凛「猫の恩返し。」
昔話をちょっといじったお話です。某所にもすでに投稿したものですが…
にこ「…立派な墓は立ててやれないけど…これで我慢してね、りん。」
希「あの子がここに来たのは17年前やったっけ。今でも覚えてるで、にこっちが雨の日に子猫やったあの子拾ってきたときのこと。」
にこ「…そんなこともあったかしら。」
希「でもまあ、この子がいた17年、うちも賑やかになったよね」
にこ「そうね、これからはちょっと寂しくなるわね。」
希「…またときどきお参りに来ようね。」
にこ「ええ。…今までありがとう、ゆっくり休んでね、りん。」
希「おやすみ、りんちゃん。」
ーその日の晩ー
(もぞもぞ)
「(…待ってて、にこちゃん、希ちゃん!)」
ー数日後、夕方ー
<ピンポーン♪
にこ「ん?」
<ピンポーン♪
にこ「はいはーい」がちゃっ
にこ「…?」
にこ「なによ、誰もいないじゃない…子供のイタズラかしら…って、ん?」
???「にゃーお」
にこ「り…ん…?」
???「?」
にこ「(…なわけないか。でもあいつとよく似てるわ)」
にこ「…ほら、おいで」
???「にゃぁ…ゴロゴロ」
にこ「(…人懐っこいとこもあいつそっくりね)」
りん「にこちゃん、おひさしぶりですニャ!」
にこ「おわああぁぁっ!?!?」
にこ「は!?!?ね、猫が…喋った!?」
りん「あっ、びっくりさせてごめんなさい。実は……」
希「にこっちー、どしたーん?…ぇ、え!?」
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希「まあ、とりあえず話を聞かせてもらおっか。喋れるみたいやしね」
にこ「なんであんたは適応してるのよ…もしかしてこういう経験初めてじゃなかったりするの?」
希「まさか。まあ夢なら夢でもええんちゃう?夢の中とはいえせっかくりんちゃんとお話できるんやから、喋っとかな損やって!」
にこ「…まあ、それもそうかしら。りん、話してくれる?」
りん「うん…ではお話ししますにゃ。信じられないようなお話ばっかりになっちゃうと思うけど…」
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(…りんの意識は、自分の身体が動かなくなったあと、しばらく自分の亡骸のそばを漂っていた)
(こういうのを…幽体離脱、っていうのかな?)
(にこちゃんはりんの亡骸を抱えて子供みたいにわんわん泣いてて、にこちゃんをなだめる希ちゃんの頬にも細く涙が流れていた。)
(2人とも、りんのことすごく大事に思ってくれてたんだなぁーー。)
(ちょっと嬉しかったけど、やっぱり寂しい、悲しい気持ちのほうが大きかった。)
(2人はそのあと、近くの山にりんのためのお墓をつくってくれた。)
(…これで、最後になっちゃうのかなーー。)
(2人が立ち上がって、りんのお墓にむけてねぎらいの言葉をかけてくれた、そのときだった。)
(えっ…なに、これ…?)
(胸の奥があったかくなるのといっしょに、視界がぼやけて…)
(気がついたとき、りんは大きな猫の目の前にいた。りんの何倍もおっきな、紺色の長い毛に包まれた猫。)
???「りん、ひとまずはお疲れさま、と言っておきましょうか。」
りん「あの、ここは…?」
???「平たく言えば…あの世とこの世の狭間、といったところでしょうか。まずは詳しく説明しましょう。」
…
…
(いわく、その大きな猫さんは猫の神様で、死んだ猫の魂を導いて、記憶を回想させたり来世への準備をさせたりするのが仕事なんだって。)
???「…あなたの飼い主はずいぶん愛情深い方たちだったようですね。」
りん「うん、2人ともすっごく優しかったんだ…にこちゃんはイタズラしたらすっごくコワい顔で怒るけど、年寄りのりんにも食べやすいごはんを作ってくれたり…希ちゃんは毛づくろいしてくれたり、たまににこちゃんに内緒でおやつくれたりして…」
(りんのにこちゃんと希ちゃんとの思い出話を、猫神様は優しい目をしながら静かに聞いてくれた。)
猫神様「…あなたが幸せな生涯を送ったこと、よく検めさせていただきました。」
猫神様「りん、もしあなたが望むなら、あなたにいま一度、‘‘猫又’’として束の間の命を授けましょう」
りん「ねこ…また…?」
猫神様「そう、大往生を迎えた猫が黄泉の彼方から戻り、主に受けた恩に報いるためにとる仮の姿ーーそれが猫又」
りん「うーん…?よくわからないけどそれって…にこちゃんと希ちゃんにもう一度会えるってことですか!?」
猫神様「その通り。そして猫又の妖力を用いて、主のいかなる願いも叶えることを許しましょう」
りん「ほんとに!?やります!やらせてください!りんを猫又にーー」
猫神様「ですがそれには…条件があります。」
りん「条件…?」
猫神様「…猫又の妖力は自らの魂を対価にするもの。あなたが彼女達への恩返しを終えた時点で、あなたの魂は消滅してしまうことでしょう。彼女たちのあなたに関する記憶は失われ、そしてあなたの魂は天国へも地獄へもいかず、来世をも望めぬ存在となります。それでもーー」
りん「それでもやる!!」
猫神様「……!」
猫神様「…わかっているのですか?あの2人は2度とあなたの墓前に手を合わせることも…あなたを思い出すことさえしなくなるのですよ?考える時間はまだーー」
りん「りんは2人にもう一度会いたい!今までありがとうってお礼が言いたい!2人のためにならなんだってしてあげたい!考える時間なんていらない、いますぐりんをーー」
猫神様「…良い返事ですね。」
猫神様「すみません、さっき言ったことは…嘘です。」
りん「う、うそ!?それって…」
猫神様「ああ、猫又の話までは本当のことですよ?ですが後半の話は全て嘘です。あなたの想いを確かめるため、嘘をつきました。」
猫神様「…というのは建前で、あなたがあまりに幸せそうなのが羨ましくて少し意地悪をしてみたくなったのかもしれませんね。もっとも、意味は無かったようですが」
りん「えへへ…なんだか照れるにゃ」
猫神様「私もかつては現世に猫として生を受け、そして猫又となりました。この存在となってからは多くの猫の生涯を見届けてきましたが…あなたはその中でも一番の果報者ですよ。さあ、こちらへ」
りん「うん…ありがとう、猫神様」
猫神様「ウミ、です」
りん「え?」
ウミ「私の名前です。猫神様では堅苦しいですから。」
りん「うん!ありがとうウミちゃん!りんの宝物のマタタビ持って帰ってくるから、お礼にあげるね!」
ウミ「…ふふ、楽しみにしていますよ。いってらっしゃい、りん。」
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りん「……というわけで…」
にこ「あんたは猫又になって帰ってきた、ってわけね」
りん「うん。ほら、尻尾が二股に分かれてるでしょ?」
希「ほんまや、いやぁ、こんなスピリチュアルなこともあるもんなんやね」
りん「でもちょっと猫のままだと話しにくいかにゃ?…ほっ!」ボワッ
りん「こんな感じかにゃ?」クルッ
にこ「ひああああああっ!?りんが人になった!?!?」
希「いやあ、もう何が起こっても驚かなくなってきたわ…」
りん「えへへ…それで、そろそろ本題なんだけど…」
にこ「…その前にご飯にしましょう?」
希「そうやね、そろそろお腹すいてきたかも」
りん「へ?」
にこ「りん、あんたも食べる?今日なら人間様の料理も食べられるんじゃない?」
りん「!、いただきますにゃー!にこちゃんの手料理、死ぬ前に一度食べてみたかったんだ!」
希「ってりんちゃんもう一回死んでるやないかーい!」
りん「そうだったにゃー!!」\どっ/
にこ「…なにこいつら…」
…
…
りん「ふーっ、お腹いっぱい、もう食べられないにゃあ…」
希「ごちそうさま♪」
にこ「お粗末さま。」
希「もうあとはお風呂入って寝るだけやねー」
りん「そうだねー…ってちがうにゃ!!」ガバッ
希「わっ!びっくりした〜」
にこ「もう、こんな時間に大声だすんじゃないわよー」
りん「にこちゃん、希ちゃん、真面目に聞いてほしいの!りんは今日、2人に恩返しするために帰ってきたの!」
希「恩返し?」
にこ「いや、さっきりんが言ってたでしょうが…」
りん「あのねにこちゃん、希ちゃん。さっきも言ったと思うけど、りんはいま猫又なんだ。猫又の力を使えば何でも願いを叶えてあげられるの!2人はなにか願いごとってない!?りんがなんでも叶えてあげるよ!」
希「願いごとかぁ…」
にこ「願いごとねぇ…」
希「…にこっち、なんかある?」
にこ「うーん…1つだけあるかしら」
希「やと思った、うちも1つだけ。にこっちと同じこと…かな?」
にこ「かな?じゃないわよ、それしかないでしょう」
りん「あれ?もう決まってるのかにゃ?それなら話は早ーー」
希&にこ「「りん(ちゃん)、もう一度ウチの子に来なさい(おいで)」」
りん「え…?」
希「…ぷっ、やっぱり一緒やったね」
にこ「ま、それぐらいしかないしね」
りん「ちょ、ちょっと待つにゃ2人とも…」
りん「願いごとはなんだっていいんだよ?お屋敷みたいな…ううん、お城みたいな家に住ませてあげることもできるし、2人を若返らせて世界一かわいくすることだってできるよ?大金持ちにだってなれるし、他にも…」
希「わかってないなあ、りんちゃん」
にこ「そんなもん貰ったって、あんたがいないんじゃ仕方ないでしょうが」
りん「そんな…」
希「そーそ。にこっちのりんちゃん死んでもうたときの泣きっぷりときたらもう、手に負えんかってんで?」
にこ「ちょ、今その話はやめなさい!だいたいあんただって泣いてたでしょうが!」
希「え〜にこっちほどは泣いてないよ?」
にこ「うっさーい!」
りん「……」
希「ん?りんちゃんどしたん?」
りん「…本当に、いいの?」
りん「りんは恩返しのためにきたんだよ?なのにこんな…」
りん「これじゃ…これじゃ恩返しにならないよぉ…ぐすっ…」
にこ「なーに言ってんだか」
希「りんちゃんがうちにいてくれること。それがウチらにとっての一番の幸せ」
りん「にこちゃん…希ちゃん…」
りん「う…」
りん「うああああああぁぁん!!」ガバッ
にこ「おわっ!」
希「おっと」
りん「にこちゃん!!希ちゃん!!だいすき!!!」
りん「りんのこと拾ってくれてありがとう!毎日ごはん食べさせてくれてありがとう!遊んでくれてありがとう!抱っこしてくれてありがとう!一緒に寝てくれてありがとう!」
(そのとき、りんが初めて伝えられたありがとうの気持ちは)
「大事に育ててくれて……ありがとう……!!」
(ほんの先っちょの部分しか言葉にならなくて)
「りん…こんな幸せでいいのかな……!?」
(言葉に収まりきらずにあふれ出た気持ちを目の前の二人に届けようと)
にこ「もちろんよ、りん。帰ってきてくれてありがとう。」
(りんは力いっぱい二人をだきしめた)
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…
…
ウミ「…さて、これでこちらの準備は整いました。りん、そちらも大丈夫ですか?」
りん「うん!いつでもいいよ!」
ウミ「…では」
りん「…それにしても…びっくりだよね。せっかくお願いがなんでも叶うっていうのに…」
ウミ「そうですか?私にはなんとなく想像がついていましたよ。」
りん「ほんと!?ウミちゃんすごいや!」
ウミ「ええ。彼女達があなたにとってかけがえのない存在であるのと同様、あなたも彼女達にとってかけがえのない存在になっていましたから。」
りん「…そうなの、かな…。えへへ、そうだったらうれしいな」
りん「あ、そうだ!これあげる!りんの宝物!」
ウミ「…いいのですか?」
りん「うん!ウミちゃん、りんを猫又にしてくれてありがとう!」
ウミ「ふふ、どういたしまして。さあ、お行きなさい。彼女達が待っていますよ。」
りん「うん、じゃあ…いってきます!」
<ピンポーン♪
「ほいほーい!よばれてとびでてのんたんでー…」ガチャッ
「…おかえり、りんちゃん。」
「おかえり、りん。」
ただいま…にこちゃん、希ちゃん。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
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