ルッキーニ「ワタシにできるコト」
劇場版ストパンのその後の話を勝手に妄想
地の文のみ
ワールドウィッチ他、スフィンクス・獅子の魔女のキャラが出てくる、かも。なので、キャラのイメージに違和感を覚えるかもなので、一応閲覧注意です
起きてくださいルッキーニさん。
あまり大きいとは言えない彼女の声でも、意識がはっきりと覚醒するのはスクランブルへの緊張感が一つ。
そして。
「さっむ。さむいぃ」
どれだけ暖気を起こしても消えそうにない寒さのせいなのだろう。
「行きましょうか。ハンガーで整備員の人達がホットワインを作ってくれていますよ」
ベッドの中で戦闘服に着替える私に今日の相棒、ハイデマリー中佐が声をかける。
厚手のスパッツに足を通し、シャーリーから譲ってもらったフライトジャケットを着こんだ私は期待を込めて質問した。
「今日は砂糖が入ってるかな?」
返答の代わりに、困った様な彼女の笑顔。補給は相変わらず滞っている。そういう事なのだろう。
準備を終えた私達は航路の最終チェックを行い、秘密ですよと渡されたホットワインから久しぶりに砂糖の甘さを噛み締める。
「角砂糖四つ、あと俺達の愛情入りです」
オイルで顔を汚した班長の口が二ッと笑う。
「ありがとオッチャン!っよーし、ガソリン入ってきたー!!」
嬉しい気持ちと一緒に、ワタシはちょっとだけ胸を締め付けられる。この“燃料”は、オッチャン達が魔女のために持ち寄った贈り物だって事を、シャーリーに教えて貰ったから。
「ねぇシャーリー、オッチャン達に、お砂糖返した方が良いよね?」
「そう言う時はな、笑っとけば良いんだよ。あ、きちんとお礼は言うんだぞ?」
「でもぉ・・・」
「どうしてもってんなら、元気に飛んで元気に帰って来りゃ良いのさ。それが、一番のお礼になる。な?」
「そうなの?」
「そうさ。さあ行くぞ。イェーガー出ます」
シャーリーはいつも、ワタシに大切な事を教えてくれる。
ストライカーにステップ・イン。ちょっと集中、魔力を込める。ストレーガが咆哮する。魔女と名付けられたワタシの愛機は、今日もネウロイを狩るため目を醒ます。
「ハイデマリー出ます」
タキシングに入ったワタシに先行し、最強のナイトウィッチが滑走していく。横を見ると、ワタシに小さな奇跡をくれるオッチャン達が大きく手を振っていたので、最大の感謝を込めてキスを投げる。
「ルッキーニいくよー!」
いけないいけない。優しいハイデマリーがそんな事をするとは思えないけど、この広すぎるオラーシャの夜空に置いて行かれたら、冗談では済まなくなってしまう。
「待ってよハイデマリー!」
ガリアで再発生した大型ネウロイを撃破したワタシ達は、服部静夏軍曹を仲間に加え(ハイデマリー少佐はワタシ達との緊密な連携を約束した後、サン・トロン基地へ帰還した)残党ネウロイの討伐と訓練の日々に明け暮れていた。
同年六月、オラーシャ中部に存在し、巨大な勢力圏を生み出していたネウロイの巣が直近の航空団によって撃破された。
これと比例する様にカールスラント国境付近へ断続的な威力偵察を行っていたネウロイの動きが弱まり、遂には国を覆っていた暗雲の縮小を確認。
連合軍指令部はこれをネウロイ全体の弱体化と断定し、当初予定されていたカールスラント奪還よりも大きな戦果の、人的資源と栄光の獲得のため、オラーシャ解放作戦[第二次バルバロッサ]を発動した。
東部戦線に配置された既存の部隊を増強し、ネウロイを正面から殲滅。同時に、扶桑・リベリオン合同空母打撃群による砂漠地帯からの大陸打通。二つの作戦から成る[第二次バルバロッサ]決行のため、 オラーシャに配置されたワタシ達は、日夜必死に戦った。
良好とは言い難い環境に苦しめられた物の、ワタシやペリーヌは早くサーニャと祖国解放の喜びを共有したくて、シャーリーや、ハルトマンとだって競う様に戦いスコアを伸ばしていった。
それだけじゃない。ずっとこの地で粘り強く戦っていた専属航空団や、アフリカ・ガリアの激戦を勝ち抜いた装甲魔女の活躍も目覚ましく、その進軍速度は予定を遥かに上回っていた。
これに気を良くした上層部は挙ってプレスを呼び寄せ、ウィッチの活躍を描いた映画が沢山作られた。
「そう銃を構えて、大切な人に向ける笑顔で、そう!そのまま!」
けれど、その日は突然やって来た。
ウラル周辺に存在する東部戦線最大の巣に対して、全軍による総攻撃が間近に迫る九月中旬。
ここに来て上層部の足並みが揃わず、ミーナ中佐の元に訪れていたボニン中佐が「人間偉くなる程、戦争ではなく利権の話をする。急がなくてはならないのに」と不満を溢していたその日の夜に、それは起こった。
突然のスクランブル。
走り回る基地職員達。
最大まで引き上げられた警戒レベル。
理由?最近勢いを弱めていた敵戦線から大規模攻勢が始まったから。
ボニン中佐の予感は、正に的中してしまったんだ。
既に瓦解し始めた前線基地の救援のため、完全武装で出撃したワタシ達は見た。まるで、一つの巨大な生物かの様に蠢き、大地を埋め尽くす紅い光を。
反撃は直ちに、激烈に行われた。電波妨害型に苦戦を強いられたけれど、大型航空ネウロイが小数だった事が幸し、全体で言えば被害を抑えつつ、敵を後退させる事に成功した。
でも、ワタシ達は思い知る事になる。敵を、ネウロイを畏敬しなくては駄目だったんだと。
補給のため立ち寄った基地で、蒼白となった兵士から、震える声で伝えられた情報は、私達を打ちのめした。
「超大型を含む敵大編隊の攻撃により合同艦隊が壊滅的な被害を受け、現在海域より離脱中」
駆け出すヨシカを止めるのに、ワタシ達は一苦労だった。
当然だよね。
その艦隊には航空参謀として坂元少佐が。そして、オラーシャに来て漸く部隊と仲良くなれたシズカが戦闘員として501から派遣されていたのだから。
けれど、状況はヨシカに泣く時間も与えてくれなかった。
東部戦線全域で、ネウロイの逆襲が始まったからだ。しかも、次は大型航空ネウロイの大群付きで。
戦線の崩壊まで半日も掛からなかった。救援要請が魔女の数を遥かに上回っていて、間に合わず全滅する部隊が続出した。
溢れ出す黒い濁流を切り崩す力は、もう、残されていなかった。
一週間に渡る戦闘で、ウラル手前まで迫っていた連合軍は、1945年から築いたオラーシャでの優勢、その大半を失った。
こんな噂まで流れた。
「恐怖に取り憑かれた将校が、逃げ出そうとして処刑されたらしい」
繰り返される激戦で、日に日に疲労を貯めたワタシ達は、寝付きの悪い夜を過ごしながら、今もこの地で踏み止まり戦っている。
「素晴らしい援護でしたルッキーニさん。射撃、得意なんですね」
MG151の銃口から上がる煙を引きながら、ハイデマリーがワタシに微笑む。
「凄いでしょ凄いでしょ。リーネが来るまではワタシが一番だったんだよ、501で」
「リーネさんは固有魔法が射撃管制でしたよね?」
「弾道を見る事が出来るんだって。前せーそーけんにネウロイが出た時ね、サーニャが戦う事になってね、エイラがシールド張れないーって言ってね、ペリーヌがサーニャの変わりになってね、それでね」
哨戒の帰り、小型爆撃ネウロイの編隊を捉えたワタシ達は、ハイデマリーの固有魔法で付近に別の敵勢力が存在しない事を確認してから、それを急襲した。
横っ腹から二掃射。敵編隊があっという間に銀色の破片へ姿を変える。反撃は無し。完璧な戦果。
「・・・で、サーニャがエイラを連れて帰って来たんだー。サーニャ王子様みたいでスッゴいかっこ良かったよ」
「それ、エイラさんにも言いました?」
「言った言った。そしたらね“サーニャが王子ぃ?・・・つまり私がお姫サマ!?さ、サーニャに責めらるのカ。ん?・・・悪くない、悪くないゾ・・・”だって。サーニャも大変だよねー」
「ふふふっ、ルッキーニさん物真似、上手い」
「ほんとー?あ、ペリーヌの物真似もできるよ!んとねぇ」
朝日に照されるハイデマリー少佐の笑った顔。恥ずかしがり屋で、ちょっと引っ込み思案で、戦闘では恐い程に冷静な夜の女王。
本人は心配してたみたいだけど、みんなと打ち解けるのはあっという間だった。
ハルトマンいわく“なーんかほっとけないんだよねー”らしい。
うん、ワタシも同感。
「うう、いっぱい喋ったら・・・」
お腹をぽんぽん叩くと、今度はぐうとベルが鳴った。
「私もです。今日はリベリオンの缶詰めも美味しく食べられそう」
控え目に鳴ったお腹を労るハイデマリーは、ちょっと恥ずかしそうだ。
「でもちょっと飽きたよねー。あーあ、ヨシカの料理が食べたいなぁ」
「昨日ハルトマン中尉も言ってました。・・・それ程の?」
「そうだよー!えーっとね、あれが効いてるんだよー。ダシってやつ?」
「ロマーニャ出身のルッキーニさんが言うんですから、とても美味しいのですね」
「うんっ!!」
ふっと、ハイデマリーの表情が沈む。
「早く、元気になってくれたら、良いんですけど・・・」
「・・・うん・・・・・・」
そう、今の501にヨシカは居ない。
戦闘での負傷、無理な出撃、必要とされる治癒魔法、頑張っても頑張っても、間に合わず死んで行く兵士達。
ついにヨシカは高熱を出して、倒れた。
みんなが自分達を呪った。殴ってでも止めるべきだったんだって。
シズカや坂元少佐の無事が分かって、ハイデマリーが501にやって来た。よーし、反撃だ!・・・そんな時の出来事だったから、ワタシ達はとっても大きなショックを受けた。あのハルトマンが、スコアを落とすくらいに。
ヨシカが抜けてしまった事や、休む暇の無いスケジュールで、本当に疲れてしまって、最悪な雰囲気だった501。そんな私達を支えてくれたのは、一番辛いはずのペリーヌとリーネだった。
時間の合間を見てはヨシカに会いに行く。生気も、目覚める気配も無いその寝顔を見て帰ってくる。そんな事をみんなが繰り返していた中で、二人は戦場と基地を行ったり来たり。たまの休みもミーナ隊長や職員の雑務を手伝って、後は訓練しておしまい。
何も変わらないオラーシャの日常が、二人の周りにあった。
・・・・・・まるで最初から、ヨシカがいなかったみたいに。
ワタシは、そんなリーネとペリーヌが、少しだけ嫌いになりかけた。だってあの二人だけが、ヨシカのお見舞いに行ってなかったから。
ワタシの心は、嫌な疑問でいっぱいになった。
二人は一番の友達じゃなかったの?もう、ヨシカの事を忘れちゃったの?
「芳佳ちゃんの心配は誰にでもできる。けど、変わりに戦う事は、私達にしかできないから」
救援要請を受けて、ハンガーでストライカーを履いたリーネが、感情をぶつけるワタシの質問に答えた。
いつもみたいな、ちょっと頼りない、そして優しい笑顔で。
「ルッキーニさんは、あんな事で宮藤さんが負けてしまうと思うかしら?」
リーネの隣で、すでに機材のチェックを終えたペリーヌがワタシに質問した。
ヨシカが負ける?
どんな時も諦めなかったヨシカが負ける??
失った魔力を取り戻す。そんな、本当の奇跡を見せてくれたヨシカが?
「彼女が負けるなんて、これっぽっちも思えない。ですわね?」
気持ちを言い当てられ、ワタシはびっくりした。
「なんっ、なんで?」
「ふふ、顔に書いてありましたわよ?・・・・・・私もルッキーニさんと同じ気持ちです」
穏やかな声。けれど、その瞳には強い光りがあった。
「うん・・・・・・うんっ!」
「ならば、私達がするべき事は、あの人が帰って来た時のため、少しでも戦況を良くしておく事。そうは思いません?・・・基地をお願い致しますルッキーニさん」
出撃。駆け抜ける二人の背中が見る見る小さくなる。
ワタシは不安が綺麗さっぱり無くなった嬉しさと、どうしてこんなことに気付けなかったんだろうと言う悔しさで胸がいっぱいになっていた。
落ち込んで、戦う力を弱めてしまうなんて、ヨシカは絶対に望まない。そんな、簡単なことに。
さっそくみんなに今日の事をお話ししなくちゃいけない。
501がもう一度、敵と戦える力を取り戻すために・・・。
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「あの時は皆さん驚いてましたよ。基地内放送でスクランブル以外の、それもルッキーニさんの声が聞こえてきたんですから。・・・あ、これ美味しい」
帰還後デブリーフィングを終えたワタシ達は、ペリーヌが作ってくれたガリアの料理を食べながら少しだけゆっくりとした時間を過ごしていた。
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