山城「退魔師の提督…?」
艦これの世界に現れた謎の力を持つ主人公。
かくかくしかじかで幸か不幸か鎮守府の提督にされてしまう。
そんな人外能力者の提督と艦娘の紡ぐ物語
書きたいように書いてるだけなので不定期更新、誤字脱字等有りますがご容赦を
執筆途中ですがお知らせ、と言うよりご相談させてください。
今現在、書き上げた部分を一部修整したい時が無性に有るのですが、取り敢えず一度書き上げてから別の所で修正版を書くべきでしょうか?
それとも勝手に加筆修正していいものか…少し悩んだので皆さんの意見を聞かせていただきたいです。
本当に勢いだけで書く事が多いので、細かな描写をすっ飛ばしてることが多いんですよね。
どちらが良いか、コメントの方にて意見を聞かせて頂ければ幸いです。
それでは皆様、宜しくお願いします。
(…ここは何処だ?)
そう呟いてから気付いた、自らの呟く声ですら聞こえない事に。
(鼓膜でもやられたか…?)
再度呟いてみたものの、やはり声は届かない。
その時になってやっと気付いた、自分の五感に何も感じていないことに。
(…あぁ…これは夢か何かか…?)
彼には何も判別しようがない、判別できるはずもなかった、只管真っ暗で何もない場所に居るような気がしているからだ。
(参ったねえこりゃ、夢とはいえこの空間…本当に何も感じれないな)
溜息をつこうとしてそれすら不可能な事に軽い苛立ちすら感じる。
こんなタチの悪い夢なんてそうそう無いだろう。
明晰夢、という言葉がある。
夢を見ている時にそれが夢であることを自覚できる状況にある夢のことだ。
その明晰夢を見る事ができる人間は文字通り夢をコントロールする事が出来るという。
だが彼に起こっている現象はそれとは違っているようだった
(…これが明晰夢ならコントロールしようがあるんだが…そもそも五感が無いってのはどういう事だ…?)
彼にはこれが明晰夢であるなら何故こんな状況なのか理解出来なかった。
明晰夢であるなら彼がそうなって欲しいと思ったことは夢の中でとはいえ実現する筈である。
例えば溜息をつこうとしてそれが不可能である筈がないのだ。
彼に取ってはある意味地獄だろう、闇の中に自分が居る。
その意識はあっても逆に言えばそれしか存在していないのだから。
例えるなら魂だけ肉体から抜かれて闇の中に放り込まれたような感覚すら覚える。
それでも彼はパニックに陥ることもなく冷静に考える
(流石にそれは洒落にならねぇな…寝てる間に妖魔にでもやられたか?)
彼は普通の人間では無かった。
妖怪、妖魔、魔物、悪魔
人々からはそう言われ、恐れられている者を退治する家系に生まれた退魔師、と呼ばれる存在であった。
総括して彼ら退魔師が妖魔と呼ぶ者達の中には確かに魂を抜き取る者も存在するが…
(この俺が妖魔にやられる?有り得ねえなそりゃ)
彼は絶対の自信を持って断言する。
低級妖魔ならばこんな事は出来うるはずもない。
だからと言って上級の妖魔であれば彼が見逃す筈が無い、正確には彼に付き従う者達が。
(何にせよここから出るか)
五感は無かったが問題はない。
彼にはいついかなる時も付き従う者達が居た。
それはこの辺鄙な空間であっても変わらない。
退魔師の彼に取っては如何なる空間であっても神秘を実現させる力がある。
そしてその力を使えばこんな辺鄙な空間であろうとも破壊する事なんて文字通り朝飯前である。
(…この空間を潰せ)
ーそう軽く念じるだけで彼は謎の空間から抜け出すことに成功した。
(不幸だわ…)
声には出さずに溜息と共にそう思った。
彼女の名は戦艦山城。
かつて海上を駆け抜け、当時の日本と国民を守る為に奮闘した戦艦と同じ名を持つ少女だ。
いや、彼女は唯の少女ではない。
唯の少女であるならば海の上に浮かんでいることは不可能だ。
彼女は…正確に言えば彼女のように嘗ての大日本帝国海軍、その軍艦の名を持つ少女達は艦娘と呼ばれる存在であった。
艦娘は闘う為に生まれてきた、嘗て守ろうとして失った多くの命を今度こそ守る、その想いを胸に秘めて。
山城「これはまた大層なお出迎えだこと」
そう呟く彼女の眼前には、世界を脅かす者達、彼女達艦娘と敵対する存在である深海棲艦と呼ばれる者達が居た。
深海棲艦は謎に包まれた存在である。
いつの頃から存在していたのか、ハッキリしたことは不明だが確かなことが一つだけある。
人間に対して友好的な態度など持ち合わせておらず、人類が近くに居れば攻撃を仕掛けてくることだ。
人類に取って最大の敵であり、また人類の側に立つ艦娘にとっても倒すべき敵である。
そんな深海棲艦が目の前に2体、どちらもイ級と呼ばれる深海棲艦の中では最弱の存在であり、本来の彼女ならば取るに足らない存在だったが…
山城「こんなタイミングで遭遇するなんてやっぱり不幸だわ」
今の彼女に取っては最大の脅威になり得る存在だった。
彼女は既に何体もの深海棲艦と闘った直後の状態だった。
既に弾薬は底を尽き、燃料も僅かばかりしか残っていない。
オマケとばかりに今までの戦闘で損害が蓄積しており艤装ー艦娘が深海棲艦と戦うにあたって必要な武器などの総称ーが大破してしまっている。
彼女にとってはまさに最悪のタイミングでの敵襲だった。
山城(私もこれまでかしらね…)
半ば諦めながらそう考える。
この状態で戦うことは余りにも無謀、その為普段なら迷いなく逃げているところだが…逃げるにしても残り少ない燃料では満足に逃げ切る事も出来ないだろう。
例え燃料が十全に残っていたとしても、彼女は低速戦艦と分類される艦娘だった。
損害の少ない状況ならまだしも、大破している状態では可能な行動は大きく制限される。
どちらにしても彼女にとっては絶望的な状況だった。
そんな彼女の状況を知ってか知らずか、2体のイ級は彼女に向かって突撃を開始した。
山城(姉さま…どうかご無事で、山城は先に逝きます…)
せめて安らかに眠れればいいな、と諦めながら目を閉じようとした時だった
パリン
そんな硝子が割るような音と共に山城の目の前の空間が割れた
謎の空間から脱出することに成功した彼は、けれども酷く戸惑っていた。
普段は冷静さを忘れる事が無い飄々とした態度を取っている彼が、だ。
なにせやっとあの闇の中から出られたと思ったら海の上である、それはまあ百歩譲ってもいい事にしよう。
彼の持つ力の前には目の前が海だろうが火山だろうが、挙句の果てには宇宙であろうとも関係ない。
勿論最後のものは試したことなどないが。
兎も角それ自体は全く問題ない。
だが彼の眼前に現れたのは傷ついた少女と異形の怪物だった。
前者はまぁ彼に取っては良く見る存在だから問題はない、例え目の前に転がっているのが死体であっても彼はその程度のことなど気にはしない。
問題は後者だった。
彼が知る妖魔と姿形は似ていないこともない、そもそも妖魔は個体差があり過ぎてこの程度ならまだ許容範囲と言えるだろう。
問題なのは妖魔が存在する限り感じるはずの妖力が全く感じられないことだ。
つまりこの謎の存在は妖魔では無いという事である。
ならばこの存在は何なのか…
?「…まぁなんでもいいか、向かってくるなら潰すだけだしな」
そう呟いた彼の言葉の意味を理解しているのかしていないのか、彼には知るよしもないが不幸にも2体の化物は彼に向かっていく
?「やれやれ、面倒な事になったな」
そうぼやきながら右手で頭をかく、そしてそのまま右手を空へと伸ばし…
?「爆ぜろ」
酷く、酷く緩慢な動作で持って右手を下ろした
…何も起こらない
変わらず化物は突進してくる…が
ズル
そんな音と共に目の前の化物が割れた
いや、表現としては寧ろ裂けた、と言うべきか
見事に中心から縦に、化物が裂けた
と、同時に化物は機械だったのだろうか
断面から漏れ出た燃料に断面同士が擦れることによって生じた火花によって燃え上がった
それだけでは収まらない、断面から生じた炎は化け物の口であろう部分から飛び出した砲塔の様な物に火が回り、弾薬に引火し…
ドォン!
…化物の欠片を飛散しながら爆発した
不幸にもその欠片の一部が彼に向かって行く
恐らく金属であろうそれはかなりの大きさがあった、このままの勢いで彼に直撃すれば恐らく死は免れないであろう
カンッ!
…そう思えたが、まるで彼は向かってきたボールを蹴り返すような軽い動きで迫り来る凶器を蹴り返した
山城(…夢でも見てるのかしら…)
思わずそう思ってしまう程現実離れした光景だった。
イ級は確かに深海棲艦の中では最弱の存在だ、しかしそれはあくまで艦娘であるなら恐ることはない、と言うようなレベルである。
加えるならば、多少手負いの艦娘でもなんとかなるレベルの存在ではある。
…が、今の彼女がそうであるように余りにも負傷が重なってしまえばその限りではない。
少なくとも戦艦である彼女ですらかなり危険な状態なのだ。
それを、少なくとも艤装も付けていない、加えて性別を考えても艦娘ではない事が確定的な人間が
…そう、深海棲艦との戦いが始まった時から人類は敗退を続けてきた筈なのに、イ級を相手にすら傷一つ付けられなかった筈の人類が
今、目の前でイ級2体を倒したのだ。
彼女が目の前の光景を夢と疑うのも無理はないだろう。
それほど迄にそれは異常な光景であった。
何せ彼女から見たら謎の男が急に海上に現れた、と思ったらどんな原理なのか海の上に浮いているのである。
それだけでも驚きなのに、彼が右腕を下ろした瞬間、命の危機にあった自らの敵を屠ったのである。
山城「あ…貴方一体何者なの…?」
痛む体を庇いながら謎の男に向けて問い掛ける。
その声は当たり前というべきか、恐怖に震えていた。
?「何、しがないタダの便利屋だよ」
彼はゆっくりと振り返りながら、そしてどこか嫌らしさを感じる様な、そんな笑みを浮かべた。
?「そんな事より酷い怪我だな、よくそれで生きてるな?」
純粋に疑問をぶつけてみる。
彼の目で見てもよくこの傷で生きてる人間がいたものだ、と思わずにはいられない負傷の多さだった。
山城「…艦娘ならこの程度の怪我ならまだ大丈夫よ…とはいえもうちょっとで危なかったけれどね…」
けれど、と彼女は前置きして問い掛ける
山城「…貴方何者なの…?深海棲艦がいきなり割れたように見えたけど…貴方がやったの?それ以前にどうやって浮いているの…?」
更に続けて
山城「…貴方…人間なの…?」
?(…それを言ったら俺からも疑問が多いんだけどな)
その思いをぐっとこらえながら溜息をつく、彼の知る者たちならば海に浮く等造作もないが…飽くまでそれは力を使わなければならない。
そして力を使う際には必ず感じられるはずの魔力が彼女からは感じられない。
いや、正確に言えば彼女の身にまとう機械の様なものからは感じられる、だがしかし彼女からは全く感じられないのだ。
…まぁそれはおいおい聞けば良いだろうと判断し、彼女の質問に答える。
?「質問は一つずつにして欲しいがな、答えよう。」
右手を上げ、人差し指を上げながら彼は言う
?「まず一つ目、君が深海棲艦と呼んでいるのはあの化物の事でいいんだろう?
アレについては確かに俺がやった」
続けて中指を上げ
?「二つ目、俺が海に浮いて居られるのは一種の力を持っているからだ。」
最後に薬指を上げ
?「三つ目、俺が人間かどうかだが…これについては何とも言えん」
その答えに彼女は戸惑いを見せる
?「勘違いするなよ?飽くまで普通の人間ではないってことだ。普通の人間ならそもそも海に浮くなんて出来はしないからな」
彼はそういいながら彼女に近づき
?「まぁ見た方が早いだろう」
彼女に向けて掌を開いた
山城「…!な、何をするつもり…?」
彼女は警戒して後ずさりしかける…が
?「心配するな、お前に害は与えんさ」
そう言う間に彼の掌が輝き出す…と
山城「…な、なにこれ…!?」
彼女の体の傷も輝き出す…と思いきやその傷が癒えていくではないか
山城「傷が…」
?「多少だが傷は治しておいた…が、あくまで応急処置的なものに過ぎん」
「後でちゃんと病院にでも行くことだな」
そう言い終えると同時に手を下ろす
その時には既に彼女の傷のうち、酷い物については跡も残さず消えていた
山城「…今のも貴方が…?」
思わず問わずには居られなかった
?「…今の台詞から想像つかんか?」
苦笑しながら答える
?「…まぁいい、それよりこちらも聞きたいことが幾つか有るんだが…何処か落ち着ける所はないかな?君もまだ聞きたいことが有るだろうしな」
彼の問いに彼女は少しの間俯き
山城「…いいわ、私に着いてきて」
そう、答えを返した
山城「…あそこよ」
?「…あそこはなんだ?」
思わず問う、彼女についてはまだ不明な事が多い。
加えて今は自分の状況についても解らないことが多過ぎる。
取り敢えずは自分は何処にいるのかー海の上にいたというのは解るがー把握するのが先決だと思い、前を行く彼女のーそう言えば名前を聞いて居なかったと考えながら思うー後を着いてきた
が、彼が眼にしたのは見た事も無い施設だった。
山城「…横須賀鎮守府、貴方が化物と呼んだ深海棲艦、それに対抗することのできる艦娘を有する…日本で唯一の場所よ」
山城「少しだけ待っていてもらえるかしら」
そう言われ案内された先は応接間、と書かれた部屋だった。
山城「今から私達艦娘を纏める鎮守府の代表・・・提督を呼んでくるわ」
そう言われてから数十分・・・彼は喉も乾いてきたし苛立ちを感じ始めた頃に彼女は戻ってきた。
?「待ちくたびれて喉が乾いちまったぜ」
そう冗談めかす彼に対して、恐らく彼女が呼んできたであろう提督らしき人物は苦笑しながら
提督「すまないね、何せ彼女が信じられないような話をするものだからね」
と答えた。加えて背後にいる袴のような服を着た少女に対し
提督「すまないが金剛、紅茶を人数分お願いするよ」
と言う。金剛と呼ばれた少女はそれに対し
金剛「OKよ提督ー。山城のLifesaverですからネー、極上の葉で美味しいのを淹れるネー」
そう答えた。どうやら彼が提督であることは間違っていなかったらしい。
彼は体面に用意されたソファーに座りつつ
提督「それで?ほかにご要望があればお答えするが?」
?「・・・それじゃお言葉に甘えて、腹が減ったから飯を食わせてくれんか?」
「何分彼女の怪我を多少なり治したおかげで少し血が足りないんでな」
彼の言葉に少々疑問を抱いた様子の提督たちであったが客人たっての願いともあり
提督「解った、何かご希望はあるかな?」
と、問いを重ねる。
?「なんでもいいさ、血液を補給できるようなもので食えりゃとりあえずはなんでもいい」
彼は肩をすくめながら答える。
提督「・・・ならこっちで適当に用意させてもらうよ」
提督も半ば肩をすくめながらそう答えた。
提督「・・・自己紹介と行こうか、先ほどの会話で気づいていると思うが、私がこの鎮守府の代表を務めている提督というものだ」
彼は足を組み替えながらそう言った
?「・・・俺の名はアーウィン、そう呼んでくれて構わない。どうせ偽名だしな」
提督は首を捻り、彼・・・アーウィンとなのった青年に問いかける。
提督「なぜ偽名を・・・?その名前だと日本人ではないように聞こえるが・・・?」
その問いに対しアーウィンと名乗った彼は答えを返す。
アーウィン「本名は昔に棄てたからな。ある意味ではアーウィンという名前は偽名だということさ」
「それとこの名前だが列記とした日本人だよ、ハーフだとかクウォーターだとか言うわけでもない」
その答えに腑に落ちないものを感じているのだろうが、提督は一度頷いた後に
提督「・・・まぁ君がそれでいいなら構わないだろう、質問だらけで悪いのだがまだ聞いても?」
提督はそう続けようとするも
アーウィン「その前にやることができたようだぜ」
と、立ち上がりつつ彼は言う
提督「・・・やること・・・?」
提督は戸惑い彼を見るが、彼は窓から海のほうをじっと見つめ
アーウィン「お前らが深海棲艦、と呼ぶ化物のお出ましだよ」
アーウィン「丁度いい、あんたらが聞きたいことの一部は解ると思うし俺が相手をしてやるからしっかり見とけ」
彼は笑みをこぼしながら窓へと歩いていく
提督「・・・馬鹿な、ここは鎮守府近くだぞ?深海棲艦が近くにいたとしたら大ごとだ。なによりたとえ近くに深海棲艦がいたとするなら、私の艦隊が見つけられない筈がない。見つけたとしたらすぐに連絡が入るはずだ」
提督は首を振りながらそう告げる、その時になって廊下を急いで駆ける音がしてきた・・・と同時に眼鏡をかけた少女が部屋に押し入る。
?「提督!ご報告です!多数の深海棲艦を鎮守府正面にて確認!場所は現在鎮守府よりおよそ10kmの地点です!」
提督は唖然としながらその報告を聞いた。その報告を受けている間にも彼の足は止まらない。
アーウィン「言ったろ?近くに奴らがいるって」
彼は笑いながらそう告げる、そんな彼に対して提督は
提督「・・・危険だ・・・」
「君がどうやって深海棲艦の接近を察知したか、それは解らんが奴らに対して生身で向かい打つ気か?」
「奴らには通常兵器は効かない、艦娘でなければ倒せん化物だぞ!?」
提督はそう言い、彼を止めようとする。が
アーウィン「そっちのお嬢ちゃんから何も聞いてないわけじゃないだろう?」
「俺は少なくとも深海棲艦とやらを2体は潰したんだぜ」
彼は苦笑しながらそう答える、そうしている間にも窓は開き、彼は窓のふちに足をかけながら
アーウィン「まぁ見てろって、しっかりと瞼に焼き付けてくれよ?」
一気に窓から飛び降りた
提督「オイ!?」
提督は焦り窓へと駆け出す
そんな彼が見たものは
アーウィン「あ?あー、まぁそういう反応するかそういや」
空に浮かんでいる彼の姿だった
提督「・・・は?」
呆気にとられている様子の提督、他の者達も似たような反応だった
アーウィン「悪い悪い。言ってなかったな、これが俺の力の一つだよ」
「まぁ待ってろって、すぐに戻ってきてやるから」
彼はそういいながら身を翻した・・・と、認識した瞬間
「「「「消えた・・・!?」」」」
その場にいた全員が思わずそう呟いてしまった。正確には彼らが認識できないような速度で飛んでいったのだが・・・彼らにしてみれば消えたも同然だった。
アーウィン(さてと…この辺でいいか)
鎮守府と呼ばれる場所からおよそ7km、と言ったところか。
彼は正に風の如く疾走していた勢いを殺し、海へと降り立った。
アーウィン(…ってそういやあいつ等普通の人間か、見ておけとか言ったけどこの距離じゃ見えねぇか)
当たり前の事に今更気づきながら、彼は新たな奇跡を具現化させる。
ーーその頃、横須賀鎮守府応接室では
呆然と取られていた提督達が我に返った頃だった。
提督「…彼はああ言っていたが、深海棲艦を前にして何もしないなんてできん」
「大淀、第一艦隊の出撃準備は?」
大淀と呼ばれた少女はまだ彼の事を知らなかったのであろう、多少呆然としながらも反射的に答え
大淀「も、問題ありません。各艦いつでも出れます」
その答えに提督は頷き、言葉を続けようとする…が
アーウィン「おいおい、俺に任せろって言ったろ?」
その場所に姿は無かった、と言うのに彼の声が何処からともなく聞こえてきた
提督達「「「「!?」」」」
提督達は驚き辺りを見回すが
アーウィン「あー、そこには居ねえよ。簡単に言うと声だけそこに届けてる」
と、彼が言った。
どういう仕組みだ、と舌を巻きつつ提督は問う
提督「先程も言っただろう?人間一人では相手できる存在ではないと。君が戦えるのだとしても、それを黙ってみてるだけなんてできん!」
当然の如く提督は彼一人で戦わせることを拒む、が
アーウィン「んなこと言ってもな、どうせお前らが出てきてももう間に合わんぞ?」
「俺はもう奴等と約3km…お?話してるあいだに2km程度に縮まったか、そんな距離にいるしな」
「お前らが出てきても間に合わんだろ?」
提督が反論できない様な事をさも当然の如く彼は語る、実際提督は唖然として黙ってしまった。
アーウィン「まぁそれはいいんだ、それより見てもらわないといけないんでな、そっちにも見えやすいようにしてやるよ」
そう言うと彼が飛翔して行った窓に歪みが発生する、と思いきや瞬く間に彼が映し出されるではないか
提督「…君はどんな力を持っているんだ…」
もはや半ば呆れ果てたように提督は呟く
すると彼は楽しそうに笑いながら
アーウィン「まぁお前らが神秘だとか奇跡だと言う力は大抵だ。そんなこと言っているあいだにもあちらさんは戦闘態勢に入ってるみたいだからな、よーく見ておけよ?」
そう言うと彼はそれっきり黙り込み、提督達はもはや行動することを諦め、彼を見守ることにした。
ーー鎮守府正面海域
アーウィン(これで俺の力は見れるだろ、ついでに説明も省けて一石二鳥っと)
そう考えながら彼は右腕を撫でる、すると先程まで何も無かった彼の手の中に色鮮やかな宝石が現れた。
アーウィン「さーて、深海棲艦とやらよ、少しは楽しませてくれよ?」
何処か邪悪な笑みを浮かべながら深海棲艦に向けて呟いた。
深海棲艦には多種多様な艦種が存在する。
艦娘と同じく主な物に駆逐、軽巡、重巡、戦艦、軽空母、正規空母、潜水艦等が確認されてはいるが、中には強力な者たちもいる。
身に纏う不思議なオーラが赤い物がエリート、黄色の物がフラグシップ、と呼ばれる。
彼の目の前に現れたのは通常、この海域では見ることのない戦艦タ級、しかもフラグシップと呼ばれる者だった。
それも纏めて4体、通常の艦娘では苦戦を強いられる様な相手だった。
そんなことを知らない彼に向けて一体のタ級が主砲を発射する。
通常の人間なら言うまでもなく吹き飛ぶ威力の弾丸が彼に向けて疾走する…が
アーウィン「…アルジス」
彼がそう呟くと同時に手元の宝石のうち一つが砕けちり…
ドォォォォン
彼の目の前で弾丸が爆ぜた。
正確には障壁を作り出し、弾丸を防いだのだが…目には見えないため、弾丸が空中で炸裂したかのような印象の方が強い。
深海棲艦もそう思ったのだろうか、また狙いを定め彼を撃った…が
アーウィン「学べよ阿呆」
今度は飛翔し、迫る弾丸を回避した。
と、同時に手にした宝石を深海棲艦に向けて投げつける。
アーウィン「…ハガラズ」
彼が呟くと同時に、投げられた宝石が割れ…
そこから大量の雹が現れ、まるで意思を持つかの様に深海棲艦へと向かっていった。
狙いを定めていた獲物が突如消えたからか…正確には上空に飛んでいるだけだが、深海棲艦からすれば消えた様に見えた事だろう…深海棲艦達は酷く戸惑っていた。
まぁ人型とはいえ見た目が化物だからそう見えるだけかもしれないが。
そんな深海棲艦達へ向けて、大量の雹が降り注ぐ。
それらはまるで意思を持つかのように正確に深海棲艦の武装へと纏わりつく。
そして気づいた時には彼女等…人間ではないからこの表現は間違っているのだろうが…の武装は一つたりともその役目を果たせる状態ではなくなった。
恐らく主砲であろう巨大な砲塔は勿論、一回り小さな副砲、果ては機銃に至るまでが先端から凍り付いてしまい、弾丸の発射を防いでしまっていた。
当然、この状態で発砲しようとすれば弾丸が砲塔の中で爆ぜ、自らにダメージを与えてしまう。
その事が解っているのだろう、深海棲艦達は微かに苛立ちのようなものを見せた。
アーウィン(…ほう、現状を正しく理解して感情を見せる程度のことはできるのか)
そう分析しながら彼は再び海へと降り立つ。
あくまでも彼にとってこの戦闘は、彼女達を知る為の前哨戦に過ぎない。
アーウィン(さて、武装は封じたがこいつらはまだやる気のようだな…なら次はこうだな)
そう思考すると同時に彼は海を駆け出す。
己に満ちる力、気(フォース)を使いインファイトを仕掛ける。
これは彼女等がまだやる気だと理解したら仕掛けたものだが、単に近距離戦闘もこなせるのかどうかという興味本位でもあった。
アーウィン「よけてくれよ?」
そう呟きながら、一番近場にいたタ級に対し蹴りを打ち込む…これは彼の期待通り回避された。
続けて右ストレート…これも回避された。
どうやら普段は砲撃戦をしている分、反射神経はいいらしい。
続けて先程の勢いをそのままに回し蹴り…これは両腕をクロスして防がれた。
回避しきれないものについてはガードするようだ。
そのまま態勢を立て直し、拳での攻撃を続ける。
ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ…幾度目かの攻撃を経て、別の個体が彼に向けて背後から攻撃を仕掛けてきた。
かなり勢いのある右ストレート、当たれば恐らく骨折では済まない。
それを彼は来るのが解っていたかのようにしゃがんで回避する…と同時にお返しとばかりに背後の敵へと回し蹴り、低い姿勢から繰り出されるそれは、足へと当たりそのまま転倒させる。
そのまま彼はその個体にターゲットを
変更し、転倒した個体の頭部へ向けて強烈な踵落としを食らわせた。
気(フォース)によって強化された踵落としは頭部を砕き、一撃で戦闘不能へと陥らせた。
その時には他の3体が集結し、距離をとりつつ彼を取り囲んだ。
アーウィン「当たり前なんだが知性は有るみたいだな?」
そう呟き、足を敵だったものから外す。
持ち上げた足からは細かな肉片が厭な音を立てて海面へ落ちる。
それが合図かのように3体は一斉に彼へ向けて疾走する。
アーウィン「連携も取れてるな、テレパシーでも使ってんのか?」
思わずそう呟く程に彼女等の足並みは揃っていた。
そのまま彼へ向けて各々の攻撃を繰り出す…が
アーウィン「大体解ったからもういいぞ」
彼がそう言った途端彼女等の足が止まった。
同時に彼の周りで風が吹き上がる。
そして彼は意味も無く彼女等へと問を発す
アーウィン「ダウンバースト、って知ってるか?お前等が今から死ぬ要因だよ」
そう言うと彼の周辺で吹き上げていた風が更に強さを増し、上空へと上っていく。
ここで科学の勉強へと入ろう。
空気が極端に上空へと巻き上げられ、成層圏まで運ばればどうなるのか。
上昇気流によって巻き上げられた空気は急速に冷却され、水分を凝結させる。
結果小さな雹が出来上がり、更にそれらが結合し合う。
雹は周辺の空気を冷やし、重くし、高速で落下する。
そして発生する強力な下降気流がダウンバーストと呼ばれる現象である。
その瞬間最大風速は竜巻にも匹敵すると言われる。
彼はその現象を引き起こした。
それも上昇する時にも力を使い、周辺が海辺なのも相まって大量の水分を含んだ空気を一気に成層圏近くまで送り出したのだ。
当然、出来るのは雹等と言う生易しいものではなくもはや氷の柱と呼ぶべき巨大さだった。
更に彼は唯でさえ高速で落下するそれに加速を加えた。
超高々度から叩きつけるように落とされた空気は音速を軽く超え…
世界を引き裂くような強烈な衝撃波を周囲に撒き散らした。
当然、それらに少しでも触れれば消し飛ぶような超音速の風の刃が彼女等を引き裂き、ついでとばかりに作られた氷の柱で彼女等を押し潰した。
アーウィン「まぁ普通のダウンバーストだと此処まで派手じゃないがな、特別性だからしっかり味わってくれたよな?」
そう言い残し彼は周囲に残った無残な残骸達に別れを告げ、踵を返した。
彼の一連の戦闘を見ていた者達は唖然とするほかなかった。
それもそうだろう、自分達にとって大敵を手こずる様子もなく屠ったのだ。
艦娘も確かに深海棲艦と戦うことはできる。
恐らく先程の相手と戦いを繰り広げた所で、結果は同じく此方の勝利で終わるだろう。
だがそれはあくまでも艦隊を組んだ場合の話だ。
奴等は非常に危険だ。扱う主砲は16inchの大型主砲で、当たりどころが悪ければ戦艦等の大型艦なら中破で耐えられもしようが、それ以下の小型艦、中型艦はほぼ確実に大破に追い込まれるだろう。
それならばまだいい、下手をすれば轟沈の危険すらある。
その為今回の場合であれば、敵に空母がいないことを利用しアウトレンジから艦載機発艦等をさせて徐々に轟沈へと追い込むのが提督の作戦だった。
此方の艦娘が轟沈されないように、との意味合いも込めた安全マージンを取りつつ、確実に敵を沈める。
それが艦隊としての方針でもあった。
それを、彼は、驚くべき事に深海棲艦との近接戦までやってのけた。
確かにあの時点で、どうやったのかは不明だが奴等の艤装はほぼ使用不能の様だった。
しかし深海棲艦は人を喰らう。
その事を知っているもの達ならば万が一を考えて遠距離から叩くことを選ぶだろう。
しかし彼はそうしなかった。
まるで敵の力量を測るかのように立ち回り、その上で数の差を感じさせないほど圧倒してみせた。
提督「…彼は本当に人間か…?」
思わずそう呟いてしまう。
だがそう思わざるを得なかった。
成程、山城が要領を得ない発言を繰り返す訳だ。
面白そう。楽しみ