2017-03-19 02:03:46 更新

概要

置いとくだけです。初見の方でも、まあ片足だけでも上がっていってくだされ。


前書き

久しぶりにあれ、いっとく?


登場人物

提督
Q.今回の話誰得だよ!
A.提得に決まってんだろ!

睦月型駆逐艦
如月を失うも、それに負けない不屈の精神……って言っても、大人じゃない、乙女です。泣いたりだってしちゃいます

朝潮型駆逐艦と第七駆逐隊
提督が元々いた鎮守府の所属。作者に完全にモブ扱いされる哀れな子達

扶桑型姉妹
不幸だわって言われても仕方ない程、最近出番ががが…
山城「紹介文も短い……不幸だわ」
扶桑「気を落としてはだめよ、だって私達だけセリフもらえたんだもの。」
影乃「…ごめんなさい」

金剛
最近提督に猛烈アタック中、虎視眈々と指輪を狙う

正規空母の皆さん
教官の鎮守府に在籍
瑞鶴はいないけど、翔鶴の家族みたいな立ち位置かなあ




冬の終わる日:その前日




卯月「司令か〜ん、もうすぐ例の日がやってくるピョン。」



提督「例の日…ああ、明日は節分か。忘れてたな。やばい豆確保してなかった、今からでも間に合うか…?」



卯月「ズコー!確かにそっちも大切だけど、もっと大切な行事があるピョン!」



提督「ズコーって自分で言うやつ初めて見たぞ…」



提督「まあ言われなくてもわかってる、核でプラントが吹き飛んだ日だろ?かなりはしょり過ぎだけど。」



卯月「うーん、ちょっと言ってる意味がわからなかったピョン……」



提督「すまん、話題を出す相手を間違えた。」



卯月「わかってるなら普通に言えばいいピョン。」



提督「おっしゃる通りだ、でもまあそんなにいい思い出がある日じゃないってのも察してくれよ。」



卯月「ああ、そっか……なんかごめんピョン」



提督「何故そこでしんみりするんだよ!やめろ、そんな同情するような目でこっちを見るんじゃない!心がすげえ痛くなる!」



卯月「まあね、今年はあれだから…扶桑さん達がいるからね、元気だしてピョン?」



提督「ものすごく幸せな事なのに、言い方ひとつでこうも哀れな男っぽくなるもんだな。」



コンコン



睦月「提督、ただいま遠征から戻ってきましたよ。」



提督「おう、お疲れさん。成果は後で勝手に見させてもらうから、風呂でも入ってゆっくり休んでくれ。」



睦月「うん、そうさせてもらいます…失礼しました。」



パタン



卯月「なんかあったピョン?」



提督「一月のがな、だいぶ堪えたらしい。」



卯月「ああ…」



如月が憲兵に連行されて以来、睦月の顔は未だに曇りっぱなしである。やはり互いに好き同士な姉妹と離れ離れになるのは、辛いものがあるのだろう。まあ、男兄弟しかいない提督にとっては、あまり理解し難い部分ではあるのだが。



提督「如月、補佐艦やりたかったと思うか…?」



卯月「うーん、ちょっとわからないけど……きっとそうだったと思うピョン。」



提督「そうだよな……まあ、思うところはあったんだろうけど。」



睦月はあの通りなので、今月の補佐艦ローテーションは如月、睦月を抜いた8人で回されている。たった二人抜けるだけで、随分とスケジュール表が見慣れないものに変わってしまった。



卯月「睦月ちゃん、あのままにしていいピョン?」



提督「自然と立ち直るだろ…って、軽く考えられるほど放任主義じゃないつもりだが……まあ元凶が俺みたいなところあるからな、正直言って気まずい。」



卯月「司令官のせいじゃないピョン、あれはああするしかなかったピョン。」



提督「選択を間違えたとは思ってない、睦月だってわかってると思ってるさ……でも、割り切れるかどうかはまた別の話だろ?」



卯月「む、あまり睦月ちゃんを分からず屋みたいに言わないでほしいピョン。」



提督「そういう事じゃない、お前以外にそんな風に思ったことは一度もない。」



卯月「ちょっとお!うーちゃん以外ってどういう意味ピョン!?」



提督「え?言った通りの意味だろ、他意なんかないぞ?」



卯月「余計おかしいピョン!うーちゃんがいつ分からず屋になったって!」



提督「危険だからついて来んなっつたら速攻で拒否するくせに何を言いだすんだお前は!?」



まあ、おかげで助かったりしてるわけだが、ここでそれを持ち出したら負けだ。

結局、言い争ったところで仕方ないので、それ以上はあまり論争を展開することはしなかった。



提督「はぁ……ああもう、ため息ばかり吐いてたら腐る、出掛けるぞ。」



卯月「え、お仕事はもういいピョン?」



提督「夕飯の後から1時まで粘ればいい、今は気分転換だ気分転換!」



卯月「ええ……あ、ちょっと!出掛けるぞって言われてもうーちゃん準備も何もしてないから待ってほしいピョン!」



提督「わかってる、待っててやるから三日月とか望月も連れてこい。」



卯月「え、もっちーも連れてくピョン?」



提督「偶には陸の空気でも吸わせてやらないと、腹に余計なバルジが付くのをほって置くわけにもいかないしな。」



卯月「乙女に対する台詞としてはNGだけど、もっちーならぎりぎりセーフピョン。」





ーーーーーーーー





卯月「ねえねえ司令官、どこまで行くつもりピョン?」



三日月「もう随分と遠くに来たと思うのですが…」



提督「市場に行こうかと思ってな、明日の準備だ。」



望月 スカー



三日月「豆ならスーパーでも購入できるのでは?」



提督「まさか棚に上がってるの買い占めるわけにいかないだろ?ぱーっと盛り上がりたいからな、キロ単位で欲しいわけだ。」



三日月「そんなに豆を売ってるところがあるんですか!?」



提督「ある、食堂の食材とかでうちの御用達だったところでな。もう少しで着くはずだ。」



卯月「まさか司令官…毎年そんなことしてたピョン?」



提督「俺は行事とかは大切にするタイプだからな、折角ある日本の伝統文化を楽しまないなんて勿体無い。」



三日月「私豆まきするの初めてです!」



卯月「うーちゃんも恵方巻き食べることしかやったことないピョン。」



提督「お、じゃあ丁度いい機会なわけだ。いい歳した大人が節分の楽しさを教えてやるよ。」



そんなこんなで市場に着いた一行、寝ている望月を置いて行くことなく豆を探し始めた。だが、節分前日な上に遅めの到着だったのでなかなか見つけられなかった。辛うじて粗悪品を売ってもらうことに成功し、満杯に入れられた豆の袋を四つ抱えて四人仲良く車に戻った。



提督「いやー危なかったな、手ぶらで帰ることになったらどうしようかと思った。」



望月「それよか、これマジで重いんだけど…腕つりそう」



三日月「嬉しい重さです♪」



望月「三日月は上機嫌だねぇ〜、これ食べられないんでしょ?なんでそんな嬉しいかね」



提督「味悪そうなのも混じってるけど、それを除けば食べれるぞ。粗悪品ってだけで、売り物になるかならないかの違いだけだからな。」



卯月「へぇ〜、それじゃあうーちゃん味見……」



提督「あ、馬鹿よせ!」



ガリッ



卯月「う、何これ…固くて食べれないピョン……」



提督「生で食べるやつがあるか、ちゃんと煎らないと食べられないんだぞ。それに豆は火を通さないと下痢するからな。」



卯月「もう、それを早く言って欲しいピョン!」



提督「それを言う暇さえ与えずに口に含まれたら無理に決まってるだろ……」



三日月「卯月ったら、ちゃんと司令官の言うことを聞こうとしないからだよ?」



卯月「く、三日月ちゃんを味方につけるなんて、なんて姑息な…!」



提督「妙な因縁吹っかけるな。というか、それが常日頃から乙女乙女言ってる奴の喋り方かよ…」



望月「司令官…ちょっと……」



提督「ん、どうした?」



望月「この紙袋底に穴空いてる…マズいってこれ……!」



提督「うおお!?ちょっと待ってろ、って言っても両手塞がってるんだよな……卯月、置いておくからこれ倒すなよ。」



卯月「ピョォォン!?なんでうーちゃんの足に立てかけるピョン!?」



望月「は、はやくぅ…」



提督「落ち着け、そっとこっちに渡すんだ…慎重に、慎重に……」



ビリッ



提督「え……」



望月「ああ…!!」



バラララララッ



三日月「ああ、こぼれちゃいました…」



卯月「あちゃー」



望月「うわぁ、これどうするよ…」



決壊した紙袋から、大量の大豆がアスファルトの上にぶち撒けられた。四方八方に飛び散らかった豆は、そう簡単には回収できそうにない。



提督「はぁ、まあ仕方ないだろ。望月は代わりに俺の持って、三人で先に車に荷物積んでおいてくれ。こっちはどうにかこうにか回収してみる。」



幸いにして、近くを通りかかった人が箒を借りてきたりしてくれたおかげで、どうにか回収することができた。誰かが踏んで転ぶこともなく、豆が潰れてしまうということもあまり無かったので、まさに不幸中の幸いといったところだろう。落ちた豆に関しては、胃腸のことを鑑みなければ洗って汚れを落とせば食べられるだろう。しかしながら、まさか他の誰かにこれを食べさせるわけにもいかない。そこで三日月は、自家製味噌にでもして投げた後も有効活用するという妙案を提案してくれた。煎って歳の数だけ食べる気にもならなかった提督は、その言葉に二の句もなく従うことにした。



望月「にしても、悪かったね司令官。持ち方間違えてたみたいでさ。」



提督「気にすんな、次買うときに気をつければいい話だろ。」



望月「ええ、また買い物に付き合わされんの?あたしじゃなくてもいいじゃないのさ。」



提督「はは、お前のそういう曲がらないところ、割と悪くないと思うぞ。」





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春の前夜祭




??「いよいよ、あの作戦を開始する時がきたピョン。」



??「でも、作戦練ってまだ30分しかたってないよ?」



??「まあまあ、こう言うのは雰囲気だからいいんじゃない?」



??「なんでもいいだろ、それより装備の方はどうだ?艤装が使えないからな、それなりの物でないと難しいぞ?」



??「そこは大丈夫、ボクがちゃんと集めてきたよ!」



??「ふむ、SMG六丁にアサルトライフル二丁…ライフル一丁と拳銃が各自一つずつか……SMG各一あれば申し分なかったがこれでも上出来だろう、よく集めたな……」



??「エヘン、でも弾があまり無いから長丁場になるときついかも。」



??「でも、短期決戦に持ち込めば…」



??「問題なくなるね〜。」



??「あたしは面倒くさくないならどっちでもいいや。」



??「であれば、より的確な指示が求められる…背中は任せたぞ…」



??「万事お任せピョン!」



??「それじゃあ、姉妹全員で行う初めてのミッションスタートピョン!」



??『オー!!』





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2月3日



現在時刻、マルフタマルマル

言わずもがな深夜であり、いつもならば鎮守府の明かりは常夜灯のみとなる時間帯だ。だが今夜に限っては、珍しく執務室の窓はカーテンから漏れた光を覗かせている。執務室だけでなく、発着港や玄関、食堂から廊下に至るまで煌々と輝いているのだから、提督が残業を続けているだけとは思えない。極め付けに、いつもは衛兵すらいない玄関口の前に、艦娘が二人見張り役として配置されていることだ。



古鷹「ねえ加古、あの話本当かな…」



加古「さてねぇ、嘘なら嘘で構わないけど……ふあぁあ、昼間寝てないからすごく眠い…」



古鷹「もう、弛み過ぎだよ?もし本当だったらどうするの?」



加古「でもさあ、よく考えてみなよ。一体全体どうしてこんな所の場所がわかっちゃってるわけ?それに…」



加古「テロリストがここを襲うメリットなんて、どこにあるのさ?」



テロリスト

古鷹が寝ぼけているか、余程の難聴ならばそれが聞き間違いだと言える。だが、片目の不自由な彼女は訓練のおかげで人一倍聴覚が鋭くなっているので素人目だろうが難聴とは程遠い。前者の可能性は、普段から規則正しい生活を送っている都合上完全には否定しきれないが、語調も呂律も普段通りであるため、無いと見ても問題ない。



加古「にしても、酔狂な輩だよねぇ。一般火器が通用しないあたしらに喧嘩売ろうなんてさ、自爆特攻しようたって命がいくつあっても無駄無駄。」



古鷹「うん、そうなんだよね。だから未だに信じられなくて…」



文月「お〜い!古鷹さ〜ん、加古さ〜ん!」



加古「あれ、文月じゃん。哨戒に出てたのになんで母港じゃなくてこっちから帰ってきたんだ?」



古鷹「本当だ、どうかしたのかな?」



長いポニーテールを揺らし、テコテコと可愛らしく走ってくる彼女を、加古は優しく受け止めてその勢いをやんわりと止めてあげる。



加古「よっと、どうした?上陸するところ間違えてるけど?」



文月「司令官がね、二人がちゃんとみはれてるか心配だから、ぬきうちテストして来いって。」



加古「どうも意味を勘違いしてるみたいだけど…」



古鷹「ほ、本当だね…」



加古「にしても、抜き打ちテストなんてあたしら信用ないねぇ。」



古鷹「それは加古のせいだと思いまーす。」



加古「なはは…やっぱ?まあ、心配しなくてもこっちはちゃんとやってるからさ、提督には安心して任せておけって言っておいてよ。」



文月「うん、そうするね。でも本当に大丈夫?わたし、少し心配だなぁ〜」



加古「大丈夫、こう見えて夜の加古さんすごいんだぞぉ?」



古鷹「こら、変な顔して言わない。でも安心して文月ちゃん、こっちは私達がしっかり……」



パァン!!



加古「カハッ…!」



古鷹「加古!?」



加古「あはは…ぬ、抜き打ちってこういうことなのね……」

バタン



文月「あ〜あ、だから心配だったのに。」



古鷹「文月ちゃん?うそ、なんで…それに私達には銃なんて……!」



文月「あれ、聞いてないの?へんだなぁ…まあいっか、はいバキューン♪」



古鷹「うっ…!」



古鷹 (掠った…どうしよう、何がどうなってるの?)



古鷹 (とにかく、今は逃げて早く提督に連絡を…)



菊月「行かせてもらえると思ったのか、なんと愚かな…」



古鷹「しまっ…!」



トン



バタリ



文月「せーあつかんりょう♪」



菊月「そのようだな……こちら菊月、並びに文月。正面玄関の制圧に成功した。」



卯月『おつかれピョン!取り敢えず、次の指示があるまでそこで待機しててピョン!』



菊月「了解…」



文月「ねえねえ、なんて言ってた?」



菊月「ここで待機してろとのことだ…なに、他が上手くやればすぐにでも次の指示が来る…」





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同時刻、食堂裏口




ポーラ「テイトクに〜♪取られちゃったボトルを救出〜♪」

カチャカチャ



ピンッ!



ポーラ「ムフー、テイトクも甘いですね〜。ポーラだってやればこのくらい簡単です〜♪」



長月「御苦労、だが我々の予告を受けておいて随分と不用心だな。」



ポーラ「はっ、何奴!」



長月「協力してくれたことは感謝する、だが姿を見られてしまった以上消えてもらうしかない。」



ポーラ「取られたワインを飲むまで、ポーラは死ぬわけにはいきません!」



長月「そうか…今だ、睦月!」



ポーラ「何……後ろか!?」



睦月「ええい!!」



シュバッ!



睦月「あ…!」

スカッ



長月「何、飛んだ!?」



ポーラ「ふふふ、ここに来る前飲んだおかげで体が熱くなったポーラは、今や無敵!そう簡単にはやられは…ショゲフッ!?」



ポーラ「む、無念……」

ガク



長月「やったか…助かったぞ、弥生。」



弥生「ついて来て正解だったね…」



睦月「はぁ、それにしてもまさか避けられちゃうなんて…」



長月「食べ物…この際酒と言うべきか、途轍もない執念だったな。」



弥生「ひと先ず報告しよう、卯月が待ってる…」



長月「そうだな……こちら長月、食堂への侵入経路を確保した。」







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またまた同時刻、今度は発着港



夕張「テロリスト、いつ来るかな。」



明石「まあもう少しで来るんじゃない?夜襲は3時くらいがベストとは言え、いつ来たっておかしくないわけですから。」



夕張「随分と緊張感無いみたいだけど…」



明石「そりゃもちろん、新兵器も試したいわけですし。」



夕張「明石の言う新兵器ってすごく物騒…お願いだから使うなら私が逃げた後にして。」



明石「またまたぁ、私かていっつも時限爆弾作ってるわけじゃないし、今回はちゃんと安全装置付きだから問題無し。」



夕張「安全装置付けないといけない時点で既に怖いんだけど!?」



明石「大丈夫、本当にピンチの時にしか使わないから……何?急に霧がかかってきた。」



夕張「テロリストってやつでしょ、噂をすればなんとやらね。」



明石「一先ず隠れましょう、待ち伏せして逆に奇襲します。」



夕張「・・・」



明石「・・・」



??「ありゃ、煙幕焚けば弾幕はってくると思ったんだけどな。まあいいか、素通りしちゃお。」



??「ああもっち、もう少し警戒して行かないと!」



夕張 (あと少し、もう少しだけ引き寄せれば…)



明石 (あれ?そう言えばなんで火災警報器鳴らないんだろ…)



夕張 (今っ!)

バッ!



夕張「ここから先は行かせない!」



明石「待って!何かがおかしい!」



パァン!パァン!



??「うっ…!」



?「きゃっ…!」



ドサドサッ



夕張「よし二人やった!普段遠征にしか行かないからってなめないでよ!で、明石どうしたの?」



明石「え、倒した?そう…?」



明石 (あれ、私の思い過ごし…?)



夕張「あ、霧も晴れてきた。」



明石「本当……あれ夕張、誰もいないですよ?」



夕張「え!?確かにさっき何かが倒れた音がしたけど…」



明石「ああ!いつのまにか防火シャッター全部降りてる!!」



夕張「うそ!じゃあ取り逃がしたの!?」



明石「一杯食わされたってことか、折角新兵器使おうと思ったの……に?」



夕張「どうしたの?」



明石「無い!鞄の中に入れてたはずの新兵器が無い!まさか盗まれた!?」



夕張「ちょっとお!何危なそうなものまんまと盗まれてんの!?」



明石「足元に置いてたのに全然気付かなかった…」



夕張「提督逃げて!超逃げて!!」






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望月「ふう、案外チョロかったなぁ。おまけに面白そうなもの拾っちゃったし……こちら望月、港より侵入に成功だよ。」



卯月『了解ピョン!指示があるまで例の場所で待機しててピョン!』



望月「はいよぉ、そんじゃ切るね。」



三日月「もう、案の定いたじゃん。もっと慎重にいかないと。」



望月「まあまあ、スルーできたんだからそれでいいじゃん。」



三日月「んもう…」



望月「さてさて、他はみんな上手くやったかなぁ。」







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更々に同時刻、最後は屋上





皐月「これはちょっと予想外だったね…」



水無月「どうするさっちん?あまり弾使いたく無いよね。」



皐月「平和的に交渉といきたいけど、予告出しちゃった手前無理だよね。」



水無月「確かに、じゃあいくよー!」




初雪「ふぅ、2対1なんて分が悪いけど…まあなんとかなるかな…」



皐月「砲撃始め!ボクの戦い見せてあげるよ!」



水無月「いっつも見てるけどね!いっけぇー!」



パァンパァン!



初雪「ほっ、よっ…と!」



水無月「すごい、二つともよけちゃった!」



初雪「危なかった……これはおかえし…!」



バララララ!!



皐月「うわああ!何、何!?たくさん飛んできた!?」



水無月「さっちん!マシンガンだ!」



初雪「UMP-9…夕張さんと共同開発して、艦娘でも扱えるようになっちゃった…」



お互いゲーム好きということもあって、いつだか自分たちで再現してみようということになった自慢の逸品だ。



水無月「どうする?こっちにもあるっちゃあるけどここで使う予定じゃないよ?」



皐月「うう、こうなったら仕方ない!こっちも使って速攻で落とすよ!」



星明かりにしか照らされないステージで、三人の少女は撃ち合う。宙にも足場があるかのように跳ね回る彼女達の姿は、見るものが戦闘中であることを忘れ、激しい舞を見ているように錯覚させてしまいそうなほど見事だった。



皐月「さすが、弾が多いだけあって手強いね!」



水無月「時間もない、そろそろ進まないと!」



初雪「うう…ちょこまかと…」



皐月「……よし、水無月!やつにジェットストリームアタックを仕掛けるよ!」



水無月「二人しかいないけど了解!」



初雪「ジェットストリームアタックだって…!?」



ピカー!!



初雪「うっ…しまった、そのための探照灯…!!」



皐月「もらったぁ!!」



水無月「やあああ!!」



初雪「こうなったら…!」



ボン!



皐月「うわっ、煙幕だ…!」



しばらくして煙が晴れると、初雪の姿は消えていた。手すりには、フックの付いた縄だけが残されており、階下に逃げたらしいことがわかる。



水無月「逃しちゃったね、それに随分と時間経っちゃった。」



皐月「仕方ないよ、とにかく中に入ろう。」



水無月「うん、こっちは卯月に連絡するからドアはよろしく。」







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提督「警備、異常ないか?」



天龍「こっちは何ともないぜ、何人たりとも執務室には行かせねえよ。だから提督は椅子にでもドッカリ座って寝てたらどうだ?」



提督「そんなことが平然とできる人間なら、俺はだいぶ出世しただろうな。」



天龍「確かに、うちの提督は万年大佐だもんな。」



提督「そこは口に出すなよ、自分のやり方に満足してるけど、気にはしてる部分なんだぞ。」



天龍「へへ、わりいわりい。」



提督「・・・しっかしまあ、お前とこうして軽口たたき合える仲になって良かった。」



天龍「おい、そっちこそ痛いところ突くなよ。いい加減忘れてぇんだから。」



提督「悪いな、だけどもうすぐ任期も終わりかって考えると、あの頃がなんか懐かしくてな。」



天龍「気がつけばもう2月だもんな。早いもんだぜ。」



提督「俺としては、随分色んなことがあったおかげで久しぶりに一年が長く感じたよ。」



天龍「提督はまあ…そうだな、あいつらに囲まれてたら飽きねえだろうな。」



提督「毎日取っ替え引っ替え、問題児の相手してるからな。同じ顔が何度も続く時もあったけど、未だに慣れないさ。」



天龍「その割には、結構扱い上手くなったんじゃねえか?」



提督「懐いてもらってるだけだ、いつになっても、あいつらはじゃじゃ馬のままだよ。」



天龍「はは、違いねえ。」



天龍「ところで、任期終わったら提督はどうするんだ?」



提督「元の場所に戻る。叢雲にいつまでも任せておくわけにはいかないからな。」



天龍「そうか、そうだよな。提督には帰る場所があったもんな。」



提督「馬鹿言うなよ、ここだって俺の帰る場所だ。できることならここの奴ら全員持ち帰りたい。」



天龍「提督、それ駆逐艦の前で言うなよ?」



提督「そっちじゃねえよ!誤解招く恐れのある言い方したのは悪かったけどそっちじゃねえよ!」



天龍「ならいいけどよ……それよか、あの姉妹はどうするんだ?ここに残していく気はねえだろ?」



提督「当然だろ、ケッコンまでしたんだから。」



天龍「けどよ、あの二人は元々ここの艦娘だぜ?どうするんだよ。」



提督「今ここを仕切ってるのは俺、あっちは叢雲が担当してるだろ?」



天龍「ああ、でもそれがどうかしたかよ。」



提督「艦娘紹介の依頼書を叢雲に出してもらう、それを俺が受理すればいいわけだ。」



天龍「うわ、やり方汚ねえ。」



提督「汚ないって、他にどうしろってんだよ……ちゃんとシステムに則った正規の手続きだぞ。」



天龍「なんだか、そう言われると『正規の手続き』って言葉が腐りそうな気がするぜ。」



提督「仕方ないだろ、俺の頭脳じゃこれが限度なんだから……」



天龍「まあいいけどよ、置いてけぼりにしないなら安心だ。」



提督「お前はどうする?なんなら一緒に書いてもらうぞ。」



天龍「さてな、別にこのまんまでも構わねえし、付いてっても面白えかな……ってところだ。」



提督「そうか、まあ俺がここにいる間までならいつでも受け付けるからな、遠慮すんなよ。」



天龍「遠慮ねえ、初対面で人の顔殴る相手との間に今更遠慮なんてあるか?」



提督「俺謝ったよな、それでもあん時のことは後ですごく後悔したんだけど、まださせ足りないのかお前は?」



天龍「ははっ、冗談に決まってるだろ。とっくに水に流してるって。」



提督「ならいいんだが……」



??「司令官!巡回部隊より報告、異常ありません!」



提督「ご苦労様、夜遅いのに悪いな。眠くはないか、朝潮。」



声をかけてきたのは、館内の巡回をしてもらっている警備隊筆頭の朝潮だ。今日行う予定だった節分のイベントに一緒に参加してもらおうと、叢雲に許可をもらって叢雲共々こちらに呼び寄せたのだ。昨日の日没と共に到着したばかりなのだが、非常事態だからと警備の担当を買って出てきてくれた彼女達は、昼間と変わらない元気に満ち溢れていた。



朝潮「はい!先ほど叢雲からもらったドリンクのおかげで眠気はほとんど感じません!」



提督「はあ!?あいつ何飲ませてんだ!朝潮、いますぐ吐いてこい!そのドリンクは劇毒物だぞ!」



朝潮「ええ!!そうなんですか!?」



叢雲「そんなわけないでしょ、失礼ね。私が毒を盛るような姑息な真似するわけないじゃない。」



提督「いやお前の例のドリンクだろ!?対象年齢考えて飲ませろよ!」



年内にに2回飲めばたちまち廃人と化すスーパーエナジードリンク、ムラクモンZ。去年の5月にそれによって助けられた提督だったが、あの劇薬がこんな見た目幼い朝潮達の小さな体にどんな悪影響を与えるかは到底計り知れない。



叢雲「馬鹿ねぇ、あんなのそう易々と持ち込まないわよ。朝潮に渡したのは私が生姜とかで一から作ったただの健康飲料よ。」



提督「はぁ、なら良かった…朝潮、大丈夫だって……朝潮?」



荒潮「さっきの言葉信じてお手洗い行ったみたいよ?」



提督「なに!?朝潮待て!俺の早とちりだったから戻ってk…うぐっ!」



叢雲「お手洗いって言ったでしょ!?あんたが行くな!」



大潮「それじゃあ大潮が止めに行ってきます!」



提督「よし頼んだ!」



天龍「ほんと、あいつらが側にいなくても騒がしいのな…」



叢雲「いつものことよ。ここで少しは変わったかと思えば、相変わらずね。」



提督「人間、根っこはなかなか変えられないっていうやつだな。」



天龍「提督、別にそれ上手くないぞ。」



提督「叢雲、俺そんなに寒いこといったか…?」



叢雲「知らないわよ…って、泣きそうな顔しながらこっち見ないで、鬱陶しいわよ。」



提督「くう、もっと俺の顔が良ければこんなことには…!」



叢雲「無い物強請りねぇ…」



しょげてしまった提督を尻目に、大潮が走っていった道を見る。すると、朝潮を迎えに行ったはずの彼女が酷く慌てた様子で戻ってきた。勢い余って通り過ぎようとする彼女を受け止めて、肩で息をする彼女に話を聞く。



叢雲「一体どうしたのよ、何か怖いものでも見たの?」



大潮「そんなんじゃ、なくて!大変なんです!館内に、侵入者が!」



叢雲「なんですって!?」



提督「ついに来たか…どこから入ってきた?」



大潮「わかりません!でも、突き当たりの角で、朝潮が交戦中です!」



提督「わかった。大潮、荒潮、霞、霰、満潮はすぐに朝潮の援護へ迎え!」



五人『了解!』



叢雲「司令官私も!」



提督「待て、朝潮だけで食い止められるなら敵の人数は少ない。お前は考えうる侵入経路を屋上以外で片っ端から確認してくれ。」



叢雲「わかったわ、行って来る。」



天龍「おい一人で行かせる気かよ!?」



提督「叢雲のことは俺が1番信頼してる、だから一人で行かせるんだ。」



天龍「だからって危険過ぎるだろ!俺も行く!」



提督「天龍はここで待機してろ、防衛ラインは確保しておきたい……秋月型三人!お前が今いる部屋の家具デカイの優先で廊下に出してバリケード作っとけ!」



天龍「提督!」



提督「言っておくが、今この館内で1番強いのは間違いなく叢雲だ。人に背中預けられないほど、お前はまだ昔のまんまか?」



天龍「くっ……わあったよ、でもその采配で叢雲を殺すことになったら提督はどうするんだよ。」



提督「生きて帰ってくるって信じてる。信じてる限り、俺が側に行くまで粘ってくれるさ。」



天龍「はぁ…ほんとお前って精神論者だよな。しかも尽くくさいし。」



提督「実力でどうにもならない時って、そういうのに縋るしかないからな。ましてや、俺の手の届かない所に大事な仲間を送り出す生活をしてるんだ、信じてなけりゃやってられねえよ。」



天龍「そうかよ……だったら、俺も責務を果たしに行くか。」



提督「ん、どこに行くつもりだ?」



天龍「信じてもらってるんだ、だったらちゃんと無事に帰って来るのが俺たちの役割だろ。だから叢雲を迎えに行って来る。」



提督「え、おいちょと待て!話聞いて……」



天龍「聞いたら尚更だろ?ここの守りは他のやつに頼んでくれ!」



提督「ああ、おい天龍!……行っちまったか。まあ仕方ない、あいつ叢雲が恐ろしく強いこと知らないからなぁ…」



初雪「司令官、司令官。」



提督「初雪!?お前屋上の警備どうした?」



初雪「ごめんなさい、守りきれなかった…」



提督「そうか、まあ無事ならそれでいい。元から危なかったら離脱しろって言っておいたもんな。」



初雪「どうすればいい?必要ならまた上に戻りますけど…?」



提督「いや、屋上はこの際放置だ。トラップもあるし、今はここにいて防御を固めておいてくれ。」



初雪「了解…」



提督「さて、初雪が突破されたとなると……玄関とかもやられてるだろうな、こりゃなかなか手強いぞ…」





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現在時刻:マルフタヒトゴー




卯月「各員に通達、ミッションスタートピョン!」



長月『了解』



菊月「了解した…』



水無月『了解だよ!』



望月『はいよぉ〜、了解。』



卯月「改めて言うけど、目的は鎮守府の陥落、そのために司令官の身柄を確保するのが目標ピョン。司令官が隠れちゃった場合、執務室の占拠でもOKピョン。それでは、全員の健闘を期待するピョン!」



卯月「さあ司令官、敵に回ったうーちゃん達の怖さ…とくと味あわせてあげるピョン。」





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望月「作戦開始だってさ、んじゃまあ行きますか。」



三日月「ああもっち、流石に道の真ん中堂々と行くのはマズイよ。もっと慎重に……」



朝潮「どうしよう、何の警戒もせずに差し出された物を飲んでしまうなんて!」



三日月「あれ、誰かこっちのほうに走ってくる?」



朝潮「叢雲のことを信用してないわけじゃないけど、無警戒が過ぎちゃった……ああそこどいてくださぁ〜い!!」



望月「いっ!?」



三日月「もっち危ない!」



ゴチーン!!



朝潮「いたた…」



望月「あいたぁ〜…」



朝潮「はっ…ごめんなさい!お怪我はありませんか!?すみません、慌てていたものですから…」



望月「うぅ、廊下走る時は気をつけろよなぁ。まあ大したことないから、別にいいけどさ。」



朝潮「はい、以後気をつけます…それでは、私は急ぎますのでこれで!」

ダダダ!



望月「気をつけろよぉ〜。」



三日月「もっち、ほっといて良かったの?」



望月「いいんじゃない?下手に戦うのも面倒くせぇし。」



三日月「そうかなぁ……あれ、なんか戻ってきたよ。」



望月「んあ、忘れ物かなぁ?」



朝潮「そこの侵入者!さっきは本当にごめんなさいでしたけど、だからと言って見逃すわけにはいきません!覚悟してくださあ〜い!!」



望月「あららぁ、今更かい。」



三日月「ああもう、だから言ったのに……もっち、応戦するよ。」



望月「言われなくとも、わかってる…って!!」






ーーーーーーーー






同時刻、食堂にて




長月「よし、行くぞ…!」



睦月「うう、緊張するよぉ…」



弥生「深呼吸して…大丈夫、何も心配することはないから…」



パキッ



睦月「うひゃあ!!」



長月「うおお!?睦月!!急に大声を出すな!!」



睦月「だってだってえ!なんか踏んだんだもん!」



弥生「ふ、二人とももう少し静かに…」



長月「ああ、すまん…取り乱した。」



睦月「うう、ごめんなさい…」



長月「よし、気を取り直して行くぞ…!」



ボトボト!



長月「うわああ!なんだ、何か頭に…!?」



睦月「これ……きゃあああああ!!くもおおおおお!!」



長月「ぎゃああああああ!?くもおおおおお!?」



弥生「ああ二人とも、見つかっちゃ…」



カサカサ



弥生「ふぇ!?何…?」



カサカサカサカサ



弥生「ま、まさか……」



カサカサカサカサカサカサカサカサ



弥生「い、いやあああああああゴキブリいやあああああああ!!」



長月「にげろおおおおおおお!!」



睦月「ああ待って!おいてかないでええええええ!!」



ギャー蛾が出たあああ!!



ヘビだあああああああ!!



ネズミいやあああああ!!



きゃああああああ



ああああああ



ああああ



ああ…






ーーーーーーーー






同時刻、母港にて



明石「ここをこうして……ああもう、全然だめ!」



夕張「完全にシステム乗っ取られたみたいね、万が一の時のために作り直して一箇所で全て管理できるようにしたのが仇になったか……」



明石「だからあの時隠し扉の設置を提案したのに…隠しボタンあれば十分だろって、それが壊されたんじゃ元も子もないじゃない!」

ゲシッ!



夕張「いない相手に愚痴っても仕方ないわよ…でも、本当にどうしようかしらね。こちらからの干渉が出来ない以上ここは通れないし…」



明石「艤装も今無いから海に出ることも出来ませんしね……あーもう、タチ悪過ぎます。」



夕張「こうなったら、泳いで正面まで行く?」



明石「ええ!?私言っちゃなんですけど艤装無いとカナヅチですよ!?」



夕張「実を言う私も泳ぐの苦手なんだけど…でも鎮守府がピンチなんだし、やるしかない!」



明石「わ、私はもうちょっと粘ってここに残ります…もしかしたら、上手くいくかもしれないでしょ?」



夕張「だーめ、明石も一緒に行くの。そんなことしてたら朝になるかもしれないじゃない。」



明石「あ、えええ!ちょっと待って私本当に泳げないんですよおおお!!」







ーーーーーーーー







皐月「んしょんしょ…」

カチャカチャ



水無月「どう、開きそう?」



皐月「もうちょっとかなぁ…お、開いた!」



水無月「お見事さっちん!」



皐月「へへ、このくらいチョロいって。さあ、早く中入ろうか。」



水無月「気をつけて、待ち伏せされてるかもしれないから。」



皐月「うん、じゃあカウントしたら行くよ…」



皐月「3、2、1、GO!」



ガチャ、ババッ!



水無月「……いない、みたいだね。」



皐月「良かった、あまり弾使いたくなかったからね。じゃあささっと降りようか。」



水無月「待ってさっちん、今一瞬ワイヤーみたいなのが見えた…!」



皐月「トラップか、司令官もなかなか姑息な手を使うね。」



水無月「ちょっと待って、今ペンライト出すから。」



皐月「うん、でもここでも弾消費しちゃうのはあまり嬉しくないなぁ。」



水無月「まあ仕方ないよね、見た感じ発動させても警報が鳴るような仕組みじゃないみたいだし、安全に通るためにここは全撤去ってことで。」



皐月「そうだね、じゃあやっちゃいますか!」



皐月が拳銃を構えると、ペンライトに照らされて微かに輝くトラップワイヤーに向けて引き金を引く。銃口から飛び出した弾は全弾余すところなく細い鉄線に命中し、彼方此方に設置されたトラップを起爆させていく。



皐月「よし、一丁あがりだよ!」



水無月「またしてもお見事、流石だね。」



皐月「えっへん、卯月ほどじゃないけど割とこういうの得意なんだよね。」



水無月「さっちんって海戦じゃなければ命中100%だよね。」



皐月「うう、だって弓なりに飛ぶ弾うつのって難しいんだもん。」



水無月「わかる、真っ直ぐ飛んでくれればそれに越したことないよね。」



水無月「それじゃあ、トラップも解除したし、早く降りようか。」



皐月「じゃあボクが先行くね、水無月はバックアップ頼んだよ。」



水無月「了解、気をつけて。」



皐月「慎重に…慎重に…」



ガコン



皐月「へ?」



バシャアア!



皐月「ぶわっ!何これ!!」

グッショリ



水無月「さっちん動かないで!それ油だ!」



皐月「ケホッ、エホッ……え?今なんて…きゃああ!」

ズルンッ!



水無月「さっちん!」



皐月「ひゃああ!」

グイ!



水無月「え……きゃああ!!」

ズルンッ!



ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…



どしんっ!



水無月「目、目がまわっ……」



皐月「あいたたっ……し、司令官って、本当にこそく……」



この後、先述の朝潮達同様遊びに来ていたトラップを担当した七駆の手によって二人は拘束された。







ーーーーーーーー






少し経って玄関ホール




菊月「文月!右に行ったぞ!」



文月「これでもくらぇ〜!」



叢雲「当たるもんですか!」

ササッ



菊月「ちっ、素早い…!」



叢雲「生憎、同種の艦にノコノコやられる程ヤワな鍛え方してないのよ!これでもくらいなさい!」



文月「ひゃあ!」



菊月「文月!」



文月「ごめん菊月ちゃん、肩に被弾しちゃった…」



菊月「くっ、とんでもない障害がいたものだ…」



叢雲「降参するなら今のうちよ!」



菊月「なんの、たとえ一人になろうとも任務を遂行させてもらう…!」



叢雲「はっ、上等!」






ーーーーーーーー






玄関ホール近くの物陰




天龍 (や、やべえ…何だあの二人。立ち入る隙が何処にもねえよ。)



天龍 (さっきから重力無視して壁走ったりバク宙しながら撃ったり…)



天龍 (これじゃあ提督にデケェ顔して迎えに行くって言った俺の立場ねぇだろ…)



天龍 (いや待て、戦闘が終わってから出ていけば、最初の目的とは大きく外れちまうけど、究極的には啖呵切ったセリフの中にあった、迎えに行くっていう目的が達成されるわけで…)



天龍 (いやいや、それじゃあただせこいだけで完璧間抜けじゃねえか、そんなんでどうするんだよオレ!)



天龍 (でもなぁ、幾らボス戦闘の経験値高いつっても市街戦は経験ゼロだぜ?こんな俺が行ったところでただの足手まとい確定だし…)



天龍 (どうするオレ、どうする天龍……)



ピュンピュンッ!!



天龍 ビクッ!!





ーーーーーーーー





玄関ホール




叢雲「一体どこ撃ってんのよ!」



菊月「別に、ただ援軍を牽制しただけだ…」



天龍 (ヒィィ!バレてる!?)



叢雲「あらそう、まあ援軍なんて元より必要ないけど!」



菊月「ぬかせ…!」



天龍 (俺、何処にいたらいいんだよ……)






ーーーーーーーー





母港前廊下





望月「あーもう、キリが無いねぇ!」



三日月「どうするもっち!もう弾少ないよ!」



望月「しゃあなし、さっき拾ったこれで……ほら!いってこい!」



望月が、先程手に入れた手榴弾のような紡錘形の物を朝潮達が集まっている辺りに投擲する。



大潮「こちらに飛んでくる物体を確認!爆弾です!」



霞「はあ!?そんなの聞いてないったら!!」



朝潮「みんな伏せて!!」



望月「はい、ドーン☆」



ボゴーン!!



強烈な煙を伴って、手の平大の楕円が炸裂する。しかし、強烈な音はしたものの、壁が壊れるような破砕音は一切鳴らなかった。



望月「うっは〜、派手だねぇ。」



三日月「もっちー、これただの煙幕じゃ……」



だが、ただの煙幕だけではないことを、2人は煙が晴れてから知ることになった。



霞「ちょっとお!!何よこれえ!!」



荒潮「やぁ〜ん、ベタベタするぅ。」



霰「う、動けない……」



爆弾と思しきものを投げた辺りを中心に、乳白色の正体不明な物体が辺りの壁や床、天井に至るまで覆い尽くしていた。しかも、その白い物体にネズミホイホイよろしく朝潮達がへばりついていて身動きがとれなくなってしまっている。



三日月「もっちー、これ何……」



望月「さあ?でもラッキー、これで通れる。」



実は先程望月が投げたのは、明石特製トリモチ爆弾。半径5mにいる対象を、内蔵した爆薬で飛び散らせた特殊な粘性の高い薬剤によって行動不能にする強力な新兵器だ。



場所を選べば勿論その効果は絶大な物となる。だが、我らが明石ご謹製の品というだけあって当然デメリットが付き物だ。それは……



望月「それじゃ、とっとと先進んじゃおうか。」



三日月「待ってもっちー、無理だよ……」



望月「へ?なんでさ。」



三日月「だって、あれ…」



望月「んあ?……あ、やべ。」



三日月「ベタベタのせいで通れないよ、どうするのこれ?」



元々屋外での使用を想定したこの兵器、直径10mという廊下に密集する敵に使用するには、あまりに広大な効果範囲のせいで狭い屋内での使用には向かない。使用法を誤れば、今現在望月と三日月がそうであるように、使用者の方にも害が及ぶのだ。



望月「め、めんどくせぇ〜。」



三日月「もっちが変な物拾う時点で、嫌な予感したんだよね……」






ーーーーーーーー






提督「確保したのは五人、身動きできないのが二人でこっちは八人……犠牲は三人か、してやられたな。」



初雪「敵はあと三人、多分今交戦中だと思います…」



提督「いや、叢雲が抑えてるのは二人だ。一人、肝心な奴が足りない。」



初雪「どうして二人?」



提督「いくら叢雲でも、あの二人とは良くて互角だからな。突破されてない所を見るにそのどちらか一人に加えてもう一人だろ。」



初雪「じゃああと一人は?」



提督「わからない、敵の目的は恐らくここの陥落。その達成条件として執務室の占拠だろうな。そうとなれば、本来あいつが先陣切って突破しに来てもおかしくない。ついさっき屋上を見て来たが、装備の割には落ちてる弾が少なかった。出し惜しみしないといけないってことは、それだけ早くカタをつけたいってことだろ?なのに何で正面突破して来なかった…」



初雪「目的が別にあったとか?」



提督「まさか、他にどんな目的が……」



提督「……嘘だろ、なんであいつそんなこと知ってるんだよ。」



初雪「そんなこと?」



提督「初雪来い!工廠行くぞ!」



初雪「え、ええ…ここの防衛はいいんですか…!」



提督「俺の予感が正しければ、防衛も何も関係ない!」



初雪「ど、どういうこと…?」



未だ困惑する初雪の思考を置いてけぼりに、それでもついて来いと先を行く。説明するよりも、一歩前に足を出さねばならない状況が、もうすぐそこに迫っていた。







ーーーーーーーー







玄関ホール




叢雲「はぁ…はぁ…」



菊月「はぁ…くっ、まだ終われん…」



叢雲「こっちだって…まだ戦えるわよ…弾は、もうないけど…」



天龍 (頼むから、早く終わってくれ。弾倉もとられてオレ手持ち無沙汰なんだよ……)



文月 (ねえねえ天龍さん、飽きちゃったからしりとりでもしよ?)



天龍 (いや、お前敵側だろ。馴れ馴れしくすんなよ。)



文月 (いいじゃん、私も弾取られちゃって退屈なんだもん。だからね、いいでしょ?)



天龍 (んなこと言われてもよぉ。)



文月 (しりとり、天龍さん『り』だよ?)



天龍 (えぇ……仕方ねえな、りんご。)



文月 (『ご』?じゃあね〜、ゴーヤ。)



天龍 (そこゴリラじゃねえのな…ならやか……ん勤務。)



文月 (あ、ずる〜い!今やかんって言おうとしたでしょ!)



天龍 (や、夜間勤務だから、セーフセーフ。)



文月 (むぅ、今だけね?今だけだからね?)



天龍 (わかったわかった、悪かったって。それより次、『む』だぞ。)



文月 (『む』、じゃあ虫取りあみ。)



天龍 (『み』か、ならみか…ん林。)



文月 (ああまた!)



天龍 (ちげえって!噛んだんだって!)



文月 (うう、天龍さんったらズルばっかりする〜…グスン)



天龍 (ああ悪かった、今のはオレが悪かったから!みかんでオレの負け!な、そしたら次は違うのやろうぜ?足し算とかどうだ!って頼むから泣くなぁ〜!)



叢雲と菊月

(あんたら(お前達)、緊張感なさ過ぎでしょ(だろ)……)








ーーーーーーーー







工廠にて




提督「卯月!どこだ出てこい!!」



ピュン!カン!



提督「うお!?」



初雪「そこ!」



サササッ



初雪「う、素早い…」



提督「追いかけるぞ!」



初雪「了解…」



提督「ここか!」

ゲシッ



バァン!



卯月「ちっ、追いつかれちゃったピョン。」



提督「もう残りはお前だけだぞ卯月!(多分)大人しく投降しろ!」



卯月「そう簡単に諦めるわけないピョン!」

ダダダッ



初雪「逃がさない…」

バララララッ



卯月「当ったり〜ませ〜ん♪」

サササッ



初雪「くっ、早い…!」



卯月「これは、お返しピョン!」



初雪「んなっ!?」



ピュン!



初雪「うぐっ…!」



初雪「まさか、振り向きざまに、ライフルが撃てるなんて……」



提督「初雪!しっかりしろ!」



初雪「司令官…構わず、行って……」

ガクッ



提督「初雪!おい!初雪!!」



提督「……っ!卯月ぃぃぃぃいい!!!」







ーーーーーーーー








工廠の地下、秘密の倉庫




提督「はぁ…はぁ…やっと見つけたぞ…!」



卯月「と言うより、見つかるまでうーちゃんが待っていたっていうのが正解ピョン。」



提督「どっちでもいい、そいつから離れろ…」



下卑た笑いを浮かべる卯月の後ろ、赤い常夜灯に照らされて朧げながらも、その姿を誇示する巨大な円筒がそこにはあった。



卯月「そうやってお願いすれば、うーちゃんが言うことを聞くとでも?」



提督「お前は今、何をしようとしているのかわかっているのか!自分の命を何とも思ってないのか!!」



卯月「司令官、うーちゃん達は今テロリストやってるピョン。目的の達成の為には自分達の命だって惜しまない、それができなくてなんで態々名乗ったりするピョン。」



提督「ふざけるな!何でもかんでも当たり前みたいに軽〜くやり遂げるようなお前が!何でこんな頭悪いやり方を選ぶんだ!」



卯月「多勢に無勢、だったらみんなまとめてぶっ飛ばす方が確実ピョン。だから、この明石さんが作った原子爆弾を起爆させる。全部そのための作戦ピョン。」



提督「まさかお前…他の奴らも全員切り捨てるつもりだったのか?」



卯月「当然、目的のためならみんなそれくらい許してくれるピョン。」



提督「お前のこと信じて無謀なことだろうとついて来た仲間だろ!!」



卯月「だから、みんなのためにも目的を達成する義務がうーちゃんにはあるピョン。」



提督「卯月……わかった、なら俺がお前を止めてやる。それでこんなくだらない作戦も終いだ。」

ジャキッ



卯月「へぇ〜え、司令官にうーちゃんを撃てると?」



提督「俺かて軍人だ、たとえお前が一年間一緒にいた仲間だろうと、私情を挟まずに最大多数の幸福を選ぶ義務がある。」



卯月「じゃあ10秒あげるピョン。うーちゃん何もしないから、それまでに撃てれば司令官の勝ち。」



提督「そんなことさせずとも、俺は本気だぞ。」



卯月「それは、撃ててから言うピョン……10、9、8…」



提督「く……っ!」



卯月「どうしちゃったピョン?早く撃てばいいピョン……4、3…」



提督「くそっ!」

ガタガタ



卯月「2、1…」



提督「……できるわけないだろ!このアホウ!!!」



卯月「なっ!?」



ポカッ!!



最後のカウントを言いかけた卯月に、提督が踊りかかってその頭部を殴る。それと同時に彼女が手にした得物がカラカラとコンクリートの無機質な床を転がされた。



卯月「いっ…たぁ……何するピョン!!」



提督「何するも何もあるか!!馬鹿な部下はこうやって叱りつけて当然だろ!!」



卯月「でもそんなのズルっこピョン!!こんな形で負けにされたなんてうーちゃん納得できないピョン!!」



提督「起爆できなかった上に何も達成できなかったんだからお前達の負けだろ!!」



卯月「いいやうーちゃんの勝ち!!」



提督「負け!!」



卯月「勝ち!!」



提督「負け!!」




………………



………









ーーーーーーーー







教官「何だったんだ、この映画は…」



2月10日、久しぶりに提督が顔を見せに来たかと思えば、良かったらと言って一枚のDVDディスクを渡して来たので、暇を持て余していた館内の者達を集め、食堂で上映試写会を執り行っていた。それを見た教官は、劇が終わるなりそう呟いた。



提督「なかなかいけるでしょう?」



教官「うん、まあ心躍らされるとても良い出来だとは言っておこう……しかし、これは本当にお前のところで撮ったのか?」



提督「そうですよ、当然舞台セットなんて用意できませんから。」



教官「しかし、何故だか妙にリアリティが強いと言うか…芝居特有の表現が見られなかったな、本当に撃ち合ったような気迫を感じたが?」



提督「そりゃ撃ち合ったからに決まってるじゃないですか。」



驚いて提督の周りを見やる。そこには先程劇中で悪役を演じていた卯月らが、それがどうしたのかとでも言いたげな顔を並べていた。



教官「ならば、お前達は此奴に命令されて同胞を歯牙にかけたとでも言うのか…?」



菊月「たとえ命令とて、そんなことするものか、共に肩を並べ、時には背中を預け合ってきた大切な戦友だ…それに、司令官はそんなくだらない命令など下すはずもない…」



文月「そうそう、みんな大事なお友達ですよ?」



であれば余計にわけがわからない、当然映像にはある程度手が加えられているだろうが…



三日月「もう司令官、少し意地悪が過ぎますよ?」



提督「いや、なんか教官の困った顔を見るのが面白くてつい。三日月、代わりに説明して差し上げてくれ。」



上司に取らざる態度で物を言った提督の指名を受け、三日月が説明をしてくれた。



教官「つまり…節分の豆まきをモデル銃を使って行い、その設定としてお前達がテロリストを演じたというわけか?」



三日月「はい、提督が以前仕切っていた鎮守府では毎年の恒例行事だそうで、それを今年は映像化することになったんです。」



教官「成る程な、なかなか良くも悪くも意味で変わったことをする。」



提督「ガキの頃よくやったんですよ、エアガン豆まき。それで今は、折角軍の施設にいるんですから、それを利用しない手はないかと。」



今年で4回目になるそれは、過去3回とも形式を変えて執り行っているらしい。昨年など、四つの鎮守府が合同で行ったとまで言いだすのだから、驚きを隠せない。



望月「でもさあ、映画にしたら凄かったけど、実際結構ひどかったよねぇ?」



水無月「確かに、『死亡』とか『破壊』とか書いた紙色んな所に貼ってたもんね…」



ポーラ「ポーラなんて、終わるまでずっと外で死んだフリですよ!風邪引くかとおもいましたぁ〜」



提督「酒ガブガブ飲んだら復活したんだから、そこは良いだろ。」



長月「一番困ったのが後片付けだ、一体どれだけの豆を拾ったことか……」



弥生「明石さんのネバネバせいで、すごく大変でした……」



提督「あれはな、正直諦めかけたぞ。」



劇中で朝潮達をがんじがらめにしたトリモチのことのようだ、あれも実際に使われた物だというから驚きだが、事後の事を聞くにCGであった方がどれ程楽であったかがわかる。



提督「わかってたことだけど、エアガンの掃除も大変だったな。」



文月「私ああいう細かい作業きらーい。」



望月「あれはもう勘弁、まじめんどくせぇ。」



提督達が大変な事後処理について語ってる横で、鑑賞を終えたこちらの面々は映画の感想を言い合っていた。



赤城「飛んでた弾が全部豆だったなんて、知っていたら私も参加を希望したのに…!」



飛龍「ちょっと信じられないけどね…」




翔鶴「それはそうと、最後のシーンはドキドキしましたね。」



加賀「そうね、お芝居とは思えない演技力だったわ。」



卯月「えへへ、うーちゃん張り切っちゃったピョン。」



睦月「本当は子供のケンカみたいになっちゃったんですけどね。」



蒼龍「へぇ、そうなんだ。確かにちょっとだけ画質変わってたもんね。」



最後、提督が卯月を撃てずに銃を捨て、代わりに叢雲が初雪の銃でもって卯月のライフルをはたき落したシーンだ。本当は提督が油断した卯月を殴って止めさせ、その上説教を始めたというのだから実に彼らしい。



他にも様々な裏話を聞き出さんと、彼方此方から質疑をする声が上がる。中には来年の節分に参加したいという意見まであがる始末だ。



その日は日が傾くまで何度も映画は上映され、皆が眠りに就くまで、布団の中でもその話題が途絶えることなく語り明かされた。





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あの日





金剛「HEY!テイトクゥー!!バァーニングLOVEなChocolate、持ってきたヨ!」



提督「ああ、ありがとう金剛。随分早いな……というか、何故朝の5時に渡しに来ないといけないんだ?」



金剛「だって、できたらすぐに渡したくなっちゃっテ……」

モジモジ



提督「まさか徹夜して作ってたのか?」



金剛「忙しくて、夜じゃないと作れなかったから……ふぁああ、Sorry。」



提督「本気で寝てないのか、男として嬉しい限りではあるんだが、あまり心配かけるなよ。」



金剛「テイトクがお礼のKissしてくれたら、大丈夫になれマース……」

フラフラ



提督「おいおい、全然大丈夫じゃないじゃないか……まったく、仕方ないな。叢雲には後で連絡入れといてやるから、今日はここで休んでいけ。礼も兼ねて泊めてやる。」



金剛「Really?テイトクと同じBedですカー!?」



提督「そんなわけないだろ、空いてる部屋貸してやるからそこで休んでろ。」



金剛「むぅ、相変わらずヘタレデース…」



提督「そういう問題じゃないだろ、こっちだって都合があるんだから。」



金剛「じゃあ部屋まで運んでほしいネー、そしたら大人しく寝てマース。」



提督「自分で歩けと言いたいところだが……仕方ない、チョコくれた礼だ。ほら、背中に乗っかれ。」



金剛「ええ〜」



提督「ええ〜じゃない、5時とはいえ起きてるやつは起きてるんだ。あまり目立つようなことはしたくない。」



金剛「む〜、ならもっと早く来れば良かったデース。」



提督「俺にも睡眠が必要なことをわかってくれよ!?」



提督「はぁ…ま、それでもいいけどな。嬉しいことには変わりないし……よっ、ちょいと失礼!」



金剛「What!?テ、テイトク急にな、何を…!!」



提督「抱いた方が歩きやすいからな、これがお望みなんだろ?」



金剛「そ、それはそうだけド……これはちょっと反則デース!」






ーーーーーーーー






コンコン



卯月「しれいかーん!入るピョン!」



提督「いつも問答無用で入ってきてるのにってはツッコまないぞ。」



卯月「む、今日の司令官いつもより輪をかけてノリ悪いピョン。」



提督「どっかの誰かさんが5時に俺のこと起こしたからな……ふぁっああ、少々寝不足なんだ。」



卯月「だからって女の子との会話中にそんな都合を持ち出すのはよくないピョン。だから司令官は非モテ男属性から抜け出せないんだピョン。」



提督「生憎、その不名誉な属性に飼い慣らされた俺は現状に大満足してるんでな……ふああ、用件はそれだけか?」



三日月「もう、卯月も減らず口はその辺にしておこうよ?司令官、失礼しますね。」



提督「おろ、三日月も来てたのか。」



三日月「二人だけじゃないですよ、みんなで来ました。」



長月「ほら望月、病人でもないくせして自分で歩け!」



望月「ええ〜、今寝不足でマジだりいんだけど。」



菊月「それが任務のない時は四六時中ダラけている者の言う言葉か…」



水無月「ほらほらもっち、ここ執務室なんだからシャッキリしないと。」



皐月「司令官!おじゃまするね!」



弥生「おじゃま、します…」



補佐艦達が勢揃いして執務室に入って来た。しかも、その最後尾で弥生が銀色のワゴンを押して来た。この時点でなんだかわかってしまったが、まあそれを口に出すのはデリカシーが無いだのと卯月に言われそうなのでそっと飲み込んでおく。



卯月「あれ、睦月ちゃんは?」



菊月「そこの扉の影だ…おい、言い出しっぺがそんな風ではどうする…」

ズルズル



睦月「う、うう……」



襟を掴まれた睦月が、机の前に停められたワゴンまで連れてこられる。気まずいのだろう、なかなか顔を見せてくれなかった。



睦月「えっと、その……司令官に、日頃の感謝をこめて、みんなで作りました…だから、食べてくれる?あ、じゃない食べてくれますか?」



提督「別に言い直さなくていい、喜んでいただくよ。」



その一言で表情を輝かせた睦月は、照れくさそうにワゴンの上に置かれた白い箱の蓋を開けた。中に入っていたのは大きめのサイズのホールケーキだ。チョコレートで覆われた台の上には、ありがとうという文字を囲んで、個性豊かなデフォルメされた睦月達のアイシングクッキーが10枚並べられていた。



提督「これは、すごいな…本当にこれお前達が作ったのか?」



皐月「当然だよ!ボク達だってやればできるし!」



三日月「少し伊良子さんに手伝ってもらいましたが、ほとんどみんなの力で作りました。」



水無月「あれ、それってナイショじゃなかった?まあいいけど。」



望月「いや〜、何度も失敗してさ〜。結局夜中までかかってクタクタだよ〜。」



長月「おい望月、そっちの方が秘密にしておくことだろ!」



菊月「長月、責めたところで仕方ない…もう手遅れだ……それより見てくれ司令官、このクッキーは菊月の手製だぞ…」



卯月「このクッキーはうーちゃんの最高傑作ピョン!」



弥生「弥生の、もうちょっと上手に作れば良かったな……」



提督「お前ら……ありがとう、ありがとうな…」

グスッ



睦月「ああ、司令官大丈夫!?」



提督「すまん、でもすごい嬉しかった上に、お前達がすごく苦労して作ってくれたんだと思うと……」



水無月「えへへ、そこまで言われると照れるな。」



長月「泣かれるほどの出来ではなかったと思うが…作った甲斐があったな。」



提督「ありがとう、触るのすら勿体無いくらいだけど…」



皐月「ええ!食べないの!?」



望月「え、じゃあ代わりに食べてあげようか?」



三日月「ちょ、もっちダメだよ!」



弥生「ちゃんと食べてくれないとだめです…」



提督「いや、勿論いただくさ……けどあれだな、これだけデカイと独り占めするのは勿体無いな。どうせならみんなで食べようか。」



睦月「え、いいの?でもこれ司令官に作ったケーキなんだけど…」



提督「料理は一人より二人、二人より三人、三人より大勢で食べた方が美味い。菓子だって同じだろ、みんなでわけて食べた方が絶対美味い。」



卯月「じゃあ…!」



提督「今日の執務はもういい!最近妙に溜まってきてる気がするけど気にすんな、だ。折角のバレンタイン、楽しく祝おうぜ。」



睦月達『さんせーい!!』




こうして提督は、生まれて初めてと言っても過言ではない最高のバレンタインを過ごすことができた。





ーーーーーーーー







食べ終わって



提督「睦月、ちょっといいか?」



睦月「およ、何ですか?」



提督「大したことじゃ…いや、まあ大したことはあるけどな。少しだけ二人で話がしたくて、この頃あまり顔も見せてくれなかったから。」



睦月「…はい、わかりました。」



少しばかり逡巡を見せたものの、それでもOKしてくれた睦月を連れて屋上に行く。卯月達には立ち聞きするなと強めに言っておいたが、それでも彼女達の性格を考えれば、出来る限り人気は避けたかった。



二人して手摺に向かい、途中自販機で購入した缶のドリンクを手渡して、鎮守府を隠す岩壁を眺めながらそれを啜る。何を言われるのか気になって仕方ないながらも、それを敢えて口に出さない睦月の心遣いに感謝だ。



提督「……呼び出したのは、他でもない。如月のことだ。」



睦月「如月ちゃんの…?」



提督「謝っておきたかったんだ。いらん辛い思いをさせたこと。」



提督「すまなかった、二人が仲良いこと知ってたのに、離れ離れにさせるようなことをした。」



睦月「提督のせいじゃ…」



提督「いや、俺が頭良ければもっと他に解決方法は見つけられた……それに、如月のことをわかっていながら俺はずっと無視し続けてきた。そのせいで、俺だけの問題にできなかった。」



提督「もっとあいつの事考えてやれば良かったんだ、それなのにあんな罠に嵌めるような真似して、俺がいなくなった時のことを考えると怖くて仕方ないほど好きだって思ってくれた如月への答えがあれだ。」



提督「責めていいんだぞ……」



睦月「提督は、間違っていたと思ってますか?」



提督「正しいことだとは思ってる。それでも他にやり方があったのは否定できないし、何より後悔してる。」



睦月「なら、睦月はいいです。頭良くないし、提督が正しいと判断したこについて行くしかないですから。」



睦月「でも、睦月も自分なりに考えてみました。如月ちゃんとは一緒にいたかったけど、如月は今までずっとずっと後悔してて、辛いことに一人で苦しんでた。それはきっと睦月じゃどうにもできなくて、たぶん如月ちゃんにしかどうにかできない。」



提督「俺にも、無理だってことか…?」



睦月「きっと…だって、提督は如月ちゃんが殺しちゃった大切な人じゃないから。誰にも許してあげられないんです。」



睦月「だから、如月ちゃんにちゃんと自分と向き合わせようとした提督は、間違ってないですよ……悪い事したって、ちゃんと自覚できないと、ずっと苦しい、ままだと思うから…」



提督「聞き分けのいいこと、言わなくてもいいんだぞ……そんな涙目になるくせして、俺に気を遣うなよ。」



睦月「でも、提督だって、泣いてるじゃないですか…」



提督「それでも、お前に駄々言ってもらえないと…俺がただのうじうじ悩んでるガキみたいだろ……」



提督「……ありがとう睦月、許してくれて。俺、今すごくホッとしてる。」



睦月「もう、睦月だっていつまでも泣いてばっかりじゃないんですからね…!」



提督「そうか、まあそうだよな。悪い、愚痴聞かせたみたいになってしまった。」



睦月「ううん、睦月も提督が如月ちゃんのこと悩んでくれてたってわかって、嬉しかったです。」



提督「それがわからないほど俺はケロッとしてたつもりはなかったんだけど……まあ顔合わせてなかったからな、仕方ないか。」



提督「それにしても、ケーキの言い出しっぺが睦月だって知った時は驚いた。思い立った本当のわけって、聞いても構わないか?」



睦月「もう、さっき言ったじゃないですか。睦月はそんなに頭良くないので、そんな裏表のあることなんて考えられないですよ。」



提督「そうなると、嫌いになってもおかしくない相手にバレンタインの贈り物が出来るほど、睦月がとんでも無く懐の深いってことになるんだが。」



睦月「本当にあれが本心なんですってば!確かに、ちょっと気まずいなっては思ってませんでしたけど、それでも嫌いになんかなりませんから!」



提督「はは、悪い悪い。ちょっと見くびってただけだ、睦月がそう言うならそういう事にしておく。」



睦月「もう、最初っからそうしてくださいよ。」



それから、二人は缶を一気に空にして、天窓のように丸く区切られた空を見上げた。



提督「いつか、如月ともこうやってノンビリ出来るといいな。」



睦月「大丈夫、きっと三人でノンビリできますよ。」



その言葉が現実となる日を、いつまでも待ち続けようと提督は思った。





ーーーーーーーー






コンコン



叢雲「司令官、入るわよ。」



提督「お、叢雲じゃないか。来てたんだな悪かった、出迎えもしないで。」



叢雲「いいわよ、私達の仲なんだからお客扱いは無用でしょ?」



提督「まあな、でも態々来てもらったのにってのもあるわけだ。そこに掛けててくれ、今紅茶淹れてくる。」



叢雲「ええ、そうさせてもらうわ。甘めで頼むわね。」



提督「わかってる、だいぶ疲れてるみたいだからうんと甘くしておくぞ。」



叢雲「ん、ありがと…」



執務室内に設えられた給湯スペースに行った提督は、温くなったポットに水を足して火を点ける。先ほど睦月達に出したものと同じ茶葉をチョイスして、茶こしにスタンバイだ。煎られた茶葉はそれだけで溜息が出るような香りが漂ってくるが、湯に溶け出して解き放たれた香りは湯気の温かさも引き連れてふわっと顔を包み込む。淹れたての茶をカップに注ぐ瞬間を、提督はこよなく愛していた。



提督「お待ちどうさま。」



叢雲「淹れてもらってばかりで、悪いわね。本当なら、私の仕事だっていうのに。」



提督「俺が自分で淹れるの好きだって知ってるだろ?」



抽出が完了しても、すぐには注いだりしない。相手の近くまでカップを寄せてから注ぐのが提督流だ。まだまだ冷えるこの季節、こうすることで湯気の温もりを分かち合おうとという魂胆だ。



叢雲「いただきます…」

ススッ



叢雲「うん、やっぱり美味しい。」



提督「だいぶお疲れだな。」



叢雲「わかるの?」



提督「そりゃまあ、こんなにハッキリとしおらしくなってる叢雲を見てたら、流石にわかるさ。」



叢雲「そうね、らしくないわよね。」



提督「悪くないギャップだとは思うぞ。ちょっと心配になるけどな。」



叢雲「……ね、ちょっといい?」



提督「なんだ?」



叢雲「ううん…肩貸してくれたら、それでいいから。」



提督「どうぞ、今は貸切だ。」



トサッ



提督「遠慮しなくていいぞ、もっと寄りかかっても構わないから。」



……のす



提督「少し、大きくなったか?」



叢雲「そんなわけないでしょ、私達はいつまで経っても見た目は何も変わったりしないんだから……」



提督「そうだったな、でも改ニになった時は見違えたよ。」



叢雲「少しは、大人に見えた?」



提督「だいぶな、でも根は全然変わらなかった。」



叢雲「そうね、初めて会った時からちっとも成長してないわよね。」



叢雲「あんたは、私を置いてどんどん進んで行っちゃうのに……」



提督「置いていきやしない、俺だけ年老いたって心はずっと一緒だ。」



叢雲「いられるかしら、いつまでも心も一緒に……」



提督「それでも人生長いんだ、もしかしたらいつかお前達のアンチエイジングを解除できるようにもなるかもしれないだろ?」



叢雲「そうね、私もあんたとのんびり老後を過ごしてみたい…」



提督「随分先の話してくれるな、俺はまだまだ現役バリバリでいるつもりだぞ?」



叢雲「じゃあ私は何の話をすればいいのよ?」



提督「大人にならないとできないことって、あるだろ?」



叢雲「飲酒?あんたが間違って飲みすぎないように面倒見ないといけないんだから、オチオチ飲んでられないわよ。」



提督「いや、そっちじゃなくてだな。」



叢雲「就職?既にちゃんと働いてるわよ。」



提督「いや、そっちでもないんだが…」



叢雲「なら何よ、全然わからないんだけど。」



提督「……子供、作りたくないのか?」



叢雲「へ?」



叢雲「……っ!」

カ〜//



叢雲「な、なにを言い出すのよ急に!?」



提督「いや何って、そのままの意味だけど……悪い、気に障ったなら謝る。」



叢雲「べ、別に…気に障るとか、そんなんじゃ……っていうか、あんたちょっとおかしいんじゃない?いつもなら、もっと小馬鹿にするっていうか、茶化すっていうか……」



提督「参ってるお前を見てたら、そんな気も失せたよ……」



提督「……そんなに、悲観してくれるな。ただでさえ美人なんだから、そんな風にされてたら、見てるこっちまで腐ってしまいそうだ。」

ギュッ



叢雲「あ……」



叢雲「うん、ごめん…」

モゾッ



叢雲「……あんたって、大きいわよね。」



提督「肉体年齢、結構離れてるからな。」



叢雲「それだけじゃなくて……あんたの肩代わり…なんて言えないわね、真似事やってみてよくわかったの。いつも側で見てたのに、いざ自分がやるとなると全然、一人でなんて絶対に無理だったわ。」



叢雲「ただの報告書整理するだけでも、何度も間違えて、何で間違えたのかもわからなくて、その埋め合わせするために吹雪達まで巻き込んで……」



叢雲「ごめんなさい…私今まで生意気だった……何かにつけては仕事ぶりにケチつけて、あんたの事頼りないなんて見限って…!私、右も左も分からないのに、あんたが失敗する度に偉そうに説教なんかして…!本当は何も知らないくせに、あんたがどれだけ難しい事やってるかなんて、私ちっとも理解してなくて…!」



提督「それでも、お前はいつも俺の隣にいてくれた。」



叢雲「でも、あの頃は私あんたのこと不快にさせるばっかりで…!」



提督「不快じゃなかった…なんていうと変態思考の持ち主みたいに言われそうだし、実際苦痛に感じた時も勿論あった。でも、常日頃から思ってたことがある。」



叢雲「……?」



提督「なんでこの娘は、こんな俺の側にいてくれるんだろうなって。お前にしたくもない説教させるような男なのに、他の鎮守府の奴らに自慢させてやれるような提督でもないのにってな。」



叢雲「それは……」



提督「ああ、その理由を聞いた時、俺は何て愚かだったんだろうって思った。一番近くにいたのに、何で気付いてやれなかったんだろうって。だから扶桑さん達にも無理を押し通した。まあ、あの時は二人が寛容な心の持ち主だったからってのもあるけどな。」



提督「だいぶ、話が逸れたけど、俺にとってお前は大切な心の支えだ。どこにいたって、存在があるだけで俺は十分助けになってる。」



叢雲「でも、今の私は司令官に何も……」



提督「言ったろ、どっかにいてくれるだけでも良いって。それに、俺とお前じゃやることが違う。深海棲艦に対して非常に非力な俺や、戦いすら知らないか弱い市民達を守る為に戦ってるお前と、お前達を生かすために机の上で頭を悩ませるのが俺だ。それなのに、頭悩ませる勉強してなかったお前が俺と同じ事ができるはずがない。」



提督「逆も然りだ、俺に艤装取っ付けて海の上に放り出してみろ、ろくに立てないまま雑魚の餌だぞ?人にはそれぞれ専門分野ってのがあるんだ、いきなりど素人がその領分に入って同じ事ができるはずがないのは明白だろ?」



提督「まあ、確かにお前にあそこの管理を任せたのは俺だ。実際、お前はよく頑張ってるし、期待以上の働きをしてくれてるって、誰もが認めてるんだ。」



叢雲「そうだといいな…」



提督「他でもない、俺が一番そう思ってる。」



叢雲「ん、ならいい……私、あんたにそう言って欲しかったのかもしれない。」



提督「立ち直れそうか?」



叢雲「もう少し、このままでいさせて……」



提督「お安い御用。」



無防備に体を預けてくる叢雲の小さな肢体を、ガラス細工を触れるように優しく、それでいて熱が伝わるようにしっかりと抱いた。今年に入って、こうして一緒にいる時間が増えたが、その割には、こうした時間など碌に取れていなかったように思う。本当は4月までお預け、と勝手に制限を設けていたのだが、まあ誰にだって心の許容量というものがある。ために溜めたものは、こうして抜いて圧を下げてやらないといけないのだ。



しばらくして、彼女の呼吸音が寝ている時のそれに変わる。提督は彼女にしては緩みきった姿を見て苦笑したのち、金剛が寝っ転がっている部屋に連れて行った。あまり仲のよろしくない二人(というか叢雲が一方的に毛嫌いしている)だが、寝ている分には構わないだろう。それに、もっと打ち解けて欲しいという気持ちもあった。



提督「機嫌、悪くならないといいけどな。」



目覚めたら、また元の叢雲様の降臨だ。気高く誇り高い小さな嫁の復活を、提督は先程のままでいいが一割、待ちわびる気持ちが九割で待った。







ーーーーーーーー





提督「はぁ、すっかり遅くなってしまったな。風呂はシャワーだけにするか…いや、湯冷めしたらコトだな。」



引っ切り無しの来客に一々応対していたおかげで、なかなか仕事に区切りをつけられなかった提督は、間も無く日付が変わろうかという時間にようやく机から解放された。



提督「しかも、無理くり夕飯を抜いてしまった……今から作るのも面倒だし、間宮さんの賄いでももらってくるか、いや流石にもう誰もいないか…」



遣る瀬無さと空腹を格闘させたまま、自室の部屋のドアノブに手を掛ける。だが少し開けてみて、そこから光が漏れてくるのに提督は違和感を感じた。



提督「あれ、なんで明かりついて……」



山城「遅いわよ、提督。」



提督「山城?なんでこんな所に。」



しかも、何故かエプロン姿だ。(あ、今エプロンと聞いてそっちを思い浮かべた人、責めないから正直に手を挙げなさい)



山城「提督のために来てあげたの。そんな素っ頓狂な顔してないで、まずは早く入って。疲れたでしょ?」



提督「あ、ああ……あれ、なんか甘い香りがするな。」



山城「後でのお楽しみよ。全く、こんな遅くなるまで頑張ることないのに。」



提督「とは言っても、俺には俺の今日のノルマというのがあってだな。」



山城「色んな子達にチョコレートもらう度に相手してたら、そうなるのも当たり前じゃないの?」

ジト



提督「あ、あはは…」



山城に睨まれて手にした紙袋を後ろにやるが、まあ隠し切れたとは思えないし、十中八九中身はお察しだろう。



山城「そんなにチョコレートがもらえて嬉しいの?」



提督「そりゃ当然だろ、義理とは言っても俺みたいな人種には至宝のようなものでな…」



提督になって良かったと思えるシーンベスト3があったら、間違いなくナンバーワンにノミネートされるであろう艦娘からのチョコ。着任して初めての2月14日に、チョコを沢山貰えた提督の喜びようと言ったら、それはそれは本気で昇天してしまうのではないかと思うほどに感極まったものだったのだ。



山城「ふ、ふーん、そうなの……そ、それより、私が言いたいのは私達のこといつまで待たせるつもりだったのってことよ!」



提督「え、達?」



山城「叢雲も姉様も(あと、何でか知らないけど金剛も)提督のことずっと待ってたの。私達でご飯作って、一緒に食べようと思ってたのよ。流石にご飯は先に食べちゃったけど。」



提督「本当か?それは悪いことしたな、こんなことなら早く仕事切り上げとけば良かった。」



山城「ほんとよ、全くもう……姉様、提督が来ましたよ。」



扶桑「あら、お疲れ様です提督。」



金剛「Hey テイトクゥー!バーニング、LOVE!!」

ギュム〜!!



提督「うぐっ!」



山城「ああちょっと金剛!何いきなり抱きついてるのよ!」



提督「金剛、気持ちは嬉しいんだが離してくれ…」



金剛「むぅ、仕方ないデース。」



叢雲「お帰りなさい、ご飯の準備まで少しかかるから、先にお風呂でも行って来なさいよ。」



提督「ただいま、そういうことならそうするよ。」



金剛「物はあっちにstandbyしてありマース。」



提督「ああ、ありがとう。じゃあちょっと行ってくる。」





ーーーーーーーー






消灯時間が過ぎたのに浴場を使用するという提督特権の濫用をした提督は、戻ってきて尚も待っていてくれた四人が作ってくれた、遅めの夕食を食べた。叢雲の作った味噌汁は舌の好みにドンピシャで、他三人が作ってくれたハンバーグは、そこらのファミレスでは味わえない極上の逸品、可愛らしくハートにカットされたニンジンのグラッセは、何だか見ていて心が温かくなった。



食べ終えると、扶桑と山城、それに叢雲が揃って渡したい物があると言ってきた。



叢雲「まずは私から、はいこれ。」



手渡されたのは、今回で4度目になるハートの形をしたピンクの包み。だが、今年はいつもと違った。



提督「初めて、ちゃんと渡してくれたな。」



叢雲「?」



山城「ちゃんと渡す?」



提督「あーいや間違えた、叢雲からもらうのはこれが初めてだったな。」



扶桑「初めて?」



提督「毎年毎年見ず知らずの誰かさんが俺に宛てた、執務室の前に落ちてたチョコレートを拾ってもらってたもんな。だからこうしてお前からも貰えるようになってすごく嬉しいぞ。」



金剛「あれ、ムラランってずっとテートクにchocolateをpresentしてなかったデース?」



叢雲「ち、ちが!それは!」



提督「ありがとう、お前からの初チョコレート、大事に食べるよ。」



山城「素直じゃないわねぇ。」



叢雲「違うの!あれはただ面と向かって言うとなると恥ずかしくなっちゃって……って!なに言わせんのよ!」



扶桑「やっとチョコレイトを贈る気になったのね、偉いわ叢雲。」

なでなで



叢雲「扶桑までからかわないで!」



山城「提督、叢雲からの初チョコレートに浮かれるのもいいけど、私達からもあるんだからね。」



扶桑「そうでした、先程やっと完成したんです、どうか召し上がってください。」



提督「おお、すごく美味しそうだな。ありがたく頂戴するよ。」



叢雲「ちょっとお!無視して話進めてんじゃないわよ!!」



金剛「ムララン、今はNightデース。あまり騒ぐと、everyoneが起きてしまいマース。」



叢雲「なんでこんなに理不尽な扱いされなくちゃならないのよ!」




この時、提督は自分が今幸せであることを、心の底から自覚した。部屋に帰ればこうして大切な契りを交わした者たちが温かく迎えてくれる。そして、その中で繰り広げられる他愛もないやり取りは、何にも代え難い愛する者たちの宝石のような笑顔を、記憶に深く刻み込むのだった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーー








やっと、完成した…





これでようやく私の悲願が叶う…





喜びも…





感動も…





愛も…





全部、忘れさせて…




絶望させて




怒らせて




憎ませて




悲しませて




妬ませて




嘆かせて




落胆させて




疑わせて




狂わせて




惑わせて




それから



殴って



蹴って



叩いて



焼いて



縛って



沈めて



斬って



落として



埋めて



煮て



撥ねて



轢いて



削って



砕いて



裂いて



潰して



抉って



解体して



刺して



絞って



卸して



穿って



貫いて



捻って



挟んで



割って



咬んで



摺って



炙って



折って



千切って



喰って



刻んで



そして






早霜「殺してあげます…フ、フフフ…アハハハハハハ…」




後書き

Q.弥生の章を書き始めるって宣言して何日経った?
A.4日だよ!!(ヤケクソ)

どうも、最近目の下のクマがすご〜い!ことになってる影乃です。長らくお待たせし過ぎました。その上最近こういうことあまり書けてなかったので、何書けばいいのか、すごく困ってます(必死)
まあ、泣けど喚けど次で最後になりますね。気合い十二分、いや二十分くらいで書かせていただきますよ!

節分ネタの元ネタ、だいぶ僕流にアレンジ加えましたけど、わかった人がいたらちょっと嬉しいですw


蛇足的告知
四月から新しく……厳密に言えば新しくじゃないですけど、この「たとえ不幸でも・・・」シリーズとは別のタイトルでSSを書かせていただきます。

正直に打ち明けますと、
約一年前に始めて僕の気まぐれというか自爆で突如全削除という謎の最後を遂げた作品のリメイク版です。しかも構想期間に一年を費やしただけあってかなり別物になっちゃってますw

心機一転も兼ねた新作、自己流の書式も殴り捨てちゃったので、正直色々と不安もありますが、どうか見かけた時は、お手にとっていただければと思います。


このSSへの評価

3件評価されています


ぺるつぁーさんから
2017-02-25 17:57:31

SS好きの名無しさんから
2017-02-17 19:33:15

金属製の餅さんから
2017-02-15 06:21:03

このSSへの応援

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金属製の餅さんから
2017-02-15 06:21:03

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