2017-10-20 00:31:14 更新

概要

【●ワ●:最終決戦『承』】


前書き

最終章まで一気に投下しました。


ここまで読んでくれてる人にもはや注意書など。




オリキャラ、勢い、やりたい放題。海のように深く広いお心でお読みください。


【1ワ●:悪魔の装備:経過程想砲】

 

 

提督「響さん、ようやく目覚めたのですね。体調はどうです?」

 

 

響「ごめん。体調のほうは大丈夫」

 

 

響「それと妙なことにВерный艤装は響艤装よりも馴染むんだ」

 

 

提督「先程、響さんが艤装を身に付けた時のデータが送信されてきましたかま、狂ってなかったのかも。響さん、聞いてください」

 

 

提督「あなたの適性率は『170%』とあり得ない数値を叩き出しています」

 

 

響「私達は響とВерныйだから」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「すみません悪い癖が出ました」

 

 

提督「暁さんがかなりヤバいです。大破より中破でなお、探照灯で敵艦隊の照射を続けています。しかもあの子、空母棲姫を発見したら自分の指示を無視して最悪な位置に飛び込んでしまったので」

 

 

 

提督「阿武隈さん達にも戦線を下げてもらっていますが、前方との挟み撃ちの状況でまだ合流できません。照射を頼りに榛名さんと瑞鳳さんが援護をしてくれていますが、時間稼ぎ程度にしか」

 

 

提督「雷さん電さんともに、24隻の敵陣の真っ只中です。ルートはこちらで指示を出しますので、全速全前です」

 

 

響「了解。その数値だと戦闘に支障は?」

 

 

提督「断定は出来ませんが、ないかと。『未知の才能』です。今だと艤装に好かれたとかいう理屈で説明出来なくもないですけど」

 

 

提督「艤装が本来の性能を凌駕したという。近代化改修の域を越えていて、もはや訳の分からない状態です……」

 

 

響「まあ、もともとこの海はオカルトだよ」

 

 

響「そのオカルトが想なのは司令官が証明したじゃないか。私達が私達を理解不足だったのは理解しているよ」

 

 

提督「頼もしいですね……寝ていたことにも意味があったようでなにより」

 

 

天城「准将さん、こちらの現場ですので、指示に追加があれば」

 

 

提督「天城さんは響さんと電さんとともに戦線に加わっていただきたい。雷さんは艤装が破壊された暁さんを、拠点軍艦まで運んでください」

 

 

天城「直ちに」

 

 

響「暁、後は任せて」

 

 

暁「……うん」

 

 

雷「ほら、行くわよっ!」

 

 

電「私がなんとか動いていますが、海の傷痕がいるせいでもう持たないのです」

 

 

提督「直に中枢棲姫勢力が加勢に来ます。そのタイミングで全損傷艦は拠点軍艦に撤退させますので」

 

 

提督「それまで、です」

 

 

2

 

 

海の傷痕:当局【……】

 

 

海の傷痕:当局(……此方、響のことどう思う?)

 

 

海の傷痕:此方(あの艤装は探知できないけど、情報だけ分析すると、適性率のおおよそは推測可能だね)

 

 

海の傷痕:此方(150%は越えてる)

 

 

海の傷痕:当局【初ケースである。改造後のほうが適性率の高い響か】

 

 

海の傷痕:当局【少々驚いた】

 

 

海の傷痕:当局(どう動かすのだ? あの響に当局は負けるまであるぞ?)

 

 

海の傷痕:此方(まだまだ予定調和内でしょう。しかし、そろそろ本稼動だね。残りの想の回収に乗り出さなきゃ)

 

 

海の傷痕:当局(電は回収してある。重課金は出来ればでいいから、残るは中枢棲姫であるな)

 

 

海の傷痕:当局(予定通り『E-5』にて誘き出すか?)

 

 

海の傷痕:此方(うん。もう少しだけ時間を稼いで。私が現海界した時の装備の性能を調整しているから。ダメそうならラストの深海棲艦を包囲網の外から出現させる)

 

 

海の傷痕:当局(……それで?)

 

 

海の傷痕:此方(私の想をそっちの艤装に流し込んでる。ついでに経過程想砲を『優先してメンテナンスverを解除して射程をあげる』ね)



海の傷痕:此方(複製したほうの私を本官さんと同じ状態にしてロスト空間の維持を任せるつもり。恐らく来るであろう初霜に負けるけど)

 

 

海の傷痕:此方(まだ私の想を艤装に流し込んでることがバレないのが理想だから、カモフラージュできる?)

 

 

海の傷痕:当局(方法はある)

 

 

海の傷痕:当局(まあ、見せ場はそれなりにあげて回ったつもりだ。この後に甲大将のところに行くつもりが、無理そうだな。まあ、どいつもこいつも悪くはなかったぞ)

 

 

海の傷痕:当局【まあ、それでは】

 

 

海の傷痕:当局【Trance】

 

 

3

 

 

電(……響お姉ちゃんの砲撃精度が神がかってますね)

 

 

響「電、聞こえるかい? 私に対しては史実砲も経過程想砲も使ってこないね。私が相手をするよ」

 

 

電「……海の傷痕の速度があがりました。あれはなんなのです……?」

 

ドンドンドン!


 

響「む……艤装が生きているみたいに動くね……加えてあの速度は」

 

ドンドン!

 

電「司令官、偵察機の映像は」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「あの速度と艤装は『島風』かと。あの妙な挙動をする艤装は『連装砲ちゃんor君』と似てます、が……」

 

 

響「先程の被弾の再生待ちのため、回避に徹しているのかな」

 

 

提督「……、……」

 


提督「響さん、引き続き攻撃を。意識を割いて申し訳ないのですが、海の傷痕の挙動を細かく報告してください。電さんは引き続き天城さんの露払いで」

 

 

電「はい。そして追加報告です。新たな深海棲艦が流れて来ています。しかも重巡棲姫がいるのです……」

 

 

響「死地だね。正直、私は海の傷痕だけで手一杯だ」

 

 

提督「拠点軍艦の退避は完了しているので、引き撃ちで構いません。この局面で海の傷痕:当局は倒すのは厳しいので、倒すことよりも避けてください」


 

天城(……予想していたこととはいえ、さすがに厳しくなってきましたね)

 

 

天城(……、……)

 


天城(本当にギリギリの戦いですね)

 


天城(作戦の全貌が伝えてもらえなくても、将校艦隊は動けますが、それでも不利になるにつれて不安は出ます。士気に影響が出始める頃……)

 

 

天城「……っと、新たな敵影、深海棲艦型艦載機も、ですね」

 

 

天城「包囲網の外から、です」

 

 

電「……! 天城さん、その艦載機の対処はしなくていいです!」

 

 

天城「へ?」

 

 

電「あの艦載機の軌道、狙いは私達ではないのです!」

 

 

ガガガガガ

 

ガガガガガガガガガガ!

 

 

天城「海の傷痕と、深海棲艦を?」

 

 

天城「ということは……」

 

 

リコリス棲姫「ええと、これでいいのかしら。通信聞こえる?」

 

 

天城「中枢棲姫勢力ですね!」

 

 

リコリス棲姫「そそ。リコリス。海の傷痕はいるみたいね」



リコリス棲姫「到着っと」


 

電「……リコリスさん?」

 

 

リコリス棲姫「そうね。私とお墓作ってくれたの電ちゃん?」

 

 

電「……」

 

ギュッ


リコリス棲姫「ありがとう」


 

電「はわわ! 今戦ってるんだから抱き付くんじゃねーのです!」

 

 

リコリス棲姫「うーん、ただの電ちゃんよね」

 

 

電「あの時に思い浮かべた人が助けてくれました! これで十分でしょう! 手を動かすのです!」

 

 

天城(中枢棲姫勢力とはいえ、隣にリコリス棲姫とか恐すぎるんですが……闇の人達は感覚が狂ってるとしか……)

 

 

リコリス棲姫「ふふ、そうね。前のあの子は響ちゃんかしら。海の傷痕と一人でやり合えているだなんて凄い」

 

 

電「だーかーら!」

 

ドンドンドン


電「手を動かすのです!」

 

 

リコリス棲姫「さて、躾ね」


 

リコリス棲姫「世紀を跨いだそのオイタの報いを受けてもらおうかしら」

 

 

海の傷痕:当局【少し整えようか】

 

 

海の傷痕:当局【lastに向けて】

 

 

海の傷痕【経過程、想砲】

 

 

【2ワ●:E-5:それぞれの戦場へ】

 

1

 

大淀「――――」

 

 

大淀「想定を越えた規模の深海棲艦艦隊が出現しました。数はおよそ250体です。それも――――」

 

 

大淀「包囲網の外です!」

 

 

元帥「っ」

 

 

元帥「闇を除く戦力の包囲網を解かして、拠点軍艦の護衛に全戦力を割け」

 

 

大淀「艤装データの損壊状態が、い、いきなり5割を越えました! 全戦力の艤装損壊が2段階、あがりました。中破以上の艦の艤装が全壊! 北上、大井、漣、潮、サラトガ、陸奥、日向、黒潮の艤装損壊状態撃沈(仮)、航行可の継戦不可能状態です!」

 

 

元帥「了解。おい、各艦隊は指揮官の拠点軍艦まで撤退して、拠点軍艦の護衛に回ってくれ。各支援艦隊はC1-5の動きだ。散らばっている潜水艦は各艦隊に1名ずつ護衛に」

 

 

元帥「旋回しても背中に気を付けろ」

 

 

大淀「だ、ダメですこれ! 残存数の深海棲艦に囲まれてます! 深海棲艦数230……!」

 

 

元帥「おい丁、聞こえるか?」

 

 

丁准将「大淀がやかましいな。平手でもかまして黙らせてもらいたい。実戦から離れていた弊害か?」

 

 

元帥「マジで申し訳ねえんだが」

 

 

丁准将「長門陸奥日向は拾う。武蔵と大和と長門の3人でこの拠点軍艦を敵のど真ん中まで突っ切ろう」

 

 

元帥「全員聞こえたな。包囲の内側の敵は拠点軍艦と戦艦戦力で引き付ける。その間になんとしても自陣に戻れ」

 

 

元帥「おい准将、闇の戦力はこちらに回せんか?」

 

 

龍驤「龍驤さんやで。翔鶴不知火間宮は長門んとこに行ってるからこき使ってええよ。位置的な問題で阿武隈第1艦隊と明石君支援艦隊は丙少将の拠点軍艦、大鳳達は乙中将の拠点軍艦のところに回ってるな」

 

 

元帥「そろそろ全員生還に支障が出る。初霜達は」

 


龍驤「とうに向かったよ。いや、『まだ帰投していない』やね」

 

 

龍驤「中枢棲姫勢力から出撃の合図をもらったんやけど、向かっているのは包囲網の内側やね。各拠点軍艦のほうから突撃しとるみたい。内側は殲滅するから、外回りだけ注視してくれればいいみたい」

 

 

龍驤「わるさめは北上達を送り届けてから内に合流。中枢棲姫勢力、わるさめ、響改二、電、この戦力で海の傷痕:当局を含めた包囲網の内側を殲滅する」

 

 

元帥「了解だ。准将の予定なら『ここで仕留めにかかる』だ。准将に伝えておいてくれ。しくじったのならば『全滅は避けるため、全軍撤退』させると」

 

 

龍驤「了解」

 

 

元帥(……この航行可の、継戦不可の損壊、経過程想砲の射程が急に伸びたとしか思えん)

 

 

元帥(メンテナンスverの縛りが解けたのか? それとも海の傷痕:此方のほうがなにか……くそ、海の傷痕の力が多様過ぎて種を考えても分からん)

 


元帥「持久戦、ここが踏ん張りどころだ。闇が、任務を完遂するまで」

 

 

元帥「どうか、誰も死なんでくれよ」

 

 

2

 

 

漣「ほわっつ!?」

 

 

潮「勝手に艤装が自壊した、ね」

 

 

北上「この艤装の壊され方は……」

 

 

大井「航行は出来ますね。それ以外が軒並みです。誘爆しないように魚雷発射管だけ器用に壊すやり方は……」

 


北上「海の傷痕の経過なんちゃらですねえ。でもうちらのところまで届かないはずだよね?」

 

 

大井「甲さん」

 


甲大将「撤退しながら聞いてくれよ」

 

 

甲大将「元帥から闇を除く戦力撤退の指示が出た」

 

 

北上「……どゆこと」

 

 

甲大将「全員じゃねえけど、お前らみたいに艤装が使いもんにならなくやったやつが半数、今はもう5割の戦力失ったんだ」

 

 

大井「こんなこと出来たのに、なぜ今まで使ってこなかったんです?」

 

 

甲大将「知らねえ。とにかく死なないうちに戻ってこい」

 

 

龍驤「甲ちゃん、聞こえるー? そこにわるさめおるやろ。撤退の護衛につけるから、こき使ってくれてええで」

 


甲大将「ん、助かる」


 

北上「撤退はいいけど、5割の戦力ってボロ負け状態だよ。どうすんのさ?」

 

 

甲大将「お前らのがんばりのお陰で木曾達は温存できたから、なんとかなるよ。もう誰も死なせねえための支援でしか動かせねえ状態だけど」

 

 

大井「脇役でしたねえ。まあ、仕方ありませんね」

 

 

北上「ま、しゃーないか」

 

 

わるさめ「うんうん、生きてることに感謝して後は残ったやつに託しなー」

 

 

戦艦棲姫「そうねえ。でもさっさと逃げたほうがいいわよ。私の電探がさ、更に50体くらいの深海棲艦キャッチしてるからね」

 

 

3


 

日向「……あ?」

 

 

陸奥「私も……姉さんもね」


 

乙中将「そっちに先代の丁のやつが向かってるからそこまで撤退して。そこから指揮は僕から」


 

長門「了解。橋渡し助かった」

 

 

乙中将「これからが踏ん張りどころだからね!」

 

 

長門「陸奥、何体仕留めた」

 

 

陸奥「姉さんと私だけで30体は仕留めたわよ……姫3、鬼4の戦果ね。指揮してくれた乙中将殿に感謝しなければならないくらいなのに、不満そうねえ……」

 

 

長門「……」

 

 

日向「呆気ない終わりだと嘆くなよ。艤装がなきゃどうしようもないんだ」

 

 

長門「いや、私の艤装は半壊だぞ。陸奥は中破から一気に持っていかれたが、私は中破止まりだ」

 

 

日向「それを先にいってくれ。じゃあ私と陸奥が逃げる間に精々働くといい」

 

ドンドンドン!

 

陸奥「道が掃けてくわね……というか、軍艦が来るんだけど、その護衛にいるのは……大和型のお二人かしら」


 

日向「はは、軍艦じゃ深海棲艦は倒せないといっても、深海棲艦のサイズじゃ止めきれないみたいだなー」

 

 

大和「悠長なこといってないで乗り込んでくださいな♪」

 

 

長門「いいたいことは山ほどあるが」

 

ザパン

 

駆逐棲姫「……」

 


装甲空母鬼「……」

 

 

ヲ級改「……」

 

 

陸奥「35体ね……キツいわこれ」

 

 

武蔵「まあ、なんとかなるさ」


 

ドドドドドドドドドドドド!

 

ドンドンドン!


ドオオン!

 

 

大和「あら?」

 



 

 

 

 

 

 

レ級「ドンドンドンドンガガガガ!」

 

 

 

レ級「ドオオオオン!」

 

 

日向「中枢棲姫勢力かあれ?」

 

 

レ級「死ね死ね死ね――――シネ!」

 

 

レ級「テメーらデカブツどもは死にたくなきゃとっとと撤退しろよー! 潰しても潰しても沸いてくるからさア!」

 


レ級「道を空けろ、この量産型が!」

 

 

大和「あー、あの方が例の高知能深海棲艦ですか。本当に普通にしゃべるんですね。敵のオーラがありません」

 


武蔵「大和はあいつらと戦ったことねえからンなこといえるんだよ。あのレ級、私より強いからな」

 

 

日向「あいつの飛び魚艦爆と高速深海魚雷で辺りが火の海なんだが……」

 

 

レ級「最初期のウルトラ脳筋の攻撃が当たるか間抜けが! 海の傷痕に与しちゃうその頭の出来を恨みな!」

 

 

日向「この場で一番のウルトラ脳筋はあいつなんだが」

 

 

間宮「ちょ、え、これ魚ら」

 

 

不知火「この浅さなら」ガガガ

 

 

ドオオン!

 

 

間宮「不知火ちゃん、た、助かりました……」

 

 

不知火「おともがわるさめさん瑞鶴さんならまとめてもらってたかもしれませんね」

 

 

間宮「だ、大丈夫ですよ!」

 

 

翔鶴「あの、後方から北方棲姫が来ていますので、油断なさらぬよう。敵空母がうじゃうじゃいて、私だけでは制空権の確保はまず無理なので……」

 

 

陸奥「あら、翔鶴達も来たわね」

 

 

ザパン

 

 

伊13「伊九型潜水艦の改良改装型、伊十三型潜水艦の伊13、です……」

 

 

伊14「んっふふ、伊14も来たよ! 伊19は持ち場が違うから、乙中将のほうに!」

 

 

大和「あら、初めまして。大和です」

 

 

武蔵「悠長に自己紹介してる場合かよ……」

 

 

日向「ヒトミとイヨか。例のろーちゃんが来たらどうしようかと」

 

 

不知火「……ああ、あのろーちゃん」

 

 

間宮「疲労回復効果ありますから、ちゃちゃっと召し上がってください」

 

 

翔鶴「先代さん、辺りに艦載機を飛ばしてこの周辺の深海棲艦はこちらに引き付けてますが、大丈夫でしょうか?」

 

 

《いい判断である。先の我輩への暴行はチャラにしてやろう》

 

 

翔鶴(根に持つ人なんですね……)

 

 

《そこのデカブツども。さっさと乗り込め。我輩を無駄死にさせる気かね》

 


《大和は前方、武蔵は右方、長門陸奥は交互に入渠補充の後直ちに左方、翔鶴不知火は後方で眼をやりたまえ。間宮は兵糧配り終えたら直ぐに日向とともに通信室に来い》

 


《潜水艦は本来の任務に従事したまえ》

 

 

《状況を見極めてこの拠点軍艦を捨てて撤退だが、その時は指示を出す》

 

 

一同「了解」



4

 

 

木曾「ようやくか」

 


江風「待ちわびたよ。大将の気持ちがよく分かった時間だった。江風にゃ提督は無理だなー、辛抱強くねえ」

 

 

グラーフ「……全くだ」

 

 

甲大将「比叡と霧島もなー」

 

 

霧島「うーん、余裕ですね。この温存戦力なら他の艦隊の支援にも出向けそうです」

 

 

甲大将「そうだなー。多分、そろそろ来るんじゃねえかな。通信オンにしてるし」

 

 

提督「聞こえてます。その6名を温存しながら立ち回っていたんですか……」

 

 

甲大将「北上達の様子を見て、行かせる予定だったけど、与えられた役割はあいつらだけでこなせたしな」


 

提督「すみません、恐らく本官さんが救援を求めに来るので、比叡さんと霧島さんをお貸ししていただけないかと」

 

 

甲大将「もちろんだ。比叡と霧島は海の傷痕:此方撃破作戦の支援に向かってくれ」

 

 

比叡「金剛お姉様の支援ですか!!」

 

 

霧島「海の傷痕:此方のほうのデータもありますが、詳細の作戦をお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

 

提督「初霜さんが『海の傷痕:此方の能力を妨害しています』ので、現場の指示に従ってください。向こうの指揮はこちらからは執れませんので、旗艦に判断を任せています」

 

 

霧島「了解です。それで合流ポイントは?」


 

提督「陽炎さんが戻ってきてますので、海の傷痕:当局の戦闘海域を迂回してのD-2の地点ですね」

 

 

甲大将「はいよ、了解」

 

 

比叡「見せ場が来ましたよ霧島!」

 

 

霧島「そうですね、対海の傷痕:此方で編成された闇の戦力で苦戦しているとなると、やはり見せ場ですね」

 

 

江風「比叡さん達、いいなー。江風も海の傷痕とやりたかったよ」

 

 

霧島「目の前の敵を片付けて海の傷痕:当局のほうに向かえばいいのでは」

 

 

グラーフ「……いってくれる」

 

 

甲大将「北上達に感謝しろよー。その頑張りのお陰で『融通』が利いた」 

 

 

甲大将「とりあえず一人頭」

 

 

甲大将「25体で全滅だな」

 

 

山風「無理」

 

 

江風「おおい! そこはやるっていえよ!?」

 

 

山風「……全員生還、でしょう。無理なことは無理といわせてもらう。そうじゃないことは」

 

 

山風「……精一杯、やる、よ」

 

 

甲大将「結構だ。グラーフの護衛艦を頼むな」

 


サラトガ「Fight! 私の分もよろしくお願いします!」

 

 

サラトガ「危険だったら私がダイハツに乗って深海棲艦を素手で仕留めに行きますから」

 

 

江風「サラの姉御ー、その必要はないよ」

 

 

木曾「これ片付けたら、やりたいこともあるから、余力を持って片付けてくるつもりだしな」

 

 

甲大将「片付けたら、内のほうに行って海の傷痕に一発入れてきても構わん」

 

 

甲大将「作戦内容的に、准将はここが私達の限界と見定めてるから」

 

 

江風「腹立つなあいつ!」

 

 

グラーフ「冷静なだけだ」

 

 

甲大将「まあ、文句いうなよ。あの時に負けたからこの位置だ。だから、肝心なところは強いやつに任せる」

 

 

甲大将「それでいいんだ」

 

 

甲大将「巻き返して返り咲くには」

 

 

甲大将「もう、ここしかねえ」

 

 

甲大将「作戦は頭に入れたのなら、気合い入れろよ。終わってもやることは嫌になるほどあるんだ」

 

 

甲大将「さあ、抜錨だ」

 

 

木曾・江風・グラーフ「応!」

 

 

山風「は、い」

 

 

5

 


丙少将「闇の第1艦隊の指揮ねえ……」

 

 

阿武隈「よろしくお願いします! 提督と龍驤さんは立て込んでまして!」

 

 

阿武隈「ま、丙少将の手腕に期待していますよ!」

 

 

卯月「はよしろし。うーちゃん達ならどんな指示でも完遂できるから気負う必要はないぴょん」


 

丙少将「相変わらず口の減らねえ艦隊だな……」

 

 

丙少将「とりあえずやばそうなのはツ級と軽巡棲鬼、後はヲ級改か」


 

阿武隈「あ、ろーちゃんが来ました!」


 

丙少将「!」

 

 

丙少将「ろーちゃん、軽巡棲鬼の囮やってくれるか?」

 

 

ろーちゃん「了解ですって!」

 

 

卯月「お前が囮とは、メッキが剥がれてきたぴょん。ぷっぷくぷw」

 

 

丙少将「余裕そうなのはいいこった。だがお前は知らねえみたいだな」

 

 

卯月「?」

 

 

丙少将「まあ、いいや。軽巡棲姫を榛名と瑞鳳で、ヲ級改を卯月阿武隈、ツ級は」


 

丙少将「雪風と伊勢で行けるな?」

 

 

伊勢・雪風「了解です!」

 

 

明石「おい! アッキーと到着したぞ!」

 

 

丙少将「馬鹿野郎、秋月っていえ。誰かと思ったわ」

 

 

秋月「北上さん達が最寄りのこの拠点軍艦に向かっているので私達はここで資材を積んでそちらに向かえばよろしいでしょうか!」

 

 

丙少将「妹のほうは優秀だなオイ」

 

 

丙少将「その通り。お前らは」

 


丙少将「仲間の傷を治せ」

 

 

6

 

 

瑞鳳「え、ええ!? ろーちゃん軽巡棲鬼に突っ込んで行きましたよ」

 


榛名「榛名は大丈夫です!」

 

 

瑞鳳「いや、そりゃ榛名さんは大丈夫だろうけど! ああ、もう、艦載機発艦!」

 

 

ろーちゃん「ドーンドーンドーン!」

 


軽巡棲鬼「……」ジャキン


 

榛名「私は周りのお供をやるので、瑞鳳さんは軽巡棲鬼に艦爆を!」

 

 

瑞鳳「すでに!」



ドオオン!

 

 

瑞鳳「あ、ろーちゃんさん被弾しました……今の自分から当たりに……?」

 

 

瑞鳳「え、え?」

 

 

榛名「あのろーちゃんなら大丈夫です。ゴーヤさん越えの根性値ですから!」

 

 

ろーちゃん「0距離ドーンですって!」

 

 

瑞鳳「ちょ、ろーちゃん!? 0距離するような場面じゃないよ!?」

 

 

榛名「瑞鳳さんは今世代のろーちゃんの素質を知らないのですね。痛みを力に変えるあの才能、悪口を言われると喜び勇み、異様なまでの被虐趣味が長じて限界オリョクル最長記録保持者、ついた通り名が……」

 

 

ろーちゃん「もっともっともっと」

 

 

軽巡棲鬼「……コザカナガ、チョコマカト」ジャキン

 

 

ドオオン!



ろーちゃん「当ててこいですって!」イェイ

 

 

榛名「Disって☆ろーちゃん」

 

 

瑞鳳「!?」


 

榛名「さあっ! 切り替えまして!」

 

 

榛名「榛名!」

 

 

榛名「全力で参ります!!」ジャキン

 

 

榛名「瑞鳳さんも畳みかけましょう!」


 

瑞鳳「うわああん、ろーちゃん巻き込まないように艦爆狙うの難しいですー!」

 

 

7

 


乙中将「大鳳さん達に明石さん達も!」

 

 

山城「……あー、良かった。このまま私達が徒手空拳で戦いに行く展開かと焦ったわ」


 

扶桑「山城、資材の運搬手伝いなさい?」


 

大鳳「戦艦棲姫2体と深海海月姫までいますね……!」

 

 

乙中将「そいつらとの戦い方は頭に入ってるね。戦艦棲姫に対しては」


 

白露「囮だね! 私にまっかせて!」

 

 

乙中将「白露、任せるね。拠点軍艦は下がるから、とりあえずの狙いは前線になる。大鳳さん達の空母の火力を、」

 


明石さん「あー、乙中将、少しいいですか?」

 

 

乙中将「なに?」

 

 

明石さん「神通艤装と飛龍艤装、新しいの運搬してきたので」


 

乙中将「2ヶ月はかかる予備の艤装を? さっき壊れたばかりなのに?」

 


乙中将「本官さんの仕業だよね。明石さん艤装だけじゃなくて、他のも、か」

 

 

明石さん「うちの提督が本官さんに急ピッチでいくつか艤装を用意してもらったようです。乙中将は序盤で艤装壊されるとにらんでいたので、絞って建造してもらっていたみたいです」


 

乙中将「飛龍! 神通!」

 


飛龍「聞こえてましたっ!」

 

 

神通「直ちに出ます。白露と前線で?」

 

 

乙中将「うん。飛龍はクラゲのほうね!」

 

 

蒼龍「飛龍! 江ノ草隊の装備も持っていってね! きっと役に立つから!」


 

飛龍「蒼龍ありがとう! 蒼龍達の分まで戦ってくるからね!」

 

 

夕立「ガンバって欲しいっぽい!」

 

 

時雨「夕立、明石さんが補充に来るから、手伝いに行くよー」

 

 

飛龍「もちろん夕立時雨、扶桑さんと山城さんの分もね!」

 

 

山城「そういうのは現場で戦ってもらえれば伝わるからとっとと行きなさいって……」

 

 

乙中将「うん、山城さんのいう通り。神通はもう行ったからね。扶桑さんと山城さんは抜錨ポイントまでの艤装の運搬を手伝ってあげて」

 

 

乙中将「後、プリンツさんいるよね?」

 

 

プリンツ「分かっています。深海海月姫ですよね」

 

 

乙中将「飛龍もつけるから」

 

 

プリンツ「Danke!」

 

 

プリンツ「Fertig los!」

 

 

飛龍「え、なんて?」

 

 

乙中将「よーいドン! だって」

 

 

飛龍「ちょ、待ってよ!?」

 


【3ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-2】

 

1

 

初霜「……」


 

瑞鶴「あれ、なんか艤装が重く感じる」

 

 

陽炎「ちょ、金剛さんよね?」

 

 

金剛「んー? 陽炎は背が伸びて」

 

 

陽炎「金剛さんが小さくなってるんだって! 駆逐艦並みにチビになってるわよ! 声もなんだか可愛いし!」

 

 

金剛「……イエース、私もなんだか目線が低いデース。多分この身体のサイズ、義務教育時代に戻ってますネ」



瑞鶴「なにこれ! ロリ金剛さん可愛い!」

 

 

陽炎「本官さん、これなに?」

 

 

仕官妖精「どうやら先の龍驤達の奮戦により、ロスト空間の管理に異常が発生している模様であります」


 

仕官妖精「史実砲のギミックの再現が捩れているのであります。金剛、あなたの艤装を確認してみてください」


 

金剛「……これは」

 

 

金剛「改装、前?」

 

 

瑞鶴「金剛改二から金剛に?」

 

 

金剛「……うーん、まあ、数値的にはあながち間違いでもないですケド、この装甲が強化されていない……造りの特性からして、大改装前の……?」

 

 

陽炎「……あ、ヤバいんじゃないのそれ。いいのもらえばすぐに爆沈の怖れアリじゃ」

 

 

金剛「いずれにしろ、いつもと艤装の感じが違って戦闘に不備が出そうデース……」

 

 

仕官妖精「ま、艤装自体がロマンで出来ているのでそれに46砲を装備しても普通に扱えるはずであります。戦闘は可能なはずでありますから」

 

 

金剛「瑞鶴は大丈夫デスカー?」

 

 

瑞鶴「大丈夫。とりあえず変な風になったのは金剛さんだけね」

 


陽炎「……しかし、少し気分が悪いというか」

 

 

金剛「入っただけで疲弊するネ。前に不法侵入の罰で遠征させられた時のような疲れが」

 

 

瑞鶴「……まあ、確かになんか身体が重いわね」

 

 

仕官妖精「建造という手段で肉体は強化されるものの、あなた達の軍学校は甘すぎでありますなあ」

 

 

陽炎「本官さんの時代はハードだったの?」

 

 

仕官妖精「あの頃は殴る蹴るが日常でありましたので、それはもう。この任務の途中に私語、弱音、本官の時代ならすでにあなた達には厳しい鉄拳制裁が加えられているのであります」

 

 

仕官妖精「殴られやり返さず。そして自らが上に立てば後輩を同じように痛め付けるのであります」

 

 

初霜「ならば本官さんも鉄拳制裁ですね」

 

 

仕官妖精「後輩である限り、そんな正論をいうあなたが殴られるような体制でありましたなあ……」

 

 

初霜「駆逐艦、桃、ですね」

 

 

仕官妖精「本官の経歴、を?」

 

 

初霜「分かるんです。この場所はあの時と同じで、自然と繋がって、その一部のような感覚」

 

 

初霜「まるで故郷のような、そんな気すらします」

 

 

初霜「皆さん私達は最重要任務を受けているということをお忘れなきよう」

 

 

瑞鶴「……」

 

 

陽炎「でも肝心の海の傷痕:此方が見当たらないけど」

 

 

仕官妖精「雲隠れしているようで本官では探知できないのであります」

 

 

仕官妖精「どうも海の傷痕:此方はなにかしているようでありますね」

 

 

初霜「引き寄せます。提督から私の役割を与えてもらってますから」

 

 

初霜「この日のために研究部で私はロスト空間の滞在を想定して一時の訓練を受けてきましたからね。皆さん、目を閉じて肩の力を抜いてリラックスしてください」

 

 

初霜「……」スーハー

 

 

初霜「……、……」

 


――――

 

 

――――こ――――

 

 

 

――――――――こ――――

 

 

 

――――です――――。

 

 

【4ワ●:Rank:Worst-Ever-純度】

 

 

海の傷痕:此方(……見つ、かった……)

 

 

海の傷痕:此方(いや、これは……)

 

 

海の傷痕:此方(フレデリカさんみたいに呼ばれて繋がれただけじゃない……)

 

 

海の傷痕:此方(『本体:想』を繋がれて引っ張り寄せられた……!)

 

 

海の傷痕:此方「この芸当……」

 

 

海の傷痕:此方「不確定要素のWorst-Everです、ね」

 

 

陽炎「向こうから現れてくれたわね」

 

 

瑞鶴「……ま、理屈はどうでもいいわ。使命を果たしてとっとと戻る」

 

 

金剛「此方ちゃんに恨みはないケド、この戦争終結のため、心を鬼にして、撃沈しマース!」

 

 

初霜「……ロスト空間のことも海の傷痕のことも分かった気がします」ジャキン

 

ドンドンドン!


海の傷痕:此方「……っ」

 


初霜「なるほど、いくつか情報と齟齬がありますね。皆さん、海の傷痕の生態情報は全て捨てて下さって結構です」

 

 

初霜「海の傷痕は――――」

 

 

初霜「トランス現象で産まれただけのただの『神を語る人間』です」

 


海の傷痕:此方「Trance:経過程想砲!」

 

 

初霜「相殺ですっ」

 

 

ドンドン!

 

 

陽炎「……空中で爆発したけど」


 

金剛「海の傷痕:此方は経過程想砲を使った?

私達は損傷してませんネー」

 

 

瑞鶴「いや今さ、はっつんの艤装の装備が現れたように見えたけど」

 

 

仕官妖精「……、……?」

 

 

仕官妖精「本官にもなにがなんだか」

 

 

海の傷痕:此方(『Rank:Worst-ever』の対処法はあるけど、斜め上の順応の速さ……勝敗はともかく、時間だけは稼がないと)

 

 

海の傷痕:此方「……こほん」

 

 

海の傷痕:此方「初霜さんは来てから理解したようですね。此方は何分でも待ちますが、この場で作戦を組み直してはいかがです?」

 

 

海の傷痕:此方「このまま戦うより、勝ちの目が多くなるかも、ですー」

 

 

初霜「3分ですかね。攻撃してくれても構いません」

 

 

初霜「みなさん、ロスト空間は要は『想の純度』が物をいう世界です。先の乙中将艦隊も、龍驤さんも、その力で海の傷痕:此方と戦い抜いた。きっとその純度の段階を海の傷痕は主に『廃と重』で区別しています」

 

 

海の傷痕:此方(……)

 

 

初霜「例えばそうですね、提督のどこに皆さんは惹かれましたか、と聞けば、思うはずです」

 

 

初霜「きっと皆さんの好意のその根っこはあの提督の『純度』に魅せられたからのはずです。あの提督の純度がもたらした数々の功績」

 

 

初霜「なにかの節目の度に確実に戦争終結に階段飛ばしで駆け抜けている、それをさせるあの提督の純度のはずです」

 

 

初霜「それがロスト空間では強さの数値となります。要は心のパラメータの1つ、一途さ、ですね。その一途さを」

 

 

初霜「持ってすれば」

 

 

初霜「空に幻影だって」

 

 

瑞鶴「彗星……」

 

 

仕官妖精「……、……!」

 

 

仕官妖精「海の傷痕の」

 

 

仕官妖精「桃の木山の木山椒の木。初霜は想の力を、使いこなしているのでありますか……」

 

 

初霜「説明は長くなるので今は省きます」

 

 

初霜「旗艦としての指示です」

 

 

初霜「『考えるのではなくて、感じてください』」

 

 

初霜「『理屈で勝利を想い描くのではなく、心で勝利を願ってください』」


 

瑞鶴「理屈じゃないほうは得意分野ね」

 

 

陽炎「まあ、私は強いとも賢いともいえないからねー。その分、心で勝利を願ってきたわよ」

 

 

金剛「バーニングラヴに全力ですネ。任せてくだサーイ!」

 

 

初霜「その通りです。皆さんはこのロスト空間で戦える人達です。提督はちゃんと私達のこと、見てくれています。その上で勝てると踏んで、任務を与えました」

 

 

初霜「その期待に、応えます」

 

 

海の傷痕:此方(……、……)

 

 

海の傷痕:此方「おかしいですね。真っ白な幼少時代のあなたでもなく、戦争という無視できない現実を経た人間が、理屈を無視した人間になれるわけがないのです」

 

 

海の傷痕:此方「あなたの数ある適性が狭まっていってるのがその証拠ですよ?」

 

 

初霜「ううん、それは違うわ」

 

 

初霜「私の本質は変わってない。あの頃は何者にもなれていただけ。この艤装が揶揄される文句と同じ器用貧乏みたいな感じです」

 

 

初霜「数ある可能性を選んで行っただけ。それは狭まったのではなく」

 

 

初霜「選び取っただけ。その1つ」

 

 

初霜「その1つの純度は、ただの無垢さゆえの純粋ではなくて、歳月を重ね、あらゆる感情の過程を経て」

 

 

初霜「あの海を愛した自分の純度を遥かに越えると断言できます」


 

初霜「あの海と、軍艦初霜の最後の特攻作戦の夢から始まり、様々な海を乗り越えてきて」

 

 

初霜「集約したのです」

 

 

初霜「皆さんも強く、ただ純粋に、心のままに、その想いの波に身を委ねるように、一心不乱に」

 

 

初霜「出来るだけ助けたい。全員、です。鼻で笑われるものですね。理屈で理想を笑われるでしょう」

 

 

初霜「理屈ではなくて、時の流れによって、遅れと、錯誤と、そう風化しつつある学習です。『頭ではなく身で体得』すること」

 

 

初霜「『全員生還での戦争終結』」


 

初霜「成し遂げます」

 

 

初霜「必ず勝てますから。これは勝ち戦であり、海の傷痕にとっては負け戦、今はその追撃戦です」

 

 

初霜「気を付けるのは、窮鼠猫を噛まれることだけです」

 

 

海の傷痕:此方「――――っ」

 

 

初霜「気力」

 

 

初霜「振り絞って参りましょう」

 

 

初霜「戦闘開始」 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海の傷痕:此方(あの頃はネバーランドの住人の才能がありそうとは思ってたけど……今は)

 

 

海の傷痕:此方(立派な兵士、ですね)

 

 

【5ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-3】

 

 

海の傷痕:此方(……想がジャミングされてる……妖精工作施設が使えない)

 


海の傷痕:此方(ロスト空間が、向こうの流れを汲んでる……究極的なまでの純粋無垢な好きと願いを踏まえた心、か。ロスト空間の想が弾かれ、より純度の高い初霜の心を映してる……)

 

 

海の傷痕:此方(たった一人の心に負けてる)

 

 

海の傷痕:此方(それほど勝ちたいってことは分かるけど、その度合いが想像し切れない。そう前も結論付けて『Worst-Ever』だと理解を投げた子が……)

 

 

海の傷痕:此方(私に勝つためだけにあの時の純度を越えてきた。これほど信仰してくれる人もそういないけど)

 


海の傷痕:此方(継ぎ接ぎ、だね。その純度は波のような感覚がある。まあ、器となる身体があるんだから、限界はあるよね。永久に集中が続く人なんていない)

 

 

海の傷痕:此方(命令に忠実な機械や想いに縛られた幽霊じゃないと)


 

海の傷痕:此方(寄せて返したその時に)

 

 

ドンドンドン

 

 

初霜「っ」

 

 

海の傷痕:此方(……経過程想砲は捩じ込める)

 

 

海の傷痕:此方(当局、聞こえる?)

 

 

海の傷痕:当局(聞こえている。先程から、此方の心の声もだが、そっちに意識を避けんから、単刀直入に)

 

 

海の傷痕:此方(残り5分でそっちの艤装に完全に移れるよ。『艦隊これくしょん』のデータも持っていくね。そっちは?)

 

 

海の傷痕:当局(家の仕事は此方に頼むのである。時間の調節はそちらでやってくれ。当局はこれから)

 

 

海の傷痕:当局(中枢棲姫勢力の殲滅に移る。なるべく響改二も無力化しておくよう善処はするが、現海界のタイミングはそちらで測って欲しいのである)

 

 

海の傷痕:此方(電の想は、すでに回収して取り込んである。中枢棲姫勢力のチューキさんだけは頼むね。そちらの時間で後、2時間後くらいになるかな)

 

 

海の傷痕:当局(了解である。見積もろう。いざという時は使うからサインを送れ。使う、でいい)

 

 

海の傷痕:此方(了解)

 

 

瑞鶴「しっぶといわねえ!」

 

 

陽炎「そろそろ観念して降参すれば一思いに沈めてあげられるわよ!」

 

 

金剛「負ける気がしませんネー」

 

 

金剛「はっつんのお陰でただの砲雷撃戦。あなたの素質が高くても、想の力を塞き止められている以上」

 

 

金剛「ただの強敵に過ぎまセーン!」

 

 

金剛「そんな海は腐るほど乗り越えてきたネ!」

 

 

海の傷痕:此方「楽しい」

 

 

海の傷痕:此方(アップデート、完了)

 

 

海の傷痕:此方「……Set」

 

 

瑞鶴「ん、その艤装、軽空母?」

 

 

海の傷痕:此方「艦載機、発艦!」

 

 

初霜「……、……?」

 

 

瑞鶴「ちょ、軽空母みたいだけど、私の艦載機が火力で押されてる!? なにあの性能!」

 

 

海の傷痕:此方「ヒント」

 

 

海の傷痕:此方「とおおお↑う↓」

 

 

3

 

 

陽炎「ヒントというか答えみたいなもんじゃない! その奇声は確か適性者不在の最上型熊野!」

 

 

金剛「空母になれたのなら、IF改造? 適性者不在の歴史のせいネー。その形態の軽空母の熊野のデータはまだなかったはずデース!」

 

 

初霜「創作空間ですから、やろうと思えば他にも出来ますよ! ただ海の傷痕の性質的にモチーフが必要です!」

 

 

初霜「飛龍さん達が沈んだ海戦後に巡洋艦の空母化は検討されていたはずですから、そこからです!」

 

 

初霜「惑わされないでください。強力な空母の域を出ませんから、瑞鶴さんでも十分に太刀打ちできます!」

 


瑞鶴「『瑞鶴でも』ってなに!?」

 

 

初霜「言葉の綾ですからっ!」

 

ドオオン!


金剛「Shit! 痛いネ……あっ、提督に貰った大切な装備がぁ……」ポロポロ

 


陽炎「金剛さんが中身も幼児化してきてるんだけど!?」

 


海の傷痕:此方「隙あり、です」

 

ドオオン!

 

瑞鶴「っ、私は中破で、金剛さんが大破!」


 

金剛「まだ、まだ、デース……」フラ

 

 

陽炎「……っと」ガシッ

 


陽炎「初霜、あんた海の傷痕みたいに女神の力を、金剛さんに使えないの!?」

 

 

初霜「出来ますが、無理です。瑞鶴さん、私も手伝いますので、一気呵成です!」

 

 

海の傷痕:此方(む、いい状況判断力ですね。金剛の修復に意識を割いたら、その瞬間に経過程想砲で全員大破させられましたが……)

 

 

初霜「向こうもすでに大破よりの中破判定です。時間もかけられません!」

 

 

初霜「ここで決着をつけます!」

 

 

海の傷痕:此方「かかってきなさい」

 

 

海の傷痕:此方「海の傷痕装甲服!」

 

 

4


 

ドオン!


瑞鶴「今度は海月姫か。どうせおちびみたいに意地の悪い隠し方をしているんでしょうね……」

 

 

初霜「私が突破します!」ジャキン

 

ドンドン!

 

海の傷痕:此方「……っ」

 


瑞鶴「一気に大破!?」

 

 

初霜「効果艦の酒匂なら適性ありました。艤装なんかすぐにイメージできますし、ロスト空間ならそれをすぐに質量化できます!」

 

 

瑞鶴「いや、私は出来ないし、はっつんだけだって。でも、チャンスね!」

 

 

海の傷痕:此方「初霜はまるで妖精に近いですね……素質が私への特攻として機能しますか」ジャキン

 

 

初霜「来ますよ!」

 

 

ドオオン!

 


初霜「……っ、特殊、潜航艇っ」

 

 

海の傷痕:此方「大破しても、純度が濁りませんか。ようやく、あなたの想いの深さを実感出来てきました」

 

 

海の傷痕:此方「……っ、弓?」

 

 

瑞鶴「飛距離延びてるからね、変化しないまま刺さっちゃったけど、そこから変化して、そのはっつんが開けた風穴に」

 

ドオオン!

 

瑞鶴「初見だった当局ならまだしも同じ手にひっかかるのかー。艤装作ったのあんたでしょーが。あまり賢くないの?」

 

 

海の傷痕:此方「わざとですよー」

 

 

初霜「あ、瑞鶴さん!」

 

ドオオン!

 

海の傷痕:此方「海中から飛び魚艦爆です。その言葉、そっくりそのままお返しを」

 

 

初霜「……」ガシッ

 

 

初霜「一旦引か、ないと」

  

ドンドンドン!


初霜「あ、」

 


海の傷痕:此方「経過程想砲」

 

 

海の傷痕:此方「意識を割くから。大破撃沈の仲間で揺らぎます。そこが常駐の廃との差です。電さんなら、私に攻撃していたはずです」

 

 

ドンドンドン!

 

 

金剛「それはあなたもデース!」

 


海の傷痕:此方(……全快して、る? それも金剛改二艤装、身体のサイズも戻って、る)



陽炎「はっつんに瑞鶴さん、下がるわよ。少し引いていなさいな」

 

 

初霜「……あれ、は」

 

 

仕官妖精「ふう、本官の仕事は早いでありますよー。支援艦隊を連れて来たのであります」

 

 

比叡「……は、鼻血が止まりません」ダラダラ

 

 

霧島「ええ、とても良いものを見させて頂きました」

 

 

比叡・霧島「小さい金剛お姉様!」

 

 

金剛「比叡霧島! いい加減にしなヨ!? そんな場合じゃないデース!」

 

 

海の傷痕:此方「え、嘘、あの比叡と霧島の想の純度、」

 

 

海の傷痕:此方「廃レベル!?」

 

 

比叡「お姉様を想う心で、この私に勝てる存在がいると思うのですか?」

 

 

霧島「全くです。ロスト空間のことは准将から聞いています。この創作空間で愛する金剛お姉様の姿形を思い描いて元に戻すことなんて」


 

比叡・霧島「お茶の子さいさいです!」

 


パシャパシャ

 

 

海の傷痕:此方「眩しい、これ……フラッシュ……?」

 

 

青葉「どもども青葉でっす♪ ロスト空間の調査係として同好させていただきましたよっと♪」

 

 

青葉「ロリ金剛さんも撮りましたので、生きて帰って来られたら現像して差し上げますね~」

 


青葉「此方ちゃんの写真もしかとー。そのアンニュイな表情いいですね~」

 

 

海の傷痕:此方(……あーあ、空気が完全に壊れちゃった。縛りを解いて原子爆弾でも落としてあげたいや)

 

 

金剛「はっつん、指示は出せるー?」

 

 

初霜「陽炎さんは瑞鶴さんの護衛を、私は……引き続き、ロスト空間の制御に……長くは、なので」

 

 

金剛「了解!」

 

 

比叡「過去最高に気合い入れて行きますから、お覚悟を!」

 

 

霧島「さっさと片付けてこちらから悪戯できなくすれば、向こうの皆さんの負担を減らして差し上げないと」

 

 

青葉「あー、青葉は内陸でばっか仕事してて練度そう高くないんで、こそこそとガンバりますねー」

 


海の傷痕:此方「……」

 

 

青葉「海の傷痕さん、私達、勝って終わりますからねー。絶対に同じ歴史ではないです。私が真実を後世に残していきますよ」ニコニコ

 

 

海の傷痕:此方「……メディアも大本営も、信用できないんですよ」

 

 

海の傷痕:此方「しかし、私も」

 

 

海の傷痕:此方「まだ、戦えます」

 

 

金剛「それでこそ。手向けられるというものネ」

 

 

金剛「ここからの砲撃一発ずつがこの戦争で散っていった皆の弔砲」

 

 

金剛「そして提督のHeartをつかむ愛の祝砲デース」

 

 

金剛「その重さを受け止めてみるといいネ」

 

 

金剛「全砲門!!」

 

 

 

 

 

 

金剛「Fire!」

 





初霜(……ここで必ず仕留めます)



初霜「……鉢巻き締め直そう」




【6ワ●:想題:初霜】

 


5歳の頃は、ちょっと疲れてたことを覚えている。勉強、習い事、たくさんのことを親から強要されていた。

 

 

自分の意思とは別に。産まれてきた時と同じだね。生きている実感ってのがあの頃はなかったんだ、と思う。


 

幼少期の頃の記憶自体が唯一しっかりと覚えているのは、誘拐されてから保護された時の間のこと。

 

 

初めて見た海に見惚れた時のこと。


 

今、思うと哲学していた。

 

 

あの景色の中で真実を探求した思考回路だ。特別な体験だったけど、別に特別なことを考えたわけでもなく、誰でも1度は思考したことがあるのだろう、と今となっては思う。それが私の場合はちょっと早かった。


 

生きる意味とは。

 


生物の図鑑を開いて色覚の項目に目を通した。その時にびっくりしたのは人間が見ている景色と犬や猫が見ている景色が違うということ。

 

 

どっちが本当の世界なの?

 


先生に聞いたら、どっちだろうね、と。

 


犬猫に聞いたら、返事はない。

 

 

違う、とはいわない。分からない。

 

 

私が見ている景色は偽物で、犬猫が見ている景色が本当なんだろうか。もしかして私達は同じ世界にいるように見えているだけ、だったり。

 

 

拐われてもあまり深く考えてもいなかった。そんなモヤモヤを更に深めるかのような景色に、考え事してた。

 

 

なぜか青い空を覆うように広がる白い叢雲に、

 

なぜか寄せては返すさざ波に、

 

なぜか迸る稲妻に、

 

なぜか氷が吹雪いて。


なぜか吹き付ける風。

 

なぜか空から垂れる雨。

 

なぜか揺れている木々の枝葉。

 

なぜか足元にいる黒蟻。



初めて実物を見た海との関係の始まりだ。

 

 

そういえばあの図鑑では生物のなかで虫が最も繁栄に成功しているってあった。けどけど、私は細菌のほうが数が多いんじゃないかって思う。細菌って生物じゃないのかな。



なんだか、考えるの面倒臭くなってきたから、考えるのを止めた。それでいいや。だって人間のほうが賢いのに、虫のほうが成功しているんだから。

 

 

たくさん勉強させられていたけど、この世界で生きていくのに本当は知能なんていらなくて、本当はただ死ぬまで生きているだけでいいんじゃないかなって思った。

 

 

目の前にあるたくさんの『なぜ』は、私をそんな風に思わせた。

 

 

神様がこの世界を作ったとか。その景色のどこを見ても神様の発明を感じられた気がする。

 

 

そんな風に思う私。

 

 

親が子の幸せを願って名前をつけるように、この世界にある全ては私が名前をつけて行けばいいのかもしれない。

 

 

なぜか青い空を覆うような叢雲に名前を。

 

なぜか寄せては返す波に名前を。

 

なぜか吹き付ける風に名前を。

 

なぜか揺れている木々の枝葉に名前を。

 

なぜか足元にいる黒蟻に名前を。



みんなに愛着が沸いてくる。その眼に映る景色が好きになっていく。観察していくにつれて知っていく。初めまして、から、知り合いへ。知り合いからから友達から。お友達から家族へ。


 

すごく、楽しい。

 

 

小屋の気が独りでにギシギシと軋む。なんだか、外のほうに逃げていくようなギシギシの音だ。仲間外れにされたことを怒ったのかもしれない。名前を考えた。決めた後にその板のほうを向いて名前をつけた。

 

 

もしかしてあの足音みたいなの、本官さんだったのかなって今となっては思う。出てったのかな。あそこには眼には見えないものも、いたんだ。

 

 

どれくらいの時間が、経ったのか分からない。お腹が鳴って、這いずるようにドアの前のご飯のところに行った。

 

 

お手紙があった。そこの窓から見える丘からの景色は綺麗ですよ。なら、ちょっと行ってみよう。

 


遠出なので歩行器に頼って外に出た。靴を履き忘れたけど、まあ、いいやってそう思ったから、まあ、いいや。

 

 

足の裏が冷たい。夜が明ける前に行かなきゃね。ゆるやかな坂の霜道をゆっくりと確実に歩いた。

 

 

そこから見た景色は海しか見えなかった。でも、吹き付ける風が、冷たい空気を肺の中に入れ込む。外に出ると、みんなと一緒になれた気がした。

 

 

太陽が昇って、沈みかけた暁の時、いつもと違う輝きが見えた。緑色の太陽だった。ずっと見惚れてた。

 

 

後ろから誰かに声をかけられた。

 

 

私の冒険は終わりを告げた。

 

 

2

 

 

ああ、なんてことだ。私はもう9つになっていたらしい。皆はもう小学校高学年になっている。私はまだ入学もしていない。親から勉強は大事だといわれていたから、それがダメなことだとは分かる。私は自然の一部から人間へと戻ることになった。

 

 

けど、親は私に会いに来ても、迎えには来てはくれない。その施設で、親と施設の人が話していた。親がいった。

 

 

『海で暮らせる方法がある』と。

「学校行かなくていいの? 怒らないの?」

 


「うん」と笑った。

「そっか、それなら、それがいい」と私は答えた。

「またね、お姉ちゃん」と母の隣にいた見知らない小さい女の子がいった。

「? またね」と私は返した。

 

 

そこから先は困難の日々だった。騙された、だなんて思った時もあった。すぐに理解はした。自分の境遇は現乙中将が教えてくれた。親に見離されたと。

 

 

9歳の子供にそんなことストレートにいう人だった。最も現実をしっかり受け止めさせようとしたそれは、兵士としての教育のようなものなのかも。

 


あんまり悲しくはなかった。思えば産まれの親には愛を受けたけど、その私のための愛は押し付けられてばかりで、私は好きじゃなかった。


 

でも、涙が出たな。

 


山城さんなあたふたした。

飛龍さんが、いないいないばあ、と変な顔をした。

蒼龍さんが、飛龍さんを小突いた。私の頭を優しく撫でた。

神通さんが、悲しげに目を伏せた。

時雨さんが、左手を握ってきた。

夕立さんが、右手を握った。

白露さんは、水道のようにだばっと目から水を流していた。

扶桑さんが膝を曲げて視線を合わしてきた。ぎゅーっと抱き締めてきて、私はその大きな胸に顔を埋めた。

 

 

子供扱いされたのはそれで最後だった。それから私は一人の兵士として容赦なく鍛えられた。子供の教育とかそんなのどうでもいいといわんばかりに死なないための教育を徹底された。

 

 

ミスをすると頭ごなしに怒られる。死にそうになると、ちょっと違う。みんな、泣きそうな顔で怒る。

 


乙中将は将として優れているけど、私には少し冷たかった。思えば時雨さんや夕立さん、白露さんにもそうだった。

 

けど、それはあの人なりの私との付き合い方なんだ、と今なら分かる。私はなんだかんだいっても子供だ。優しくしてもらえば、甘えてしまうだろう。戦場において誰かへの甘えの意識は死へと繋がる。誰かに頼られるくらいであれ。私はそんなメッセージを感じて、皆の背中を見ながら勉強した。

 

 

そして第2艦隊の旗艦に任命されることも出てきた。

 

 

確かな愛と絆を感じた。ちゃんとこの歯車の一部になれているようだ。

 

 

丙乙甲の人達は、そのただの記号の旗に意味をつけている。あの時、そこにあるものに名前を与えていた自分と似ている。やっぱり私は人間のようだ。人間として生きていくことを選ぶに足りる理由だ。

 

 

海は、私の全てになった。

 

 

期待に応えた。海は、好きだった。初めて海に出た時から、ここは私が生命を営む場所だと、そう思えたからだ。

 

 

危ない場面もいくつかあったけれど、乗り越えてきた。戦争を終わらせるために。勝っても負けても悲しい涙を流す戦争を終わらせるために。

 

 

それが、私の戦う燃料へと。

 

 

終わらないと詩人さえも詠うこの戦いの出口はいまだ見えない。いつか必ず、と私は毎日、海に出ていた。


 

状況は変わらない。現状維持で、海の広さは減ったり増えたりの綱引きだ。

 

 

乙中将の旗のもと身を粉にして戦って、戦い、続ける。その時はこの戦いに生きてリタイアしていった先人の言葉に、共感をし始めていた。たくさん優秀な人達がいる。それでも、それでも、終わりはいまだ見えない。

 

 

深海棲艦は自然のようにそこにあり続ける。神様の存在すら感じる戦いだ。

 

 

そんな頃だった。

 

 

未知の深海棲艦、中枢棲姫勢力との戦いに支援艦隊として急遽、駆り出された。丙少将の艦隊に加えて扶桑さん山城さん飛龍さん蒼龍さんもいるはずなのに駆り出されるということは、そこが相当な死地だとは想像に容易い。

 


乙中将の指示に従い、最近に活動を始めた例の鎮守府の提督の指揮下に入ることとなった。

 

 

そこの提督は生気の薄い幽霊みたいな雰囲気の人だ。 実際、その提督は乙中将やみんなから感じ取れていた温かさというものが全くなかった。幽霊みたいな生気のなさと、機械みたいな冷たさ。

 

 

しかも、例のない高知能型との戦いだ。みんなが生きるか死ぬかの戦いを繰り広げているなか、海の底を撮影するだなんてなにを考えているの?

 

 

信じられない。

 

 

合同演習時から悪い噂から信じられない提督だとは認識していたけど、本当に信じられない。

 

 

 

私はその海で、

 

 

その信じられない提督が、

 

 

神様の首根に刃を突き付けるという。

 

 

信じられない暴挙をしているのを見た。

 

 

3

 

 

なぜかその提督だけでなく、私にも見える深海妖精が、頭から離れない。

 

 

乙中将になにか勘づかれたのかもしれない。二人で話をすると「あの鎮守府に行きなよ。きっと初霜さんにとってプラスになると、なんとなく思う」と。

 

 

とりあえず気になることがあの鎮守府にたくさんあるので、向かうことにした。金剛さん榛名さん、瑞鳳さんも。

 

 

乙中将はあの提督のことを純粋に絶賛していた。でも、飛龍さんや山城さんが複雑そうな顔をしていたのを覚えている。戦争終結に繋がる出口への道の発見。それ自体は喜ぶ他ないけれど、それをしたのが、

 

 

 

 

 

 

 


 

 

対深海棲艦海軍の爪弾き者。

 

 

たまたま最高戦力を扱えるという点だけで提督の椅子に座り、電に間接的に指示を出すだけの道具で、その手腕にはなにも期待されていなかった人らしい。


 

対深海棲艦海軍が、無能だと、馬鹿だと、組織の隅に追いやった人間に、無能なのはお前らだという言い付けたのも同然の所業。

 

 

本当に大騒ぎだった。軍の中にはその功績を称える者、プライドに傷がついた者、様々な感情が吹き出していた。

 


その感情の処理をあてがわれたのが甲大将だ。あの時は甲大将も珍しく激怒していたんだっけ。その功績を横取りする羽目になったのだから。

 

 

軍はまた間違えた。

 

 

その提督は、天命を持っていた。常軌を逸していたのだ。


 

いや、違うかな。

 

 

この鎮守府が常軌を逸していたのだ。

 

 

深海妖精の発見に留まらず、

 

 

殉職処理されていた駆逐艦春雨:Tipe Tranceを軍に寝返らせ、

 

 

乙中将を下し、

 

 

深海妖精を陸地に誘い、

 

 

トランスタイプの全貌を暴いて、

 

 

深海棲艦の裏にいる海の傷痕を引きずり出し、

 

 

駆逐艦電を闇から救いあげ、

 

 

中枢棲姫勢力と講和を成し、

 

 

丙少将甲大将を打ち破る。


 

一年足らずのその快進撃は、乾いた笑いが漏れるほどだ。


 

私の過去だって、あの人は暴いてくれた。

 

 

私のイメージは間違ってなかった。この人は信じられない提督なのだ。この鎮守府で私達が過ごしている時間は紛れもない伝説といえる。

 


艤装も身に付けられなければ、深海棲艦を倒す力もないただの人間が、ただ1つの『考える力』でこの海を追い詰めた。これが、提督の力なのだろう。

 

 

あの提督の生気の薄さも、機械のような冷たさも代償として海に捧げたものなのかもしれない。実際そうなのだろう。最近になって、優しくなった。温かさを感じる人になった。

 

 

信じられない人だけど、これほど信じたいと思える人もそういない。抱いていた好意は日々に膨らみ続けるだけ。そろそろ破裂してしまいそう。

 

 

だから、ちょっと羨ましいな。

 

 

電さんと、あの提督の絆。


 

私も戦争終結を志しているけど、あの二人の純度には遠く及ばなかったのかもしれない。

 

 

だけど、同じ景色を見る必要もない。

 

 

 

 

 

たどり着く

 

 


場所は

 

 

 

 

 

みんな、同じだ。


 

みんな、一緒だ。

 

 

最後だ。

最後なんだ。

最後にするんだ。

 

 

みんな、で生きて帰投するために、

 

 

個々がこの海で役割を果たさなければならない。兵士だ。死を恐れて逃げてはダメ。それがこの鎮守府の全員生還という意味合いでもある。それが全員生還に繋がると信じている。

 


あの頃の純度なんか、


とうの昔に越えてる。

 

 

欲張りになった。

 

 

出来るだけ、じゃない。

 

 

みんなだって同じ。

 

 

全員、助けたい。

 


それが出来ないのが現実なのかもしれないけど、それでもやってみせる。



艤装を優しく撫でる。


 

あなたもそうでしょう。

 

 

【7ワ●:Fanfare.初霜】

 


砲雷撃戦の轟音が、鼓膜を殴るように響く。放った鉄の塊は海で弾け、間欠泉のように空に向かって海水を弾かした。



海の傷痕:此方「……、……」

 

 

海の傷痕:此方「――――!」

 

 

向こうの世界ではロスト空間という道具がないから不可能ではあるものの、このロスト空間にいるならば、想の全ての力は相殺可能だ。

 


感覚で分かる。


 

ロスト空間は、元来の人に備わった力に満ち溢れている。

 

 

この世界ではこの身心1つでなんだって出来る。それが想に質量を乗せる原始的な力にして、海の傷痕はその力を応用しているに過ぎない。

 

 

要は創作過程を短縮する世界だ。

 

 

想い描く。

 


なにをエンジンにしてもいい。鉛筆1つで人を感動させる絵を、物語を、人間は作り出せる。命のないモノに命を吹き込む。命のないモノに命を吹き込まれる。まるで妖精にでもなったような気分になるアトリエ空間だ。


 

このロスト空間で、 

想い描く。

 

 

そうして海の傷痕は、この『艦隊これくしょん』に命を与えた。あの頃の歴史をエンジンにして、製作したのだ。

 

 

それはきっと神様なんかじゃなくても出来る。人間から産まれ落ちたあなたに出来るなら、人間が出来ないはずがないんだ。

 

 

「普段は微のくせに、最大瞬間風速で廃の最高領域まで来る……」

 

 

海の傷痕は、人間がいずれ辿り着く通過点に過ぎないのだから。海の傷痕の想の力は人間が持つものだから。

 

 

だから、あなたは提督に敗けを認めることになったんだ。

 

 

命中し、被弾して。

 

 

海の傷痕:此方「楽しい程に忌々しい。この生きるか死ぬかの殺し合いをよしとする、この本能……」

 

 

海の傷痕:此方「かかってきなさい」

 

 

海の傷痕:此方「みんな死んでしまえ!」

 

 

海の傷痕が吠えた。使える手品の種は同じならば後は素質の勝負だ。負けるはずがない。負ける気もしない。

 

 

あなたは、ずっとここにいたんだから。

 


景色を見ているだけじゃ、強くはなれないよ。鎮守府(闇)には届かない。多くの可能性を持つより、1つの可能性を選び続けてきたこの鎮守府には届かない。

 

 

その海色の適性、なんでも書き込める薄ぺらい真白は、一点に鋭く尖ったら切っ先に破り抜かれて当然だ。その穴の向こうには、皆が望む太陽があると信じて突き抜ける。

 

 

艦載機が、

 

魚雷が、

 

砲が、

 

 

海の傷痕を、追い詰める。

 

 

その証拠に経過程想砲も使わず、再生しないということは妖精工作施設も、弾薬を気にした動きは海色の想も、妨害できている。

 

 

ならば数ではこちらが有利。でも、素質が違う。地力が違う。これがロスト空間の管理をしているか否かの差なのだろう。

 

 

描ける白紙の部分が大きい。可能性を狭めなかった利点といえる。

 

 

それが、

 

 

私達を、追い詰める。

 


砲口を構える。隙あらば撃つ。必ず隙は出来る。陽炎さん金剛さん比叡さん霧島さん青葉さんは、すでに中破、大破だらけだ。

 

 

海の傷痕のあの死地での強さは、神通さんをイメージさせる。あの主張の強さと声の大きさ、繊細な動作は龍驤さんを思い起こした。

 

 

恐らく彼女は――――

 

 

人間になりたくて必死だ。どれくらいの人間をコレクションして、その身に宿せば殺戮本能は消え失せて人間になれるのか。

 


同情はする。

 

 

だけど、それで役割を放棄するだなんて、そんなあまっちょろい訓練は受けて来なかった。

 

 

感謝と敬意を。

 

 

「本官さん、ロスト空間の管理権限をお願いします」

 

 

「いつでも。准将の指示通りにロスト空間は当局が消えるまで、本官が支配しておくのであります」

 

 

本官さんの表情は読み解けない。想い人の死を望んでいるかのような、決意の色が滲んでいる。

 

 

強く、鉢巻きを締め直した。

 

 

轟音がする。戦艦の砲撃の連撃を受けて、フラリ、と身体がよろけた。皆は次弾の装填をしている。

 

 

 

 

「ここです」

 

 

 

海の傷痕:此方「――――、――――」

 

 

海の傷痕が前のめりに倒れた。身にまとう艤装が、その身体が蛍火のように幻想的な光へと変化していく。

 

 

目標の、撃沈を、消失を、

 

 

確認。

 

 

 

任務、完了。



【8ワ●:見捨てる命】

 

1

 

 

響「あの黒腕は妖精工作施設でいいのかな。さきほどからカーンカーン、と音を立てっぱなしだよ」

 

 

提督「……、……」

 

 

龍驤「どないしたん?」

 

 

提督「こちらの艦隊のあの艤装破壊、経過程想砲の射程距離が伸びたのでしょうか。本気を出してきたのか、それとも……」

 

 

龍驤「なんか響が交戦に入ってからの海の傷痕が無口過ぎへん? 加えてあのトランスの回避集中、隙あらば響から距離を広げてるのはВерныйが驚異やから、でも通るやろ。響が抜錨した時のデータも」

 

 

龍驤「『適性率170%』の未知」

 

 

龍驤「予想を越える一手やったとしてもおかしくあらへんやん。まだ見定めているんとちゃう?」

 


龍驤「またはロマン空間に出向いた特務部隊のはっつん達の影響とか?」

 

 

提督「……希望的に考えるとそれらももちろんですし、可能性としては十分あり得ます。が」

 

 

提督「序盤は確かに『殲滅:メンテナンス』最優先の動きでこちらに進路を取ってました。あそこで乙中将艦隊に好き勝手やらせるよりは、とちゃちゃを入れたのも含めてまあ、最良ではなくとも以後の目的を踏まえると、重課金の神通さんと夕立さんの艤装想を回収出来て効率的ではあります」

 

 

提督「……今の射程ではぷらずまさんの『殲滅:メンテナンス』を妨害していた瑞鳳さん榛名さんを撃沈(仮)に出来るはずですが、あの時はそうしなかった。ひっかかります」

 

 

龍驤「……、……」

 

 

龍驤「海の傷痕本体? それとも艤装に変化が出てきた、という線も……」

 

 

龍驤「現海界した当局の性能は変えられんはずやろ。過去のデータからしてもそのはず。今作戦用になんか弄くって、とか、考えるとキリがないけどさ……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「………、………」

 

 

提督「…………、…………」ツー

 

 

提督「海の傷痕:此方を産み落とす行程に入っている、のか……?」

 

 

提督「……そう、か」

 

 

提督「そういうこと、か」

 

 

龍驤「え、どゆことなん?」

 

 

提督「結論からいうと『勝っても負けても海の傷痕:此方を生存させるための行程』と思われます」

 

 

提督「中枢棲姫さんの論ですが、此方を壊:バグとして産み落とせば当局が消えて想の力が途絶えても、此方はそれで人間となれます。自分も方法はそれと断定してます」

 

 

龍驤「その方法の方法ってことやな」

 

 

提督「ええ、海の傷痕は反転建造にて此方を産み落とすといったようですが、恐らく我々の艦娘から深海棲艦へ、の認識とは逆です」

 


龍驤「……そこは確かに盲点や。うちらの反転建造といえば今や艦娘から深海棲艦へ、の認識が固定化してる。その更に反転、深海棲艦から艦娘、という意味の反転建造ってことやろ?」


 

提督「そうですね。ですけど、恐らく艦娘から深海棲艦への通常反転建造、も同時進行しているかも」

 


提督「『此方の想を艤装→素体へ&当局の想を素体→艤装へ』」

 

 

提督「その『反転建造』によって」

 

 

提督「海の傷痕:此方は『壊:バグ』として産み落とされます」

 

 

龍驤「待ち。此方を産み落として、当局がなおこちらに居座るならロスト空間を管理するやつがおらんやん」

 

 

龍驤「あ、そうか。管理権限がなくなっても、ロスト空間は即消えるわけやないし」

 

 

提督「艤装は想、つまりロスト空間との接点は保てます。加えてトランスタイプですから、ロスト現象自体が当局をロスト空間に送る手段にもなります。維持は可能です」

 

 

提督「なぜ現海界した当局が『5』のスロット数なのか、も頭の隅にありました。それ以上もあるのかもしれないとも。メンテナンスverそのものが不確定要素なので、ある程度の見当だけをつけて実際はこの戦いで探るしかないとしていましたが」

 

 

提督「これなら納得です。いうなればその数は壊:バグとして産まれる此方は5種の違法改造となります。わるさめさんのケースが事実としてあるように、その数は最もトランス現象を器用に扱える数でもあるから、です」

 

 

提督「響さん」

 

 

提督「『島風の連想砲ちゃん』は」

 

 

提督「『なかば深海棲艦状態であることと、艤装に思考付与能力していることをカモフラージュする目的』があり」

 

 

提督「隠したいのは『すでに艤装に海の傷痕:此方の想をトレースし始めている』ことです」

 

 

提督「響さん、中枢棲姫勢力が直に集結します。そこからは中枢棲姫勢力に合わせて特攻艦として本格的に攻めてもらいますが、こちらから指示を出します。その際は増設にバルジを積んでありますので、中破を目安に多少の無茶も強行も許可します」

 

 

提督「必ずここから逃がさないように、です。はっつんさん達が勝ち、ロスト空間を本官さんが掌握すれば、海の傷痕の全ての装備の供給を止めます。そして、そこの当局を倒して終わり、です」

 

 

提督「これが自分の作戦です」

 

 

響「!」

 

 

響「了解した。またなにかあれば連絡を入れるね」

 

 

提督「……、……」

 


龍驤「どうしたん?」

 

 

提督「これだと、海の傷痕が、」

 

 

提督「これを出来るとなると……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――深海棲艦から、

 

 

 

 

人間へ生まれ変われるので、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中枢棲姫勢力は――――

 

 

 

 

 

 

 

人に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なれる――――


 

 

 

 

 

 

龍驤「――――!」

 

 

龍驤「中枢棲姫勢力に教えてやらんと! おい中枢棲姫、聞こえるか!?」

 

 

中枢棲姫「もうすぐ現場ですので、手短にお願いしたい。ああ、それと」

 

 

中枢棲姫「包囲網の外に手こずっているみたいなので、ネッちゃんを送りました。が、人間の提督は准将にしかなついていません。指示をもらいに値動きがあなたのところに来るかも、です」

 

 

龍驤「いや、そんなことではなくて」

 

 

提督「すみません。なんでもありません。切りますね」

 

 

龍驤「ちょ、キミ」

 

 

提督「龍驤さん」

 


提督「自分のミスです。伝えるべきことではありませんでした。しかし、どうか感情に流されないでください」

 

 

龍驤「任務やろ。中枢棲姫勢力は味方やん!? いうなれば『戦争終結とともに自害する羽目になる』んやで。地獄におった頃の電やろ!」

 

 

龍驤「キミ、そんなあの子を見て助けたいって思ったんちゃうの!?」

 

 

龍驤「それが叶えば理想の形での全員生還が可能になるやん!」

 

 

龍驤「全部を取りに行く戦いやんこれは!」

 

 

龍驤「方法だってあるし! ロスト空間を本官さんが掌握すれば、現実的な策になってくるやろ!?」

 

 

提督「中枢棲姫さんは、ぷらずまさんと同じく廃課金です」

 

 

提督「ぷらずまさんが普通の身体で普通の人間として過ごすことを海の傷痕の打倒よりも優先しましたか?」

 

 

龍驤「そ、それは、」

 

 

提督「戦争終結への想いが強くなったんです。そしてあの子は変わった。みんなと仲良くなれるまでに」

 

 

提督「自分にも、分かります。龍驤さんも中枢棲姫さんの手紙の言葉を抜錨前に聞いたはずです」

 

 

提督「『戦争終結』」

 

 

提督「ぷらずまさん、チューキさん、自分はここから繋がって理解をし合えたのですから」

 

 

提督「残念ながら時既に遅し、なのです。彼等にも作戦があります。今から彼らを助ける行程を組み込むとなると、作戦が一気に瓦解していく恐れが高くなり、海の傷痕につけこまれる隙を与えることにもなりかねません」

 

 

提督「予想外があってなお順調という今を、不意にする訳には行きません。今の自分達は」

 

 

提督「世界の未来を背負っているんです」

 

 

龍驤「……理屈では、納得できた」

 

 

龍驤「けど、けどさあ……!」

 

 

龍驤「対中枢棲姫決戦の時、レ級の心を聞いたよ。あいつら、人みたいに傷ついて人の痛みが分かるやつらだったよ!」


 

龍驤「人間としか思えへんのに、身体がうちらと違うから化物として扱われてる」

 

 

龍驤「そんなの、助けてあげたいやん……!」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネ級「人が理不尽に殺されていく」

 

 

 

ネ級「それが戦争ですよ」

 

 

2

 

 

提督「ネッちゃんさん、どうしてここに……?」

 

 

ネ級「うーん、チューキさんがお前ら手こずっているから、包囲網の外にって。ネッちゃんお前以外の指揮下に入る気ないから指示を仰ぎに」

 

 

ネ級「駆けつけました……! 本体が重いけど、一応は陸にあがれますから……!」

 

 

提督「……聞いて、いましたか?」

 


ネ級「ネッちゃん」

 

 

ネ級「いいこと聞いた」

 

 

ネ級「ネッちゃん達、人間になって、みんな仲良しで暮らせる……!」

 

 

提督「――――っ」

 

 

ネ級「チューキさん、レッちゃん、リコリスママ、スイキ、センキ、ネッちゃんも、わるさめと同じになって」

 

 

ネ級「街で仲良く生きていける!」

 

 

ネ級「仲良し7人家族!」

 

 

ネ級「ネッちゃん達、人間になったらって何度も想像してて……」

 

 

ネ級「それが叶うんだ!」

 

 

ネ級「そんな救いが聞けるなんて、ここに来てよかった……!」

 

 

龍驤「せや、それが叶う未来があるんや。だから……」

 

 

提督「……、……」

 

 

ネ級「なんて、いってみただけ」

 

 

ネ級「二人とも」

 

 

ネ級「そんな顔してくれて」

 

 

ネ級「ありがとう、ございます」

 

 

ネ級「分かる。ネッちゃん達のこと救いたいって、顔してる」 

 

 

ネ級「ありがとう、ございます」

 

 

ネ級「でも大丈夫」

 

 

ネ級「長生きするために、ネッちゃん達は海の傷痕と戦うわけじゃない」

 

 

ネ級「叶うか叶わないかじゃない」

 

 

ネ級「やるかやらないか、っていえる人間は、幸せ。ネッちゃん達にはその選択ですらないから。だって」

 

 

ネ級「やりたくても、やれない。だから」

 

 

ネ級「だから」

 

 

ネ級「そんな未来があったということ」

 

 

ネ級「それだけが、救いです」

 

 

ネ級「ありがとうございます」

 

 

ネ級「生きてて、良かった」

 

 

ネ級「本当に」

 

 

ネ級「最後の最後までありがとう」

 

 

ネ級「大本営での話は、密会の時に鹿島から、聞いた」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――きっと、大本営で

 

 

 

――――ぷらずまも、

 

 

 

――――解体可能だって、

 

 

 

 

 

 

――――あなたに救われた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

――――こんな気持ちだったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

 

 


 

 

 

 

涙が、止まらないや――――


 


ネ級「……」ポロポロ

 

 

ネ級「ネッちゃん達も艤装の反転建造で産まれたし、人の想が始まり」

 

 

ネ級「こっち側にいた誰かの想いの結晶です」

 

 

ネ級「だから、温かく伝わります」

 


ネ級「そして、ありがとう、の」

 

 

ネ級「恩返しをさせてください」

 

 

ネ級「提督さん、この亡霊に、死地を命じてください」

 


ネ級「必ず、必ず」

 

 

ネ級「成し遂げますから……!」

 

 

 

 

提督「――――」

 

 

提督「家族のもとへ」

 

 

提督「海の傷痕をその手で」

 

 

提督「沈めにっ……」

 

 

ネ級「了解です!」タタタ

 

 

3



提督「龍驤さん、一発殴ってもらえますか」



龍驤「了解」


バキッ

 

提督「気持ちは同じなはずです、がっ」

 

 

提督「切りっ、替えない、と……!」

 

 

龍驤「……」ポロポロ

 


龍驤「くそ、涙拭わんと」グイッ

 

 

龍驤「完全勝利Sはなくなった」


 

提督「……元帥は、最低でもS勝利、と」

 

 

龍驤「……どうなん」

 

 

提督「これまで300体を越える深海棲艦ですよ。しかも姫鬼交じりの、最初期特性の深海棲艦です」

 

 

提督「それらを相手にいまだ殉職者なし。しかも、ここにきて、この段階で」

 

 

提督「更に巻き返しています」


 

龍驤「感傷に耽る思考回す場合ちゃうやろ。現場からの響の情報に頭を回せや。気持ちは分かるけどなあ、ほんま皆想像以上にやってくれとるよ」

 

 

龍驤「キミはまだ応えられてへんで。みんな、キミを信じて夜通しで持久戦してくれとるんやから」

 

 

提督「……、……」


 

龍驤「中枢棲姫勢力にはなにもいわへんの?」

 

 

提督「……していない訳がないんです」


 

提督「復活させたリコリス棲姫、戦艦棲姫、そして、スパイとして送り込ませた2代目の水母棲姫に」

 

 

提督「ギミックを細工していない訳がない。意地の悪い海の傷痕:当局の性格から考えても、中枢棲姫勢力を殺すのに躊躇いはないです」

 

 

提督「あの方達は深海棲艦だから」

 

 

提督「海の傷痕:当局は彼等に最悪な死に方を用意していると考えています」

 

 

龍驤「……、……」

 

 

龍驤「キミは、もしかして」

 


龍驤「キミの策は――――」

 


提督「それが分からない中枢棲姫さんでもないです。リコリスさんもきっと気付いてる。だから、彼女達の物語にこの機会を組み込みたかった」

 


提督「あわよくば」

 


提督「――――、――――」



龍驤「さっきのネ級の言葉聞いてようそんな死地に送り出せたもんやな……!」

 

 

龍驤「誰の目から見ても明らかな人選ミス。そこはアブーやろ……?」

 


提督「数値的な人選では阿武隈さんか伊勢さんが適任でしょう」

 

 

龍驤「せっかくみんなが奮戦して手に入れてる理想の流れ……あえて、言わせてもらうで」

 

 

龍驤「もしもその『エゴ』で」

 

 

龍驤「誰かが死んだら」

  

 

龍驤「……惨劇に、なる」

 


龍驤「うちだけやない。みんな、」

 

 

提督「全て覚悟の上です」

 

 

提督「龍驤さん、一旦指揮はいいです。船を用意しておいてもらえますか。苺みるくさんも乗せてください」

 

 

龍驤「了解。任せとき」

 

 

提督「電さん、応答してください」

 

 

電「はい」

 

 

提督「今からいうポイントで拠点軍艦の管理をしている鹿島さんの援護を。その場から離れて、被弾はなしの状態で。次の指示があるまで損傷や燃料弾薬をすぐに拠点軍艦にて行ってください」

 

 

電「了解なのです。なにかあればまた通信しますね」

 

 

電「……司令官さん、そろそろ、ですか?」

 

 

提督「ええ、もうそこまで」

 

 

提督「待ち望んだ海を引っ張り寄せています」

 

 

提督「わるさめさん」

 

 

わるさめ「あいあーい」

 

 

提督「海の傷痕:当局撃破作戦開始です。中枢棲姫、響さんに加わってください。指定した海域内から遠く離れるようなことはしていませんか?」

 

 

わるさめ「もちろん。てか通信してるし位置は分かるだろー。別段、なにか仕事を押し付けられたわけでもないから、今から向かうよ」

 

 

わるさめ「で、当初となにか変わったの?」

 

 

提督「はっつんさんがまだ帰投していないので少しシビアなズレが生じてきます」

 

 

提督「航行しながら聞いてくださいね」

 


【9ワ●:想題レッちゃん:中枢棲姫勢力】

 


もうすぐ海の傷痕のところへと行ける。

 

 

ああ、

 

 

思ったより、ここまで来るの、

 

 

すぐだったなあ――――

 

 

2



南方のサーモン海域北方。

レ級が産まれたのも、レッちゃんが産まれたのもそこ。

 

 

いつも通り攻めてくる艦娘を迎え撃ちに行こうとしたに意識のブレーカーが突然、落ちた。


 

次に目覚めた時には、妙に心がクリアになっていた。南太平洋の快晴と同じく清々しい気分だ。

 

 

異常を感じたのは、深海棲艦の時には知らなかったことを、なぜか知っているということだった。イルカもイルカだと分かるし、珊瑚も珊瑚だと分かる。そして艦娘を発見しても、即ブチ殺そうだなんてそこまで憎たらしく思わなかった。

 


加えて深海棲艦の仕組みにもすぐに気が付いた。身体を動かそうとすると、艤装が動いた。ん?



この身体を動かすにはコツがいる。艤装と肉体の目を逆に向けてみて判明した。映している景色は肉体のほうだ。

 

 

五感のメインである肉体が損傷すると、艤装の感覚に移行する。

 

 

最も、五感とはまた違う。第六感的なものだ。なんとなく深海棲艦や艦娘がどこにいるか分かる。今だと答えはある。艦娘の想いの塊である深海棲艦が、その想を感覚として探知出来るから。本当に第六の感覚だったという。

 


周りの姫や鬼と会話は出来たけど、あいつらより遥かに頭が良かった。正確には知識と自制に秀でていた、か。

 

 

なにか、変だ。



前は考えるよりぶっ放していたけど、今はぶっ放つより先に考える。いくつか覚えている隊列も深海棲艦は旗艦に合わせて適当に組むけど、組む隊列の特徴、そしてその有用性も把握出来た。

 

 

深海棲艦だけど、深海棲艦とは違う。

 

 

清々しい青空に、どこまでも広がる海、解放的な気分だ。あの鳥のように翼でも生えたんじゃないだろうか。

 

 

夏の日、レ級0歳。

 

大冒険が始まった。

 

 

3

 

 

提督と艦娘がうざ過ぎる。安全海域増やしたいみたいで、飛行機雲に沿って偵察機が航空していた。

 

 

西方で陣取っている飛行場姫を助けるつもりで、艦娘を追い払ってやった。


 

弱いけど、強い。奇妙な連中だ。性能自体はこちらの足元にも及ばない。なのに拮抗する。深海棲艦は次々と撃沈していくのに、向こうは中破止まり。

 

 

捩じ伏せる力では勝っていても、生き抜く知恵で負けている感じだ。向こうは一人はみんなのために、みんなは一人のためにって、チームプレイしている感じ。


 

深海棲艦とは大違いだ。姫や鬼は取り巻きを道具程度にしか考えていない。使えるか、使えないか、だ。姫や鬼同士で隊列を組んでもそう。

 

 

だから、一人はみんなのせいに。みんなは一人のせいに。それがナチュラルであり、僕もそうだった。低級とか弱すぎて盾くらいにしかならないし、邪魔な時さえある。自分が深海棲艦だと改めて自覚する。



そのせいで大破寄りの中破だよ。

 

 

――――あのレ級、なんか喋ってない? レ級って、あんなに喋ったっけ?

 

 

――――気のせいでしょ。それより早く撤退しないと! レ級となんてやってられないし!

 

 

あ、ヤバい、とそう直感した。この変化のことはバレると面倒になる。そこまですぐに分かるほどに、知能は高くなっていた。

 

 

口を閉じて、撤退する。あまり、艦娘と関わらないほうがいいな。どうでもいいやつらと関わり続けるのも、かったるい。

 

 

そうして西方の海の深くに向かっている途中に、ぷかぷかとただ浮いている貨物船っぽい船を発見した。とりあえず低級の深海棲艦を追い払って、中の様子を探った。

 


4

 

 

人間がいた。たくさんいる。

 

 

この体格的に全員男だろうか。全員、動かない。固そうなベッドの上に四肢をだらんと投げ出していたり、壁に背中を預けていたり、くの字で通路に横たわっている。そこらで砲雷撃戦でもやってきたかのように、身体が欠けていた。

 

 

生きている人間もいた。小さな女の子だった。くちゃくちゃ、と音を立てている。振り向いた。顔が深紅に染まっている。

 

 

死体を食べているのか。

 

 

歯茎に、死肉が挟まっている。

 


お化け!

同時に悲鳴をあけた。

 


その叫び声がすると同時に正面のほうから慌ただしい足音がした。太った男が「どうした!」と女の子を守るように僕の前に立ち塞がった。

 

 

手には小さい砲口。あれは銃かな。銃を握っている。瞬間、銃撃音が鳴り響くが、この身体には傷1つつかない。

 

 

「深海棲艦か……?」

 

 

「そう、深海棲艦。別に危害を加える気はないよ。深海棲艦の海域にどうして人間がいるんだ。しかも、かなり安全航路から外れているところだぞ?」

 


「なあ、この辺りで、どこか、陸地はないか?」

 

 

「質問しているのはこっちな。まず答えなよ。その後で教えてやるよ」

 


小太りの男が笑顔になる。跳び跳ねると、通路が揺れた。船が傾いたかと思った。


 

5

 

 

「海賊……?」

 


どうもこの船は見た目は貨物船だが、人間の船を襲って金目の物を奪っている海賊船というやつらしい。

 

 

嵐の日に追い回されて逃げるのに必死で、こんな奥深くまで来ていたらしい。それで遭難した、と。

 


食物もなくなり、水も少なくなってきて、この船では殺し合いが起きたとか。そして死体を食べているとか。人間は大変だな。

 

 

「近くまで送ってやるから人間のところに帰れよな。船の燃料も持ってきてやるよ。この辺りは深海棲艦だらけで人間が棲める環境じゃないと思うし」

 


「あー、どちらにしろ死ぬな」



「人間にも殺されるのか?」

 

 

「殺される。俺は悪い人間だからな」

 


「海賊なんて、海の屑だからよ」

 

 

「海の屑なんだ。その子は?」

 

 

「襲った船からさらってきた。子供は高く売れる。特に日本人の娘は」

 

 

そんな弱そうなやつに価値があるのか。この子供は超がつくほど弱いくせに群れからはぐれるあのハ級よりも弱そう。この子供に価値があるなんて人間の世界の仕組みはいまいち分からない。

 

 

「この子だけでも人間のところに送ってやってくれねえか」

 

 

「さらってきたのに、返すのか」

 


「もうどうしようもねえ。仲間も死んで、俺はおしまいだ。今更、こいつを売り払って小金を持ったところで、なにも変わらねえや」

 

 

「嫌だね。面倒臭いし」

 

 

「そこをなんとか」

 

 

「嫌だね」

 

 

「じゃあ、俺の命でなんとか」

 

 

「……」

 

 

「面倒臭え。交渉成立ってことで」

 

 

撃鉄音が鳴った。男は脳髄を撒き散らして死に絶えた。

 

 

女の子は亡霊のような目で、横たわる男を見下ろしていた。亡骸の右手から銃を奪い取ると、その男に向かって撃った。

 

 

お父さんの仇、と何度も何度も。

 

 

死んだ人間に無駄弾を使ってどうする。やはりハ級以下の馬鹿なのだろうか。それに、誰かのために自分の命を差し出せる男にも疑問がある。それも面倒臭いとよく分からないことをいって死んだ。人間は本当に解せない。

 

 

なにがどうなって、そうなるんだ。

 

 

頭の中で疑問符だけが、この船のようにぷかぷか浮かんでた。

 


6

 


船から脱出した。周りの深海棲艦が攻撃をし始めている。いちいち相手していたらキリがない。女の子を抱えて海へと出た。


 

「英語、話せるんだね」

 

 

「英語、あれは英語か。そうか」

 

 

「日本語も」

 

 

いちいち答えるのもだるい。それに自分でも知らないし、答えようがなかった。

 

 

黙り込むことにした。攻撃手段にもならないこいつを持っているのもダルく思える。この海に捨ててやろうと思った。

 

 

けど、そうしなかったのは、

 

 

胸に抱えたこの子が温かいからだ。なんでかな。どくんって鼓動がこの子から僕の身体に伝わってる。なんだか、捨てることを躊躇った。

 


この子を抱いていると、周りの深海棲艦が攻撃してきたが、返り討ちにしてやった。女の子が「すごいすごい」とはしゃぐから、いい気分になって、見応えがあるように派手に攻撃した。無駄遣い。なにしてんだろ。


 

陸地につくと、その子を下ろした。散策して泉があった。その子は水を飲んでから、深々とお辞儀をした。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

なんでお礼だ。

 

 

ああ、人間は生きるには飲み食いしなきゃだからか。どういたしまして。

 

 

遊んだ。艤装のせいで陸地では動きがかなり制限される。だるい。虫や植物を見て、不思議そうに首を傾げる。

 

 

どれくらいの時間が経過したかな。食物も集めて来てあげて、女の子と暮らしていた日々だ。

 

 

飲み物も食べ物もあるのに女の子は、元気がなくなっていった。

喋りかける。

 


なんでか喋らなくなった。それでも喋りかける。

 

 

そして段々と立つこともなくなった。それでも喋りかける。返事をくれた。

 

 

「ありが、とう」

 

 

それを最後に起きなくなった。それでも喋りかけてみる。

 

 

温かい鼓動が、止まっていた。

 

 

胸がチクり、とした。

 

 

艦娘が攻めてきた。岸辺にいる僕を艦載機が狙ってくる。降り注いだ艦攻の攻撃に混ぜられた艦爆が、落ちる。

 

 

被弾してしまった。

 

 

女の子が、消し飛んでしまった。

 

 

撤退することにした。やってられない。ここにもういる理由もなかった。そういえば、あの女の子を人間に渡すの忘れていた。あの女の子も、戻りたい、とか1度もいわなかったな。

 

 

なんでだろ。

 


とりあえず尻尾を巻いて撤退することにした。追撃を受けるが、駆逐艦のへたっぴな砲撃だ。その程度なら、逃げ切れる。周りの深海棲艦も沈められてた。飛行場姫もいないから、やられたんだろうな。

 

 

 

後ろから聞こえた艦娘の笑い声。初陣で深海棲艦を、2匹も倒した、とか、それを褒める声も聞こえた。

 

 


 


 

 

 

 



 

笑ってる。

 

 


 

 

 

 

絶対に、許さない。

 

 

 

なんでこんなこと、思うんだろう。

とうとう自分のことすら分からなくなってきた。

 

 

でも、1つだけ理解できたことがあった。

 

 

もう面倒臭い。突撃して死んでやろうかなって思ったんだ。

 

 

自殺したあの男の気持ちが分かった。

 

 

7

 

 

リコリスママとネッちゃんに会ったのはその翌日だ。

 

 

ネ級とリコリス棲姫が僕の前に立ち塞がった。力を貸せー、とかかな。

 


喋りかけられた内容にびっくりした。深海棲艦なのに、僕と同じような思考回路を持っていたからだ。

 

 

リコリス棲姫「飛行場姫から食料とか集めてるおかしなレ級の話を聞いたから、もしかしてと思ったけれど」

 

 

ネ級「ネッちゃん達と同じ!」

 


レ級「……なにが起きてる? なんで急に変な風になったんだ?」

 

 

ネ級「ネッちゃん達にもよく分からない。それよりお前、低級の深海棲艦を利用して人間の船を襲いすぎ。敵の戦力が西方に結集しかけてる……」

 

 

リコリス棲姫「とりあえず話が出来る場所まで案内するから着いて来なさいな。あなたが襲った輸送船の残骸から色々とこの海の知識も手に入れたし。そのお礼に状況を教えてあげる」

 

 

警戒をしつつ、二人の後についていく。

 

 

8

 

 

まず変な風になった時からこれまでのことを全て話した。

 

 

どうもあの女の子が死んだのは、病気のせいらしい。「断定は出来ないけど、症状は本にあったわね。多分、人の肉を食べ漁っていたからではないかしら」といった。そうなのか。人は人を食べると病気になるのか。

 

 

「最後の『ありがとう』はなに?」

 

 

「そのままの感謝の言葉よ。あなたに感謝していたんだと思う」

  


「……うーん」

 

 

「どくんって鼓動が温かくてその子を捨てなかった気持ちは、私も分かるわね。ネッちゃんに置き換えれば理解に容易いわ」

 

 

そういって、抱き締められた。あれ、不思議だ。この深海棲艦の身体はあの子みたいに温かい。心地が良かった。

 

 

リコリス棲姫「とりあえず、私達の異変がバレると不味いのは分かるわね。一緒にいて欲しいのだけど……」

 

 

リコリス棲姫「どうする?」



「じゃあ、一緒にいよっかな。どうせ行くあてもないし、同じ境遇のやつと一緒にいたほうがいい。もっといえば周りの深海棲艦は馬鹿すぎるし、お前らのほうがマシそうだから」



ネ級「じゃあ、レッちゃん! レ級だからレッちゃんです……!」

 

 

ネ級「こちらはママ、おっぱいが母性的、そして包容力があり、色々と優しく教えてくれる。だから、リコリスママです……!」

 

 

別に呼び方や呼ばれ方なんてどうでもいい。ただこいつは賢くなさそうだ。

 


へっ、仲良くはなれそうにないな。

 

 

 

 

 

そんな風に思っていた時期が僕にもありました。

 

 

9

 

 

ネッちゃんが案内してくれたのは木を積み上げて作られている小さな小屋だった。すごい、木で家を作る発想に痺れた。


 

ネ級「ネッちゃんの自信作の秘密基地です……!」

 

 

ネ級「入ってもいいですよ……腰を抜かすことなかれ……」

 

 

中にはサイドボードとか、家財があった。家具箱の中を開けると、綺麗なコインがあった。ドラム缶の中の植物は綺麗な花を咲かせている。

 

 

「まるで家だ……!」

 

 

仲良くなるのにそう大層な理由なんて、必要ないようだった。その秘密基地のなかでネッちゃんと夜通しで語りあっていたら、分かり合えた。

 

 

ある日、リコリスママが将棋とかいうものを持ってきた。ルールも教えてくれたので遊んでみたが、ネッちゃんには勝てるけど、リコリスママには1度も勝てなかった。悔しい。

 

 

「でも、すごいわね。やっぱり知能は人間といっても問題ないわね」

 

 

「僕が人間だったら、一回も勝てないリコリスママは神かなんかかよ!」

 

 

「あら、その名で読んでくれるのよね。まあ、私はこの遊びの戦術本を読んだからじゃないかしら」

 

 

はいこれ、と差し出された本を開くが、意味がよく分からない。どうやらこのリコリスママは頭がかなりいいらしい。


 

ネッちゃんと僕が連日に遊び呆けているなか、リコリスママは毎日のように書物を読み漁り、海へと出ていく。

 

 

ネッちゃんと僕は二人で海に出た。遠くで大きな生き物が、潮を吹いた。潜水艦みたいに大きな生き物だった。鯨、という生き物だったかな。近くで見ようと追いかけて遠くまで行った。

 


その時にチューキさん達と出会った。

 

 

10


 

中枢棲姫「……輸送船を襲っているのはあなた達でしょうか。狙いは知りませんが、丙の将に目をつけられたので、自重して頂きたいのです」

 

 

ネ級「レッちゃん! この人達もネッちゃん達と同じ……!」

 

 

水母棲姫と戦艦棲姫も連れていた。攻撃しないで近寄ってくるし、なんとなく表情で察してはいた。今更、驚きはしない。ネッちゃんとママにも会ったんだ。他にもいてもおかしくない。

 

 

ネッちゃんが喋ると、中枢棲姫が怖い顔をした。ネッちゃんやリコリスママとは違う。明確な殺意があった。

 

 

「中枢棲姫、殺しとくべきね」戦艦棲姫がいう。

 

 

「あー、そうねえ」水母棲姫が同調する。「このレベルの知能じゃ、こいつらから私達のことまで向こうにバレそう」

 


中枢棲姫「ええ、そうですね。この人達は慎重さに欠けます。下手すればこちらの足もつきます。対深海棲艦海軍よりも早く発見できて良かった」

 

 

レ級「ネッちゃん、やるか」

 

 

ネ級「頭脳ゲームに明け暮れたネッちゃん達の連携、思い知るといいです」

 

 

戦闘が始まった。水母棲姫と戦艦棲姫もかなり強かったけど、ネッちゃんと協力して大破まで追い込めた。

 

 

けど、中枢棲姫は別格だった。

 

 

深海魚雷が、飛び魚艦爆が、無効化さる。中枢棲姫という深海棲艦自体初めて見たが、とてつもなく強い。深海棲艦の中で最強じゃないのかこいつ。敗北が頭を過る。

 

 

「これは、死、死ぬ……」

 

 

そこで助っ人が登場した。姿を現したのは、リコリスママだった。いつもの笑顔は消えていて、怖い顔をしていた。

 

 

中枢棲姫と話しを始める。


 

リコリス棲姫「あら、貨物船を襲ったのはそうねえ、通信設備の情報を得るためね。情報の伝達は欲しい技術だし。でも、こっちだってあなた達にいいたいことがあるのよ」

 

 

リコリス棲姫「艦娘と交戦したでしょ。その時にそっちのことがバレたんじゃないかしら。駆逐艦電と、フレデリカ大佐」

 

 

リコリス棲姫「仲良くしていらっしゃるようで」

 

 

中枢棲姫「『深海棲艦艤装を展開できるトランス現象』は非常に興味深いのです」

 

 

リコリス棲姫「深海の妖精の仕業でしょうね。深海棲艦と艦娘を繋ぐ妖精。あなたにも見える?」

 

 

中枢棲姫「……素晴らしいですね」

 


中枢棲姫「その先にはお気づきですか。断定は出来ずとも、なにかの影があるとは思いませんか」

 

 

リコリス棲姫「……」

 

 

中枢棲姫「手を組みませんか? 同じ境遇の者同士、群れを成して、隊列を組みましょう。効率的になります」

 

 

リコリス棲姫「どっちの群れが上になるのかしら」

 

 

中枢棲姫「そうですね、勝利したほうでどうでしょう? 我々はしょせん深海棲艦にカテゴライズされます。話し合いでは納得出来ない部分もありますし」

 

 

ネッちゃんがリコリスママのほうを見ながらビクビクしている。

 

 

中枢棲姫「まあ、私とあなたの一騎打ちとなりますか……」

 

 

砲を構えた中枢棲姫の顔面が殴り飛ばされた。リコリスママが容赦なく、先手を打ったのだ。拳で来るとは思わなかったのだろう。中枢棲姫は困惑しているのか、次の動作が遅れた。

 

 

リコリス棲姫「中枢棲姫みたいな規格外の深海棲艦がさあ……」

 

 

リコリス棲姫「うちの子達を虐めてんじゃないわよ」

 

 

至近距離の攻防が始まった。中枢棲姫は艤装による攻撃は強かったけど、殴り合いは不得意のようだった。

 

 

リコリスママはケンカが強い。容赦がなかった。舌をつまんで、引っ張りあげると、上を向いた顔に向かって、拳を叩き落とした。 容赦がなかった。中枢棲姫はひたすらボコボコにされている。顔がアンパンみたいだ。

 

 

中枢棲姫「……く」

 

 

リコリス棲姫「あらー、その顔、深海の妖精で色々と弄くってるみたいねえ。感覚を強化するから、恐怖だって生まれる。壊-現象ギミックは発動させないわ。絶妙な加減で肉のほうを壊さなきゃね」

 

 

ネ級・水母棲姫「ひいっ」

 

 

ネッちゃんと水母棲姫がお互いを抱き締めあって、怯えた声をあげた。同じく僕は戦艦棲姫と抱き合いながら、怯えている。