2017-03-14 23:42:35 更新

概要

昔、思い付いた話を持ってきた。苦手の人がいるかもしれない。東方シリーズ第一弾。




「判決を言います......地獄行き」


 必死の形相で喚き散らしながら役員に引き摺られる男を見送り閉廷した。裁判官たちが「ああ~疲れた」「飲みにでも行こうか~」と言いながら凝った肩を回しながら出ていく。自分も背筋を伸ばす。パキパキと心地よい音が鳴り疲れが少し飛んで行った。ふぅーと一息ついて法廷を後にした。


 ここ一週間ずっと働き、心体ともに疲れた。今日の仕事を終わらせた自分は家にでも帰って寝たい気分だった。そうして自分の書類等を纏め仕事部屋の鍵を閉める。そして、長い廊下を歩いていく。途中、部下や役員の人から労いの言葉を交えながら。すると、目の前に見知った後ろ姿が見えた。


「小町?」


「あ、旦那。仕事は終わったんですかい?」


 まるで昔の江戸っ子みたいな話し方をする赤い髪の女性。仕事道具である鎌を持ってない辺り、今日はもう仕事が終わったのだろうか。


「ああ、お前も?」


「え、ええ、まあ」


 サボったな、と一目で分かった。その曖昧な返事と目を逸らしたのがいい証拠だ。額にデコピンをかます。


「いったぁ~」


「小町、俺の前で嘘は意味を成さないぐらい知ってるだろう」


「はい」


 シュンとなっている小町を見て無性にその頭を撫でたくなり、無意識のうちに撫でると目を細め気持ちよさそうにした。なんか小動物みたいで可愛いな。このままずっと撫でていた気持ちになっているとーー。


「--何をしてるんですか?」


 まるで地の底から聞こえるような冷たい声だった。ビクッと二人の肩が跳ね上がる。その声は二人にとってよく知っている声だから。錆び付いた機械のように首を回すと不貞腐れた四季映姫がいた。


「え、映姫。一週間ぶりだな」


「ええ、一週間も会えず私はとても寂しかったのをアナタは分かっていますか? 籍を入れ同棲しているにも関わらずすれ違うばかり。分かっています、分かっていますとも。仕事が忙しくて会えないことがあるぐらい覚悟はしていました。たかが一週間、されど一週間。私は一日でもアナタと離れたくはないのです。でもそれが無理なことぐらい重々承知です。だから私はアナタの枕を抱いて寝たり、アナタの歯ブラシで歯を磨いたりと、我慢に我慢をして今日まで耐えてきました。そして、やっとの事仕事が終わりアナタと会える、声が聴ける、触れる、抱きしめてもらえる......そう思っていました。なのになんなんです? またサボった小町を追いかけて来たらアナタが小町を撫でているじゃありませんか。浮気ですか? 絶対許しません。浮気なんてしたら相手を地獄に落として、アナタを監禁します。言い訳も聞きたくありません。でもそれがアナタのスキンシップなのを知っています。ですから小町は許しましょう。ですが説教です。そこに正座です、二人とも」


 映姫のマシンガントークが途切れると、次は廊下に正座させられ説教させられる。周りに役員たちはまるで何時ものことだと思っているのか普通に仕事をしていた。少しは助けてくれたっていいのではないだろうか?


「小町も小町です。これで何回目ですか? いい加減仕事に責任を持ってください。いいですか? 小町がサボることによって他の方が苦労するんです。まあ、そのことはまた明日にしましょう。今は小町。貴方はやってはならないことをしました。私の夫に撫でられると言う重罪を犯したんですよ? これはもう死刑ものです。ですがそれは夫が勝手にやったこと。今回は見逃しましょう。次はありません。そして、アナタは何故小町を撫でたんですか? 私と一週間も離れていたんですよ? 分かりました、人肌が恋しかったんですね。それで私の部下である小町を撫でたんですね。でも私を待って欲しかったです。そしたら何でもしてよかったんですよ? さすがに人の目が気になるので性行為は家に帰ってからですが、キスや抱擁はしてよかったんですよ? ああ、でもそれだと私が我慢してきたものがはじけてしまって、人目も気にせずアナタを襲っていたでしょう。なんならもうここでーー」


「--落ち着け」


「ひゃん」


 暴走した映姫の額に小町同様、デコピンをする。可愛く声を出し「うぅ~」と唸りながら涙目で睨み付ける映姫。可愛いな、おい。


「映姫、折角休みが取れたんだ。こんなとこで油を売ってないで家に帰ろう。そんで何時も見たいに酒を飲みながら愚痴を零そうじゃないか」


 そう言って抱きしめると映姫は落ち着いたのか、体を預けてきた。


「もう......ホントに寂しかったんですからね?」


「ごめんな」


 上目使いでそう言われ思うわずドキッとするが恥ずかしいので表には出さない。


「今日は寝かせませんよ?」


「それは......困ったな」


 と言いつつも期待している自分がいる。自分も中々欲深い物だ。


「帰ろうか」


 離すと映姫は名残惜しそうに悲しい顔をする。だが、抱きしめたまま歩けるほど器用ではない。それを分かっている映姫は自分の腕に抱き着く事で我慢するようだった。


「......私は?」


 二人にとって愛する人以外もう眼中に無く、その小町の声も気が付きはしない。正座したまま目が点となった小町は通る役員の人に邪魔だと言われるまでぼーっとしていた。







 ★







「--私は言ってやりましたよ。もっと私たちの休みを増やせってね。そしたら何て言ったと思います? 新婚だからこそ働かないと、って。私は頭に血が上がってそれはもう叩きそうになりましたよ悔悟棒でね」


「......そうか」


 もし殴っていたらと思うとゾッとする。映姫はともかく後々自分にお叱りが来るだろうと知っているから。自分たちの上司は映姫には頭が上がらず、なぜか自分にばっちりがくるのだ。そして、大体こう言う。


 お前は嫁の手綱を離すな、と。


「無茶言うなよな、俺が握られているのに」


「ちょっと聞いてるんですか!?」


「ああ、聞いてるよ」


 映姫と一緒に酒を飲みながら愚痴を零そうと言ったのは自分だが、この一週間で凄くストレスが溜まっていたらしく既に一升瓶が三本も空いている。まるで小町みたいだ。


「いっつぅ!?」


 太ももに痛みが走ったと思って見ると映姫が自分の太ももを抓ってジト目を向けていた。


「今、他の女の事を考えてましたね」


「そんな事は......スミマセン」


「素直でよろしい。ですが罰です」


「んぅ!?」


 息が出来なくなったと思うといつの間にか映姫の整った顔が間近にあった。今、キスをさせられていると気が付いた時には、もう口の中は映姫の舌によって蹂躙されていた。

 そして、そのまま押し倒され両手で自分の顔を抑え逃げられないようにする。獣のように貪り付いてきた映姫をどうにか、されど優しく押し返す。


「んっ......」


 唾液の糸が二人の口から伸びる。好悦とした、うっとりと頬を朱く染め映姫が息を荒上げている。


「え、えいーー」


 --が、名を言う前に映姫の口によって塞がれる。自分は今までに見たことない程積極的な映姫に困惑して、ただされるがままだった。自分の口を過剰と言えるほど蹂躙した映姫は一旦口を離した。それでも最後の最後まで吸い付いていたが。


「......寂しかった」


 先ほど見せた表情とは違って悲しい顔をする。それに合わせるように体を震わせ目に涙を滲ませる。


「声が聞けないだけで不安になった。顔を見れないだけで胸が痛かった。触れ合えないだけで泣きそうになった」



 --アナタと一日会えないだけで生きた心地がしなかった。



「......映姫」


 そっと頬を伝う滴を拭き取る。


「アナタが私をこんなにしたんですよ? こんな、こんなーー」


 --アナタ無しでは生きられない体に。


 気が付くと俺は映姫を抱きしめていた。胸で泣き続ける彼女の背中を擦りながら謝罪の言葉をつぶやき続けた。


「......許しません」


「ごめん」


 そこで自分はある事を思いついた。一度映姫を引き離すと面と向かって言う。


「閻魔様、どうか私に処罰を与え下さい」


 困惑する映姫だったが、涙を拭きとると何時もの凛とした表情になり、透き通る声で判決を言った。


「判決を言いますーー」


 




 --アナタは一生私から離れないこと。






 閻魔様のいう事は絶対だ。



後書き

もうちょっと上手く表現出来たら良かったと思う。


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