2018-03-05 00:50:28 更新

概要

”第一次深海大戦”。
そう呼称されたこの戦いは、人類に深い絶望と屈辱を与えるものとなる。
半年前、それまで拮抗していた人類と深海棲艦の制海権を巡る戦いに、突如深海棲艦側が大規模な反抗作戦を起こした。
それまでとは別格の戦力差に、人類はその抵抗むなしく蹂躙された。
敗戦した人類は保有していた制海権のほとんどを奪われ、残存戦力は風前の灯である。
僅かな領海、少ない戦力、限られた資源、そして現提督及び提督志願兵の圧倒的不足。
この世全ての海が深海棲艦の手に堕ちる時が来るのも、そう遠くない話だ。


人類に残された希望は、5つの鎮守府と、5人の提督のみである。


Episode1

     孤独と希望





























~大本営・元帥の執務室~


コンコン


元帥「入りたまえ」


優「失礼します」


ガチャッ


優「本日づけで着任しました、海軍士官学校出身———」


元帥「あー、堅い挨拶は抜きでいいから。楽にして」


優「……」


俺は言われた通り、啓礼を解く。


元帥「君のことについては、事前に資料を読ませてもらったよ。雨宮 優(あまみや ゆう)……。士官学校での成績は三位で卒業、特に怪しい経歴もないし……。ほう、剣道が得意なのかい?」


優「はい。我流ですが、それなりに」


元帥「ふむ。三位といっても成績はトップクラス、加えて体術にも秀でている、か。頼りになる人が来てくれて助かるよ」


優「……」


元帥「?何か気になることでも?」


優「いえ。失礼ですが、元帥殿が想像よりもかなりお若くいらっしゃったので、少し驚いていただけです」


元帥「よく言われるよ。私のような歳で元帥の位になった例はいままでにないそうだしね。……と、すまない。話が逸れてしまったね。君には早速だが、今から配属される鎮守府に着任してもらう」


元帥殿が差し出した資料を受け取り、軽く目を通す。


元帥「君の配属先は東方鎮守府だ。比較的穏やかな海域で、アクセスも悪くはない。もっとも、この戦況下で穏やかも何もないけどね。その資料には資材の備蓄や、既に着任している艦娘の名簿などを載せてあるよ」


元帥「着任後の方針は好きにしてもらって構わない。彼女らは皆、この大本営から配属された既に経験を積んである艦娘たちだ。特に不自由はしないように配慮して振り分けたつもりだから、今後の活躍に期待しているよ」


元帥「ただ、大本営から通達された指令にだけは絶対に従ってもらう。それと、月に一度は必ず報告書を提出すること。この二つさえ守ってもらえればいい。何か質問はあるかい?」


優「……あいつら……他の三人はもう着任してますか?」


元帥「ああ。君が最後の一人だよ。もっとも、私が一人ずつ来るよう時間を調整したから、当然だけどね」


優「そうですか……」


元帥「彼らのことが気になるのかい?」


優「……いえ、別に。俺には関係のないことですから」






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~東方鎮守府前~


榛名「……」


金剛「榛名?どうかシマシタか?」


榛名「いえ……。少し、不安なだけです」


金剛「心配ないネ。今度はきっと大丈夫。暗い顔してると、せっかくの美人がもったいないネ」


榛名「お姉さま……」


と、二人の元へ一台のタクシーがやってくるのが見える。


金剛「もう来たみたいデスね。ほら、榛名も元気出してクダサイ」


榛名「……はい。ありがとうございます、お姉さま」


鎮守府の前でタクシーは止まり、一人の青年を下ろして去る。


榛名「初めまして。高速戦艦、榛名です。あなたが私たちの提督ですね?よろしくお願いいたします」


金剛「Heyテートクー!英国で生まれた帰国子女の金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」


優「自己紹介は不要だ。君たちのことは既に資料で確認済みだからな。さっそく執務室に案内してくれ」


金剛「Oh、つれないテートクデスネー」


優「悪かったな。早くしてくれ」


榛名「あ、はい。こっちです」






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~執務室~


鳥海「そろそろ新しい司令官が着任する時間ですね」


夕立「どんな提督さんかな?遊んでくれる提督さんっぽい?」


響「どうだろう。今は余裕のない状況だし、難しいかも」


天龍「フン、すぐ撤退だとか言う腰抜け提督じゃねぇことを祈るぜ。俺を出撃させてくれりゃ、深海棲艦なんてバッサバッサ斬り倒してやんよ」


龍田「天龍ちゃんったら~。あんまりおイタが過ぎると沈んじゃうわよ~?」


加賀「……」


天龍「にしても、随分こじんまりしちまったよなぁ。この鎮守府にいる艦娘がたったの9人なんてよ」


鳥海「仕方ありませんよ。少ない戦力を4つの鎮守府で均等に振り分けた結果ですから」


龍田「戦艦2、軽巡2、重巡1、駆逐2、空母1、補給1。仮にも最前線の鎮守府の戦力だとは思えないわね~」


響「でも、司令k……じゃなかった、元帥は状況に応じて、大本営から追加で艦娘を派遣するって言ってたよ」


夕立「とにかく、夕立たちが頑張ればいいっぽい?」


響「ああ。順調に深海棲艦から制海権を取り戻して、作戦規模が大きくなれば、自然と援軍を寄越してくれるだろう」


夕立「だったら、夕立すっごく頑張って時雨と一緒に戦うっぽい!」


鳥海「時雨さんは既に西方鎮守府に着任してますよ」


天龍「ここから正反対の場所だな」


龍田「共闘は難しいんじゃないかしら~」


夕立「ぽい~……」


4人が談笑してると、執務室の扉が開き、優たちが入ってくる。

それまで和んでいた執務室に緊張が戻り、艦娘たちは執務机の後ろに立つ優へ目線を送る。


優「俺が新しくこの鎮守府に着任した提督だ。よろしく頼む」


空気は変わらず、張り詰めたままである。


優「早速だが、君たちには今から鎮守府近海の偵察任務にあたってもらう」


鳥海「え……?」


———艦娘たちが不思議な顔をして俺を見てくる。


天龍「お……おいおい、来て早々出撃かよ?まずは自己紹介とか……」


優「必要ない。君たちのことは事前に資料でチェックしてある、天龍」


龍田「でも~、いくらなんでもいきなりすぎないかしら~?」


優「龍田。お前も今の戦況が芳しくないことは理解しているだろう?」


龍田「そのつもりですけど~」


優「ならわかるはずだ。今の人類には少しの余裕もない。こうしている間にも深海棲艦は次の作戦の準備をしているかもしれないんだ。時間は一秒でも有効に使ったほうがいい。違うか?」


加賀「……」


龍田「……ふ~ん、わかりました~」


天龍「おい龍田……!」


優「艦隊は既に編成済みだ。旗艦金剛、天龍、龍田、響、夕立、加賀。この6人で出撃してもらう」


金剛「ワオ、本当にいきなりネ」


優「さっきも言った通り、作戦目的は近海の状況偵察だ。実際に深海棲艦がどの程度の戦力を展開しているのかを知らなければ作戦の立てようがない。尚、偵察範囲に制限はない。できるだけ広い範囲の偵察を頼む。何か質問は?」


一同「……」


優「……では各自、準備ができ次第出撃してくれ。それと鳥海。お前には作戦指令室にて偵察部隊との通信を任せたい」


鳥海「……わかりました」


優「では、この場はこれで解散だ」


艦娘一同は次々と部屋を後にする。が、一人残った艶やかな黒髪の艦娘が俺に訊ねてきた。


榛名「あの……提督。榛名は何をすればいいのでしょうか……?」


優「この鎮守府内を少し案内してほしい。資料に目を通しはしたが、実際に見て回った方が良いからな。終わり次第指令室に向かうから、迅速に頼む」


榛名「わかりました」






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~海上・東方鎮守府近海~

偵察部隊SIDE


天龍「ったく、んだよあの提督。礼儀がなってねぇんじゃねえの?」


龍田「あらあら、天龍ちゃんってばあんなに出撃したがってたのにご機嫌ナナメなの~?」


天龍「いや、それとこれとは別で……物事には順序ってのがあんだろ」


響「いつも細かい手順をすっ飛ばしたがる天龍さんのセリフとは思えないな」


天龍「やかましいわ」


金剛「でも確かに、ちょっとはテートクのこと知っておきたかったネ。テートクは気難しそうな人デスネ」


夕立「あの提督さん、ちょっと怖いっぽい……」


天龍「気難しいとか以前に、そもそも俺たちとあんまり話したくなさそうにも見えたぞ」


龍田「時間がどうとか言ってたし、無駄なことはしたくないんじゃないかしら~?」


夕立「な、なんだか龍田さんも怖いっぽい……」


天龍「……お前、怒ってんのか?」


龍田「ふふふ~、どうかしら~}


加賀「……」


天龍「あー、加賀さん?さっきから一言も喋ってねぇけど……機嫌悪い?」


加賀「……いいえ。少し……気に入らないだけよ」


天龍「気持ちはわからんでもねぇよ。ま、俺たちは与えられた任務を遂行しよーぜ」


金剛「Yes。それにしても、見た目は何も変わらないデスネ。beautifulな海デス」


響「ああ。これだけ見ると、まるで第一次深海大戦での敗北が悪い夢に思えるね」


天龍「そのまま夢であってくれたら良かったんだけどな……」


加賀「———!」


天龍「どうやらそうはいかねぇらしいな、加賀さん」


加賀「そのようね。索敵機より報告。10時の方向に敵艦隊を発見。駆逐2、軽巡1、軽空母1、戦艦2」


金剛「ワァオ、いきなり戦艦が二隻デスカー」


夕立「敵さん、かなりガチっぽい」


天龍「そもそもこんな近海に戦艦が湧くってのがなぁ……」


響「どうしても、現実は危機的状況から目を背けさせてくれないみたいだね」


龍田「焦る必要はないわよ~。私たちも伊達に戦闘経験積んでないじゃない~」


加賀「金剛、どうするの?目的はあくまで偵察だから、無理に交戦する必要はないわ」


金剛「Yes。でもみんなもうやる気満々デスネー。だったら、このまま突っ込むデース!」


5人「「「了解!」」」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~東方鎮守府~


榛名「ここが工廠です」


優「ふむ……」


榛名「ここでは主に艦娘の改装、装備の開発や整備、補給を行っています。残念ですが建造はできません。以前はそういうわけでもなかったのですが……大戦で敗北してからは資材に余裕がなくなってしまったので、建造は必要な場合のみ、大本営だけが執り行うことができます」


優「やはり資材の枯渇がネックか……。なぁ、榛名」


榛名「はい」


優「もし……資材があれば、人間用の装備を開発することは可能か?」


榛名「……?工廠の妖精さんでは難しいかもしれません。明石さんか夕張さんならもしかしたら……」


優「そうか」


榛名「……一応言っておきますけど、艤装は艦娘専用ですよ?提督が装備することはできませんからね」


優「わかっている。次の場所を頼む」


榛名「はい」




優「ここは?」


榛名「甘味処”間宮”です。私たち艦娘の憩いの場でもあります」


優「なるほど。次だ」


榛名「あ……待ってください!間宮さんに挨拶をしておかないと……!」


優「間宮?ああ……。そういえば執務室には8人しかいなかったな……」


間宮「あら?榛名さんに……新しい提督さんですか?初めまして。間宮です」


優「君が間宮か。よろしく頼む」


間宮「はい。よろしくお願いします」


優「用はそれだけだ。榛名、他にめぼしい場所はあるか?」


榛名「え?重要なところは一通り回りましたけど……」


優「なら俺は指令室に向かう。案内ご苦労だった」


榛名「あの、提督!?」


榛名が呼びかけてくるが、気にせず指令室に向かう。

そもそも作戦中に指令室を離れること自体がどうかしているんだ。これ以上は時間の無駄だろう。


間宮「……」


榛名「すみません、間宮さん」


間宮「気にしてないわよ。それより榛名さん」


榛名「?」


間宮「提督のこと、よく見ておいてあげてね」


榛名「え?」


間宮「ふふ、なんでもないわ。ほら、早く提督を追いかけて。私は任務から帰って来た子たちをもてなす準備をしているから」


榛名「え、あの」


間宮は店の奥へ入っていく。


榛名「どういう意味なんでしょう……」






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~海上・東方鎮守府近海~

偵察部隊SIDE


加賀「敵艦隊捕捉。航空戦を開始するわ」


加賀の艦載機が発艦し、敵艦隊と交戦する。

敵の軽空母もほぼ同時に艦載機を放つ。


金剛「夕立と響は駆逐艦の相手を頼みマース!」


響「了解」


夕立「任せるっぽい!」


金剛「天龍と龍田は片方の戦艦をお願いしマース!できれば軽巡の注意も引いておいてほしいネ!」


天龍「おう!」


龍田「了解~♪」


金剛「ワタシはもう片方の戦艦の相手ネ!全砲門!ファイヤー!」


轟音と共に放たれた金剛の砲撃が敵艦隊の近くに着水する。

着水地点から立った大きな水柱が、砲撃戦が始まったことを告げる。


金剛「ンー、もうちょっと上デスネー。次は……」


金剛は落ち着いて照準を調整し、


金剛「外さないワ!」


次弾を発射する。放たれた砲撃は、今度は敵軽巡洋艦を見事に貫いた。


金剛「Yes!perfect!」




天龍「金剛のヤツ、結局自分で軽巡沈めてるじゃねぇか」


龍田「いいんじゃな~い?正直、軽巡と戦艦を同時に相手取るのは厳しかったし~」


天龍「ま、確かに感謝しねぇとな。俺たちは俺たちで、こいつの相手をしねぇとな!」


天龍と龍田は敵戦艦ル級と対峙する。ル級が天龍たちの射程外から砲撃を浴びせてくる。


天龍「おっと、いきなり激しいな」


龍田「突っ込みすぎて被弾したらダメよ~?」


天龍「ンなヘマしねぇよ。にしても近づきにくいな……」


龍田「私たちは近距離戦闘が得意だものね~」


天龍「しゃあねぇ。魚雷で牽制して怯ませるぞ!」


二人はル級めがけて魚雷を発射する。魚雷を察知したル級は二人への砲撃を一旦中止し、回避運動に専念する。


天龍「攻撃を止めたのがお前の敗因だぜ。行くぞ龍田!」


龍田「は~い♪」


二人はル級との間合いを一気に詰める。それを防ぐため、回避を終えたル級はすぐさま砲弾を放つ。


天龍「龍田!」


龍田「甘いわよ~?」


向かってきた砲弾を、龍田はその薙刀で難なく真っ二つにしてみせた。


ル級「!?」


天龍「ナイス龍田!」


龍田の後ろから天龍が飛び出し、ル級の懐に潜り込む。


天龍「懐に入りさえすればこっちのモンだぜ!」


天龍はがら空きのル級の胴に鋭い斬撃を浴びせる。


ル級「!!」


龍田「こっちもいるわよ~?」


すかさず龍田が薙刀で追撃を浴びせる。


ル級「……ッァ!」


天龍「ッラァ!!」


龍田「ハァッ!!」


天龍の刀と龍田の薙刀が同時にル級を貫き、身体から力が抜ける。

天龍と龍田が自分の獲物を抜きはらうと同時にル級の身体が爆発しながら沈む。


天龍「天龍様のお通りだぁ!」


龍田「死にたい船はどこかしら~?」




響「夕立、油断は禁物だ」


夕立「わかってるっぽい!」


夕立と響はそれぞれ、敵駆逐艦イ級、ロ級と交戦中。


夕立「さぁ、素敵なパーティー始めましょう!」


夕立は俊敏な動きで敵の砲撃を躱し、回避しては砲撃を繰り返す。

その青い瞳の奥には、どこか楽しそうな、狂気じみたものを感じなくもない。


夕立「隙ありっぽい!」


攪乱を続けられ照準が狂ったイ級の無防備な横腹に、痛烈な一撃が叩き込まれる。

イ級はたまらず体勢を崩し、黒い煙を上げて倒れこむ。


夕立「もう終わりっぽい?つまんないっぽーい」


夕立は響の方へ振り返る。


夕立「響ー、こっちは終わったっぽ———」


響「ああ、こっちも片付いた———」


と、倒したと思い込んでいたイ級とロ級が二人の背後から奇襲をかけてくる。

それに素早く反応した二人は目にもとまらぬ速さでお互いの背後に迫る敵艦を撃墜した。


響「夕立、油断は禁物だって言っただろう」


夕立「響も人のこと言えないっぽーい」


二人はお互いの戦いを讃えるかのようにほほ笑む。


響「さあ、次だ」


夕立「夕立、もっと活躍するっぽい!」




金剛「ンー、このままだと埒が明かないネ」


一方、金剛ともう一隻のル級の戦闘は拮抗状態にあった。


ル級「ッ!」


ル級の主砲から一斉に砲弾が放たれ、金剛のすぐ隣の水面を捉える。


金剛「shit、このままじゃマズイネ。なんとかシナイと……」


怯む金剛に追い打ちを浴びせようと、ル級が照準を合わせようとしたその時。

ル級の身体を、空からの無数の銃撃が包み込んだ。


ル級「!?」


金剛「艦載機……!サンキューネ加賀!」


振り返ると、既に敵軽空母を倒していた加賀がクールな表情で佇んでいる。

ル級は金剛から注意を外し、対空射撃に専念している。


金剛「一気に決めマース!戦艦ならやっぱり———」


ル級「!!」


金剛「———infightデショウ!」


金剛の重い拳がル級の頬を殴り抜ける。

同時に、豪快な破砕音と共にル級の艤装の一部が砕け散る。


金剛「これで!finisu!!」


すかさずル級の腹に渾身のボディーブローをお見舞いする。

ル級の艤装が崩壊し、激しい爆発を起こしながら沈んでいく。


金剛「フー、なんとかなったネ」


響「結局殴って倒すんだね」


天龍「相変わらず無茶しやがるぜ」


金剛「むー、天龍に言われたくないデース」


龍田「まぁ、みんな無事だし、いいんじゃな~い?」


加賀「慢心はダメよ。索敵を続行するわ」


夕立「加賀さんお堅いっぽい~……」


響「加賀さんの言う通りだよ。まだ作戦は続いてるんだから」


天龍「しっかし、偵察つってもどこまですりゃいいんだ?」


金剛「テートクはできる限りって言ってたネー」


天龍「いっそのこと、艦隊3つ分ぐらい一気に来ねぇかなぁ。もっとこう、バッサバッサと蹴散らしてやりてぇぜ」


龍田「天龍ちゃんったら~、そういうの”フラグ”っていうのよ~?」


天龍「ンだよ、その”フラグ”って?」


龍田「天龍ちゃんがなすすべなく負けるフラグかしら~」


天龍「ハッ、ンなことあるわけ———」


響「———!!」


談笑していた天龍の視界に、銀色の何かが高速で横切るのが見えた。

天龍がそれの正体を認識するよりも先に、


ドオン!!!


響「ぅぐっ……!!」


天龍を庇った響が爆風に包まれた。


天龍「何っ!?」


金剛「響!!」


夕立「響!大丈夫!?」


響「ああ……問題ない……。だが、艤装が……」


龍田「魚雷……ふぅん、そういうこと」


加賀「潜水艦の奇襲ね。やられたわ」


天龍「クソ!俺が呑気してたから……!」


金剛「艦隊、単横陣!潜水艦に備えるネ!」


加賀「……鳥海、聞こえるかしら」


鳥海『はい、聞こえてます』


加賀「敵潜水艦隊と接触、雷撃により響が大破。このまま撤退を具申するけれど……提督の指示を」


鳥海『そ、それが……』


加賀「?」


鳥海『提督、まだこちらにいらっしゃてないんです』


加賀「……何ですって?」


鳥海『そろそろ来ると思いますけど……』


加賀「……いいわ。だったら現場判断に任せてもらうわ。このまま響の安全を確保しつつ帰投します」


鳥海『わかりました』


加賀「というわけよ、金剛。勝手な判断をしてしまったけど」


金剛「ナイス判断ネ。みんなー!これ以上は危険デス!このまま響を守りつつ撤退しマース!」


夕立「響のことは夕立に任せるっぽい!」


龍田「対潜は私たちが引き受けるわ~」


天龍「あんまし得意じゃねぇけどな!」


加賀「———!金剛!9時の方向に敵艦隊!」


金剛「what!?マジデスカ!?」


加賀「戦艦1、空母2、重巡1、駆逐2。……まさか、さっきの艦隊は囮……?」


金剛「敵のtrap……?挟み撃ちというワケデスカ……」


加賀「金剛、撤退を急いで。今なら本格的に交戦する前に逃げ切れる距離よ」


金剛「Yes。天龍、龍田!潜水艦は攪乱だけでいいデス!急いで戻るヨ!」


天龍「おうよ!」


加賀「———ッ、何……!?金剛!」


金剛「今度はなんデス!?」


加賀「9時の方向、高速で深海棲艦が単身で接近してくるわ!」


金剛「一人だけ……?いいデショウ、突っ込んでくるというのなら相手してあげるネ!加賀は敵本隊の足止めをお願いしマス!」


加賀「了解」


加賀が艦載機を放ち、金剛も同じ方角を向いて敵が来るのを待つ。

しかし、金剛の視界に写ったそれは、よく見知った深海棲艦のそれと言うには少し違和感を覚えるものだった。


金剛「……what?何ネ、あれは」


金剛たち偵察艦隊の座標へ高速で迫る重巡洋艦リ級が一隻。

その目は隻眼、身体中には無数に張り巡らされた亀裂、そして右腕にはいくつもの紫色の血管のようなものが荒々しく脈打っている。

その姿は一言で、奇異と評するのに過不足ない姿であった。


金剛「何デショウ。何か、すごくヤバい。そんな気がしマス」


本能的にヤツが危険であると悟った金剛は主砲を構える。

自分がこれほど何かを脅威に感じたのはいつぶりだろうか。

全力で止める。全弾撃ち尽くしてでも。


———でないと、最悪の場合死人が出マス。


金剛「全砲門!ファイヤーー!!」


金剛が渾身の一撃を放ち、加賀もそれに合わせ艦載機を放ち援護する。

主砲と艦載機による空襲。重巡洋艦一隻ではひとたまりもない。それが多くの戦火をくぐってきた歴戦の艦娘によるものならば尚更。

だが、金剛と加賀は共に信じがたい光景を見せつけられた。

回避したのだ。砲弾と機銃の雨を全弾回避したリ級は、無傷で金剛の眼前にまで距離を詰めた。


金剛「ッ!!」


肉弾戦に持ち込まれた金剛はまたも驚愕する。

自分もそれなりに殴り合いは得意であったのだが、ここでもリ級は獰猛な笑みを浮かべながら圧倒してきた。


金剛「ッ……!有り得ないネ……、重巡があの攻撃で無傷だなんテ……!」


リ級「ゥゥアア!!!」


金剛「!?しまっ———」


体勢を崩され無防備になった金剛を、リ級は右手で掴もうとする。

勝利を確信したかのように、凶悪な顔の口角が一層吊り上げられる。


天龍「金剛ッ!!」


リ級「!!」


と、いつの間にか戻ってきていた天龍がリ級に一太刀浴びせ、金剛の窮地を救った。


天龍「チッ、浅いか」


金剛「天龍……助かったネ」


天龍「礼を言うのは早ぇぜ。ったく……随分とまたヤバそうなのがいるもんだな」


リ級「グゥゥゥゥ……」


加賀「天龍、イレギュラーは起こったけど今は撤退が最優先。深追いは禁物よ」


天龍「すんなり見逃してくれりゃあ良いんだけどなぁ」


リ級「ヴァアッ!!」


天龍「そんなわけねぇよなぁ!!」


リ級の猛攻と互角に渡り合う天龍。

強敵と対峙していることに喜びを感じる天龍だが、その笑みには余裕がないようにも見える。


———こいつ、異常だぞ。素手で刀を持った俺と互角かよ。

いや、違う。気を抜けばすぐ崩される。……認めたくねぇけど、こいつの方が実力は上だ。


天龍の剣戟を的確にいなしながら、何度も異様な右手で天龍を掴みにかかる。

それを間一髪のところでの回避を繰り返し、精神と体力が徐々に消耗されていく。


———マズいな。ジリ貧じゃねぇか。このままじゃ———


と、ここで天龍の動きにミスが現れた。

突き出されたリ級の右手への反応が一瞬遅れたのだ。回避という選択肢をかき消すには、その一瞬で十分だった。


天龍「チッ!」


回避を諦めた天龍は逆にその怪しい右手を迎え撃つことにした。

あれだけ忌避していた右腕を切り落とすべく、真っ向から刀を振り下ろす。

———が、ここでもリ級は天龍の想像を遥かに超える事象を引き起こした。


天龍「!?刀を受け止めやがった!」


リ級「ギヒッ」


直後、ぶぅん、と鈍く不快な音が鳴り響き、リ級の右腕に張り巡らされた血管が眩しく発光した。同時に天龍の刀に細やかな振動が走り、


バキィッ!!


天龍「ッ……!?俺の刀が……砕けた……?」


天龍の刀が粉々に砕け散った。


龍田「天龍ちゃん!!」


金剛「これ以上は無理デス!撤退しマス!」


遠方に敵本隊を確認した金剛は、本格的に交戦する前に撤退の指示を出す。

一瞬思考が停止した天龍を龍田が引っ張り、偵察艦隊は鎮守府に向け撤退を開始した。


龍田「天龍ちゃん、大丈夫!?」


天龍「……ああ、悪い」


金剛「加賀!艦載機ありったけぶち込んでクダサイ!全力で足止めするネ!」


加賀「ええ!」


加賀が向き直り艦載機を射出するより先に、弱弱しく響く声が聞こえた。


夕立「ねぇ、あれ……何する気っぽい……?」


全員が振り返ると、意外にもリ級は追ってきてはいなかった。

代わりにそこには、リ級が駆逐イ級の頭部を掴んでいる光景があった。

直後、先刻聞いたばかりの鈍い音が再び響き、駆逐イ級が木っ端微塵に砕け散った。

その残骸が、まるでエスパーが超能力で浮かせているかのように、リ級の右腕を渦巻くように漂っている。


天龍「あいつ、仲間を……?」


リ級は右腕をこちらに振り向け、渦巻く残骸を夕立へ向けて飛ばしてきた。

正確には、大破して動けない響を狙って。


天龍「ッ!?マズイ!」


夕立「ッ……!響……!」


夕立が響を身を挺して庇おうとしたその時。

飛来する残骸の軌道上に立ち塞がった龍田が薙刀を高速回転させ、残骸をすべて弾き飛ばした。


龍田「……勝手がすぎるわよ……?」


夕立「龍田さん……!」


金剛「加賀!」


金剛が加賀の名前を呼ぶと同時に、加賀がありったけの弓を放つ。

空へ放った弓はたちまち艦載機に変換され、敵深海棲艦の本隊を足止めしている。


金剛「このまま響と天龍を守りつつ帰投しマス!」


金剛たちは急いで戦線を離脱する。

まるでわざと見逃すかのように、奇妙なリ級はそれ以上金剛たちを追ってこようとはしなかった。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~東方鎮守府~


鳥海「提督、艦隊が帰投しました!」


鳥海からの報告を受け埠頭で艦隊の帰りを待っていると、水平線にそれらしき姿が見えてきた。

6人全員、かなり消耗しているように見える。


金剛「テートク、艦隊が帰投したヨー」


優「被害状況は」


金剛「響が大破、天龍が中破、ワタシが小破ってところデスネ」


優「修復にはどれくらいかかる?」


金剛「ンー、響が一番重症デスし、補給もプラスで三時間ぐらいですかネー」


優「そうか。では、三時間後に偵察部隊には再出撃を命じる」


榛名「提督……!?」


鳥海「提督、それは……!損傷の修理が完了しても、すぐに出撃させては負担が大きすぎます!」


優「言ったはずだぞ鳥海。人類には一時の猶予も残されてはいない。一刻も早く深海棲艦共を根絶やしにする必要がある」


鳥海「でも!響さんの負担も考えてあげてください!」


優「なぜだ?」


鳥海「なぜ、って……そんなの!」


天龍「いい加減にしろよテメェ!!」


天龍が激しい剣幕で俺の胸ぐらを掴んでくる。


優「なんだこの手は。放せ天龍。上官反逆罪だぞ」


天龍「テメェ、俺たちをなんだと思ってやがんだ!着任早々出撃させて、傷ついて帰って来たこいつらに労いの言葉の一つも掛けないで、ろくに休息もとらせねぇでまた出撃しろだぁ?俺たちはテメェの使い捨ての駒なんかじゃねぇ!!」


優「駒だなどと最初から思っていない。俺は最も効率のいい手段を選択しているだけだ」


天龍「そこに俺たちの意思は汲まれねぇのかよ!!」


響「天龍……私は、大丈夫。修復さえ、できれば……また出撃できるさ」


天龍「ンなわけねぇだろ!疲れたまんまじゃかえって危険だって!」


加賀「……提督。一つ聞きたいのだけれど」


優「なんだ、加賀」


加賀「あなたは私たちが出撃してる間、指令室にいなかったそうね。出撃中に指令室を空けるなんて、一体どういう了見かしら」


優「効率のいい手段を選択していると言っただろう。俺は俺でやることがあった。それだけだ」


加賀「それは艦隊指揮よりも重要なことなのかしら?」


優「大本営から派遣された熟練の君たちを信用してのことだ」


加賀「……そう」


少しの間静寂が訪れる。


金剛「……とりあえずみんなドッグに行かなきゃダメデス。テートク、悪いけど再出撃はナシにしてほしいネ」


鳥海「私も行きます」


7人はドッグへ向かう。


榛名「提督……」


優「……」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~金剛型の部屋~


金剛「フー、いい湯だったネー」


榛名「お姉さま。お怪我は大丈夫なんですか?」


金剛「No probrem。問題ないネ。ワタシより響の方がよっぽどheavyデスしネー」


榛名「ならいいのですが……」


金剛「それにしても、テートクの考えてることがわからないネ。どうしてすぐに再出撃させようとしたんデショウ?」


榛名「さあ……。榛名にもわかりません……」


金剛「ワタシたち、テートクの運には恵まれてないのかもしれませんネー」


榛名「……」


金剛「……もう消灯時間ネ。榛名、おやすみナサイ」


榛名「はい……。おやすみなさい、お姉さま」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優「……?」


加賀「……」


執務室へ向かう途中、俺は廊下で加賀とすれ違う。特に話すこともないので、お互い何も見ていないふりをして。。


加賀「……提督」


優「どうした」


加賀「一つ、わかったことがあるわ」


優「何をだ?」


加賀「あなたのことが気に入らない理由が」


加賀の落ち着いた声が空気を張り詰めさせる。


加賀「あなたには、私たちが見えていないのね」


優「見えてるぞ。現にそこに加賀、お前がいるだろう」


加賀「そうね。訂正するわ。あなたは私たちを見ようとしていないのね」


吐こうとした言葉が、のどの奥で詰まるのを感じた。


優「……何?」


加賀「あなたの目は真っすぐね。真っすぐに、何かを見据え続けている。まるでそれ以外のことは眼中にないように」


優「知ったような口を効くな。お前に何がわかる」


加賀「何かはわからないわ。私にわかるのは、あなたが私たちと向き合おうとしていないことぐらいだもの」


優「……それは」


加賀「あなたは艦娘を道具だとでも思っているのかしら」


優「……」


加賀「……」


加賀は、それ以上は何も言わずに去って行った。


優「……」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


真っ暗な部屋で目が覚める。外はまだ暗い。

寝ぼけ眼をこすりながら、目覚めたばかりの自分の胸に、なんだかモヤモヤしたものがあるのを榛名は感じた。


———なんだろう。提督のことが気になる。


鎮守府に元々常設されてある二段ベッドの上段では、金剛が気持ちよさそうに眠っている。

金剛を起こさないように部屋を出て、月明かりに照らされて少し幻想的になった廊下をゆっくり歩きながら考える。


———私はどこへ行こうとしてるの?提督のところ?もう提督も寝ていらっしゃるかもしれないのに?


寝ぼけ半分で榛名はゆっくりと廊下を進む。


———提督はどうしてあんなに出撃を急いだのだろう。一刻も早く戦況を把握したかったから?一隻でも多く深海棲艦を減らしたかったから?それとも別の何かが———


そこまで考えた榛名は、ふと窓の外を見る。先刻偵察艦隊が帰投した埠頭。そこに佇む人影が一つ。


榛名「提督……?」




『提督のこと、よく見ておいてあげてね』




榛名「……」






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~埠頭~


皆が寝静まった夜、月明かりに照らされて輝く海を一人で眺める。

公共の場以外では肌身離さず携行している刀を置き、俺もその隣に座る。




『あなたは艦娘を道具だとでも思っているのかしら』




優「道具、か……」


俺は胸に手を当て、半分は自分に言い聞かせるように呟く。


優「……深海棲艦はこの世にいてはならない存在。一刻も早く殲滅しないと……。そのためなら、多少の無理も仕方ない。例えどれだけ俺のやり方が非難さえても必ずやり遂げてみせる。どんな犠牲を払ってでも……!」


いつしか縋るように強く握りしめた手を見ながら、俺は呟く。


優「……これでいいんだよな、瑠奈……」


???「いいんじゃない?立派な野望を持っていて」


優「ッ!?」


俺の隣に立つ女はそう言った。俺が全く気付かないうちにそこにいた女が。

俺は反射的に距離を取り、刀を抜いて切っ先を謎の女に向けた。


???「あらあら、こわいこわい。そんな物騒なものをいつも持ち歩いているの?」


優「……誰だ、お前は」


???「フフッ。いいわ。親切な私があなたにいったい何者かを教えてあげる」


女はそう言いながら俺に向かって微笑んできた。

髪は黒く長く、不気味なほど鮮やかな黄色の瞳を持ち、身体はすこしやせ気味。実に美しい女であった。

同時に、女が人間出ないことは、見れば誰もが察するだろう。


???「といっても、私には名前がないのだけど……。そうね、”幻影棲姫”と名乗っておこうかしら」


優「幻影棲姫……。聞いたことがないな」


幻影棲姫「今後の為に知っておいてちょうだい。あなたたちはいずれあの人に潰されるのだから」


俺は幻影棲姫に言葉の代わりに刀で返事した。

しかし、完璧な不意打ちであったはずの一刀を、幻影棲姫は余裕の表情で、片手の指二本で受け止めてみせた。


優「ッ……!?」


幻影棲姫「あらあら。血気盛ん過ぎるのも良くないわよぉ?ただでさえニンゲンは脆いのだから……ね!」


優「ぅぐっ!!」


幻影棲姫の人間離れした力に突き飛ばされ、大きく吹き飛ばされる。

勢いのまま後ろの石壁に背中を叩きつけられ、全身に激しい痛みが走る。


優「ぅあっ……!」


幻影棲姫「深海棲艦に生身の人間が歯向かうだなんて、無謀なことをするのね。ニンゲンはみんなこんなに死に急ぎたがっているものなの?」


優「くっ……!」


幻影棲姫「まぁ、怖い目。私は宣戦布告だけのつもりだったけど……」


幻影棲姫が右手を開くと、何もなかった空間から艤装が展開される。

右手に展開された主砲を掴み、動けない俺へと砲身を向けてくる。


幻影棲姫「あなたがその気なら、その気持ちを無下にするのはいけないわよねぇ。私は親切だから」


そう言う女の顔は、弱者を弄ぶ優越感に満ちた凶悪な笑みを浮かべていた。


優「……いい気に……なるなよ……」


優「このままで……済むとは思ってないだろうな……?お前は敵本拠地の中にいるんだぞ……。今にあいつらが駆けつけて……」


幻影棲姫「———ふぅん、誰が来るって言うのかしら?」


優「何……?」


幻影棲姫「艦娘たちを自分の私怨に利用して、彼女たちの気持ちなんて考えもせず道具のようにこき使って、自分の都合が悪くなったら助けを求めるの?そんな上官を助けに来るほど、艦娘は都合のいい存在なのかしら?」


優「ッ……」




『あなたは私たちを見ようとしていないのね』


『私は……大丈夫』


『なぜって……!?そんなの!』


『ふ~ん、そう……』


『俺たちはテメェの使い捨ての駒なんかじゃねぇ!!』




———そうだ。俺があいつらにしたことは、とても褒められたものじゃない。

天龍。龍田。響。鳥海。加賀。あいつらにとって俺は憎しみの対象となってしまっただろう。そんなの、深海棲艦と立場は変わらない。

なら、俺もここで消えるべきなのだろうか。

誰にも理解されず、誰からも信頼されず、守るべきものももうない。無力なうえに孤独な俺を、ここは必要としていなかったのか。


幻影棲姫「さようなら。出会ったばかりだけど……あなた、嫌いじゃなかったわ」


———ああ、これで。

全てが終わる。何もできずに終わる。

———こんなところで。


???「伏せてください!!」


幻影棲姫「!!」


何かを叫ぶ声が聞こえた直後、幻影棲姫が大きく後ろに飛びのき、視界が爆発に包まれる。

凛としていて、透き通り、優しさも感じるその声に、俺は聞き覚えがあった。


榛名「提督、お怪我はありませんか!?」


優「……榛名……」


幻影棲姫「……まさか、本当に来るとは思ってなかったわ。しかもその艤装……私と同じ、戦艦クラスね」


榛名「……なぜここに深海棲艦がいるのかは知りませんが、退いてください。提督が無事なら、ここで今あなたと争う理由はありません」


幻影棲姫「フフッ、おかしなことを言うのね。艦娘と深海棲艦が出会ってしまえば、戦いが起こるのは必然でしょう?私たちはそのために存在しているのだから」


榛名「……そうですか。提督は安全な場所へ避難してください。ここにいては巻き込まれてしまいます」


優「え……」


榛名「大丈夫です。榛名が必ず提督を守りますから」


振り返り微笑んだ榛名に言葉を返せず、俺は見ることしかできなかった。

向き直ると榛名は幻影棲姫の方へ数歩歩いて行った。


———大丈夫。近接戦闘はお姉さまほど得意ではないけど……榛名だって。


幻影棲姫「吹き飛びなさい!!」


榛名「ッ!」


幻影棲姫の砲撃で戦闘が始まる。

通常、艦娘は艤装を展開して戦うが、すべての艤装をフル展開すると艤装が重すぎて陸上ではろくに動けなくなる。

ゆえに、彼女たちは艤装を自由に展開・収納でき、艤装を一部だけ展開することで陸上での戦闘を可能にしている。

艦娘へのダメージは艤装が肩代わりしてくれるのだが、陸戦時のように一部だけ展開している程度では艤装による加護はほとんどなく、そのダメージは艦娘本人の肉体へと侵食してしまう。重症を負えば命に関わるだろう。

スピードを保つため片手に主砲だけを展開している榛名は、まさにそんな状況に立たされているのだ。


幻影棲姫「あらあら、艦娘が陸上でこんなにも戦えるなんて知らなかったわ。陸では私たちに地の利があると思っていたのだけど……」


榛名「榛名を甘く見ないでください。伊達に戦火はくぐっていません!」


余裕ぶっている幻影棲姫の肩を榛名の砲撃が掠める。爆発はするものの、致命傷にはほど遠い。


幻影棲姫「チッ」


榛名「あまり余計なことを考えていると、足元を救われますよ」


幻影棲姫「その通りね。でも集中しすぎも良くないと思うわ」


榛名「……?」


幻影棲姫「平和ボケしたあなたたちに教えてあげるわ。戦いは結果がすべて。弱者は喰われ、強者が吠える。この世は弱肉強食という体勢に基づいた単純な世界。だから今の海には深海棲艦が我が物顔で横行しているのよ」


榛名「私たち艦娘が、深海棲艦より劣ると言いたいんですか」


幻影棲姫「いいえ。基本的な性能は大差ないわ。むしろ技術的な発展では貴方たちの方が進んでいると思う。でも足りないのよねぇ、あなたたちには。深海棲艦にあって、艦娘にない決定的なあるものが欠けているのよ」


榛名「……何が言いたいんですか」


幻影棲姫「つまり———」


そう言いながら幻影棲姫は、砲身を榛名とは別の方向に向けて続けた。

砲身の示す先は、避難することを忘れ激しい戦闘に見入っていた俺。


幻影棲姫「———戦いに必要なものは、広い視野と柔軟な発想力ということよ」


榛名「ッ!提督ッ!!」


何かを叫ぶ声と、目の前の砲口が光ったのは同時だった。

砲弾がこっちへ一直線に飛んでくる。いくら動けと命じても、身体は言うことを効かない。


———ああ、死ぬのか。


そう悟った俺は静かに瞼を閉じ、その時が来るのを待った。






激しい爆発音が響く。耳が痛くなるほどの激しい轟音が。

爆風が熱い。まともに浴びれば生身の人間ならひとたまりもないだろう。

ああ、そう言ってる間にも意識が遠のいて———


———意識。


意識がある。感覚も残っている。ましてや痛みを感じない。

何故だ?俺はあいつの砲撃を受けたはずじゃ———


榛名「……ッ……ぅあっ……」


優「え……」


ゆっくりと瞼を上げたその先には、艤装を全展開して俺をかばうように立ちはだかる、ボロボロの榛名の姿があった。


榛名「て……とく……」


優「……は、はる……」


榛名「……よかった……無事で…………」


傷だらけの彼女はそう言って俺に微笑み、力尽きて倒れた。


幻影棲姫「アハハハハ!良かったわねぇ、身を挺してあなたを庇ってくれる子がまだいて。こんなニンゲンを助けて何になるのかしら」


———なんで。

なんで俺なんか。なんのために。

なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ。

なんで……榛名が傷つかなくてはならないんだ。


幻影棲姫「……フン。つまらないわね」


幻影棲姫が再び主砲を構える。


幻影棲姫「消えなさい。愚かなニンゲン」


その時、突如幻影棲姫が爆発に包まれた。

煙が収まるとそこに幻影棲姫の姿はなく、何が起きたのかを理解するのに少し時間がかかった。


金剛「……」


優「金剛……」


金剛「……榛名。立派に戦ったみたいデスネ」


金剛が榛名を抱きかかえて去ろうとする。


優「金剛!」


金剛「?」


優「俺に……俺に何かできることはないか?榛名の為に、何か……!」


金剛「……」


優「……助けたいんだ。榛名を……」


金剛「……知リマセン。そういうことは自分で考えてクダサイ」


そう言って金剛は榛名を連れて行った。


優「……」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


幻影棲姫「あらあら、不意打ちとはまた随分ねぇ」


???「どうした」


幻影棲姫「あら、いらしてたの?少し挨拶をしてきただけよ」


???「挨拶?」


幻影棲姫「ええ、東方のニンゲンに」


???「……ああ、幻影か」


幻影棲姫「そういうこと」


???「フン。過ぎた行動はするなよ」


幻影棲姫「わかってるわ。全ては主の御心のままに……」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~東方鎮守府・医務室~


榛名「……んぅ……」


小鳥のさえずりが聞こえる。真っ白な天井が見える。

まだ少し痛む身体を起こし、辺りを見回す。

清潔に保たれた医務室。花瓶に刺された花。ベッドに伏せて眠っている提督。


榛名「……提督?」


優「ん……榛名……?」


榛名「はい、榛名です」


優「……榛名!?目が覚めたのか!身体は大丈夫か?」


榛名「少し痛みますけど、問題ありませんよ」


優「そ、そうか。あ、何か欲しいモノとかないか?果物とか雑誌とか……食べたいものでもいいぞ!こう見えても料理は得意だからな!それとも何か———」


榛名「フフッ」


優「……?榛名……?」


榛名「……優しいんですね、提督」


優「え……?」


榛名「心配だったんです。みなさん、あまり提督のことをよく思っていないみたいで……。でも、本当の提督は優しい人みたいで、榛名は安心しました」


優「———!」




『もう、兄さんったらまた怪我して』


『テテッ……ありがとうな』


『もう慣れたわ。いつも勝てないくせに喧嘩なんかして』


『それは……』


『どうせまた、見ず知らずの誰かを庇ったりしたんでしょ』


『……仕方ないだろ。見過ごせなかったんだから』


『ふふっ』


『なんだよ、悪いかよ!』


『ううん。本当に優しいわね、兄さんは』




榛名「提督……?どうして泣いているんですか……?」


優「え……。あれ……なんで……。おかしいな……涙が……止まらない……」


榛名「提督……」


涙を必死に堪える俺の頭に、優しく撫でる感触が伝わった。


優「……!」


榛名「……大丈夫。榛名は、大丈夫ですから……」


優「くっ……うぅっ、うっ……!」


優しく囁く榛名に、俺は堪えることを止め思うままに泣いた。


誰にでも優しくあれる人になりますように。いつしか忘れてしまっていた、俺の名の由来。

俺は彼女たちにしたことはとても許されることではない。俺の私怨に彼女たちを利用してしまったのだから。。

今更許してもらおうとは思わない。代わりに、どれだけ時間がかかろうと彼女たちに償おう。

これからは復讐のためじゃない。海を、彼女たちを、手の届くものすべてを守るために戦う。




誰かに笑顔を向けられるのは、久しぶりのことだった。



















Episode1

孤独と希望






後書き

最後までご覧いただきありがとうございます。作者のRoiです。
当SSは長編になることを予定しておりますので、是非最後までお付き合いいただけると嬉しい限りです。

次回、Episode2では、決意を新たにした優と艦娘たちが奇妙なリ級の打倒に乗り出すようです。東方鎮守府に新たな艦娘の影が?次回のカギは「炎」。さて、優たちは果たしてどんな結果を得るのか。

こちらのTwitterにて、続編の更新や新作の告知を案内しています。
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このSSへの評価

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エメラグーンさんから
2018-12-27 13:40:37

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2018-03-13 21:17:56

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このSSへのコメント

2件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2018-03-13 19:44:02 ID: svd-hC2i

最高でした!
これから執筆頑張ってください

2: こさっちょ 2018-03-13 21:18:24 ID: svd-hC2i

面白かったです!
これから頑張って(`・ω・´)ゞ


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