金剛「朝潮を沈めるデース!!」
朝潮を主人公にした王道バトルSSです。
キャラ崩壊をご了承ください。
シリアスかつブラックな内容ですが、
お楽しみいただけたら幸いです。
ここは、ラバウル基地所属のとある鎮守府――
ドタドタドタ……バタン!!
執務室のドアが勢い良く開いた。
金剛「Hey、提督ぅー!戦果Resultがあがっ……あっ!?」
提督「ありがとうな、朝潮。事務仕事がはかどるよ」
朝潮「秘書艦として当然のことをしているまでです。司令官」
金剛(朝潮が居たのですカ……)イラッ
金剛「Hey、提督ぅー!作戦から帰って来たヨー!!」
提督「おお、気づかなくてすまんな金剛」
提督「お疲れ様」アタマナデナデ
金剛「へへへ~もっと褒めて欲しいデース」
提督「提督大好きデース」ニコニコ
朝潮「……司令官!」
金剛「ん~朝潮、何の用ですカ~??」ギロッ
金剛「提督は今、私と話しているのですヨ??」
朝潮「あ……い、いえ。お話し中に申し訳ありません」
朝潮「書類作業が終わりましたので、次の命令をお申し付けいただきたいと」
提督「さすが朝潮。仕事が早いな。 秘書艦でいてくれて助かるよ」
金剛「……」
別の日――
執務室へ向かう金剛と比叡。
比叡「やりましたね……お姉さま」ボロッ
比叡「私たちの艦隊でカスガダマ沖を解放しましたね」
金剛「うー…それでもかなりやられマシタ。 日頃の無理が祟ったみたいデース……」ボロボロ
比叡「大丈夫ですか、お姉さま」ヨタヨタ
金剛「ありがとデース、比叡。 私は大丈夫ですヨ」
金剛「提督に報告してから入渠にしまショウ」
比叡(自分よりも司令のことを大事にして)
比叡「お姉さまは本当に司令が好きなんですね」
比叡(でも……)
金剛「ん?比叡?どうかしましたカ??」
比叡「いえ、お姉さま、何でもないです」
比叡「それより執務室へ行きましょう」
金剛「そうですネ」
金剛(いっぱいケガしました)
金剛(でも、作戦を成功させマシタから……提督は喜んでくれるカナ?)
金剛(うふふっ)
執務室の前に来た金剛と比叡――
朝潮「司令官っっ!!!! ありがとうございますっっっ!!!」
金剛・比叡「!?」
金剛(What's!?!? 執務室の中で何が起きているのですカ!?)
金剛(気になりマス……!!)
比叡「お姉さま。気にせず、報告に行きましょう」
比叡が扉に手をかけようとする。
金剛「待って下サイ、比叡」
金剛が比叡の手をとり、制止する。
金剛「まず、ここで中の様子を見まショウ」
金剛が扉を小さく開けて中を覗く。
朝潮「……司令官。私がこのような品をいただいて、よろしいのでしょうか?」
提督「ああ。最近は執務室で事務仕事を手伝ってもらったり」
提督「他の駆逐艦の子たちの鍛錬に、付き合ってもらったりしていたからな」
提督「ささやかだけれど、プレゼントのお守りだ。持っておくといい」
朝潮「……!! 司令官、ありがとうございます。心遣い感謝します」
提督「あのな、朝潮。もっと素直に喜んでもいいんだぞ?」
朝潮「いえ、職務中ですので、自制すべきと判断しました」
朝潮「……間違っていましたか?」
提督「いや……。でも、我慢し過ぎて無理はするなよ」
提督「嬉しいときには、喜んでいいんだからな。辛いときには、泣いていいんだからな?」アタマナデナデ
朝潮「司令官……///」
提督(過去の一件もあるしな……)
金剛(朝潮……)ギリッ
金剛(今すぐ扉を開けて、壊したくなる笑顔ですケド…)
比叡「お、お姉さま……?」チラッ
金剛「比叡……やっぱり入渠にしまショウ」ニコ
比叡「金剛お姉さま……戦果報告は…?」
金剛「それは、後からでもできますヨ」
金剛「それよりも……今は提督と朝潮の邪魔をしちゃ駄目ですヨ?」
金剛「だから、比叡、行きまショウ」スタスタスタ…
比叡「あ……。お、お姉さま待ってー」
金剛(Shit! 腹が立って仕方がないデス……)
金剛(朝潮だけプレゼントなんかもらって……)
金剛(私たち第一艦隊の誰ももらっていないのに……)
金剛(私はこんなに提督を愛しているのに……)
金剛(いつも朝潮は邪魔ばかりですネ……)
その日の夜。金剛の部屋――
金剛「朝潮が本当に邪魔デース!!」
榛名「荒れてますね、お姉さま。はい、紅茶になります」サッ
金剛「うぅぅ……いつもありがとデース。榛名」
霧島「それでお姉さま。また、朝潮が何かされたのですか?」
比叡「霧島、それを聞くのは……」
金剛「気遣いは無用ですヨ、比叡」
金剛「実は今日、朝潮が1人だけ、提督からプレゼントをもらったのデス」
榛名「やりますね。朝潮ちゃん」
金剛「だから気に食わないのデス!!」バンッ
比叡「!」ビクッ
霧島「……たしかにお姉さまの気持ちを考えれば、腹立たしいのも当然」
霧島「しかし、朝潮は卒なく仕事をこなして、いつも冷静沈着かつ努力家です」
霧島「最近では他の駆逐艦たちの指導も行っている、人望ある艦娘ですから」
霧島「提督からプレゼントをいただくのも、不思議ではないと思いますよ、お姉さま」
金剛「……霧島は朝潮の肩を持つのですカ!?」
霧島「あ……そんなことは……」
霧島「ただ、彼女が大切にされている理由があると、お伝えしたかっただけです」
霧島「すみません」
金剛「霧島、もういいデス。霧島の言う通り、朝潮は優秀ですよネ……」
榛名「お姉さま」
榛名「私はお姉さまの気持ちを、痛いほどわかりますよ」ニコ
金剛「Oh! 榛名はわかってくれますカ!でも、朝潮は優秀ですから仕方ないですヨ……」
榛名「はい。たしかに朝潮ちゃんは練度もあり、秘書艦を長いことしています。提督からの信頼もあります」
榛名「しかし、金剛お姉さまは第一艦隊の主力で、我が鎮守府のエースです」
榛名「直近では長門型戦艦の陸奥さんが着任されたものの、未だトップを走っていらっしゃるのはお姉さま、ただ一人」
榛名「今まで解放してきた海域も、金剛お姉さまの活躍があってこそだというのは、周知の事実です」
榛名「たかが駆逐艦というのは失礼に当たるかもしれませんが、提督は金剛お姉さまの顔を立てるべきですね」
金剛「Wow! 褒めすぎですヨ、でも嬉しいことを言ってくれますネー、榛名!」ギュッ
榛名「いえいえ。思っていたことを素直に申しただけです」
榛名「……そこでお姉さまに提案があるのですが、一つ耳に入れていただけませんか?」
金剛「提案とは何ですカー、榛名?」
榛名「はい。提案を有り体に言いますと、お姉さまを苦しめる朝潮を沈めたいと思っています」
金剛・比叡・霧島「!!」
比叡「は、榛名……それは本気で言っているの…?」アセアセ
榛名「なぜそう思うのです?比叡お姉さま??」ニコ
比叡「そんなの当たり前だって。だって……仲間同士じゃない!」
霧島「比叡お姉さまの言う通りです。それにどうやって、そんなことをするって言うのですか?――榛名?」
金剛「まぁまぁ、2人とも。榛名のTeaでも飲んで落ち着きましょうヨ」
金剛「…それで、榛名の考えを聞かせてくれますカ?」
比叡「金剛お姉さま!」ガタッ
金剛「わかっていますヨ、比叡」
金剛「二人の言うことももっともデース」
金剛「そんな選択をとって成就した愛なんて、提督は喜びませんヨ」
金剛「だから、榛名の何を思っているのか意見を聞かせてクダサイ」
榛名「承知しました」
比叡「榛名!」
榛名「比叡お姉さま」
比叡「!」
榛名「そんなに声を荒らげないで。金剛お姉さまがお話を望まれています。ご着席いただけませんか?」
比叡「でもッ、榛名!」キッ
榛名「怖い顔を向けないでください。まだ何もお話をしていませんよ」
榛名「話を聞くだけ聞いてくだされば、結構ですので。それから判断していただけませんか?」
金剛「そうですネ。最初は驚きましたが、そう思えバ」
金剛「比叡、座りまショウ」
比叡「……そういうことなら」
金剛「霧島もいいですネ?」
霧島「はい、お姉さま」
金剛「ありがとうゴザイマス。では、榛名。榛名の考えを話してくれますカ?」
榛名「はい。それでは金剛お姉さまのご意向に沿いまして、お話させていただきます」
~~2時間後~~
榛名「……という手はずで、明日はお願いしますね」
金剛「わかりましたヨ! 榛名!! みんなで朝潮を沈めまショウ!!」
比叡「……金剛お姉さまがそう言うのなら……」
霧島「サポートは、この霧島にお任せください!!」
榛名「それでは、金剛お姉さま。音頭を取っていただけますか?」
金剛「OKですヨー! それでは……」
金剛「朝潮を沈めるデース!!」
榛名「さすがです。お姉さま。では話が一段落つきましたので、ティーセットを片付けてきますね」
金剛「いいですヨー。お願いシマース」
榛名「それではお言葉に甘えて、失礼します」スタスタスタ…
榛名(フフフ…お姉さまたちは可愛いくらい、みんなチョロいですね……)
榛名(あまりにも事がうまく行きすぎて、榛名は笑いを堪えることができません)
榛名(金剛お姉さまは、提督への恋で盲目になっていますので、敵対心を煽れば容易に落ちました)
榛名(口では正義を語っていますが、情事には勝てないようです)
榛名(比叡お姉さまは、真っ直ぐな性格が厄介ですが……)
榛名(金剛お姉さまのご意向には逆らわないので、傀儡も同然)
榛名(霧島は頭脳派と言いつつ、日和見主義の脳無しで多数決には絶対服従)
榛名(金剛お姉さまさえ落とせば……実に容易い姉妹です)
榛名(駆逐艦の一艦程度、沈めるなんて造作もありませんし……)
榛名(後は、これで金剛お姉さまが秘書艦になれば、名実ともに金剛姉妹はさらなる地位を確立させるでしょう)
榛名(長門型戦艦や大和型戦艦の建造の話に冷や汗をかいていましたが、これで榛名の立場は大丈夫です……フフッ)
榛名「では……明日に備えて少し細工をしてきましょうか」
次の日、駆逐艦の住まう寮――
金剛「Hi! ブッキー!! 今日もイイ天気ネー!」
吹雪「あ、金剛さん。おはようございます。今日は天気も晴れて、気持ちいいですよね」
金剛「そうそう。気分が舞い上がるネ!」
同時刻、榛名の部屋――
榛名(朝潮ちゃんは実直な性格ではあるものの、歴戦の戦術眼もあって意外と賢い)
榛名(彼女を嫌っている金剛お姉さまや私たち姉妹が、無闇に罠にかけようとしても、警戒されるだけ……)
榛名(だから、あなたが信頼を置く艦娘を利用させてもらうとします)
榛名(そう……)
――吹雪ちゃんのような真面目で、純粋な性格の艦娘。
金剛「それでブッキーに1つ頼みがあるのだけれど、頼んでイイ?」ニコニコ
吹雪「はい、何でしょうか?」
金剛「作戦のための招集をお願いしたいのデス」
執務室――
朝潮(本日、司令官は出張の予定……)
朝潮(仕事はいつも通りで、と任されているけれど)
朝潮(少し、寂しい……)
トントン……
吹雪「失礼します…」
朝潮(? こんな時間に誰かしら?)
朝潮「どうぞ」
ガチャ……
朝潮「あら吹雪さん、何の用かしら?司令官だったら、ただ今出張中になるわ」
吹雪「司令官への用件ではないですよ」
吹雪「朝潮さんへ司令官から言伝になります」
朝潮「私?」
吹雪「ヒトフタマルマルに第一艦隊で出撃のため、朝潮さんは準備されたしとのことです」
朝潮「そうなの、伝えてくれて助かるわ」
朝潮(知らなかった……司令官が言い忘れていたのかしら?)
吹雪「あと、あの……朝潮さんに言いにくいのだけど」
朝潮「?」
吹雪「編成メンバーには金剛さんたちがいるけど、ケンカしないでね……」
朝潮「!」
吹雪「あ、あっ……でも、私も一緒に出るし、司令官も何か考えがあってのことだと思うから……」
朝潮「……大丈夫よ。心配いらないわ」
朝潮(金剛さん……司令官に好意があるから、秘書艦の私を敵視しているみたいだけれど……)
朝潮(司令官の考えた作戦だから、私情は挟まないでおこう……)
朝潮「それで、吹雪さん。作戦の内容は?」
ヒトヒトサンマル、執務室――
朝潮(吹雪さんが出て行った後、仕事が進まなかった……)
朝潮(旗艦を任されていた昔のことばかりを思い出して……)
朝潮(まだ、私はあの事件を引きずっていると言うの?)
~~一年前~~
――朝潮……さん…ありがとう……ございました……――
――そんな……電さんッッ……!!――
朝潮「……っ!!」ガタッ
朝潮(いや、落ち着きなさい…私)
朝潮(こんな弱腰じゃ、作戦を遂行なんかできない。また…司令官を悲しませてしまう……)
朝潮(そうだ、司令官のお守り……)サッ
朝潮(お守りを握っているだけで、司令官の優しさを感じます……)
朝潮(そろそろ、時間ね……司令官、私をお守りください)ギュッ
朝潮「駆逐艦朝潮、出撃します!」
ヒトフタマルマル、鎮守府前の海域――
金剛「朝潮、やっと来ましたカー。珍しく遅かったですネー」
金剛「職務が忙しかったのですカ?それとも、久しぶりの出撃で、ボケちゃっていましたカ?」ニヤニヤ
吹雪「こ、金剛さんっ!朝潮さんは時間に間に合っていますよ」アセアセ
朝潮「いえ、吹雪さん。フォローしなくていいわ。私が悪いのだから」
朝潮(しょうもない、いびり…でも、一々反応していては作戦に支障が出る……)
朝潮「皆さん、お待たせして申し訳ありません。それと、本日は作戦の一随伴艦として、よろしくお願いします」ペコリ
比叡「よろしく……」
霧島「よろしくお願いします」
榛名「朝潮ちゃん、よろしくね」
榛名(さすがです朝潮ちゃん。提督命令は絶対なあなたが、私情で作戦放棄なんてありえない)
榛名(提督がいらっしゃれば、こんな嘘はすぐにバレたでしょうが)
榛名(提督の不在と、金剛お姉さまを差し置いて贈り物をいただいたタイミングが、重なってしまったことは不運でしたね)
朝潮(吹雪さんを除くと、金剛さんの姉妹が全員揃った編成……)
朝潮(もし私の身が危険にさらされても、ほとんどサポートは見込めないだろう……)
榛名「お姉さま。彼女は頭を下げ、誠意を見せてくれました。遅れたことは、大目に見てあげましょうよ」
榛名「これから一緒に作戦を進める仲間なんですから」
霧島「そうですね」
比叡「……」
金剛「そうネー……榛名がそう言うのなら、許しまショウ。朝潮、顔を上げてくだサーイ」
朝潮「……ありがとうございます、金剛さん、榛名さん」
榛名「どういたしまして、朝潮ちゃん。でも、そう堅くならずに」ニコッ
金剛「それでは、集まったところで行きましょうカ!!」
榛名「ほら、朝潮ちゃん。先頭の金剛お姉さまに続いて」
朝潮「は、はい!!」
金剛(あと少し、あと少しで朝潮のクソみたいなFaceを見なくてすみマース)
榛名(フフッ。順調ね……)
比叡(朝潮……私はお姉さまの笑顔が一番だけど、でも、でも……)
金剛「Follow me! 皆さん、ついて来て下さいネー!」
ヒトサンマルマル、鎮守府から西の海域――
朝潮「金剛さん、作戦地点の方向はこちらで合っていますか?」
金剛「ええ、朝潮。こちらの方向で合っていますヨ。もう少しで目的地に着きマース」
榛名「朝潮ちゃんは心配性ですね。金剛お姉さまに付いて行けば、万事大丈夫ですよ」
榛名(あなたの身の安全は保障しませんけどね)
朝潮「そうですか。それならいいです。失礼しました」
朝潮(作戦を聞いていたものの……やはり疑問が残るわ……)
朝潮(この先は以前に解放した海域のはず……)
朝潮(警備担当の駆逐艦からは、敵性勢力のない穏やかな海だと聞いていたけれど)
朝潮(これは本当に司令官の作戦なのかしら)
ヒトサンヒトゴー、???海域――
金剛「さぁ、皆さん着きましたヨ」
朝潮「金剛さん、ここは?」
朝潮「予定では敵艦の強襲のはずですが、どこにも見当たりませんよ……?」
榛名「大丈夫です、敵艦が一艦いらっしゃいますよ」
朝潮を囲むように離れる金剛姉妹たち。
朝潮「それに……比叡さんと吹雪さんはどこではぐれたのか、わかりませんか?」
榛名「わかっていますよ。こういう作戦です」
榛名「朝潮ちゃんには、作戦がきちんと伝わっていなかったようですね」
榛名「ごめんなさい」ニコッ
榛名(比叡お姉さまは、指示通りに吹雪ちゃんを連れて作戦から離脱しましたので)
喋りながらも、さらに朝潮から離れる金剛姉妹。
朝潮「もう一つ聞きたいのですが」
朝潮「なぜ榛名さんは、私に35.6cm連装砲を向けているのでしょうか……?」
榛名「ああ、朝潮ちゃん。大事なことを言い忘れていました」
榛名「なぜならそれは……ここであなたを消し去る作戦だから…ですッッ!!」
ドゴォォォンッ!!
朝潮「?!」
朝潮「な…榛名さん何を!?」
榛名「何って?あなたを沈めるのですよ、これを見て嘘だと思いますか?」
ドゴォォォンッ!!
金剛「Shit! 外シマーシタ!!」
朝潮「金剛さんッッ!!!!」
朝潮「あなたまで何を考えているんですか!!!」
金剛「……うるさいですヨ!!」
ドォォンッ!!
ドォォンッ!!
朝潮「くっ……!!」
金剛「なんで駆逐艦のあなたが、愛されるんですカ!!」
金剛「第一艦隊の私が愛されず、なぜあなたが!」
朝潮「金剛さん……それだけで……」
金剛「そ れ だ け……?」ピキッ
金剛「ふざけるんじゃないですヨッッ!!!」
朝潮「…!!」ビクッ
金剛「私は第一艦隊旗艦ですヨ。あなたが逃げ出した後の海で、誰よりも敵艦を沈めた武勲艦は私」
金剛「沖ノ島海域も北方海域も、昨日のカスガダマ沖も……解放してきたのは私」
金剛「たとえ、長門や大和が来たって負けない練度だってありマス」
金剛「だから……それで秘書艦に選ばれないなんて、おかしいデス」
朝潮「それは……提督のお考えによるところですから」
金剛「ええ、そうですネ」
金剛「私は考えたんですヨ。どうしたら、私が提督の一番になれるカ」
金剛「提督の隣の朝潮を沈めてしまえば、私が一番になれるって思ったんデス」
朝潮「そんな! 金剛さん、あなたは…!!」
金剛「もういいでショ? これが私のBurning Loveなのですカラ」
金剛「焼き尽くされるといいデース!!」ジャキッ
霧島「金剛お姉さまの言う通りです。朝潮、運がなかったと思ってね」ジャキッ
榛名「というわけなので沈んでください、朝潮ちゃん。大丈夫、きっと提督は悲しんでくれますから」
朝潮「……榛名さん、あなたの計略ですか」
榛名「はい、そうですよ。愛する金剛お姉さまの役に立つことは、榛名の喜びですので」ニコニコ
朝潮「そうですか」
朝潮(鎮守府で最も謀略に長けた榛名さんが、一枚かんでいた時点で最初から避けられなかった)
朝潮(話のわかる比叡さんも、吹雪さんもいない)
朝潮(安心させて、誰もいないところで私を沈めて、金剛さんを秘書艦の座に就かせる)
朝潮(許される判断ではないものの、秘書艦の椅子は憧れるかもしれない)
朝潮(でも……それでも……)
朝潮(司令官の隣は……私の責務は……渡したくありません!!)
ジャキッ! ガチャッ!
朝潮「……榛名さん、構えてください」
榛名「なるほど、戦る気ですか?」
榛名(戦艦3に対して、駆逐艦1。勝負は目に見えている……それに……)
榛名「んー、いいでしょう。せいぜい、水底で己の過ちを悔いてください」
ヒトサンサンゴー、鎮守府から西の海域――
吹雪「比叡さん、なんで金剛さんたちと別れたんですか?」
比叡「ごめん、そういう予定だったの……」
吹雪「比叡さん?」
比叡「ごめん……今は本当のことを話せない……」
吹雪「え…?」
比叡「理由は聞かないでほしいのだけれど……一つ、お願い事を頼んでいい?」
吹雪「え、ええっ!? わけがわからないですよ!!」
比叡「ほんとにごめんなさい」ペコリ
吹雪「わっわっ! 比叡さん、頭を上げてください」
吹雪「……うーん……よくわからないですけれど、お願いってなんですか?」
比叡「……ごめんね、吹雪ちゃん」
比叡「私は……私からは何も言えないけれど、この地図を見て」
比叡「進路を大きく曲げながら、この座標に向かってほしいんです」
吹雪「は、はぁ……事情は詳しく知らないですけど、わかりました」
吹雪「……これが私たちの作戦なんでしょうか」
比叡「いいえ」
比叡「これは……”私”の作戦です」
ヒトヨンマルマル、???海域――
朝潮(……距離20に2発……距離10に4発……)
朝潮「ここッッ!!!」
ドォォンッ!!
ドォォンッ!!
ドゴォォォンン!!
金剛「Shit! Shit! Shit! なんで、なんで当たらないんですカー!!!」
霧島「どうして…? 私の戦況分析が……」
榛名(さすが、かつての武勲艦)
榛名(昨晩工廠長を騙して、朝潮ちゃんの艤装全体にバルジ強化を施し、速力を落としたのに避け続ける回避能力)
榛名(三方からの砲撃の隙を見つけたようですね、それとも歴戦で培った戦術眼か)
榛名(元々、朝潮ちゃんの最大速力は 34.85kt)
榛名(対する私たち金剛型戦艦の最大速力は 30 kt前後。四方を包囲をしても、逃げられる可能性が高い)
榛名(私たちが彼女に速力で勝り、常に彼女を三方からの集中砲火に晒せば、轟沈は必至かと思っていました……)
榛名(ですが、フフフ、逃げ出すことも想定して艤装に仕込んでいたのに、砲撃が当たらないなんて話になりません……)
榛名(このまま避けられ続け、こちらの弾数が尽きても困ります)
榛名「奥の手を出しましょうか」
ドドォンッ!!
ボォォンッ!!
ドゴォォン!!
朝潮「よし、回避成功」
朝潮(……いつもより艤装が重い気がするわ)
朝潮(でも、三方からの砲撃も隙がある)
朝潮(このまま避け続けて、機会を待って金剛さんたちから逃げれば……)
ギギギギ……
朝潮(え……)
朝潮(私の12.7cm連装砲が…勝手に動いて……)
ドォン!!!
朝潮「くぅ……っ……」ボロッ
朝潮「なんで……? 艦砲が勝手に……爆発を……?」
榛名「フフフ……不思議そうな顔ね、朝潮ちゃん」
榛名「あなたの艤装がこのリモコンでコントロールされているなんて、そんなに不思議かしら?」
朝潮「!? くっ……卑怯な!」
榛名「なんでしょう? 何か……言いました――か」
ドドォォォン!!
その瞬間、朝潮の61cm四連装魚雷が爆発した。
朝潮「あああっっ!!!!」
榛名「美しい爆発!! 榛名、感激です!!!」
朝潮「かはっ……ハァ……っ……これで……勝ったつもり!?」
榛名「フフ…まだ、沈んでいませんでしたか、可哀想に」
榛名「でしたら…金剛お姉さま、お願いします」
金剛「OKネ」ニコォ
ボゴォォォン!!!
金剛の放った砲弾が朝潮の背面に炸裂する。
朝潮「あああぁぁぁ――っ!!!!」
榛名「お見事です、お姉さま」
榛名「私ばかりに気を払っているからですよ。バカ真面目な朝潮ちゃん」
朝潮「……ぐぅっ………」
榛名「あなたがいなくなれば、金剛お姉さまはその功績を正当に讃えられ、あるべき地位に就く」
榛名「だから、あなたはいらないんです」
榛名「早く消えなさい」
榛名「それにあなたは、例の事件で当時の秘書艦だった電さんを見殺しにしたでしょう」
朝潮「!!!」
朝潮「それは……」
榛名「たまたまあなたが旗艦を担った偶然もあるでしょう、ただし」
榛名「私はそのときに着任してこそいませんでしたが、一つわかることがある」
榛名「あなたは秘書艦という地位が欲しくて、彼女を轟沈させたのです」
朝潮「………違います」
榛名「ふむ、事実と異なると言いますか?」
榛名「そうあなたが言うのなら、真実はそうかもしれませんね」
榛名「し・か・し! ですよ」
榛名「あの艦戦で電さんは沈み、電さんを救えなかったあなたは代わりに秘書艦の座に就いた」
榛名「この事実だけを鑑みれば、あなたはあの事件を利用して、鎮守府での立場を手中に収めたと言っても過言ではない」
榛名「これは真実にも足る客観的な”事実”です」
朝潮「違うッッ!!! 私は……」
――朝潮……さん…私は沈みます……あと、は…皆を頼みます……――
――電さん!!……電さんッッ……!!――
朝潮「……っ!」
榛名「おやおや、一生拭えない悪辣な事実を思い出しましたか?」
榛名「では、もう止めにしましょう」
榛名「あなたともあろうもの、いい加減に認めてしまってはいかがですか。 これは客観的な事実で、変えようのない現実です」
榛名「その上、トラウマになったと言い続け、今日に至るまで作戦に不参加」
榛名「なんて美味しい立場なのでしょうね?」
金剛「榛名……それは…言い過ぎだと思いマス……」
朝潮「金剛さ……」
榛名「金剛お姉さま!」
榛名「これから沈める敵に情けは必要ないですよね?」
榛名「それとも、今から彼女に謝った後で提督の失望を買われますか」
金剛「っ……!!」
朝潮「それは……それだけは嫌デース……」
榛名「でしょう!!」
朝潮「くっ……金剛…さん……」
榛名「私たちは悪しき怨敵を滅して、輝ける栄光を水平線に刻むのです」
榛名「だから、ね」
榛名「消えてください朝潮ちゃん……もう詰みですので」ニコ
榛名「金剛お姉さま、霧島、砲撃の準備をお願いします」
朝潮(終わりたくない……のに)
朝潮(攻撃を受けすぎて身体が……動かない)
朝潮(身体がついていかない……)
朝潮(もう……終わり……)
朝潮(これは電さんを見殺しにして、私が生き残った罰――)
朝潮「………い……や……」
朝潮「榛名……さ……ん」
榛名「おやおや、命乞いですか? お気持ちはわかりますよ」
榛名「致命的な損傷が数度、それでもなお沈まないのであれば、命乞いをして助かろうとするのが道理です」
榛名「しかし敵として開戦し、敵として交わったのなら死は必然なのです」
榛名「全ては私の繁栄のために……おっと訂正しましょう。私たち姉妹のために」
朝潮「けほっ……命乞いじゃ…ない……で…す……」
朝潮「次は……」
朝潮「あなたを……倒す……!!」
榛名「この期に及んで戯言を、愚かな」
榛名「やはりあなたは、愚かで醜悪な偽善者です。 秘書艦の地位は金剛お姉さまこそ相応しい」
榛名「では皆さん。一斉砲撃でお願いします」ジャキッ
金剛「……OKネ…」ジャキッ
霧島「……」ジャキッ
ドゴォォォン!!!! ドドォォォン!! ドォォォン!!
金剛「…終わったノ……榛名?」
榛名「はい、お姉さま。 戦艦の砲撃をあれだけ受ければ、練度の高い艦娘といえども無事では済みません」
榛名「それに、見てください」
プカ……
朝潮「……」
榛名「彼女は屍となって浮いています。直に沈むでしょう。心配はいりません」
榛名「帰りましょう」ニコ
ヒトゴーサンマル、???海域――
吹雪「……ハァ…比叡さんの作戦ってなんなんだろう」
吹雪(比叡さんは、ずっと申し訳なさそうに話していたけれど)
吹雪(事情を聞ける雰囲気じゃなかったし……)
吹雪「あっ……」
吹雪(この辺り、微かに硝煙の臭いがする……)
吹雪(もしかして、近くに深海棲艦がいるの?!)
吹雪(用心しなくちゃ)
プカ……
吹雪「あ、あれ?……あれ何だろ」
吹雪「艦…娘……?」
吹雪(もう少し、近づいてみよう……)
吹雪「あっ!!??」
吹雪「朝潮さん!?!?」
吹雪「どうして……どうしてこんなことにッッッ!!??」
朝潮「……」
吹雪(いけない! 大破レベルの損傷で朝潮さんの意識がない……)
吹雪「今すぐ鎮守府に連れて帰りますから!!!」
吹雪「艤装を外して、背負っていきますからね。 すみません」
吹雪(深海棲艦には警戒しないといけないけど、緊急事態だから)
吹雪「よいしょっと」
吹雪(でも、なんで金剛さんたちと一緒にいた朝潮さんがボロボロに……?)
吹雪(金剛さんたちも見当たりませんし……)
吹雪(わけがわからないです……)
朝潮「……っ!!……こ……ここは……?」
吹雪「朝潮さん!」
朝潮「吹雪………さん?」
吹雪「良かった……!! 意識を取り戻したんですね!」
朝潮「私は……」
吹雪「あ、お身体に触るので喋らないほうがいいですよ。 入渠してからお話は聞きますから」
朝潮「……あり、がとう…」ホロリ
…っ…
…ぐすっ……
吹雪(朝潮さん、泣いてる……)
朝潮「ごめん……なさい……あなたに助けられて……その上…泣いてしまって……」
吹雪「そんなことは別にいいですよ。 お役に立てただけで結構ですので」
朝潮「ごめんなさい……ほんとに……ありがとう」
次の日、鎮守府の執務室――
執務室の扉が開く。
金剛「提督ぅー! 出張お疲れ様デース」
提督「よぉ、金剛」
榛名「提督、出張お疲れ様でした。 大した労いはできませんが、紅茶をどうぞ」
提督「あぁ、ありがとうな、榛名」
金剛「お仕事もいいですケド、ホントは私から目を離しちゃNo! なんだからネ!」
提督「ハハハ。 そうかそうか」
提督「目を離していると、何が起きるかわからないからな」
榛名「ええ、そうですね」ニコッ
金剛「んもぉ~、提督とはずっと一緒ですからネ」スリスリ
提督「ま、落ち着け。 あと……一つ頼みたいんだが、金剛姉妹を全員集めてくれないか、金剛?」
金剛「……作戦ですカ?」
提督「そうだ作戦だ、頼めるか?」
金剛「いいですヨ」
榛名「……」
提督「では、頼むぞ」
10分後、鎮守府の執務室――
金剛「提督ぅー! 全員集合デース」
提督「ふむ、金剛、比叡、榛名、霧島……と、全員揃ったか」
提督「金剛、助かるよ」
金剛「だけどサ、何の作戦なのー?」
提督「いや、なに。 ちょっと聞きたいことがあるだけだ」
提督「早速用件に入るが」
提督「昨日、何をやっていた――お前たち?」
金剛・比叡・霧島「……!!!」
提督「なんでこんなことを言うかと言えば、些細なことだ」
提督「秘書艦の朝潮が資材の報告をせず、自分で確認したところ資材が減っていたことがわかってな」
提督「某艦娘に聞いたら、お前たちが抜錨したのを見たと教えてくれた」
提督「戦艦が四隻出れば、資材を使うに決まっているし、だいたいの計算も合う」
提督「で、だ。 お前たちは何をしていた?」
榛名(まだ提督は朝潮ちゃんの轟沈についてご存知ではない……?…でしたら……)
榛名「ええ、提督。 提督のご存知いただいた通りです。 昨日は姉妹で演習をしておりました」
榛名「提督の課される任務のため、姉妹同士で練度を高めていたのです」
提督「そうか。 それなら、燃料と弾薬がなくなるのは仕方ないな」
榛名「提督へ一報した後に演習を開始すれば良かったのですが、連絡を欠いてしまったこと、申し訳ありません」
榛名「二度とないように、ご連絡は徹底いたします」
提督「ならば、いい。 資材に関しては金剛たちが原因だったんだな」
提督「私も金剛たちの向上心に応えることができず、悪かった。 謝るよ」
金剛「Oh、提督ぅ。 頭を上げてくだサーイ」
金剛「私たちも気をつけますカラ」
提督「優しいな、金剛は」
金剛「へへへ、提督ぅー」
提督「だからこそ、朝潮を沈めた理由を聞きたいなぁ、私は」
金剛「……!!!」
提督「金剛よ。それと比叡に。榛名に。霧島よ」
提督「いったい如何なる理由があって、秘書艦を沈める道理がまかり通る?」
金剛「あ、あぁ……て、提督……」
提督「ごめんな、金剛。お前の返答次第では、金剛の淹れた紅茶を一生受け付けなくなりそうなんだ」
提督「比叡よ、正直に話してくれ」
提督「正直に話してくれなければ、お前が作った創作料理の味見に二度と付き合ってやれなくなる」
比叡「……っ! 司令ッ!」
提督「霧島」
提督「お前の優秀な頭脳が導き出した真実は何だ? 昨日何があった――か?」
霧島「……そ…それは……」
榛名「はて…何を仰りますか、提督?」
榛名「朝潮ちゃんが今朝方から見えないのはわかりますが、それを私たちのせいにされるのは如何なものかと」
榛名「しかも沈めたなどと……根拠無く指を指されても、困りますので」
榛名(鎮守府内の艦娘には口裏合わせを図ったのです。 バレるはずがありません)
榛名(だから榛名は大丈夫――!)
榛名「私の淹れた紅茶でも飲まれ、落ち着かれた方が良いかと思います」
提督「いや、結構だ。あいにく私は冷静なのでな」
提督「納得できないようなら、重要参考人を呼ぼうか」
榛名(!?)
提督「吹雪! 入って来なさい」
トントン……ガチャ……
吹雪「駆逐艦吹雪、失礼します」
榛名「吹雪……ちゃん」
榛名(すでに彼女にまで手を伸ばしていましたか……)
比叡「吹雪ちゃん!」
提督「早速で悪いが吹雪、報告を」
吹雪「あ、あの……司令官…」
吹雪「よろしい……のですか?」アセアセ
提督「ああ、遠慮無くするといい」
提督「この場にて、身の安全を保障しよう」
提督「金剛たちも付きあわせてすまないな」
提督「これは吹雪の見た夢で、現実に起こったことではないかもしれない、曖昧な話になるだろうから」
提督「話を最後まで穏やかに聞いてくれないだろうか?」
榛名(なるほど、さすが提督。 ここで吹雪ちゃんに激情すれば、朝潮ちゃんを沈めた疑いが深くなるだけ)
榛名(私たちには与太話だからと、最後まで聞かせて逐一反応を見て取る気ね。 抜け目無い人……)
榛名(雲行きが怪しくなって参りましたが、もう私たちは退けません…)
榛名「ええ、提督のご意向であれば、お付き合いいたします」
榛名「お姉さまたちもよろしいですよね?」
金剛「……ブッキー」
比叡「吹雪ちゃん……」
霧島「……あ、お話をお願いします」
提督「というわけで、吹雪、話してくれないか」
吹雪「わかりました」
吹雪「話は昨日の件になります」
吹雪「時刻マルキュウサンマルにて私は、金剛さんに司令官からの作戦を承りました」
吹雪「私と金剛さんたちと朝潮さんが解放済み海域にて作戦を行うとの内容でした」
吹雪「金剛さんに頼まれましたので、朝潮さんにも作戦を言伝しようとヒトマルマルマルに執務室に向かいました」
提督「ほぅ、朝潮もいたのか」
吹雪「はい」
金剛「……!!」
榛名(……まずい、ですね)
吹雪「朝潮さんは作戦に了承し、ヒトフタマルマルには鎮守府近海にて全員集合しました」
吹雪「そのときは朝潮さんも一緒でした」
吹雪「その後、比叡さんが作戦地点に至る道中でなぜか私との離脱をお願いしてきました」
提督「ふむ、なぜだろうな」
比叡「……っ」
吹雪「私は比叡さんと一緒に、金剛さんたちから離れました」
吹雪「そして、金剛さんたちが完全に見えなくなったところで、比叡さんから新しい作戦を聞きました」
吹雪が執務室に掛かっていた海図を指で指し示す。
吹雪「大きく迂回し、この地点に行ってほしいと」
榛名(比叡お姉さま……そんなことをされていたのですか……!!)
吹雪「そして、ヒトゴーサンマルに比叡さんから示された海域に着きました」
吹雪「そこで、傷ついた朝潮さんを見つけたのです」
金剛「……ッッ!!!」
榛名「……なっ……!!」
比叡・霧島「!」
榛名(朝潮ちゃんはすぐに沈んだはず……なぜ?)
吹雪「だから、今までのことからこう推測しました」
吹雪「金剛さんたちは、誰もいないところで……あの……その……」
提督「遠慮することはない。 続けてくれ、吹雪」
吹雪「はい……あ、あくまで推測ですけれど、金剛さんたちは、朝潮さんを沈める計画を立てていたのではと……」
提督「なるほどな」
榛名「そんな馬鹿な、吹雪ちゃん」
榛名「私たちが仲間である艦娘を沈めるなんて、そんなはずがないでしょう」
榛名「実際に見てもいないのに、変な憶測で提督を困らせてはダメよ」
榛名「提督もそんなデマに惑わされないでくださいませ」
提督「落ち着け榛名。 吹雪が語るなんでもない話だ」
提督「それとも、榛名の知っている真実は、吹雪の語るそれと全く違うのか――?」
榛名「え、ええ。 私は……」
もう止めにしませんか、司令官――
榛名「その…声は……!!」
ガチャ!
朝潮「ノックもせずに失礼します」
朝潮「駆逐艦朝潮、ヒトマルヒトサンにて復帰いたします」
金剛・榛名・霧島「!!!!」
比叡「あっ……!!」
比叡(良かった……本当に良かった……)
榛名(なぜ……なぜここにいるの……?)
提督「よぉー。お帰り、朝潮」
朝潮「茶化さないでください」
朝潮「なぜ司令官は本題に入らず、金剛さんたちの反応を見て、楽しんでおられたのか理解に苦しみます」
朝潮「それと」
朝潮「榛名さん、また会いましたね」
榛名「そんな…そんな……」
提督「やれやれ」
提督「朝潮に怒られちまったから、さくっと話を進めるかぁ……」
提督「吹雪はもう下がっていいぞ、世話かけたな」
吹雪「いえいえ。申し上げるべきことをお話したまでです。 では失礼します」ピシッ
スタスタスタ……
提督「ふぅー」
提督「この通り。朝潮は無事だよ、榛名。 そんなわけでお前たちの企みはもろバレだ」
提督「下手な弁舌を垂れ流してないで、諦めておけ」
榛名「提督……ッッ!!」キッ
金剛「提督はわかってしまったのですネ……」
提督「ああ」
提督「好意はわかるものの、仲間の屍を踏みつけた恋は許されんぞ?」ギロッ
金剛「あ……」
金剛「提督、ゴベンナ”ザイ”イ”ー」ズピー
霧島「申し訳ありません」
比叡「私も、申し訳ありませんでした司令。 しかし、朝潮ちゃんが無事だったのはなんでですか?」
提督「それは言ってなかったな」
提督「応急修理要員をお守りに持たせていたからだ」
金剛「!!」
提督「一度沈んでも無事だった理由がわかっただろう?」
提督「”時間差”システムもうまく役立ったようだしな」
榛名「時間差……ですって…?」
提督「ああ、そうだ。 朝潮はその装置を持っていただろう?」
朝潮「あ……」
朝潮「司令官からいただいたお守り袋……!」
提督「応急修理要員は艦娘の乗員だから、目に見えなかっただろう」
提督「お守り袋に入っていた装置は艦娘が安全になるまで修理を遅らせる、明石の発明品だ」
提督「言うならば仮死状態を作り、艦娘を助ける部隊が来るまで時を待つ新時代の修理システム」
提督「なんて言ったら、大仰だが……ここは明石に感謝しよう」
朝潮「司令官…………」
金剛「提督。 それなら、わからないことがありマス」
金剛「なんで提督はそれを第一艦隊の私たちではなく、秘書艦の朝潮に積んだのですカ?」
提督「不服か?」
金剛「少し……」
提督「確かにな、戦略上、第一艦隊の誰かに持たせるのが有益、なんだろう」
提督「数々の作戦を遂行してきた金剛、機転を利かせた戦術で海域の突破に貢献してきた榛名」
提督「真っ先に戦場を切り開く比叡に、夜戦で負け知らずの霧島」
提督「主力の誰を選んでも悔いはない自慢のメンツだ」
金剛「だったら…!」
提督「だが、な。 金剛」
金剛「……!!」
提督「俺たちは戦場だけに生きているわけじゃない」
提督「金剛たちが帰ってくる鎮守府を支える必要だってある」
提督「艦娘が入渠するドックを整備していないといけない」
提督「艦娘たちが明日も無事戦えるように、装備を手入れする妖精さんがいなければならない」
提督「お腹がすきましたと、ごねる空母にご飯を炊かなければならない」
提督「手に入る資材から作戦の計画を立案しなければならない」
提督「お前たちが戦場で頑張っているからこそ」
提督「お前たちが『ただいま』と帰ってくる鎮守府を、ないがしろにはできない!!」
朝潮「司令官……」
提督「金剛たちは優秀だと思っている」
提督「ギリギリの戦闘でも、常に撤退を視野に入れて沈む前に帰ってきてくれる」
霧島「はい、私の頭脳があればこそ、戦況を見極めるのは造作もありません」
提督「だな、霧島」
提督「しかし、君らが思っているよりも私は臆病なんだ」
提督「最悪のケースになるのが怖い」
提督「昔失ってしまった”彼女”を未だに引きずっている……」
提督「ゆえに、一番失いたくない艦娘を選んでしまった」
提督「性能や性格、得意不得意で決めたのではない……感情的な理由で、だ!」
朝潮「司令官……!」
榛名「でしたら、提督らしく――ありませんね」
榛名「私たちを評価してくださるのは嬉しくあります」
榛名「ただ、戦時を睨んだ提督ご自身の聡明な判断は、感情を排した決断力に起因するものと心得ておりましたが――?」
提督「いささか買いかぶり過ぎだ」
提督「私は心とか愛とか感情ってものを捨てきれないから、捨てるふりをしていただけに過ぎん」
提督「艦娘の気持ちになる、このことを忘れて現場を仕切ることはできないと気づいたのだ」
提督「金剛たちの思いに気づけなかったように」
提督「朝潮の傷を未だ癒やせないように」
提督「心を凍りつかせて、感情を排した指揮をすることは艦娘をコマのように扱う所業だ、と」
榛名「……そう…ですか」
提督「大所帯を束ねる総司令官の目標が心と向き合うこと、なんて稚拙に聞こえるか?」
提督「でも、かけがえの無いことに思う」
提督「轟沈を目の当たりにしたことが怖い? 当たり前だ、沈んだ艦とは二度と会えなくなるかもしれないんだ」
提督「トラウマになったっていいんだ。 どれほど時間をかけたっていい」
提督「自分と向き合って、結論を出してくれればそれだけでいい」
提督「戦場に恐怖を覚えたって、自分なりの生き方を生き、ゆっくりでも前進し続ける朝潮を誰が無視できるか!!!」
朝潮「司令官…!」
朝潮(私は……私は……)
提督「作戦に出ない、遠征に出ない」
提督「それでもな、朝潮は自主性だけで訓練し、艦娘に自身の技を教え、秘書艦としての職務を全うしている」
提督「私が指摘することではないが……朝潮のお世話になっていない艦娘は鎮守府にいないと断言できる」
提督「さて、朝潮に唯一のお守りを持たせた理由……解決したってことでいいか?」
金剛「ハハ……」
金剛「やっぱり提督はすごいデース」
提督「そんな褒めてくれるな」
認めない……
金剛「榛名?」
榛名「それでも、認めないですよ……提督……」
榛名「私の考えた計略を、よくも邪魔してくれたなああああぁぁあああ!!!」
霧島「榛名ッッ!!!」
榛名「提督、あなたが、あなたが気づかなければ、あなたが――――!!!」
バシンッッ!!!!
瞬間、鬼気迫る形相の比叡が榛名の頬を叩いた。
榛名「――っ!!」
比叡「……っっ!」
朝潮「比叡、さん……?」
比叡「もうやめて、榛名ッッ!!!」
比叡「あなたの目論見は見破られ、あなたの望みは潰えたのに、さらに司令に手を上げようとして――!!」
比叡「どうして、素直に『ごめんなさい』が言えないのっ!!!」
榛名「――比叡、お姉さま……?」
比叡「榛名……私はこういうとき、謝るよ」
比叡「カレーを作って失敗したときだって、お姉さまへのクッキーを失敗したときだって」
比叡「悲しんでくれたり、怒ってくれたりする人の気持ちに応えて、次を頑張るために」
比叡「気合!入れて!行きます!」グッ
比叡「……って言えるのも、皆のおかげって知っているから」
比叡「だから、榛名に謝ってほしい。 失敗したなら、失敗を認めて次を頑張ってほしい」
榛名「比叡お姉さま……」
朝潮「比叡さん……」
榛名「でも、今更謝って私は何になるというのですか」
榛名「自らの愚策にお姉さまたちを巻き込んでしまい、提督からの信用も底をついてしまった」
榛名「愚妹の私には……お姉さまたちに合わせる顔が………ありませんよ……」
提督「榛名……」
朝潮「だったら――」
朝潮「だったら、榛名さん」
榛名「?」
朝潮「私と演習を、してくれませんか?」
榛名「なっ……!!」
提督「ほぉ……朝潮」
朝潮「それで、決着をつけましょう」
朝潮「勝負は1時間後に両者が艤装を万全にした状態で」
朝潮「鎮守府演習エリア全体を使った対決で、お願いしたいです」
朝潮「今度は変な細工なしの艤装でお手合わせを」
榛名「……私に策を練る時間はないようですね」
榛名「わかりました。 演習を謹んでお受けします」
提督「酔狂だな、朝潮」
朝潮「そうですか? 司令官ならこう仰ると思いましたので実行しました……何か間違っていましたか?」
提督「いや、上出来だ」
提督(だんだんと柔軟に考えることができるようになっているな……後は)
提督「よし、朝潮に榛名。1時間後、演習エリアで」
~~1時間後、鎮守府の演習エリア~~
提督「ちゃんと来たようだな」
朝潮「はい、いつでもいけます!!」
榛名「私も、大丈夫です」
提督「威勢良いな。老婆心で轟沈しないよう審判に陸奥をつける」
陸奥「あらあら。いいわ、やってあげる!」
比叡(審判の人選は、意図的なものを感じる……)
提督「それと、陸奥、朝潮、榛名には私の声も聞こえるように、通信用インカムの着用を義務付ける」
提督「私は双眼鏡で二人を見ているから、遠慮なくドンパチするといい」
榛名「よろしいですけれど、提督。 朝潮ちゃんだけを助言で贔屓なさらぬようお願いしますね」
提督「ああ、二人共ビシビシ指導してやるから、安心して目の前の相手に向かえ」
提督「だから榛名、本気でやれ。 姉妹で狙って倒せないようでは、第一艦隊の主力を変えざるを得ないからな」
榛名「耳が痛いことで」
提督「朝潮も本気でやれ」
朝潮「はい、必ずやご期待に応えてみせます」
提督「力強いな」
提督「では、互いに距離をとって始めようか」
朝潮「朝潮、出ます!」
榛名「榛名!いざ、出撃します!」
陸奥「じゃあ、いくわよ~~演習開始」
ブブブブブブ
そのとき彼女たちの上空を戦闘機が通った。
朝潮「!?」
陸奥「あら。あらあら」
陸奥「あれは……艦上戦闘機?」
比叡「まさか……」ガタッ
榛名「ご名答、あれは赤城さんに搭載された紫電改二です……!!」
榛名「演習前に赤城さんを買収して、飛ばしていただいた艦載機……」
榛名「文句は言わせませんよ、一人で戦うとは言いましたが、他者の艤装についてのルールはありませんでした」
榛名(攻撃こそさせませんが、役に立ちますので……!)
朝潮「いいですよ、構いません!!」
比叡「でも、艦載機なんて飛んでいたら……」
比叡(弾着観測射撃が……!)
榛名「初手は私のものです」
榛名(戦艦と駆逐艦の違いは様々ありますが、まず一つに先手をとれる射程)
榛名(これで、朝潮ちゃんの攻撃範囲外から砲撃することができます)
榛名(そのために、できるだけ距離をとり続けます)
金剛「榛名が、後方に下がってマース!!」
榛名(汚い? 卑怯? 構うものですか)
榛名(提督の御前で周知の事実を取繕うなんて愚行で、私のメンツは丸潰れです)
榛名(だったら、徹底的に悪役に染まって、朝潮を! 叩き潰すのが筋ってものでしょうよ)
提督「なるほどな、榛名」
提督「続けろ」
比叡「司令、でも……」
提督「ん? 比叡、何を心配している?」
提督「珍しく榛名は徹底的に戦う目をしているんだ、水を差すんじゃない」
提督「至る過程が善でも悪でも構わんよ」
提督「本気が見れるんだから、その方が燃えるだろう?」
比叡「司令……」
提督「それに、彼女は簡単に沈まんさ」
提督「やってみせろ、榛名! 相対せ、朝潮!」
榛名「無論です」
朝潮「はいッッ!!」
榛名(提、督……あなたがそう思われるのなら)
榛名(この場に限り全身全霊をかけてその予想を否定し、踏み潰して差し上げましょう)
朝潮(まず……距離が離れ過ぎている、詰めないと!!)
榛名(申し訳ありませんね、お先に失礼します……ッ!)
ジャキッ
榛名「弾着観測射撃」
榛名「主砲!砲撃開始!!」
ドゴォォォオオオン!!
朝潮「くっ…!!」
朝潮(危ないところだった…)
榛名「外しましたか……では、距離調整20メートル!!」
提督「早速かぁ、榛名! いや、よくやるよくやるぅ」
提督「もっとやれ」
金剛「提督……仕方ない人ですネ…」
榛名(……つかめない人)
榛名(道理から外れて悪に徹しても、提督の思惑通りとさえ思ってしまう)
榛名(空回りをしているような手応えの無さ、相変わらず苦手です)
榛名「ま、それならそれで結構。 私も好きにやりますけれど」ジャキッ
榛名「お気にの彼女が沈まないように、祈っていてください」
ドォォォン!!!
ゴォォォォォン!!
朝潮「榛名さん、鎮守府きっての頭脳派なだけはあります」
朝潮(弾着地点を修正するごとに正確さを増している……!!)
朝潮(しかし、最初に開いた榛名さんとの距離も徐々に縮まっているわ)
朝潮(反撃の準備を!!)ジャキッ
榛名(どうしても、あと一歩足りません)
榛名(彼女の動きもだいぶ把握してきて、動きを入れた計算式で修正し続けているのに)
榛名(一点一点では埒があきませんね)
榛名(”一点”では……?)
榛名(フフフ、そうです……なぜ気づかなかったのでしょうか……次は、これで行きましょう)
朝潮(……? 砲撃が……止んだ……?)
朝潮(ならば、一気に突破する……ッッ!!)
ヒュゥゥゥ……
朝潮(!?)
ザバアァァァァァン!!!
朝潮(大きく外した……?)
ザバァァァン!!!
朝潮(また、外した……?)
朝潮(いったい何を狙って……)
榛名(予想通り、”外し”ましたか。しかし、よい)
榛名(それらの狙いは必中の一撃ではありませんので)
榛名(なぜなら……)
朝潮(……っ!? 波が!?)
榛名(砲撃によって生じる水柱で、あなたの動きをコントロールするため、なんですから)
榛名(ここですね……)
ドゴォォォオオオン!!
朝潮「くっ……水柱と波のせいで、思うように動けない……ッ!!」
朝潮「最初から、これを狙って……!」
榛名「修正はしました、当たりますよフフフ」
提督「……甘いなぁ、榛名は」
霧島「え……」
朝潮(逃げられない……なら……)
朝潮(目視観測、弾道は依然として私へ必中する軌道……ならば)
提督「榛名は朝潮が何の訓練をしてきたか、知らないからな」
榛名(何を……)
朝潮(高角砲よし、高射装置よし……)
榛名(高角砲を上に向けて何を…………!!)
朝潮(狙いは…………)
朝潮(砲弾ッッ!!!)
ドゴォン!!
榛名(避けられない砲撃を、上空で撃ち落とした……!?)
提督「いいだろう、朝潮。 いつも通りだ」
朝潮「ありがとうございます」
榛名(なんですって……!!)
提督「わかるか、榛名? 朝潮は砲撃を避けるだけじゃない」
提督「砲撃を察知し、弾道から着弾地点を割り出し、場合によっては”砲撃”に対して砲撃する」
提督「対空戦闘の極意を我が物とした艦娘なんだ」
榛名(そんな……馬鹿な……)
ドゴォォォン!!
ドゴォォォン!!
朝潮「何度やっても……」
朝潮「狙い撃つッッ!!」
榛名(まぐれじゃない……撃っても撃っても、撃ち落とされている……ッッ?!)
提督「そうだ。 まぐれではなく、本物の実力」
提督(朝潮が最後の海戦で失ってしまった仲間を、どうしたら守れたかと思案して出した答え)
提督(敵の砲撃を当たる前に撃ち落とす、なんて前代未聞だと思ったが……)
提督(今ではこの技術を持った艦隊で、戦える日が来る、そのときが楽しみでたまらない!)
提督(私に夢を見させてくれる朝潮よ)
提督(だからこそ……)
提督「朝潮、弾着確認が1秒遅い!! 集中力が乱れているぞ!!」
朝潮「気をつけます!」
提督「榛名ぁっ!!」
提督「面で効かなかったんだ! ”立体”で攻撃しろッ!!」
榛名「……ずいぶんと肩を持っていただけるようで」
榛名(また提督の言葉に乗ることは癪ですが……)
榛名(突破口が見えました)
榛名「感謝します」
金剛「提督は本当にフェアなんですネ。 びっくりデス」
提督「驚くことか?」
提督「死地にも迫る緊張あってこその演習だろう? 本気でやろうぜ」
金剛「かるーく言いますネー、そんなところも好きですケド」
提督「ありがとよ」
朝潮(立体攻撃……逃げ場のない面攻撃に加えて)
朝潮(砲撃に次ぐ砲撃で隙をなくす物量攻撃……でも)
朝潮「やれる!!!」
榛名(拮抗している……いや、私の方が劣勢。 あと少し、何かを足さねば……)
朝潮(この一点で……抜ける!!)
榛名「……とうとうやって来ましたか」
朝潮「はい、もう目と鼻の先です」
朝潮「観念してください!」ジャキッ
榛名「あいも変わらず勇ましい……」
榛名「最初の距離も物ともせず、前へ前へと参られて」
榛名「砲撃を撃ち落とすなんて離れ業を見せていただいて……」
榛名「まるで物語の主人公のよう」
榛名「私には、その生まれ持っての才知か、気質が羨ましく妬ましくて仕方がない」
朝潮「何を……」
榛名「だからもう、今日の私は完全な悪役です。 あなたの前に立ち塞がる醜悪な障害」
榛名「私のあらゆる攻め手を投入し、提督からアドバイスもいただいたのに……それでも、あなたに届かなかった……!」
朝潮「……」
榛名「ゆえに、勝ちに拘るならば、鬼にならなければならない。 そう思いませんか?」
朝潮「何を言って……」
榛名は、小型音声機器を取り出して見せた。
榛名「さぁ、聞いてくださいませ……」
榛名「あなたが沈めた電さんの最期を!!」
朝潮「……!」
ガーガー……ジジジジジ……
――…さん………――
――朝潮……さん……――
朝潮「これは……」
榛名「あなたがよく知っている、あの事件のときの録音です」
榛名「作戦終了後、戦況を反省するために提督が録音を命じていたものですが、こんな使い方もあるんです……」
――朝潮……さん…――
――私は沈みます……あと、は…皆を頼みます……――
榛名「思い出しましたか……?」
榛名「努めて忘れようとした、醜い記憶を!!!」
朝潮「……ぁ……」
――電さん!!……電さんッッ……!!――
朝潮「ああああぁぁあああっっっ!!!!」
榛名「ふふ………」
榛名「あははははははっっ!!!」
――…役に……立てず……ごめん…………なさ…い…――
――嫌だ!!……電さん……――
――…お願い!!………沈まないで……!!――
朝潮「……ぁあ………」
榛名「さすがに否定も反論もできませんか?」
榛名「朝潮ちゃん、あなたは電さんを見殺しにしたんですよ」
朝潮「……っ…く……」
榛名「力不足、誤った戦況判断、如何なるせいにしても構いませんが、あなたはそこで電さんを沈めてしまった……!!」
榛名(ああ、もう演習なんてどうでもよくなってきました……)
榛名(ただただ、目の前の彼女を、地獄に引きずり落としてやりたいとしか思えない……)
朝潮「私は……無力だったというの……?」
朝潮(電さん――――?)
金剛「榛名の悪いクセが出てマース……」
提督「あれはな……」
提督(榛名もえげつないなぁ……そんなところが怖くもあり、面白いと思うけれど予想内だ)
提督(それに対して朝潮、心理戦はまだまだだな……練習することもないし……)
提督(しかし、演習は終局を迎えている。 私は提督としての責務を果たそう)
朝潮(だめ……手が震えてきたわ……)
朝潮(波の音がひどく恐ろしく聞こえる……)
朝潮(足がすくむ……)
朝潮(皆を守れるように訓練し、鍛錬してきたのに…)
朝潮(どうして…………私の手はこんなにちっぽけなの――?)
榛名(ここらが潮ですかね)
榛名(前世と同じく、あなたは助けたい者を手から零して水底に消えるのです)
榛名(録音が切れたところで終わりにしましょう)
――でも……私は……安心して……いるの……です……朝潮……さん……――
朝潮(電…さん……?)
――次は……次は…あなたが……提督さんの……お側…で……鎮守府を……皆を……――
――守って……くれる…と………信じていますので……!!――
朝潮「あ―――」
朝潮(忘れていた――――彼女が口にした最期の言葉)
朝潮(私を恨む言葉ではなく、提督を、皆を思い続けた優しさ)
朝潮(看取る私を気遣う温かさ)
朝潮(責任を感じて……私自身を苦しめてしまった言葉)
朝潮(私はいつの間にか、すり替えていたんですね……)
朝潮(電さん、あなたがくれた優しさを、あなたへの後ろめたさに塗り替えてしまって……)
朝潮(とんでもない愚か者です)
朝潮(性根が昔から変わらないから……あのときも言いましたよね)
――…っ……電、さん……ぐすっ………わかりましたぁッッ!!――
――駆逐艦朝潮………電さんの意志を継いで、必ずやその使命を――
朝潮「全うします、と」
朝潮(電さん、やっと私はあなたと向き合える気がします)
朝潮「ありがとうございます」ボソッ
提督「あーあー、ちょっといいかぁ、朝潮。 聞こえるか?」
朝潮「…あ、はい。聞こえます。 司令官」
榛名(……提督、何を?)
提督「それとあと一言、朝潮に助言したいから、待ってくれ榛名」
提督「こんな頼みは野暮かな?」
榛名「いえ、構いませんよ」
榛名(この期に及んでアドバイスを、一言――?)
朝潮「司令官、なんでしょうか」
提督「ああ、それなんだけどな」
提督「駆逐艦、電が先ほど着任した」
朝潮「ぁ……電……さん!!」
榛名(………そんな!!)
提督「演習が終わったら、会ってこい。 それだけだ」
朝潮「はいッッッッ!!!!」
榛名(…………提督)
榛名(最後の最後に……ずるい、じゃないですか)
榛名(彼女は主人公タイプなんですよ)
榛名(きっと)
榛名(その一言で、とてつもなく強くなるに決まっています……!)
朝潮「すうぅぅぅぅ……」
朝潮(提督、ありがとうございます。 おかげで気力十分、憂いなく戦えます)
朝潮(そして、演習が終わったら、電さんに言おう)
朝潮(ありがとうございます、って)
朝潮(彼女は謙遜するだろうけれど、お互いが恥ずかしくなるくらい何度も言おう)
朝潮(だから、今は!!)
朝潮「駆逐艦朝潮! 突撃する!」
朝潮(前に進みますッ!!)
榛名(その目……もう、乗り越えたようですね………万策尽きましたよ、あぁ全く……)
榛名「来なさい!! 艤装を全てなげうってでも、撃滅します!」
榛名「駆逐艦ごときに、負けるわけには、いきませんッ!!」
ドゴォォォン!!
ドゴォォォン!!
朝潮「……榛名さん、感謝します」
朝潮(過程はメチャクチャでも、私に過去と向き合うことを教えてくれたから)
朝潮(”お返し”はしっかりしますよ)
朝潮「魚雷発射!!」
シュポン、ゴポポポポ……
榛名(来ましたか!)
朝潮「そして」ジャキッ
ドオオォォォオオオン!!!!
榛名(なっ……)
榛名(自らの魚雷を狙い撃ったですって!?)
榛名「はっ……」
榛名(私の目の前が、魚雷の爆発で起きた水柱に遮られている――!?)
榛名(彼女はどこへ!!?)
榛名(水柱の右から来るか、それとも左――?)
朝潮「一発必中! 肉薄するわ!」
榛名(正面……!! 水柱を突き抜けて来――――)
ドドドォォォォォォン!!!!!
提督「演習終了だ」
陸奥「はい、二人共ストップ~」
陸奥「審判は出番がなかったわね。 途中で何度も不正が見えたのに」
提督「あの程度のインチキでは、止める気にならんかったからな」
陸奥「あらあら。 ダメダメな提督」
提督「逆でしょ。 超・絶・優秀な大提督よ?」
陸奥「あら。あらあら……お姉さん、手に負えないぞ?」
榛名「提督、なぜ終えられたのですか……私はまだ、中破です。 戦えます」ボロッ
提督「ははは終わっとけ、榛名」
提督「朝潮に一瞬で三発も魚雷を撃ち込まれたんだ、素直に負けを認めた方がいいぞ?」
提督「朝潮と榛名の本気も見れたし、有意義な演習だったということで」
榛名「っ……!!」
朝潮「お言葉ですが司令官」
朝潮「本気を出せば、今の倍はいけます」
提督「見ないうちにまた成長してるな。手加減して正解、榛名が沈んじゃうし」
榛名「……負けでいいです。 朝潮ちゃんに、完膚無きまでに負けました」
朝潮「あと……司令官」
提督「?」
朝潮「電さんに、会いに行ってもよろしいですか……?」
提督「あぁ、行って来なさい」
提督「電の居場所は……」
――その後、この鎮守府は伝説が生まれることになる。
駆逐艦の身で、あらゆる砲撃を撃ち落とす艦隊防衛の女神がいる、と。
戦艦、空母、重巡洋艦、軽巡洋艦、潜水艦……
様々な艦種、様々な艦娘を差し置いて抜きん出ていたのは、
ひとえに彼女が深く強い信念を持っていたから、だと
彼女を知る者は、口を揃えて言う。
また、金剛姉妹は提督のはからいで一切の処分がなかった。
「君らを背信の徒に変えてしまったのは、私の責任だ」
「できることなら、もう一度私と共にいてくれないだろうか」
処分どころか、より信頼を寄せられた。
金剛たちへの判断を注視していた、多くの艦娘たちに波紋を呼ぶ異例の事態、しかし
「朝潮がより成長したのはこの事態あってこそだ、それに金剛たちも反省している」
「ならば、彼女たちにもう一度期待するのは当然だろう?」
そして、彼の期待に応えるべくして応えたのは、彼女たちの意地と誇りによる。
金剛は自らの弱い心を鍛え直すため鍛練し、大和、長門の師となり戦神の名を得た。
比叡は信義の心を買われ、どんな苦境であっても仲間を奮い立たせる現場の指揮官となった。
心を入れ替えた榛名は知謀に磨きをかけ、どれほどの難戦も突破口を開く大参謀となった。
霧島は以前よりも周りのことを思慮深く考え、朝潮と鎮守府の組織管理を支えた。
彼らの艦隊はますます総合力を上げたという。
こうなる未来を知っていたのか、知らなかったのか
かの提督の采配には、長く賛否両論の論争が巻き起こったが
一つ言えることがある。
それは
戦争の最中、淀み続ける世界を照らした
艦娘たちの物語があったということだけだ。
終わり
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