2016-06-07 00:57:02 更新

前書き

どうも。SS投稿するの初めてでして、文章が稚拙だと思いますが、どうかお許しを。
重護×天災で書いていこうかと思います。
原作の設定を主にして、原作三刊までの遺跡はアニメ版で書いていこうと思っています。
新刊でゲーム編終わりましたので、それ以降を改変していこうと考えています。
少し話がどの辺の流れか分かり難いと思いますので、少し補足します。
七夕祭り後~ゲーム開催までの間から話を構成しております。

何人かオリキャラ出ますが、基本的に話に絡まないモブです。

まだまだ書いている途中ですので、小分けにして投稿していこうと思います。
どうか皆様、暖かい目でご拝読して頂けると幸せです。

あ、後々何人か違うラノベのキャラを出すつもりです。のち二人は話に絡む予定です(そんなことよりもさっさと書かねば……)

書き終えたら一気に投稿しようと思いましたが、また消えたら泣きたくなるので、区切りのいい所をこまめに投稿しようと思います。一月に一コマ? を目安に投稿する予定です。


とある日の夕方、八真重護と呼ばれる少年は一つのことに悩んでいた。


重護「……彼女ほしい」


そう、思春期真っ盛りの高校生である俺は一つの願望について真剣に考えている。


重護「どうすればこの願いは叶うんだ?」


考えろ、俺。お前ならその答えを見つけられるはずだ。諦めるな八真重護。諦めなければ必ず願いは成就する。


少女「重護? さっきから何鏡に向かってブツブツ言ってるの? 少しキモいよ」


重護「ぐはっ!」


キモいと俺の心をエグってくる少女は絶賛ラブラブ同棲生活中の龍ヶ嬢七々々ちゃん。


はい、嘘です。ラブラブ同棲生活なんて甘い言葉を使ってごめんなさい。


七々々ちゃんはこの202号室で何者かによって殺された自縛霊で、家を勘当された俺が家賃安さに住まわせてもらっています。


重護「七々々ちゃん、キモいはやめてください。僕のガラスのハートがブレイクしちゃうんで」


七々々「えー、だって重護ヤらしいし、変態だし、あと目つき悪くて悪人ズラだしなー。そんなんだから彼女できないんだよ」


重護「なん、だと……そんな馬鹿な!? というか七々々ちゃん、俺が限定プリン買って来れなかったことまだ怒ってる?」


七々々 「べっつにー、ただ重護が 『俺、絶対に七々々ちゃんの為に限定プリン買ってくるぜ!』なんて豪語してたクセに『ごめん、七々々ちゃん……売り切れだった』って土下座した事なんて全然気にしてませーん」


重護「……めっちゃ気にしてるじゃん」


七々々「してませんー」


バイトの給料がいつもより多くてつい調子に乗り、「七々々ちゃんに限定プリン買って帰ってくるね!」などとメールを送ったまでは良かった。しかし、タイミングが悪いのか日頃の行いが……善人である俺が悪いはずがない、良いに決まってる。


やはりタイミングが悪く、ちょうど一つ前に並んでいたお姉さんの分で売り切れてしまった。


流石に手ぶらで帰るとどんなプロレス技をキメられるかわかったもんじゃないので、コンビニで一番高いプリンを購入し、即土下座。けれど、簡単には許してくれないようだ。


七々々「そういえばダルクちゃんから聞いたんだけど、最近7Aスーパーで7Aプティングっていうオリジナルプリンが新発売されてるらしいよ」


7Aスーパーとは七重島のオリジナルブランドスーパーで、リーズナブルな生活用品から高級な嗜好品まで多種多様な商品を扱っている。


7Aとは七重をなぞった名前だそうだ。


安直すぎんだろ、その名前。


重護「七々々ちゃん、それってつまり買って来いと?」


七々々「もう、馬鹿だな~重護は。当たり前じゃん★」


重護「ですよねー」


七々々ちゃんはどうやら7Aプティングとかいうプリンを買ってきたら機嫌を直してくれるようだ。これは買いに行くしかない!


重護「あ、洗剤とか切れそうだし、ちょうど良いか。わかった、今から買ってくる」


七々々「ほんと? わーい、ありがとう重護♪ “そんな”重護はカッコいいとお姉さんは思います」


重護「あははは……。(パシらさせてる俺はカッコいいか……ツラい)」


重護「んじゃ、行ってくるからお留守番お願い」


七々々「はいはーい、いってらっしゃ~い」


七々々ちゃんに手を振られ、玄関に出ると二人の少女(片方はゲイボルグの持ち主)が隣のドアからちょうど出てきたところだった。


少女?「あ、重護くん。こんばんは。何処かお買い物?」


重護「おう、ダルク。こんばんは。今から7Aスーパーへ行くところ」


まず挨拶してきた少女? は星埜ダルク。黒髪と浅黒の肌を持つ外国人で、見た目だけなら最重要保護指定美少女。しかしながら、神様の悪戯なのか、俺と同じくゲイボルグの槍を携えた男である。


少女「7Aスーパーに? 地味に遠い所まで行くのだな、重護。オリジナル商品でも買いに行くのか?」  


重護「お前の付き人が七々々ちゃんに7Aプティングとかいうプリンを教えたから今から買いに行くんだよ。天災も一緒に来るか? 来るなら特別にコーヒー牛乳奢ってやるよ」


天災「ふむ、重護の分際で誰かに物を奢るとはどういった心境の変化だ?」


重護「うっせーな。ただ、給料が思いの外良くて気分が良いだけだ。嫌なら別に来なくて結構」


天災「別に嫌とは言っていない。人の好意を無碍にするのはあまり好きじゃない。ふむ、素直に人の好意を受け取るとするか」


重護「へいへい」


次に話掛けてきた小柄で金髪の美少女(見た目だけなら……まぁ、美少女だよな)は壱級天災。自称名探偵のとても残念な子だ。


ダルク「重護くん、なんかごめんね?」


重護「別に気にしてねーよ。それより二人は何してるんだ?」


ダルク「晩ご飯食べにきましたー。今日はハヤシライスでーす」


天災「食べにきたとは言っても作るのはいつもダルクかこの私だかな」


重護「……なんでお前、色々残念なのに異常にスペック高いの?」


天災「残念言うな!」


どうして二人の美少女? が俺の家に来て晩ご飯を食べるのかというと、以前、 七々々ちゃん含め四人で大貧民をした時に盛り上げるため罰ゲームを行った。


その罰ゲームで天災は七々々ちゃんに『週に二回、ウチに晩ご飯を食べに来ること』と命じられたからである。


はじめの頃は週二回だったが、食費割り勘しようぜと提案してからほぼ毎日来るようになった。


最初は俺が作っていたけど、不甲斐なさを見るに見かねたダルクに代われと言われてからはずっとダルクが作っている。正直、下手な料理屋よりも美味しい。


天災「ふん、そんなことを言ってると私もダルクも作ってやらんぞ。あと、この前のYシャツのボタン綻びてたの直してやったのは誰だったかな?」


重護「いやはや、名探偵様にはいつもお世話になりっぱなしで毎日感謝感激です!」


意外な事に天災の家事スキルは結構高い。


初めての一人暮らしはわからないことだらけで、その際に何かと世話になり、洗濯・アイロン・掃除などのコツを色々教わった。


そして、何気に料理が美味しいんだよなー。ダルクの料理も絶品なんだけど、天災の料理の方が俺好みの味なんだよなー。


普段はダルクが料理するから天災が料理する日は少し楽しみだったりする。


まぁ、本人には絶対言わねーけど。


天災「わかればいいのだ、わかれば」


そこにはふんぞり返った天災の姿があった。


ダルク「二人がスーパー行っている間にご飯作っておくね?」


重護「悪いけど頼むわ。あ、カギ空いてるから適当に部屋にあるもの使って」


ダルク「お言葉に甘えて、そうさせてもらうね。あ、天災。スーパー行くならお使い頼んでも良い?」


天災「ほう、ダルク。付き人の分際でご主人様に頼み事をするのか」


重護「そんくらい買ってきてやれよ」


天災「冗談だ。で、何を買ってくれば良いのだ?」


ダルク「えっと、確認するからまた後で携帯に連絡するね」


天災「了解した。では、重護。行くぞ」


重護「おう」


そして、二人は7Aスーパーへ向かった。


重護「7Aスーパーか。そういえば俺、まだ一回しか行ってないわ」


天災「そうなのか? 他のスーパーより品揃え豊富でセール割引がなかなかに良いからオススメだぞ」


重護「随分詳しいな。それは魅力的だけど……遠いから面倒くさいんだよなー」


天災「幸せ荘から徒歩30分ぐらいだな。けど、重護。鍛練といってそこら辺を走り回っているではないか。そのついでに買えば良かろう」


重護「別に走るだけじゃねーよ。走ってる途中で筋トレしたりしてんだよ。鍛練の時に買い物袋あると邪魔だからあんまりそれはしたくないな」


天災「ふむ、重護なりのこだわりがあるのか」


重護「別にこだわりって訳じゃないけど、ただ、鍛える時は集中したいだけかな」


天災「物事に真剣に取り組むのは実に良いことだ。重護の場合、悪事に真剣に取り組めば尚の事良い」


いや、そんな笑顔でハッキリ言われても困ります。


重護「だから俺と悪事を結びつけるなって。俺ほど清く正しく潔白な人間が悪事に働くなんてこと有るわけないだろ」


天災「どの口がそれを言う。人を騙し、盗み、脅迫し、蔑み、平然と他人を貶める目つきの悪い極悪人ズラの貴様が善人なわけないだろう」


ジト目で何の躊躇いもなく、ハッキリと告げる。


重護「流石にそれは言い過ぎじゃね? 俺でも泣く時はあるんだよ?」


天災「何を言う。全て事実じゃないか」


重護「」


真顔で正論を言われてしまい、ぐぅの音も出ない。


天災「だがまぁ、たまに優しかったり……すると思う」


そんなことを顔を赤らめてそっぽ向いて言われると悪い気がしないから不思議である。


そして、そんなこと言われるのはウブな俺にとっては恥ずかしいわけでして……。


重護「さいですか」


顔を逸らして不機嫌そうに言うしかない。勿論、照れ隠しなんだけどね。


そんなこんなしてるうちに目的の7Aスーパーに到着。


重護「そういえば天災、ダルクから何頼まれているんだ?」


カゴとカートを用意していた天災に尋ねてみる。


天災「今見てみる。えーと、お米10kg・砂糖1kg・醤油1㍑・牛乳1㍑・チューブにんにく・カット青ネギ・ティッシュBOX・洗濯洗剤……ダルクめ、私がこんなに持って運べるわけないだろうが。というわけで重護」


重護「あー、うん。持てば良いのね」


天災「うむ、感謝する。カートは一つで大丈夫だろ」


重護「俺はプリンと洗剤だけだから大丈夫」


7Aスーパーに何度も来たことがある天災はテキパキと目的の品を見つけカゴにどんどん入れていく。


重護「牛乳、なんで後ろから取るんだ? 別に前のじゃあダメなの?」


天災「貴様は賞味期限を知らんのか? 牛乳の裏をよく見てみろ」


重護「あー、なるほど。後ろに置いてるものの方が日持ちするわけね」


天災「そういうことだ。だが、前も後ろも同じ日付なんてよくあるから絶対に後ろとは言えない」 


重護「勉強になりました。ところで7Aプティングとやらは何処にあるんだろうな」


天災「乳製品コーナーにあると思ったのだが、どうやら違う場所らしい。店員に聞いてみるか」


言うや否や、ちょっとそこの店員、尋ねたい事がある、とすぐさま店員さんに尋ねていた。


うん、この子どうしてこうも偉そうにものを聞けるのかなー。お兄さん将来が不安だよ。


天災「そうか、ありがとう。おい、重護。どうやら二階の冷蔵菓子コーナーにあるらしい」


重護「え? たしか二階って嗜好品とか扱ってる方だよな……まさか、7Aプティングって高いの?」


天災「それは知らん。発売されたのはつい三日前らしいから私はまだ見たことがない」


重護「まぁ、行ってみないとわからんか。ここって一階の商品、二階のレジで精算できる?」


天災「可能だ。カートもそのままスロープ式のエスカレーターで登れる。では二階に行くか」


重護「あれ? 天災、コーヒー牛乳は良いのか?」


天災「何、二階にあるものにしようと思ってな」


こいつ、高いの買わせるつもりか、などと内心思いつつ二階へ。


天災「たしか、こっちだ」


天災に案内され、目的の冷蔵菓子コーナーへ到着。


重護「えっ? マジで? こんな高いの?」


目的の7Aプティングを発見し、驚愕した。だって一個1200円ですよ、奥さん。信じられます?


重護「ダルクめ……余計な事言いやがって」


天災「たしかに、これは予想外の値段だな。しかし、棚を見る限り結構売れているようだな」


7Aプティングが置かれている棚を見てみると、縦横合わせて20個近く置けそうだが、残りが4個しかないので、売れ筋は悪くないことが見てとれる。


重護「流石に一個で良いよな。値段が値段だから何個も買えない」


天災「 七々々殿も値段を知れば納得してくれるだろう。では、重護、このコーヒー牛乳を頼もうか」


そういって天災が渡してきたのは200ml 350円のちょっと高めのコーヒー牛乳だった。


重護「なんだろ、プリンのせいで350円が安く感じるのが不思議」


天災「たしかに、そう感じても無理ないな」


二人して苦笑い。そしてレジで精算。


店員「本日、カップル・夫婦デーとしまして、対象のお客様に二割引させて頂いております」


重護「マジで!? やったな、天災!」


天災「わ、私と重護はそんな関係じゃ」


重護「もう、まーた、そんなことを言う。天災ちゃんはほんと照れ屋さんだなー。かわいいなー!」


二割引と聞いて必死な俺。頼むから天災、要らんこと言わないでくれ!


天災「か、かわいい……///」


思いの外、俯いてマジ照れしている天災……あれ、マジでかわいいんですけど? 誰この子? いつものキャラはどこいった!?(動揺)


店員「あのー、お会計をさせて頂いても宜しいでしょうか?(ちっ、リア充が)」


重護「あ……はい、お願いします」


精算を済ませ、荷物をまとめて外に出るまで天災はずっと黙ったままだった。


重護「あの、天災さん? さっきはなんかごめんな?」


天災「あ、うん……別に、気にしていない」


気にしていないと言いつつも重護の顔を見ようしない。重護はこの空気をどうにかしようと天災が喜びそうな話題を振ってみる。


重護「そういえば、昼休みに徒然先輩から聞いたんだけど、新しく遺跡を特定したらしい。俺達に黙って攻略しようとしたらしいけど、攻略法がわからなくて手をあぐねているらしい。ここは名探偵様の出番じゃないか?」


天災「ほう、それはなかなかに面白そうだな、重護。この名探偵に解けない謎はない!」


重護「うん、そういうことを街のど真ん中で叫ぶのはやめようね、恥ずかしいから」


天災「恥ずかしくなどない! カッコいいではないか」


相変わらずアホの子である。けど、ふてぶてしくも不敵な笑みを漏らす天災はやはりどこか輝いて見える。


重護「とりあえず、何か持ってくれない? 流石に全部持たされるとは思ってなかった」


天災「じゃあ、プリンとコーヒー牛乳が入った袋だけ持ってやろう」


重護「ありがとうございまーす」


肩を並べ、とりとめない会話をしながら帰路に着いた。


重護「あ、ほとんどお前のとこの荷物だし、先にそっちに持って行った方が良いよな?」


天災「それもそうだな。すぐに開けるからもう少し我慢しろ」


重護「うーす」


幸せ荘に着き、二階に上がった際、天災の荷物を先に片付けた方が良いと判断し、203号室にお邪魔する。


重護「お邪魔しまーす。あ、そういえば俺、お前達の部屋あがるの初めてだわ」


天災「そういえばそうだったな。いつも私とダルクが邪魔しているから気にしたことなかった」


重護「まぁ、だからってどうということはないけど。お米どうしたら良い?」


天災「冷蔵庫の隣に米びつがある。袋切って、中身入れといてくれないか?」


重護「了ー解」


米びつに買ってきたお米を補充している横で天災は補充するものは補充し、残りは冷蔵庫、調理棚にテキパキと片付けていた。


重護「手慣れてるなー」


天災「このくらい家事をしてたら嫌でも身に付く。その内、重護もこうなる。お米終わったら洗濯洗剤とティッシュBOXを洗面所に洗面台の棚に入れといてくれないか? 私はベランダの洗濯物を取り込みたい」


重護「了ー解」


天災の指示に素直に従い洗面所へ。うん、流石に構造が一緒なだけであってあんまり変わらない。


ただ、部屋に入った時から気付いていたが、女の子の部屋だけあって、なんだか甘い良い匂いがして、スゴく興奮する!


重護「そういえば、初めて天災と会った時の風呂上がり、唯我部長のせいで天災と遺跡に取り残された時に抱き合った時も良い匂いしたよな……ということはこの匂いは天災自身の匂いなのか?」


……落ち着け、八真重護。相手はあの天災だ。ここでテンション上げるのは非常によろしくない。とりあえず、落ち着け。まずは落ち着いて、頼まれた事を済ませるんだ。


重護「あれ? 一つだけティッシュ入らねぇ。おーい、天災~ティッシュ一つだけ入らないんだけどどうすれば良い?」


一つだけ入らなかったので、どうすれば良いか天災に聞く為、ベランダへ向かった。


天災「……」


重護「……」


ベランダに向かうとタイミング悪く、干していた下着を掴む天災の姿があった。


重護「お、落ち着こう、天災! これは事故だ! ワザとじゃない!」


天災「……み、見たのか?」


重護「見てない! 見えてない! ピンクのリボンが付いた可愛らしい白のブラとパンツなんて全く見てないです!」


天災「ちゃんと見てるじゃないか!!」バチンッ


重護「ごめんなさグフゥ!?」 


顔を真っ赤にした天災に思いっきり手に持ったスマホで叩かれました。めちゃくちゃ痛いです。でもちょっと違うけど、下着を見られて恥ずかしがる女の子というシチュエーションを見られてたので良しとしよう。


まぁ、天災ってのが如何せん残念だけど。


天災「まったく、この変態め。七々々殿に告げ口してやろうか」


重護「お願い、やめて! 絶対に殺される! 何でもするから!」


七々々ちゃんにチクられたら絶対に何か技をキメられる。軽くトラウマ化しているので、天災の前で土下座し、懇願する。


天災「……必死だな、重護。しかし、“何でも”するか」


重護「あ、いや、何でもと言ってもアレですよ、俺ができる範囲ってことですよ?」


天災「そんなことはわかっている。ふむ、なら近々この前行った喫茶店でケーキを奢ってもらおうか」


重護「へ?」


予想外の答えにポカンとする。


天災「どうした? そんなマヌケな顔をして?」


重護「マヌケは余計だ! いや、なんていうか……てっきり悪事を働けーとか言うと思ってたから」


天災「なんだ、そんなことか。重護は混沌属性だから自ずと悪事をやらかすから言うまでもない」


信じて疑わないというか、確固たるものを感じているご様子の天災。


重護「お前、本当に酷いな。それで、ケーキか?」


天災「うむ、ケーキだ。この前はシフォンケーキを頼んだがなかなかに美味だった。他のケーキもまだあるみたいだったからな、それが気になる」


この前行った喫茶店とは、モテ期(茨先輩にフルボッコされた)事件のあの喫茶店である。


重護「ふーん、天災って結構甘いものに目がないよな」


天災「悪いか?」


重護「いや、別に。まぁ、そんくらいなら良いかな。いつ行きたいかまた連絡くれ。なるべく合わせるから」


天災「ふむ、了解した」


天災も普通に女の子してるなー、などと極めて失礼なことを思う重護であった。


重護「で、このティッシュどうすれば良い?」


天災「ベットの上にでも置いといてくれ」


ベットにティッシュを置き、ふとしたことに気付いた。


重護「なぁ、天災。一つ、いや二つ聞きたいことがあるんだけど」


天災「どうしたのだ? 急に改まって」


重護「なんでベット一つしかないの? 敷き布団か何かあるの?」 


天災「おかしなことを聞く。そんなものはない」


重護「え? じゃあ、ダルクはいつもどこで寝てるの?」


天災「これまたおかしなことを聞く。そんなものベットに決まっているだろう」


重護「えっ? 何? 一つのベットで一緒に寝てるの?」


天災「だからそうだと言っている」


当然、とばかりな顔の天災を見て驚愕する。だってダルクって男ですよ? ゲイボルグの槍を持っているんですよ? まさか夜な夜なキャッキャウフフな展開を繰り広げているのか!?


天災「……貴様は本当に救いようがない変態だな。そんなことは一度もない」


重護「なんで、ピンポイントに心読めるの? エスパーなの? ねぇ?」


天災「貴様が単純なだけだ」


蔑んだ目で見ないで!


重護「寝る時、平気なのかよ? だってダルク男じゃん」


天災「たしかにダルクは性別上は男だが、しかし、ダルクを異性として見たことなど一度もないから大丈夫だ」


重護「不憫な……」


キッパリ言い放つ天災に重護はダルクが本当にかわいそうだと思う。


天災「それで、もう一つは何だ?」


重護「あー、ちょっと聞きにくいんだけど」


天災「気にするな、今更、変態がおかしなことを抜かしても驚きはしない」


重護「ひでー。じゃあ、聞くけど、天災って香水か何かしてたりする?」


天災「? いや、別にしていないが、どうかしたか?」


重護「いや、してないならしてないで全然大丈夫(ということはあの匂いは天災自身の匂いなのか)」


やっべ! テンション上がってキター!


天災「? もしかして、私何か匂うのか? 臭いのか?」


ちょっと慌てた様子で天災が問いかける。


重護「そんなことない! 寧ろめちゃくちゃ良い匂いだ!」


天災「にゃ、にゃにを言い出すか貴様はー!……///」


重護「あ、ごめん!」


湯気が出そうなほど顔を真っ赤にした天災に言われて、失言だったことに気付いた。


何言ってんだ、俺! 下手したらセクハラ発言だぞ! 自重しろ、八真重護!


重護「……」


天災「……」


二人して何を言えば良いかまごついていると、玄関の方から助け舟がきた。


ダルク「もう、二人とも、さっきから何やってるの? ご飯できてるから早くおいでよ」


重護「あぁ、うん、すぐ行く。ほら、天災。行こうぜ」


天災「う、うん……」


重護の部屋へ移動すると、テーブルの上には三人分のハヤシライス・三つの小皿・ポテトサラダの入った大皿が置いてあった。


七々々「おかえりー、二人とも。プリンあった?」


重護「それが聞いてよ、七々々ちゃん。このプリン一個1200円もしたんだけど」


ダルク「1200円!?」


重護「おい、そこの女装野郎。なんでテメェが驚いてんだ」


ダルク「だって、そんな値段するなんて知らなかったんだもん!」


重護「もん、じゃねーよ! かわいく言ったら許されると思うなよ!」


七々々「まぁまぁ、そんなことどうでも良いから早くプリンちょうだい♪」


重護「あ、はい」


これ以上駄々をこねると怒られそうだったので自重する。あれ? もしかして俺、立場弱くね?


重護「いやー、でも今日はセールで二割引だったから助かったけど」


ダルク「セール?」


重護「変わったセールでさー」


カップル・夫婦デーのことを素直に話そうとしたら、天災がさり気なく寄ってきた。あ、良い匂いが……って、いかんいかん!


天災「(重護、言ったらチクるぞ)」


重護「(了解です)……えーと、何でも今日はオーナーの誕生日で、全品二割引だったんだよ」


七々々「ふーん、変わったセールもあるもんだねー」


プリンのことで頭いっぱいの七々々ちゃんは適当に答え、7Aプティングの蓋を開けた。


七々々「ささ、皆も早く席について食べようよ」


催促され、皆それぞれの席に座る。


四人「いただきます」


七々々「んー! 何このプリン!? やっばいよ、重護! 確実にランキング上位に入るレベルだよ!」


重護「それは買ってきた甲斐があったよ。でも、流石に高いからたまにしか買えないってことは理解してね?」


七々々「うん! また買ってきてね!」


聞いちゃあいねー、と思いつつダルク手製のハヤシライスを頬張る。


重護「相変わらず、ダルクの料理は美味しいなー」


ダルク「そう言ってくれると嬉しいよ」


天災「そんな美味しい料理を食べれるんだから感謝するんだな」


重護「なんでお前が偉そうに言うんだよ?」


天災「ダルクは私の付き人だ。付き人の自慢は主人の仕事だ」


重護「さいですか……」


残念な子はほっといて、四人で食べる景色に感慨深いものを感じる。


重護「なんかこう、みんなで食べるのって良いな」


七々々「どうしたの、重護? 急にそんなこと言うなんて珍しいね」


天災「七々々殿の言う通り、どうしたのだ? 貴様らしくない」


重護「俺がこんなこと言うのそんなに変?」


三人「うん」


半ば驚いたように聞き返してくる七々々ちゃんと天災にそんな変なこと言ったかなー、などと思いつつ聞いてみると、ダルクも合わせて即答してきた。


重護「なんで、素直な気持ちを伝えたらガン否定なの? 酷くない?」


七々々「だって重護だし」


ダルク「重護くん、コレばっかりは仕方ないよ」


天災「……」


理不尽だ……。俺だってこうやってみんなとわいわい食べるの好きだよ。この三人は特に遠慮しなくて良いし(遠慮しないから七々々ちゃんに何度も怒られてるけど)


ってか、天災? 何急に考え込んで気まずそうな顔してんだよ?


天災「……もしかして、貴様もこういうのに憧れていたのか? 誰かと笑いあって、たわいのない会話をしながら食べる食事に」


重護「……そうだよ、悪いかよ」


なんでこの子は本当に……。


重護「俺の家って特殊だから、普段は家族別々に飯食べて、たまに家族と仕事関係の人達と宴会みたいなのはあったけど、みんな酒呑んで酔い潰れるからガキの俺が介抱しないといけなくて、あんまり楽しくなかった。多分、寂しかったんだろうと思う」


ポツリとつい本音を漏らしてしまった。こんなこと言えば、また貴様らしくない、それでも悪のサラブレッドがどうとか言うに決まってる。


天災「そうか、それは災難だったな」


しかし、予想外の返答に顔を見上げると、そこには慈しみに満ちた優しい笑顔があった。


ダルク「重護くんも天災と同じなんだね。天災も似たような境遇で僕が付き人になるまでいつも一人で寂しくご飯食べてたんだ」


天災「ダルク! 余計な事を!」


本日何度目だろうか、顔を真っ赤にして慌てふためく少女にほんの少しだけ愛おしさを感じた。ほんの少しだけですよ? 本当にごく僅かなんですからね!(汗)


七々々「ふーん、だから天災ちゃんは重護に対して、“も”って聞いたんだね」


天災「っ……!? 七々々殿、それは言葉の綾だ! 勘違いしないでもらおうか!」


七々々「天災ちゃんも素直じゃないねー。重護も素直になってるんだし、天災ちゃんも素直になっちゃいなよ」


天災「ちがっ、私は別にそんなこと一度たりとも思っていない! 全てダルクの狂言だ!」


ダルク「天災、名探偵が嘘つくのは良くないよ」


天災「わ、私は嘘など……」


あ、若干涙目になってる。そしてオロオロし始めたよ。


七々々「天災ちゃん、昔のことはともかく、今この四人での食事は楽しい?」


天災「それはその……楽しいに決まっている(ボソッ」


七々々「かわいいなー天災ちゃんは! 決めた! 今日から天災ちゃんは私の嫁だぜー!」


今にも消えてしまいそうな声での告白は寂しがり屋の七々々ちゃんの心を打ったらしく、 七々々ちゃんは天災に抱きついた挙げ句、ほっぺにチューまでしている。キマシタワー


天災「にゃ、にゃにをする、七々々殿! ダルクや重護も温かい目で見てないで助けろ!」


手を伸ばし、懇願してくる天災……なんかこう、無性に萌える! もっと見ていたいし、もっとイジメたい!


ダルク「ねぇねぇ、重護くん、このポテトサラダも自信作なんだ。食べてみてよ」


重護「ほう、どれどれ・・・おー!めっちゃ美味しいですよ、奥さん!」


ダルクも同じ気持ちなのか、一緒にわざと無視する。


天災「無視するなぁ!」


あ、ヤベ。色々とマズい。落ち着くんだ、俺。


この日、俺は天災の泣き顔は非常によろしくないことを身を以て知った。主に性的に。


二時間後


天災「もう、こんな時間か。そろそろお暇するとしよう」


そんなこんなで楽しい食事が終わり、くつろいでいた天災達が部屋から出て行く際に声を掛けた。


重護「なぁ、天災」


天災「ん? 何だ?」


重護「まぁ、その、なんだ……飯に限らず、いつでも来てくれて良いからな」


予想だにしていなかったのか、天災は目をパチクリさせた。そして、柔らかな笑顔を浮かべ


天災「あぁ、ではそうさせてもらおうかな」


とても嬉しそうに宣言した。


ダルク「良かったね、天災」


天災「ふん、仕方なく来てやるのだ。勘違いするんじゃないぞ、重護。別に貴様に会いたくて来るんじゃない。七々々殿に会う為に来るんだからな!」


重護「何故にツンデレ。まぁ、別にそれで良いや。また例の連絡くれ」


天災「承知した。ではな、重護」


ダルク「おやすみなさい」


重護「はい、おやすみ~」


二人が出て行った後、風呂に入り、風呂上がりに冷蔵庫からキンキンに冷えたコーラを出して喉を潤す。


重護「かぁっー! うめぇ!」


七々々「おっさんかい、お前は」


重護「いやー、風呂上がりの炭酸は最高ですなー」


七々々「今日はいつもより機嫌良いねー」


重護「そう見える?」


七々々「うん。やっぱり本音を受け入れてもらえたから?」


重護「どうだろ? ただ、天災イジメるのが楽しかっただけかも(笑)」


天災「たしかに今日の天災ちゃんは一段とかわいかったねー」


などと何故か天災トークに花を咲かせ、いつの間にか夜が更けていった。






次の日の朝。


重護「じゃあ、行ってくるよ。 七々々ちゃん」


七々々「いってらっしゃ~い。帰りにプリンよろしく~」


重護「了解っす」


学校やバイト、何処かに出掛ける際は同居中の自縛霊こと、龍ヶ嬢 七々々ちゃんに挨拶することが日課になりつつある。


寂しがり屋の七々々ちゃんと最低限の会話しかしないと構って欲しさにポルターガイスト現象を起こすことを最近身を以て知ったので、日々のコミュニケーションを欠かさない。


重護「しっかし、毎度毎度プリンか~。なんでプリンだけは幽霊なのに食べれるんだろ?」


七々々ちゃんは自縛霊だ。こちらから触れることはできないし、ポルターガイスト現象を起こせるので、間違いなく人間ではない。


幽霊が何かを食べることは果たしてあるのだろうか。


重護「そもそも幽霊を七々々ちゃん以外で見たことねーし、わかんね。そんなことはどうでも良いから何処かにお金落ちてねーかなー 」


天災「何を貴様は朝っぱらから卑しいことを抜かしてるのだ、乞食」


お金落ちてないかなーって下を向いてキョロキョロと見ながら歩いていると、パツキンのお子ちゃま名探偵に絡まれた。


重護「乞食は意味違うだろ。おはよーさん、天災。ダルクはどうした? 一緒じゃねーの?」


天災「似たようなものではないか、重護の存在は。ダルクは起こすの面倒だったから置いてきた」


重護「朝から容赦ないのね、この子は。ダルクの奴、なんて不憫な……」


一緒に寝てるんだから起こしてやれよと思うのは俺だけだろうか。


ってか、ダルクも同じ部屋の住人が朝の準備してるんだから普通起きるだろ。


重護「ダルクって、朝弱いの?」


前にいた天災と肩を並べ、学校へ向かって登校する。


天災「別段、そんなことはない。毎日同じ時間に起きるしな。今日は私がこっそり起き、こっそり準備して、こっそり家を出てきた」


重護「なんでこっそりする必要あるの?」


天災「まぁ、その、なんだ……。重護に個人的な話があって、ダルクに聞かれると面倒というか、厄介というか……」


天災は目を反らし、バツの悪そうな顔で答える。


重護「個人的な話で、しかもダルクに聞かれるとマズい内容? ごめん、何のことかわかんね」  


天災「その、だな……昨日の話覚えているか? 私の部屋で話したことだ」


重護「あー、もしかしてピンクと白の……あ、ごめんなさい。嘘です、すいません」


昨日の下着を見られて恥ずかしがる天災を思い出したから、そのままネタで言ったらまた恥ずかしがってくれるかな~って思ったけど、うん、ゴミを見るような目で蔑んでるからここは素直に謝ろうぜ、俺。


天災「 どうやらよっぽど七々々殿にチクられたいようだな、貴様は 」


重護「て、天災さん? 今のちょっとしたジョークといいますか、僕と天災さんと親睦を深めるコミュニケーションみたいなもので、決して悪気があって言った訳ではなくてですね……」


天災「変態が語るくだらん言い訳など要らん」


重護「ほんと、容赦ないな。あー、もしかしてケーキ奢る話?」


けど、ケーキの話ぐらいでダルクが何かうるさくする要素あったっけ?


天災「まぁ、用件はそれなのだが……このことはダルクに話さないで欲しい」


重護「? よくわかんねーけど、とにかく言わなければ良いんだな?」


天災「そうだ。私にも立場というか、都合があるのでな。(あの喫茶店に重護と二人でケーキ食べに行ったなどと伝われば、やれデートだの、恋がどうだのと無駄話されるのは面倒だからな)」


重護「なぁ、ふと思ったんだけどそれって前後で伝わったらダメで、一緒に連れて行ったら問題ないんじゃねーの? そういう問題とは違う?」


もしかして、天災は俺と二人でケーキ食べに行くことで、ダルクに色恋がどうとか言われるのが鬱陶しいだけなんじゃ……。


天災のことだから本気であり得る。


天災「そうすると、私が奢って貰う分が減るではないか」


重護「……えっ? お前ってそんな食い意地張ったキャラだっけ?」


キャラ的に不相応な台詞を真顔で言われたので、少し反応が遅れた。


いやだって、普段の天災の食事をほぼ毎日のように見てるし、そんなに食べないこと知ってるから今の台詞が新鮮すぎてどう反応したら良いか困った。


天災「私はどちらかと言えば女性の中でも少食だ。重護も一緒に食事する機会が多いから知ってるだろう?」


知ってるので素直に頷く。


天災「つまりは量ではなく、質の問題だ」


重護「あー、なるほど。値段の問題か。先に言っておくけど、流石にあんまり高いのは無理だからな?」


天災「重護の財布事情は知っているからギリギリアウトにならないラインを攻めるつもりだから安心しろ」


……意地悪そうな顔してやがる。


重護「なんで知ってんだよ。ちなみに幾らか本当にわかってるのか?」


天災「家計簿の書き方を教えろって言ったのは重護ではないか。それに最初のひと月は私が書いてやっただろう」


重護「……そうだった」


天災「ちなみにそこから一ヶ月の給与は幾らで、大体どれくらい消費するかは予想できている。生活費以外で遊ぶ費用を考えた場合、私に割ける費用は自分の食費も合わせて2600円が関の山だろうな」


重護「」


なんでわかっちゃうの? 普通に怖いんだけど。


ちなみに2500円程度を天災と自分の分に充てる予定だった。


天災「その苦虫を潰したような顔を正解のようだな。だが、まぁ、さっきのは冗談だから安心しろ。奢って貰うのだから流石にある程度は遠慮するつもりだ」


重護「ほどほどにお願いします」


ここは大人しく、頭を下げてお願いしておこう。


毎月、七々々ちゃんへのプリン代が結構馬鹿にならないし。


天災「了解した。それでいつ行くかだが、バイトのシフトを教えて欲しい」


重護「今日はないな。次の休みは土曜日、来週は水曜日と金曜日だな」


そんなこんなで、喫茶店にいつ行くかの話をしていると学校の校門が見えてきた。


天災「ふむ、なら突然で悪いが、今日の放課後はどうだ?」


重護「今日? まぁ、暇だし別に良いよ」


新しい遺跡も気になるけど、特に急いでる訳でもないから後日で良いかな。


天災「話が早くて助かる。実は少々楽しみにしていたのでな、重護の都合が合って良かった」


少々と言う割には随分とワクワクしているように見える。


重護「そんなに俺と食べに行くのが楽しみなのか?」


悪戯っぽく、ワクワク顔の天災に質問を投げかける。


天災「そうだ。だからダルクには悪いがお留守番してもらう」


天災はそう呟くと可愛らしく、ニコッと笑った。


重護「えっ!?」


天災「ん? どうした重護? そんなに慌てて」


重護「あ、いや、何でも、ないです……」


からかおうとしたら予想外な事を言われてこっちがテンパる。


そんなことを言われたら、彼女いない歴=生まれた年月の俺に免疫なんてない訳でして……赤面し、顔を逸らしたことは言うまでもない。


天災「あぁ、それはそうと私はまだ挨拶をしていなかったな」


校門の前で立ち止まり、天災は重護に顔を向けて宣言する。


重護「ん?」


まだ、恥ずかしながらも天災の顔を見ると


天災「おはようございます、だ。重護」


悪戯が成功した子供のような満面の笑みを浮かべ、それを魅せられた。


重護「っ……!?」


文字通り、その小憎たらしい笑顔に魅力され、ついつい見とれてしまった。


天災「ふふっ、では私は先に行く。教室着くまでにその真っ赤な顔が直るといいな」


見とれて立ち止まって動けない俺を見透かしたのか、満足したのか、小走りで校内へ消えていった。


重護「……うるせーよ」

 

してやられた俺はというと、そこにはもういない律儀で生意気な奴を思って、そう呟くしかなかった。






時間は飛んで、四時間目。


品行方正な男、その名も八真重護。今日も真面目に授業に取り組んでいる(ドヤァ


重護「眠い……。そして、サッパリわからん」


今は数学の時間で、教壇に立つ女教師(名字の漢字が難しくて名前忘れた)が何やらよくわからない数式について熱弁している。


頑張って聞き取ってもわからないものはわからない訳で、ペンを置き、教科書とノートを閉じ、机の上の物を仕舞い、机に突っ伏す。


重護「うん、無理だ。寝よう」


もう一度言おう。俺は品行方正で定評のある男、八真重護。今日も真面目に授業を受けている。


けれど、いくら真面目に授業を聞いているからとはいえ、無理なものは無理だ。人間にはできることとできないことがある。


これは人間が理解できる内容ではない。宇宙人やもっと別の生き物が必要な知識だ。人間にこんな到底理解できない知識など、不必要だ。


いくら真面目な俺だからといって、不必要なものまで学ぼうという程、勤勉ではない。


そう、だからここは敢えて聞かず、寝ることによって、昼の勉学に備えるのだ。これは言わば大義名分のようなものだ。


突っ伏しながら隣の席を覗き見るとパツキンの名探偵が同じように寝ていた。


いや、どちらかというと俺よりも質が悪い。何故なら持参のクッションに顔を埋めて寝ているからだ。


ハナから聴く気がないのだろう。しかし、その気持ちはよくわかる。だって、訳のわからないを聴いたところで意味がないから。


だから天災、俺と同じ考えに至ったんだよな? 流石は俺のライバルだな!


重護「天災が寝返り打つなりして、寝顔拝見できたら写真撮って後でからかってやろう」


何故かは知らないが、無性に顔を埋めて寝ている天災の寝顔を見たいという衝動に駆られたので、しばらく観察(覗き見)してみる。


そして、運良く寝返りを打ち、こちらに顔を向けたので、スマホを取り出し、無音カメラを起動する。


重護「……ったく、いつも暴言吐いてふてぶてしい顔してるクセに、寝顔は可愛らしいなんて、卑怯な奴」


何だか、幸せそうなその寝顔を写真に収めるのは酷く悪い気がして、撮るのをやめた。


重護「(幸せそうな顔してるからさぞかし良い夢見てるんだろうな。おやすみ、天災。どうせなら俺にも幸せな夢をわけてくれよ)」


そう思いながら眠りに落ちた。


キーンコーン、カーンコーン。


女教師「む、もう時間ですか。それでは本日はこれで終わりにします。号令をお願いします」


重護「んあ?」


チャイムの音で目を覚ます。


夢路「起立!」


クラス委員長である夢路さんの号令に合わせて立つついでに体を伸ばす。


チラッと横を見ると天災はまだ寝ており、ダルクが慌てて起こしていた。


夢路「礼!」


号令が済むといつもはすぐに立ち去る女教師だが、今回は何故か俺達に鋭い眼光を向け


女教師「今から言う生徒は昼休み、職員室まで来なさい。一級さんと八真君、良いわね?」


お呼び出しを行った。


重護「げ……わかりました」


天災「面倒な……了解した」


ダルク「仕方ないよ、二人とも」


隣で見ていたダルクは二人が互いにしかめ面をしていることに苦笑い。


女教師「職員室へ来るのは昼食後でも構いません。遅くとも12時45分までには来るように」


女教師はそう言い残し、教室を立ち去った。


天災「重護が何かをやらかしたせいで私まで呼ばれてしまったではないか。どうしてくれる」


重護「いや、俺関係なくね? 俺らが寝てたからだろ、どうせ。寧ろ、お前の方が質悪いって。そのせいで俺ら目を付けられたんじゃねーの?」


天災「質が悪いとはどういうことだ?」


重護「クッションに思いっきり顔を埋めて寝てただろーが。目立つに決まってんじゃん!」


なんでわざわざクッション持参してるのかね、この子は。


天災「そんなことは知らん。私は私のやりたいことを貫くだけだ」


重護「お前……やっぱ色々な意味ですげぇよ。しかも少し格好良いじゃねーか」


天災「ほぅ、重護が私を素直に褒めるのは珍しいな。ならもっと褒めるが良い!」


重護「あー、うん、すごいすごい」


なんだろう。天災って犬っぽいところあるから時たま無性に頭を撫でたくなる。


天災「そんな優しい目でナデナデするな!」


顔を赤らめた天災は重護の手を慌てて払い退ける。


重護「あっ、悪い。無意識」


どうやら、無意識に天災の頭を撫でていたらしい。


うーむ、勝手に動くとはけしからんぞ、俺の右手。


ダルク「重護くんって、時々、ナチュラルにセクハラするよね」


ダルクがジト目でコチラを見てくる。


重護「いや、待って、それは誤解!」


ダルク「変態」


重護「お前に言われたくねぇ!」


女装してる変態に変態などと言われたくはない。


天災「まったく、これだから重護は……。するならせめてもっと人のいない所にしろ。見知った顔が多い所でされるのは流石に恥ずかしい……。」


ダルク「……」


恥ずかしそうにそっぽ向きながらも満更ではなさそうな天災を見てダルクはやや不機嫌になる。


ダルク「(……最近、重護くんの話ばっかりするし、少し面白くないなー)」


そう、ここ近日は重護くんの話題が特に多い。主に重護くんに対する愚痴なのだが、この際それはどうでも良い。


そもそも天災は他者との関係を築くことはどうでも良く思っている節があり、自分が何らかの形で関わる他者の行為にすら無関心なのだ。


その天災が重護くんのことばかり話ということは重護くんを相当信頼しているのだろう。


伊達に重護くんのことをライバルと称していないのだろう。


天災「ん? どうした、ダルク。不機嫌そうな顔して」


ダルク「そ、そんなことないよ! き、気のせいじゃないかな!?」


天災「そうか? なら、良いのだが……」


重護「(普通に笑顔に見えたけど、やっぱり天災には機微がわかるんだな)」


俺から見ても、天災はダルクのことを大事に思っているのがよくわかる。他人に対してはすごく無関心だけど、親しい人は絶対に無碍にしない。


やっぱり根は良い奴なんだな。色々と残念なアホの子だけど。


ちなみにダルクの応答が不自然だったことには気付いてるけど、天災がそれ以上追求しないのならわざわざ言う必要はないな。天災も気付いてるっぽいし。


ダルク「と、ところで、二人はお昼食べてから職員室行くの?」


重護「(話を逸らしたいのか)あー、どうすっかなー。食堂行ってからにするかなー」


別にどうでも良いので、素直に乗ってやる。


天災「む? 別々に行くのか? どうせとやかく言われるのだ、一緒に行った方が楽ではないか?」


重護「それもそうだな。別々に行って、片方が途中から来たら長引きそうだし。天災、昼飯はどうするんだ?」


天災「私は食べないぞ」


ダルク「えっ? 天災の分の弁当も作って来たんだけど……」


天災に弁当を渡そうとしていたダルクの腕がとまる。心なしか少し悲しそうだ。


か、かわいい……。いや、待て。落ち着け八真重護。相手は男だぞ、騙されるな!


天災「そうなのか? ふーむ。重護、私の代わりに食べろ」


重護「へ? 俺が食べるの?」


天災「私は“食べれない”しな。残すのはもったいないから食べてくれると助かる」


あー、なるほど。放課後食べに行くから食べないのか。いや、食細いから言葉通り食べれないのか。


重護「いや、普通こういうのって、まずダルクに聞くべきじゃね? ダルク、良いのか? 俺が食べても」


少し俯きがちのダルクに向かって尋ねる。


ダルク「んー、天災がそう言ってるだし、食べてくれると嬉しいな。流石にボクもお弁当二つは食べれないし」


そうやって気丈にもニッコリ笑うダルク。何て健気な……そして相変わらず不憫な奴だ。


重護「じゃあ、お言葉に甘えて美味しく頂きます」


ダルクの手料理は美味しいので、素直にお礼を述べておこう。


親しき者にも礼儀ありってな。


天災用だから弁当箱が小さくて、量は少ないけど、この後のことを考えるとちょうど良いぐらいだ。晩飯もあるし。


いざ、弁当を開けてみて……絶句した。


天災「ん? どうしたのだ、重護? 神妙な顔つきだが」


不審そうな顔で見上げてくる。


天災って、意外とまつ毛長いのな……あ、いやいやそうじゃなくって!


重護「いや、何と言うか……お前って愛されてるな」


弁当を開けてみると真ん中に仕切りがあり、半分はそぼろご飯、もう半分はおかずになっていた。ただ、ご飯の上にハートマークがあるのだ。


詳しく言うなら、ハートの外側が玉子で、内側がそぼろになっている。


天災「あー、ご飯のことか。ハートはいつもあるから気にするな。ちなみにこの前は海苔の佃煮でハート作ってあったぞ」


重護「あっ、そう。おー、プチトマトまでハートになってる。なんか面白いな」


ダルク「あ、それこの前、雑誌に載ってたから試してみたんだ。楕円形のプチトマトを斜めに切って、片方を反対にして串で刺したら完成だよ」


重護「へぇ、よく思いつくなー。ん? ダルク、これって朝起きて作ったの?」


ここで、ふとした違和感に気付く。


ダルク「ううん、違うよ。昨日の夜に作って、朝まで冷蔵庫に入れておいて、昼休みまで常温でおいておくと、適度な温度になるんだー」


重護「なるほど、勉強になるわ~。ところで、天災」


天災「何だ?」


重護「昨日の夜に作ってたら、なんで弁当あることに気付かないんだよ」


そう、違和感とは天災がダルクの作った弁当を知らないことだ。


昨日、部屋に戻った後に作ったのならダルクが調理しているのは見ているはずだ。


天災「私はダルクと違って早寝早起きだからな。昨日もあの後、すぐに風呂に入り、そしてすぐに寝た。だから知らん」


ダルク「天災って、特にやる事のない日は22時には寝ちゃうから仕方ないよ」


寝んのはえーな。流石、お子ちゃま名探偵。


重護「なるほどなー。ダルクは結構遅くまで起きてたりするのか?」


ダルク「んー、そうだね。雑誌や小説を読んだり、次の日の弁当作ったり、宿題をしたりして、1時ぐらいまで起きてることはよくあるかなー」


ちょっと意外である。見た目的にも性格的にも真面目なので、早寝早起きしてそうなイメージがあったけど、どうやら違うようだ。


天災「ちなみに女性雑誌や三角関係ドロドロの愛憎劇ものの本が多いがな」


重護「うわー……」


ちょっと引くわー。こいつ、女が好きそうなもの本当に好きだな。


ダルク「ちゃ、ちゃんと純愛ものも読むよ!」


重護「えっ? そこなの?」


もっと違うフォローがあるだろ、普通。


天災「まぁ、そんなことはどうでも良いからさっさと食べてしまえ。さっきからチラチラと見られているぞ」


天災が周りを見渡しながら忠告してくる。


重護「そうなんだよなー。まぁ、理由はわかるけど」


理由は簡単。ダルクの手作り弁当を食べているからだ。


ダルクは見た目だけなら最重要保護指定美少女。実際はゲイボルグの槍を携えた女装しているただの変態。


しかし、この変態。学校では俺と天災、あと後輩の女の子以外には完全に美少女と認識されている。


そんな美少女の手作り弁当を食べていたとしよう。


当然、美少女に目がない思春期真っ盛りの男子達が恨めしそうに見てくる。また、恋愛ごとに首を突っ込みたがる女子達も興味津々として見ている。


正直言って、あまり心地良いものではない。


天災「なら、食べてしまえ。そして、さっさと行って済ませるぞ」


重護「でも、早く行くと長引きそうじゃね?」


せっかくの美味しい弁当をガツガツ食べるのはもったいないので、のんびり食べたい。


天災「遅く行って、放課後も呼び出されたら適わん。放課後は“用事”があるのだから面倒事は昼休みに済ませるぞ」


用事ねぇ……。かなり楽しみにしているみたいだし、合わせてやるか。


重護「へーい。しかし、相変わらず美味しいな。何かコツでもあるの?」


少し食べるペースを上げながらダルクに聞いてみる。


俺が料理してもこいつらに不味いだのボロクソに言われるからコツがあるのなら聞いておいて損はないだろう。


ダルク「うーん、丁寧に作ってるからかな」


やっぱり、堅実にやっていくしかないのね。当たり前といえば当たり前か。


天災「ほぅ、てっきり愛情だの、心を込めてるとか言うと思ったのだがな」


ダルク「それはずっと込めてるよ?」


茶化すように、ニヤニヤしていた天災だったが、ダルクの満面の笑みに言葉を失う。


重護「だってさ。名探偵は助手に大変想われてますなー」


見てる側としては面白いので、のっかろう。


天災「うるさいっ! 黙れ! ニヤニヤするな! 極悪人ヅラ!」


ダルク「もぅ、ダメだよ重護くん。天災は照れ屋さんなんだから」


重護「もちろん知っててからかってるんだよ」


天災「ふんっ! 重護のくせに生意気な」


重護「朝の仕返しだ」


してやられたのなら、必ず仕返せ


これウチの家訓の一つ。


朝は不覚をとったから仕返すなら今がチャンス!


天災「ちょっ、がさつに頭をナデナデするな! 髪が乱れる!」


重護「なら優しく丁寧に撫でてやろう」


ジタバタ暴れるので、落ち着かせる為に優しく撫でてみる。


天災「………………ふにゅ」


なんということでしょう。


ジタバタ暴れていた天災が落ち着き、気持ち良さそうに目を細め、とろけている。


ダルク「……天災?」


天災「あっ、いや、何でもないぞ!?」


ダルク「そ、そうだよね! この変態がナチュラルにセクハラしたから驚いただけだよね!?」


重護「ダルクくーん? ちょっと酷くなーい?」


最近、ダルクがなかなかに手厳しい。嫌われている訳ではないけど、以前に比べて容赦がなくなった気がする。


ダルク「そんなことないよ?」


重護「えー……」


営業スマイルよろしく、笑顔で何事もなかったように接してくる。


これもきっと親しくなったから遠慮がなくなっただけだよな!


天災「……重護。その、何だ……さっきのは忘れてほしい」


重護「お、おう!」


裾をつまみ、頬を赤らめ、上目遣いでお願いされたらもう、二つ返事するしかないじゃないですか!?


やっべ、可愛いすぎて抱きしめてー!


ダルク「(天災のあんな顔見たことないや……。天災は重護くんのこと、本当にライバルとしてしか見てないのかな……)」


天災は恋愛ごとに疎いから自分の気持ちを知らないのだろう。けど、重護くんと関わっていくことでいつか知るのかな。


そうやって、天災の預かり知らぬところでダルクの悩みが日に日に積もっていく。






重護「ごちそうさまでした」


弁当を食べ終え、ダルクにお礼を伝え、天災と共に職員室へ向かった。


そして職員室のドアを開けようとしたら、一人の少女が出て来た。


少女「あ、天災先輩、に……八真先輩、こんにちは」


天災「スイナか」


重護「こんにちは、スイナちゃん」


彼女の名前は柊スイナ。一年生であり、《柊技術研究所》という部室を所有している。主にロボット関係をよく弄っているそうだ。


スイナちゃんは言葉数が少ない分、何かとストレートにものを言う。


そして男性恐怖症らしく、男に話し掛けられても基本ガン無視である。


理由は知らないがダルクの女装を見抜いており、好意を抱いているそうだ。


重護「スイナちゃんはどうして職員室に?」


スイナ「……」


質問してみるけど、案の定、返事は返ってこない。


天災「重護、貴様が喋るとスイナを怖がらせるだけだ。只でさえ、その極悪人ヅラで萎縮させているのだから少しは考えて生きろ」


ジト目で馬鹿にしてくる天災に軽くイラッとする。


重護「後で覚えてろよ、このお子ちゃま名探偵」


天災「それで、スイナ。何故呼ばれたのだ?」


重護「えー……天災ちゃん、スルーっすか?」


ちょっと、天災ちゃん? ガン無視はやめよ? お兄さん本気で傷つくから!


スイナ「最近、ゴーレム6号の調整、してて、授業に、出てなかったから、怒られた」


心が清らかで、そこそこのイケメンな優男こと八真重護の質問は俺が男であった為、無視されただけであって、決して強面で性根が腐りきってるのを見抜いて萎縮された訳ではないはず。


ふてぶてしく、社会不適合者でアホの子である天災が聞いて、すぐに答えたのはただ天災が女子だったからに違いない。ただそれだけの違いだ。絶対にそうだ。


重護「ゴーレム6号って、あのカッコいいロボットのこと?」


ゴーレム6号は以前、部室というかほぼ研究室? にダルクを連れて七夕祭りの悪事(原作五刊参照)の際に訪れて、饒舌に語ってくれた。


体長二メートル近く、上半身は四角い頭と二本の腕の人型。下半身は六本足の不思議なロボットだ。握手や箒で掃除できたりと、何かと精密作業ができるそうだ。


スイナ「……そう、です。八真先輩、本当に、ゴーレム6号、カッコいい、ですか?」


お、怖がっていたスイナちゃんが何かを期待するかのような目でこちらを見ている。


重護「ん? うん、手足合わしたら八本あって、色々なことできそうだし、何より外装のカラーリングが一番心を擽られるかな」


やっぱり俺も男の子ですので、ロボットにはロマンを感じる。


そんなロマンの塊を実際に見れたのだから興奮しない訳がない。なので、どこが気に入ったのかを素直に伝えた。


スイナ「! 先輩、よくわかってる。……ありがとう、ございます」


お、スイナちゃんの目がキラキラ輝いてて、興奮してるのか頬がやや赤い。


ん? 普段は髪の毛ボサっとしてパッとしないけど、もしかしてキチンと整えたら実はかなりかわいいんじゃないかな? 地味におっぱい大きいし。


天災「話が済んだならさっさと行くぞ、重護」


スイナちゃんの可能性に戦慄していたら、しかめ面で天災が催促してきた。心なしかゴーレム6号の話を嫌がってるように感じた。


ロボットものは嫌いなのかね?


重護「はいよ」


まぁ、どうでも良いので、さっさと話を切り上げる。


天災「ではな、スイナ」


スイナ「お疲れ様、です。天災先輩に、八真先輩」


重護「お疲れ様ー。あ、スイナちゃん。昼休み、ダルクの奴は中庭のベンチで本読むとかどうとか言ってたよ」


スイナ「! ありがとう、ございます、先輩!」


スイナちゃんは何故かダルクにぞっこんラブだ。今の会話でほんの少し俺とスイナちゃんの親密度が上がったことを感じ、お礼代わりにダルクの居場所を教える。


やっぱり好きな相手が何処にいるかとか知りたいと思うし。


俺って、なんて良い奴!


案の定、教えたら目の色変えて、パタパタと小走りで中庭へ消えていった。


天災「まったく、スイナめ……ダルクのことになると目の色変えおって」


重護「うーん、恋する乙女じゃなくて、獲物を狩ろうとする肉食獣のような目をしてたのは気のせい?」


天災「ふむ、スイナは肉食系女子という奴だったか」


重護「随分とギャップあるなー。しかし、どうやってダルクが男だって知ったんだろ?」


天災「あー、それは……まぁ、色々とあったのだ」


重護「? まぁ、今はそれよりも怒られることが先か」


天災「面倒くさいが、さっさと怒られて済ませるか」


天災に相槌を打ち、職員室のドアを開け、漢字難しくて読めない女教師の元へ。


女教師「意外と早い到着ですね。殊勝な心掛けは良いことです。さて、呼ばれた理由は理解していますね?」


女教師の机にはひらがなで〈つつじふたば〉というネームプレートを発見。あ、 躑躅嫩ってそう読むんだ。書くの面倒くさそう。


それはそうと、呼ばれた理由ねぇ……チラリと天災を見ると天災もこちらを見ており、二人してこう答える。


二人『天災(重護)が爆睡していたのが目に留まり、ついでに隣でバレないように寝ていた自分(私)も見つかってしまい、今に至る訳です(だ)』


躑躅嫩「……」


女教師は合わせたが如く、完璧にハモった言い訳に目をパチクリさせている。


躑躅嫩「えっと、二人は仲良いのですね?」


二人『誰がこんな奴と』


重護「あ?」


天災「む?」


おいおい、天災ちゃんよー。さっきからマネしないでもらえますかねー? 呼ばれたの君のせいでしょー?


躑躅嫩「酷い言い訳ですが、居眠りで呼ばれたのはわかっているみたいですね。」


重護「はい。すいません」


とりあえず、謝り倒して許してもらおう。


躑躅嫩「居眠りする理由として、疲れていた・わからなくて諦めた・既に理解しているので退屈だったの三つが考えられます。あなた達はどれですか?」


わからなくて諦めたです、先生。


天災「 躑躅嫩女史、私はこの程度の内容は既に理解している。だから寝ていた 」


え? この程度? 嘘だろ、天災? ってか、先生にまでそんな態度で大丈夫なの?


躑躅嫩「たしか一級さんは以前は第一高等部でしたね。なるほど、たしかにあそこならこの程度は既に終わっていますね。わかりました。この程度の内容は一級さんには簡単すぎたようです。ですが、ここに通う生徒はまだ学んでいる最中です。居眠りは授業を妨害しませんが、やはり退屈でも次からは起きるように心掛けて下さい」


あれっ? おかしいな、あの難解な数式がこの程度?


しかもなんか先生納得しちゃったし。


天災「ふむ、躑躅嫩女史の言い分は正論だな。これは失礼した。次からは起きて耳を傾けるように心掛けよう。あと、名字と呼ばれるのはあまり好きではないので、次からは名前で呼んでもらえると有り難い」


自分が間違っていることには素直に認め、謝罪し、直そうとする態度にはいつも関心する。


躑躅嫩「わかりました。では天災さんとお呼びします」


このまま終わってくんねーかなー。終わってくんねーよな、やっぱり。


躑躅嫩「では、八真君。君はどれですか?」


ですよねー。


重護「えっと、わからなくて諦めたです」


天災「……」


天災がほんの少し目を見開き、驚いているのは気になったが、今はそれどころじゃない。


躑躅嫩「どの程度わからないのですか?」


重護「この前やった基礎はまだ理解できてはいますけど、その後が……」


躑躅嫩「なるほど。たしかにこの辺りから躓きやすくなります。ですが、努力を怠って居眠りするのは関心しませんね」


重護「すいません」


躑躅嫩先生は補習をすべきかしら、でも時間が……。などとブツブツと独り言を呟いている。


補習はちょっとマズいな。確実にバイトや部活に影響してくる。


天災「 躑躅嫩女史、このダメ男の面倒は私が見よう 」


誰がダメ男だ、誰が。


躑躅嫩「本当ですか? それは是非とも頼めるかしら?」


天災「任せてもらって問題ない」


躑躅嫩「助かります。あ、念のために一週間後、この時間に八真君には小テストを受けてもらいます。勉強すればキチンと解ける問題ですので」


拒否権はないわな。


重護「わかりました」


躑躅嫩「もう少ししたら始まる期末試験の勉強と思えば気持ちも楽になると思います。では、もう行って良いですよ」


重護「ありがとうございます。失礼しました」


天災「失礼する」


先生に頭を下げ、職員室から出たところで天災が不思議そうな目で見てきた。


重護「何か言いたそうだな、おい」


天災「ないと言えば嘘になるな。実際に二つ程ある」


重護「それで、何?」


天災「どうして素直に真面目に答えたのだ?」


失礼だな、おい。


重護「どういう意味だよ?」


天災「何故、はぐらかしたり、嘘をつかなかったのだと聞いている。普段の重護ならそれが当たり前だろう?」


重護「俺だって、真面目に答えてどうにか勉強しなきゃいけないなーって思っただけだ。別に深い意味なんてねーよ」


天災「ほら、普段の重護はそうやって誤魔化そうとして嘘をつく。それに質問に対しての答えが噛み合っていない」


見つめられて、天災相手には無駄だと察し、重護は隠していた心情を吐露する。


重護「……理由は二つ。天災が自らの非を認めて直そうとするひたむきさに充てられたから。それともう一つは誤魔化しても、なんだかんだでお前に迷惑掛けるかも知れないって思ったから。こんなことで約束破りたくないし」


それと、約束を守れず、行けなくて悲しむ天災の姿を見たくなかったというのもあるが流石にこれは恥ずかしいので言わないでおく。


天災「そ、そうか」


照れながら、はにかむ姿に思わずドキッとする。


重護「そ、それでもう一つは何?」


天災「いや、やめておく。本当はバカでマヌケなダメ男に勉強教えてやるのだから感謝しろとふんぞり返るつもりだったのだが、今の言葉でそんなことを言えんな」


重護「いや、ハッキリと言ってますがな」


こういうところがなかったら、素直にかわいいと思うんだけどなー。本当に残念な奴。


キンコンカンコン


重護「予鈴か。教室に戻るか」


天災「そうだな。ん? スイナから電話だと? 珍しいな」


予鈴が鳴ったので、自分達の教室に戻ろうとしたら、天災の携帯に着信が届く。どうやら相手はスイナちゃんらしい。


あ、ちなみに七重島の学校全てにおける共通規則として、授業中及び学校行事中以外では携帯電話の使用は可能である。


但し、授業中内等で使用した場合、厳しい罰則が下されるとのこと。


天災「もしもし、私だ」


スイナ『どうも。……スイナ、です』


天災「何か用事か?」


スイナ『天災先輩、放課後は、暇ですか?』


天災「今日の放課後は用事があって忙しい」


スイナ『なら、放課後、ダルク先輩を、お借りしても、良いですか?』


天災「ダルクを? ダルクには確認してあるのか?」


スイナ『天災先輩が、良いって言うなら、付き合って、くれるそう、です』


天災「ふむ。まぁ、良いだろう。好きにしろ」


スイナ『ありがとう、ございます』


天災「では、切るぞ」


隣にいたから内容バッチリ聞こえたけど、なるほど、どうやらスイナちゃんは放課後にダルクとあんなことやこんなことを……(自主規制)


天災「おい、そこの変態妄想童貞。さっさと行くぞ」


重護「だ、誰が童貞だ!?」


ってか、天災さん? 時々思うけど、あなたピンポイントで心読みすぎですよ?


天災「滾るな、馬鹿者」


重護「あれ? なんで俺、呆れられてるの?」


天災「重護、貴様に一つ良いことを教えてやろう」


左手を腰におき、右手の人差し指を立てて、地味にしなをつける格好に思わずグッとくる。


天災の手って小さくてかわいいな。触ったら柔らかそう。


重護「おー、柔らけー。プニプニしててかわいいな」


天災「……おい、節操なし。何をしている?」


重護「ハッ!? しまった! 手が勝手に!」


最近、欲望が暴走しつつある。これはいかん。そろそろ自重しないと七々々ちゃんに制裁さ

れる。


天災「何か言うことは?」


重護「つい衝動的にやってしまった。反省はしている。後悔はしていない」


天災「重護よ、節度をもて」


重護「はい、すいません」


ジト目で諭される。


どう考えても俺が悪い。反省はしよう。


天災「もう言う気も失せた。さっさと戻るぞ」


重護「あい」


その後、真面目に、それはもう真面目に授業を受け、HRで担任のクソ有り難い言葉を聞き流し、委員長である夢路さんの天使が如く甘美な声の号令を拝聴し、放課後が訪れる。


重護「ふぃ~。やっと終わったか~」


伸びをし、だらけていると夢路さんが声を掛けてくれた。


夢路「あの、八真くん。ちょっといいですか?」


重護「はい! 何でしょう、夢路さん!」


自分が持てる最高のスマイルで対応する。

お隣から「キモいな」「キモいよね」と聞こえるが気にしない。


夢路「唐突なのですが、今日の放課後空いていますか?」


重護「えっと、今日ですか……。非常に申し訳ないんですけど、この後は予定がありまして……」


夢路「そうですか……」


うっ、夢路さんめっちゃ落ち込んでる。何この罪悪感! 助けて名探偵!


隣の天災に縋ってみると、冷めた目で「さっさと追い払え」と多分、なんとなくそんな風に語っていると思う。


重護「本当にごめんなさい」


夢路「いえいえ! 八真君も予定があると思いますし、気にしないでください!」


ええ子やぁ。どこぞのお隣さんも見習ってほしい。


夢路「では、八真くん。また明日学校で」


重護「はい! また明日!」


もちろん、爽やかスマイルを忘れない。


ダルク「キモい重護くんはほっといて。天災、ボクはこの後スイナさんの所に行くから帰るの少し遅くなるね?」


天災「異常性癖者のキモい重護はおいといて。些かスイナと一緒なのが不安だが……まぁ、了解した。私も用事があるので少し遅くなる」


重護「その会話に俺を詰る必要なくね?」


最近ダルクが手厳しいよー。


ちょっと前まで、手料理作った際に不安そうな顔で「美味しい?」と聞いてきたり、美味しいって誉めたら「良かったぁ」って心底嬉しそうに笑ってたんだぜ?


まったく、女(男の娘だけど)の心変わりは恐ろしいのぉ~!


ダルク「じゃあ、天災に重護くん。また後で」


重護「おう、また後でなー」


天災「さて、邪魔者が消えたところで私たちも行くか」


重護「邪魔者扱いは流石にかわいそうだろ」


天災「何にしてもさっさと行くぞ」


重護「へいへい」






校門を抜け、目的地である喫茶店へ歩いている途中、ふとあることを思い、隣に並ぶ天災に顔を向ける。


天災「ん? どうした、重護? 私の顔に何かついているのか?」


重護「いや、ふとな、定位置と言わんばかりにいつも隣に天災がいるよなーと思って。なんて言うか、それがもう当たり前のような」


そんなことを言うと天災は目をパチクリさせていた。


天災「ふむ、たしかに意識してみればそうだな。気付けば重護が隣にいるのが日常になりつつある」


重護「俺、あんな家だからかこう誰かが隣にいるなんて、少し前までは考えられなかったなー」


天災「本土で仲の良い友達はいなかったのか?」


重護「人のラブレターを回し読みして、晒して、寄ってたかってボロクソ言ってくる奴らは友達なんかじゃありません」


天災「ラブレター? まぁ、何があったかはどうでも良いが、信頼できる人間はいなかったのだな」


重護「……それは!」


俺が必死に誤魔化そうとすると、立ち止まり、それを遮るように真摯な眼差しでこちらを見抜き、言葉を紡ぐ。


天災「いや、この言い方は正しくないな。重護、貴様は心の底から誰かを信用することができないから、そばに誰かがいるのが嫌だったのではないか?」


重護「……」


どうして、お前は俺の隠し続けている想いを、そうも簡単に見抜けるんだ。


天災「人を好きになれとは言わん。貴様が育った過程で今の人間嫌いな重護が生まれたのだろう。別に私は重護のことは嫌いではない。むしろ、言わずとも実に私好みの悪事をやってくれるから好感を抱いている。だが、七々々殿やこの島で関わった人たちぐらいは少しでも良いから信用したらどうだ? 私も信用できないか?」


お前の言葉はほんと俺の心を抉るね。


重護「お前は平然と俺を自分の引き立て役にしようとするから信用なんかできねぇよ」


天災「むっ」


お前に説教されるとムカつくんだよ。でもさ、


重護「でも、心の底からではないけど……信頼はしてるよ。多分、誰よりも」


そうやって言ってくれるのはお前以外、誰もいなかったよ。だから……ありがとよ、好敵手。


天災「そ、そうか。信頼してくれてるのか……えへへ」


照れてる天災の頭に手を置き、撫でながら考える。


重護「(そばにいるコイツは俺にとって何だろう。まだわかんねぇけど、その内わかりそうな気がする)」


そう遠くない未来に答えは見つかる。そんな予感がする。


天災「……重護、そろそろ手を退かせ」


重護「あぁ、悪い」


天災「まったく、優しい手つきで撫でるから……ちょっと、その、気持ちいいではないか」


最後まで聞き取れなかったけど、何だか天災の顔つきがみるみるうちに変わった。


重護「ん? どした? なんか難しい顔してるけど?」


天災「別に何でもない!」


重護「おい、どうしたんだよ? 急に怒ったりして?」


天災「別に怒ってなどいない!」


プイッとそっぽ向き、不機嫌? な天災は歩みを速め、重護をおいて先に行ってしまう。


重護「? わけわかんねぇ。おーい、ちょっと待てよ!」


複雑な乙女心ってやつ? よくわかんねーけど、とにかく追い掛ける。


その後、小言をグチグチ言われながらいつぞやぶりの喫茶店に到着する。あぁ、トラウマががが……。


ウェイトレス「いらっしゃいませ。只今テーブル席が満席でして、申し訳ございませんがカウンター席でも宜しいでしょうか?」


重護「別にカウンター席でも大丈夫よな?」


天災「特に問題ない」


重護「じゃあ、カウンター席二人お願いします」


ウェイトレス「畏まりました。では、ご案内致します」


ウェイトレスさん(巨乳だった)に案内され、席に着く。


ウェイトレス「こちらがメニューでございます。ご注文がお決まりになりましたら、お近くのウェイトレスか真正面にいるマスターに声をお掛けください」ペコッ


重護「はーい」


お辞儀した時にこうおっぱいが揺れる感じ、ものすごく良いよね。


しかし、ブラしてても結構揺れるんだな……。少しだけ大人の階段を昇った気がする。


天災「……おい、変態」


重護「誰が変態だ」


天災「まったく、胸ばっかり見よって……そんなに大きいのが良いのか貴様は」


恐らく無意識なのだろうが、不機嫌そうな顔で両手を胸にあててムニムニしている姿は何とも微笑ましい。


重護「いいですかぁ、天災ちゃん? 世の中には需要と供給があるのでーす。だかr」


天災「御託を並べるな。その話、帰ってから七々々殿と一緒に詳しく聞こうか」


重護「」


天災「何か言うことは?」


重護「えっと、ごめんなさい。調子乗りました」


天災「わかれば良い。さて、注文を決めるとするか」


もっと罵倒してくるかと思ったけど、すぐさまメニューを見開いて、何を頼もうか思案している。


重護「(そんなに目をキラキラさして……やっぱり天災も年頃の女の子なんだな)」


本人に言ったら絶対に怒るので、心の中で留めておく。


重護「ケーキ以外にもパフェがあったんだな。で、天災は何にするんだ?」


天災「うーむ、モンブランにするかザッハトルテにするか悩ましい」


重護「ザッハトルテ?」


天災「オーストリアの代表的なチョコレートケーキだ」


重護「へぇー。ん? そのザッハトルテとか言うの、期間限定で抹茶風味のもあるみたいだぞ」


メニューには書いていなかったが、少し離れた壁に『期間限定 抹茶風味のザッハトルテ』と書かれた貼り紙を見つけ、天災に伝える。


天災「ふむ、抹茶味か。悩ましいな」


重護「何ならその三つ頼む? 半分こずつするなり、食べきれないなら俺が食べるし」


天災「いや、ザッハトルテを二つは少しくどい。すまないが、モンブランと抹茶風味のザッハトルテを頼んでも良いか?」


重護「はいよ。飲み物は何にする?」


天災「紅茶にする」


重護「了解」


天災「重護は何にするのだ?」


重護「ん? 俺はこの炭火焙煎コーヒーとか言うのにしようかな」


天災「ケーキは頼まないのか?」


重護「んー、やめとく」


食べたいけど、金銭的に厳しいしなー。


喫茶店って結構高いのは知ってたけど、七重島の場合、本土よりも物価が高いから尚更高い。


ケーキセットである程度安くなるけど、それでも予算ギリギリ。また今度機会があれば、その時にでも食べよう。


天災「そうか、すまない」


重護「気にすんなって。それはそうと、そういうところはほんと素直だな、お前」


天災「やはり、誰かに何かしてもらうのは気を使うからな」


重護「ダルクにはよくパシらしてるじゃん」


天災「アレは私の付き人だからだ。感謝はしているが、気を使うような事とはまた別だ」


重護「さいですか。なら、注文するな」


すいませーん、と近くの巨乳ウェイトレスさんに注文し、ものが来るまで待つ。


天災「ところで、重護よ。聞きたいことがある」


重護「ん? 何?」


ものが来るまでの間、天災が少し真面目な顔で質問してきた。


天災「重護を見ているといつも思うのだが、貴様は七々々殿には頭が上がらないように感じる。何か理由があるのか?」


重護「理由? んー、理由ねぇ……」


うーん、理由か。たしかに七々々ちゃんに対して何度も制裁されているから肉体的逆らえなくなりつつあるけど……天災の聞きたいことはこれじゃないと思うしなー。


天災「七々々殿のことが好きなのか?」


重護「……へっ?」


天災らしからぬ質問に少し戸惑う。


天災「先に言っておくが、likeじゃなくてloveの方だ。異性として、恋愛感情として好きなのか?」


重護「急にどうしたんだよ?」


天災「質問を質問で返すな。まぁ、重護が私の質問に不審を感じているのは理解している。以前にも言ったが、重護は七々々殿を基準に行動している。だが、その理由がわからない」


重護「わからない?」


天災「だって、そうだろう。端から見れば、そこまで七々々殿の為に動いているのか不思議に思うぞ」


不思議か……。他人から見れば、俺はそんなに七々々ちゃんの為に行動してるように見えるのか。


たしかに俺は七々々ちゃんの犯人を見つける為に七々々コレクションを探している。


天災「そうやって人の為に何かするのは自分にとってメリットがなければしない。特に狡賢い重護はそういった損得勘定は上手だと私は踏んでいる」


損得勘定か。天災の言う通り、俺はどうすれば自分にとって都合の良い展開になるかを考え、実行することを自覚している。


七々々ちゃんの為に行動して、自分に何のメリットがあるか……楽しいから? ただ、あの時約束したからそれを破りたくないだけ? 


重護「……わかんねぇ。ただ今が楽しいから、それで充実しているからとしか言えない」


天災「ふむ、どうやら自覚できていなかったか」


重護「好きか嫌いかと聞かれたら七々々ちゃんの為に動いているんだから、多分好きなんだと思う。ただ、恋愛感情や異性としてとかは今のところないな。憧れや尊敬みたいなものは思ってるけど」


天災「なるほど」


重護「それを聞いて、お前は何がしたいんだよ?」


天災「特に何も。ただ、重護の気持ちを知りたかっただけだ」


重護「俺の気持ち?」


天災「そう。重護の思考は悪事や間抜けなことはすぐに読めるのだが、七々々殿のことになるとまったく読めない。今の話でわかったが、七々々殿の為に動くことはごく当たり前の日常として過ごしているからだろう。つまり、無意識に近い状態だから読めないのだ」


重護「……色々気になることあるけど、一番に思考が読めるとか、お前本物のエスパーじゃねーの?」


天災のように頭のキレが半端ない奴ってもしかしたら全員こんな感じにぶっ飛んでるの? 


天災「こればっかりは私にもわからんが、何故か重護の考えは読める。恐らく、重護も思索する時のパターンというか、考え方がきっと似ているのだろう」


その発想はなかったな。そう考えれるのはすごいと思う。


重護「考え方が似てるってのは少しわかるかも。天災みたいにしょっちゅうではないけど、天災ならこう考えて行動してくるなってのは時々わかるし」


天災「だからだろうな。重護と何かを駆け引きするのはとても楽しい」


重護「基本的に俺が負けるんだけどな」


天災の楽しそうな笑顔を見ていると自分の頬も緩む。


天災「名探偵である正義の味方が何処ぞの悪の盗賊にそうそう負けては話にならん」


重護「さいですか。なら、もう少ししたら開催される“ゲーム”では完膚無きまでに叩きのめしてやるよ」


天災「よくぞ言った、好敵手よ。貴様の全力、この私に見せてみろ」


重護「……名探偵って正義の味方ポジションだよな?」


天災「何を当たり前のことを言う?」


重護「何でお前はこうも悪役ポジションのセリフをポンポン吐くかなぁ」


天災「正義は決して負けない!」


重護「うん、頑張って軌道修正するのはやめようね」


天災「ぐぬぬ」


重護「ふっ、勝った」


アホなことで天災を負かしていると注文したものが運ばれてきた。


ウェイトレス「お待たせ致しました。またご用があれば、お申し付け下さい」


またしてもたわわなおっぱいを揺らし、ウェイトレスは去っていく。

うん、ハラショー。


重護「最近コーヒー飲む機会多かったけど、段々コーヒー好きになってきたかも」


天災「ミルクと砂糖入れながら言われても説得力ないぞ」


重護「それは仕方ない。だって、ブラックはまだ美味しいと思えねーもん」


呆れ顔で見てくるが、そんなの気にせずカフェオレとなったコーヒーをスプーンでグルグルとかき混ぜる。


……最初からカフェオレ頼めば良かったな。


天災「勝手な憶測で特に根拠はないのだが、将来的に重護はコーヒーを好き好んで飲みそうな気がする」


重護「えらく唐突だな」


天災「コーヒー飲んでる姿が似合いそうだと、ただなんとなく思っただけだ。気にするな」


重護「えっ、それって将来的に渋くてダンディーなカッチョイイ大人になってるってこと? おいおい、そんな誉めるなよ」


ちょっと天災ちゃん、そんなこと言われたらお兄さん照れちゃう☆


天災「さて、どちらから食べるか悩ましいな」


重護「天災ちゃん、無視はやめよう……地味に傷つくから」


ガン無視、(・A・)イクナイ


天災「時々思うのだが、わかってて何故やるのだ? わからないほどの馬鹿なのか?」


重護「ぐぅ正論」


天災「もしかして構ってほしいのか?」


ちょっと、ドキッとした。

だって、なんだかカップルみたいな会話みたいだなと不覚にも思ってしまったから。


重護「何でそうなるんだよ……ただの冗談だっつーの」


顔を見られたくないので、コーヒー飲んで顔を隠す。


重護「それで、いつまで悩んでるんだよ?」


天災「そうは言うが、どちらも味の濃いケーキだから悩んでしまう」


二つとも濃い味だから次食べるケーキが前のケーキの味を引きずって本来の味を楽しめない。どっちから食べた方が本来の味を楽しめるのだろうかと悩んでいるのだろう。


重護「別に先にどちらか食べて、紅茶飲んで、ちょっと時間置いてから食べれば良いじゃん」


天災「……なるほど、そうすれば良かったか」


重護「頭の回転は異常なまでに早いのにこういったことは抜けてるよな」


天災「う、うるさいな」


恥ずかしかったのかプイッとそっぽ向き、フォークで一口サイズに切った抹茶風味のザッハトルテを口に放り込む。


天災「! 美味しい……。重護も食べてみろ」


食べた瞬間、目を輝かせて、もう一度フォークで一口サイズに切り、刺して俺に差し出してくる。

反対の手は丁寧にケーキのカスが俺の服に落ちないように添えてある。


これって世間で俗に言う、“あーん”ってやつではないだろうか?


天災「ん? どうした重護。食べないのか?」


不思議そうな顔で見てるけど、多分自分の行動に気付いてないんだろうなー。


重護「あ、いや、食べる食べる」


天災が気付いてフォークを下げられるとケーキが食べれなくなるので、気付いていないフリをして“あーん”を受け入れる。


決して、(見た目は)かわいい女の子から“あーん”してもらうという滅多にないチャンスを逃したくなかったからではないですよ? ほんとだよ?


重護「抹茶のほのかな苦みとチョコレートの甘みが見事にマッチしてて美味しいなこれ!」


天災が興奮する気持ちがわかるほど、このケーキは美味しかった。


期間内に次来ることがあれば、是非ともこれを頼もう。


天災「そうだろうそうだ……あ……」


笑顔で頷いて、次の一口をフォークに刺した瞬間、天災の動きがピタリと止まる。


重護「天災? どうした急に固まって?」


天災「……これを食べたら、その……か、か、か、間接キ、き、き……///」


重護「天災、みなまで言うな」


見る見る内に顔を真っ赤にした天災が何を言おうとしたかを察し(ほとんど言ってるけど)、台詞を遮る。


この後の対応は男として試される場面だ。


さて、どうしよう?

① モンブランに付いてきたフォークと交換したら解決と提案する

② 羞恥心に打ち勝ち、あーんをやり返し、天災の反応を楽しむ

③ へたれ根性丸出しでマスターかウェイトレスに助けてもらう


おいおいおい、③は男が廃るってもんですぜ、旦那。しかも何言って助けてもらうんだよ? あ、マスターと目があった。えっ、なんでしたり顔でニヤリとしてるの? 何その意味深な顔? 


①はどうだろう。つまらん、実につまらない。男もヘッタクレもない。


なら答えは一つ。けど、今死ぬほど恥ずかしいと思ってるのにそんなことできるのか? いや、できる! 女の子からあーんをしてもらって大人へと成長した今ならきっと!


重護「……ほらっ、手が震えて落としそうだから食べさせてやるよっ」


やっべ、超恥ずかしー! 声も変に上擦っちゃったし!


とりあえず、誤魔化すように天災からプルプル震えてる手からフォークを取り上げ、天災に向かってあーんをする。


天災「あっ……ぅん」


えっ!? なんでちょっと嬉しそうに照れた顔で食べてるのっ!?


てっきり、恥ずかしがって『そんなことできるかぁ!?』と、怒鳴ってなんだかんだでいつもの空気に戻ると思ったのに!


あ、今思い出した……。天災って実は少女チックな、ロマンチックな所あるから……そういうことなのか?


天災「……重護」


重護「なっ、何かな!?」


天災「さっきよりも甘くておいしくなった。ありがとう」ニコッ


重護「っ……!?」


はにかんだその笑顔は今まで見た笑顔の中で一番綺麗で可愛く、そして心を揺さぶった。


今日、天災の誘いに乗って、喫茶店に来て良かったと心の底から思った。そう、この時は。


その後は何とか平静を保ちつつ、遺跡の話やら、ダルクのからかった時の話など、他愛のない話をした。


重護「もうこんな時間か。そろそろ帰るか」


天災「もう18時か。早いものだ」


入店してから二時間近く時間が経ってたことに少し驚く。


天災「重護といると楽しいからついつい時間を忘れてしまう」


重護「俺もだよ。まぁ、楽しい以外にも大変なことはあるけどな」


ここでドキッってすると思った? 残念! この程度ではもう驚かないんだよ。ふっふっふ、人は成長するものなのだよ、ワトソン君。


まぁ、驚きはしないけど、嬉しいから素直に喜ぶ。しかし、女の子にそんなこと言われても軽口叩けるくらいにはほんとに成長したんだなー俺って。


天災「むっ、大変とはなんだ、大変とは」


重護「遺跡で危険なことしたり、突発的に訳の分からないことしてんじゃん」


天災「遺跡のは迷惑掛けることもあるからすまないと思うが、突発的に訳の分からないこととは聞き捨てならない。私は私の考えた末、行動してるのだ」


重護「天災の考えて行動してることが周りに伝わらなければ意味ねーよ」


天災「むぅ、何故分からないのだ?」


重護「説明下手すぎるのと、お前にできることは周りにもできると考えているからじゃね?」


天災「まったく、難しいな」


重護「……これからも付き合いは長くなると思うし、なるべくお前が何を考えてるか頑張って理解できるように努めるよ」


天災「そうやってまた頭をナデナデしおって……私は気難しい子供か」


重護「……」


天災「おい」


重護「ソンナコトナイデスヨ?」


天災「何故片言なのだ?」


重護「まぁ、良いじゃん。それよりもそろそろ帰ろうぜ」


天災「はぐらかす気満々だな。まぁ、良い。今日は楽しかったからな」


マスターにご馳走さまと告げ、ウェイトレスさんに会計をしてもらう。


ウェイトレス「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」


重護「じゃあ、行くか」


天災「そうだな」


出入り口のドアを開けようとすると入り口側からドアが開かれる。


女性「おや? これは失れ……」


出入り口のドアは木製で小窓が付いているが、日暮れの関係で外からは俺たちが見えなかったのだろう。


店に入ってきた黒のパンツスーツを着た女性はすぐに俺たちに謝ろうとしたが、何故か天災を見て固まる。


男性「どうしたんだい霧夜? ん? あれ?」


すぐ後ろにこれまたスーツ姿の若い兄ちゃんが女性に声を掛けるが、若い兄ちゃんも天災を見て少し驚いている。


天災「……悠也」


この時はまだ、もう少し早く帰るべきだったと、その程度にしか思っていなかった。


悠也「こんな所で会うなんて奇遇だね。しかもあの子以外の子と一緒だなんて」


悠也と呼ばれた若い兄ちゃんは天災に微笑みかけ、そして俺を値踏みするような目つきでしげしげと見てくる。


天災「重護よ、すまないが、少し外で待っててくれないか?」


それに気付き、露骨に嫌そうな顔をした天災は悠也さん? を無視し、俺に席を外してくれと頼んでくる。


先に帰ってろと言わなかったのは顔を見てわかった。


一人になりたくないという感情が滲み出たような不安そうな顔だったから。


重護「はいよ。先に帰らず外で待ってるよ。だから安心しろ」


だから出来るだけ、気にしてないように、気軽に答えてやる。


寂しそうな笑顔なんかにはさせねーよ。


天災「すまない」


重護「気にすんな」


悠也と霧夜と呼ばれた男女に会釈をしてから外に出る。


天災「悠也、初対面の人間にあんな目で見るのはやめろ」


悠也「そんなつもりはなかったんだけど、職業病かな?」


少しは悪怯えたらどうなのだ、まったく……。


霧夜「それは少しばかり苦しいと思いますよ。ひとまず、席に座りましょう。店の方がコチラを気にしてますので」


テーブル席に案内され、席に着くと悠也が興味津々で尋ねてくる。


悠也「それで彼は一体誰かな?」


天災「私のクラスメイトだ」


悠也「クラスメイト? あの子以外に仲の良い友達がいたんだ」


天災「失礼な」


悠也「でも事実だろ?」


天災「ふんっ」


まったく、デリカシーのない義兄だ。そんなのだから霧夜殿の好意に気付かないのだ。


まぁ、私は霧夜殿に嫌われているし、私も嫌いだから応援してやろうとは微塵も思わん。


悠也「それで、どういった関係なんだい?」


霧夜「随分と食いつきますね」


悠也「だって、とても気難しい天災に仲の良い子がいるんだよ? しかも男の子! ちょっと目つきが悪くて強面だったけど」


天災「おい」


霧夜「ゆ、悠也さん、落ち着いてください。たしかにちょっとヤンキーみたいでしたけど」


悠也「あ、霧夜もそう思った? 結構やんちゃなこともしてるのかな?」


天災「やめろ」


悠也「……天災?」


鬱陶しそうな顔をしていた天災がまるで静かな怒りを秘めているような無表情に変化して、二人は驚く。


天災「何も知らないのに、重護の悪口を言うのはやめろ。次に私の好敵手を貶したらたとえ二人でも許さないぞ」


二人『……好敵手?』


天災にとって仲の良い友達が、その友達のことをろくに知らない人に馬鹿にしてたら、さぞ不愉快なことだろう。


酷いことしたと謝罪しようとしたが、おかしなフレーズに謝罪よりも疑問が打ち勝った。


天災「そうだ。重護は名探偵としての好敵手だ。それ以上でもそれ以下でもない」


悠也「……えーと、天災? 名探偵の好敵手ってことは彼、悪いことしてるの?」


相変わらず、変わったことを言うかわいい義妹に困惑させられる。


天災「私好みの実に下種であくどいことをしてくれるぞ」


いやらしい笑みでそんなこと言われてもなぁ……。


悠也「それは犯罪的な? 犯罪なら立場的に捕まえなきゃいけないんだけど」


天災「バレなきゃ犯罪ではない」


霧夜「ちょっと」


流石に真面目な霧夜には聞き流させないとわかっていたのかすぐに天災は言葉を紡ぐ。


天災「冗談だ。別段、重護は犯罪になるようなことはしていない」


ユーグトスの隻眼については無論言わない。


霧夜「なら良いのですが……」


天災「これ以上待たせるのは悪い。そろそろお暇するぞ」

 

重護についてこれ以上余計な詮索されるのは迷惑が掛かる。


当たり障りなく答えて強引に終わらせるのが得策だ。


悠也「あぁ、待って待って! これだけは聞かせて!」


天災「何だ?」


悠也「さっきの子は天災のコレなの?」


そう言って悠也は親指を立てる。それを意味するのは


天災「だ、誰が彼氏か!? 重護とは断じてそのような関係ではない!!」


悠也「本当かいっ!?」


天災「当然だ! 私と重護は清く正しく健全な正義と悪の関係だ!」


霧夜「(テンパって訳のわからないことを仰ってますね)」


悠也「いやー、良かった良かった。かわいい天災が見ず知らずの男に取られちゃったかと思ったよ」


天災「かわいい言うな! では、もう行くからな!」


悠也「あぁ、もう一つだけ!」


天災「まだあるのか! さっさとしろ!」


悠也「天災、キミも僕も一鶴さんの家族だ。自分の進むべき道を間違えてはいけない。この意味がわかるね?」


興奮して身体が火照っていたが、その言葉を聞き、まるで冷水を浴びせられたように体温が一気に冷める。


天災「……わかっている。私は有能だ。間違えるはずがない」


悠也「なら安心だ。でも有能な人間も時には迷うことがある。いや、惑わされると言うべきかな。何せ人間だからね」


天災「ふんっ」


ご高説など無視し、さっさと店から出る。


悠也「あらら、行っちゃった」


霧夜「人が悪いですよ悠也さん」


邪m……天災がいなくなり、やっと二人だけのプライベートに霧夜は気が緩む。


悠也「だって、あの他人に無関心な天災があそこまで感情を動かしてるんだよ? 気にならずにはいられないよ」


霧夜「たしかに悠也さんやダルクくん以外に親しそうにしているのは珍しいですね」


茶目っ気のある表情で悔しそうに喋る悠也さんはちょっとかわいい。


あの子の話題ってのが気に入らないが。


悠也「しかし、重護くんか」


霧夜「どうかしましたか?」


茶目っ気のある表情から一変して真顔になる。


流石にこの変化に戸惑いを隠せない。


悠也「いや、なに、ちょっと注意しとこうかと思って」


霧夜「犯罪の件ですか?」


悠也「いいや、彼が惑わす者かどうか見極める必要がある」


酷く冷たい笑みを浮かべる悠也に少しだけ、恐怖を感じざるを得なかった。






喫茶店からの帰り道、いつもは隣を歩く天災なのに、喫茶店を出てからは少し後ろを俯きながら歩いている。


天災「……何も」


重護「ん?」


天災「いや、何でもない……」


重護「俺はお前が話したくないなら何も聞かねーよ。愚痴があるなら聞いてやる」


本当はめっちゃ聞きたい。特に人を値踏みしてきた男について。


天災「重護のくせに気が回るとはな」


重護「うるせーよ」


珍しくしおらしいから気を使ったのにそれでも天災はふてぶてしい。


天災「……重護、少し寄り道しないか?」


・寄り道する(天災ルート) ←✓


・寄り道せず自宅で話そう(原作へ)


重護「家の近くだし、あの公園で良いか?」


天災「あぁ、七夕祭りでの悪事を持ちかけてきた場所か。そこで良い」


七々々ちゃんの誕生日(七夕)にサプライズしようぜ、と天災に相談したあの公園へ向かう。


重護「あ、ちょっとコンビニ行きたいから悪いけど、先に行っててくれ」


天災「そのくらいついて行くぞ?」


重護「道反対だし、遠いから良いよ。俺だけなら走ってすぐだし」


天災「わかった」


天災に先に行かせ、コンビニまでダッシュ。


そして、あるものを買って再びダッシュ。


重護「お待たせ」


天災「早かったな」


重護「走ったからな。ほい、やるよ」


ベンチに座っていた天災に買ってきたコーヒー牛乳を渡す。


天災「今日の重護は……優しいな」 


ちゅるちゅるとコーヒー牛乳を飲みながら、天災は呟く。


重護「そんな顔されたら流石に心配するわ」 


天災「私は今、どんな顔をしているのだ?」


重護「悩み疲れたような、何かに戸惑っているような、そんな顔」


天災「そうか、強ち間違いではないかもな」


そう言う顔も疲れた笑みを浮かべている。


天災「なぁ、重護。家族って何だろうな」


重護「家族? それはもちろん、直接的な意味ではなくて?」 


天災「そうだ」 


家族、家族? 家族ねぇ……俺の家は結構ぶっ飛んでるからなぁ。


重護「あったかいもの、安らぐもの、気の許せる人達とかかもな、多分。他にもあるかも知れないけど……言われると難しいな」


天災「重護はそう感じているのか?」


重護「俺は……」


俺は家族に何を思っているんだろう。


重護「……悪い、わからん」


天災「なんだその答えは」


呆れたように、しかしほっとしたような笑みに戸惑う。


重護「おい、どうしたんだよ? 全然らしくないぞ」


天災「私も感傷に浸りたい時があるのだ」


そう言って、ベンチの上にも関わらず三角座りをし、顔を膝へ埋めてしまった。


重護「さいですか。それで急に家族の話になったんだ?」


天災「私は家族というものがよくわからん」


天災は埋めていた顔を上げ、空に目をやりながらポツリと呟いた。


重護「? 天災にも家族はいるだろ?」


天災「本当の意味での家族と呼べるかはわからん」


重護「どういう意味?」


天災「そのままの意味だ」


相変わらず端的すぎてよくわからん。


本当の意味での家族ってことは自分を産んだ母親と父親、それと兄弟を指しているのか?


本当の意味ではわからないってことは天災の家族は本当の家族じゃないってことか?


本当の家族じゃないなら天災の言う家族は誰だ?


重護「すまん、もっとわかりやすく言ってくれ」


天災「珍しく察しが悪いな。いや、私に言わせたいのか」


薄々気付いているけど、合ってたとしても間違えたとしても気まずさは増す。


重護「……本当に、そうなのか?」


天災「あぁ、私は養子だ。実の両親の顔も兄弟がいるのかすら知らない」


ただ、無表情だった。感情を一切感じない顔で、言葉だった。


重護「……」


天災「さっき会った男は義理の兄だ。もっとも、私の家族は誰一人血の繋がりがないがな。いや、もしかしたら親族関係で繋がりはあるかも知れないが……そんなことはどうでも良いか」


無表情から感情は戻ってきたが、それは乾いた笑みでしかなかった。


重護「お前は、どう思ってるんだ?」


天災「彼は私よりもずっと有能だ。尊敬している。悠也のことはまぁ、一応兄としては認めている」


重護「違う」


違う、そうじゃない。俺が聞きたいのは……!


天災「わかっている。ただ、重護の言葉を借りて言うなら、あたたかさも安らぎも感じたことはない。私達は取引で家族の繋がりを保っている」


重護「取引?」


天災「そうだ。それが家族として取り決めたルールだ」


重護「……」


天災、人のこと言えた境遇じゃないけど、きっと世間一般の家族ってのはルールで縛られるものでないと思う。


家族ってのは、そういったことなしに共にいれるから家族なんだと思う。


重護「寂しかったのか?」


天災「学ばなければいけないものが多すぎて、寂しいと感じる暇がなかった」


重護「寂しいから家族について聞いたんじゃねぇの?」


天災「ダルクと出会ってから、誰か行動するようになってから……そう感じることがある」


重護「なるほどな……」


それしか言えなかった。ただ、それだけしか。


天災「……」


重護「……」


何を言えば良いのか、何を言って良いのかわからず、沈黙が流れる。


天災「意外と本当なんだな」


重護「? 何が?」


先に天災が沈黙を破り、ポツリと呟いた。


天災「誰かに愚痴ではないが、思っていたことを吐露すると存外、気が晴れるものだ」


少し晴れた笑みに安堵する。


……あれ? 俺は何で今、安堵したんだ?


重護「俺で良かったらいつでも聞いてやるよ」


内心、動揺していることを努めて隠し、笑顔で応える。


天災「すまない」


重護「そこは感謝しとけ」


天災「そうか。なら、ありがとう」


最近、わかった。天災はきっと人の好意に馴れていない。無碍にしないよう努力するが、どうすれば良いか多分よくわかっていない。


重護「俺はいつでもお前の味方になってやるよ」


天災「重護が味方だと? 何を言う、好敵手。貴様は敵になってもらわなければ名探偵である私が活躍できないではないか」


重護「……コイツ」


励まそうとした俺がバカだった。


天災「まぁ、感謝はしてる。だが、重護よ」


重護「な、何だよ」


天災「そんなに優しくするな。重護は重護らしく、人を騙し、蔑み、貶め、狡猾で目つきの悪い極悪人ヅラでいてくれ」


こちらに目を合わせようとせず、肩に頭を預けてきた。


残念ながら角度的に顔は見えないが耳が真っ赤なので、どう思ってるかは察しがついた。


重護「はいはい」


頭を預けてきた側の腕を天災の肩に回し、すっぽりと天災が腕の中に収まる。


天災「変態め、○ね」


重護「抜かせ」


照れ隠しで罵声する天災を無視し、優しく頭を撫でてやる。


天災「……全く、この変態はすぐにナデナデばっかりする」


重護「嫌いじゃないだろ?」


天災「……ふんっ」


腕の中の天災が元気になるまで、頭を撫で続けた。






時は少し遡って、放課後。

天災と重護くんと別れたボク、星埜ダルクはスイナさんに会う為、《柊技術研究所》へ向かっていた。


研究所、もとい部室の前に着いたダルクはドアの横に設置されたインターフォンを鳴らす。


スイナ「待って、ました……! ダルク先輩!」


ダルク「わわっ……!」


鳴らすや否や、すぐさまスイナが飛び出し、ダルクの腕を掴み部屋へ引き込む。


ダルク「えっと、今日は部屋の整頓の手伝いをすれば良いんだよね?」


スイナ「はい、私、片付けがどうしても苦手、でして……その、ごめんなさい」


ダルク「ううん、全然大丈夫! ボクに任せて! こういったことは(天災で)馴れてるし、得意だから!」


スイナ「あの、ありがとう、ございます」


そう言って抱きついてくるスイナに少し困惑する。


いくら自分が女装しているからと言って、中身は男の子であるわけで、異性から抱きつかれるとドキドキする。


スイナ「ダルク先輩、あったかい、です」


ダルク「す、す、スイナさん! 早く部屋の片付けをしちゃいまちょ!」


噛んだ。噛んでしまった。


スイナ「ふふっ、ダルク先輩、かわいいです」スリスリ


抱きつかれる程度だったのに、今度はギュッと抱きしめられる形になり、どうして良いかわからなくなる。


スイナ「ダルク先輩、ドキドキしてるの、聞こえます」


ダルク「うっ……。スイナさん、そろそろ離れて……部屋の片付けしましょうよ」


スイナ「もうちょっと、このままが、いいです」


ダルク「うーん……」


スイナ「ダルク先輩は、いや、ですか?」


そんな不安そうな目で見られると何も言い返せないよ……。


ダルク「そ、そんなことないよ?」


スイナ「よかったぁ」ギュッ


ダルク「……(まぁ、いっか)」


スイナさんの破顔を見ていたら、素直な好意を向けられることは悪くないと感じてしまった。


一時の感情に身を任せていたら近い未来、必ず後悔すると知っているのに。


ダルク「じゃあ、パパッとやっちゃうね。動かしてほしくないものがあれば言ってね?」


スイナ「わかり、ました」


部屋の中は書類とロボットに使う機械やパーツが散乱していた。


ダルク「散らばってる書類はボクが見ても大丈夫?」


スイナ「大丈夫、です。ただ、ほとんど見てもわからないと、思い、ます」


実際に拾って読んでみてもさっぱりわからない。うん、ひとまず日付順に整理しておこう。


ダルク「奥の部屋は何があるの?」


スイナ「奥の部屋は、ロボット組み立てたり、大事なものを保管、してます」


ダルク「そっちの部屋は大丈夫?」


スイナ「あっちは綺麗に、して、ます」


ダルク「そっか。じゃあ、こっちの部屋だけだね」


天災の世話で身に付いた清掃スキルで、ものの30分足らずで粗方の片付けは終らせた。


ダルク「うん、こんなものかな。次は空拭きしちゃうね」


スイナ「水拭きじゃあ、ないんですか?」


ダルク「乾いた汚れは乾いたもので取り除く! みんな水拭きでやっちゃうこと多いけど、本当は良くないんだ。ハタキやホウキがあればもっと細かく掃除できたけど、今回は許してね」


スイナ「いえ、ここまでして、頂いて、文句なんて言えない、です」






皆様、お久しぶりです。

長期の海外出張からさっき帰ってきました。

いつの間にか評価やコメントも増えて、感謝の極みです。

相変わらず多忙で更新が不定期ですが、出来る限り一定のペースで更新したいと思います。


後書き

仕事の関係で月に一回ぐらいしか執筆できません。ですので、気長に、暖かい目でご拝読して頂けると有り難いです。
頑張って暇を作り、執筆しておりますので、その点を何卒ご了承ください。
コメント・評価・応援をしてくださった読者の皆様、誠にありがとうございます!


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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2014-08-11 23:18:14 ID: _lqLhB2z

続きお願いします!

2: SS好きの名無しさん 2015-01-08 01:29:13 ID: wp94WAj6

天災可愛い‼️

3: SS好きの名無しさん 2015-04-02 23:34:56 ID: H4csjRek

天災ぐうかわ

4: SS好きの名無しさん 2015-05-03 06:46:26 ID: UUzqZUsw

面白い!面白いお!

5: SS好きの名無しさん 2015-05-25 19:20:38 ID: NDsXNI8a

面白いです!仕事頑張ってくださいね!

6: SS好きの名無しさん 2015-12-05 20:28:15 ID: AVgvNq_n

てんさいきゃわわ!

7: SS好きの名無しさん 2016-04-19 21:19:52 ID: 1_QjzmPO

天災が原作とまた違った可愛さがあって最高です!

8: SS好きの名無しさん 2016-05-03 22:06:55 ID: 9T88l-Yg

これは良作だわ
続編期待


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