2017-01-20 03:37:02 更新

概要

色んな鎮守府の内部を監査官として、第三者の目から見ていく。


前書き

3作目です。
大前提として艦娘は人間ではなく、兵器として生み出された存在。
地の文が入ります。
その他設定は模索中です。





プロローグ



 中立的という言葉をご存知だろうか。

 例えば、大袈裟ではあるがどちらが正義でどちらが悪か?と問われた時、中立的な者はこう答えるだろう。



 「どちらとも言えない、と」



 これが僕が上から命令されたお仕事に必要な教訓。

 これだけじゃ何が何の事だか分からないと思うから、少し時間を遡ってみようか。

 元憲兵の男が "鎮守府"という大きな組織を相手に四苦八苦するのは、もう少し先の話でもいいだろう。










case0 監査官が着任されました



 鎮守府監査官。その仕事は至ってシンプルなものとなっている。

 先ず上の命令によって対象となった鎮守府の運営状態を調査し、そしてその結果を上に報告。


 ただし、あくまでも調査は中立的に。報告も同様にすること。以上。

 


 「以上って、僕一人で行けってこと?」


 「はい。鎮守府監査官はまだ貴方一人だけなので」



 僕の信じられない、という物言いに少しも動じない彼女。

 知的な印象を受けるのは眼鏡のせいだろうか。眼鏡をくいっと上げる仕草が更に彼女を知的に見せる。

 そんな彼女の名前は大淀さん。上からの命令を僕に伝える、どうやら伝達役を担っているらしい。



 「仕事内容はマニュアルに書いてあった通りです。期限は三日後、それまでに調査結果をまとめておいてください」


 「三日後…あの、一ついいですか……?」


 「何でしょう」


 「助手というか…手伝ってくれる方とかはーーーー」


 「いません」



 僕の頼みの綱は大淀さんの一言であっさり切り捨てられてしまった。

 大淀さんは「それでは」と言うと最後に眼鏡をくいっと上げ直し、部屋を出て行った。

 

 部屋には僕の吐いたため息によって重苦しい空気が充満していく。

 だがまあ、いつまでもじっとしているわけにもいかない。クビになれば僕の今後に響く。



 「とりあえず行くしかないか。えっと、▽△鎮守府…ってどこだっけ」

 


 僕はマニュアルを机の引き出しの奥底から引っ張り出した。










case1 違和感の正体を調査せよ



 「着いた…結構遠いところにあったんだな、ここ」



 ▽△鎮守府まで電車やらバスやらを利用し、着いた頃にはもう日が暮れ始めていた。

 腹の虫もさっきから鳴りっぱなしのありさまである。

 というのも、朝から何も食べていないのだ。ここまでの交通費で財布の中身が底をついてしまっている。

 

 

 「交通費ってこれ、まさか自腹じゃないよな。後で絶対請求してやる」


 「おい貴様、そこで何をしている」


 

 はっと我に帰ると、門の前でこちらを睨む衛士と目があった。

 ただでさえ厳つい身なりをしてるのにそのゴリラのような顔と体格が相まって、正直近寄りがたい雰囲気を放っている。

 

 僕はとりあえずマニュアルと一緒に渡された身分証を提示し、反応を待つ。



 「……そこで待て」


 「分かりました。なるべく早めにお願いします」



 突き返されるかと思ったが意外にも大丈夫だったみたいだ。

 おそらく上が予め通達しておいてくれたのだろう。


 衛士は無線で素早く確認を取ると「入れ」と中へ通してくれた。

 この辺はさすが、鎮守府の警備を任されているだけのことはあると感心する。



 「その先の扉で待て。案内の者を寄越すとのことだ」


 「はい。お務めご苦労様です」



 衛士の言った通り、真っ直ぐ進んで扉の前で待つ。

 中は思っていた以上に広く、僕が見てきた鎮守府の中でもトップクラスの規模であった。

 これだけ大きい鎮守府を任されるってことは、提督もかなり優秀なんだろう。

 

 まあ、その辺の下調べは既に済んではいるのだが。

 そんなことを考えていたら突然入り口の扉が開いた。



 「お待たせしました。どうぞ、お入りください」


 「えっ、あっ、はい」



 現れたのは背丈の高い、落ち着いた雰囲気を放つ女性。

 僕は言われるがままに中へと足を踏み入れる。



 「鎮守府監査官の方ですね。私は秘書艦の大和と申します」


 「大和さん…よろしくお願いします。早速ですが提督室はどちらに?」


 「こちらです」



 こんな感じで簡単に自己紹介を済ませ、大和さんの後をついていく。

 中も相当広く、思わず鎮守府全体を使って鬼ごっことか、かくれんぼをしたら楽しそうだなとか考えてしまった。


 ただ歩いているうちに、不思議とそんな気持ちは消失していく。

 


 (静かすぎるな・・・これだけ大きい鎮守府なら艦娘もそれなりにいるはず。なのに話し声が一つも聞こえてこない)


 「あの…どうかされました……?」


 「い、いえ。少し考え事を」



 いつの間にか足が止まってしまっていたようだ。いけないいけない。

 再び提督室を目指して歩き出す。

 

 すると大和さんが前を向いたまま、何やら独り言のように呟いた。



 「……しっかりその目で見て行ってください。そして出来ることならーーーー」



 この時の僕には大和さんが何を言っているのか分からなかった。

 ただ歩いて行くたびに、何とも言えない違和感が僕の中に蓄積されていくのだった。












 「とりあえず話だけでも聞こうか。どういう要件でここへ来たのか」


 「えっとですね……」



 大和さんの案内で提督室へとやって来た僕であったが、どうにも歓迎されているとは言えない態度であった。

 一先ず僕は提督にここへ来た経緯と目的を簡潔に説明する。

 


 「とまあ、こんな感じです。明日には帰りますので」


 「ちっ、上の連中は一体何を考えている…まさか…いや、それはない」



 よく分からないけど自分の世界に入ってしまわれたようだ。

 大方の説明はついたことだし、ここからは自由にさせてもらうとしよう。



 「それでは、失礼します」


 「ちょ、ちょっと待て。大和を貸そう、分からないことがあればこいつに聞くといい」


 「えっ、別に大丈夫ですよ。鎮守府のことは大体ならーーーー」


 「いいな大和。頼んだぞ」


 「……はい。分からないことがあったら何でも聞いてください」



 僕は断ろうと思ったけど結局断れなかった。

 正直、一人の方が行動しやすくていいんだけど。


 とりあえず、こうして監査官としての初めての仕事がスタートした。












 提督室を後にした僕は先ず食堂へと向かった。

 大和さんは若干渋っていたようにも見えたが「こちらです」と案内してくれた。

 

 僕が先ず食堂へ向かおうと思った理由は主に二つ。

 一つは監査官として食堂を見て回ること。二つ目は単純に僕の空腹を満たすため。

 ここまでの交通費のせいで昼飯を食べ損ねたのは痛かった。



 「すみません、監査官さん。中に数名の艦娘がいますが宜しいでしょうか……?」


 「えっ、もちろん大丈夫ですよ。一応仕事も兼ねてますから」


 「……分かりました」



 大和さんの意味不明な質問に少し戸惑ってしまったが、これでようやく遅い昼飯にありつける。

 時間は19時ちょい前。向こうを出発したのが朝の10時。

 本当に長かった・・・。


 食堂へ入ると大和さんが言った通り、数名の艦娘が食事を取っていた。

 加えて何やら鼻を刺す強烈な異臭。そしてここへ来た時に感じていた妙な違和感。

 一見、艦娘がただ食事をしているように見える。

 

 だが何かが変だった。



 「あの、大和さん。みんな何を食べて…いや、飲んでるんですか?」


 「ああ、燃料ですよ。帰投した艦娘たちが補給しているところです」


 「……は?」



 あれ、燃料って飲むモノだっけ?と頭の中で自分に問いかける。

 結論は直ぐに出た。



 「えっと…質問を変えます。何でこう、うまくは言えませんが…静か過ぎませんかね……?」


 「………」



 大和さんは何も言わない。

 僕は再び食堂の方へと目を向けた。

 

 大和さん曰く、燃料をストローのような物で飲み続ける彼女たち。

 彼女たちの目に光はなく、まるで感情がないような、正に見てる者を凍てつかせる光景であった。



 (異常だ・・・見てるこっちが気分悪くなる)


 「どうかしました?」


 「……いえ、何でもありません。それより別の場所を案内してもらっても宜しいでしょうか」


 「ええ、構いませんよ」



 一先ず食堂を後にする。そして考える。

 あの鼻を刺す臭いはおそらく、艦娘の補給に必要な特殊な燃料の臭いだ。

 だが直接摂取するなんてのは聞いたことがない。普通なら艤装に補給するだけでいいはずだが・・・。



 「監査官さん。次はどこに行けば……」


 「そうですね…とりあえずは大丈夫です。それよりいくつかお伺いしたい事があります」


 「………」


 

 しばしの沈黙。

 やがて大和さんは何も言わずに歩き始めた。

 黙ってついてこい、ということだろうか。まあこんな廊下で話せる内容じゃなかったし、僕にとっては好都合だ。

 

 それにしても下調べしておいてよかったと、昨日の僕に感謝する。

 食堂での光景で違和感の正体は大方見えた。後はもう少し話を聞いて、退散するとしよう。


 こんな色んな意味で真っ暗な鎮守府には長居したくない。












 大和さんに案内されてやってきたのは、おそらくもう使われていない埃まみれの部屋であった。

 ただ置かれている家具だけは立派なもので、掃除すれば十分使えると思う。


 提督室があった建物が本館だとすると、さしずめここは別館と言ったところだろうか。

 人の気配が全くしないため、この部屋だけでなく別館そのものが使われていないと考えられる。


 

 


 「どうぞ、お掛けください」


 「何かすみません…ワガママを言ってしまったみたいで」


 「とんでもありません。提督の命令ですから、私に出来る事があったら何でもおっしゃって下さい」


 「あ、ありがとうございます」


 

 笑顔でそういう大和さんであったが、目がちっとも笑っていない事に気付き、思わず身震いしてしまった。

 


 (ここの艦娘は皆そうなのだろうか・・・いや、でも大和さんは食堂にいた艦娘ほどじゃないな)


 「あの…監査官さん……?」


 「あっ、すみません…少し考え事を。それより大和さんも座ってください。長話になるかもしれませんから」


 「私はこのままで大丈夫です。慣れてますから」


 「いえ、それだと何か落ち着きません。どうぞお座りください、大和さん」


 「……分かりました」



 さて、これでようやく落ち着いて話が聞ける。

 僕は「ふぅ」と一息吐き、そして言った。



 「大和さん、僕はこの鎮守府に違和感を覚えてなりません」


 「………」



 大和さんは黙って下を向いたまま動かない。続けるとしよう。



 「具体的に述べるとすれば、このおかしな雰囲気です。こんなに大きい鎮守府となれば、在籍している艦娘もそれなりにいるはず。なのに話し声が一つも聞こえて来ないのはなぜでしょう」


 「………」



 動きはない・・・か。もう少し続けよう。



 「更に、あの食堂での光景。あんなの誰がどう見ても異常です」


 「………」



 未だ大和さんに変化は見られない。ずっと黙ったままだ。

 このままでは埒が開かない、そう考えた僕は結論から言うことにした。



 「単刀直入に言います。大和さん、ここは


 「違います!!」



 はげしい口調で大和さんは僕の言いかけたことを否定した。

 突然の怒号に少し驚いてしまったが、改めて続けるとしよう。

 


 「大丈夫ですよ。別にここがどういう鎮守府だろうが、僕にどうこうする気はありませんから」


 「っ…でも貴方はここの調査に来たって……」


 「ええ、確かに。ただあくまでもこの調査は、鎮守府がちゃんと運営されているかどうかの調査です」


 「………」


 「現時点では問題は見当たりません。安心してください」


 「……そう…ですか……」



 再び大和さんは下を向いたまま動かなくなった。

 その後も僕の話は続いたが、あれっきり大和さんの口が開くことはなかった。












 気がつくと時計は20時を回っていた。

 大和さんは秘書艦としての仕事がまだ残っていたらしく、話を終えると直ぐに部屋を出て行った。

 

 さて、これからどうしたものか。



 「今日はとりあえずここに泊めてもらうとして…明日の朝にはここを出よう」



 正直、まだ聞きたいことは残ってたけど仕方ない。

 おそらく、あれ以上は話にならなかっただろうしね。



 「……まだ20時を回ったばかり、か。でもなぁ…もう少し話を聞きたいって気もするし……」



 頭の中でしっかり議論を重ねた結果、調査不足との結論が出た。

 目的はせめてあと一人、艦娘と接触すること。



 「この時間ならまだ食堂にいるはずだし…早く行かないと…って、あれ……?」



 部屋を出ようとドアノブをガチャガチャする。だが扉が開くことはなかった。

 


 「……あっ」



 お察しの通り、外側から鍵をかけられてしまったようだ。

 この部屋で大人しくしていろ、要はそういうことなのだろう。



 「まさか内側から開けられなくする構造だったとは…油断した」



 僕はここで今日一番の深いため息を吐いた。

 にしてもあの提督、監査を妨害するって結構な違反行為なんだけど、その辺は承知の上なんですかね・・・。



 「流石にこれは見逃せないな。後で上にチクっておこう」



 ブツブツ言いながらも、僕はこの部屋からの脱出を決意。

 扉からの脱出は不可能なので、別の手段で。

 え、扉をぶっ壊せばいいって?いやいや、そこまで僕は浅慮じゃないよ。



 「窓からの脱出も不可能。もう少し低かったら飛び降りれたけど、流石に計算済みか」



 と、早くも諦めかけたその時。

 部屋の扉が三回、叩かれた。次いでドアノブをカチャカチャする音。



 「えっ、鍵かかってるし…あの、誰かいませんかー?」



 鍵がかかってることに声の主はどうやら困惑しているご様子。

 僕はまさかの出来事に一瞬判断を鈍らせたが、考えてみれば何の問題もなかった。 

 だって、閉じ込めた側の人間が僕のいるこの部屋にくるはずもないしね。



 「ここで合ってますよ。ここが貴方の来るべき部屋です」


 「ひゃっ…ちょ、ちょっと!びっくりさせないでよ!」


 「すみません。ドアが錆びついてしまって、中から開かないんです。外から開けられませんか?」


 「もー、仕方ないわね…少し離れてて。こういうのは力づくで!」



 バキッ!と木製の扉が派手に吹っ飛んでいく。

 意外にも脆い作りになっていたようだ。



 (なるほど・・・脱出自体は簡単に出来るようになってたのか)


 「うっわ、ひどい埃…ごほっごほっ!」


 (いや、考えるのは後にしよう)

 


 怒号と共に、入ってきた彼女。

 

 先ずはそうだな・・・お決まりの自己紹介からいくとしようか。












 ドアを吹っ飛ばして中へ入ってきたのは、赤みがかった髪色に、二つの黄色いリボンが何とも可愛らしい女の子。

 これだけなら普通の可愛い女の子で通るだろう。

 だが彼女が着ている服はどういうわけかボロボロで、所々赤い染みが滲んでいた。

 アウトだ、逆立ちして見ても普通ではない。


 彼女は入ってくるや否や、僕を見て言った。



 「憲兵…じゃないわね。そのがたいだと衛士でもなさそうだし」


 「………」


 「あんた、何者?」



 そう言って僕を睨む彼女。

 やれやれ、さっきの「誰かいませんかー?」みたいなテンションの方が話しやすいんだけどな・・・。



 「まあ…怪しい者ではない、とだけ。あなたこそ、どこのどなたです?」


 「話を反らさないで。正直に言ってちょうだい。お願いだから」



 僕との距離を詰める彼女。流石に分かりやすすぎたかと反省。

 

 本当はあまり言いふらしたくないんだけど、仕方ないか。

 このまま黙ってたらゲームオーバになりかねないし。



 「……僕は鎮守府監査官です。上からの命令でこの鎮守府の調査に来ました」


 「!、鎮守府監査官…調査……?」


 「ええ。既に提督と秘書艦の大和さんは把握済みです」


 「………」



 不本意だったけど、正体を明かした以上この子にも話を聞かないと・・・。

 僕はチラッと彼女に目をやる。

 相変わらず格好が痛々しい上に、かなり疲れているようだ。顔色もよくない。


 

 「……行きましょう。早く入渠した方がいい」


 「へっ……?」


 「話は移動しながらで。喋るのも辛かったら何も言わなくて結構です」


 「ちょ、待ってーーーー」



 問答無用。僕は彼女の手を取ると、ようやくこの埃だらけの部屋を後にしたのだった。












 部屋を後にした僕らは、真っ暗な別館を出口を求めて歩き進んでいく。

 真っ暗といっても月明かりが窓から差し込んでくるおかげで、歩くのに支障はない。


 が、それは僕の話であって彼女はそうもいかないようだ。

 どうやら僕の思っていた以上に無理をしていたらしい。今は僕の肩を貸して歩いている状態。


 横から彼女の視線が突き刺さる。少し強引すぎたか・・・?



 「……ありがとね。肩貸してくれて」



 ふぅ・・・杞憂だったみたいだ。



 「気にしないで下さい。それよりドックまでの案内を」


 「いや、ドックはもう満員なの。だから部屋まででいいわ」


 「満員…分かりました」


 「お礼と言っちゃなんだけど、あなたの話聞いてあげる」



 かかった。これで遠慮なく話せる。

 もう時間も時間だし、早速本題から入るとしよう。



 「ここへ来る前にこの鎮守府のこと、色々調べさせてもらいました」


 「………」


 「戦果は上々、提督も優秀。民衆からの評価も素晴らしいものでした」


 「……そう。そうでしょうね」



 違うよ、話はここからなんだから。



 「ただ、最近は他鎮守府だって負けていません。この鎮守府に負けないぐらいの戦果を残しています」


 「………」


 「さて、ここで問題。戦力としては申し分ない▽△鎮守府、ではなぜ他鎮守府に引けを取るのか」



 ふと彼女の方へと目を向ける。

 彼女は何も言わない。ただ前を向いて歩いている。


 僕は一息入れ、そしてはっきりと言った。



 「答えは簡単です。単純にトップの差。つまり "提督" の問題ですよ」



 ここまで話したところで、別館の出入口へと到着した。

 同時に彼女が「もう大丈夫」と言ったので腕を離す。


 そして別館の扉を開き、僕たちは外へ。

 一応別館の扉にも鍵がかかってたケースを想定していたけど、心配いらなかったみたいだ。



 「やっと出られた…改めてお礼を。ありがとうございました」


 「あたしも助けられたし、おあいこよおあいこよ」



 そう言って彼女はヒラヒラと手を振る。

 初対面があれだったからか、慣れてくると気さくな人なんだという印象を受けた。


 

 「いっけない、もうフタヒトマルマル過ぎてんじゃん…早く戻らないと」


 「この後何かあるんですか?」


 「違う…規則でフタヒトマルマルを回ったら部屋から出ちゃいけないの。破ったら営倉送りにされて……」



 そこまで言って彼女は言い淀んだ。

 なるほど、規則を破ったらそれ相応の罰があるってことか。

 


 「だからごめん、これ以上話は聞けそうにない。ほんとごめんね」



 本当に申し訳なさそうに、この場を走り去る彼女。

 規則なら仕方がない。規則は守らなくてはならないから。 



 「………」


 「ちょっ、なに……?」



 そんな僕の思考とは裏腹に、気が付くと走り去ろうとする彼女の手を掴んでいた。

 我ながら呆れる。さっきまで規則は守らなくちゃ、とか言ってた癖に。



 「待ってください。話はまだ終わっていません」


 「あんた今の話聞いてなかったの!? ばれたらあたし、営倉送りにされるのよ!?」


 「大丈夫です。何かあっても僕が守りますので、ご安心を」


 「!、あんた何言って……」

 


 ほんと、何を言ってるんだろうと僕も思う。

 こんなこと普段の僕なら絶対に言わないんだけどね・・・。


 僕は未だバタバタしてる彼女の手を取ると、本館の中へと足を踏み入れた。












 約三時間ぶりに訪れた鎮守府本館(仮)は、相変わらずの静けさだった。

 まあ今は彼女の言う消灯時間だからだろうが、それにしても物音一つ聞こえないって怖すぎるだろ・・・。



 「気をつけて。この時間は衛士の見回りがあるから……」


 「中まで巡回してるんですか?大変ですね彼らも」


 「ここにいる憲兵も衛士も全て提督の言い成りよ。だからーーーー」



 と、彼女が何か言いかけたところで後ろの扉が急に開いた。

 中へ入ってきたのはこれまた図体のでかい、厳ついおじさん。

 

 衛士だ。外の巡回を終えて入ってきたところを鉢合わせたのだろう。

 衛士は鋭い眼光を僕らに向け、言った。



 「貴様ら、こんなところで何をしている!」



 最悪のタイミングだ。

 いや、僕は大丈夫。問題なのは僕じゃないから。


 

 「むっ…そっちにいるのは艦娘だな?」


 「あっ、あたしは……」


 「違反艦娘発見。繰り返す、違反艦娘発見」



 衛士は懐から通信機を取り出すと、そう告げた。

 なるほど。そうやって違反者を見つけたら他の衛士に連絡するのか。


 でも、いくらなんでも大人気ないと思う。

 相手は艦娘だけど、見た目はただの女の子なんだし。

 現に僕の隣にいる彼女、さっきから震えている。

 

 とか考えていたら、前から二人の衛士がずかずかとこちらに歩いてくるのが見えた。

 何だって衛士はみんなレスラーみたいながたいしてるんだよ・・・。



 「A班到着。これより営倉へと連行する」


 「同じく到着」


 「気は抜くなよ。途中で脱走されたら洒落にならんからな。抵抗するようなら骨の一本や二本、折っても構わん」



 二人の衛士は「了解!」と言うと彼女へと手を伸ばす。

 その刹那、彼女と目があった。

 

 とりあえず深呼吸する。

 ふぅ・・・よし、いける。



 「ちょっと待ってください」



 衛士の手をパン、と払い退ける。

 衛士は一瞬驚いた様だったが、直ぐに僕らを取り囲んだ。



 「貴様、何のつもりだ!!」


 「違反艦娘を庇うなんぞ、貴様も同罪だぞ!」



 後からやってきた衛士二人が騒ぎ立てる。



 「いい度胸だ…鎮守府監査艦とか言ったな。あまり調子にのるなよ」



 後ろの衛士が僕らを取り押さえようと距離を詰めた。

 それを引き金に前の二人も突っ込んでくる。


 僕は彼女をドン、と壁に向かって突き飛ばした。

 少し強く押しすぎたのか、「きゃっ」という小さな悲鳴が聞こえてきた。それについてはほんと申し訳なく思う。

 でも、これで衛士の目は僕だけに向けられるはず。

 レスラー級の男三人を相手にするのは初めてだけど、ぼこられない程度に逃げながら時間を稼ごう。


 だがこの時、誤算が三つ。

 一つは前方の二人の衛士の目がなぜか僕ではなく、彼女の方へと向いたこと。

 どうやら僕なんて眼中にない様だ。目が血走ってる辺り、よっぽど彼女を捕まえることに必死らしい。


 もう一つは前方の二人に気を取られて、後ろの衛士の攻撃に対応が遅れてしまったこと。

 見事、後方の衛士の強烈なタックルが僕にクリーンヒットした。


 最後の誤算は、僕の想像以上に衛士のタックルが強かったこと。

 そして打ち所が悪かったのか、意識が朦朧として視界がぼやける。



 「くっ……」


 「無駄な抵抗はするな。提督殿の指示を仰ぐため、お前も営倉へと連行する」


 

 ああ、なんてところに来てしまったんだろう・・・。

 後悔先に立たずとは正にこのことだ。

 

 でもそんなことより、あの時彼女を守ると言った僕の軽率な言動を、僕は朦朧とする意識の中で一番悔いた。









後書き

ああ・・・いつの間にかこんな展開に・・・


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