2023-03-04 03:35:37 更新

概要

【血のバレンタイン】と呼ばれる惨劇の日から、世界に“異形のモノ”が出没して全てが狂い始める。その“異形のモノ”は人の手では倒れず、各国が一斉に核を使用しても傷一つ付けられず全く歯が立たなかった。そんな世界になっても、人類は内陸に移り住み、少しずつその数を減らしながらもしぶとく生き残っていた。 そんな中、一筋の希望が見え始める。かつての世界大戦で活躍した軍艦の力と魂をその身に宿し、“異形のモノ”を蹴散らして人々を救う者達が現れたのだ。 女性である事と軍艦の力を宿したその姿から、人々はその者たちを“艦娘”と呼び、“異形のモノ”は深い海の底から現れることから“深海棲艦”と呼ぶようになった。 これは、艦娘とそれを率いる提督の“絆とキセキの物語”である。


前書き

初投稿です。文才はあるわけではないです。思い付いた内容をつらつらと書いていくスタイルです。
FF7Rをやってたらこんなのが降りてきました。艦これはスマホ、vita、アーケードとプレイしていますが、自分が持っていないキャラや史実の出来事に関しては勝手なイメージや独自設定を貫きます。

キャラ崩壊、独自解釈、独自設定、作者の趣味が前面に出てきますが、それらを受け入れられる寛容な方は是非読んでください。
尚、この作品はこれから書く(予定の)物語の序章にあたり、艦これ要素はほぼありません。


※この作品は、様々な面で作者の趣味が前面に出てきます。どこかで見聞きしたことのある設定やネタを見かけた方は、作者に近い感性or何かを愛する心を持っているのかもしれません。


 全てのはじまり




20XX年

ーとある海辺ー



ザーン……ザザーン………



??「もう、迷いは断ち切れたよ。」



??2「本当に…良いんだね?」



??3「ま、アンタがそう決めたんなら…良いんじゃない?」



??4「さぁ、行きましょう!!」










幸せな時間



199X年 2月14日

世界は、炎と悲鳴に包まれた。

これが後の世に語られる【血のバレンタイン】である







2月12日 10時30分 【血のバレンタイン】まで

あと48時間


終わらぬ戦争、歯止めのきかない環境汚染、治安の悪化による凶悪犯罪の増加といった問題に各国首脳は頭を悩ませていた。


しかし、ここ永世中立国エデンでは様々な人種の人々が平和な日々を送っていた。


これから起こる出来事で世界が大きく変わってしまうことも知らずに…。









英寿(ひでとし)「三里(みさと)~」コンコン



三里「…」



英寿「ミサ~?」コンコンコン



三里「……」



英寿「入るぞ~?」コンコンコンコン



三里「………」



英寿「沈黙は了承とみなしま~す」ガチャ






勝手知ったるといった様子で英寿はドアを開ける。

普通異性の部屋に入るときはもう少し緊張したり、失礼の無いように気を付けるものだが、赤ん坊の頃からの付き合いである二人の間には"遠慮"の二文字など最早存在しなかった。






英寿「ノックしてもしもーし」






既に入室しているので、ノックもへったくれもない。






三里「…Zzz」



英寿「…やっぱり」ハァ






部屋の主、三里は布団の中で寝ていた。

それはもう幸せそうに、涎を垂らしながら…

あまりにも予想通り過ぎてため息が出る。






英寿「ミサ~」ユサユサ



三里「むにゃむにゃ…」






英寿は声を掛けながら三里を揺する。






英寿「起きろよ~」ユッサユッサ



三里「う~ん…アチョ~!」ガバッ



英寿「ぐえっ!」バキッ



三里「エヘヘ~…Zzz」






しかし三里は一度熟睡すると簡単には起きない。不用意に起こそうとすると理不尽に反撃を食らうのだ。

現に今も、寝惚けた三里が突然寝返りを打ちながら仮面のヒーローが繰り出す飛び蹴りのようなポーズを取り、その足が英寿の顎にクリーンヒットした。






英寿「やったなぁ!」






しかし英寿もやられたままでは終わらない。こんなこともあろうかと、三里ママから対三里用の武器を借りてきたのだ。

そう、伝家の宝刀ことおたまとフライパンである。

右手におたまを、左手にフライパンを装備して

力の限り打ち鳴らす。対三里用の必殺技、通称"死者の目覚め"である。






英寿「いい加減に起きろ!川中(かわなか)三里!!」ガン!ガン!ガン!ガン!



三里「うわぁあああ!?!?」ガバッ






三里もこれには堪らずに飛び起きた。






英寿「おはよう、ミサ」



三里「ふわぁ~…あ、ヒデちゃんおはよう~」ムニャムニャ



三里「…あれ?何でヒデちゃんがあたしの部屋に居るの?」キョトン






ようやく起きたと思ったら、三里は状況を理解しておらずキョトンとしながら首を傾げている。






英寿「また夜更かしか?」



三里「あんなの夜更かしのうちに入んないよ?」



英寿「最後に時計を見たのは?」



三里「4時だったかな?」



英寿「今日は何日?」



三里「2月12日」



英寿「何の日?」



三里「皆で映画見に行く日」



英寿「待ち合わせは?」



三里「10時に噴水公園」



英寿「今何時?」



三里「6時くらいでしょ?」



英寿「ん」つ時計



三里「ん?」ウケトリ



英寿「もう一回聞くぞ?」



三里「…!」サーッ



英寿「今何時?」ニッコリ



三里「えー…と」ダラダラ



英寿「イ マ ナ ン ジ ?」(^ω^#)



三里「じゅ…10時半…デス」ガクブル



英寿「40秒で支度しろぉ!!」



三里「ハイィ!」バタバタ




そこからの三里は早かった。流石に40秒とはいかないまでも、ものの2分で全ての準備を終えて自転車に乗るところまでやってのけたのだから。



三里「ほらヒデちゃん、早く行くよ!」テマネキ



英寿「まったく誰のせいだよ…あ、おばさん。おたまとフライパンありがとう。」ハイコレ



三里ママ「良いのよ~、こうでもしないとあの子ったら起きないんだから。英寿君もいつもゴメンね?」ウケトリ



英寿「流石に15年やってたら慣れたよ(笑)」



三里「ヒデちゃん!」



三里ママ「あの子ももうすぐ高校生になるのに、ちっとも成長しないんだから」ハァ…



英寿「いいヤツなんですけどね(汗)」



三里「早く!」カムォン!



三里ママ「お嫁に行けるのかしら…英寿君、どう思う?」



英寿「将来ミサの旦那になる人は絶対苦労すると思う」



三里「なんだとー!?」プンスカ



三里ママ「昔は『ヒデちゃんのお嫁さんになる~♪』なんて言ってたけど…英寿君、うちの子どう?」



三里「ちょっ」



英寿「う~ん…確かに俺も『絶対ミサと結婚するんだ!』って言ってたけど…」



三里「二人とも何言ってんの!?」Σ(゜Д゜)



三里ママ「結婚は男女問わず16才からだけど、婚約は年齢関係ないじゃない?」



三里ママ「今でも寝言でひd」



三里「もう先に行くからね!!///」ピューン



英寿「からかい過ぎたかな(笑)」



三里ママ「あらあら照れちゃって。ほら、英寿君も早く行かないと。」



三里ママ「今夜はご馳走いっぱい用意するから、みんなお腹空かせて帰ってきてね?」



英寿「オッケー、みんなにも伝えておくよ。」



英寿「んじゃ、改めて行ってきまーす!」ピューン







三里ママ「さてと、そろそろ今夜の買い出しn」



TV『臨時ニュースです』



三里ママ「あら?」クルッ






その時、それまで流れていたEHKによる生活の豆知識特集が突然ニュースに切り替わる。アナウンサーの張り詰めた表情から、深刻な内容であることを感じさせる。






アナウンサー『つい先程、パキスタン近海にてアメリカ軍の軍艦が撃沈されたとのことです。』



三里ママ「え!?」



アナウンサー『ほぼ同時刻に、日本海付近ではロシアのクルーズ船、南シナ海では中国国籍のタンカーがそれぞれ撃沈されており、米中露の3国と現場周辺の各国の間には緊張が走っています。』



アナウンサー『船体の損傷が酷く、新エネルギーの“ラルヴァ”が兵器として使用されたのではないかと見られています。』



三里ママ「なんだか物騒なニュースね〜。沈められた場所も悪意を感じるし、それに“ラルヴァ”は人が直接触れると体調が悪くなるらしいし乗ってた人たちは大丈夫なのかしら…」



三里ママ「…っと、ニュースも気になるケド早く買い出しに行かなきゃ。今夜はご馳走いーっぱい用意しなきゃね!」ピッ



アナウンサー『また、不確かながら今回の襲撃事件に関して“クジラのような生物が火を吹いた”とのs』プツン



三里ママ「さぁ、待ってなさいよスーパー!」ギラン


            ・

            ・

            ・


2月12日 11時00分 【血のバレンタイン】まであと47時間30分


??「遅い!」イライラ



??2「落ち着きなよ雲雀(ひばり)ちゃん。」ドウドウ



雲雀「一吹(いぶき)!アンタは何でそんなに落ち着いてられんのよ!?」



一吹「ミサちゃんの寝坊はいつもの事だし…(汗)」






その頃、噴水公園では雪野(ゆきの)一吹と五代(ごだい)雲雀のふたりがそんなやり取りをしていた。一吹は雲雀を宥めているが、雲雀の怒りはもっともだろう。何故なら






雲雀「あのふたり!『雲雀達が中学生になるからお祝いだ』なんて言ってたクセに寝坊するってどーゆーことよ!?」ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!



一吹「アハハ…(汗)」






そう。雲雀と一吹のふたりは間もなく中学生になる。そのお祝いの筈なのだが、幼馴染でもあり先輩でもある英寿達は遅刻してしまっていたのだ。1度集合していた英寿も遅刻者として扱われるのは完全にとばっちりではあるのだが…






一吹「寝坊したのはミサちゃんだけなんだけどなぁ…」



雲雀「そんなのは些細な問題よ!」



一吹「理不尽だなぁ…、トシくんゴメンね(泣)」



一吹「もー雲雀ちゃん、少しおちつ…ハッ!?」ピシャーン!







その時、一吹に電流が走る。







一吹「ねぇ、雲雀ちゃん。私いい事思いついちゃった。」



雲雀「何よ!?」ギロッ



一吹「そんなに睨まないでよ、雲雀ちゃんもきっと気に入るよ?」



雲雀「ふぅん?随分と自信がありそうじゃない。言ってみなさいよ?」



一吹「今日1日はさ、ふたりにうーんと甘えちゃおうよ!」



雲雀「甘える?ハンッ、なんでそんな子供みたいなことを…」



一吹「雲雀ちゃんはトシくんに甘えたくないの?」



雲雀「何でアイツ限定なのよ!?///」



一吹「だって雲雀ちゃんはトシくんの事大好きじゃん!」ニッコリ



雲雀「そんなんじゃないわよ!」ウガー



一吹「じゃあ嫌いn」



雲雀「嫌いとは言ってないじゃない!!」



一吹「なら私がトシくんもらうね?」



雲雀「それはダメ!たとえ一吹でも絶対ダメ!!」



一吹「即答するほど好きなんでしょ?」



雲雀「それは…ゴニョゴニョ…」モジモジ



一吹「言っちゃえば楽になるよ?」ニコニコ



雲雀「…すっ、すきぃいい〜〜〜!!!!///」カオマッカ&ゼッキョウ



一吹「雲雀ちゃんカワイイ♪」



通行人たち(若いってイイなぁ)ホッコリ






裏声になりながらも素直な気持ちを吐き出す雲雀とそれにときめく一吹の様子を見て、周囲の人達は温かい気持ちになっていた。






雲雀「…って、何言わせるのよ!?」



一吹「雲雀ちゃんのホントの気持ちだよ。」



雲雀「まったく…アンタ、風穴あけるわよ!?///」





街頭ビジョン(CM)『1/60ガンダーロボ、明日発売!リアルなフレーム、多彩なポージングと惚れ込むこと間違いなしだ!!』



CM『みんな、明日はお店に急げ!』シャキーン!





瓶底眼鏡「やっぱりガンダーロボはカッコイイでやんす!今夜から徹夜で並ぶでやんす!!」キラキラ



野球帽「お店に迷惑だよ(汗)」



瓶底眼鏡「今すぐ長戸模型に連絡でやんす!」ピポパ



雲雀「いい歳してあんな玩具の為に徹夜とか…アホなんじゃないの?」



一吹「アハハ…(汗)」






雲雀がそう言って瓶底眼鏡達を遠目に見ながら呆れていると、CMが終わって街頭ビジョンの映像がニュースに切り替わる。






アナウンサー『では、本日の襲撃事件について、専門家の方々にお話を伺いたいと思います。』




雲雀「襲撃事件?そんなのいつあったのよ?」



一吹「さっき雲雀ちゃんがイライラしてる時にニュース速報で流れてたよ?」



雲雀「全然気付かなかったわ…」





アナウンサー『軍事兵器と各国の情勢に詳しいミラーさん、そして新エネルギーの開発と最新技術の専門家でありますハロルド博士にお越しいただきました。お二人とも、本日はよろしくお願い致します。』



ミラー『マクドネル・ミラーだ。こちらこそよろしく頼む。』



ハロルド『よろしくね〜ん♪』



アナウンサー『では早速聞いていきましょう。今回の事件は“ラルヴァ”を使用した兵器によるものとの見方が強いですが、お二人から見てどう思われますか?』



ミラー『確かに“ラルヴァ”は使用されたのだろうが、それはおそらく米軍の軍艦のみで他は別だろうと思う。』



ハロルド『アラ、やっぱりミラーもそう思う?』



アナウンサー『と、言いますと?』



ミラー『うむ、まずはこれを見てほしい。』ポチッ






そう言ってミラーは懐から小さな機械を取り出して操作する。するとホログラムが現れ、襲撃されたそれぞれの艦が沈む直前と思われる画像を映し出す。






ミラー『ロシアのクルーズ船と中国のタンカーだが、無数の穴が空いているのが分かる。これはたぶん、砲撃等によって蜂の巣にされたんだろう。』



ミラー『クルーズ船は最新の太陽光発電システムで動いていたし、タンカーは重油をまだ積んでいなかった上に旧型なので動力源はガソリンだ。その為誘爆しても損傷や損害の規模はたかが知れている。』



ハロルド『でもね、軍艦は違ったのよ。船体が原型を留めていないどころか、ほとんど跡形も無く消えてしまっているの。』



ハロルド『今度はこっちの映像を見て頂戴。』ピッ






そう言ってハロルドが見せたのは、軍艦の甲板上で撮影されたと思われる映像である。船員たちの慌ただしい動きや砲撃による轟音から、戦闘中に撮影されたものと思われる。






ミラー『米軍に限らず、軍艦や輸送機等には必ず特殊記録員…簡単に言えばカメラ係が乗る事になっている。有事の際に敵の情報や自分たちの遺言を国に伝える為にな。』



ミラー『この記録員だが、軍部の中でも特に撮影技術と通信技術に秀でた者が選ばれる。そして記録員のみが使用できるタイムラグがほぼゼロの超高速通信があるんだが、今回の映像はそれによって米国に届けられたものを特別に使用させてもらっている。』



アナウンサー『そんな物を全世界に向けて放送してしまっていいんですか?』



ミラー『米国政府と米軍からは「必ず世に流してほしい」と言われている。問題は無い。』



ハロルド『…少し脱線してしまったわね。話を戻しましょう。』



ハロルド『この映像だけど、何か気付かない?』



アナウンサー『?』



ミラー『…ふむ、確かにこれは妙だな。』



アナウンサー『私には、必死に艦を守る為に戦っているようにしか見えませんが…』



一吹「あ、確かに変だね。」



雲雀「どこが?」



ミラー&一吹『「映像のどこにも敵艦が映ってない(んだ)。」』



ミラー『これだけ派手に撃ち合って、敵艦が映らないのはおかしい。記録員も必死に敵艦の姿を捉えようとしたのだろう。頻繁にカメラの向きが変わっている。』



一吹「ほとんど360°カメラを回してるのに、どこにも映ってないの。」



雲雀「それは確かに変ね。」



雲雀(一瞬海の上に人が立ってるように見えたのは気のせいよね?)



ミラー『だが、沈む瞬間はしっかりと映っていた。もう少し先まで見てみよう。』






そう言って画面の中の3人は映像を進める。すると敵のものと思われる砲弾が一際大きな砲塔に命中した瞬間、画面が白くなり砂嵐となって映像が終了する。






ハロルド『ここで映像は終わっているわ。』



アナウンサー『どうやら一番大きな砲塔に弾が当たったようですが、これが撃沈の瞬間なんでしょうか?』



ミラー『あぁ。あれは“ラルヴァ”を使用した新型兵器、通称【ローエングリン】だ。“ラルヴァ”を収束、圧縮して発射する陽電子砲なんだが、その性質上放射線による環境汚染の可能性もあるため滅多に使われない。』



ハロルド『うっすら光っていたから、チャージは始まっていたんでしょうね。敵艦は映っていなかったけど、砲撃された方向に撃って突破口を開こうとしたんじゃないかしら?』



ハロルド『でも、その為にチャージを開始したのが仇となったんだと思うわ。チャージ中に被弾したことで“ラルヴァ”が暴発、そのまま艦を消滅させてしまった…。』



アナウンサー『“ラルヴァ”の暴発とはそこまでの破壊力があるんですか?』



ハロルド『えぇ。“ラルヴァ”は使い方によっては山を吹き飛ばす程よ。でも、今回は単なる暴発じゃないわね。』



アナウンサー『何か特別な要因が?』



ミラー『実はこの軍艦だが、“ラルヴァ”を動力にしていたんだ。そして【ローエングリン】は艦のエンジンに直結されていて、そこから“ラルヴァ”をチャージする。』



ミラー『さらに、艦が半永久的に活動できるように“ラルヴァ”の精製設備も積んでいた。チャージ中の【ローエングリン】に被弾したことで、精製中のものも含めて艦内全ての“ラルヴァ”が暴発したんだろう。』



ハロルド『その破壊力は核兵器すら凌駕したでしょうね。もし陸地でこれだけの爆発が起きたら、間違い無く大陸の形が変わっていたんじゃないかしら?』サラッ



アナウンサー『ヒェッ…』





雲雀「怖っ!」



一吹「考えたくないね…」





ハロルド『やっぱり“ラルヴァ”は使うべきじゃないわね。』



ミラー『そー言えば、アンタは“ラルヴァ”の使用と精製については最初から反対していたな。何故なんだ?』



アナウンサー『確かに、ハロルドさんは以前から“ラルヴァ”に対して否定的な姿勢でしたね?』



ハロルド『ちょうど良いし、この場を借りて説明しようかしら。』



ハロルド『そもそも、“ラルヴァ”が何なのかあなた達は知っているかしら?』



アナウンサー『開発者のジャニス・カーン氏からは、〈自然界の粒子から作ることができる極めてクリーンなエネルギー〉と伺っていますが…?』



ミラー『俺もジャニス本人からそう聞いている。』




ハロルド『確かにそれが通説よね。でも、実は違うのよねぇ。』





一吹&雲雀「「えっ、違うの?」」






ハロルド『どーしても気になって、私も“ラルヴァ”の研究をした事があるんだけど…』



ハロルド『結論から言うと、アレは存在しちゃいけない代物よ。』



一吹「それって…」



英寿&三里「「待たせたな(ね)!!」」キキーッ!



一吹&雲雀「「ヒャア!?」」ビクゥッ!






その時、ようやく英寿達が到着する。突然の到着に、後輩組は驚くものの…






雲雀「遅いわよ!」ガーッ



一吹「ふたりとも、すごい汗だけど大丈夫なの?」






最初にかけた言葉は真逆だった。







三里「ゴメ…寝坊…しちゃって…」ゼエゼエ



英寿「やっぱ…コイツ…寝てたわ…」ゼエゼエゼエゼエ



一吹「ほら、雲雀ちゃん。」コゴエ



雲雀「わっ、分かってるわよ!」コゴエ



英寿&三里「「?」」



雲雀「アンタ達!お…遅れた罰として、今日は私達の言いなりよ!!」ウガー!



一吹「雲雀ちゃん…(泣)」



英寿「分かってるよ。」ニガワライ



三里「そもそも、今日は二人のわがままをぜーんぶ聞いてあげるつもりだったし。」



一吹「ヘ?」



英寿「あ、勿論常識の範囲内でだぞ?」



雲雀「なら良いのよ!」フフン



三里「じゃあ、移動しよっか。」



全員「「「「オー!」」」」


            ・

            ・

            ・


2月12日 13時00分 【血のバレンタイン】まであと45時間30分


英寿「映画館に着いたな。俺は次の上映時間確認してくる。」スタスタ



三里「はいよ〜」ノシ



雲雀「お腹空いたわね。」



一吹「私も流石にお腹空いたな〜。」



三里「お昼まだだもんね。食べられそうなところ探そうか?」



雲雀「あそこにマグロナルドがあるわよ!」キラキラ



一吹「見つけるの早すぎない?(汗)」



三里「雲雀は食いしん坊だねぇ(笑)」ケラケラ



英寿「お待たせ。次の上映まで1時間ちょっとあるみたいだ。」



三里「ヒデちゃんお帰り〜。今お昼の相談してたんだ。」



英寿「雲雀がマグロナルドに食い付いてる気がする。」



一吹「正解。」ニガワライ



英寿「なら決まりだな。時間あるし、そこで食べよう。」



雲雀「なら早く入りましょ!勿論奢りよね?」ニヤリ



先輩's「「仰せのままに。」」ハハー



一吹「なら私達が場所取っておくね。」






一行は二手に分かれ、英寿達先輩組は注文の為に列へ並び、雲雀達後輩組は窓際の席に座って場所を確保した。

マグロナルドでは若い男女の店員がレジで注文を取っている。






男性店員「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりでしょうか?」ニッコリ



女性店員「新発売のチーズマグロバーガーがオススメとなっております!」ニッコリ



英寿「なら、そのチーズマグロバーガーのセットを4つ。」



女性店員「お飲み物は何にしますか?」



三里「コーラと烏龍茶を2個ずつで。」



男性店員「店内でお召し上がりでしょうか?」



英寿「そうします。」



女性店員「合わせまして、お会計が1,200円になります。」



三里「半分ずつね。」



英寿「あいよ。」



男性店員「では丁度頂きますね。こちらレシートになります。」



女性店員「お待たせしました。チーズマグロバーガーセットが4つになります。」



店員's「「ありがとうございました〜」」






三里「お待たせ〜」



英寿「おっ、結構いい場所だな。」



一吹「思ったより早かったね?」



英寿「店員の対応が良くてな。」



雲雀「早く食べましょ!」フンス



三里「慌てない慌てない。はい、雲雀の分ね。」つ



雲雀「ありがと!…って、いつもよりバーガー少ないんだけど!?」



英寿「お前のことだから映画見ながらなにかつまむだろ?あんまり食べると眠くなるし、今夜はミサの家でご馳走だぞ?」



雲雀「…なら我慢する。」ムゥ…



英寿「よろしい。んじゃ、いただきまーす!」



一同「「「「いただきまーす!!」」」」


            ・

            ・

            ・


一吹「マグロとチーズって結構合うんだね!」



三里「見た目よりボリュームあるし、これは今後リピートしても良いよね!」



雲雀「ふぉえあふひああいあわ(これは好きな味だわ)!」ムグムグ



英寿「食うか喋るかどっちかにしろよ。」



雲雀「」ムグムグムグムグ



英寿「食うのか…」


            ・

            ・

            ・


三里「美味しかったね〜」



一吹「そろそろチケット買わなきゃね。」E:コーラ



英寿「チケットはさっき買って来たから渡しておくよ。」つチケット



三里「さっすがヒデちゃん!」ウケトリ



英寿「ミサは奢りじゃないからな。」



三里「ケチ〜」ブーブー



雲雀「なら早く入りましょ。良い席が無くなっちゃうわ。」E:コーラ&チケット



一吹「正面の席を押さえなくちゃ!」チケットウケトリ



英寿「じゃあ皆、忘れ物は無いな?」



三里「あ!烏龍茶忘れた!」



英寿「駆け足!」



三里「ラジャー!」ピューン



雲雀「私達は席を取っておきましょ。」



            ・

            ・

            ・


雲雀「ここが良いわ!」



一吹「前から5列目の真ん中4つ…ベストポジションだね!」



英寿「最前列は首が疲れるからな。」



三里「お待たせ〜」E:烏龍茶



英寿「おかえり。」



一吹「そろそろ始まるし、座ろうよ。」






ブー!







一吹がそう言ったタイミングで、丁度上映開始のブザーが鳴る。






三里「今日の映画なんだっけ?」



英寿「サバイバルホラーだな。話題になってた最新作のヤツ。」



雲雀「ホラー!?」



一吹「雲雀ちゃん、怖いの?」



雲雀「べっ、別に怖くないわよ!」



三里「確かシリーズ史上最恐って言ってたよね?」



後輩's「「え?」」


            ・

            ・

            ・


映画『キシャー!』



雲雀「〜〜〜!〜〜〜〜〜ッ!!」ダキツキ



映画『ギョエェェェーーーッ!!』



一吹「アワワワワ…!」ダキツキ



映画『ブルァアアアアアアォ!!!』



後輩's「「ヒィイイイイ!!!!」」ギュゥゥ〜



先輩's「「クッ…首が締まる…!」」






因みに、雲雀→英寿→三里→一吹の順番で座っており、後輩達は隣の先輩の、何故か首にしがみついていた。


            ・

            ・

            ・


2月12日 16時30分 【血のバレンタイン】まであと42時間


映画鑑賞を終えた4人は映画館から出てくるが、後輩達は先輩にしがみついたままである。



英寿「ほら、もう大丈夫だから、な?」ナデナデ



雲雀「うぅぅ〜…」グスッ



三里「一吹も、ね?」ナデナデ



一吹「…ヤダ」グスッ







そもそも、何故先輩組はお祝いにホラー映画をチョイスしたのか。…謎である。






英寿「まったく…。ほら、ふたりとも顔上げて。渡したいものがあるんだ。」



後輩's「「?」」カオアゲ






そう言って英寿は小さな包みを取り出し、3人に手渡す。






三里「何でアタシにも?」



英寿「渡さなきゃいけない気がしてな。」



三里「…そっか///」



英寿「開けてみなよ」



3人「「「うん。」」」






3人が包みを開けると、丸い石が中心にはめ込まれた首飾りが出てきた。三里はオレンジ色、一吹は白、雲雀はうっすらと青い銀色の石だった。それぞれ川、雪、雲をかたどった銀色の枠にチェーンが付けられており、3人によく似合っていた。






英寿「海辺を散歩してたらさ、たまたま見つけたんだ。試しに磨いてみたらさ、皆に似合いそうな色だったもんだからプレゼントにしようと思ってな。」



英寿「科学部の張本(はりもと)と工作部の赤石(あかし)に手伝ってもらったんだけどさ、昨日ようやく完成したんだよ。」



三里「張本と赤石って、夕実(ゆみ)と理沙(りさ)のこと?」



英寿「そ。あいつ等なら金属も加工できるし、設備も貸してくれるしな。」



一吹「昨日完成したって言ったけど、いつから作ってたの?」



英寿「ん〜…、半年くらい前かな?」



雲雀「半年!?」



英寿「おう。因みに、俺もお揃いで赤いのを持ってるぞ。」チャラ






あれ?そう言って、英寿は胸元から自分の首飾りを出して見せる。太陽を象った枠に赤い石がはめられたデザインだった。






英寿「ふたりは中学への進学祝い、ミサは高校の合格祝いだ。」サムズアップ



3人「「「…」」」



英寿「…アレ?もしかして気に入らなかった?」



3人「「「そんなことない!!」」」



一吹「すっごい嬉しい!トシくん、大切にするね!!」



雲雀「…ありがと///」



三里「最近学校で見かけないと思ったら、こんなサプライズがあったなんてね…///」



英寿「気に入ってくれたってことで良いのかな?」



3人「「「うん!!!」」」






英寿からのサプライズプレゼントで3人は満面の笑顔を見せていた。もうホラー映画の恐怖はすっかりどこかに行ってしまったようだった。






英寿「よし、帰ろう!おばさんのご馳走が待ってr」



三里「ねぇ、ヒデちゃん。」



英寿「ん?」



三里「せっかくだし、今ヒデちゃんが着けてよ。」



雲雀「…私も、トシに着けて欲しい。///」



一吹「私もお願い!」



英寿「…ん。分かったよ。」オイデ






3人の希望で、英寿がそれぞれの首に丁寧に着けていく。飛び跳ねて喜ぶ一吹、顔を真っ赤にして俯く雲雀、照れくさそうにはにかむ三里と反応は三者三様だったが間違いなく全員喜んでいた。


そして幸せな気分のまま、4人は帰路につく。





英寿の夢、皆の想い



2月12日 18時00分 【血のバレンタイン】まであと40時間30分


みんなの家《シェアハウス ブルーコスモス》に帰ってきた英寿達一行。三里ママが出迎えてくれる。






三里ママ「皆お帰り〜!ご馳走いーっぱい用意したわよ!」



三里「お母さん、ただいま!」



雲雀「ただいま!」



一吹「おばさん、ただいま!」



三里ママ「あらあら、皆すっごくいい笑顔ねぇ〜。何か良い事でもあったの?」



三里「まあね!」キラッ



一吹「すっごく嬉しいことがあったんだぁ!」キラッ



雲雀「わ、私は別に…///」キラッ



三里ママ「アラアラ、ウフフ♪」






3人の胸元に光るものを見つけ、三里ママはすべて理解する。雲雀の照れ隠しも、三里ママにかかればお見通しだ。






三里ママ「さて、主役も揃ったし始めましょうか!」



三里ママ「あなた〜、みんな揃ったわよ〜。」






三里ママの一声で、奥の部屋から三里パパと雲雀の両親、一吹パパ、英寿ママがご馳走と飲み物(2/3は酒)を持ってリビングに集まる。






三里パパ「おっ!それじゃあ始めるかぁ!」



雲雀パパ「よーし!全員グラスに飲み物を注げぇ!」



一吹パパ「今日は宴だ!」ヒャッハー!



雲雀ママ「飲み過ぎないでよ?」



英寿ママ「まぁまぁ、今日は特別ですし、私達も飲みましょう?」



雲雀ママ「…そうね!」






大人たちは酒、英寿たち4人はジュースを片手に、全員で声を合わせる。






一同「「「「「かんぱーい!!」」」」」



三里ママ「今日はマーボーカレーにワカメと卵のスープ、コブサラダにローストビーフ、各種揚げ物に野菜スティックとフルーツ盛り合わせよ!」



三里ママ「おかわりもたくさんあるから、遠慮しないでね?」



雲雀「ん〜!どれも美味しい〜!!」ハフハフ



一吹「おばさんのマーボーカレー大好き!」モグモグ



三里「このサラダも美味しいね!」ムグムグ



三里パパ「やっぱりウチの女房のメシはうめぇや!なぁ!?」グビグビ



雲雀パパ「まったくだぜ!」グビグビ



一吹パパ「ウチの嫁は中々帰ってこなくてなぁ…(泣)」グビグビ



雲雀ママ「ムラクモ機関の幹部でしたっけ?」チビチビ



英寿ママ「ウチの旦那も、神羅カンパニーの主任研究員になってから中々帰らなくて…」チビチビ



英寿「今日はお祝いなんだから、暗い話はやめようよ。」つビール



三里パパ「おっ!ヒデちゃん気が利くねぇ〜。」ウケトリ



英寿「おじさんだって、最近は日本との国交の為に走り回ってるんでしょ?たまにはリラックスしなきゃ。」



雲雀パパ「ヒデちゃんは優しいなぁ〜。ウチの雲雀はヒデちゃんみたいなヤツじゃないと絶対にやらん!」グビグビ



雲雀「ングッ!?///」



一吹パパ「ホントにトシくんはイイヤツだよ。なぁ、ウチの一吹どう?」グビグビ



一吹「えっ!?///」



三里ママ「何言ってるのよ〜、英寿君はウチの三里ちゃんが10年前から予約済みよ〜?」グビグビ



三里「ちょっと!?///」



英寿ママ「ヒデはモテるわねぇ〜。この前も、新聞部の青木彩葉(あおきいろは)ちゃんだっけ?その子が遊びに来てたし〜」ヒック



幼馴染's「「「えっ」」」



雲雀ママ「最近は科学部と工作部の部長さんと仲良さげだったし、居酒屋〈龍飛(たっぴ)〉の女将さんやってる翔子(しょうこ)さんとも親しいみたいじゃな〜い?」ヒック



幼馴染's「「「えっ」」」



三里パパ「そーいやこの前は〈長戸模型〉のとこの娘さん、蓮(れん)ちゃんと仲良く話してたよなぁ…」



三里パパ「確か…幼稚園の先生になる為には何が必要かとか熱く語ってなかったっけ?」グビグビ



幼馴染's「「「えっ」」」



英寿「俺の人間関係何で皆に筒抜けなの!?」



幼馴染's「「「…」」」ゴゴゴゴゴ



英寿「青木はCD借りに来ただけだし、張本達はアクセ作りの為に協力してもらったんだよ!」



幼馴染's「「「他は?」」」ゴゴゴゴゴ



英寿「翔子さんは会えば挨拶するくらいだし、蓮さんのは単なる雑談みたいなもんだよ!?」



幼馴染's「「「ホントに?」」」ゴゴゴゴゴ



英寿「ホントだよ!つーかお前ら、張本達の事はさっき話したろ!?」



幼馴染's「「「なら良し。」」」



三里ママ「みんな英寿君のこと大好きねぇ〜」ケラケラ


            ・

            ・

            ・


2月12日 22時30分 【血のバレンタイン】まであと36時間


大人達「「「「「Zzz…」」」」」



一吹「ムニャムニャ…」Zzz



雲雀「もう食べられない…」Zzz



英寿「みんな寝ちゃったな。」



三里「大人達はだいぶ飲んでたし、一吹達もお腹一杯になって眠くなったんだろうね。」



英寿「…こんな毎日が、ずっと続けばいいのにな。」



三里「急にどうしたの?」



英寿「ミサは、将来どんな事がしたい?」



三里「将来?」



英寿「うん。将来やりたい仕事とか、なりたいものとかさ。」



三里「そ~だねぇ…、家族と一緒に過ごす事かな。」



三里「ただ一緒にいるんじゃなくてさ、毎日笑って幸せを感じながら過ごしていたいよ。」



英寿「今みたいな感じに?」



三里「そうだね。あ、あとは忍者になってみたいかな!」



英寿「忍者ぁ?」



三里「だってなんだかカッコいいじゃん!!」キラキラ



英寿「まぁ、その…、頑張れよ(汗)」



三里「うん!…って、そーゆーヒデちゃんはどうなのさ?」



英寿「俺は…いや、やっぱり言わない。」



三里「えー!?ズルいよ自分は言わないなんて!」



英寿「だってお前絶対笑うもん。」



三里「だーいじょうぶ!絶対笑わないって!」



英寿「…じゃあ言うぞ?」



三里「…ん」



英寿「俺さ…ソルジャーになりたいんだ。」



三里「ソルジャーって、あの?」



英寿「うん。…今はさ、世界中で戦争とかやってるだろ?」



三里「そうだね…。エデンに居ると忘れそうだけど、本当は戦争してない国のほうが珍しい世の中だもんね。」



英寿「だからさ。俺、ソルジャーになって世界中の戦争を終わらせたいんだ。そんで、英雄になりたいんだよ。」



英寿「もしかしたら恨まれることのほうが多いかもしれないけど…、それでも、一人でも多くの人を救いたいんだ!」



三里「…フフッ」



英寿「ほら!やっぱり笑ったじゃないか!!」



三里「違う違う!可笑しかった訳じゃないよ。」



英寿「じゃあどういう…」







意味だよ、と言おうとしたところで言葉が止まる。三里は確かに笑っていたが、それはからかうようなものではなく、溢れんばかりの嬉しさや優しさを感じさせるものだった。

そんな三里の表情は月明かりに照らされ、あどけなさを残しながらも美しいものとなっていたために英寿は見惚れてしまっていた。






三里「ヒデちゃんは昔から、誰かの為に本気になれた。たとえ自分が犠牲になってでもね…。」



英寿「…。」



三里「覚えてる?10年前に私がガキ大将の武(たけし)達にイジメられてた時にさ、ヒデちゃんが助けてくれた時のこと。」



三里「相手は5人もいたのにさ、ヒデちゃんは必死に私の事を守ってくれた。どんなに殴られても、蹴られても、必ず立ち上がった。」



英寿「よく覚えてるな…。」



三里「忘れたりなんかしないよ。あの時の言葉だって、一言一句違えずに今も私の胸の中に残ってるもん。」



英寿「あの時の言葉?」マサカ…



2人「「まだやれるぞ。絶対に諦めない。」」



英寿「ボコボコにされて、カッコ悪かっただろ?」



三里「そんなことない!あんなに一生懸命守ってくれて、私ホントに嬉しかったんだよ!」



英寿「最後に苦し紛れの一発しかやり返せなかったし、傷だらけの泥塗れだったし…」



三里「たとえそうだとしても、あの時からヒデちゃんは…私にとってのヒーローだよ。」ニコッ



英寿「…もう寝るぞ!///」オヤスミ!



三里「おやすみ〜」ノシ






あまりの恥ずかしさに、英寿は部屋に戻ってしまう。三里はそれを見送り、部屋の扉が閉まったのを確認してから聞き耳を立てていた2人に声をかける。






三里「…さてと、盗み聞きとは感心しないなぁ?」



雲雀「なんのことかしら?」ムクッ



一吹「私達今起きたんだよ?」ハテ?






雲雀達はそう言って起き上がる。ずっと前から起きていたのだが、三里と英寿の幼い頃のエピソードに興味を持ちコッソリと聞いていたのだ。






雲雀「昔そんなことがあったのね。」



一吹「イジメられてるミサちゃんが想像できないよ…」



雲雀「武君って今じゃトシや私達と仲良くしてるけど、もしかして改心したの?」



三里「改心っていうか、あの時ヒデちゃんが最後に武を殴ったら当たりどころが良くてさ。ノックアウトしちゃったんだよ。」



後輩's「「へ?」」



三里「んで、目が覚めたときに最初は腹が立ったらしいんだけど、普段はあんまり怒らないヒデちゃんが本気で怒った顔をしてたのを思い出して反省したんだって。」



三里「そしたら次の日にさ、私達に謝りに来たんだよ。チョコビを両手に一杯持ってさ。」



雲雀「律儀ね。」



一吹「2人は武君のこと許したの?」



三里「その時の私は許すつもり無かったよ?ずっとイジメられてたわけだし。」



雲雀「私だったら許さないわよ。」



三里「でもヒデちゃんはさ、『俺達の目を見て、もうあんな事しないって誓えるのか?』って聞いたんだ。」



一吹「武君はなんて?」



三里「私達の正面に立って、目を見て謝りながらちゃんと誓ってくれたよ。」



三里「その後は3人で握手して仲直りしたよ。武の持ってきたチョコビをみんなで一緒に食べてね。」



雲雀「今更だけど何でチョコビなんて持ってきたのよ?」



一吹「それ私も気になってた。」



三里「今でもそうなんだけど、チョコビは武の一番好きなお菓子なんだよ。それを山ほど持ってくるんだから、アイツなりの精一杯の誠意だったんだろうね。」



三里「でもさ、そのチョコビは自分ちの〈剛田商店〉から黙って持ってきたやつだったみたいで。」



三里「あとで親にしこたま怒られてたよ(笑)」



後輩's「「えぇ…(汗)」」



三里「でもまあ、それ以来武はガキ大将を卒業して今みたいな義理堅い性格になったわけさ。」



一吹「今の優しい武君からは想像できないよ…」



雲雀「ホントよね…」



三里「…さて、私は話したよ?」






そう言って三里は悪戯っぽく笑う。それを見て雲雀達は背中に嫌な汗が流れる。






三里「2人がヒデちゃんを好きになったきっかけも、教えて欲しいなぁ〜?」ニヤニヤ



雲雀「ハァ!?///」



三里「あるでしょ〜?」



一吹「それは…///」



三里「そうじゃなきゃ、このアクセ貰ったときにあんなに幸せそうな顔しないもんね?」チャラ



後輩's「「うぅ〜…///」」カオマッカ



一吹「…分かったよぅ。///」ウツムキ



雲雀「話せば良いんでしょ!///」カオマッカ






雲雀達は観念し、自分たちが惚れたきっかけを話し始める。






雲雀「私は5年前かしら…」



雲雀「その時の私は、学校で友達がいなかったのよ。いつも教室の隅っこで、一人で過ごしてたの。」



雲雀「初めての学校で、クラスの子達と馴染めなくて毎日が憂鬱だったわ。」



一吹「雲雀ちゃんと仲良かった子達は皆違うクラスだったもんね。」



雲雀「その時は一吹とも離れちゃったしね。家に帰ればトシも一吹も、ついでにミサも居てくれたから寂しくなかったけど…」



三里「私はついでかい。」



雲雀「それでも、学校では心細かったわ。毎日誰も話しかけてくれないんだもの。」



雲雀「そのまま1か月経ったかしら、トシが教室に来たのよ。その日は午前中しか授業がなかったんだけど、急に『調理室に行こう』だなんて言うから付いていったわ。」



一吹&三里((あれ?それって…))




雲雀「でも調理室に着いたら真っ暗で、先生もいないから本気で悲しかったわ。遂にイジメられたと思ったもの。」



雲雀「泣こうとしたらその瞬間、調理室の明かりがついてクラスの皆と先生がクラッカーを鳴らしたのよ。『誕生日おめでとう!』って言いながらね。」



雲雀「確かにその日は私の誕生日だったけど、正直混乱したわ。それまで1度も話したことが無かったのに、急に皆から誕生日を祝ってもらってるんだもの。」



三里「それは確かに、私も混乱すると思う。」



雲雀「何が起きてるのか分からないままどういう事か聞いてみたら、トシが皆に『雲雀の誕生会をやろう』って声をかけてくれたらしいの。」



雲雀「それで、授業が終わったら急いで近くのコンビニにジュースとお菓子を買いに行って準備したんだって。」



雲雀「トシがプレゼントを渡してくれたんだけど、トシやアンタたちも含めた全員からの寄せ書きと大きな手作りのクマのヌイグルミだったわ。」



一吹「今でも大事にしてるやつだよね。」



三里「ヒデちゃんが急に寄せ書きを書けって言ったり、雲雀が巨大なクマと一緒に帰ってきたのはそーゆー事だったんだ。」



雲雀「後で聞いたんだけど、トシったら休み時間に一人ひとり声をかけていったらしいのよ。毎日息を切らしながら全員にね。」



雲雀「私が寂しいって部屋で呟いてたのを聞かれてたらしくて、それで企画してくれたみたい。」



雲雀「私が寂しくないようにって、自分の身長よりも大きいヌイグルミを1から手作りしたりしてくれたのがすごく嬉しくて…あとは分かるでしょ?///」



一吹「あのクマさんトシくんの手作りだったんだ!?」(´゚д゚`)



雲雀「きわめつけは、【お前はひとりじゃない。俺がいる限り、絶対にひとりにはさせないから心配するな。】って。///」



三里「そりゃあ惚れちゃうよね〜!」キャー



雲雀「ホラ!次は一吹の番よ!」カオマッカ






そう言って雲雀は促す。






一吹「もう逃げられないよね…。じゃあ話すよ?」



一吹「私はね、2年くらい前なんだけど…」



三里&雲雀「「((o(´∀`)o))ワクワク」」



一吹「トシくんとミサちゃんが中学校に上がって、学校で会えなくなったでしょ?」



一吹「それまでは家でも学校でもずっと一緒だったのに、それが当たり前の毎日だったのにそうじゃなくなった。」



一吹「学校には居ないし、家に帰ってきても勉強や部活が忙しかったりして話す時間も減っちゃって…」



雲雀「今だから言うけど、あの時は本当に寂しかったわ…」シミジミ



三里「アハハ、ゴメンね?(汗)」



一吹「ううん、しょうがないよ。それからしばらくして、トシくんがやってた部活の大会を見に行ったでしょ?」



三里「野球部の新人戦だっけ?」



一吹「そうそう。ゼッタイ活躍してやるーって言って意気込んで、最後はトシくんのホームランで試合決めちゃったんだよね!」



雲雀「よく覚えてるわ。帰ってきたら一吹が部屋に籠もって泣いてたもの。」



一吹「その時のトシくんがすっごくカッコよくて、試合のあとにコッチ見て【一吹、約束守ったぞ!】って笑いながら叫んでて…」



雲雀「え、あの試合結構広い球場だったし私達以外にもかなり観客席埋まってたわよね?」



一吹「うん。決勝戦だったし、世間は休日だったからほぼ満席だったよ?」



三里「私達は結構いい席で見てたけど、一吹はかなり離れた席だったからすぐには見つけられないと思うんだけど?」



一吹「私もそう思って、よく私のこと見つけたねって言ったら……なんて返ってきたと思う?」



一吹「【たとえどこに居ても、一吹のことは必ず見つけてやるから】って…///」



雲雀「それで…///」



三里「惚れたんだ?///」



一吹「うん///」



一吹「でもね、好きなんだって気づいたのはその後なの。」



三里&雲雀「「その後??」」



一吹「うん。何日かしてトシくんのことを街中で見かけたんだけど、チームのマネージャーさんと話してたの。」



一吹「トシくんもマネージャーさんも笑顔でね、それを見たときにすっごく胸の奥が痛かったの。」



一吹「どうして痛いのか全然分かんなくて、家まで走って帰ってきたけど痛みは治まらなくて、モヤモヤしてるうちにトシくんが帰ってきたの。」



雲雀「私なら飛び上がるわね。」



三里「私は手が出そうだよ。」



一吹「流石に手は出なかったけど、すっごくびっくりしたなぁ(汗)。でもトシくんの顔を見た瞬間に痛いのがなくなって、胸がポカポカしてきたの。」



一吹「それで気付いたの。私はトシくんの事が好きなんだって///」



三里&雲雀「「あんまぁあああぃ!!」」



三里「何これナニコレ!?///」



雲雀「聞いてるコッチが恥ずかしいわよ!!///」



一吹「はうぅ…///」プシュー



三里「よーし、今夜は思いっきり語ろうか!まだまだ夜はこれからだよ!!」



三里「夜は良いよね、夜はさ。」ギラリ






こうして、幼馴染であり恋敵の3人は明け方まで恋バナを続けるのであった。


            ・

            ・

            ・

ライバル


2月13日 08時30分 【血のバレンタイン】まであと26時間


しこたま飲んだ大人達が目を覚ますと、少しずつ昨晩の片付けを始める。起きてきた英寿も片付けようとするが、『主役に片付けさせる訳にはいかない』と断られてしまい一気に暇になる。






英寿「暇だな…。」



英寿「ミサ達はまだ寝てるし、どうしようかn」



チャッチャラチャチャチャチャチャッチャッチャ〜



英寿「ん?」






その時、英寿のケータイが鳴る。どうやら親友の武からの着信のようだ。



ピッ



英寿「もしもし?」



武『よう、起きてるか?もし暇なら、10時から一緒にキャッチボールでもしないか?』



英寿「キャッチボールか…。良いぞ。いつものグラウンドに10時だな?久しぶりに体動かすか。」



武『おう!じゃあ後でな!』ピッ



英寿「じゃあ着替えて準備するか。少し時間あるし、ラジオでもかけてよう。」ポチッ



ラジオ『…それでは昨日の艦船同時多発襲撃事件ついてです。』



英寿「襲撃事件?そー言えばそんなのあったなぁ。」



ラジオ『現場に最も近いパキスタン、韓国、北朝鮮は関与を否定し、アイフリード海賊団も関与を否定する旨の声明を出しました。』



英寿「アイフリードは本当だろうけど、他はどうなんだろうな…」



ラジオ『また、不確かな情報ではありますが〘クジラが火を吹いた〙〘海上に人が立っていた〙〘付近で謎の球体が飛び回っていた〙等といった目撃情報もあるとのことで…』



英寿「なんじゃそりゃ…?」ナゾダ



英寿「っと、そろそろ出ないと遅れちまうな。」バタバタ



英寿ママ「あらヒデ。どこか行くの?」



英寿「武とキャッチボールしてくるよ。昼はカロメ持ったから大丈夫。」



英寿ママ「あらそう。行ってらっしゃーい。」ノシ



英寿「行ってきまーす。」チリンチリン



三里「ふぁ〜、おはよ〜」ゴシゴシ



雲雀「ちょっと夜更しし過ぎたかしら…」ネムイ



一吹「ふたりとも、しっかり起きて!」






英寿が出発したタイミングで、三里達も起床する。ほぼ夜通し話していたせいで流石に眠そうだが、そうも言ってられない。何故なら






一吹「今日は皆でチョコ作る日でしょ!」コソッ



三里&雲雀「「!」」パチッ



三里「お母さん!ヒデちゃんは!?」



三里ママ「ついさっき武君とキャッチボールしに行ったわよ?お昼ご飯持って。」ウフフ



幼馴染's(((でかしたぞ武!)))グッ×3






そう。今日は皆で英寿へ渡すチョコを作る予定なのだ。もちろん英寿には内緒にしてあるため、なんとかして英寿を家から遠ざける必要があったのだがタイミング良く武が英寿の事を呼び出してくれた。

あの2人のことだ、日が暮れるまで帰ってこないだろう。これは好都合である。






三里「2人は何作るか決めてるの?」



雲雀「私はチョコケーキを作るつもりよ。」



一吹「ホワイトチョコのアイスに挑戦してみようかなって。ミサちゃんは?」



三里「フッフッフ…、今年の私は一味違うよ?」



三里「なんと!これを使います!」スッ



雲雀「…え?」ヒキッ



一吹「流石にそれは…(汗)」



三里「ブラックペッパ〜!」cv.フルキヨキアオタヌキ



一吹「ミサちゃん、もしかして寝不足でハイになってるのかな?」コソッ



雲雀「バカなだけでしょ」ズバッ



三里「失礼だなぁ!ちゃんと美味しいって言ってたよ!」ヽ(`Д´)ノプンプン



雲雀「誰が?」



三里「しいなだよ。」



一吹「…誰?」



三里「忍者同好会の藤林さんだよ。よく穴とかマンホールに落ちてる人。見たことあるでしょ?」



雲雀「確かに、しょっちゅう工事中のマンホールとかに落ちてる人を見るけど…」



一吹「あ~、確かによく『嘘だろ〜!?』って叫びながら穴に落ちてる人いるね。」



三里「その人で合ってるよ。」



後輩's((すっごく不安なんだけど…(汗)))



三里「でも藤林さんて料理は結構上手だし、実際に食べさせてもらったけど案外イケルよ?」



一吹「えぇ…ホントに?」



雲雀「まぁアンタがそれで良いなら…」



三里「よーし!作るものも決まったし、材料はもう買ってある!」



三里「皆で美味しいチョコを作るぞー!!」



後輩's「「オー!!」」






こうして、幼馴染達のチョコ作りが始まる。因みに、英寿は毎年貰っているのだが義理チョコだと思い込んでいる。


            ・

            ・

            ・


2月13日 10時30分 【血のバレンタイン】まであと24時間


英寿は河川敷のグラウンドで武と合流し、キャッチボールを始めていた。お互い久しぶりにボールを握るので、少しずつ肩を慣らしていく。






英寿「会うの久しぶりだけど、元気してたか?」シュッ



武「おぅよ!俺はいつだって元気だぜ!」バシッ



武「お前こそ、最近は張本達と工作室に籠もってたけど何してたんだ?」シュッ



英寿「ある作業を手伝ってもらっててな。」バシッ



英寿「雲雀達の進学祝いに渡すプレゼント作ってたんだよ。」シュッ



武「進学祝い?…そっか、あの子達ももう中学生になるのかぁ。」バシッ



武「俺達だってもうすぐ高校生だもんな。」シュッ



英寿「近所のガキ大将だったお前が高校生ねぇ。」バシッ



英寿「俺達も、なんだかんだで10年もつるんでるだな。」シュッ



武「随分長い付き合いだよな。お前はもう進学先決まったのか?」バシッ



武「因みに、俺は第3高校に行くことにしたぞ。」シュッ



英寿「マジかよ、野球の強豪校じゃん。」バシッ



英寿「俺は家から近い第7高校に合格したよ。」シュッ



武「でもあそこって野球はそこそこだろ?」バシッ



武「お前なら、俺と同じ第3高校でもやれるんじゃないのか?」ピタッ






そう言って武はキャッチボールを中断する。実際、武と英寿は同じ中学の野球部では武が投手、英寿が捕手の黄金バッテリーとして名を馳せており、将来を期待されていた。それだけに、武は何故英寿が強豪校に進学しないのか不思議だった。






英寿「理由は2つあるんだ。」



武「2つ?」



英寿「1つは、第3高校には俺が希望する学科が無いこと。」



英寿「もう1つはお前だよ、武。」



武「学科の事は分かるけど、何でそこで俺が出てくるんだ?」ハテ?



英寿「お前とはずっと一緒に野球をしてきた。正直、高校でも一緒にやりたい気持ちはあったよ。」



英寿「でも、それと同じくらい、お前のいるチームと試合をしてみたいとも思ったんだ。」



英寿「相棒としてではなく、ライバルとして競い合いたいんだ!」



武「ライバルとして…!」ウズッ






親友であり相棒である英寿が、自分の事をライバルとして意識してくれている。実際、武自身も英寿に対してそういった感情が無かったわけではない。仲間ではなく倒すべき相手として、お互いに本気で勝負したらどうなるのかと中学3年間で何度も考えていたのだ。

それが今、実現しようとしている。熱いハートを持つ武が燃えない訳がない。






武「よぉし、高校では俺達はライバルだ!絶対に負けないぜ!?」ゴォォ!!



英寿「何言ってる、勝つのは俺だよ!」ゴォォ!!



武「そうとなりゃ、早速特訓だ!久しぶりに受けてくれよ!」フンス!



英寿「っしゃこーい!!」カモン!






長年の相棒から競い合うライバルへ、2人はグラウンドでの再会を誓い熱く燃えていた。そして、軽いキャッチボールはいつの間にか激しい特訓に変わっていくのだった。


            ・

            ・

            ・


2月13日 13時30分 【血のバレンタイン】まであと21時間


英寿達が心を熱く燃やしているなか、三里達はチョコを物理的に燃やしてしまっていた。

…主に雲雀が。






雲雀「あれ?なんか私のチョコが燃えてるんだけど!?」メラメラ



三里「すぐに水かけなきゃ!」バシャー



一吹「雲雀ちゃん大丈夫!?」



雲雀「私は大丈夫だけど…2人は火傷とかしてない?」



一吹「私は大丈夫だよ。」



三里「こっちも大丈夫だよ。でも何でチョコが燃えてたの?」



雲雀「早く溶けるように油かけて直接バーナーで…」



一吹&三里「「そりゃ燃えるよ!!」」( ゚д゚ )クワッ!!



三里「チョコは直接火にかけると焦げるし味も悪くなるから、湯煎するんだよ。」



雲雀「ユセン?」



一吹「ちょっと待って、雲雀ちゃん去年までどうやってチョコ溶かしてたの?」



雲雀「レンチンよ。」



三里「なんで今回に限って直火なのさ?」



雲雀「ケーキって時間かかりそうだから、溶かすのは手早くやろうと思って…」



一吹「焦っちゃだめだよ。」



三里「ほら、湯煎のやり方教えるからこっちおいで。材料も多めに用意してあるからさ。」チョイチョイ



雲雀「…ありがと。」



三里「まずはチョコを…」



雲雀「…あ、ホントだ。ちゃんと溶けてる。」



一吹「さて、私も頑張らなくっちゃ!」エーットツギハ…



三里ママ「フフッ。若いって良いわねぇ。」ホッコリ



雲雀ママ「あの子も、不器用なりに頑張ってるわね。」フフッ



三里パパ「そーいえばよ、昨日の襲撃事件はどうなったんだ?」





片付けが一段落し、娘達の様子を見ていたところでふと思い出したように三里パパが口を開く。一晩経った今でもニュースで取り上げられており、やはり気になるところだ。






英寿ママ「さっき現場周辺の国とアイフリード海賊団が『自分達はやってない』って発表してましたね。」



一吹パパ「ホントかねぇ?」



雲雀パパ「アイフリードに関しては嘘ついちゃいないみたいだぞ?」



雲雀ママ「どうして?」



雲雀パパ「バンエルティア号は3日前にレウァールに寄港したままだからさ。」






ここエデンは島国であるが、決して小さな島ではないため全部で8つの区画に別れており、すべての区画に港がある。


1番街…アーモリーワン


2番街…ニバンボシ


3番街…ドーントレス


4番街…カトルバジーナ


5番街…ゲインズブール


6番街…ゼクスバロン


7番街…インダストリアルセブン


8番街…レウァール


とそれぞれ名称がある。因みに、英寿達が住んでいるのは7番街のインダストリアルセブンである。






一吹パパ「そーいや、一昨日昼飯を食べるのに定食屋に入ったら、副船長のアイゼンを見かけたな。」



雲雀パパ「昨日だって、チャット君とパティちゃんが物資を調達する為に街中を走り回ってたぜ?」



英寿ママ「確かに、ずっとここに居たなら襲撃はできないわね。」



三里ママ「でも何でエデンにいるのかしら?見た目が怖いだけで良い人達だから居るのは別に構わないけど。」



雲雀ママ「アナタ、何か知らない?」



雲雀パパ「人伝に聞いた話だと、船が大破しちまったらしい。」



三里パパ「なんでまた?」



一吹パパ「俺は定食屋で相席だったアイゼンから聞いたんだが、どうやらバンエルティア号も襲撃されたらしい。」



三里ママ「バンエルティア号“も”ってどーゆーこと?」



一吹パパ「ニュースでもちらほら言ってるけどさ、見たことの無い【何か】に襲われたんだってさ。」



雲雀パパ「〘火を吹くクジラ〙とか、〘海上に立ってる人〙とかってやつか?」



雲雀ママ「でもニュースでは不確かな情報だって…」



一吹パパ「アイゼン本人も似たようなものを確かに見たっていうんだ、間違いないだろう。」



三里パパ「…なんだか嫌な予感がするな。」



英寿ママ「やめてよ、縁起でもない。」



三里ママ「そうよ、ただでさえアナタの予感は当たるんだから。」



雲雀ママ「暗い話はやめましょ、娘達に心配かけたくないわ。」



雲雀パパ「今年はみんな進学してめでたいんだ、暗い話題は避けよう。」



一吹パパ「そうだな、今は娘達のハプニングキッチンを見守ろう(笑)」



幼馴染's「「「ギャーッ!?」」」ボンッ



三里ママ「毎年やってるのに、毎年爆発するのよね(汗)」ニガワライ






大人達の心配をよそに、娘達はチョコ作りに奮闘する。


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            ・


            ・



2月13日 15時00分 【血のバレンタイン】まであと19時間30分



英寿「ふぅ〜、流石に休憩しようぜ。」ツカレタ



武「確かに…だいぶ…疲れたな…」ゼエゼエ



英寿「ずっと全力じゃ、そりゃ息も上がるだろ…(汗)」






あれからずっと特訓をしていた英寿と武。昼食も摂らずに動いていた為腹ペコである。






英寿「俺はカロメあるけど、お前昼飯は?」



武「俺は…アレがある…」ゼエゼエ



英寿「まさか…?」



武「チョコビだぜ!!」テッテレー



英寿「やっぱりな。」



武「ただのチョコビじゃないぞ。カルシウムとプロテイン配合の“タフネスチョコビ”だ!」



英寿「お、新作?」モグモグ



武「オゥ!最近出たヤツなんだが、なかなか美味いんだこれが。」バリボリ



英寿「少しくれよ。」



武「おう!」つチョコビヒトツカミ



英寿「サンキュ。」



武「そのカロメは何味なんだ?」



英寿「ポテト味だ。一本食うか?」



武「ポテト味はまだ食ったことないな。1つくれよ。」



英寿「ほい。」つカロメ



武「ありがとよ!」



??「あっ!先輩たちでやんす!」タッタッタ



??2「ホントだ。先輩方〜!」タッタッタ



英寿&武「「ん?」」クルッ



瓶底眼鏡「お久しぶりでやんす!」



野球帽「お久しぶりです!先輩たちもキャッチボールですか?」



武「瓶底眼鏡に野球帽じゃないか。俺達はさっきまで特訓してたから、今は休憩中だぜ!」



英寿「お前たちもキャッチボールしに来たのか?それにしちゃ矢部の荷物がデカイが。」



瓶底眼鏡「これは今日発売した1/60ガンダーロボでやんす!さっきようやく買えたんでやんす!」



武「そーいやCMでやってたな。」



野球帽「瓶底眼鏡君たら昨日の夜から並ぼうとしてたんですよ?」アキレ



瓶底眼鏡「ガンダーロボのファンなら当然でやんす!」フンス!



英寿「ブレねぇなぁ…(汗)」






英寿達が休憩したところで、後輩の瓶底眼鏡と野球帽がグラウンドに入ってくる。どうやら瓶底眼鏡の買い物の帰りにキャッチボールをしようと思ったところ、英寿達を見つけたようだった。






英寿「最近調子はどうだ?」



瓶底眼鏡「絶好調でやんす!ここ5試合で盗塁10個でやんす!」



野球帽「オレも最近は調子が良いですね。この間遂にホームラン打ちましたよ!」



武「お前らスゴイじゃないか!」



英寿「これなら第7中学の野球部も安泰だな。」



野球帽「まだまだ先輩達には敵いませんよ!」アセアセ



瓶底眼鏡「そうでやんす!オイラ達はまだ未熟でやんす!」



武「なら、これから一緒に特訓しないか?」



野球帽「良いんですか?」



英寿「大歓迎さ。人数が増えればそれだけいろんな事ができるし。」



瓶底眼鏡「オイラも特訓するでやんす!」



英寿「瓶底眼鏡がこんなにやる気満々なのは珍しいな。ガンダーロボ効果か?(笑)」



瓶底眼鏡「それもあるでやんす!でもオイラ達には最近目標ができたでやんす!」



武「目標?」



野球帽「はい!オレ達、今度のパワフェスに出場するんですよ!」



英寿&武「「マジか!?」」



野球帽「そこで優勝するのが、今の目標です!」



武「俺たちも出ようぜ、英寿!」



英寿「事前申込みの期限過ぎてるよ…(泣)」



武「ガーン…」



野球帽「当日の申込みもできるみたいですよ?」



瓶底眼鏡「それに間に合えば出れるでやんす!」



英寿&武「「ッシャア!!」」



瓶底眼鏡「相変わらず息ぴったりでやんす(汗)」



野球帽「明後日の10時にパワフェスの船、QOF(クイーンオブフェスティバル)号が港に来るみたいなので、それに乗れば申込みできますよ。」



英寿「よっしゃ!明後日に向けてみんなで特訓だ!」



武「7中〜、ファイッ!」



全員「「「「オォー!!」」」」






こうして、4人での特訓が始まる。特訓は日が暮れるまで続き、当日にインダストリアルセブンの港で待ち合わせをして解散した。


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2月13日 18時00分 【血のバレンタイン】まであと16時間30分


あれから数時間、チョコ作りに苦戦していた幼馴染達だったが…






三里「できた〜!」



一吹「あとは冷凍庫に入れるだけ…!」



雲雀「ここまでくれば、明日の朝イチで焼くだけね!」



三里ママ「よく持ち直したわね!?」Σ(゚Д゚)



雲雀ママ「ホントによく完成させたわ…(汗)」



一吹パパ「毎年よく完成まで行けるなぁ。」(゜o゜;






…なんとかなったようである。先程の様子からは想像もできないような仕上がりに、親達も驚きを隠せない様子だ。しかし、うかうかしてはいられない。もうすぐ英寿が帰ってくるため、急いで片付けて夕食の準備を始めねばならない。






三里ママ「さてと、すぐに夕飯作らなくちゃ。焼き魚と和え物、それと冷奴でいいかしら?」テキパキ



雲雀ママ「それじゃあこっちでご飯炊くわね。」テキパキ



一吹パパ「味噌汁は任せてくれ。」テキパキ



幼馴染's「「「負けた…」」」ガクッ orz



雲雀パパ「ほら、みんなその間にお風呂済ませてきな。」



三里パパ「片付けはこっちでやっておくからさ。」



幼馴染's「「「はーい。」」」スタスタ



英寿「ただいま〜…」ツカレタ






夕食の準備が進んでいく中、英寿が帰宅する。まる一日特訓漬けでさすがの英寿もヘトヘトのようだった。






英寿ママ「お帰り。随分遅かったわね?」



英寿「途中で後輩達に会ってね、今まで皆で特訓してたんだよ。」



英寿ママ「特訓?そんなに本気になってどうしたのよ?」



英寿「俺達、パワフェスに出ようと思うんだ!」



大人達「パワフェス!?」Σ(゚Д゚)



三里パパ「パワフェスって、あのパワフェスか!?」



雲雀ママ「でも何で急に?」



英寿「瓶底眼鏡と野球帽が出るらしくてね。個人での当日エントリーも受け付けてるみたいだし、それなら俺たちも出ようって思ったんだ。」



一吹パパ「年齢制限とかは無いのか?」



英寿「そこは大丈夫だと思う。高校生どころか、過去には小学生チームが参加したこともあるくらいだし。」



英寿ママ「仮に出場するとして、会場までの移動手段はどうするの?」



英寿「今回は船の上で開催するらしくて、そのための船が世界中を回って参加者を乗せるみたい。ここに船が来るのは明後日だってさ。」



英寿「いつか出たいと思ってたパワフェスに出られるまたと無いチャンスなんだ。お願い、行かせてよ!」orz






そう言って頭を下げる英寿。大人達は困惑していたが、英寿がパワフェスに出たいと言っていたのは知っていた。野球を始めたときから「パワフェスに出たい」と言っていたので、応援したい気持ちもあるが心配な部分もあるのだ。






雲雀パパ「…本気なんだね?」



英寿「もちろん!」



三里ママ「怪我だけはしないでよ?」



英寿「わかってるよ。」



英寿ママ「なら頑張ってきなさい!」



一吹パパ「応援してるぞ!あ、有名な選手に会ったらサイン貰ってきて。」



英寿「ありがとう!じゃあ明日は必要なものを買いに行かなきゃ。」



英寿「よし!そうと決まれば今日は早めに寝よう。風呂入ってくるね〜。」バタバタ



ママ's「「「アッ!今はダメよ!!」」」



英寿「掴め〜、描〜いたゆ〜めを〜♪」ガチャッ



幼馴染's「「「えっ…?」」」マッパ×3



英寿「…あっ」マッパ



イヤァアアアアアアアアア⁉⁉



英寿ママ「遅かったか…」






何も考えずに風呂に直行する英寿を母達は止めようとするが、間に合わなかった。何も考えずに風呂場のドアを開けた英寿は、絶賛入浴中の幼馴染達とお互いに全裸の状態で鉢合わせてしまったのだ。当然、みんなで仲良くお風呂ターイム♪






一吹「キャアアアア!!///」バチーン!



英寿「あべし!」



雲雀「沈みなさい!!///」バチーン!



英寿「ひでぶ!」



三里「バカァアアアア!!///」メシャア!



英寿「たわば!」



幼馴染's「「「早く出てって〜!!///」」」ゲシッ×3



英寿「そげぶぅぅぅ!」ドンガラガッシャーン!!



ママさん's「「「またか…」」」



英寿ママ「…あの子生きてるのかしら?」



英寿「」チーン






…とはならなかった。一吹に右頬、雲雀に左頬を思い切りビンタされてから三里には顔面の中央に右ストレートをもらい、最後には全員に蹴り出された。流れるような連携である。

尚、数日に一回はこんな事があるので親達はいつしか慣れてしまっていた。


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2月13日 20時30分 【血のバレンタイン】まであと14時間


風呂場ではアクシデントがあったものの、なんとか一家全員が入浴を済ませ夕食の時間である。因みに、英寿は意識が戻るまでタオルをかけた状態で廊下に放置されていた。






英寿「前が見えねぇ。」ガンメンカンボツ&アカイテガタ×2



雲雀「ノックしないアンタが悪いのよ。」モグモグ



三里「そーだそーだ!」ヽ(`Д´)ノプンプン



一吹「これは庇えないなぁ…(汗)」



英寿「スンマセン、ぐうの音も出ません。」



英寿ママ「てか、アンタその顔の状態でどーやって食べてんの?」



英寿「さぁ?なんだかんだで食えてる。」モグモグ



三里パパ「あっ、ママお醤油取って。」



三里ママ「はい。」っ醤油



一吹パパ「おい、この間の健康診断引っかかったの知ってるぞ。」



雲雀ママ「全員ね。」



パパさん's「ギクッ」



三里ママ「なら没収。」ヒョイ



パパさん's「「「」」」ガーン



英寿ママ「明日から味付けは薄くしましょう。」モグモグ






そこにはいつもの夕食の光景があった。違ったのは、英寿の顔面が陥没していたことと、働く父達の減塩生活が決定したことくらいであろうか。






英寿「ごちそーさま。」



三里「アレ?今日は食べるの早くない?」



英寿「明日は朝早いからな。」



一吹「明日って何か予定あったっけ?」



英寿「明日は朝から買い出しに行くんだよ。」



雲雀「買い出し?」



英寿「まだ言ってなかったっけ?パワフェスに出る話。」



幼馴染's「「「初耳なんだけど(だよ)!?」」」ガタッ



英寿「今回のパワフェスに滑り込みで出場s」



三里「昨日までそんなこと言ってなかったじゃん!」



英寿「今日決めたんだよ。」



雲雀「もしかして、急に決めたから明日買い出しに行くの?」



一吹「てことは…明後日辺り開催だったりして」マサカネ…



英寿「お、一吹正解。さすが優等生。」ナデナデ



一吹「エヘヘ///」ニヘッ



三里&雲雀「「ムッ」」(# ゚Д゚)



英寿「それじゃ、ちょっと早いけど俺は部屋に戻るよ。おやすみ〜。」ガチャッパタン



大人達「「「おやすみ〜。」」」ノシ






そう言って英寿は使った食器を手早く洗い、部屋に戻って行く。そして、英寿の姿が完全に見えなくなったところで…






雲雀「…ズルい。」ボソッ



一吹「え?」



雲雀「ズールーいー!!」ウガー!



雲雀「私だってやってほしいのにー!」



三里「あたしにはもうやってくれないんだよ!?(泣)」



一吹「私に言われても!?」Σ(゚Д゚)



雲雀「ムッキー!!」ユッサユッサ



三里「裏切り者ぉ〜!」ユッサユッサ



一吹「あうあうあうあう」メガマワル…



ギャーギャーキャイキャイ



三里ママ「アラアラ。」



雲雀ママ「皆ホントに英寿君のこと好きね〜。」



一吹パパ「やっぱりウチの娘はトシくんにしかやれんな。」キリッ



雲雀パパ「激しく同意。」キリッ



三里パパ「ヒデちゃんしかいないな。」キリッ



英寿ママ「あの子は…(汗)」マッタク…






ヤキモチを妬いた幼馴染達の争いと、それを見守る親達の光景があった。なんとも微笑ましい、平和な一時であった。


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質問


2月13日 21時30分 【血のバレンタイン】まであと13時間


部屋に戻り、すぐに準備できるものと買い出しが必要なものとを確認していた英寿の電話が鳴る。






チャッチャラチャチャチャチャチャッチャッチャ〜



英寿「ん?この番号誰だっけ?」ピッ



英寿「もしもし?」



??「ヘーイ!トッシー?」



英寿「その声は…金女(かなめ)さん?」



??→金女



金女「そうデース!お久しぶりネー!」






 電話の相手は剛田金女(ごうだかなめ)。親友である武の姉だった。英寿達とはやや歳が離れているが、子供の頃はよく遊び相手になってくれていた。暫くイギリスに留学していたのだが、数日前に帰ってきたのだ。






英寿「どうしたんですか、突然?番号も変わってるみたいだし?」



金女「番号に関してはSorryね。実は昨日ケータイを壊しちゃってネ〜、新しいのを買ったときに番号が変わったヨ!」



英寿「そうだったんですね。じゃあこの番号でまた登録しておきますよ。」



金女「サンキューネー!それよりも、武に聞きましたヨ〜。パワフェスに出るってホントデース?」



英寿「あっ、もう聞いてるんですね?そうなんですよ。俺と武、それと7中のみんなで出るんです!」



金女「ワオ!またトッシーのカッコイイところを見れるんデスネ!?」



金女「蓮も誘って応援しに行きマース!絶対に優勝してくださいネ〜!?」



英寿「ありがとう金女さん!二人が応援に来るなら負けられませんね!!」



金女「その意気デース!バーニングゥ…ラァーヴ!!」



英寿「アハハ…(汗)」






 実は金女、英寿にゾッコンである。英寿とは10歳近く歳が離れているのだが、乱暴者だった武相手に一歩も引かず更生させた度胸と誰かの為に本気になれる優しさに気付き、英寿が小さい頃からすっかり惚れてしまっているのだ。…英寿には中々気付いてもらえないが。






金女「Oh、もうこんな時間ね〜。遅くにTELしちゃってSorry。」



英寿「いえ、むしろ緊張が解れましたよ。本当にありがとう金女さん。」



金女「なら嬉しいネー!それじゃあトッシー、グッナイ♪」



英寿「おやすみなさい、金女さん。」ピッ



英寿「ふぅ…。」



テクテク



英寿「…ん?」



テクテク



英寿「何だあれ?…小人?」



小人?「!」






 金女との電話が終わり、一息ついた英寿は何かと目が合う。小人のようにも見えるが、最近の小人はセーラー服を着ているのだろうか。






小人「」テクテク



英寿「こっち来た…。」



小人「」ペコリ



英寿「あ。ど、どうも…?」ペコリ



小人「」ジー



小人「( ̄ー ̄)bグッ!」サムズアップ



英寿「( ̄ー ̄)bグッ!」サムズアップ



小人「ヽ(=´▽`=)ノ」ピョンピョン



英寿「ヽ(=´▽`=)ノ」ピョンピョン



小人「エヘヘ」ニコニコ



英寿「?」



小人「キミニキメタ!」∠( ゚д゚)/



英寿「…もしかして気に入られたのかな?」



小人「ソウ!」



英寿「あ〜…、ありがとう…?」



小人「ドウイタシマシテ!」ニコニコ






 どうやら英寿は小人に気に入られたようだった。今まで15年生きてきたが、さすがに小人と会話したことは無かった。しかし気に入られた事に関しては悪い気はしない。






小人「ソッチニイッテモイイ?」



英寿「いいよ、おいで。」テヲサシダシ



小人「ワーイ!」ピョン



小人「ヨイショ、ヨイショ。」ヨジヨジ



英寿(お、登ってきた。)



小人「フー、ノボリキッタ。」



小人「キミノソバハイゴコチガイイネ!」キラキラ



英寿「そう?」



小人「ウン!」



英寿「それは良かった。」



小人「エヘヘ///」スリスリ



英寿(カワイイ)



小人「ネェネェ。」



英寿「ん?」






 小人は英寿の肩に登り、頬ずりしてきた。大層気に入られたようである。とても可愛らしいが、次に小人が発した言葉はとんでもないものだった。






小人「キミハセカイヲスクッテクレル?」



英寿「…え?」



小人「ヘンジハイマスグジャナクテイイ。デモ、キミナラキットデキル。」



小人「ソノムネニアルアカイイシコソガ、ナニヨリノショウコダヨ。」



英寿「コレの事か?でもなんで?」チャラッ



小人「イマハソレシカイエナイシ、ワタシニモソレイジョウハワカラナイ。」



英寿「??」






 小人はそう言って英寿の胸元にある赤い石がはめられた首飾りを指差していた。英寿はなぜこれが証拠になるのか分からなかったが、小人の言葉に嘘や偽りは感じなかった。






小人「ソレニ、モウスグジンルイハタメサレルコトニナルンダ。」



英寿「試される…?」



小人「ハメツカ、サイセイカ…」



英寿「破滅?再生?」



小人「モウスグワカルヨ。デモ、キミノコトハワタシガマモルカラ。」



英寿「一体何のこと!?」



小人「ハナシテタラナガクナッチャッタネ。アシタモハヤインデショ?キョウハモウネヨウ。」モゾモゾ



英寿「えっちょっ!?」



小人「オヤスミ〜」



英寿「待っ…」



小人「」( ˘ω˘)スヤァ



英寿「えぇ…?(汗)」






 小人は言うだけ言って英寿のベッドに入り眠ってしまった。時計を見ると間もなく夜の10時である。小人の言葉は気になるが、肝心の小人は起きそうもないので英寿もベッドに入り寝ることにした。


            ・

            ・

            ・


2月14日 02時30分 【血のバレンタイン】まであと10時間


三里「うぅぅ…」



一吹「あぁ…!」



雲雀「っぐ…ぅ」






 3人は同じ夢を見ていた。夢とはいっても、魔法が使えたりお菓子の国で暮らしたりといったものではなかったが。

そこは、海の上だった。自分の周りにはたくさんの人がいて、共に大海原を駆けていた。どうやら自分たちは海に浮かぶ艦(ふね)で、共にいるのは乗組員だった。その仲間達と共に、ただひたすら前進した。たった一つの目的を胸に抱いて。











        御 国 の 為 に











 それこそが全てだった。それ以外は必要なかった。


 そこで、突然場面が切り替わる。右も左も敵、敵、敵。祖国のため、勝利のために敵を討つ。しかし敵は減るどころかどんどん増えていき、自分たちの仲間が減っていく。一人、また一人と爆炎と鉄の雨の中に消えていった。


 やがて、自分の身体も燃えていくのが分かった。燃えながら傾き、軋み、動かなくなっていき最期の時なのだと悟る。周囲ではまだ戦おうとする者、故郷に残した家族の無事を願う者、死にたくないと泣き嘆く者、すでに動かなくなった者、生きたまま焼かれていく者、肉片しか残っていない者。そんな仲間たちの顔を見ることしかできず、ただ沈んでいく。


護れなかった…

勝てなかった…

救えなかった…


そんな思いとともに、深くて暗い海の底に沈んでいく…。






三里「うわぁ!?」ガバッ



一吹「きゃあ!?」ガバッ



雲雀「いやぁ!?」ガバッ






 そこで3人とも目が覚めた。周囲を見渡し、見慣れた自分の部屋にいる事と自分が人間である事を再確認できたところで安心するが、気分は最悪だった。息は乱れ、身体は震えと冷や汗が止まらない。

愛しい人からの贈り物である首飾りを握りしめると、それはほんのりと熱を帯びており、それが温かく身体を包み気分が幾らか軽くなった。






幼馴染's「「「あ…」」」ガチャ






外の空気を吸いに行こうと、着替えて部屋から出たところで3人は顔を見合わせる。同じ時間に、同じタイミングで、同じ顔色をして出てくれば何事かと思うだろう。






三里「もしかして…」



一吹「みんな…」



雲雀「同じ夢を見たの…?」



三里「自分が艦で…」



一吹「海の上で戦って…」



雲雀「沈んでいった夢…」



幼馴染's「「「…」」」






 信じられなかった。いったい自分たちはどうしてしまったのか…

そんな思いをよそに、3人の目の前に小人のような何かが現れた。






小人?「ヤァ」ノシ



三里「…まだ寝ぼけてるのかな?目の前に小人が見えるんだけど…」(つд⊂)ゴシゴシ



一吹「えっ、ミサちゃんも見えるの?」



雲雀「私も見えるわ…」



小人「ミンナツイテキテ」テクテク



幼馴染's「「「??」」」テクテク





 小人に誘われるまま、3人は後をついていく。家を出てからしばらく小人を追うと、いつの間にか噴水公園まで来ていた。そこには3人の他にも、多くの人が小人と共に集まっていた。そのほとんどが見知った顔であり、互いに面識があった。






三里「あれ?同じクラスの神崎(かんざき)さんと中山(なかやま)さん?」



中山志穂(しほ)「あ〜!三里ちゃんと双葉(ふたば)ちゃんだ〜!!」ダキッ



双葉「川中さんに中山さん?どうしてここに?」シホチャンアツイデス



三里「なんか小人?に呼ばれて…」キュウニダキツクナ



志穂「ワタシも〜」



双葉「私もです…。」



夕実「アレ?理沙さんも?」



理沙「夕実も呼ばれて来たんですか?」コンバンハ!



夕実「そーだよー。」



蓮「金女じゃないか。」



金女「蓮も来たデスカ?」



蓮「あぁ、ちっこいのに呼ばれてな。」



金女「ワタシも同じデース。こんな事ってあるのカナ〜?」



彩葉「おや?谷本(たにもと)先輩じゃないですか。もしかして夜遊びですか?」ニシシ



谷本鈴愛(すずめ)「鈴愛を何だと思ってんの?テンション下がるぅ〜(泣)」(╥﹏╥)



翔子「あら?貴方は香川(かがわ)家御令嬢の…」



岬(みさき)「岬です。先日は弓の御指導ありがとうございました。」ペコリ



翔子「いえいえ、出しゃばった真似をしてしまいました。貴方も呼ばれて?」



岬「翔子さんのおかげで、矢が思い通りに飛ぶようになりました。私も小さな人?についてきたのですが…」



雲雀「あら?立川(たちかわ)さんと雨宿(あまやどり)さんじゃない。」



一吹「ホントだ、夕(ゆう)ちゃんと時音(ときね)ちゃんだ!」オーイ(^^)/



夕「一吹ちゃんと雲雀ちゃんっぽい!」



時音「こんな時間に何を…って、僕らが言えたことじゃないか。」



??「こうして見ると結構な人数やなぁ。」



蓮「龍子(たつこ)さん?」



城ヶ崎(じょうがさき)龍子「おう。なんやちっこいのに呼ばれたんで、ウチも来たったわ。」



鈴愛「自分だって色々ちっこいじゃ〜ん。子供がこんな時間に出歩いたらダメでちゅよ〜?(笑)」



龍子「お前だけ、今度からどのたこ焼きも代金3割増な。」(#^ω^)



鈴愛「ちょっ、冗談だから!ゴメンてば〜!!(泣)」



小人達「「「ミナサンアツマッタミタイデスネ。」」」






 こうして十数名が集まり、互いにこの場にいることについて言葉を交わしていたところで小人達がそれぞれ口を開く。






小人A「コンナニオソイジカンニヨンジャッテゴメンネ?」



夕「抜け出すの苦労したっぽい!」



小人B「モットオオゼイニアツマッテホシカッタケド、キミタチダケデモキテクレテヨカッタヨ。」



岬「いったい何人に声をかけたのかしら。」ヤヤアキレ



小人C「デモ、ジカンガナインダ。」



双葉「時間が無い…?」



小人D「スベテハキミタチニカカッテイルンダヨ!」



彩葉「…もしかして、《スクープ発見!》のテンションじゃ許されない感じですか?」



小人E「タダノスクープナラドレダケヨカッタカ…」ウツムキ



蓮「話してくれ。その為に私達を呼んだのだろう?」



小人F「ソウダネ、ホンダイニハイロウカ。」ゴホン



小人達「「「マモナク、コノセカイニオオキナワザワイガオトズレマス。」」」



小人達「「「ソシテ、ソノワザワイカラセカイヲマモレルノハ、アナタタチシカイマセン。」」」



小人以外「「「「「ハァ!?!?」」」」」Σ(゚Д゚)



時音「ちょっと待ってよ!」



志穂「いくらなんでも、話が急すぎない!?」



鈴愛「なんで鈴愛達なのさ!?きんも〜!!」



龍子「いくらなんでも、話についていけへんで。」



金女「ノストラダムスの大予言じゃあるまいし、世界とか突拍子もなさ過ぎるネー!」






 小人の話についていけず、全員に混乱が走る。深夜に謎の小人によって呼び出されたかと思えば、一方的に“世界を救え”と言われているのだ。無理もないだろう。






小人A「デモコノママジャ、セカイソノモノガキエテシマウ!」



小人B「スデニコノセカイハクルイハジメテイテ、ソノセイデアチコチニエイキョウガデテイル。」



理沙「あちこちに影響?」



夕実「例えばどんな?」



小人C「ヒトビトノココロガスサンデ、アチコチデアラソイガオキタリ…」



小人D「ドンドンヒドクナルカンキョウオセンニ、イジョウキショウ…」



小人E「ココスウジツデハ、ツイニイギョウノカイブツガウミデアバレハジメタ…」



小人F「コノホシガ、セカイガヒメイヲアゲテイルンダ。」



小人達「「「ココロアタリガナイワケジャナイヨネ?」」」



三里「海で怪物?…まさか、今世界中で船が襲われてるのって!」



雲雀「いつまでたっても戦争が終わらないのも…」



翔子「地球が汚染されているのも…」



一吹「世界そのものに原因があるの!?」






 衝撃的だった。小人達の話は突拍子もないものではあったが、言われてみれば心当たりがありすぎる。どれも世界中で問題視されているものばかりであり、記憶に新しい船舶の襲撃事件も人外の存在によるものなら一大事である。






小人A「イマノセカイハ、“フノエネルギー”デミチテイル。」



小人B「デモ、キミタチガキョウリョクシテクレレバソレヲウチハラエル。」



蓮「どうすればいい?」



理沙「何かスッゴイものを作るとかですか?」



志穂「アイドルになって平和の歌を歌ったり?」キラッ✩



小人C「ミンナニハ、コノセカイヲモトニモドスタメニ“フノエネルギー”ガウミダスモノトタタカッテホシイ。」



双葉「戦うって…、でもどうやって?」



鈴愛「自慢じゃないけど、生まれてこの方殴り合いの喧嘩すらしたことないよ?」



金女「戦うのは軍人サンの仕事デース。」



龍子「まさか、ウチらに伝説の剣を持たせて勇者になれとか言わへんよな?」



小人D「タツコサン、イイセンイッテルネ。」∠( ゚д゚)/



小人E「デモ、デンセツノケンナンテナイシ、グンジンサンジャダメナノデス。」



岬「では、どのように?」



翔子「銃を持って戦おうにも、そんな経験ありませんし…」



彩葉「カメラなら得意なんですが…、“ペンは剣より強し”と言いますし。」



小人F「ジュウ…モツカワナイシ、ジャーナリストニナッテホシイワケデモナイヨ。」



小人A「タタカウタメノチカラハ、コレカラキミタチニワタスヨ。」



夕「ぽい??」



時音「力を渡すってことは…超能力?それとも改造手術でもするのかい?」



夕実「改造手術!?人体実験!!?」キラキラ



小人B「ナンデキラキラシテンノ…(汗)」



小人C「アルシツモンニ、イエスカノーデコタエテモラウダケサ。」



三里「質問?」



小人D「ウン。」



雲雀「それに答えるだけ?」



小人E「ソウサ。マァイシヒョウジミタイナモンダヨ。」



一吹「意思表示…?」






 そこまで話し、小人達は無機質な声で聞いてきた。それによってここにいる全員だけでなく、世界中の多くの人々の人生を変えてしまうとは誰が予想できただろうか…。






小人達「「「「「○○○○○○○○○?」」」」」



            ・


            ・


            ・



血のバレンタイン


2月14日 08時00分 【血のバレンタイン】まであと2時間30分


 小人に呼び出され、誰も質問に答えられないまま全員は帰路についた。家に着いてからも小人からの質問が頭から離れず、それ故に目が冴えてしまい朝日が登るまで眠れた者はいなかった。今は《シェアハウス ブルーコスモス》に住む面々がみんなで朝食を摂っていたが、正直味も分からなかったし、食事も全くと言っていいほど喉を通らなかった。

因みに、英寿の布団に入っていた小人はいつの間にかいなくなっていた。






英寿「3人とも、大丈夫か?」



三里「…へ?」ボー



一吹「…ふぇ?」ボー



雲雀「…ゑ?」ボー



三里ママ「三里はともかく、雲雀ちゃんたちまでどうしたのよ?」



雲雀ママ「また夜ふかしでもしたの?」



英寿ママ「いくら休みだからって、夜ふかしのしすぎは身体に毒よ。」






 既に働く父達は出勤している。英寿も商店街で買い物をする為にもうすぐ家を出るのだが、3人の様子がいつもとは違うため気になっていた。






PPPP PPPP 







そんな時、TVでニュース速報の字幕が流れる。






速報『イギリスの豪華客船《クイーン・エリザベス号》が沈没。乗員及び乗客の生存は絶望的か。』



三里「」ビクッ



速報『無人観測機が“クジラに似た謎の影”を発見。』



一吹「」ビクッ



速報『観測機も“浮遊する球体のようなもの”を捉えた直後に反応消失。』



雲雀「」ビクッ



ママさん's「「「最近ほんとに物騒ね〜」」」



三里ママ「日本じゃ変な宗教団体と暴徒の同時多発テロ事件があったらしいし。」



三里「」ゾクッ



雲雀ママ「異常気象のニュースもあったわよね?北の方じゃ異常発達したブリザードで海まで凍るし。」



雲雀ママ「南の方じゃ気温が常時80℃以上になって、南極が氷じゃなくて灼熱の大地に変わってるとか…」



雲雀「」ゾクッ



英寿ママ「戦争も全然終わらないし、このままじゃ“第三次世界大戦”待ったなしとか言われてるわよ?」



一吹「」ゾクッ



ママさん's「「「なんだか世界中がおかしくなってきてるわね〜」」」



幼馴染's「「「…っ!!」」」ガタガタガタガタ






 世界中で何が起こっているのか、その真相を知っている3人は他人事には思えずただ震えることしかできなかった。自分達なら世界を救えるかもしれないが、そのためにはあの時の小人達の問いに『イエス』と答えなければならない。しかし、3人はまだ首を縦に振ることはできなかった。






英寿「大丈夫。」






そんな中、英寿が口を開く。






英寿「たとえ何があっても、俺がみんなを守るから。」



三里「ヒデちゃん…。」



一吹「トシくん…。」



雲雀「トシ…。」



ママさん's「「「アラアラ…キュンと来ちゃうわねぇ…///」」」(*´艸`*)



英寿「本気なんだけど…照れるなぁ///」



幼馴染's「「「んなっ!」」」Σ(゚Д゚)



三里「…。」バチン!



一吹「…。」バチン!



雲雀「…。」バチン!



英寿「理!不!尽!」ビンタ×3



幼馴染's「「「でも嬉しい…///」」」ボソッ



英寿「なんか言った…?」イテテ



幼馴染's「「「なんでもない!///」」」バッチーン!×3



英寿「ホギャアァアァア!!!」オナジトコニビンタ×3



英寿「な、何故…」ガクッ






英寿の発言に不覚にもときめいた一同だが、幼馴染達の連続ビンタによって発言主が粛清された。母達は冗談のつもりだったが、それは言わないでおいた。3人とも不安が消えたわけではないが、表情は穏やかになっていた。


            ・

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2月14日 10時00分 【血のバレンタイン】まであと30分


英寿「…ん?」キキーッ






 自転車で商店街に向かっていた英寿だが、途中なんとなく立ち寄った海浜公園で浜辺に座り込んでいる小さな女の子が視界に入った。髪も肌も真っ白な、5歳くらいの女の子だった。母親とはぐれてしまったのか、それとも迷子なのかは分からなかったが、放っておくことができなかった英寿は声をかける。






英寿「どうしたの?」



女の子「…ウミ、ミテタ。」



英寿「寒くないの?」



女の子「…ダイジョウブ。」



英寿「お父さんとお母さんは?」



女の子「モウスグ、アエr」グウ〜



英寿「…お腹すいたの?」



女の子「オナ…カ…スイ…タノ…?」キョトン



英寿「うん。お腹すいた?」



女の子「オナカ…スイタ…」



女の子「オナカスイタ!」( ゚д゚ )クワッ!!



英寿「お、おう…」



女の子「オナカスイタァ…」グスッ



英寿「自覚しちゃったか〜(汗)」



女の子「オナカスイタ〜!」ウワーン!






女の子は空腹を自覚すると、我慢できないのか泣き出してしまった。母親は近くにいるようだが、周囲を見渡してもそれらしき人物は見当たらない。英寿は自分が悪いような錯覚に陥りながらも、何かできる事はないかと頭をフル回転させる。






英寿「どうしたらいいんだ…」



女の子「ハラペコ〜!!」ウワーン!



英寿「う〜ん。…お?」カバンガサゴソ



女の子「クウフク〜!!!」ウワーン!



英寿「お菓子ならあるけど、食べる?」



女の子「ハラヘッt…オカシ?」ケロッ



英寿「うん。」



女の子「タベル。」



英寿「はい。」っシベリア



女の子「…ナニコレ?」



英寿「“シベリア”っていうんだ。甘くて美味しいよ。」



女の子「アマイノ!?」キラキラ



英寿「うん。食べていいよ。」



女の子「アリガトウ!イタダキマース!」



女の子「ハグッ、アグッ」モグモグ



英寿「どう?」



女の子「オイシイ〜!!」パアアア!



英寿「なら良かった。」



女の子「オマエ、イイヤツダナ!」ニコッ



英寿「お前って…(汗)」



女の子「イイヤツダカラ、オマエハトクベツニタスケテヤル!」ムフー



英寿「助ける?」






シベリアをあっという間に平らげ、満足げな女の子はすっかりご機嫌である。どうやら英寿のことを気に入ったようで、助けてくれるようだ。






女の子「カエレ。」マガオ



英寿「…はい?」






女の子は急に真顔になり、「帰れ」と言ってきた。失礼だとは思ったが、さっきまでとは様子が違い、女の子はいたって真面目なようだった。






女の子「カエレ!」






女の子は繰り返す。






女の子「カエレェ!!」



英寿「食うだけ食って、真面目な顔で“帰れ”はいくらなんでも失礼なんじゃないの?」イラッ



女の子「アヤマル!ゴメンナサイ!デモカエレ!」



女の子「オマエココニイルナ!カエレッ!」



英寿「はぁ!?」イライラ






お菓子を貰っておいて“帰れ”と何度も繰り返されては、英寿も怒りがこみ上げてくる。






英寿「さっきから聞いてれば、いくらなんでも失礼だぞ!」



女の子「ハヤクカエレ!」アセアセ



英寿「なんでだよ!?」ヽ(`Д´#)ノ



女の子「ココニイチャダメ!」



英寿「だから何で!!」



女の子「シヌゾ!!」キッ



英寿「…ゑ?」



女の子「モウスグミンナクル。ソシタラゼンブフットブ!」



女の子「ダカラ、ソノマエニカエレ!」



女の子「ココカラニゲロ!!」



英寿「皆?え、吹っ飛ぶ??」



女の子「ホントハ、ニンゲンニオシエチャイケナイノ…」ウツムキ



女の子「デモ、オマエイイヤツ!オマエハシナセタクナイ!」ジワッ



英寿「死なせたくないって何!?一体何があんの!?!?」






とても信じられるような内容ではないのだが、女の子の必死な様子から、冗談を言っているようには見えない。女の子が言った“皆来る”という言葉が気になり、英寿は混乱しながらも辺りを見渡していると水平線で何かが光った気がした。


次の瞬間だった。






ドグォーン!!ドガーン!! キャアアアアア






英寿のいる所から少し離れた場所にある商店街が吹き飛び、人々の悲鳴が響いた。






英寿「何だ!?」Σ(゚Д゚)  ドゴーン!!



女の子「ハジマッタ!」  ゴバァァン!!



英寿「始まった?なんのこと!?」  チュドーン!!




ウワァァァ  イヤァァァ   ママァァァァ  ウ〜ウ〜






英寿の混乱をよそに、商店街以外の場所でも爆発が起き始め、それに伴って人の悲鳴やサイレンも大きくなる。






女の子「モウミンナキタ!ココモアブナイカラハヤクイケ!」



英寿「でっ、でも君は…っ!」



女の子「ダイジョウブダカラ!ホッポハダイジョウブダカラ、アンゼンナバショマデハヤクイケ!」



英寿「そんな訳には…」



女の子「カエレェッ!!!」( ゚д゚ )クワッ!!



英寿「っ!」タジッ



女の子「ハヤクニゲローッ!!!!」



英寿「…クソッ!」クルッ ダッ



女の子「ソレデイイ…。ソレデイインダ…。」ニコッ



女の子「…ゴメンネ。」ボソッ






英寿は、小さな女の子を見捨てる罪悪感と悔しさを感じながらも走り出した。女の子はそんな英寿を満足そうに、そして申し訳なさそうに見送った。



            ・


            ・


            ・


2月14日 10時20分 【血のバレンタイン】まであと10分


 その頃、三里達は英寿へ贈るためのチョコレートの仕上げにかかっていた。照れ隠しに彼をシバき倒したことで気は晴れたが、3人とも胸の中にある不安感は消えていなかった。






三里「二人とも順調?」ラッピングカンリョウ



一吹「キレイに固まったみたい!」アジモヨシ!



雲雀「今一番大事なところよ。」オーブンニin



三里「焦がしちゃダメだよ〜?」ニヤニヤ



雲雀「だからこうして見張ってるのよ。」



一吹「もしかして、焼き上がるまでソコで見てるつもりなの?」タイマーアルノニ…



雲雀「あたりまえじゃない。」ジー



三里&一吹「「えぇー…(汗))」」



雲雀「…ねぇ、二人とも?」






雲雀はオーブンの中を見つめながら、意を決したように口を開く。






雲雀「もう、決めた?」



三里「っ!」



一吹「…。」






三里は答えに詰まり、一吹は沈黙する。人生を全く別のものに変えてしまう選択なのだ。簡単に決められるものではないことは重々承知だが、それでも聞かずにはいられない。


…昨晩のことがあったからなのか、三人は胸騒ぎが収まらずに苛立ちや焦りすら感じているのだが、それが何故なのかは分からずにいた。






三里「私はまだ…。」



三里「早く決めなきゃいけないのはわかるけど、難し過ぎるしそれが逆に焦りになってる感じなんだよね。」



三里「二人はどうなの?」



一吹「…。」



雲雀「私も…。この世界は好きだけど、なかなか踏ん切りがつかなくて…。」ウツムキ



一吹「…。」



三里「一吹…?」



一吹「…。」



雲雀「どうしたのよ、さっきから黙り込んで!?」イライラ



一吹「…。」






一吹は沈黙を貫く。しかし、その眼からは三里のような焦りも、雲雀のような苛立ちも感じない。






一吹「…る。」ボソッ



三里&雲雀「「え?」」



一吹「私が守る。」






たった一言だったが、一吹は決意と覚悟を込めて静かに、しかし力強く言い切った。






一吹「世界はもちろんだけど、トシくんは私が守る。」



一吹「当然、ミサちゃんも雲雀ちゃんも皆。」



一吹「私がみんなを、守るんだから!!」フンス



三里&雲雀「「一吹…」」





ズゥ…ン         ズズゥ…ン





幼馴染's「「「何!?」」」ビクッ×3





ウウウウウウウ   ウウウウウウウ





三里ママ「地響きの次はサイレン?」



雲雀ママ「何事かしら?」



英寿ママ「ちょっと外の様子見てくるわね。」スタスタ











英寿ママ『ちょっと外の様子見てくるわね。』




幼馴染's「「「!!」」」ゾワッ×3



三里「玄関は開けちゃ駄目!」



一吹「みんな伏せてぇ!」



雲雀「家具と窓から直ぐに離れて!」





ヒュルルルルル…





ママさん's「「「えっ?」」」ガチャ  





カッ!






ドゴオォォォォォォオ!!!!!!!!    



            ・



            ・



            ・




2月14日 10時30分 【血のバレンタイン】


街の至る所で火の手が上がり、人々の悲鳴も絶えない。爆風と地響きで歩くこともままならず、時折生温かいものが四方八方から降り注いだ。

海上には異形の怪物が隙間なく蠢き、上を見れば見たこともない不気味な物体が縦横無尽に駆け回りながら弾丸と爆弾を撒き散らしていた。





英寿「クソッ!いったい何がどうなってるんだよ!?」



??「うわぁぁぁ!!」



英寿「…!その声は!」ダッ



            ・


            ・


            ・



英寿「武ィ!」



武「英寿!」



英寿「無事か!?」 



武「俺は大丈夫だ!でも姉ちゃんが…!」



金女「足が…足が抜けないネー!!」グッグッ






親友の悲鳴を聞き、英寿は人混みをかき分けながら進むと武の姿を発見した。幸い武は無事だったのだが、姉の金女は瓦礫に足を取られて身動きが取れなくなっている。






英寿「金女さん!大丈夫ですか!?」



金女「トッシー!」



蓮「金女!今助けてやる!」



金女「蓮!?なんで避難艇を降りてきたネ!!?」



蓮「弟を連れてすぐに戻ると言ったお前がなかなか来ないから、気になって戻ってきたんだ。」



英寿「蓮さん!俺と武で一番デカい瓦礫を持ち上げるから、その間に金女さんを!」



蓮「承知した!」コクッ



武「ありがとう英寿、蓮さん!」グスッ



英寿「泣くのはあとだ!せーので持ち上げるから合わせろよ!」



武「分かった。」



英寿&武「「せー…のォ!!」ガコッ



蓮「よし!金女、今助けるぞ!」ズルズル



金女「Sorryネ…。ウッ!!」ズキッ



武「姉ちゃん!」



英寿「金女さん!?」






金女の救助には成功したが、痛みから金女は表情を歪める。瓦礫に取られていた足は肉が削げて骨が露出しており、足首もあらぬ方向を向いていた。出血も酷く、とても自力で歩ける状態ではない。






蓮「金女、大丈夫か!?」



武「ね、姉ちゃん…」アタフタ



金女「コレは、マズイネ…。」ボソッ



金女「…皆、ワタシを置いて早く逃げるネ!」



武「何言ってんだよ!?」



英寿「そんなこと出来る訳無いでしょ!!」



金女「これじゃ足手まといネ。マトモに歩けないワタシと一緒だと、助かるものも助からないヨ。」



金女「それなら…一人でも多く、確実に助かる為にも早く行くネ。」ニコッ



武「姉ちゃん…!」ナミダメ



蓮「…。」



英寿「金女さん…!」ギリッ



金女「さぁ、早く行くネ…。」






自分を見捨てろ。

彼女は、金女はそう言っているのだ。


しかし、誰もそんな事は納得できるはずもなく、その場から動かない。そんな時に






蓮「馬鹿なことを言うなぁ!!」バッチィーン!!



蓮「武と英寿が何の為にお前を助けたと思っているんだ!?お前を見捨てる為でも、お前にそんなことを言わせる為でもないぞ!!」



金女「でも…でも…!」



蓮「でももヘチマも無い!ただお前に生きてほしいから助けたんだ!」



蓮「そんなコイツらの気持ちを…、踏みにじるなぁ!!」( ゚д゚ )クワッ!!



金女「ウッ…うぅ…。」グスッ



金女「二人とも…Sorryネ…。」



武「そんなこと気にすんなよ姉ちゃん!」



英寿「その先は、生きて逃げ切ってから聞かせて下さい。」ニコッ



金女「Thank youネ。…蓮、貴方のお陰で目が覚めたネ。絶対に生き抜くから、手を貸してくだサーイ。」



蓮「分かればいいんだ。…その足では立てんだろう?おぶさるといい。」スッ



金女「ワタシ重いデスよ?」



蓮「なぁに、体力には自身がある。」ニヤッ



金女「じゃあ…失礼するネ。」イタタ…ヨイショ



武「よし!皆で逃げ切るぞ!!」



英寿「武、ちょっと待ってくれ。」



英寿「蓮さん。ウチの皆は避難艇に居た?」



蓮「いや、最初の船からずっと避難誘導をしながら金女を待っていたが、まだ乗っていなかったようだ。」



蓮「次が最後の避難艇だと言っていたから、皆それに乗るんじゃないか?」






…嫌な予感がする。

根拠は無いが、とてつもなく嫌な予感が全身を駆け巡り、冷や汗が止まらない。このまま避難艇に向かうのが助かる為の最善策なのだろうが、三里達が最初の避難船に居なかったのがどうしても気になる。






英寿「…皆、先に行ってくれ。」



蓮「何!?」



英寿「俺は後から行く。」



武「お前何言ってんだ!?」



金女「もうすぐ最後の避難艇が出てしまうネー!!」






時間が無い中での英寿の発言に、全員が驚きを隠せない。






蓮「突然何を言い出すんだ!」



武「お前まさか…引き返すとか言わないよな?」



英寿「…そのまさかだよ。」



英寿「いくらなんでも、誰も避難艇に乗ってないのはおかしい。」



武「たった今皆で逃げる話をしたばっかりじゃないか!」



蓮「こうしている間に、先に避難艇に着いているかも知れないだろう?」



英寿「そうかも知れない。…でも、いくらなんでも避難が遅すぎる。」



蓮「こんな事態だ。きっとご家族も混乱しているんだろう。」



金女「皆のオトーサマやオカーサマ方も冷静ではいられないネー。」



英寿「いや、こーゆー時に一番冷静なのは一吹だ。まだ子供だけど、何かあったときには大人よりもずっと頼りになる。」



英寿「アイツは視野が広いし、頭も良く回る。寧ろ、大人達に指示を出したりしてその時に最善の行動を取れるくらいだ。」



武「確かに、あの子はみんなを引っ張って行動できそうなタイプではあるけど…。」



英寿「一吹がいれば、家族みんなで最初かその次の避難艇には乗れているはずなんだ。」



蓮「しかし、こうして話している間に乗り込んでいるかもしれない。」



英寿「うん。だから、確認しに行くだけさ。すぐに戻るよ。」



金女「危険過ぎるネー!」



武「俺も行くぜ!」



金女「武ィ!?」



英寿「必ず戻るから!」ダッ!



武「避難艇で待っててくれよな!」ダッ!



蓮「避難艇が出るまであと30分しかないぞ!それまでに必ず、必ず避難艇の待機しているレウァールの空港に来るんだ!!」クッ!



           ・



           ・



           ・


別離


2月14日 10時35分 【血のバレンタイン】

避難艇の離陸まで 残り25分




一吹(…熱い。)





最初に感じたのは、真夏の太陽のような爽やかさでもなく、真冬の暖炉のような穏やかさでもない、もっと直接的な刺激だった。






一吹「ぅ…」ピクッ






激しい痛みや熱感と共に、一吹は目を覚ます。先程母たちが玄関を開けた瞬間、玄関先で何かが光ったところまでは覚えている。が、その後は何があったのか分からない。視線を動かして分かるのは、先程から感じている熱さの正体が燃え盛る炎と強い熱風だという事だけだった。






??「ぉ…!………ぃ!」






誰かの声が聞こえる。






雲雀「みんな起きて!起きてよぉぉおおお!!」



三里「お母さん!お母さーん!!」



三里&雲雀「「お願いだから、みんな目を開けてぇ〜!!」」






聞こえてくる声が三里と雲雀のものだと分かるまで数秒の時間を要したが、二人は無事だと分かるとひとまず安心した。ならばこちらも無事だと知らせねばならないが、声がなかなか出てこない。






一吹「ひ…ばり…ゃん。みさ…ちゃ…。」






やや掠れながらも、なんとか二人の名前を呼ぶことができ、三里達もそれを聞き逃さなかった。






三里「一吹ッ!」バッ



雲雀「一吹!無事なのね!?」ダッ



一吹「身体中痛いけど…、なんとか生きてるみたい。」



三里「よかった…。生きててよかったぁ…。」ポロポロ



雲雀「よ”がっ”だよ”ぉ”〜!!」ギュゥゥゥゥゥ






一吹が無事であったことに安心し、三里と雲雀は駆け寄って涙を流す。






一吹「一体何があった、の…」






状況を把握するために周囲を見渡した一吹は、変わり果てた街と我が家の様子に絶句する。家は焼け落ち、街は全く原型を留めていなかった。

吹き飛んだビル、クレーターのような大穴だらけになっている道路、誰のものかも分からない血溜まり…。






三里「突然、家の目の前で爆発が起きて…」



雲雀「皆、みんなぁ…」ジワッ



一吹「爆発?」






あの光は大きな爆発だったのだと、少しずつ納得してくる。






一吹「でもどうして…」



一吹「!」






そんな中、我が家だった瓦礫の下から見知ったものが見えた。日々自分たちを支えてくれていた、母達の手がそこにあった。手首に巻かれたあのミサンガは、皆で昨年プレゼントしたものだ。見間違えるはずがない。






一吹「待ってておばさん。今助けるからっ!」ダッ



雲雀「一吹!?」



三里「どこ行くの!?」






一吹の突然の行動に二人は驚きの声を上げるが、そんなものはお構い無しに一吹は瓦礫の下から伸びている手に駆け寄る。そこに居るのなら、自分が動けるのなら助けなければならない。






一吹「おばさん!無事なら返事をして、おばさん!」



三里ママ「…」



三里「一吹…。」グスッ



一吹「おばさん!おばさん!!」



雲雀ママ「…」



雲雀「一吹…、もういいから…っ」グスッ



一吹「おばさん…?」



英寿ママ「…」



一吹「…?」






一吹は、自分の行動と周囲の反応に違和感を感じる。何故二人は泣いているのか、何故母達は応えないのか…






三里「お母さん達は…もう…」ウツムキ



一吹「何言ってるの…?」



雲雀「アンタ…一体…何処に向かって…話しかけてんのよぉ…」グスッ ヒック



一吹「何処って…」



三里「皆、こっちにいるんだよ…?」



雲雀「私達だって…信じ…られないけどぉ…」ウッウッ



一吹「この下にいるでs…え?」






二人の話を聞きながら、ようやく状況が見えてきた。あの時の大きな爆発によって、自分は気絶してしまったのだ。絶え間なく聞こえてくる爆発音や悲鳴、空に見える謎の物体から逃げ惑う人々の様子から察するに、この惨状は空の“アレ”が原因なのだろう。


変わり果てた母達の顔が、三里達の“足元”にあった。では、一吹が必死に声を掛けていたのは…。






一吹「嘘…だよね…?」オソルオソル






声も手も震え、ふらつきながらもゆっくりと瓦礫の下から伸びている手をなんとか掴む。















冷たい。















嘘であってほしいと願いながら、その手を瓦礫の下から引き抜く。















あまりにも軽い。






一吹「いっ…」






ソレは






一吹「嫌ぁぁあああーーーーーッ!!!!!」






焼け焦げた母達の腕“だった”ものにすぎなかった。



            ・



            ・



            ・



2月14日 10時40分 【血のバレンタイン】

避難艇の離陸まで 残り20分






 避難艇の離陸が間近になっている事など知らず、3番街のはずれではなかなか避難しようとしない彩葉と、それを急かす笠原衣代(かさはらきぬよ)がいた。






衣代「何してんの彩葉!早く逃げるよ!」



彩葉「彩葉に構わずきーちゃんは先に行って!」ガラガラ



衣代「さっきから何してんの!?」



彩葉「アレは…アレだけは、絶対に持ってないといけないの!」ガラガラ



彩葉「この辺りに…ある…筈なのに…重い…!」グググ






 そう言って彩葉は瓦礫をどかし、ひたすら何かを探し続ける。しかし、非力な少女の力では大きな瓦礫までは動かせず、かなり苦戦している。






衣代「ソレは命より大切な物なの?!」



彩葉「もちろん!」グググ






彩葉が即答したところを見るに、本当に大切なのだろう。本気で探している彩葉の姿を見ていた衣代だったが…






衣代「だったら…!」ガシッ



彩葉「きーちゃん…?」



衣代「そんなに大事な物だってんなら…、さっさと見つけろぉ〜ッ!!」オンドリャアアア!!(۳˚Д˚)۳



彩葉「ええぇぇぇぇ!?」Σ(゚Д゚)






彩葉が必死に動かそうとしていた瓦礫を一人で、一気に持ち上げてしまった。その様子に彩葉は目を丸くするが、衣代はそんな事お構い無しに声を荒げる。






衣代「長くは持たないから…、早く探せぇ!」プルプル



彩葉「はいっ!」ダッ






火事場の馬鹿力なのか、衣代の腕は小刻みに震えている。彩葉も急いで瓦礫の下に入り、目的の物を探す。






彩葉「何処だ…何処に…」ガラガラ



衣代「彩葉、早く…!」プルプル



彩葉「あっ、あった!」ガラッ



彩葉「きーちゃん、ありがとう!もう大丈夫です!!」



衣代「ぃよいしょぉッ…!」ズゥン



衣代「ハァッ…!ハァッ…!」






彩葉は無事に探し物である肩掛け鞄を見つけることができた。それを確認した衣代は、肩で息をしながらも彩葉に当たらない場所に瓦礫を放り投げる。






衣代「ハァー…、ハァー…」



衣代「…ふぅ。どんな力仕事でも、衣代さんにお任せ!」(-д☆)キラッ



彩葉「きーちゃんって、ホントに彩葉と同じ女の子なんですかねぇ…?」ボソッ



衣代「彩葉、なんか言った?」



彩葉「ナンデモナイデース。」



彩葉「それより、早く避難しましょう!」



衣代「こんな状況で避難所なんてアテになるの?」



彩葉「一番近いのは第7中学だけど…跡形も無いですよね。」ウツムキ



衣代「…どうしよう?」ウツムキ



??「生存者発見!」キキーッ



??2「君達、怪我はないか!?」タッタッタッ






有事の際に避難所となるはずの母校が吹き飛んでしまい、途方に暮れていた二人のもとにガタイの良い男女二人が駆け寄ってきた。軍人のジョナサンと警官の伊勢崎陽向(いせざきひなた)である。






陽向「こんな所で何をしている!早く避難するんだ!」



彩葉「でも…避難所の学校が…」



ジョナサン「避難所?学校?」



衣代「災害とかの時は学校に避難するように言われてたから…」



陽向「これは災害ではない。明らかに我が国は攻撃を受けている。」



陽向「避難所など格好の的だ。」



ジョナサン「だから、国民全員を避難用の飛空艇に乗せて国外に避難することになったんだ。」



ジョナサン「海と空から攻撃されてはいるが、幸い飛行物体の速度はそこまで速くない。」



陽向「軍の飛空艇ならなんとか逃げ切れそうだからな、それぞれの街の空港から飛ばす事になっている。」



ジョナサン「軍と警察で連携して、生存者の捜索と避難誘導にあたっていたのさ。」



彩葉・衣代「「避難用飛空艇?」」



陽向「そうだ。最後の避難艇がもうじき離陸する。」



衣代「じゃあ急がなきゃ!」



彩葉「どこの空港に行けばいいんですか!?」



陽向「8番街だ。さぁ、我々と一緒n」チュインチュインチュイン!



ジョナサン「来たぞ!!!」



陽向「!」



陽向「お前達、伏せろ!!」バッ



彩葉・衣代「「ヒィッ!」」バッ×2



ジョナサン「!?危ない陽向!!」ドン



陽向「うわっ!?」






その時、上空から例の飛行物体が機銃のような物を撃ちながら近づいてきた。全員地面に伏せようとするが、ジョナサンは機銃の掃射が陽向に向いている事に気付き、陽向を突き飛ばす。






ジョナサン「ァッ…!」バスバスバスッ






ジョナサンは全身に機銃の掃射を浴び、身体に無数の穴が空いていく。そのうちの一つが眉間を撃ち抜き、血と脳漿を陽向に浴びせながら、短い断末魔を残して彼の命を奪い去った。






陽向「ジョナサン…?」



ジョナサン「」



彩葉「そ、そんな…」ガタガタ



衣代「嫌、イヤ、いや…!」ガタガタ



陽向「ジョナサァァァァァンッ!!!!」



陽向「ウワアァァァァァァァァァア…!!」






ジョナサンの亡骸に縋り付き、陽向は泣き叫ぶ。人の死を目の当たりにした彩葉と衣代はただ震えることしかできなかった。






陽向「ウゥッ…グスッ…」グシグシ







数分後、陽向は嗚咽を漏らしながらも乱暴に涙を拭い彼の亡骸をそっと地面に横たえる。その目は泣き腫らして真っ赤になっていたが、ここで泣いているわけにはいかないと自身に喝を入れて立ち上がる。






陽向「…二人とも、怪我は無いな?」



彩葉「彩葉達は…なんとか…ウッ」ガタガタ



衣代「だ、大丈b…オェッ」プルプル



陽向「お互い辛いものを見てしまったな…。」



陽向「だが、私達は彼に救われた。この命は大事にしないといけない。」



陽向「幸い車は無事だ。避難艇の離陸まで時間がない、乗ってくれ。」



彩葉「腰が抜けて…」ガクガク



衣代「立てません…」ガクガク






普通の中学生である彩葉と衣代にとって、人が殺される瞬間を目の当たりにしたショックは計り知れない。気絶しなかっただけでも大したものだろう。それを察した陽向は






陽向「よっと。」ヒョイッ×2



彩葉「わぁっ!?」



衣代「きゃあ!?」



陽向「スマンが時間がない。我慢してくれ。」スタスタ






二人を左右の腕で持ち上げ、自分が乗ってきた兵員輸送用トラックに運ぶ。






陽向「かなり揺れるから、しっかり捕まっててくれ。このまま8番街の避難艇まで飛ばすぞ!」ブロロロ



彩葉・衣代「「ハイッ!!」」



           ・



           ・



           ・




2月14日 10時45分 【血のバレンタイン】

避難艇の離陸まで 残り15分


 英寿達と別れた蓮と金女は避難艇に到着し、傷の手当てを受けていた。






医師「これは酷い…」



金女「うぅ…」グッタリ



蓮「金女!」



医師「脚以外には目立った外傷は無いが、出血も多いし、足首とその周りも数ヵ所折れている。」



医師「一先ず、骨折部の整復と傷の消毒だ。君、彼女に布か何かを噛ませてくれ。」



蓮「分かった。」コク



蓮「金女、これを噛むんだ。」サシダシ



金女「…」ムグ






医師の指示に従い、蓮はズボンのポケットからやや厚手のハンカチを取り出して金女に噛ませる。金女は無言でそれを咥えるが、表情には力が無い。






医師「よし。あとは止血の為に傷口の少し上を圧迫して…」



蓮「ベルトで縛ればいいか?」シュル



医師「あぁ、そうしてくれ。」



蓮「金女、少しキツイが我慢してくれよ。」グググッ



金女「ウッ」



医師「ありがとう。」



医師「これから傷口の消毒を行う。かなりしみるだろうが、申し訳無いけど耐えてもらうよ。」



金女「…」ウナヅキ



医師「君、念の為彼女の身体を押さえてくれ。」



蓮「あぁ。」カナメオサエ



医師「…いくぞ。」スッ



金女&蓮「「?」」






医師はそう言ってカバンからスプレー缶を取り出す。瓶に入った如何にもなものを想像していただけに、金女と蓮の頭の中には疑問が生じるが、医師が言うにはカプコーン社が最近開発したものらしい。消毒だけでなく、傷口の止血と治療促進の効果もある優れものとのこと。

瀕死の重傷を負った全身筋肉の大男も瞬時に復活したことがあるとかないとか。






医師「…。」プシュー



金女「ん“ゔぅーー!?」ビクンッ



医師「しっかり彼女を押さえてろ!」プシュー



金女「ム”ヴゥゥーーーッ!!」バタバタ



蓮「金女、耐えろ!耐えるんだ!」グググ



金女「フゥ”ッ!ン”グッ!!グゥ”ゥ”ッ!!!ム”グググ!!!!」ガクガク



医師「もう少しで終わるぞ!」プシュー






あまりの激痛に暴れながら悶絶する金女。蓮がそれをなんとか押さえ込み、その間に医師がスプレーで処置を行っていく。医療行為だと分かってはいるものの、金女にとってはまさに地獄の時間である。






医師「よし。これで止血と消毒は良いだろう。」



医師「最後に包帯で傷口を保護するからな。」グルグル



金女「フゥー…フゥー…」ゼェゼェ






肉が削げて激しく出血していた場所に、やたらとしみるカプコーン社製のスプレーで処置を施し終わったところで医師が呟く。金女は肩で息をしながらも、脚の痛みが楽になっていることに安堵する。


しかし、まだ終わりではない。

骨折部の整復処置がまだ済んでいないのだ。






医師「これから、骨折している足首とその周辺の整復を行う。」



医師「先程の処置以上の痛みを伴うが、これも必要な事なんだ。辛いだろうが耐えてくれ。」



金女「…」コク…






金女は頷くが、その目には明らかに不安と恐怖の色が見て取れる。先程の処置でも充分に地獄を見ているのだ。無理もないだろう。






??「大丈夫ですよ。」ソッ



金女「…?」



翔子「私がついてますから。」ニッコリ






金女達の姿を見つけ、同じく避難艇に乗っていた翔子が側に来ていた。翔子は不安を包み込むように、優しく金女の手を握る。






蓮「翔子さん…!無事だったんですね!」



翔子「ええ。お店は無くなってしまいましたが、逃げ遅れた子供達を連れてなんとか乗り込めました。」



蓮「子供達?」



夕「…ぽい?」ヒョコ



時音「あなた達は、昨日の…。」ヒョコ






翔子の言う子供達とは、夕と時音の事だった。二人は散歩をしている時にこの騒ぎに巻き込まれ、半ばパニックを起こしていた所に翔子が現れて、共に避難してきたという。






医師「お知り合いですかな?」



翔子「はい。皆近所に住んでいる者同士です。」



夕「ぽい!」



時音「そうだよ。」



医師「では、彼女を安心させてあげてください。これからの処置は尋常ではない痛みを伴うので。」



翔子「分かりました。」コク



翔子「私の手を握っていなさい。どんなに痛くても、怖くても、私はここに居ますから。」ギュッ



夕「一緒に居るっぽい!」ギュッ



時音「僕達がついてるよ。」ギュッ



蓮「私も忘れるなよ?」



金女「…!」ギュウッ コクコク






金女は翔子達と手を繋ぐことで、目の奥から不安が消えていった。






医師「大丈夫そうだな。」



医師「では、整復を始める。」



金女「…。」コクッ



医師「…では。」スッ



金女「ギッ!!」ビクッ



医師「ココだな…。」グググッ



金女「ゔぅゔゔ…っ!」



医師「まずはこう。」グリッ ゴキィッ



金女「ぐうぅっ!!」ビクッ



医師「次はこうだな。」グリッ バキッ



金女「ギィイイッ!!」ビクッ



医師「ここからが大変だぞ。」グリグリ ゴキゴキッ



金女「ム”ゥゥゥッ!ングググ…!」ビクッビクッ



医師「ここは…こっちで…。」グリグリ バキバキッ



金女「ガァアアアアアアッ!!!」ポロッ






金女はあまりの痛みに声を上げてしまい、噛んでいたハンカチを落としてしまう。しかし、整復処置はまだ続いている。






医師「もう少しだ!」メキメキ



蓮「頑張れ金女!あと少しだぞ!」



翔子「しっかり咥えていないと舌を噛みますよ!」スッ



金女「ングッ!」アムッ



医師「コレは、こっちで…!」ゴキッバキッ



金女「ン“ゥゥゥーーー!!」ガクガク



医師「そしてこう!」ビキッメキッベキッ



金女「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」バタバタ



夕「あわわわ…」アタフタ



時音「夕!僕達が弱気になっちゃ駄目だよ!」ナミダメ



夕「!」



夕(時音も怖いのに…我慢してるっぽい)



夕「…ぽい!」コクッ



夕「大丈夫っぽい!あと少しで終わって、楽になれるっぽい!」ギュッ プルプル



時音「僕達がついてるよ!」ナミダメ






まだ子供の夕と時音にはトラウマレベルの光景だが、それでも懸命に金女を励ましていく。そして…






医師「これで…最後だ!」ゴギィッ バギィッ ゴキンッ!



金女「ッ!!!!!!!!」ビクンッ!



医師「…よく頑張ったな。」



金女「…」



蓮「金女、本当によく耐えたな。」



金女「…」



夕「…ぽい?」クビカシゲ



時音「えっと、大丈夫…?」オソルオソル



金女「…」



蓮「金女?」ユサユサ



金女「」ガクッ



蓮「金女!?」



金女「」



時音「ま…まさか…?」ガタガタ



夕「死んじゃったっぽい!?」アワワワ



翔子「…」スッ



翔子「…大丈夫ですよ。脈もありますし、息もしています。痛みで気を失っただけでしょう。」



医師「患部の保護と固定も終わった。あとはとりあえず安静にする事だな。」



軍人「もうすぐ避難艇が動きます。皆さんシートベルトをしっかり締めて待機していてください。」



蓮「分かりました。」カチャッ






蓮達は頷き、気を失っている金女をシートに座らせてから各々で着席し、シートベルトを締めた。






蓮(二人とも…急げよ!)






避難艇の離陸準備は着々と進んでいく。



           ・



           ・



           ・




2月14日 10時50分 【血のバレンタイン】

避難艇の離陸まで 残り10分




武(悪い夢なら覚めてくれよ…!)






 英寿と共に変わり果てた街をひた走り、武はそう思いながら何度も自分の顔を抓るが現実は残酷だった。

穴だらけの道路に焼け落ちる建物。動かなくなった人々の中には見知った顔も多かった。

よく駄菓子を買いに来た少年、店番をしていると必ずお駄賃をくれたおばあさん、野球部の先輩、クラスメイトの女の子…。






武「なんでこんな事になっちまったんだよ…!」ギリィッ



英寿「俺だってさっぱり分かんねぇよ!」タッタッタッ



武「昨日までは平和だったじゃねぇかよぉ…」グスッ






普段は強気な武だが、今は珍しく弱気になってしまっている。10代の少年にはあまりにも残酷過ぎたのだ。

しかし、足を止める訳にはいかない。親友の家族が、自分の友人が逃げ遅れているかもしれないのだから。






英寿「!」



英寿「三里!一吹!雲雀!」ダッ



武「皆無事か!?」ダッ



三里「ヒデちゃんに武……?」



雲雀「あ…あぁ…っ!」



一吹「ふたりとも…生きてる…?」






 母達が目の前で死んでしまい、自宅のあった場所で放心状態になっていた三里達と合流できた英寿と武。しかし、今は喜んでいられるときではない。一刻も早く移動しなければ避難艇に乗れないどころか死の危険すらある。






三里「本物だよね?…ちゃんと生きてるんだよね?」



英寿「俺たちは大丈夫だ!」



武「お前たちこそ大丈夫なのか!?」



雲雀「私たちはかすり傷くらいよ!」



一吹「でもお父さんたちが…」



英寿「え…?」



三里「見ちゃダメ!!」






 何を言われているのか理解できなかった英寿だったが、一吹たちの背後にある"モノ"が視界に入り嫌でも理解させられる。この騒動で母達がどうなってしまったのかを。

しかし、悲しみを感じる時間も取り乱す暇も無い。異形のモノが母達の亡骸に群がり、それを貪りながら口腔内にある筒状のモノをのぞかせ






一吹「みんな伏せてっ!!」






 爆音とともにその殺意を解き放った。

いち早くそれを察知した一吹の声で全員が地面に伏せたことで当たりはしなかったものの、背後にあったブロック塀は欠片も残らず消し飛ばされる。その殺意の高さと破壊力に恐怖しながらも、異形のモノから発せられる「グギギギ」という嘲笑うかのような音と獰猛な笑みから次はないと悟る。






英寿「みんな走れ!」



武「急げ!8番街まで死ぬ気で走るんだ!!」






 英寿と武の声で三人も立ち上がり、弾かれたように駆け出す。母達の亡骸をそのままにしてしまうことに罪悪感と後ろめたさ、寂しさがこみ上げるが足を止めることは無い。ここで自分たちまで死んでしまっては、それこそ母達に顔向けできないとわかっているから。

後ろを振り向かず、瓦礫や死体に躓きながらもただひたすらに走る。自分たちが生き残るための最後の希望に向かって。






三里「8番街に行けば助かるんだよね?」ダダダ



英寿「もうすぐ最後の避難艇が出る!それに乗れば助かるんだ!!」ハァハァ



雲雀「身体中痛い…」グスッ



一吹「みんな頑張って!」ダダダ



武「死んじまったみんなの分まで生きねぇとな!!」ゼェゼェゼェ



一吹「でもこのままじゃ…!」



英寿「追いつかれるのも時間の問題…か……!!」






 武以外は足に自信があるし、武も決して遅いわけではないが明らかに追手との距離が縮んでいる。この騒動の瓦礫が散乱し、心身ともに疲弊しているだけでなく三里達は軽傷とはいえ怪我をしているのだから無理もない。先ほどまでは出来損ないの魚のようなモノしかいなかったが、空を飛んでいた飛行隊も明らかに自分たちを追ってきている。このままでは空港までたどり着く前に殺られるか、仮にたどり着いたとしても素直に離陸させてはくれないだろう。






武「仕方ねぇ…か」ボソッ



武「みんな先に行け!!」E.鉄パイプ



雲雀「ちょっ…武!?」



英寿「お前一体何を…!?」



武「ぅおらぁ!!」グワラキーン!!



飛行体(玉)「グギャ!?」チュドーン






 あきらめかけたところで武が立ち止まり、野球の試合でも見せないような鬼気迫る表情で足元にあった鉄パイプを拾う。そして片手で持てる程度の瓦礫を鉄パイプで打ち始めた。

異形のモノたちも不意を突かれたのか、武の打つ瓦礫に当たって一つまた一つと飛行物体が墜落していく。






武「俺が時間を稼ぐから、みんなは先に行けぇ!!」グワラキーン!!



英寿「それじゃあお前が!」



武「大丈夫だ!」グワラキーン!!



武「ここに来る途中でバンエルティア号が港にいるのが見えたんだ!」グワラキーン!!



武「アイフリード海賊団が、逃げ遅れた人を収容してる!」グワラキーン!!



武「最悪アレに乗せてもらうさ!」グワラキーン!!






 器用に瓦礫を打ちながらそんなことを言う武。中学NO.1の強打者が放つ打球によって飛行物体は次々と墜とされるが、せいぜい時間稼ぎにしかならないだろう。墜とした数以上にこちらに飛んでくる数が多いのだから。






武「早く…」



武「早くいけぇぇえええっ!!!!」グワラキーン!!



英寿「…死ぬなよ。」ダッ



武「誰に言ってやがんだ!俺様はガキ大将だぜ!!」グワラゴラガキーン!!



三里「みんな行こう…」ダッ



雲雀「ごめんなさい…!」ダッ



一吹「こんなのってないよぉ!」ダッ






 武の行動を無駄にしないため、再び走り出す。相棒であり、良き友人であり、優しい先輩だった武を置いて…

英寿たちが見えなくなったころに、武のもとに白い球体が殺到して






武「うわぁぁあああーーーー!?!?」






 武は、消えた。



           ・



           ・



           ・




 2月14日 10時55分 【血のバレンタイン】

避難艇の離陸まで 残り5分


 離陸直前の避難艇に、1台のトラックが近づいていた。それを見た避難艇の乗組員が慌てて誘導し、車ごと乗りこむように手招きしながら誘導する。






兵士A「急げ!もう時間がないぞ!」



兵士B「そのまま突っ込め!」



兵士C「車が猛スピードで突っ込んで来るぞ!緊急着艦の用意だ!」






 トラックを運転していた陽向はペダルを踏み抜かんとばかりに右足で押し込み、限界まで加速する。


このSSへの評価

1件評価されています


ジョーズさんから
2021-01-24 22:36:53

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K,Eさんから
2021-05-31 01:42:39

ジョーズさんから
2021-01-24 22:36:46

このSSへのコメント

5件コメントされています

1: ジョーズ 2021-01-24 22:37:19 ID: S:e0Y0Q5

面白いです!これからも頑張ってください!

2: ジェラルジョン 2021-01-26 08:35:21 ID: S:zvo61j

コメントありがとうございます!少しずつでも頑張って更新しますね!

ジョーズさんの作品もとても面白く、私も読ませていただいてます。お互い頑張って書いていきましょう!

3: ジョーズ 2021-01-30 16:33:41 ID: S:zKu9dT

ありがとうございます!

4: SS好きの名無しさん 2023-02-21 17:39:15 ID: S:39hxj9

陰で見ていたものだが…やっと復帰ですかの?

5: ジェラルジョン 2023-02-22 00:18:22 ID: S:mKSo1r

お待たせいたしましたm(_ _)m
最近中々時間をとれませんでしたが、少しずつ 少しずつ再開します。序章を書き切らねば本編に入れませんものね!!


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