東方守護盲伝
Fateシリーズ×東方Project×???
・初投稿
・独自解釈・妄想アリ
・地雷の危険性。注意されたし。
ー冬木協会前ー
ランサー「っ……きさま、何者だ!」
アサシン?「お前が最後か、ランサー。よもやセイバーに競り勝つとはな。」
アサシンと思わしきその者は、戦いに明け暮れたランサーの前に突如として現れたのだった。
ランサー「アサシンは既に脱落したはず。ならばきさまは!」
アサシン?「名も無き残像。ただの思念だ。しかし、この『ガワ』は実に心地よい。」
ランサー「性根の悪い亡霊か…!」
アサシン?「それはお前たちサーヴァントも同じだろう。英雄などと言うが、所詮は偽り。真実を見失った亡霊に過ぎぬ。」
アサシン?「故に、私の謀略にまんまと嵌った。魂を揺さぶられ、正気を保てる霊体はおらぬ。」
その者は淡々と話す。
サーヴァントを嘲る内容ではあるが、その言葉から蔑みを感じることはない。
アサシン?「だがランサー、お前だけは例外であった。最後の最後まで主への忠義を貫き通した。」
ランサー「……なるほど、セイバーが全力を出せなかったのは、マスターとの接続が薄れていたからか。」
アサシン?「然り。しかし、お前を殺す。そして大聖杯の完全な覚醒を以て世界を救済する。」
ランサー(まずい…、セイバーとの戦いの傷は未だ癒えず。このままではヤツに…)
アサシン?「……」
スッ…
フッ、と空気の動く音と共に、その者が姿を消す。
ランサー(っ、消えた!)
アサシン?「死ね。」
ランサー(背後をとられたか……不覚!!)
アサシン?「……何?」
しかしその者の刃は届かなかった。刃と槍兵の間には、水銀が煌めく。。
ランサー「っ……これは……!」
ケイネス「何をしているランサー。見事セイバーをねじ伏せた貴様なのだ、この程度の雑兵に遅れを取ってはならん!!」
ランサー「主!」
アサシン?「ガア!!お前の魔術かっ!!!」
ケイネス「ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪を持って命じる。ランサー、最後の敵を叩き斬れ!」
ランサーの体に活力がみなぎる。連戦の傷が癒える。今なら、今ならば!
ランサー「おお、おおおお!!我が主よ!此度の戦、最後の槍術とこの忠義を、あなたに捧げます!」
アサシン?「ええい……小癪な!」
ランサー「穿て、抉れ……」
ランサー「破魔の紅薔薇、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ、ゲイ・ジャルグ)!!」
亡霊と思わしきその者に、宝具に秘める特殊な能力はもはや必要なかった。
ただ穿つのみ、ただ抉るのみ。2双の槍はそのためだけにふるわれた。
アサシン?「ガアアアアアッ!!!!」
アサシン?「忠義、そのような、戯言を!!!」
ランサーはその者を確実に殺さんと力を込める。
そう、彼こそは……
ランサー「冥土の土産に聞いておけ!我が名はディルムッド。フィオナ騎士団の一番槍なり!」
アサシン?「おのれ、おのれえええええええええ!!!!!」
……
ランサー「……我が主よ。使命を、果たしました。」
ケイネス「よくやった、ディルムッド・オディナ。確かにこの目で見届けたぞ。」
ランサー「……私は、貴方とうまくいかないことがあり、苦しい思いもしました、しかし、それでも貴方を主として信じた!」
ケイネス「ああ、すまなかった。今までお前のことを信じきれていなかった。だが、お前の忠義は本物だった。」
ケイネス「マスターとしてお前と戦えたこと、誇りに思う。大儀であった。」
ランサー「ああ、あああ!我が主よ!」
ケイネス「こちらに来なさい、最も親愛なる我が騎士よ。もし私の不信を赦してくれるなら、この抱擁(ほうよう)に応じてほしい。」
魔術師は忠義の騎士に両手を差し出す。
ランサー「ああ……もちろんです!主、主!」
忠義の騎士が抱擁に応じる。生前果たされなかったその願いが、ようやく果たされたのだった。
ケイネス「ありがとう、ランサー。」
ランサー「私は、あなたにお使えできて本当に…!!」
ケイネス「ランサー、是非お前のその忠義を……」
「あの世のマスターに伝えてやれ。」
ランサー「え。」
その瞬間、私の体を異物が抉った。
剣でもなく、槍でもなく、
獣の爪であった。
ランサー「あ、が……!?」
主の顔を見る。
しかし、抱擁していたはずの我が主は、禍々しい獣の姿をしていた。
ランサー「お、まえはだれ……だ!」
???「名乗る必要はない、名乗る名もない。」
???「何も分からぬまま死にゆく事は辛かろう。真実を教えよう。」
???「お前のマスターは私によって殺された。そして令呪を貰い受けた。」
???「あの程度の演出でここまで騙せるとは想定外ではあったが……」
???「……ふふ、傑作であったな。お前が最後に全力で忠義を示し、涙を流した相手は、お前の主人を殺していたのだから。」
ランサー「そん、な、いやだ、いやだ!俺は、俺は!!」
馬鹿な。ありえない、そんなこと。
私の忠義が。
意味が無い。意味が無い。
???「案ずるな。その忠義のおかげで我が野望を果たせる。ありがとう、ランサー。」
ランサー「いやだ、いやだ、いやだ!!!主、あ、あ、あああああ!!!!」
…………
「……なかなかに惨いことをするのですね。」
???「ははは、つい興にのってしまった。やはり人類はおもしろい。あそこまで人を信頼できるのだからな。」
「貴方の能力にも驚かされますが……これで願いは叶います。サーヴァントは7基、大聖杯に吸い込まれました。」
???「ああ、亡き同胞も喜ぶことだろう。」
「すべてを救う。すべてを守る。そのためにすべてを費やしてきた。」
「そのとおりだとも。全てを守る、それがたとえどれだけ愚かな願いであろうとも。」
「権力者も、奇跡も、神ですらも叶えることのなかった願い。見捨てられた万人の願い。」
???「あのお方ならば、必ずや。」
「ええ、神を超越したあのお方こそ、世界を救うのです。」
「大聖杯、起動………」
…………
それから月日は20年以上も経った、ある日のこと。
外界と隔絶された幻想郷は、ひとまずの異変を乗り越え久しい安息の日々を過ごしていた……
幻想郷
博霊神社
霊夢「謎の結晶??」
文「らしいですよぉ。」
霊夢「……封結晶ではなくて?」
文「そうなのです!どうやら封結晶と違って三角錐の形をしているらしいんですよね。」
新聞記者はやや興奮気味に伝える。未だ封結晶が完全解明のなってない中、未知の物質が現れたとなれば、スクープを追い求める彼女が動かないはずがなかった。
霊夢「別にそれが誰かに迷惑をかけているわけじゃないんでしょ?なんでわざわざうちに。」
文「あや?霊夢さんは気にならないんですか?」
霊夢「事件が起こったら考えるわよ。」
文「面倒ごとに関わりたくないって顔してます。」
霊夢「お、正解〜。」
文「あやややや…。こうなっては仕方が無いですねぇ。記事にするのは置いておきましょう、が、一応心の隅に留めておいてくださいね。」
文「ではまた〜。」
霊夢「はあ……結晶体ねえ。」
次の日
霊夢「はあ!?なんで昨日のうちに伝えに来なかったの!?」
文「あの後だったんですよー!食い止めるので精一杯でした!」
霊夢「っ、急ぐわよ!」
………
妖怪の森
霊夢「……ひどい。」
まさに凄惨たる事態だった。
木々は乱暴になぎ倒され、大地が抉れている。
そして、つんざく鉄の匂い。
まるで、今しがた終わったばかりの戦場跡のような……
文「これでも善戦したほうです。神奈子様が加勢してくださって、なんとか撤退させたものの……」
烏天狗「文さま!!」
烏天狗「申し上げます、戦える天狗のうち4割が死亡、残り3割が重症です。また、戦えない天狗も10人ほど死亡しています。」
文「4割……」
烏天狗「椛さまも重症を負い、とても戦えるようではありません。」
霊夢「い、いったい誰が攻めてきたのよ!」
烏天狗「ええ、その点含めても話し合いがしたいので、守矢神社にお行きください。神奈子様が待っておられます。」
霊夢「救出作業は大丈夫?」
烏天狗「それは我々にお任せください。力あるものは、前へと。」
文「行きましょう。霊夢さん。」
………
守矢神社
早苗「……」
神奈子「来たか、博麗。」
霊夢「……ええ。聞かせなさい。何があったのか。」
神奈子「最初の邂逅は文、お前だったか?」
文「はい……」
ーーー
昨日、博麗神社を離れた後。
その後の取材もむなしく、彼女は成果を得ず自宅へ戻るところだった。
時刻は夕方を過ぎる。
沈みかけた日は橙の光を放ち、幻想郷を懐かしさを感じる色彩で覆っていた。
文「謎の三角錐は保留、と。あんまりあることないこと書くと紫さんから怒られかねませんし。」
文「………」
文「……ん?誰でしょう?」
褐色の女「……!」
一際高い木の上、そこに褐色の肌に銀の髪を備えた美しい女がいた。
白い礼装は幻想郷ではまず見ない趣向であった。そして、剣らしき物を天に掲げた瞬間……
ごおおお、と地鳴りの音が唸る。
威圧があたりの空気をいっぺんに変える。
文「っ!!」
褐色の女「………!!」
文「うわああ!?」
……
文「……ええ?今の衝撃は…!?」
褐色の女「……」
椛「何者ですか!?」
衝撃の正体は、犬走椛の剣とのかちあいであった。異変を察した彼女はすぐさま原因へと駆けつけたのだ。
褐色の女「……」
椛「名乗れ、何者だ!!」
褐色の女「人理に仇なす邪悪な文明、即座に滅ぼしてくれよう。」
椛「は?」
文「椛!気をつけてください、そいつは……!」
文の言葉を切り裂くように、褐色の女は紅葉に襲いかかる。
椛「ぐっ……なめるな!」
褐色の女「ほう、私の疾さについてこれるか、だが!!」
剣戟は、非常に高い音を出しながら周囲に異変を伝える。
椛「っ、文!天狗に招集を!あと神奈子様たちも呼んで……!!」
文「し、しかし!」
椛「こいつ、やばい!だから早く!」
文「……死なないでくださいよ!!」
………
神奈子「……そして文がここへ来た。」
霊夢「褐色の女……幻想郷じゃ珍しいわよね、褐色。」
神奈子「私は早苗と一緒に妖怪の森へと向かったんだ。」
………
文「私は先に戻ります。お急ぎください!!」
神奈子「ああ。」
早苗「異変、なのでしょうか?」
神奈子「どうだろうな、聞く限りは単独の行動だが……」
…
神奈子「っ!!これは!?」
早苗「ひどい……」
実は、霊夢が見たものは、幾分かマシになったものであった。
神奈子(これは……戦争だ、戦争の血の臭いだ。)
褐色の女「は、この程度か。この程度の異物、私のみで十分だろうに。」
神奈子「早苗、お前は傷を追ったものの救出を。急げ!」
早苗「はい!」
褐色の女「……む?」
神奈子「随分と暴れてくれたねえ?誰だい、あんた。」
褐色の女「この霊気……ただものでないな。」
神奈子「……この森をここまで荒らしておいて無事で帰れるとは思わないことだ。」
褐色の女「そうか、貴様のようなものがいるゆえの異物か。」
神奈子「弾幕勝負、と言いたいが……」
褐色の女「は?」
神奈子「通じない、か。」
神奈子「なら容赦しない……!!」
…………
神奈子「そして私は半数のスペカを使用して撤退させた。まさか一晩かかるとは思わなかったよ。まあ、文もすべてのスペカを使ったんだっけか?」
文「何枚かは残ってますが、まあ全て使ったようなものです。」
霊夢「……」
神奈子「もちろん誰も相手について心当たりは無い。霊夢もだろ?」
霊夢「うん……」
神奈子「……」
諏訪子「やあ、久しいね。博麗の巫女。」
霊夢「諏訪子。」
神奈子「ん?どうしたんだ?」
諏訪子「んー、今回の敵だけど、どう考えても幻想郷の生き物じゃない。」
霊夢「そう……よね。こんな惨いことを…」
神奈子「ああ!そうだ!思い出した!あいつ、生きてるように感じなかったんだ!」
霊夢「は?」
神奈子「発せられる気だよ。生気を感じなかった。なんか、魔力のようなもので構成されているような、そんな奴だった。」
神奈子「紅魔館の門番ならはっきり分かるだろうね。」
霊夢「なにそれ、亡霊かなにかってこと?」
諏訪子「に、しては綺麗だよね。この世に未練も憎悪もない。悪霊の類ではない。」
霊夢「……あーもう!わかんなくなってきた!!」
神奈子「とりあえず、だ。何かしらの敵意を持った強力なやつが幻想郷を狙っている。このことを幻想郷にひろめて、警戒させるようにしなきゃならん。」
文「天狗何人かを連絡に向かわせています。程なくして全員に行き渡るかと。」
霊夢「……。」
…………
紅魔館
烏天狗「というわけでございます。くれぐれもご注意を。」
美鈴「承知しました。すぐにお嬢様にお伝えします。」
…………
白玉楼
幽々子「……。」
烏天狗「では私は次に参ります。くれぐれもご注意を。」
妖夢「異変でしょうか、幽々子様?」
幽々子「…紫にも話を聞かなきゃね。」
…………
永遠亭
永琳「わかりました。私達もすぐにそちらに向かいましょう!」
鈴仙「準備ですね!すぐに終わらせます!」
烏天狗「お願いします……」
てゐ「……悪い予感がするウサ。」
…………
地霊殿
さとり「……そんなおぞましいことに。」
お燐「お、お仕事が沢山??」
さとり「状況はすべて把握しました。私の方から地下のみんな、地獄の映姫さんのところまで報告しておきます。あなたは早く上に戻りなさい。」
烏天狗「お願いします。」
さとり「……」
………
神霊廟
神子「オッフゥ、エグいことになりましたね。」
布都「……」
屠自古「……」
芳香「……」
青娥「……わたしじゃないですよ!?」
布都「いや、やりかねんじゃろお主。」
屠自古「同意。」
芳香「流石にないぞ青娥。」
青娥「はー、娘々傷ついたー。お家に帰りますー。」
神子「とりあえず承りました。こちらでも警戒体制を敷くとともに情報収集にあたりましょう。」
………
寺
聖「……私も行かなくては。祈ることしかできませんが。」
烏天狗「いえ、その祈りでこそ癒えるものがあります。是非、我が同胞の魂を弔ってください。」
聖「留守を任せましたよ。」
寅丸「はい。万事お任せを。そしてお気をつけて。」
………
霊夢「よいっしょっと!」
烏天狗「だいぶ、片付けも進みましたね。」
烏天狗「しかし、いつ襲撃が来るか……」
霊夢「私がいるわよ。博麗の巫女あるかぎり、邪悪は絶対許さないんだから。」
文「しかし、これらの木々は相当の年月をかけて育ちました。完全な復興には相当の時間がかかりますよ。」
霊夢「……幽香にも頼むかね。」
ピトッ。
霊夢「え?あ、雨!?」
文「あやや、いつの間にかこんなに雲が暗く……早めに作業を中止しましょうか。」
ザァーー
通り雨らしい、色の濃い雨雲がいつの間にか空を覆っていた。
早苗「霊夢さん、お茶どうぞ。」
霊夢「ありがと……あんたは大丈夫?」
早苗「へ?」
霊夢「あんた、相当疲れ切っていたみたいだったから。心も、身体も。」
早苗「……正直全然大丈夫では無いんです。あそこまで凄惨な現場は初めてでしたし…。でも、だからこそ前を向いていかなくちゃ。」
霊夢「そう。でも無理しちゃダメよ。」
早苗「……はい。」
……
夕方
魔理沙「おーす!大丈夫か!」
霊夢「魔理沙!?」
魔理沙「お、霊夢もいたのか。」
文「魔理沙さん!」
魔理沙「おお、文!皆は無事か!?」
文「あ、それが……」
……
魔理沙「そうか、そんなに死んじまったのか。」
文「はい……でも意外ですね。魔理沙さん、烏天狗たちとそんなに仲良かったでしたっけ。」
魔理沙「んああ、あいつらの呪術なんかをたまに教えてもらったりしていたんだ。弾幕ごっこの練習相手になってくれたり、なんだかんだ付き合いがあってな。」
魔理沙「そうか……死んじまったのか。」
ふー、とため息をついた後、切り替えたように話す。
魔理沙「しかし褐色の女?なんだそいつ。幻想郷じゃなかなか見ないだろ。それに弾幕ごっこをせずに剣を振り回すなんて、絶対やべーやつじゃねえか。」
霊夢「そうなのよ、いまさらそんな掟破りな事をするなんて、少なくとも今の幻想郷じゃありえない。」
魔理沙「ちゅうことは、だ。」
霊夢「外からの敵だとして、なんの目的で……」
……
にとり「こ、これで、いいんですか?」
赤毛の大男「おお、有り難い。」
軍服の大男「そう怖がりなさんな。あんたを痛めつけるようなことはしないさ。」
にとり「は、はあ。これが拡声装置です。んで、ここをこうやって……これで幻想郷の隅々まで届くと思いますよ。」
赤毛の大男「おう、ではしばらく借りていくぞ。用が済めば礼と共に返させてもらう。」
にとり「あ…行ったか。」
にとり「にしても誰だったんだろうあの人たち?プレッシャーエグかったなあ。」
ジジッ!ジジジッ!!
霊夢「!?」
魔理沙「ノイズ音?」
ジジッ!
「あーあー、マイクテスト中!」
「完全に起動を確認。問題無し。」
「お、じゃあ頼んだぜ。」
霊夢「だ、誰?」
魔理沙「あん?こりゃ河童の発明品じゃねえか?幻想郷全体に異変が起きたときのための連絡手段。」
「うむ……幻想郷の諸君!我が名は…」
「我が名は、征服王イスカンダル!」
「並びに、俺の名はナポレオン・ポナパルト!」
「姓は項、名を籍、字を羽。世は私を項羽と呼ぶ。」
「……」(もう一人いるような気配がするが声は聞こえない。)
霊夢「は、はあ?」
イスカンダル「我らは抑止の導きによりここに舞い降りた。全ては、人理に害なすこの地を正すため!」
ナポレオン「だが……有無を言わさず攻撃するのもどうかなと、な。」
イスカンダル「おう!故に!我こそはという幻想郷の強者よ!余らと酒を酌み交わし、語ろうではないか!」
イスカンダル「そして我らに示すが良い!幻想郷とはこうだと、滅びるには惜しい場所だと!!」
イスカンダル「場所は……無縁塚と言ったか?」
項羽「座標を再確認……ん、事前に手に入れた地図を参照、無縁塚と断定。」
ナポレオン「無縁塚、ねえ。英霊の身としちゃあ複雑な場所だ。」
イスカンダル「時刻は2日後の日が沈んだとき。遅刻は許さんぞ?」
イスカンダル「こちらでも酒は用意するが、各々好きな酒を持ってくるがよい!ガハハハハ!!!」
イスカンダル「以上!ではまた会おう、幻想郷の英雄たちよ!」
ブツッ
霊夢「……」
魔理沙「は、はあ?」
……
神奈子「いったいどうしたもんかな。」
文「人理に害なす……人理って何です?」
霊夢「……」
魔理沙「おーい?霊夢?」
霊夢「っ……」
その時、空中に「孔」が開いた。
神奈子「む。」
藍「突然のこと失礼いたします。八坂神奈子様。我が主人、八雲紫がお呼びです。至急、白玉楼へ……」
神奈子「ちょいと待った。あんたは……八雲紫の式だったか?」
藍「は、申し遅れました、八雲藍と申します。」
神奈子「ふーん…八雲紫がねえ。」
藍「すでに西行寺幽々子様、聖白蓮様がお越しです。」
神奈子「!!」
神奈子「……分かった。行こう。」
藍「ところで、八意様のご所在はご存知ありませんか?」
諏訪子「八意、ああ、あの医者なら傷ついた皆の手当をしてくれてるよ。」
藍「こちらにいらっしゃったのですね。八意様にも来てくださるようお願いしたいのですが。」
早苗「私、伝えてきますね!」
藍「お願いします。」
霊夢「ちょっと!」
藍「……あ?なんで霊夢がいんだ?」
霊夢「んなことより、私も連れていきなさいよ!」
藍「……あー、連れていくつもりだったから丁度いい。着いてきな。」
魔理沙「お、おい霊夢!」
藍「お、魔理沙じゃないか。あんたも来るかい?」
魔理沙「え、いいのか?」
藍「異変解決の筆頭だ、誰も咎めやしないよ。」
諏訪子「こっちのことは私と早苗に任せてね。」
神奈子「ああ、頼んだ。」
文「……」
諏訪子「文、あなたにもまだまだやってもらうことがあるからね。」
ぬ
文「し、承知しました。」
藍「ではこのスキマより、すぐに白玉楼に着きますので。」
…………
紫「……さて、集まったわね。」
聖「先程の野太い声は一体?」
幽々子「そのへん含めての話よ。」
永琳「……」
神奈子「ふう、あの隙間、一瞬だがこう、気分を悪くするアレがあるな。」
霊夢「……」
魔理沙「な、なあ霊夢?お前なんか知ってんのかよ?雰囲気が変わったというか……」
紫「さて……どこから話しましょうか。」
聖「ではまず、あの者たちの申していた『抑止の導き』についてお願い出来ますか?」
神奈子「ああ、抑止に呼ばれたってことだろ?なんだ、抑止って?」
紫「抑止……アラヤとも呼ばれる霊長の守護者。」
魔理沙「……あ?」
紫「要は、外の世界の人類の無意識
によって作り出される安全機構。人類が滅びかねない異変を察知し、その原因となるものを排除する。」
紫「人の安寧と繁栄のために存在するとんでもない奴らよ。」
聖「……つまり、異変解決のために霊夢や魔理沙が動くように、外の世界で
はその抑止というのが異変解決のために働くってことね。」
紫「そういうこと。そしてその異変解決の手段は様々なのだけれど……今回はサーヴァントを呼び出してきたわね。」
神奈子「また知らん言葉が。」
幽々子「サーヴァントについては私が説明するわ。サーヴァントとは、過去、未来問わず人類の歴史に名を残した英雄たちの分霊よ。」
幽々子「英雄が霊体となって顕現する。もちろんそれらは生きてはいない。動力源はよくわからないのだけれど、何らかの魔力でしょうね。。」
聖「幽霊、とは違うのですか?」
幽々子「幽霊なら私の管轄なのだけれど……あれらは違う。英霊の座に登録された、超別格の存在よ。」
永琳「イスカンダル、ナポレオン、項羽……なるほど。」
幽々子「まさしく、世界の危機を救えるほどの力を持った、ね。」
神奈子「人理に害なすって言ってたな。つまり…」
紫「幻想郷が、外の世界を脅かす……と?」
魔理沙「はあ?おかしいぜそれは。幻想郷と外の世界は全くっていいほど関わることないだろ?たまに外の世界から迷い込むやつはいるけど、送り返すなりなんなりしてる!」
聖「魔理沙の言うとおりです。八雲紫、そして博麗霊夢、あなたがたの結界によって外界とは断絶されている。」
聖「何が、外界にとって幻想郷が危険であると?」
紫「……」
神奈子「そもそも、今までああいう輩は来ていない。いや、もちろん私や聖、ほとんどが幻想郷の外から住み着いているのは確かなんだが……」
神奈子「そうやって、抑止力が来たなんてことはなかったろ?なぜ今になって?どうやって?」
紫「……」
神奈子「……なんだ、いつものお喋りはどうしたんだい?」
紫「……そもそもの前提よ。この幻想郷は『存在している』、それだけで抑止力の排斥対象になるの。」
神奈子「!?」
紫「そして、今日まで抑止力に『気づかれず』に過ごしてきた。」
紫「でも、何らかの原因によって気づかれた。だからあれらが…抑止力がやってきた。」
紫「これは幽々子と私の2人が立てた仮説。」
魔理沙「おいおい、存在してるだけでアウト?意味わかんねーよ。」
霊夢「魔理沙、例えばの話よ?」
魔理沙「ん?」
霊夢「あなたの家の裏のきのこ畑に、突然正体不明の物体が現れたらどうする?」
霊夢「そしてそれが、あなたがきのこを育てるスペースを陣取っていたとしたら?」
魔理沙「そりゃあなんとかしてどかすなり壊すなりするだろ。それに正体不明の物体なんてきのこにどんな影響が起こるか……」
魔理沙「……」
魔理沙「……あー。」
霊夢「それに抑止力は人類の無意識の集合体と言ったけれど……実のところ白血球のような役割よ。」
霊夢「何であれ、異物を排除する……それがやつら。」
聖「……なるほど、その点は理解しました。その上で私達には解決すべき課題は3つあります。」
聖「まずは妖怪の森を襲った謎の敵。次に明後日に控えた抑止力との邂逅。最後に、抑止力が幻想郷を察知し、侵入した原因。」
神奈子「あ、そうそう。妖怪の森を襲った敵なんだが……話を聞くにサーヴァントと考えていいだろう。つまり、さっきの放送の連中の仲間か、それに近しい何か、だと。」
聖「ふむ、明らかに別行動をとっていた点が気になります。今の段階ではやはり課題は3つとするべきでしょう。」
神奈子「……まあ、そうか。」
霊夢「……ねえ、紫。あんた的にはどうなのよ。抑止力が私達に気付く原因なんて」
霊夢「誰かが結界をこじ開けた、ぐらいしか考えられないわよ。」
紫「……ええ、おかしな話よ。でも思えばそれを知らせるものはあった。」
紫「一昨日、かしら。静電気が走ったような僅かな違和感を感じたの。でも結界に異常は確認されなかったし、気のせいと片付けてしまった。」
紫「……迂闊、だったわ。本当にごめんなさい。」
神奈子「つまり極めて短い時間に結界に異常が生じて、抑止力が侵入したってこったな?」
紫「恐らくね。」
紫「考えられるのは、結界に一瞬だけ穴を開けて、一瞬で閉じた。彼ら……サーヴァントを送り込むためにね。」
魔理沙「……んー?ちょいまち?その一瞬で幻想郷を外の世界の敵だと判断してサーヴァントを送り込んできたってのか?」
魔理沙「そいつは……妙っていうか、物理的に可能なのか?」
紫「……む。」
霊夢「…確かに。」
聖「それが出来るくらい超常的な力を持ってるとするならばどうしようもありませんが……いえ、その点を考慮したほうが良さそうです。」
神奈子「うーん、もとから幻想郷と判断はできなくとも何らかの違和感は察知していて、目星はつけていた?」
魔理沙「目星、ならどうやって今回結界をこじ開けたんだ?目星はついていたのに今の今まで放置か?」
魔理沙「んー???」
聖「……」
紫「……」
永琳「……第3者の可能性。」
霊夢「?」
永琳「目星はつけていた。しかし今まで幻想郷に辿り着くことはできなかった。その仮説はあり得るわ。」
永琳「そして、今、干渉が起こった。それは確かに整合性は取れないわ。でも、そこに第3者がいたら?」
永琳「抑止力の思惑を知ってか否か、結界に干渉した何者かがいれば?」
幽々子「……なるほどね。」
魔理沙「つまり?」
永琳「抑止力は私達に干渉する事ができなかった。仮に存在を把握していても結界が干渉を遮断していた。」
永琳「そこに、結界をこじ開けたイレギュラーがいた。それに乗じて抑止力が入り込んだ……?」
魔理沙「……」
魔理沙「やりそうなのは正邪あたりか。」
霊夢「それは無いわ。かなりお灸据えたし、今は確か閻魔が見張ってるって。」
魔理沙「そうか。」
……
なお
正邪「ふぇっくし。」
正邪「あー、畑仕事も楽じゃないねー。」
高齢の女性「正邪ちゃーん、そろそろ休憩にしましょー。」
正邪「あ、はーい。」
……
紫「……ふう。」
幽々子「疲れてるわね。」
紫「そこまで働いたつもりもないのだけれど……」
幽々子「また明日、そうね、午後3時ごろに集合しましょう。お昼を食べ終わったあとで。」
神奈子「……ああ、早苗たちに任せっきりだったが、作業はだいぶ終わってるだろうしな。」
永琳「私は神奈子についていくわ。まだ手伝えることはたくさんあるはずよ」
聖「では私もご一緒しますね。」
紫「んん……らぁん……」
藍「お呼びですか。」
紫「……」
藍「紫様?」
紫「……みんなを、帰してあげて………」
紫「…………」
幽々子「おっとっと、寝ちゃったわね……」
幽々子「藍、紫の命(めい)を優先して。紫は私に任せなさい。」
藍「承知しました。お願いします。」
魔理沙「霊夢はどうすんだ?」
霊夢「神社に戻るわよ。結界の警戒をしないと。」
魔理沙「お、じゃあ私も神社に泊まろうかな。」
霊夢「え?」
魔理沙「え?じゃないだろー、お前も元気ないじゃか。結界のことでショック受けてんだろ?」
魔理沙「この魔理沙さんが一夜、慰めてやるぜ?」
霊夢「っ!!」
神奈子「おやおや、お熱いことで。」
聖「ほほほ、私は何も聞いていませんわ。」
霊夢「あ、あんた……ニュアンスは伝わるのだけど、字面だけみるとアウトよ……」
魔理沙「?」
霊夢「……ふふ、いいわ。泊まるなら着替え持ってきなさいね?」
魔理沙「そうだな。」
藍「紫様ー、せめてスキマのご用意をー。」
……
藍「では、失礼します。」
各々の帰る場所へと連れていくため、藍ら一行はスキマに姿を消した。
幽々子「はーい、お疲れ様。」
幽々子「……ふふ、そんなにショックだったの?」
幽々子「大丈夫よ、みんなを信じなさいな。幻想郷はあなた『だけ』が守る場所じゃないのよ。」
妖夢「幽々子さまー、お座敷のご用意ができました。」
幽々子「ありがとう。」
紫「……」
幽々子「……ふふ、今日はあなたのその情けない寝顔を堪能させてもらうわね。」
……
そのころ
紅魔館・大図書館
レミリア「……」
パチュリー「んー、疲れた。」
レミリア「パチェ、どう?」
パチュリー「おおかたレミィの読み通りよ。」
レミリア「そう。」
パチュリー「これほどの強力なエネルギー、サーヴァントに違いないわね。」
レミリア「サーヴァント、やはりか……恐らく霊夢たちも気づいているだろう。資料を見やすい形で作成できるか?」
パチュリー「使い魔たちにやらせてる。情報量が膨大だし、明日の昼までかかりそうね。」
レミリア「分かった。頼んだぞ。」
パチュリー「……ふふ。」
レミリア「ん?」
パチュリー「レミィのことだから、この事件は紅魔館で解決させる、とでもいうかと思ったけど、怖気づいたのかしら?」
レミリア「馬鹿いえ、そんな単独行動を霊夢が許すと思うか?」
レミリア「どうせ協力しなきゃならん。そのための用意だ。」
……
美鈴「ふわあ……あと2時間で終業か。」
美鈴「……」
美鈴「……スヤァ」
いつものである。
しかし、影は門番以外にもう一つ。
『……大きな魔力炉心、ここか。』
『屋敷、か。門は……』
『……寝てる?門番?』
『…………』
『寝てるな、あれは。』
美鈴「スヤァ……」
なんて幸せそうな寝顔だろう。この世の憂いをすべて断ったような。
『では、入らせてもらおう。』
美鈴「スヤァ……」
鼻ちょうちんをふくらませる門番を横目に、『それ』は門を潜ろうとした
が。
『……』
美鈴「んー……ほい。」
突然『それ』に拳が降りかかる。間一髪で避けるが、実に危険な瞬間だった。
『っ!?』
美鈴「んあー、どちら様ですかぁ?」
『……気づいていたのか?』
美鈴「ん、ん、んー。まあ、そりゃ門番ですから。」
美鈴「……」
嘘だろ、確かに鼻ちょうちんが出来ていたはずだ。
少々腑抜けていた。改めなければならない。
『……』
美鈴「お客様、じゃないっすねえ。素顔すらフードで隠して……」
美鈴「用件によっては、覚悟してもらいますよ。」
『(……厄介だな。こいつの実力は未知数。バレた以上、長居は危険だ。)』
『っ!』
『それ』は何かを地面に叩きつけるやいなや、もくもくと透明度の低い煙を発した。
美鈴「む、煙幕……」
美鈴「……」
『おいかけては……こないか。』
逃げる方向は合っている。今日はひとまずここまで……
美鈴「次来るときはちゃんと昼に、ご用件と共にお願いしまーす!!」
『な……?』
変なやつだ……
……
咲夜「美鈴?」
美鈴「あれ、咲夜さん?まだ終業の時間じゃないですよね?」
咲夜「いや、あなたが叫ぶ声がして。」
咲夜「誰か来てたの?なんか煙たいし。」
美鈴「さあ?」
咲夜「は?」
美鈴「誰か来てたんですかね?少なくとも、生きてる者は来てませんが。」
咲夜「はあ?」
美鈴「まあ、何事もなかったってことですね。」
美鈴「もしかして、咲夜さんにしか聞こえない何かが来ていた、とか?」
咲夜「ちょ、怖いこと言わないでよ!」
美鈴「はっはっはー」
咲夜「何なの……もう。」
………
翌日
朝早い時間ではあったが、彼女たちは帰り支度を始めていた。
文「いやあ助かりました。」
永琳「あとは渡した薬を定期的に処置すれば問題ないはずよ。」
永琳「しかし流石ね。あなた、薬学の知識もあったなんて。」
聖「いえ、全て人並みですわ。むしろ多くの人を導くには足りないくらい。」
永琳「事態が落ち着いたら永遠亭にいらっしゃい。幾分か教えられることはあるから。」
聖「まあ、ぜひ。」
文「なんにせよ、午後からまた集合でしたっけ?」
永琳「ええ。白玉楼でね。」
……(2020/9/24)
同じ頃
紅魔館
美鈴「ふわぁ……」
美鈴「ねむ……」
『……まだ寝ているのか。だが、夜と同じこと。気づかれるだろう。』
『……よし、用意はできた。』
『3、2、1……!』
ボンッ!
美鈴「むっ!」
小さな爆発音とともに煙幕が立ち込める。その煙はやや黄みを帯びていた。
美鈴「ごほ、ごほ!!ただの煙幕じゃ、ない!」
口に、鼻に、喉に、肺に……器官に刺激が走る。
美鈴「しまった……入られたか!?」
ガチャ……
『……奥か。』
美鈴「げほ、待て!」
『……あんたに構ってる暇はない。』
振り返ることもなく『それ』は門を静かにくぐり抜けた。
美鈴「ぐっ……意識が……」
ついに門番が膝をつく。
美鈴「さ、咲夜さん……」
咲夜「何事!?」
かすかな叫び声を聞き、颯爽と現れたメイドは煙をかぎ分け、門番を抱きかかえる。
咲夜「っ……生きてる、わね?」
美鈴「すみません…さ、くやさん……」
咲夜「よっ…と。」
煙から門番を運びだす。美鈴の頑丈さ故に命の心配はしてないが……
咲夜「何この煙……侵入者ね?」
美鈴「はい……フード姿の……あ、が……」
咲夜「分かったわ。すぐにみんなに伝える。ちょっとだけ待ってて。」
美鈴「おねが、いしま……」
咲夜「……美鈴が侵入を許すなんて、どんなやつかしら。」
……
館内を『それ』が進む。『それ』の能力によるものか、警戒にあたっている使い魔やメイドたちには察知されていない。
『……ここか。』
他よりもやや豪華な装飾が施された扉の前に『それ』は辿り着いた。その扉の向こうの、最奥に感じる巨大な魔力。それこそが彼の目的だった。
扉のノブに手をかける。魔力的な結界の気配もない。案外、警戒がザル……
バチッ!
『っ……なんだ?』
……
パチュリー「こっちね。」
……
バチ……
『……!?』
バチバチバチッ!!
『あっ……が!!!!』
動けない。そんな、まさか。
ここまで魔力を隠して結界を仕込めるものか。ありえない。
一切の魔力を探知させない、しかし発動すれば強力な魔術を起動させる結界……
体が圧迫される。まるで深い海に落とされたような。
『っ……!』
深い海の底に放り込まれた僕は、そのまま……
【 ー ー ー 】
……
パチュリー「さて…、咲夜に繋いで……と。」
パチュリー「咲夜、聞こえるかしら?大図書館-K扉に侵入者を捕縛。」
パチュリー「そのまま、レミィのところに送還させるから、あなたもそこにいらっしゃい。」
…………
大広間
レミリア「ほう?まだ意識があるのか。パチェのあの結界を食らったら大抵は気絶するものだが……」
大広間へと連れて行かれた『それ』は、レミリアの前に膝を付いていた。
両脇に、メイド長と紫色の魔法使いが供えている。
『っ……』
レミリア「パチェ、結界を若干弱めろ。話がしたい。」
パチュリー「了解。」
『がっ……はあ、はあ。』
レミリア「さて、まずは名を聞こうか。」
『……アンタたちが知る必要はない。』
レミリア「ふむ……咲夜、そのフードをひっぺがせ。」
咲夜「承知しました。」
フードからあらわになった顔は、白髪に褐色の肌を持った、幻想郷ではまず見ない質の男であった。
レミリア「……ほう、男だとは分かっていたがなかなかにイケているじゃないか?」
『……』
レミリア「改めて、名を聞こうか。」
『……』
レミリア「……」
レミリア「分かった、質問を変える。なぜこの館に来た?しかもうちの門番を強引に突破してまで。」
『……』
レミリア「……」
レミリア「……妖怪の森を襲った奴と関係してるのか?お前は。」
『……森を襲った?』
レミリア「聞いた情報とお前はかなり似通っている。白の髪に褐色の肌……。」
『……!?』
『おい、そいつは、そいつをどうした!?』
レミリア「……興味を示したな?関連ありか。」
『お前たちはそいつをどうしたと聞いている!』
レミリア「随分な物言いだな、立場をわかっていないのか、貴様は?」
レミリア「…少なくともそいつを捕まえたという話は聞いていない。」
『っ……しまった。悠長な策だったか……』
レミリア「……」
レミリア「お前はどうやら昨日の事件に関与しているようだが……」
レミリア「門番を傷つけ、私に対してあまりに無礼な態度を撮った。そのツケは払ってもらう。」
『…拷問かい?』
レミリア「察しがいい。好きなだけこいつで実験していいぞ。だが殺すなよ?今日の午後、スキマ妖怪らの会合の手土産にする。」
パチュリー「あら、どうも。あの結界を耐えるんだもの。久々に良い実験が出来そうだわ。」
レミリア「……咲夜、パチェの見張りだ。暴走しないように、な。」
咲夜「承知しました。」
パチュリー「む、分別くらいつくわよ。」
レミリア「いや、今のお前、マッドサイエンティストの目をしてたぞ……」
……
大図書館
結界は解かれることなく今なお『それ』を縛る。
『……』
咲夜「……いい加減名乗ったらどうです?」
『知ってどうする?意味が無い。』
咲夜「……それも、そうですね。」
パチュリー「えーと、まず、あなたは人間かしら?それとも人型の妖怪?」
『人間、か。そんな、生き方はとうに棄てたよ。』
パチュリー「……霊ってこと?半人半霊?にしてはヒトの要素が強いのよね。」
パチュリー「うーん……。体組織から調べるか。」
パチュリー「こあ、彼の皮膚を取ってきて。」
小悪魔「はあい。」
『……』
小悪魔「だいじょーぶですよー。ちょっとザクッと、スパッと行くだけですもん。」
『……好きにやるといいさ。』
小悪魔「……抵抗してくれたほうがやりがいあるんだけどなー。」
小悪魔「ま、いいか。」
悪魔の爪が鋭利に変化する。なるほどそれであれば僕を抉ることも容易いだろう。
……そんな痛みはどうだっていい。僕がやるべきこと、やってきたことに比べれば、その程度。
小悪魔「私も食べたいので多めに行きますねぇ。えーい!」
【 だ め よ 】
小悪魔「へ?」
バリバリ!!
小悪魔「きゃあ!?」
【 は な れ て 】
パチュリー「なっ……結界が!?」
唐突に、彼を縛る結界が破壊される。
パチュリー「っ……こあ!離れて!」
小悪魔「ふぁ、ふぁい!」
咲夜「パチュリー様、私の後ろへ。」
パチュリーが更に何重にも結界を貼るが、全てが破壊される。
彼の周囲の空間が歪む。破裂音が鳴り響く。
その間、彼は、常に俯いていた。
パチュリー「なんなの…!」
【 お き て 】
『……』
不意に彼は何事もなかったように立ち上がる。
『……』
咲夜「それがあなたの奥の手ということですか!」
『僕は……』
『僕は、世界を救う。』
スッ……
咲夜「消えた…!?」
パチュリー「探知……!上!!」
咲夜「っ、時よ……!」
その瞬間、時が止まる。パチュリーも小悪魔も停止する。
彼女の十八番、時間を操る程度の能力だ。
咲夜「どれだけ裏をかこうが、私の能力には届きません!」
『……』
咲夜「眠ってもらいます、幻符・殺人ドー……」
『Time alter……Double accel!!』
咲夜「なっ!」ガキィン!!
一瞬であった。空中、頭上にいたはずの男は、十六夜咲夜の目の前でナイフを構えていた。
互いのナイフが鋭い音を立ててかちあう。
すんでのところで命を拾った咲夜は動揺を隠せない。
「なぜ……動けるのです!?」
『あんたも時間操作の能力を使うのか……は、同じ土俵とはね。』
なんだ、この男は。先ほどと雰囲気が違う。パチュリー様の結界を壊してから、なにかに取り憑かれたように…!
『なら、どちらがより迅く動けるのか、だ!』
『Time alter Triple accel !!!』
咲夜「奇術・ミスディレクション!」
互いに瞬間に移動し、瞬間に攻撃する。
誰にも追いつけない、誰にも認知されない二人だけの殺し合い。
幾数ものナイフが飛び交い、消え、劈く。
咲夜「この…!!」
能力的にも咲夜が優勢のはずである。彼女は自身のみならず、ナイフすらも自在に移動させ、敵の急所を貫くこともできる。
しかし、届かない。彼女のナイフはすんでのところで弾き返される。
その原因が彼女の思案によって解決されることはなかった。
……時間切れだ。
スッ………
咲夜「っ……はあ、はあ。」
パチュリーとその使い魔は、急激な状況の変わりように咲夜が時を止めたことを理解した。
しかし、おかしい。それならなぜあの男は。
傷一つ負わず立っているのだ?
『……もう終わりかい?』
咲夜「……」
『君の魔術に関してすこし興味はあるが……これも仕事でね。』
スッ……
また、男が消える。
咲夜「っ……」
すぐに臨戦態勢をとったが、しまった。
思えば、あの男はそもそも図書館へと入ろうとしていたのだ。
なら目的は……
パチュリー「……へ?咲夜?」
咲夜「……?」
てっきり、パチュリー様が目的だと思ったのに……
では、あの男はどこに?
……ウォーン!!ウォーン!!
いつもの結界の反応音とは違う、やや高めの音が響く。
警告音のように感じられるが。
パチュリー「しま……あいつの目的は、魔力炉!!」
咲夜「!!」
……
図書館の最奥、そこには紅魔館を支える魔力炉がある。
紅魔館で使われるあらゆるエネルギーの基であり、パチュリーが長年かけて作り上げた。
といってもそこまでおおがかりな設備ではない。
平均的な成人男性身長ほどの高さに直径50センチメートル。
ガスストーブのような、その機械の中央に煌々と赤い結晶が光る。
『まずはここを潰す。』
懐からナイフを取り出す。普通のナイフではない、特別なナイフ。
魔力の流れをズタズタに引き裂き、めちゃくちゃに接合する。
彼の起源に由来する、魔術師殺しの道具。
何重にも張られた結界がいともたやすく切られる。
『……』
心を鉄に。
体を刃に。
ただ、世界を救う。
そのために刃を振るう。
「さーせーるーかー!!」
弾ける叫び声と共に突如天井が崩壊する。瓦礫が彼の元へと雪崩れ落ちる……
『何!?』
舞い降りるは一人の少女。奇妙な形をした槍を携えている。
……殺気とは違う異質な空気を彼女は放っている。
「ここだけは絶対に壊しちゃいけないってお姉さまから言われてるの!ここを壊したら怒られちゃう!」
『……』
「どこの誰か知らないけれど、ここを壊すつもりなら……」
「キュッとして……」
【 さ せ な い 】
フランドール・スカーレット「ドカーン!!!!!!!!」
⋯⋯⋯
爆発による粉塵が失せてもなお、その男は膝をついていなかった。
フラン「っ⋯⋯てえりゃあ!!!!」
炎を纏う槍を存分に華奢な少女が振り回す。
フラン「そおい!!」
『グッ⋯』
『(クソ⋯なんだコイツは⋯!?さっきのメイドとは格が違う⋯!)』
フラン「あれ⋯⋯オニーサン、なんで死んでないの?」
きょとんとした顔で少女が尋ねる。
あれほど攻撃したのに、当然起こりうる現象が起きなかった、その矛盾を彼女は理解できなかった。
フラン「⋯アハ、アハハハハハ!!!!!」
少女が絶叫する。
『(狂ってるのか、コイツは⋯)』
フラン「じゃあ、じゃあ、じゃあじゃあじゃあじゃあじゃあじゃあじゃあ!!!!」
フラン「⋯⋯どれだけやれば死ぬのかなあ。」
フラン「禁忌⋯⋯」
咲夜「ここですか!!」
続きます。
(ペーストミスを訂正しました 。 2020/09/29)
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