗いことが幸いし、男には気付かれてはいない。

 が、海人は失神手前を行き来していた。

「違う、初の空母は瑞鶴だ」

 遂に、海人は口に出す。

「え?」

 男が疑問の声を上げた。

「いいや、なんでもない。続けてくれ」

 震える声で答えた。

 異変を感じ取ったのか男は躊躇するも、先を促された為に続けた。

「僕らは困難な海域を幾度となく突破した。犠牲もあった。けれど、確実に成功を積み重ねた」

 海人は犠牲を出さなかった。

 出さないように可能な限り全ての手を尽くした。

 海域突破は遅かった。

 期待されていた程の結果は残せなかったかもしれない。

 それでも絶対に轟沈だけは許さなかった。

 支えてくれた沢山の艦娘と共に。

 戦い続けた。

 そのもっとも傍にいたのは。


『なんでしょう……。守りたい気持ちが、溢れてしまいます。仲間も……、そして、提督……、貴方のことも……』


 言葉を思い出した。

 声を思い出した。

 もう痛みは忘れていた。

 男の声も聞こえない。

 思い出したのだ。

 名前は榛名。

 海人の、ケッコン相手だった。

 忘れてはならない。

 大切な人だった。

 思い出せないことは多いが、それでも重要な点を思い出した。

 叢雲という初期艦。

 榛名というケッコン艦。

 そして自分が提督であったという事実。

 微かだが思い出した断片的な情報もある。

 漆黒の指輪と、それに関わる三つの名前。

 葛木提督。

 金田提督。

 杉野提督。

 そう、確か海人はこう覚えた筈だ。

 絶対に許さない人物リストとして。

 痛みから解放され。

 海人は再び男の言葉に耳を傾ける。

「僕は裏切られたんだ」

 男はそう切り出した。

「信じていた仲間に。愛していた加賀に」

 徐々に感情が高ぶっていくのか、声が次第に大きくなっていく。

「知らなかった。僕が与り知らぬ裏で話は進んでいた。大本宮との合同作戦。島を囮にした敵拠点の襲撃作戦を!」

 男は悲しみと絶望を乗せて語った。

「島を囮にするなんて聞いていなかった。そんなの許すはずもない!」

 最悪の想定ほどよく当たる。

 人生とは都合の悪い選択肢の連続である。

「大本宮の艦隊は壊滅。僕の指揮する艦隊も多大な犠牲を出してようやく敵を殲滅した。けど、その責任を僕に押し付けて、彼女らは僕を閉じ込めた!」

 そうした機微に鋭い海人は無感情にその熱い言葉を聞き流す。

「それでも、……僕は彼女らのことを、恨めない。憎めない。大切に、思っているからだ」

 一通り話して落ち着いたタイミングで海人は無感情に言い放つ。

「で、お前の名前は?」

「え? 葛木幹夫だけど……」

 葛木提督。

 その名前が全てであった。

「葛木提督」

「なんだい?」

「お前は加賀を舐め過ぎだ」

 鋭い蹴りが葛木の顎を捉える。

 悲鳴を上げる間もなく、彼は意識を失った。

「加賀はお前を閉じ込めたことを誰にも言ってはいない。死んだことになっている。全部あいつが一人で抱えたんだよ。残念だったな、【彼女らが僕を閉じ込めた】なんて言葉は成立しない」

 海人は意識を失った提督であった男に言い捨てる。

 そして上着を脱いで上半身裸となった。

「松明で一酸化炭素中毒にならないってことは空気が流れているってことだ」

 そう呟いて狭い牢獄内を歩き回る。

「俺が設計者なら流石にトイレの上に換気をつけてやる」

 指を舐めてトイレの上空にかざす。

 すると微かにだが風が上に流れていくのを感じた。

 ボロボロだった海人の服の代わりに電が用意してくれた衣服。心の中で彼女に謝ってそれを四つの布きれに破く。

 それを両手両足に巻きつけ、水の入ったバケツに突っ込む。

 十分に水分を吸ったのち、海人はトイレの近くにある部屋の角に向かう。

 そこで背中を角に押し付け、両手両足で壁を押さえながら体を上へ上へと持ち上げていく。

 強靭な肉体が可能にする超人芸であった。

 まるで蜘蛛のように壁を登っていく。

 気付けば、彼は天井付近まで登り切っていた。

 薄暗くて見えなかった天井がはっきりと見える。そして、やはりトイレの天井には換気用の穴が空いていたのである。

 成人男性一人分の穴だ。

 柵で塞がれてはいるが木材で出来ている。おまけに長年放置されているせいか半分腐っていた。

 やって壊せないことはないだろう。

 限界まで己の体を酷使し、両手のみで体を支えた海人は柵を蹴り壊した。

 今度は両足のみで体を支え、両手で穴の壁を押さえる。

 そこから腕力のみで体を引き上げ、どこに続くか分からない穴を進んでいく。

 そうして牢獄から脱出した海人は暴れる時雨を発見したのである。




 脱出の経緯のみ話した海人は加賀に呆れられていた。

「……想定外すぎて頭が痛いわ」

「そいつはお前が甘いだけだな。人生は常に最悪の連続なのだからそここそ想定していかないとな」

「大人しく捕まったものだから、あそこに用があることは予想していたけれど。まさか入った次の日の夜にこうもあっさり抜け出して見せるなんて普通想像もしないと思うの……」

「でも良かったよ、無事で。結構心配したんだからね」

 川内が海人に笑いかける。

 安堵の笑みであった。

「ああ、悪かったな。というかお前らその怪我でよく来たな。大丈夫なのか?」

 そこまで言って海人は気付く。

 時雨も川内も満身創痍であった。

 それ以上に夕立は重症である。

 さらにそれよりも重傷な加賀は先程まで激しく動いていたことに思い至ったのだ。

 ふと加賀を見る。

 いつも通りの無表情だが、普段よりも顔が青い。血の気がないといった感じだ。

「……限界、ね」

 そう呟いて、加賀はぱたりと倒れた。

「うわぁぁぁぁ、こいつ腹に穴が開いているのにあんなに激しく動くからっ」

 珍しく海人が狼狽する。

「と、とにかく運ぼうっ」

 川内が叫ぶ。

「時雨、座ってないで足をもて、足っ、俺は上半身を持つからっ!」

「わ、分かったよっ」

「夕立先導しろ、とにかく地上に戻るぞっ」

「ぽ、っぽい!」

 こうして慌ただしく五人は地下を後にしたのだった。




 【誰かの手記5】

 電が人間を拾ってきました。

 外部からの人間のようです。

 これは困りました。

 閉じられた偽りの楽園に混じり込んだ外部からの異物。それはいったいこの島にどのような影響を及ぼすのか想像も出来ません。

 排除するべきか。

 利用価値はあるのか。

 慎重に判断しなければなりません。

 個人的には人間なんてもう信じられないとは思う。

 裏切られ苦しむのは一度でたくさんだ。

 でも、それは私の感情。

 この島の未来を考えれば、人間が必要になる可能性がない訳ではない。

 その人物が艦娘の信頼を得て。

 私よりも遥かに優れていて。

 そして何より私欲に負けて裏切るような薄汚い心を持っていなく。

 そう、彼女を任せられるような清廉な人間であるならば。

 全てを預け。

 託し。

 私は汚いもの全てを一身に集めて沈んでいきたいと。

 そう、思うのです。




第二章 清廉さの証明




 この島に大きな変化が生じた。

 まず一つ目は鎮守府の復興だった。

 海人が提督となったことにより、指示がなくて途方に暮れていた妖精が働けるようになった。その結果、信じ難い速度で島の設備は整っていったのである。

 防衛設備はもちろんのこと。

 生活に必要な設備。

 艦娘の修理、回復に必要不可欠な船渠の設置。

 鎮守府や宿舎は補修ではどうにもならない為、改築というかもはや新築のような形で建て直された。

 次に艦娘だ。

 未だ心に深い傷を持つ一部の艦娘を除いて、楽園と呼ばれる山奥の宿舎から鎮守府に近い方の宿舎に移り住んだのである。

 この状況に追いつけない鈴谷は、逆に楽園での艦娘の世話という名目で楽園に移り住んでもらった。

 彼女も少しずつ現実を直視出来ればと戻れることだろう。

 海人は彼の体型に合った軍服を用意された。

 大本宮に認知されていない非公式な鎮守府がそこでは完成しようとしていたのである。

 そして一番大きな変化は、加賀が海人の秘書艦に立候補したことだ。

 これには沢山の艦娘が異議を申立て。

 そして加賀の提案をすんなり受けた海人の頭の中を本気で心配する艦娘が多数現れた。

「加賀さんに任せるくらいなら僕がっ」

「流石に危ないのです、電がっ」

「ど、どどうしてもと言うなら、私があうっ「面白そうだから私もやりたい。ねぇねぇ、沢山夜戦しようよ!」ふ、……不幸だわ」

 こんな声を全て無視して。

 不敵に笑う海人はどこまで加賀の思惑に気付いているのか。

 仕事の多さから誰もが忙しい期間を過ごして。

 秘書艦として非常に優秀な加賀と。記憶に残らずとも、体が覚えていた海人の仕事ぶりは順調そのもので。

 気付けば山のような仕事を処理しきり、仕事の合間にお茶を楽しむ余裕が生まれていた。

「長年秘書艦を経験していただけあって流石に優秀だな、助かったぞ」

「貴方こそ。どうしてなかなか、不思議と手馴れていて驚きました。やはり以前も提督を?」

「……まぁ、お前に隠す必要もないか。そうだよ。他の鎮守府で提督をしていた。あまり多くは覚えていないがな。仕事は体が覚えていてくれて助かったよ。大本宮に提出する書類はここでは全部しなくていいから仕事も楽だった」

 加賀の用意したお茶を飲みつつ、海人は窓の外を眺める。

 島の美しい景色が満喫できた。

「それで、だ。……そろそろお前の思惑を話してはくれないのか?」

「……そうですね」

 加賀は背を向けたままこちらを見ず。

 感情を見せない声色で続ける。

「殺すことも監禁することも有効ではないのならば、一番近いところで監視するのが最も賢いやり方だと判断したまでです」

 そこまでは海人も察してはいた。

 怪しい行動をすれば始末できる。

 何かを企めば素早く看破出来る。

 秘書艦とはそういう監視をするにあたって都合の良い場所だ。

 故に海人が知りたいのはそれではない。

 試すような視線の意味を、聞いているのだ。

「お前は俺の何を見極めようとしている?」

「全て、です」

「全て?」

「回りくどい話はお好きではないでしょう?」

「俺の性分をよく御存じで」

 海人は笑う。笑うが、目は一切笑ってはいなかった。

「では単刀直入に。私に認められたいのならば、私が楽園と定義した場所を、貴方の手で壊してください。ただし、艦娘は壊さずに」

「……そういうことか」

 壊れてしまった艦娘を救えと。

 楽園からこちら側に連れ戻せと。

 加賀はそう言っているのだ。

「期間は?」

「設けません。ただし、失敗すれば私が貴方を殺します」

「おい、模擬戦の約束は?」

「故に、貴方が認めてください。失敗したら殺されると。それが私に出来る最大限の譲歩で、貴方が私を認めさせる最後の機会です」

 逃げ場はなさそうである。

 己の命が賭けられていた。

 問題ない。

 もとよりこの島の全ての艦娘を心から笑わせる心積もりであった。

 そこに己の命が賭けられていても、大した痛手ではない。

 それどころか成功すれば加賀が認めると宣言したのだ。

 むしろ大収穫である。

「認めよう。失敗したら殺される。だが言質を取ったぞ? 俺が成功すればお前は俺を認める」

「構いません。達成出来たのならば、私は貴方を認め。私の知る全てを話して、貴方に全てを託しましょう」

 氷のように冷たい加賀の視線を真正面から受け止め。

 海人はさらに追加する。

「そしてお前も絶対に心から笑わせてやるからな、加賀」

「ご自由に」

 その日から、海人の新たなスタートが切られた。

 手段は問わない。

 賭けられたのは己の命。

 報酬は加賀。

 そして目的は楽園を壊すこと。




「という訳でやってきました【楽園】こと、山奥の宿舎です」

「なんですか? そのノリは、正直不愉快なのですが」

「手厳しいな、おい……」

 雰囲気だけでも盛り上げようとした海人に対し、加賀は冷徹かつゴミでも見るような視線を突きつける。

「こういうのは計画的にやらないといけないからな、目標を定めるぞ」

「なるほど。てっきり私は貴方のことを行き当たりばったり。出たとこ勝負、行動してから考えるタイプだと思っ ていました」

「いや、間違ってはいないんだけどな。本当の事を本人に叩きつけると傷付くんだぞ? 知っているか?」

 がくりと肩を落としながらも海人はまるで傷付いた様子がない。

 加賀の毒舌を楽しんでいる雰囲気すら見受けられた。

 鋼のメンタルである。

「それで、その意図は」

「いや、ここに残った面子と戻ってきた鈴谷は正直軽々しく触れられない精神状況だからな。浜風とか心に地雷だらけで足の踏み場がない」

 完全に現実を見ていない。

 もしくは自分の都合の良い世界を形成している。

 そうやって事実を誤認して改変している精神状況の艦娘は、少しの事で取り返しがつかない程に壊れる危険性を内包しているのだ。

 故に接し方も細心の注意を払う必要がある。

「ちなみに俺は楽園から出た奴らのケアも必要だと思っている」

「……私が提示した条件外の話ですか」

「ああ。夕立や時雨。確かに壊れているとは言えないし、このままでも問題はないんだろうが、心に暗いものを抱えたままにするのは可愛そうだろ。やはり心の底から笑えるようになってほしい」

 彼女らは殺戮兵器としての自分を刷り込まれている。

 長い時間を費やした特殊な訓練だ。

 おまけに命令されたとはいえ、仲間を殺したという自責や後悔の念は一生ついて回る。

 解放することは出来なくても、それと向き合う方法は教えなければならないだろう。

「難しいことですよ?」

 時雨はスイッチが入る。と言っていたが、殺戮の人格に意識を奪われると本当に我を忘れていた。己の全てを使って目標を殺すだけの存在になっていた。

 実際に戦った加賀にははっきりと分かる。

 恐らく、夕立もそう違いはないだろう。

「確かに刷り込まれた暗示を解くのは沢山の時間と労力を必要とするだろう。だが、それは俺が一緒にいる限りゆっくり進めればいい。それよりもあの二人は当面の問題を全部解決するもっと手っ取り早い方法がある」

「そんな便利な手段が?」

 加賀は驚く。

 そんな方法を彼女の知識では一切思い浮かばなかったからである。

「なんとふたつもある。ひとつは忘れさせることだ。記憶領域から忘れさせれば解決させられる。思い出せないようにするだけでいい。それなら方法は無数にある。が、この島は記憶を刺激する情報に溢れているからな、この方法は有効じゃない」

「もうひとつは?」

「上書きすることだ。消したり解除したりするより簡単な上に、上書きする俺が傍に存在する限りかなり強い効果がある」

「……掛けられた暗示よりもさらに強い暗示で上書きするということですか。そんなことが本当に可能なのですか?」

「暗示は新しい自身の肯定だ。暗示を解くために昔の自分を否定するよりも遥かに簡単だし、時雨と夕立の心が受け入れれば難しいとは思えないな。催眠術を掛けようって訳じゃない。簡単に今ある暗示の妨げになる新しい暗示を鍵のように掛けるだけだよ」

「簡単に言っていますがそんな都合よく……。いや、貴方はやるのでしょうね」

 変な信頼であった。

 けれど悪い気はしない。

「表面上はまっとうな川内もあいつはあいつで抱えているだろうし、それも一度吐き出させてやりたい」

 川内が己の強さで抱え込んだ闇は加賀も心当たりがある。

「やるべきこと、やりたいことはいくらでもある」

「どうして貴方はそこまで?」

「どうしてと言われてもなぁ……」

 海人は黙って暫く考えた。

「記憶を失って最初の感情が電に恩返しがしたいだったが」

 今は違っていた。

 いや、今も尚、命の恩人である電には感謝をしている。

 川内にも。

 だがそれ以上に。

 明確な理由と意思がある。

「俺が提督だからだ。提督が艦娘を助けるのは当たり前だろう?」

「意味不明ですが」

「何故だ? 艦娘は体を張って海を守っているんだ。傷は船渠で癒える。でも心はどこで癒す? 彼女らの心の支えは何だ? 提督なんて椅子に座って偉そうに命令する身分なんだ。心ぐらい支えてやる。痛みくらい癒してやる。辛いなら一緒に背負ってやる。深海棲艦と戦えない無能な人間だからこそ、彼女たちの心だけは俺が全力で守るんだよ。それが、提督が提督である証だと俺は思う」

「…………そうですか」

 そっけなくそう言って加賀は前に進む。

 宿舎に入るのだろう。

「ちょっと待った」

 慌てて肩を掴んで引き留める。

「どうしました?」

「こう言っては失礼かもしれんが、お前がここに姿を現すのは多分相手側の心象によろしくない、と思う」

 加賀は確かに。そんな感じの表情をした。

 珍しく間抜けな表情であった。本当に意識の外にあったのだろう。

 まさかそれほどまでに動揺していたのだろうか。海人の言葉によって。

「俺の言葉に惚れ直すのは構わないが、ポカはこれくらいにしてくれよ? 俺だってフォローはするが、それでカバーし切れるとも限らなぐえっ!」

 海人は腹を抱えてその場に蹲る。

「おい、マジで殴ることないだろ……」

「空いている部屋で待機しています。終わったら、教えてください」

 そのまますたすたと先に行ってしまう。

「痛つつ……、鳩尾に鋭い一撃。完全に殺す気だったろこれ……」

 苦笑いしつつ。

 加賀と多少はコミュニケーションがとれたことに喜びを感じた。

 例えどんな感情であれ心が動くことは良い事なのだ。

「さて、ではやり始めるか」

 目標は決めてある。

 おまけに用事まで用意してきた。

 レ級戦での約束を果たすのだ。

『いいぞ。その調子だ、島風。あとでご褒美だっ!』

『本当ですかっ? やったーっ!』

 切掛けには丁度良い用事だろう。

 そう、海人はこれから島風と天津風に会いに行くのである。




 静かな廊下を歩く。

 ほんの少し前までは賑やかだったこの場所も、多くの艦娘が移動したことにより今は静けさと寂しさの同居する空間になってしまっていた。

 楽園と名付けられた場所。

 ここから踏み出すことが本当に正しいのだろうか。

 そんな迷いが海人にない訳ではない。

 けれど思うのだ。

 彼女らには心の奥底から笑ってほしいと。だから海人はその部屋の前にやってきたのである。

 島風と天津風二人の部屋だ。

「海人だ、入っていいか?」

 ノックと共に少し大きめの声で言う。

「え!? か、海人!? どうして!?」

「おぅっ!? 提督ですか? いいですよー」

「ちょ、だめっ、待って私、準備が、まだっ!」

「わっ、ちょっと天津風、暴れないでよーっ!」

 なにやら部屋の中が大変騒がしい。

 どうやら中で天津風が慌てているようである。

「入っていいのか? 悪いのか?」

「いいですって」

「よくないわよっ!」

 即答で間反対の答えが返ってくる。

 とりあえず天津風の気が済むまで待つしかないだろう。

「……入ってよかったら教えてくれ」

 そうとだけ言って海人は黙って待つことにする。

 そうして腕を組んで扉の前で待機することおよそ十分程度。これ以上待つならば流石に日を改めようか考えていた頃にようやく。

 天津風が扉を開けて出迎えてくれた。

「ま、待たせたわね」

「本当に待ったぞ」

「こういうときイイ男は笑って待ってないと言うものよっ!」

「俺はイイ男じゃないものでな」

 そう言って天津風を見る。

 いつも通りの整った服装と髪型だった。

 身嗜みを整えていたのだろう。

 次に部屋を見る。

 かなり片付いている。が、慌てて片付けたのが分かるくらいには粗が目立った。

 それに気が付かない振りをするくらいの気遣いは流石に海人にも出来る。

「ていとくー、聞いてくださいよー。天津風ってば見栄っ張りだから、大慌てて着替えて片付けて島風まで手伝わされたんですよー?」

 台無しであった。

 そして天津風が顔を真っ赤にして体を震わせている。

「あんたはーっ、どうしていつもそうやって余計なことをっ!!」

 叫びながら飛び掛かるも、島風の素早さは尋常ではない。この狭い空間でも縦横無尽に駆け回り、飛び回るおかげで天津風では影さえも捕まえられない。

「天津風おっそーい!!」

「待ちなさい、待って、……待てコラァッ!!」

 海人を中心に駆け回る二人。

 蚊帳の外で立ち尽くす海人はもう帰ろうかと思い始めていた。

 激情して飛び掛かる天津風。それを島風はいとも簡単に飛び越えて躱してしまう。

 勢い余った天津風はそのままクローゼットに直撃して。

 その衝撃でクローゼットが弾けた。

 そう、弾けたのだ。

 もともと無理な収納をしていたのだろう。

 海人の急な訪問に驚いた天津風は、急場しのぎの為にそこに部屋の物を積み込んだのだ。

 それが衝撃によって飛び出した。

 故にクローゼットが弾けたのである。

 大量の衣服、下着、ぬいぐるみや雑貨、もろもろ様々な小物類が雪崩のように部屋に溢れ込む。

「……一度、部屋を出てやりなおそうか?」

 あまりにも酷い惨状に海人が言えたのはそれだけであった。

 顔を床に伏せたまま、耳を真っ赤にして体を震わせている天津風は呻く声で嘆いた。

「もう、手遅れよ……」

「それで提督はどんなご用件ですかー?」

「この状況で通常運転とは島風、お前は本当にマイペースだな」

 苦笑してしまう。

「褒められましたー?」

「そんな訳ないでしょっ!!」

 半分泣き声交じりで天津風の絶叫が部屋に響き渡った。

「おぅっ!?」




「あー、改めて俺がここに来た要件だが」

 部屋を三人で片付け、天津風も落ち着いてきた頃合いを見て切り出す。

「この前の戦闘で島風に褒美をやるって言っただろ?」

「そうでしたっけ?」

「あんたねぇ、覚えてなさいよ」

 どうやら島風は覚えていないらしい。

 加賀の件がなければ、ならいいか。と引き下がるところだが、自分の命が賭けられている以上そういう訳にもいかない。

「お前が覚えていようがいまいが俺はそう言った以上ちゃんと実行する。で、何が欲しい?」

「欲しいものですか? うーん、すぐには思い浮かばないですねー」

「して欲しいことでもいいぞ。そもそも俺は人にあげられるほど何かを持っていない。なにしろ自分の記憶すら持っていないくらいだからな」

「貴方のそれは笑い事じゃないわよ……」

「記憶くらいなくてもなんとでもなるものだ。俺は今のところ毎日が楽しいぞ?」

 本当の事であった。

 思うままに行動して。思うままに言いたいことを言っている。

 この島は退屈には程遠い。

 実に人生を謳歌していると言えるだろう。

「加賀さんに命を狙われていてそういうことが言えるの、本当に貴方は胆力があるというか。心臓に毛が生えているというか……」

 天津風が呆れ顔で言う。

「失礼な。俺だってこう見えて結構繊細なんだぞ?」

「おー、提督と無縁な言葉ですね」

「褒美の前に拳骨くれてやろうか?」

「おぅっ!? 冗談ですってばっ」

 島風が頭を押さえて逃げる。

「でも私も島風と同じ意見よ。貴方に繊細なんて言葉は似合わないと思うわ」

「お前ら俺をどういう目で見ているんだよ」

「鉄人ね」

「無敵超人って感じですかねー?」

「どんな過酷な環境でも生き残りそうなゴキブリ並みの生命力だと思うわ」

「ゴリラに殴り合いで勝てそうです!」

「趣味は筋トレ。休みの日は滝に打たれて修行してそうだわ!」

「あとあと……」

「ええっと、あとは……」

「待て待て待て、ちょっと待て」

 止めなければ幾らでも出てきそうな二人を強引に止め。

 聞きたくはないことを聞く。

「え、なに? お前ら艦娘って俺をそんな目で見ているのか?」

「だって加賀さんに勝っちゃうのだもの」

「だよねー? 提督はもう人間として見られないですよ?」

 正直ショックである。

 少なくとも海人は艦娘より強いなどとは微塵も思ってはいない。

 条件付きの白兵戦で手段を選ばず、ズルを駆使することでようやく一本を掴みとれる程度の自負はあるが。それを特別とは思ってはいない。

 実のところ。

 その考えが既に人間離れしているのだが。

 常識的に考えれば、艦娘の戦闘力相手に勝機を見出すような存在はもはや人間とは呼べないだろう。

「嘘だろ、俺なんて副砲掠れば絶命するか弱き人間だぞ……」

「か弱き?」

「おい、島風。首を傾げるな」

「普通に生きてそう……」

「いや、流石に死ぬからな? 頼むからそういう前提でいてくれ?」

 戦場で海人だから大丈夫だろう。と、砲弾の嵐に放置されたらたまったものではない。流石に守ってもらわなければあっという間に死んでしまう。

「話に聞く限りだと艤装とリンクしていない私たちよりは強いのでしょう?」

「そんな訳あるか。お前ら俺を過大評価し過ぎだ。加賀との一戦は奇跡を掴むための努力はしたが、結局あれも運が良かっただけだからな?」

 あまり自分を低く見せるつもりはないが。

 いくらなんでも艦娘の評価が過剰のように思える。

 加賀との模擬戦は本当に数%以下の奇跡を拾ったのだ。

「もう一度やれと言われても絶対に出来ないぞ」

 同じ手は加賀には通用しないだろう。

「あ、それなら私の欲しいもの決まりましたー」

 突然、島風が元気に言う。

 とんでもない事を。

「加賀さんに模擬戦で勝つところを見せてくださいよっ!」

 さらりと、言う。

 奇跡を、もう一度起こせと。

 流石に海人も、顔をひきつらせた。




「という訳で加賀、負けてくれ」

「嫌です」

「そこをなんとか」

「嫌です」

「お願いだからっ」

「嫌です」

 加賀は断固として譲ってはくれなかった。

「少しは俺に協力しろよっ!?」

「どうしてですか? 貴方が達成出来なくて死んでも私は全く構わないのですが?」

「確かにそうだろうけどなっ!?」

 身も蓋もなかった。

「それにあの模擬戦は私としてもかなり悔しい思いをさせられました。ええ、その日は悔しくて寝られないくらいに。再戦で仕返しが出来るならば願ってもありません」

「私怨の塊だなぁっ!!」

 どうやら、茶番で終わらせることは出来ないらしい。

 加賀は全力で倒しに来る。

 試合を断られないのは助かるが、油断なし手抜きなしの加賀相手に奥の手もない状態の海人が勝てるとは思えない。

 可能性の欠片もなかった。

 奇跡とは準備し、掴む努力を放棄しなかった者が掴むべくして掴むのである。

 偶然降って湧く物ではないのだ。

 故に、海人は策を練る。

 弱者故に工夫をするのだ。

 手段を選ばないとは、取れる選択肢は全て実行できる準備をした者だけが言える台詞である。

 持てる札は多いほど良い。

「一週間後だ」

「はい?」

「一週間後にやるぞ。俺とお前の模擬戦は皆も興味あるだろ? 島風への褒美とはいえ、皆が楽しめる催しなら大々的にやろう」

「一週間も準備時間は必要ないでしょう?」

「いや、ある。イベントとしてやるんだ。ちゃんと皆が楽しめるようにしたい」

 全て嘘である。

 いや、確かに皆が楽しめるような明るい話題は欲していた。

 が、準備は急げば三日も必要ない。

 海人は加賀に勝つための準備の為に一週間を欲しているのだ。

「三日もあれば十分でしょう?」

 流石に痛いところを突いてくる。

「六日間はいるだろ? 鎮守府の仕事も進めないといけない」

「切羽詰まった仕事はありません。猶予を持たせても四日あれば問題ないかと」

「いやいや、なにも俺とお前の一騎打ちだけで終わらせるのも味気ないだろうよ。他にも企画したい。五日はどう考えても必要じゃないか?」

 水面下でのせめぎ合い。

「貴方に五日も与えるのが正直心底気に入りません」

「お前圧倒的有利の癖に器が小さいぞっ!?」

「前回の勝者が何を。私に余裕なんてある訳ないじゃないですか」

 艦娘の異常なまでに高い海人への評価がここでも弊害を及ぼしていた。

 たかが人間。そう侮っていればどれだけ気楽か。

 しかし加賀は海人を強敵として認め、全力で挑まねば負けるという気概でいる。

 証拠に準備期間を一日でも削ろうと今も譲る気がない。

 冗談ではない。こんな状態の加賀相手に勝てる訳がないだろう。

「……わかった。四日だ。四日後に俺とお前の模擬戦を行う」

「ルールは以前と同じで?」

「そうだな……。イベントとして催す訳だからな、些細な変更はあるだろうが。概ねそうだと解釈して構わない」

「…………」

 加賀が思案する。

 気付かれたのだろうか。

 海人の背に汗が流れる。

 重い空気。

 沈黙が、苦しい。

 それでも表情には出さないようにした。

「いいでしょう。貴方が一日譲ったのです。私も気付かなかったことにします」

 やはり気付かれていた。

 イベントの主導は提督である海人が握れる。

 それは些細なルール変更を海人が掌握出来ることを意味していた。

 そこに勝利の為の布石。手札の一枚を仕込むことを想定していたのである。

 これを得られたのは大きい。

 準備期間を一日削った以上の有利を得られた。

「では告知ですか。人数が少ないとはいえ、青葉がいないことが悔やまれますね」

「会場を作るとこからやるぞ。妖精さんに手配する。出店も作って雰囲気を出そう。総指揮者は提督である俺が。補佐に電を付ける。食品の扱いは意外に料理得意な川内に任せるか」

「そうだろうとは思いましたが、貴方が主導でやるのですね。おまけに私の関与を許さない。電を補佐に付ければ確かに私が文句を言う余地もないでしょう。お見事ですね」

「勘ぐり過ぎだ」

 不敵に笑う二人。

 そして四日間は、目まぐるしくあっという間に過ぎていく。


このSSへの評価

10件評価されています


Gauさんから
2017-01-16 00:07:35

ポテ神さんから
2017-01-12 00:46:08

SS好きの名無しさんから
2017-01-11 23:49:51

SS好きの名無しさんから
2017-01-11 13:13:53

SS好きの名無しさんから
2017-01-10 22:16:52

SS好きの名無しさんから
2017-01-08 21:50:49

SS好きの名無しさんから
2017-01-07 03:53:48

ロンさんから
2017-01-06 13:08:17

SS好きの名無しさんから
2017-01-06 12:36:09

SS好きの名無しさんから
2017-01-06 06:16:12

このSSへの応援

10件応援されています


Gauさんから
2017-01-16 00:07:30

ポテ神さんから
2017-01-12 00:46:04

SS好きの名無しさんから
2017-01-10 09:01:41

SS好きの名無しさんから
2017-01-06 15:06:44

ロンさんから
2017-01-06 13:08:14

SS好きの名無しさんから
2017-01-06 06:16:19

Rosalindさんから
2017-01-04 03:22:41

SS好きの名無しさんから
2017-01-03 10:37:43

SS好きの名無しさんから
2017-01-03 04:25:46

SS好きの名無しさんから
2017-01-03 01:51:58

このSSへのコメント

34件コメントされています

1: とーご 2017-01-03 11:40:16 ID: Xnoa-Qe9

現状構想段階で【海から来た人】は四部作となっています。
なんと、まだ二部です。
まだまだ続きます。
なんでそんなに膨らませたのか考えた自分殴りたい。
マイペースで頑張りたいと思います……。

2: とーご 2017-01-05 07:49:29 ID: b4JkbHzy

最初はこんなハイスペック主人公にするつもりはなかったのに、なんか気付けばなんでも出来そうな感じの主人公に……

3: SS好きの名無しさん 2017-01-06 15:05:25 ID: yp_sM-Zt

一気に追いついてしまって続きが気になって仕方ありませんな...。

4: とーご 2017-01-06 18:30:43 ID: wp84Hgdg

3〉あの量を一気に読んでくださるとはありがとうございます。
三連休使って大幅に進める予定なのでお待ちくだされ。

5: SS好きの名無しさん 2017-01-09 18:02:51 ID: fvg8pPJE

4>イヤッホォォォォオオオオオ!!!

6: とーご 2017-01-10 07:48:39 ID: 5wGNE-u8

こ、…更新しようと思ってたら寝落ちしました……(震え声)

今晩やります( ;∀;)

7: とーご 2017-01-10 22:05:05 ID: u_VnKahF

更新しました。
今晩中にもう一回更新できる・・・かな?
頑張ります。

8: SS好きの名無しさん 2017-01-10 22:16:45 ID: qSQ5LHhl

お疲れ様です!楽しみにしてまする

9: とーご 2017-01-10 23:35:46 ID: u_VnKahF

めっちゃ更新した。
疲れた・・・・・・。

10: とーご 2017-01-10 23:37:01 ID: u_VnKahF

8>ありがとうございます。
楽しんでもらえれば幸いです。
というかコメントくれる人みんなありがとう。嬉しい。
応援押してくれる人も、評価くれる人もありがたいです。

11: とーご 2017-01-10 23:37:32 ID: u_VnKahF

ちなみにこの脱獄方法ノンフィクションです。
実際にこれやった人いるらしい。

12: SS好きの名無しさん 2017-01-11 09:02:06 ID: _8FW_Q3Q

更新お疲れです!海人強すぎひん?

13: とーご 2017-01-11 10:18:10 ID: P7DOBmgY

12おつありです!
いや……当初はこんな鉄人になる予定ではなかったのですが、気付けばとんだ怪物にw

14: とーご 2017-01-11 10:20:29 ID: P7DOBmgY

もう開き直って主人公はダイハードの主人公とテロリスト殲滅する船のコックを足して二で割った感じ目指します。

15: SS好きの名無しさん 2017-01-11 13:13:28 ID: wry4NMfM

海人の壁登りでALSOK吉田ネキを連想
良い男ですね、叢雲と榛名かー。ぬいぬいの気配も?

この加賀さんには優しい未来が訪れてほしいです

16: とーご 2017-01-11 14:36:38 ID: P7DOBmgY

15〉確かに吉田ネキCMでやってましたねw
そうです。あんな感じですw
ぬいぬいよく気が付きましたね。ぬいぬい可愛いからこの先で絶対に出す予定です。

17: SS好きの名無しさん 2017-01-11 17:52:12 ID: _8FW_Q3Q

もう待ちきれないよ!早く(続きを)出してくれ!

18: とーご 2017-01-11 18:08:02 ID: P7DOBmgY

17〉狙ってる訳じゃないんですけど、更新は大体いつも夜の11時過ぎくらいです。
今日もそんぐらいに更新すると思います。

19: SS好きの名無しさん 2017-01-12 01:31:07 ID: djVTH2yV

インフレなんか気にせんぞ
チート大好き

20: とーご 2017-01-12 07:09:58 ID: o6EYZ31u

19〉コメントとオススメありがとうございます!
このまま海人を暴れさせていきます!w

21: SS好きの名無しさん 2017-01-12 08:20:42 ID: 2KlNTbEs

更新お疲れです!加賀もなんだかんだ海人に期待し始めてる感じがいいでね...

22: とーご 2017-01-12 08:56:36 ID: o6EYZ31u

21〉おつありです!
加賀の場合は氷山の一角がようやく溶け始めたって感じですね。
彼女の心の闇はまだまだ深そうです。

23: とーご 2017-01-12 22:44:13 ID: o6EYZ31u

更新しました。
次は海人メンタルクリニック島風天津風編です!!
海から来た人の前作コメリクようやく実現出来ます!! あのコメした人まだついてきてますか???w

あとどなたか存じませんが二つ目のオススメありがとうございます! 最近めっちゃモチベ上がってます!

24: SS好きの名無しさん 2017-01-12 23:25:27 ID: NXUV7qo6

わ た し だ 。

25: SS好きの名無しさん 2017-01-12 23:26:07 ID: NXUV7qo6

あと更新お疲れです!いよいよ動き出した感じでワクワクすっぞ

26: とーご 2017-01-13 00:05:57 ID: uwpdFYSu

25〉ありがとうございます!!
焦らし続けましたがそろそろ伏線拾っていきます。

27: SS好きの名無しさん 2017-01-15 00:40:38 ID: DicDv06J

続き待ってます!

28: とーご 2017-01-16 01:20:20 ID: MNsQRj7y

27〉島風と天津風の話が難航してます。まとまったら書き始めるのでお待ちください。

29: SS好きの名無しさん 2017-01-18 23:21:50 ID: U69fnV5e

わくわく
楽しみ

30: とーご 2017-01-19 10:01:41 ID: EaTBKMHZ

29〉お待たせしました。

天津風の設定が素早く決まったのに対して、島風は悩みましたが。今朝、通勤時にぽんっと思い付きました。思い付いてみるとこのタイミングで出さないといけない情報を開示させつつ、天津風の設定とも噛み合うのでこれしかない設定なのですが難産でしたね……。
今晩書き進めます。

31: とーご 2017-01-19 21:48:46 ID: RbU13o47

更新しましたー。
話は決まっていても、島風と天津風がまだ掴みきれてないので筆が遅いですねー。
慣れてきたらもっと進むと思います。

32: SS好きの名無しさん 2017-01-19 23:11:35 ID: 9racsmjI

更新乙です。ちょっとこれはキツいお願いですな...

33: とーご 2017-01-19 23:20:18 ID: RbU13o47

32>島風視点だと海人が命を賭けていることを知らないですからね。別に無理難題を言っている訳ではなく、加賀が【殺せない】約束を破らない前提で話してます。なので、島風に悪気はないんですよw

34: とーご 2017-01-19 23:21:59 ID: RbU13o47

別に模擬戦で負けたからと言って死には直結しませんが。島風の心に踏み入るきっかけとして考えれば、海人としては成功させたいお願いとなる訳です。


このSSへのオススメ

2件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2017-01-12 01:30:47 ID: djVTH2yV

インフレなんか気にせんぞ?
チート大好き!

2: SS好きの名無しさん 2017-01-12 21:59:40 ID: NXUV7qo6

主人公つおい


オススメ度を★で指定してください