2018-02-13 17:52:20 更新

前書き

今更ながら、分けると見にくいと思ったんで長めにいきます。


由比ヶ浜と、北海道


テレビをつけチャンネルをまわしたが特に興味深そうなものはなかった。


なかったので、俺は録画していたプリキュアをいれた。


「うわぁ、ほんとに見てたんだ…」


「いまどき子供でも見てるんだぞ。高校生の俺が見ないでどうする」


「その理論おかしいから…」


なんてぶつくさ言っていた由比ヶ浜であったが……


「うっひゃあー!!いけいけー!やっつけろー!!」


めっちゃハマってんじゃねぇか。


まあ楽しそうで何よりだ。


「いやぁすごいんだね、いまどきのアニメって」


EDに入ると、由比ヶ浜が戦闘シーンの余韻を残した表情で言った。


「っふ、まぁな」


「なんでヒッキーがドヤるし」


なんて会話をしていると、買出しに行っていた小町が帰ってきた。


「ただいまー」


「おかえり」「小町ちゃんおかえりー」


「晩御飯何にするか悩んで結局いっぱい買っちゃった」


小町の手元を見ると、確かに袋がパンパンだ。


「由比ヶ浜、なんか食いたいのあるか?」


「え!?いいよいいよ、すぐ帰るから!」


あわあわと両手のひらを見せながら言ったが、小町にそれは通用しない。


「食べてってください!!!」


「こうなった小町は俺でも止めれんぞ」


由比ヶ浜が、うーん、と悩んだあと

「待ってね、ママに聞いてみる」

と言って、慣れた手つきで携帯電話を操作し、電話をかけ始めた。


由比ヶ浜の母親には1度だけ会ったことがある。

一言で言うなら、そう。ほわほわしている。

あれは一色のような小悪魔ではなく、どちらかといえばめぐりさんを大きくした感じだった。

大きくって、体がじゃないよ?一部だよ?


由比ヶ浜は電話を切り

「じゃあ、ご飯食べていこうかな」


母親の了承を得たのだろう。


小町がパァっと明るい表情になり

「了解です!!」


「んで、なんか食べたいのあんのか?」


「………にくじゃが」


その単語を聞き、俺はある女の子を思い浮かべる。

もしかすると、あの事件の事をまだ気にしてるのだろう。


「……肉じゃがをつくる!!!」


ん?


「結衣さんが作るんですか?」


「うん!!」


由比ヶ浜が気合を入れたように両手を固く握るが、小町はこいつの料理センスを知らないのだ。


「ま、まてまて!何故由比ヶ浜が作るんだ?」


「だ、だって…

いろはちゃんに負けたくないじゃん!!」


やはり、あの事件のことを気にしていた。


「いや、そこでお前が張り合うのもおかしいでしょ。それに、自分の料理スキル把握してるだろ?」


「そ、そうだけど…」


小町が横ですごいニヤニヤしてる。うざい。


「今日は小町のお手伝い程度にしとけ。まずできる人の手際をよく見ることが大事なんだぞ」


「うぅ、じゃあまた今度作ったら食べてくれる?」「やだ」


「即答!?

むむむむ…絶対いつか凄腕料理人になってみせるんだからね!」


おー、それは楽しみだ。


「結衣さん、小町もサポートするので一緒に作りましょう!」


「え!いいの!?やったぁ!」


喜びながら小町と由比ヶ浜はキッチンに向かうが、由比ヶ浜が振り返り、トトトっと近づいてきた。

「由比ヶ浜じゃなくて、結衣だからね!」


すっかり忘れてた。それにしても、なんで女子は皆下の名前で呼ばれたがるんですかね。


とはいっても、由比ヶ浜の胸を触ってしまった、いや、揉んでしまった俺に拒否権はない。


「わかってる」





「で、できたー!!」


小町がげっそりしている。いやほんとお疲れ。


二人がキッチンにたってから2時間程たっただろうか。

小町は、雪ノ下ほどではないがそれなりに料理はできる方だ。といっても、俺にとって小町の料理に勝てるものなんてこの世に存在しないが。


「お、お兄ちゃん。小町、もう、逝くね…」


ヘトヘトになった小町が洒落にならないことを言っている。

「兄をおいて先に逝くなんて、妹失格だぞ。

お疲れさん」


寄りかかってきた小町の頭を撫でてやる。

かまくらの毛並みとはまた違うが、一生撫で撫でしたい。


「ひ、ひっきー。私もちょっと疲れたなーなんて」

「小町を疲れさせた原因が何を言ってやがる」


「ええええ!」


うーっと唸っている由比ヶ浜のことはいったん無視し、

「じゃ、食うか」



「お、美味いな」


「ほ、ほんと!?よかったぁ」

俺が肉じゃがを口に運んでいる所をじっと見ていた由比ヶ浜が心底ほっとした表情をする。


いつの間にか元気を取り戻していた小町もバクバク食べている。

「美味しいー!!」


これも小町のサポートのおかげだな。いいお嫁さんになるなぁ。小町が嫁だと?そんなの許すわけないだろ。


夕食を食べ終え、時計を見ると8時半を回っていた。

「流石にもう遅いな。送るか?結衣」


由比ヶ浜は「えっ?」とびっくりしたあと、一気に顔がリンゴのように赤くなっていった。


いや、名前で呼べって言ったの君だからね。


「あれれれれー!!!お兄ちゃん!!ついに!?ついになの!?」


小町がこうなることは予想出来ていた。言い訳は考えてない。てかなんて言い訳すんだよ。

「いやー、由比ヶ浜の胸触った罰ゲームでさぁはっはっは」なんて口が裂けても言えるわけがない。


うるさい小町を全力で無視し、もう一度由比ヶ浜に促す。


「ほら、行くぞ」


「う、うん…///」


家を出、歩きで由比ヶ浜を送る。


「今日はありがとね、こんな遅くまで」


「お礼を言うのはこっちだ。肉じゃが美味かったぞ」


「えへへ、次は一人で作れるようにならなきゃね」


「それにその、なんだ。楽しかった」


由比ヶ浜は、へ?っと間抜けな声を出し、そして暗闇でもわかるくらい、また顔を真っ赤にした。


「私も、楽しかったよ。これが毎日続いたら楽しいだろうなぁ」


言ってからまたさらに由比ヶ浜は顔を真っ赤にし、

「ちちちちちがくて!今のはその、なんというか…」


毎日、か。悪くないかもしれない。


「まあ、いつでも来いよ。小町も喜ぶ」


こういう時の小町超便利だなと思いつつ言った。



「じゃ、またねー!」

「気をつけて帰れよー」


駅まで送り、由比ヶ浜が見えなくなってから俺は振り返り家に向かった。


「小町にアイスでも買ってやるか」



翌日



「ほっかいどう…」

「お兄ちゃんすごいじゃん!」


今日は日曜日である。

日曜日、兄弟水入らずでデパートまで買い物に来た。

そして、3000円以上お買い上げの方のみくじ引きができることを知った小町は買い物かごにありったけのお菓子を詰め込み、くじ引きを引いたのだが…


当ててしまった。北海道1泊2日のペア温泉旅行券。


てかこれ今週の土曜までじゃねえか。


なんでこんな寒い時期に北海道なんて行かんとならんのだと思ったが、小町と一緒に行こう。そう決めた今決めた。


「小町、いくか?」


「あー、お兄ちゃんごめん。その日小町模試なんだよね」


「…」


「ちょ!こんなとこで泣かないでよお兄ちゃん!ほ、ほら!誰か誘えばいいじゃん」


「誰をだよ。戸塚か?戸塚だよな」


「結衣さんとか!いろはさんとか!」


なんで女子と二人きりで行かなきゃならんのだ。


「あいつらが俺と行きたいなんて言うと思ってんのか?」


「めっちゃ思ってるけど」

真顔で言われた。


「まあ無理していく必要も…」

「それはだめ。せっかく3000円分のお菓子買ったんだもん」


はぁ。

とりあえず家に帰ったら戸塚誘ってみるか。



戸塚には部活があると断られた。なんとなく分かってたけど。


「どうすっかなぁこれ」


しばらく考えた後、いいことを思いついた。


これ別に俺が行く必要ないよな。





翌日


俺はいつも通り授業を終え、由比ヶ浜と一緒に部室へ向かう。


「やっはろー!」


「こんにちは」


由比ヶ浜が元気に挨拶を、俺は軽い会釈をし席につく。


「ちょっといいか?」


「どしたの?」


雪ノ下も、本から視線をはずし俺を見る。


「実は昨日これを当てたんだが生憎俺には一緒に行く相手がいないんだ。今週なんだが、お前ら二人行く気ないか?」

いいながら、俺はカバンにしまっていた旅行券を取り出し、テーブルに載せた。


由比ヶ浜がどれどれと手に取る。

「おー、旅行券?って北海道!?

すご!私行ってみたかったんだよねー。ゆきのん、どう?」


「ごめんなさい。私は行けないわ」


「えー、なんでー!?行こうよーゆきのんー」


「その日は模試があるの」


あれ、雪ノ下もなのか。


「うーん、そっかぁ。いろはちゃん誘ってみようかな」


言ってから、由比ヶ浜は携帯を取り出す。


「あ、もしもしいろはちゃん?――」




「うー、いろはちゃんも行けないなんて…」


「生徒会の仕事ならしょうがないだろ」


「じゃあヒッキー一緒にいこうよ!」


「は?」「…は?」


雪ノ下の後に、遅れて俺も声が出る。


「いや、まずいでしょ」

「そうよ、この男と一緒に旅行なんて何をされるかわからないわよ」


「ヒッキーなにするの?」

「いやなんもしねーから」


「じゃあいいじゃん!」


「由比ヶ浜さんがいいなら構わないのだけれど…」


「ゆきのんも、本当はヒッキーがそんな事しないってわかってるでしょ?」


「…」


雪ノ下は顔を赤らめ、視線を逸らす。

はい、どうせヘタレですよ俺は。


「てか何勝手に話進めてんだよ。行くなんて言ってないぞ」


「じゃあ奉仕部に依頼ってことで」


「おかしいから。そんな依頼引き受けてたらいつか殺人容疑で逮捕とかされちゃうから」


「行ってあげなさい、ヘタレ谷くん。由比ヶ浜さん一人で行かせたら、空港を間違えてアフリカ旅行になってしまう可能性があるわ」


「…たしかに」


「二人ともひど!!」


実は俺も、北海道には興味がある。

海老とか。


「わかった。由比ヶ浜の保護者としての依頼を引き受けてやる」


あ、また由比ヶ浜と呼んでしまった。由比ヶ浜がこっちを睨む。慣れてないんだよ。



家に帰り、小町に旅行のことを伝えると、また目をキラキラさせていた。

こいつ最近キラキラさせすぎだろ。スタフィにでもなるつもりなの?


「ところでお兄ちゃん、お財布は大丈夫なの?」


「あ…」


すっかり忘れてた。財布には11円しか入ってないんだった。


「もう、しっかり結衣さんエスコートしなきゃダメなんだからね。お金の事は小町に任せといて」


と言ったが、多分父に集るのだろう。


次の日の朝、小町が5万円も渡してきた。

親父…今月どうやって食べていくんだよ…


小町にだけ甘い親父を同情する。

お釣りは返そう。


てか宿泊費とかかからんのに5万は多いだろ…

俺はそっと、親父の枕元に1万円だけ置いておく。



あっという間に日は立ち、いよいよ明日は旅行である。


「お兄ちゃん、小町妹が欲しいな」


何言ってんだこいつ。

俺は小町のデコを人差し指で小突く。


「小町も明日頑張れよ」

と言おうとしたところでやめた。受験生に頑張れはご法度なんだったな。


「明日も愛してるぞ、小町」


「うん、小町も愛してるよ」


柔らかく微笑み、小町が返してきた。

予想だにしない返事に俺は少しドキッとしてしまう。


もしかしたら小町も、がんばれという意味を込めた愛してるなのかもしれない。何を頑張るの?


「んじゃ、明日早いし、もう寝るわ」


「うん、おやすみ」





俺は一足先に駅に来た。集合30分前である。

べ、別に楽しみにしてたとかじゃないよ?

30分前行動とか社会人としてのマナーだから。これ豆知識な。



10分ほど待っていると、由比ヶ浜がこちらに向かって歩いてきた。俺の存在にはまだ気づいてないみたいだ。


「よう」


「え、ヒッキーはや!」


声をかけると、由比ヶ浜がかなり驚いていた。


「まあ、なに。迷子になられても困るからな」


「バカにしすぎだし!」


「ゆいがは……結衣も早かったな」


一瞬苗字で呼びかけたが、セーフ。


「まあね、ヒッキーが迷子になったら困るし」


なめとんのか。


「どう?この服」


由比ヶ浜の服装は、ベージュのミニワンピースの上から、赤のダッフルコートを羽織り、下は雪対策なのかタイツにブーツ。


とても落ち着いた雰囲気で、大人っぽく見える。なんというか、うん、可愛い。


「ファッションの事はあまり詳しくないが、いいんじゃないか、似合ってる」


「えへへ、ありがと」


20分ほどたった後、俺たちはまず東京に向かい、北海道行きの飛行機に乗った。


「ドキドキするねー!北海道だよ!!何食べようかなぁ」


由比ヶ浜は、「お寿司でしょーカニでしょー」と指を1本ずつ折り「そういえば、雪祭りってまだやってないのかな」


「あー、そういえばこの時期だな」


雪まつりとは、札幌で行われる雪と氷のお祭りである。以前テレビで見たことがある。


「やってたら見に行くか」


「うん!!」



飛行機にのってから、30分ほど経っただろうか。

俺は今身動きが取れない。何故かと言うと――


「すぅ。すぅ」


由比ヶ浜が俺の肩に頭をのせて寝ている。


お兄ちゃんスキルが発動され、由比ヶ浜の頭へと手が伸びる。


小町とはまた違う。とても触り心地がよく、撫でるたびに甘い匂いが鼻をつく。


その甘い匂いを嗅いでいると段々俺にも睡魔が襲い……――――




揺れる音で起きた。

「寝てたか」


どうやら飛行機は着陸しているようだ。

由比ヶ浜はまだ寝ている。


「おい、起きろ結衣。着いたぞ」


「ん、んあーー!おはよヒッキー」


俺らは荷物を持ち、飛行機を降りる。


空港を出ると、ここが北海道である事がすぐ分かった。


「さむ!!てか白!!」


寒い。何ここ、北海道民こんな寒さで暮してんの?氷属性の魔法とか使えちゃうんじゃないのか。


「ヒッキー!雪!雪がすこいよ!!」


由比ヶ浜が子供のようにはしゃいでいる。

人が見てる!見られてるから!!


まあ、楽しそうで良かった。


「とりあえず、バス乗るぞ」


俺たちはバスに乗り、宿泊先の温泉旅館へと向かった。



旅館の外観は、思ってたよりも豪華だった。


入ると、女将さんに出迎えられ、フロントまで案内された。


名前を言ったあと宿泊券を渡すと、同じ女将さんが部屋まで案内してくれた。


「夕食は何時頃運びましょうか?」


「7時でお願いします」


「かしこまりました。外出される際は鍵をフロントに返すようお願いします。それではごゆっくり」


「なんか、すごいね」

「ほんとだな。これからどうする?」


バスに乗っているあいだ調べたのだが、どうやら今日はちょうど雪祭りらしい。


「雪祭りいくか?」

「うーん、雪まつりは夜いこ!夜!!」


確かに、夜の方が綺麗かもな。


「じゃあ昼飯食いに行くか」




俺らは旅館を出て、適当に札幌の街をぶらぶらした。ちなみに寒すぎたのでホッカイロを買った。


「北海道って海鮮類以外だと何が有名なの?」


「そうだな、やっぱラーメンじゃないか?」


「ラーメン食べたい!」


こいつ食べたいもの多すぎだろ。


どのラーメン屋も美味いだろと思い適当なラーメン屋(店がなりたけに似てたから)に入り、俺は味噌ラーメン、由比ヶ浜は塩ラーメンを頼んだ。


「美味すぎる…」


正直、甘く見ていた。

俺は数ある千葉のラーメン屋を食い漁っていたが、なんかもうコクが違う。もちろん千葉のも美味しいよ?千葉県民裏切ったわけじゃないよ?


「さすが本場だ」

「こんな美味しいラーメン食べたことない!」


お互い半分くらい食べた所で、由比ヶ浜が提案してきた。


「ねぇ、交換しない?」


「え、いやでもな…」

なんでそんな軽々しく言っちゃいますかね。

童貞の俺にとって、間接キ…間接ピカチュウですらドキドキするんだぞ。


「そっちも美味しそうなんだもん!

塩も美味しいよ」


だが、正直塩も食べてみたいというのも事実。


「仕方ねーな」




「ふぅ」

二種類のラーメンを食べ、満足感がすごい。


「カニ!次はカニ食べに行こう!」


「いや行かねーから。ラーメン食ったばっかだろ」


「えぇー」


「北海道に来る前に調べたのだが、旅館でカニも出るらしいぞ、夕飯」


「ほんと!?やったー!」


あと、何やら温泉がすごいで有名な旅館らしい。戸塚と混浴したかったなぁ。おっと、戸塚は男だ。混浴じゃない。


「じゃあどうしよっか」

「旅館戻って寝る」

「せっかく北海道まできて寝るとかヒッキー、ヒッキーにも程があるよ」


「どんな日本語だよそれ。スキーとかどうだ?」

俺が提案すると、由比ヶ浜がびっくりした顔で言った。


「ヒッキー滑れるの!?」


「っふ、まあな」


滑ったことは無い。でも何故か出来る気がしていた。スケートはまあまあ出来るし大丈夫だろ。


「でも着替えがなぁ…」


そういえば、俺もスキーなんてやると思ってなかったから何の準備もしてなかった。


「まあ、ウェアとかスキー道具はレンタルすればいいだろ。金は俺が払うよ」


「え!いいよそんなの!自分で払うし」


「いや、提案したの俺だし」


「いいから!!」


「でもな…。わかった。そこまで言うなら払わせてやる」


「なんで上からだし」


ここから一番近いスキー場を調べると、バスで30分程度のところにあるそうだ。


「行くか」


「うん!」







「うひゃああー!!!ヒッキー危ない!!よけて!」


「ん?うわ!!!」


思いっきり由比ヶ浜が衝突してきた。

怪我はなさそうだ。


「いたた、ごめんねヒッキー」


「気にすんな、最初はそんなもんだ」


いいながら立ち上がり、由比ヶ浜に手を貸す。


「それにしても、ヒッキーほんとに滑れるんだね」


「信じてなかったのかよ…こう見えて体育の成績は良い方なんだぞ」


そう、引きこもりの俺だが、運動神経はそこそこいいのである。


「ヒッキー、手繋いでてくれない?」


「え?いや、その方が滑りにくいと思うぞ」


「えー、じゃないとすぐ転んじゃうんだもん」


「それなら、こうしたほうがいい」


俺は由比ヶ浜の後ろに立ち、そのまま由比ヶ浜にくっつく。由比ヶ浜のスキー板が内側、俺の板がその外にある形だ。

初心者に教える時はこうする、らしい。さっきこうやってる人を見た。


「へ!?ちょ、ひひひヒッキー!?!?///」


「これなら変に暴れなければ転ばないだろ」


「いや、そうなんだけど、そうじゃなくて…///」


「んじゃ、ゆっくり滑るからな」


俺は八の字の形で滑り出した。そうすれば内側にある由比ヶ浜のスキー板も強制的に八の字になる。


「どうだ?」

「…」

「おい、結衣?」

「…っへ!?ああうん!さっきよりもいい感じだよ!」

「そうか、もうすぐでリフトの所に着くぞ」


平らになったところで由比ヶ浜から離れた。


このスキー場は、リフトとゴンドラがある。

さっきはリフトで行ったが、ゴンドラだともっと上まで行くようだ。

せっかくだし、のってくか。


「大丈夫か?結衣。顔真っ赤だけど、もしかして寒いのか?」

「ちちちがうよ!?///よーしもっかいいこーう!!!」


ゴンドラで上まで来ると、結構高かった上に、空気の冷たさも増した。


「ね、ねぇヒッキー。なんかすごい高いんだけど、生きて帰れるかな」


「大丈夫だ、またさっきみたいにゆっくり行こうぜ」


「さっきのまたやるんだ…///」




「ひ、ヒッキー離さないでね?」

「大丈夫だ任せろ。もし雪崩が起きてもちゃんと置いてくから」

「なんでそうなるし!!!」


さっきより急なんだが、ここもしかして上級者向けなのか?


てか今更気づいたんだが、由比ヶ浜と近くないか?髪が凄く匂いするんだが…じゃない!

由比ヶ浜の体柔らかいな…じゃなくて!!


修行僧になれ、俺。雑念退散!!


「ふ、ふう。なんとかついたぁ」

「はぁはぁ…」


「ヒッキーも疲れたの?」


「い、いや!?どっちかと言うと心が疲れたというか男の子って大変だなっていうか」


「何言ってるの?」


女子にはわからなくて結構だ。


「もうそろそろいい時間だな、帰るか」

「うん!いやー、初めてだったけど楽しかったなー」


由比ヶ浜なら、どんなことでも楽しく出来るんじゃないかと思った。

子供って好奇心旺盛だからな。


レンタルしていたものを返し、バスで旅館に向かう。時計は5時を回っていた。


バスの中、由比ヶ浜がまた俺の肩に頭を乗せて寝ていた。スキーの疲れが出たのだろう。

飛行機で見た時よりも何故か、可愛く見えてしまった。


「起きろ結衣」ペシ

「んん…」

「もう着いたぞ、旅館前だ」



旅館に入り、フロントから鍵を受け取り部屋に向かった。


「夕飯がでるまでまだ少し時間あるし、温泉でも入るか。ここ温泉が有名らしいぞ」


「おお!いいね!はいろはいろ!」


俺の提案に乗った由比ヶ浜が、カバンから温泉セットを取り出した。


「じゃいくか」




大浴場に入ると、確かにすごかった。露天風呂で、かなり広い。

さすがに、入るとじつは混浴で、「な、なんで女湯にいるの!?」なんてラノベ展開は無かったが。別に期待してたわけじゃないよ?


身体を洗い、20分ほど湯に浸かってから上がった。


「結衣が来るまで待つか」



10分ぐらい待って、由比ヶ浜が上がってきた。


「ごめん、長くなって。先戻っててよかったのに」


「気にすんな、大して待ってねーよ。部屋戻るぞ」


部屋に戻り、お互い浴衣姿で食事時間をを待った。


「楽しみだねー夕食!どんなの出るのかなー」


と、ノックが聞こえ、「失礼します。お食事を運んでもよろしいでしょうか?」

昼の女将さんがやってきた。

「お願いします」


言うと、すぐに食事が運ばれた。

端的に言って、超豪華


「みてみてヒッキー!なんか頭あるよ頭!」


「その言い方はやめなさい、由比ヶ浜さん。これは刺身の尾頭付きと言うのよ。」


「似て無さすぎだよヒッキー」


全力でユキペディアの真似をしたのだが、覚めた目で見られた。


「うま!このカニうま!!」


満足してくれてるようで何よりだ。


「今日はあとさっぽろ雪まつりに行って、帰って寝るだけ…ん?」


「どしたの?」


今更大変なことに気づいた。


「俺ら今日、ここで二人で寝るのか…?」


「…」


「…」


「…/////」


由比ヶ浜が顔を赤くしている。

俺も多分、かなり赤くなってるだろう。


「ひひひひヒッキーこの魚美味しいね」


由比ヶ浜がカニを食べながら言う。動揺しすぎだろ…。


お互いその後無言で食べ続け、すべての食事を平らげた。味がほとんどしなかった気がする。


若女将さんたちにテーブルを片付けてもらい、


「じゃ、じゃあ雪まつり行こうか!」


「そ、そうだな。てか、雪まつり行くのに浴衣きちゃったじゃねーか…」


「あ…。」


「…」


「ヒッキーは後ろ向いて。絶対振り返っちゃダメだからね」


「わ、わかった」


お互い少し離れ、背を向けて着替える。


後ろで浴衣を脱ぐ音が聞こえる。

由比ヶ浜も後ろ向いてるんだよな。少しくらい見てもバレないんじゃ…。やめておこう。

ギリギリのところで俺の理性が耐えてくれた。


てかほとんど着替え終わったけど、ここトイレついてんじゃねーか。






「すごく綺麗…」


俺も生では初めて見たが、ここまですごいとは思ってなかった。


「来てよかったな、ほんと」

「うん。ありがとね、ヒッキー」

「3000円分のお菓子、買ってよかったわ」

「小町ちゃんにも感謝しなきゃだね。お土産いっぱい買わなくちゃ!」


俺らはライトダウンギリギリの時間まで見入っていた。




「風邪引きそうだ、そろそろ行くか?」

「まだ、帰りたくないな。帰ったらすぐ寝ちゃいそうだし」


同じ部屋で寝ることを忘れているのだろうか。


「ていってもな、ライトダウンしちゃうぞ」

「ここの近くに観覧車があるんだって、さっきポスターで見たんだ」

「じゃあ、そこいってみるか」


観覧車は案外近くにあった。

この時間だしもうやってないんじゃないかと思ったが、11時までは動くらしい。


俺と由比ヶ浜は向かい合って座った。


「綺麗だな…」


観覧車から見渡す景色は、街灯がイルミネーションとなり、それが雪に反射してとても綺麗だった。


「寒いから、隣行ってもいい?」

「あ、ああ」


「ヒッキー、私ね、最近すごく楽しいんだ」


由比ヶ浜が優しい声で話した。由比ヶ浜のこの優しい声が、俺はすごく好きだ。


「ヒッキーの家に行って、小町ちゃんと2人で肉じゃがを作って3人で食べたことも。それと、今日の事も」


ああ、振り返ると本当に楽しいことばかりだった。


「前も言ったけどさ、これがずっと続けばいいなって思ってる」


「…」


少しの間、沈黙が続いた。

と言っても、5秒程度の沈黙だが。


「ねぇ、ヒッキー…」


俺は、返事をせずに由比ヶ浜の言葉を待った。


由比ヶ浜は、さらに5秒ほど間をあけてから、


「…ううん、やっぱなんでもない」


てっきり告白とかされるのかと思っちゃったよ。勘違い乙俺。



「今度はさ、みんなで旅行しようよ。ゆきのんと、いろはちゃんと、小町ちゃん。5人で行ったらもっと楽しくなると思うんだ」


それはきっと、最高の思い出になるだろうと、去年までの俺なら絶対に思わないだろうことを思った。


「そうだな。でももうすぐで受験生だから無理だろうけど」


「む。空気壊すな!ばか!

まったく、ヒッキーなんだから」


「太ももを叩くな。あとヒッキーを罵倒用語として使うのもやめろ」


なんて話していると、観覧車が一周したようだ。

「帰ろっか」



旅館の部屋に入ると、布団が敷かれていた。1組だけ。


「ななななな////」

「なんで1組しかないんだよ…」


「…///」


「結衣は布団で寝ろ。俺はそこの椅子で寝る」


「だ、だめだよ!風邪ひくよ!」


「いやでもさすがにな…」


「私と寝るの、嫌…?」


そんな上目遣いされたら断れるわけがない。


「一旦着替えよう。着替えてから整理しよう。な?」


そして、旅館を出る前のようにお互い背を向け、浴衣に着替えた。だからトイレ使えよ俺。


「ほんとにいいのか?結衣」


「ヒッキーなら…いいよ?」


そんな勘違いさせるような言い方やめようね。


「じゃあ、ヒッキーも入って」


「い、いくぞ」


「…」

「…///」

「電気消すぞ?」

「う、うん…」


俺らは背を向けて、眠りについた。




眠りにつけるわけがない。もう心臓バックバク。

「寝たか?」

「まだ起きてるよ」

「寝れそうにないんだが…」

「私もすごくドキドキしてるよ」


「そういう勘違いさせる発言は控えた方がいいぞ。モテないくんは必死なんだよ」


「なんで勘違いだって思うの?」

「いや、なんでって…」

「勘違いじゃないかもしれないよ?」


「…え?」


「なんちゃって。引っかかった?」


「おい、俺を弄んで楽しいか…」


数分間静寂が続いたあと、俺の背中から由比ヶ浜が抱きしめてきた。


「ゆゆゆゆ由比ヶ浜さん!?なななななにしてらっしゃるのですか!?!?」


背中に柔らかい双丘が当たっている。もうほんと、童貞殺す気ですか?


「…すぅすぅ」


由比ヶ浜の返事が聞こえない代わりに、寝息が聞こえた。

こいつまさか…

「寝てるのか…?」


「すぅすぅ。んぅ」


俺は、朝まで自分の中の獣と戦い続ける覚悟を決めた。



翌朝

「ん、んんんー!………ん?」

「…」

「ひひひヒッキー!?なんでくっついて…」

「ああ、結衣、起きたか。おはよう」


「まさかヒッキー、私が寝てる間に…」


「言っとくが、俺はなんもしてねーからな。お前が寝てる間俺に抱きついてきたまま離さなかったんだぞ」


「そ、そうだったんだ。ごめんね。てか目の隈すご!」


「俺は獣との激しい戦争に打ち勝ったんだ」


「獣?なんの話?」


「あ、いや、何でもない」



旅館で朝飯を済ませ、帰る準備をし、空港へ向かった。


そして今、お土産コーナーにいる。


「お土産何にしようかなー。やっぱ白い恋人かな?」

「小町になんか買ってくか…」


やはり俺も白い恋人だな


由比ヶ浜もお土産を決めたようだ。

なんか色々買いすぎてかごパンパンなんだけど、帰り大丈夫なの?




昼過ぎの飛行機で東京へ向かい、電車で千葉に帰ってきた。


「んはー!楽しかったー!」

「そうだな、んじゃ、またな」

「あ、ヒッキー…」

由比ヶ浜がすごく名残惜しそうな顔をしてる。まあ喪失感があるのは俺も同じだ。


「家、寄ってくか?小町にお土産とかあるだろうし」


「うん!!」




「たでーまー」

「おじゃましまーす」


「あ、お兄ちゃんおかえり!結衣さんも!いやー、どうでした?なにか進展は?」

「ななななんのことかな小町ちゃん?」


「むむ?その反応、怪しい」


「こ、小町ちゃんにおみやげかってきたよ!はい!」


「おお、これはこれは。わざわざありがとうございます!」


「あとねー、かまくらちゃんにも!高級ドッグフードだよ!」


「これ以上うちの猫を甘やかさないでくれ」


最近かまくらは炬燵でグータラ生活を送り続けているせいでふっくらしている。ダイエットさせねば。


しかし、うちの猫にまでお土産をくれるとは。由比ヶ浜らしい、な。


「じゃ、お土産も渡したことだし、そろそろ行こうかな」


「もうちょっとゆっくりしてってくださいよー」


小町がせがむように言う。


「えへへ、ありがとね。でもママとパパにもお土産あるから。旅行先が北海道って聞いた時すごく心配してたから、早く帰ってあげたいんだ」


「それなら仕方ないですね。ではお気をつけて!!ほら、お兄ちゃん」


「へいへい、わかってるよ」




「なぁ、由比ヶ浜。そろそろ名前呼びやめてもいいですかね。全然慣れない」


「うーん…。しょうがないなー」


「代わりにゆいゆいと呼んでやってもいいぞ」


「それはもういいから!!!」



由比ヶ浜を駅まで送り、さて帰るかと振り返ると、一色が5メートルくらい先にたっていた。仲間になりたそうにこっちを見てる。


「せ、せんぱい!?なんで結衣先輩と?」


「ん?聞いてなかったのか?」


そういえば久々に一色を見たな。


「何を!?」


「由比ヶ浜と北海道に行ってたことだよ。由比ヶ浜から連絡あったろ」


「そうでしたか。…ってええええ!?!?」


「雪ノ下も用事で行けなくて、お前も生徒会の仕事があって、消去法で俺になったんだよ」


「ふふふ二人でいったんですか?」


「なななななな…。

知らぬ間にこんなに差をつけられていたとは…やりますね、結衣先輩…」


「ん?聞こえないぞ」


「先輩、決めました」


「なにを」


一色は十分な溜めを作ってから、


「来週の土曜日、私の家に来てください」


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2018-02-14 04:42:22

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1: SS好きの名無しさん 2018-02-15 10:05:56 ID: 2fo-WtZo

一々飛ぶのがめんどくさいので、短いのを乱立せずに一つにまとめてほしい

2: 青い夕日 2018-02-19 22:45:43 ID: M4Wz9f2x

ご指摘ありがとうございます。次で最終回となるよう書いてます。


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1: SS好きの名無しさん 2018-02-14 04:42:58 ID: uNT0eSoM

すごく面白いです!!
続き楽しみにしてます(*^^*)


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