遭難した提督
ファッ!?先に書き始めた奴よりPV数多いやん!なんぼなん?(難視
ご愛読ありがとうございます!改善点とかあったらドシドシコメントしてくれよな〜頼むよ〜
7日ほど前の出来事である。とびきりの台風が私の鎮守府を壊そうとしていた。皆が必死に台風対策をするものなので私も何かしなければと外に出たら、吹き飛ばされた。
そして、何とも始末の悪いことに、吹き飛ばされる瞬間の恐怖で何かにつかまろうと手を伸ばしたら、不知火のスカートをガッチリ掴んでしまっていた。まぁ現役軍人な物だから力もあって中々彼女のスカートを私は離さなかった。
そうして私と不知火は鎮守府からかなり離れた海洋へと飛ばされた。気絶していた私はいつの間にか、見知らぬ島まで不知火に引っ張ってもらっていた。
「不知火、そっちには何かあるか」
「はい。綺麗かどうかはわかりませんが水源があります」
「おぉ、それはそれは」
そして今に至るのだ。内心申し訳なさでいっぱいなのだ。
「そちらには何か?」
「ん、あぁいや、何もなかったよ」
「そうですか」
「あぁ....」
妙に淡白な会話。良くも悪くも彼女は事務的で、私は少し壁を感じる仲だった。彼女がどう思っているかはわからないが私は........なんというか、苦手だ。掴むなら金剛のスカートとかにするべきだった。
しかしこれからは彼女と二人きりの生活になるのだし、少しは彼女の知らない部分を知れるいい機会になるだろう。そうでなくては。
「......そろそろ日が暮れるな。寝床を作ろう」
「作り方がわかるのですか?」
「.....いや、正直お前を頼っていたんだが」
「申し訳ありません。私もわかりません」
「.....砂浜の上に葉でも敷こう」
そこにだいぶ大きな葉をこしらえた木がある。
「あれですか?」
「あぁ、あれだ。あれなら一枚で二人...」
「それは.....」
「......あっ」
不知火は少し俯いた。子供の頃からのおかしな倹約癖が出てしまった。年頃(?)の女性にこんな事を言ってしまってはならないのに言ってしまった。やはり嫌われているのか...?
「すまん。二枚使おう、一応」
「....はい」
うつむいていたように見えたが彼女はやはりキリッとしていた。照れ臭そうにしていたのは見間違いだったか。
「......遠くの空が暗くなってるな」
「はい」
私は空を見つめるのが好きだ。鎮守府のみんなもきっと見ている。
「反対側は綺麗なピンク色だ」
「はい」
不知火は私の言葉を半ば聞き流しながら植物の茎を折り、葉を確保していた。
「........」
食事、洗濯、寝床、住まい、そしてコミュニケーション。
「司令官、葉はどこに敷きますか?」
「.........これからどうする?」
「司令官?」
「ん?あぁ、そこらへんに敷いてしまおう」
まぁ、どうにかなる。きっと。
そうして朝が来た。私たちがいの一番に気付いた問題は....
「.....臭うな」
「はい」
「脱ぐか?」
「......え?」
海水と汗をたっぷり吸った二人の服は、見事に異臭を放っていた。洗わねば。彼女は確か綺麗な水源があると言ってたし。
「..あ.....その、やましい意味はない」
「.....はい」
彼女が後手を組んだ。誤解だ、よせ。
「その、水源があると言っていたよな?」
「はい」
「まぁ、とりあえずそこに行こう」
「.....はい」
例の水源は、思ったよりも深く、澄んでいて綺麗だった。水質はわからないが絵画にありそうな様子と言う意味でだ。
鬱蒼とした草原の隅から多くの小動物たちが私たちを見ている。
「司令官。服を脱ぐのでこちらは見ないで下さい」
「私も脱ぐから、見ないでくれよ?」
そんな冗談を飛ばしてみた。
「なんで見る必要があるんですか」(正論)
あ、そっかぁ。
小動物たちが草を踏み分ける音と、コスコスという服と肌の擦れる音だけが響いて、やはり気まずい。
見るなと言われたが、脱いだら暫くは下着のままだろうし、その間ずっと見るなと言うわけなのだろうか。
それから暫く、いや少しか。緊張で時間感覚が狂ってしまいどれほど時間が経ったかわからない。とにかくそれくらい経った時。
「あの、司令官」
「ん?」
背中から聞こえる彼女の声は、また少し押し黙った。
「.....やはり見ないままというのは、その、生活に支障をきたしますので」
「......あ、あぁ」
「ですから.......見ても、大丈夫です」
「......いいのか?」
「.........」
答えないが、まぁ、えと、いいなら。
私は振り向い...........
「...............」
「................何ですか?」
「...........いや、なんでも。本当だ」
きっと今の私は口が半開きのままだろう。美しすぎる。彼女らしさを示す何一つ装飾のない下着。そこからすらっと伸びる撫でたくなる四肢......
ひょっとして私は変態か。彼女の恥じらう顔に形容し得ない感情を覚えた。
「.....さぁ、洗ってしまおう」
「....はい」
パッと気持ちを切り替えるように、彼女は腹を隠していた服をいそいそと水辺へ持っていった。
「.........」
屈んで、無言で服を洗う彼女の姿に、なぜかアライグマを重ねた。
「.........いけないな」
これから男女が一つ屋根の下で暮らすのに、こんなではいけないと、私も煩悩を洗い流すように洗濯に従事した。
また少しほど時間が経ち、互いに下着姿に(ほんの少しだけ)慣れ、洗濯も一通り終わって日の当たる枝に二人の服をかけた頃。
「司令官、食事の調達はどうしますか」
「そうだな......」
割と切羽詰まった問題だ。
「釣りでもできればいいが、この島に釣竿のような漂着物なんか無さそうだしなぁ」
「狩れそうな動物はいますが調理ができません」
「果物はそこら辺のものを熱すれば問題ないだろう」
「足が届く範囲に魚がいます」
「じゃあ、銛で突くか」
そんな訳で私たちは木の枝を前にしている。早速折ってしまおう。
大分しっかりとした枝を見つけた。
「........む、これは」
なかなか折れないぞ...
「.........」
「........むむむ」
「.........司令官」
「......ちょーっと待ってくれよ?」
不知火の目が心なしか冷たい。もうちょっと力を込められればなぁ。格好悪すぎだ。
「司令官、代わってください」
「えっ」
「私は艦娘ですから」
不知火は私の方に詰め寄ると、まるでうまい棒を砕くように、ぽきっと枝を折ってしまった。
「........有難う」
「はい」
まぁ、知らない一面が見れたし、良しとするか。良しとしよう。
それから魚を何匹も刺し、火で炙って寄生虫を焼き殺し、私達はようやくご飯にありつけた。塩っ気ひとつしない魚でさえ、あの日の私には一生のうち巡り会えないであろうと言うほどに美味なものだった。
昨日寝床の準備で忙しかった私達は、今日は篝火(かがりび)の下、落ち着いて夜空を見つめていた。
こうして見つめる空は、鎮守府の執務室から見る夜空より美しい。横に下着姿の美女がいるからか。
「......司令官」
「ん?」
「あそこを」
不知火が指差した先の海辺で、何かが光っていた。
あれは確か....
「うみぼたるだよ、あれは」
「.....蛍ですか?」
「いや、海に住んでるから正確には.....何だったか」
何だったか忘れてしまった。近くに行こう、と彼女を促し海辺に近寄った。
光源など一つもないわけだから、ここの夜は相当くらい。だから、海蛍の生み出す青い光は一層際立つ。
「.............」
「綺麗だろう」
「はい」
押したり引いたりする波の動きに合わせ、海蛍の光は様々な表情を見せる。
私達はそこにかがんで、海蛍たちの動くのを見つめていた。
「......そうだ」
私は海蛍の混じった海水を掬い上げた。
「見ていろ不知火」
「?」
「っ」
手に掬った海水を思いっきり顔にぶっかけた。
「し、司令官」
「............」
「司令官?」
「.........ほーら!」
「え」
顔を覆っていた手をパッと広げ、海蛍だらけの真っ青な顔を彼女に見せた。
.....どうだ?
「...............」
「...............」
.......うーん。
「......すまな」
「ぷっ」
え。
「っふふ....」
「...........はは」
笑ってくれた。良かった。
私の顔の光が反射して、必死に笑顔をこらえようと恥らっている彼女の顔を照らしている。
「あ、あの.....ふふっすいません......ふふふ」
「なんというか.....笑ってくれて嬉しいよ」
「っそ、そうですか......っ.....っ」
私が思う以上に後を引く面白さだったらしい。
「.........良かった」
これからだな。これからだ、私達の生活は。
少しずつ。すこーーーしずつ。
亀の赤子ほどのヨチヨチ歩きだった気もするが、私たちは少しずつ近づけていた。初めこそ私の一方的なコミュニケーションだったが、少しずつ彼女からも話しかけて来てくれるようになった。
ここだけの話、ある日私がうたた寝をしていた時、頬に柔らかい何かと荒い鼻息のようなものが当たったなんて事もあった。そう、あった。
今の私たちはまぁ、そういう関係に成りかけなのだ。
「.........ゲホッ」
「とても熱い......司令官....」
そして今。
急な発熱を患ってしまった私は、彼女に介護されている。意識は朦朧とするし、急な吐き気にも襲われる。度々思考が停止して、幼児退行のような現象を起こし不知火の膝枕に顔を埋めたりなんかしてしまう。
恥ずかしい限りだ。
「申し訳ありません司令官。薬草の知識や治し方がわからないので何をすればいいのか.....」
彼女は例の水源で水に浸した手袋を私の頭に置いてくれている。
「いいさ......そばにいてくれよ.....?」
胸がグイグイと絞まる。痛いし、怖い。
「......はい」
彼女は照れ臭そうに私に微笑みかける。
変な風に取られたかもという心配は、その時の私には微塵もなかった。(そう取られていただろうが)
「....ですが、あの、手袋がとても熱くなっているのでもう一度水に浸してきていいですか?」
「.......あ、ぁぁ。頼んだよ」
正直いって欲しくないが、私を思ってくれての事なのだから断り辛かった。
不知火は優しく、私の頭を地面に置いて去っていった。
「..........」
下から見上げる彼女の後ろ姿は、あぁ................
「.............?........!はっ!」
不知火が場を離れてから数分して、私は自分の脳を疑った。発熱の影響じゃないか、私の脳が見せている幻覚じゃないかと。
気だるげに横目で眺めていた海を、何か、高速な何かが横切ろうとしている。
「..........あれは。あれは.....」
三つの人型(?)の何かが海を滑走している。私は這いずりながら海面に近づき、もう少し目を凝らした。
熱のせいでたまゆらの如く視界が揺らめくわけだが、それでもハッキリその三つの像が動いているのがわかる。
「赤城だ.........あの髪は、間違いない!」
何だろうか、喉に力がこもってきた。大声くらいは出せそうだ。
もしあれが赤城なら。みんななら。そう思うと涙がこみ上げてきた。
発熱と感激の嗚咽でもう体の感覚が無くなっていたが、力を入れてどうにか四つん這いになった。私の声は届くだろうか。
「あ、ぁ.......赤城ー!赤城ーーーー!みんな、こっちだ!」
私は脇目も振らず、ただ一心に叫んだ。力んだ指と爪の間には砂がぎっしりと詰め込まれ、鼻の頭には大粒の汗をかいていた。
「...........みんな」
頼む、お願いだ。きっとこの広い海原で、この距離で私が声を張ったって海水に吸収されて届くはずはない。でも聴いてくれ、頼むよ。またお前達に会いたいんだ。
少しだけこちらを見て、島があるのを認識してくれ。お願いだ!
「赤.....ぎ.....っ.....クラクラする」
酸欠を引き起こしている場合じゃないんだ。
私はもう一度深く息を吸った。
「おーい!みん...........???」
突然、口に何か蓋をされた。
なんだ、声が出ない........息もしづらいぞ。
........手?手か?
朦朧とした意識でその手(らしい何か)を振り払おうとしたがとても力強く、後ろから抱きつかれるような形で口を塞がれているらしい。
こんな性急な状況で、自分のしたい事がよくわからない力に抑えられ、私はなんだか苛立ってきた。
私も本気でその手をにぎると、手を固定していた腕の力が弱まった。
「ダメ.......ダメです司令官」
不知火の声だ。君がやってるのか。
「は.......?不知火、君、何してるんだ.......」
「っ.........あの、でも.............だって」
「なんでだ」
「っ........」
こんなふざけた事をするなんて。
この島に行き着いて色々あったが、君に何かをされてこんなにムカムカしたのは初めてだ。
私は恐らく、今までに無いほどの静かな怒声を彼女に掛けたろう。彼女は少し押し黙った。
赤城たちはまだ視界にいる。少し、俯いてしまっている彼女と話をしなければ。
「なんでこんな事をするんだ?君も姉妹や仲間に会いたいだろう......?」
「............私は、もう戻りたくない.......んです」
なぜ。今そこに、みんながいる。帰れるのに。
「姉妹に会うより、仲間に、会うより.........っ」
「!」
彼女が泣き始めた。私は呆気にとられ、たった今までのあふれんばかりの苛立ちは何処かに行ってしまい、、、、、行ってしまい........
「あな、貴方と、二人きりで............生きたかった......」
「.............し、不知火」
な、何を。
「貴方にあえた、とき、から.......っそうでした.........」
.............
「そ、『そう』?」
「...........好きでした」
「.........なっ」
頭が真っ白になった。すぐ、あそこを仲間達が横切り、視界から消えようとしているのに。
私に叱責された直後に告白、というドタバタな展開に私も動転していたが、きっと今一番心苦しいのは彼女なのだろう。
心のタガが外れ、彼女は大粒の涙を流し始めた。
「台風が来て....,...っ島に.....流れ着いた時.......」
「.............」
「私.......わたし.......」
彼女の嗚咽と、地面にできる涙の跡が私の心を強く殴り、私はオロオロしてしまった。
「嬉しかった..........」
「...........不知火」
どうすればいいんだ?......み、みんなを呼ぼう。話はそれからだ。
私は彼女に向けていた体をまた海に向けた。
「.........不知火、みんなを呼ぼう。みんなを、呼んで........」
オロオロと何かに怯えるように........私は無意識のうちに、彼女から逃げているのか?
「い、嫌です!」
「あっ.....!」
不知火は私の体を無理やり自分に振り向かせ、抱きつきながら首を絞め始めた。
君に抱きしめられるなんて。こんな形で。
「あ......ぁ....やめろ....」
「お願いです.......何も叫ばないで。今だけは静かにしていてください.......!」
不知火の声はとても荒くなっていた。私を落とそうとする怪力と凄まじい息遣いで、彼女がいかに必死になっているのか分かった。
やはり艦娘の力は舐められるものではなく、少しずつ快感に似た何かが頭の中を走り始めた。視界もモノクロのようで混濁色のような色に染まり始め、上下がわからなくなる。
子供の頃、制服のネクタイを使ってみんなで気絶ゲームなんていうのをやっていた。あれと同じ感覚が襲ってきた。
「........やめ......っく」
「大丈夫.......殺したり、しません........だから」
.....................
「っは」
ドカーンと何かの爆発するような音が聞こえ、私は目を覚ました。というか気絶していたらしい。私はなぜか海に頭を向けて仰向けになっていた。海の方を見ると、何かが近づいてきていた。
「.......クー!て..........ですかーーー!」
何を言ってる.......誰だ?
私は確か........ココは島、無人島だ、そうだ。
「提督ー!」
その言葉を聞いて自分が誰か思い出した瞬間、首を絞められ一時的に機能を停止していた脳が血液を得てまた活発に働き始め、全部思い出した。
「し.........しらぬ......」
犬が飼い主に腹撫でをせがむ時のような体勢で周囲を見渡した。彼女は私の右後ろで、体中から力を抜き、地面にへばって俯いていた。
「なぜ........?なぜ気付いたの.......」
不知火の瞳からは止めどなく涙が流れ出ていた。
「.....不知火」
「..............」
私が呼びかけても、彼女は反応しなかった。
.........そんなになのか、不知火?
意識を回復してばかりの自分の体というものはまるで他人の体を乗っ取り動かすようなもので、とても違和感があった。
ーーーーーーあれから。
ここに来たのは赤城、吹雪、そして陽炎だった。私が聞いた炸裂音は赤城の放った空砲だったらしく、自分たちの接近を知らせるためのものだったという。航行中にこちらを見、私たちの存在を確認してくれたそうだ。
不知火の様子を嬉し泣きゆえの脱力ととった陽炎は、同じく号泣しながら抱きついていた。彼女は微動だにせず、ただ固まっていた。
赤城は必死に涙をこらえながら、私を強く抱きしめた。吹雪もそれに続いて涙を堪えず大声をあげながら私に抱きついた。嬉しかったし、ホッとした。
............不知火。
私は彼女達に、また明日改めて来てもらうよう頼んだ。
1、生身の人間をこのまま鎮守府まで連れ帰るのは危険だと思ったから。(聞くところによると鎮守府までの距離は相当だそう。
2、不知火と二人きりでしっかり会話する時間が欲しいから。
私が提言した理由の大半は2だ。彼女達が一旦帰ってからも、私という異性に告白しても答えを返してくれなかったストレス、そして司令官である私を気絶まで追い込んでも本人が最も望まなかった結果になってしまったことに対する自責の念と、これまたストレスにより、不知火は私とまともに目も合わせなくなってしまった。
ほんの数十分で、彼女の心はズタズタになってしまったようだ。
あれから不知火とは距離を取り、遠くから見守っていた。
彼女は浜辺から動かない。ずっとそこに座っている。
「.............」
私は彼女がどこかに行ってしまわないかと心配で、帰投準備をする間、ずっと彼女を見つめていた。
そして夜が来た。この島で過ごす、最後の夜である。
私は二人の服を取り、浜辺に戻ってきた。
不知火はやはりあそこから動いていない。
私はわざとらしく砂を鳴らしながら近づくが、彼女は振り向かない。
「..........不知火、服を持ってきたよ」
「.................」
............
私は何も言わず、彼女の横に座り込んだ。
私が彼女と笑いあった夜のようなシチュエーション。
「............」
「.............」
「...........気を使わないで下さい。大丈夫です」
「......いや、大丈夫じゃないよ」
その声のトーンだよ。いつの間に男になったんだという程に低くて、目にはまだ涙の跡がしっかりと尾を引いている。
不知火は体操座りの姿勢で脚の間に顔を埋め、静かに囁いた。
「.........私を置いていってください」
「....そんな事絶対にしない」
「......あなたの側にいられません」
「私はいて欲しいよ」
「.............っ」
顔を埋めたまま、また彼女は泣き始めたらしい。体が激しく動いている。
「..........そういえば不知火、私に告白してくれたよな」
「............」
「顔を上げて、こっちを向いてほしい」
不知火とこの島に流されたのは何らかの運命だったのでは、と今なら思える。
今朝は意識が朦朧としていたからうまく思考が回らなかった。(それを理由に彼女を傷つけたなんて許されるわけではないが。
私がそう言うと、不知火は少しだけ顔をこちらに向けた。睨むようで、一緒に島に行き着いた時以上に細い瞳だった。
私はとても、とても深い呼吸を一つ置いて........
「.......告白をしてくれてありがとう不知火」
「......はい」
「それで、答えなんだが」
「っ」
私が言い切る前に、不知火はまた顔を背けた。怖いのだろうか。
でも、聞いてくれて嬉しい。君の一世一代の告白を無駄になんてできないからなぁ。
「.......まぁ、まずはこれかな」
私は不知火の手を取った。触れた瞬間彼女が反射的に腕に力を込めるものだから殆ど無理やりになってしまったが。
軍服のポッケの中に隠していたものがある。
それを取り出し、彼女の左手の薬指にはめた。
「.....?.........え......」
「この島に金属なんてないし、私には加工する技術もないから葉で作ったんだ。間に合わせですまない」
「........っ」
私は葉っぱで指輪を作った。
結婚のための指輪だ。左手の薬指にはめるものだ。
「....................」
「........私も、好きだよ」
「.....な、なんで。今朝はあんなに......」
「言い訳にもならないが.......あの高熱で上手く判断できなかったんだ。君に首を絞められたこと位しかよく覚えてないよ」
「......ごめんなさい」
「あっ.......その、冗談だよ、考え詰めないでくれ」
はははと軽く言ったつもりだったが今の彼女には重かったか。
私は間をおいて、真面目な会話をするための空気を取り戻した。
「それで、指輪なんだが.........」
「.....その気持ち」
「?」
「それは.....私が可哀想だから応えたいっていうだけじゃ、ないんですか?」
「..........それもあるかな」
「..........」
「でも私はね」
私は、指輪をはめた不知火の左手を握った。
「君を知りたいんだ、これから」
「...............」
「私は鎮守府に帰るよ。どんなに抵抗しても君も連れ帰る」
力じゃ負けるがどうにかするさ。
「君が言ってくれたように、私も君と一緒に生きていきたい。私はこれを恋だと思ってるよ」
「嘘.........嘘に決まってます」
そう言いつつも彼女の語調がオレンジ色になり始めている事が、私はとても嬉しかった。
私は、もう少し押してみる事にした。
「.....なぁ不知火、帰ろう。一緒に帰って、もっと君の事を教えてくれ」
「......きっと帰ったら、貴方は他の人に奪われます」
不知火はまたこちらを睨み返した。しかし、頬が紅潮していたので全く嫌な気持ちは無かった。むしろもっと意地悪してやりたくなった。
「そんなこと絶対ないし、その時は君が止めてくれるだろう?」
「.............」
不知火は答えず、海蛍くらいしか高原のない海を眩しそうに見つめていた。
「..........」
「..........」
「........................................................Hu,hoo」
今のため息、聴かれたか?
言い切った。鎮守府にいた頃は言えるはずもなかったクッサイセリフを言い切ってしまった。彼女も引かなかったからよかったものの.....鼻から抜けた息から匂いそうなほどクサイ。野獣と化したあの男よりクサイぞ。
「司令官」
私が滲み出る汗を左手で仰いでいると、不知火が右の手に左手を添えてきた。
「あの........嫌じゃないですか?」
「そんなわけないよ」
「...............」
「......,......」
「............」
「.............」
「........司令官」
「おっ.....」
沈黙に耐えられないと言うように、不知火が私にゆっくりと抱きついてきた。
「.........好きです」
「........そうだな」
私も返事を返し、ゆっくりと二人で砂浜に倒れこんだ。
それからは殆(ほとん)ど会話なんてなく、二人で一線を越えた。
私の上着をシートがわりにして、二人の体を重ねたのだ。
その時の彼女は艶めかしく、私は本当に獣に成り下がっていた.......
「.............いや」
「まぁまぁ」
朝がきた。不知火は私の背中から手を回し、私が海辺に近づくのを必死で邪魔していた。こんなことしている間にも、紐の付いたゴムボートを引きながら先日の三人プラスαが近づいてきているのに......
「大丈夫だよ不知火」
「...............」
「きっとまたいつもの生活に戻るだけだよ。それだけ.....」
「...............」
「.........な?」
「...............」
「...........帰ろう」
「..........はい」
私が渾身の優しい眼差しを向け、ようやく彼女も折れてくれた。
それから私たちは用意された別々のゴムボートに乗り、鎮守府への帰路に着いた。救助に来てくれたみんなから、とても懐かしい香りがした。
「HEYダーリン!出発の準備はOK?」
「あ、ぁ.......」
「............」
私と不知火は互いにゴムボートの上に乗り、私を助けに来てくれた艦娘達が島を出るのを待っていた。
金剛は私と不知火の事を全く知らない。
不知火と結婚をすると言うことは鎮守府に着いたら言おう。この空気では言えない。帰路がシベリアを通る一本道の様に寒くなるだろう。
不知火はもう一つのボートの縁に頭を乗せ、他のものに後頭部を向ける形で横になりながら、無言でこちらを見つめている。
金剛の発言が鼻に触ったらしい。
「じゃあ出発シンコーネー!」
私の曖昧な返事で、ゴムボートが岸から離れ始めた。
「............」
「...........司令官」
「........あぁ」
それからは、唯私たち二人だけの生活が刻まれた島が離れていくのを見つめるだけだった。
私や不知火を待ってくれているみんなはどんな風になっているだろう。そんな一抹の不安と期待を抱き、私と不知火は帰路に着いた。ただやはり、その間、不知火は私と消えゆく無人島を、悲しげに、交互に見ていた。
「遭難した提督」おわり
いきなり再開したと思ったらニ文くらいで終わっちゃってすみません!許してください!なんでもしますから!次のコンセプトはぼんやり浮かんでますが、本当にぼんやりなので今文に書き起こして変な感じにしないためにもちょこーっとお時間くださいませ。
期待しますぜ