それはまだ、先の話ーアニ・アルミン・ジャンー
初投稿です。
アニ、アルミン、ジャンの訓練兵時代のお話です。
書き貯めありですっ!
誤字や脱字などあればご指摘お願いします。
※10巻までのネタバレがあります
※1度SSnoteに投稿した作品です
*〔か弱い乙女が夢見る少女になる話〕
訓練所から少し離れた森で行われる、対巨人模擬戦闘訓練。
第11班は先陣を切ってこの訓練に励んでいた。
「確か40m先を右に1体、70m先を左に2体いるはずだよ」
「なら70m先の2つをやるぞ。やるのは俺とアニ、いいな?」
「……ん」
事前に見せられただけの地図と訓練用の木でできた巨人の場所を全て頭に叩き込んでいるアルミン・アルレルト。
冷静で正確な状況判断に長け、立体機動の扱いもトップクラスのジャン・キルシュタイン。
斬撃に非の打ち所がなく目標を深くえぐりとり、小柄な体格で小回りのきく立体機動をこなすアニ・レオンハート。
今回の訓練でこれほどバランスのとれた班はないだろう。
「……目標発見。はぁっ!」
「憲兵団になるのは俺だ! ……コニー!?」
「ジャンのあとをつけて正解だったぜ……ってあれ!?」
「やったー! 上からコニーを尾けた甲斐がありました!」
アニは豪快な音とともに訓練用の巨人の項にあたる部分を削ぎ、ジャンはコニーとサシャに横取りされていた。
「汚ねえぞお前ら、俺が先に目標を見つけたんだ!」
「汚い? 意外と生ぬるいこと言うんですね、ジャン……んん?」
「雨のにおいがするな。俺は班を見つけて知らせるぜ、じゃあな!」
「結構降りそうですよね。私もどこかにいる班と合流しますね、では皆さんお気をつけて!」
雨よりも先に嵐がきたな、と班員の全員が思った。
「はぁ!? ってかあいつら班とはぐれてたのかよ!」
「はは、そうみたいだね……それよりどうする?あの2人の勘となるとかなり当たってそうだけど」
「……悪いときなら尚更ね」
「早いとこ中間地点に向かって教官の指示を煽ろう」
目的地に向かう途中で降ってきた雨は、次第に酷くなった。
「ここで雨宿りするか。これ以上進むのは危険だ」
「うん、そうだね。僕もそれがいいと思う」
雨がほとんど入ってこないほど入口は小さい。
中もギリギリ3人入れる程度の狭く小さい洞窟だが雨宿り程度なら、と腰を下ろした。
*
大雨は弱まる気配がない。
「もう暗いけど……この雨じゃ僕達は動けそうにないね」
「あぁもう聞いてねえよこんなの!」
「……今信煙弾の音がきこえた」
「本当か!? ……でもこの天気じゃ見えないよな」
「きっと訓練中止の煙弾だろうけど……うん」
もう全員気づいていた。
雨が弱まりそうにない今夜、ここで夜が明けるのを待つしかないと。
*side アニ
「はぁ……」
本当なら雨でぐっしょり濡れた気持ちの悪い服を脱ぎ捨て、着替えるために自室へ向かいたいところだ。
なんで……だろうね。
私達は着替えもできずにこの狭い洞窟で一夜をともにしなければいけなくなった。
「アニ、寒くない? 大丈夫?」
「……別に大丈夫だよ」
私は嘘をついた。覚悟していなかったわけじゃないけど、やっぱり寒い。
でもそんなの皆一緒だ。訓練兵としている今、男女うんぬんなんて言っていられない。
……それにこの中で成績は一番いい。
「お前は一番奥に行ってろ。そこにいるよかマシだろ」
あぁ、なのになんでこの2人は私を[か弱い乙女]扱いするんだろう。
「お前は嘘をつくのが下手くそだ。なぁアルミン?」
「ち、ちょっとジャン! アニは、優しいからね」
途中でわざと離れればよかったかな。そうすれば私は巨人化して……いや、そんなリスクはおかせない。
超大型や鎧と違って見た目を知られていないのが私の『良いところ』なのだ。
「話聞いてるか? お前だよ、アニ。まさか寝てねえよな? 寝たら死ぬぞー」
あぁ、思い出した。
ライナーとベルトルトとこの壁内に向かってるときも同じことがあった。
雨が降って、洞窟で雨宿りして、3人で身を寄せあって、陽が昇るまで寝ないように故郷の思い出話をした。
「……わかった、奥へ行く。2人もこっちへ来な」
「え、アニ!? 僕らは大丈夫だからっ」
「あんたの意見は聞いてないよ。私は寒いそして眠い。死にそうだ」
「お前なぁ……」
「だけどあんたらが身体であっためて話相手をしてくれれば私は死なない」
ジャンが苦笑しながら、何も言わず隣へ座った。
それを見たアルミンも微笑みを浮かべて私を挟むようにして腰を下ろした。
「もっとこっち。3人でくっつくの。これじゃまだ寒い」
「どこのお姫様だよ……はっ、くれぐれも『ねむり姫』にはなるなよ」
「あはは、本当に『眠れる森の美女』になっちゃうもんね」
「……なにそれ?」
なんなんだこいつらは。詩人か。
「あれ、知らない? 童話だよ。小さい頃寝る前にお母さんに聞かせてもらってたなぁ」
「……小さい頃は特訓で疲れてすぐ寝てたから、そういうのはなかった」
「特訓とかしてたのかよ。だから対人格闘のときライナーとかふっとばせんのか」
ジャンはお前も努力してるんだな、と頭を撫でてくれた。
少し雑でくすぐったいけど、なんだかお父さんと重なるものがあった。
「……お父さんに教えられてね。あんなの、なんの役にも立たない無意味なものだけど」
「んなこたねえだろ。現に死に急ぎ野郎もそれで強くなってるし……認めたくねえけど」
「そうだよ、エレンの成績をあげてくれたのはアニといっても過言じゃないよ」
「ふふ、あんた達にも教えてやろうか」
私は何を言ってるんだろう。
気まぐれでエレンに似たようなことを言ってしまったがために、対人格闘の訓練をさぼれないでいるんじゃないか。
でも、この2人なら……いや、2人増えたらちょうど4人でできるし、いいかな。
「おう頼むぜ。痛いのは嫌だけどな」
「是非お願いしたいな」
「さっきの死に急ぎ野郎と同じこと言ってんじゃないよ……あ、格闘術教えるからさ、2人が知ってるお姫様の話を私に教えてよ」
「お前がお姫様に興味あるってか? まぁいいけどよ、こんなんで憲兵団に近づけるならさ」
「本当に、こんなことでいいの? 童話ならたくさん教えるよ。時間もいっぱいあるしね!」
そうして私は、太陽の光が洞窟に差し込んでくるまで夢中になって話を聴いていた。
ジャンとアルミンも日差しの暖かさに気づくまで、色んな話を聴かせてくれた。
*
「第11班! 班長ジャン・キルシュタイン、アルミン・アルレルト、アニ・レオンハート以上3名、ただいま戻りました!」
結局訓練所に帰れたのは昼前だ。
いくら天災のせいであろうと許可もなく外泊していたわけで、怒られるのを覚悟していた。
「今回は報告や見回りが届かなかったこちら側にも非がある。運良く今日は休日だ、しっかり身体を休め体調を整えろ。よく無事で戻ってきたな」
なんと今回はお咎めが無かっただけではない。
キース教官のなかなか見ることができないであろう笑みを見た。
「ジャン、アニお疲れ様! 疲れてるはずなのに、なんだかそんな気がしないね」
「ああ、まさかの教官の笑顔も見たしな。それとなぜか寝れる気がしねえ」
「……まだ『いばら姫』の話が終わってないよ」
3人とも笑顔、というよりはしたり顔だ。
「いいか、これは班長命令だ。11班、風呂入って着替えたら食堂集合!」
「はい、班長!」
「異論はないね」
これをきっかけにジャン、アルミンとはよく話すようになった。
いや、よく2人の話を聴くようになった。
彼らの親友や幼馴染みに見せるものとはまた違う、特別な顔を見せてくれる。と思ってる。
そんな3人の関係は周りからすると不思議と思うようで、色んな噂がたった。
三角関係とか……くだらない。
けど私はこのままでいい。
本当のことは3人以外に知られてない、この秘密の関係が好きなんだ。
秘密だけど周りに隠さなくていい。
もう一つの秘密の関係との、大きな違いだね。
-人類を滅ぼすことを忘れてはいけない……けれど
「私にも、王子様がきてくれるかな……?」
-それはまだ、先の話だから
「ははっ珍しいこというな、アニ。ま、今みたいな表情のか弱い乙女ならわんさかくるんじゃねーの?」
-今だけは
「ふふ、きっとくるよ。誰がアニの王子様になるかな? 1人じゃなかったりしてね」
-今だけは夢見る少女でいてもいいよね?
〔いばらの城は閉ざされ、美しいお姫様は誰にも邪魔されることなく2000年の眠りにつくのでした〕
-END-
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