2019-02-27 22:39:56 更新

前書き

最終巻なんて嘘だ!!
少女Aは序章です
基本的には雪ノ下×八幡


少女A




 とある日の奉仕部。

そこに、ある一件の怪奇な依頼がたれ込まれた。


 少女「学校に、私がもう一人いるみたいなんです……」


そう語るのは、俺たちより一つ下の学年の、少女Aと名乗る女子だ。その雰囲気からは、静かでおとなしめの印象を受ける。


 由比ヶ浜「えっ?何? もう一人?」


 雪ノ下「ごめんなさい、話が漠然としていてよくわからないのだけど……。つまりどういうことなの?」


 少女A「あっ、ご…ごめんなさい。えーっっと……」


雪ノ下の問い詰めに、しどろもどろになる少女A。ここですかさずフォローを飛ばす。


 比企谷「雪ノ下、あんまり威圧するなよ。怖がっちゃってるだろーが。お前は人より数倍威圧力?あんだからもうちょっとやわらかくな……」


 雪ノ下「聞き捨てならないわねゴミガエル君。それは違うわ。むしろ、彼女は貴方の腐り果てた両目に怯えているのよ。はァ……いっそのことくりぬいてしまったらどうかしら?」


 比企谷「いや、そっちのほうが遥かに怖ェよ……」


 くりぬくってどんな発想だよ。


 雪ノ下「話が逸れたわ、それで、どうなのかしら?」


 少女A「あ、はい。なんか……学校で変なイタズラというか。嫌がらせを受けてて……」


 雪ノ下「嫌がらせ?それはどんな?」


 少女A「はい、学校に私のフリをして変なことばかりしてる人がいるみたいで、そのせいで変な噂とか疑いがかけられちゃって」


 比企谷「フリィ?」


 少女A「はい」


言うと、視線を落とし、少女は語り始めた。


そうして話を聞くと、俺はようやく合点がいった。


___なるほど、もう一人の自分が学校にいるというのはそういうことか。


 最初に違和感を感じ始めたのは先週のことらしい。彼女は、美術部に所属していてたまたまその日は休みの日だったらしく、特に学校に居残る用事もないため、誰とも会わずにそそくさと帰宅したらしい。しかし、翌日になると、彼女は友達から思わぬことを言われた。 「昨日、声かけたのに何で無視したの?」 何のことだかさっぱりわからないそうだ。そのあとも、手を振ったのに返してくれないだとか。帰るといっていたのに、放課後の日暮れになっても学校にいたのを見かけたとか。最初は何かの間違いなんだと思っていたらしいが、あまりに目撃情報が多かった。次第に誰かのイタズラなんじゃないかと疑い始めたようだ。 そして決定的なのが___


 少女A「今、私の学年では盗難被害が出ていて、なんとなく、私が犯人なんじゃないかって疑われているんです」


実際にこの子が盗んでいるのを見たという根も葉もない噂まで出てきているらしい。


目撃情報の真意はわからないが、そんな誰かのイタズラか何かで盗難の容疑まで押し付けられたらたまったもんじゃない。


 少女A「でも!私、絶対にそんなことしてないんです!!」


感情を抑えられず、声を荒げる少女A。


話を聞いていた雪ノ下が、少し考えた様子を見せた後、視線を少女Aに向けた。


雪ノ下「そう……わかったわ。とりあえず奉仕部は貴方のことを信じるわ」


比企谷「おいおい……雪ノ下マジかよ」


雪ノ下「だって、実際に被害にあわれているのだからしょうがないでしょう。Aさん貴方に協力するわ」


少女A「本当ですか!?雪ノ下さん!ありがとうございます!」


少女は安心した様子で破顔する。


 雪ノ下「とりあえずの方針はこちらで考えておくから、今日のところは帰ってちょうだい」


そして、また明日来るようにと約束かわす。


 少女A「わかりました!よろしくお願いします!」


この学校の間で有名な雪ノ下雪乃。それも、才識兼備の彼女から協力を惜しまないといわれたおかげで、とても安心した様子だった。


 雪ノ下は柔らかい笑みを浮かべ、少女Aに退室を促した。


少女が部室から出た後、俺は、今までため込んでいた不満をわざとらしく溜息と一緒に吐き出した。


 比企谷「はぁ~それで。どうするんですか雪ノ下さん。......双子じゃあるまいし、自分と同じ容姿した誰かにいたずらされるってどういう状況だよ......。うさんくささがMAXなんだが」


 雪ノ下「どうするも何も……明日少女Aさんを伴って学校中を探して、犯人を突き止めるだけよ。もちろん、そのトラブルの原因を突き止めて、イタズラ自体をやめさせるというアプローチもするつもりだけれど」


 比企谷「いや、まぁ、言っていることはわかるが。はーぁ。しかし、そもそもこんないたずらが非現実的だし、変なやり方だと思うんだが……」


 雪ノ下「それはそうね、犯人はなぜここまで遠回りでリスクの高いいたずらを……貴方のその腐った目で女子生徒を脅かすのも相当のイタズラのようにも思えるけど……」


 比企谷「いや、脅かしてねぇしイタズラしてるわけじゃねぇからこれ」


 ひどすぎない?


とにかく、明日少女Aにいろいろ聞いてみるしかない。まぁ、変な依頼ではあるが、彼女の目は本気だった。かなりの精神的ダメージがたまっているのだろう。自分でもおかしなことを言っているのは気づいているのか、それはもう藁をも縋る気持ちで奉仕部に依頼をしたのだ。それに、今思えばこの案件はかなりスピードを上げてとりかからないといけないかもしれない。窃盗の容疑までかけられて、クラスの不満や鬱憤が爆発し、それが彼女に実際に向けられてからでは遅いのだ。ひとまず、彼女の無実を証明しなければならない。


 ここでようやく、顔を饅頭のように膨らませ、うーん、と唸りながら考えを巡らせる由比ヶ浜に気が付いた。


比企谷「どうした、由比ヶ浜。間違えて酢昆布食っちまったコイみたいな顔して」


 由比ヶ浜「どんな顔だし……」


そうは言いつつ、何かを思い出したのか、由比ヶ浜はゆっくりと口を開く。


 由比ヶ浜「いやぁ、なんかさー、こんな話どっかで聞いたことない?」


 比企谷「なに?」


数秒の沈黙の後、由比ヶ浜の表情がぱぁっと閃いた。


 由比ヶ浜「あー!思い出した!これってドンペリフーディンの話似てるよね!!!」


 比企谷「いいや……なんだよドンペリフーディンって」


いろいろ改ざんされすぎだろ。脳みそプリンと間違えて食っちまったのか?


たぶんドンペリじゃなくてドッペルだし、フーディンじゃなくてゲンガーだよ。タイプも特性も違うんだが……。早く俺も家にテレポートしたい!!


 雪ノ下「由比ヶ浜さん、あなたが言いたいのはもしかしてもなく、ドッペルゲンガーのことよね」


 由比ヶ浜「そう!それ!ドッペルゲンガー!!」


ドンペリはわかるけど、フーディンはどっからきたんだよ……常識離れした言い間違いはやめてくれ。


 雪ノ下「そうね。確かに少し似ている部分はあるかしら」


 雪ノ下は顎に手を当てて考え出した。


 比企谷「確か、あれだろ。自分と同じ容姿をした人間が現れて、会ったら死んじまうとかなんとか……」


 雪ノ下「そうね、いろいろ説はあるけれど、多くの場合は死の前兆とされている場合が多いわね。ほかにも、古くから離魂病(りこんびょう)や影の病と呼ばれるこれと似たような怪現象も多くあるわ」


 さすがユキペディアさん。さすがにいろいろ知っておられる。まさかオカルト系まで詳しいとは……。


 由比ヶ浜「ちょっと怖いかも。あっただけで死んじゃうなんてどうすればいいのかわかんないし」


 雪ノ下「まあ、会ったら必ず死んでしまうというものでもないらしいけれど……。逆に自分の禍の身代わりになってくれることもあるらしいから」


 由比ヶ浜「へぇ~ゆきのん詳しい!!」


 比企谷「どこでそんな情報しってくるんだか……」


 雪ノ下「何か言ったかしら」

 

 比企谷「なんも」


そこでふと、思い立って、くだらない疑問をぶつけてみた。


 比企谷「ところで、雪ノ下ってそういうの信じるタイプ?」


 雪ノ下「そういうのとは?」


 比企谷「ドッペルゲンガーとかコックリさんとか、幽霊とか、そういう系の話だよ」


 雪ノ下「あぁ、くだらないわ。そんなもの実在するわけないでしょ。そういう話はたいてい誰がが面白がって広めた根も葉もない噂よ」


 比企谷「まぁ、そうだよな」


俺もなんでこんなこと聞いたのかわからないけど、雪ノ下はこうだろうなとは思った。


 由比ヶ浜「ゆきのん達はサンタさんとかいつ頃まで信じてた?」


 比企谷「俺は、小学生のころ、だな。夜中にサンタに化けた親父が小町の部屋に入っていって、ボコボコにされて帰ってきたのを見たことがある」


むなしかったなぁあれは、親父も、俺の心も。


 由比ヶ浜「へ、へぇ~」


明らかに引いている様子だが気にしない。


 雪ノ下「貴方たち何を言っているの?」


 由比ヶ浜「ふぇ?何?どうしたのゆきのん」


 雪ノ下「何って……サンタはいるでしょ?」


はい?なんか、やばいことを聞いた気がしたんだが、俺の聞き間違いか?


 比企谷「おい雪ノ下……。その『何言っているの?この人たち、わけがわからないわ』みたいな顔やめろ」


 雪ノ下「その汚らわしい声真似が不愉快なのは置いておくとして、あなたたちがサンタがいかにも架空の存在だということ前提で話しているような気がしたから、疑問を呈しただけよ」


 由比ヶ浜「ゆきのん……もしかしてサンタさん見たことあるの?」


チラと俺を見ながら言う由比ヶ浜。そんな微妙な空気だしながら聞くなよ……。


それからは雪ノ下の猛烈なサンタさんアピールが始まった。


 雪ノ下「ないけれど……私の寝室には毎年サンタさんからの贈り物が届くわ、いつも丁寧で可愛らしい包装をしてくれて、中身もその時代の流行に合わせたセンスのあるものだし、さすがプロといったところね。それで私は___」


雪ノ下のサンタ上げは続き

そして雪ノ下が毎年手紙をサンタにしたためている……などの話をし始めたところで俺は強引に会話を打ち切った。


俺は雪ノ下の家庭に狂気を感じた。主に姉。雪ノ下をこうまでに仕立て上げたのは絶対に雪ノ下陽乃の仕業に違いない。今まで完璧だと思っていた雪ノ下雪乃にもポンコツな部分は少なからずあるようだ。それが雪ノ下陽乃という実の姉が、本人にバレずに無欠に仕立て上げられた部分であることが、スゲェ怖い。


この会話は続けるべきじゃない……雪ノ下の名誉のためにも。


 比企谷「まあ、サンタの話はもういいだろ……」


 雪ノ下「そうね、まあ、あなたたちも常に正しい心を持ち続けていればいつか必ず来てくれるわよ」


 由比ヶ浜「そ、そうだね」


由比ヶ浜がドン引きするレベルなので、やっぱり相当やばいことを聞いてしまったかも知れない……。


 雪ノ下「話がだいぶ逸れてしまったわね」


言うと、雪ノ下は姿勢をだだし、俺たちに向き直った。


 雪ノ下「明日、全員、放課後部室に集合よ。少女Aさんが着次第始めるわ」


 雪ノ下「明日は少女Aさんに細かく事情を聞いたり、聞き込みをしながら、そのドッペ……偽物を片っ端から探していくわ」


 比企谷「それで見つかったらどうする?」


 雪ノ下「取りあえずは私たちが話を聞いてみるけど……。少女Aさんにすぐに引き合わせるかどうかはその時考えるわ」


由比ヶ浜もコクコクと頷いている。


つーか、変な依頼だなほんとに。


もし、自分と同じ顔をした奴がいたとして、そいつが自分の知らないところで好き勝手しゃべったり歩いていたらどうだろう。恐怖しか感じないな。俺なんて、ただでさえ黒歴史を量産しているのに……それがもう一人増えたらやばいことになっちゃうじゃん!まじめな話、自分がやってないのにそれはお前の仕業だなんて、決めつけられて目撃証言まで出ちゃうんだから、被害者としては最悪の結果でも、犯人としてはイヤガラセは大成功だろうな。早くしないと被害者は今回の件で失うものが多くなってしまうのではないか?人は一度失った信用をとり戻すのは難しい。学校という小さい社会でも同じ、だからこそ、自分の一挙一動すべてに責任を持つ必要がある。それを、勝手にされたらたまったもんじゃない。たとえ、犯人が見つかったとしても、その時その時の周りの人間との関係は収集が着かなくなる。自分一人だけ納得しても意味がない。相手がどう思うかは自分が知りえることはできないから、結果がどうなるかわからないから、こういう問題は取り返しのつかない時になってしまう前にしっかりと対処しなければならない。


 雪ノ下「比企谷くん、くれぐれも勝手な行動は慎んでちょうだい」


 比企谷「……わかってるよ」


雪ノ下の意味深な発言に多少苛立ちつつも、結局は何も言わずに飲み込んだ。


俺たちはそこで解散した。


帰り道ドッペルゲンガーについて少し考え事をしながら自転車を漕いだ。俺にもドッペルゲンガーがいたとしたらどうだろう。そいつも俺と同じ腐った目をしてかわいい妹がいて……つーか小町が妹って世界一幸せなんじゃ?なんかこんなこと考えてたらあたまおかしくなりそうだ。


しかし、会ったら死ぬとかいう言い伝えはどっから来たのだろう。見たショックで死ぬとか?精神がおかしくなって死ぬとか?死ぬ直前だからドッペルゲンガーが現れる、とかいう鳥が先か卵が先かの問題なのだろうか?どちらにせよ、会いたくないな。いや、逆に唯一無二の友人になるかもしれない。


果てしなくどうでもいいが……。



犯人はなぜこんなややこしいやり方で嫌がらせをしているのだろうか。言い方は悪いがもっと楽でリスクの低いやり方があるだろう。それだけ自身があるということなのかないということなのか……。


まぁ考えても仕方がない。早く帰って小町に癒されよう。


まずは少女Aの身辺調査。彼女の友好関係から何かドラブルの原因がないか、そういった心当たりも無いといっていたが、本人の自覚のないところで、それを生み出してしまっている可能性も否定できないためだ。そういった方面は、コミュ力のある由比ヶ浜に担当してもらい、雪ノ下は少女Aの誤解の解消や、犯人の手がかりを探すことを中心に行動し始めた。


そして当の俺は、やる気がなかった。


調査


_______________________________________________________________

それでね少女Aちゃんは悪くないの!だってあの子が____


                           それで、あなたが彼女を見たという場所はどこかしら_____


    いや、おれ、不審者じゃないです___やめてください____

                                        

                                     みつけたら教えてほしいの_________  やめてっ警察だけはやめて___

_______________________________________________________________お


時刻は既に夕暮れに差し掛かり、だいたいの生徒は帰宅し始めているころあいだ。


俺はすでに多大なる精神的ダメージを背負っていた。何もしていない俺がなぜここまで落ち込まなきゃならんのだ……。


俺は、猫背で目が腐っているけど!不審者じゃない!


何故に俺がこんな精神的ダメージを負わなければならないのか。つーか改めてキツイな、この件は。

もし、自分と同じ顔をした奴がいたとして、そいつが自分の知らないところで好き勝手しゃべったり歩いていたらどうだろう。恐怖しか感じないな。俺なんて、ただでさえ黒歴史を量産しているのに……それがもう一人増えたらやばいことになっちゃうじゃん!まじめな話、自分がやってないのにそれはお前の仕業だなんて、決めつけられて目撃証言まで出ちゃうんだから、被害者としては最悪の結果でも、犯人としてはイヤガラセは大成功だろうな。何度も言うが、早くしないと被害者は今回の件で失うものが多くなってしまうのではないか?人は一度失った信用をとり戻すのは難しい。学校という狭い社会ならなおさらだ。だからこそ、自分の一挙一動すべてに責任を持つ必要があるってのに。それを、他人に勝手にされたらたまったもんじゃない。たとえ、犯人が見つかったとしても、その時、その時の周りの人間との関係は収集が着かなくなるかもしれない。自分一人だけ納得しても意味がない。相手がどう思うかがわからない以上、迅速な解決を……。


ま、俺今回役立たずなんですけどね。


そんなことを思っていると、廊下の奥から白衣の女性の姿が見えた。


何やら大きな板のようなものを一人で抱えているようだ。そうだな、ここはなるべく面倒事を持ちこみたくない奉仕部(俺)は戦略的撤退という措置を取るとするか。俺は、白衣の女性に背を向けた____


 平塚「うぉい!比企谷!いいとこにきた!」


 比企谷「やべっ気づかれた!ルーラ!」


させるか!と、飛んできた平塚先生に、まんまと俺はつかまってしまった。


 比企谷「な、なんですか先生。俺ちょっと忙しいんで、後にしてもらえますか」


踵を返し立ち去ろうとするが、平塚先生に襟をつかまれ、途端に変な声が出る。


 比企谷「ぐえっ」


 平塚「まちたまえ」


横目で平塚先生を睨む。一歩引いた平塚先生は、上目遣いで瞳を光らせ、縋るような甘ったるい声を出した。


 平塚「お願い!ちょっと手を貸してくれ比企谷ぁ~」


俺はすかさず距離をとった。なんでこんな年増の猫なで声を聞かなきゃならんのだ。


 比企谷「いや、気持ち悪いんでやめてもらえますか……」


 平塚「そこまで言わなくても」


平塚先生の顔に若干の悲壮感のようなものが垣間見えたが、それも一瞬のうち、平塚先生は俺に向き直り新たに口を開く。


 平塚「ちょっとこれを、君たちの部室まで運んでほしいんだ、それくらいいいだろう?」


平塚先生は大きな板のようなものを人差し指の関節で、ノックするように2回たたいた。


 平塚「それともなんだ?か弱い女性を一人置き去りにして、この重たい荷物を長い距離運ばせるつもりなのか比企谷。そんなんじゃ男が廃るぞ」


俺は鼻息を落としながら、その大きな板に手をかける。


 比企谷「先生はか弱い女性では___」


そう言葉を発しかけた瞬間、強い殺気のような視線を感じた俺はあわてて話を逸らす。


 比企谷「___ありますが。いえ、その、はい、手伝います。で、これは何なんですか?」


 平塚「これは鏡だ」


平塚先生はそういって白い端をつまみ、その隙間を見せつけてきた。中には確かに鏡があった。その周りにはやたらに豪華な額縁がついている。


___立派だな。


素直にそう思えるほどの鏡だったことは確かだ。


 比企谷「なんで鏡なんか」


 平塚「つべこべ言わずに手伝いたまえ」


隣から小さく、「手間が省けた___」と聞こえたような気もしたが……。

俺は、かなりの面倒くささを感じつつも、それを顔には出さずに黙って従うことにした。


ふと、視界の隅に誰かの姿が見えた気がした。意識をたどっていくと、その正体は、窓の外から見える別棟の校舎の片隅に立っている少女Aの姿だった。


あんなところで何を?雪ノ下達はどうした?


 平塚「何を見てる?」


平塚先生が俺の視線の先をたどる。

雪ノ下達が今どんな状況なのかは知らんが、ひとまずは任せるしかないだろう。というか早くコレを何とかしないと。


 比企谷「いえ、なんでも……。早くいきましょう」


平塚先生は何か多少訝しむ様子を見せたがすぐに、いつも通りの表情になった。







平塚「ふぅ~どっこいしょ!」


比企谷「女性がそんなオッサンみたいな声ださないでもらえませんかね……」

平塚「な、なんと。ひ、比企谷は私を一人の女性として見てくれていたのか……」


比企谷「それよりは、女性よりのオッサン……かな」


俺は脳天に重たい一撃を喰らった。


俺たちが今いるのは奉仕部の部室だ。俺が運んでいた鏡はここに運び込まれ、部室の片隅に立てかけらていた。


平塚先生のほうを見ると、その顔は夕日に照らされ、美貌は陰に隠されている。しかし、白衣を着たその長身の姿は、依然として美しいままだった。


オッサンは言いすぎたかな。


そんな考えを巡らせてはいたが、突っ込みたいところはある。


比企谷「で、この鏡は何なんですか」


平塚先生が、遠い目をした。


平塚「それを聞いてしまうか比企谷……」


その言葉を聞いた俺は、『これは面倒くさいことになるな』という警笛が頭を駆け巡る。これは地雷だ。思考の時間はわずか0.1秒。限られた時間の中で咄嗟にひねり出した、打開の言葉を発する。


比企谷「あ、やっぱいいで___」


平塚「それはだな……」


間に合わなかった。絶望と同時に、これからどんな話を聞かされてしまうのか、という恐怖が脳内を覆った。こんな簡単な地雷を踏みぬいてしまうとは……。好奇心とは恐ろしいものだ。

仕方がないが、ここは平塚先生の話に付き合ってあげるしかないだろう。決して、時間潰しではない。

平塚先生によると、こないだの合コンでいい感じになった男(真偽不明)がいた。その男は美容室で働いていて家に大きな鏡があると嬉しい的なことを平塚先生に言った。平塚先生はこの鏡をプレゼントした。あげく突き返された。置く場所がないから先週あたり美術部に贈呈した。あげく突き返された。そして仕方なく奉仕部に持っていった。


あれ?この先生やばい人なんじゃ……。


 平塚「_____ということだからこの部室で有効活用してくれ」


 比企谷「いや、使いどころないっていうか、こんなネガティブオーラばんばん出てる鏡あっても怖いんですけど……」


心なしか、この鏡は陰影が深いような気がする……。


平塚「まあ、そういわずに」


比企谷「これ、いくらしたんですか。見るからに高そうですけど」


平塚「家が一軒建つかなぁ」


人差し指を立てながらそうこぼした。


比企谷「えっ」


平塚「まあ冗談だが」


比企谷「そんな(くだらない)冗談いいですから」


平塚先生、すげえごまかそうとしてる。それだけ高いということか……。まあこれ以上は詮索しないでおいてあげよう。改めて大人って恐ろしい。たまに謎の執着を見せるとことか、無駄に財力があるせいで話がいちいち重たい。まあ、ここまでの行動力すごいと思うけどね。


平塚「ま、30万はしたかな」


言っちゃったよ。簡単に。30万……マジかよ。この人先生なのに、ちょっとおばかなんじゃないか。


平塚「私は馬鹿じゃないぞ比企谷!!」


比企谷「まだ、何も言ってないですから!」


平塚「まあ、そんなしょうもない話はおいといて」


比企屋「(しょうもなくないけど)」


平塚先生は俺に向き直り、何故か得意げな顔を向けた。


平塚「手伝ってくれたお礼だ。なんでも好きなことを言ってくれ、なんでもおごるぞ」


 比企谷「なんでも……?」


  平塚「比企谷、これが大人の余裕というやつだ。財力と包容力を兼ね備えている私に不可能はない」


 比企谷「良く知りもしない相手に30万の鏡をプレゼントする人間を大人とは言いません。そして余裕もない」


 平塚「言っとくが、エッチなことはなしだゾ?」


ペロッと下を出しながらウインクをしてくる。


うっざいわ。思わず眉間にしわが寄ってしまった。一瞬のイラつきを頭から強引に押し出して、先生から情報を引き出すことに集中した。


まあ、なんでもか。


俺は頭にしまっておいた、先の依頼の件を相談することにした。


比企谷「じゃあ、えーっと。少女Aについて何か知りませんか?今、___」


俺は、今回の依頼内容についてザックリと説明した。

すべての内容を聞き終えた平塚先生は顎に手を当て、少し考えるそぶりを見せた。


 平塚「そうか、なるほどな。彼女がか……」


 比企谷「何かあるんですか?」


 平塚「いや、すまない。彼女とクラスメイトが何か揉めているのは把握していたが、私個人は直接何かを聞いたり見たりしたわけじゃないな」


 比企谷「そうですか……」


 平塚「いや、そうだ、ついさっき比企谷と会う前だったかな。××棟で、窓からだが、庭を歩いている彼女の姿を見たな。一人で何やら探しているようだったが……。でも、君の話によると放課後は雪ノ下達と一緒に行動しているのではなかったか?」


 今日もいたのか、偽物が。待てよ、なら俺が平塚先生と一緒にいるときに見たあの姿は何だ?

××棟からあそこの庭まで移動するのはかなり時間がかかる。俺が見た限り、あの時の少女Aの姿も一人だったはずだ。同一人物……か?


 比企谷「その時の正確な時間はわかりますか?」


平塚「わからん」


 わからんのかい。

 まあこれだけの情報だと断定はできないな。 


それから


比企谷「なんか、後輩達の間で起きてる窃盗事件のことなんですけど、先生は何か知ってることはありますか?」


平塚先生は、俺の質問を意外だと思ったのか、一瞬目を見開いた。しかし、すぐにいつもの表情に戻っかと思えば、今度は難しい表情をしながら額に手を当てて唸り声を上げた。


平塚「あれはなぁ~。いかんせん事件性が高くて生徒には詳しい事情は話せないことになっているんだがなぁ」


まあ、当然といえば当然だわな。窃盗は大きな事件なわけだし、誰が犯人かわからない以上、生徒を含め、教師や、事務員も犯人である可能性が高い。生徒に不確定要素の強い情報を与えてしまったら、それでよからぬトラブルに発展することもあるだろう。他も然り。というより、元から盗難事件の犯人捜しをするなんてのあは不可能だったな。警察じゃあるまいし。




このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください