2017-02-15 22:08:13 更新

概要

地の文あり。シリアス多め
ぼのぼの鎮守府ライフとは違う角度から見る球磨型5姉妹です。


前書き

平和な日常に癒しを求める人はぼのぼの鎮守府ライフへ!

命と隣り合わせの非日常を求める人は球磨型5姉妹の非日常へ!



主な登場人物



提督

横須賀鎮守府の提督さん 誰とでも仲良くなれる明るい性格。実は将官でエリート



球磨

提督の秘書艦。球磨型5姉妹の長女。

執務を手伝う事はあまり無い。

意外とお姉ちゃんしてる。



多磨

球磨型5姉妹の次女。無口で感情の変化に乏しいが、天然ボケだったりする。



北上

球磨型5姉妹の三女。艦種としては珍しい重雷装巡洋艦。マイペースで飄々としてるが、阿武隈とはとても仲が悪い。



大井

球磨型5姉妹の四女。

北上と同じ雷巡。時に厳しく時に優しく。球磨が姉なら大井は母である。



木曾

球磨型5姉妹の末っ子。ある事をきっかけに努力し、雷巡となった。球磨型では数少ない常識人であり苦労人。


話はお互いにリンクしてるので合わせて読むことをオススメ致します↓




初めに



自由でありたい。




だが、自由にする権利を得てしまうと




それはめんどくさがり屋の私には負担になる




であるならば結局、自由を求めている"今"が




1番いいのかもしれない。




昔から私はそうだった。




結果を求めるくせに結果を得てしまうと




それにはなんの興味も湧かなくなる。




これは、星の数ほどある艦娘達の物語のほんの一部。




けれど確かにそこにあった、生きた証である。




モーニング



朝ごはんを食べに食堂に行く途中―。




「待ちな。」




通路を防ぐ黄色の影。




とても綺麗な前髪。




私と北上さんの通行を阻むのは軽巡『阿武隈』。




曰く、「私と阿武隈が仲良く?ないない!1+1が



3になるくらいありえないって」




曰く、「北上さんと私が仲良くですか?絶対無理ですっ」




とにかくこの2人は仲がよろしくない。




ってか、待ちなってあんただれよ。




「ここであったが100年目ぇぇっ!!」




「売られた喧嘩は買わなきゃね!」




朝から2人を怪我させるわけにもいかないし、




そもそも私しか止める人はいないし。




ゴンッと鈍い音が二回響く。




「さぁ、行きますよ!」




私はふたりを引きずって食堂まで連れていく。




2人には仲良くして欲しい。




(意地を張ってるだけだと思うんだけどなぁ。)




「私が先に日替わり定食にしようとしたんだけど」




「はぁ?私は起きた時から今日は日替わりの気分でしたー!!」




「な!?だったら私は昨日から!」




「だ、だったら私は…っ!!」




「はい、そこまで。」




「ここは食事の場ですよ、2人とも…。」




気がつけばまたあの2人は喧嘩してる。




って、あー鳳翔さんおこってる。




「まだ喧嘩するつもりなら私がお相手しますが?」




「すみません、鳳翔さん私から注意しておきますので。」




「すみませんでした。」二人も頭を下げる。




「で、結局注文は何にするんですか?」




「3人とも日替わり定食でおねがいします」




かしこまりましたと言って鳳翔さんは厨房に入っていく。




ここの食堂は間宮さんと鳳翔さんが切り盛りしている。




そして、



夜になると鳳翔さんが趣味でやっている
居酒屋へと変わり、



飲んだくれの集会となる。




私達は適当に空いている席を見つけて座った。




「…悪かったよ」




「え?」




「だから、悪かったって、ごめん。」




「あ、いや…私こそ意地張ってごめんなさい。」




2人が仲直りするなんて珍しい。




「いや、私が謝ってんだから謝らなくていいって」




「いやいや、北上さんこそ謝らなくていいですよ」




「何をー!」




「何さー!」




雨降って地固まらず、ね。




ため息をつきながらも




これはこれでいいのかもしれないと思った。




北上さんがこうやって



感情を出すことができる
友達ができたというのはとてもいい事だし。




なんだかんだいい関係なのかもしれない。




……前言撤回。鳳翔さんが弓持ってこっち来てる。




「あなた達、いいかげんにしなさい!!」




ーーーーーー




「疲れた…。」




今日は本当ならオフで1日ゆっくりと部屋で




ゴロゴロするつもりだったが、




北上さんと阿武隈が喧嘩なんかするから




一日中演習だった。それも鳳翔さんと




あの人、前線を退いた癖になんであんな強いのよ。




布団に横になってウトウトしかけていると




トントンのドアを叩く音がした。




ドアを開くと北上さんと阿武隈が立っていた。




手には包のようなもの。




「大井っちー!演習付き合ってくれてありがとねっ!」




「大井さん、これ羊羹です!」




あぁ。この人達は本当に―。




「うっ、ひっく……」




嬉しくて、涙が止まらなかった。




そうだ、この2人は喧嘩ばっかりするけど




こうやって、時々




不意打ちのように息を合わせてくるのだ。




思わず2人を抱きしめた




「大井っちー苦しいよう~」




それから3人で羊羹を食べた。




その時、結局また喧嘩を始めたのは別の話。







「球磨型会議を始めるクマ」




会議はこういう球磨姉さんの思いつきで始まった。




球磨姉さんと多磨姉さんと俺の部屋に




北上姉さんと大井姉さんが来てる。




せまい。かなりせまい。




「で、議題はなんですか?」




「今回の議題はこれだクマ!」




ご丁寧にボードまで用意して出した議題は―。




『球磨が長女だということを皆忘れている件』




「あぁ…」




「あー」




「にゃあ」




「はあ」




それぞれ多様なリアクションをしているが




思っていることはおそらく




「やっぱりか」と言った具合である。




「そのリアクションはなんだクマ!!」




「姉ちゃんはもっとお前らに甘えて欲しいクマ!」




うがーと爪を立てるがそんなに怖くない。




「大井っちのほうが包容力があるってだけで




球磨姉をないがしろにしてる訳じゃないよ?」




「クマァ!」




「痛てぇ!?」




突然殴ってきたんだけど、この人。




やっぱ怖いわ。




「大体、大井がおかしいクマ!」




「私ですか?!」




「もっとレズレズしろクマ!クレイジーサイコレズはどこいったクマ」




無茶言うなよ。



まぁ、球磨姉さんとしても思うとこがあるのかな。



姉としてのプライドというか威厳というかそういうことかねぇ。




難儀なもので。




「れ、レズって…。わ、私が、き、北上さんとっ」




大井姉さんほんとピュアだなぁ。




明日もあるし、早く寝たいんだが




あ、多磨姉さん寝てるし。




「じゃあ、怖い話対決するー?一番怖かった人が勝ちってことで」




話の論点変わっちゃってんじゃん




姉がどうとかそういうのはどうなったの?




「じゃあ、私からだよ~」




そうやって怖い話大会が始まり、




お開きとなったのは日付が変わった頃となってしまった。




勝者は多磨姉さんだった。




感情の無い声で話すから余計に怖い。




「なんか忘れてないクマ?」




思い出されるのもめんどくさいので




「そうか?もう寝ようぜ姉さん」と言うと




明かりを消しすぐ寝た。




その夜。




こっそりとドアを開ける音がして誰かが入ってきた。




俺は夢と現実の間でうとうとしながら




ただ耳をすませる。




そいつは球磨姉さんの方へ行き、小さな声で




「姉さん、姉さん」と身体を揺すった。




「んーっ…んー、大井かクマ」




「あの…おトイレついて来てもらえませんか?」




「しょうがないクマ……」




そこで俺は完全に睡魔に負けた。




朝。




昨日の夜のことを




球磨姉さんや大井姉さんに聞いても
知らないそうだ。



やっぱり夢だったのだろうか。




そうだろうな、あの大井姉さんがホラー苦手だなんて…




馬鹿な事考えてないで演習行こ。




「球磨姉さん、昨日はありがとうございます」




「さぁ、球磨には何のことだかさっぱりクマ」




「ふふっ、そうですか。」




「そんなことよりも、今日の出撃頑張るクマー」




「……やっぱり、姉さんには勝てませんね」



散歩



「北上さん北上さん」



スーパー北上様の朝は早い。



「んー…んん。」



朝に弱いわけでは無いが、大井っちが早すぎるのだ。



只今の時刻5時。



とりあえず朝支度を終え、準備してくれた紅茶を飲む。



……美味しい。



「紅茶が美味しいねー」



「この茶葉、金剛さんに貰ったんです」



「いいねぇ、しびれるねぇ」



間宮さんが開くまでまだ時間があるし、



大井っちは読書している。



暇つぶしに散歩にでも行くか。



「着いていきましょうか?」



「んーん。すぐ帰ってくるからいーよ」



2月。



外は寒いけど、空は晴れわたっている。



グラウンドでジョギングしている子達がいた。



「うへぇ、こんな寒い中よくやるなぁ……」



「北上さんは朝練しないんですか?」



練習終わりだと思われる神通が話しかけてきた。



「今は散歩中ー」



「それでは、ご一緒させて下さい」



断る理由もないので、了承した。



が、とても気まずい。



普段あまり話さないから、話題がない。



何か話題はないかと頭を巡らしていると



「ここだけの話なんですけど」



おぉ。そっちから話を振っていただけるなんて



北上様感激。



「私、球磨さんをライバル視しているんです」



この発言は私にとって意外だった。



神通は軽巡の中では群を抜いて強い。



水雷戦隊の中で誰が一番強いか尋ねると



およそ神通と返ってくるだろう。



『華の二水戦』『鬼教官』



その通り名が彼女の活躍を物語っている。



その上、大和撫子のような奥ゆかしさ。



なので、ライバル意識とかそういう感情を



抱くタイプとは思えなかったのだ。



「球磨さんは普段、どんな訓練をしているんですか?」



「んー何もしてないんじゃないかな」



「そうですか……。」



神通は明らかにショックそうに項垂れた。



「球磨型の皆さんはずるいです」



「え?なんで?」



「だって、トレーニングしてないのに強いんですのもの…」



プクーっと彼女は頬を膨らませる。



彼女のそういう表情を見たのは初めてだった。



可愛いところあるんだなぁ。



「木曾っちは訓練してるよー?」



末っ子である木曾は姉4人に似ず、とても真面目だ。



「俺がなんだって?」



「おー木曾っちおつかれー」



「なんだよ、陰口かー?」



「木曾がしっかりしてるから姉さんは寂しいなって話だよー」



いつものようにくだらないことを言いながら



散歩を終え、自室に帰った。



「…ってことがあったんだよー」



「失礼ですね。私はちゃんと訓練してますよ!」



「あれ?大井っち訓練してるの?」



自慢じゃないが、大井っちは常に私のそばにいる。



訓練してるとこなんか見たことないが…。



「まぁ、毎日では無いですけど。」



「たまに、木曾の訓練相手になってあげてます」



衝撃の事実。



それに木曾っちは私以外の全員の姉と



訓練したことあるらしい。



私?私は1度もしたことない。



「ごめん姉さん、ちょっと用事が…」



「木曾!ドアはノックしなさい!!」



大井っちは礼儀に凄い厳しいからなぁ。



あ、丁度いいや。



「ねぇ、木曾っち。なんで私とは訓練しないの?」



すると木曾っちはバツが悪そうに頭を搔くと



「北上姉さん手加減しないじゃん」



「なっ、するよ!!魚雷1本しか使わないよ!?」



「北上さん、それは流石に…」



しぶしぶと言った感じで訓練の約束をして



球磨姉さんが今夜また会議をするらしいと



伝言して、木曾っちは去っていった。



木曾



少し、昔の話をしよう。



俺が毎日クソ真面目に訓練するきっかけとなった話だ。



ーーーーーー



「危ねぇクマ!!」



その瞬間轟音とともに無数の弾丸が撃ち込まれる。



鉛の雨とはよく言ったものだなんて考える余裕があるのだから、


まだ俺は生きているのだろう。



「あぁ、辞世の句が思い浮かばない~」



北上姉さんはこんな時でも相変わらず飄々としている



「聞く気はねえクマ!冗談言ってる暇があるなら足を動かせクマ」



背後には深海棲艦の群れ。



とりわけ中央には戦艦棲姫が2体、妖艶で胸糞悪い笑みをこぼしている。



「姉さん…すまない……」



「何謝ってんのよ。あんたのせいじゃないわ」



今回の敵は駆逐艦、軽巡、重巡に加え



もしかすると、



戦艦も出るかもしれないということで



俺たち球磨型が選ばれた。



俺はこの任務で初めて姉さん達と海に出た。



ずっと追ってきた背中にやっと近づけたと思って



とにかくはしゃいでたんだ。



球磨型は艦娘の中でも武闘派として知られている。



長女の球磨姉さんはとにかく強い。



前に戦艦である長門さんの弾丸を片手で受け止めるのを見た。



とにかく、化物だ。



次女の多磨姉さんは命中率100%という記録を更新し続けている。



北上姉さんと大井姉さんは天才と言われ、



特殊な重雷装巡洋艦として活躍している。



そして俺は、何も無い。



突出したものが何も無かったんだ。



球磨姉さんみたいな火力も無く



多磨姉さんみたいな精度も無く



北上姉さんや大井姉さんみたいな戦闘のセンスも無い。



そんな俺が姉さん達と同じ艦隊になれるって



そりゃあ多少浮かれてもしょうがねえだろ?



でも、ここは戦場。



ささいな心の揺れが死へ直結する場所。



俺はそういうとこも含めてまだ半人前だった。



「木曾。」



「反省なら後で出来るにゃ。生き残ってさえすれば」



確かに、多磨姉さんの言う通りだ。



四の五の考える前に今はとにかく戦線を離脱する。



「こちら、作戦本部。こちら、作戦本部。」



大淀さんから皆に連絡が来る。



「第一艦隊へ連絡。第二艦隊がもう間もなくそちらに合流致します。」



「それまで耐えればいいのねー了解。」



深海棲艦はもうすぐ近く。



耐えることができるのもあと数分だ。



その瞬間。



戦艦棲姫の放った弾がこっちに飛んでくるのが見えた。



鼓膜が裂けそうな程、轟音を立てて水柱があがる。



「下手くそが!当たってねえよ!」



戦艦棲姫の口角が上がった気がした。



俺はすべて理解した。



これは外したんじゃない、夾叉だ。



「くそがぁぁぁ!!!!」



「木曾!」



姉さん達の必死な顔が見える。



あの北上姉さんや多磨姉さんまであんなに青ざめて。



あぁ、くそ。



調子に乗って敵陣のど真ん中突っ込んで…



逃げ帰ることも出来ないなんて



ほんと、カッコわりぃなぁ……。



戦艦棲姫の放った弾が木曾に直撃。



「追いついた!こちら第二艦隊。球磨、状況を説明するのじゃ」



「やっと、来やがったか……」



俺は多磨姉さんに担がれながら意識を取り戻した。



こんなボロボロになっても生きてるとは



余程、俺は天に味方されてるらしい。



だが、それもあとわずか。



もう両目は開かないし、体の感覚もない。



「説明なんかしてる暇は無いクマ。」



「とりあえず、その子を急いで入渠させて下さい」



姉さん達は、まだ俺が助かると思ってやがる。



はっ。もう喋る気力もねえのによ……。



「承知した。木曾は必ず助ける。お主らは?」



「私達はちょっとやることがあるからさー」



「そうか。武運を!」



そういって、重巡洋艦率いる第二艦隊は



木曾を連れて鎮守府へと帰った。



敵はまだこちらの様子を伺っている。



「うちの妹が随分世話になったなぁ」



球磨の怒りは限界を超えていた。



彼女が普段言葉の最後につけているクマを忘れるほどに。


「ねぇ、球磨姉。もうやっちゃいましょ」



「あぁ。お前ら、手加減はいらん!!全力で殺れッッ!!!」



「球磨型に手を出したことを後悔させてやるッッッ!!」



ーーーーー



「念のため見に来たが、凄いのう」



辺りは読んで字のごとく血の海。



真っ赤に染まっていた。



幾千もの敵は見る影も無く、立っているのは僅か4人



1人がこっちに振り向く。



と、その瞬間目の前に移動していた。



「落ち着け球磨。儂じゃ。」



「……利根、か…。」



この状態の球磨は久しぶりに見る。



ただ、目の前の敵を駆逐することしか考えな暴走状態。



球磨はこの状態に過去一度なって



それから封印してきたはずだ。



リミッターが外れるほどの怒りだったのだろう。



球磨型の四人全員がこの状態になれるのは知らなかったが。



「利根さん、木曾は?!」



「なんとか命は取り留めた。心配しなくてよい」



4人とも安堵の表情を浮かべる。



木曾の安否を言うためにわざわざ戻ってきた甲斐があった。



「良かったにゃ。」



「ってかさー球磨姉って、語尾を取る事出来たんだね」



「気の所為クマ。生まれてこの方外れたことないクマー」



帰り道でもさすが球磨型。



疲労を見せることもなくいつもと同じ雰囲気で



帰路についた。



ーーーーーーーー



目が覚めると姉さん達がいた。



まず、大井姉さんが泣きながら抱きついてきた。



そこで俺は、生きてることを実感した。



あの戦場で生き延びることが出来たのだと。



そして、北上姉さんがおやつをくれた。



俺はまだしばらく入院しなくてはいけないらしいので助かる。



「北上と大井は先に風呂に入っとくクマー」



姉さんはそう言って、2人は部屋から出ていった。



「木曾。とにかく無事で良かったにゃ」



「あぁ、ありがとう。」



さっきまで黙って俺の顔を見ていた球磨姉さんと多磨姉さん。



怒っているのかと思っていたが



2人とも目にはうっすらと涙のあとが見えた。



「木曾は何も悪くないにゃ。安静にしとくにゃ」



そういって多磨姉さんもすぐ出ていってしまった。



「木曾。」



球磨姉さんと二人取り残され



重苦しい空気が漂う中、



球磨姉さんが口を開いた。



「確かにお前は悪くない。あんな大軍がいるはんて聞いてないクマ。」



「だけど、反省はするべきだと思うクマ。」



「反省……」



じっと見つめられ、思わず下を向く。



「まぁ、木曾ならもうわかってると思うクマ。」



「木曾は球磨の自慢の妹だクマー」



球磨姉さんが頭をわしわしする。



そういえば、撫でられたのは久しぶりかもしれない



球磨姉さんも一通り撫でた後、部屋を出ていった。



「姉さんには、お見通しか……。」



今回は確かに予想外の出来事が沢山あった。



しかし、それ以前に俺はどうだった?



姉さん達と同じ艦隊だと浮かれて



大井姉さんに前に出すぎと言われても



平気だと聞く耳も持たなかった。



馬鹿か俺は。こんなんで姉さん達に追いつけるわけがない。



結局今も昔のまま。迷惑をかけてるだけじゃねえか。



くそ、くそ、くそっ……。



……こんなんじゃダメだ。



球磨型としての誇りは俺にだってある



性能が半端な俺でもやれることはきっとあるはずだ



姉さん達に追いつくって目標は取り消しだ。



追いつくんじゃない。



姉さん達を追い抜かして、驚かせてやる。



だって俺は―。



「球磨型5番艦木曾だからな!!」



「そんなのわかってるわよ」



入口に姉4人。



4人は冷めた目でこちらを見ていた。



代理秘書官金剛



「駄目とは言わないけれど……うーん…」



執務机で困ったように笑っているのはここ横須賀鎮守府の提督である。



その指揮もさることながら、誰とでも仲良くなれる明るさを持ち、



女の身でありながら将官の座についている。



そんなエリート軍人の彼女を悩ませているのは



球磨型軽巡洋艦2番艦多磨である。



「駄目じゃないなら問題ナッスィングだにゃ。コタツ買ってくれにゃ」



「いや、うーん…」



多磨は普段、そんなに我を通さないタイプなのだが



こういうことになると頑なに意見を曲げようとしない。



どうしたもんかとお茶を啜ったその時



勢いよくドアが開かれた。



「邪魔するクマ」



プンスカといった表現が似合いそうな怒り方をしているのは



同じく球磨型軽巡洋艦のネームシップつまり球磨型姉妹の長女、球磨である。



その後ろから木曾がため息をつきながら着いてきている。



「さっさと帰るクマ!!」



強引に手を引き多磨を引きずるようにして帰っていく



「提督、多磨姉さんがスマンな…」



頭を掻きながら申し訳なさそうに項垂れている



同型艦は基本ネームシップが長女で



それから順に次女、三女と続いていく



艦娘には個性豊かな子が多いが、その中でも球磨型姉妹は群を抜いてる。



その末っ子の木曾はかなり苦労をしてきたことだろう。



「コタツー!!!多磨は丸くなるにゃー!!!!」



多磨はまだ諦めてないらしい。



隣で木曾がまたため息をつく。



「そんなもん要らんクマ!!去年のことを忘れたとは言わせねぇクマ!」



去年も多磨にコタツを買ってほしいと言われ、



戦意高揚などを目的としてコタツを買った。



すると艦娘達は(提督も含めて)コタツの魔力に負けてしまい、



とても、仕事どころではなくなってしまったのだ。



大井と球磨がいてくれなければどうなっていたことか…。



空は少し雲がかっている。天気予報では雪が降るかもと言っていた。



「コタツはダメだけど防寒着を手配しておこうかしら」



戦場は海だから余計に寒いだろう。



「あ、お茶がない…」



コップのお茶が無くなってたのでお湯を沸かす。



何の変哲もない提督の一日だ。



朝の騒動から一転、執務室には提督が書類を書く音のみが響き渡る。



ここ何日かは艦娘達は特に出撃も無く平和に過ごしている。



というのも、大規模作戦が終わったばかりなので

特にすることもないのだ。



もちろん、提督に休みはなくこうして大規模作戦の書類作成を行っている。



「轟沈……0…と。」



提督はほっと安堵する。大規模作戦では多大な犠牲が出た。



横須賀鎮守府の艦娘達は多少の怪我はあったものの轟沈までは至らなかった。



軍人なのだから、常に緊張感持っていないといけないのだが自然と顔がほころぶ。



作戦で戦果をあげたことより、



みんなが無事だったことが何よりも嬉しかった。



ただ、一つ。気になることを挙げるとするならば



本日の秘書艦がまだ来ていない。



いつもは球磨がうちの秘書艦をしているのだが



先ほどから、球磨は長距離の遠征に出ている。



そこで、代理秘書官を立てたのだ。



時計を見ると時刻は十時前。



いくら平和だからといってもここは軍隊。



遅刻は厳禁だ。



「ヘーイ!!提督ゥ~~~~!!!!」



またもや勢いよくドアが開かれ、提督より少し背の高い女性が入って来…



否。抱きついてきた。



「金剛。遅刻だよ」



「ソーリー提督ゥ~提督に会えると思うとなかなか寝付けなくて寝過ごしマシタ~」



「子供じゃないんだから…」



金剛はかなりスキンシップが激しい。



好意を持ってくれているのが痛いほどわかるから

無下にもできない。



それに何よりただ、純粋に嬉しい。



「まぁ、いいけど。遅刻した罰は受けてもらうからね」



「oh…!?…私を、提督の好きにしていいヨ…?」



抱きつくのをやめたと思ったら、唇に手を当て上目遣いで金剛はそう言った。



うるっとした目に紅く染まった頬少し開かれた口―。



その姿はそこはかとなく官能的で、 気を抜くと見とれてしまいそうだった。



(気力に欠くるなかりしか!!!)



ギリギリのところで耐えた提督は金剛にバインダーを渡す。



「け、建造と開発、やってきなさい!!」



「Oh My God!!!罰は放置プレイデスカ……」



この変態高速戦艦は何を言っているのだろう。



「それが終わったら、ティータイムにしようか」



そういった瞬間金剛はぱぁっと笑顔になった。



「ティータイムは大事にしないとネ♪」



ーーーーーー



「ふんふふーん~」



英国子女の金剛はいつもハイテンション。



だが、今日はいつもに比べてもかなり上機嫌である。



秘書艦。代理とはいえ秘書艦という響きはいい。



提督の補佐、言わばお世話係。



もちろん2人きりになる機会も増えるし、嫌でも親密になる。



「お姉様ぁぁぁぁあ!!!」



「ヘイ!比叡!今日も元気もりもりネー!」



比叡は金剛型の次女である。



そして、金剛は言わずもがな長女である。



「比叡お姉様…急に走り出さないで下さい…」



後から、榛名、霧島も続く。



「あっはっは!ごめんごめん!!」



金剛シスターズは横須賀鎮守府でも古参メンバーで戦艦のお姉さんという位置付けであるが



こういう親しみやすさもあって、駆逐艦にも人気である。



「一緒に工廠へgo!」





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2018-05-10 14:59:40

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