絶望の先に
電の轟沈の知らせを受けた鎮守府。
それぞれが抱く思いをぶつけあい、提督が導き出す答えとは?
どうもこんにちわ、yutunです
ssに限らずこういった作品を書くのは初めての体験になります。
自分なりに試行錯誤して初めてにしては形にすることができたのではないかと思っております。
誤字脱字があるかもしれませんが、暖かい目で見守っていただければと思います。
艦娘が轟沈した報告を受けたとき、始めてこれが戦争だと自覚した。
提督「・・・は?質の悪い冗談はやめてくれよ」ハハ
天龍「すまねぇ・・・」
提督「いつもみたいに俺をからかってるんだろ?」
天龍「・・・」
提督「なんで黙るんだよ。電は初期艦でこの鎮守府の中では最高練度なんだぞ?そんな簡単に沈むかよ!」
天龍「・・・すまねぇ」ギリ
提督「謝んじゃねえ!それだとまるで本当に・・・!」
天龍を旗艦とした第二艦隊は資材の調達のために遠征に向かっていた。
資材を回収し残すは帰還するのみだった。
しかし、運悪く深海棲艦の主力艦隊と鉢合わせしてしまったがために艦隊は壊滅。
中破3隻、大破2隻、轟沈1隻という甚大な被害を受けた。
提督「もういい、下がれ」
天龍「・・・ああ」
ガチャン
一人きりになりぐちゃぐちゃになった頭の中を整理しようと試みる。
提督「電が・・・沈んだ?」
提督「そんなバカげた話があるか」
提督「きっと悪い夢なんだ。寝て起きればこんな悪夢からも解放されるさ」
震える拳を握りしめてまるで自分自身にそう言い聞かせるかのように呟いた。
その夜、いつもは騒がしい夜戦バカも事あるごとに誘ってくる飲兵衛たちも執務室に訪れることはなかった。
ーー翌朝ーー
提督「・・・」ムク
提督「すごい汗だな」
提督「・・・」
提督「シャワーでもあびるか」
プシャアア
提督「・・・ふぅ」
提督「それにしても嫌な夢を見たな」
提督「・・・」
提督「・・・くそっ!!」
提督「確かめに行くか・・・大丈夫、電は部屋で寝てるさ」
ガチャン
提督「・・・」スタスタ
提督「あれは・・・」
雷「・・・」
提督「・・・ぁ、雷」
雷「司令官」
提督「なんだ、随分と早いな」
雷「・・・」
提督「どうした?黙り込んで」
雷「お願いがあるの」
提督「・・・お願い?」
雷「響と暁を・・・ううん、皆を宜しくお願いします」
提督「何を言っているんだ?」
雷「電は寂しがりやだから」
雷「私が側にいてあげるの」ニコ
提督「やめろ」
雷「今までありがとう。楽しかったわ」ペコッ
雷「さようなら」クルッ
提督「行くな!!」
止めないと
提督「・・・ぅ、あ」
言葉が喉に詰まる
止める?
なんて声をかければいいんだ?
???「待って!待ってよ!!」
提督「・・・ふ・・・ぶき」
話を聞いていたらしい吹雪が飛び出してくる。
吹雪「雷ちゃん、勝ち目なんてないよ」
雷「・・・そうね」
吹雪「暁ちゃんと響ちゃんが悲しむよ」
雷「・・・それでも行くの」
吹雪「どうして!!」
雷「暁には響がいるわ、電には私がついていてあげないと」ニコ
吹雪「・・・っ!」
雷「行くわ」
本当は分かっていた
天龍の悲しそうな表情も
雷の復讐に燃えた瞳も
吹雪の泣き腫らして赤くなったであろう瞼も
吹雪「司令官!雷ちゃんが!」
提督「・・・」
吹雪「どうして止めないんですか?どうして!」
提督「・・・」
吹雪「このままだと雷ちゃんも・・・!」
提督「・・・ぁ」
吹雪「司令官!!」
提督「無理だ・・・」
提督「俺には止められない・・・!!」
吹雪「・・っ!!もういいです!!」ダッ
吹雪の後ろ姿が見えなくなってもその場に立ち尽くすことしかできなかった。
なんて情けない
あんなに小さな子が復讐に行くというのにそれを止めることさえ出来ないなんて
どのくらい時間が過ぎただろうか
・・・吹雪は雷を止めることは出来たのかな
提督「執務室に戻ろう・・・」
ガチャン
大淀「提督、やっと戻られましたか」
提督「あ、ああ」
大淀「・・・では始めましょう」
提督「怒らないのか?」
大淀「さて、何のことでしょうか?」
提督「いやこんな時間まで執務をほったらかしてさ」
大淀「今日は艦娘のメンタルケアに時間を割くというスケジュールだったはずですが」
提督「・・・え?」
大淀「口を動かしてないでさっさと始めましょう。書類がたまってるんですから」
大淀「それとも何か、私に叱られたいという願望でもお持ちで?」
提督「い、いやそんなことは」
提督「・・・すまないな、気をつかわせてしまって」
大淀「いえ・・・」
提督「・・・」カリカリ
大淀「・・・」カリカリ
大淀「提督」
提督「うん?」カリカリ
大淀「提督は艦娘を人として扱ってくれますよね」
提督「ああ」
大淀「なぜですか?」
提督「なぜ・・・か。君たちが我々と同じように豊かな心を持っているからかな」
大淀「艦娘とは兵器です。深海棲艦と渡り合うための道具として人間に生み出されました」
提督「確かに人間とはかけ離れた力を持つ。ただそれだけだ」
大淀「本当にそう思いますか?」
提督「・・・ああ」
大淀「人間は一度命を失うと生き返ることは不可能です」
大淀「しかし、艦娘は資材さえあればいくらでも生み出すことが出来る。いわば弾薬のようなものでしょう」
大淀「電ちゃんも建造をすることでまた生「やめろ!!」」ビクッ
提督「・・・やめてくれ」
大淀「・・・」
大淀「私たちがしているのは戦争ですよ」
大淀「これから何隻も沈むことになるでしょう」
大淀「兵器を失うたびに気を落とすおつもりですか?」
提督「・・・」
大淀「・・・失礼します」
ガチャン
大淀「・・・っ!」ダッ
ドンッ
大淀「きゃあ!」
天龍「うお!!」
大淀「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
天龍「ああ、気にするな」
天龍「それじゃあな」
大淀「あの、待ってください」
天龍「なんだ?」
大淀「こんな時間にどこへ?艦娘は就寝時間のはずですが」
天龍「・・・なんでもねぇよ」
大淀「深刻な表情をして艤装をしたまま外に出ようとしている人がなんでもないわけないでしょう?」
天龍「・・・」
大淀「復讐にでも行かれるおつもりですか?」
天龍「・・・違う」
天龍「訓練だよ」
大淀「訓練?」
天龍「ああ、もう誰も沈ませやしない」
天龍「俺は力が欲しい。ただそれだけだ」
大淀「っ!」グッ
天龍「フフ怖いか?」
大淀「・・・ええ。とても」
天龍「止めなくていいのか?」
大淀「止めたところできかないでしょう?」
天龍「よくわかってるじゃねえか」
大淀「・・・」
ーー執務室ーー
提督「分かっていたことじゃないか。艦娘は兵器で我々は深海棲艦と戦時中だということを」
提督「・・・」
提督「いつからだろうな・・・艦娘を人として見ていたのは」
電「電です。どうか、よろしくお願いいたします」
電「電の本気を見るのです!」
電「今日も素敵な女性になるために牛乳を飲むのです!」
提督「・・・うぅ」グスッ
提督「電ぁ・・・」
出撃しても変わらない笑顔で帰ってくるものだから俺はきっとどこかで安心していたのだろう。
学校に子を送り出す親のような感覚で戦地に送り出していたのだ。
提督「・・・」
提督「俺はとんでもない過ちを犯してしまった」
提督「すまない、すまない・・・」
提督「・・・今逝くよ」ガタッ
ガチャ
ーー海岸ーー
吹雪「・・・」
雷「どうする・・・つもり?」大破
吹雪「分からない・・・」
吹雪「でもきっと入渠させても雷ちゃんはまた行っちゃうんでしょ?」
雷「・・・」
吹雪「私はこれ以上誰かが沈むところなんて見たくなんてないの」
吹雪「雷ちゃんがやめるまでここにいる」
雷「・・・」
吹雪「撃っちゃってごめんね」
雷「・・・うん」
ザクザク
吹雪「誰か来る?」
吹雪「・・・」
天龍「・・・なにしてんだ?」
吹雪「そっくりそのままお返ししますよ。天龍さん」
天龍「ちょっと・・・な」
吹雪「・・・」
天龍「隣いいか」
吹雪「はい」
天龍「・・・」スッ
吹雪「・・・」
天龍「俺さ、強くなるよ」
吹雪「え?」
天龍「誰も沈まなくてもいいように、強くなるんだ」
吹雪「・・・天龍さんは強いですね」
天龍「俺が?バカいってんじゃねぇ」
吹雪「だって前を見てるじゃないですか」
吹雪「私は現実を受け入れるので精一杯です」
天龍「・・・」
雷「すぅすぅ」
天龍「雷は・・・寝てるのか」
吹雪「そうみたいですね」
吹雪「私、雷ちゃんを入渠ドックに運んできます」
天龍「大丈夫かよ?」
吹雪「もしまた同じようなことがあれば私が止めます」
吹雪「このままにしておくわけにはいかないですから」
天龍「そう・・・だな」
吹雪「では」
天龍「おい」
吹雪「はい?」
天龍「俺は吹雪も強いと思うよ」
吹雪「・・・はい」グスッ
天龍「・・・」
ーーエピローグーー
提督「こら、演習といえど気を抜くなよ!」
卯月「ぴょーーん、司令官は固すぎるんだぴょん」
卯月「もっと肩の力をぬい「卯月?」ぴょん?!」
吹雪「いくよ」ゴゴゴゴ
卯月「ふ、吹雪教官」
卯月「ごめんなさいだぴょん!」
吹雪「んー、駄目」ニコ
卯月「」
卯月「し、司令官!助けて!」
提督「・・・は・・はは」メソラシ
吹雪はあれから駆逐艦の間で鬼教官として知れ渡っていた。
誰も沈まなくてもいいように鎮守府全体の意識を変えていこう、それが吹雪が出した答えだった。
一方雷はというと復讐に向かうなんてことはしなくなった。
雷「んしょ、んしょ」
雷「さぁこれで綺麗になったわ!」
雷「電にこの花が似合うと思って持ってきたの」
雷「気に入ってくれると嬉しいわ」
皆が電のことを忘れてしまっても私だけは覚えている。
私だけは側にいる。
寂しがりやな電が向こうで泣いてしまわないように。
天龍「ふぅ、こんなものかな」
自分自身が強くなることで皆を守ると答えを出した天龍は今ではこの鎮守府のエースだ。
出撃の際には必ずかかせないメンバーである。
フフ怖などといじられてきた天龍だが今となってはいじることの出来るものはいなくなってしまった。
天龍「あ?」ギロ
本当に恐ろしいのだ。
迫力が・・・うん。
さて最後に私、提督だが私はあれから電の後を追おうとしていた。
せめて罪滅ぼしになるなら、と。適当な理由をつけて逃げようとしていたのだ。
提督「拳銃は・・・ここかな」ガラ
提督「あれ、どこにしまったっけな」
提督「・・・」
提督「これはなんだ?」
提督「手紙?」
提督「っ!!この字は電の・・・」
ーー司令官さんへーー
直接言うのは恥ずかしくてお手紙を書きました。
司令官さんは私たちをまるで人のように接してくれます。
出撃や遠征の帰りには笑顔で迎えてくれました。
お休みの日には遊園地に連れて行ってくれました。
電はそんな司令官さんが大好きなのです。
そんな大好きな司令官さんを電は守りたいのです。
司令官さんさえいてくれれば電は頑張れるのです!
だからどうかいつまでも元気でいてください。
ーー電よりーー
提督「ぅ、あ。あぁぁぁあああああ」
電が轟沈したと知らせを受けて初めて泣いた。
それからというもの私は少しでも轟沈するリスクを伴う任務は無視
艦隊の強化もぬかりない
ただ変わらないものもあった。
艦娘とのコミュニケ―ションである。
電が大好きだといってくれるそんな私をいつまでも変わらない形で残していこうと、そう思ったのだ。
提督「電、ずっと見守っていてくれ」
提督「もう誰も沈ませやしないから」
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