いろは「先輩を射抜きます」 八幡「なに? 俺、死んじゃうの?」
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のSSです。
いろは、八幡主体の短編複合型の長編です。ぼんやり、話の本筋もありますが、日常の繰り返しです。
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のSSです。
一色いろはが大好きすぎるので、SS書きます。SS慣れはしていませんが、とにかく書きます。
原作は一応全巻読破していますが、キャラ崩壊はごめんなさい先に謝っておきます申し訳ございません。
あと、原作の設定を一部無視してしまうこともあるかもですが、二次創作だし勘弁してくださいね!
不定期にだらだら更新していきますので、変なところで途切れるかも、です。
なお、その場で書いて更新してるため、書き溜めありません。
2020/08/18追記
現在、加筆修正を開始しました。
しつこくなるかもしれませんが、軽く続編なんかも書けたらと再度考えています。
ぶっちゃけコメントや応援の言葉が励みとモチベになります(ボソッ)
【更新状況】
2020/08/18 先輩を射抜きます~やはり比企谷八幡の予感は的中する。2 加筆修正
2020/09/02 ~いつもなら、比企谷八幡は一人飯を食う 加筆修正
続編↓
いろは「先輩を射抜きます」 八幡「なに? 俺、狙われてんの?」 いろは「はい。今までと、これからも」
~奉仕部部室~
いろは「先輩を射抜きます!」
八幡「なに? 俺、死んじゃうの?」
いろは「もう死んじゃってるようなものじゃないですかぁ。ほら、全体的に? 雰囲気とか?」
八幡「ナチュラルにトラウマほじくり返すのやめてくんない? 比企谷くんって目が死にすぎててウケルー(笑)なんて陰口叩かれてるのを聞いちゃった俺の気持ちがわかるか?」
いろは「あちゃー、それはタイミングが悪かったですねぇ」
八幡「俺、普通に教室で寝てたんだけどな。その状況で平気な顔して俺の陰口とか、もはや完全に気づかれてないまである」
いろは「なんでちょっと誇らしげなんですか……」
八幡「で、射抜くってなんだよ」
いろは「いや、深い意味はないです。あえて言うならほら、わたしって弓道部ですし」
八幡「え、お前って弓道部だったの? 掛け持ち?」
いろは「もちろん嘘です♪」
八幡「用がないなら自分の教室に帰れ、生徒会長」
いろは「えぇー!? 今日は雪ノ下先輩も結衣先輩もお休みだって聞いたんで、わざわざ会いに来てあげたのにー」
八幡「上目遣い、萌え袖にそのセリフ。あざといな、流石いろはすあざとい」
いろは「ちょちょ、先輩もっかい! もっかい言ってください」
八幡「あざといな」
いろは「そこじゃない! もう少し後です、後。ほら、わたしのことなんて言いました?」
八幡「あざとい」
いろは「はぁ。もういいです、絶対言ってくれないパターンですし」
八幡「いろはす」
いろは「……っ! そ、そんな不意をついたってまだ狙ってもダメです早いですごめんなさい」
八幡「言えつったから言ったのによ……つーかなんでいろはす呼びで喜んでんの? 水なの?」
いろは「そもそも、二人共いないのに先輩だけで部活に出るなんて、天変地異の前触れか何かですか? やめてくださいよ、明日布団干そうと思ってるのに」
八幡「当然、帰ろうとした。平塚先生に捕まった」
いろは「あー、サボりは許してくれそうにありませんもんねー」
八幡「どうせ依頼者なんてこないのにな」
いろは「わたしが来たじゃないですか♪」
八幡「死ぬ気で逃げればよかったと、心底思ったよ」
いろは「先輩ひどいです! 目もあれですけど、心もあれです!」
八幡「なんだよあれって。アレリーマンなの? 語彙の貧困さにお困りの場合は本読め、本」
いろは「そんなことより先輩、今日はまだ残ってますか?」
八幡「平塚先生に見張られてるからな……下校時間までは読書でもして時間を潰す」
いろは「なら、わたし生徒会の仕事持ってきますねー」
八幡「なんでだよ」
いろは「先輩一人じゃ寂しいと思いましてぇ。あ、今のポイント高い!」
八幡「お前、いつから俺の妹と繋がり築いたの? なに、怖い。え、怖い」
いろは「まぁいいからいいから! ではではー、一旦失礼しますねー」ガラガラピシャッ
八幡「俺に対しての強引さが日に日に増してきてないかあいつ……あと戸部とか戸部とか。え、戸部と同列とかちょーショックなんですけどぉー?」
【先輩を射抜きます】 終
キーンコーンカーンコーン
八幡「……よし、来訪者1名。某生徒会長のみ。取るに足らないものだった」
八幡「仕事持ってくるなんて言いながら、結局来なかったな。期待させて放置する荒手のプレイか? ときめいたりなんてしないんだからねっ! ドキッ!」
八幡(……いい傾向だ。俺や雪ノ下も、いつまでも助けてはやれない。あと、由比ヶ浜も)
八幡「しかしだな、嫌な予感しかしないが……しかし帰ろう。帰ればまた、来られるから。いや、ただ帰宅したいのが本音であるが」
~下駄箱~
八幡「ん? 手紙が入ってる……ペロッ、これは、いじめの匂い!?」
八幡(だとしても俺は慣れてるが……見て見ぬ振りの出来ない存在がいるからな。今の俺には)
八幡「どれどれ……? ……ふむ。やはり俺の嫌な予感は的中している」
いろは「せーんぱいっ♪」
八幡「面倒事になる前に、手を打たないとな……」
いろは「ナチュラルに無視はおかしくありません!? ほら、先輩待望の可愛い後輩のお出ましですよ!」
八幡「八幡は、逃げ出した!」
いろは「しかし腕を掴まれ、振りほどけない!」ガシッ
八幡「嫌なエンカウントだな! 俺レベル1なのにこんなモンスター、勝てるわけねぇじゃん」
いろは「なら素直に負けを認めてください。そうすれば命くらい見逃してやります」
八幡「どんな立ち位置だよ」ハァ……
いろは「露骨なため息、NG! ポイント低いですよ、先輩!」
八幡「お前それ、気に入ったのか?」
いろは「少し」
八幡「ふふふ……しかしどれだけあざとかろうと、我が愛しの妹には遠く及ばないな。出直して来い。俺は帰るから、明日までの宿題だ」
いろは「ちょちょちょ、ストーップ! 何気に自然な逃げ方しないでもらえます!?」ガシッ
八幡「なに、なんなの? なんであざと系女子ってスキンシップが大好きなの? 傷口にしっかり貼り付く医療品! バンドエイドかな?」
いろは「何言ってるんですか先輩……キモいです。わりと上位レベルで」
八幡「がちなやつじゃん。やめて、心が傷だらけだから。傷口癒やすどころか増やしてから。っべー、まじっべー」
いろは「それ、戸部先輩の真似です? 無駄に似てて腹立たしいのでやめてください」
八幡「お前、戸部に当たりきつくない?」
いろは「そんなことないですよぉー。ダイジナセンパイデス♪」
八幡「いや露骨な棒読み。もうちょい労わってやれ、な? あれでも生きてるんだぞ。息もしてるし、心臓も動いてる」
いろは「生きてることしか誇れる部分がないってことじゃないですか。……ま、戸部先輩の話はどうでもいいんです。一緒に帰りましょ、先輩」
八幡「やだ」
いろは「即答!? なんでですかー!」
八幡「俺は帰りたいんだ。小町が俺の帰りを待っているから、生きて帰って、俺は……」
いろは「だから帰ろうって言ってるじゃないですか」
八幡「いや、お前らリア充の『帰ろう』は『スタバでうぇーい』って意味だと理解してるから。俺にとってはアウェイだからあんなシャレオツな場所」
いろは「そんなこと言って、結衣先輩とたまに行ってるの、知ってますよ?」
八幡「うぐっ、なぜそれを」
いろは「結衣先輩が嬉しそうに話してくれるので」
八幡「あいつ……そんなに俺を追い詰めるのが楽しいのか。リア充空間に連行することで、自分の嗜虐心を満たしてるんですね!」
いろは「そういう意味で嬉しいんじゃないと思いますけど……ってか絶対。相変わらず、大事なとこは変わらないんですねー、先輩は」
八幡「俺の成長は中学生の頃に止まった。いや、むしろ生まれた時のままとまで言える」
いろは「またわけのわからないことを……いいから、行きますよ!」グイッ
八幡「まて、引っ張るな」
いろは「煮え切らない先輩が悪いんです! わたし、結衣先輩の話聞いてスタバ行きたくなったので、今日は付き合ってもらいますよ!」グイグイッ
八幡「なんでお前が行きたくなったのに俺が同伴する必要があんの? 俺、足手まといになる自信あるよ?」
ハナシマセンー ナンデダヨ!!
ハナシタラニゲルデショー ニゲナイ、ニゲナイカラ!!
平塚「…………リア充、爆発しろ」ギリッ
【やはり比企谷八幡の予感は的中する。】 終
八幡「ほら……やっぱりこうなんじゃん」
いろは「えー? なんですって? 聞こえませんー」
八幡「いや、いくらゲーセンでもこの距離なら聞こえるだろ。なに、お前って難聴系主人公なの? どこの羽瀬川さんだよ」
いろは「ちょっと意味わかりませんけど。文句は多いくせに、なんだかんだで付き合い良いですよねー、先輩」
八幡「無理やり付きあわせといてよく言うな、後輩」
いろは「でも、わたしは先輩とデートできて嬉しいですよっ♪」
八幡「はいはい、あざといあざとい」
八幡「で、何すんの? 下校? 俺、おすすめの場所知ってるんだよね。小町って女の子とカマクラって猫が待ってる、マイホームって場所なんだけど」
いろは「まだ来て128秒ですよ!?」
八幡「え、数えてたの? なにそれ凄い無駄」
いろは「そんなわけないじゃないですかぁ。常識的に考えて?」
八幡「なんなの? そのいじり方、某ノ下を連想させるんだけど?」
いろは「わたし、雪ノ下先輩尊敬してますので」
八幡「嘘だ!」
いろは「まぁそれは半分嘘なんですけど、先輩と遊べるのは楽しいですよ?」
八幡「なっ……」
いろは「あ、今ときめきました? ちょっぴり真面目なトーンにときめいちゃったりしました? ごめんなさいまだちょっと早いです勘違いしないでください」
八幡「通算何度目だよ、お前に振られんの……」
いろは「先輩は今まで食べたパンの数を覚えていますか? つまりそういうことです」
いろは「あ、先輩先輩。あれやりましょう、あれ」
八幡「なんだ?」
いろは「マ◯オカートです」
八幡「俺、レーシングゲー苦手なんだけど」
いろは「まぁいいじゃないですか! やりましょうよぉー」
八幡「ちっ、しゃあねぇな……二人で200円か」チャリンチャリン
いろは(あっ、意外。さらっとわたしの分まで払ってる)
八幡「しまった、一色の分まで出しちまった。返せ」
いろは「なんでそういうこと言いますかねー。それさえなければポイント高いのに」
いろは(やっぱり先輩は先輩だった)
~マリ◯カートプレイ中~
いろは「うわ、ワルイージおそっ!」
八幡「だから言ったじゃねぇかよ……苦手なんだって、レーシング。人付き合いの次くらいに苦手なんだよ」
いろは「てか、なんでワルイージなんですか?」
八幡「いいじゃんワルイージ。悪ぶって見せても、多分心は綺麗だぜあいつ」
いろは「どことなく先輩みたいですよね」
八幡「はぁ? どこがだよ。俺の方が心が腐ってるまであるぞ」
いろは「マイナス方面にマウント取るって、むしろ取り柄だと思う時がたまにありますよ、先輩見てると。錯覚でしょうけど」
~◯リオカート終了~
いろは「やったー、1位ですよ1位! さっすが私!」
八幡「おーおー、流石流石。流石リア充。リア充スゲー」
いろは「すっごい投げやり……さて先輩。定番ですが、プリクラでも撮りましょうか?」
八幡「やだよ」
いろは「また即答!?」
八幡「あれだよ。プリクラって、写ったら魂抜かれるんだよ?」
いろは「まーた馬鹿なこと言ってるし」
八幡「ほら、書いてるじゃん。男禁制だって」
いろは「男一人なら、です。わたしがいるじゃないですか」
八幡「なぁ、どうしてもダメか?」
いろは「本当に嫌ならやめますけど……でも先輩は、なんだかんだ行ってくれるんですよね」チラッ
八幡「……妹属性ってズルいんだよなぁ。ちくしょう」
いろは「そういうとこは結構、ポイント高いですよ」
八幡「あざといろはす……」
いろは「案外、素なんですよこれでも」
八幡「……ほれ、行くぞ」
いろは「はーい♪」
いろは「あっ、これにしましょ、先輩!」
八幡「どれがいいかわからん。任せる」
いろは「じゃあ撮りますよ、先輩。案外すぐシャッター押されますから、さくっとポーズ決めてくださいね!」
八幡「えっ?」
いろは「はい、1枚目!」
パシャー
八幡「はや! はやくね!?」
パシャー
いろは「もう! ドン臭いんですから! はい、出来る限りの笑顔で!」グイーッ
八幡「おい、一色!?」
パシャー
――
――――
――――――
いろは「はーっ。楽しかったですねー、先輩!」
八幡「もぐらたたき的な子供向けから、某太鼓を叩くゲーム、ガンシューティングにクレーンゲーム……よくもまぁこんだけ遊べるんだ。リア充の活動力ってなんなの? オロナミンCのCMでも出ればいいと思う」
いろは「先輩とですからかね、新鮮ですし! あ、今の私的にポイント高い!」
八幡「んで、こっからどうするよ。帰る?」
いろは「事あるごとに帰宅を提案してきますね。まぁいい時間ですし、今日は解散にしましょうか」
八幡「ああ、そうだな。それがいい。それを強く推奨する」
いろは「どんだけ帰りたかったんですか……そんなに、わたしと遊ぶのは嫌でしたか?」ジーッ
八幡「ん……いや、まぁ、悪くなかったわ」
いろは「……そ、そうですか/// 素直でしゅね」
いろは「(か、噛んだ……)」
八幡「(噛んだな……)」
いろは「あ、そ、そうだこれ! これ渡すの忘れてました!」
八幡「ん? ああ、プリクラか。別にいらねぇぞ?」
いろは「ダメです! 記念なんですから!」
八幡「わ、わかったわかった。なんの記念だよ、ったく」
~分かれ道~
いろは「じゃあ先輩。わたしはこれで!」
八幡「おう、またな」
八幡「……」
八幡「ちょー恥ずっかしいんですけどぉー、このプリクラ。俺じゃなかったら勘違いして惚れてるレベル」
八幡がそっと財布に入れたプリクラには、決めポーズを取れぬまま間抜けに写った姿が数枚と。
いろはが無理やり八幡の腕を引き、抱きつくような形で取った写真が1枚だけ、一緒に写っていた。
【やはり比企谷八幡の予感は的中する。2 】 終
八幡「うーっす」
ガラガラピシャッ
雪乃「だから入る時はノックをしなさいと、何度言わせるつもりなのエボラ谷君」
八幡「なに? 俺が原因で熱でも出てんの? マジ俺って害悪。知ってる知ってる」
雪乃「そんなところで腐ってないで、然るべき場所で腐るべきではないかしら?」
八幡「然るべきと腐るべきをかけたのか。はっはっは、上手いな」
結衣「もー、ヒッキーもゆきのんも、その辺でやめときなって。ほら、仲直りのやっはろー!」
八幡「なんだよ仲直りのやっはろーって……」
八幡「ところで、俺の席がないんだが? 妖怪スマホ弄りに占拠されてるんだが? なんだこれいじめかな。懐かしい感じ」
いろは「あ、先輩いたんですか」ポチポチ
八幡「嘘だ。絶対気づいてただろ、妖怪スマホ弄りが」
雪乃「一色さんにはすでに言及したわ。生徒会の仕事はないのか、と」
八幡「ほう……それで?」
結衣「今日も休みなんだってさー」
雪乃「ええ、今日も休みだそうよ」
八幡「誰ひとりとして”も”に突っ込まなかったのか? なぁ?」
いろは「いいじゃないですかー。人間たるもの、休息は必要なんです。先輩も、ブラック企業は嫌いでしょう?」
八幡「ブラック企業どころかホワイト企業も嫌いだ。むしろ社会が嫌いまである」
いろは「うわ、流石に引く……先輩に好きなものなんてあるんですかね?」
結衣「さいちゃん?」
雪乃「妹さんじゃないかしら」
いろは「あと、千葉とマッカン」
八幡「お前ら八幡博士か? やめて照れるじゃないの」
いろは「よく飲めますよね、マッカンなんて甘い飲料」
八幡「ばっかお前、あの甘さがいいんだろうが。あの甘さがないマッカンなんてマッカンじゃない。カンだ」
結衣「なにその謎理論!?」
結衣「そんなことより、ヒッキー。またクッキー焼いてきたんだけど、食べない?」
八幡「食べない」
結衣「即答!?」
雪乃「私、急用を思い出したから帰るわ」
結衣「ゆきのんまで!? もー、あれからいっぱい練習したんだから!」
いろは「あ、じゃあわたしいただきます!」
結衣「いろはちゃーん」ダキッ
八幡「やめとけ、一色。命に関わるぞ」
雪乃「そうね。後輩の葬式になんか、出来れば出たくないものね」
結衣「二人共言い過ぎだからぁ! ほら見てよ、美味しそうでしょ?」
雪乃「あら、本当……見た目はクッキーね」
八幡「ちゃんと毒味はしたのか?」
結衣「味見ね、あ・じ・み!!」
いろは「ではではー、私が一番手を……」パクリ
いろは「……」モシャモシャ
八幡「大丈夫か? 意識はあるか? 記憶はあるか? 俺が誰だかわかるか?」
いろは「うわっ、貴方誰ですか気持ち悪い。目が腐りすぎてます」
八幡「よーしよくわかった、戦争だ。表出ろ」
いろは「あ、でもクッキーは普通に美味しいですよ。先輩方が脅すからちょっと身構えちゃいましたよー」
雪乃「そうね……では私も」
雪乃「奇跡って起こるのね…….」
八幡「わかった……俺も男だ。覚悟を決めた」
結衣「私の料理って、死地に赴くレベルのことなの!?」
雪乃「あら、よく赴くなんて難しい言葉知ってたわね」
結衣「バカにしすぎだからぁ!」
八幡「……モグモグ」
八幡「あ、美味い」
結衣「でしょでしょ!? よかったー」
いろは「これだけ作れるなら、好きな人の胃袋も掴めそうですよねー」
結衣「えっ、ええええ!? な、何言ってるのいろはちゃん! ……でもまだ、クッキーしか作れないんだぁ」
いろは「最初はみんな、初心者なんですよ? これからじゃないですか、結衣先輩!」
結衣「いろはちゃーん!」ダキッ
八幡(よーやるわ、あいつ……)
雪乃「由比ヶ浜さん。私と一つ、約束してくれないかしら」
結衣「なーに、ゆきのん?」
雪乃「新しい料理を作る時は、必ず私に相談して頂戴。決して、一人で勝手に始めないこと」
結衣「ゆきのん。遠回しにバカにしてない?」
八幡「待て。まさか、毒死役は俺じゃないだろうな?」
雪乃「当然あなたよ。もう半分死んでいるようなものなのだから、いいじゃないの」
結衣「毒死!? 酷くなってない!!? 味見だからぁ!!」
いろは「まぁまぁ。また、わたしが顔を覗かせますので! その時に作りましょうよ」
結衣「い、いろはちゃーん!」ダキッ
いろは「毒味役、引き受けますので!」
結衣「いろはちゃん!?」
八幡(なんだかんだで……一色のやつ、入り浸ってやがるな)
【やはり一色いろはは顔を覗かせる 】 終
トラワレーター クーツジョクーハー
ハンゲキーノー コーウシーダー
八幡「俺のケータイにメール……だと?」
八幡「などと、数年前の俺なら言っていただろう。なぜならメール相手なんて、メーラーダエモンさんか、欲求不満の人妻さんくらいだったからな」
八幡「しかもどちらも、一方的に送りつけてくるだけ。返信はしたことがない」
八幡「今は違う」
八幡「別に欲していないが、由比ヶ浜がしょっちゅうメールしてくるからな。別に欲してなんかないんだからね!」
八幡「後は平塚先生と、戸塚と、大天使小町と、稀に雪ノ下。っべー、俺ってマジリア充っべー」
八幡「だがこの着信音は誰に設定したっけか? 忘れたぞ」ケータイポチー
差出人:一色
件名:やばいです先輩、やばいんですー
八幡「一色かよ! いつアドレス交換したのか覚えてねぇぞ。駆逐してやろうか?」
トラワレーター クーツジョクーハー
ハンゲキーノー コーウシーダー
八幡「!!?」
差出人:一色
件名:ちょっと! 既読スルーしてますよね!?
八幡「なんで分かるんだよこいつ、エスパーかよ。今流行のリア充御用達ツールでもねぇのに」
八幡「まぁいい、無視したら何言われるかわかったもんじゃねぇ」
本文:ともかく、最初に送ったメール見て下さいよー。
PS.わたし専用の着メロ、何にしてます(*^^)?
八幡「でもなぁ、件名からして不穏な空気なんだが……仕方ねぇ」
本文:この前の放課後デートでスタバ、連れて行くの忘れてましたー(。-人-。) ゴメンナサーイ
八幡「しょーもねぇ……これはスルーだな」ゾクゥ
八幡「何だ今の悪寒!? 返しとこう」
――
――――
――――――
ピロリロリロ
いろは「あっ、先輩から返信きた♪」
差出人:比企谷先輩
件名:なし
本文:しょーもねぇ内容だな。後、お前の着メロは進撃◯巨人のオープニングだ。
いろは「うわっ、短っ! あと色々酷い!」
――
――――
――――――
トラワレーター クーツジョクーハー
ハンゲキーノー コーウシーダー
八幡「返信はえぇな……どれどれ?」
本文:しょーもないってなんですかーヽ(`Д´)ノプンプン
ま、忘れてたものはしかたないです。今度また、一緒に行きましょうー。
あとあと、本当にわたし専用の着メロ設定してくれてるんですね♪
チョイスはちょっとあれですけど……(;・∀・)
――
――――
――――――
コンナレプリカハ イラナイ
ホンモノトヨベルモノダケデイイ
サガシニイクンダ ソコヘー
いろは「わたしも先輩専用の着メロにしてみたけど、我ながらぴったりなチョイス。本物……かぁ」
いろは「それで、肝心の本文は?」
本文:今度な、今度。後、着信音に深い意味はねぇ。
いろは「また短っ!?」
――
――――
――――――
トラワレーター クーツジョクーハー
八幡「なにこの返信の早さ? 俺じゃなかったら勘違いして悶えてるレベルだよ。ハートとか付いてたら役満だ」
本文:先輩、返事短いですよーo(`ω´*)oプンスカプンスカ!!
しかも絵文字も顔文字もないから、怒ってるみたいだし……
可愛い女の子とメールしてるんですから、もっと気を配ってくださいよ(ハート)
八幡「役満じゃん。マジでいろはすあざとい」
――
――――
――――――
コンナレプリカハ イラナイ
いろは「おっ、珍しく早めの返信。もう夜の11時なのに、先輩元気だなー」ドレドレ……?
本文:あざといな(((( ´,,_ゝ`)))) ププッ プルプルッ
いろは「なにこの顔文字のチョイス!?」
コンナレプリカハ イラナイ
ホンモノトヨベルモノダケデイイ
いろは「あれ、追撃? 珍しいなぁ」
いろは「そんなにわたしとメールしたいのかな? なーんて」
本文:寝ろよ、そろそろ。夜更かしは美容の大敵ってばっちゃが言ってた(#゚Д゚)ゴルァ!!
いろは「顔文字使ってもキレてるよこの人!?」
――
――――
――――――
トラワレーター
八幡「そろそろ終わりたい、とか言ったら怒られるかな? いや、そこまで気を遣う必要ないだろ、一色だぞ」
本文:ちょ、顔文字が基本煽り系じゃないですかー!
追撃来て、一瞬トキメキかけたのに……(´・ω・`)
あ、でも勘違いしないでください。本気じゃないのでごめんなさい、今は諦めて寝てください。
八幡「こいつ……」
――
――――
――――――
コンナレプリカハ イラナイ
ホンモノトヨベルモノダケデイイ
サガシニイクンダ ソコヘー
いろは「寝るって言いながらも、律儀に返信してくる先輩かわいい」
本文:寝ます。
いろは「……もう、何も期待しないほうがいいんだろうなー。って、いやいや、元から何も期待なんてしてないから!」
――
――――
――――――
トラワレーター クーツジョクーハー
八幡「あの短さのメールにも返信するのか……リア充ってスゲェ。感心を通り越して返信しそうだ。……なに言ってんだ俺」
本文:まぁ、もういい時間ですもんねー(*´ω`*)
私もそろそろ寝る準備にします。おやすみなさい、先輩っ♪
あ、またメールしますねー(^^)/~~~
八幡「これは返さなくてもいいだろう……いいよな?」
八幡「メールってやめどきがわからん。クエスチョンマークで返せば返信が貰えるコツなんだろ? なら何もなかったら普通返信しねぇんじゃないの?」
八幡「ま、俺なんてクエスチョンマークつけても返ってこねぇけどな」
八幡「でも大丈夫。翌朝ちゃんと、「ごめん、ずっと寝てた!」って謝ってくれるから」
八幡「そして俺は決まって、こう返すんだ」
八幡「午後6時に寝てるとか、早寝だな」
八幡「……と」
八幡「なのに一色は律儀にも返してきた。それが素なのか計算なのかは知らんが……」
八幡「……寝よ」
【やたら一色いろははメールする】 終
戸部「っべー昼飯食うべ!」
大岡「おう」
葉山「俺、パン買ってくるよ。先に食べててくれ」
八幡(なんだよっべー昼飯って。そんなにお前の昼飯はやばいのか。爆発でもしろ。つまりリア充爆発しろ)
三浦「ゆいー。今日はこっちで食うん?」
結衣「うん、ゆきのんとは今日は約束してないし」チラッ
八幡(なに? なんで一瞬こっち見たの? 目と目が合う瞬間、好きだと気づいたの?)
八幡「トイレ行こ」
八幡(などと呟きつつ立ち上がる俺。これでみんな、俺が一人で飯を食うなんて思わない)
八幡(と、信じていないとやっていられない。八幡泣いてない)
~八幡ベストプレイス~
八幡「やはりここが落ち着く」
八幡「心地良い風が時折、俺の心をも乾かしてくれる」
八幡「そりゃあ乾いた笑いしか出てこなくなるってもんだハハハハハ」
いろは「独り言でまで気持ち悪いとか、先輩の存在意義って何なんですか?」
八幡「うおっ、誰だ俺のベストプレイスに足を踏み入れる一色は!」
いろは「一色言ってるじゃないですか……やっはろーです、先輩♪」
八幡「はいはいやっはろーやっはろー」
いろは「おざなり過ぎません? そんなだから友達いないんですよー」
八幡「ふっ、甘いな一色。俺は友達がいないんじゃない。作らないんだ」
いろは「は?」
八幡「やめて。素のリアクションやめて。トラウマが呼び起こされすぎてタイムスリップするレベル」
いろは「まぁどーでもいいんですけど」
八幡「そもそも、友達ってなんだ。知り合いと友人の線引ってなんだ。そんな曖昧な定義に拘らなければならないのが友人ならば、俺は友人なんていらない!」
いろは「正確な定義なんて知りませんけどー。わたしの場合、プライベートなメールや電話のやり取りが出来るかどうか、ですかねー」
八幡「その理論だと俺、一色の友達になっちゃうけど?」
いろは「うわ、撤回します。最悪です」
八幡「わー清々しいこの子。涙出てきちゃう」
いろは「あ、ちょっとがっかりしちゃいました? うそうそ、冗談ですよー。嫌いな相手にメールなんてするわけないじゃないですかー」
八幡「狙った上目遣いやめれ。俺じゃなければ平塚先生が嫉妬で爆発してるところだ」
いろは「ちょっと、勘違いとかやめてください。そんなんじゃないんでまだ踏み込んじゃダメですごめんなさい」
八幡「お前に振られる回数の増加ペースが、今まで食べたパンの数を追い抜くんじゃねぇかとたまに思う」
いろは「平塚先生はさておき、先輩。お弁当食べましょう。お昼が終わってしまいます、ので」
八幡「食べればいいじゃん」
いろは「先輩と! 一緒に食べるんです」キャハ
八幡「俺の好感度稼ぎに来てどうするんだよ……葉山にやれ、葉山に」
いろは「やだなぁ先輩の前では8割以上が素ですよ、素。葉山先輩に対しては今、あえて距離を取ることで嫉妬心を刺激しよう作戦の実行中です」
八幡「計算深いしあざといし、この悪女が。純粋無垢で天使な小町の爪の垢を煎じて飲め」
いろは「天使お手製のお弁当ですか? それ」
八幡「そうだ。小町が俺のために拵えた真心こもった弁当だ」
いろは「うわっ、シスコンキモいマジキモイ……」
八幡「ばっかお前、千葉の兄はみな妹好きだぞ」
いろは「千葉県民全員を勝手に巻き込まないでください。それはさておき、先輩。早くお弁当開いたらどうです?」
八幡「お前がいると開きにくいんだけど」
いろは「あ、ならわたしも開きますし。それなら大丈夫でしょう?」
八幡「だから持ち場に戻……もういいわ。どうせ聞く耳持ってねぇんだろ」
いろは「ふふふ、よーくお分かりじゃないですか」
八幡「弁当食お……」パカリ
白米《こんにちは!!》
八幡「白米オンリー!? 小町いいいいぃぃぃぃぃ! おかずうぅぅうぅぅぅぅ!」
いろは「やだ先輩、昼から下ネタですか? 小町ちゃんの名前の後におかずとか叫んでたら、補導されてしまいますよ。というか、むしろされてくださいお願いします」
八幡「いや、マジで白米しか入ってねぇんだけど!? どうすんの、どうすんの俺!?」
いろは「ふっふっふー、そんなこともあろうかと!」パカーッ
いろは「わたし、多めにおかずを作ってきました!」
八幡「なんだ、魅せつけて自慢してんのか? 畜生の所業だな」
いろは「ちっ、違いますって! 先輩に分けてあげようと思ってたんです!」
八幡「は?」
いろは「キャハ♪」
ブー ブー
ブー ブー
八幡「お、小町からメールだ」
差出人:LOVE小町
件名:そろそろお昼ごはんだよね
本文:気を利かせて、今日は白米だけにしといたから!
一色さんによろしくね、お兄ちゃん!
あ、この気遣い小町的にポイント高い!
八幡「小町いいいぃぃぃぃいいっぃいぃ!」
いろは「ま、そういうことです。最初から、私がおかずを多めに作ってくることは決定事項だったんですよー」
八幡「一体何が目的だ……金か、金が欲しいのか!」
いろは「先輩、取り乱しすぎですって」
いろは「わたしが先輩と食べるためにお弁当作ってきたのなんて、理由は一つに決まってるじゃないですか」
いろは「先輩と、一緒に食べたかったんですよ。食べて欲しかったんですよ、わたしの料理」
八幡「…………」
いろは「…………」
八幡「…………」
いろは「……………ちょ、な、なんか言ってくださいよ!///」
八幡「それは素か? それとも演技か?」
いろは「言うに事欠いて……そんなの、決まってるじゃないですか♪」
八幡「やっぱり演技か、このやろう。 ま、わかってたけどよ。……いただきます」
いろは「あ、はい。どうぞ召し上がってください」
八幡「…………モグモグ」
いろは「ど、どうですか?」
八幡「小町の方が美味い」
いろは「そんなばっさりと!?」
八幡「小町からの愛情の分だけ、小町の勝ちだ」
いろは「先輩、それって……」
八幡「いいから、早く食おうぜ。昼休み終わっちまう」
いろは「あ、そうですね! いっただきまーす♪」
ア、ソノウインナーハワタシノ!
ソレハシラン メニツケタモノノショウリダ
ウウ……コノセンパイ、キチクダ。ヒトデナシダ。
平塚「ふんっ、あんなイチャコライチャコラしてたら、どのおかずも甘ったるしくて食えたもんではなかろう!」
平塚「つまり私の昼食である、コンビニの冷やし中華こそ至高」
平塚「冷たい……冷たい、なぁ…………」ズルズル
【いつもなら、比企谷八幡は一人飯を食う】 終
~奉仕部部室~
いろは「先輩を射抜きます!」
八幡「またか。だからなんなんだよそれは。いくら目が死んでるからってトドメ刺す必要なくない?」
いろは「ふっふっふー、意味なんて瑣末な問題ですよ先輩」
八幡「瑣末な問題に付き合うほど暇じゃねぇんだよ。剣豪将軍からのメール返信の役目を押し付けられてんだ」カタカタカタ
ガラガラッピシャッ
結衣「い、いろはちゃん、今なんて……」ワナワナ
八幡・いろは「「え?」」
結衣「ヒッキーの命が危ない! ゆきのーん!!」
八幡「やべぇ、由比ヶ浜のやつ、アホだから真に受けてる」
いろは「え、真に受けてるって、わたしが先輩を射抜いて殺害するとかですか? いくら結衣先輩がアホでもそれは……」
八幡「あるんだよなぁ。いいから追いかけて誤解を解いてこい!」
いろは「えー。わたしが行くんですかー?」
八幡「元凶お前じゃん……」
いろは「仕方ないですねぇ」
八幡「雪ノ下の耳に入ったら、どれだけお説教されるかわからんぞ。放課後潰したいのか?」
いろは「あ、それは嫌ですごめんなさい。行ってきますー」
ガラガラッピシャッ
八幡「まったく、タイミングの悪い……」
八幡「さて、これで誰もいなくなった」
八幡「由比ヶ浜は雪ノ下を探しに、一色は雪ノ下を探しに行った由比ヶ浜を探しに行き、雪ノ下は購買に行った由比ヶ浜の帰りが遅いのを心配して由比ヶ浜を探しに行ったからな」
八幡「やべ、我ながら自分のセリフの中で雪ノ下と由比ヶ浜がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ……」
八幡「気を取り直して、材木座……剣豪将軍のお悩みメールでも返すか」
カタカタ
カタカタカタ
八幡「…………ふぅっ。こんなもんか」ノビー
いろは「だから、深い意味は無いんですよ」
結衣「冷静に考えたらそうだよねー。いろはちゃんがヒッキーを……なんて」
いろは「そうですそうです。大体、結衣先輩こそどうなんですか? 先輩のこと……」
結衣「えっ、いやいやいや、いやいやいやいや! そんなことないからぁ!///」
八幡(でっけぇ声で話しながら、帰ってきたぞ姦しい娘共が)
ガラガラッ
いろは「えー? だって誰が見てもそう思いますよー?」
結衣「そ、そうかなぁ……」
雪乃「……廊下でくらい、静かに歩けないものかしらね」
いろは「ごめんなさーい」
結衣「ごめんね、ゆきのん。あ、ヒッキーおつかれ!」
八幡「つーか何の話してたんだよ。深い意味は無いとか、由比ヶ浜の方こそどうとか……」
結衣「なっ、なんでもないからぁ!」
いろは「うわっ、盗み聞きとか先輩キモいです」
八幡「盗んだわけじゃねぇから。これはいわば、突然俺の手を掴んだ女が、自らのケツに俺の手を当て「痴漢よー!」って叫んでるようなもんだから。濡れ衣もいいとこだぞ、逆痴漢共が」
雪乃「例えが長いわ」
八幡「お前らの方が問題だろうよ。学校の廊下で、俺を射抜いて殺害する計画立ててたんだろ? そんなことしなくても、すでに目は死んでいる。心も死にかけているから、気付かないうちに森の肥料に変わるって」
いろは「自虐はやり過ぎもNGだと思うんですけど」
結衣「はは、でもヒッキーだから……」
いろは「結衣先輩は、先輩に甘いですねー」
結衣「そっ、そんなことないから! そう見えるにしても気のせいだから!」
八幡(ナチュラルに俺の存在を忘れて、俺の話をしてやがる)
八幡(やだ、俺ってマジで幻のシックスメン)
雪乃「それで、ゴミ谷くん」
八幡「罵倒が直接的すぎんだろ」
雪乃「剣豪将軍のメールは片付いたのかしら?」
雪乃「彼、無駄に添付ファイルを送ってくるものだから、容量をたくさん使ってPC効率が悪くなるのよ」
八幡「心配すんな、1,2通返して後は全部削除した」
結衣「あっ、ヒッキー仕事終わったんだー。結構な量だったでしょ?」
八幡「まぁな。だが俺のぼっちスキルを遺憾なく発揮すれば、どうということのない量だ。ぼっちで仕事をすることに関して、俺の右に出るものはいない」
いろは「なんでそこに誇りを持ってるんですかこの人」
結衣「ねぇ、ゆきのん」
雪乃「何かしら」
結衣「今日はもう依頼者もこなさそうだし、お開きにしない? いろはちゃんもいることだし、せっかくだからみんなでカラオケでも行こうよ」
雪乃「依頼主が来なくとも、部活の時間なのだけれど……」
結衣「そこをなんとか! お願い、ゆきのん!」
雪乃「しかしね、由比ヶ浜さん……」
八幡「ま、いいじゃねぇか。行ってこいよ、雪ノ下」
雪乃「比企谷くん、貴方まで」
八幡「お前だって、ろくにストレス発散してねぇだろ?」
雪乃「いえ、それに関しては比企谷くんで間に合っているわ」
八幡「どういう意味ですかね? あたかも俺でストレス発散してるみたいに聞こえるんだけど? ……ま、俺1人いれば十分だろ。行ってこいよ」
いろは「え、先輩は行かないんですか?」
八幡「俺が行く理由がどこにあんだよ。俺が残ることにより、奉仕部の活動も切り上げる必要がなくて、一石二鳥じゃん」
いろは「別に二つも鳥を落としている感じではないですが……」
八幡(そりゃ、俺にとって行かなくてすむ&好きなタイミングで切り上げられるの一石二鳥だからな)
イージャンユキノーン
ハァ……シカタナイワネ
ヤッター!
いろは「これが先輩の、“本物”ですか?」ボソッ
八幡「おまえ、それやめろっての!」
いろは「先輩がいつまでも素っ気ないと、こうやって無理やり攻撃しちゃいますからね」
八幡(防御力上げなきゃ……矢も弾けるくらいに)
結衣「というわけで! カラオケ大会、けってーい!!」
いろは「いいですねー! 楽しみです♪」
雪ノ下「じゃあ、行くとしましょう。……ね、比企谷くん?」
八幡「え、なんで? なんで俺まで?」
八幡(行かねぇって意思表示だったが……もう無駄か)
【先輩を射抜きます 2】 終
いろは「もうすぐ卒業のシーズンが来るんですよ、先輩」
八幡「そうだな」
いろは「感慨深くないんですか? この人でなし」
八幡「お前、わかって言ってんだろ? 友達どころか知り合いすらいない人間が、赤の他人の卒業で泣くか? 否、泣かない」
いろは「昔は知らないですけどー。今は先輩、明らかにリア充じゃないですかー」
八幡「俺のどこがリア充だ」
いろは「美人の同級生、可愛いクラスメイトに囲まれた部活動を謳歌してて。後、愛しい後輩に慕われてるじゃないですか♪」
八幡「誰の事を指してるのかわかんね。で、お前がわざわざ俺のとこに来たってことは、どうせまた面倒事を持参したんだろ? 正直に言ってみろ、お兄さん怒らないから」
いろは「わー頼れるぅー。この調子でお願いしますね!」
八幡「受けないと帰らねぇだろお前……で、なんだ?」
いろは「いやー、というのもですね。そろそろ送辞の文章を考えたり、卒業式の段取りを組んだりしないといけないわけですよ」
八幡「ま、生徒会長の役目だな。特に送辞」
いろは「それで、わたしって国語苦手じゃないですか?」
八幡「いや、知らんし。嫌な予感はするけど知らんし」
いろは「先輩、おっねがいしまーす!」
八幡「知らん。書かん。そもそも、テンプレートとか用意されてるだろ、そんなもん」
いろは「えー、でも、せっかく1年生生徒会長って箔が付いてるんですよ? 変わったことをして、少しでも印象よくしたいじゃないですかー」
八幡「あ、そう。また葉山か。好きだねぇお前も」
いろは「別に、葉山先輩だけってわけじゃないですけどー。ま、そゆことです♪」
いろは「ってことなんで、先輩に文章の制作を依頼したいわけです」
八幡「ならなおさら、俺じゃないほうがいいと思うんだが。雪ノ下の方が文法や語彙に関しては一枚上手だぞ」
いろは「でも、雪ノ下先輩だとどうしても堅いだけの文章に鳴りません?」
八幡「うむ、一理ある……」
いろは「そこで! 普段から考えが捻くれてて……いや、アイデアマンの先輩に頼もうと思い立ったわけですよ!」
八幡「今、捻くれてるって言いかけたよね? うん、正解だけどね」
いろは「だからおねがいしますよー、せんぱーい」
八幡「そんな甘えた声を出したところで俺がなびくと思うか?」
いろは「小町ちゃんに聞いたら、先輩は妹属性で落とすのが効果的って言ってました」
八幡「小町め……兄の性癖をよくわかっている」
いろは「あ、性癖とか言っちゃうんだ……」
八幡「世の中の兄はみんなシスコンだからな。もはや性癖と言っていい次元にある」
いろは「うわっ」
八幡「ガチの引くのやめない? 慣れてても心に突き刺さるんだよ?」
いろは「大丈夫です、親しみを込めた引きですから」
八幡「引いてるのには変わりないってことだな、それ。了解、理解した」
いろは「で、手伝ってくれるんですか? くれないんですか?」グイッ
八幡「なんでちょっとキレ気味なんだよ……わかったわかった、手伝ってやるから顔を近づけんな」
いろは「なんなら、このままキスしますか? 報酬です」
八幡「なっ……」
いろは「冗談ですよ、先輩♪ あはは、なんで本気で顔真っ赤にしてるんですかー?」
八幡「俺の108あるトラウマの1つをほじくり返すのやめてくんない?」
いろは「ふふ……あー、楽しい」
八幡「え?」
いろは「あ……い、いえ、なんでもないです! 忘れてください!」///
いろは(わ~~~~~/// しまったしまったしまった! 今の、本当に素だった! 先輩とのこんないつものやり取りが楽しいって! 油断したぁ///)
八幡「俺のトラウマほじくるのが楽しいとか、とんだドS後輩だな。…………まぁ、あれだ。手伝うわ」
いろは「は、はい、ありがとうございます……///」
いろは(恥ずかしいなぁ……もう!)
【そして一色いろはは赤面する】 終
~卒業式前日・夜~
prrrrrrr
prrrrrrr
八幡(電話?)
八幡(うわっ、一色だ)
prrrrrrr
prrrrrrr
八幡(はぁ……出るしかねぇよな)
いろは『やばいです先輩』
八幡「開口一番に何だ。いつものあざとさはどうした、いろはす。むしろあざはす」
いろは『は? ちょっと意味わかりませんが……とにかく、今はガチやばいって感じですね』
八幡「まさかとは思うんだが、お前……送辞、出来てないのか?」
いろは『ギクッ』
八幡「いや、卒業式前日にわざわざ電話してくるなんて、悟ってくれって言ってるようなもんだろ」
いろは『あはは~……まぁ、そうですね』
八幡「ちっ……元気ねぇな。どうした」
いろは『舌打ちが無ければなぁ~、少しはトキメキポイントなのにこれじゃダメですごめんなさい。……送辞、もう8割は完成しているんです。けどどうしても、最後だけ納得できなくて』
八幡「と、言うと?」
いろは『ほら、先輩にかなり手伝ってもらって、大筋は出来てたじゃないですか?』
八幡「ああ……結局、雪ノ下にも手伝ってもらったがな」
いろは『雪ノ下先輩にも、また改めてお礼しなくちゃですね~。で、肝心の送辞なんですけど、平塚先生にも現時点でオーケーを貰ってるんです』
八幡「ん? ならもう完成じゃないのか」
いろは『ただあえて言うなら、オリジナリティがない。ってバッサリ言われちゃいましてー……」
八幡「それで凹んでんだな、珍しく」
いろは『はい、そうなんです凹んでるんです~。慰めてくれます?』
八幡「それは断る」
いろは『なんでですかー!』
いろは『ともかくですねぇ……そのオリジナリティの部分をなんとか修正したいんですよ』
八幡「だが、前日になっていきなり変えるのはまずいだろう。私物化していいものじゃない」
いろは『そう、ですよね……』
八幡「ああ、そうだ。ま、卒業式なんてただの儀礼だ。こういう儀式を介して感情を揺らし、意図的な感動を生み出すための作り物だ。作り物に踊らされて、いい想い出にだったなんて安っぽい涙を流すんだ。本物に酷似した涙をな」
八幡「だからそこに、あくまで脇役である在校生の存在感なんて不要だ。主役たちが勝手に雰囲気で泣いてくれる」
いろは『先輩…………さすがにそこまで言っちゃうとドン引きです』
八幡「マジトーンのまま言及はやめてくんない? 本物の涙、流しちゃうぞ?」
いろは『でも、わかりました! このまま、ほぼテンプレートな送辞でいきます!』
八幡「ああ、そうしろ。じゃあもういいな、切るぞ」
いろは『え、せっかくですしこのままおしゃべりの流れじゃないですか?』
八幡「このままおしゃべりの流れじゃないですね」
いろは『えー、先輩もったいないなぁ。可愛い後輩がこんな時間に電話してきて、何もないなんて』
八幡「よし、切ろうか」
いろは『あー、待って待って! 待って下さいって!』
八幡「なんだよ……まだなんかあんのか?」
いろは『その、ありがとうございました』
八幡「お、おう……まぁなんだ、明日、がんばれよ」
いろは『はい! では、おやすみなさい♪』
~翌日・卒業式当日~
――――――どうか、皆さんにとって、本物と呼べる場所を探してください。
――――――卒業生の皆さんにとっても、在校生のわたしたちにとっても。
――――――今日は、卒業式なんです。
――――
――
―
《自販機》
結衣「いろはちゃん、おつかれさま!」
いろは「ありがとうございます。緊張しましたー」
結衣「ジュース? 奢ってあげるよ!」
いろは「え、いいんですかー?」
結衣「お姉さんに任せなさい! なんて。いろはちゃんがんばったから、ね」
結衣「ね、いろはちゃん」
いろは「はい?」
結衣「今、時間あるかな?」
いろは「大丈夫ですよ。諸々の雑務は片付きましたし、わたしも帰り支度をしようかってところでしたから」
いろは「結衣先輩は? 奉仕部の方はいいんですか?」
結衣「ゆきのんもヒッキーも、相変わらず本読んでるからさ。暇で暇で」タハハ
いろは「あの2人らしいですねぇ……」
結衣「2人共、先輩の知り合いなんて城廻先輩くらいしかいないからねー。さっき、挨拶にきてくれてたよ」
いろは「あ、そうなんですか」
結衣「じゃあ、ちょっと座れるとこに行かない?」
いろは「もち、オッケーですよ!」
――――――
――――
――
結衣「ね、いろはちゃん」
いろは「?」
結衣「送辞……いろはちゃんが考えたの?」
いろは「いえ……本当のところ、8割はテンプレと先輩方の助力のおかげです」
結衣「後の2割って?」
いろは「そこは……お恥ずかしながら、わたし、です。ちょっと参考にしたフレーズもありますけど。独断で、加えました」
結衣「本物……ってとこ?」
いろは「あはは、さすがは結衣先輩……察しの良さは折り紙つきですねー」
結衣「わかるよ……きっと、ゆきのんも。ヒッキーも。だから今日、みんな奉仕部に集まったんじゃないかな」
いろは「え?」
結衣「だって、卒業式だよ? 部活は、休みなんだもん」
いろは「あ……」
結衣「きっと2人共、思うところがあったんじゃないかな」
いろは「結衣先輩も、ですか?」
結衣「うん」
いろは「いやー、なんか照れますねー」
結衣「私もさ……ちゃんと本物を、手に入れたいなって思ったんだ。遠慮しないのも、本物の証だと思うからさ」
いろは「…………」
結衣「もう、壊れないよ。きっと、何があっても。そんな本物は、手に入ったからさ。もう1つ、ほしいと思ってる本物をね、手に入れたいんだ」
結衣「いろはちゃんの演説が……そう、思わせてくれたんだよ」
結衣「私達在校生にとっても、卒業なんだよね?」
いろは「……結衣先輩は、好き、ですよね? 彼のこと」
結衣「目が腐ってて。性根が腐ってて。いつもいつもわけのわからないことを言って。そうやって、周りから距離を取ってきた」
結衣「けど、本当は違う」
結衣「彼は……ヒッキーは、ヒッキーだって、ちゃんと人間なんだ。辛いと思うし、悲しいと思うし、苦しいとも思うはずなんだ」
結衣「だから出来るなら」
結衣「私が、ヒッキーの居場所になりたい」
結衣「本物の、居場所に」
いろは「隠さないんですね」
結衣「隠さないよ。私だって、ちゃんと人間だから」
結衣「周りの空気を読むだけが取り柄なのに、それを投げ捨ててまですることなのかなって、思ってたこともあったけど」
結衣「うん、好きなんだよ。やっぱり。だから、負けたくないんだ」
結衣「ゆきのんにも…………いろはちゃんにも、ね」
いろは「……っ!?」
結衣「好きなんでしょ、ヒッキーのこと」
いろは「え、は、いや!? いやいやいや、そんな、わたしにはまだ早いですそんな勘違いを広めないでください今は無理ですので」
結衣「ふふ……いろはちゃんとヒッキーて、何気に似てるよね」
いろは「えー……それって、わたしが目が腐ってて、性根が腐ってて、いつもわけのわからいことを言ってるってことですかー?」
結衣「そうじゃないけど。……うーんなんて言うのかなー?」
いろは(うんうん唸る結衣先輩は、素で可愛い)
いろは(わたしと違って、計算とかされてなくて、自然で)
結衣「いろはちゃん、なんで笑ってるの?」
いろは「いえ、なんでも」
結衣「うーん……」
いろは(ただ、うん)
いろは(わたしも、わたしがわたし自身でいられる場所を)
いろは(本物のわたしでいられる居場所を、見つけたい、なんて)
いろは(思ってしまったから)
いろは「行きましょう、結衣先輩」
結衣「え?」
いろは「奉仕部の部室、です。お菓子とジュース、買い足して」
結衣「何するの?」
いろは「二次会、ですよ。読書中の2人も強制参加で」
結衣「あ、いいねそれ! やろうやろう!」
いろは「ええ、いいですよね! なんせ――――」
いろは「――――今日は、卒業式なんですから」
【同時に少女たちも卒業する】 終
~4月~
ガラガラピシャッ
八幡「うーっす」
結衣「あっ、ヒッキーやっときた! もー、今日はお祝い事が2つ重なったから、早く来てってメールしといたのに!」
八幡「ん? ああ、ホントだ……」ケータイパカー
結衣「えっ、見てなかったの!?」
八幡「俺にメールを送ってくる人間がいないのが悪い。メーラーダエモンさんが一番の親友まである」
結衣「あたし、結構送ってると思うんだけどなー?」グイッ
八幡「近い近い近い良い匂い」
結衣「ヤダ、ヒッキーのエ、エッチ!」
八幡「近づいたのお前じゃん? なんで責められるの俺なの?」
雪乃「その卑猥な目が元凶よエロ谷くん」
八幡「なんでお前、俺の中学生の頃のアダ名知ってんの? 実は雪ノ下は同級生だった……?」
雪乃「あなたと同級生だなんてやめて頂戴。虫唾が走るわ」
八幡「現在進行形で同級生なんですがそれは……」
結衣「ヒッキー、ちゃんとプレゼント持ってきた? 持ってきたよね!?」
八幡「プレゼント? ……なんだっけか」
結衣「え、ほんとに忘れてたの……?」
八幡「…………」(汗)
雪乃「肝心なところで愚かねこの男は……」ハァ
八幡「い、いや、わざとだ。物じゃないプレゼントをちゃんと用意するつもりなんだ」
結衣「ま、とりえあず主役を呼んでくるよ……ヒッキー、ほんとなんとかしなよ?」
八幡「だ、だからちゃんと考えてるって」
雪乃「バカね……」
~数分後~
結衣「じゃ、お待ちかねの主役だよ! 2人共、入って入ってー!」
小町「こんにちはー、雪ノ下先輩! あと、ごみぃちゃん」
八幡「おかしいな。妹からの愛を感じられない」
いろは「シスコン?」
八幡「お前はお前で、ナチュラルに入ってきてないで、なんか言えよ……」
いろは「あはっ、そうですね♪ 今日はわたしと小町ちゃんのために、わざわざパーティーを開いてくれてありがとうございます!」
雪乃「大したことは出来ないけれど……こ、後輩のためだし」
結衣「ゆきのん……」ウルウル
八幡「おいおい、珍しいな。氷の女王、雪ノ下がそんなこと言うなんて。なんだ、明日は吹雪か?」
雪乃「春に吹雪なんてあるわけないじゃない」
八幡「そんなマジレスすんなよ……あれだよ、花吹雪的なやつだから。おっしゃれー」
小町「は?」
いろは「は?」
雪乃「はぁ?」
八幡「なにその連携。何シールド21? ハァハァ三兄弟とか誰が知ってんの今」
結衣「や、やっはろー!」
八幡「困ったらやっはろー言うのやめない?」
結衣「ま、まぁとにかく。今日は小町ちゃんの入学&奉仕部入部の歓迎会と、いろはちゃんの誕生日パーティを兼ねてのお祝いの席だから!」
結衣「はい、お祝いに三三七やっはろー!」
八幡「早口言葉かよ!」
小町「やっはやっはやっはろー!」
いろは「やっはやっはやっはろー!」
結衣「やっはやっはやっはやっはやっはやっはやっはろー!」
雪乃「やるのね……やってて恥ずかしくないのかしら」
いろは「す、少し……先輩、恥ずかしいので背中貸してください隠れます」カクレ
小町「いろは先輩に同じく!」カクレカクレ
八幡「一色はやめろあざとい。小町は許可する可愛い」
いろは「先輩ー。それ、わたし的にポイント低いですよー?」
小町「小町的にも低い! お兄ちゃんの晩御飯から肉だけ抜いとくね」
八幡「やめろぉ! やめてくださいお願いします」
雪乃「……こほん。仕切り直すわね。改めて小町さん、一色さん。おめでとう」
小町・いろは「「ありがとうございます!」」
結衣「うんうん、2人共おめでとう! 後、小町ちゃんはようこそ、だね」
雪乃「あまり良いものではないけれど、プレゼントを用意したわ」
結衣「あ、私もー。2人はいっぱい持ってると思うけど、ブレスレットだよ!」
いろは「どれどれ……わぁ、さすが結衣先輩! いいセンスしてますね♪」
小町「あっ、可愛いー! 小町的にポイント高いです!」
雪乃「私からは参考書……は流石にやめておいたわ。マグカップを用意したの」
いろは「あ、もしかして……」
雪乃「ええ。よかったら、奉仕部で使ってもらえたら、と。一色さんもよく訪れるのだから、いつまでも紙コップじゃ悪いもの」
いろは「嬉しいです。凄く、嬉しいです」
小町「小町も大切にしますね!」
いろは「で……この流れだと、先輩も用意してくれてるんですかー? してくれてるんですよねー?」
八幡「当然だ。俺くらいになると、1年前から翌年の小町の誕生日を心待ちにしてるまである。というわけで、小町はまた次の休み、何か買いに行くぞ」
結衣「用意してないじゃん!?」
小町「ごみぃちゃんはいつもこうなので……ま、好きなもの買えるので都合はいいのです」
結衣「小町ちゃんがいいならいいけどさ……」
いろは「ね、先輩。先輩、わたしのは?」クイックイッ
八幡「やめろ上目遣いで袖を引っ張るな。可愛いから勘違いしそうになる」
いろは「勘違いとかガチでやめてください困ります」
八幡「してねぇから……」
八幡「で、お前にはこれだ」カキカキ
雪乃「何を書いてるのかしら……」
結衣「なーんか嫌な予感しかしないんだけど……」
八幡「ほい」
いろは「なんですかこれ……”1つだけ言うことを聞いてやる券”?」
いろは「あ、下の方に小さく注釈で”ただしできることに限る”ってある……」
いろは「先輩、これは……ゴミですか?」
八幡「いくら俺が作ったものとはいえ、全てゴミになるわけではないぞ。一つ勉強になっただろう」
いろは「いや、そういうのいいです。これ、どういうことです?」
八幡「あー、なんだ。ぶっちゃけ、用意するのを忘れていてな……昔よく小町にやってたんだが、こう、な。肩たたき券的なやつ」
いろは「……まさかそれを、誕生日のプレゼントにしよう、と?」
小町「うわぁ……」
結衣「ヒッキー、これはさすがに……」
雪乃「ない、わね」
八幡「まぁ待て。よく考えてみろ。確かに、これは見てくれはただの紙切れだが、重要なのは内容だ。人間、中身が重要だろ? だからいくら目が腐ってようと、それだけでその人物を否定してはならない」
結衣「途中からヒッキーの話になってるし……」
八幡「つまり俺は、これを一色に握られている以上、いつこいつの言いなりにさせられるかわからない恐怖と戦わなければならないのだ。あ、それダメだ返してくれない?」
いろは「確かに、考えようによってはこれ、結構な価値を持ってますよねー。ダメです返しませんもうもらいましたもん」
八幡「くそ……無理のない程度にしてくれよ」
――
――――
――――――
雪乃「宴もたけなわ、ね」
八幡「お、帰るか。帰る方がいいぞ」
いろは「この先輩には、二次会とかの考えはないんですかねー。ないんでしょうねー」
小町「こんなお兄ちゃんですいません……」
結衣「でもなんかいいね、こういうの。新しくて、楽しくて」
雪乃「由比ヶ浜さん……?」
結衣「小町ちゃんも新しく部員になってくれて、なんて言うか、新しい空気になったっていうか」
結衣「でも、決して居心地の悪いものじゃなくて、いい方向に」
小町「えへへ……小町、がんばりますね」
八幡「奉仕部に吹いた春一番、か」
雪乃「何か言ったかしら、比企谷くん」
八幡「いや、なんも」
結衣「さーて、じゃあ帰ろっか」
いろは「…………」
八幡「一色……」
いろは「…………はっ。なんですかぁー? 先輩♪」
八幡「ま、なんだ。お前も奉仕部の新しい風っつーか、もう、あって当然のものみたいになってんだ」
八幡「だから、そんな沈んだ顔すんな。あざとくねぇぞ」
いろは「なんですかぁー、それ。口説いてるんですか? ちょっと落ちかけましたけどそんなの認めませんムリですごめんなさい」
八幡「なんで俺が傷ついてんですかね。誰か慰めてくれんの?」
いろは「わたしが慰めてあげますよ♪」
八幡「お前が原因なんだよなぁ」
いろは「あはは♪」
八幡「ったく。帰るぞ」
いろは「はーい♪」
いろは(ちょっと、先輩方と小町ちゃん……奉仕部が羨ましくなった)
いろは(わたしも、奉仕部に入ってたら……なんて、考えちゃうようになってきてる自分がいて)
いろは(正直、少し疎外感だったけど。雪ノ下先輩もマグカップくれたし……)
いろは(非公式ながら、奉仕部の一員みたいになれてたら、嬉しいかも)
いろは(なんて、ね)
結衣「いろはちゃーん! 早く帰るよー!」
いろは「あっ、はい! すぐ支度しますね!」
平塚「また1つ、成長している。子供たちの成長を見守るのは、良いものだな」
平塚「ま、私にとっては1年の経過とは、1つ老けるという意味だがな!」
平塚「……くそぅ」
【そして奉仕部に、春一番が吹き込んでくる】 終
~比企谷家~
いろは「こんにちはーっ!」
結衣「あっ、いろはちゃん! やっはろー!」
いろは「やっはろーです!」
八幡「おい。なんで俺んちなのにお前が勝手に招き入れてんの? 家内なの?」
結衣「か、家内とか……/// ひっ、ヒッキー、何言ってんの! マジキモイ!」
いろは「マジキモイ」
八幡「やめろ! 由比ヶ浜はいつものトーンだからまだしも、一色はガチで引いてるやつじゃん。今、ここの家人は俺だけだよ? 俺の天下なのに虐げられるってなんなの? つまり俺がナンバーワンであり、オンリーワンだよ? あ、オンリーワンは外でもそうだったわ」
いろは「え、今、先輩一人何ですか? 小町ちゃんは?」
八幡「小町なら友達ん家に行くとか言ってたぞ。こほん……修羅場空間にはいたくないし! 小町的にポイント下がっちゃうからね、お兄ちゃん任せた!」
いろは「今の、小町ちゃんの真似ですか? 似てないですね」
八幡「腐り目谷くんと同じ空間にいると、私も目が腐りそうだからそろそろ帰りましょうか」
結衣「なんでゆきのんの真似なら似てるのかなぁ」
八幡「ともかく、俺1人が不服なら、図書館にでも行って時間つぶしてくるぞ。むしろそれを推奨したいまである」
いろは「や、結衣先輩とわたし2人って、もう意味の分からない状況じゃないですかー。……ん? ってことは、さっきまで先輩と結衣先輩、2人っきりだったってこと……?」
八幡「不本意ながら」
結衣「た、確かにそうだけど……違うから! 30分位しか経ってないから!」
八幡「何に対してのフォローだよ。いいから、勝手におっ始めてくれ」
いろは「そうですねー。結衣先輩、クッキーよりちょっとむずかしいお菓子を作りたいって、漠然としたお願いでしたけど……」
結衣「うん、それなんだけどね。ケーキ! って思ったものの、焼き加減とかむずかしそうだから。レアチーズケーキとかどうかなーって」
八幡「はい、というわけで、ここに冷やし固めた後のレアチーズケーキを用意した」
結衣「どういう意味!? まだ作ってないんだけど!?」
八幡「嘘だ。用意したのはこれだ、これ」
いろは「レアチーズケーキミックス……なるほど」
結衣「ほらぁ、いろはちゃんが何かを察しちゃったからぁ! もー、ちゃんと材料なら私が買ってきてるって!」
いろは「でも結衣先輩。焼くのがダメだから冷やそうって、安直すぎやしません?」
結衣「うっ……でもでも、ゼリーとか上手にできるし……」
いろは「ま、まぁいいんじゃないです? わたし、作ったことありますし」
八幡「お菓子作りが得意ってだけはあるな」
いろは「とはいえ、雪ノ下先輩の方が絶対上手だと思うんですけどー。なんでわたしなんですか?」
結衣「ゆきのんは……なんか、パンさんのイベントがあるらしくて」
八幡「本人は否定してたけどな」
いろは「とりあえず、始めましょっか。じゃあ先輩は各種器具の用意を、わたしがミックスを使って材料を冷やすので、結衣先輩が盛りつけしてください」
結衣「それ、私いらなくない!?」
八幡「まて、盛り付けなら小町にやらせよう。いいセンスしてる」
結衣「それ、私いらなくない!?」
いろは「実際、器具の用意は調理場の勝手知ったる先輩が適任でしょう」
八幡「俺の役目はそれだけな。それ以上はノータッチで」
いろは「まぁ、今日は結衣先輩の練習ってことですしね。後はわたしが見ます」
結衣「はい、先生!」
――――――
――――
――
いろは「ああ、結衣先輩! 生地にするビスケット砕いてとは言いましたけど、そんなに振りかぶらなくても!」
いろは「チーズ溶けるの待つのがめんどうだから、レンジに入れたとこまではわかりました。でも、選択が700ワットでおまかせってとこがわかりません。どろどろじゃないですかー」
結衣「で、泡立てればいいの?」
いろは「チーズと砂糖はなじませるように! メレンゲじゃないんですよ!?」
八幡「ここに、あらかじめ水でふやかしたゼラチンがある」
いろは「はい、先輩にお願いしときましたからね」
八幡「だが残念なことに、由比ヶ浜の魔の手により、冷蔵庫に入れられていた」
いろは「なんで!?」
いろは「そうです、型に敷いておいたビスケット生地の上に、ここまで混ぜあわせた物を流し入れて……」
結衣「こぼすよ?」
いろは「なんの宣言です!? あ、でも料理に苦戦する女の子って可愛いっていうかー」
八幡「汚したら小町に怒られるから勘弁して……」
いろは「で、そんなこんなで出来ました」
八幡「俺の目には、一色が作ってるのを由比ヶ浜が邪魔しているようにしか映らなかった件」
いろは「そ、そんなことは……」
結衣「じゃあ、切り分けるねー」
八幡「あいつ、ポジティブだな」
いろは「それが結衣先輩のいいところじゃないですかねー? あ、わたしもポジティブですよ先輩!」
八幡「なんのアピール? あ、もしかして俺に惚れてんの? 口説くとかちょっとまだ早いです場数踏んでからにしてくださいごめんなさい」
いろは「は?」
八幡「ごめんなさい」
結衣「ねぇ、食べよ?」
いろは「そうですね。とりあえず、毒味……一番乗りは、やっぱり作り手の結衣先輩で!」
結衣「今、口滑らせなかった? ねぇ?」
結衣「もー、いいよ、食べるから! …………あ、美味しい」モグモグ
八幡「本当に大丈夫なのか……?」ゴクリ
いろは「ま、一人で作ったわけじゃないですし、今回は。いっただっきまーす♪」
八幡「……まぁまぁだな」モグモグ
いろは「先輩はツンデレですねぇ」
結衣「今日はありがとね、いろはちゃん!」
いろは「いえいえー。わたし程度でよければ、またお付き合いしますよ!」
八幡「……口元にビスケット付けてるいろはす、マジあざとい」
いろは「え!? ……ほら、先輩? 先輩こういうの好きじゃないですかぁ。可愛い後輩の口元から拭って、自分で食べちゃうみたいなシチュエーション? やります?」
八幡「やらない。想像して揺れたけど絶対やらない」
結衣「揺れたんだ……ヒッキーマジキモイ」
いろは「ドン引きです」
八幡「はいはい、いつものいつもの」
結衣「なんか今日のヒッキー強気だ!?」
いろは「いつも通り目は腐ってますけどねー。ほんと、先輩ってメガネして黙ってればかっこよさげなのに」
八幡「俺のアイデンティティを消すつもりか?」
いろは「なんでそんな自信満々なんですか……」
結衣「あ、ヒッキー。ケーキ、まだ冷蔵庫にあるから、小町ちゃんにも分けてあげてね」
八幡「おう……ま、なんつーか。予想以上には美味かったわ。ごっそさん」
結衣「う、うん……」
いろは(ラブコメですねぇ……結衣先輩、嬉しそう)
結衣「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
いろは「そうですね。あんまり長居しすぎても迷惑でしょうし」
八幡「おお、迷惑だ。帰れ」
いろは「なんで素直に言っちゃいますかねー。そこは「そんなことないよ! 結衣といろはが帰ると寂しいな!」とかあるでしょう」
八幡「そういうのは葉山に頼れ」
結衣「ま、それでこそヒッキーだよね」
いろは「そうですね。……じゃ、また明日、学校で」
結衣「ばいばーい!」
八幡「おう…………またな」
【再び、由比ヶ浜結衣は挑戦する】 終
~夏休み目前~
いろは「ヤバいです、先輩。もうなんか、ヤバすぎてつまり、チョベヤバって感じです」
八幡「なに、なんなの? 2年になってからお前、ほぼ毎日俺と顔合わせてない? 俺が常人なら、勘違いして告白してフラれてるとこだぞ」
いろは「えー? フラれるかどうかはやってみないとわからないと思いません?」
八幡「好きだ」
いろは「えっ!? …………ちょ、ちょっと心がキュンとしそうになりますけど勘違いなのでごめんなさい付き合えません」
八幡「ほら、フラれただろ?」
いろは「いやー、うーん、そうですねぇ……」
いろは「って、そんなことはどうでもいいんです! 早くももうすぐ夏休みが来るじゃないですかー?」
八幡「ああ、そうだな。後数日乗り切ったら、俺、家で堕落するんだ……」
いろは「すでに死んだような目をして、死亡フラグ立てるとか効果がカンスト振りきって上限突破するまでありますね」
八幡「なに、それ俺の真似?」
いろは「そんなつもりないですけどー。移っちゃいました。責任とってください」
八幡「やだよ。俺悪くねぇじゃん」
いろは「世の中って理不尽じゃないですかー?」
八幡「それには概ね同意するがな……」
いろは「ともかくですね、夏休みですよ。なんとわたし、予定がなくてヒマなんです!」
八幡「は?」
いろは「わたしくらいになると、例年は予定でびっしりなんですけどー。今年は生徒会とサッカー部のマネージャーの兼任が想定以上に忙しくてですねー。あまり、そっちの話題についていけてなかったんですよ」
八幡「結果、めでたくぼっちになった、と」
いろは「先輩と一緒にしないでください心外です」
八幡「その言葉、俺が心外だってことにはならないんですかねぇ」
いろは「ま、てなわけなんで。ヒマなわたしに予定をください。チョベヤバなんで」
八幡「それは依頼か?」
いろは「可愛い後輩からのお願い、です♪」
八幡「だからそういうのは葉山にだな……」
いろは「また心底嫌そうな顔するー」
八幡「心底嫌だからな。いいか、よく聞け? 夏はな、暑い」
いろは「はぁ……まぁ、当たり前ですね。てか今も暑いですし」
八幡「暑さはな、危険なんだ。熱中症で倒れたってニュースは毎年流れるし、脱水症や幼児の車内置き去りとかもチョベヤバだ」
いろは「最後はなんか違いません? いや、合ってますかね……」
八幡「だから俺は、エアコンの効いた部屋を所望している。もう、所望して所望して震えるレベルだ」
いろは「何がキモいって、先輩が西野カナ知ってるってとこですね」
八幡「おお、伝わった。同時に、お前が俺のことどう思ってるかも伝わった」
八幡「とにかくだな、夏は出かける季節じゃない。以上」
いろは「いいから、予定立てますよ。どうせ夏じゃなくても、先輩はなんだかんだ理由つけて出かけないんですから」
八幡「ばっかお前。俺くらいぼっちになれば、1人で出かけることに何の躊躇いもないんだぞ? むしろ店員さんに話しかけて欲しくなくて、やたら人の多い場所を選ぶレベルで、ぼっちを謳歌してるまである」
いろは「まーたマイナス方面にプラス思考……わたしが考えた予定は、ズバリ旅行です!」
八幡「……お前と2人で、か?」
いろは「なっ……にゃにを言ってるんです!? 奉仕部のみんな一緒に、ですよ! 先輩と2人きりで旅行とかまだ早いです普通のデートを重ねてからにしてください」
八幡「事あるごとに俺をフルのは、もはやお前の趣味なの?」
いろは「実はすでに、雪ノ下先輩と結衣先輩には声をかけてあるんです。小町ちゃんも乗り気でしたよ」
八幡「小町が行くなら、俺も行くしか無いな。小町に何かあったら大変だからな」
いろは「出たよシスコン……」
八幡「千葉県民の兄はみなシスコンだ。で、場所は決まってんのか?」
いろは「それなんですけどー。たまたま雪ノ下先輩のお姉さん……春乃さん? がその場に居合わせてまして。ご本人は所用でいないけど、雪ノ下家の別荘を使えばいいと言ってくださったんです」
八幡「やだ、雪ノ下家ってブルジョア。専業主夫として雇ってもらおうかしら」
いろは「雪ノ下先輩は最初嫌がってたんですけどー。結衣先輩が甘えたら、あっさり陥落してまして」
八幡「あいつ、由比ヶ浜に甘いからなぁ」
いろは「期間としては、3泊4日を予定しています。その間、何かイベントでも出来たらなと思いまして。その部分、先輩にもアイディアを絞り出してもらおうかと」
八幡「帰宅競争とかどうだ? 目的地から自宅まで戻る時間を競うんだ。結果報告は2学期に」
いろは「は?」
八幡「ガチの威圧やめろ……」
いろは「先輩が水を指すようなこと言うからじゃないですかー」
八幡「わかった、わかったよ。雪ノ下と由比ヶ浜も巻き込んで、なんか考えてみる」
いろは(ほんと、先輩って変わりましたねー)
いろは(こんなこと、些細ではあるけど。ちゃんと、2人を頼るようになりました)
いろは(そんな先輩だからこそ……わたしも、頼られる存在になりたいな、なんて。思ってしまうのかもしれない)
八幡「一色?」
いろは「あっ、すみません、ちょっと考え事してましたー。じゃあ、よろしくお願いしますね♪」
八幡「不本意だが、わかった。その、なんだ……お前も、したいこととか、考えとけ。参考にする」
いろは「はーい♪」
【唐突に、一色いろはは提案する】 終
~奉仕部~
結衣「やっはろー!」
いろは「結衣先輩。やっはろー、です」
雪乃「こんにちは、由比ヶ浜さん。……それで、話って何かしら?」
いろは「先輩も小町ちゃんも来ないうちに……ってことですけどー。あまり時間はないんじゃないですか?」
結衣「そ、そうだね……」
いろは「2人に聞かれたらまずい話なら、生徒会室を開けましょうか。今日は生徒会休みなんで、誰もいませんし」
雪乃「それだと、2人が私達を探す可能性が……まぁ、正直なところあまりないけれど、危険性は捨てきれないわ」
雪乃「2人に連絡を入れておきましょう。今日は奉仕部を休みということにするわ」
結衣「い、いいの?」
雪乃「ええ。元々、あまり依頼も来ないし、構わないわ」
結衣「じゃあ、私から連絡入れとくね!」
――――――
――――
――
結衣「じゃ、じゃあ、改めて……」
結衣「こほん。ちょっと真面目な空気になっちゃうけど、いいかな?」
雪乃「私は別に……一色さんは?」
いろは「わたしも……ぶっちゃけ、奉仕部メンバーである雪ノ下先輩だけじゃなく、わたしが呼ばれている時点でなんとなくは察してますからー。先輩とこまちゃんを外してるってとこで、確定ですね」
結衣「うん……そだね。結論から言っちゃうとね、私、本気でヒッキーに伝えようと思うの。私の……正直な、気持ちを」
雪乃「そう…………決めたのね」
結衣「私、この部活が本当に好き。大好き。絶対に失いたくなかったんだ、自分の気持ちを押し殺してでも」
いろは「わかりますよー」
結衣「気持ちを言葉にすることは、危ういこと。周囲の空気や関係を、一言で変えてしまうこともあるから。だから私は、このままでいいと思ってた」
結衣「でも、言葉にしないとわからないこともあるんだって。そのとおりだなって、思った」
雪乃「…………」
結衣「だから、私は伝える。ちゃんと伝えないと、ヒッキーはいつまでも、逃げ続けるから。自分の勘違いだって言い聞かせて、逃げちゃうから」
いろは「…………結衣先輩」
結衣「ん?」
いろは「本当に、後悔はしませんか?」
結衣「……」
いろは「先輩の気持ち、わからないわけじゃないですよね? 本物がほしいって、心から叫んだ先輩は。なりふり構わず自分を曝け出した先輩は、本当は弱っちい、わたしたちと同じ人間なんだって、わかってますよね?」
雪乃「一色さん」
いろは「部活が大好き? 壊したくない? なら今までどおりでいいじゃないですか! なんで、いまさら告白なんてしようとするんですか!? そんなの……そんなの、どうしたって壊れるに決まってるじゃないですか! 強くない先輩にが、必至に直し、求めた”今”を……また失ったら、もう取り返せません!!」
結衣「…………」
いろは「結衣先輩、前、わたしに言いましたよね? 先輩のこと、諦めないって。わたしや雪ノ下先輩に負けたくないって! なら……なら、ちゃんと勝てるってわかってから、それから動いたって遅くないじゃないですか……今、動いたって……結果は……!」
雪乃「一色さん!」
いろは「っ!!」
雪乃「そこまでにしておきなさい、一色さん。そして、ちゃんと考えてあげなさい」
いろは「何を……ですか」
雪乃「これが、由比ヶ浜さんの、気持ちなんだってことを。比企谷くんの気持ちを案じ、私の気持ちをも案じ、今を守ろうとしているのは理解しているわ。けれどね……この程度で壊れてしまうほど、もう、この居場所はやわじゃないのよ」
いろは「…………」
雪乃「そして、由比ヶ浜さん。一色さんの言うことも、間違っているわけではないわ。確かにそれは無情で、悲惨な現実なのかもしれないけれど……あえてそれを、自身を悪者にしてまで言葉にした彼女と敵対してでも、彼に気持ちを伝える覚悟は出来ているのね?」
結衣「…………うん。…………うん。そうだよ、私は……」
いろは「結衣先輩……ごめんなさい。ちょっと、混乱してしまって……」
結衣「ううん。そりゃそうだよね、いきなりこんな話されたら、誰だってそうなるよ」
結衣「今すぐに伝えるわけじゃない。けど、もう私達に残されている、高校生でいられる時間は1年もないんだよ。だから……だから今年中に、私は」
雪乃「ええ。由比ヶ浜さん、あなたの気持ちは、ちゃんと伝わっている。そうね、こういう時、なんて言えばいいのか……」
いろは「……だったら、こんな言葉がありますよ」
”どっちが勝っても恨みっこなし”
いろは「わたしも、もしかしたら本物が欲しいって、切に願うことがあるかもしれません。わたしにとっても、1年しかないから」
結衣「うん。恨みっこなし、だね」
雪乃「……私は」
いろは「雪ノ下先輩。雪ノ下先輩も、たまに、自分の声を聞いてあげてください。きっと、なにか伝えたいことがあるはずですから」
雪乃「……一色さん」
いろは「あはは、なーんて。わたしらしくないですよねー? あー、恥ずかしい」
結衣「……さて、これからどうしよっか?」
いろは「そうですねぇー。積もる話もあるでしょうし、スタバにでも行きませんか?」
結衣「おお、いいねー名案だ!」
雪乃「わ、私は、その、あそこの雰囲気は苦手で……」
結衣「えー? いつも一緒に行ってるじゃん! 大丈夫だから、行こっ。ねっ?」
雪乃「わ、わかったわ。だから離して頂戴……」
いろは「ほんと仲いいなー、この2人……」
日が落ち、補導されるすれすれの時間まで。
とある店舗の一角で、少女三人の姦しい談笑は続いていたという。
【ついに、由比ヶ浜結衣が動き出す】 終
~短期旅行前夜~
いろは「うーん、本当に旅行が実現するとは……」
いろは「先輩がその気になったってのが主な理由だよね、うん。雪ノ下先輩も結衣先輩も、先輩に甘いから」
いろは「先輩、今なにしてるんだろ……電話しても大丈夫かな? 出るかな?」
いろは「…………しちゃおう」
prrrrrr
prrrrrr
いろは「……」
prrrrrr
prrrrrr
いろは「…………」
prrrrrr
prrrrrr
いろは「………………出ない」
いろは「いいや、切ろう」
いろは「うーーーーーん……忙しいのかな? いやでも、先輩だもんなぁ」
ブーッ ブーッ
いろは「っ!」
いろは「せ、先輩!?」
八幡『なんだ』
いろは「なんだはないじゃないですかー。可愛い後輩がわざわざ電話してるのに、無視するなんて酷いです。チョベヤバです」
八幡『なに? チョベヤバブームでも来てんの? 俺知らないんだけど? ……そりゃそうか。俺が知ってるわけねぇわ』
いろは「また自虐して……」
八幡『で? なんか用があったんだろ?』
いろは「あー、そのー……」
八幡『いやに勿体振るな……切るぞ』
いろは「いやいや! 切らないでくださいって!」
八幡『だって電話代もったいないし……』
いろは「まさかとは思いますけどぉー。先輩、もしかして電話代の事考えて、わざわざかけ直してたり……?」
八幡『…………そんなわけねぇだろ。勘違いとかやめてくださいごめんなさい』
いろは(もうっ……なんでそうやってたまに、素でいい人なんですかねぇ)
いろは「ま、用件なんてないです。明日から旅行ですけど、なにしてるのかなーって」
八幡『別に、特別なことなんてしちゃいねぇよ。めんどくせぇ宿題を片付けてたとこだ』
いろは「あ、先輩って、先に宿題やっちゃうタイプです? なんかイメージ通りすぎて意外性皆無ですね!」
八幡『褒めてんの、それ? ねぇ?』
いろは「意外といえば……先輩、本当に旅行を計画しちゃうなんて思ってなかったですよー」
八幡『お前がしろっつったんじゃん……ま、俺ほとんどなんもしてないけど』
いろは「?」
八幡『ほら、いるじゃんイベント大好きな奴が。由比ヶ浜に話したら、もう勝手に計画してたわ。俺の出る幕なんてなかった』
八幡『それに、元々お前が計画自体は立案していただろ? なら俺たちはそれに巻き込まれるだけだ』
いろは「あー……まぁ、してたっちゃしてましたけど、あれ、ほとんど嘘ですよ?」
八幡『は?』
いろは「雪ノ下先輩のお姉さんが、別荘を貸してくれるって言ってたのは本当ですけど。予定とか諸々のことは、全然まったくです」
八幡『だ、騙された……』ガクッ
いろは「うわっ、先輩、ガチで落ち込んだ声やめてください。ちょっと凹みます」
八幡『……寝るわ』
いろは「わー! ちょ、ちょっと待って下さいよ! も、もう少しお話、したいです……」
八幡『くっ、流石いろはす、あざとい。悔しいが可愛いと思ってしまうほどにはあざとい。あざはすー』
いろは「は?」
八幡『お前って、ほんとに俺のこと嫌いだよなぁ……ま、俺のこと嫌いじゃない奴なんていないけどな』
いろは「なんですかそれ、遠回しに口説いてるんですかそうはいきませんよごめんなさい」
八幡『だが一色、大丈夫なのか?』
いろは「はい?」
八幡『ほら……生徒会とかサッカー部とか、忙しいだろ』
いろは「先輩のくせに、気を遣ってるんですか? 大丈夫ですよー、生徒会の方はある程度落ち着けてますし。サッカー部は元々、あまり顔出せてませんから」
八幡『そうか……けど、葉山にいい印象にはなんねぇだろ。サッカー部より、奉仕部の旅行に同行するなんざ』
いろは「わたしだって、たまには素直にやりたいことをやりたいんです」
八幡『……ま、これ以上はなにも言わねぇ。せっかくの旅行前日だし……な』
いろは「なんかそのセリフ、先輩らしくないですねー。狙いすぎててあざといです」
八幡『狙ってねぇ……むしろ狙ってなさすぎてて、たまたま当たっちまうくらいには狙ってねぇ』
いろは「あはは、なんですかそれー。意味わかりません」
八幡『笑ってんのに辛辣って、器用なことするなぁ君は』
いろは「先輩、寝なくて大丈夫なんです?」
八幡『おっと、自分からかけておいて会話のキャッチボールがめんどくさくなった気配を感じる。まともに投げ返さず、わざと暴投放るくらいには倦怠感全開の空気だ』
いろは「そんなことないですー」
八幡『なら棒読みやめたらどうだ』
いろは「やだなぁ、素ですよ、素」
八幡『たまには素直にやりたいことをやりたい、ってことか?』
いろは「そうそう、それですそれ」
八幡『うわー、本格的におざなりだなこいつ。……じゃあ切るぞ』
いろは「はいはーい。また明日です、先輩♪」
八幡『ああ……ま、また明日』
ピッ
いろは「また明日、って。言えるんじゃないですか、先輩」
いろは「それが言えるならもう、ぼっちなんかじゃない気がするんですけどねー、わたし的には」
いろは「あ……てか、明日の準備まったくしてない」
いろは「どうしよう、服とか所持品とか……3日分だよね?」
いろは「今日は徹夜かなぁ」
【そして、長期休暇に突入する】 終
~電車内~
八幡「っべーわ。まじっべーわ。集合時間早すぎてマジねみーっつーか」
いろは「先輩、それって戸部先輩の真似ですかー? ヒッキーまじキモい」
八幡「お前こそ、それ由比ヶ浜だろ。地味に似てんじゃん」
結衣「え、私っていつもこんな感じなの?」
八幡「どうだ、自分を客観的に見つめなおした感想は。悔い改める気になっただろ?」
結衣「別に悪いことしてなくない!?」
雪乃「朝から騒々しいわね……少しはその汚い口を閉じたらどうかしら、谷なんとかくん」
八幡「逆だ逆。正確に言えばなんとか谷くんなんだけど? そこんとこ間違えないでくんない? 間違えるのなんて俺の青春だけで間に合ってんだけど」
結衣「ゆきのん、眠そうだねー」
雪乃「いえ、そんなことはないわ」キリッ
いろは「そんなことよりー、先輩。両手に花ですよー? 嬉しいです? 嬉しいですよね?」
八幡「いやー、でかすぎて両手で持ちきれねぇわ。どこがとは言わねぇけど」
いろは「うわ……先輩、ドン引きです」
結衣「ヒッキーまじキモい! キモい!」
雪乃「…………」ギリィッ
八幡「あのー、雪ノ下さん? 無言でガチの睨みつけは勘弁してくれません?」
ガタンゴトン……
ガタンゴトン……
八幡「わかった、俺の目が悪かった。無言はやめろ」
いろは「先輩がバカみたいな冗談言うからですよー」
八幡「いや、元はといえばお前がだな……」
結衣「はいはい、ヒッキーがキモいのはいつものことだから。そこまでにしといてあげよ、いろはちゃん?」
いろは「結衣先輩がそこまで言うならー」
八幡「雪ノ下といい一色といい、由比ヶ浜にどんだけ甘いの? 由比ヶ浜がマッカンだとしたら、俺なんて正露丸レベルに対応が苦いんだけど。なんだよ、正露丸って心の痛みには効かないのか……」
雪乃「あなた、薬なんて飲んだら逆効果じゃないの比企谷菌」
八幡「いつも饒舌な雪ノ下が噛んだぞ、珍しい」
雪乃「比企谷菌」
八幡「噛んだね、2度も噛んだ! ……え、わざとじゃないよね?」
いろは「結衣先輩、結衣先輩。雪ノ下先輩と先輩って、こんなに仲良しだったんです?」
結衣「あはは……去年はこんなじゃなかったけどね。あの一件以来、奉仕部は変わったねー」
いろは「奉仕部と言えば……小町ちゃんが不参加なのは残念ですねー」
八幡「小町は夏風邪で寝込んでる。当日になって突然風邪引くとか、お兄ちゃん心配! 心配すぎて今すぐ帰るまである」
いろは「どんだけシスコンなんですか……でも本当、残念です」
結衣「てかヒッキー、小町ちゃんが行くから参加するとか、捻くれたこと言ってたわりには普通に来たよね」
雪乃「私としては、この男がいなくても何一つ異論はなかったのだけれど。むしろ不参加を推奨するわ」
結衣「いやいや、ヒッキーもいてこそだからね!? 確かにいつも、いてもいなくても変わらないけど……」
八幡「ありがとう由比ヶ浜。必死なフォローが心を抉るようだ」
いろは「でも実際、付きっきりで看病しそうなくらいシスコンですけど。聞いてる分には」
八幡「いや、そうしようと思ったしむしろそれを強く推したんだがな。小町に全力で拒否られて怒られて追い出された」
ガタンゴトン……
ガタンゴトン……
八幡「あれれー、おかしいぞー? このタイミングで無言とか、むしろ意味ありげすぎて言葉にするより伝わってくるんだけど? 以心伝心かな?」
いろは「あっ、わたしの気持ち、伝わりましたー? せんぱぁい……わたしの想い、受け止めてくれたんですかぁ?」
八幡「うっわー、朝一からあざはすされても心に響かねぇわ。むしろ甘え声が頭のなかで響き渡って頭痛い。二日酔いみたい」
結衣「え、ヒッキーお酒飲んだことあるの!?」
八幡「いや、ねーけど……」
雪乃「いつもの周りくどい例えでしょう、由比ヶ浜さん。触れないであげるのが彼のためよ」ニコッ
八幡「このタイミングで今日一番の笑顔とか、マジっべー」
いろは「ところでー。どのくらいかかるんですかね、目的地まで」
雪乃「私も行くのは初めてだから……とはいえ、お昼までには着くと思うわ」
八幡「雪ノ下家の別荘なのに、家人が場所を知らないってなに? お前だけ分家の家系とかないよね?」
雪乃「バカみたいな冗談はよしなさい。頭の作りの脆弱性が露呈するわよ」
結衣「じゃあじゃあ、トランプとかしようよトランプ!」
八幡「とかって言うわりにトランプしか選択肢ねぇじゃん……」
雪乃「トランプとか雑談とか、と言った用法が正しいわね」
結衣「し、知ってるし! とにかく、ポーカーやろ、ポーカー」
いろは「ポーカー……ですか」
結衣「いろはちゃん、役とか知らない?」
いろは「いえ、簡単には知っていますが……」
八幡「由比ヶ浜。一色が言いたいのはそういうことじゃない。感情の権化みたいなお前が、ポーカーフェイスを会得しているとは思えないって話だ」
結衣「ポーカーフェイス……?」
八幡「ほら、ポーカー提案した人間がポーカーフェイス知らねぇんだもんよ。まずこっからとかお笑いかよ。あ、あの人達はいつもここからか」
雪乃「感情を表に出さない、無表情な様子のことよ。その語源がまさしくトランプゲームのポーカーから来ていて、自分の手札を相手に悟られまいと無表情になることが由来となっているわ」
八幡「さすがユキペディアさん。理解できたか、由比ヶ浜?」
結衣「わ、わかるし! いいからやるよ、もう!」
いろは「結衣先輩には……負ける気がしません」
結衣「何気にいろはちゃんが一番酷くない!?」
結衣「じゃあ、チェンジは1回まで。賭けは……なしでいいかな?」
雪乃「そうね。その方が気楽でしょうし」
八幡「いまのは雪ノ下の優しさだぞ、由比ヶ浜。お前がむしり取られないような気遣いだ」
結衣「バカにし過ぎだからぁ!」
いろは「ここはあえて、賭け要素ありにしません? 金銭を賭けようってわけじゃなく……ほら、結衣先輩が飴玉を袋で買ってきてましたよね?」
結衣「うん、あるよー」
いろは「1人10個の飴玉を持ちます。これを賭けて勝負して、10回戦くらいした後、一番飴玉の所持数が多い人が、この旅行中に1回だけ、任意の相手に頼み事を聞いてもらうって賞品で」
八幡「いや、曲がりなりにも賭け要素があると雪ノ下がいい顔をしないんじゃないか?」
雪乃「いえ、せっかくなのでやりましょう。細かいルールの設定が必要ね」
いろは「そうですねー、では、みなさんの知恵を貸してください」
《ルール》
・その回の親から順に、時計回りでカードの交換を行う。
・親は毎回、時計回りに変わる。1人3回、親になる(12回戦に変更)。
・親が飴玉の数と相手を指定し、より強い手役の勝ち。飴玉の総取りとなる。
・親が勝負をしかけた相手が降りた場合、相手は飴玉1つをペナルティとして失う。また、親は残りの人間から再指名を行う。3人共が降りた場合、この回のゲームは終了となり、親は合計3個の飴玉を確保することになる。
・そのゲーム中、親に勝負を仕掛けられなかった場合、飴玉1つを貰うことが出来る。
・手役は、一般的なポーカーに従う。
いろは「以上ですかね」
結衣「うわ、意外と細かい……」
雪乃「後は、順次やってみて問題がありそうなら潰していきましょう」
八幡「めんどくせ……どうせ由比ヶ浜の一人負けだ」
結衣「うぐっ……そ、そんなことないし」
雪乃「では始めましょう。僭越ながら、最初の親は私が務めるわ――――」
――――――
――――
――
八幡:飴玉21個
雪乃:飴玉18個
結衣:飴玉2個
いろは:飴玉14個
八幡「ほら見たことか。やっぱり由比ヶ浜が最下位じゃないか」
結衣「ま、まだ最後の1ゲームがあるし……ここで逆転すればいいんでしょ!」
八幡「お前は計算すらできないのか。2個しか持ち飴玉がないのに、勝てるわけねぇだろ」
結衣「うっ……」
いろは「申し訳ないですが、その通りですよ結衣先輩」
いろは「そして最後の親はわたしです。2枚交換で」
八幡「じゃあ俺は3枚」
雪乃「1枚よ」
結衣「5枚!」
八幡「なんでお前、ほぼ毎回全換えなの? バカなの? ああ、バカだったわ。バカでビッチ」
結衣「ちょっと酷くない!?」
八幡「略してバカッチ。ほら、愛嬌ある」
結衣「そういう問題じゃないからー!」
いろは「ふふ……わたしはここで、飴玉10個賭けで、先輩に勝負を挑みます!」
八幡「は?」
いろは「んー? どうしたんです、先輩? 勝負に出るのが怖いんですかー? なら降りてもいいんですよー?」
八幡「ばっかお前、怖いわけねぇし。俺にとって怖いもんとか、三浦くらいだし。後はあれだ、川なんとかさんとか」
結衣「優美子……」
いろは「で、どうするんです? 受けるんですか、受けないんですか?」
結衣「でも、いろはちゃん。もし負けたら、10個も飴玉失っちゃうんだよ!?」
雪乃「何気に、どう転んでも最下位にはならない個数なのが計算高いわね……」
八幡「いいだろう……お前の挑発に乗ってやる! 俺の手札は、これだ!」バシィッ
フォーカード
八幡「ふふふ、エースのフォーカードだ……勝てる手役があるなら見せてみろ!」
結衣「うわー、ヒッキー小物っぽい」
雪乃「明らかな負けフラグね」
八幡「んなわけが……」
ストレートフラッシュ
いろは「はい、わたしの勝ちです!」
八幡「はぁ!? このタイミングでストレートフラッシュ!?」
雪乃「凄い引きの強さね……恐れいったわ」
いろは「ふふん、先輩の負けですね♪ これでラストゲームを終えて、わたしの飴玉が24個。先輩が11個に減少したので、わたしの勝ちです」
八幡「不幸だ……」
いろは「それじゃ、先輩。またこの旅行中にお願い、伝えますね♪」
八幡「え、なに、罰ゲーム俺に決定してんの? すでに? 由比ヶ浜がぶっちぎりの最下位なのに?」
いろは「最初から、ビリの人にいうことを聞いてもらうなんて一言も言ってないじゃないですかー。任意の人に、って言いました。つまり先輩も対象なわけです」
雪乃「まさか気づいてのなかったの……?」
八幡「し、知ってたし」
結衣「し、知らなかった……」
いろは「とーにーかーく! 約束は絶対、ですからね!」
程なくして。
一同を乗せた電車は、目的地の最寄り駅へと到着した。
そこからタクシーで20分。徒歩で10分。雪ノ下別荘へと、足を踏み入れた。
【そして、雪ノ下別荘に到着する】 終
八幡「……で?」
いろは「はい?」
八幡「何か申し開きは?」
いろは「あー……ごめんなさい、キャハ☆」
八幡「よーしわかった、表出ろ」
いろは「んー、でもわざとじゃないわけですし?」
八幡「ケータイ置いてきちまったし……コンビニは近いからって言ったの誰だ?」
いろは「結衣先輩ですよ」
八幡「よく考えたら、あいつがこの辺の地理に詳しいわけがないのにな……」
八幡「下手に街中まで出てしまったのがまずい。駅までの道しかわからない。あ、そうだ家に帰ろう」
いろは「いいですねー、わたしと2人で帰ります?」
八幡「おお……まさか肯定的な切り返しが来るとは思わなかったわ」
いろは「でも実際、どうしましょー。わたしも当然、土地勘なんてありませんしね」
いろは「本当に2人で逃避行とか、しちゃいます? 北の方とか」
八幡「ヤダよ。マッカンがあるかどうかわかんねぇもん」
いろは「先輩の居住条件はマッカンの有無ですか……」
八幡「後は戸塚とか戸塚とか……ああ、戸塚がいるかどうかも大事だな」
いろは「……それはそうと。早く夕飯の買い出しして戻らないと、怒られますよ」
八幡「とはいってもなぁ……帰り道もわからん状態で、下手に荷物も増やしたくないし……」
いろは「う~、先輩が意外と本気で困っている……」
八幡「お前、俺を何だと思ってるの? いくら腐った目でも、魚じゃないんけど?」
いろは「そりゃそうでしょう。魚に失礼ですよ」
八幡「お前は俺に失礼だけどな」
いろは「でも、迷子とか遭難とか、ちょっとそそられません? 愛しのあの人と二人きりで、誰にも邪魔されない空間……みたいな?」
八幡「葉山とやれよ……」
いろは「葉山先輩はこういう事態に陥ることすらありませんし。だからこそ葉山先輩は葉山先輩なのですから、不可能ですよ」
八幡「あっそう……」
いろは「さて、冗談はさておき。買い物して帰りましょうか」
八幡「は?」
いろは「や、帰り道くらいわかりますし。というか、スマホ持ってますしわたし」
八幡「……」
いろは「いやー、先輩と少しでも長く一緒にいたくて? みたいな? あ、これポイント高くないですかー?」
八幡「あー……もういいわ。帰るぞ」
いろは「怒ってます?」
八幡「怒ってねぇ」
いろは「もうー、じゃあ何か甘いもの買ってあげますから、それで手を打ちましょう♪」
八幡「甘い蜜を垂らせば俺が機嫌直すと思ってんの? その考えこそが甘いよ? 暑いし、アイスを所望する」
いろは「あっさり陥落してるじゃないですか……」
八幡「ばっかお前、これはあれだよ。大人げない意地を張るより、目先の利益を追い求めた結果だよ。うわ、俺って超敏腕社員。主夫希望だけど」
いろは「ま、いいです。この近くにスーパーありますから、行きましょう♪」
【いつの間にか、2人は軽く遭難する】 終
八幡「で、なんでお前らも買い物行ってんの? 帰ったら誰もいないとか、まるでぼっちになったみたいだったじゃん」
いろは「先輩、ぼっちじゃないんです?」
八幡「あ、俺ぼっちだったわ……」
雪乃「ぼち谷くんに説明すると、由比ヶ浜さんの思いつきだったのよ」
結衣「全員で1品ずつご飯作って、勝負しようよ!」
八幡「雪ノ下……なぜ、止めなかった。あと、なんだよぼち谷って。一見すると犬の名前みたいだぞ。ポチか」
雪乃「……これでも、手は尽くしたのよ。けれど由比ヶ浜さんの意思は固かった。私とて、全力でなかったことにしようとは思ったのよ……」
結衣「ゆきのん!?」
いろは「あ、でもー、料理上手な女子ってポイント高いですよねー」
結衣「そう! そうなの!」
いろは「もしかしてぇ……胃袋捕まえたい相手とかいるんですかぁー?」
結衣「うん、いるよ」
八幡「おい、なんでそのタイミングで俺を見た。勘違いするぞ、こら?」
雪乃「それはなんの脅しなのかしら……」
八幡「だが残念だったな、由比ヶ浜。俺と一色はんなこと知らずに材料を買ってきた。つまり、個人戦で料理を作る事はできない。ならば料理対決などなしにして、雪ノ下に全て任せるべきだ。むしろそれが推奨だ」
結衣「えー……でも、あたしとゆきのんはもうそのつもりで買ってきちゃったしー」
八幡「なぁ、由比ヶ浜。一応聞くが、晩飯の料理対決って名目だよな? 体裁上、晩飯ってオチじゃないよな?」
いろは「やけに凝った調味料は雪ノ下先輩のチョイスだとして……なんか、色とりどりのフルーツがたくさんあるんですけど」
八幡「わぁー、ココロオドルね。おいしいパスタ作ったお前。家庭的な女がタイプな俺、一目惚れ。あ、これ純恋歌だわ。フルーツは置いといて、パスタにしようぜパスタ」
いろは「こんな先輩は置いといて。わたし達が買ってきた材料はわたしが使って、先輩は料理自体は不参加。審査員ってことでどうですかー?」
八幡「ナンデ!? ナンデ実現ノ方向ニ話ヲ進メルノ一色=サン」
雪乃「そうね、やはり不毛だと思うのだけれど……」
いろは「あれ? 負けるのが怖いんですか、雪ノ下先輩♪」
八幡(やめろ、やめるんだいろはす! その鬼に挑発はいけない! ほらぁ、もう眼の色変わってるもん。負けず嫌いの色だよあれ)
雪乃「……比企谷くんにジャッジを任せるのは些か不安要素ではあるけれど。いいわ、受けて立ちましょう」
結衣「あ、あたしも! ま、負けないし」
雪乃「少なくとも、由比ヶ浜さんには負けないと思うわ」
結衣「ゆきのん!?」
雪乃「まぁでも、毒味は比企谷くんだから。思う存分、腕によりをかけるといいわよ、由比ヶ浜さん」
結衣「うわぁ、ゆきのんが何気に本気の目だ……」
八幡「俺の意向は? 俺の意向は無視なの?」
いろは「先輩って、発言権あるんです?」
八幡「やめろ、あざとく首を傾げながら辛辣な言葉を吐くな」
いろは「でもー、普通に勝負するだけじゃ面白くないですねぇ。何か罰ゲームとかないと」
八幡「また、何でも言うこと聞いてもらう券でも発券するつもりじゃないだろうな?」
いろは「いやいや、それはもう2枚入手してますしー」
八幡「ん? いつ2枚になったんだよ、おい」
いろは「じゃあ、選ばれなかった人は、今日の分のお皿洗いってことで♪」
八幡「おまえ、それ由比ヶ浜に押し付けたいだけだろ」
いろは「あ、バレましたー?」
結衣「待って、なんかあたしが最下位って前提で話が進んでるし!」
雪乃「由比ヶ浜さん……仮に負け戦でも、負けられない戦いってものはあるのよ」
結衣「……う、うわーん! ヒッキー、ゆきのんまであたしをいじめる!」ダキッ
いろは・雪乃「「!!」」
八幡「や、やめろるち、近いいい匂い近い柔らかいHANASE!」
結衣「むー……絶対、美味しいって言わせて見せるんだから」ジーッ
八幡「お……おう。く、食えるもんで頼む」
結衣「当たり前だし!」
いろは(結衣先輩……まさか、この旅行中に?)
いろは(雪ノ下先輩も呆気にとられているところをみると、ここまでは予想外だったみたい)
いろは(これは確かに、負けられない戦い、なのかもしれないなぁ)
いろは「じゃあ、ちょっとわたし、足りない食材があるのでそれだけ買い足して来ますねー!」
八幡「おい、1人で大丈夫か?」
いろは「えっ……な、なんですか先輩? 口説いてるんですかごめんなさい、そろそろクドいです」
八幡「ばっかちげーよ。ただのお兄ちゃんスキルがオートで発動しただけだ。深い意味なんてないんだ、勘違いすんな」
いろは「お兄ちゃんスキル、何気にポイント高いですよ♪ ではでは、後ほど!」
【急に、 夕食前の勝負が始まる】 終
八幡(で、手持ち無沙汰になった俺だが。文庫本は持参しているし、ゆっくりしたいと申し出たところ、あっさりばっさり切り捨てられた)
八幡(みんなの対応があっさりしてるんだ、夕飯くらいこってりでいい)
八幡(そうだ、ラーメン。ラーメンを食べに行こう。よーし、このさい平塚先生も誘っちゃうぞー)
雪乃「気色の悪い顔をして後ろに立たないで貰えるかしら。料理に影響が出てしまうわ」
八幡「なに? 俺の視線から出汁でも出てんの? マジ俺、一家に一台」
雪乃「あなたみたいなのが一家に一台もあったら、処分に困るじゃないの」
八幡「で、雪ノ下は何作ってんだよ。お前のことだから、味の心配はないだろうが」
雪乃「なんとか、メインディッシュの担当は由比ヶ浜さんから奪取したわ」
八幡「あっ……そうね、うん、今なら俺、お前に心から素直な感謝の言葉が述べられそうだ」
雪乃「やめなさい、鳥肌が立つわ。……私はあまり食べる方ではないけれど、それでもメインなしの夕飯はつらいもの」
八幡「ああ……」
結衣「ちょっと! なんかそこで、すっごい失礼な話してない!?」
八幡「で、メニューは」
結衣「ナチュラルに無視すんなし!」
雪乃「どうせあなたのことだから、こってりしたものがいいとか考えていることでしょうし。ただ、あまり凝ったものを作るような場でもないから、今日はシンプルにハンバーグにするわ」
八幡「なんで心読めてるの? サイコメトリー?」
雪乃「……バカなこと言ってないで、そこに立っていられると邪魔なのだけれど。貴重な陸地面積を分け与えているだけでも勿体ないというのに、邪魔までしてると救いようがないわね」フッ
八幡「言い過ぎだからぁ!」
結衣「それ、あたしの真似!?」
八幡「ちっ……反省してまーす。で、お前は何作ってんの?」
結衣「あたし? あたしはスープ担当!」
八幡「そうか……水を鍋に入れて、沸騰したらコンソメ入れて、終わりな」
結衣「具材なし!?」
八幡「余計な手を加えると、あれじゃん? ほら……素材の味そのものを活かす的な」
結衣「素材の味もなにも、コンソメの味しかしないと思うんだけど……」
八幡「……っく。ぐすっ……死に……たくないよぉ……!!」
結衣「そんな悲痛な叫びしなくてもしなないからぁ! バカにしすぎだからぁ!」
八幡「だがな、由比ヶ浜。俺は覚えているぞ」
結衣「ん? なにを?」
八幡「あの大量のフルーツだよ! っつーか、今まさにお前の柔らかそうな両手で握られてるそれだよ! スープ作ってるんだよね? ミックスジュースとかじゃないよね?」
結衣「ほら、カレーにもりんご入れたりするじゃん? 酢豚にパイナップルもあるし、おかずに果物って合うはずなんだよ、うん」
八幡「酢豚のパイナップルは、プロメリンって酵素で肉を柔らかくするためにあんだよ。諸説あるが、見た目を高級にするためってのもあるな。つまり縁の下の力持ち的な存在であってだな、決して味重視のものじゃないんだ」
結衣「なんか難しいこと言ってる……とにかく、入れることもあるってことじゃん?」
八幡「くっ、一理ある」
雪乃「なぜ押し負けてるのかしら……ちなみにプロメリンは60度以上で加熱されてしまうと、お肉を柔らかくする効果はなくなるわ。使うなら加工されていない生のパイナップルで、調理前や調理後に使用しなければ意味がないわ」
八幡「マジかよ知らなかった……じゃあ給食のがっつり一緒に調理された感があるパイナップルは? みんなからの不評を買うだけの存在? やだ、まるで俺そのものじゃん」
結衣「もう! いいから任せてって! ちゃんと美味しく作れるんだからね!」
八幡「……俺も男だ、覚悟を決めた」
雪乃「……そうね。女としての誇りを賭けるわ」
結衣「大袈裟すぎだからぁ!」
いろは「今戻りましたよー……って、すでにお二方は作り始めてるんですね」
八幡「一色、その手に持ってるのは……」
いろは「あ、これですか? お菓子作り用の材料ですー。調理器具は完備されてるし、果物はなんか結衣先輩がたくさん買ってましたし、ならわたしはお菓子でも担当しようかなって」
八幡「お前は、救世主だ。最高。マジ最高。いろはす最高」
いろは「ちょ、先輩どうしたんです? 普段の数割増しでキモいです」
八幡「なんとでも言え。今の俺はどんな罵詈雑言でも受けられる仏の如き存在だ」
いろは「なんかよくわかりませんけどー。……あ、先輩。わたしのエプロン姿、早く見たいんじゃありません?」
八幡「興味ねぇな」
いろは「ちょっと、その反応はポイント低いですよ!? あとで小町ちゃんに密告します」
八幡「いろはす超かわいい! もうあざと可愛くてたまらないね!」
いろは「もっと褒めてくれていいですよー。後、わたしはサラダも担当しますね。見たところ雪ノ下先輩がメインで、結衣先輩がスープ……スープですよね? を作ってますし」
結衣「スープだよ!?」
いろは「だって果物が脇においてあったもので……ミックスジュースでも作ってるのかと」
結衣「それ、ヒッキーも言ってた」
いろは「うわ、先輩と同じ思考回路とか一生の不覚です」
八幡「俺も同感だわ、うん。ま、俺の場合は一生の不覚というより、一生涯不覚って感じだがな。それってチョベヤバー」
雪乃「自信を持って言うことじゃないでしょうに……」
いろは「ま、わたしもちゃっちゃか作ってしまいますね♪ サラダは簡単なものでいいし……お菓子の下ごしらえ先にしておこう」カチャカチャ
八幡「得意だと言うだけあって、確かにいい手際してんな。お菓子作りなら雪ノ下ともいい勝負すんじゃねぇの?」
いろは「いえいえー、雪ノ下先輩は別格です。けど、わたしにとっても負けられない戦いってあるわけでしてー」
いろは「この料理勝負、勝ちに行きます」
八幡「雪ノ下と一色の一騎打ちか……ま、どっちも味には期待できるし。俺はのんびり待たせてもらおう」
結衣「ヒッキー、今あたしの存在なかったことにしてない?」
八幡「ばっかお前、存在感で言えば俺のほうがないだろ。俺に存在感のなさで勝とうなんざ100年はえぇんだよ出直して来い」
結衣「なんで怒ってんの!?」
八幡「怒ってねーよ。俺怒らせたら大したもんだよ」
いろは「あ、先輩先輩。これ、ちょっと味見してみてください。はい、あーん♪」
八幡「なに、なんのつもり? 俺、殺されるの?」
いろは「なにって、味見ですって言ってるじゃないですかー。妙なところで照れてないで、手が疲れるので早く食べてください」
八幡「いや、だがなに、これはさすがに……な?」
いろは「えいっ!」
八幡「んぐっ!?」
八幡「無理やりねじ込むんじゃねぇよ……ったく」
いろは「どうでした、お味は?」
八幡「甘い」
いろは「そりゃ、お菓子ですからねー。まぁ正確には、お菓子になりかけのものですけど」
八幡「で、なんなのこれ?」
いろは「これですか? フルー◯ェの素を利用して、わたし流にアレンジを加えた……まぁあえて言うなら、パフェみたいなものですかね。その材料の1つです」
八幡「なるほど……」
いろは「あ、わたしも味見を」パクッ
八幡「ちょ、おま、それ今、俺が使ったやつ……」
いろは「あー、確かに……確かに、甘いですね。ちょー甘い///」
八幡「お前なぁ……ちょっとは気にしろよ」
いろは「なにがですかー? あ、間接キスのことです?」
いろは「おこちゃまですねー、先輩は♪」
八幡「ばっかお前。おこちゃまはコーヒーなんて飲まない。あ、マッカンの甘さならいけるか……」
結衣「……ジーッ」
雪乃「……ジーッ」
いろは「……フッ」
結衣・雪乃「!!」
八幡「なんでお前ら、目で会話できてんの? サイコメトリー?」
いろは(先輩は気づいていないのか、気づいていて気づかないふりをしているのか)
いろは(なんとなく、答えはわかってるけど、言及はしないでおこう)
いろは(でも、一歩だけ、優位を取れたかな、なんて)
いろは(思ってみたり)
いろは「はいはい、ここにいられると料理が腐るので、早めにどっか行っててくださいねー」
八幡「それ、雪ノ下にも言われたんだけど!?」
【そして、調理が始まる】 終
結衣「完成ーっ! みんなも出来た出来た?」
雪乃「ええ、準備は万端よ」
八幡「つーか雪ノ下と一色は、30分は前に済ませてたぞ……なんでスープ担当が一番遅いんだよ」
結衣「しょ、しょーがないじゃん! ヒッキー細かいことにうるさい!」
八幡「えぇ……」(困惑)
いろは「結衣先輩が作ったスープ、凄く美味しそうに見えますね!」
結衣「でしょでしょ!? 夏野菜をふんだんに使ったコンソメスープなんだー」
八幡(由比ヶ浜……ナチュラルにバカにされてるぞそれ)
いろは「色合いも綺麗ですね♪」
雪乃「ええ、確かに……見た目は素晴らしいわ」
八幡(自分を誇示せず、他人ばかり褒め称える。差は歴然じゃねぇか。ス○ブラで最高レベルのCPUに勝って喜んで、褒められてまた喜んで。そんで褒めた奴は最高レベル3体を相手に片手で勝ってるくらいのレベル差がある)
いろは「先輩、先輩。どうですかわたしのデザート! やばくないです?」
八幡「はいはいやばいやばい。で、なんでお前らリア充ってやばいって言葉が好きなの? 使いすぎててマジやばいわー」
いろは「えー? だって使いやすいじゃないですかー?」
八幡「ま、俺にリア充の心境なんてわかるはずがない。俺はマイノリティだからな。マイノリティ極めすぎててマジっべーわー」
いろは「先輩、何気に戸部先輩のこと好きですか?」
八幡「ない。やめろ。気色悪い」
いろは「全力の拒否ですね……まぁ、戸部先輩ですしねー」
八幡「お前、戸部にも辺りキツイよな。俺にもだけど。そんなに嫌いか」
いろは「戸部先輩はともかく、先輩のことは嫌いなんかじゃないですよ」
いろは「むしろ……///」
八幡「やめろ、上目遣いで頬を染めるな。あざとすぎてころっといっちまうぞ」
いろは「先輩はちょろいですねぇ」
八幡「ばっかお前、ガードが固いぼっちとか、一生ぼっちじゃん? 俺は柔軟なぼっちでいたいんだ。あ、ガード固めなきゃ」
八幡「そんなことより、早速晩飯にしようぜ。スープ待ちでやたらと時間が経った」
結衣「あたしのせい!?」
雪乃「料理対決はどこへいったのかしら……」
八幡「せっかくどっかのアホが忘れてたのに、なんでお前は掘り返しちゃうの? この負けず嫌いさんめ」
結衣「あっ、そうだった! じゃあヒッキー、ごはんの後に、どれが一番美味しかったかジャッジね!」
八幡「飯くらい落ち着いて食わせろよ……」
いろは「当然、私が1番に決まってます! 下でも2番です!」
ううう
雪乃「そうね……私が1番で、一色さんが2番。これで決まりよ」
結衣「あたしは!?」
八幡「圏外」
結衣「勝負にすら加われてない!? もういいから、食べようよー」
雪乃「そうね……ではいただくとしましょう」
一同《いただきます》
結衣「でねでね、戸部っちがまた姫菜に冷たくあしらわれたって嘆いててー」
雪乃「由比ヶ浜さん。その話、一色さんの前でしてもよかったのかしら?」
結衣「あっ!」
いろは「あー、戸部変態の好きな人の話ですー? ならとっくに気づいてますし、問題無いですよー」モグモグ
八幡(今この後輩、変態って言った? 粗食中だからいい間違えただけだよね? 戸部が変態なわけがある)
いろは「ちなみに、わたしの好きな人はー……秘密、です♪」
雪乃「……」
いろは「……先輩方が好きですよ、私は。こうして奉仕部でもないのに、迎え入れてくれてて嬉しいです」
雪乃「あなた、言っても帰らないじゃないの……」
雪乃「ところでさっきから、一言も発さないぼっちがいるんだけれど?」
八幡「お食事中は静かにしなさいってばっちゃが言ってた」
結衣「ヒッキーの言うことって、正論だから困る。けどネガティブ」
ガヤガヤ
ガヤガヤガヤ
楽しい食事の時間は、気づくと終了し。
いろは「さてさて、注目の採点タイムです♪」
八幡「くそめんどくせぇ……」
雪乃「嘘をついたらただじゃおかないよ」
八幡「雪ノ下さん、目が本気すぎます。ほんと勝負事には目がねぇな……」
八幡「あー、由比ヶ浜のスープだが」
結衣「う、うん……あたしの評価からかぁ」
八幡「夏野菜の一部が煮えていない。コンソメが薄くてコンソメの味がしっかり感じられないが、夏野菜の旨味が助けている。美味いかどうかで言われたら、誠に如何ではありますが美味でした」
結衣「言い回し難しくしても、バカにされてるのくらいわかるんだからね!?」
八幡「雪ノ下のハンバーグ。これは文句なしの一品だった。溢れ出る肉汁はじゅわっと鉄板で跳ねて踊り、肉を噛んだ時に口内をこれでもかと覆い尽くす。肉自体も非常に柔らかく、しかし食べているという実感と快感を十分に与えてくるため、食事をすることそのものの満足感までもしっかり演出されている。なにより絶品なのはこのソースだ。肉汁を使っていることでハンバーグそのものと非常に合い、肉の旨味を邪魔しない程度に、でも確実な味付けとして確立されている」
いろは「うわ……なんか先輩、キモい」
八幡「ガチの引きはやめろ。最後に一色、お前のデザートだが」
いろは「……ゴクリ」
八幡「主力はフ○ーチェという、どの家庭でも手軽に用意できるものだ。そこにクリームや様々なお菓子を絶妙なセンスで飾り、アイスを乗せ、夏らしくかつ食事で疲れた口をさっぱりリフレッシュまでさせてくる。甘くて美味い上に後味も最高となると、文句のつけようがない」
結衣「なんかあたしだけコメント短くなかった? ねぇ?」
八幡「今回の勝負、2人共持てる力を出し切ったんだと思う。だからこそ俺は、その覚悟を尊重し……あえて、引き分けを言い渡す!」
いろは「……はぁ」
雪乃「優柔不断ね」
いろは「そういうの、女の子に嫌われますよー?」
いろは「あ、でも考えようによっては、そのオチでいいかも♪」
結衣「やっぱり2人には勝てないかぁ……」
雪乃「また、一緒にいろいろ作りましょう」
いろは「では、2人勝利ということで。由比ヶ浜先輩が、お皿洗いですね!」
結衣「あああぁぁぁぁぁぁぁ………ま、仕方ないかぁ」
雪乃「いいわ、由比ヶ浜さん。私も手伝うから」
結衣「ゆきのーん!」ダキッ
八幡「ったく、仲のよろしいこって」
いろは「せんぱーい!」ダキッ
八幡「!!?」
いろは「先輩、可愛い反応しますねー。ま、離してあげます」パッ
八幡「おおお、お前はホント……何がしたいんだ、いつもいつも」
いろは「それがわかれば、苦労しませんよ」
八幡「一色?」
いろは「あ、いえいえー! 可愛い後輩に抱きつかれて嬉しくない男子の先輩っていないと思ったんですけどねー。先輩みたいなのがいるって知れただけで、大きな収穫ですよ」
結衣「ゆきのん! 今度また、料理教えてよ!」
雪乃「ええ、構わないわ。なんなら、明日の料理はそうしましょうか……3日目に外食に行きましょう」
全員《イエス・マム!》
八幡「全員生き残れたことに……感謝!」
結衣「バカにし過ぎだからぁ!」
【ついに、命をかけた食事が始まる】 終
八幡「はぁ? 肝試し?」
いろは「うわー、あからさまにめんどくさそう……いいじゃないですかー、肝試し」
八幡「いやなに、あれだよ? 肝試しとか試さなくても、ぼっちは肝座ってるからね? 常に教室の住みに座ってられるもん」
いろは「やっぱり怖いんでしょー、先輩? だいじょーぶです、わたしが手を握ってあげますから!」
八幡「いらねぇから……」
結衣「で、でも、肝試しって誰が用意してるの?」
雪乃「姉さんよ」
八幡「あの人、暇なの?」
いとは「いいじゃないですかー。やっぱなにかイベントがないと!」
八幡「暑い。暗い。ここでのんびり読書してるのが志向。マッカンがあるとなおよし」
いろは「でもー、陽乃さん? でしたっけ? あの人の意向に背くのってまずくないです?」
八幡「ぐっ……」
いろは「学園祭の時も思いましたけど、あの人、下手に刺激すると怖そうですけどー」
雪乃「あら、姉さんの裏の顔、見抜いたのかしら?」
いろは「まぁ、わたしも似たようなもんですし……あはは」
八幡「いや、雪ノ下姉……要するに姉の下はお前の比じゃないぞ」
雪乃「そうね。同意せざるを得ないわ」
結衣「たはは……でも行こうよ! 想い出になるもん……ヒッキー、ダメ、かな?」
いろは「ここで断ったら先輩、最低ですよ?」ジーッ
雪乃「そうね。目だけじゃなく根性まで腐ったらもう、生ごみのほうがよほど存在価値があるわ」
八幡「はぁ……わかったよ。んで、行くなら行こうぜ。さっさと行こうぜ」
いろは「やる気出したらやたらと積極的ですよね、先輩」
雪乃「この男のそれは違うわ。早く終わらせたいだけよ」
八幡「よくわかってんな、お前。さすがはユキペディア先生」
結衣「えーっと、開始地点はこの別荘でいいみたい。近くの神社まで行って、証拠としてあらかじめ設置している缶バッチを取ってくるようにってさ」
いろは「加えて、必ずペアで行くこと……ということですけどぉ」
いろは「当然、わたしは先輩とペアですよね?」
結衣「えっ、い、いやー、ここはあたしが受け持つよ! ほ、ほら、ヒッキーが途中で帰らないように監視しないとだし!」
雪乃「そういうことであれば、私が適任ではないかしら。この男があなたたちに危害を加えないとは限らないもの」
いろは「わたしぃ、先輩と組みたいですぅ」
八幡「なにこの後輩、あざとい。可愛い仕草はやめろ、勘違いするぞ? いいのか? ああん?」
雪乃「斬新な脅しね……」
結衣「埒が明かないよこれ……」
八幡「おお、すげぇ。由比ヶ浜が難しい言葉使ってる」
結衣「バカにしすぎだからぁ!」
いろは「で、どうします? 先輩が誰と行きたいかを決めれば話が早いんじゃないです?」
八幡「やめろ。全ての責任を俺に負わせるんじゃない」
結衣「ひ、ヒッキーは誰を選ぶのかなぁ……」
八幡「なに? なんでマジで俺が選ぶ立場みたいになってんの?」
雪乃「そうね……早くしないとどんどん夜が更けるし、早めにしてちょうだい」
八幡「くそっ……待ってろ、鉛筆買ってくる」
いろは「受験のやつやる気ですね?」
八幡「なんでバレるの? 経験者?」
いろは「ま、なんでもいいですけどー。鉛筆ならそこにありますし、使えばいいじゃないですか」
八幡「あ、そうね……」
八幡「数字書いて転がして……っと」
1,2→いろは
3,4→結衣
5,6→雪乃
コロコロコロコロ……
コロコロコロコロ…
…………
八幡「2、だな」
いろは「ほら、やっぱりわたしじゃないですか♪」
八幡「誠に遺憾ではあるが、鉛筆が決めたんじゃ仕方がない」
いろは「そんなにわたしは嫌ですかぁ……そうですか……」
八幡「……ちっ、なんだ、その……あれだ。あんまり可愛い子と一緒にいると、緊張すんだよ」
八幡(まぁ、見てくれのこと言っちゃうと、ここの3人全員、美少女なんだけどね! 加えて俺もメガネかけてたらイケメンだから、なにこのリア充集団)
いろは「……っ! な、なんですかそれ口説いてるんですか。あわよくば暗闇にかこつけてラッキースケベ狙ってるとか甘いですからごめんなさい」
八幡「お前、妄想癖でもあんの?」
結衣「ゆきのん! この2人ほっといて、先に行こ!」
雪乃「ええ、そうね由比ヶ浜さん」
【一日目の夜、やはり定番を遵守する】 終
いろは「ねぇ、先輩?」
八幡「なんだよ」
いろは「結衣先輩たち、遅くありません?」
八幡「道程は距離にして2kmほど。決して短い距離じゃない。5分やそこらで戻ってくるわけねーだろ」
いろは「えー? まだ5分しか経ってないんですかぁー?」
八幡「時計見ろよ時計。お前らお得意のケータイがあるだろうが、ケータイが」
いろは「ケータイは、充電中です♪」
八幡「ねぇ、携帯って言葉知ってる? 必要な時に持ってこないでどうするわけ? 必要な時にそこにないとか、なにそれテレビのリモコンみたいじゃん」
いろは「あー、確かに。で、結局手でスイッチ入れたら出てくるんですよねー」
八幡「それアグリー」
いろは「でも別に、2人が戻ってくるの待つ必要なくないです? ほら、往復してると結構な時間じゃないですかー」
八幡「いや……仮に俺らが出発して、戻ってくるあいつらに出くわしてみろ。俺の顔であいつらの恐怖値が振りきれるぞ」
いろは「どんだけ自分の顔にマイナスの自信持ってるんですか……だいじょーぶですよぉー、先輩はカッコイイです♪」ダキッ
八幡「ちょ、暗闇ではやめろ」
いろは「暗闇じゃなかったらいいんですかぁー?」
八幡「そういうことじゃねーよ」
いろは「わたしー、怖いですぅ。チョベコワですぅー」
八幡「要するに超ベリー怖いってか? お前のその造語はなんなんだよ」
いろは「ともかく……実際のとこ、早く行って早く終わらしちゃったほうがいいんじゃありません? 先輩的にも」
八幡「あー、もうわかったよ。わかったからとりあえず離せ」
いろは「ちぇー。わかりましたよー」
八幡「ほら、行くぞ」
――――――
――――
――
八幡「しっかし、なんの意味があるんだ……進んでも進んでも、それらしい仕掛けが一切ねぇ」
いろは「そうですねー。せいぜい、お墓があったくらい?」
八幡「え、墓なんかあったの? なにそれ八幡怖い」
いろは「気づいてなかったんですか……ところでなんですかそのキャラ。八幡キモい」
八幡「言い過ぎだからぁ!」
いろは「あっはは、それ結衣先輩の真似です?」
八幡「はぁ……バカやってないでとっとと缶バッチ取ってくるか」
八幡「しかしほんと、意味がわからん……まぁ陽乃さんの考えが読めないのはいつものことだが」
八幡「わざわざ仕掛けもない肝試しをさせるとか……不毛だ。いや、不幸だー!」
いろは(なんとなく、わたしにはわかる)
いろは(これは、陽乃さんが用意した肝試しなんだ)
いろは「肝試し、ですよ」ボソッ
八幡「ん? なんか言った?」
いろは「難聴系主人公乙」
八幡「よく知ってたな……」
いろは「自分の興味ないことでも、場合によってはちゃんと知識を蓄える必要があるんですよー」
いろは(話題を広げたい人の得意分野とか……知ってないと、ね)
八幡「ま、それは概ね同意だな。コミュニケーションにおいて、相手の土俵に立ってやるのは話を円滑に進める一番の方法だ」
いろは「でも先輩、ぼっちじゃないですかー」
八幡「オチを取るんじゃねぇ」
いろは「あ、先輩先輩。見えてきましたよ、あれじゃないですー?」
八幡「結局、雪ノ下と由比ヶ浜にはエンカウントしなかったか……どれどれ、缶バッチは……と。あった、これか」
いろは「……? なんでしょう、このキャラ……」
八幡「…………わからん。だが言いようのない不安が襲ってくるような、恐怖を具現化したようなキャラクターだな」
八幡「おそらく、あの人の嫌がらせだ」
いろは「なるほどー……ね、先輩」クイッ
八幡「なんだよ、袖引っ張んな。霊的な何かに連れて行かれそうになったのかと錯覚しちまったじゃねーか」
いろは「先輩は、本物って何かわかります?」
八幡「は……?」
いろは「陽乃さんって、凄く美人でスタイルもよくて。しかも頭脳明晰で、人望も厚かったんですよね?」
八幡「ああ……そうらしいな」
いろは「でも、それって全部、陽乃さん自身が作り上げた偽物の仮面ですよね。自分しか作り方を知らず、自分しか着け方を知らず、自分すら脱ぎ方を知らないような、精巧な仮面。雪ノ下陽乃という、完璧に見える人間の模型」
八幡「……」
いろは「先輩は、その外面を知ってなお、他者を遠ざけようとしませんよね」
八幡「……なに、言ってんだか。俺は孤独と小町とマッカンをこよなく愛してるんだぞ」
いろは「それは、先輩が作り上げた先輩自身の仮面、ですよね」
八幡「……」
いろは「感情が本当でも……いえ、本当であればあるだけ、先輩は表に出しません。小町ちゃんやマッカンに対する気持ちは本当であっても、隠したい本物を隠す仮面に成り得るんです」
八幡「さっきからお前、何が言いたい」
いろは「怒らないでください、先輩。わたしは先輩を怒らせたいんじゃないんです」
八幡「だったら……早く、戻るぞ」
いろは「いえ、戻りません。もう少しだけ、話をしましょう」
いろは(そう。これは、作り上げられた機会だから)
いろは「わたしは今、肝試しをしているんです」
八幡「…………そうか。俺はもう、怖いのは懲り懲りだ。とっとと帰らせてくれ」
いろは「そうやって、逃げないでくださいよ。本当に本物が欲しいなら、逃げずにぶつかってください」
いろは「先輩、言ってましたっけ。一番怖いのは人間だ、とか」
八幡「……ああ、その通りだと思うぞ」
いろは「わたしも同意です。だからわたしは肝を試すことにしました」
いろは「先輩。わたしは、先輩を射抜きます」
八幡「なに? 俺、死んじゃうの?」
八幡「怖いのは……お前だよ、ほんと」
いろは「怖いのは懲り懲り、なんて言わず。先輩も、肝試ししてくださいよ。ね?」
八幡「…………はぁ。考えとく」
いろは「今はまだ、それでいいと思いますよー♪」ダキッ
いろは(だって、まだ)
八幡「あー、もう、だからくっつくな! 暑い歩きにくい! 小町だったらポイント振りきってるけど、お前からはあざとさしか伝わってこん!」
いろは「えー、いいじゃないですか。可愛い後輩に慕われてて♪ ……あ、慕ってると言っても、それは生徒会の手伝いとかの恩義があるって意味で、そっちの意味じゃないのでごめんなさい」
八幡「ついに俺が何も言わずとも振られるようになっちまったか……」
いろは「あははー♪」
いろは(わたしも、本物かどうか、わかっていないのだから――――)
【そして彼女は肝を試す】 終
~時は7月7日~
いろは「っべーですよ、先輩! っべー♪」
八幡「うわ、うざい、帰れ」
いろは「可愛い後輩がわざわざ会いに来たというのに!?」
八幡「なんでわざわざ下校後、家まで訪ねて来るんだよ……なに、嫌がらせ?」
いろは「あれ、小町ちゃんにはメールしたんですけどぉ」
八幡「小町のやつ……急に買い物に行くなんて言い出したのはそれでか……」
いろは「わたしたちが二人っきりになれるように、気を遣ってくれたんですねー」
八幡「いや、そうじゃない断じて違う。むしろ俺と小町が二人っきりになるために、わざわざ外出したんだ。つまり俺は小町の意図を読み、今から買い物に行かねばならないからそろそろお暇してくれ、一色」
いろは「嫌です♪」
八幡「よく考えたら、小町の行き先知らねぇ……」
いろは「おじゃましまーす♪」
八幡「邪魔するんなら帰ってー」
いろは「は?」
八幡「今どきの子は知らないのね……八幡的にポイント低い」
いろは「どうでもいいですけど……ところで先輩、今日は何の日か知ってるか?」
八幡「小町の飯を、俺がいいねと言ったから。7月7日は小町記念日だ」
いろは「いや、七夕ですけど」
八幡「なぁ、今日の一色、冷たくない? あっ、一色が俺に暖かい日なんてなかったわ。むしろ俺ってば目が腐ってるから、ゾンビと体温変わらないまである。暖めても無駄だ」
いろは「自己完結しないでくださいよ……で、っべーんですよ、先輩」
八幡「ああ、それで最初に繋がるのね。で、何がやばいんだよ。今度はなにやらかしたんだよ」
いろは「いつもわたしがやらかしてるみたいな言い方しないでもらえます? いやぁ、さっき帰ってる時にですね、今日が七夕だって気が付きまして。短冊とか全然用意してなかったんですよー」
八幡「そうか。なら文具屋行って来い。はい、奉仕部活動、残業の部終了のお知らせ」
いろは「そういうことじゃないんですよー。わたし、こう見えて毎年短冊にお願いごとを書いて、笹に吊るすのを恒例にしてまして」
八幡「笹なんて用意できんぞ」
いろは「あっ、そこは大丈夫です。さっき副会長にメールして、準備してもらってます」
八幡(不憫な副会長……友だちになれそうだ)
いろは「せっかくなんで、中庭の一角に置こうと思うんです。七夕当日は今日ですのでちょっと遅ればせながらですけど、明日一日は設置しておいて、自由に短冊を吊るせるようにしようかなって」
八幡「やってることは生徒会っぽいが……翌日だと意味ないんじゃね? ま、自覚してるみたいだけど」
いろは「ま、気分ですよ気分。こういうのは行事にかこつけてワイワイ騒ぐのが目的なんです」
八幡「おお……まさか一色と意見が合う日が来ようとは」
いろは「で、先輩には設置作業を手伝ってもらおうと思いましてー。ほらわたし、頼れる男性って先輩しかいないですしー」
八幡「甘いセリフと上目遣いやめろ。うっかり協力しそうになる」
いろは「えー、ダメなんですかぁー?」
八幡「やだよめんどくさい。そういうのこそ、葉山を頼れよ……」
いろは「葉山先輩は部活で疲れてるので却下です」
八幡「俺だってあれだよ、部活とか勉強とか忙しかったわー。マジ疲れたわー。っべー」
いろは「あ、小町ちゃんからメールだ……はい」
八幡「なんで俺に渡すんだよ……『ごみいちゃんへ。小町は今、夕飯の買い出し中です。ごみいちゃんのこの後の行動次第で、メニューと量が変動します。わかるよね?』だと……?」
いろは「あはっ♪」
八幡「なんだよあいつエスパーなの?」
八幡「はぁ……しゃあねぇ。さっさと終わらせるぞ」
いろは「よろしくおねがいしまーす!」
八幡「何が悲しくて、一日に二度も登校しなきゃなんねぇんだよ……」
いろは「あ、わたしここまで徒歩なんでー。自転車の後ろ、乗せてください♪」
八幡「もう勝手にしろ……」
―学校―
八幡「うわ、これ設置すんの……? 俺1人で?」
いろは「∩(*・∀・*)∩ファイト♪」
八幡「顔文字みたいな顔すんのやめてくんない?」
いろは「可愛くないですかー? あ、設置したら先輩、特別に一番最初に短冊飾っていいですよ」
八幡「いらねぇからその特権……俺が最初に短冊なんて飾ってみろ。「ご利益なさそーう。さいあくー」とか言って、誰も飾らねぇぞ。短冊までもぼっちじゃないですかー、やだー」
いろは「どこまで卑屈なんですか先輩……ほら早く、わたしも手伝いますから」
――――――
――――
――
八幡「はぁ、はぁ……もうこんなもんで、いいだろ……」
いろは「そうですねー、うん、上出来です。 先輩、さっすがー! 頼りになるー♪」
八幡「お前が言うと、なんか偽物臭いんだよなー」
いろは「ひどいっ! では先輩、お待ちかねの願い事タイムですよー」ハイッ
八幡「書かねぇって言ったのに……」
いろは「わたしからの……お願い、です」
八幡「無碍にすると晩飯抜きってか? 俺の人生、詰んでばっかだちくしょう」
いろは「本物が欲しい、とかでいいじゃないですか」
八幡「勘弁して下さい」
いろは「本気の拒否です!? ならもう、早く書いてくださいってー。わたしも書きますし。そうしたらぼっちじゃないでしょ?」
八幡「書くまで帰らせてくれそうにねーな……わーったよ、書くよ」カキカキ
いろは「……じーっ」
八幡「……こっち見ないでよ、エッチ」
いろは「うわっ、先輩キモいです」
八幡「うっせぇ」カキカキ
八幡「ほら、出来たぞ」
いろは「どれどれ……『世界の半分が欲しい』……?」
いろは「また意味不明な……」
八幡「ナチュラルに人の願い事読んでんじゃねぇよ。いいんだよ、わかる奴にはわかるから」
いろは「えー?」
八幡「お前も言ってただろ。こういうのは雰囲気が大事なんだ。ワイワイ騒ぐのが目的なら、おふざけが入っていても問題ない。むしろ役立つまである」
いろは「まぁ、いいですけどー」
いろは「じゃあ、わたしも飾っちゃいますねー」
八幡「自分のは見せねぇのな……興味ねぇけどさ」
いろは「当たり前です。先輩如きに見せられるわけないじゃないですかー」
八幡「そうかい」
いろは「そうです。先輩にだけは、絶対に、見せません」
いろは(だって、わたしの願い事は……)
いろは(『本物がほしい』なんですから)
いろは「帰りましょ、先輩。送ってくださいねー」
八幡「げ、マジかよ」
いろは「とか言いつつ、乗せてくれるあたり先輩ってツンデレですよねー。あ、もしかして口説こうとしてます? ちょっと甘いですねー」
いろは(先輩の願い事、『世界の半分が欲しい』って、多分ゲームのセリフをもじってるよね)
いろは(けど、もしも、もしもだけど)
いろは(自分の取り巻く世界と、誰かの取り巻く世界を足して。その半分を欲しい、なんて意味合いだとしたら)
いろは「面白いかな……とか」
八幡「は? 俺に運搬業させるのが面白いって? やだこの子、末恐ろしい……」
いろは「いや、違いますよー」
いろは(ま、先輩に限ってそんなこと、ないよね)
いろは(だって、先輩は先輩なのだから)
【彼らも例に漏れず、1枚の短冊に願いを込める】 終
結衣「あーあ、もう明日には帰らなきゃなのかー」
八幡「は? なに、お前帰りたくないの? 愛しの小町が待ってるんだぞ?」
結衣「や、それヒッキーだけだし……」
いろは「じゃあじゃあ、わたし、明日の午後は小町ちゃんの家におじゃましますね♪」
八幡「つまりそれ、俺の家じゃん。遠回しに嫌がらせすんのやめてくんない? 昔を思い出すんだけど」
いろは「嫌がらせじゃないですぅー。わたしは、あくまで小町ちゃんの家に行くんですぅー」
八幡「くそ、小町と繋がりを持たれちまったのが運の尽きか……」
雪乃「ついでにあなたは、命の灯火も尽きてしまえばいいのにね」
八幡「小町をおいて死ねん」
雪乃「あなたの生きる意味って小町さんだけなのね……」
八幡「若干引き気味なのやめろ。泣くぞ」
雪乃「若干じゃないわ。全力で引いているもの」
八幡「なお悪いわ」
いろは「あっ、そうだみなさん! わたし、こんなものを用意したんですよー!」バッ
結衣「おおー、花火! いろはちゃんナイスだ! やっはろーだ!」
八幡「やっはろーって褒め言葉なの?」
いろは「想い出に、パーッとやりましょうよパーッと!」
八幡「いや、だがな。夜は暗い」
いろは「暗くないと花火が映えないじゃないですか……」
八幡「それに、虫に刺されるとか嫌じゃん? だから俺としては、クーラーの効いた室内で、のんびり読書をすることを勧めたい」
雪乃「抜かりわないわ。私はこれを用意しておいたから」スッ
八幡「む、虫除けスプレー……なんだよお前、エスパーかなにかなの? ゆきのん怖い」
雪乃「その呼び方を直ちにやめなさい、むし谷くん。虫酸が走るわ。スプレーかけるわよ」
八幡「ナチュラルに俺を虫扱いして、あまつさえ駆除しようとすんのやめてくんない? 虫と無視をかけるとか、一言で俺をうまく表現しすぎだろ。あ、俺って虫なのかもしれない」
いろは「ぷっ……くくく……虫唾が走る、で先輩が走り回ってる姿を想像しちゃいました。どうしてくれるんですか責任とってください」
八幡「ちょっと女子ぃー、八幡くん泣いてんじゃーん。謝りなよー」
結衣「ヒッキーマジキモイ……」
八幡「ゆいゆい、お前までも敵に回るのか」
結衣「ゆいゆい言うなし!」
結衣「で、でも、どうしても呼び方変えたいんなら、ほら、もっと率直でいいんだよ? 結衣、とかさ///」
八幡「なんで俺がお前を呼び捨てにすんだよ。俺が呼び捨てにすんのは、親近感がある相手だけだ。つまり小町だけだ」
いろは「先輩、先輩」
八幡「なんだよ」
いろは「好きな水はなんですか?」
八幡「MAXコーヒー」
いろは「それナシ。好きな水はなんですか?」
八幡「ボルヴィック」
いろは「むー……そこはいろはすでしょう、常識的に考えて」
八幡「俺はボルヴィック派なんだよ。もっとも、ボルヴィック買うならマッカン買うけどな」
いろは「じゃあ、わたしの名前はなんですか?」
八幡「ボルヴィック」
いろは「違いますけど!?」
雪乃「その辺にして、あまり遅くなり過ぎない間に行きましょう」シュー
結衣「ゆきのん、密かに準備万端だし……スプレーまでして。ノリノリじゃん」
雪乃「い、いいじゃないのたまには……」
結衣「そうだね! 滅多にない機会だし!」
いろは「あ、わたしもスプレーします。……はい、結衣先輩も」
結衣「ありがとー、いろはちゃん」
雪乃「じゃ、行きましょうか」
八幡「待て待て、俺、まだスプレーしてない」
雪乃「何を言っているのかしら。あなたがスプレーしたら、死ぬわよ」
八幡「なんで虫の認識のままなの?」
結衣「あはは……はい、ヒッキー」
八幡「おう、サンキュ」
いろは「ではではー、出発です! あ、花火出来そうな場所までの案内はわたしにはムリなのでお任せします」
雪乃「なら、私が案内するわ」
結衣「レッツゴー!」
八幡「めんどくさい……」
――――――
――――
――
いろは「いきますよ、先輩!」
八幡「おう、来い……じゃねぇよ! ねずみ花火投げようとすんな!」
いろは「えー? 完全に点火する前に投げると、すごくよく飛ぶんですよー」
雪乃「一色さん。危ないからやめなさい」
いろは「はーい。でも、先輩に向かってなら……」
雪乃「まぁ……それなら許可するわ」
八幡「いや、許可すんなよ。しっかり止めろよ、保護者」
結衣「打ち上げ花火、いっくよー!」
シューーーーーー…………
ヒュルルルルルルル…………
ドォン!! パラパラパラ…………
結衣「やー、綺麗だねー」
雪乃「そうね」
ドォン!! パラパラパラ…………
結衣「え、2発め!?」
雪乃「ちょうど、近くで花火大会が開かれているようね……ここからだと、よく見えるわ。穴場スポットね」
ドォン!! ドドォン!!
パラパラパラ……
いろは「花火が咲くと、笑顔が咲く、なんて」
八幡「は?」
いろは「ほら、無愛想で目が腐ってる先輩も、少しだけ笑顔じゃないですか」
八幡「……暗くてよく見えねぇだけだろ。俺は至っていつも通りだ」
いろは「もぉ、そういうことにしといてあげます」
ヒュルルルルル…………ドォン!!
結衣「高校最後の夏、なんだよね」
雪乃「ええ、そうね。でも夏は、また来年も来るし、再来年も来るわよ」
結衣「そう……だね。夏は、必ず来る。その時また、私達も同じ様にいられるのかな? ね、ヒッキー」
八幡「同じだなんてありえねぇだろ。歳も取れば、考え方も変わる」
いろは「そういうことじゃないと思うんですけどねー、いろは的に。わたしとしては、来年も再来年も……また、こうして花火を見られたらいいなって思います」
八幡「花火くらい、見ればいい。お前なら付き合ってくれるやつ、いくらでもいるだろうが」
いろは「……はい。歳を取って、考え方が変わらなければ、ですけどね」
雪乃「私は……」
結衣「ゆきのん?」
雪乃「……い、いえ、なんでもないの。ただ……」
雪乃「た、楽しいって、こういうことなのね、と///」
結衣「ゆきのーん!」ダキッ
雪乃「あ、暑いわ由比ヶ浜さん」
結衣「でも、離さないからね!」
雪乃「はぁ……仕方のない人ね」
いろは「先輩、先輩」
八幡「なんだ」
いろは「わたしも、結衣先輩の真似してもいいですかねー?」
八幡「別にいいんじゃね? 雪ノ下のやつ、本気で嫌がっているわけじゃねぇし」
いろは「じゃあ、お言葉に甘えて♪」ダキッ
八幡「なっ……!」
結衣「ええっ……!?」
雪乃「……へぇ」
いろは「ふふーん♪ 先輩、いいって言いましたもんねー?」
八幡「いや、俺に抱きついていいなんて一言も言ってねぇだろ、離しやがれ」
いろは「わたしも、結衣先輩の真似するとは言いましたけど、誰に抱きつくかなんて一言も言ってませんよー? 確認せずに許可したのは先輩です。だから離しません」
八幡「ばっかお前、勘違いするぞこら」
いろは「しませんよ。先輩は、勘違いなんてしません」
いろは「……本気で嫌なら、離します」
八幡「そういう言い方はずるいだろ……あざとい」
いろは「それは、拒否ですか? それとも」
八幡「はぁ……何言っても無駄だろ。適当なとこで離れろよ」
いろは「先輩のそのお兄ちゃんスキル、わたしにとっては結構ポイント高いですよ♪」
ドォン!!
パラパラパラ……
結衣「いいなぁ、いろはちゃん……」ボソッ
雪乃「由比ヶ浜さん?」
結衣「あっ、な、なんでもないの!」
雪乃「……由比ヶ浜さん。あなたの周囲のバランスを整えるそのスキル、とても魅力的だと思うわ。けれど、けれどね」
雪乃「あなたも、周囲を振り回すくらいに我儘を言っていいのよ」
結衣「ゆきのん……」
ドォン!! ドォン!!
パラパラパラパラパラ…………
結衣「うん。ありがと、ゆきのん♪」
雪乃「さて、あなた達。目障りにいちゃつくのも大概にして、残った花火を使ってしまいましょう」
八幡「別にいちゃついてねぇよ。俺を勝手にリア充にすんな」
いろは「こーんな可愛い女の子3人と旅行に来てて、なお自分がリア充じゃないなんて言いはりますかねー、このごみいちゃんは」
八幡「お前の兄になったつもりなどない。俺の妹は小町だけであり、小町だからこそ妹であれるのだ。小町が小町である所以こそ、小町が妹である理由なのだ」
いろは「ちょっと意味がわかりません」バッ
八幡「おい、なんでそのタイミングで離れるんだ。引かれてるみたいで傷つくんだけど」
いろは「いや、引いてますもん」
結衣「うん、ヒッキーマジキモイ!」
雪乃「さて……残った虫除けスプレーも使いきってしまいましょうか。ちょうど大きな虫がいることだし」
八幡「まさかとは思うけど、俺のことじゃないよね? 視認できるかぎり、俺しか虫いないんだけど」
いろは「もう自分で認めてるじゃないですかー」
八幡「黙れボルヴィック」
いろは「いや、違いますからね!?」
八幡「はぁ……よし、次で最後の花火だな」
結衣「線香花火! 儚くて綺麗だよねー」
八幡「ああ、確かに儚いな。人の夢と書いて儚いんだ。つまり夢見ている人間なんざ、儚く散る運命にある。夢見てない俺が最強という理論が成り立つわけだ」
雪乃「あなた、専業主夫を夢見てるじゃないの」
八幡「ゆ、夢なんかじゃねーし。現実的だし」
雪乃「まぁ、いいけれど」
いろは「ではでは、みなさん線香花火は持ちましたね! 誰が一番長く点けていられるか、勝負です!」
結衣「いいね! 負けないし!」
――――――
――――
――
結衣「あー、もう落ちちゃった……綺麗だったのになぁ」
いろは「結衣先輩、落ち着かなさすぎですもん……あ、わたしのも落ちた」
雪乃「……」
八幡「……」
結衣「うわ、二人共本気だ……」
いろは「相変わらず、勝負事となると……」
雪乃「……あ」
八幡「……ふっ」
いろは「あ、先輩の勝ちです」
雪乃「くっ……虫に負けるなんて」
結衣「でもヒッキー何気に凄くない? 落ちることなく鎮火したし」
八幡「線香花火の生存率で俺に勝てる奴などいない。なぜなら線香花火に俺の存在を認識させないことで、落ちるという儚さを見せる相手がいないと錯覚させることが出来るからだ」
いろは「先輩の謎理論はともかく……なぜか納得できてしまいそうなこの感じはなんでしょう」
雪乃「さて。それじゃあ帰りましょうか」
結衣「うん、じゃあ片付けよう!」
【そして、旅行最終日の夜を迎える】 終
いろは「来てそうそうですが先輩、ガチでやばくないです?」
八幡「何がだよ……」
いろは「いや、夏休みなのにわざわざ生徒会の仕事手伝ってもらってて恐縮なんですけどね」
八幡「ほんと恐縮だよ。ったく、旅行前は終わってたなんて言ってたのによ……」
いろは「終わったなんて言ってません。ある程度落ち着けたと言っただけです。たまたまひとつだけ、納期が今日までだったんです」
八幡「屁理屈こねやがって……」
いろは「先輩にだけは言われたくないですぅー」
いろは「てか先輩、本気でやばいと思うんですよ」
八幡「生徒会活動……じゃねぇな。台風だろ? 実際、もうそろそろ切り上げて帰らないと本格的に強くなるぞ」
いろは「ですよねぇー。もう雨降り始めてますし、風も強くなりつつあって……」
八幡「お前、天気予報くらいみろよ……こんな日に生徒会活動とか正気の沙汰じゃねぇ。社畜根性たくましすぎだろ」
いろは「とか言いつつ、先輩も来てるじゃないですか♪ あ、もしかしてわたしが心配で? 吊り橋効果的なの狙うのやめてください、ずるいです」
八幡「はぁ……アホ。すでに学校にいますなんて言われて、ほっとけるわけねぇだろうが……」
いろは「あ……す、すみません……」
八幡「……ったく。とりあえず、今日はもういいだろ? 帰るぞ」
いろは「そうですねぇ……そうしたいんですけどねぇ……」
いろは「実はわたしが旅行中に、両親が旅行に行きまして」
いろは「もちろん、スペアの鍵は持ってたんですけど」
いろは「無くしました」
八幡「……待て。理解が追いつかん」
いろは「では、お馬鹿な先輩にもわかりやすいように、噛み砕きましょーう」
いろは「家に帰れなくなりました」
八幡「……さすがに冗談だよな?」
八幡「つまりなにか? 事実上の一人暮らし状態で」
八幡「生徒会の納期を思い出して、台風だとも知らず学校に来て」
八幡「鍵を紛失した、と」
いろは「さっすが先輩! 国語学年3位の理解力は伊達じゃないですね♪」
八幡「よしわかった。達者に生きろ、一色」
いろは「先輩薄情すぎません!? わたしと一緒に、台風が過ぎるまでここで待ちましょうよー」
八幡「無茶言うな。早くても丸1日はかかるだろうが」
いろは「えー? 確かに、夏休みなんで食料とかなにもないですけどぉー」
八幡「こんなとこにいられるか! 俺は帰るぞ!」
いろは「先輩、知ってますか? それは死亡フラグっていうんですよ」
《ピンポンパンポーン 台風が近づいているため、校内に残っている生徒がいたら、即刻帰れ! いいな!》
八幡「今の、平塚先生か……まぁそりゃ、帰宅命令出るわな」
いろは「どうしましょう、先輩……」
八幡「鍵を探す時間もなく、台風はもう間近……ちくしょう」
八幡「万事、休すか……っ!」
いろは「なんで諦めたんです!? ホントは先輩から言ってもらいたかったですけど……仕方ないです」
いろは「先輩。真面目に言います」
いろは「先輩の家に泊めてください」
八幡「…………あー、くそ」
八幡「お前は、小町の家に泊まるんだ」
八幡「わかったな?」
いろは「あっ……了解です、先輩♪」
八幡「さて、そうと決まったら平塚先生に車出してもらうぞ。もう歩いて帰るのは危ねぇ」
いろは「でも先輩、自転車は?」
八幡「んなもん、また改めて取りに来ればいい。今の安全が第一だ」
八幡「帰るぞ」
いろは「はーい♪」
【災害はいつも唐突に迫り来る】 終
平塚「ったく……お前ら、人を足に使いおって」
八幡「生徒の安全を守るのは教師の本文じゃありませんか」
平塚「ま、その通りだ。時に一色。君はこれからこの比企谷の家に泊まるらしいが、決して間違いを犯すんじゃないぞ」
いろは「間違いってぇ、なんですかぁ? わたしぃ、わかりませーん」
平塚「……その調子なら心配はないか。比企谷妹もいることだし」
平塚「私は戻る。くれぐれも外出などしないよう、自宅でおとなしくしているんだぞ。わかったな?」
いろは「はーい♪」
ブロロロロロロロ……
八幡「行ったか」
いろは「ではではー、おじゃましまーす♪」
八幡「小町ー。愛しの兄が帰宅したぞー」
いろは「うわっ、先輩、いつもそんなこと言ってるんですか? キモいんで家の中に入らないでもらえます?」
八幡「残念だったな、ここは小町の家であり、俺の家でもある。もっと言えば俺の両親の家である。あれ、俺みたいな穀潰しは出て行ったほうがいい気がしてきた」
いろは「ところで、小町ちゃんの返事がないみたいですけど?」
八幡「ん? ……あ、メール来てる」
小町《友達の家にお泊りします♪》
八幡「oh……shit」
いろは「これは……あー、なんでしょう、どうしましょう先輩。やりましたね、二人きりですね(混乱)」
八幡「や、流石にまずいだろ……」
いろは「でも、雨も風も本格的になってますし……暴風域に突入したみたいです」
八幡「……」
いろは「……」
いろは「…………先輩。わたし、覚悟決めました」
八幡「待て、死ぬにはまだ早い。ゆえにその覚悟はまだいらない」
いろは「このまま、予定通り泊めてください、です」
八幡「はぁ……間違っても今後、このことをうっかり口を滑らすな。一晩もすれば台風は過ぎるだろうから、小町が帰ってくる前に迅速に帰るように」
いろは「了解です!」
いろは「先輩……ありがとうございます」
八幡「ま、ここまで来て帰れも言えんからな」
いろは「あっ!」
八幡「なっ、なんだよ」
いろは「着替え、どうしましょう……その、小町ちゃんのを借りるつもりだったので」
八幡「……小町の服を勝手に漁ると、証拠が残って問い詰められるな。下手したら家族会議に発展し、俺は間違いなく家を追い出されるだろう」
いろは「そこは自信持ってるんですね……じゃあまぁ、仕方ないですね。先輩のジャージでも貸してください♪」
八幡「嫌だ」
いろは「即答!?」
八幡「大体、お前だって嫌だろうが。さして仲良くもない男の服を借りるなんざ」
いろは「仲良くないって、先輩それ、本気で言ってます? ……ともかく、貸してください。制服のまま一日なんて嫌です。この際、背に腹は代えられないのです」
八幡「しかしだな……」
いろは「先輩、忘れてはないでしょうね? わたし、先輩になんでも言うことを聞いてもらう権利を持ってるんですよ? しかも2つ」
八幡「権力を盾に脅す気か! 俺は権力には屈しないぞ、絶対に!」
いろは「じゃ、ひとまず1つ行使で。旅行の時のゲームでもらった権利を施行しまーす。今日1日、先輩はわたしの希望を叶えるように」
八幡「くっ……」
いろは「何度でも言うことを聞いてください……みたいなお願いじゃないだけいいと思いません?」
八幡「お前ってほんと、俺に対して遠慮ないよな」
いろは「え、先輩って蟻が横断してるからって、わざわざ止まって待つタイプなんですか?」
八幡「さりげなく虫扱いしないでくれる? 俺ってば虫除けスプレーでもノーダメージだったからな」
いろは「とりあえず先輩。そういえばわたし、ご飯食べてなかったんですよ」
八幡「そうか」
いろは「作ってください♪」
八幡「だが断る」
いろは「いいんですか? 手が滑ってつい、結衣先輩に今の状況を自慢メールしちゃうかもしれませんけど?」
八幡「お、脅しには屈しない……」
いろは「えーっと、雪乃さんの電話番号は……」
八幡「パスタでいいか? いいな? 異論は認めない」
いろは「はーい♪ ありがとうございます、先輩。先輩最高です♪」
八幡「はいはいあざといあざとい」
――――――
――――
――
いろは「いただきまーす」
八幡「おう」
いろは「もぐもぐ……おお、思いの外クオリティの高い茹で加減ですね」
八幡「伊達に主夫希望やってねぇよ。……ってか、パスタ茹でるくらい、そんな難しいもんでもないだろ」
いろは「いやー、プロの人は絶対違いますよ、絶対。同じ食材違って同じ調理方法使って、レベルの違う料理が出来上がると思うのです」
八幡「そうだろうけどよ。ただ、俺もプロの主夫を目指してるからな」
いろは「なんか自信満々に言うから説得力ありますけど、冷静に考えたらヒモになりたいってことですよね?」
八幡「謝れ! 全国の主夫の皆々様に謝れ! 彼らはそんなつもりはない、断じてだ!」
八幡「ただし、俺はヒモになりたい」
いろは「よくわかりました、先輩が最低でした」
八幡「さっき最高とか言ってたじゃねぇかよ……」
いろは「あれはその場の流れです。あ、もしかして勘違いしちゃいました? 二人きりで同じ屋根の下だからって、やらしいこと出来るとか思わないでくださいよいやらしい」
八幡「思ってねぇよ!?」
いろは「あ、食べ終わったらお風呂貸してくださいね」
八幡「ほんと遠慮がないなお前……風呂ならもう入れてる」
いろは「さっすが先輩、伊達に主夫希望じゃない♪」
八幡「さっすがいろはす、伊達にあざはすじゃない♪」
いろは「は?」
八幡「だからガチの威圧やめろって……」
――――――
――――
――
いろは「せんぱーい。お風呂、ありがとうございましたぁー」
八幡「お、おう」
八幡(用意はしたが、ほんとに俺のジャージ着てるし……それになんだよ、なんでこんなにいい匂いするの? この子石鹸かなにかなの?)
いろは「先輩も入ってきたらどうです? お湯張り直しておいたんで」
八幡「暗に俺に後で入られるのは嫌だって意思表示やめてくんない? 一時期の小町みたいじゃん」
いろは「冗談ですよー、冗談」
八幡「ったく……ちょっくら行ってくらぁ」
八幡(風呂あがりの火照った体。妙に艶めかしい姿と、濡れた髪の毛が凄くこう、女の子を感じさせる。一色のくせに生意気だ)
八幡「ドライヤー、そこに置いといたから。使え」
いろは「あ、ありがとうございますー」
――――――
――――
――
いろは「あ、先輩おかえりなさい」
八幡「お、おう」
八幡(なんで? なんでこの子、ジャージ着崩してるの? いろいろ危ないものが見えそうなんだけど?」
いろは「? 先輩? 何見てるんです?」
八幡「肩口にあるピンク色のヒモなんて見ていない。断じてだ」
いろは「……はっ! ちょ、ちょっと先輩、ガチで変態ですかキモすぎです何見てるんですかあっち行ってください! もぉー、サイズが合わないから油断した……///」
いろは(見えてもいいような下着だけど……でも、見られたいわけじゃないし/// さすがに恥ずかしいし……)
いろは(ってか、先輩も見えてても知らないふりしてくれればいいじゃん! なんでこんな時だけ知らないふりしないの!?)
八幡「す、すまん……」
いろは「いえ、こちらこそ……先輩、先輩」ポンポン
八幡「なんだ? お前が叩いているそれは、ソファだ」
いろは「や、知ってますよ。隣、どうぞー」
八幡「なに? なにか企んでるの? お母さん、お父さん……僕、詐欺に遭いそうです」
いろは「そんなことしませんけど!? いいから、早く座ってくださいよー」
八幡「はぁ……わーったよ」
八幡(近い……なんのフラグだこれ? 死亡フラグ?)
いろは「風、強くなってきましたねぇ……」
八幡「かなり強い台風らしいな。こういう日は早めに寝ちまうに限る」
いろは「えー? せっかくのお泊り会なのに、早寝とかナンセンスですよぉー」
八幡「お前と二人で何しろってんだよ……」
いろは「ナニしろって……や、やだ、先輩何想像してるんですか!? 不純です! 不純です! 不純物です!」
八幡「不純物は否定しないが、お前の思考回路のほうが不純なんじゃね?」
いろは「ちょっと舞い上がってるみたいですねー。先輩とお泊り、楽しくって」
八幡「は?」
いろは「た、確かに、緊張はするんですけど……///」
八幡(なにこの子の表情。あざとい)
いろは「でも、それ以上に楽しいなって思うんです。そしてそれ以上に、寂しいなって思うんです」
八幡「寂しい?」
いろは「はい。先輩とこうしていられるのも、もう半年ないんだなーって思ってしまうんです」
いろは「結衣先輩や、雪ノ下先輩もそうです。わたしにとって皆さんは1年早く生まれてきていて、1年早くいろいろ経験をしています。そして1年早く、今の居場所から去ってしまいます」
八幡「好きで早く生まれたんじゃねぇけどな」
いろは「わたしも、好きで遅く生まれたんじゃないです。選べるなら、同じ年齢に生まれたかった。同じ土俵に立ちたかったです」
八幡「お前がお前じゃなかったら……関わりがなかったと思うぞ」
八幡「お前があざとい後輩で、葉山に憧れていて。俺が腐った先輩で、無理やり奉仕部にぶち込まれて。一つでも歯車が違っていたら、ここにはいなかった」
いろは「そうですね……でも、わたしは。わたしも、先輩の青春の一部に……」
八幡「一色。あー、なんて言うかだな。前も言ったが、お前もすでに、無くてはならない存在だ。由比ヶ浜も雪ノ下も、お前のことを可愛がっている。おそらく、お前の本性なんざとっくに理解した上で、だ」
いろは「……」
八幡「小町もそうだ。お前という先輩の存在は、あいつにとっても必要になっている」
八幡「俺に青春なんざ存在しているとは思えんが……なんだ。お前は俺の青春の一部だろ、それが正しいか間違っているかはともかくとして」
いろは「先輩……」
いろは「ねぇ、先輩」ズイッ
八幡「な、なんだよ……ちけぇよ」
いろは「もしもわたしが、このまま迫ってきたらどうします?」
八幡「は、はぁ!?」
いろは「ブラはもう取りました。見えてしまうので。つまり先輩の服1枚を隔てているだけです。このまま抱きついたら、どうですかね……?」
八幡「い、いやいやいや。お前何やってんの? 馬鹿なの?」
いろは「バカでもいいです。バカなりの考えがありますので」
八幡「そ、そういうのは葉山にしろ」
いろは「先輩、気づかないフリはもういいんです。そんなことを続けていると、先輩の青春は間違ったまま終わってしまいます」
八幡「だが、俺は……」
いろは「逃げる必要はないんです、先輩。女の子は強いんですから」
八幡「……もう寝ろ、一色」
いろは「えー、寝るのは勿体無くないです? まだ21時ですよ?」
いろは「ゲームとか、ないですか?」
八幡「あるけど……」
いろは「あー、でも先輩って複数人でのゲーム持ってなさそう」
八幡「ばっかお前、ぼっち舐めんなよ? パーティーゲーを一人でやりこんで、いざというときに敵なし。よってさらに友人がいなくなるまであるんだぞ」
いろは「なんの自慢ですか……ま、いいです。今夜は寝かせませんよ♪」
八幡「……今日一日、強制的に言うこと聞く約束させられてたな」
八幡「わかったよ。ただな、一色」
いろは「なんですー?」
八幡「そ、そこに放置したままのブラ、なんとかしやがれ……なんでほんとに取ってんだよ」
いろは「あ……/// せ、先輩の変態! 最低! 穀潰し!」
八幡「あらん限りの罵倒やめろ!? お前が悪いんだろ!」
【やはり彼の青春ラブコメは間違うのだろうか】 終
いろは「先輩のエッチ……サイテーです」
八幡「まだ言うか……俺は悪くねぇ! つーかマジで寝させないつもりか? もう日付変わるんだけど」
いろは「いいじゃないですかー。どうせ夏休みで明日も休みなんですしー」
八幡「夏休みだからって、不規則な生活リズムだといざ学校に戻った時にきついんだぞ。だから俺はきっちり寝るようにしている。お前は当然知らないだろうが、いつも3時には寝てる」
いろは「あー……ん? いや、3時って不規則じゃないです!?」
八幡「ふっ、甘いな一色。3時に寝て7時に起きる。規則的だ」
いろは「また屁理屈を……てか先輩」
八幡「なんだよ」
いろは「小町ちゃん、友達の家にお泊りなんですよね?」
八幡「ああ、そうだ」
いろは「二人っきり……ですね///」
八幡「やめろ。その頬を染めるのをやめろ。つーか最初に言っただろ!?」
いろは「ああはい、そうですね。ところで、お腹すきません? お菓子パーティーしましょうよ、お菓子パーティー」
八幡「は?」
いろは「こんなこともあろうかと思って、ちゃーんと用意しておいたんです!」
八幡「いつ用意したんだよ、準備よすぎだろ……」
いろは「飲み物もいくつか……」ゴソゴソ
いろは「先輩、どっちがいいか声に出して言ってください!」
右手→いろはす
左手→いろはす
八幡「両手とも同じ飲み物じゃねぇか。っつーか水じゃねぇか、なに意識高い系なの?」
いろは「なんなら、真ん中のいろはすでも可」
八幡「なんだよ真ん中のいろはすって。お前、飲み物出るの?」
いろは「出るわけないじゃないですか。あ、もしかして今のって遠回しにお前を味わいたい的な口説き文句でしたか? やめてくださいもう少し直球にしましょうわかりにくいです」
八幡「お前、妄想たくましいな。小説家にでもなればいいと思うぞ」
いろは「で、どっちにします?」
八幡「いろは」
いろは「へっ!?」
八幡「……俺はマッカンの買い置きがある」
八幡「そしてお菓子もある。チュッパチャッ◯スだ」
いろは「先輩、チュッパ◯ャップス好きでしたっけ?」
八幡「いや……まぁ、飴玉って長持ちするから」
いろは「いろんな味ありますよねー、チュッ◯チャップス。先輩、何味が好きなんです」
八幡「プリン」
いろは「え、プリン……?」
八幡「ガチで引くのやめろ」
いろは「わたし、プリン味はいい思い出がなくて……遠足のバスの中で舐めてたら車酔いしました」
八幡「車酔いの原因の一つは匂いだぞ。むしろ匂いこそ車酔いの原因の最たるものと言っても過言ではないほどだ。まぁ俺の持論だけどな」
八幡「甘ったるいプリン味や、脂っこいサラミなんかは車酔いの大敵だ」
いろは「なんでそんなに詳しいんですか……実体験?」
八幡「まぁそんなところだ」
いろは「なら、なんでプリン好きなんです?」
八幡「いや、嘘だもんよ。まぁ強いて言うなら、コーヒー系統の味だな」
いろは「ですかー。で、今は何味があるんです?」
八幡「プリン」
いろは「なんですその謎のプリン押し!?」
八幡「で、しないのかよ」
いろは「?」
八幡「お菓子パーティー。ほら、チ◯ッパチャップス持ってきたぞ」
いろは「うわ、ほんとにプリンばっかり……あ、なんですかこの味。ロイヤルミルクティ?」
八幡「あー……いつだったか入手したなそれ」
いろは「じゃあわたし、これにします!」ヒョイパクッ
八幡「いいけどよ……美味いのか、それ?」
いろは「んー……まぁ普通に」
八幡「あ、そう」パクッ
いろは「プリン味食べるんですね、結局」
八幡「持ってきたのに食べないとか、俺は馬鹿なのかな。移動した分のカロリー補給は不可欠だろ」
いろは「カロリー補給目的に食べるものじゃないと思いますけどー」
いろは(……あ、いいこと思いついた)
いろは「……先輩、先輩」
八幡「なんだよ。まだ俺が飴食べてんでしょうが!」
いろは「どこの国からですか。ていうか、人が食べているものって、やたら美味しそうに見えません?」
八幡「プリン味ならまだそこに転がってんだろ。食いたきゃ食え」
いろは「んーでも、まだロイヤルミルクティが残ってますし……というわけで♪」ヒョイズボッ
八幡「んん!?」ヒョイズボッ
いろは「へへー、交換です」ペロペロ
八幡「が、ばっかお前なにしてんの!?」
いろは「いや、プリン味食べたくなったので。先輩のもらいました」
八幡「み、見ればわかるっつーの! そんでなんでお前の食べかけをお、俺の口に突っ込むんだよ!」
いろは「2つも食べると太っちゃいますし」
八幡「お菓子パーティーしようとか言ってた奴のセリフとは思えねぇ……とりあえず、これは捨てるぞ」
いろは「ダメですよ。勿体ない」
八幡「いや、しかしだな……」
いろは「もう完全に突っ込んじゃったんですから、その飴は先輩のものですよ。今更じゃないですかー」
八幡「くっそ、なんだよこれあざとい……のか?」
いろは「こんなことされて落ちない男子はいないと思います」
八幡「自分で言うのか……まぁそうだろうけどよ」
八幡「……ったく」パクッ
いろは「あ、間接キス。いやもうむしろ、ディープキス?」
八幡「ぶっ! ごほっ、がはっ……」
いろは「あははー、先輩可愛いですね」
八幡(なに!? もう何がしたいのこの子!? ほんとにわけわからないんだけど! 助けてユキペディアさん!!)
八幡「ガリガリガリ……」
いろは「あっ、噛み砕きましたね!?」
八幡「すぐに食っちまえばいいだけの話だ。お前はお前で、俺が食ってたやつ構わず食ってやがるし……」
いろは「返しましょうか?」
八幡「なに、唾液交換会とかもうただのビッチじゃん。ビチヶ浜じゃん」
いろは「結衣先輩にチクりますよ?」
八幡「やめてくださいなんでもしますから」
いろは「あ、今なんでもって言いました?」
八幡「この切り返し知ってんのかよ……お前はなんでも知ってるな」
いろは「なんでもは知りませんよー。知ってることだけです♪」
八幡「うん、上目遣いで後輩キャラでそのセリフ。意外とグッとくる。可愛いな」
八幡「だが無意味だ」
いろは「先輩もなかなかどうして、ネタの幅が広いですよね」
八幡「ま、伊達に元厨二病とかやって……あぶねぇ、誘導尋問かよ。うっかり俺が厨二病だった過去を暴露するとこだったわ」
いろは「え、そうだったんです?」
八幡「んなわけねぇだろ」
いろは「あはは―――――――」
――――――
――――
――
いろは「――――――あー、もうこんな時間ですかぁ」
八幡「もういい加減寝ろよ」
いろは「だって、寝たら襲われそうな気がして……」
八幡「しねぇよ。布団は小町の部屋に敷いた。勝手に寝ろ。以上、俺は寝る」
いろは「え、ほんとに寝るんですか? ……と言いたいところですが、仕方ないですね。ではでは、おやすみなさいです、先輩♪」バタンッ パタパタパタ……
八幡「あいつ……後片付けせずに行きやがった」
八幡「しっかし、なんだろうな。うまく言えないが……俺は恵まれている、のかもしれない」
八幡「一色もそうだが、雪ノ下や由比ヶ浜も。俺がわりと素で接しても、距離を置こうとしない」
八幡「雪ノ下はあんなだけど……案外悪くない。って、これじゃ俺がマゾヒストみたいじゃねぇか。暴言で喜ぶ変態なんて、材木座だけで十分だ」
八幡「だから、か」
八幡「今日一日、あいつが隣にいるのが……なんだ。あんまり、悪い気はしなかった」
八幡「……ま、まぁあいつ、妹みたいなもんだし。小町みたいなもんだし。つまり小町は志向の存在であり、小町とは、生きる礎たる葦なわけだ」
八幡「……俺も寝るか」バタンッ パタパタパタ……
いろは「…………(壁に隠れている)」
いろは(先輩……迷ってる、のかな)
いろは(誰かと一線越えることを、恐れている、のかな)
いろは(だって、気づいていないわけないもんね。雪ノ下先輩や、結衣先輩の思いの丈に……わからない振りをしているだけで)
いろは(わたし、わたしもやっぱり……そう、なのかもしれない、なんて)
いろは(……つい、積極的になっちゃってるし。やっぱりそうなのかな……)
いろは(うん、決めた)
いろは(今年中。今年中には、必ず)
いろは(わたしの本物の想いを、見つけてみせる)
【そして男女の夜は更けていく】 終
いろは「それでですね、先輩。今年の学園祭は、特に文化祭に力を入れようと思っているんです」
いろは「そりゃあ、葉山先輩の勇姿はスポーツでこそ映えます。光ります。つまり体育祭こそ絶好のステージです」
いろは「ですが、考えてもみてください。ギャップですよ、ギャップ。運動面で光る葉山先輩ですが、当然勉強などの文化的な面も有能です」
いろは「つまり、普段と違う葉山先輩を見るためには、文化祭こそ注力すべき対象なのです!」
八幡「意気揚々と力説してもらったとこ悪いが……で、なんだよ」
いろは「つれないですねー、先輩は。だから彼女出来ないんじゃないですかー?」
八幡「お前、なんだかんだ1年以上の付き合いになるが、俺のことを何一つわかってないのな。彼女どころか友達がいない。よって俺がどうであろうと、彼女は出来ない。はい論破」
雪乃「論破でも何でもないでしょう……」ハァ
ガラガラッ
結衣「ゆきのん、やっはろー! いろはちゃんもやっはろー! ヒッキーは……ろー!」
八幡「なんだよその中途半端なやっはろーは。もっと気合入れろよ、気合い。お前のやっはろーに対する情熱はそんなもんだったのか?」
結衣「や、ちょっとわけわかんないし……ところで、なんの話してたの?」
いろは「夏休みも明けて、今度のメインイベントといえば、学園祭じゃないですかー。なので生徒会長としては、尽力を尽くしたいと思いまして」
結衣「おー、いいね! いいね! 最後の学園祭だし、楽しいのがいいなー」
八幡「お前、毎年言ってんじゃねそれ。後2回しかないし、楽しいのがいいなー、とか」
結衣「なんでバレたし!?」
八幡「わかりやすすぎんだよ。毎年最高傑作とかなんだよお前、ボジョレーヌーボーかよ」
雪乃「どうでもいいけれど、尽力を尽くすは意味が重複しているわよ。力を尽くすことが尽力なのだから」
いろは「ま、細かいことはいいじゃないですかー。結衣先輩の同意も得られたことですし、来るべき学園祭に向けて、先輩方の力添えが欲しいと思いまして」
八幡「だからいつも言っているが、奉仕部は便利部じゃなくてだな」
いろは「最後、なんですよ。結衣先輩も言っていたように」
八幡「いや、お前はまだ来年も――――」
いろは「先輩と過ごせる学園祭は、今年が最後なんです」
八幡「……」
雪乃「……なるほど」
結衣「……うん。……うん、そうだよ。そうだよね」
いろは「今日はスーパーのタイムセールに行くために部活に来てない小町ちゃんにとっては、初めての学園祭です。いろんな人に、いろんな意味で、しっかり楽しんでもらいたいんですよ」
いろは「でも、そのためにはわたし……生徒会の人間だけでは、力が足りません。だから、力を貸してください」
八幡「一色……お前……」
雪乃「ふっ……後輩の成長を目の当たりにするのは、嬉しいものなのね。同時に、どこか寂しくもあるけれど……いいわ、一色さん。その依頼、受けるわ」
いろは「本当ですか!」
雪乃「ええ。ただし、奉仕部としてではない。貴方の先輩として、後輩に力を貸しましょう」
雪乃「その、由比ヶ浜さんも……協力してくれると、嬉しいのだけれど……」
結衣「当たり前じゃん! ゆきのんのお願いを聞かないわけないし!」
雪乃「……ありがとう」
八幡(去年と変わったことといえば、小町が入部したことくらいだと思っていた)
八幡(あの一件の後、一色が入り浸るようになって)
八幡(正直、黒歴史レベルなやりとりもあった。由比ヶ浜や雪ノ下と過ごしているうちに、本当は気がついていた。俺自身の変化も、彼女らの変化も)
いろは「先輩は……ダメ、ですかぁ?」
八幡(いつの間にか、俺の取り巻く世界の一部分になっていた、このあざとい後輩も。また、変わろうとしているのだろうか)
八幡「……ったく。わーったよ、やってやる」
いろは「さっすが先輩! 頼りになりますね♪」
八幡「あざといわー。さすがいろはす、あざとい」
八幡(……俺も、酔狂になったもんだ。この後輩の行く末を、少しだけ見てみたいと思っちまった)
いろは「では、冒頭に戻るんですけどっ。体育祭は、ぶっちゃけ去年妙なことをした人がいたので、あまり変わったことをせず、無難なものを粛々と実施するようにとお達しが来たのです」
八幡「…………だ、誰だそんなことしたやつ」
結衣「それってヒッキーじゃん確実に……」
雪乃「まったく……行動してもしなくても迷惑な男ね」
いろは「ただ、文化祭については何も言われてませんのでー。何かこう、パーッと楽しいことができたらと思っているんです」
いろは「何か斬新ないい案、ないですかねー?」
雪乃「斬新は、難しいと思うわ。歴史を上回る行為だもの」
結衣「そうだね……ありきたりなことしか思い浮かばないかも」
いろは「ですよね……だから困ってるんですよー」
いろは「ね、先輩はどう思います?」
八幡「近い近い近い。なんでお前らリア充って、無駄にスキンシップに積極的なの? そういう生き物? もうリア獣って名乗れよ」
いろは「うわ、なに勘違いしてるんですか。いいですから、ちゃちゃっといい案だしてくださいよ」
八幡「お前の態度、くるくる変わるな。オセロかよ。……俺の意見だが、無理に変える必要はないと思うぞ」
いろは「はぁ? 毎年同じじゃ、飽きる……」
八幡「飽きるなんてのは、所詮個人の感情だ。どんだけ派手なイベントを用意しようと、感心のない人間にとってはつまらないイベントにすぎない」
八幡「逆にオーソドックスなものでも、楽しみたい者にとっては、楽しいもんなんだよ」
雪乃「比企谷くんにしては、まともな意見ね。一理あるわ」
結衣「だねー。あたし、学園祭がつまんないって思ったことないもん」
八幡「お前は脳内がお花畑だからな。一般人と同じ感覚で語るな」
結衣「ちょ、酷くない!?」
いろは「オーソドックスに……ですかぁ」
八幡「不服か?」
いろは「いえ……そうですね。ぶっちゃけ、わたしが楽しみたいから、経費使って派手なことしようかと思っただけですしー」
いろは「文化祭も、普通の物を作り上げます」
いろは「でも、1つだけ条件があります」
八幡「なんだよ」
いろは「先輩には、一日、わたしに付き合ってもらいます。異論は認めません!」
八幡「はぁ!?」
結衣「い、いろはちゃん、それは!」
いろは「もう、決定ですからね! あ、ただ、ひとつだけ。今年の学園祭は、体育祭が1日、文化祭が3日の合計4日間で行われますので」
いろは「文化祭の1日はわたしがもらいましたけどー。先輩は後2日、フリーのはずです」
八幡「俺がフリー? んなわけねぇだろ。昼寝にマッカンに戸塚にと、忙しさで胸いっぱいだ」
いろは「どうでもいいんで黙っててください」
八幡「最近後輩が冷たすぎて辛い。嘘だけど」
いろは「だから、結衣先輩も雪ノ下先輩も……」
いろは「最後の学園祭、楽しみましょう♪」
結衣「うんっ、もちろん!」
雪乃「……ええ、そうね」
ワイワイ ガヤガヤ……
平塚(あいつら、1年間で成長したな……)
平塚(1年……か……)
平塚(また、老いたんだな……)ブワッ
【時は流れ、学園祭が訪れる】 終
~奉仕部部室~
いろは「というわけなんで……というか2日目まで忙しくてですねー。イベントが盛り沢山なので、そっちの運営にかからないとなんです」
八幡「おう、行って来い行って来い。むしろそのまま戻ってこなくてもいいまである」
いろは「ひどいっ!? って、実際こんなやり取りしてる暇もないんですよー。ただ、最終日は空けといてください」
八幡「えっ……最終日は校舎の片隅でひっそり余暇を過ごそうと思ったんだが」
いろは「せんぱぁい……言うこと聞かないと、夏休みに二人っきりの夜を過ごしたこと、雪ノ下先輩に暴露しますよ♪」
八幡「許してください、なんでもしますから!」
いろは「ん? いまなんでもって……」
八幡「いいから行けよ。忙しいんだろ?」
いろは「そうですねー。ちょっと楽しくて現実逃避してました。ではでは、ちゃんと文化祭、楽しんでくださいね?」
八幡「昨日の体育祭の筋肉痛が酷いんだが……」ハァ
八幡「……行ったか。マジで忙しいんだな」
八幡「さて、どうすっかな。このままずっと奉仕部の部室で時間潰すか」
八幡「あれだよ。文化祭だからな。文化的な活動をしてこそだし、ともすれば文化部であるここで読書に勤しむことは、文化祭を大いに満喫していることになる」
八幡「マッカンがあれば完璧だ。買ってこよう」
ガラガラッ
結衣「やっはろー!」
八幡「誰だおまえ。ここは奉仕部だぞ」
結衣「や、あたしも奉仕部員だから! ってかヒッキー、なんでこんなとこいんの!?」
八幡「お前、その言葉ブーメランな。なんの用だよ?」
結衣「んっ!? んー、や、ちょっとねー」
結衣「ね、ヒッキー。暇?」
八幡「これからマッカンを買いに行く。つまり予定がある。わかったな?」
結衣「なら、あたしも買いに行くよ」
八幡「は? お前、あーしさんとかいいのかよ」
結衣「あーしさんって、優美子? 優美子とは二日目に回る約束になってるから、だいじょうぶ!」
八幡「さいですか」
結衣「うん。初日は大型のイベントが多くて、出店とか少ないみたいだし」
八幡「お前、イベントみたいな頭悪そうなもん好きじゃん」
結衣「や、確かに好きだけどさ。……ん? 今、遠回しにバカにしてない!?」
八幡「戸部とか明らかに頭空っぽだろ。お前らカースト上位陣はやたらと頭がいいか、やたらとバカかどっちかだよな」
結衣「確かにみんなイベントに行ったみたいだけど……あたしは、そのー、ちょっとヒッキーと文化祭出来たらいいな、とか……」
八幡「は?」
結衣「や、や、違くて! 変な意味じゃないんだけど。ほらもう、こうやって大きいイベントとかあんま出来なくなるかもじゃん」
八幡「……んなもん、別にこの先もやればいいだけだろ。別に今生の別れってわけでもねーだろ」
八幡「ずっと友達、なんだろこれからも。……お前と、雪ノ下は」
結衣「……うん、そうだね。ヒッキーも、だよ?」
八幡「アホかお前。俺からぼっち取ったら何が残るんだよ。俺からアイデンティティ奪うんじゃねぇよ」
結衣「ヒッキーのばーか。……マッカン、買いに行こうよ?」
八幡「え、お前も来んの?」
結衣「買いに行くって言ったじゃん!? それに、今日は1日、あたしがヒッキーの隣だから」
八幡「は? なんだそれ」
結衣「最終日はいろはちゃんが予約済みなんでしょ? だから初日は貰うの」
八幡「何その超理論。俺の尊厳は?」
結衣「なんか、いろはちゃんが言ってたんだけど。言うこと聞かないと、あのことバラしますよって言ってたんだけど、なんのこと?」
八幡「おら、早くマッカン買いに行くぞ。なにしてんだよ、早くしろよ」
結衣「なんか急にやる気だ!?」
八幡「つーか雪ノ下はどうしたんだよ。三浦はともかく、あいつなんか下手したら一人で読書してんぞ」
結衣「ゆきのんなら、なんかクラスの人達にたかられてたよ。なんか最後だからって引っ張りだこ」
八幡「嫌がってそうなあいつの顔が容易に浮かぶな……」
結衣「あはは……」
八幡「ま、よく考えたら読書するならあいつもここに来てるはずだわな。俺もここで読書する気だったし」
結衣「え、ヒッキー学校でも引きこもるつもりだったの?」
八幡「おいやめろ。まるで家でも引きこもってるみたいな言い方すんな。合ってるけどな」
結衣「合ってんじゃん……」
結衣「それで、どうすんだし。結局、ずっとここで過ごすの?」
八幡「人混みにもまれるのはな……リア充イベントなんて、俺の性に合わんし」
結衣「むー……」
八幡「はぁ……わーったよ。飯でも買いに行くか。飯屋の屋台くらい、少しは出てんだろ」
結衣「うん! ついでに、いくつかイベント見て回ろうよ!」
八幡「……もう好きにしてくれ」
結衣「うん、好きにする」
結衣「じゃ、レッツゴー!」
【文化祭初日は、引きこもろうと画策する】 終
八幡「昨日は結局、由比ヶ浜に一日連れ回された」
八幡「今日は部室でゆっくり過ごす事こそ、俺の二日目の過ごし方であり、それ以外の過ごし方はありえないまである」
ガラガラッ
雪乃「いるかしら、ゴミ谷くん」
八幡「お前の知り合いにそんな名前の人間がいんの? 名前がキラキラしてんな」
雪乃「あ、貴方……今日、ひ、暇かしら?」
八幡「忙しいに決まってんだろ。ほら、手に持ってる文庫本とマッカンが見えないか? ガガガは至高」
雪乃「喧嘩を売りたいなら買うわ。けれど……ちょっと頼まれてくれないかしら?」
八幡「は……?」
八幡(こいつにしては、いやに素直だな……ちょっと目を逸らしながらとかなにそれ、萌える。ギャップ萌える)
八幡「わーったよ。なにすんの?」
雪乃「文化祭のイベントで、ゲーム大会があるの。その片隅にクレーンゲームが設置されていて、その……景品が……」
八幡「ああ……パンさんか」
雪乃「わ……悪いかしら?」
八幡「悪かねぇけど……で、俺がそれに行ってどうすんだよ」
雪乃「私はこういうの苦手だから……貴方なら取れるでしょう? ぼっちだし」
八幡「ぼっち関係なくない? なんで軽くディスったの?」
雪乃「お金は出すわ」
八幡「お、おう……さっさと行って済まそうぜ」
~体育館~
八幡「うるせぇ……やかましい……」
八幡「本格的すぎて普通のゲーセン並みにうるせぇ……一色のやつ、気合入れすぎだろ」
雪乃「……」パアァ
八幡「すっげー良い笑顔……一色のやつ、この景品雪ノ下のためだけに用意したんじゃねぇだろうな」
八幡「で、雪ノ下。どれを取るんだよ」
雪乃「愚問ね比企谷くん。この台にパンさんの景品は5種類あるのよ」
八幡「いや、見りゃわかるっつーの」
雪乃「これだから愚問谷くんは」ヤレヤレ
八幡「なに愚問谷って。愚問の谷の八幡? ジブリみたいね」
雪乃「5種類あるのだから、5つ取るに決まっているでしょう。早く取りなさい」
八幡「なんつー上から目線……俺だってそこまで得意ってわけでもねぇんだ、取れる保証はないぞ」
雪乃「私よりは可能性が高いわよ。それに……」
八幡「?」
雪乃「貴方なら取るわよ。貴方はそういう人だから」
八幡「……ったく」
――――――
――――
――
~奉仕部部室~
八幡「結局、5千円くらい使っちまったが……」
雪乃「1つの景品が千円だと考えれば、妥当かそれ以上だと思うわよ。いくらつぎ込んでも取れない人だっているのだから」
八幡「お前、パンさんが絡むとやたらポジティブだな……」
雪乃「そ、その、比企谷くん……」
八幡「なんだよ。用が済んだんなら俺はもう行くぞ。人気のないベストプライスがある」
雪乃「ありがとう、比企谷くん」
八幡「……お、おう」
雪乃「……ふふ。おかしなものね。こうして貴方に素直にお礼を言えるようになるだなんて」
雪乃「出会った頃はなんて目の腐った虫なんだろう、なんて思ったものだけれど」
八幡「お前はいちいち俺をディスる癖があるのか? 治したほうがいいって先生に言われなかったか?」
雪乃「貴方こそ、治したらどうなのかしら」
八幡「生まれつきの腐った目だぞ。治るならとっくに治してる。そしてリア充ライフを満喫している」
雪乃「目じゃないわよ。人の好意を勘違いだと切り捨て、気付かなかったことにするような逃げ腰の捻くれた性格を、よ」
八幡「……」
雪乃「気づいているのでしょう? 周囲の人間の、貴方に対する評価くらい。本当は……」
八幡「……ばっかお前、俺は学年3位だぞ。周囲の人間の評価なんて、高いに決まってる」
雪乃「国語のみ、でしょう? しかもそれ以外も私にボロ負け」
八幡「その「も」って接続しやめてもらえる? 確かに国語も負けてるけども」
雪乃「それにしても……文化祭、なかなか盛況みたいね。……最近は手伝うことも少なくなってきたけれど、彼女も成長したってことかしら」
八幡「子を見守る親の心境か?」
雪乃「親じゃないし、親の感情なんてまともに読み取れたことがないけれど……きっとそうなのでしょうね」
八幡「お前、なんかまるくなった?」
雪乃「突然女性の体型を揶揄するなんて、失礼を通り越して犯罪よ。貴方は生きているだけですでに罪を犯しているようなものだけれど」
八幡「目が腐ってるって何かの罪なの? 八幡初耳なんだけど」
雪乃「私は変わったのかもしれないわ。少なくとも、自分の気持ちに素直に向き合えるくらいには」
八幡「お前……」
雪乃「貴方も変わったわ。他者に頼ることを覚えた。……立派な成長だわ。だからこそ、私は……」
八幡「雪ノ下……なぁ、よかった俺と、友だ――」
雪乃「ごめんなさい、それは無理」
八幡「――ああうん、知ってたわ」
雪乃「ふふ、無理よ。だって――」
ガラガラッ
結衣「あっ、ゆきのん、いた! って、げっ、ヒッキーもいる!」
八幡「悪かったなこの世に存在して」
結衣「や、そこまで言ってないから! ちょっとびっくりしただけだから!」
結衣「ゆきのん、ゆきのん! さっき体育館のゲームセンターで、パンさんの景品見つけたよ!」
雪乃「それなら、すでに入手済みよ」フフン
八幡(うっわー、すげぇどや顔。どやのん)
結衣「さすがゆきのん! あ、今ヒマ?」
雪乃「え、ええ、特に予定はないけれど」
結衣「じゃあさ、なにか食べに行こうよ! おなかすいちゃったし」
雪乃「断っても無駄みたいね。いいわ、行きましょう」
結衣「へへ、そうこなくっちゃ」
雪乃「あ、あの、よかったら、その……」
雪乃「比企谷くんも一緒に、どうかしら」
八幡「は?」
結衣「あ……そうだね。そうだよね。ヒッキーも行くよ! 決定事項だから、断る権利なし!」
八幡「はぁ……昨日と同じパターンだ。不幸だー」
雪乃(由比ヶ浜さんが発案して、私が引っ張られて、比企谷くんが嫌々参加する)
雪乃(奉仕部は、いつの間にか変わったわ。小町さんもいることだし、ね)
雪乃(でも、彼とは友達にはなれない。ならない。胸中で渦巻くこの感情はまだ、わからないけれど。でも――)
結衣「なに食べようー。パンケーキ? パフェ? さっきオシャレなとこ見つけたんだー」
八幡「なんで女子(笑)って、そんなデザートで満腹になれるの? 腹減ったならラーメン食っとけラーメン」
結衣「今、(笑)って付けなかった? ねぇ?」
雪乃(――ただの友人では、満足できないんだもの)
【されど雪ノ下雪乃は諦めきれない】 終
いろは「ぶーーーーーっ」プクーッ
八幡「いや、確かに待ち合わせ時間と場所を間違えたのは俺だが、そこまで膨れずとも……風船みたいに、割れちゃうぞー、なんて……」
いろは「なにバカなこと言ってんですか?」
八幡「ああうん、なんでもない」
いろは「場所と時間を間違えたのはまぁ、後で埋め合わせしてもらいます。ただ、なんだかんだで文化祭の全日程を美少女と過ごすことをどのように考えてますかね?」
八幡「なんでそんな怒ってんだよ……」
いろは「さぞかし楽しく過ごしたんでしょうねぇ、結衣先輩や雪ノ下先輩と!」
いろは「もう、一緒に回るようなとこないじゃないですかー……」
八幡「あん? 確かに、なし崩し的にあいつらと過ごすことにはなったが……」
八幡「俺、まともに模擬店とか行ってねぇぞ? 由比ヶ浜が腹空かせて1店舗と、雪ノ下とはゲーセンだ」
いろは「え? そうなんです?」
八幡「ゲーセンと言えば、お前やたらと気合入れてんな。俺でも知ってるようなアーティスト呼んでライヴ開いてたりもしたし、どっから予算捻出したんだよ……」
八幡(秘技、話題そらしの術!)
いろは「あ、あー、それはですね。なんかやけに協力的なOBがいた、とだけ……」
八幡「なんで目が泳いでんだよ。人と話をする時はちゃんと目を見て話しなさいって教わらなかったか? ちなみに俺は教わったけど実行したら通報されたから、それ以来は目をそらすようにした」
いろは「そんな悲しい思い出話いらないです」
八幡「しかし一色。今日が最終日だから、いろいろ忙しいんじゃないのか?」
いろは「先輩はなぜ、1日体育祭で3日文化祭なのかわかりますか?」
八幡「いや、知らねぇけど」
いろは「前週の金曜日に準備を済ませて、月曜日に体育祭。火曜から木曜日まで文化祭で、金曜日は諸々の片付けにあてるためですよ!」
八幡「こいつ、そこまで……っ!」
いろは「というのが平塚先生の案でして。子曰く、全力で祭りを楽しみたいから。だそうです」
八幡「完全に平塚先生の私情じゃ……ま、いいけどよ」
いろは「てなわけで、文化祭の3日のうち、交代制で役員も1日フリーの日を設けたんですよー。わたしだけ、最終日ですね」
八幡「てことは、一昨日と昨日は仕事に追われてたんだろ? ろくに葉山と祭り回れてねぇだろ。俺に構わず先に行け! むしろ行け!」
いろは「葉山先輩は取り巻きが多いので却下です」
八幡「お前、最近葉山に興味なくしてない?」
いろは「ギクッ……そ、そんなことはないです! ま、取り巻きは残らず三浦先輩が目で射抜いてましたけどねー」
八幡「女王だな……」
いろは「わたしも、先輩を射抜きましょうか?」
八幡「いつぞやも聞いたセリフだな。それ、なんて返すのが正解なの? なにかのテンプレート?」
いろは「ちょっと何言ってるかわからないです。とりあえず、先輩が遅れてきたおかげでもうすぐお昼時なわけですし、なにか食べましょうよ?」
八幡「ああ、わかった。じゃあ先に屋上行ってるから、なんか適当に見繕って買ってきてくれ」
いろは「はいはーい……って、なにナチュラルにパシらせようとしてるんですかぁ! ヒドイですっ!」
いろは「そもそも、なんでわざわざ1人で行かなきゃなんですかー」
八幡「俺が一緒にいるとこなんて見られてみろ。あらぬ噂が立ってもめんどくさいだろ」
いろは「あ、心配してくれてるんですか? ダイジョブですよー、誰も先輩のことなんか気にしません♪」
八幡「おい……まぁ一理あるわ」
いろは「認めちゃうんですか……ともかくですね。一緒に行きましょ、せ・ん・ぱ・い♪」
八幡「うわっ、あざとい」
いろは「なんでちょっと引くんですか!?」
八幡「ほんとお前は打算的だよな……で、何食うの」
いろは「なんだかんだで一緒に行ってくれる先輩、ポイント高いですよ。そうですねー、定番といえば焼きそばでしょうけど、女の子としてはおしゃれなカフェなんかを提案したいと思うわけですよ」
八幡「俺がおしゃれなカフェに? 場違いにも程がある。んなとこに足を踏み入れてみろ、帰るぞ、すぐ帰るぞ、絶対帰るぞほら、帰るぞ?」
いろは「FF10って名作でしたねー。すごく感情移入しちゃいましたよ。当時、めっちゃ泣いた記憶がありますー」
八幡「ああ、俺も共感したね。あれだけたくさんの人数がいて、なんならヒロインの幼馴染的な立ち位置にいるくせに、ふとした瞬間に忘れられている。そんなキマリに、俺はなりたい」
いろは「確かにキマリは使いませんでした」
八幡「キマリ使ってやれよ! ちょっと癖があるが根は優しく実は優秀で、気づいたら守ってくれる孤高の存在だぞ! 決してぼっちじゃない!」
いろは「そう考えると、キマリって先輩そっくりですねー。……話が脱線しましたけど、素直に焼きそばとたこ焼き。あと、デザートにクレープとタピオカジュースでも買いに行きましょう!」
八幡「大丈夫かな、キマリって通せんぼされるからな……」
いろは「いつまでFFネタ引っ張ってるんですかー。ほら、早く行かないと列に並ぶだけでも結構な時間なんですから! はりーあっぷです、先輩!」
――――――
――――
――
~屋上~
八幡「で、結局屋上なのな」
いろは「だって混んでましたし……今日はちょっと冷えますから、誰もいませんしねー」
いろは「ささ、先輩。冷めないうちに食べましょー」
八幡「ああ、さすがに腹は減った」
いろは「いただきまーす♪」モグモグ……
いろは「うん、この値段に見合わない味と、でも醸し出してる祭り感、最高ですね!」
八幡「なんつー捻くれた評価を……ま、小町の焼きそばの方が美味いのは確定的に明らかだがな。むしろ小町が作るならなんでも美味い」
いろは「出た、シスコン」
八幡「千葉の兄はみんなシスコンだって、なんど言ったらわかるんだか」
いろは「いや、知りませんけど……」
いろは「あ、先輩のクレープ、ちょっと悩んでた味なんですよねー。一口もらいます♪」
八幡「おい! ……なんでわざわざ、俺のフォーク使うかね。まだ未使用だったからよかったものの……ほれ、お前の分寄越せ」
いろは「え? 先輩にしては大胆というか強引というか……わかりました、いろは、腹をくくります!」
八幡「は?」
いろは「えいっ!」ズボッ
八幡「んん!?」パクッ……モグモグ……
八幡「甘い、美味い……が、なんのつもりだ」
いろは「お前の分寄越せって言ったじゃないですかー」
八幡「誰がクレープを一口寄越せと言ったよ!? 俺が言ったのは、未使用のお前のフォークを寄越せってことでだな」
いろは「あ、そういう意味だったんです? 素で間違えましたー……てへぺろ☆」
八幡「はいはい可愛い可愛い。まぁいい、今のフォーク寄越せ」
いろは「ふぁい?」モグモグ……
八幡「ちょ、なんで今しがた俺の口に突っ込んだフォークで食事を続けてるんですかね……」
いろは「細かいことはいいじゃないですかー。ギブアンドテイクですよ、先輩」
八幡「どこにもギブもテイクもなかった気がするがな……あ、お前の天真爛漫(作り物)っぷりに俺がギブってか? ギブアップのギブってこと? なにそれ遠回しにうまい」
いろは「先輩の思考回路ってどうなってるんですか……発想が常人のそれじゃない。キモい」
八幡「ったく……で、食い終わったらどうすんだよ」
いろは「そですね……校庭に大迷宮とかいう巨大迷路が造られてましたから、そこ行きません?」
八幡「ああ、そういやあったな……大掛かりすぎて、誰がどうやって作ったのか検討もつかん」
いろは「雪ノ下グループですよ。正確には陽乃さんを筆頭に」
八幡「またあの人か……」
いろは「なんていうか、色々と大きい人ですよねー」
八幡「そうね。どこどこ大きいかは知らんけどな」
いろは「またまたー。わかってるくせに」
八幡「お前のたまに馴れ馴れしい絡みはなんなの? 酔ってるの?」
いろは「やだなぁ先輩。ちゃんと敬意を払うべき相手には払いますよー」
八幡「つまり俺には払うべき敬意はない、と。わかってたけどね」
いろは「ま、いいじゃないですかー。それだけ、先輩の前だと自然体でいられる、安心できるってことなんですよー……?」
八幡「やめろやめろ。近い近い。妙な色気を出しながら顔を覗き込むな。人妻かお前は」
いろは「え、人妻ってこんな感じなんです?」
八幡「ガチに疑問を抱くなよ……ただの想像だよ。少なくともうちの母親はこんなんじゃねぇ」
いろは「先輩のお母さん……今度、挨拶しに行ってもいいですか!」
八幡「なんでだよ。なんの意味があるんだよその行動に」
いろは「ほら、小町ちゃんにいつもお世話になってますー、とか」
八幡「俺じゃないあたり、わかってんな」
いろは「さて、先輩。お腹も膨れたことですし、校庭にレッツゴー! ですよ♪」
八幡「……はいはい」
【やはり一色いろはは素直になれる・前編】 終
いろは「というわけで、巨大迷路にやってまいりました」
八幡「近距離で見ると思いの外、壮大だな……で、俺はここに1人で入ればいいの? 人生でも迷ってんのに、迷路でも迷わなければならんのかよ」
いろは「先輩の人生に出口なんてありません。でもこの迷路にはちゃんと出口ありますし、なんか景品も用意されてるらしいですから、張り切って行きましょー」
八幡「マッカン1ヶ月分とかなら本気出す」
いろは「マッカンへの愛が本気すぎるでしょう……」
八幡「で、ルールはなんだよ」
いろは「基本的には進むだけみたいですねー。大きいとは言っても所詮はグラウンドサイズですし、すぐにゴールできるんじゃないです?」
八幡「もう、ゴールしてもいいよね……ま、さくっと終わらしちまおうぜ」
いろは「いきなりやる気出しましたね」
いろは「まさか、めんどくさいから早く終わらせたいだけなんじゃ……」
八幡「はは、そんな馬鹿な。早く帰りたい」
いろは「本音! 本音出てますから!!」
入場係「生徒会長……いちゃついてないで、入るの? 入らない」
いろは「いちゃっ……! いちゃついてるわけじゃないけど!」
八幡「俺がこいつといちゃつくとか、天地がひっくり返るほうがまだ可能性高いから。そこの後輩、勘違いしないように」
スタスタスタ……
いろは「うわ、意外と壁が高い……」
八幡「190センチ位あれば見えそうなもんだけどな」
いろは「あっ、じゃあいいこと考えました♪ 先輩がわたしをおんぶすればいいんですよー!」
八幡「やだよ重たい」
いろは「おもっ……先輩、今、女の子に言ってはいけないことを言いました」
八幡「いいから進むぞ。……うおっ、なんだこれ」
いろは「棺桶……ですね。どうやらこの中のどれかが、正しい道に繋がっているようですね」
八幡「んなもん、ヒントもなしに悩むだけ無駄だ。一番右な」
いろは「やたら決断が早いですね……ま、とりあえず入りましょー」
ギィィィィ
人形『ピギャアアアアアアアアアァァァアァァァァァァァ!!!!!』
いろは「きゃああああああああああ!」
八幡「うおっ、なんだこれ気持ち悪っ」
いろは「いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
八幡「落ち着け一色。しっかしやたらリアルなヴァンパイア人形だな……顔が変形して流血してるのが妙にグロい」
いろは「先輩、先輩、先輩先輩先輩!! こんなのずるいダメです卑怯です!!」ヒシッ!
八幡「ひっつくな……と言っても無駄か。とりあえず外れみたいだから、他開くぞ」
右から2番目
いろは「ぎにゃあぁぁぁぁぁあぁぁ!」
真ん中
いろは「もうやだぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!」
右から4番目
いろは「はぁ……はぁ……」」
右から5番目(最後)
八幡「結局最後まで正解しないってのがな。なんとも俺らしい」
いろは「なんで……誇らしげ、なんですかぁ……」ハァハァ……
八幡「いつまでも発情してないで早く終わらせようぜ」
いろは「は、はぁ!? 発情って……何言ってるんですかぁ!!」
八幡「ま、なんとなくわかってきた気がするな。いくつかの障害物が用意されてる、むしろお化け屋敷みたいなもんだ」
いろは「ですねぇ。いきなりだったので驚きましたけど、わかってれば冷静になれます」
――――――
――――
――
いろは「最終関門……っぽいです?」
八幡「20分くらい経ってるか。たかだか運動場のアトラクションにしちゃ、やたら時間かかるな。人生においての時間は有限であるからして、この20分間は無駄には出来ない」
いろは「常に時間を無駄にして生きているような人が何を言っているんです?」
八幡「やめろ、純粋な疑問って感じに聞くな」
いろは「先輩がいつも通り最低なのはわかりましたので、さっさとこの最終関門、突破しちゃいましょうよ。突破すればマッカン1年分ですよ」
八幡「マジか。俺の秘めたる力を解放する時が来たか」
いろは「先輩って厨二病だったんですよね? 結衣先輩に聞きました」
八幡「あいつ、人に喋ってはいけない黒歴史ランキングの上位をいとも簡単に!」
いろは「ま、それはそれとして。厨二病なんて、ざいなんとかって先輩のお友達だけでお腹いっぱいです」
八幡「ざいなんとかって、あんまりにも扱いが酷くない? あいつの名前はあれだよ、在木材だよ」
いろは「なんか違うんじゃないです、その名前。……いや、合ってるのかな」
いろは「で、最終関門ですよ最終関門! なになに……紙を引き、指令をクリアせよ。さすれば道は開かれん。ですって」
八幡「いつも思うんだけど、開かれんってなんなん? 開かれるのか開かれないのかわかりにくいんでやめてもらえますかね」
いろは「や、わたしが書いたんじゃないですしー。とりあえず、1枚引きますねー」ガサゴソ……
いろは「これです! ででん!」
八幡「隣にいる奴とハグをしろ。悲しきお一人様は、自らをハグしろ」
八幡「……」
いろは「……えいっ」ガバッ
八幡「甘い!」サッ
いろは「なんで避けるんです!?」
八幡「つい条件反射で……命を狙われている気がした」
いろは「わたし、暗殺者じゃないんですけど。てか避けちゃうと指令をクリアできないじゃないですかー」
八幡「いや、そうは言うけどよ……ほら、あれだ。抵抗とかあんじゃん? 俺って理系だから、抵抗って言葉に敏感なの」
いろは「理系なんか関係あります、それ? てか先輩は完全に文系じゃないですか」
八幡「てか悲しきお一人様って、さり気なく棘を刺しに来てるなこの指令。俺お一人様だし、これすればいいんだろ?」
いろは「絶対認められないと思います! というわけで、先輩はわたしとハグをするのです! さぁ、カムオン!」
八幡「なんでお前が乗り気なの? 普通女が引くもんじゃないの?」
いろは「や、だって先輩ですし」
八幡「それは褒められているのか貶されているのか、後者なのかな?」
いろは「自己完結してないで、早くしちゃいましょ……? わたしぃ、もう、ガマンできません……///」
八幡「頬を染めるのやめてもらえます? 勘違いしちゃうので」
いろは「うわ、先輩キモいです」
八幡「お前からやっておいて……」
いろは「もう、じれったい!」ガバッ
八幡「ちょ、一色!」
いろは「……」ギューーーーッ
八幡「…………はぁ。もういいだろ、クリアだろ」
ピンポンパンポーン
アナウンス「ゲームクリアおめでとう。力を合わせて試練をクリアした二人は、より固い絆で結ばれたであろう」
八幡「お、クリアだ。おい一色、離せ。クリアだってよ」
アナウンス「ささやかだが、景品を用意してある。後ほど受け取りたまえ」
八幡「おい、一色。いつまで抱きついてんだ、苦しい」
いろは「……」ギューーーーーッ
アナウンス「リア充、爆発したまえ」ボソッ
八幡「このアナウンス、私怨込めすぎだろ……ちゅーかいい加減離せ、一色」
アナウンス「なお、比企谷八幡は後ほど、職員室まで出頭するように。以上」ブツッ
八幡「あ、おい今の絶対平塚先生だろ! 何してんのあの人!」
――――――
――――
――
いろは「あー、楽しかったですね、先輩♪」
八幡「一日中、食ったり飲んだり食べたり飲んだり食したり飲んだり……動物かよ」
いろは「先輩。人間も、哺乳類です」
八幡「そういうことじゃない」
いろは「ところでですよ、先輩」
八幡「なんだよ」
いろは「文化祭のカリキュラムは、これで最後じゃないの、知ってますよね?」
八幡「あー、なんかパンフレットに書いてたか?」
いろは「ちゃんと読んでてくださいよ……後夜祭、です。後夜祭こそ本番じゃないですか」
八幡「後夜祭が本番とか、どこの常識だよ」
いろは「当然、付き合ってもらいますからね♪」
八幡「は!?」
いろは「ではでは、わたしは少しだけ準備があるので、後ほどー。逃げたら許しませんからね?」タタッ
八幡「……はぁ。景品で貰ったマッカンでも飲も」
【やはり一色いろはは素直になれる・中編】 終
いろは「後夜祭ですよ」
八幡「知ってる」
八幡「俯瞰でこの状況を見てみな? 明らかに俺だけ浮いてるだろ? つまり俺だけ違うY軸にいる。これは帰っていい」
いろは「よくない♪」
八幡「……そうは言うけどよ、一色。リア充が語り合い、リア充が踊り、リア充がリアルを充実させていくこの場面に、リアルを充実させるつもりがない俺が必要か?」
いろは「周りくどい言い方してますけど、要は帰りたいんですよね?」
八幡「そうとも言う」
いろは「そんなぼっちの先輩の隣にいるわたしは、一体なんなんでしょう?」
八幡「ヴォルビック」
いろは「もうヴォルビックはいいですって!」
八幡「実際、お前はなんで俺のとこ来てんの? ほら、あっちで葉山がリア充してんじゃん。そっち行って来いよ」
いろは「でも、三浦先輩とかいるじゃないですかー」
八幡「お前そういうとこでもあっさり混ざるだろ。当たり前のような顔してそこにいるタイプのリア充だろ」
いろは「どういうタイプなんですかねー、それ」
いろは「ていうか、結衣先輩や雪ノ下先輩はどうしたんです? 誘っといたわたしが言うのもなんですけど、お二人が先輩のこと放置するとは考えにくいのですが」
八幡「俺が知っていると思うか? あいつらの予定に興味はない」
いろは「ですよねー」
いろは「で、先輩」
いろは「わたしと踊ってくれませんか?」
八幡「断る」
いろは「先輩がそう答えることくらい、容易に想像できてました。なので、わたしはここで一つの権利を行使します」
八幡「おい、まさか……」
いろは「さすが先輩、察しがいいですね♪」
いろは「もう一つ、なんでも言うことを聞いてくれる権が残っています。それを今、ここで、使います!」
八幡「ドヤ顔するのはいいんだが……流石に俺も拒否したい案件なんだが」
いろは「えー。ずるいじゃないですかー」
八幡「いや、よく考えてみろ。俺と一色が、仮に、百歩以上譲って仮に、踊ったとする」
いろは「はい、想像しました。素敵ですね」
八幡「俺たちしかいない空間ならまだいい。だがな、ここには有象無象の視線が漂っている」
いろは「つまり、二人きりならいい、と。先輩、大胆ですね……でもごめんなさい、まだ二人きりはムリです」
八幡「だからだな、俺はいいんだ。蔑まれるのは慣れてるからな。だが、お前は違う」
八幡「生徒会長という立場もある。築き上げた友人関係もあるだろう。失うものが多すぎる」
いろは「失う前提なのが先輩らしいというか……でもそれ、余計なお世話ってやつですよー?」
八幡「……だとしてもだ。俺は踊らない」
いろは「むー……じゃあ先輩、妥協案として、二人きりになれるとこに行きませんか? いえ、行きましょう」
八幡「二人きりはムリっつったのお前じゃん……」
いろは「いいんです! 踊ってくれないなら、このお願いくらい聞いてください」
いろは「ダメ……ですかぁ?」
八幡「はぁ……お兄ちゃんスキルは自動発動なのがなぁ。あざといわ、いろはす。マジあざとい」
いろは「あざとくて結構ですー。とりあえず、生徒会室に行きませんか?」
八幡「教室開けてんのか?」
いろは「わたしの権限を使えば開けれますよ」
八幡「本当はダメだって意味合いが含まれてるよな、それ。職権の乱用だ」
いろは「職権って、乱用するためにあるんでしょう?」
八幡「まぁ……その意見には概ね同意だけどな。上司にも部下にも目をつけられない範囲でやるのが賢い」
いろは「うわぁ、考え方が狡い……」
八幡「賢いと言え」
いろは「とりあえず、生徒会室の鍵、取りに行きましょー」
――――――
――――
――
いろは「やー、夜の生徒会室ってこう、雰囲気ありますよね。普段、誰も足を踏み入れない神秘さとか、ちょっとしたいたずら心というか」
八幡「少年の心理だな。俺もよく、廃墟に忍び込んでは1人で過ごしていた。クラスの奴らと一緒に行ってたはずなのに、なんでだろうな。俺無しでいつの間にか解散していた」
いろは「クラスメートって表現が生々しいですね。友人じゃない辺りが」
八幡「そんなわけだから、気持ちはわかる。微妙な背徳感とかな」
いろは「そう、それなんですよ! ドキドキしますよねー」
いろは(ほんと、ドキドキするなぁ……)
いろは「で、先輩。なに話します?」
八幡「お前が誘っといて、俺が話題提供すんの? これだから女って生き物は……」
いろは「先輩が踊るのが嫌って言うから来たんですー。だから話題提供は先輩の仕事です」
八幡「小町の話、戸塚の話、千葉の話、マッカンの話。どれがいい」
いろは「先輩ってほんと、小町ちゃん好きですよね」
八幡「当たり前だ。もしも小町が妹じゃなかったら、求婚して玉砕してるまである」
いろは「玉砕まで一連の流れなんですか……ていうか、年下好きなんです?」
八幡「年下好き? 違うな。小町好きだ」
いろは「ほんと、このゴミいちゃんは……」
八幡「小町の真似はよせ。ちょっと似てるから求婚しかける」
いろは「まだ早いんで遠慮してくださいー」
八幡「ついに振り方もおざなりになってきてんな」
八幡「つーか俺は隙さえあればお前を口説いてるようになってるが、ないからな」
いろは「ないんですかぁ?」
八幡「ないだろ、常識的に考えて」
いろは「本当に?」
八幡「は?」
いろは「本当に、ないんですか? 可能性はゼロ、なんですか?」
八幡「お前、何言って……」
いろは「あ……いえ、なんでもないです。わたしでもよくわからなこと言ってましたねー」
八幡「なんだそれ……」
いろは「天然キャラってあざとくて可愛いと思いませんかぁー?」
八幡「ここまで計算かよ! マジいろはすあざといな……こえぇ」
いろは(うーん……これは)
いろは(わたしも、ちゃんと見ないとかな。ちゃんと、本物を見ないとかな)
いろは「じゃあ、今後の話でもしませんか?」
八幡「今後?」
いろは「はい。もう数ヶ月もすれば、先輩たちも卒業してしまうじゃないですか」
八幡「ああ、葉山もな」
いろは「葉山先輩も、ですね……まずはそこから、訂正しましょう」
いろは「わたしはもう、葉山先輩に対して、恋愛感情を抱いていません」
いろは「ていうか、先輩も本当は気がついてますよね? 気がついてないはずがないですよね?」
八幡「いや、気づくわけないだろ……お前、いつも葉山葉山言ってんだから」
いろは「そんなの、建前ですよ。先輩だって、建前で本音を隠してるでしょう?」
八幡「……何が言いたい」
いろは「ねぇ、先輩。先輩は今、好きな人はいないんですか?」
八幡「はっ、いるわけねぇだろ。俺は過ちを繰り返さない男なんでな、過去のトラウマは全て糧となっている。戸塚さえいればそれでいい」
いろは「卑屈で捻くれた性格を直したら、先輩モテると思いますけどぉ」
八幡「えっ、マジ!?」
いろは「なんでちょっと本気で嬉しそうなんですか……引きました」
八幡「それだよそれ。女子のそれが俺のトラウマを製造して止まないんだよ」
いろは「てか、話が脱線してるんですけどー」
八幡「半分以上お前のせいじゃね?」
いろは「先輩たちが卒業する前に、わたしも覚悟を決めなきゃいけないなって、最近思うんです」
八幡「なに? 真面目に相談とかしちゃう流れなのこれ?」
いろは「先輩。さすがにこの場面で茶化すのはどうかと思います」
八幡「すまん……」
いろは「奉仕部と……先輩と出会って、ざっくり1年間です。80年生きるとしたら、そのうちのたった1年間しか、先輩たちとはいられませんでした」
いろは「先輩はもちろん、結衣先輩も雪ノ下先輩も、わたしが仮面をかぶってることをわかっています。わかっていて、接してくれる」
いろは「ありがとうございます。楽しい時間をくれたことに、ずっと、お礼が言いたかったんです」
八幡「なんだよ、今生の別れみたいな挨拶しやがって」
いろは「場合によっては、二度と先輩とお話をすることが出来なくなるかもしれませんから、ね」
八幡「それって……」
いろは「やだなぁ、先輩。もしかしたら、ですよ。それこそ今日の帰りに、先輩が事故に遭って他界でもしたら二度とお話、出来ないじゃないですかー」
八幡「死ぬのは俺なのな……」
いろは「もう数ヶ月は、先輩はわたしの先輩です。卒業する時に、関係は変わるのです」
いろは「だから、『先輩』とお話するのは最後になりかけてるんですよ」
八幡「屁理屈だな。親にとっては子供はいつまで経っても子供であるように、先輩はいつまで経っても先輩だ。人生の先輩だからな」
いろは「うざいです」
八幡「ストレートな罵倒やめろし!?」
八幡「ったく。お前の言いたいことはよくわからん。けどな、その、なんだ」
八幡「1年間で、色々あったな。お前が依頼を持ち込んだ時は心底めんどくさかった。そっからお前が入り浸るようになり、もう奉仕部の一員みたいになっていた。そんな1年間で、切れなかったんだ。そう簡単に切れないだろ、この縁は。……由比ヶ浜や雪ノ下と、お前の」
いろは「ちょっとかっこよさげな雰囲気出しといて、しっかりオチつけてきましたね」
八幡「うっせ」
いろは「先輩も、変わりましたよね」
いろは「出会った当初はなんてめんどくさいごみいちゃんだろう、って思ったのに。あの日、あの言葉を聞いて以来の先輩は、どことなく人のことを気にかけるようになりました。なんていうか、気を許してる、みたいな」
八幡「いや、ごみいちゃんは嘘だろ。それに、あの日のことは交通事故みたいなもんだ。忘れてくださいお願いしますなんでもしますから」
いろは「まぁそれは嘘ですけど。ここまで興味が向かない人も初めてだな~って」
いろは「むしろ、興味がわきました。この人はどんな反応するんだろうって、試してみたくなりました」
八幡「お前、性格わりぃよな……」
いろは「そしたら、先輩はあっさりとわたしの本質を看破しました。正直、想定外でしたよー」
八幡「俺が今まで、女子のその仕草に何度騙されてきたと思ってる? なめんじゃねぇよ」
いろは「なんで自信満々なんですか。……ま、色々と言いましたけど、結局、言いたいことは一つだけなんです」
いろは(本当は自覚していた。認めたくなかっただけで)
八幡「やけに遠回しな言い方してきたなおい」
いろは(認めてしまうと、じっとしていられなくなるから)
いろは「そう言わないでくださいよー。女の子はおしゃべりが好きなんです♪」
いろは(そして、壊れてしまうから)
八幡「はいはい。で、なんだよ言いたいことって」
いろは(でも、でも――――)
いろは「先輩を、射抜きます」
いろは(もう数ヶ月しかないから。そう思うと、素直にならざるを得なくなったというか)
八幡「やっぱり俺、死んじゃうの?」
いろは「やけくそなんです♪」
八幡「やけくそになってそれって、思想がやばい。マジヤバぷんぷん丸的な匂いを感じる」
いろは「ちょっと意味がわかりませんね」
八幡「言ってみただけだっての」
いろは「ま、ともかく。先輩、覚悟しててくださいね♪」
いろは(結衣先輩にも、雪ノ下先輩にも)
いろは(負けない)
【やはり一色いろはは素直になれる・後編】 終
いろは「あれ以来、先輩がなんかよそよそしい」
いろは「いや、いつもそんな感じだったけど、心の奥では気にかけてくれてるのがわかったのに、今は違う」
いろは「なんか、避けられてる? みたいな?」
いろは「結衣先輩は今までになく積極的だし、雪ノ下先輩もどことなく……」
いろは「って、なんかこれだとわたし、先輩のこと好きみたいじゃん。文化祭の時に素直になろうとは思ったけど、なんかこう、好きかと言われたら……」
いろは「嫌いじゃないけど、じゃあどこが好きかと聞かれたらわかんないし……」
いろは「ま、いっか。いつかわかるかな」
いろは(もう、時間は少ししかないけど)
~奉仕部部室~
いろは「こんにちはーですー」
結衣「いろはちゃん! やっはろー!」
いろは「やっはろーです、結衣先輩!」
雪乃「生徒会の仕事はいいのかしら? クリスマスイベントが企画されていると聞いているけれど」
いろは「あー、それはですね……今、副会長が尽力中です」
雪乃「貴女が尽力しなさいな……」ハァ
結衣「まぁまぁ、ゆきのん。たまには休憩だって必要だし、ね? 休憩だよね、いろはちゃん?」
いろは「そうそう、そうなんです! 休憩なんですよ!」
八幡「嘘くさ……」
いろは「え、先輩いたんですか?」
八幡「純粋な瞳で言うのやめてくんない? まるで本音かのように感じちゃうから」
いろは「先輩の影が薄いのが悪いんです」
雪乃「そうね。おまけに目も腐ってるし、救いようがない影企谷くんね」
八幡「待って。なんで俺の中学校時代の俺的ネーミング知ってんの?」
結衣「い、いいセンスだね」
八幡「やめろ由比ヶ浜。中途半端なフォローが一番ダメージがでかい」
いろは「知ってますそれ! 厨二病ってやつですよね!」
八幡「……それよか、今日は依頼もないし、帰ってもいいか、雪ノ下」スッ
いろは(あれ、今、目を逸らされた?)
雪乃「いいわけないじゃないの。まだメールの返信が残っているわよ。ほら、あの、材なんとかくんのやつ」
八幡「せめてもの情けだ。2年以上も同級生やってて知らないのはやめてやってくれ。俺ですらクラスメートの名前くらい覚えたんだ。ほら、あの川上とかいう奴とか」
結衣「サキサキのこと!? 忘れてるじゃん!」
八幡「なら、メールだけ返したら帰ってもいいか?」
雪乃「今日はやけに食い下がるわね……何か用事でもあるのかしら」
八幡「まぁそんなとこだ」
雪乃「用事と言われたらダメとは言えないわね……メールだけ、よろしくお願いするわ」
八幡「おう」
いろは(やっぱり……)
結衣「材木座くん? のメールって、いつもよくわかんないよね」
八幡「あいつは構って欲しいだけだ。本質的にはかまってちゃんと一緒だ」
八幡「…………さて、適当に返信も終わったことだし。俺は帰って寝ていいんだよな?」
雪乃「寝る?」
八幡「しまった。用事ですよ、用事。やだなぁ雪ノ下さん、そんなに睨まなくたって本当ですよ」
雪乃「呆れた……ま、今回だけは見逃してあげるわ。色々、あるのでしょうし」チラッ
いろは(あれ? 今、雪ノ下先輩、こっちを見たような……?)
八幡「じゃあな。先に帰るわ」
結衣「あ、うん。また明日ね、ヒッキー!」
いろは(結衣先輩に対して、手だけあげて返事をした。先輩らしいけど、昔ならそれすらしなかったんだろうなぁ、とか思う)
雪乃「……さて、一色さん。いい加減、聞こうと思っていたのだけれど」
結衣「うん。ヒッキーと何があったの?」
いろは「あー、やっぱり気づいちゃってるんですね……」
雪乃「比企谷くん、あからさまにあなたのことを避けているもの」
結衣「元々、人に近づきたがらないけど……ちょっとおかしいよねー」
いろは「隠しても仕方なさそうですし、言っちゃいますけどぉ。この前の文化祭の時――――」
いろは「――――ということがありましてですね」
結衣「ヒッキー……」
雪乃「ヘタレね」
結衣「ヘタレだね」
雪乃「ちゃんと応えることすら出来ないなんて、何のために言語能力があるのかしら」
結衣「ほんとだよ! ちゃんとわかってるはずなのに、わざと避けるとか……ま、まぁ、気持ちはわかるけど……でも、これじゃいろはちゃんがかわいそうだよ!」
雪乃「そうね。少々、不憫ではあるわ」
いろは「ちょ、ちょっと待って下さい」
いろは「なんで、お二方はわたしの味方みたいな感じなんですか?」
いろは「お二方だって……」
結衣「んー、だって、ねぇ……?」
雪乃「……ここ1年位、あなたと過ごす時間が非常に多かったわ。私達も、だけれど彼もそう。きっと、あなたはもう、彼の世界にいなくてはならない存在になっていると思うの」
雪乃「根拠は……ないけれど」
結衣「もちろん、あたしはヒッキーが好きだよ。ずっと好きでい続けてきたし、これからもそうでありたいと思ってる」
結衣「だけどね、いろはちゃん」
結衣「ヒッキーが選ぶなら、あたしじゃない他の人でも構わないんだ。ゆきのんでもサキサキでもいいし、優美子だって構わない」
いろは「先輩の幸せが、自分の幸せだから、ですか?」
結衣「あはは、言われちゃったねー」
いろは「……わかりません。わたしは、わたし以外が選ばれたら嫌で……って、今、わたしなんて言いました……?」
雪乃「あら、まだ自覚していなかったのかしら? それとも、心の何処かで認めようとしなかった、といったところかしら」
結衣「いろはちゃんも、とっくにヒッキーのことが好きになってる。だと思うんだ」
いろは「い、いえ、でもさっきも言ったように……そりゃ、嫌いじゃないですけどぉ……好きかと言われたら、そんな……」
いろは「だ、だって! 葉山先輩に抱いた想いと、別なんですもん!」
雪乃「葉山隼人に抱いた感情は、好意じゃなかったでしょう? 葉山隼人というステータスが欲しかっただけ。ただの独占欲よ。それは愛じゃないし、恋でもないわ」
結衣「ゆきのん……ゆきのんからそんな言葉が出るなんて……」
雪乃「そ、そう言われると照れくさくなるからやめてちょうだい///」
結衣「でも、ゆきのんの言う通りだと思うよ。いろはちゃん、もっと自分の気持ちと向き合ってみるのはどうかな?」
いろは「わたし……わたしには、わかりません……わたしは、お二方ほど大人じゃない、です。お二方の考え方も、気持ちも、本当のところが全然わかりません」
いろは「でも、自分の気持ちくらいは、わかります。わたしはそこから、逃げてしまった」
いろは「間違った選択を、したのでしょうか」
雪乃「いいえ、一色さん。貴女の選択も、決して間違ってはいないわ。でも、正解でもない。いえ……正解など、存在しないわ」
雪乃「一色さんが本心でぶつかっていても、今回みたいに逃げていても、どちらにしても比企谷くんは逃げていたでしょう」
結衣「小町ちゃんが、よく言ってるもんね。だってヒッキーは……」
いろは「捻デレ……捻くれてますもんね」
雪乃「彼のやり方にはもううんざりよ。卒業までに、なんとしてでも叩き直しましょう」
結衣「黒歴史だトラウマだなんて言ってるけど、いつまでも過去にしがみついてちゃダメだし! あーあ、惚れた弱みかなぁ。ヒッキーをちゃんと、幸せにしてあげたいっていつも思っちゃうんだ」
いろは「……ありがとうございます、結衣先輩、雪ノ下先輩。卒業まで約3ヶ月……あのダメダメの先輩の腐った目を、澄んだ瞳に!」
結衣・雪乃「それはムリ(でしょう)」
いろは「ですよねー」
いろは(でも、うん。決めた)
いろは(ちょっと間違っちゃったけど、次に間違えないようにすればいいんだ)
いろは(わたしの戦いは、これからだ!)
いろは(なんて、ね)
【やはりわたしの選択は間違ったのだろうか】 終
~生徒会室~
いろは(あれから、ひとまずはクリスマスイベントに向けて、全力を注いだ)
いろは(相変わらず先輩には避けられているけど……めげずに絡みついている)
いろは(このクリスマスイベントで……先輩の心に、少し踏み込んでみようと思う)
ガラガラッ
結衣「やっはろー、いろはちゃん! いよいよ本番だね!」
いろは「やっはろーです結衣先輩! あっという間でしたねー。もぉ、ちょー苦労しましたよー。雪ノ下先輩が厳しくて……」
雪乃「計画の見通しが甘いし、リスク管理が出来ていないんだもの。上に立つ人間は、下に立つ人間を不安にさせるようなことをしてはいけないわ」
いろは「それはそうですけどぉー」
いろは「ところで、先輩は来てないんです?」
結衣「あー……ヒッキーは……」
雪乃「……一応、事前に連絡はしておいたのだけれど。姿を見せないわね」
いろは「小町ちゃんは友達と日帰り旅行に行っているらしいですし、聞くところによると両親は共に出張中だとか」
結衣「えっ、じゃあヒッキーって今、一人きり!? 絶対出てこないじゃん!」
雪乃「一人なのをいいことに、堕落した時間を送っているのは確実ね」
いろは「わたしも、絶対に来てってメール送っておいたんですけど……返信はありませんが」
結衣「やっぱり、4人揃って欲しい……って思う。本当は小町ちゃんも合わせて5人だけど、さ」
いろは「結衣先輩の言いたいことは、わかります。わかっているつもりです。わたし、結衣先輩と雪ノ下先輩、後はあのダメ先輩を合わせて4人は、特別だって思ってます」
結衣「でも、なんとなく嫌な予感もしてたんだぁ。ヒッキー、来ないんじゃないかって」
いろは「……連れてきます」
結衣「え?」
いろは「わたしが直接家に行って、連れてきます!」
雪乃「けれど一色さん。あなたは生徒会長で、このイベントを仕切らなければならないわ。この場を離れるのは褒められる行いじゃないと思う」
雪乃「文化祭の時の実行委員長の時みたいに……罪を被ってくれるお人好しもいないのよ」
結衣「そ、そうだよいろはちゃん! それなら、ここにいてもいなくても変わらないあたしが行ったほうがいいんじゃないかな」
いろは「んー、なんか深刻なムードですけど、大丈夫だと思うんです」
いろは「先輩のことですから、行って話せばなんだかんだで出てきてくれる気がするんですよねー」
いろは「ほら、先輩って年下女子に弱いですから。主に小町ちゃんの影響で」
雪乃「……1時間、ね」
結衣「? ゆきのん?」
雪乃「1時間なら、私と由比ヶ浜さんで間をもたせるわ。開始まで30分はあるし、ある程度の流れも今からインプットすればいい」
いろは「確かに、雪ノ下先輩ならクリスマスイベントくらい単純なものなら、すぐに流れを把握できるでしょうけど……いいんですか?」
雪乃「ええ、問題無いわ。ただし、1時間だけよ。由比ヶ浜さんが1時間以上の進行を覚えられるわけがないもの」
結衣「ゆきのん!?」
いろは「確かに……」
結衣「いろはちゃん!?」
雪乃「だから、必ず時間内に戻ってくること。由比ヶ浜さんが使い物にならなくなる前に」
いろは「はい!」
結衣「二人共、ひどすぎだからぁ!」
~比企谷家前~
いろは(さて、引きこもりを引っ張りだすとしますか)
いろは(と言っても、正面から行っても居留守されるだろうし、そうしたものか……ウムム)
ガチャ
いろは(お?)
八幡「うお、さみぃ……」
いろは(ラッキー♪ 先輩、コンビニでも行くのかな? これなら後をつけていけばいいかな)
八幡「こんなさみぃのに、よく外なんて出歩くなこのリア充ども……爆発しろ」
いろは(先輩、一人の時もこんなこと言ってるのか……新しい発見が出来て嬉しいような悲しいような、複雑な感じ)
いろは(でも本当、先輩どこに行くんだろう? コンビニならいくつもスルーしちゃったし、それに、こっちの方向は……)
八幡「……」
いろは(総武高校……帰ってきちゃった)
八幡「あー、くそ」
八幡「俺は……」
いろは「先輩♪ なんでこんなとこにいるんですかぁー?」
八幡「道に迷った。後人生にも迷いまくりだ。最初からゴールなんてないまである」
いろは「いや、無理ありすぎですから」
いろは「ここまで来たんですし、クリスマスパーティー参加しましょうよ?」
八幡「俺がリア充パーティーに参加するとか、ただの罰ゲームだろ。俺の罰ゲームであり、参加者全員の罰ゲームでもある」
いろは「わたしにとっては罰ゲームじゃないですし、いいじゃないですかぁ。先輩も一緒がいいです♪」
八幡「はいはい、あざといあざとい」
いろは「とーにーかーく! 行きますよ!」グイッ
八幡「おい、引っ張んなっての。わかったわかった、顔だけ見せるから、顔だけ」
八幡「そして顔だけ見せて、場を盛り下げて退却するまでが一連の流れだ」
いろは「ちょっとよくわかりませんが。結衣先輩も、雪ノ下先輩も待ってますよ?」
八幡「嘘だ!!」
いろは「なんですかそのキャラキモいです」
八幡「ひぐらしは通じないか。平塚先生なら通じたんだろうなぁ」
いろは「戸塚先輩もいますよ?」
いろは(たぶん……)
八幡「行くぞ。すぐ行くぞ。絶対行くぞ。ほら、行くぞ!」
いろは「どんだけ戸塚先輩好きなんですか……引きます」
八幡「天使に会うのにテンションが上がらない奴がいるか? いや、いない」
~会場~
八幡「思いの外ちゃんとした出来だな……あとうるさい」
八幡「主に戸部がうるさい」
いろは「っべーですよね。っべー」
いろは「あ、先輩先輩。連れて来てなんですけど、今、進行を雪ノ下先輩と結衣先輩に任せちゃってるんです。わたし変わってくるんで、のんびりしててください」
いろは「くれぐれも! 帰らないでくださいね♪」
八幡「こえぇよ、いろはすこえぇ。ヤンデレ風な笑顔があざとさに隠しきれてねぇよ」
八幡「って、行っちまいやんの。どうすっかな……帰るか」
平塚「比企谷……君って奴はどうしてこう、根底が変わらないかね」
八幡「い、いたんですか先生……」
八幡「あれです。『根』の『底』と書いて根底なわけで。根の下はどうあがいても、土があるわけで。土という事実は変わらないですから、根底が変わるわけないじゃないですか」
平塚「また詭弁を……まぁいい。なんだかんだでここにいるってことは、少しは楽しもうという気になったということなのだろう? であれば、教師である私が水を指すこともあるまい」
八幡「クリスマスなのに一人……か」
平塚「なにか言ったか?」
八幡「いえなんでも。なにも言ってないですから、衝撃のファーストブリットはやめてください」
平塚「私はあくまで監視役だ。こういう役割は往々にして若手に押し付けられるものだ。ほら、私は若手だから。若手だからな」
八幡(2回言ったか……)
平塚「こほん。ともかく、今年度はまだ残っているが、今年はこれで終わりだ。君たちの卒業も間近に迫る。後悔しないように、進路を選択するんだ」
八幡「何言ってんすか。進路なんてとっくに……」
平塚「いいか比企谷。しっかり考えて、進路を決めるんだ」
八幡「あー……わかりましたって」
平塚「返事に覇気がないが……まぁいいだろう。君はやれば出来る子だと信じているよ」
八幡「やらない子に対する常套句じゃないですかそれ……そんなもんで俺が動くとでも?」
平塚「抹殺のぉ……」
八幡「セカンドブリッド飛ばすのは勘弁して下さい!」
平塚「ったく。手のかかる子ほど可愛いと言うが、君の場合は手がかるだけで可愛げがちっともないな」
八幡「それが教師のセリフっすか……俺に可愛さなんて求められても困りますよ。可愛い俺なんて気持ち悪いでしょう」
平塚「ふっ、確かにな。さて、私は他の子たちの様子を見に行ってくるとしよう。君も、せっかく来たのだから羽を伸ばすといい」
八幡「うっす」
八幡「しっかし……きらびやかでにぎやかで楽しげだな。……帰るか」
雪乃「待ちなさい、腐企谷くん。どこへ行こうと言うのかしら?」
八幡「ナチュラルに人の名前を腐らすのはやめていただけませんかね? 腐ってるのは目と性根と性格だけだ。だが納豆のように匂いを発していないだけマシと言える」
雪乃「それだけ腐っていれば十分じゃないの。それに、納豆は食料としての役割を十分に果たしているわ。貴方の場合は食料を減らし、二酸化炭素を増やすだけの存在じゃないの。空気清浄機を見習いなさい」
八幡「今日も毒舌がキレッキレだな……で、なんの用だよ」
雪乃「用事があるというわけではないのだけれど……一色さんが戻ってきたから、お役御免になっただけよ」
八幡「由比ヶ浜はどうしたよ。俺のとこにくるより、あいつと一緒にいたらどうだ」
雪乃「由比ヶ浜さんは三浦さんたちのグループに顔を出しに行ったわ。一緒に行こうと誘われたけれど……私が彼女と顔を合わせると、ろくな事にならないもの」
八幡「彼女……三浦か。ついでに葉山もか」
雪乃「……」
八幡「わり、藪蛇だったわ」
雪乃「いえ……そうね、葉山くんと顔を合わせるくらいなら、貴方のほうが幾分かマシね。不本意ながら」
八幡「えらく高評価だな」
雪乃「別に褒めてはいないわ。その、貴方はぼっちだから、あまり害がないのよ」
八幡「遠回しにディスるのはやめてもらえませんかね?」
雪乃「比企谷くん。率直に聞いてもいいかしら」
八幡「何をだよ」
雪乃「貴方は他人の感情の機微に敏感。常に他者の顔色を伺って、ちゃちなプライドを投げ捨ててでも自分に降りかかるあらゆる火の粉を振り払うことに長けているわ。エリートぼっちとは、言い得て妙なのかしらね」
八幡「しかも俺は受動的ぼっちじゃなく、能動的ぼっちだからな。やむを得ずぼっちになった人間とは違う。なるべくして成ったぼっちだ」
雪乃「だったら、気づいているのでしょう? 周囲の人間の、貴女に対する評価も、感情も。私達の卒業まで後数ヶ月……このまま、逃げ切るつもり?」
八幡「俺に対する評価? バカ言え、俺なんてステルスヒッキーの名をほしいがままにしてるんだぞ? 評価を得るどころか、存在が認識されていないまである」
雪乃「貴方は変わったと思っていたけれど……思い違いだったのかしら」
八幡「俺が変わるって、key作品もびっくりの奇跡だぞ」
雪乃「私は……少し照れくさいけれど、変われたと思っているわ。由比ヶ浜さんに出会って」
八幡「おまえ、ほんと由比ヶ浜好きな」
雪乃「ええ、唯一の友人だもの」
八幡「その友人が探してるみたいだぞ? ほれ、葉山グループから離れて一人できょろきょろしてる」
雪乃「ふふ、そのようね。では、行きましょうか?」
八幡「待て、なんで俺が行かなきゃならん」
雪乃「?」
八幡「何を言っているのかしら、このゴミ谷くんは? みたいにきょとんとするのやめてくんない?」
雪乃「驚いた。あなた、心が読めるのね」
八幡「本心かよ!」
雪乃「軽口を本心で叩けてこそ、本物、じゃないかしら?」
八幡「お前も一色も、俺の黒歴史ほじくり返して何が楽しいの? 掘って楽しい物なんて、埋蔵金くらいじゃない?」
雪乃「そうね、あなたの歴史なんてほじくり返したところで、出てくるのは白骨くらいだものね」
八幡「俺、別に誰の命も奪ってないからな? あまつさえ人気のない場所に連れ込み、深く穴をほって遺棄する。そんでその上にダミーの蓋を幾つか用意して、偽物の白骨でさらに誤魔化したりしてないからな?」
雪乃「具体的すぎて怖いのだけれど……あなたの妄想力には敬意を表するわ。素晴らしい」
八幡「そこはかとなく褒められてないよね、それ。つーかちげぇよ、あれだよ。思春期の男子たるもの、全員が通る道なんだよ。完全犯罪をするとしたらどうする、とかみんな一度は考えてるんだよ」
雪乃「人の趣味嗜好にどうこういうつもりはないけれど……ただでさえ犯罪者みたいな眼光なのだから、自重したほうがいいと思うわよ?」
八幡「自覚してるっつーの。つーかもうしてねぇから」
雪乃「そう。まぁいいわ、由比ヶ浜さんが涙目だからそろそろ行くわよ」グイッ
八幡「あ、おい、ちょっと! 急に手を引っ張るなって! 雪ノ下さん? 聞いてる? 雪ノ下さん!? 俺じゃなかったら勘違いする女子の行動ランキング上位のそれ、やめてくんない!?」
雪乃「こうでもしないと、あなたはまた逃げるでしょう? 誠に遺憾だけれど、あなたを介護……連れて行ってあげるわよ」
八幡「今、介護するって言ったよね? さらっとご老人扱いしたよね?」
雪乃「拉致があかないわ。行くわよ」
八幡「わーった、わーったから! 自分で歩けるっつーの」
【聖なる夜に心を結い、白い雪の色は染まりゆく【前編】】 終
15/10/5
これにて、Part1が終了となります!
文字数制限なんです……10万文字ぴったりになるように、こっちは加筆修正をしていこうと思います。
また、折を見てPart2として、話の決着がつくまで書くつもりですが、少々忙しくて更新ペースが遅く……(;・∀・)
もしよろしければ、のんびり待っていただけたら幸いです!
と同時に、もしこういう話(例:八幡といろはがプールに行ったら……)が読みたい!なんて意見があれば、書けそうなら反映したいなーなんて考えつつ。
まずはひとまず、こんな駄文にここまでお付き合いいただき、ありがとうございました! また、よろしくお願いします!
続編、書き始めました!
期待((o(´∀`)o))ワクワク
↑に同じく期待ですわ
期待 ( ̄^ ̄)ゞ
可愛いから許すけどスタバ行ってないじゃん!可愛いから許すけど!
>>1さん、>>2さん、>>3さん
ありがとうございます!凄く嬉しいです!
期待に添えられるかはわかりませんが、ぼちぼち書いていきますね。
>>4さん
す、素で忘れておりました・・・・・・
また、何かの形で活かします・・・・・・(笑)
1回にだす文章が長いのですごく楽しめます!!明日もワクワクしてまってますね!
読んでて思わず笑っちまうわ。気軽に読めるし普通に面白いから応援してます!
期待!
量産型
面白い!これからも失踪せずにいろは成分を僕にください!
平塚先生…
盛り上がってまいりました
楽しみーーーーー
カス
エロシーンはよ
面白い!これからも頑張ってください!
いろはす成分が補充されていく〜
いいね!
更新まってる!
毎日確認してます~
量産型
心の声の使いどころがよかった!
話の流れも自然で原作に載ってても
不思議じゃないレベルだと個人的には、思いました。
今後の更新も楽しみにしています♪♪
めっちゃ面白いじゃないですかー
いろは成分ほしい~
面白い。更新楽しみです
久々にこんな面白いss見ました!
頑張ってー(*`・ω・´*)ゝうぃ☆
短編集だけどボリュームがあって満足!!
更新楽しみにしてる!!
ガハマさんの料理で死者が出ない、だと!?
皆さんコメントありがとうございます!
なんかもう、目を疑うほどのPV数やコメント数に驚きと、凄い嬉しさです!
ちょっと忙しくて二日に一回くらいのペースに落ちてしまってますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです!
まったり待ってるよ~
鉛筆よくやった
次がたのしみです
ボルヴィックwww
クオリティ高須
スマブラ片手でどうやって…
お泊まりキターー
キターー
だね!o(^▽^)o
いつもコメントありがとうございます!
台風でお家に帰れないので、更新に少し間が空きます、すみません……
明後日くらいには、なんとか!(汗)
待ちに待った更新!
いろはす√期待
√どういう意味なの?
√=ルートやね
わたしもいろはす√楽しみにしてるわ( ´ ▽ ` )ノ
応援してます^^頑張ってください
面白い
原作に近しい文章でとても面白いです!
いろはすみたいな娘いないかなぁ...
確かに所々キャラ崩壊(特に八幡)しているところがあったけど、非常に面白かったです!
いろはすあざとすぎて萌えた。
謎のヴォルビック押しも面白かった笑
一色ヴォルビック好き
はよ
とても面白かった!期待!
ヴォルビック🎵
s◯xしちゃえよ
いろはと二人でディスティニーみたいっす
原作に似ていてクオリティが高いです!!!早くpart2がみたい!!!!
やっぱりいろはルートが最強です。
part2すごく期待します!!
期待してます
頑張ってください!
実に素晴らしい
part2はまだかね?
皆様、たくさんのコメントありがとうございます!
>49さん
いろはと二人でディスティニーですね! また、書いてみます!
part2、更新し始めましたので、またよろしくです!
多分、更新頻度はあまり高くないですが……(;・∀・)
これくらいの長さの八色を探してた
いやーおもろい!期待です
いろは「雪ノ下先輩は最初嫌がってたんですけどー。結衣先輩が甘えたら、あっさり陥落してまして」
八幡「あいつ、雪ノ下に甘いからなぁ」
ここの八幡のセリフは雪ノ下じゃなくて由比ヶ浜じゃないですか?
>>56さん
ご指摘ありがとうございます!
全くもってその通りですね……すぐに修正します!
更新有難いです。頑張ってください💪