2019-06-07 21:52:08 更新

概要

ガヴ→ヴィーネ→タプリス の、少し切ないお話です。
昔SS速報で書いた物を、少しでも多くの人に見てほしくて引っ張ってきました。


ヴィーネ「ちょっとガヴ! 何よこの部屋! 足の置き場がないどころか、ちょっとした迷宮みたいになってるじゃない!」

ガヴ「おぉ、ヴィーネ……。よくぞこの『ダストダンジョン』をクリアした……」

ヴィーネ「何それっぽく命名してんのよ!」

ヴィーネ「もう、とっとと片付けるわよ!」

ガヴ「ちょっと待って、あと二ターンで勝てるから」

ヴィーネ「あんた勝ったら次の試合に行くじゃない……」ブチッ

ガヴ「あー!! 何回線切ってくれてんだ! しかも物理的に!」

ヴィーネ「こうでもしなきゃ私がキレそうなのよ! ほら、早いこと片付けてすっきりしましょ」

ガヴ「この恨み絶対忘れないからな……」

ガヴ(まぁ、でも……)

ヴィーネ「よいしょっ、わっ、何この袋!? 手触り気持ち悪いのに重い!?」

ガウ(こうやって、ヴィーネを近くで見られるのは、悪いことじゃないよな)

ヴィーネ「……ちょっとガヴ、何ニヤニヤしながら見てんのよ」

ガヴ「ニヤっ!? し、してないそんな顔!?」カァァ

ガヴ(やっべー! 表には出さないように、っていつも思ってたのに……)

ヴィーネ「……まさか、あんた……」ズイッ

ガヴ「ちょ、ちか、近いって……」

ガヴ(もしかして、ヴィーネの奴、今ので私の気持ちに気付……)

ヴィーネ「このゴミ袋、あんたが仕掛けた罠ね?」

ガヴ(いたわけないよな。鈍感だし)

ガヴ(ともかく、言い訳できるネタが出来て良かった)

ガヴ「そう、そうなんだよ~。汚い物嫌いなヴィーネが触ったらどんな反応するかな~って。想像通りの反応してくれてほんと嬉しいよヴィーネ。うん。ほんと。ただの出来心だからその袋広げてこっちに近づいてくるのやめていただけないでしょうか!?」

ヴィーネ「問答無用!」バサァ

ガヴ「うぎゃああああ…………」


ガヴ「ヴィーネの奴、濡れ衣に対しての罰が重すぎるだろ……」

ガヴ(でも、今日も楽しかった。いつも通り、楽しかった)

ガヴ(……いつも通り、か。ヴィーネを好きなことが、私にとっていつも通りになってるなんてな)

ガヴ(それもしょうがないのかな? だって、好きだって分かっても、出来ることも、したいことも何もない。)

ガヴ(キスとかハグとか、私の気持ちを受け入れられなくても良いとか、特別なことを全くしたくないっていうなら、そりゃあ嘘だけど)

ガヴ(それより私は、ヴィーネといつも通りを過ごせる方が、何倍も嬉しい)

ガヴ(私の体たらくにため息をつくヴィーネ。でも何だかんだ面倒を見てくれる、世話好きで優しいヴィーネ。良く分かんない行事ごとを、キラキラした顔で誘ってくるヴィーネ。私といて、スゴく楽しそうなヴィーネ……)

ガヴ「ふふっ、ふふふふっ……」

ガヴ(いや何笑ってんだ私! 気持ち悪いぞホント……)

ガヴ(とにかく、そんないつも通りが、ヴィーネと過ごす、私だけの特別ないつも通りが、私にとって一番大切で)

ガヴ(それはきっとヴィーネも同じ。ヴィーネも私のことが一番大切に違いないから)

ガヴ(そんな大切ないつも通りを過ごせる瞬間が、私は一番幸せ……)

ガヴ「なんて、ガラじゃないなこんなこと。寝よ寝よ」


 月日。


ガヴ「……やっと皆帰ったな」

ヴィーネ「教室がもぬけの殻になるのって意外とかかるのね。皆ガヴみたいにさっさと帰るものだと思ってたわ」

ガヴ「で、私になんの相談なんだ? なるだけ手短に話してくれよ」

ガヴ(まぁ、こんな用心して話してる時点で、ただ事じゃないのは分かるけどさ)

ヴィーネ「……ガヴ、真剣に聞いてくれるって約束して」

ガヴ「はいはい。分かってるから早く話してよ」

ガヴ(一体何事なのか、気になってしょうがないじゃんか……)

ヴィーネ「あのね、ガヴ。私、実は……」


ヴィーネ「好きな人がいるの」


ガヴ(頭の中が、一瞬真っ白になる感覚)

ガヴ「……はっ、何だよ、何だよそれ……!」

ガヴ(その突然の告白に、私は堪えられなかった)

ガヴ「ぶふ~!!ふふ、ひゃ、あはははははは!!!!」

ヴィーネ「ちょっ、何で笑うのよ!?」

ガヴ「いや、ヴィーネが恋って! 誰か好きな人がいるって! なっはは、変なの、バッカみてえ。くくくく……」

ヴィーネ「もう、こんな真剣な話、ガヴにするんじゃなかったわ……」

ガヴ「ごめんごめん、で、一体誰のことが好、ぶふっ、くっくっくっ……」

ヴィーネ「何またツボに入ってるんじゃ!」

ガヴ「はははは、あぁ、笑い過ぎて苦しい……。ヴィーネ、私の健康のために今すぐそいつ嫌いになって……」

ヴィーネ「出来るかアホ!?」


ガヴ「危うくヴィーネに殺されるところだった……」

ヴィーネ「死因恋バナなんてそれで良いのアンタ」

ガヴ「で、その好きな人って一体誰のことなんだ?」

ヴィーネ「えっと、人というより天使なんだけど」

ガヴ(相談相手が私って時点で私じゃないことは確か)

ガヴ(ラフィはサターニャにぞっこんだし、そうなると消去法的に……)

ガヴ「タプリスか」

ヴィーネ「!? !?!?!?!?!?!?!?」

ガヴ「世界の終わりを見るような目で見るなよ。ラッパ吹くぞ」

ヴィーネ「そう、タプちゃんのことが好き。あんまりはっきり言わないでよ……」

ガヴ(一気に頬が上気して、おどおどしだした。こりゃ本物だな……)

ヴィーネ「せんぱいせんぱいって、私を慕ってくれるの。それがもう可愛くて可愛くて……」

ガヴ「ノロケなら帰る」

ヴィーネ「待って! 違うの、ガヴには協力してほしいの」

ガヴ「協力?」

ヴィーネ「そう。私、タプちゃんに告白したいの。でも一人じゃガチガチに緊張しちゃって、気まずくなっちゃうかもしれないから、ガヴに一緒に来てもらいたくて……」

ガヴ「いいよ」

ヴィーネ「うん、やっぱりダメよね。引きこもりのあんたが外に出て来るとは思えないし……」

ガヴ「いや、だから別に良いって……」

ヴィーネ「それに引きこもりってリア充爆破しろ~とか思うんでしょ? そりゃ無理も無いわよね、一人で頑張ることにするわ……」

ガヴ「どんだけ信用無いんだよ私!? 普通『引きこもりのアンタが……』の辺りでえっ? って気付く流れだろうが!?」

ヴィーネ「えっ、良いの!? 本当に!? どうして!?」

ガヴ「別に、ただの気分だよ。それに、告白しようとあたふたするヴィーネとか、ちょっと見てみたい気もするし」

ヴィーネ「ガヴらしい、優しさの欠片もない理由ね……。でも助かるわ。本当にありがと」

ガヴ「お礼はまだいいよ。それで、一体いつにするつもりなんだ?」

ヴィーネ「そうね……。プランとかセリフとか色々練りたいし、一ヶ月位を目安に……」

ガヴ「長い。タルい。明後日な。ほら、タプリスに連絡しといたから」

ヴィーネ「はああああ!? ちょ、何やってくれてるのアンタ!? 二日でどうにか出来る訳ないじゃない!?」

ガヴ「いいや、こういうのは電撃勝負だ。長いこと燻れば燻るほどろくなことにならないからな」

ヴィーネ「知った風な口叩くわね……」

ガヴ「あ、タプリスから返事来た。『わぁ~、是非行きます、お誘いありがとうございます!』だってさ。果たしてお前に、タプリスの期待を先延ばしできるかぁ?」

ヴィーネ「あぁもう分かったわよ! 明後日、いつもの喫茶店ね!」

ガヴ「うい決まり~。じゃ、また日曜日な~……」

ヴィーネ「覚えてなさいよガヴ……ガヴ? 帰らないの?」

ガヴ「あのさ、一つだけ教えてよ。なんで私なんだ?」

ヴィーネ「なんで……。誰に頼ろう、って考えた時に、ガヴが一番最初に浮かんで、一番しっくりきたから、かしら」

ガヴ「そ、一番ね……」

ヴィーネ「それに、天使を好きになったとか、女の子を好きになったとか、そういうところを気にも留めないだろうなぁ、って思ったから」

ガヴ「……当たり前だろ、そんなの」

ガヴ(私だって、同じなんだからさ)


月日。


ガヴ「いや、なんで私が一番乗りなんだよ……」

ガヴ(遅れないように、とか変な使命感抱くんじゃ無かった……)

ガヴ(それにしても、これって失恋に入るんだよな、一応。なのに、心は意外と穏やかだ)

ガヴ(まぁ、理由なんざ、考えなくても分かるけどさ)

ヴィーネ『ガヴが一番初めに浮かんで、一番しっくり来たから……』

ガヴ(私はヴィーネの一番なんだ。たとえヴィーネが他の誰かを好きになったって、あくまで一番は私なんだから)

ガヴ(なら何にも、戸惑う必要なんてないよな)

ヴィーネ「あ、ガヴ! 早いわね、もう来てたの?」

ガヴ「時間調整ミスっちゃって……。って、タプリスも一緒なのか?」

タプ「はい! くる途中でばったり会ったので!」

ガヴ「ばったりって、お前タプと道一緒だったっけ……」

ヴィーネ「しー! それ以上言わないでガヴ!」

ガヴ「あぁ、さいですか」

ガヴ(わざわざ待ち伏せだなんて、こりゃいよいよガチだな)

ガヴ(そっか、そんなにあいつに惚れ込んでるんだな……)ズキッ

ガヴ(……?)

ガヴ(何だ、今の……?)

ヴィーネ「ま、折角早く揃ったんだから行きましょ。あの喫茶店ってもう開いてる?」

ガヴ「まだちょっと早い。まぁでも大丈夫だろ。ちょっと脅……お願いすれば開けてくれるだろうし」

ヴィーネ「手荒な真似はやめてちょうだいね……?」


マスター「天真君がお友達を連れて来るなんて珍しいね。ご注文は?」

ヴィーネ「ブレンドコーヒーください」

タプ「わ、私も同じものを!」

ガヴ「私はジンジャエールで」

マスター「かしこまりました」

ガヴ「二人ともコーヒーで良かったのか? あんな良く分からん飲み物で……」

ヴィーネ「良いじゃないここのコーヒー。私一番好きよ」

タプ「そんなにおいしいコーヒー何ですか?」

ヴィーネ「えぇ! 期待は絶対裏切らないわ!」

タプ「そうなんですね! 楽しみだなぁ……」

ガヴ(この二人、趣味合うんだなぁ……)

タプ「ところで天真先輩、きちんと生活してますか?」

ガヴ「余計なお世話だ」

タプ「相変わらずみたいですね……一体、以前の天真先輩はいずこへ……」

ヴィーネ「最近輪にかけて酷いのよ。聞いてよタプちゃん、この前なんてゴミ積み過ぎて一種の迷路みたいになってたのよ」

タプ「なんですかそれ!? 最早ニュースになっちゃうレベルじゃないですか!?」

ガヴ「いや、流石にニュースには……」

ヴィーネ「本当よ。お昼の番組位ならまだしも、夜七時のニュースとかに取り上げられちゃ顔を上げて生きていけないわ……」

タプ「そんなことになったら、最悪下界追放なんてことに……」

ガヴ「わ、私の話を私抜きで盛り上がるな! 流石にそんな惨事になる前にきちんと片付けるよ!」

ヴィーネ「良かった、最低限の清潔感はあるのね……」

ガヴ「ヴィーネが!」

ヴィーネ「誰がするか!?」

ガヴ(なんだ、この気持ち)

ガヴ(話せば話すほど、この二人から……いや、ヴィーネから距離が離れて行くような、訳分かんねえ……)

マスター「お待たせ様。コーヒー二つと、ジンジャエールだよ」

ガヴ(そういえば、私だけコーヒーじゃなかったな……)

タプ「わぁ、月乃瀬先輩の言った通り、本当においしいです!」

ヴィーネ「でしょう? ここのは何というか、コクが違うのよね」

タプ「コク? コク、コク、うーん……」

ヴィーネ「タプちゃん、コクって首をコクコク傾けることじゃないわよ」

タプ「わ、分かってますよお!」

ヴィーネ「あっはは、ごめんなさい」

ガヴ(……たかがジンジャエールに、コクもへったくれもないよな……)

ガヴ(何だよヴィーネの奴。全然、タプリスと向き合えてるじゃねえか)

ガヴ(これじゃあ一体、何のために来たんだよ、私……)

ガヴ(あぁもう! 何でさっきからこんなに憂鬱になってるんだ!)

ガヴ(私無しで盛り上がってるから? 私の知らない話題を共有しているから? そんな様子を、見せつけられ続けてるから?)

ガヴ(そんなことどうでも良いはずなのに。私は、ヴィーネの一番でいられるなら何でも良いはずなのに!)

ガヴ(……本当にそうか?)

ガヴ(今の私は、本当にヴィーネの一番なのか?)

ガヴ(今日ここに来て、ヴィーネは凄く楽しそうだ。あんな楽しそうなヴィーネ、見たことない)

ガヴ(少なくとも、私と過ごしてきた時間の中では、一度も……)

ガヴ(ヴィーネは私と違って気分で生きていないから、私とは違う種族だから、私みたいに恋に浮足立たない人だと思ってた)

ガヴ(種族なんて頼りにならないって、自分で一番わかってるくせに。ヴィーネがただの生真面目人間だったら、ここまで好きになるはずなんて無いって、ちょっと考えれば分かるのに)

ガヴ(ヴィーネだって、同じなんだ。恋する気持ちは何よりも強いし、恋した相手は、世界一大切な存在になるんだ)

ガヴ(私はもう、ヴィーネの一番じゃないんだ……!)

ガヴ(そんなの、そんなの…………!!!)


ガヴ(気付けば、やり場のない怒りの矛先を、机に目がけて叩きつけていた)

ガヴ(台パンなんて日常的にやってたから、そのこと自体への抵抗は、割となかったけど)

ガヴ(二人が驚いた顔で、私を見てる)

ガヴ(愚かな私は、それでようやく、物事の重大さを悟った)

ガヴ(ヴィーネの告白の場を、私の身勝手で潰してしまった)

ガヴ(このまま行けば、確実に良い雰囲気で終えられた、確勝のステージだったのに)

タプ「あっ、天真せんぱい! 待ってください!」

ガヴ(タプの静止にも拘わらず、私はトイレへ逃げ込んだ)

ガヴ(ヴィーネに合わせる顔がない。取り返しの付けようがない)

ガヴ(そして、空気が険悪になって、せいせいしている自分が情けない……)


ガヴ(最低だ、私……)

ガヴ(何も手伝わないどころか、良い雰囲気を台無しにして)

ガヴ(ヴィーネ、絶対私のこと嫌いになったよな……)

ガヴ(どんな顔してヴィーネと向き合えば良いんだ)

ガヴ(ヴィーネ無しで、私はどうしたら良いんだ……)

ヴィーネ「ガヴ! ガヴリール!! そこにいるの?」ドンドン

ガヴ(来た。思ってたより、ずっと早かった)

ガヴ(覚悟は出来ないけど、そんなこと言う権利、私にはない)

ガヴ(ヴィーネの罵言で傷つこう。それをせめての罪滅ぼしにしよう)

ヴィーネ「ガヴ、あんた……」

ガヴ「……何」

ヴィーネ「何か、辛いことでもあったの?」

ガヴ「……は?」

ヴィーネ「昨日ネトゲで何か嫌なことでもあったの? それともちゃんと寝れなかったとか。もしかして、私が何か変なことしちゃったとか……」

ガヴ「待てよ、待てよヴィーネ!」

ガヴ「なんで私の心配なんかするんだよ! 一世一代の告白の場を台無しにしたんだぞ! 折角上手く行ってた空気を台無しにした極悪人なんだぞ! なんでそんな優しくするんだよ、なんでだよ……!」

ヴィーネ「告白なんて。私の勇気次第でこれから、いくらでもチャンスは掴めるじゃない。別に構わないわ」

ガヴ「嘘だ! そんなに飄々と割り切れるもんか! いつも散々に迷惑かけて、ここぞって極致でも横槍入れて、本当は八つ裂きにしたいほど憎いんだろ。正直に言ってくれよ! お願いだよ、ヴィーネ……」

ヴィーネ「……何よ、自分をひたすらに責めて。らしくもないわね」

ヴィーネ「確かに、告白のチャンス云々は、ちょっと嘘ついた。でも、別段気にしてないのも本当なの」

ヴィーネ「自分の恋より、私はガヴがこんなことを気に病む方が辛い。ガヴがいつも通り、幸せそうにいてくれる方が、私は嬉しい」

ガヴ「……どうして?」

ヴィーネ「アンタも言ってたじゃない。理由なんてない、ただの気分。そうなってほしいって思わずにいられないから。それ以上の理由なんて、あるもんですか」

ガヴ「……何だよ……」

ガヴ(こんな立場なのに、心が温かくて、しょうがない)

ガヴ(そうだ、私は元より、ヴィーネの恋を叶えるためにここに来たんだ。理由はこの気持ちへの恩返しってことにすればいい。ガラじゃないなんて、知った事か)

ガヴ(私はヴィーネのキュービットになる。天使様が傷ついてお詫びなんて、呑気なこと言ってられるか!)

ガヴ「お、驚かして悪かった、ヴィーネ!」

ヴィーネ「別にいいわよ。それより、大丈夫なの?」

ガヴ「あぁ、実は最近風呂に入ってなくてさ、朝から小蠅が鬱陶しかったんだ。それで、地獄に送ってやろうかと思って、ありったけの力を込めて、そんで、ばーん! って」

ヴィーネ「何その理由!? 風呂入れ! 誤解を招くように潰すな!?」

ガヴ「やー、悪い悪い! 今手洗うのに忙しいから、先戻っててくれよ」

ヴィーネ「はいはい……タプちゃんにもそう言っておくわ。あの子、あんたの豹変に怯えてたんだからね」

ガヴ「っ……良いから、早く行けって」

ガヴ(全く、タプリスの名前が出ただけで狼狽えるキューピッドが、この世のどこにいるんだよ……)


タプ「て、天真先輩! その、大丈夫ですか?」

ガヴ「わりーわりー、ヴィーネがいなかったら風呂入るのも億劫でさぁ」

タプ「もう、天真せんぱいは月乃瀬せんぱいに頼り過ぎですよ!」

ガヴ「でもさ、ヴィーネにも一因はあると思うんだよ。いつもあーだこーだ言ってくれるお陰で、ついつい自分でやろうって自覚が無くなってきちゃって……」

ガヴ「でも本当に面倒見が良くて優しいんだよなーヴィーネは。きっといいお嫁さんに、なれるだろうなぁ~……」

ヴィーネ「ちょっとガヴ! いくら何でも露骨じゃない、タプちゃんに怪訝な目で見られたら……」

ガヴ「大丈夫大丈夫、事実そうなんだし、それに……」

ヴィーネ「天馬先輩からそんなに褒められるなんて……! やっぱり月乃瀬せんぱいはスゴいです!」

ガヴ「こいつほんとに単純だから」

ヴィーネ「何か、悪徳商売やってる気分だわ……」


ガヴ「おーいマスター、おかわりー」

マスター「はいはい、何にするんだい?」

ガヴ「私はLサイズのコーラ。二人は?」

ヴィーネ「私はコーヒーにしようかしら」

タプ「私もそうします」

マスター「かしこまりました」

ガヴ(マスター、それと、ストロー二本、持ってきてくれない?)ヒソヒソ

マスター(二本? 別に構わないけど……)ヒソヒソ

ガヴ「じゃ、大至急よろしく」

マスター「お待たせ、コーヒー二つと、Lサイズのコーラだよ」

ヴィーネ「ありがとうございま……」

ガヴ「あー悪い二人とも! 何か知らんが急にコーヒー二杯飲みたい気分になっちまったー!!」ガサッ

ヴィーネ「え、ちょっと!? 私たちの分の飲み物は!?」

ガヴ「しょうがないなー、じゃあ特別にこのLサイズのコーラを進ぜよう。お、ちょうどストローも二本ある! いやぁ気が利くなぁマスターは!」

マスター「え? いや、そのストローは天馬君のお願いじゃ……」

ガヴ「いやー! ここのマスターが、こんなに気の利いた、渋いマズターでほんとに良かったなぁ~!!」

マスター(……もしや私、今若者の称賛を一身に受けようとしている!?)

マスター「ふふ、さしでがましいことかと少々不安だったのだがね、お気に召したようで何よりだよ」キリッ

ガヴ(笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ……)

タプ「でも天真せんぱい、ストローが二つあっても飲み物が一つだけじゃ意味なくないですか?」

ガヴ「大丈夫大丈夫、ちゃんと飲める方法があるから。な、ヴィーネ!」

ヴィーネ「へっ!? あ、や、確かにあるといえばあるけど、でも……」

タプ「どんな方法なんですか? 教えてくださいせんぱい!」

ヴィーネ「うっ、ぐ……ぜ、絶対退かないでねタプちゃん。つまりこうやってストローを差して……それから向かい合って……」

タプ「ふぇっ!? で、でもそれって……」

ヴィーネ「そ、そうよねこんなの、嫌に決まってるよね!」

タプ「……ですっ」

ヴィーネ「……えっ?」

タプ「月乃瀬せんぱいとなら、その、嫌じゃないです!///」

ヴィーネ「そ、そっか。私も、タプちゃんとなら構わないっていうか、寧ろ……///」

タプ「……///」ヴィーネ「……///」

タプ「じゃ、じゃあ、お邪魔します……」

ヴィーネ「え、えっと、お邪魔されます……」

ガヴ(……全く、良い雰囲気ですこと)

ガヴ「……マスター」

マスター「ふふ、どうしたのだいお嬢さん」

ガヴ「今日のコーヒー、いつにも増して意味わかんない」

マスター「ええっ!? さっきあんなに褒めてくれたのに!?」


ガヴ(……出来る限りのことは、やった)

ガヴ(露骨なくらいヴィーネをアピールしたり、ワガママを装って二人の距離を近づけさせたり、それをからかって意識させたり……)

ガヴ(これが最善策かどうかは分かんないけど、でも)

タプ「……せ、せんぱいっ」

ヴィーネ「ど、どうしたの、タプちゃん」

タプ「あ、ええっと、えっと、何でしたっけ……」

ガヴ(あーもうどんだけ照れくさがってんだこいつら! 私の方が照れくさくなるわ!)

ガヴ(ったく、ここまでお膳立てしてやったら、もういいだろ)

ガヴ「じゃ、私もう帰るよ。後はお二人さんで……」

ヴィーネ「えっ、ま、待って、ガヴ!」

ガヴ「なんだよヴィーネ」

ヴィーネ「今二人きりはちょっと気まずいから……。まだ一緒にいて、お願い」ヒソヒソ

ガヴ(だーもうこのニブチン! タバコにでもしてやろうか!)

ガヴ「あのなヴィーネ、お互いがお互いを意識しあい、なおかつ邪魔者がちょうどいなくなって二人きりの今! 勝負を仕掛けるには絶好の機会なんだよ」

ヴィーネ「で、でも、やっぱりいくら何でも早すぎるんじゃないかしら? もうちょっと親睦を深めてからの方が……」

ガヴ「この期に及んで何言ってるんだお前!」

ガヴ「いいか、よく聞けヴィーネ。恋なんて燻れば燻るほどろくなことにならないんだよ! 親睦なんて後でじっくり深めりゃ良いじゃねえか、順番違いでも最後に笑えりゃそれで良いじゃねえか! もしあれこれ手をこまねいてる内にタプがどこの誰かも知らん馬の骨に取られたらどうすんだ!」

ヴィーネ「ガヴ……」

ガヴ(頼むよヴィーネ、ヴィーネだけは、こんな馬鹿みたいな気持ちになってほしくないんだよ……)

ガヴ「ほら、タプリスがこっち見てるから、早く行って来いよ」ドン

ガヴ「私はゲリラクエストの時間が来たから帰ったとか、適当に誤魔化してくれて良いからさ」

ガヴ「頑張れよ、ヴィーネ」

ヴィーネ「………………うん」


ガヴ(……まあ、そう言っても、扉の陰から見てんだけどさ)

ガヴ(ここでサクっと帰って、明日結果を聞き流し出来たらカッコよかったんだけど)

ガヴ(んなこと出来たら端っから苦労無いわな)

ガヴ(ヴィーネが席に戻った。二言三言、多分私がいなくなったことの言い訳を、身振り手振りで話してる)

ガヴ(……黙った。また気まずい時間だな)

ガヴ(でも、ただ黙ってるだけじゃない。ヴィーネは狼狽える時は相手の顔色を窺う。今のヴィーネは、頭を垂れてじっとしてる)

ガヴ(私の希望的観測かもしんないけど、きっとあれは、告白の策を練ってる仕草だ)

ガヴ(……ヴィーネが前を向いた! そうだ、行け、頑張れ、ヴィーネ!!)

ガヴ(何か話し出した。こっからじゃ聞こえないけど、あんだけ必死に言葉を紡いでるなら、きっと……)

ガヴ(今度はタプリスが俯いた。何か言い澱んでる。まるで我慢している言葉を、我慢せずとも言える響きに変えてる途中みたいに)

ガヴ(タプが顔を上げた。どもりどもり、ヴィーネに何か告げてる。顔が赤いのは、きっと斜陽のせいじゃないはずだ)

ガヴ(ヴィーネの身体が跳ねる。肩が震えだして、袖で目元を拭う。タプリスがその様子に慌てふためきだす)

ガヴ「何やってんだあいつら……」

ガヴ(落ち着くまでちょっと時間がかかった。かと思いきゃ、今度はどちらからともなく、頭を下げ始めた。)

ガヴ(本当に何やってんだかなあいつら……)

ガヴ(でも良かったじゃん、ヴィーネ。これからたくさん、親睦を深められそうでさ)


ガヴ「うわ、雪降りやがった……。帰るのめんどくさくなりそうだな……」

ガヴ(夜初めの薄暗さと画素の荒い雪の白が、何だか妙に眩しい)

ガヴ(告白成功の日にこんな景色が見れるなんて、随分ロマンチックなことで)

ガヴ(しかし、全部終わって、落ち着いて色々思うと、私もヌケてるよな)

ガヴ(私を大事だって言ってくれたあの時、その優しさに付け込んで告白してしまえたら良かったのに)

ガヴ(天使とはいえ堕落した身なんだから、略奪婚位、訳ないはずなんだけどな)

ガヴ(……まあ、そうは言ってもちっとも後悔してない辺り、多分私も、ヴィーネが幸せでいてくれる方が幸せなんだろう)

ヴィーネ「ガヴ! アンタ帰ったんじゃ無かったの?」

ガヴ「気晴らしついでの散歩だよ。たまたま通りかかっただけだ」

ヴィーネ「それより聞いてガヴ! OK貰えたわ!『友達からで良ければ、こちらこそ』って!」

ガヴ「あーはいはい、良かったね」

ヴィーネ「それでね、思い切って家に来ないかって誘ってみたら是非行きたいです、って! だからこれからお泊りするの」

ガヴ「あー良かった良かった。ほんと良かった」

ヴィーネ「どれもこれも、全部ガヴのお陰よ」

ガヴ「もう良いから、そろそろ帰りたいんだけど……」

ヴィーネ「……ねえ、ガヴ」ギュッ

ガヴ「ん……っ!?」

ヴィーネ「ガヴ、ありがとう。本当にありがとう。ガヴがいたから告白する勇気を出せた。ガヴがいたから上手くいった。ガヴがいてくれて、ほんとに良かった」

ヴィーネ「ガヴ、大好き」

ガヴ「……おいおい、タプリスに誤解されたらどうするんだよ」

ヴィーネ「友達へのハグくらい、タプちゃん目くじら立てないわよ。多分」

ガヴ「多分て……」

ガヴ(そう、これはあくまで感謝のハグ。ただの、友愛のハグ。それ以上の意味なんて微塵も無い)

ガヴ(そんなの、重々分かってる)

ガヴ(でも、今くらいこうやってても、バチは当たんないよな?)


ガヴ(きっと、ヴィーネとの関係は変わってしまう。私と過ごす時間の大部分は、あいつに取られちまう。ヴィーネの一番も、きっとあいつのものだ)

ガヴ(でも、それはあくまでもっと大切なものが出来ただけ。ヴィーネが私のことを想ってくれる、その気持ちの中身は今も、これからも変わらない。それなら私は、充分幸せ者だ)

ガヴ(ガラじゃないけど、そう思おう)

ガヴ(私には、これだけで充分幸せだ)


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