2017-04-16 18:40:27 更新

概要

磯風の大暴れから一夜明け、着任の挨拶と、今までの鎮守府との違いに驚く磯風と、秘書艦に任命された吹雪と提督のやり取り。

利島鎮守府では、浦風が磯風の無事を聞くとともに、剣の才能が開き始めた三日月に語られる、『天下五剣』の話。

再び堅洲島では、金山刀提督と瑞穂が、自分たちの退路を断つ意味で、提督に特別な情報の提供をした。

そして思い出される、提督の過去と老人の話。

新年にもかかわらず、大規模作戦中の総司令部では、もうじき座を退く元帥と、秘書艦の霧島が、作戦の経過や今後について話していた。霧島はそこで、榛名に関するある疑念を打ち明ける。

同日の夜、東京湾の上空の水上機内では、参謀とアメリカ政府の関係者が、ある艦娘の目覚めと、世界が知られざるルートに入りつつあることを話していた。


前書き

この世界での剣の達人について語られたり、榛名についての霧島の衝撃的な疑問が出たり、提督の過去が少し出てきたり、と、相変わらず色々な事が起きています。

その中で、吹雪の突き抜けっぷりと、磯風の挨拶、如月ちゃんのリアクションが笑いどころでしょうか。

春風の話によると、『鬼鹿島』は師を引退に追い込んだらしい誰かを探しているらしいことが判明します。

また、参謀がアメリカ政府の関係者と密談していますが、『サラ』って誰の事なんでしょうか?(すっとぼけ)。

何やら物騒な出来事が待っていそうですね。


[第五十話 ルート・X ]




―2066年1月2日、マルニーマルマル(午前二時)過ぎ、堅洲島鎮守府、11階廊下。


提督「扶桑、もしかして、話したい事があるのかな?」


扶桑「・・・髪、そろそろ切る頃ではないかと思いまして。前回は叢雲でしたから・・・」


提督「あっ!そういや伸びてきたな。そうだな、次は扶桑か。明日以降、都合が合い次第でどうだろうか?」


扶桑「かしこまりました。では提督、おやすみなさい」ニコッ


―フワッ


―微かに、かいだ覚えのある良い香りがして、提督は小さな疑問を思い出した。


提督「あっ?」


扶桑「どうしました?」


提督「・・・そういえばさ、扶桑、ずっと気になっていることがあるんだが」


扶桑「なんでしょうか?」


提督「館山で、叢雲に怪我をさせてしまった後に、おれがどうにか眠るようにした日々の事なんだが」


扶桑「!・・・はい」


提督「おれが泥酔して眠った後に、傍にいた、なんて事は・・・?」


扶桑「・・・なぜ、そう思いました?」


提督「今の扶桑の香り、何だか覚えがある。おれがすっかり正体を無くして眠っている時に、寄り添っていてくれた気がしたことが何度かあってさ。直接聞くのもどうかとは思ったんだ。勘違いだったらちょっと微妙な質問だしな」


扶桑「・・・提督」


提督「ん?」


扶桑「どちらだったら、嬉しいですか?」ニコ


提督「寄り添ってくれていた方、かな」


扶桑「では、そちらです。うふふ」


提督「じゃあ礼を言っとくよ。ありがとう。ある時から急に普通に眠れるようになったんだけど、扶桑のお陰だったんだな」


扶桑「・・・うふふ。気づかれないようにしていたのに、ばれてしまいましたか。気持ちの安らぐ香を焚いて、静かにおそばに居ました。気持ちが張り詰めないで済むように、私たちには少しは気が許せるようになればいいかな、と。・・・でも、私のせいだけとは限らないかもしれませんよ?提督の事を案じている子は、意外と多いですから」


―扶桑はそう言って微笑んだ。


提督「ん?それはどういう・・・?」


扶桑「例えばの話です。では、おやすみなさい」ニコッ


提督「・・・ああ、おやすみ」


―陸奥の事件の怪我から回復した頃から、提督の眠りは劇的に変化していた。



―翌朝、マルキューマルマル(午前九時)、堅洲島鎮守府、執務室ラウンジ。


提督「・・・さて、時間か」


如月「司令官、昨夜は大変だったみたいね。でも、仲間がまた増えたんでしょう?かわいい新人さんだといいわね」


―ガチャッ


陽炎「失礼いたします。陽炎型一番艦、陽炎、十二番艦・磯風の辞令の受け取りの補佐で参じました!」ビシッ


磯風「利島鎮守府より異動扱いとなり、着任いたしました。陽炎型十二番艦、磯風。辞令の受け取りに参じました!」ビシッ


―バササーッ


如月「あらやだ、ごめんなさい!」


―如月の抱えていた書類が、滝のように床に落ちた。


如月(か、可愛すぎる新人さんね・・・かっこいいし・・・)


―陽炎は落ち着いていたが、磯風は緊張の面持ちだった。


提督「大丈夫か?如月」


如月「あっ、大丈夫よ、司令官」


提督「ふむ。・・・利島鎮守府からの異動、歓迎する。陽炎型十二番艦、磯風。おれはこの特務第二十一号、堅洲島鎮守府の提督を務めている者だ。名前は戦時情報法第二十六の二により保護され、本名を名乗ることはできない。その非礼は理解してもらいたい。また、初めに言っておくが、おれは正式には軍属ではないため、ここから先は全て自分流に話させてもらう。まず、入渠は無事終わった様だが、ケガや不調は大丈夫か?緊急時とはいえ、肩にR.I.P弾を二発当てたはずだ。弾丸は入渠施設からすべて回収できたが、心配でね」


磯風「・・・司令、すまないが解体していただきたい。昨夜の不祥事の顛末は、姉の陽炎から聞いた。到底、許されるような事ではないと理解している。もはや、このような正式な辞令を経る手間さえ恐縮だ。速やかに解体で構わない」


陽炎「何を言ってるの?」


提督「何を言っているんだ?」


磯風「え?」


提督「責任は全て利島鎮守府の提督にある。昨夜の精神汚染による危険行為も、浄化して着任できた今となっては、轟沈や深海化されるより何倍も良い結果だ。・・・惜しむらくは、この鎮守府はここから異動不可のため、回復後に意思確認をしたかったのだが、それが出来ずに強制的に着任になってしまった部分は申し訳ないと思っているよ」


磯風「何だと?あれほど暴れ、皆の命を危険にさらした私が、不問で着任だと?」


提督「ああ。もう気にするなって事だ。考える時間をやれなくて悪かったが、後はここで楽しくやってくれ。ここは次回の大規模侵攻を防ぐ鎮守府だが、そう簡単にやられはしない。昨夜見た腕前は期待している。以上だ」


磯風「馬鹿な!何かの冗談だろう?そもそも、司令はなぜ士官服を着ていない?」


提督「正式には軍属ではないし、士官服など、現状を見れば無能の象徴だ。よっておれは着ない」


磯風「・・・すまない。何もかもが違いすぎて衝撃が強く、頭が追い付いていかないのだ。・・・改めて、問おう。あなたが私の司令か?」


叢雲「・・・くっ!」


―叢雲には、なぜか磯風が面白い事を言ったように感じられた。そんなはずはないのだが。


提督「ん?・・・そういうことだ。よく来てくれたな!現時刻を持って所持品もすべて返却する。・・・漣!」


漣「はい!こちらですね」スッ


―漣は横長のジュラルミンのケースを持ってきて、開けた。刀と、笛が入っている。笛は昨夜の件もあり、執務室で一時預かりとなったのだ。


磯風「いや、刀まで返却とは・・・。この笛は何だ?」


陽炎「えっ?あなたの笛じゃないの?あなたが身に着けていたんだけど」


磯風「まったく身に覚えがない。吹き方も知らないしな」


提督「・・・・・・・わかった。じゃあ、君の所持品にして、何か曲でも吹けるようになったらいい。剣の道にも有益な事だ。たまに、解析等で借りるかもしれないが」


磯風「・・・やってみよう。司令がそう言うのであれば、是非もない、従おう。・・・しかし、昨夜の件を聞いた限り、不問というのは納得がいかないが」


提督「では、罰則として、決して沈まぬこと。これで良いかな?」


磯風「いや、何と言うか、なぜそんなに寛容なのだ?利島は非常に厳しかったが」


提督「さっきも言ったが、全ての責任は利島鎮守府の提督の捨て艦行為にある。だから君に責任はない。つまり寛容以前に咎がない。・・・また、利島は規律は厳しかったのかもしれないが、既に戦艦もおらず、結果も出せず、この有様だ。戦いに必要なのは形ではなく結果であり、君に形式的に責任を取らせるのは、おれにとっての理想の結果から遠ざかるだけの判断だ」


磯風「ぐうの音も出ない。分かった。・・・私なりに忠誠と、・・・色々と尽くそう」


漣(・・・ん?)


提督「それと、当鎮守府からは、異動祝いとして、まずカーディガンを一着、間宮券を一枚、それから、私服、部屋着等の衣料品一式の購入代金を支給する。次に、これはおれからの支給だ。好きに使ってくれ」スッ


―提督は、長短二つの黒いベルトのようなものを磯風に手渡した。


磯風「これは?」


提督「長い方は肩からつるすタイプのソードハーネス、短い方は剣吊りベルトだ。常時、腰か肩前に帯剣できるだろう?」


磯風「これは、司令の私物ではないのか?」


提督「サイズや使い勝手がおれには合わなかったんだ。気に入らなかったのなら捨てても構わんし、好きに使ってくれ」


陽炎「へぇ~、良かったじゃない!司令から私物を貰えるなんて!」


磯風「なぜ、ここまでしてくれる?」


提督「良い太刀筋で、良い戦い方だった。見てて気分が良かったし、おれに銃を抜かせるような艦娘が来てくれて、嬉しいのさ。私物の刀は、メンテナンスは工廠を自由に使っていい。好きに自分を高めてくれ」


磯風「司令も相当な使い手だと陽炎から聞いたが、嬉しい限りだ。ありがたい!」ニコッ


提督「それと、望月と磯波は、おかげで元気だ。磯波はここの秘書艦をしているし、望月は・・・まあ、楽しくやっていると思う」


磯風「そうか、あの二人もずいぶん前に助けられたと聞いたが、良かった。望月もよく、ほぼ轟沈していた磯波を背負い続けたものだ」


提督「何だって?うちの青葉が二人と合流した時は、二人とも大破していたが、望月の方がダメージが大きかったはずだぞ?」


磯風「いや、そんなはずはない。戦艦タ級を倒した時点で、磯波は両足を膝下から欠損し、右肩部に破孔、意識不明なのを確認していたからな。身体が海の水のように冷たかったのを覚えている。」


提督「・・・そうか、ではこちらの間違いだな」


磯風「・・・恐らくそうだろう」


―しかし、この時、提督と磯風はたがいに何かを感じ取っていた。


提督「それと、磯風の部屋は陽炎たちの隣、別室になる。広い部屋だが、おそらく一人で過ごす時間はそう多くないはずだ」


磯風「何だって?」


陽炎「えっ?」


提督「利島鎮守府は解散になるが、何人かこちらに異動してくる子がいる。陽炎型十一番艦の浦風が異動を取りまとめてくれているようだ」


陽炎「えっ?浦風が来るの!」


磯風「心配をかけつづけているはずだが・・・。そうか、また会えるのだな!」


叢雲「今日の昼前には、あなたの無事を伝えるわ。ついでに、異動してくる日もはっきりするわよ」


陽炎「ああもう、なんか色々、良かったわ!見てなさいよ、深海の奴らに陽炎型の怖さを思い知らせてやるわ!」


提督「そうだな。今後、妹たちが増えるかもしれん。だが、まあ長女だから大丈夫だろう」


陽炎「その、長女に対する妙な信頼感はなに?」


提督「いや、別に」


―こうして、紆余曲折はあったが、貴重かつ、強力な艦娘、陽炎型十二番艦・磯風が着任した。後に結成される『堅洲島の抜刀隊』の中核をなす艦娘の一人となるのだが、それはまだ先の事である。



―さらに一時間後、執務室。


提督「そう震えなくていいっての。怖い話をするわけじゃないんだから・・・」


吹雪「・・・だ、大丈夫です。・・・ふ、吹雪は大丈夫です」ガタガタ


提督「それ、榛名の口癖だろうに・・・」


―用事があって吹雪を呼び出したのだが、ところどころ昨夜の記憶が無いらしい吹雪は、ひどい二日酔いの頭痛と、自分が何やらとんでもない事をしたのでは?という恐怖で、最悪の気分で提督の前に立っていた。


吹雪「わ、分かってます。大浴場に飛び込んで喧嘩したり、お酒を瓶で呑んだりしましたから、きっと解体とかですよね・・・?」ガタガタ


提督「違うよ。覚えてないのか?昨日の活躍に応じて、間宮券を支給するのと、希望があれば秘書艦やってもらえないかと思ってさ」


吹雪「・・・え?間宮券と引き換えに、夜の秘書艦をやれという事ですか?」


―ガチャン、ゴホッ、バリッ、バササー


―磯波が手を滑らせ、曙がむせ、叢雲は書類を破いてしまい、如月はまた書類を落とした。


提督「何だ?夜の秘書艦て。まだ酔いが覚めていないのか。秘書艦をやらないか?って聞きたいのと、昨夜活躍したから、間宮券を支給したいって言ってるんだよ」


吹雪「・・・え?私、お風呂で陽炎ちゃんとケンカしてから、たぶん寝ちゃってましたよ?・・・まさか、寝てる間に司令官に魚雷カットインを決められてしまったんですか!?」


叢雲「・・・くふっ。(魚雷カットインて)」


磯波「カットイン?連撃じゃなくてですか?」


曙(何を連撃するの?)


提督「・・・え?何の話だ?」


吹雪「・・・仕方がないですね。きっと司令官に、『お前がママになるんだよ!』とか言われて、あんな事やこんな事をされるのかもしれませんが、解体よりも、遥かに優しい処遇なのは理解しています。大事にはしてくださるみたいですし。ぐすっ」ジワッ


提督「・・・よーし、全く人の話を聞いてないな?よーーーく聞いてくれ。秘書艦をしてほしいんだが、どうか?と、聞いているし、昨夜磯風と交戦して、無力化に大きく貢献した事に感謝して、間宮券を支給したい、と言っているんだが」


吹雪「すいません、何を言ってるのか全然わかりません」


―吹雪はあからさまに「この人は何を言っているんだろう?」という顔をしていた。


提督「・・・奇遇だな、同感だよ。・・・漣、青葉に、昨夜の記録映像がないか聞いてきてくれ。提供を求めたい。前後に何を盗聴・盗撮していても不問にするし、場合によっては間宮券を支給すると伝えてくれないか?・・・それと叢雲、榛名と、陽炎をもう一度呼んで欲しい」


漣「ほいさっさー!」ガチャッ、バタン


叢雲「わかったわ」


―しばらくして、榛名と陽炎が、そして、青葉はちょっと緊張した面持ちで執務室に訪れた。しかし、吹雪に記憶が無い為に動画が必要な事と、間宮券の話を聞くと上機嫌になり、大浴場での戦闘状況の映像が再生された。


吹雪「・・・これっ、本当に私なんですか!?」キョトン


陽炎「覚えてないの?すごい動きで磯風を無力化しちゃったのよ?」


榛名「艤装を一瞬で展開して防御に用いたり、刀に後ろ蹴りを合わせたり、バク転から突進技に切り替え、相手の技の直後に当てるとか、達人の域を超えています。この戦闘能力では、陸上なら私でも勝てるか、自信がありません」


吹雪「皆さん、私にドッキリを仕掛けているとか、無いですよね?新年の余興とか・・・」


提督「いや、ないな」


吹雪「私、海上移動だってまだ不慣れなくらいですよ?落ちこぼれ一歩手前ですから、本当は秘書艦に選ばれないのも仕方がないのかな?って、悩んでいたくらいです」


―吹雪は冷静に話そうとしていたが、見覚えのない自分の映像を見て、明らかに動揺していた。


提督「・・・わかった。吹雪、今はこの映像の事は考えなくていい。潜在能力が高いのかもしれない、という事と、昨夜の働きを考慮して、秘書艦として手伝ってほしいし、間宮券を支給したいが、どうだろうか?」


吹雪「はい!秘書艦にしていただけるのはとても嬉しいです!でも、間宮券は受け取れません。自分の身に覚えがないのに、受け取れません!」


提督「では、秘書艦の就任祝いという事で支給させてもらおう。以降よろしく頼む。・・・では、良い正月を過ごしてくれ。榛名と、二度手間にしてしまったが、陽炎も、お疲れ様!」


吹雪「わぁ!ありがとうございます!司令官。・・・あの、多少のセクハラくらいは大丈夫ですから!」


―秘書艦たちの空気が少し張り詰めたが、適度に鈍い提督は気づけなかった。


提督「・・・まったく。今の感想は?」


吹雪「念願の、秘書艦の座を、手に入れたぞ!っていう気分です」


陽炎「・・・殺してでも奪い取る!なんちゃって」


吹雪「ええっ?」


陽炎「冗談よ。何となく言ってみただけよ。お互いにガンガン演習しよ?強くならないとね!」


―こうして、吹雪もついに秘書艦になった。



―同日、昼前。利島鎮守府、執務室。


日向「忙しいところ、すまないな」


浦風「いやもう、全然忙しくないけぇね。呼び出しの用件は何じゃ?」


日向「特務第二十一号から先ほど連絡があった。まず、こちらでの異動希望者の取りまとめの完了予定と、異動日時の確認だな。決まり次第、先方から迎えが来るそうだ」


浦風「そうじゃねぇ、あと二日くらいですっかりまとまるから、五日にはもう大丈夫だと思うんじゃ。悩んでる子はお断りじゃから、そう時間は要らないんよ」


日向「そうか。確かにその方が良いだろうな。生半可な覚悟の艦娘は不要なだけではなく、足を引っ張りかねん。・・・で、君にとっての本題に入らせてもらうが、陽炎型十二番艦・磯風が捜索の末に発見されたそうだ」


浦風「えっ?」


日向「状態は、大破のうえ、艤装状態での補給切れによる完全停止状態だったそうだ。救助の上、即、入渠となったが、精神面での深海化が進んでおり、深夜に大暴れしたそうだ。被害状況は、鎮守府施設に一か月程度の補修工事を要する損傷、金剛型一番艦・金剛、三番艦・榛名、長門型戦艦二番艦・陸奥の三名が小破だったそうだ」


浦風「あの子が本気で暴れたら、それくらいの騒ぎにはなるじゃろうね。・・・そっか、見つかったけど、それでは解体か轟沈じゃね・・・」


日向「・・・で、その後、陽炎型八番艦・雪風と、吹雪型一番艦・吹雪が戦闘により磯風を確保。磯風は着任により深海化汚染を除去し、被害に関してはここの提督の全責任という事で、本人は不問との事だ。ちなみに、磯風の剣を向こうの提督さんは止めたらしいぞ」


浦風「ちょっと待って、色々と追いつかんわ。要するに、磯風は大暴れしたけれども、おとがめなしで元気に着任しとるという事なんじゃね?」


日向「まあ、そうなるな」


浦風「そっか・・・そっかぁ!また会えるんじゃね!泣きたいほど嬉しいんじゃが、すごい話が混じっててびっくりしてしまうわ。何なんじゃ?そこの鎮守府も提督さんも。今時そんなに戦艦がおる鎮守府は珍しいし、雪風がおるとか。しかも、何で吹雪がそんな強いんじゃ?艦娘の斬撃を止める提督さんもありえんじゃろ。なんだか出鱈目な話に聞こえるくらいじゃ」


日向「出鱈目か。まあ確かにそうだろうな。君には漏らしても良いと思うが、金剛は青ヶ島の二代目金剛だし、榛名は横須賀鎮守府、第二部の『開耶姫』榛名だ。戦艦は他に陸奥と、扶桑、山城が居るし、一航戦も揃っているぞ。提督の剣の腕に関しては・・・私も剣にはこだわりがあるから言える事だが、天下三剣・・・いや、天下五剣に匹敵する腕前があるのは間違いないだろうな。何しろ、その榛名さんをストレートで下して着任させたのだから」


浦風「何なんじゃ?そのぶち強い提督さんは!もう、そんな提督さんはおらんけぇ、深海のやつらに押されよったんじゃろ?」


日向「詳しい事は、武装憲兵隊の私でもよく分からないほど、情報が隠されている方なのだ。しかし、面識はある。なかなか、悪くない雰囲気の方だ。・・・そうだな、艦娘としては君が羨ましいと思えるくらいにはな」フッ


浦風「何だか風向きが変わってきた気がするねぇ。うん、早く異動したくなってきたなぁ!・・・ほいじゃ、日向さん、色々教えてくれてありがとさんじゃ。うちは異動希望の子たちの練習を見にいくけぇ」


日向「そうだな。異動希望の子たちの不安を軽くしてもらえれば助かるよ」



―数分後。利島鎮守府、武道館。


浦風「みんな、やっとるね!」


―堅洲島鎮守府に異動希望の艦娘たちは、特防別科『眠り花』所属の春風に稽古をつけてもらっていた。


涼風「あっ、浦風、どうだったんだい?」


浦風「うん、良い知らせばかりじゃよ。もうすぐお昼じゃし、後で食べながらでも話すけぇね。・・・あ、試合終わったばかりなん?」


涼風「あっ、そうなんだよ。すげぇよミカは!春風さんからついに一本取ったんだぜ!三本勝負のうちの一本だけどなあ」ニヤッ


三日月「あっ、そんな大騒ぎするような事ではないです!恥ずかしいですよ・・・」


春風「いえ、実際、大したものだと思いますよ?整然としたしぐさや雰囲気の中に、獰猛さを感じさせる太刀筋が眠っています。私の剣とは種類が異なりますが、激しい戦いに身を投じることになる鎮守府でやっていくには、良いものだと思いますよ?」ニコッ


浦風「うちも大したもんじゃと思うよ?それに、うちらの異動する鎮守府、艦娘も提督さんもぶち強いみたいなんじゃ」


春風「私は一部の噂しか存じ上げておりませんが、それほどなのですか?」


涼風「面白そうな話じゃないの!なあなあ、少し早いけど、お昼にして、詳しく聞かせてほしいねぇ!」


三日月「あっ、私も聞きたいです!」


春風「恥ずかしながら、私も興味があります。お聞かせ願えませんか?」


浦風「いいねぇ、うん、そうしよか!」


―利島鎮守府の異動組は、やや早い昼食にして、浦風から幾つかの話を聞いた。それは、戦意の高い異動組には喜ばしい話ばかりだったが、春風だけは少し違い、考え込むような表情をしていた。


浦風「・・・春風さん、なんか気になる事でもあるん?」


春風「いえ、そこまでの使い手の方で、提督に適した方は、確かもう居ない筈だと聞かされておりました。私たち艦娘の剣は、『天下三剣』と呼ばれる高齢の剣の達人の方々のうち、『剣聖』と名高い山本鉄水さまの剣を、青ヶ島の鹿島と、『開耶姫』榛名が引き継ぎ、私たちに伝えています。あとは、佐世保の武蔵と大湊の香取が、『剣豪』伊藤刃心さまの剣を引き継いでいるらしいのですが・・・」


三日月「初めて聞いたわ。もう一人の『天下三剣』は誰なのですか?」


春風「少し前にお隠れになられたそうですが、『隠者』と呼ばれた、高山無学さまです。この方はおそらく、艦娘には剣を伝えていません。お弟子さんも居たのか居ないのか、定かではないのです。ただ、扱える武器の種類は刀にとどまらず、最強では?との噂のあった方です」


浦風「春風さん、磯風はそういう話に詳しかったけど、『天下五剣』じゃないん?」


春風「よくご存じで。確かに、あと二人、すさまじい使い手がいるとされています。しかし、実はお二人とも軍属で、初期に提督に着任されており、海で消息を絶っているとの事です。既に失われた方々ですし、表に出せない話ですので、忘れて下さいませ」


三日月「でも、そうですね。名のある人はもう居ない、という事なんですよね?」


春風「はい。ただ、一つだけ気になる事を思い出しまして」


涼風「おっ、なんか面白そうな話じゃあないの!」


浦風「気になる事?」


春風「『剣聖』山本鉄水さまは高齢ですが、まだまだご健在なのです。しかし、二年ほど前に突然剣を捨てられ、長野で農作業に精を出されております。そのきっかけが、誰かに言葉で敗れたからとか何とか・・・」


三日月「言葉?剣ではなくてですか?」


浦風「どうして剣の達人が言葉で負けて剣を捨てるん?」


春風「事実なら、それだけ意味のある言葉で敗れたのだとしか思えません。天下三剣の方々は、その道は違えども交流もありましたから、三剣の誰かに、というわけでも無さそうです。時期的にあと二名の使い手は消息を絶った後ですから、案外、特務第二十一号の提督さんが、その方だったり、などと夢想していたのです」ニコッ


涼風「何だか難しい話だなぁ、くどくていけねぇや」


春風「私も少しそんな気もするのですが、気がかりなのも事実です。山本鉄水さまの直弟子でもあり、私の師でもある鹿島さんなどは、山本様を隠遁生活に追い込んだ方を探し続けていますしね」


浦風「磯風に聞いた事があるなぁ。『鬼鹿島』さんじゃな?探されてる人は不幸じゃねぇ」


春風「ええ。何としても見つけて倒す!と息巻いておりますから、この話は総司令部ではタブーなのです。青ヶ島の所属なのに、強くなり過ぎたうえ、より多くの情報を求める為に、総司令部付き教導艦との兼帯を買って出るほどの人ですから」


涼風「勝手に宿敵認定してるって事かい!」


三日月「でも、自分の先生を引退に追い込まれたらって考えると、その気持ちは理解できるわ」


浦風「うちは射撃ならそこそこ自信があるんじゃが、剣はいまいちピンと来ないからなぁ。なんであれ、もうじき全部はっきりしそうじゃね」


―これが、ある事件と、いずれ、手の付けられない強さになる艦娘の一人が現れるきっかけの、『蝶の羽ばたきの風』だとは、まだ誰も想像だにしていなかった。



―同じ頃、横須賀総司令部、元帥執務室。


霧島「元帥、お正月なのに本当にお疲れ様ですね。はい、こちら、現時刻での『常号作戦』の北東海域、南西海域、二方面の作戦経過です。本日未明から、激しい艦隊戦に突入していますが、やはり深海側の抵抗はいつもと異なっています」バサッ


元帥「明日限りの元帥と言えど、今更ながら尽力したい気持ちが溢れて来よってな。孫たちの顔を見れんが、ワシが今できる事をすべきかと思ってのう。・・・うむ、やはりあの男の立案は効果があるようだな。敵の編成も、遭遇海域の深度も、いつもとはだいぶ様相が異なっておるの・・・」


霧島「はい。間接的にですが、深海側の現在の戦力を推しはかれるだけでも、とても大きな戦果です。特務第一から第六までの提督と艦娘たちは、相当最後まで食い下がって、敵を削り続けたんですね・・・」


元帥「そうなるな。特務第一の提督、河島栄一郎はワシの同期でな。惜しい男を失くしてしまった。軍属としては立派な男だったが、提督としての適性は傑出していたわけではない。なのに、その誠実さで特務第一をあそこまで引っ張ったのだ」


霧島「そうでしたね・・・。元帥はこれから、どうされるおつもりですか?」


元帥「まだ考えがまとまらんがな、ワシは軍属としても何も傑出しとらんし、視野が広かったわけでもない。ただ、人に恵まれてここまでこれたのだ。その部分をよく考えようと思っておるよ。それに、なぜか知らんが『運営』がワシと一度話したいと連絡をよこして来よってな」


霧島「『運営』がですか?」


元帥「うむ。話をしてみようと思う。彼らは滅多に自分たちからは接触してこない。何かを知れば、何かが見えて来るやもしれんからのう」


霧島「そうですか。元帥、お気をつけて。私の計算では、身動きが取れ次第、堅洲島の提督さんとコンタクトを取った方が良いように感じますよ?」


元帥「・・・なぜ、そう思うかね?」


霧島「私の計算ですが、根拠は複雑すぎて、勘と言っても良いような状態です」


元帥「要するに勘じゃな?」


霧島「等式は成り立ちますね」キリッ!


元帥「いい加減じゃのう。・・・とはいえ、連絡を取るような案件も特にないからのう。どうしたものか・・・」


霧島「元帥、もうすぐ私も任期明けなのです。特務第二十一号への異動を希望しますので、元帥にご対応をお願いいたしたく考えているのですが」


元帥「なんだと!?なぜあそこに?そもそも霧島、お前はあの榛名とは・・・」


霧島「ええ、何度も大喧嘩しましたね。そりが合わなくて、海に出ていた頃から良くぶつかっていましたから。横須賀第一の榛名と横須賀第二の霧島は犬猿の仲として有名でしたしね」


元帥「ではなぜ?また喧嘩に・・・」


霧島「おそらく、ならないと思います。なったら安心なのですが・・・」


元帥「まったく意味が分からんな」


霧島「元帥、ある時から、私、あの榛名さんとケンカしなくなりましたよね?」


元帥「うむ?そうだったか?仲直りでもしたのかの?」


霧島「・・・私の勘では、あの榛名さんは、以前私が何度もケンカした『開耶姫』榛名さんではないです。偽物です。おそらく」


元帥「なんだと!?・・・霧島、わしを担いでおるのか?」


霧島「何度もケンカしたからわかります。『開耶姫』榛名は、氷のような目をした冷たい榛名です。最近異動していった榛名さんは、そこまで冷たい眼はしていませんでしたし、実戦を数えきれないほどこなして身につく気配がありません。信じがたい事ですが、途中から、違う榛名さんに入れ替わっている気がして仕方がないのです」


元帥「いや、流石にそれはどうかと思うがのう。そもそも、そんな事をする意味が無いと思うのだが。実際、あの榛名は武技も大したものだぞ?演習でもほぼ負け知らずだったしのう」


霧島「そうなんですよね。おそらく、誰にも破られないほどには、今の榛名さんは強かったはずです。でも、実戦の経験がどこまであるかは、少し疑問に思えます。私も生き残り組ですから、何となくわかるのです。・・・そして、おそらくですがあの榛名さん、誰かが勝って着任・異動させるのは想定外だった気がするのです。・・・いや、想定内だったのかしら?うーん・・・」


元帥「まったくわからん話だのう。・・・もしもじゃぞ、もしもそうだったとしたら、何のためにそんな事をするのだ?」


霧島「『開耶姫』榛名の噂を、元帥はご存知ですか?」


元帥「いや、『剣聖』山本鉄水に師事した剣の達人の一人、という事くらいかのう?あとは、武勲が素晴らしいが」


霧島「それらももちろんですが、実は『開耶姫』榛名は、『最初の榛名』だという噂があります」


元帥「なんだと!?・・・いや、それは無いじゃろう?『最初の艦娘たち』は、皆失われてしまったと聞いたぞ?」


霧島「そのはずなのですが、そうでないとしたら・・・」


元帥「最初の艦娘たちと、最初の提督については、わしでさえ閲覧できん機密なのじゃ。しかし、もしそうだとしたら・・・考えるだに恐ろしいのう。最初の艦娘たちは確か・・・」


霧島「はい。艦娘でありながら、私たちや人間を激しく憎んでいるとされています。私は『開耶姫』榛名の眼に、そういう冷たい憎しみを何度も見た気がしたんですよ。でも、異動していった榛名さんには、そんな眼の光は無かったんです。何度もケンカした私の事も知らないみたいにしていましたし」


元帥「・・・何だか、嫌な予感がするのう」


霧島「初めて元帥と同じ気持ちになりましたね!とりあえず、私は現在、高練度の為に総司令部付きですが、兼帯か異動を申請いたしますので、元帥の権限がおありのうちに対処していただければ、異動後も私なりに元帥のサポートをさせていただきますよ?」


元帥「それはワシも願っても無い提案じゃが、いいのか?特務第二十一号は、次回の大規模侵攻を止める役割じゃし、『運営』が彼を提督に着任させるまでの経緯はどうにも・・・」


霧島「はい。私なりに色々と調べています。ただ、現状で特務第二十一号の提督さん以上に提督の適性をお持ちの方は、もうほぼ見つからないとの事ですし、何だか私には、あの方は懐かしい感じがするのです。おかしな話ですが」


元帥「懐かしい?」


霧島「ええ。親しみをそのように感じているだけなのかもしれませんが・・・」


元帥「わからない事ばかりじゃな。うむ、ワシにできることがあれば協力はするからの?」


霧島「ありがとうございます!元帥」


―こうして、堅洲島鎮守府のメンバーの知らないところで、ある疑惑と、霧島の異動の話が持ち上がっていた。



―同日、再び堅洲島鎮守府、ヒトゴーマルマル(十五時)過ぎ、執務室ラウンジ。


提督「人払いの上、筆談希望とは・・・」


金山刀提督「あれから、おれ達はずいぶん話し合って、そして決めたんだ。あんたにとことんついていくってな」


瑞穂「はい。二人で話し合いました。大きな危険を顧みず、私たちを信じて、状況を大きく変えて下さった方。その方は何度も裏切りに遭ったと聞いています。なのに、私には筋を通すべきだと、選択の余地まで与えて下さって。・・・なので、私たちは」


金山刀提督「自分たちで覚悟を決めて、退路を断つことにしたんだ。それで、これからおれと瑞穂は、ここで勝手に有益そうな情報を紙に書いてやり取りする。その紙はここに忘れてしまうかもしれないが、適当に処分してくれ」


提督「・・・わかった」


―瑞穂と金山刀提督は、十分に打ち合わせしていたのだろう。メモ用紙に書いた事柄を一つ一つ、応接のテーブルの上に並べ始めた。


瑞穂のメモ『ここは当初、特務初号鎮守府になる予定のようでした。第二次大戦の頃から、この島は政府や軍の秘匿基地として使用されていたそうです。島の全容を詳細に把握することをお勧めします』


提督(戦艦の船渠のアナウンスはこれか!眠っている場所が他にもあるかもしれないと?)


金山刀提督のメモ『特務第七と、特務第七の川内は、特防の室長と志摩鎮守府が独自につけ狙っているそうだ。理由は、深海化した北上を暗殺したから。新年に横須賀に特務第七の大多数が来る予定だ。その時がヤバそうだ。志摩鎮守府の提督は月形惟子って女の提督だが、相当強いらしい』


提督(月形惟子?見覚えのある名前のような気もするが・・・)


瑞穂のメモ『提督さんの名前が、もしも一条御門なら、何も問題はありません。違う場合は、全てを疑ってかかってください。あなたの功績を、一時期誰かが、この方のものにすり替えようとした形跡があります。暗殺の危険さえあります。いえ、あったかもしれませんが』


提督(一条御門だと?確か、ほぼ全ての流派の剣を使える、御所の護り手の一族だな)


―提督は過去の話を思い出した。『天下五剣』に関するやり取りだ。



―提督の回想。


―何年か前、ある海辺の桟橋で、提督は老人と釣り糸を垂れていた。


老人「天下五剣とはのう。活人剣しか扱えぬくせに剣の道を説く剣聖とか呼ばれるジジイに、人を斬った事が無いくせに殺人剣の道を行かんとする、刀キチガイの伊藤と、その孫の狂犬に、あとはワシか」


提督「ん?もう一人は?」


老人「一条御門の当主じゃろう。いつの時代も最強の一角じゃからな。皇宮の護り手じゃ。都の一条通りの大門の最終防衛を任される一族じゃ。この国の全ての武技を使いこなせると言われておる」


提督「全ての武技を?」


老人「そうじゃ。正確には、武技の術理の神髄を受け継ぐことにより、何でも使いこなせる、と言った方が正しいかの。・・・まあ、ワシの剣の道と解釈は同じじゃな。但し、歩き方は異なるがのう。奴らは苛烈な詰め込み英才教育じゃからして。ワシは・・・虚室は白を生じる。合わせて、武技の無学たれ、じゃ」


提督「それはどういう意味なんだ?」


老人「そうじゃな・・・うむ?かかったぞい!」グイッ!


―老人は釣り竿を引いた。が、魚はばれてしまったようだ。


老人「釣ろうと思えば釣れず、斬ろうとすれば斬れず・・・を識るという事じゃ。ほっほっ」


提督「いや、全然わからないな!」


老人「わかってはいかん。分かるものではないからのう。体得するしかないのじゃ。・・・ところで、上海ではずいぶん人を守り、人を斬ったようじゃな」


提督「・・・ああ」


老人「それで良いのじゃ」


提督「え?」


老人「アフリカも、行きたくば行くがよい。但し、決して心折らず、死なずにのう。それこそが本来の剣の道じゃ。涙を、怒りを、虚しさを、全て剣と銃弾に込め、戦ってくるがよい。剣はやがてお前に道を示し、導くであろうよ。全ての剣技は本来、戦っていれば勝手に術理を理解できるものなのじゃ。そして、人を斬った者だけに、剣はその真の道を示すのじゃ」


提督「人を殺すことを否定しないのかい?」


老人「馬鹿な事を言うのう。刀は人を斬るためのものじゃぞ?そして、人は時に殺し合うものじゃ。ワシもお前も、世界の全ての人もみな、たどればどこかで先祖が人を殺しておるわい。ワシらは皆、人殺しの子孫じゃよ」


提督「皆、人殺しの子孫・・・」


老人「時に同族を殺してでも、何か大切なものを守らんとする意思・・・いやさ業かの?そのようなものが強いから、見てみい。金属の塊が空を飛び、建物は数多く天を突き、今や星の海にまで人は足を延ばしておる。全てその獰猛さゆえじゃ。本性を否定する事なく、進むが良い。・・・ただのう」


提督「うん?」


老人「いつも笑っておれ。笑えなくなったら、道を変えるのじゃ。良いな?」ニコッ


提督「・・・わかった」


―提督は、しばらく消息の知れない老人の事を懐かしく思った。



―瑞穂と金山刀提督のメモは続く。


金山刀提督のメモ『鎮守府の中には、提督が深海側と通じているところもあるらしい。特務案件には注意が必要だぞ』


提督(何だと?)


瑞穂のメモ『特務案件で、届け出上は引退したことになっている駆逐艦・朝潮のものがあると思いますが、彼女はこの、深海と繋がる鎮守府をあぶり出す特務を、亡くなった提督から受けて行動しているようです。また、提督も、後を追って解体を希望したとされる鳳翔さんも、実はどちらも存命です』


提督(思ったより複雑な案件だな・・・)


―こうして、覚悟を決めた金山刀提督と瑞穂は、提督に幾つかの有益な情報をもたらした。



―同じ頃、堅洲島鎮守府、一階ロビー。


磯波「良かった!また会えましたね!磯風ちゃん!」


望月「うおおマジかー!まさか再会できるなんて思わなかったよ!」


―三人は手を繋いで再開を喜んだ。


磯風「二人とも、息災そうだな!縁あってここで仲間としてやっていく事になった。利島とは何もかも違っていて、まだ頭が追い付いていないが、きっとこういう縁だったのだな。あとは、ここの司令は色々とすごいな!私の剣を止められてしまったんだ」


望月「良い司令官だよー。まだ仲間も少なかったころなんて、あたしたちの捜索の時におにぎりを握ってくれたり、ラーメン作ってくれたりさ。あと、すんごい強いんだよ!」


―望月は、捜索の時に食べたおにぎりと、堅洲島に来てからのラーメンが、ともに忘れられない味になっていた。


磯波「今はここの秘書艦で、たくさん仕事をさせていただいて、とても楽しい毎日なんですよ?」


磯風「秘書艦か!大したものだな!何か働きを認められたのだな?」


磯波「えっ!?・・・ま、まあそんな感じ、でしょうか?」


磯風「わずかの間に、自信と力強さが感じられるような雰囲気になったな。ここが私やみんなの『生き場』なのかもしれないな」


―磯風もまた、堅洲島の鎮守府に新たな『生き場』を感じ始めていた。何か、歯車が噛み合って回り始めたような、そんな気がしていた。



―同日夜、東京湾上空、高級水上飛行艇『朱鷺(とき)』、VIPルーム。


―貸し切りのプライベートフライトで、参謀とアメリカ政府の役人が密会をしていた。


参謀「『運営』の通知よりだいぶ早くて驚きましたよ。『ルート確認定例会』は、今月の後半の予定だったと思っておりましたが・・・」


アメリカ政府の役人「新年早々に申し訳ありません。そちら側ではそうでしょうな。『D』が高密度の最適化されたルートのせいで予定が詰まっている、という、現状では理想的な進行ですし、特に何も・・・このような緊急の会合を開く必要もない状況であることは把握しておりますよ」


参謀「こちら側?・・・まさか、そちらで何か動きがあったと?」


アメリカ政府の役人「ええ。『サラ』が目覚めました」


参謀「なんですと!?このタイミングで?・・・いや、そんなはずは。彼女は何か言っていますか?」


アメリカ政府の役人「はい。『私の仲間と提督に危機が訪れるから、すぐに着任したい』と」


参謀「その提督と仲間の特徴については?危機の内容については?」


アメリカ政府の役人「提督は『D』に間違いありません。『ハルナ』に関して、何らかの陰謀があるらしいことと、そう遠くない将来『D』と深海側の提督何名かとの戦闘状況が発生するようです」


参謀「馬鹿な!何かの間違いではありませんか?そんな状況が発生することなど・・・。あの榛名は『最強の榛名』であり、ほとんどいつも、最後まで提督と共に戦うはずですが」


アメリカ政府の役人「『サラ』が目覚めた現状をこちら側の閉鎖型コンピューターにて分岐精査予測を再度行ったところ、その『ハルナ』の件から何かが仕組まれていたとすれば、辻褄が合うとの事です。これは、おそらく今までの我々には盲点だったはずです」


参謀「なんという事だ・・・。榛名にさえ、何か仕組まれていたとは。つくづく陰湿だな!」ダンッ!


―参謀はテーブルに拳を振り下ろした。


アメリカ政府の役人「こちらが向こうを覗いている時は、向こうもこちらを覗いています。しかし、悪くありません。これは、ルート・Xへの分岐だと見て間違いないでしょう」


参謀「ついに我々は、誰も知らない未来に一歩踏み出したのか。一人の人間にここまでの権限と責任を集中して、ルート・Xに至れたという事は・・・」


アメリカ政府の役人「はい。彼が『最強の幻像』に近い事を意味しています」


参謀「ついに来たか!理解した。では早速、『サラ』についての調整を始めようではないか」


アメリカ政府の役人「ええ。急ぎましょう。彼女の話によると、この後早々に、彼女が戦うべき状況が地上で発生するとの事ですから」


参謀「地上で?わかった。最善をもって当たらせていただこう!」


アメリカ政府の役人「この件に関しては、我々はまだまだ身動きが取れません。まさか宗教観がこれほどに障害になるとは、想定外でしたから」


参謀「まったくですな」


参謀(何をどうしても訪れる、幾つかの最悪の未来。これを避けるためには、常に最悪の状態の『現在』を経なくてはならぬとは、なんという皮肉だ・・・)


―優雅にゆっくり飛ぶ水上機の窓から、横浜や東京の夜景が美しく映えていたが、多くの場合、いずれこれらは失われてしまうはずだった。そのような未来を打破しなくてはならない。


参謀(何としても、この過ちは正さねばならない!)


―現在、一見それほど不安定でもない世界と人類に起きている、ある恐ろしい事。参謀はそれを知っている、世界にごくわずかしかいない人間の一人だった。




第五十話、艦



次回予告


年明け早々に忙しかった堅洲島鎮守府では、提督がやっと正月休みを迎えようとしていたのだが、そうすんなり休めるはずもなく・・・。


夕張は提督から渡されたカヌーの図面から、インターネットで調べ物をするうちに、とてもよく似たカヌーの進水動画を見つける。


波崎鎮守府の鹿島は、おじいちゃん店長との約束で新年の演武会に参加する。練習巡洋艦の能力で一瞬で技を覚えていく鹿島に、達人たちは驚き、大喜びで数々の技を伝授する。


同じ頃、横須賀の総司令部では、榛名の異動に気付いた『鬼鹿島』が、特務第二十一号の詳細を調べようとしていた。


次回、『正月の一日』乞う、ご期待!



春風『強い艦娘と必ずやり合う事になる司令官様、心中お察しいたします』ニコッ


提督『そんなこと言いながら、木刀二本持ってくる君も大概だな』





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1: SS好きの名無しさん 2017-04-16 16:50:44 ID: O5TxXF_u

何か陽炎ちゃんがここの鎮守府所属って感じでしたね。
榛名が別物とはこれ如何に・・・
堅州の提督さんは一体どんな経歴の方なんだ・・・?

2: SS好きの名無しさん 2017-04-16 23:20:30 ID: 3YprtZ4v

続きがきになる…

3: SS好きの名無しさん 2017-04-17 12:55:49 ID: OtBFJ8EL

オル風さんとガラ雪さんはこんなところでなにやってるんですかねぇ

4: 堅洲 2017-04-19 00:22:57 ID: KoL61znR

1さん、コメントありがとうございます。

陽炎もやっと馴染んできましたね。この子も大事な立場の子なので、出てくることは多いかと思います。

榛名の件はいずれ真相がわかるかと思います。果たして別物か、本物か?

堅洲島の提督の経歴は、謎が多いですからね。楽しみにしていただければと思います。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

5: 堅洲 2017-04-19 00:26:15 ID: KoL61znR

2さん、コメントありがとうございます!

そう言われるのが、何よりの励みです。

怪我から復旧したら、書く時間が少し減って、哀しい限りです。

色々な事が起きる物語ですので、じっくりお付き合いくださいませ。

6: 堅洲 2017-04-19 00:27:54 ID: KoL61znR

3さん、コメントありがとうございます。

全くですね。毎回、色々な小ネタに気付いてくれる方がいて、書いている方も楽しいです。

やっと吹雪が出始めましたが、堅洲島の吹雪は本当に色々言う子なので。


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