八幡「0509」
これは前編です。僕の文章力とやる気と語彙力が尽きなければ、書く覚悟だけはあるので後編をお待ちいただけると幸いです。また、この作品は5年前(俺ガイル完結前)に書いたものをほぼそのまま掘り出してきて誤字脱字を少し確認して投稿したものとなりますので、最終巻とは何ら関係のないifストーリーとしてお読みいただければ幸いです。
あれからどのくらい経っただろう。修学旅行での偽告白をして以来、俺は奉仕部へ足を運ぶのをやめた。元より無理矢理入れられた部活だ、これまで足繁く通っていたのがおかしいまである。しかし俺がサボれるぶんには申し分ないがあの平塚先生が俺を部活に行けと暴力的もとい熱血指導が入らないというのはいささか不穏だ。まぁ、大方俺の更生を諦めたかもしくは奉仕部での居場所を剥奪されたかだな。後者に限っては元よりなかったとも言えるしな。今日も今日とて奉仕部をサボるとして、果たして今日の暇はどうやって潰そうか。サイゼに行くか?7日連続で?それはないな。流石にそろそろ財布の方がピンチだ。困ったな、どこにさすらおうか。
× × ×
金もなかった俺は図書館に行くことにした。本は良いね。本は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。あれは本じゃなくて歌だったか。そんなことよりエヴァの映画いつ公開されるのん?それよりも今時は図書館にもラノベってあるのか…まぁ、全部持ってるから要らんけど。ところで3期決まったね。あれもエヴァに負けず劣らず待ったなぁ。約6年ぶりですって。
そんなたわいのないことを考えつつお気に入りの作者の本を数冊手に取り席に着いた。本であればどんなものでも読むが、今はミステリー小説に凝っている。犯人当てゲームは得意ではないが、考えているだけでも楽しいものだ。当たるも八卦当たらぬも八卦で適当に考えてもバチは当たらない。
× × ×
目が覚めるとニコニコ顔の三つ編みゆるふわめぐめぐめぐりんパワーの持ち主、城廻めぐり先輩が目の前に居た。
「ハジメマシテ、コンニチワ」
「ふふっ、比企谷君寝ぼけてるの?それとも私のこと忘れちゃったのかな?」
先輩が可笑しそうに笑う。それだけで心が浄化される。一家に一台心清浄機!タイプはめぐりんパワータイプと地上にうっかり落ちた天使戸塚タイプと2タイプあるよ!
「……なんで城廻先輩がここにいるんですか?」
「私が図書館にいちゃいけないの?」
「……ごもっともで」
「比企谷君、とりあえず図書館から出ようか。そろそろ閉館の時間だよ?」
時計を見ると18時まで後10分。どうやら読み始めから30Pと経たずに寝てしまったらしい。時間にして1時間ほど寝ていたようだ。
「じゃあ本を片付けてくるんで。お気をつけて」
「えー、一緒に帰ろうよー」
「いや、ほら俺アレなんで」
「比企谷君とお話ししたいんだけど……ダメかな?」
少し沈んだ顔の先輩を前に、これ以上拒否することは俺には出来なかった。むしろ拒否できる人間がいるなら見てみたい。
「……本を棚に戻してくるので少し待っててください」
「うん。ありがとうね比企谷君」
やめてくれ、お礼を言われるようなことは生まれてこのかたしたことがないんだ。
× × ×
「本当にここでよかったの?」
「ええ、サイゼは好きなので」
主にコスパ的な面で。結局7日連続で、サイゼに来てしまった。さらば俺の野口君。いつかまた会う日まで。
「それよりも先輩こそ本当にここでよかったんですか?もっとオシャレなところもあったでしょう」
「……あはは、実は最近お金なくってむしろ助かったかなー、みたいな」
意外な共通点につい心が踊りかけたが、単にお金がないというのはあまりにも残念な共通点だ。
「で、話ってなんですか?」
「えーっと……」
考えてなかったのかよ。つい心の中ではタメ口になりつつ先輩の言葉を待つ。
「あ!2年生って最近修学旅行だったんでしょ?どうだった?楽しかった?」
我ながら自分の顔が引きつっている事がありありと分かる。修学旅行、俺が今最も触れたくない話題。俺が今最も逃げたい話題。
そして俺が今最も後悔している話題。
「……あの、えっと。そうだ!進学先は決めてるの?もし良かったら相談に乗るよ!」
先輩に気を使わせてしまった。今日だけで先輩の顔を2度も曇らせてしまった。これはいけない。
「いえ、すいません。なんでもないんです」
「…なんでもないって顔はしてないよ?辛いことがあったなら相談に乗るよ?」
「これは奉仕部の案件なんで、守秘義務があるので」
そんな最もらしい嘘をついて先輩を欺く、これじゃあ先輩に最低だと糾弾されても仕方ない。
「やっぱり私じゃ頼りにならないのかな……」
「そんなことはないですけど……」
「ううん、いいの。人には言えない秘密の1つや2つあるものだから!……ごめんね?」
謝らないでくれ、余計辛くなるじゃないか。
「いえ、こちらこそ余計な気を使わせてしまってすみません」
その後30分ほど先輩とありきたりな会話をしてその日は終わった。なぜか連絡先を交換することになったが…多分使うことはないだろう。
× × ×
……そんなことはなかったぜ!次の日朝起きてみると城廻先輩からおはようのメールが届いていた。朝からめぐりんパワーが摂取できるだなんて最高だな!なんて最高に頭の悪い事を考えつつ1人で朝ご飯を食べていた。
小町は既に家にいない。修学旅行での一件を執拗に聞かれ、喧嘩して以来口を聞いていない。それでも朝ごはんは用意してくれるんだからできた妹である。そんな小町を朝自転車に乗せて登校出来ない事を少し寂しく思いつつ今日も嫌々学校に向かう。
「おはよう、八幡」
「おう戸塚」
こんな俺に朝から挨拶してくれたのは言わずと知れた我らが天使、戸塚彩加である。テニス部では毎朝朝練があるらしく今日も見慣れたジャージ姿だ。そんな戸塚が珍しく元気がない。重々しく口を開いて、こう続けた
「八幡は今日も奉仕部行かないの?由比ヶ浜さんも寂しがってたよ?」
「戸塚が気にする事じゃねーよ。ほら席につけ席に。HR始まるぞ」
……八幡のことなら気にするよ。
そんな言葉が戸塚から漏れたが俺の耳には届いていない。
× × ×
1〜4限の授業を睡眠学習という形で右から左に受け流しつつ、今日も購買でパンを買いに行こうとした時、ラブリーマイエンジェル戸塚たんがお昼を一緒に食べる提案をしてきた。
「八幡、今日お昼ご飯一緒に食べない?」
悪くない。悪くないどころか最高の提案まである。本当なら今の俺の置かれた状況からして一緒にいるところを見られるのは得策ではないし、断るところだが、そのあまりに真剣な表情にその提案を受け入れることにした。
「んで、一体なんの要件だ」
「要件と言えば要件だけど、今日はただの雑談。最近八幡元気ないから……」
城廻先輩どころか戸塚にまで心配をかけてしまった。これは許されざる行為だ、是非責任を取って今度楽しいデートにしゃれこまなければ。
「元気がないのはデフォだろ」
「ううん、いつもより元気がないんだよ。自分では気がついてないかもしれないけど…いつもより全然元気じゃない……」
「ねぇ、八幡。八幡は友達いないって言い張ってるけど、僕は友達として認められてないの?僕は八幡といるのすごく好きなんだけど、八幡は嫌だった?」
そんなわけがない。戸塚と一緒にいれて嫌なことがあるもんか。
「僕は八幡が僕と一緒にいるのは良くないと思ってるんじゃないかなって思ってるんだ。八幡は優しいから」
俺が優しいだなんてバカいうなよ。
「だからね、八幡。僕は八幡と本物の友達になりたいって思ってることを信じて欲しいんだ。多分、由比ヶ浜さんも雪ノ下さんも同じことを思ってる。八幡はそれが苦手かもしれないけど、いつかそれを心の底から信じてもらえる日が来ることを僕は待ってるから」
おう。そんな気軽な返事も返せないまま2人して黙々と購買のパンを食べた。その日のパンは少しだけしょっぱかった気がする。
× × ×
時は流れ放課後、今日はどこに行こうか考えていた。家に帰ると小町がいる。早く仲直りしておきたいが今の小町の状態じゃ話も聞いてもらえないはずだ。そんな中家に帰っても小町をイライラさせるだけ。その上お金もないときたら、導き出される答えは必然的に一つだ。今日も図書館に行くほかない。
いつもと趣向を変えて知らない作者の本を手に取ってみるも全く集中出来ない。それもそうだ。あの戸塚の発言。どうにも対処の仕方が分からない。いつものようにおちゃらけて対応していい物ではない。あれは表で戸塚と接している時の俺じゃなくて、過去を引きずったままの惨めで無様な俺に対して言ったものだ。その場合俺はいつもの態度で対応するのは間違っている。かといって過去に囚われたままの俺は一体どうしたいのか。いくら悩んでも答えは出ない。
ふと思い出して暇つぶし機能付き目覚まし時計を開き、連絡帳の欄からさ行を探す。材なんとかさんをスルーして一つ下の新しく入った連絡先に電話を掛ける。
何度かコールするも出る気配はない。諦めて切ろうとした時、コールは止んだ。
「もしもし比企谷君!?どうしたの!?」
そんな慌てて出なくてもいいじゃないですか。
「人生相談があるんですけど……」
これは千葉の妹が兄に言う時のセリフだっけ?
× × ×
「いやー、比企谷君から電話がかかってくるなんて思ってなかったからびっくりしたよ……」
「いきなり電話してすみません」
「いいのいいの。気にしないで?むしろ頼られて嬉しいくらいだよ」
「で、人生相談って何?私じゃヒントにもならないかも知れないけどなんでもいって!」
「あの、そこまで気負わなくても……」
「ううん、比企谷君のためなら頑張るよ!」
なんだろう、相手がノリノリすぎてこっちが気後れする時ってあるよね?ない?
とりあえず一通りの流れを説明し、先輩の言葉を仰いだ。
「簡単なことじゃない!お友達になればいいんだよ」
そんな無邪気に言われても……
「いや、それが出来ないから悩んでるんですけど」
「どうして悩む必要があるの?」
全く悪意のない、単純で素朴で簡単な疑問が俺の全てを否定してるかのように聞こえる。思わず言葉がつまり、先輩がこう続けた。
「比企谷君、お友達っていうのは本来そんなに悩むことじゃないんだよ。例えば好きなものが同じで話すようになって友達になるとか、たまたま席が隣で話すようになって友達になるとかそんな凄く凄く小さなことから友達って生まれると思うんだ。……比企谷君は捻くれてるからそんな始まりじゃ本物じゃないって思うかも知れないけど、私は終わりよければ全て良しだって思うよ。ほら、文化祭のときみたいに」
始まりは関係ない、そんなどこかで聞いたような言葉が引っかかる。
「一体、本物ってなんなんですか」
「それは比企谷君、君が決めることだよ」
「多分本物っていうのはそれぞれみんな違うんだよ。でもそれはみんなそれぞれにとっての本物で間違いじゃない。だから、その戸塚君と君の本物が同じとも限らない。けど、そこに折り合いをつけてお互いを尊重すれば自ずとお互いにとっての新しい本物が生まれるんじゃないかな」
つまり城廻先輩は本物は最初からあるのではなく作り出すものだ、そういうことが言いたいのだろう。なぜだろう否定できない。否定できない何かがそこにはあった、ロジックでは語れない、ただの精神論で感情論だとしても、そこには足し引きできない、計算も何もない優しい世界。けど、受け入れられない。
「でもそんなものは不安定だ。いつか瓦解するかも知れない」
心の声が漏れるかのように呟いた。
「不安定なら支えればいいんだよ。そうやってお互いを支えることが即ち本物に繋がるんだよ。なにより瓦解するかも知れないなんて悲しい事は言わないの。その時は思いっきり喧嘩して、すぐに忘れて、次に会うときに笑顔ならそれで良いんだよ」
これ以上の議論は無駄だった。そもそも議論ですらなかった。圧倒的に城廻先輩の言い分が正しいのだ。普通の人なら。それが受け入れられないのが俺という無様な人間だ。受け入れるのが怖いのが俺という臆病な人間だ。
「……俺にも出来ますかね」
「いつかできるよ。そのきっかけは他でもないその戸塚君だよ」
「……早く本物が作れるといいですね」
ガラにもなく神様に頼むかのような呟きを漏らした。でもこれは自分で解決するべきことだ。神様なんて信用しない。
「……そのときには私も混ぜて欲しいな」
けど、1人の先輩のことは信じてみようと思う。
× × ×
あくる朝、いつものように戸塚と挨拶をしようとするも見事に惨敗。俺はいつから裸の大将にジョブチェンジしたんだろう…。昨日まではなんでも出来る気がしてたんだが、いざ戸塚を前にすると動悸が止まらない。これってもしかして恋?いえ、更年期障害です。なんだろう、とあるアラサー先生からすごく冷たい目線を向けられた気がするわ?テレパシーでも使えるのかしらん?
「なぁ、戸塚。今日って部活の後空いてるか?」
「部活の後は空いてるけど……」
「お、俺と遊んでくれないか!」
「……へ?」
ふ、フラれたっ!告白もしてないのにフラれたっ!どうしよう、戸塚にフラれたら生きていける気がしない……
「ごめん!そんな落ち込まないで!八幡が誘ってくれるなんてびっくりしちゃった」
あれ、そんなセリフどこかでも聞いたことあるぞ?俺そんなに人を誘わないっけ。そうですね。誘いませんね。
「僕で良ければよろこんで」
まるでプロポーズの返事のような回答を貰い、小躍りしそうな気持ちを抑えて何時になるかの打ち合わせをして各々席に着いた。そこからの授業はあまりの嬉しさに頭に入ってこず、一日中上の空だった。いや、頭に入ってこないのはいつも通りなんだけど。
× × ×
「お待たせ、八幡」
「全然待ってない。いつにも増して可愛いぞ戸塚」
「もう、からかわないでよ」
まるでカップルのようなやりとりを交わしたところで公園のベンチに座った。夏から秋に変わる季節、夕方となると少しだけ肌寒い季節だ。それぞれの手にはあったかいコーヒーが握られている。
「今日はどうして遊びに誘ってくれたの?」
「昨日の返事をしようと思ってな」
「……早かったね。正直もう少しかかると思ったよ」
「そういうなよ。早いに越した事はないだろ?」
「うん。そしてその答えは?」
一世一代の告白をするような緊張感が漂う。たった一言、たった一言が口から溢れてくれない。いくら平静を装っても心臓は早鐘をうって静かにしてくれない。そんな様子の俺を戸塚は目でゆっくりでいいよと諭してくれるが、それに甘えてはいられない。程なくしてようやく口から言葉が溢れ出す。
「俺と、友達になってください」
「勿論だよ」
「……え、いいの?」
思ったよりあっさりとうまくいった事に驚きを隠せずうっかりお伺いを立ててしまった。
「どうしてダメなの?」
「そりゃだって俺だぞ。奉仕部の連中からヒッキーマジキモーイ!とか言われてるようなやつだぞ」
「それ由比ヶ浜さんの真似?ちょっと似てるかも」
そういってくすっと笑いながら続けて言う
「僕が八幡と友達になりたかったんだよ?今更そんなこと気にしないよ。僕はそんな八幡を含めて友達になりたかったんだよ」
思わず涙がこぼれた。独りには慣れたつもりだった。孤独で生きていく事で自由になったつもりだった。それが俺の専売特許のつもりだった。それは嘘じゃない。けどそれはこれまでの話。たった今を持ってその今までの人生を、意地を放棄してもいいだけの唯一無二の友達ができた。心の底から信用していいだけの、他に何もいらない最高の友達が出来た。その事が嬉しくてたまらなかった。
「ふふっ、僕の前で泣くのは2回目だね」
「恥ずかしいんだからあんま言うなよ。こりゃ黒歴史の一部だな……」
「僕と友達になったことを黒歴史の一つにしちゃうの?」
「……意地が悪いな」
「八幡ほどじゃないよ」
「メシ食って帰るか」
「そうだね。どこに行こうか」
× × ×
戸塚が仲間になった!と、茶化してみてもこの気恥ずかしさはなにも変わらない。朝、一体どう挨拶しようか。自分で建てていた心の壁が取り払われた今、戸塚とどうやって接していいか悩みどころである。よぉ!戸塚!なんてのはあまりにもキャラからかけ離れているし、かと言って今まで通りではなんとも拍子抜けである。
「おはよ、八幡」
「おう、おはよう。戸塚」
なんとも簡単なものである。そんなに気構えなくても挨拶なんて出来る、そんなことも忘れかけていた。
そんなことを忘れるくらい俺はずっと孤独だった。きっとどこかで飢えていていた、人と会いたかった、誰かに。今になってやっと、俺は「本物(ここ)」にきた。鏡の俺に笑われるかもしれない。過去の俺には軽蔑されるだろう。しかし、この先何度俺の中に潜んだ孤独が育ってきても、きっと戸塚彩加と比企谷八幡であればまちがいながら、傷付きながら進んでいけると、そう感じた。
寒空の下、乾いたコール音が響く。その電波の届く先はもちろん件の立役者である、城廻めぐり。
「そっか、ちゃんとお友達になれたんだね」
「はい、ありがとうございました」
本題はこれだけではなかった。
言いたいことがあるのに声が出ない。伝えたい思いもあるのに伝え方がわからない。
「そっか、じゃあ、おやすみ」
こちらのおやすみは、聞こえることなく電話は切れた。
そしてまた、隠し持った思いを渡せないで息を吐く。
最近iPhoneのデータを整理したらこの文章が出てきて、久々に読み返したら意外と面白くね?と思ったので推敲・調整して投稿しています。いやー、5年前の私いい仕事するなー、なんて。
後編はちょろっと出てきた城廻先輩の話になる予定です。前編は5年前の僕が書きましたが、後編は今の私が書くので、文章力が軒並み低下しています。(当時は本編の文の特徴を捉えるくらい熱心に読み漁っていましたが、今はそうではないので)あまり期待せず後編をお待ちください。
タイトルは八幡「0121」です。見かけたら是非。
戸塚ああああああ!!!!
めぐめぐファイアあああああ!!