非番の前夜は
某所に同じものがあります
木星帰りの男はただの変質者ですね
マクダニエルのネタは大好きです
某ガンダム兄弟のネタメインに都合よく改ざんしてます
ヘンエマとエマさんが居酒屋でただ飲んでるところとか楽しいですね妄想ですわ
ネオンが煌めく繁華街。多くの酔いどれたちが新たに酒場を求める頃合いだ。
「ヘンケン、ヘンケン……ヘンケン!!」
若い女性がおっさ…中年男性の眼を覚まそうと声を張り上げている。
居酒屋「グフ」そのカウンターで週末の深夜に見ることのできる光景である。
「もう、また寝てるわ」
呆れた顔でヘンケンと呼ばれる中年男性を見つめるのはエマ・シーン。機○戦士の世界では立派なハイミスに分類されるらしい。普段はハイスクールで教鞭をとっている。
一方、エマの横で眠る中年ことヘンケン・ベッケナーは街のストリートに店を構えるファーストフード店「マクダニエル」の店長だ。この道10年以上のキャリアを持っている。
さて、エマとヘンケンの関係を説明しておきたい。結論から言ってしまえばヘンケンからエマへ向けて熱い矢印が向けられている。
エマは彼女なりに受け止めているようだが、こうして居酒屋で飲む以上の関係ではないらしい……?
「ヘンケン、ねえ? 私そろそろ帰っちゃうわよ。ねえ?」
ため息混じりで眠る彼を揺さぶるエマ。いくら明日が非番といえども朝までというのは冗談がきつい。
「んっ……あ、ああ……すまない」
「もう、誘ったのそっちでしょう?しっかりしてちょうだい。疲れたなら家にまっすぐ帰りなさいよ」
「いや、その、今日はそのな、いつもの数倍大変だったんだ、すまない」
「いつもじゃない。もう!」
いつも忙しい。店長だから当然じゃないか、まあ確かにそうだろうけれど今日はいつもの数倍忙しかったのは嘘じゃない。
ヘンケン過労の始まりは、マクダニエルに来店するようになった妙な客のせいである。少なくとも2ヶ月前までは疲れで飲む気力が失せるなんてことはなかった。
マクダニエルは美人クルーのマウアー、NT能力で効率よく注文を受けるサラ、マウアーと息ピッタリで商品を調理するジェリド。
注文から商品受け渡しまで速い、店員も美人で接客も良し。素晴らしいじゃないか!さすが模範店舗になっただけの店である。が、しかし“木星帰りの男”によってその絶妙なバランスは崩れ去った。
最初はマウアーだった。最近来る客が何かとしつこいらしい、しかもバイト帰りを狙っては「トロッコに乗ったシロッコ!」だか意味不明な言葉を毎日のように言い寄ってくる。警察に一度は御用になったのだが気づけば豚箱から出ていきていて、マウアーのストーキングまがいの行為を働いているそうだ。
しかたないから本部と相談してマウアーには他店舗に移ってもらうことにした。
その後のマウアーはストーカーまがいの行為にはあっていないらしい。これには正直ホッとした。
ここでマウアーの空きを埋めようと新たにバイトを雇うことにした。カミーユ・ビダン、彼はエマの教え子でもあるハイスクールの生徒だ。
カミーユはマニュアルにある仕事を卒なくこなしてくれるからいい、マウアーの分はどうにか埋まったかのように見えた。
「ヘンケン店長、カミーユが入ったってのは本当ですか」
「ああ、そうだが? 来週には研修を終えてマウアーの空きを埋めてもらおうと思っている」
「辞めます」
「えっ?」
突然のジェリドの退職願これはどういうことだ…?
「ジェリドとカミーユを一緒にしないほうがいいわ。店内でMS戦をされたくなかったらね」
ジェリドの告白とエマの証言によって通常ではありえない速さでジェリドの退職願は受け入れられた。
なんでも、ジェリドとカミーユはハイスクール1年の時に何やら揉め事を起こしたとのこと。
詳しいことは『よくわかるグリプス戦役史-あの時の一言で-』を読んでいただきたい。
マウアーに続けてジェリドの2人分が空いてしまった。
この頃すでにヘンケンを初めとするマクダニエルクルーの過労は始まっていた。
さらに、マウアーを他店舗移動の原因を作ったあの男は新たなるターゲットを見つけていたのだ。
「パプテマス様、私も仕事中はさすがに困ります」
「サラ、君にしかできないことだ。さあ、トロッコにお乗り」
「だめだよ、サラそいつなんかいいからさ。ほら、ジム(チャリ)の後ろに乗って」
「カツ、仕事中って言っているでしょう」
ここ最近、マクダニエルの店内で繰り広げられる光景である。
NT能力を活かしてマクダニエルを盛り立てている店員のサラ・ザビアロフ。彼女はこうやって仕事中に二人の男から言い寄られていた。
どこかの宇宙だったら木星帰りの男に連れて行かれてしまうだろうが、流石のサラでもバイトという生きがいを見つけたため、迷惑なようだ。カツは相変わらずサラにアタックを繰り返している。
客といえども迷惑なものは迷惑だ。ヘンケンはこれを見つけては追い払うということの繰り返し。
ここから何が起こったか? 何とサラは日頃の疲れも相成りストレスで寝込んでしまったのだ。
店の要とも言えるサラのNT能力、それが使えないとなればマクダニエルの崩壊は更に足を早め、とうとうヘンケンは一日10時間以上勤務、週6連勤という労働基準法に触れる社畜となりはてた。
その上、今日は「病欠です」とカミーユからメールが入っていた。おかしい、出勤中に街でフォウと元気そうに歩く姿を見た。
「カミーユがサボったから今日はその空きを埋めてたってことね、まったく…」
エマがあきれるのも無理はない。なんせカミーユはエマから許可を下ろしてもらい学校公認でアルバイトをしている。
自ら望んだ仕事もままならないというなら許可を取り下げられてしまうところだが、現在のマクダニエルの状況からしてやむなく目を瞑るしかない。
ただ、カミーユのサボりが当たり前になってしまったら別だ。許可を与えている意味がない。
「それで、本部の対応はどうなの? 労働基準法に触れているじゃない」
「ああ…それがな、非番が一日あるのだし連勤は問題ない。それに空きの分は社員を回しているから人数は変わらないだろう…だと。その社員が手抜きをするわ仕事はできないわで足しにならんでな」
「それでサービス残業ね」
エマは「あらま」とでも言いたげな表情で、ひと息ついてはコップの氷をカランと鳴らす。
ヘンケンは横目で見ていてちょっとドキリとした。
居酒屋のカウンターでも時は刻々と流れていく。
しょうもない愚痴を言い合ったり、あれこれが美味しかっただの他愛もない会話だった。
時おりエマがコップに浮かぶ氷を指でカラカラ鳴らしてはヘンケンに話題を振っていた。女性らしい指だから色っぽいようだけど何となく可愛らしい。
ヘンケンは早々に酔ったらしく反応が大げさだったり、声高に笑い始めることがあった。
次第にエマも酔いが回ってきたらしくうつろな表情で
「はあ、また友達が結婚しちゃったのよねえ、誰かいないのかしら」
と、シラフでは言えないような心中を語った。
「ねえ、聞いてた? また友達が結婚しちゃったの。私なんてどうせハイミスよ」
横で一緒に飲んでいるはずの男に問いかける。ねえ、ねえ、と。
けれど隣の男は酒を抱え、すうすうと寝息をたてながら寝てしまっていた。
「やあね、もう…一人で飲むほどむなしい物はないのよ」
溶けかかった氷が踊る酒をクイッと飲む。
横目で見た寝顔はどことなく安らぎを得ているようだった。
あまりにも幸せそうな寝顔のためこっちまでそんな気分になったらしい。ふふっ、とおかしさ混じりの笑みを浮かべ一声かけようとした。
それと同時に
「ああ、また」
「あっ、いいのよ。そうそう、もう帰らない? だいぶいい時間だと思うの」
「そうか…そう、今日も付き合ってもらってありがとう」
「ええ、今度はゆっくりできるといいわね」
二人は会計を終えてのれんをくぐると外はだいぶ寒い。繁華街をぬけるまでは店の中のように他愛もない話をしながら歩んでいった。
冷やされたおかげか酔がいくらか冷めていた。
「じゃあ、これで」
「今日はありがとう」
それぞれの家に向かって別れていく。案外あっさりとした別れ方かもしれない。
エマはひとりの帰り道、眠るヘンケンに言いかけたことを思い出していた。
(別に、その時の気分でいいそうになっただけだけなのよね)
今となっては口にするのがちょっと恥ずかしい。
「どこかの誰かさんはお嫁さんにしてくれるかしら……か」
END
わーいヘンエマバンザイ
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