2015-11-12 11:10:49 更新

前書き

勇者の旅立ち その2の続編となります。


・物語は「勇者の旅立ち その2」その後となります。本作品だけだと人物間の関係がわからないので、先に「勇者の旅立ち その2」をお読み下さい。

・書き方や投稿の仕方が間違っているかもしれません。

・公開した状態で物語を更新するたびに「新作SS」に上がっているかもしれません。悪意や閲覧数を稼ぐためでは決してありませんので悪しからず。

・誤字脱字は大目にみてやって下さると助かります。校正はしているつもりです。

・矛盾などがあったらごめんなさい。

・他にも注意事項はありますが、言っているときりが無いので、寛大な心で閲覧して下さい。

・ついでにえっちな表現ありです。なかなかアブノーマルです。

・それではどうぞ。




・・・。

・・。

・。




魔王が乱心してから一月程度。

勇者はありったけの金を使い込み旅道中を遡っていた。

サキュバスや吸血鬼にはチャンネルリングを通して事の次第を伝えておいた。その上で魔王代理なる人物から「端的な話では埒があかないから一度魔王城に帰宅しろ」と告げられていたのである。

剣とチャンネルリング以外、売却できそうなアイテムは全て売った。

後は魔王城に帰るだけ。

食費も宿泊費も注ぎ込めるだけ移動代につぎ込んだ。なのに圧倒的に路銀が足りない。節約云々の問題ではなく、圧倒的に足りない。

いっそ道端を通っている馬車を襲って奪えればどれだけ楽だったかだろう。


御者「着きましたよお客さん」


御者に促されて馬車から降りる。

戻れる限り戻ってきたは良いが、中途半端な場所で降ろされこれからどうしろというのだろう。

身売りでもするか?もっとも、子供姿ならまだしも成人の男を買うような物好きなど滅多にいないと思うが・・・。

勇者が降ろされた街へと入り辺りを見渡せば、街は活気だった賑わいを見せている。ここは確か貿易も盛んで周辺国一大きい街のため「眠らない街」と言われている。

そんな眠らない街の酒屋はどこだろう。

歩き出した勇者に一人の酔っ払いがぶつかってしまう。


男「おっとすまねぇな兄ちゃん。へへっ」


勇者「・・・」


男にぶつかられてしばらくすると、背後から男の舌打ちと共に「空じゃねぇか!」という文句が聞こえる。

中身の無い財布を掏った気持ちはどんな気持ちか教えてもらいたいものだ。

勇者はポケットから一枚の硬化を取ると、改めて街を見渡して気付いた。


勇者「この街は――」


自分が立っている街の思い出。

脳裏に蘇るのはバーで騙され、リリスに捕食された甘辛い思い出。

気付いた勇者は急いで走り出す。




・・・。

・・。

・。




旅人が魔物に遭遇した場合、待ち受ける結果は概ね二つの未来が定められている。

魔物を殺すか、魔物に殺されるか。このどちらかが九割五分以上の結果になると言っても冗談ではない。

だがこの提示された二パターンの中でもごく稀に「性的な快楽を満たされるための道具として扱われる」パターンや「命が枯れ尽きる日まで魔物が子を宿すための道具にされる」などの稀有なパターンが存在する。

前者は正にリリスのような存在だ。

あくまで噂でしかないが、冒険者の中には『飼ってくれる魔物のご主人様』を探して旅をする者がいるとかいないとか・・・。

しかし人型の飼い主を探すのは容易ではない。力のある人型が脆弱な人間を飼っておく理由が無いからだ。

力も魔力も優れている人型の魔物としては、人間なんて掃いて捨てるほど簡単に捕食できる。

適当に弄んでから殺すか、記憶を消して放り出すか、新薬の実験体にしてやるか、顔なじみの魔物にでも喰わせてやるか。

つまりリリスのように賃金まで与えて解放をする人型は珍しい存在と言えるだろう。もしかしたら屋敷を構えているため、旅人失踪などの面倒事にならないよう配慮をしているのかもしれない。


勇者「夜分遅くに失礼します!どなたかいませんか!」


記憶を頼りにリリスの屋敷まで辿り着いた勇者が扉を叩く。

相変わらず気後れするほど大きい屋敷だ。

リリス曰く、相当数の魔物が住んでいるにも関わらず中から人気がしないのは、餌に危険を勘付かせないための魔法が掛けられているかららしい。


勇者「どなたか――!」


二度目に声を掛けている途中扉が軋み開かれる。開かれた扉の内側からは右手にランタンを持ったメイド長が姿を見せた。


メイド長「これは旅のお方・・・。夜分遅くにいかがされましたか?」


淡い明りに照らされたメイド長が優しく笑みを見せる。その瞳は人間に悟られぬよう夜目は使われていない。勿論夜目だけではなく、背から羽も生えてはいなかった。

あくまで神秘的な演出を醸し出すメイド長。

勇者がそんなメイド長の両肩を掴んで強めに揺さぶる。


勇者「メイド長さん!」


メイド長「ぁひぃ!?」


勇者「メイド長さんリリスさんはいますか!?今日リリスさんは――!」


メイド長「くっ!このー!」


神秘的など何のその。メイド長の両目が夜目を灯らせる。

掴んでいた勇者の手を振り払ったメイド長が、勇者の首目掛けて斜め45度上から手刀を振り下ろした。ドゴッと音が鳴り勇者が怯む。

続け様に怯んだ勇者の胸倉を掴んだメイド長は力に任せて勇者を屋敷の中へと投げ飛ばした。勇者は呆気なく床を転がさせられる羽目となる。


メイド長「えっち!変態!」


勇者「あたた・・・」


リリス「やかましいわ!」


声に反応して勇者が振り返れば、メイド長と同じく黄色の夜目を灯らせ羽を生やしたリリスが腕を組んだままこちらを見ていた。

眠そうな目はどこか不機嫌そうにも見える。小さな欠伸を噛み殺したリリスの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


メイド長「気を付けて下さいリリス様!変態ですよ!」


リリス「なに・・・変態だと?変態しかいない屋敷に変態が出るのも可笑しな因果だな。呪いか?」


メイド長「なるほど確かに・・・」


勇者「僕は変態じゃありません!」


くっくっく、と声を殺して笑うリリス。

変態と一緒にしないでほしい。


勇者「僕は勇者です!」


リリス「あ?勇者だと?誰が?貴様が勇者か?」


変態のレッテルを払拭すべくコクコクと頷く勇者。

眠そうだったリリスの目が少し開かれ勇者を見る。上から下まで舐めるように見下ろされたリリスの目が再度、下から上まで見上げられた。

往復を終えたリリスが疑惑混じりにメイド長問う。


リリス「勇者はこんなに汚い男だったか?」


メイド長「いいえ。勇者様はもっと小奇麗で、お肌もつやつやしており、女の子とも見間違うほどに愛らしい、おどおどした、髪も細く、サラサラした、良い匂いのする、二重で、まつ毛も長くて――」


リリス「おい」


メイド長「線の細い・・・はい?」


リリス「誰が思い出を語れと言った」


メイド長「こほん。違いますね。勇者様ではありません」


勇者「そんな・・・」


リリス「悪いが私もメイド長と同じ意見だ。間近で見れば女のような顔立ちをしている所ぐらいしか、お前と勇者の共通点は無い。もしギャグなら前世紀最大だがな」


勇者「じゃ、じゃあこの剣を見て頂ければ――」


勇者が剣の鞘を握った瞬間、距離を詰めたメイド長が勇者の背に剣先を突き付けた。

背後から与えられる圧倒的な殺意は確実に勇者を殺すためだけに全神経を奉げられている。

鞘を掴んでいた勇者の手がゆっくりと離された。

血の気を引かせる勇者を見ながら口角を釣り上げるリリス。その表情には人間を嬲ろうとするサディスティックな色を浮かばせている。


リリス「北の街で勇者らしき人間が指名手配されているのを知っているか?仮に貴様の持つ剣が本物だとしても、勇者を殺して奪ったものではないと証明できんだろう」


勇者「どうすれば・・・信用してもらえますか?」


不安げに上目を使う勇者の目を見て、待ってましたと言わん表情のリリス。

リリスがニィと笑みを見せ、己の人差し指を頬に引っ掛け口を開ける。

開かれた口内からは長めの舌が伸ばされた。

誘い。

言われなくても分かってしまう。


リリス「本物なら味までは変わるまい」


勇者「っ――」


リリス「証明が嫌なら失せろ。見知らぬ人間のために睡眠時間を割いてやる程私はお人よしではない」


勇者「わ・・・かりました・・・。でも先にお風呂をお借りしても――」


勇者の要望が伝えられるよりも早く、リリスの指先が勇者の喉に突き付けられた。主の動きに合わせてメイド長の剣先が強く背中へ食い込められる。


リリス「証明しろと言ったのが聞こえなかったのか。誰が優雅なお風呂タイムをくれてやると言った」


勇者「でも僕・・・汚れていますから・・・」


リリス「今ここで死ぬか?いつまで私に時間を使わせる気だ」


勇者「・・・っ!」


勇者は背にメイド長の殺気を浴びせられながらも、下唇を噛んだまま諦めたようにリリスに目を返す。

大した興味もなさげに勇者と目を合わせるリリス。

リリスを見ながら勇者が頬を赤くする。


リリス「何を恥ずかしがっている。見た目も中身も女か貴様は」


勇者「ちっ、ちがいますよ!男です!」


リリス「どうだか」


意を決した勇者が下着を下ろせば、緊張ですっかり縮こまってしまっている勇者のモノが二人の前に露わにされる。しかしモノを見せられてもハァと溜息を吐くリリス。

リリスはさもつまらなそうにしゃがむと、勇者のモノを人差し指だけで下から上へと持ち上げた。


リリス「コレは?」


勇者「コレと言われましても――」


リリス「この粗末なモノで何をどう証明するのか?と聞いている。やる気があるのか?」


苛立つリリスが勇者のモノを握り潰さんと鷲掴みにした。


勇者「いっ――!?」


リリス「馬鹿にしているのか?このような使い道の無い粗末なものを嗅がされて、私はどうしたら良い?答えて教えてみろ」


鷲掴みにされていた力が緩められて勇者が安堵したのも束の間、再び強く握られる。

乳牛の乳搾りのように刺激を与えられてゆく間に、どうしてか勇者のモノは大きく起立させられてしまった。


勇者「んっ・・・んぁ・・・!リリスっ・・・さん!」


ようやく怒張したモノを差し出されたが、なおもリリスはあざ笑うのを止めない。


リリス「ははは!貴様頭がおかしいのか?人として恥ずかしくないのか?種族すら違う魔物なんぞにモノを掴まれ、罵倒され、挙句の果てがこの様か。とんだ趣向の持ち主だな」


勇者「うぅ・・・だっ。だってリリスさんが――」


リリス「にしても・・・本当にとてつもない匂いだな。どれだけ風呂に入らなければこのような匂いになるのだ・・・」


メイド長「私の方まで匂ってきますよリリス様」


リリス「けほっ。汚れも酷いじゃないか」


勇者「僕やっぱり先にお風呂に入ります・・・」


勇者が喋り始めるや否や、皮を剥かれた勇者のモノがリリスの口内へと含まれてしまう。

躊躇いもなく喉の一番奥まで飲み込んだリリスが一度えずき、二度えずき。

うっすらと涙を見せるリリスではあったが、吐き戻すことはなく舌先を器用に使って勇者の汚れを舐め取ってしまう。


勇者「っ!あっ――!リリスさんっ・・・!」


リリス「んむ・・・どうした人間・・・切ないのか?」


勇者「はい・・・!んっ・・・!」


一通りの汚れを飲み終えたリリスが、一度勇者のモノを口から離して彼を見上げる。

口内から離されてもなお、リリスの右手は止まることなく勇者のモノを擦り続けていた。


リリス「臭すぎて意識が飛ぶかと思った・・・。どうしてくれるつもりだ」


勇者「理不尽な――!っあ!」


リリス「許さんぞ。思い切り吐き出させてくれる」


故意なのか無意識なのか、再び勇者のモノを咥えたリリスが下品な音をたてながら勇者のモノを啜り出す。

咥えた口の端からは粘着性の高い唾液が溢れてはリリスの顎を伝い、糸を引き、床にシミを生んだ。

中身を全て吐き出させようとするほど本気の吸精。

加減がない拷問じみた快楽を植え付けられ、勇者の悲鳴にも似た声が響く。

もはや自分の足で立つことすらままならなくなる勇者。

そんな勇者をメイド長が後ろから支え、ついでとばかりに勇者の耳穴に舌を入れ舐めまわす。


勇者「ダメです!あっ!し・・・!しんじゃ・・・あ――!」


リリス「そうか・・・では死ね」


尿道が痛くなるほどの射精感と、人知を凌駕するだけの快楽が勇者の体を突き抜ける。

飛ぶ意識と共に、永続的に伝えられる解放感。

勇者は半開きの口で涙を流しながら唸るだけしかできない。

脈打つモノから放たれる体液は十秒、二十秒では収まらない。

まるで壊れた蛇口のように体液を吐き出し続けさせられた。

リリスの口内にびゅくびゅくと溜められてゆく勇者の体液。

飲み込まないで溜めているせいか、次第にリリスの頬が膨らみ始める。

限界まで頬を膨らませたリリスはトドメとばかりに勇者のモノを扱きながら吸い上げ、一滴も無駄にすることなく体液を口に溜め終えた。


リリス「・・・」


眉間に皺を寄せたままメイド長に手招きをするリリス。

メイド長は放心している勇者をそっと床に寝かせると、急いでリリスに近付いて口づけをした。


リリス「んぷぁ」


メイド長「んっ――!」


こぼさないように口移しされる勇者の体液。

二人で分けながら飲まれてゆく勇者の体液。

目を細めて悪戯に微笑むリリスと、恍惚の表情で主の舌を舐めるメイド長がそこにはいた。

喉を鳴らして美味そうに飲む二人の姿を見ながらも、呆けたままの勇者は証明できているのか?と不安を巡らせる。


メイド長「んぅ――!」


リリス「まさか・・・イったのか?」


メイド長「・・・軽くですけれど・・・お恥ずかしい・・・」


リリス「無理もない・・・。体中に染み渡るようだ・・・勇者の体液が美味いのは魔王様の子供だからなのか?」


メイド長「壁に括り付けてお手軽ドリンクサーバーにでもしたくなりますね」


フレンチキスをしながら全ての体液を分け終えた二人が改めて勇者へと向く。


勇者「僕だって分かってもらえましたか・・・」


リリス「ふむ?何を言っているのだ、初めから知っていたに決まっているだろう」


勇者「はぇ!?」


リリス「気付かないはずあるまい。体液以前に体臭で分かるに決まっている。アホかお前は」


メイド長「あはは・・・投げ飛ばしてすいませんでした勇者様・・・。でも当初は本当に暴漢が来たかと思ったんですよ?」


勇者「じゃあどうして僕はこんな事に・・・?」


リリス「理由を聞かんと分からんか?」


勇者「・・・。いえ、聞かなくても分かりました・・・」


リリス「察しの良い子だ。さてごちそう様。そろそろ話を聞こう。いつまでも寝転がっていると次戦を始めるぞ」


勇者「うぅ・・・一気に疲れがきました」


寝転がっているままの勇者をメイド長が手を貸し起こしてやる。

上半身だけを起こした勇者はふらつく頭を振ってはリリスへと目を向けた。裸にローブスタイルなのは相変わらずらしい。

てっきり人間を捕食する際の演出なのかと思っていたが、どうやら屋敷の中では常時この恰好でうろついているようだ。

シルクのように透き通る真っ白な肌。

肌の色とは不釣り合いなまでに真っ赤な髪。

薄暗い部屋に光る夜目。


リリス「どうした勇者・・・大丈夫か?」


魔王城に帰ろうとしている今日まで毎日が不安な道中だった。

久しく知り合いに会えた勇者の気が緩んでしまったのは仕方がないのかもしれない。呆けたままリリスに魅入られてしまっていた勇者のモノが再び鎌首をもたげる。

情緒あるリリスの格好に反応してしまったモノに勇者本人が気づいたのは、メイド長が楽しげに「あらあらふふふ」と言ったからだった。


リリス「・・・存外節操が無いなお前は」


勇者「これはその――」


リリス「こんな生熟れ体型が良いのか勇者は?一般的な男はメイド長のように熟成した身体のほうが好みだと思うが・・・」


熟成と聞かされ、勇者が思わずメイド長の胸元を見てしまう。出るところはしっかりと出て、引っ込むところは引っ込んでいるメイド長。言われてみれば確かにリリスは体型的には幼いのかもしれない。

勇者に穴が開くほど胸元を見つめられ、メイド長はノリノリで腕を組みながら胸を前に押し出し大きさを強調させる。すると勇者はハッと我に返り、急いでリリスへと視線を返した。


勇者「リリスさんは彫刻のように綺麗ですから――」


メイド長「あら振られてしまいました」


勇者「振っていませんよ!そもそも告白していませんし!」


メイド長「それにしても・・・分かりますか勇者様!リリス様は色素が薄い体質なのか、肌も綺麗ですし、色も全体的に綺麗な桜色をしており――」


リリス「胸の駄肉をもぎ取るぞ貴様」


メイド長「おっとこれは失礼いたしました。・・・おや顔が赤くありませんかリリス様?風邪でしょうかね・・・?」


リリス「うっ、っるさいな!さっさと勇者の世話をしに行け!」


メイド長「ふふ。では私は先にお風呂の用意をしてきます。勇者様もまた後ほど」


勇者「あ、はい」


勇者に手をひらひらと振りながら何処かへと行ってしまうメイド長。心なしか足取りは軽く、鼻歌まで歌っている始末だった。

残されたリリスの眉間には僅かに皺が寄っている。


リリス「なぁ勇者・・・お前は誰にでもあんな言い回しをするのか?」


勇者「言い回し・・・ですか?えっと、どの言い回しでしょう?」


リリス「・・・もう良い!まったく!それでいくら必要なのか教えろ」


勇者「えっ――」


リリス「ん?金の工面に来たのだろう。違うのか?」


勇者「どうして・・・わかったんですか?」


リリス「浮浪者じみた格好をしていても、お前の眼は決意を持つ者の目だ。旅を諦めた者や堕とされた者はその目を見せん」


素直に驚かされる。

勇者の知っているリリスは、割合いつも気怠そうにふらついているイメージがあった。あまり人間と呼ばれる者にも関心を寄せなそうでいて、いつも眠そうにしているイメージ。

持っていたイメージを簡単に覆された。

「最も――」と続けながら、彼女は前かがみになって勇者と鼻先を合わせる。


リリス「私は決意を持っている人間を堕としてやるのが堪らないがなーー」


にぃと八重歯を見せて笑うリリス。

前に襲われた時は被食者と捕食者、魔物と人間の関係でしか無かったが、今回顔見知りとしてリリスを見ると、やはり何処か吸血鬼やサキュバスに似た一面を見せてくれる。


リリス「さぁ望みを言ってみろ」


勇者「魔王城に行きたいんです。街から魔王城までの馬車代を貸していただけませんか」


リリス「魔王城に?ん・・・?魔王城に向かう路銀だけか?」


勇者「はい・・・」


リリス「それだけのためにわざわざ頼りに来たのか・・・。まぁ良い。だが――」


勇者「用件が終わったら僕に出来る事は何でもします」


リリス「良い心がけと覚悟を持っている。悪いが弱みに付け込まないほど私は善人ではない。私にとってこれ以上に美味い場面もそう無いので悪く思うな」


勇者「とんでもないです。こちらこそありがとうございます」


リリス「良い子だ」


羽を広げたリリスが宙に浮き、見えない椅子に座るような姿勢をとる。

不敵に笑んだまま勇者に伸べられるのはリリスの右足。


リリス「口づけを」


勇者「はい――」


リリス「お・・・おい?おい待て待て!足先を舐めろとまでは言っていない!甲に口づけをすれば良い」


勇者「へ?あ、そうですか」


勇者から交わされる口付けを見ながらリリスが詠唱を始める。

見たことのない詠唱に勇者は戸惑いを覚えたが、リリスへの口付けをやめることはない。

淡い光が勇者を包む。蝋燭で照らされた部屋よりも少し明るいくらいの光。

暖かさのある光がしばらく勇者を包んだ。

そのまましばらく待つと、光は勇者の右腕へと収束を行う。

突如カシャン、と軽い金属音が聞こえ改めて勇者が右腕を見ると、腕には黄金色のバングルが装着されていた。


リリス「もう大丈夫だ」


口付けを止めた勇者が生成された腕輪を見る。

腕輪には勇者が見たことのない文字が数多に刻み込まれており、装飾品としてもかなりの値打ちがしそうに見える。

特徴的なのは、腕輪には着脱するための留め金類が一切見られない所だろうか。


勇者「綺麗ですね。お借りして良いんですか?」


リリス「心底呑気な奴だな・・・普通怪しい物を付けられたら、まずは警戒をしないか?私は魔物で勇者は概ね人間。きちんと認識しているのか?」


リリス当人から魔物と聞かされて勇者がハッと我に返る。

どう返事を返せば良いのかわからず狼狽える勇者を前にリリスが軽く笑みを見せた。


リリス「隷属の輪と呼ばれる装具・・・いや、呪いのアイテムだ」


勇者「隷属・・・ですか」


リリス「そうだ。魔物の中でも特定の人型が使える魔法だ。本来は腕輪ではなく首輪の装具なのだが・・・流石に首輪では見た目も悪かろう」


勇者「魔法の名前からしてリリスさんに逆らえなくなる・・・とかでしょうか?」


リリス「いいや幾らでも逆らえるさ。それに幾らでも私を攻撃もできる。更には私に意識を操られるような代物でもない」


勇者「でしたら何に制限が・・・?」


リリス「制限はない・・・が、私の一存でお前の手首が吹き飛ばされる」


勇者「え!?」


リリス「威力は私の与える魔力量で操作ができる。ちなみに最高火力ならば肉片すら残るまい」


勇者「腕輪でも首輪でも結局死ぬんじゃないですか・・・」


リリス「ではペットや奴隷のように首輪を巻かれる方がお望みか?変態勇者になら似合うかもしれんが――」


勇者「だから僕は変態じゃないですからね?でも確かに見た目は腕輪のほうが良いかもしれませんね」


リリス「お前がしっかりと対価を払ったら外してやるさ。私に捕縛されているのが嫌なら、さっさと用事を終わらせて出すものを出せば良い」


見た目の割に物騒な代物を付けられ、勇者が上下左右と内側から腕輪を見てみる。

やはり留め金らしいものは無いらしく、リリスの意識なしに外すことはできない仕組みになっているようだ。

微笑みを絶やさないままのリリスが少し目を細めて勇者の腕輪を見る。笑みには含みのようなものは無く、純粋に楽しんでいるように思えた。


勇者「意外です」


リリス「私にここまでやられるのが・・・か?」


勇者「へ?いえ、てっきりずっと付けるのかと思いました・・・。リリスさんはやっぱり優しいですね」


勇者の返事を聞かされ小さく溜息を吐くリリス。

リリスが両手で顔を覆う。

覆ったまましばらくし、顔を洗うように手を上下させて拭ったリリスは「そう来たか・・・」と呟き喋り始めた。


リリス「勇者・・・やはりやめよう」


勇者「え?」


リリス「本当にすまなかった・・・。今すぐ外してやるから腕を出せ。路銀はきちんと出してやるから安心しろ」


勇者「何か不都合があったんですか?」


リリス「違う」


勇者「じゃあ――」


リリス「ほら」


冷静でいようとしているリリスの成り様ではあったが、表情に先程までの笑みは無い。

リリスへと腕を差し出す勇者。だが勇者はリリスに手首を掴まれる寸前で咄嗟に腕を引いてしまう。

空振りするリリスの手。

一瞥を貰うが怒ってはいないらしい。


リリス「・・・」


勇者「・・・はは、は・・・。その・・・」


リリス「・・・早く」


勇者「ちょっ、ちょうど格好良い装飾品がほしかったところなんですよね!わぁ、嬉しいなぁ。凄く綺麗な腕輪を貰えて!」


リリス「貰う気なのか」


勇者「借りられるなんてラッキーです!リリスさんと知り合いでよかったなー!」


リリス「欲しければ用件が終わったらくれてやる。無論着脱が出来るようにしてな」


勇者「えっ・・・本当に良いんですか?」


リリス「構わん。金に困ったら売れるレベルの装飾品だ。また金に困ったら売ればいいさ」


勇者「売りませんよ・・・。大切にします」


リリス「そうか。是非大事にしてやってくれ」


その後、勇者はリリスに寝床や食事だけでなく、余っていた装備なども工面してもらう。

リリスの表情が少しだけ柔らかく感じたのは、もしかしたら気のせいだったのかもしれない。



・・・。

・・。

・。




リリスから十分な支援を得た勇者が長旅を終えて魔王城へと辿り着く。

最後の一週間は魔王城前まで行ってくれる馬車が存在しなかったお陰で、徒歩で向かう羽目になった。

城を前に佇む勇者。

感慨深く城を見ていた勇者は、城門前で懐かしくも久しい子供を目にする。

子供は勇者と目が合うなり、手に持つ花のようにパッと笑顔を咲かせて小走りで向かって来た。


妖狐娘「勇者お兄ちゃん!・・・あ、あれ?お兄ちゃん・・・ですか?」


勇者の前に立つなり、いきなり妖狐娘の表情に影が浮かぶ。形容が妖狐娘の知る勇者とは大きく違っていたからだろう。

戸惑う妖狐娘の頭にポンと手を置いてやり、勇者が笑みを返した。


勇者「久しぶりだね妖狐娘ちゃん。体の調子はどう?怪我はもう平気?」


頭を撫でられ妖狐娘の表情に光が射した。


妖狐娘「うん!ママの子だもん!」


勇者「そっかそっか妖狐の・・・うん・・・確かに強そうだ。うん、確かに・・・。今日は妖狐と遊びに来たの?」


妖狐娘「うん?とね、お兄ちゃんとバイバイしてからはママとお城に住んでいるの」


勇者「そうなんだ。あの辺りじゃ不便だろうからね。みんなとは仲良くしている?」


妖狐娘「うん!昨日はねー、久しぶりに吸血鬼ちゃんとお兄ちゃんごっこやった!」


勇者「お兄ちゃんごっこ・・・?僕の話だよね?楽しいの?」


妖狐娘「最近ちょっとマンネリかも・・・」


勇者「あはは。そっかそっか」


久しい出会いに胸を躍らせながらも、勇者がもう一度妖狐娘の頭を撫でてやる。すると妖狐娘の頭上にある耳はこの上ないほどぺたんと寝かされ、二本の尻尾は千切れんばかりの勢いで左右に乱舞していた。


勇者「僕は用があるからまた後でね」


妖狐娘「うんー・・・お兄ちゃんもう行っちゃうの・・・?」


勇者「ははは。すぐに戻るよ」


妖狐娘「ほんとう?私ね、お兄ちゃんに遊んでもらいたいの。絵本読んでほしかったの・・・」


勇者「わかった。約束するよ」


妖狐娘「絶対?絶対だよ!えへへ・・・嬉しい・・・」


勇者「良い子で待っていてね」


妖狐娘「うん!」


最後にポンポンと妖狐娘の頭を撫で、勇者が門番に会釈してから城へと入る。


吸血鬼「おかえりなさい勇者」


サキュバス「待ってたよー」


久しぶりに会うのは何も妖狐娘だけではない。

城の中に入れば既に広間に待っていた吸血鬼とサキュバスが勇者を出迎えてくれた。


吸血鬼「魔王様も随分小さくなっていたけれど、勇者も随分大きくなったのね」


サキュバス「勇者って成長すると言うほど前勇者に似てないね。てか・・・かなり魔王様の面影が出てる・・・なんで美人なの・・・」


勇者「そうですかね?・・・美人て――。えっと所でお母さんの話なんですが――」


吸血鬼「私達もやるべき事はやっているわ」


サキュバス「会議の準備をするから先に風呂行ってきたら?疲れてるでしょ?」


勇者「だっ、大丈夫なんですか?呑気な話に聞こえるんですけれど・・・」


吸血鬼「逸る気持ちは分かるけれど、魔王様はきちんと身の安全を確保できているのよ。その上でもしかしたら作戦に勇者が携わるかもしれないの。だから一度心身共に整えてきて頂戴」


サキュバス「まぁ安全もクソも、亜成体とは言え魔王様だからね・・・あんなのに喧嘩吹っ掛けるバカは滅多にいないし平和なもんだよ」


勇者「そうですか・・・。お母さんが無事で良かったです・・・。じゃあ先にお風呂を頂きますね」


吸血鬼「一時間後に魔王様の部屋に来てくれれば構わないわ」


勇者「分かりました」


身なりを整えるため勇者が歩き出す。

勇者が戻ってからは終始にこにこと笑っていた吸血鬼とサキュバスではあったが、勇者が風呂場へと向かう背中を見送ると、途端に吸血鬼が真顔になる。


吸血鬼「・・・」


サキュバス「・・・」


吸血鬼「ねぇサキュバス」


サキュバス「なんだい吸血鬼!?」


吸血鬼「勇者が付けていた腕輪は隷属の輪じゃないかしら?私の見間違いじゃないわよね?」


サキュバス「多分ね!私も視力は良い方だし!?」


吸血鬼「・・・」


サキュバス「だよね!」


吸血鬼「リリス種の模様よね?一体どこの誰に付けられたのかしら」


サキュバス「さ・・・さぁ?」


サキュバスには思い当たる節があった。でもサキュバスの口から答えが出ることはない。

長年吸血鬼と二人で側近をしているサキュバスは知っている。

バレたら割とただでは済まない事を。


吸血鬼「ねぇサキュ――」


サキュバス「まったく信じらんない!私たち二人じゃ飽き足らず、その辺の女にちょっかい出されるなんてさ!相手を聞き出してぶっ飛ばしちゃう!?シメてやらないと気が済まないよね!早く勇者を問い詰めないとだわ!」


吸血鬼とサキュバスが魔王の側近となり、かれこれ十余年。

今でこそ人間や同族との戦いは下火となったが、吸血鬼とサキュバスは共に幾千の戦いを駆け、共に生きてきた。

互いを思い、互いを助け、時には互いに尊敬も見せてきた二人の間柄。家族以上に強い絆で結ばれた間柄。

要は吸血鬼にはサキュバスの動揺が見抜かれていた。吸血鬼に頭を鷲掴みにされたサキュバスが「ひぃ!?」と軽く悲鳴を零す。


吸血鬼「前に長期の休みを貰っていたわねサキュバス?」


サキュバス「ちちち違うよ!?あれ実家に帰ったんだよ!有給溜まってたし、上部にいる私らが有給使わないとみんなも使いにくいじゃん!?」


吸血鬼「あなたいつ魔王様と雇用契約を結んだのかしら。提出した履歴書がどこにあるのか教えて頂戴」


サキュバス「こ、雇用契約していなくても有給貰えるでしょ!?無いの!?ブラック魔王城じゃん!?」


吸血鬼「ここはいつから企業になったのかしら。だったらライ麦でも仕入れて売り捌く?いつかは財政も支配して、行く行くは世界を裏から牛耳る大企業」


サキュバス「良いねー・・・ぁだぁ!?いたたた!やめっ、いだだ!脳が出ちゃう!」


吸血鬼「あんた絶対に覚えておきなさいよ・・・きちんと追求してやるからね・・・」




・・・。

・・。

・。




一方同時刻。

服を脱ぎ終えた勇者は腰にタオルを巻いて大浴場へと入る。

勇者がガラリと扉を開けて中に入れば、タオルをクビに掛けたままサウナから出てきた妖狐と目が合ってしまった。

気の緩んでいた勇者は扉に掛けられている「危険・妖狐様入浴中。覗くと死亡」のプレートに気付けない。


妖狐「ん?」


勇者「きゃー!」


妖狐「失礼な子供ね。それは私の台詞よ」


勇者「どどど、どうして妖狐さんが!?」


妖狐「あ?妖狐さんですって?」


勇者「あいえ・・・。どうして妖狐が・・・でした」


妖狐「私が風呂に入ったらいけない?」


勇者「い、いえ決して・・・ってあれ?」


勇者の目が妖狐の顔から妖狐の下腹部へと動かされる。

湯けむりで全貌がハッキリは映らないが、妖狐の下腹部には勇者自身が持つモノよりも二回り大きいモノがぶら下がっているではないか。

勇者が「なんだ同性だったのか・・・」と安心しかけたのも束の間、妖狐娘の存在を思い出す。

そもそも妖狐の胸元にある大きい双丘や、スタイルの説明がつかない。


勇者「だっ・・・男性――?」


妖狐「誰が男だ殺すぞ」


勇者「ですだよね!?男で妖狐ほど綺麗な人なんかいないよね!」


妖狐「そうかしら?貴方鏡の存在を知っている?・・・まぁ私にはどちらもあるだけの話よ。珍しいモノでもないでしょう?」


勇者「珍しくないんだ・・・」


妖狐「語弊があったわ。人型の魔物には珍しくないって話よ。そもそもサキュバスと吸血鬼にも付いているじゃない」


勇者「ふぇ!?」


妖狐「ん?サキュバスだけだったかしら?・・・知らなかったの?」


勇者「う、うん・・・初耳・・・」


妖狐「表立った性を主にしているから、コレを使用する事なんてそう無いわよ」


勇者「使用って・・・。あ、えっとごめんねジロジロ見ちゃって・・・。僕もう出るよ」


妖狐「折角来たなら尻尾を洗うの手伝いなさい」


勇者「でも僕も一応男だから・・・見られるのは嫌でしょ?」


妖狐「子供に見られたら何だって言うのよ。むしろ逆に聞きたいけれど、あなた私に欲情するとでも?ありえ無いでしょう?」


勇者「・・・」


妖狐「つまり――。・・・は?」


勇者「・・・え?いや――。だっ、大丈夫だよ?欲情しないよ?平気・・・うん」


妖狐「・・・まぁ・・・どっちでも良いわ。時間が惜しいから早くなさい」


勇者「う、うん・・・」


妖狐に急かされ勇者は歩き出す。

彼女が適当な椅子に腰を下ろせば、十ある尾がタイル一面に広がり花を咲かせた。

妖狐はシャワーを勇者に持たせ、自身は桶に溜めた湯を頭から被るとシャンプーを髪に塗りながら喋り出す。


妖狐「尾の全体に水を掛けておいて頂戴」


勇者「・・・」


妖狐「聞いているの勇者?」


勇者「あの・・・さ。妖狐娘ちゃんを助けた時に報酬は何もいらないって言ったよね。今更だけどあれ・・・撤回してもいいかな」


不意を突かれて妖狐の髪を洗う手が止められた。

鏡を越して勇者を映す妖狐。勇者は妖狐に見られている事に気付かない。


妖狐「・・・えぇ」


勇者「・・・」


妖狐「勘違いをしていたとは言え約束は約束よ。何が望みかしら。地位?名誉?果ては――」


あくまで表面上は穏やかに問われ、勇者はシャワーを強く握る。

しばらく時間が無駄に進むと、下唇をきゅっと噛んだ勇者が鏡越しに妖狐に視線を合わせて願いを伝えた。


勇者「妖狐の尻尾にくるまりたい・・・!」


妖狐「お前ら親子達は揃いも揃って――!」


勇者「い、嫌なら良いんだよ?妖狐のお尻に近付くのは失礼だと思うし・・・」


妖狐「時間が勿体ないからさっさと洗いなさい。娘がいない時は勝手に触ってもらって構わないから」


勇者「本当に良いの?嫌じゃない?」


妖狐「尻尾ぐらい好きになさいな・・・。願いを叶えたら貴方との貸し借りは無しにするわよ。構わないのね?」


勇者「うん全然十分!やったー楽しみだなー」


妖狐「勿体ない使い方をするわねぇ・・・何なのよもう・・・」


髪を洗い終えた妖狐が隣に設置されているシャワーを手にして髪を流す。その頃になってようやく妖狐の尾全体にお湯が染み渡った。

妖狐は隣の席からシャンプーボトルを取り勇者に手渡す。

妖狐本人もシャンプーを己の手のひらに出すと、適当な尻尾を掴んで洗い始めた。


妖狐「時間が無いから一本三分よ。できなかったら・・・どうしてくれようかしら」


勇者「!?」




・・・。

・・。

・。




風呂を終えた勇者は妖狐と世間話をしながら廊下を歩く。

しばらくは妖狐の行先を気にはしていなかった。おおかた自室に戻るのか、時間的に考えても食堂にでも行くのが打倒だ。

しかし廊下を右に曲がっても、左に曲がっても、真っ直ぐ進んでも妖狐は勇者の隣を歩いていた。

当然歩けば歩くだけ魔王の部屋に着くまでの分岐が少なくなるが、どれだけ歩いても妖狐は勇者の隣から離れない。

結局二人で魔王の部屋前まで一緒に向かい、改めて勇者が妖狐に問う。


勇者「妖狐もこっち?」


妖狐「雑務があるのよ」


二人で中に入ると既に中にはサキュバスと吸血鬼が待っていた。二人の表情は何処となく硬い。


妖狐「あら待たせたかしら」


勇者「お風呂頂きました」


風呂上がりな妖狐と勇者の有様に吸血鬼が問う。


吸血鬼「えっ・・・勇者と一緒に風呂ですか?」


妖狐「たまたま大浴場で会ったのよ」


勇者「あはは。妖狐が入っているの気付かなくて――」


勇者が台詞を言い終わる前に、サキュバスが尋常ではない速さで勇者の口をつぐませた。見開かれ血走るサキュバスの目。

サキュバスは勇者と目を合わせたまま、何度も何度も首を左右に振る。


サキュバス「妖狐様への口の聞き方には気を付けて勇者・・・お願いだから!」


妖狐「勇者から手を離してやりなさい」


サキュバス「ですが――!」


妖狐「サキュバス」


一言受けサキュバスが急いで勇者を解放してやる。

三人のやりとりを前にして吸血鬼が生唾を飲んだ。


勇者「えっと・・・」


張り詰めた空気を浴びせられ、勇者は訳が分からないまま妖狐に一瞥を送る。妖狐は妖狐で勇者に「今まで通りに」と指示を投げ掛けるが、勇者にはどれが正解か分からない。

戸惑う勇者が答えを探して吸血鬼に目をやるが、吸血鬼は表情を強張らせたまま妖狐の一挙一動に注目を寄せている。

三つ巴のような状態に呆れた妖狐が、魔王の使っていた机に向かい椅子に腰を下ろした。椅子に座った妖狐が手元のベルをリンと鳴らせば、メイドが薄切りレモンの入ったアイスティーを持ち、妖狐の前に置いて出て行く。

グラスにシロップを入れ、ストローを刺し、かき混ぜて三口飲む妖狐。


妖狐「私が彼に敬語を止めるように強要したのよ。以前説明した通り勇者は娘と私の恩人なの。見返りも求めずに助けてくれた彼を殺したりはしないから安心なさいよ」


吸血鬼「・・・正直信用できません」


サキュバス「同じくです」


妖狐「だったらどうしろって言うの。第一私が女子供を殺した事があるわけ?」


サキュバス「散々やりましたよ・・・私と吸血鬼が引くほどじゃないですか」


妖狐「・・・こほん。なら勇者は一応半分が魔物でしょう?ハーフを殺した事が――」


吸血鬼「ハーフは混血扱いしていたじゃないですか・・・むしろ率先して殺していたのをどうして覚えていないんですか?」


妖狐「・・・そう。なるほど確かに信用ならないわね・・・。でもよく考えてみなさいよあなた達。私がヤる気ならば、とうに殺しているわよ?ねぇ違うかしら・・・雑魚共が!」


瞳孔をキュッと閉じた妖狐の目は見開かれ銀髪が逆立つ。

部屋に漲る妖狐の魔力を受け取り真っ先に剣を抜いたのは吸血鬼だった。吸血鬼に呼吸を合わせたサキュバスが勇者の体を引き寄せ、後ろに投げ飛ばし剣を構える。

対峙する二人に手の平を向けた妖狐がニィと犬歯を見せれば、吸血鬼とサキュバスは共に床へと叩きつけられた。


吸血鬼「あが――!?サキュ・・・バス!」


サキュバス「無理・・・!ブレイブなんて使えな――!ぎっ!?」


床に押し付けられ悲鳴を漏らす二人を前にし、即座に立ち上がった勇者が剣を抜いて駆け出す。

抜かれた剣が振り下ろされたのは、床に押し付けられている二人の上にある空間。勇者の剣を得て吸血鬼とサキュバスに掛けられていた魔法が打ち消された。


妖狐「あら私の魔法を無効化するの?大層な剣ね・・・」


勇者「なんてことをするの!二人とも大丈夫ですか!?」


剣を仕舞った勇者が急いで二人に声を掛ける。吸血鬼は剣を床に立てながらも辛うじて「えぇ・・・」と起き上がるが、サキュバスは床に伏せたまま微動だにしない。


勇者「サキュバスさん・・・?」


サキュバス「・・・」


勇者「サキュバスさん大丈夫ですか!?」


勇者が焦りながらサキュバスの肩を揺するが、サキュバスは勇者の手を振り払ってしまう。

意味がわからず戸惑う勇者。意識はあるようだが、サキュバスは両腕を枕にしたまま伏せ続けた。


吸血鬼「ほっといてやりなさい勇者・・・」


勇者「でもどこか怪我したんじゃ――!」


心配する勇者をよそに、次第に聞こえ出したのはサキュバスの嗚咽だった。

小刻みに震える肩。サキュバスの表情こそは見えないが、聞こえるのは間違いなく嗚咽だった。


勇者「えっと・・・」


妖狐「話を続けるわよ。サキュバスもそのままで良いから聞きなさい」


サキュバス「ぁい・・・」


勇者「いやいや・・・えー・・・」


吸血鬼「悔しがっているだけなのよね・・・」


妖狐「勇者はまず魔王に会ってからの全てを聞かせて貰える?何を食べ、何を飲み、いつ寝たか。魔王を抱いた時の体位まで余すこと無くよ」


勇者「・・・体位もですか」


妖狐「体位名が分からないなら、格好だけで良いからサキュバスで実演なさい。サキュバスが起きないなら吸血鬼で構わないから」


指名をされてピクッと反応を示したサキュバスが、恐る恐る腕の間から顔を覗かせ上目で勇者を見た。目が少し腫れている所を見るに本当に泣いていたらしい。

勇者と目が合ったサキュバスだったが、彼女はすぐに顔を隠してしまう。

伏せたまま目元を拭い、肩を震わせて含み笑いを始めるサキュバス。


サキュバス「くふふ」


サキュバスは現金な奴だった。




・・・。

・・。

・。




妖狐「そう・・・。事情は理解できたわ」


吸血鬼「凄い状況だったのね・・・」


サキュバス「勇者ぁ~もっとちゅっちゅしよー?」


勇者「僕消えたいです――」


実践を終え・・・もとい、実践のフリを終えて妖狐が眼鏡を外して机に置く。卓上に広げられた紙には勇者が喋った台詞が一語一句逃さずに書き込まれていた。

ペンを置いた妖狐が眉間をつまみ「ハァ・・・」と溜息をもらす。息を飲んで妖狐の出方を待つ三人。

だが三人の期待とは裏腹に、妖狐の様子ははっきりしない。


妖狐「記憶障害かしら・・・。他要因が考えられるならは意見して頂戴」


サキュバス「・・・考えられません」


吸血鬼「私も同意見です。・・・ですが仮に記憶障害だと問題が深刻になりますね」


妖狐「えぇ・・・」


勇者「そうなんですか?」


妖狐「魔法で頭を可笑しくされるのと、頭が可笑しくなるのは別なのよ。前者は魔法が解ければ元に戻るけれど、後者は戻るのかどうかすら怪しいわ」


勇者「そう・・・なんですか・・・」


妖狐「あと勇者と魔王が使った魔法道具も原因に関係しているかもしれない。ともなると・・・何処から手をつけるか――」


銀髪を掻き上げたまま卓上の紙を睨みつける妖狐。

妖狐の眉間には深い皺が生まれ、小さい欠伸も見てとれた。


妖狐「サキュバス」


サキュバス「ひゃい」


妖狐「貴女、精神操作関係の魔法が使えるじゃない。案は出ないの?」


サキュバス「すみません・・・魔王様の精神力を突破するレベルの魔法なんて使えません」


妖狐「チッ」


サキュバス「ひー」


妖狐「吸血鬼はー・・・」


吸血鬼「私は物理型ですので、魔法関係の話ですと・・・」


妖狐「よねぇ」


考える妖狐が勇者に目をやる。見合ったまま静止する妖狐と勇者。

見合うこと十数秒。勇者が自分に何か案があるのか?と淡い期待を寄せるたが、期待は呆気なく妖狐に打ち消された。


妖狐「勇者も使えないし」


勇者「酷い・・・」


妖狐「使えないと言うよりも使いたくないのよ・・・。あなた魔王の攻撃をしばらく止められる?」


サキュバス「無理無理無理!絶対に無理ですから!」


吸血鬼「無茶を言わないで下さい妖狐様・・・魔王様に触れる前に拡散させられてしまいます」


妖狐「でしょう?」


考え苛立っていた妖狐がしばらくこめかみに指を置き、やはり溜息を吐く。二度目の溜息は一度目のような苛立ちを持った溜息ではなく落胆の色を見せていた。

普段はピンと伸びている耳や尻尾も心なしか垂れているようだ。


勇者「・・・お母さんは今どこにいるんですか?」


妖狐「人も魔物も住まない僻地よ」


新しい紙を机に広げた妖狐がペンを手にして眼鏡を掛けた。


妖狐「今から説明するからきちんと覚えておきなさい勇者。まず聞いての通り魔王の記憶が十有余年分失われているわ」


喋りながら紙の真ん中に描かれるのは、小さくデフォルメされた女の子の絵。

絵本のキャラのように可愛らしい女の子のイラストだが、ゴスロリの服装を見るにどうやら魔王を描いたらしい。

女の子の頭上には「亜成体」「中身は子供」「魔王側近」と次々に情報が加えられ、女の子の足元には「アイスブルー」と記される。


妖狐「まお・・・アイスブルーから見た人物関係はこう」


描かれた魔王の左下、右下各々にやはり小さくデフォルメされた吸血鬼とサキュバスが描かれた。

アイスブルーから二人に矢印が伸ばされ、各々矢印の横には「アイスブルーの部下」と書かれた。

今と変わらないらしい。

続け様にサキュバスの足元には「久遠の悪夢」と書かれ、吸血鬼の足元には「紅い死神」「ブラッドウルフ」「深淵の隙間」と書かれる。更に追加で書こうとする妖狐に吸血鬼が「もう許して下さい・・・」と懇願をした。


妖狐「貴女達、当時の所属は何処だったかしら」


吸血鬼「魔王城第二殺劇部隊長です」


サキュバス「私は魔王城第二・・・第二――」


吸血鬼「遊撃」


サキュバス「第二遊撃部隊長です」


聞いた妖狐が二人の絵上に所属を書く。書き終わった妖狐がハッと思い出し、吸血鬼の絵の下に「悪逆の閃光」と付け加えた。

サキュバスと勇者が吸血鬼に目をやると、吸血鬼は恥ずかしさから両手で顔を覆い耳まで赤くなっていた。


妖狐「えー・・・と・・・」


吸血鬼とサキュバスの絵から双方に向け伸ばされる矢印。

矢印の下には「二人揃うと金血の悪夢らしい」と書かれる。これは勇者が育った街で生まれた物語のため、当時から呼ばれていた訳ではない。


妖狐「魔王の反応を見るにこうよね?」


サキュバス「ですかね・・・。どうよ吸血鬼?」


サキュバスから話を振られた吸血鬼が、顔を覆っていた指の隙間から紙に目をやり「合ってると思います・・・」と返す。

涙目だった。

魔王の上には文字通り四本足で立つ狐の絵が描かれ頭上に「魔王」「私」と記された。


勇者「妖狐が・・・前魔王?」


妖狐「昔の話よ。今は勇者の親が魔王でしょう?」


勇者「え?だって特別クエストの金額は9000万――」


吸血鬼「それはあくまで妖狐様が永久凍山エリアで殺した人間に対して出された報酬なのよ。本来、正体不明の魔物に9000万の金額が付くなんて滅多にある話じゃないわ」


サキュバス「あー・・・その話吸血鬼から聞いた。妖狐様が前魔王だって割れていたら冒険家に討伐なんて任せないよ。周辺国が全部動いて討伐隊が組まれるだろうし・・・ってか金額云々の話じゃないもん」


勇者「・・・前魔王・・・?」


無意識に後ずさる勇者。

二歩下がったあたりで妖狐に気付かれ一瞥貰う。


妖狐「今は所属も地位も無いただの魔物よ。止むを得ず魔王代理をしているだけのね・・・。私はさっさと魔王を戻して娘の相手をしてやりたいから協力しなさい」


勇者「やっぱり僕・・・敬語を使っても良いですか?」


妖狐「却下するわ。目に余るようなら身体に刻み込むから覚悟なさい」


勇者「理不尽な・・・」


勇者と妖狐の会話を聞いて、サキュバスと吸血鬼が顔を合わせる。


サキュバス「えっと・・・妖狐様」


妖狐「妙案?」


サキュバス「いえ、どうして勇者には甘いのかなと思いまして・・・。昔は喋り方一つで魔王パンチをお見舞いしてましたよね」


妖狐「当時の私は魔王よ。王が部下に舐めた口をされたら規律の乱れに繋がるじゃない」


サキュバス「そんなもんですか?」


妖狐「勇者は私の部下ではないわ。何度でも言うけれど私と娘の恩人よ。敬意を払いこそすれ払われる謂れはないじゃない」


勇者「でも妖狐は年上だから・・・」


妖狐「・・・。あと・・・娘が勇者ごっこをする時に私に敬語なんて使わないのよ・・・。今になって憧れの勇者様イメージを変えさせられないでしょう・・・」


妖狐から本音の部分を聞かされ一同から「あー・・・」と諦めにも似た納得の声が漏れる。

つまるところ答えは妖狐娘のためらしい。


妖狐「こんな話はどうでも良いのよ、問題は魔王をどうするかでしょう。サキュバスは新しい精神操作魔法は覚えていないのかしら」


サキュバス「覚えていません。・・・と言うよりも精神操作系は魔王様から使用を止めらていまして――」


妖狐「あらそうなの」


吸血鬼「親と子供、恋人、夫婦、友人同士の殺し合いを側から見て楽しむのは・・・戦いとは言え問題があるので――」


妖狐「殺し合いに倫理を持ち込む必要があるのかしらね・・・。ちなみに二人とも、当然以前よりは強くなっているんでしょうね?」


サキュバス「流石に亜成体の頃よりは・・・。たっ・・・多分ですけど――」


吸血鬼「私も多分・・・ですが――」


妖狐「あ?多分・・・?」


ゆらりと立ち上がった妖狐の圧力を受けて吸血鬼とサキュバスが背筋を張らせる。


吸血鬼「違います妖狐様!ここ数年は戦争らしい戦争なんか無かったから・・・!確かに私もサキュバスも身体は成長しておりますが、実戦の感覚はもう昔ほど持っていません!」


吸血鬼のフォローを聞いて隣にいるサキュバスが何度も頷く。

軽く舌打ちを鳴らして椅子に座り直す妖狐。


妖狐「サキュバスはどの程度魔王が弱れば精神操作を仕掛けられそう?」


サキュバス「・・・正直魔王様が瀕死でも通らないと思います」


妖狐「冗談でしょう?私ですら四割やられたら貴女の魔法は防げないのよ?」


サキュバス「確固たる信念を持っている人には通用しませんからね・・・。ここだけの話ですが、魔王様が寝ている時に精神操作を掛けようとした事があるんですよ。完全に寝ているのに見事に弾かれました」


吸血鬼「あんた・・・」


サキュバス「い、悪戯だよ?」


「なるほどね・・・」と一言納得の声を出し、妖狐が卓上の魔王絵の隣に「サキュバスの精神操作通じず」と書き加える。


妖狐「吸血鬼は・・・正面から魔王と一対一でやりあったらどれだけ生きていられる?」


吸血鬼「今は魔王様も亜成体ですからね・・・魔法支援有り、防戦のみで一時間弱は生きていられます」


妖狐「状況次第では死ねるわね」


吸血鬼「勿論」


勇者「駄目ですよ!駄目に決まってるじゃないですか!」


妖狐「流石に死ねとは言わないけれど一応の確認よ。それに――」


妖狐が目だけをサキュバスに向ける。

しっかりと見開かれたサキュバスの瞳は金色の夜目を灯らせ、妖狐へと確固たる殺意が放たれていた。


妖狐「私も前線を離れているわ。決死の魔王側近とやり合う程の無茶ではないから、安心なさい」


吸血鬼「サキュバスーー」


先ほどと同じように魔王絵の隣に「吸血鬼一時間弱」と書き加える妖狐。


サキュバス「精神操作が使えるみんなで魔王様に魔法を掛けるのはどうでしょうか?」


妖狐「多方面から精神操作なんか受けたら魔王が本当に狂うわよ」


サキュバス「ですよね・・・」


妖狐「万が一成功するとして、詠唱途中で何十人殺されるか分からないじゃない」


サキュバス「ですよねぇ・・・」


ペンを紙に放り投げる妖狐。

本日何度目になるかも分からぬ溜め息を吐いた妖狐が、椅子の背もたれに寄り掛かったまま天井を見上げる。


妖狐「第一部隊の奴らは生きているかしら――」


呟かれた妖狐の言葉に被せるように吸血鬼とサキュバスが二人揃って「死にました」と言う。

見合う妖狐とサキュバスと吸血鬼。

しばらくの沈黙。


吸血鬼「生きていません」


サキュバス「訃報が届きましたから死んだと思いますよ?」


妖狐「嘘おっしゃい。奴らがどこの誰に殺されるのよ」


吸血鬼「仮に生きていても連れて来るのは至難です。私が殺されるかもしれません」


サキュバス「はっきり言って私は嫌いなので連れて来たくありません。死んでいたら向かうだけ時間の無駄ですし」


妖狐「好き嫌いの問題じゃないでしょう?今は魔王を助ける話をしているのよ、貴女達の感情なんて野良犬にでもくれてやりなさい。現状打破に奴らを呼ぶよりも良い作戦があるならば代案を出したらどうかしら。もしかして多くの仲間を犠牲に魔王を助ける気?」


最もな話をされてサキュバスと吸血鬼が懸命に考えた。登場人物の誰がどれだけの実力を持っているかは二人も把握できている。把握した上で最善の答えを導こうと躍起になった。

手を握りしめ額に玉の汗まで浮かべては考える二人だったが、五分もしない内に妖狐に考えるのを止めさせられた。


妖狐「迎えに行ってらっしゃい」


サキュバス「むむむ無理です!本当に無理ですから他の案を考えましょうよ!?」


吸血鬼「あと一日だけ・・・!お願いです妖狐様、一日だけ時間を下さい!」


妖狐「さっさと呼んできなさいな・・・私を魔王代理に選んだのは貴女達二人でしょう。自分達で魔王代理を決めた以上、私の命令に従いなさい。最近の魔王側近に責任感は無いのかしら?」


吸血鬼「っ――!」


サキュバス「ぐぬっ・・・!」


妖狐から冷視されて二人は大きく項垂れた。


吸血鬼「・・・一週間程で戻ります・・・」


サキュバス「十日ぐらいで戻ります・・・逃げたい・・・」


露骨に落胆した二人が項垂れたまま部屋を出て行ってしまう。

すっかり落ち込んでしまった二人を見送ってから勇者が妖狐に聞く。


勇者「二人とも大丈夫かな・・・」


問われた妖狐は両手を伸ばし「んっ」と背を伸ばした。

リンと鳴らされるベルを合図にメイドがやってきて勇者と妖狐の前にアイスティーを置く。


妖狐「どうかしら・・・でも実の子供を殺す親なんか限られていると思うわよ」




・・・。

・・。

・。




魔王城の前で吸血鬼と別れたサキュバスは、数日後にとある屋敷の扉前に立ち尽くしていた。

通常どちらかと言えば楽天的なサキュバスではあるが、俯いたまま立ち尽くすその姿に楽天の文字はなく、絶望の一色を強く表していた。

扉の前に立ったまま一時間が過ぎようとしている。

無駄に過ごした一時間。

サキュバスは扉の前で永遠と「入りたくない、帰りたい、入りたくない、帰りたい」と壊れたレコードのように呟いていた。

状況が状況だったため、やむを得ず妖狐を魔王代理に推薦したが・・・こんな事態になるなら妖狐を推薦するんじゃなかったとすら思う。

でも感情論を抜きに考えれば、この屋敷主から助力を得るのが最良の選択肢なのだ。

だって対峙する相手は亜成体の魔王だ。戦いが起きた時に瞬殺されない者ならどれだけいても良い。

一々整理しなくても分かっている。サキュバス本人にだって理解できている。

が、どうにも感情が無視できない。


サキュバス「あー・・・くそっ!くそー!狐女!」


手で顔を覆ったまま本日三度目の地団駄をするサキュバス。

扉の前にいつまでも留まるサキュバスだったが、サキュバスが触れない内にゆっくりと扉が開かれてしまった。


サキュ母「あらあら・・・そろそろ入ってきたらどう?ママ足疲れちゃったの」


サキュバス「うぉらあ!?」


扉の向こうから恐る恐る顔を覗かせる母の姿を目に映し、サキュバスは反射的に後ろへと飛び跳ねた。

サキュ母と相当の距離を取ったサキュバスが歯を食い縛って対峙する。


サキュバス「なっ、なんで!?」


娘に戦かれるのも何のその、サキュ母は頬に右手を置いて「うふふ。じゃ~ん」と笑いながら左手甲をサキュバスに見せる。

甲?

サキュバスは意味が分からずにいたが、母の左手を見ている内に答えを理解した。


サキュバス「っ――!女狐――!」


サキュ母「暴言吐いたらダメよ~。今妖狐ちゃんは魔王代理なんでしょう~?」


サキュ母の小指に付けられているのは銀色の宝石が乗せられたチャンネルリングだった。考えてみれば母は妖狐が魔王をやっていた頃、妖狐が直接指揮をする第一遊撃部隊長にいた人物だ。チャンネルリングを持っていない筈がない。

仮にチャンネルリングの存在に勘付いた所で、十年以上も前に城を追放された者達が未だに交流しているなんて気付けないが。


サキュ母「うふふ。久しぶりに妖狐ちゃんから連絡が来たと思ったらねぇ、娘が帰ってくるって教えてくれたのよ~。お母さん嬉しくて泣きそうになっちゃった・・・」


サキュ母が満面の笑顔を持ったまま両手の平をポンと合わせる。対峙するサキュバスは変わらず苦虫を噛み潰したような表情を崩さない。


サキュバス「ぐっ・・・!吸血鬼を助けに――!」


母の存在など微塵にも気にせず飛び立とうとするサキュバス。だが母に背を向けたサキュバスは背後から膨大な魔力を感じ背筋を震わせる。

振り返れば金夜目を輝かせたサキュ母が両手の間に魔力の塊を生成させていた。


サキュ母「行かせないわよサキュバスちゃん~」


サキュバス「ぶっ殺すぞアバズレ・・・」


サキュ母「今更急いでも吸血鬼ちゃんはとっくに自宅だってさ~。だってねぇ、吸血鬼母ちゃんから連絡を貰ったから間違いないわ~」


サキュバスは考える。

吸血鬼と交信するためのリングを持ってきたかと。

持ってはいる。

持ってはいるが行方不明の魔王探しをしている最中に使ってしまった。しばらくは使えない。

怒りとジレンマで感情ばかりが先立とうとする。だがサキュバスは感情をひた隠しにするため拳を握り締め、大きく深呼吸をしてから母を見た。


サキュバス「私は先に帰るから。呼ばれたならきちんと来なさいよ」


サキュ母「や~よ~」


余裕たっぷりに「ふふふ」と笑う母。両手で魔力を溜めたまま甘ったるい喋り方をする様を見せられ、サキュバスの理性が切れかけた。

怒りに声も出せないサキュバスの「なぜですか?」を汲み取ったサキュ母が答える。


サキュ母「ママはもう妖狐ちゃんの部下じゃないからね~」


サキュバス「でも妖狐様から話を聞いているんでしょう?」


サキュ母「えぇ聞いてるわ~・・・。魔王ちゃんの頭がくるくるぱ~になっちゃったのよねぇ・・・可哀想」


サキュバス「知ってるなら――!」


なら、で止めたサキュバスが押し黙る。

なら助けてあげてとは言えなかった。

サキュ母はあくまで妖狐の直属であり現魔王の部下ではない。部下云々どころか妖狐と一緒に城を追放した魔物の一人なのだから言えるはずがない。


サキュ母「なら・・・何かしらぁ?妖狐ちゃんに反逆をしておいて都合が悪くなったら助けろなんて・・・いくらサキュバスちゃんでもママにそんな話をしないでしょ~?」


サキュバス「・・・」


サキュ母「あらあら~?」


頭を下げるのが嫌なら帰るか?

ぬけぬけと?おめおめと?

感情を優先させて?

否。

帰れない。


サキュバス「お願いです。力を・・・貸して下さい・・・」


蚊の鳴くような声で俯くサキュバスを前に、サキュ母は両手に溜めていた魔力を収める。

圧倒的優位に立ったサキュ母が笑顔を崩さないまま問い掛けた。


サキュ母「誰にお願いしているのかしら~?きちんとお願いして貰わないとママわかんな~い」


サキュバス「ぎ・・・!まっ・・・ママにご助力をお願いしております・・・!」


サキュ母「叶えたらサキュバスちゃんは何をくれるのかしらぁ?魔王側近なんかやめてママの所に帰ってきてくれる?」


サキュバス「・・・うん」


サキュ母「あとは妖狐ちゃんが魔王に戻れるよう推薦してくれる~?」


サキュバス「うん・・・推薦だけね」


サキュ母「ママの代わりに、この辺り一帯のサキュバス種を収めてくれる~?」


サキュバス「わかったよ」


サキュ母「ママとえっちも――」


サキュバス「死ね」


サキュ母「あら〜・・・。まぁ、えっちはいいわぁ。・・・ちゃんと約束したからね?今度は嘘をついちゃダメよ~?」




・・・。

・・。

・。




前日。

吸血鬼もサキュバスと同じように、自宅の入り口で悩んでいた。

どうする?入るか?と悩んでいたのはサキュバスも吸血鬼も同じ。

だが吸血鬼は地の性格が短期決戦の特徴があり、出たとこ勝負で考えなしに扉を開けてしまう。

力任せに扉を開ければ降り注ぐ数々の「お帰りなさいませお嬢様」。

通路の両脇には数十のメイド達が並び、久しく帰った吸血鬼を出迎える。


吸血鬼「・・・」


メイド達などには目もくれずに廊下を歩み出す吸血鬼。

一寸も動かずに礼をしたまま出迎えるメイドを横目にし、生まれて初めて蝋人形を見た時のような不快感を湧き上がらせる。

歩く。

ただひたすら。

吸血鬼の歩みが止められたのは屋敷に入って数分後だった。屋敷の最奥にある部屋の前に立ち止まった吸血鬼が呼吸を乱れさせ、額に汗を浮かばせる。

扉を開けた先には?部屋の中に入ったら斬りつけられるか?

覚悟を決めた吸血鬼が勢いだけで扉を押し開ける。


吸血鬼「・・・」


吸血鬼母「っ・・・ぃ」


中にいたのは一人の魔物。

女性は椅子に座っていた。口に拭い紙を咥えたまま剣の手入れを行う魔物は吸血鬼母と呼ばれている。

剣とは言っても特殊な加工を施された剣は、通常使われている物とは形が違う。刀身は三日月に似た弧を描き、刃は片面しか無い特殊な形状の剣。

打粉で刀身を叩いていた吸血鬼母が手入れを中断させて打粉を箱に下ろしてしまう。


吸血鬼母「・・・この屋敷は随分警備が甘くなったな」


吸血鬼「・・・」


吸血鬼母「同族のよしみで許してやる。死にたくなければ消えろ」


刀を拭い紙で拭き終えた吸血鬼母が、ここで初めて吸血鬼に一瞥を送る。

張りつめた空気に混じる親の怒気。隠し切れぬ吸血鬼母の怒りは部屋の四隅まで行き渡り、娘の心を掌握しようとする。

行き当たりばったりで踏み込んだ吸血鬼だが、特に今からどうするか等の作戦は考えていない。考えていたら入れなくなるからまずは入った。

対峙したまま睨み合う吸血鬼の親子。

次第に親子の瞳は淡い赤を持ち始める。


吸血鬼「帰る訳にはいかないのよ。素直に帰るなら初めから来てないわ」


吸血鬼母「亡骸で叩き出される方が・・・お前の性に合っているか」


吸血鬼母は刀を鞘に戻し卓上のガラスペンを放り投げた。

魔力も込められていない力任せの攻撃。言い方を容易にすれば子供が石を投げつけるのと同じ攻撃方法でしかない。

投じられたペンは風切音も鳴らさずに吸血鬼の肩を貫く。


吸血鬼「っ――!」


吸血鬼の肩を撃ち抜き終わったペンは勢いを殺すことなく、吸血鬼の背後にあった扉までをも貫通してしまう。

次第に吸血鬼の肩部に赤い染みが生まれ、腕を伝って垂れた血が床に落ちた。


吸血鬼「私だって来たくなかった。あんたの顔なんか二度と見たくなかった!」


吸血鬼母「意見が一致するな・・・。私だって貴様の顔なぞ二度と見たくなどない!」


二本目のガラスペンを掴んで振り上げる吸血鬼母。

撃ち抜かれた肩を庇いもしないまま立つ吸血鬼は母親から瞳を外さない。


吸血鬼母「次は頭だ。必ず殺す」


吸血鬼「待ちなさいよ。私を殺したら魔王城に行ってくれるんでしょうね?どうせ妖狐様から聞いているでしょう?助けてくれないなら死んでも死にきれないわよ私」


吸血鬼母「奴の事情など知ったことか!私は妖狐様に不義理を働いた者に鉄槌を下す!以上も以下もない!」


狙いを吸血鬼の額に定めた吸血鬼母が腕を上げた。

いっそ反撃に転じるか。

今と昔とは違う。真っ向から挑めば純粋に物理型と物理型の鍔迫り合いになるはず。

ましてや成体、人型、物理型同士の戦いだ。簡単に負けるはずがない。

でも考えたのも束の間、吸血鬼は諦めにも似た表情で目を伏せさせる。

考えた。

脳内を撃ち抜かれるのはどんな感触なのかと。

思い出すのはみんなとの思い出。


吸血鬼母「・・・」


吸血鬼「・・・」


吸血鬼母「・・・っ――!」


吸血鬼「・・・早くしてもらえないかしら。こっちだって覚悟を決め――」


伏せていた顔を上げた吸血鬼が言葉を失う。

常に気丈に生き、最前線を立ち振る舞っていた母。

完璧でいて、冷徹でいて、恐れ知らずでどんな敵にも立ち向かう母。

仲間が殺されても表情一つ変えない母。

生死の瀬戸際においても淡々と喋っていた母。

私達に城を追われても振り向きもしなかった母さん。

そんな母さんが泣いていた。


吸血鬼母「やっと――」


吸血鬼「・・・」


吸血鬼母「やっとだ・・・。やっと帰って来てくれた・・・もう二度と会えないと思っていたのに・・・」


振り上げられていた吸血鬼母の手からガラスがこぼれる。床に落ちたガラスは部屋に小さな音を響かせ二つに折れてしまった。

吸血鬼が堪えるために下唇が切れるほど強く噛む。けれど親の親らしい懐かしさを見せられ、吸血鬼の目からも涙がこぼれてしまう。


吸血鬼母「大きくなったんだな・・・母さんよりも大きくなったじゃないか」


もう子供とは呼ばれない年齢になった。

親にみっともなく嗚咽をこぼして泣く姿は見られたくなかった。

でも堪えられない。

必死に拭っても涙は止まらないし、懸命に堪えようとしても嗚咽は止まらない。

どうしていいか分からないまま泣き続ける吸血鬼を前に、吸血鬼母が自分の涙も拭わずに近づく。

母の両手が壊れ物でも扱うように、とても大切な物を持つように吸血鬼の頬を優しく包む。母親から伝えられる温もりのせいで昂ぶる感情が吸血鬼に更なる涙を生ませたが、次に流れる涙は母に拭ってもらえた。


吸血鬼母「お帰り。本当にお帰りなさい」




・・・。

・・。

・。



一方魔王は今日も僻地の守護を任されていた。

妖狐から任務を命じられてから一月近くになっている。妖狐によればこの島に同族の反乱分子が来る・・・との話ではあったが、今日も海は穏やかで空は晴れて澄みわたっていた。


魔王「暇だわー・・・」


配属されてはいるものの、どう言うわけか空を飛ぶ魔物なんて滅多に見ない。仮にいたところでただの通りすがりばかりだ。

今日まで体が訛らないように鍛錬を怠らないでいたが、所詮一人でできる鍛錬など限界がある。

部下の二人は別の任務をやっているらしく、こちらの任務には来なかった。

もうちょっとマシな任務に混ぜろと抗議しようかとも考えたが、妖狐から直々に頭を下げられては断る物も断れない。

口を半開きにさせたまま屋敷の窓から外を見るアイスブルー。仲間達から恐れられるアイスブルーの姿はそこにはなく、ただただ暇を持て余した魔物がぼけっと平和な空を見ていた。

受け売りによれば暇になればなるだけ隙が生まれるらしい。殺そうとしている相手にワザと隙を生ませ、奇襲を仕掛ける者がいるとかいないとか――。

噂の出どころが吸血鬼母なので真相は知らない。


魔王「ふぁ~・・・あふ・・・」


欠伸を従え涙目になったアイスブルーが再び海に目をやる。

聞こえるのは心地よすぎてうざったいぐらいの波音。

眠くなる・・・。


魔王「転職しようかな――」


魔王側近から何に?

事務や会計?

デスクワークをしている自分の姿を想像してみたけれど、想像だけでも失笑してしまう。戦い以外に取り柄の無い私に何ができると言うのか。

いっそ寿退社を目指すか?


魔王「っ――」


考えた矢先脳裏に迸る痛みを前に、魔王が俯いて頭を押さえた。

痛みが治まってから思い出されるのは、自分を好き勝手に犯していた青年の姿。

許されない人間の男。

あいつは絶対に殺してやる。

魔王が勇者への復讐に燃えている時、空を一直線に翔けてくる二つの影を目にした。

退屈な時間はやっと終わりを告げようとしている。魔王は壁に掛けていた大剣を手にし背にマントを羽織ると、ニィと牙を見せて屋敷から出るた。

しかし大剣を背負った魔王が屋敷から出てみると、立っていたのは誰よりも付き合いが長い部下その1と、部下その1の母の姿だった。


魔王「なんだあんた達か・・・」


吸血鬼「なんだとは何ですか。折角貴女に会うために来たんですよ?」


魔王「まぁ来てくれたのはありがたいかも・・・死ぬほど暇だったし、やる事無いなら遊んでよ?」


魔王は喋りながらも吸血鬼の一挙一動を注意深く見ていた。

急激な成長を経て成体になったらしい吸血鬼。この際こいつが成体か亜成体はどちらでも良い。

問題は吸血鬼の目つきだ。

その瞳は戦う者の色。

魔王の勘繰りを気取った吸血鬼母が先に一歩出ては刀を構える。母の後ろに立っていた吸血鬼も一度大きく深呼吸をしてから母と同じように剣を構えた。


魔王「は?あは・・・あはは!本当に遊んでくれるの!?」


魔王から零れた笑いが意識的なのか無意識的なのか。

ひとしきり魔王が笑っていたのも束の間、八重歯を剥き出しにした魔王が眉間に皺を生む。


魔王「あんたらを殺したら理由を聞けないじゃん?先に理由を聞いておいてやるよ」


魔王から問われ吸血鬼と母が顔を見合わせる。


吸血鬼「とっ、特に理由なんて――」


吸血鬼母「目障り以外に答えがあるのかアイスブルー。貴様さえいなくなれば娘が妖狐様の側近になるかもしれん」


吸血鬼「なばっ――!」


吸血鬼母「事実だろう?」


二人の会話を聞かされ魔王の目が座る。上目で睨みつけられ吸血鬼が息を飲まされた。


魔王「反乱分子があんたらだなんて・・・正直がっかりだわ」


大剣を構える魔王を前に吸血鬼母が腰を低く下げて刀の柄を握る。吸血鬼も母に続いた。

対立する両者は剣を構えたまま一寸たりとも動かない。

いよいよ殺し合いが始まり魔王が駆け出そうとする矢先、上空に二つの影が加わった。

両者の頭上に近づいてきたサキュバスとサキュ母だ。


サキュバス「あんたがナンパなんてしてるから始まってるじゃん!バカじゃないの本当にさぁ!良い歳したババアなんだから空気読みなよ!」


サキュ母「あら~サキュバスちゃん・・・魔物に賞味期限は無いのよ~。ママもサキュバスちゃんも若さは変わらないでしょう?んーと・・・今度ババアとか言ったら絶対に許さないからね?絶対だから」


サキュバス「う・・・!」


サキュ母「サキュバスちゃんはママに犯されたい?構ってほしいの?」


サキュバス「し・・・死ね!」


サキュ母「それとも一日中ちゅっちゅされるほうが良い?ママは一向に構わないからね?ほら最後に一回だけごめんなさいのチャンスあげちゃう。ママとっても優しいから~」


サキュバス「っぎ――!ごっ、ごめんなさい!」


サキュ母「許してあげまん~」


サキュバス「下らないんだけど・・・」


サキュバス親子が舞い降りた先は吸血鬼親子の後ろだった。

構図だけで分かる敵対勢力。

当然サキュバス達は各々が剣を構えてアイスブルー迎撃の態勢をとる。


魔王「どうして――」


魔王からすれば先日まで苦楽を共にしてきた部下たちに裏切られた話となる。

魔物世界においても人間世界においても、のし上がるための裏切りなんかいくらだってある。あるが、まさか当事者にさせられるなんて考えてもいなかった。

最も信頼している部下たちに裏切られるなんて――。

吸血鬼親子だけなら最悪どちらかに一矢浴びせてやることができたかもしれない。だがサキュバス親子が加われば話は変わる。

よもや魔王の勝ち目など無い。


サキュバス「その・・・ですね」


サキュ母「無駄な抵抗はよしなさい魔王ちゃん~。大人しくしていれば雲の数を数えている間に終わらせてあげるから~」


サキュバス「ちょっと・・・そんな言い方したら誤解されるでしょ・・・」


サキュ母「抵抗してみる魔王ちゃん~?うふふ。私、一回魔王ちゃんを犯してみたかったのよね~。妖狐ちゃんに聞いても魔王ちゃんが、どんな喘ぎ方をするのか教えてくれないんだもの~」


四人の成体魔物に囲まれ魔王は言葉を失う。

適当に見繕った人型魔物が相手ならば成体が四人いた所でどうということはない。

でも流石に今回は相手が悪すぎる。魔王城で上位十名に入るだろう魔物を相手に立ち振る舞う術を魔王は知らない。

・・・殺される?


魔王「降参するわ。殺りなさいよ」


魔王が大剣から手を離せば、離された剣は刀身を半分近く地面に埋め込ませて止まった。

降伏を受けてサキュバスと吸血鬼が魔王を捕縛しようと近づく。途端ニィと笑みを浮かべる魔王ではあるが、魔王が行動を起こすよりも早く、母親達に睨まれている現実に気付かされる。

動くことは許されない。




・・・。

・・。

・。




魔王が捕縛された当日の内に、彼女はとある部屋で拘束されていた。

動かぬ鉄椅子に座らされての拘束。

両手は椅子の後ろに回されたまま拘束され、足は開かされたまま椅子の両足に括り付けての拘束。鎖の付いた首輪は近くの壁に楔を打ち込まれ、轡、目隠しと、ありとあらゆる捕縛が魔王の身を封じていた。

引き千切ろうにも拘束具は全てが特殊な魔法を施されており、力も魔力も完全に封じられてしまっていた。

拘束をされてかれこれ三時間。

魔王の轡からこぼれた多量の唾液が服の上を滑り落ちて床に染みを作る。

あり余る時間の中、魔王は虚ろに考えていた。

どうして捕縛をされたのか。どうして殺されなかったのか。

簡単な話。

生け捕りされた理由なんて多くないのに認めたくない。

拷問か、愛玩具か――。。


魔王「・・・ふぐっ・・・。うっ・・・」


魔物として生き、妖狐の側近として生きてきた意味は何だったのか。

このまま全てを否定されみっともなく殺される屈辱と情けなさ。信頼していた仲間達から裏切られた衝撃は、心身ともに成熟していない魔王に受け止められるような傷ではなかった。

カツン――。

と、石畳を歩く音が聞こえて魔王が泣き止む。

一定間隔で足音を鳴らしながら近づいてくるのは二人分の足音。

素直に怖いと思った。

怪我をし、切られて、血を流しても今まで怖いなんて思ったことがなかった。誰かに捕まるなんて考えた事がなかったし、ましてや誰かに殺されるとも思わなかった。

でもこうして力を封じられ、心身への陵辱を現実に突き付けられると心底怖い。

ギィと扉が開けられ中に入ってきた者の足音が前で止まる。

きっと私を侵しに来た誰か。

相手の出方を伺い聞き耳を立てる。

部屋には一つ、呼吸音だけが聞こえるだけだ。

お願い。

お願いします。

どうか――。


魔王「ふぉろひて・・・」


素性のわからぬ相手への懇願。

懇願なんかした所で相手は喜ぶだけ。わかってる。知っているし見てきた。

だけど言わずにはいられない。

生け捕りにされた以上の屈辱はもう耐えられない。

魔王が心からの懇願を行うが、返事は相手の行動で返された。


魔王「ひっ――!?」


前にいる誰かによって鷲掴みにされる魔王の胸。

乱暴に魔王の胸を鷲掴みにする手つきに優しさなど垣間見えなかった。遠慮も無い行動に魔王はいよいよ嗚咽を零し始める。


魔王「うっ・・・うぅう・・・!」


魔王が泣き出したのも束の間、突如目隠しが外され視界に色が入った。


妖狐「嘘でしょう?あなた泣いているの?」


暗がりの部屋に立っていたのは妖狐だった。

魔王が現状を把握しようと脳をフル回転させ、瞬きを繰り返しながら妖狐を確認する。初めは幻覚かと思い、次に妖狐が私を殺そうとしたのか?と考えた。

だがあの妖狐が「死ね」といえば死ぬ相手に回りくどいやり方をするとは考えられない。


妖狐「あぁ・・・そう。そうね。こんな感じだったわね貴女は・・・随分変わったのね」


妖狐の指示なのか?何のため?趣向?

考えても分からず魔王が問う。


魔王「・・・ろういうことれふ?」


妖狐「まぁ待ちなさい。ほら轡も外してあげる」


魔王「っ・・・なんの真似ですか魔王様・・・。奴らは貴女の差し金だったんですか?」


妖狐「えぇそうよ。貴女があの四人と殺り合うほど身の程知らずじゃなくて安心したわ」


魔王「私が・・・私がこんな仕打ちを受ける何をしたんですか!?気に入らない話があるなら――!」


魔王が悲鳴にも似た批難を張り上げようとした時、魔王の唇に妖狐の指がそっと乗せられた。

たったそれだけで魔王は静かにさせられる。しかし会話を静止させられたから感情も収まると言う訳ではなく、水色の夜目は妖狐への非難を止めない。


妖狐「念には念を入れたのよ。こうでもしないと感情のままに殺してしまうじゃない?どうせ力で押さえつけないと話も聞かないだろうし」


魔王「・・・誰を殺すんです?」


妖狐「勇者」


魔王「は?」


妖狐「入って頂戴」


妖狐からの合図を受け部屋に入ってきたのは人間の青年だった。

年齢はどれくらいだろうか・・・十代半ばから後半か。

一見同性と見間違うような顔立ちだったが、奴に舐めさせられた辛酸は忘れていない。

青年を見て咄嗟に魔王が飛び掛かろうとするが、拘束を受けている魔王は引き千切るどころか鎖を鳴らすことしか許されはしない。


魔王「きさまー!」


勇者「ひぃ!?」


魔王「妖狐様そいつです!そいつが私を犯し――!」


妖狐「えぇ知っているわ」


魔王「は!?知ってるなら枷を外して下さい!勇者お前もう絶対に殺すからな!外してー!」


妖狐「しーっ」


再度魔王の唇に妖狐の人指し指が乗せられる。

二度も穏やかに黙らされ、魔王が訝しげな表情を妖狐に返せざるをえなかった。

魔王の記憶にいる妖狐はこんな遊び心のある諭し方などしない。煩く喚いていたら「黙れ殺すぞ」と首を掴むような魔物だ。


魔王「妖狐・・・さま?」


妖狐「まぁまぁ落ち着きなさいな」


魔王「・・・はい」


妖狐「今から貴女の体を元に戻すけれど絶対に暴れるんじゃないわよ。良いわね?」


魔王「元って・・・何です」


妖狐「約束は出来る?」


魔王「言っている意味が分かりません。命令したらどうですか?」


妖狐「命令はしないわ。お願いよ」


すなわち暴れるかどうかの選択肢は魔王に託されている。

反故にしたところで裁かれる謂れはない。


魔王「・・・もしかして私、どこか変なんですか?」


総合的に考えた結論だった。

周りの全員がおかしいと考える程魔王とてお気楽能ではない。

魔王の問いを聞いた妖狐は一言「えぇ」と答えるなり、一つのペンデュラムを取り出し魔王に握らせる。

突如放たれる光。

光が収まる頃には成体に戻った魔王が椅子に座らされていた。


魔王「・・・はい?」


妖狐「勇者も」


妖狐から勇者に投げ渡されるネックレス。

勇者がネックレスを受け取り首に巻くとやはり発光が始まる。

光が収まる頃には青年から少年に戻った勇者が立っていた。


魔王「子供・・・?」


妖狐「そうね」


魔王「よっ・・・妖狐様の?」


妖狐「まさか。・・・記憶は戻らない?」


魔王「私は・・・記憶喪失なんですか?」


妖狐「えぇ。みんなが貴女のために動いていたのよ魔王」


魔王「私が魔王――」


混濁する記憶と脳裏に迸る痛み。

おかしいと思わなかった訳じゃない。サキュバスと吸血鬼が二人揃っていきなり成体になっていた時点で気付くはずだった。

言われるがまま信じていたが、亜成体の魔物がいきなり成体になる話なんか聞いたことがないのだから。


魔王「もっと早く教えてくれれば良いじゃないですか・・・」


妖狐「信じないでしょうどうせ。貴女に混乱されて暴れられたら、どれだけ怪我人を生むと思っているのよ。あと今の貴女の前に勇者なんて出したら殺し兼ねないじゃない」


魔王「人間の子供が死んだからどうだって言うんです。妖狐様の口から人間への気遣いが出るとは思いませんでした」


皮肉るように鼻で笑う魔王。

ところが安い挑発をされたところで妖狐が動じる筈もない。


妖狐「昔は生意気な奴だと思った事もあるけれど、改めて見ると可愛いわね貴女。その態度はふて腐れていたのね」


魔王「ふん。・・・私はどれくらい記憶が喪失しているんです」


妖狐「さぁね。十年・・・多くて十五年かしら」


魔王「十五年・・・。うん?十五?」


首を持ち上げる魔王が視線を妖狐から勇者へとずらす。

不安が拭えない有様の子供は、珍しい剣を腕に抱えたままこちらを見ていた。


魔王「きみ・・・私の子供なの?」


勇者「うん・・・」


魔王「ねぇ待ってよ・・・。本当?え?ちょっと意味が・・・だって私はきみに犯されていたよね?」


妖狐「ややこしくなると面倒だから私から説明するわ」


呆れた様子の妖狐が魔王の声を遮って喋り出す。

勇者から聞いた話をまとめて語り出す妖狐の様に、魔王は終始口を開けたまま聞き入っていた。

どうしてこんなことになったのか。

いつしか妖狐の話が終わる頃、魔王は開けっ放しの口から涎を垂らしかけて啜る。


魔王「・・・からかっていませんよね妖狐様?全部嘘で実はお前を殺すとか言われたら大声で泣きますよ」


妖狐「逆に聞くけれど、私の話が嘘だと思うわけ?」


魔王「思いませんけれど・・・」


妖狐「けれど?」


魔王「聞いている話に自己投影できません。割と・・・なんと言うか・・・間抜けの部類じゃないですか・・・」


妖狐「そうね。えぇ・・・確かにね」


次に魔王が勇者を向けた瞳に敵意の色は見られなかった。

決して優しさのような色はないが、苦労の末に勇者は殺されない未来が確立されたのだ。


勇者「お母さん・・・」


魔王「ごめんね思い出せなくて・・・。理由は分かりました。もう勇者に手は出しませんから解放してもらえませんか?この姿勢って結構腕が痛いんですよ」


妖狐「ダメよ」


魔王「はぇー?え?」


妖狐「成体になっても思い出さないならば仕方がないわ。荒治療の開始よ」


勇者「荒治療とか僕、聞いてないんだけど――」


妖狐「話していないもの」


にっと笑う妖狐。

ただしその笑みは魔王にでは無く、どう言う訳か勇者へと向けられていた。

嫌な予感しかせずに勇者が逃げ出そうとするけれど、妖狐は逃げ出す勇者の前に先回りして持っていた剣を引ったくってしまう。


魔王「何を・・・」


魔王の疑問には答えず、妖狐が嫌がる勇者の服を次々と剥ぎ取って行く。

ものの数秒で丸裸にされてしまう勇者。


勇者「待とうよ妖狐!こら待ちなさい妖狐!」


妖狐「逃げたら娘を連れてくるからね。折角慕われているのに・・・あの子の前で醜態を曝されても構わないって言うの?」


勇者「うぐ・・・!」


妖狐「私はアテられそうだから出るわね。頑張ってお母さんを助けてやりなさいな」


妖狐は笑みを浮かべたまま勇者の服や剣を持ち部屋から出て行ってしまった。


勇者「うぅ・・・酷いよ・・・」


魔王「何?何が始まるの?どうして私の治療できみが脱がされるの?」


勇者「逃げようお母さん!」


魔王「どうやって・・・。逃げたいのならコレを外してよ」


言われた勇者が急いで魔王の枷を外そうと試みる。だが封じる云々を抜きに考えても、鉄製の拘束具を非力な子供がどうこうできるハズはない。


魔王「外し方わかる?」


勇者「かっ・・・鍵が無いと開かない・・・?」


魔王「わかった。じゃあゆっくりで良いから一つ試してみて?まずは・・・そう、そこを・・・。そうじゃないよ・・・そこをそうやって――」


逸る勇者と魔王を他所に聞こえ出すのは二つの足音。

カツン、カツンと鳴り出した足音が近づけば近づくだけ勇者の焦りが増す。

聞こえる足音が扉の前で止まった時、魔王は扉先にいるだろう相手を思い切り睨み付けた。しかし扉が開けられてみれば立っていたのは吸血鬼とサキュバスだ。


サキュバス「魔王様もとに戻ってる!」


魔王「あ・・・え?」


吸血鬼「魔王様・・・騙すような真似をして本当に申し訳ございませんでした・・・」


魔王「私は・・・私は二人に捨てられた訳じゃないんだよね?」


吸血鬼「当然ですよ!」


サキュバス「当たり前じゃないですか!」


嘘偽り無い二人の部下からの台詞を聞かされ、魔王はほっと胸を撫で下ろす。

安堵した魔王ではあるが、会話中も必死に拘束具を外そうとしている勇者を不憫に思って吸血鬼とサキュバスに聞いてやった。


魔王「二人とも・・・妖狐様が私の荒治療をするって言ってたんだけど知ってる?」


吸血鬼「はい・・・まぁ・・・一応内容を聞いてはいるのですが、魔王様に言うなと言われておりまして・・・。ところで勇者?」


勇者「はひぃ!?待ちましょうよ二人とも!お母さんの前でコトに及ぶなんて――!」


吸血鬼「コト・・・?コトなんかどうでも良いのよ勇者。私は腕輪を誰に付けられたのか教えてほしいだけよ勇者。サキュバスは教えてくれないけれど・・・勇者は教えてくれるわね?」


吸血鬼の瞳が淡い赤を持ち出した時、勇者はハッと自身の腕輪を思い出す。

手首に輝くは隷属の証。

睨まれ焦った勇者がサキュバスに「助けて」と視線を送るが、サキュバスは明後日の方向を向いていた。


吸血鬼「勇者はとってもモテるのねぇ・・・そりゃあそうよねぇ、人型でもないアルラウネにも気をやるくらい優しいものねぇ勇者?」


勇者「誤解ですよ吸血鬼さんアレは――」


吸血鬼「誤解?そう・・・誤解してごめんなさい。誤解なら勇者が初めてをした相手は魔王様なのね」


勇者「え!?は、は、い、いえ――」


吸血鬼「どっちなのかしら。怒らないから正直に言って頂戴」


怒らないからと言われながらも、にじみ出ている吸血鬼からの怒り。

相も変わらずサキュバスは明後日の方向を見ているため頼れそうにない。

本当に怒らない?

吸血鬼を信じたい。信じたいが勇者の勘が「正直に言うな」と警告を鳴らす。


勇者「え、え、と・・・ですね」


でも嘘をつきたくはない。

吸血鬼が真剣な眼差しを持っているからこそ真剣に答えたい所。


勇者「本当に怒りませんか・・・?」


吸血鬼「えぇ。約束するわ」


勇者「・・・リリスさんと・・・その・・・です」


吸血鬼「リリス・・・?リリスって何処のリリスかしら?」


問われ勇者は答えてしまう。居場所などを喋っている途中から、サキュバスが気まずそうに勇者を見ていた。

気まずそうな表情をしながらも、どういう訳か準備運動を行いだすサキュバス。

勇者がどういった経緯でリリスから襲われたかを素直に答えると、聞き終えた吸血鬼が表情無くとサキュバスに頭を向ける。


吸血鬼「・・・」


サキュバス「・・・」


吸血鬼「知っていたのね?」


サキュバス「・・・えへ」


吸血鬼「知っていたのねサキュバス?」


サキュバス「・・・知ってた」


吸血鬼「サキュバスー!」


サキュバスが全力で逃げて行く。

吸血鬼もサキュバスを捕まえんがために一瞬で部屋から出ていってしまった。

予想外の展開に翻弄され部屋に残された二人がしばらく言葉を失う。


魔王「・・・あれは?」


勇者「えっと・・・何だろう」


二人が部屋を出て行ってしまった数分後、再び足音が聞こえた。

次に聞こえる足音は軽快な足取りを鳴らしていた。

タタン、タタンと足音が近づき部屋の前で立ち止まる。勇者と魔王が誰が来たのかと再び入口に注視すると、暗がりに恐る恐るといった様子の金夜目が現れた。

もう吸血鬼を振り切ったのか?と思いはしたが、親子の予想に反して夜目の持ち主が楽しそうに姿を現す。


サキュ母「あらあら~」


勇者「サキュ母さん・・・?」


サキュ母「うふふ。二人とも元に戻れたのね~。勇者ちゃんは大きくても小さくても可愛いわぁ~」


魔王「・・・」


両手を合わせ、お願いのポーズのまま部屋へと入ってくるサキュ母。

常に持ち合わせている温和な空気と間延びした喋り方、垂れた目つきも相まってか、勇者は一瞬にして警戒を解かされてしまう。


勇者「・・・うわ!?はは、裸ですいません!」


警戒を解かれてしまったからこそ、自分が裸でいる現状を思い出させられる。勇者は己の恰好と向き合うと、恥ずかしさから両手で前を隠してしゃがみこんでしまった。


魔王「逃げて勇者」


勇者「へ?」


サキュ母「逃げられるかしら~?」


笑顔を崩さないままのサキュ母。

対称に魔王は拳を強く握り、力任せに枷を引き千切ろうとする。束縛を絶とうとする魔王ではあったが、何度やっても鎖は音を奏でるだけでしかない。

足掻く魔王に助言をするでもなく笑顔を保たせていたサキュ母。

魔王が額に玉の汗を浮かばせる程に鎖音を奏でるが、どれだけ足掻いた所で全てが労力にしかならない。


魔王「ぐっ――!」


サキュ母「あらら~?演奏はおしまい~?」


魔王「はぁ・・・!はぁ・・・!」


サキュ母「うふふ。にしてもこの部屋凄い匂いねぇ。とっても濃い・・・たまらないわ~」


魔王「私はこの匂い嫌いだけどね。あんたと同じくらい嫌いだわ」


サキュ母「酷いわ魔王ちゃん〜・・・苛めちゃうわよ~?」


動けない魔王に歩み寄ったサキュ母がでこぴんを放つ。なんら細工の施されていないただのでこぴんではあったが、魔王は甘んじて受け入れる事しかできない。

露骨な挑発を食らって魔王の額に青筋が浮き出た。


魔王「目障りだから消えろ」


サキュ母「んもう・・・本当に酷いわねぇ魔王ちゃん。せっかく吸血鬼ちゃんとサキュバスちゃんが出て行ったから――」


喋っている途中、サキュ母の瞳が勇者を捕える。

小さく開かれるサキュ母の口元。

細められる目元には慈愛が満ちていた。


サキュ母「魔王ちゃんの前で息子を犯してあげようと思ったのに――」


魔王「さっさと逃げなさい勇者!」


警戒を解いていたせいか勇者の反応が遅れた。

勇者の頭に軽く乗せられるサキュ母の手。子を撫でる母のように優しく触れられたサキュ母の手が頭を一度だけ撫でる。


サキュ母「テンプテーション」


勇者「あ・・・あ」


サキュ母の手の平が淡く光れば勇者は魔法に囚われる。

途端糸の切れた人形のように項垂れ座る勇者。数秒して首を上げた勇者は虚ろな瞳でサキュ母を見上げた。

立ち上がった勇者の頭をサキュ母が尚も愛おしげに撫でてやる。


勇者「おかー・・・さん・・・?」


母を求めて呼ぶ勇者。

勇者の声が与えられた相手は拘束された魔王ではなく、自由を謳歌するサキュ母だった。


サキュ母「どうしたのかしら勇者ちゃん~?」


勇者「お母・・・さん・・・」


魔王の記憶に勇者との素敵な思い出なんて存在しない。妖狐からは現状を教えられただけでしかなく、母親の自覚はおろか思いやりすらある筈もない。

なのに魅入られてしまった子供を前にし魔王の頭に痛みが走る。


サキュ母「どう料理してあげようかしらネェ~」


魔王「はっ・・・好きすれば?」


サキュ母「素っ気ないわ~・・・そんな反応されたら、魔王ちゃん苛めにならないじゃない。困ったわねぇ~」


魔王「お生憎。そいつが息子だって聞いたばっかりだからね」


サキュ母「そうよねぇ・・・。でも言われてみれば当然よねぇ・・・。魔王ちゃんくるくるパーだから仕方ないわね~・・・。じゃあじゃあ――」


「勇者ちゃんを貰っても良いかしら?」と言われた魔王が「え?」と返す。

一瞬何を問われたのか理解できなかった。

何とかこいつから勇者を逃がしてやろうと考えていたのに、枝分かれしていた思案は強制的にリセットさせられる。


サキュ母「妖狐ちゃんには私からきちんと言っておくから平気よ~?ね?幸いサキュバスちゃんも家に戻ってくる予定だし~・・・魔王ちゃんのお蔭でみんなが幸せになるわね~」


魔王「は・・・?意味が分かんない」


サキュ母「勇者ちゃんだって子供なんだから、きっとママが恋しいだろうし~・・・ねぇ勇者ちゃん~?」


勇者「おか――」


勇者の唇にサキュ母の唇が重ねられた。

遮られる勇者の甘え声。

淫猥な音を立てて口内を舐め回された勇者がサキュ母から諭すように咎められる。


サキュ母「ママ、でしょう勇者ちゃん~」


勇者「ごめんなさい・・・ママ」


ガシャン、と今まで鳴らされた鎖音の中では最も激しい音が部屋に響く。

サキュ母が魔王に目をやれば、髪を逆立たせたアイスブルーが隠す術なく怒りを放つ。


魔王「不快だから余所でやれ!殺すぞ!」


サキュ母「あらあらごめんなさい魔王ちゃん~。他の部屋は空いていないらしくて~。すぐに終わらせるわぁ。私もアテられているから我慢できないの~。うふふ」


魔王「ぐ・・・!ぎ――!」


サキュ母「勇者ちゃんとサキュバスちゃんが結婚した場合、私はどうなるのかしら~?お母さん?義理のお母さん?サキュバスちゃんとの関係は姉弟になるからぁ・・・えっちしたら近親相姦~?」


勇者「ママー・・・」


サキュ母「どうしたの勇者ちゃん?お腹すいたのかな~?」


勇者の頭を一撫でしてから、サキュ母が服を脱いで胸をはだけさせる。

大きくありながらも重力に逆らい上向きに構える二つの双丘。

いくら成体まで成長すれば年齢的な衰えが無い魔物とは言え、サキュ母の双丘に付く二つの桃色は、到底子を持つ親とは思えぬほどに鮮やかな桜色を見せている。

勇者が躊躇いなく桜色を口に含むと、母はまるで赤子をあやすように勇者の後頭部を撫でてミルクを与えてやった。


サキュ母「うふふ。くすぐったいわぁ・・・。んっ・・・!もっと強く吸ってもいいのよ勇者ちゃんーー」


魔王「・・・ぎ・・・!」


魔王は本人にすら説明できない苛立ちに吞まれ、本能のままサキュ母へと飛び掛かる。無論感情で動こうと本能で動こうと鎖が解かれるハズも無い。

繋がれた首輪に首を絞められたせいで魔王が意識を失いかけた。


魔王「やめろ・・・!やめろ!」


サキュ母「あら~どうして~?魔王ちゃんは勇者ちゃんなんかいらないんでしょう~?」


魔王「わかんない!分かんないけれど――!」


サキュ母「そうよねぇ分からないのね・・・我が子を忘れたお馬鹿さん。貴女にとっての勇者ちゃんなんか、思い出せない程度の存在なのよ。んぅ・・・あら・・・あらあら勇者ちゃん~」


サキュ母がわざとらしい演技を用いて、母乳を飲む勇者の下腹部へと目をやる。


サキュ母「んまぁ勇者ちゃんったら~!」


勇者「ふぁ・・・」


サキュ母「ママのおっぱいを飲みながら、こ~んなに大きくさせて・・・いけない子~」


さも楽しげに勇者の起立したモノを優しく撫でるサキュ母。

サキュ母にモノを軽く撫でられ、先端を擦られただけで勇者はいとも簡単に体液を吹き出させてしまった。


サキュ母「残さずぴゅっぴゅしましょうね~」


ぐりぐりと先端の刺激を受け喘ぐ勇者。

喘いだせいで飲んでいた母乳が口から零れるが、尚も勇者は母乳を求めて吸い付く。

ひとしきり大量の射精を終えさせられると、部屋には柑橘物の匂いに混じって栗の花にも似た匂いが巡った。


サキュ母「いっぱい出したのね~・・・美味しそう・・・んっ」


サキュ母が手中に吐き出された勇者の体液を零さないよう慎重に口へと運ぶ。

初めは手中の体液を啜り、次に手のひらに吸い付き、最後に手の平を舐めるサキュ母。

指の隙間に残った体液まで一滴残らず口内に含んだサキュ母が勝ち誇ったように魔王へ視線を送る。


サキュ母「ん~。んふふ」


口の中で何度も何度も勇者の体液を転がし、味わい、噛み潰したサキュ母が魔王を見たまま口を開けた。唾液と混ざり合った勇者の体液をわざと魔王に見せつけ、やはりわざとらしく喉を鳴らして飲み込む。


サキュ母「ん~!とっても美味しい!勇者ちゃんみたいな美味しい物がうちの子になってくれるなんて・・・こんなに幸せで良いのかしら~」


魔王「ふざけるなよ・・・!どれだけの人間を壊したら気が済むのよ!?」


サキュ母「失礼ねぇ魔王ちゃんったら・・・。コレは壊さないわよ~」


うふふと笑む魔物。

尚も暴れ続ける魔王。

魔王の手首、足首に枷が食い込み赤く腫れてゆく。


サキュ母「さっ、そろそろご飯はおしまいよ勇者ちゃん~」


勇者「ふぁ――」


サキュ母「次はママを気持ちよくさせてくれるかしらぁ~?」


勇者「うん。僕・・・頑張るね」


サキュ母「うふふ。お願いね~」


あくまでお願い。

サキュ母のお願いをされた勇者が嬉々とし、長めのスカートを持ち上げた。するとサキュ母の下腹部には勇者のモノとは比べ物にならないモノがすでに起立しており、先端からは透明な粘液が糸を引いて床に垂れた。


魔王「やめろ・・・!」


サキュ母「さぁ舐めて勇者ちゃん~」


魔王「やめろやめろやめろ!」


魔王の懇願なんて勇者には聞こえない。

勇者がお願いされるがままにママのモノを両手で掴み、手始めに先端を舐めてやる。


サキュ母「あはぁ~。ちっちゃい舌きもちい~・・・!」


勇者「ママ気持ちいい?」


サキュ母「えぇとっても~。今度は口に含んでみましょうか勇者ちゃん~?」


勇者「うん!」


サキュ母は一度勇者に舐めさせるのをやめ、血管が浮き出るほど膨らみきったモノを勇者の口内へと突き入れる。


勇者「んぶ!?」


サキュ母「あー・・・気持ち良いよ勇者ちゃん~。顎が外れちゃっても、きちんとママが治してあげるから我慢しましょうね~」


呼吸を許されず、返答すら許されない。

勇者は呼吸に制限を掛けられながらも、幸せそうにサキュ母を見上げて頷く。

初めは遠慮がちに勇者の口内を蹂躙していたサキュ母だったが、彼女はいつしか自制するのを忘れてしまった。

一度快楽への封を切ってしまったせいか、サキュ母は勇者の事など気にもせず何度も何度も身勝手に腰を打ちつけた。


サキュ母「あー・・・勇者ちゃん・・・勇者ちゃん――!」


勇者「んっ、ぶっ・・・ごぼっ!?」


そうして勇者の口内だけではなく、咽頭までをも犯し始めるサキュ母。

常軌を逸している光景に魔王の脳裏にドス黒い感情が芽吹き始めた。

勇者が涙を流しながら自分を貪る母を見上げて嬉しそうに笑う。

だが優しい子供の気遣いなど微塵にも気にせず快楽を貪る魔物。

息継ぎすらも許されない勇者が失神しかけて失禁してしまうが、やはり腰は止められない。


サキュ母「出すわよ勇者ちゃん~。きちんと飲みなさいね~?」


勇者「んんっ!?」


サキュ母「あは!」


甲高い声と共にサキュ母のモノから体液が吐き出された。勇者が自主的に噴き出る体液を飲む前に、サキュ母に後頭を押さえつけられてしまう。

声帯付近までサキュ母のモノが付きこまれたおかげで、噴き出された体液は勇者の食道から胃へと直送される。


勇者「がぼっ――!?」


息苦しさで胃に流し込まれた体液が僅かに吐き戻される。

しかし体液を吐き戻そうと嘔吐いても喉が塞がれているため、結果として白濁液は勇者の鼻から垂れるはめになった。

幾度も腰を往復させながら勇者の喉を犯すサキュ母。

しばらくモノを往復させて射精を終えたサキュ母は、満足げに勇者の頭を手放してようやく勇者の喉からソレを引き抜いてやる。


サキュ母「うふふ。とっても上手よ勇者ちゃん」


勇者「げほげほっ・・・んっ。はぁはぁ・・・気持ちよくなってくれた?」


サキュ母「えぇとーっても気持ち良い喉だったわぁ。やっぱり子供の喉は狭くて良いわね~」


勇者「嬉しい・・・」


サキュ母「でもね勇者ちゃん~・・・終わったらきちんとお掃除をしないと、でしょう~?」


再び勇者の眼前に付きだされるサキュ母のモノ。

一度出したお陰か先程までの硬さはないが、一向に萎える気配はなく既に上を向いている。


勇者「ごめんなさいママ・・・嫌いにならないで・・・」


サキュ母「どうしようかしら~・・・ママ悪い子は嫌いなの~」


勇者「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・」


目一杯の涙を溜めながら母に懇願する勇者。

勇者はサキュ母に許しを請いながらも、母が願う通り汚れたモノに舌を這わせて掃除を始める。ただ舐めるだけではなく、きちんと汚れを残さないように。

下から舐め上げ、みぞに舌を這わせ、先端に吸い付き、いつでも母が射精できるよう気持ちよくーー。


魔王「あ、あんた・・・サ・・・。ネェ・・・これ以上勇者に何かしたら・・・本気で殺す」


サキュ母「まったく五月蠅い外野ねぇ~まったく~。勇者ちゃんママに許してほしかったらお尻をこっちに向けなさい~?」


魔王「こっんの――!妖狐様にそこまでやれとは言われていないでしょう!?」


勇者「お母さん・・・僕でたくさん気持ちよくなってね?」


魔王「勇者!目を覚まして勇者!」


四つん這いになってサキュ母へと腰を突き上げる勇者。


サキュ母「うふふ。こっちも気持ちよさそうねぇ・・・何回出せるかしらぁ。広がりっぱなしになっても、きちんとママが飼ってあげるから安心してね勇者ちゃん~」


サキュ母が勇者本人の唾液に塗れたモノを勇者の穴にあてがえる。前戯も遠慮もなく挿入されようとするモノ。

気持ち良くなるためだけにサキュ母の腰が僅かに突きこまれようとした時、突如部屋に甲高い金属音が鳴る。


バキン。


サキュ母「・・・バキン?」


音に反応してサキュ母が魔王に目をやると、魔王を拘束していたはずの腕枷がいとも簡単に破壊されている。魔王が力任せに引き千切ったお蔭で破片の一部が鉄の弾丸となり壁にめり込んでいた。

終始笑んでいたサキュ母から初めて笑顔が消える。

最悪の光景を前に見開かれるサキュ母の目。


魔王「うちの子にー・・・!」


腕を解放された魔王の手が首輪の鎖を掴む。

これまた力任せに鎖が引き千切られ、千切れた鎖の一部破片がサキュ母の頬を掠って血を流させる。


魔王「手をー・・・!」


同じ要領で足枷が引き千切られる。


魔王「出すなー!」


サキュ母「まずいわ~!」


いかなる魔物も拘束するように作られた拘束具の全てが、魔王の馬鹿げた腕力だけで無効化されてしまった。

椅子から立ち上がった魔王が首を左右に鳴らし、サキュ母に凍てつく夜目を送る。


魔王「おのれサキュ母!貴様だけは絶対に許さん!私が魔物の王たる所以を見せてやるからな!」


サキュ母「もっ・・・モンスターペアレント~?」


足を床にめりこませ駆け出そうとする魔王。

サキュ母は迅速に指を鳴らして勇者を正気にさせると素早く逃げ出した。


サキュ母「理屈が通用しないから物理型は嫌いよ~!」


石片を巻き散らして駆けだす魔王。

追随を許さぬ亜音速から差し伸ばされた手がサキュ母の後ろ襟を掴もうとしたが、サキュ母が捕まる寸前、正気を取り戻した勇者が咳込んだ。


勇者「げほげほ。うぇ・・・苦ぁ」


正気に戻った勇者に気を取られ魔王が振り向く。またも石床を巻き上げながら立ち止まった魔王は急いで勇者の元へと駆け寄った。


魔王「勇者!」


勇者「お、お母さん・・・?口の中が凄く変な味・・・」


魔王「ぺっしなさいぺっ」


勇者「部屋の中でじゃペッてできないよ・・・」


魔王「じゃあ・・・サキュ母を殺す前にお風呂行こうか?孕んじゃうから」


勇者「は、孕む?冗談だよね?んと・・・あれ・・・?お母さん?アイスブルーさん?」


壁に掛けられていたマントを取って勇者に巻いてやった魔王が、勇者と目の高さを合わせたまま頭を撫でる。

魔王は勇者を抱っこするなり額に口をつけて言った。


魔王「どっちもお母さんだよ。ただいま勇者」


勇者「うん・・・お帰りなさいお母さん」


魔王「色々積もる話もしなくちゃいけないけれど・・・まずはお風呂に行きましょうか」


言うが早いか、魔王は勇者を抱っこして持ち上げる。


勇者「じ、自分で歩けるよ!」


魔王「いいからいいからー」


ころころと楽しそうに笑う魔王。

魔王に連れられて、貸し切り状態の大浴場へと向かう。

抱っこされているせいか廊下ですれ違う魔物たちに注目されたが、すれ違う皆が魔王と同じように穏やかな微笑みを見せてくれた。


魔王「お母さんも一緒に入っちゃおうかなー」


勇者「えー?」


魔王「いや?」


勇者「い、嫌じゃないけど恥ずかしいし・・・」


魔王「男の子が細かいことを気にしないの」


いたれりつくせりで大浴場へ連れられた勇者の脳裏に一抹の不安がよぎる。

自分と同年齢の男の子達はお母さんと一緒に風呂に入ったりするのだろうか?と。

至極当然の疑問だった。

だが考えようとする勇者なんてお構いなしに、魔王が勇者の体を覆っていたマントを取ってしまう。答えを出すよりも前に気恥ずかしさに彩られてしまった。


魔王「あ・・・やっぱり勇者だけで入ってこれるかな?」


勇者「え?」


魔王「先に妖狐様の所に行かないと、怒られちゃうかもしれないからーー」


伏せ目で言う魔王が嘘をついている事くらい子供の勇者でも理解できていた。

魔王が勇者の裸を目にした矢先の出来事である。別に恥かしがっているわけではないらしいが――。

母に見せられた、少し寂しそうな表情。

理由がわからない。

少なくとも自分が悪い筈はないのに、勇者はどこか罪悪感のようなものを感じてしまう。




・・・。

・・。

・。




脱衣所から出ていこうとする魔王の手を勇者が掴む。


勇者「行かないでお母さん」


魔王「えっ――」


勇者「僕、お母さんの背中洗ってあげるよ!」


魔王「でも・・・」


勇者「ほらほら!お母さんも脱ぐの!」


魔王「こ、こら勇者!」


戸惑う魔王なんてお構いなしに、勇者が魔王の服を脱がす。

初めは僅かに抵抗を見せた魔王ではあったがそれも刹那。一緒に風呂に入る気でいる息子を無理に止めることなんてできやしない。

軽い抵抗も空しく悠々と上半身を剥かれてしまった。


勇者「おかー・・・さん・・・」


魔王「あはは・・・ごめんね。気持ち悪いでしょう」


眼前の光景に勇者の台詞が止まる。

脱がした魔王の背中には多くの刺創が刻み込まれていた。

呆気に取られながらも勇者が魔王の衣類を全て脱がす。

背中を中心に刻み込まれている刺創の数々。傷のほとんどがナイフで刺されたような一文字傷だった。

数はざっと数えるだけでも数十。下手をすれば百近くもあるだろう。

模様にすら見える異質な光景に、勇者は言葉を詰まらせてしまった。


勇者「こんな・・・いつ?だってこの前見た時は――!」


魔王「あれは・・・この傷が付けられる前まで身体年齢が戻っていたからだよ。あーあ・・・折角消えたと思っていたのに、こんな気持ち悪い体勇者に見せられないね」


勇者に心配をかけさせまいとおどけて見せる魔王。ニッと笑って勇者を安心させようとする魔王ではあったが、作られた笑みはやはり違和感を消しきれない。

正面には刺創がほとんど見られなかった。傷があるのは後ろばかり。

なぜ?

どうして?

勇者が妖狐と風呂に入った時の事を思い出すが、妖狐は刺創なんか数える程度しか持っていなかった。


魔王「お母さんやっぱり先に出ているね。きちんと洗い流しておいで」


逃げようとする魔王の腕を再び勇者が捕まえる。

勇者の行動は余計な詮索でしかない。だが、だから母を放っておくのが正しいとは思えなかった。


魔王「勇者・・・」


今度こそ逃がすまいと力強く手首を掴む勇者の行動に、魔王が困ったような顔を見せる。

振り払う事もできず、引き剥がすこともできずにいた魔王はすぐに脱衣所から出るのを諦めた。

一本線の古傷。

多く刻み込まれた古傷。

傷の状態から推測すると、全て同時期に付けられた傷だろう。

剣で刺された刺創ともナイフで切られた刺創とも違う傷。


勇者「矢・・・だよね?」


魔王「・・・」


気付いた勇者が魔王の腕と足を見る。

魔王の両腕と片足には矢で射られた刺創よりも遥かに大きい傷痕が残されていた。


勇者「お母さんこれ――」


魔王「・・・」


勇者「僕を守ってくれた時の傷・・・?」


魔王「この傷はお母さんの誇りなんだ・・・。でも汚いでしょう?」


勇者「なんで・・・どうしてそんなこと言うの?」


魔王を責めるでもなく、詰問するでもなく、勇者が母を見上げたまま涙を零す。

堪える時間すらなく流れ出した勇者の瞳に見られ、魔王も子と同じように涙を零した。


勇者「汚くなんてない・・・!お母さんはどこも汚くなんかないよ!」


魔王「うん・・・。うん・・・。そっか・・・。ごめん・・・ごめんね勇者。そうだよね」


勇者「お母さん・・・僕を守ってくれてありがとうございました」


魔王「うん・・・。生まれてきてくれてありがとう・・・またお母さんって呼んでくれて、本当にありがとう」


勇者が背伸びをして、ポロポロと涙を流す母の頬を指で拭ってやる。

母は嗚咽を零しながらも、愛しい我が子を抱きしめた。




・・・。

・・。

・。




母が子の頭を洗ってやり、子が母の背中を洗ってやり。

一緒に湯に浸かっては数を数えたり、タオルでウサギを作ったり。

大抵どの家庭でも行われているような団らんが今日初めて行われた。

慣れている親にとっては面倒だとすら感じるかもしれない他愛ない時間。

当たり前のひと時でしかないが、魔王からすると「もう死んでも構わない」と思えるだけに幸せなひと時だった。

団らんが終わって魔王と勇者が風呂から出ると、脱衣所には呼んでいないはずのメイドが二人分の衣類を持って出迎えてくれる。


メイド「お久しぶりです魔王様」


魔王「ありがとう。貴女達にも迷惑をかけたわね」


メイド「服はこちらに置いておきますね。私は先に戻り飲み物の用意をしてきます」


魔王「すぐに行くわ。所でー・・・サキュ母はどこにいるか知っている?」


あくまで笑顔を崩さない魔王の問いに、メイドが失笑しながら答えた。


メイド「サキュ母様でしたら妖狐様の後ろにひっ付いています。魔王様に警戒しているようでしたけれど・・・何かありましたか?」


魔王「少し殺そうと思ってるだけよ。他のみんなは?」


メイド「部屋で魔王様をお待ちです」


魔王「じゃあ皆にすぐ向かうって言っておいて」


メイド「畏まりました」


脱衣所から出て行くメイドを見送り魔王が自身の髪を手櫛でかき上げた。

髪の根本から先まで指が通されると、それだけで濡れていた髪が全て乾かされる。同じ要領で勇者の髪を乾かした魔王が勇者の頭を撫でながら言った。


魔王「お母さんきっと怒られるだろうから・・・ピンチになったら勇者が守ってくれる?」


勇者「うん!」




・・・。

・・。

・。




部屋に戻ると椅子に座っていた妖狐が溜息を一つ「やっと終わった・・・」と表情に出し立ち上がった。

魔王は魔王で小さく舌を出し妖狐に「ごめんなさい妖狐様」と表情だけで返事を返す。

妖狐と入れ替わりで魔王が椅子に座る。

座った魔王の左右に吸血鬼とサキュバスが立つ。

妖狐が魔王と向かい合う位置に立ちなおすと、側近双方の母親達は妖狐の両隣に立った。


魔王「ふ・・・。大変ご迷惑お掛けしました!」


開口一番、椅子から立った魔王が思い切り頭を下げた。

魔王に習って両隣にいる側近達までもが頭を下げる。


妖狐「本当にえらい迷惑だったわ。茶番に付き合わされた身にもなってみなさいよ」


魔王「返す言葉もないです!でも勇者をダシにしたのは酷いと思います!」


妖狐「うるさいわよ間抜け。間抜けに文句言われる筋合い無いわ。死ね」


魔王「ぐ・・・!」


妖狐「原因は結局なんだったのよ?」


魔王「原因・・・?え?さ・・・さぁ?」


妖狐「は?」


一歩前に出た妖狐が魔王の頬にアイアンクローを繰り出した。

思い切り突き出される魔王の唇と間抜けな表情。

到底魔王と呼ばれる者の面構えではないだろう。


妖狐「あんた・・・今度こそ死ぬ?」


魔王「ひゃっへほんらほほひわへへほ!」


妖狐「あ?なんだって?」


妖狐が魔王を手放す。


魔王「だってそんなこといわれても!」


魔王に喋らせた妖狐が再び魔王の頬を捕まえた。

虐められる魔王を見せられ、いたたまれなくなった側近達がフォローに入ろうとするが――。


吸血鬼「ま、まぁその辺りにしておきませんか妖狐様」


サキュバス「結局無事に戻ったんですし・・・ね?ここはひとつどうか穏便に――」


ヘラヘラと笑いながら妖狐を宥める側近二人であったが、射られた白羽の矢が二人を襲う。

妖狐は魔王の頬から手を放すと吸血鬼とサキュバスを交互に睨み付けた。


妖狐「正座」


吸血鬼「え?」


サキュバス「せ、正座?」


妖狐「正座!」


妖狐に怒鳴られ側近が飛び降りる勢いで床に正座させられる。両手を膝に乗せて背筋を伸ばす二人の頭を妖狐の両手が鷲掴みにした。


妖狐「あんた達は天下の魔王様側近よねぇ?側近が揃いも揃ってこいつを甘やかすから面倒臭い羽目になっているんじゃないの?違うのカシラ?ねぇ?」


妖狐に反抗するとか抵抗するとかの選択肢は最初から存在しない。首を引き抜かんと掴む妖狐を前に、吸血鬼とサキュバスは力強く頷いた。


吸血鬼「はは、はい。そうです。間違いないです。改めます」


サキュバス「おっしゃる通りですえぇ・・・。魔王様にはもっと厳しくしますのでーー!」


魔王「!?」


娘たちの怒られている有様を見て微笑む吸血鬼母とサキュ母だったが――。


妖狐「まったく・・・あんた達の親の顔が見てみたいわ」


吸血鬼母「ほう?」


サキュ母「あら~?」


魔王を撃ち抜き、サキュバスと吸血鬼を撃ち抜いた白羽の矢が母親達をも撃ち抜く。

しかし従順な吸血鬼やサキュバスとは違い、母親らは黙ってなどいない。


吸血鬼母「うちの娘をどうこう言えた義理か?」


サキュ母「そうねぇ~・・・。たっぷり甘やかしている妖狐ちゃんには言われたくないかも~・・・」


妖狐「は?何ようちの子はきちんと躾を――」


妖狐が勝ち誇った様子で母親達を一蹴しようとした矢先、部屋の扉が静かに開かれる。

皆の頭が一斉に入口へと向けられた。

そこにはまるでタイミングを見計らったかのような妖狐娘が、不満げな表情で頬を膨らませて立っているではないか。


妖狐娘「ままー・・・勇者お兄ちゃんと遊ぶ約束してるの・・・」


妖狐「も、もう少しで終わるから待っていなさいよ・・・。ね?良い子だから――」


妖狐娘「早くー。お願いママー」


皆の頭が一斉に妖狐へと向けられる。


妖狐「っ――!」


妖狐娘「ママの話長いもん!もう少しで終わらないもん!」


娘に怒られた妖狐が勇者を見て、魔王を見て、側近達を見て、最後に側近親を見る。勇者と妖狐娘以外の全員がヘラヘラと笑っていた。


妖狐娘「ままー・・・お願い」


娘のお願いを聞かされて一呼吸入れた妖狐が小さく息を吐く。


妖狐「っ・・・解散!」


言うが早いか椅子から立ち上がって駆け出した魔王が、勇者と妖狐娘の手を引いて部屋から出て行ってしまう。

続けて部屋にいても良いことが無いと察した吸血鬼とサキュバスが魔王を追う形で逃げ出す。

残されるのは妖狐と二人の母親達だけだった。


妖狐「まったく・・・」


吸血鬼母「調子に乗りすぎたな」


サキュ母「そうよ~。自分の甘さを棚にあげるのは良くないわよ~妖狐ちゃん~」


妖狐「五月蝿いくたばれ」


吸血鬼「ははは。命令か?」


サキュ母「妖狐ちゃん怒りっぽくてやぁねぇ~。更年期障害かしら~?」


ハァと小さな溜息を一つ、テーブルへと歩み腰を降ろす妖狐。向かいの椅子には吸血鬼母とサキュ母が腰を降ろす。

テーブルに置かれたベルがリンと鳴らされれば、三人の要望を聞くためメイドがやって来た。


妖狐「レモンティー」


吸血鬼母「血。冷たいのだ」


サキュ母「人肌温度の精液ある~?」


妖狐「殺されたいのあんた達・・・」


吸血鬼「ふむ?では緑茶。熱いのだ」


サキュ母「じゃあ私はメイドちゃんの温かい愛えきひぃ!?冗談よ妖狐ちゃん~!アイスミルクひとつ~!」


三人が各々注文をする事しばらくし、注文した飲み物が置かれてゆく。

メイドが一礼して部屋から出て行くと、三人は各々飲み物を手に持った。

視線だけ合わされる三人に言葉は無い。

表情らしい表情もないまま見合う三人。


妖狐「なによこの空気・・・。まさか乾杯でもするつもり?」


サキュ母「一段落ついたから良いんじゃないかしら~」


吸血鬼母「酒無しでか?まぁ・・・たまには良いな」


サキュ母「音頭は妖狐ちゃんに任せるわ~」


妖狐「・・・愛しの反逆者どもに乾杯」


打ち鳴らされるカップと湯飲みとグラス。

統一性の感じられない音を打ち鳴らし、各々が飲み物を口に入れる。




・・・。

・・。

・。




深夜、吸血鬼母が娘の部屋の扉を叩く。

返事を待たずに部屋に入る母を、ベッドに腰掛けていた娘が座ったまま出迎えた。


吸血鬼「私の返事を聞かないなら、ノックの意味が無いじゃない。何回言わせるのよ」


吸血鬼母「忘れていた。お前もこの間同じことをやったのだからお互い様だな。許せ」


吸血鬼「心の準備があるわ」


吸血鬼母「親に身構えるんじゃない・・・寂しいじゃないか」


吸血鬼「寂しいとか感じるのね。私への報復でも考えながら生きているのかと思っていたのに」


娘が皮肉を込めて言ってやると母が鼻先だけで笑う。

母はまたも勝手に娘の隣に座ると、娘を引き寄せ膝枕をしてやった。


吸血鬼母「復讐は考えていたさ・・・。本当はな、皆が散り散りになる前に妖狐様がお前達を許してやれと言っていた。でも・・・でも私はずっとお前が許せなかったんだ」


吸血鬼「私が貴女の立場でも許せないと思う・・・。許されなくても私は魔王様と共にありたかったのよ。だから仕方ないわねーー」


吸血鬼母「この城も随分平和になっていたな・・・」


吸血鬼「・・・ほらね?」


吸血鬼母「だが魔物と人間が共存できている訳ではないだろう?」


吸血鬼「共存なんて無理。魔王様だってそこまでは考えていないわ」


吸血鬼母「そうか」


娘の頭をゆっくりと撫で始める母。

母の手櫛が三度髪を梳かし終ると、娘は母の腹に顔を埋めた。

しばらくの静寂。

会話が無くても母は娘の髪を梳かすのをやめたりはしない。


吸血鬼母「なぁ・・・」


吸血鬼「うん?」


吸血鬼母「すまなかった・・・」


何に対しての謝罪なのか、娘には分からなかった。

分からなかったから聞かなかった。

腹から顔を放した娘が、首だけを横にして母の目を見る。

母の顔は娘が毎朝鏡で見ている自分にとても良く似ていた。

目を閉じてもう一度母の温もりを感じる。

娘は少しだけ微笑んでいた。


吸血鬼「別に良いのよ母さん。私も・・・ごめんなさい」




・・・。

・・。

・。




同時刻。

サキュ母が客間に戻ろうとしている時に廊下で娘と会う。


サキュバス「うげっ!?わぁー・・・今日の夢見最悪だわ」


サキュ母「あらあら~・・・サキュバスちゃん酷いわ~」


サキュバス「あーやだやだ。部屋帰ろ」


サキュ母「やーん待って~」


小走りするサキュバスの後ろを小走りで追いかけるサキュ母。

声色はまるで楽しい玩具を見つけた子供のような声色をしていた。

双方が逃げ、追い、母と子が言葉を紡ぐ。


サキュ母「お屋敷に帰るわよ~?」


サキュバス「あー・・・あぁ、そう・・・。そっかーー」


サキュ母「準備は出来てる~?」


サキュバス「何をしろって言われたんだっけ?」


サキュ母「覚えていないのサキュバスちゃん~?」


サキュバス「覚えてるよ。確認のためだからさ、一応」


サキュ母「まずは魔王側近をやめてママの所に帰ってくるでしょ~?」


サキュバス「なるほどねぇ」


サキュ母「あと妖狐ちゃんが魔王に戻れるよう推薦してくれるでしょ~?」


サキュバス「つーか妖狐様って魔王になりたがっているの?まぁ約束だから別に構わないけど・・・推薦するだけだからね?協力とかしないよ?」


サキュ母「あとママの代わりにお屋敷周辺のサキュバス種を収めてくれるでしょ~?」


サキュバス「やだなぁ・・・面倒くさそう・・・」


サキュ母「最期はママとえっち――」


サキュバス「死ね」


サキュ母「あら〜・・・?ま、まぁ、えっちはいいわ~」


母と喋りながら自室へと帰る娘。

部屋に入るなり首を左右に鳴らした娘が両腕を回し、屈伸、前屈などを行う。

机の上に置かれていた剣を一度鞘から抜いて刀身の確認をした娘が剣を腰に纏った。続いてベッドの上に置かれていた麻袋を一つ持ち、もう一つを母に投げ渡す。


サキュバス「残りの荷物は置いてくからいいや。あれば誰か使うだろうし・・・。んじゃさっさと帰ろ」


心底気怠そうに動き出す娘だったが、母はいやらしい笑みを浮かべたまま部屋から出ようとしない。

笑顔の母と真顔の娘が見合ったまま沈黙を流す。

娘が更に面倒臭そうにシッシッと手払いをして母を部屋から追い出そうとした。


サキュバス「早く行きなよ。帰るんでしょ?」


サキュ母「あら~・・・でもでも!いくらママでも、大きくなったサキュバスちゃんに後ろから切られたら避けられないかも~?」


サキュバス「・・・」


娘が笑みを見せる。

濁りのない笑みと、真っ直ぐに母を見返す瞳。

澄んだ金色をしていた。


サキュバス「私、あんたの透かした態度が大っ嫌い。何でも知っているような態度で余裕ばかり見せてるし」


サキュ母「周囲の状況を掌握できなくちゃ、第一遊撃の部隊長なんてやっていないわよ~」


サキュバス「やろうと思えば私達を捻じ伏せる事ぐらいできたんでしょ?」


サキュ母「そうねぇ・・・。できたー・・・かも、知れないわね~?どうかしらぁ~」


サキュバス「あんた本当に鬱陶しいわ・・・」


娘の質問を聞いて母が己の頬に右手を添える。

細められる母の瞳が娘の瞳から逸らされることはない。

小さく息を吐いた娘が追及を止め、剣を母に投げ渡した。続けざまに手荷物も投げ渡した娘が手の平を母に向ける。


サキュバス「これで荷物は全部。信じないなら服も脱ぐけど」


サキュ母「そこまで言うなら、全部脱いでくれると安心かも?」


言われるがまま服を脱ぎ始めた娘を前に、母が僅かに目を泳がせる。

細められていた目は自然な笑みを失い、作られた笑みへと切り替えられた。

母の様子など気にもせずに娘は服を脱ぎ捨てた。

シャツを肌蹴させ、胸を露わにし、下着も脱ぎ捨て、生まれたままの姿になった娘を前に母が首を傾ける。


サキュ母「あらあら・・・」


サキュバス「体の中も見る?気になるなら道具を持ってくるけど」


サキュ母「濡れていないソコに道具なんて入れたら傷ついちゃうじゃない~。大丈夫よ~」


サキュバス「あっそ」


母が納得した様を見届け娘は脱ぎ散らかしていた服を着る。

脱いだ手順とは逆の順に衣類を着る娘を前にし、やはり首を傾けたままの母。


サキュ母「おかしいわねぇ・・・ママの予想だとサキュバスちゃんが攻撃してくると思ったんだけれど~・・・。ねぇサキュバスちゃん。どのタイミングでママを襲ってくれるのかしら~?」


サキュバス「だから襲わないって。正直考えてたけど、やめたんだ」


サキュ母「どうして~?ママにはまだ勝てそうにない〜?」


ブラウスのボタンを全て止め終え、スカートのホックを止め終え、身なりを整え終えた娘がニッと笑んだ。

勝ち誇るようでいて寂しさの隠し切れない娘の笑みを見せられ、いよいよ母の作られた笑みすら消えてしまう。


サキュバス「追い出した時の寂しそうな顔は演技じゃないんでしょ?」


サキュ母「・・・」


サキュバス「嘘をついてごめんねママ。もう嘘はつかないよ」


娘の返事を合図に、母の頬に添えられていた手は額へと移動させられる。

額を押さえたまましばらく考える母ではあったが、手がどかされても笑みは生まれない。


サキュ母「魔王ちゃんにも、吸血鬼ちゃんにも、勇者ちゃんにもお別れだよ。構わないの?」


サキュバス「なにそれーー」


サキュ母「ほら答えて」


サキュバス「そ、そりゃ嫌だけど・・・でも――」


サキュ母「嫌なら来たくないって言えばいいじゃん。むしろ言ってくれないと困ると言うか・・・想定外の行動をされても逆にママが困っちゃうし」


サキュバス「私ママと約束したよ?」


「ばかだなー」とわざとらしい溜息を吐いてニィと笑む母。娘は悪戯に笑う母を前にして、自分も勇者をからかったりする時はあんな顔をするんだろうか・・・と複雑な気持ちを芽生えさせる。


サキュ母「冗談だよ冗~談。私が本気でサキュバスちゃんに嫌がらせをするなら、とっくにアイスブルーを殺してやったし。・・・今のアイスブルーには勝てなそうだけど・・・」


サキュバス「やっぱりママ達、全力出してなかったんだ・・・」


サキュ母「親が子供に本気を出してどうすんのさ・・・。でも妖狐様が負けた形にしないと、こっち側の魔物連中は納得しないでしょう?下手な演技をしたら残党がサキュバスちゃん達を殺しに行ったかもしれないし」


サキュバス「うん・・・」


サキュ母「それにママはまたサキュバスちゃんに会えると思っていたよ。だから想定内かな」


サキュバス「そうなの?」


サキュ母「親子だもん。むしろ思ったより早いうちに会えたと思う・・・。最悪私の死に際になるかなって思っていたから」


サキュバス「私はママが死んでも合わないつもりだったけど」


サキュ母「家族の絆って簡単に切れるもんじゃないよ。サキュバスちゃんがいくらママを嫌っても、ママはサキュバスちゃんを嫌ったりできない。貴女が生まれた時の痛みも嬉しさも、これからずーっと忘れないから」


両手の平を娘に向けて「フフン〜」誇る母と対面し、娘はやっと自分が母親を毛嫌いしていた理由に気付く。

透かした態度も、掴めない喋り方も、全部同族嫌悪だったらしい。


サキュバス「・・・本当に帰らなくてもいいの?」


サキュ母「ママは襲ってくるサキュバスちゃんに交渉するつもりだったからね」


サキュバス「どんな?」


サキュ母「最低年に一度は戻ってこいって。あとママのほっぺにキスしてとか」


サキュバス「・・・」


サキュ母「大きく吹っかけておけば小さな要求を通しやすいでしょう?交渉の基本」


娘が母の胸倉を掴む。

母は素直に胸倉を掴まれ、両手を軽く上げるだけで抵抗をしない。

透かした態度に苛立った娘が力任せに母をベッドに投げ飛ばした。


サキュ母「や~ん!」


サキュバス「あんたいくつよ・・・」


サキュ母「だってぇ~・・・愛娘に押し倒されているのよ~?勃つわ~」


サキュバス「だからそう言うところもさぁ、嫌いなんだって」


娘が仰向けに寝る母の両手首を強く掴みベッドに張り付ける。組み敷かれているのにニコニコと笑う母に呆れて言葉も出ない。

後に触れ合う母子の唇。

口がふれる瞬間、母が嬉しそうに目を細めた。

どちらが先に行ったのかは分からないが、いつしか二人の口内にはお互いの舌が挿し入れられる。

ある程度の口付けが終わり舌と舌の間に唾液の橋を作るが、糸が切れた矢先に母が喋り出す。


サキュ母「入れる?入れられる?」


サキュバス「死ね・・・」


サキュ母「あら~・・・我が娘ながらノリが悪いわ~・・・行ける雰囲気だったのに〜・・・」


サキュバス「あのさ、近々顔出しに帰るよ」


サキュ母「ふふ。じゃあサキュバスちゃんの好物をたくさん用意しないとね~」




・・・。

・・。

・。




後日、勇者はリリス屋敷の近場にある街に戻る。

街に住み始めてからもうじき一月。

そろそろ街にも馴染み、買い物に行けば顔なじみの店員らと会話をする程度に、街に溶け込んでいた。


オヤジ「勇者!こいつぁ五番テーブルだ!」


勇者「喜んで!」


ウエイター服に身を包んだ勇者がカウンターに並べられた料理をトレイに乗せて小走りする。

途中酔った客とぶつかりそうになったが、そこは経験を積んだ旅人勇者。鍛えた反射神経を駆使して料理を落とさずにすむ。

危機を脱した勇者は五番テーブルへと駆けると、トレイから料理を下ろしてテーブルに並べた。

酔った女性客二人に頭を撫でられお礼を言われれば、勇者は明るい笑顔の花を咲かせるのだ。

ここは賑やかなバー。


勇者「今夜も楽しんで行って下さいね!」


今夜も満面の笑みで接客業を行う勇者の背後に不穏な影が近づく。

不意に肩を叩かれた勇者だが、反射的に振り返りながらもしっかりと接客の基本「笑顔」を披露する。

無意識に放たれた彼の笑顔は、勇者がプライドを持って仕事に励んできた成果と言っても過言ではない。


勇者「いらっしゃいま――!」


メイド長「・・・」


勇者「ら、ら・・・らっしゃいませ!」


周りの客や冒険者に勘ぐられないように笑顔で応対する勇者。

しかし満面の笑顔で対応する勇者を持ってしてもなお、メイド長から笑顔を引き出せない。

なんて手ごわいお客様だ・・・とか考えながらも「オーダーですか?」と定説句を切り出すが、メイド長は白けた表情のまま失笑すらしない。


勇者「えと・・・お客様――」


メイド長「お仕事中に失礼いたします。少しお時間を頂けませんか?」


メイド長の口説き文句を受けて湧き上がるのは、周囲の酔っ払い達だ。

周りの数人が歓声をあげれば、声が波紋のように広がり部屋奥の人々を振り返らせる。

傍から見たら謎のメイドが子供のウエイターを口説いているように見えるのかもしれない。

仮に見えなかった所で、酔い人からすれば恋仲展開のほうが面白いからはやしたてるのだろう。

いつしか客達の視線はメイド長と勇者の二人だけへと注がれてしまう。

注目を浴びても気にもしないメイド長。

対する勇者は狼狽える他ない。 


勇者「い、今は繁忙時間帯なので・・・」


メイド長「いつまでも待ちますよ。朝でも、明日でも、来週でも・・・。それこそ永遠にーー」


典型的な愛の言葉が発せられれば、客たちは今夜一番の盛り上がりに盛り上がった。

いつしか客たちからは「メイド」と「ウエイター」のコールが二重三重になって部屋を包み込む。


オヤジ「うるせぇぞ!喧嘩なら余所でやれや!」


大歓声をかき分けてやってきたのは店主ことオヤジだ。


勇者「まっ、マスター・・・!」


オヤジ「マスターじゃねぇ!オヤジと呼べっつったろうが!・・・何だこりゃあ?」


メイド「店主様でしょうか。こちらのウエイターに用がございます」


オヤジ「あんだかわからねーが、周りが五月蠅くて声が聞こえねぇよ!テメーら揃ってこっち来いや!」


勇者とメイド長の返事を聞かずに厨房の方へと向かって行ってしまうオヤジ。

連れて行かれるメイド長と勇者の姿を酔っ払い達が乾杯しながら祝福してくれた。

オヤジが先導してカウンター内を通り、厨房を通り、従業員用休憩室へと入る。

先に休憩所へと入ったオヤジがテーブルの椅子に座り、勇者とメイド長にも座れと顎で促す。


オヤジ「そっちに座れ」


勇者「失礼します」


メイド長「失礼いたします」


オヤジと向かい合うメイド長と勇者。


勇者「オヤジさん・・・先にお手洗いに行ってきても良いですか?」


オヤジ「行って来い」


勇者「すぐに戻ります!」


緊張から手洗いへと向かった勇者を見送るオヤジとメイド長。

オヤジは勇者の足音が遠ざかるのを聞くと早速喋り出す。


オヤジ「何の真似だテメぇ」


メイド長「お騒がせして申し訳ございません」


オヤジ「そうじゃねぇよ。リリス種がうちの坊主に何用だっつってんだ」


メイド長「・・・。なるほど。いつから気付かれていたのでしょうか?」


オヤジ「いつだって良いだろうが。オメーの依頼書を受けた冒険者が消えたり殺されたりしねーから見逃してやっていただけだ。記憶こそ消されてはいたが、羽振も良くなっていたみてーだしな」


メイド長「困りましたね・・・。不本意ではありますが、念のため殺してやりましょうか」


オヤジ「やめておけ嬢ちゃん。腐っても俺ぁ元冒険者だ。いくら嬢ちゃんが人型でも、坊主が戻ってくるまでに殺せやしねーよ」


淡く光り出したメイド長の夜目がオヤジを捕らえる。

メイド長の敵対心を受け、オヤジが腰の鞘から包丁を抜いて構えた。

両者が静かに動きだし、同時に立ち上がる。


勇者「戻りましたぁ!」


勇者が戻った矢先に二人が座りなおす。

オヤジは素早く包丁を鞘に戻し、リリスは夜目を消して軽く咳払いをする。


勇者「・・・えっと・・・?何かありましたか?」


オヤジ「さっさと座れや」


勇者「あ、はい」


勇者がメイド長の横に座ると、早速オヤジが事の経緯と発端を問う。


オヤジ「でだ坊主。早速だがこの綺麗な嬢ちゃんは坊主の知り合いなのか?」


勇者「そうです。何というか・・・メイド長さんの主さんが僕の恩人でして・・・」


オヤジ「恩人だと?」


勇者「以前僕が困っている時に旅の助けをしてくれました。実は僕、その人にお金を返すために働いているんです」


オヤジ「なるほど意味が分からん。つまり?」


オヤジが勇者の説明だけでは真意を出せずにメイド長へと目をやると、メイド長は小さく溜息を吐いてから補足部分を語り出す。


メイド長「主人が路銀を失って困っていた勇者様に、支援金を分け与えただけの話ですよ。旅の目的を果たせば直ぐに屋敷に顔を出すと思っておりました。思っていました。なのに勇者様はいつまでも戻らない・・・。心配している主人を放って何処にいるかと思えば、まさかこんな所でクエスト受けているなんて・・・」


オヤジ「坊主おめー・・・」


勇者「で、でも借りたお金はきちんと返さないと・・・!」


メイド長「路銀は初めから貸し付けてなどおりません。先程も言いましたが、主人が困っていた勇者様に無償で差し上げたハズです。それもひとえに貴方の喜ぶ顔が見たかったからなのでしょう」


メイド長が白けた目を勇者に向ける。

勇者がオヤジに助け船を求めて顔を向けたが、オヤジはメイド長と同じように白けた目で勇者を見ている。


オヤジ「クソくだらねぇ話だな・・・。ちっと待ってろ」


話を聞き終えたオヤジが面倒くさそうに何処かへと言ってしまう。戻ってきたオヤジは金の入った麻袋を勇者へと投げ渡した。


オヤジ「今日までの駄賃だ。さっさと恩人にツラ見せてやれ」


勇者「で、でも――」


オヤジ「嬢ちゃんが言っている話が本当なら、坊主、オメーは優先順位を間違っちゃいねぇか?主とやらは坊主が無事かどうか心配してるんだろ?他人の好意を無下にするのは、お前ら冒険家が最もやっちゃいけねぇ行いの一つだ」


勇者「マスター・・・」


オヤジ「オヤジっつってんだろバカ坊主!今日でクビにしてやるから、また金に困ったら来い。面接無しでクエストさせてやっから」


勇者「オヤジさん・・・」


オヤジ「理解したならさっさと行けバカ野郎。荷物持ってこい!」


勇者「ありがとうございました!」


オヤジ「あいよ」


オヤジに一礼した勇者が笑顔を見せて更衣室へと消えてゆく。

オヤジは先程と同じように勇者の背中を見届けると、棚に置かれていた煙草を咥えて火を点けた。

肺一杯の煙を飲み、吐くオヤジ。

遠慮の欠片も無いオヤジにメイド長からのクレームが送られる。


メイド長「一応私もこの店の客なのですが・・・お構いなしですか」


オヤジ「うるせぇここは休憩所だ。ガタガタぬかすと、今後オメーの依頼書は貼らせねぇぞ」


メイド長「流石に困りますね」


オヤジ「言っとくが・・・オメーのクエストを受けた冒険者が殺されたら、二度と依頼書は貼らせねぇ。覚えとけ」


メイド長「折角なので店主様も当館へ遊ばれてはいかがでしょう?うちには物好きも多くおりますので、きっと店主さんのような筋肉達磨が好きな者もいますよ」


オヤジ「いらん世話だ。俺ぁ女房一筋なんだよ」




・・・。

・・。

・。




メイド長に連れられ屋敷に入ると、相変わらずフロアには多くのランプが置かれ、神秘的な演出を醸し出していた。

以前二回来た時は屋敷に入ってしばらくすればリリスが登場したが、どうやら今回リリスは登場しないらしい。

メイド長に「こちらへ」と促されて屋敷の奥へと案内される勇者。

途中夜目を灯らせたメイド達に会ったが、あるメイドには「勇者くんまた捕まったの?」と聞かれ、またあるメイドには「お姉さんの相手もしてね〜」と手を振られる始末。

出会ったメイド達は思った以上に友好的で、いきなり襲われるようなことは無い。


メイド長「どうぞ勇者様。この部屋です」


勇者「ここ・・・リリスさんの部屋ですよね?勝手に入っても平気なんですか?」


メイド長「リリス様は寝ておりますからご安心下さい」


寝ている女性の部屋に無断で入る事情に、どう安心すれば良いのか分からない。

だがメイド長が安心しろと言うのなら多分大丈夫なのだろう。

メイド長が両開きの扉を静かに開ける。音をたてずに開けたからだろうか、中央のベッドに横たわるリリスは起きない。


メイド長「さぁどうぞ勇者様」


勇者「さ、さぁ?さぁって言われても・・・僕どうすれば良いのか分からないんですけれどーー」


メイド長「分かりませんか?でしたらリリス様に気付かれないように添い寝をし、ついでに口付けをして下さい」


勇者「メイド長さんってリリスさんの部下みたいな立ち位置ですよね?勝手にそんな許可を出しても良いんですか・・・?」


メイド長「えぇい!さっさと行きなさい!」


メイド長に背中を押されて、よろめきながら部屋へと入る。

勇者が部屋に入るのを見届けると、メイド長は笑顔で手を振りながら扉を閉めてしまう。

ついに退路は断たれた。


勇者「ど・・・どうしよう」


物音をたてないよう思考するが、五分ほど考えてもどうすれば良いのか分からない。

薄暗い部屋に聞こえるのは静かなリリスの寝息が大半で、時おり衣擦れの音が聞こえる。

更に考えようとする勇者だったが、いつしか考えるのを止めてリリスの元へと歩み寄ってゆく。

どの道考えたって分からないのなら考えるだけ無駄だと思う。

リリスに近づけば近づく分だけはっきりと聞こえる寝息。

勇者が横からリリスの顔を覗き見る。相変わらずいつ見ても綺麗だった。

しばらくリリスの顔を見ていた勇者ではあったが、意を決すると布団を持ち上げ中へと潜り込む。


リリス「んー・・・」


リリスがベッドの違和感から気難しい表情を見せたがそれも束の間、すぐに表情を落ち着かせて再度寝息を立て始める。

潜り込んだ勇者はリリスを起こさないように体を少しずつ少しずつ動かして隣へと向かった。

数分かけてリリスの隣に近づき終わった勇者は、再度意を決してゆっくりとリリスに跨り覆い被さった。

本当に大丈夫なのだろうか・・・と一抹の不安は消せなかったが、メイド長にやれと言われた以上やらない訳にはいかない。

勇者が唇を近づければリリスの吐く寝息唇に触れる。

体が震えだす程の背徳感に曝されたが、今さら止めようもなく勇者の唇がリリスの唇に触れられる。


リリス「んっーー」


勇者「・・・」


リリス「んっ・・・。んん?」


当初は寝続けていたリリスだが、ずっと唇を奪われても寝ているほど鈍感ではない。

うっすらと開かれるリリスの眼。

眠たげに開けられたリリスの瞳が勇者と重なる。


リリス「んっ――」


目を合わしてもなお、リリスの唇が離されることはない。

怒られたらどうしようかと思っていた一抹の不安に反し、リリスはむしろ勇者を逃がさないように頭を腕で抱え込んでしまう。


勇者「んむ!?」


口内に挿入されたリリスの舌が勇者の舌を何度も舐れば、互いの唾液は混じりあいリリスの喉を潤す。

まるで恋人同士のように愛おしげに絡まれ、求められる舌。

時にゆっくりと、時に早く勇者の舌を、前歯を、犬歯を、奥歯を、舌を味わうリリス。


勇者「んっ・・・」


いつしかリリスが勇者と体の上下を入れ替え覆い被さった。

勇者を下に敷いてもなお、リリスは勇者の頭を抱え込んだまま口付けを止めようとはしない。

勇者の口端から唾液が零れればリリスに舐められ、息苦しさで涙を見せればリリスに舐められる。

口内を犯されている内に、勇者のモノが下着の中で張りを見せた。

でもリリスは止めない。

灯された魔物の夜目が何を思うのかは勇者にはわからない。

ただの口付け。

何処を触られたりもしていないままーー。


勇者「っん――!」


勇者は簡単に果てさせられる。

ところが口内蹂躙だけで果てさせられてもやはり、勇者が解放されることはない。

汗ばむ二人の体と布団の中に籠る熱。

籠った熱と勇者から発せられた青臭い匂いがリリスを酔わせるが、リリスはどうあっても口付けをやめようとはしない。

散々舐められ、吸われ、時間の感覚が狂うほど嬲られ終わると、満足げにリリスが抱えていた勇者の頭を手放してくれる。


リリス「・・・ふぅ」


勇者「うぁー・・・ズボンの中が・・・」


リリス「自業自得だ馬鹿者。遅すぎる。嫌われたのかと思ったぞ」


勇者「嫌いになんてなりませんよ!」


喋り出した勇者の唇がリリスの唇で塞がれてしまう。

今度の口付けは触れては離れ、触れては離れる口付け。

まるで小鳥が餌を啄むように繰り返される口付け。何度も主張される口付けの音が勇者の羞恥心を煽った。


リリス「まぁ・・・来るのが嫌ならこんなに腫れさせたりはしないな・・・」


茶化すようなリリスの手が勇者の下着の上を這う。


勇者「駄目ですよリリスさ・・・んっ――!」


リリス「どうしてダメなんだ勇者・・・。私は余りお前達人間の知識が豊富じゃない。だから駄目な理由を教えて欲しい」


しらじらしく説明を求められた勇者が下唇をきゅっと噛む。

「なぁ勇者お願いだ」と再度問われている間もリリスの悪戯は止めらず、勇者の先端から根本までを優しく刺激していた。


勇者「リリスさんの手が・・・汚れちゃいます・・・」


リリス「遠慮をする間柄ではないだろう?そもそも・・・お前は誰の所有物だ。身の程も弁えずに私を拒否するつもりなのか?」


空いた手でリリスが指を鳴らせば、隷属の腕輪が僅かに輝く。次いで、意識しなければ気付けないほど軽く走る手首への衝撃。

走った衝撃は勇者がリリスに捕まっている現実を思い起こさせる。

勿論本気で脅す気なんて微塵にもないのだろう。

しかし現状において、リリスが本気で脅しているのかどうかは大した問題ではない。

問題は魔物組み敷かれ、恥を曝され、みっともなく喘がされ、惨めに支配されている部位にある。


リリス「お前は本当に可愛いなぁ勇者・・・。もっと声を聞かせてくれ」


勇者「んぁ!?そ、そこぐりぐりしないで下さい!」


リリス「ここか?勇者は溝が苦手なのか・・・?」


勇者「やっ、はなして!また出ちゃ――!」


リリス「わかった放してやろう」


勇者「あっ――」


懇願が叶い勇者の下着からリリスの手が引き抜かれる。

リリスは勇者の中から手を抜くと、体液塗れの指先を一瞥し、勇者本人の口内へと押し込んだ。


リリス「綺麗に舐め取れ人間。お前が汚した物だろう」


勇者「は・・・い」


リリス「どんな味だ?」


勇者「ん・・・。んむ」


リリス「どんな味かと聞いている。答えろ」


勇者「少ししょっぱくて・・・苦くて・・・変な匂いがします・・・」


リリス「美味いだろう?」


美味いかと聞かれれば勇者は首を横に振る。

粘着質の高い体液は勇者の喉に絡みつき、青臭くも生臭い匂いが鼻腔を駆け抜けた。

唾液と絡ませて何とか飲み込んだが、飲み終えても苦みと塩味は不快感となって口内に残されてしまう。

生まれて初めて舐めさせられた雄の体液は、魔物らが恍惚と飲む理由が到底理解できない味だ。


リリス「そうだ・・・残すなよ」


リリスの命令を受け、支配される勇者は指の隙間に舌を這わせてゆく。

一本一本の指を丁寧に咥え、手の平、手の甲に舌を這わせている途中、たったそれだけで今度はリリスが達してしまう。


リリス「っ――!はぁ・・・はぁ・・・!」


勇者「リリスさん・・・大丈夫ですか?」


しばらく肩で息をし、呼吸を整えたリリスが口付けで勇者への返事を返す。

いわゆる「ごっこ」遊び。

魔物と人間の間で行われる酔狂な隷従ごっこ遊び。


リリス「そう言えば貴様・・・人間の分際で私の布団の中に潜り込んでいたな」


勇者「め、メイド長さんが!」


リリス「言い訳など求めていない」


楽しげに笑んだリリスが素早く勇者の下着の中に手を入れる。勇者の先端を強めに摘み、指を左右に捩じらせた。

最も敏感な場所を好き勝手に弄ばれた勇者が、声にならない声でリリスの手を止めさせようとする。

でも勇者がリリスの手首を掴んだ矢先、リリスに睨まれた。

黙しても語らないリリス。

黄色の夜目が勇者を見返し「手を離せ」と責めていた。


勇者「耐えられ・・・ませんよ・・・」


リリス「お前は私の大切な玩具だ。何も壊れるまで責めたりはしないさ。それにまた暴走されたら堪らんからな」


勇者「やだ!でも!」


頬を紅葉させたままの勇者が涙目でリリスを見返す。

見合う人間と魔物。

子供と大人。

いつしか勇者は諦めたように小さく頷き、掴んでいたリリスの手首を放す。


リリス「ほら・・・」


まず一度、勇者から多量の白濁液を吹き出させるリリス。

出させながらもリリスは責め苦を止めようとしない。


勇者「リリスさんダメです!もう嫌っ・・・!嫌だ!お願いだから!」


リリス「そうだ勇者・・・もっと私を楽しませろ。もっと悲鳴をあげろ」


涙を零して懇願する勇者だが、懇願したところでリリスが指を止める事はない。

勇者がシーツを握ったまま頭を左右に振り歯を食い縛る。

拷問じみたリリスの責めに耐えきれなくなった勇者がシーツを手放し、自身の手の甲に八重歯を立てた。


勇者「っ――あ――!リリっ――!」


ひときわ大きな悲鳴をあげた勇者が背を強く弓なりにさせ、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

同時に放心した勇者のモノからは水のような透明の体液が何度も何度も吐き出され、瞬く間に下着とシーツを濡らした。


リリス「ふふ。愛しているよ」


勇者「かっ――!」


壊れた噴水のように放出される尿にも似た体液。

とどまる事無く吹き出される勇者の体液が幾度出されても、リリスは噴出される感触を手中に楽しみ勇者を責めた。

ホワイトアウトする勇者の意識。

意識を手放す前に勇者が見たのは、リリスが持つ優しい微笑みだった。


後書き

評価、応援、お勧めを頂いた皆様ありがとうございます。
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なんちゃって笑

皆様改めて勇者の旅立ちその4で会いましょう。

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