2020-04-13 01:43:30 更新

概要

深海棲艦との戦争は終わった.....はずだった!? 新たな戦いに備え新兵器の開発に携わる事になった整備士と利根だったが……

※主人公は整備士ですが途中から名前は変わります。利根は序盤かなり空気です。うちの北上様は狂犬です。 ゆるして


前書き

はじめて書くのでなんとも稚拙ですが……
妄想が溢れ出てきたので。
艦これ自体は何年もプレイしていません。


整備士「戦争終わった!!」


俺の所属していた基地の工廠に、作戦終了の放送が入ったとき、俺だけでなく同僚や上司も各々に雄叫びを挙げていた。


整備長「残念だったな、野郎共!これから傷付いたお嬢さん方が帰ってくるぞ!」


「よっしゃー!!ピカピカにしてやんぜ!」

「コイツっ!拳を振り上げたまま気絶してやがる!?」

「叩き起こせ!水でもなんでもぶっかけてなぁ!!」


普段なら文句の一つも垂れるであろうが、何といってもこの作戦で深海棲艦の本拠地を制圧、勝利したのだ。少々変なテンションになっても仕方がない。


数時間後、傷を負い出撃時の時よりも数を減らし戻ってきた艦娘達を見た基地の者達、あるものは姿の見えない艦娘の行方を探し、あるものは再開を喜び会う。


整備士「おう、生きてたか」


利根「沈むわけがなかろう!ピンピンしておるのじゃ!」


配属時期が被っている艦娘の利根、彼女の艤装を受け取る。その艤装は、利根の言葉とは裏腹に無事な所などなく、応急措置でなんとか動いていた、という感じだった。


整備士「まぁ、なんだ……無事でよかったよ」


利根「な、なんじゃ!?柄でもない!」


心底驚いた、という風に言葉を荒げる利根の顔に居心地が悪くなったので艤装を運ぶ。


利根「……終わったんじゃな、筑摩」


後ろから利根の消え入りそうな声が聞こえたが振り返りはしない。いつもならその言葉に笑顔で答える彼女の妹の姿は何処にもなかったから、かける言葉なんて俺には思い浮かばなかったから。


***

終戦してすぐは、破損した艤装の修復や報告書の作成などで休む等出来なかった。しかし日に日にそれも落ち着き、最近では日に数度の近海の偵察だけになっていた。


整備士「はーい、おつかれさん」


「おつかれさまー!」

「おつかれさまです!」

「ばいばーい!」


駆逐艦の子達を見送った後、艤装のチェックをして倉庫に運ぶ。


整備士「終わったんだなぁ」


戦闘の跡のない艤装を見ると、戦争が遠ざかった様に見えてきたけど


同僚「おう、何をぶつぶつ言ってんるんだ?」


整備士「べっつにー?平和でいいねって」


違いない、と笑ってバシバシ叩いてくる同僚を払いながら倉庫に向かう。


同僚「お前はどうするんだ?」


どうするんだ?という言葉を不思議に思い振り返る。


整備士「どうするとは?」


同僚「身の振り方ってやつさ、俺は退役して親の仕事を手伝う予定だぜ!」


身の振り方、か……


整備士「考えてなかった……いや、退役はしないと思うんだけど……」


うーん、ほんとに考えてなかった。腕を組んで唸っていると後ろから声をかけられた。


「二人してサボりか?」


同僚「提督殿!いえいえ!こいつだけですよ!」

整備士「貴様!」


提督は、軽く笑って流してくれたが、コイツは後でオシオキだ。


提督「ははは、いやなに面白い話が聞こえたからね」


同僚「面白い話、ですか?」


提督「そうそう、身の振り方がどうとか」


同僚「自分は退役して親の仕事を手伝う事にしています」


提督「そうか、今まで良く働いてくれた、退役まで頑張ってくれよ?……君は?」


整備士「今まで通りここで働かせてもらいたく……」


俺のその言葉に、途端に提督の顔がすこぶる笑顔になる。あっ、嫌な予感……


提督「新兵器の開発に携わって見ないか?」


***


整備士「新兵器、ですか」


提督「そう、新兵器。どう?興味ない?」


嫌な予感が当たった……ってことではないよな?新兵器に関われるなんてスゴいことなんだけど。


整備士「あのぅ、それって整備士としてですよネ?」


提督「……誰にでも出来ることじゃないぞ!」


整備士「今の間が怪しいのですが」


提督「昇格も約束する!」


え、急に必死になってきたんだけど。


提督「そういえば利根と仲が良かったな!?利根にも手伝ってもらおう!」


整備士「なんで利根が出てくるんですか、あやしいなぁ」


その後、頼み込まれ引き受けてしまった。早まった気がしなくもないが……仕方ない。


提督「早速だが転属してもらおう」


引き受けた礼として、その日の昼飯を奢ってもらっていたのだが食べ終わったタイミングで転属を知らせる書類を手渡してきた。


整備士「えぇ……ってこの書類、既に俺の名前はいってるじゃないですか」


元からホワイトな職場ではなかったが、終戦してブラックが加速して来てないか?


提督「荷物も転属先に送っといた、お前あんな趣味のエロ本持ってたんだな、普段真面目だから提督驚いたわ」


整備士「え、いや……え?」


提督は止まらない。さらに爆弾を放ってきた。


提督「荷造りは利根に手伝ってもらったんだよ」


心の中でめっちゃボコボコにしといた。



***



整備士「ここが新しい職場……」


利根「うむ、新たな船出というわけじゃな」


結局、俺は次の日には基地を送り出され新たな基地に着いた。


エロ本云々は、全て同僚の物という事で通しておいた。利根は、そういうことにしておこう、と言ってくれたが……提督は許さん。


整備士「まずは基地の司令に挨拶だよな」


利根「うむ、とはいえ案内の一人もおらんのか?」


確かに、まさか俺達の転属が伝わってないとか……いや、入り口は通れたしな。


「遅れてすいませーん!」


前から駆逐艦が慌てて走って来ているのが見えた。


「ホントに、ホントにごめんなさい!寝坊しちゃって……」


大丈夫かよ、新しい職場。利根も苦笑いしているので似たような事を考えているんだろう。


「あ、あの!私は潮と言います!今日は潮がご案内させていただきます!」


不安の残るファーストコンタクトではあったが、とりあえず俺達は潮の案内で基地司令の元に向かうことが出来た。


司令「良く来てくれた、私がここの司令だ」


新しい司令は、一目で分かるほどの変人だった。


(えっ、めっちゃ変な鉄仮面みたいの被ってんだけど)

利根を見ると、流石に驚いたのか目を丸くしていた。


司令「あぁ……初見は驚くだろう、これは実験に失敗して顔が凄いことになったから被ってるんだよ……どんな失敗か聞きたい?」


整備士「いえ……遠慮させて頂きたく……」

利根「我輩も遠慮するのじゃ……」


司令「そうかい、それは残念だ……まぁ仕事は明日話すよ、今日はゆっくりしてくれ」


言葉とは裏腹に特に残念でもなさそうに、ケラケラ笑う鉄仮面の男というのは中々怖かった。


司令「基地内を案内……と言いたいんだが機密が多くてね、あまり出歩かない事をおすすめするよ」


消されちゃうからね、という言葉を最後に俺達は部屋を後にした。


整備士「……ヤバい所に来たんじゃないか?」


利根「む、お主もそう思うか?我輩も少し不安になってきたぞ」


潮「だ、大丈夫ですよ!?司令もふざけてただけですから!」


整備士「ホントかぁ?ここに送り出された経緯からして信じがたいからなぁ」


利根「我輩に関してはお主の巻き添えじゃぞ?」


……そうだよなぁ、利根は退役とかは考えてなかったんだろうか、筑摩のこともあるしなぁ。飯の時にでも聞いてみようか。


整備士「あまりうろちょろするなっていうのは?ホントなのか?」


潮「そうしてほしいです……余計な仕事が増えるので」


最後、怖いこと言わなかった?


整備士「そ、そうか。と、ところで飯は何処で食べれるんだ?そろそろ昼飯だろ?」


潮「それなら一緒に行きましょう、潮もお腹がすいていたので……」


恥ずかしそうに笑う潮は可愛らしいが、やっぱりこの基地の人間は少し変かもしれない。


***


潮は、食堂まで俺達を連れてきたあと用事を思い出した、と言って何処かに行ってしまった。


整備士「監視、だよな?」


利根「うむ、我輩途中から空気になることに徹しておったからな、あの駆逐艦おっかないぞ」


食堂のおばさんに声をかけると、司令から聞いていたらしく昼飯が出てきたので利根と向かい合わせに座り、食事をとった。


整備士「あのさ、利根は退役とかは考えなかったのか?」


利根「なんじゃいきなり」


整備士「いや、艦娘の中には退役した奴もいるじゃないか、っていうか結構いるって聞いたぞ」


終戦した今、艦娘には軍に残るか退役して社会に出るか、という選択肢が与えられた。政府からの支援も十分に受けられる、と顔馴染みの艦娘が言っていた。


利根「うーむ、退役はする気がなかったかの、全員が退役してはそれはそれで問題じゃしな、枠は譲るのじゃ」


整備士「その、聞きにくいんだが……やっぱり筑摩のことも関係あったりするか?いや、デリカシーの質問だってのはわかってるんだが、力になれれば、とか思ってたり」


利根は、一瞬目を丸くしていた後少し寂しそうに笑って言った。


利根「筑摩の後を追う、とかではない。筑摩が沈んだのはとても悲しいが……まぁなんじゃ仕方ない事と言えばそれまでなのでな、決して忘れはせんが引きずって生きていくのは筑摩に叱られてしまう」


整備士「……そうか、すまんな変に気を使って」


利根はケラケラ笑って俺に指を指す。


利根「それと退役しない理由の一つは、我輩がいないと寂しいという者がおるみたいじゃからな」


整備士「誰の事ですかねぇ……」


利根「おうおう、素直じゃないのは好かれんぞ?我輩は素直じゃないのも嫌いじゃないがの!」


そんな事を言い残して利根は、食器を持って立ち上がり返却口まで行ってしまった。


整備士「強いなぁ利根は……」


(え、脈ありじゃね?)


口に出たのは利根への称賛、頭に浮かんだのは浮かれた戯れ言だった。


***


司令「まぁ、実はモノ自体は出来てるんだ」


次の日に呼び出された俺と利根に司令はそんな事を言ってきた。


整備士「はぁ、それは別にいいんですが……それの調整が自分の仕事、という訳ですか」


利根「我輩は何故呼ばれたんじゃ?」


司令「うん、その兵器の試験を行ってもらうからさ」


指を指す司令。その指先は明らかに俺に向かっていた。……わからん。


整備士「すみません、よくわかりません」


司令「これからは、艦娘に頼りきりという訳にはいかんだろう?」


整備士「……男性にも使える艤装、というわけでしょうか」


艦娘の扱う艤装は女性にしか扱うことが出来ない。故に戦場には、女性が前線に立ちこれまで戦ってきた。


司令「察しが良いな、そういうことさ……艦娘だけでは手が足りなくなる、そう考えているんだ大本営は」


手が足りなくなる?これ以上何と戦うというんだ、終戦したではないか。……まさか。


司令「奴らは戻ってくる」


その言葉は、俺に重くのしかかってきた。


***


説明はドックで行う、そういわれついてきたはいいが……


明石「どうも!工作艦の明石です……って他の明石にも会ったことありますよね?」


この明石、ヤバい。具体的には目がヤバい。


明石「早速!こちらへこちらへ」


整備士「まてまてまて!説明をしてくれよ!」


明石「男が扱える艤装!それ以上は説明はありません!ささっ!こちらに!」


工作艦とはいえ艦娘、力では敵わずズルズルと引きずられて連れていかれた。


利根「……我輩、空気じゃのう」


***


明石「コレが新兵器!妖精が携わっているので「妖精兵器」ってよんでます!艤装でもいいですけどネ!」


連れていかれた場所にあったのは、俺が知る艤装とは全く違うモノだった。


整備士「艤装ってか、パワードスーツみたいな……」


明石「まぁぶっちゃけ水上ホバーのアイアン○ンですよ」


こいつ!人が思ったことが言わなかった事を!


明石「あなたが選ばれた理由って言われました?」


そういえば聞いてなかったか、冷静に考えればただの整備員が新兵器のテスト、しかも搭乗員としてだなんておかしいもんな。


明石「その様子だと聞いてませんね?まぁ簡単ですよ、妖精見えますよね?そういうことです!」


整備員「え、それだけ?」


明石「もちろん!正直、妖精が見えれば誰でもいいんですよ」


妖精は、見える人間は多くはいないが全くいないというわけでもない。実際、前の基地には整備長や同僚、そして俺、結構な人数がいた。


整備士「あぁ……わかってきたぞ、あれだな?使い捨てても大丈夫だろコイツ、ってな感じだな?コレは」


ブラックだな、とは思ってたがこれはヒドイぞ。俺みたいなのが選ばれたのは、もし何かあっても簡単に処理できるからだな。


明石「まぁ悪く言えばそうですよね!でもそんなに悲観することもないのでは?昇格もされますし」


整備士「これ以上はなにも言うまい……来ちまったんだ、さっさとテストしようぜ」


拝啓提督殿、次に会ったときは心の中とは言わず直接殴らせて下さい。


***


利根「……お主か?」


整備士「どう?似合う?」


利根「なんかこんなのが出てくるゲームがあったな、DE○D SP○CEじゃったかな」


整備士「お前、結構エグいゲームすんのね」


艤装を装着した俺は、同じく艤装を装備した利根は海上に出ていた。


利根「というかお主、器用じゃの。前の基地の駆逐艦なんぞ最初はずっこけておったぞ?」


整備士「というか艦娘の艤装は機能に遊びがないんだよ、コイツはサポートシステムが組まれてるんだ……って明石言ってた」


それでも不安定だなぁ、艦娘ってこんな中戦ってたんだなぁ。


利根「我輩は近くで見ているからの、何かあったら呼ぶんじゃぞ」


そういって利根は離れていった。


明石《聞こえます?テストの内容を説明していきますね!》


整備士「了解だ、さっさと終わらせよう」


ヘッドギアから聞こえる明石の声にうんざりしながらテストをこなしていった。


その日のテストは、簡単な航行位ですぐに終わった。その後、司令に呼び出され部屋に向かった。


司令「どうだったかね?あれの開発には私も関わっていてね、感想をくれると嬉しいな」


笑顔……かどうかは鉄仮面のせいでわからんがなにやらウキウキした感じが伝わってきて不気味だ。


整備士「……素人の自分にも動く事が容易だった事から操作性はとても素晴らしいと感じます」


司令「そうか、武装などは開発途中でね、しばらくは航行試験をメインにしてもらうことになる、……それでは今日はゆっくり休んでくれ」


整備士「はい、失礼します」


退室したあと、部屋の外で待っていた利根と食堂に向かった。


***


司令「潮、彼は怒ると思うか?」


潮「……怒った所でどうしようもないですから、その質問は意味がないと思います」


司令「それはそうなんだがね、私にも良心があったみたいでね」


潮「良心ですか?非人道的な研究ばかりしている司令にですか?」


真顔で首を傾ける潮に、司令は肩をすくめる。


司令「酷いことを言うなぁ、なに久し振りに真人間に会った気がしたのでね、私もああであったのかな、と思ったのさ」


潮「……司令は最初から化物みたいなものでしたから」


その言葉が面白かったらしく司令は笑いながら潮の頭を撫でた。


***


テストは日に日に過酷になっていった。最初は死にそうなほど疲れて、テスト中に気絶して沈みかけた。その時は、死んだ目の潜水艦達に助けてもらったが……


整備士「最近は疲れないんだよな」


利根「まだ1ヶ月なのだがな、お主ホントに人間か?動きも見違えるぞ」


整備士「……人間やめたのかもな、ここなら簡単にやめれそうだし」


最初から薄々わかっていたが、1ヶ月ここで暮らしているうちに、この基地が明らかに表に出れないような場所であることがわかった。


整備士「明石にでも聞いてみるか?司令に聞くのはいよいよ人間やめさせられそうだし」


利根「……我輩も巻き添えで改造とかされんよな?」


嫌そうな顔でこっちを見るな。


整備士「お前らも近代化改修とかするじゃん」


利根「艤装をな、お主は明らかに肉体的にどうかされてるじゃろ」


もっと嫌そうな顔で見るな。気にしてるんだから。

という訳で明石に聞いてみた。


明石「あ、わかります?強化人間ですよ!やりましたね!」


くっそむかつく。おっといかん、知能が下がってた。


整備士「いや、薄々わかってたけどさぁ……怖いから内容は言うなよ」


説明する気満々だった明石に釘を刺す。ショック受けるかな、と思ったが意外と冷静でいられる。もしかして精神的にもナニかされてたりするのだろうか。


明石「まぁ、副作用なんかほとんどないですし、大丈夫ですよ!あっ、でももし何か副作用が出たら教えてくださいね」


そう言う明石の目は怖くて見れなかった、副作用がないっていうのなら良い、良いのか?


拝啓提督殿、俺は人間をやめました。


***

俺が人間をやめてから2ヶ月。


提督「久し振り」


奴はいきなり訪れた。


整備士「……お久しぶりです、提督殿」


なに笑とんねん。シバくぞ。直接殴ろうと思っていたが、流石に処罰されるだろうしなぁ。止めといてやるよ。


提督「いろいろ言いたい事はあると思うが、元気なようで安心したよ」


整備士「人間やめたみたいで、毎日元気が有り余ってますよ」


提督「そりゃ気の毒だな!……このまま話していてもいいが、今回は重要な件で来ていてね。司令は?」


重要な件、新兵器絡みだろうが。不気味だ。


整備士「すぐに向かう、と言っていました」


司令は俺にも同席するように言っていたので居るが、やっぱり不気味な感じがするよなぁ。


司令「失礼、遅れました」


提督「いや、気にしなくていい。それよりも用件を済ませてしまおう」


新兵器、「妖精兵器」の実践試験を兼ねた提督の艦娘との演習。そこまでは驚きもしなかったのだが。


提督「昇格させる、という約束も果たさなければないけないしな」


俺は昇格して少尉となった。


***


利根「演習など久しぶりじゃな!少尉殿!」


少尉「それもそうだよな、利根にはいつもお守りしてもらってたし……あと「殿」はやめてくれ、恥ずかしい」


演習の事が知らされると、利根はかなり興奮していた。お守りで俺に気を使って動かないといけないからな、言葉にしなくてもストレスが溜まっていたんだろう。


利根「そうか?まぁいいが。それはそうと戦友達に会うのは楽しみではないか?」


少尉「誰が来るとかわからんからなぁ、他の皆も退役とか異動とかあったはずだしな。知ってる顔とは限らないんじゃないか?」


利根「それもそうじゃの」


「あれー?整備士?お久しぶりー」


若干間延びした声に振り向くと、俺が前基地で最も苦手としている人物が立っていた。


少尉「うわ、北上さんじゃないっすか。何でいるんですか」


北上「何でいるんだ、とは失礼じゃなーい?せっかくこのスーパー北上様が会いに来てやったというのにさぁ」


少尉「会いに来たって……えっまさか北上さんと演習するんですか!?」


なに考えてンだ、あの提督!前基地で最強と呼ばれてたような人だぞ!?初実践の俺にあてがうかよ普通!?


北上「へへーかるーく揉んでやんよー」


利根「久しぶりじゃな、北上よ」


利根が挨拶するが北上さんはしばらく反応はない。


北上「……利根もいたんだー久しぶりー」


そうだった、北上さんは利根を嫌っていた。利根はそうでもないようだったが。


少尉「そうだ北上さん、俺昇格して少尉になったんですよ」


北上「へーやったじゃん!頑張ってるようで北上さんは安心したよー、あたし提督に呼ばれてるからさ、後で一緒にご飯食べようねー」


嵐のような人だった……悪い人じゃないんだけどなぁ。


利根「相変わらず嫌われてるのー我輩は。少尉も相変わらず苦手か?」


少尉「嫌いじゃないんだけどさ、凄く絡んでくるんだよなぁ、よくしてもらってるから感謝はしてるけどな」


利根「そうなのか、それにしても相手が北上とはのぅ。真っ先に狙われるんじゃろうなぁ」


北上さん、まじで利根には容赦ないからなぁ。ドンマイ。


***


演習の日、特に問題もなく演習は開始された。


少尉(もっと緊張するかと思ったけど、そうでもないな)


潮「少尉、陣形は崩さないで下さいね」


少尉「あぁ、了解だ」


流石戦争を生き抜いた艦娘、海に出るとなんというか威厳みたいなものを感じるな。……前の基地の潮ってあんなにハキハキしてなかったような。……演習中だ、変な事は考えないでいよう。


利根「潮、敵艦隊を見つけたぞ!データを送る」


艦娘の艤装は遊びがない、といったが様々な改修が行われている、情報の共有化を安易にするシステムなどが戦争中期に実装されたりしている。


潮「相手には雷巡がいますから注意してください、既に相手にも発見されているはずです」


少尉(発見されてるんなら北上さんの事だ、最初に狙うのは……)


利根「やっぱりか!?北上の奴め!」


だよな!知ってた!っていうか重巡洋艦の方が射程って長いんじゃないのか!?


潮「……常識が通じないみたいですね、利根さんなんとかしてください」


潮なんか最早諦めてるよな。他の子達も似たような感じだ。


利根「無理言うな!北上は化物みたいな奴なんじゃぞ!?」


潮「他は私たちが請け負うので……短い間でしたがありがとうございました」


少尉「達者でな」


利根は叫びながら陣形を外れて行った。確かに北上さんと戦うとなったら普通の演習でなくなるからなぁ、利根には人柱になってもらおう。


艤装には機能として身を守るバリアがある、もちろん俺の艤装にもある。あるが、薄い。元々男性は適性が高くないので妖精の恩恵も薄いのだとか。テストに付き合ってくれていたとある艦娘が「ふふ怖さんの装甲より薄いです!」って言ってきた事もあった。


それをこの演習でも体感させられた。


少尉「直撃した!中破判定だ!」


潮「……知ってましたがほんとに薄いですね」


少尉「まだ動けるぞ!」


潮「演習弾ですから、でもそうですね極至近距離の戦闘もやっておきましょう、続いて下さい」


そういって先行する潮に続く。


確かに実弾なら五体満足じゃいられないんだろうなぁ……いや人間やめてるしワンチャンか?


潮「乱戦になりますから頑張って下さい」


え、手に魚雷もっとるやん。それで戦うの?


少尉「他人の事考えてる場合じゃないな!」


この艤装の近接装備は槍。なんでも叢雲を参考にしたらしいが、あれって本人が槍っぽく使ってただけで槍じゃないんじゃ……


少尉「守ったら負けだ!」


知ってる艦娘かも、と思ったが初めてみる駆逐艦だった。新しく異動してきたんだろう。こちらは素人に毛が生えた程度なのだ、勢いで圧倒するしかない!


「……沈め!」


ってかこの駆逐艦、目の鋭さが戦艦並みだぞ!?怖っ!?


少尉「ゴバッ!?」


結局、勢いですら負けた俺は顔面に一発もらい意識を飛ばした。


***


北上「……しつこいなぁ」


利根「こっちのセリフじゃ!」


ほんとにコイツは嫌になっちゃうよねー、いっつもちょろちょろと少尉の周りをさー。


単装砲の砲撃と同時に距離を詰めて魚雷を手に持つ。その憎たらしい顔をぶっ飛ばしてあげるよ!


利根「甘い!」


当たるとは思ってなかったけどすいすいと避けられる。やっぱり砲撃じゃダメだよね。


北上「うっざいなぁ!!」


魚雷を叩き込んでやろうと思ってたら、水柱の中から飛び出してきて拳が顔面に飛んできた。


流石重巡、パワーは申し分ない。あたしの体は海の上を何度もバウンドする。


北上「……やったなぁ」


なんとかバランスを取り戻した後、大きく振りかぶり魚雷を投擲する。


利根「ハッ!?」


結構えげつない感じに顔面に当たった。


北上「ざまぁ」


これで向こうもキレたでしょ。燃えるねぇ。


***


利根「……やりよる、魚雷を投げるとか予想もしとらんかった」


というか演習を止めてほしいのじゃが、そんなのは関係なしといったふうに北上は猛スピードで突っ込んでくる。


利根「演習じゃよな?我輩沈まんよな?」


迎撃の構えをとり北上を待つが正直尻尾を撒いて逃げ出したい。


接触する間際、北上の進路が砲撃により塞がれる。


北上「……ちぇっ、ここまでかな」


横槍が入って興が削がれたのかなんなのか、北上は突撃をやめて自分の艦隊があるだろう方向にいってしまった。


利根「命拾いしたのじゃ……」


潮「北上さん、怖い人ですね」


利根「うむ、あまり一緒に戦う事はなかったが、敵になるとああも恐ろしいとはな……少し深海棲艦がかわいそうじゃ」


***


提督「まぁ初実践だしね、こんなものだろう。明後日までいるからさ、どんどん実践データを取っていこう」


司令「そうですね、搭乗員の未熟もありますがやはりまだまだです……あとそちらの北上、ナニかされました?」


流石にあれは、と苦笑いする司令に提督は首を横に振る。


提督「あいつね、素であの強さなんだよ。いるんだね、天才って。あのまま続けてたら多分利根は負けてたしね」


司令は苛烈な戦闘を思いだし、恐ろしいと感じると共にとても強い興味を抱いていた。


司令「あれはいい素材になりそうだ」


提督「あげないよ、っていうか大本営が許さないよ。彼女の最終決戦の時の戦績、偽装かな?って思うレベルなんだよね」


見る?と手渡したタブレットには目を疑うような戦績が載っていた。


司令「今日も、かなり手加減していたんですね」


提督「アレが本気になったら同じ艦娘じゃ無理だよ、北上は姫級やら鬼級と殴りあえるレベルだからね。しかも勝っちゃう」


司令「……随分と少尉に執着してましたな、何かあるのですか?」


提督「さぁね、怖くて聞けない」


だから彼は大事にね、と言い残し提督は去っていった。


司令「近寄らんとこ」


***


目を醒ますとそこは知らない天井だった!……いや、どうせ医務室だろうけど。


北上「おっ目覚めたみたいだねー」


少尉「北上さん、いてて」


起き上がろうとしたら首が痛くて声が出る。


北上「寝てなよ、無理しないでさ」


少尉「そうします、……気になってたんですけど、近接戦闘の時、艦娘ってみんな魚雷持って戦うんですか?」


魚雷持って戦う代表みたいな人がいるから聞いておこうと思い聞いてみた。


北上「そんなことないよ?私は魚雷一杯積んでるから使ってるけど、戦艦とかは普通に拳だよ」


少尉「えぇ……怖いっすね」


北上「ほんとにねー姫級に殴られた時なんて顔なくなったと思ったよ!」


なんでそんなのと白兵戦してるんだよ、とか思ったが口にはしないでおいた。


北上「まっ生きてるなら安心だねー、明後日までいるからね、明日は私が稽古したげるぞー?」


早速中止にならないかな、と思う俺であった。


***


利根「おー見事に疲れきっておるのー」


食堂の机に突っ伏した俺を利根がつついてからかう。


少尉「……お前、演習から逃げただろ」


そう、こいつは初日以降は演習メンバーから外れていた?


利根「あれ以上は沈められる」


真顔で言う利根の目は本気だった。


少尉「いや、流石にないだろ演習だし……ないよな?」


確かに北上さんなら魚雷で撲殺とかしそう。


北上「なになにーあたしの話かー?」


後ろからやってきた北上さんが、俺の頭をつかんでぐわんぐわん振り回す。


少尉「痛い痛い、首とれますって……いや、北上さん強かったなぁって話をですね」


この人、どこにでも現れるなぁ。


北上「まぁね、あれでも手加減したんだよー」


軽く流してあの強さ、本気なら数秒で大破判定なんだろうなぁ。


少尉「演習終わりましたけど、いつ帰る夢んですか?」


北上「明日のお昼だってさ。そうだ、今日晩御飯一緒に行こうよ。奢っちゃうぜー?」


少尉「良いですよ、外出届出しに行ってきます」


利根の奴、北上さんが現れた途端どっかいきやがった。苦手じゃないとか言ってたのに。


***


演習は終わり、テストも順調に進んでいた。そんなある日、司令に呼び出された。


司令「新しく異動してきた北上だ、仲良くしてね」


北上「やっほー」


来ちゃったのこの人。いや、良いんだけどさ。この人が輸送任務とか就いてたら宝の持ち腐れだろうしさ。


北上「いやー異動願い出したら通ったんだよね、またよろしくねー」


少尉「よろしくお願いします」


利根がすごい顔になりそうだなぁ。


その後、北上さんがここに着任したことを伝えると案の定すごい顔をしていた。


***


少尉「また演習ですか?」


司令に呼ばれたかと思ったらまたこれだ。


司令「いやぁ、前回のじゃ君のデータが取りきれなくてね」


少尉「確かに、北上さんの舞台でしたしね」


司令「……強化した艦娘をも凌ぐ力、とても興味深いんだがね」


聞こえたぞ、やっぱりろくな所じゃない。

っていうか隠す気も無くなってきてるよな。


司令「変にちょっかいを出すと怖いからね」


少尉「変な事しなきゃ良いだけなんですから、大丈夫ですよ」


司令「君にもいろいろ試したかったんだが……同意があれば許してくれるかな?」


少尉「まだナニカされるんですか!?もう良いでしょう!?」


司令「あと一回だけ!一回だけ!」


鉄仮面の下、絶対いつもニヤニヤしてるだろこいつ!


司令「まぁもうしたんだけどね」


ほぁ!?いつの間に!?


司令「次なるステップに進む、時間もないしな」


時間、それは再び深海棲艦が現れるまでの事なのだろうが……本当に来るのだろうか。


少尉「……もういいです、今度は何をするんですか」


司令「なに、前の艤装は駆逐艦基準でね。今度は巡洋艦クラスをテストしてもらうだけだよ」


俺に更なる強化を施した、という事は負荷が前の妖精兵器の比ではないということだろうか。


司令「駆逐型妖精兵器、これはほぼ完成した。問題点はあるが……まずは配備を急がねばならんのでな初期型は既に生産と配備が始まっている」


少尉「そんなに大本営は危険視しているんですか」


司令「あぁ、それについては巡洋艦型の完成後に話すよ。今はこいつのテストに集中してほしい」


俺に考えてもわからないんだ、やれることをする。それが今の仕事なんだから。


***


司令《聞こえるか?巡洋艦型はどうだ?》


少尉「なんというか、パワーが段違いです」


司令《そいつは巡洋艦型と呼んではいるが、今までの妖精が造る兵器とは全く違うからな》


少尉「といいますと?」


司令《まぁ艦娘の艤装というのはどこまでいっても前世の艦船の時の性能に引っ張られる》


確かに、失礼な話だがただ戦う力を重視するなら、睦月型など高性能とは言い難い。


司令《だからな、思ったんだよ。妖精の技術のみを使って艦船の性能から離れたモノを造ろうとな》



はぁーやっぱりただ者じゃなかったんだなぁ。強化する必要があるって事で非人道的な面はあるが、男を戦力に数えられるんなら良いのか?うーん、わからん。そういうのは本当に平和になったときの評論家の仕事だな。


***


二年、俺的には長い年月だったが二年が経った。順調に人間もやめていったし、司令渾身の傑作巡洋艦型の妖精兵器のテストも終了した。


前の基地の整備長と話す機会があったとき、駆逐艦型妖精兵器の配備が進んでいることを聞いた。人間をやめる同士が増えた、とか漏らしたら正式採用の際にそこら辺は改善されたとか整備長が言っていた。


(そこらへん改善出来るのかよ)


そう思ったのは仕方ないだろう。


なんでも、妖精の恩恵を強くしてバリアを重点的に暑くしたのだとか。その分、火力が低いため近接戦闘前提の装備が標準装備なのだとか。


人間やめ損だったかも。


利根「少尉!司令が呼んでおるぞ!」


利根に呼ばれて司令の元に向かう。そしてついにその言葉が放たれた。


司令「深海棲艦が現れた」


利根「また始まるみたいじゃな」



後書き

力尽きました。

本当に利根空気でした。ゆるして

北上様が最初から堕ちてました。ドウシテコウナッタ


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