すれ違う幸せ
幸せとは何か。
それを探しましょう。永遠に。
ある所に仲睦まじい男女の2人組がいた。
夕暮れ時 遠くに伸びる長い二人の影を目で追いながら 手をつないで一緒に家まで帰った。
帰り道
時計屋にきれいに並べられている鳩時計と一緒に2人は笑った。
周囲にいる人達も彼女らを祝福している。
それに対し彼女らは小さく笑う。照れたように。
幸せに溢れた二人の笑い声が響いた。
〜男side〜
夢を見た。
白い服を着た老婆の死神が目の前で舌を出しながら笑う
「鬼さんこちら手の鳴る方へ…」
そう言いながら老婆はゆっくり消えていった。
男は目を覚ます。
そして気づく。手紙が届いていることに。
その手紙をみた瞬間、男は悟った。夢の内容を。
届けられていた手紙の色は、赤だった。
男は問う。
「君は僕がいなくても平気ですか?」
赤紙を握りしめ震える手からは、手紙の端がはみ出ていた。
彼は迷っていた。このまま行くべきなのかどうか。
しかし彼女は、わざと笑った。
「大丈夫。貴方を信じて待ちます。」
そうして彼は旅立った。
残ったのは風鈴の鈴の音と、彼女の悲しい笑い声だけだった。
「天皇陛下のために、国のために、立派に蒼天仰げよ!」
黒い服を着た兵士達の忠誠の言葉が響いた。
男は耳元で誰かの囁く声が聞こえた気がした。
それはいつかの夢でみた白い老婆の声だった。
老婆はすごく楽しそうに笑っていた。
女 side
彼と過ごしていた日々、2人で思い描いていたこれからの日常の理想は、ぼんやりと虚ろに消えていく。
周囲の人達は彼が死んだと言う。
彼女は思う。そんなのは嘘だと。
「嘘をつく貴様らの舌なんてチョン切って捨ててやる!」
ずっと待つんだ、彼を待つんだ。
しかし言葉とは裏腹に心は不安に蝕まれていく。
彼のことは見ることができず、声を聞くこともできない。
そしてついに彼女は壊れた。
「こんなに苦しむならいっそ、何もない方がいい」
絶望の中で彼女は薄く笑い、部屋で首を吊った。
金魚鉢に映る彼女の姿はくるくる流れた。
その頃、周りの人達は焦っていた。
死んだと言う知らせが来た男は生きていたのだから。
その知らせは誤報だった。
嘘を言ってしまった女に対しての罪悪感。
そして早く安心させたいと言う気持ち。
二つが混ざり合い、女を探す。
だが、見つからない。
それもそのはず、女は、2人だけにしかわからない場所で事切れていたのだから…
男 side
「お元気ですか?」
毎日のように届いていた彼女からの手紙がある日を境に途絶えた
兵士達は帰ってきた。そして、彼も帰ってきた。
しかし彼女はもういない。
もう夕暮れ時の2人の影を目で追うこともできず、笑い合うことすらできない。
兵士達は家に帰る。夕暮れに声が消えていく。
彼も走った。2人だけのあの場所に。
彼は、扉を開けた。
「僕は帰ってきたよ!」
だが、そこには喜んで迎えてくれる彼女はいなかった。
代わりに変わり果てた彼女が時を止めて
彼を待っていた。
変わらないのは、風鈴の鈴の音だけだった。
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ここまでが一つの物語です。
次の物語もご期待ください
では、次の物語です。
前回の物語は仲睦まじい男女が切り裂かれ、男が戦争にいっている間に女が勘違いで自殺してしまう話でしたね。
次はどんな話でしょう。
それでは、投下します。
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指の先に、一本の細い木。
その上には月が輝き、二人の頬を照らす。
雪がきらきらと光った。
幸せな思い出が心の中に留まる
「今宵は、月が綺麗だ」
「ええ、きれい。とても綺麗ね」
次々と浮かんでくる思い出。
淡い想いは叶わぬものとなる。
ぽけっとの中で絆を確かめるように手を繋ぐ
吐いた息が白くなり
目の前の景色が涙で揺らめいた。
「どうしたの。大丈夫?」
「ええ。平気よ。私は、大丈夫」
「そっか・・・」
淡く頬を染め、二人はぽけっとの中で手を結ぶ。
繋いだ手から、温もりと愛しさがあふれてくる。
寒空のなか、吐いた息は牡丹雪に溶けていく。
想いは募るばかりで、行き場のないそれは胸に積もる。
「それでは、行こうか」
「そうね…」
時代は、二人が並んで歩くことさえ許さなかった。
だからせめて、湖に薄く張った氷の下で寄り添っていたいと。
ゆっくりと、舟がほとりから離れた。
水面には夜空の光が映り、月が波に揺らめく。
無数の星の上を、舟が通る。
舟が進むたび、景色が揺らぐ。
彼に悟られまいと、背を向けて涙を堪えるばかり。
思えば、叶わない愛だった。
誰からも認められない愛だった。
だから、この想いを閉じ込めてしまいたくて。
雪の降るあの日、細い木の下で約束を。
時代は、二人が並んで歩くことさえ許さなかった。
だからせめて、湖に薄く張った氷の下で寄り添っていたいと。
ゆっくりと、舟がほとりから離れた。
水面には夜空の光が映り、月が波に揺らめく。
無数の星の上を、舟が通る。
舟が進むたび、景色が揺らぐ。
彼に悟られまいと、背を向けて涙を堪えるばかり。
思えば、叶わない愛だった。
誰からも認められない愛だった。
だから、この想いを閉じ込めてしまいたくて。
雪の降るあの日、細い木の下で約束を。
ただ笑っていて欲しかった。それだけ……それだけだったのに………。
目の前には、綺麗な景。
「そうね。本当に・・・・本当に、綺麗・・・」
堰を切った涙が、ぽろりぽろりと流れだす。
どうしてだろう。
どうして私達の絆は、許されないのだろう。
生まれが違うだけで。
身分が違うだけで。
私達は愛し合うことを許されなかった。
「ねえ、ここがいいね。」
「・・・・・そうね」
木々に積もった雪が、音とともに落ちた。
雪は降り続く。
指ですくうと、ふわりと溶けて流れていった。
小さな波に、流れて消える。
ふと、温もりに体を包まれた。
「迷っているの?」
「・・・あなたは?」
抱かれながら、問う。
しばらく無言が続き、やがて温もりが震えだした。
「・・・・・」
泣いていた。
一度も泣いたことのない彼が、泣いていた。
はじめて見た、彼の涙。
強がりだった、彼の。
「・・・・・わたし、幸せだった」
頷き、頬を寄せあう。
「幸せだったの。本当に、幸せだったのよ。
だから数えてたの、貴方との幸せを。
だけど・・・
数えてたら、指が、足りなくなって・・・っ」
「―――――・・・・っ」
泣き崩れる頬の隙間を、涙が埋めた。
湖のほとりで、一際綺麗な星が揺れる。
星が消えては光り、光っては消える。
そのたびに水面に映る二人の影が、ひどく美しく澄んでいた。
2人は強く抱き合った
「そろそろ行こうか。」
この世界で
「……うん。」
あなたと出逢えたこと
「後悔はない?」
あなたと居られたこと
「あるわけないでしょ?」
心からーーー…
「「 愛してる 」」
二人は船から飛び降りた。
降っていた雪は花のように散り、
星は回り、彼の被ってた帽子が飛ぶ――――――。
前身を刺すような冷たさが二人を覆う。
それでも二人は強く強く抱き合い続けている。
このままこの手を離すことはない。
全てのしがらみが取れた気がする。
周りには何もない。
あるのは愛し合った2人の姿だけ。
ずっと彼の顔を見つめ、
彼も私を見つめてる。
あの日、交わした約束の通り2人は永遠となる
意識がだんだん薄れていく・・・
仄暗い水底へ、
幸せと共に沈んでいく。
薄氷が二人の影を消していく。
もし神様がいるのならば
2人を同じ場所に連れていって欲しい
なにもない場所でもいい
ただ、2人が一緒に居られる場所へーーー…
二人を沈めたのは、剥がれ落ちた栄華の名残。
仄暗い水底へ、幸せとともに沈んでいく。
あの日見た景色を心に抱き、そして思う。
「「あなたに会えてよかった」 」と
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二つめの物語も終わりを迎えました。
どうでしたか?身分の違いで愛し合うことを許されないなんて馬鹿らしいですよね。
このSSへのコメント