【艦これ】清涼水と月 第1話~探し物は何ですか~
提督が初夏の浜辺で休憩していると、ふと目の前にきれいな青空が広がっていた。
それを見ながら思いにふけっていると、一人の艦娘が声を掛けてくるのであった。
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子曰く、吾れ十有五にして学に志ざす。
かつて、儒家の始祖と呼ばれる孔子が自身の著書『論語』にて述べた言葉だ。
かく言う私も、この言葉に影響されたかどうか知らないが、十五で憧れである海軍を目標に勉強するようになった。
その後は、故郷の山を離れ、海軍学校の門を叩くことになった。それから、時を重ね、今に至る。
門を叩いた日も、今日のように澄み切った青空だったのを今も覚えている。普段、空なんて見ないのに、その日は今思い返すと、空と海をじっくりと長い時間見ていたような気がする。まるで空や海に憧れを抱く少年のように、曇りのない瞳で。
??「とてもいい天気ですね。まるで海と空の間に境界線がないように見えます」
提督「ああ、子供の時見た空を思い出すような曇り一つない景色だ。こんな景色を見てると自分はどうしてこんなにも穢れちまったんだろうと思えてくるよ」
??「うふふっ…提督、おじさんくさいですよ」
提督「元々、俺はこんなもんだよ」
空を見上げながら、飛んできた声に向かって返答する。この涼しく健気な声の主を俺は知っている。秘書官の涼月だ。
提督「この一週間、動いていた時計がまるで止まってしまった可能ような日々が続いているなあ。今の俺を連中は笑いものにしているのだろう」
涼月「提督…そう自分を卑下なさらず。いつか、きっと報われる日が来ると思いますよ。以前、私を救って下さったのは、提督ではないですか」
提督「そんなこともあったな。でも、あのときもうすこし冷静になって対処すれば、もっと被害も最小限で済んでいたかもしれないのに」
荒れ狂う波が船体を叩く轟音ですらかき消すかの如く、鳴り響く雷雨の日だったのを覚えている。いや、覚えているというよりはフラッシュバックに近く、忘れようにも忘れられない記憶になっている。メーデーと降り注ぐ雷が共鳴するように響き渡り、当時大慌てで事態の収拾にあたっていた。
提督「あのときは、怖い思いさせてしまったかもしれない。進水して間もないお前をあんな場所に連れてってしまって」
涼月「…心配しないでください。私は…涼月は艦娘です。危険は承知の上です」
海の方へ強く視線を向ける涼月。その目は、闘う人間の目をしていた。力強く、そして何かを守ろうとするやさしさを感じる。
提督「よし、鎮守府内の掃除でもするか」
涼月「鎮守府内の掃除なら、私たちがしておきましたよ。工廠は明石さん、調理室は間宮さんが担当するといっておりました」
提督「いつの間にかに…ずいぶんと秘書官としての姿が様になった。俺が不甲斐ないばかりに」
涼月「提督は不甲斐なくなんてありません。皆さん、提督を慕ってついて来たのですから」
涼月はやさしく笑みを浮かべる。
涼月「そろそろ、鎮守府に帰りませんか。これから日差しも強くなって参りますよ」
提督「ああ、そうしようか」
木陰でタンポポの根のように深く張り付いた重い腰を上げる。そのまま立ち上がろうとも考えたが、木陰に名残惜しさを感じたせいかどうも気が乗らない。
涼月「提督…私の手におつかまりください」
涼月は右手を差し出す。日焼けを気にしているのか彼女は白いロンググローブをしている。
手は小さく華奢だが、せっかくだしご好意に甘んじよう。
提督「ああ、すまない」
こちらも手を差し出す。涼月はそれに合わせて俺の手を引いた。
涼月「あっ!」
その発声とともに涼月は引いていた方とは逆方向に倒れる。
反射するようにこちらは倒れる涼月の方へ体を向ける。
提督「だ、大丈夫か。怪我はないか!」
涼月「…大丈夫です。転んだだけです」
一面を覆いつくすように涼月の姿が目の前に広がっている。まるで虫眼鏡や望遠鏡で眺めているかのように近づいて見え、汗や呼吸までばっちりと確認できる。
涼月「…」
彼女はぽかんとした表情を浮かべ、微動だにしない。
無の時間が数秒程。その間は波の音などが頭に入ることなく、まるで世界には元々音がなかったかのように錯覚する。
その後、彼女の表情は赤く染まり、そっぽを向く。
涼月「提督…お恥ずかしい姿をお見せしてしまいすいません」
提督「気にするな。誰も見て…」
不知火?「ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」
提督「紛らわしいことするな。普段のお前に戻れ」
自身の理解量をオーバーフローしてしまった涼月は、他人のものまねをしてあたかも自分がこの状況にいないようにしようと考えてしまったのだろう。
先程から、のどが潤いを求めている。緊張感のせいでのどが渇いたのだろう。
ポケットなどをあさってみるが、水筒はない。パトロール(散歩)に出かけた際、俺は水筒を忘れていた事に気づく。
そうなると、涼月がここまでついて来た理由もおそらく水筒を届けるためと想定できる。彼女の性格を考えると、無意味に海の方までついて来たとは考えづらい。
提督「涼月、水筒持ってきてくれたんだろう」
涼月「は…はい。ですが、先程転んだ拍子に無くしてしまいました。弁解のしようがございません。この涼月に罰をお与えください」
彼女は表情を曇らせ俯いている。過去に厳しく躾けられた経験があるようだ。
慰めるため俺は、彼女の頭に手を優しく乗せる。
提督「元はと言えば、原因は俺にあるわけだから謝る必要なんて全くないんだ。お前みたいな優秀な秘書官がついてきてくれたってだけで嬉しいよ」
涼月「て、提督。そのような言葉、私には勿体ないです」
提督「先程、見失った水筒に関してなんだけど、どこかに落ちてたりしないか」
周囲を見渡すが、水筒らしき物体は見つからない。
提督「とりあえずお互い立とうか。いまの状態ではどうにも探しにくいし」
涼月「そ、そうですね」
立ち上がり、周囲を確認することにした。
提督「最後に水筒を入れていたところはどこ?」
涼月「スカートのポケットに入れておりました」
俺は涼月の発言に妄想してしまう。
スカートは、普段関わることのない男にとって、どのような構造になっているかとても気になるものだ。あのヒラヒラに一体何が隠されているのか、俺は知る由もない。
ポケットの構造を考えても、遠くに飛んで行ったとは考えづらく、足元からそう離れたところには落ちていないだろう。
提督「一応、確認しておくけど、今はポケットに入っていないんだよな」
涼月「はい、先程確認いたしましたが、ありませんでした」
現状を涼月に確認すると、足元からそう離れてはいないであろう距離を目線で確認する。
目線の先に映るものは、海から漂流したであろう海藻や貝殻で、水筒らしき形状のものは見当たらない。あろうことか、缶詰などのゴミらしきものも見当たらず、普段から人が来ないであろうことが見て取れる。
提督「ここまで何もないと、すぐ見つかりそうなものを。案外見つからないものだな」
水筒を探しているうちに、数十分ほど時が流れていたようだ。
探している間に、強い日が差し込み。喉の渇きもより酷くなってくる。
提督「涼月。そっちは見つかったか」
涼月「こちらも見つかりません」
提督「そろそろ、切り上げないか。さっきよりも日差しも強いし、このまま探しても埒が明きそうにない」
涼月「私が蒔いた種です。提督だけが先に鎮守府へお戻りください」
久しぶりに彼女はこちらへ顔を向けたが、また地面の方へと戻ってしまう。
今日は特に用事を頼んでいるわけではないので、恐らくこのまま何もせず鎮守府に帰ってしまったら、彼女は必死に探し続けるであろう。
まだ夏も始まったばかりとは言え、昼間の暑さは体に堪える。もし、このまま彼女を放置してしまったら、艦娘とは言え熱中症になってしまう危険性がある。水筒一つでは釣り合うはずもないリスクだ。
提督「もう水筒は探さなくていい。別のを使えばいいわけだし、このまま帰ろうか」
涼月「了解しました。提督の大事な水筒を無くしてしまって申し訳ございません。どのような罰でも受け入れます」
提督「罰ねえ」
正直、悩ましいところだ。
この1週間で鎮守府の引っ越し作業など雑務が円滑に進められたのは、間違いなく涼月のおかげだ。その功績から、むしろ涼月には何かしら褒美を与えたい。
提督「罰として、今日は何か一つわがままを言っていい権利を与える」
涼月「そのようなことを…では、私がこの島に来てやりたかったことを叶えてください。鎮守府内にかぼちゃ畑を作ってもよろしいですか」
提督「それはもう与えている権利だから、ノーカウントだ」
涼月「妹をうちに連れてきてくれませんか」
提督「俺もノーカウントだ。すぐに用意はできない」
涼月「では、提督。今日は私に一日付き合ってくれませんか」
瞬時、俺の中では時間が止まったように静かになる。彼女の口からそんな言葉が発せられるとは思いもしなかった。
提督「俺でよければ、なんだって付き合う」
あまりの嬉しさについつい口走ってしまう。
このままでは、秘書官と提督という関係性は壊れてしまうかもしれない。
涼月「良かった。鎮守府のお祝いに出すパンプキンパイの試食を誰かにお願いしようと思ったのですが、何を出すかは内緒にしておこうと思っていたので、提督に試食して頂けるととてもありがたいです」
提督「おお、それはよかった」
期待していたのとは違った結果になってしまった。一方的に期待してしまったこっちが馬鹿みたいだ。
大空を飛ぶカモメは笑う。まるで俺を嘲笑うかのように。
提督「水筒のことは、もう気にすることはなくなったわけだし、そろそろ帰るか」
涼月「わかりました。鎮守府に帰ったら、待っていてください。この涼月、腕によりを掛けて提督においしいパンプキンパイをお出しいたします。今回は本部から取り寄せたものを使いますが、次回はここでとれたものを使います」
涼月は、いつもよりも力強く、自信に溢れた笑顔を見せる。期待して損したと考えたこともあったけど、彼女のこの笑顔が見られるのなら、これはこれでよかったのかもしれない。
今は、提督と秘書官の関係性でいるのも別にいいのかもしれない。
涼月「提督、そこは段差があるから気をつけてください」
提督「おっと、危ない」
砂浜から堤防へと延びる階段で転びそうになる。
ついつい、考えてしまった。
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台詞など一行空けて書いていくと見やすくなりますよ〜!
コメントありがとうございます!
今度から見やすいレイアウトにいたします。