2016-02-21 23:10:45 更新

概要

艦隊これくしょん、鈴谷が主人公の二次創作です!


前書き

pixivで週一連載してる『艦隊これくしょん』の二次創作です。主に鈴谷が中心の日常劇になります。
今回はプロローグの0話を宣伝にと思い投稿させて頂きました。
気に入っていただけましたらあとがきのurlにてお待ちしております。


[chapter0: デイブレイク ]




今生の別れの瞬間。

誰にだって走馬灯くらい見る権利はあるはず。流れ星の様にフラッシュバックする自分のちっぽけな一生を1人っきりの劇場で、鑑賞する。

死と引換えにするには勿体ないくらいにショボいチケットだと思うけど、何も無いよりかはマシだと思ってた。

そんな私の視界には狂気の笑みを浮かべる男が映し出されている。

男の手には本人以上に狂気を孕んだ、私の血で汚れたちっぽけなナイフが握られている。

見るに相当な量の血が出てるんだと思う。

引くって引くって~……。私のお腹からあんなにいっぱいの血が、、、


そこで私の意識はブレーカーが落ちた様に突如として途切れた。


……ショボいと揶揄した走馬灯鑑賞チケットでさえも、私は自分の命と共にうっかり落っことしてしまったのです。






気が付くと、私は港が一望できる大きな窓が印象的な一室にいた。その窓から入ってくる海風が寝起きの身体をそっと撫でてくる。

私は瞼(まぶた)を擦りながらふかふかのコの字ソファーから起き上がった。


「……へ?」


口端から垂れる涎(よだれ)を袖で拭うと状況を整理する。


……何も状況が掴めない。

確かに私は名も知らぬ長髪の怪しい男に胸をナイフで何度も刺されて……その、死んじゃったハズ。

徐(おもむろ)に制服に包まれる自分の身体をまさぐる。特に刃物によって乱雑に傷つけられた左胸は何度も何度も確認した。

自分で言うのも何だけどすべすべの肌、乳房の感触はあっても酷い刺し傷なんて何処にもなかった。

すっごい……無傷だ。


じっとしてらんなくて、私はふかふかのベッドから立ち上がり目先の大きな窓へと歩み寄る。

目に映る光景は大海原。真下にはコンクリートしかなくて田舎の港って印象を受けた。


「海……かぁ。」


ますます今の状況が分からない。私の生まれ育った地元に海なんかないし、こんなふかふかのソファーで涎(よだれ)を垂らした事なんて初めて!


「…………拭いとかなくちゃ。」


すると、ガチャリ……。

不意に聞こえるドアの開閉音が私の意識を扉の方へと向ける。

そこには、白い軍服に身を包んだ男の人が立っていた。背丈は私よりも全然高く、目測でも180cmはあるぐらい長身の男。

そんな男の鋭い双眸がこちらを覗く。こっ怖い!



「目が覚めたか。お嬢さん」


キレッキレな見た目の割りに透き通るような声音の男はゆっくりとこちらへ近付いてくる。

しかし不思議と私に恐怖心はない。私を気遣うような男の第一声が優しくて温かい。


「あ、あのっ。どなた様です?」



あぁ、と手馴れたような私の質問にはソファーの方へ顎をしゃくって返された。


「君のこれからを左右する大事な話だ。とりあえずそこのソファーに腰掛けな。」


言いながら男はソファーから少しだけ離れた所に配置されている大きな机に帽子を置いて、ゴツい椅子を引く。

大統領が使うような仕事机。ますますこの男の正体が気になってきた。


コツン……と両肘を机について掌を顎の下で組みつつ一呼吸。

男は何の躊躇いも無く、一つの真実を告げる。


「君は、もう死んでいる。」


「……あ~。」


分かってた事だけど改めて、しかも知らない他人に言われるとリアリティーが増してくる。

そもそも私自身がナイフに身体を犯されるおぞましい感触を覚えているんだから、やっぱり私の死は微睡みが見せた悪夢なんかじゃなくて、実際に起きた悲劇だったんだ。


「……大丈夫か?」


余程優れない顔色を浮かべていたのか、男は心配して私の身を案じてくる。


「あ、はい。大丈夫です。意識もはっきりしてますし。」


「自分が誰か覚えているか?」


も、もちろん覚えている。私を育ててくれた親の顔も名前も、育ってきた土地の名前も、親友の名前も。

……私の名前も。


「鈴谷(すずたに)紗彩(さあや)です。」


もしかしたらこの名前を名乗ることも最期かもしれない。力強く、噛み締めるように名前を名乗ると男は私の平常を確認して安心したのか、更に変化球無しのストレートな言葉を口にする。



「もし、もう一度人生が送れるとしたら君はどうする?」


「え!?」


分かりやすいくらいに間抜けな反応をしたと思う。殺された私がもう一度生き返る事が出来るなんて。

……そもそも、今の私は一体何者?死んだ割にはちゃんと身体はあるしさっき寝てたくせに人間らしく眠気もある。

おしっこだってしたいし……まるで死んだ感じがしない。

ハテナだらけの私の様子を察したが、男は更に話を続けることにしたようだ。


「君はここが天国か何かだと思ってると思うが、ここは鎮守府と言ってな。歴(れっき)とした現世だ。」


「鎮守府ぅ?」



頭を抱えて男の言葉を復唱する。ますます意味が分からない。死んでるのに何で私は現世にいるの?


「鎮守府(ここじゃ)そう珍しいことでもない。死んだ魂が普通に実体を持つ、ここはそういうところなのさ。」


思ったその疑問が独り言としてうっかり出てしまったのか、私の疑問に男はすぐさま返してくれる。


「それじゃ、また私は元の生活に戻れるの!?」


理不尽にリタイアさせられたんだし、そういう救済措置があっても不思議じゃないのかも……!

まだ海外とか行ってないし、回らない回転寿司とかも行ってみたいし……それにそれにっ、まだせ、セックスしてないの!好きな人とセックスしたい!!

そんな私に差した希望の光。

だがしかし、男は「いいや」とゆっくり首を横に振る。


「確かに一度、君は死んでいる。それこそが君のいた世界での真実だ。今更戻ることは出来ない。」


「そ、そんな……」


両親の泣き顔が……春香(しんゆう)の泣き顔が思い浮かぶ。多分この光景は本当の事なんだろう。

今頃私の亡骸が発見されて、辺りに救急車のサイレンが響き渡っていて、何人もの通りすがりの人が血塗れの私を見ていて……


「……っ。」


「第二の人生を、この地で送らないか?そう尋ねているんだ。」


たまらなく、胸が痛くなる私に男は優しく尋ねてくる。

第二の人生をここで……?

知り合いなんか誰もいないこの地で。


「もし、嫌だって言ったら……どうなるの?」


恐る恐る言葉にした私の質問。

死んだ魂である私がこうして身体を与えられているのはこの地だからなんだと思う。そんな特殊な場所である鎮守府で私が「暮らさない」と言った場合、私はどうなっちゃうんだろう。

男は険しい口調で答えた。


「人類の敵、深海棲艦(しんかいせいかん)へ堕ちるだろう」


「……へ?」


聞き慣れない言葉ながらも、『人類の敵』と断言されたその存在はとても穏やかな物ではないと予想出来る。


「さっき死んだ魂が実体を持つと言っただろ。深海棲艦は言うなればこの地で命を落とした者の亡霊だ。私達は人類の平和を侵そうとする亡霊達と戦っているんだ。」


驚いた。こうも真面目な顔して亡霊だなんだと説明されているのだから。


「確かに今の君には身体がある……が、所詮一度は死んだ抜け殻に過ぎない。新たに『強い力を持った魂』を取り入れない限り、君はいずれ理性を無くした深海棲艦となり私達の敵となるだろう。」


この地での生活を受け入れない。それは人類の敵になるのとイコールなのだと言う。

ここにしか、死んだ私の居場所がない。


もう、私は普通の生活には戻れないんだ。


「……わかりました。ここでお世話になります」


暗い表情を浮かべる私の言葉を聞くや否や、男はそうかと立ち上がり私の手を取る。


「えっ……!ちょ、」


男の人に急に触れられて動揺を隠せていない。そんな私の反応が更に恥ずかしくなって、顔中を朱色に染め上げる。


「……ふぇ?」


突如、強烈な眠気に襲われる。何やら、自分とは別の意識が中に入ってきてショートしてしまうような感覚。

突然の侵入者に抗うことも出来ず、私はそのまま意識を失った。






私は夢を見ていた。

曇天の元で大海を漂う大きな艦船は敵の攻撃を受けて大炎上を起こしている。

妙にリアリティーのあるその光景はさも経験してきたかの様に私の脳内で再生されている。


『再会を約束した妹に一目会いたい。』


そんな悲痛な願いが炎上する艦船伝わって来た。

しかし無念ながら魚雷、弾薬に火が回り誘爆。その艦船は大爆発を起こして沈没していった。

近くの沈んでいく船より複数の艦船が複数確認出来る。多分味方の船なのかな……。

……その光景がとても他人事に思えないのは、何でだろう。

妹なんかいない筈なのに、妹と死別するリアルな感覚。

ただただ沈んでいく艦船を眺めているこの夢の終わりは一体いつだろう。

船が一つの生き物みたいな不思議な感覚を伴いながら、私は名も知らぬ艦船の最期を看取った。








「……。」


またもや見知らぬ光景が寝起きの私の視界に広がっていた。

身体を動かす度にキィ……と軋む木製のベッド。中腰でベッドから降りると同じような木製ベッドが三段。


ピンクのヘアゴムや正体不明の筒、あちらこちらに私物と思しき物が散らかっていた。


「……うわっ」


特に気になるのが「夜戦」と毛筆で達筆に書かれた掛け軸。

ちょっち個性あるこの一室は、どうやら三人部屋みたい。


「う~ん」


室内を見回しても相部屋と思われる二人の姿は見当たらない。

しかしさっきの大きな部屋で目覚めた時より分かっていることもある。

やっぱりここは『鎮守府』と呼ばれるこの世、だと言うこと。


「さっきの人……どこだろ」


私に色んな事を教えてくれたデカい人がいない。見たところ鎮守府のお偉いさんっぽい感じだったけど……


それにしても……


「一人にしないでよ~……」


誰もいない未知の世界で放ったらかしはちょっち酷いっしょ!

怖い!怖い怖い怖い~~~!!


……とは思いながらも、私は部屋の扉をそっと開ける。

じっとしてらんないのは生前と変わらないみたい。


扉を開くといの一番に見えたのは、全身真っ白の長身男。


「おっ、また会ったな。」


「……うわっ」


さっきの男だ。読んでいた本を閉じると軽いノリで再会の挨拶をしてくる。


「……うわっ、とは何だ。」


「廊下(こんなところ)で何してんの?」


「鈴谷(すずや)が目を覚ますのを待ってたんだよ。無防備で寝てる女の子と同室する訳にはいかんからな」


「……そ、そう言うことね。いいトコあんじゃん……ってか私の名前間違ってる!鈴谷(すずや)じゃなくて鈴谷(すずたに)だしっ」


照れ隠しに間違いを指摘すると男は急に真剣な表情を浮かべる。


「言っただろ。鎮守府で今の微弱な霊体を維持するには、強い力を持った魂を取り込む必要がある……と。さっきの急な眠気はその魂が入り込んだ事によるものだ。」


「え、そ……それじゃ今の私の中に入った魂が……」


「あぁ、その通り……」


男はゆっくりと立ち上がり私の瞳を覗き込みながら続く言葉を紡ぐ。


「最上型三番艦の重巡洋艦、鈴谷の魂だ」


「じゅーじゅんよーかん?」


何それ、高級な羊羹(ようかん)のこと?


何のことか分かっていない私の反応を察したのか、苦笑いを浮かべながら男は帽子を外し敬礼の姿勢を取った。


「改めて、ここ単冠湾泊地へようこそ。私はここの鎮守府の提督を務めている者だ。」


提督……。

その堅苦しい役職はまさに目の前の男に相応しい。

普通の男の人なら女の子の寝てる部屋なら構わず入りたがるっしょ?わざわざ廊下で私の寝覚めを待つなんて……あれ~、もしかして私って色気ない?


「鎮守府(ここ)での生活もおいおい慣れてくるだろう。それよりまずは……」


提督は奥へ続く廊下へと目を向ける。

……そんな時だった。

ドタドタと地響きが聞こえてくる。

何かが、こっちへ、駆けてくる?


「鈴谷ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ちょっ!?」


ボフン!と私の胸に飛び込んでくるオレンジ色の何か。

いや、オレンジを基調とした制服を来た女の子が抱きついて来たのだ。


「誰!?」


「紹介が遅れたね。……よっと」


私の胸に顔を埋めていた女の子は俊敏な動きで後ろへ飛んだ。

決めポーズとばかりに自身へ親指を立て、宣言する。


「川内(せんだい)型一番艦の軽巡洋艦、その名は川内(せんだい)!」



一方、川内と名乗る女の子がやって来た方向から優雅にポニーテールを揺らしながらもう一人の女の子がやって来る。

凛とした佇まいだが服装はへそ出しノースリーブという大胆な格好。


「阿賀野型三番艦の軽巡洋艦、矢矧(やはぎ)よ。」


自信満々に仁王立つ川内と腕を組む矢矧に視線を向けながら提督はようやく、と言った感じで口を開いた。


「今日から鈴谷の相部屋となる川内と矢矧だ。仲良くしてくれよ。」


「仲良くされてほしい!」


提督の紹介を受けて、にひっと笑う川内。


いい笑顔をする女の子にずっと少し後ろで表情を引き締めて瞳を伏せている女の子。

そして、鎮守府(ここ)の長(おさ)である提督と名乗る男。

急に死んでしまった私を待ち受けていたのは、そんな温かい出会い。



人間の死んだ先に待ち受けている物。

天国、地獄、虚無、転生。

それこそ数え切れない可能性があって、この世にいる限りは永遠に解き明かされることの無い永遠の謎だと思う。

幾重もの可能性の中から、私は鎮守府での人生延長戦を繰り広げることとなった。


私は、鈴谷(すずや)として第二の人生を歩む。


この先に何が待ち受けているのか。

一方通行の終わらない世界かもしれない。地獄のような深海棲艦との殺し合いかもしれない。


それでも死の果てがこの世界なら、私は歩き続けようと思う。

困った時は後ろを振り向けばいいさ。

だってそこには……


「ささっ!交流を深めるべく!入渠(ドッグ)へ行こう!」


「ちょ……こんな真っ昼間に!?」


「私は寝る前に入るから遠慮するわ。」


「え~~、い~じゃ~ん入ろうよ~!」



……賑やかな戦友がいるんだから。



後書き

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