2015-05-07 20:03:01 更新

ちゅん


ミスティア「ここでいい筈なんだけど……」


落ち合う相手の特徴を聞くのを忘れてしまった。

初見の相手と待ち合わせするんなら、普通は服とか、アクセとか、聞くべきだけど、し損ねていた。

私のことは伝えてあるから見つけて貰うのを待つか、もしくはLineしちゃうか。

ここは駅前から5分ほど歩いたビルの6階、私一人じゃ絶対に訪れることはないだろう場所。

エレベーターの扉が開いた瞬間、未知の光景と空気感が飛び込んできた。

私はとりあえず指定された場所にあった手近な椅子テーブルセットに腰を下ろす。


ミスティア(これが、「すたじお」かぁ)


きょろきょろ、見回してしまう。

見たこともない、それなりに高価そうな機材が(割と乱暴に)あちこちに置いてある、何に使うものかわからないけど。

見てわかるのは、楽器とマイクくらい。他はさっぱりだ。

これは、貸し出しとかしているのだろうか、でも全然その作法は書かれていなくて、誰かのものなのか、レンタル品なのか、展示品なのか、ゴミなのかさえ私にはわからないけど、きっとこういう界隈の人にとっては常識なのだろう。


ミスティア(ぅぅ、アウェイ感スゴすぎて落ち着かないなあ……)


周囲のあらゆるもの、空気の果てにまで「ここはお前の来る場所じゃない」と嘲られているようで、私は椅子に座ったまま小さく縮こまる。

それにしてもたばこ臭い空間だなと思ったが、それを物語るのはテーブルの上、掃除されているにも拘わらずこびりついた汚れの落ちない煤け色になった灰皿。

ひとつふたつの吸い殻が落ちている。

消し方は乱雑、でも、薄く口紅が付いていた。

それと、ふっとテーブルの上に気になったもの。


ミスティア(うわぁ、これ)


テーブルにはどこかのバンドのメンバー募集のチラシや、ライブのチラシ(ふらいやー、って言うらしいけど)が置いてあり、その横に、ラジカセが置いてあった。

ラジカセである。

流石にこれくらいなら私にだって使い方はわかる。

今時そんなものが置いてあるとは思わなかったが、視線を巡らせば各テーブルに一つずつ置いてある、これもまた界隈での常識なのだろうか。

もし使うにしても、私はこの共有スペースで音を出すのはなんだか気が引けてしまうだろう。


ミスティア(CDはともかく、今時カセットテープって使い道あるのかな)


私は意味もなく、カセットテープの扉を開閉する。

機械式の大きなボタンは、今はどんな電子機器からも追い出されて消えて行くものだ。

押下感は、得も言われぬ快感。

中に見える機械もまたアナクロを深化してエキゾチックではないか。


ミスティア(機械によってここの扉の開き方、結構違うんだよね……これは「かしゃっとタイプ」かぁ。あとA面B面ひっくり返すのも、何となく楽しいんだよね〜)


開けた扉から覗くカセットスロット、歯車、それにヘッダを眺めては開閉を何度も繰り返していると、不意に背後から声がかかった。


*「そんなに楽しそうにラジカセと会話してる子は初めてだな、こりゃ期待できそうだ」

ミスティア「ふぇっ?」


振り返ると、女の人が立っていた。

背、高い。

色、白い。

でも、かっこいい。


*「ミスティアちゃん、だよね?私が妹紅、他の奴らは少し遅れるってさ。新メンバー追加だってのに」

ミスティア「あ、あ、はい、ミスティアです、私こういうの初めてでよくわかんなくて、えっとスタジオってなんか不思議な空間で、ラジカセとか懐かしいなぁって見ててそれで、あの私ああいう曲、聞くのは好きですけど歌えるかどうか不安で、えっと」

妹紅「はいはい、よろしくね。みんな注目しちゃってるよ」

ミスティア「ちゅん!」


気が付いたら他の人たちが私(と藤原さん)の方を見ている。緊張緊張アンド混乱で変な声が出てしまった、はずかしい……。


後書き

気が向いたら書き足してきます


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