由比ヶ浜SS
妄想の産物をただただ書き殴りました。
初投稿なのでうまく書けませんが暖かい目で見守ってください。
淡青く晴れ渡った綺麗な青空と、吐く息がはっきりと目に見える程の寒空の下、稲毛海岸駅オリンピア前で由比ヶ浜結衣は一人で手を息で温めながら、ある少年を待っていた。
待ち合わせの時間にはまだ三十分もある。化粧や服装もいつも以上に気を遣って来た。
とても楽しみにしていた反面、フラれたらどうしようという不安も大きい。
結衣「早く来すぎちゃったなぁ。ちょっと飲み物でも飲んで待っていよう」そう言って彼女はスターバックスへ足を運んだ。 カフェラテを頼んで席に着こうとしたその時、見覚えのある人影が見えた。
結衣「ゆ、ゆきのん?!」
雪乃「あら由比ヶ浜さん。ごきげんよう。」
結衣「や、やっはろー!なんでゆきのんがここにいるの?!」
雪乃「あら、愚問ね由比ヶ浜さん。コーヒーを飲みに来たに決まってるじゃない。」
そう言って彼女はスターバックスのロゴの入ったカップを持ち上げ見せた。
結衣「そうじゃなくて!あ、そっか!ゆきのん引っ越して今家この辺だもんね!」
雪乃「そう。読書をするにはこのお店すごく近いし、静かで便利なの。由比ヶ浜さんその格好は今日どこかへお出かけする予定なの?」
(やば!ヒッキーと遊園地に行くことゆきのんには言ってないんだった!どうしよう)
結衣「き、今日はディズティニーランドに行く予定なんだ!」
雪乃「そう。楽しんでいらっしゃいね。」
結衣「うん!ありがとう!じゃ、あたしそろそろ待ち合わせの時間だから行くね!また学校で!」
雪乃「ええ、また学校で。」
そう言い残し彼女は少し早い足取りでスタバを後にした。
オリンピアの前ではもう彼がそこにいたので小走りで向かって行った。
結衣「やっはろーヒッキー!遅くなっちゃってごめんね!」
八幡「おう、俺も今来たとこだから気にすんな。」
結衣「じゃ、行こっか。」
八幡「そういえば今日雪ノ下は?由比ヶ浜と一緒に居ると思っていたんだが。」
結衣「あ、うん。さっきスタバにいたよ!」
この時やっぱり彼が彼女のことを気にしていることが、心を指で触られているかのように切なかった。
結衣はあくまで彼には想いを悟られないように、いつものように気丈に振る舞う。
自分がこのまま抜け駆けしたい欲求と、自分の中で一番の友人である雪乃と正々堂々と恋の行方を争う。相反する感情に引き裂かれながら。
八幡「そうか、じゃあ声かけてみるか」
結衣「そ、そうだね!どうせだったら奉仕部の慰安旅行みたいな感じでいいかも…」
喜怒哀楽のどれか一つだけでは表わし得ない、不思議に交錯した感情が結衣を包んだ。
二人は一緒に結衣がさっきまでいたスタバに向かった。八幡の後を少し遅れながら。
八幡「うす。雪ノ下」
雪乃「あら、比企ヶ谷君。奇遇ね、さっき由比ヶ浜さんとも会ったわ。」
結衣「や、やっはろーゆきのん。さっきぶりだね。」
雪乃「あなたも一緒だったの。これから遊園地に行くんでしょ?」
結衣「そうなんだ〜。それでさ、ゆきのん。今日これから暇だったりするの?」
雪乃「まあこれといってやることはないのだけれど、強いて言うなら読書をしようと思っていたわ」
結衣「よかった、それでさ、ゆきのんに相談なんだけど」
雪乃「な、なに改まって?」
結衣「これからディスティニーランドヒッキーと行く予定なんだけど、ゆきのんも一緒に行かない?」
雪乃「え?わ、私も行くの?最初から誘われてはいなかったのだけれど。」
八幡「そうだな、さっき急に決まった話だから無理にとは言わない。だが奉仕部の慰安旅行としてならばお前も気にしなくていいだろ。」
結衣「そうだよ一緒に行こうよ!」
雪乃「わ…わかったわ。そこまで言うなら。だけど少し時間を頂戴。家に寄って支度を済ませてくるわ」
結衣&八幡「わかった!」
そういうと雪乃は持っていたコーヒーを飲み干し、三人で店を後にした。
雪乃「寒いから中で入って待ってて」
雪乃は二人を自宅まで招き入れた。
結衣&八幡「お邪魔します!」
部屋の中は引っ越ししたばかりだからなのか、どことなく殺風景であまり生活感のない部屋であった。しかしながら、一部あり得ない雰囲気を醸し出している空間があった。ディスティニーランドの人気?キャラクターであるパンさんのぬいぐるみコーナーとも呼べる場所があり、セピアグレーの背景に一部カラーの写真を合成したかのように明らかに浮いていた。
結衣「ゆきのん相変わらずパンさん好きだね…」
八幡「まったくもってブレがないな…」
雪乃「ええ、これなんか比企ヶ谷君にいつかゲームセンターで取ってもらったものよ。」
そう言って雪乃は数あるぬいぐるみの中から一つを持ち上げて見せた。
結衣「へえ、そうなんだ」
そう言いつつ結衣は八幡を横目でチラッと見た。(そんなこともあったんだ。この二人はどの程度まで進展しているんだろう?)
八幡「あ、ああ、そんなことあったな。俺の必殺、超他力本願ゲーセンの店員を手懐けて景品を取る作戦で取った戦利品な」
結衣「そんな卑怯な手で取ったんだ!」
八幡「そうだ。小町から取ってくれって頼まれることが多くてだんだんスキルが上達しちまったんだ。小町が俺を意のままに頼るスキルが…」
結衣「ま、まさかのそっち?!」
雪乃「何故そういう発想に至るのか理解に苦しむわ。普通だったらUFOキャッチャーのスキル上達を目指すでしょうに。あらごめんなさい、あなたは普通ではなかったわね。ついつい普通の人間ということで話を進めてしまうことがあるの。」
八幡「お前それかなり酷いこと言ってるからな…」
結衣「あはは、ヒッキーかわいそう……」
雪乃「あら、こんなのはいつものことよ。」
八幡「おい、そろそろ出かけないと遅くなっちゃうぞ。」
雪乃「ええ、そうね。もう服は着替え終わったからそろそろ行きましょうか。」
結衣「レッツゴー!」
三人はそのまま家を後にした。
京葉線舞浜駅に到着した三人は駅からいつものように結衣と雪乃が先を歩き、八幡が後ろを歩く構図が出来上がっていた。
結衣はこの光景はいつものことだけれど、何故自分が雪乃を誘ったのか分からなくなっていた。今日は八幡とデートのつもりであった。彼に自分の想いを伝えるために予定したのに。
雪乃「そういえば、今日ってもともと二人で来る予定だったのでしょう?何故急に私もお声がかかったのかしら?」
結衣「え?!えーっとそれは…奉仕部みんなで来た方が楽しいかなって思って!」
(違う。ヒッキーがそう望んだから。ゆきのんも一緒に来て欲しそうだったから。それもある。それにやっぱりずるいことはしたくないし、私にとって三人で居られる時間も大切だもん。)
八幡「なんだ、嫌なのか?」
雪乃「いや、嫌というわけではないのだけれど。なんとなく気になって」
結衣「そ、そんなことより、せっかく来たんだから楽しもうよ!」
雪乃「そ、そうね。ごめんなさい。余計な話だったわね。」
結衣「あ、じゃああれ乗ろうよ!」
結衣はそう言いながらスプラッシュマウンテンを指差した。
雪乃「嫌!」
結衣「拒否はや!」
雪乃「高いのは苦手なの。」
八幡「それ大半は乗れないんじゃあないか…?」
結衣「え?ゆきのんもしかして怖いの??年齢制限12歳以下って書いてあるけど…」(こうやって少し挑発するとゆきのんは絶対乗ってくる!)
雪乃「別に怖くはないわ。ただ苦手なだけなのだけれど。いいわ、乗りましょう。」
八幡「おいおい大丈夫か?」
雪乃「平気よ。私、負けず嫌いだもの。」
八幡「それ今関係ないからね…」
結衣は狙い通りといったように後ろで拳を握り締めガッツポーズをしていた。
三人はスプラッシュマウンテンと書いてあるゲートに並んだ。日曜なのでとてつもなく人が大勢いるのである。
結衣「す、すごい人だねぇ…」
雪乃「休日のディスティニーランドってこんなに混むのね。」
八幡「まぁ休みだし、こんなもんだろ。」
結衣「そういえば喉渇かない?さっきから結構並んでるし!」
雪乃「そうね、でも今列を離れるわけにはいかないから後にしましょう。」
八幡「俺買ってくるよ。まだ順番には少しあるし、走って戻ってこれば間に合うだろう。何がいい?」
雪乃「そんなの悪いわ。」
結衣「そ、そうだよ…後で三人で買いに行こう!」
八幡「いや俺も喉渇いたし、並んでてなんか窮屈だから少し広いとこ歩きたい気分だったし。ついでだからお前らの分も買ってきてやるよ」
結衣「そ…それじゃあ、あたしホットのお茶がいいな!」
雪乃「それなら私も由比ヶ浜さんと同じものを」
八幡「了解。」
そう言って彼は列を離れた。彼は基本的に優しいのだ。何かしら理由がないと動けないのに、自分でそれを作ってくれて自分で動く。みんなのために。
そんな優しいところに惹かれたのかもしれない。
誰にでも優しいところは正直ムカつくこともあったけど。
八幡が離れてしばらく二人で沈黙した後に結衣は声を絞り出すように言った。彼がいないこの場でどうしても聞いておきたいことがあったのだった。彼女の想いも知っている。知っていて確証が欲しいのだ。彼女は私の想いにも気付いているのだろうか?
結衣「急な話なんだけどさ、ゆきのん。一つ聞きたいことがあるんだけど。」
雪乃「な、何かしら?」
結衣「ゆきのんはさ、ヒッキーのことどう思っているの?」
雪乃「は??どうしたの急に??どこからそう言う話になるの?」
結衣「ちゃんと答えて欲しい。私も言いたいこと言うから。あたしにとって一番大事な友達に嘘はつきたくないから。」
雪乃「わ、わかったわ。私は比企ヶ谷君のことを…その…気になってはいるわ。でも今まで生きてきて人を気になったことがないからこれがどう言う感情なのか、私にもよく分からない。」
そう言って雪乃は目を背けた。
結衣「そっか、やっぱりね…」
雪乃「やっぱりって、分かっていて聞いたの?由比ヶ浜さん。」
目を丸くしながら雪ノ下は聞き返した。
結衣「なんとなくね。あたしも同じような気持ちだから分かるの。」
雪乃「え?そうなの?あなたも比企ヶ谷君のことが…」
結衣「でもあたしはゆきのんも大事なの。全部欲しい。あたし、欲張りだからその時になったら全部もらっちゃうかも。」
雪乃「そうね、私もあなたのことがとても大切よ。お互い頑張りましょう。」
そう会話していると八幡が戻ってくるのが見えた。
八幡「お待たせ。これお茶な、あったかいの。同じの二本だとつまらないから緑茶とほうじ茶にしたぞ。好きな方持っていってくれ。」
雪乃「ありがとう、由比ヶ浜さんどちらがいい?」
結衣「あたしはほうじ茶にしようかな」
雪乃「では私は緑茶をいただくわね。」
結衣「ヒッキーありがとう!」
しばらく並んでいるとついに三人の順番が来た。
雪乃と結衣が最前列、その後ろに八幡という形になった。もちろん八幡の隣には誰も乗っていない。ここでもボッチパワー全開なのであった。
結衣「はぁ〜楽しかったね!」
結衣は両手を握り締め、上に伸びをする様に言った。
雪乃「想像以上に疲れたわ。少し休みましょう。」
八幡「まだ一つしか乗ってないぞ…」
雪乃「し、仕方ないでしょう。あれだけ騒いでしまったのだから。」
結衣「ゆきのん必死だったもんね…あ、ご飯でも食べようか!お昼まだ食べてなかったし!」
八幡「そうだな。時間もちょうどいい頃だし、確かあっちにレストランがあったはず。」
雪乃「そうね。」
そうして三人は一番近くにあったレストランへと入った。
雪乃「あなたはいつもカレーなのね。この間もカレーを頼んでいたわ。」
八幡「ああ、そうだ。カレーはその他諸々の料理より遥かにコスパが良く、且つハズレが少ない。今やレトルトですらプロ級の味である素晴らしい料理なのだ。こんな裏でバイトが温めているだけのレストランでもそれなりのクオリティを望めるだろう。」
結衣「理由がそれなんだ?!」
雪乃「あなたのことだから何かしら理屈を捏ね回した理論を言ってくるとは思っていたのだけれど、一理あるわね。」
結衣「そして納得しちゃった!」
八幡「そうだろう。今のは八幡的にポイント高い!」
雪乃「いや、そこまでは思ってないのだけれど…」
結衣「なんかヒッキーっぽいね…」
雪乃「早く食べて行きましょう。そろそろパンさんのパレードが始まるわ。」
八幡「ああ、そういえばそんな催しあったな。」
結衣「そうだね。どこであったっけ?」
雪乃「30分後に中央広場で始まるわ。」
雪乃は間髪入れず答えた。
八幡「スケジュール把握完璧だな。さすが雪ノ下雪乃だ。」
三人は食べ終わった後、中央広場へ向かった。
パレードが終わる頃にはすっかり空も暗くなり、無数のきらめく光が──まるで空にもうひとつの東京が覆い被さったように、そこにはあった。それは夢の景色のように、ただひたすらに、美しい眺めだった。
結衣「あ、ヒッキー、ゆきのん!あそこ綺麗だよ!行ってみよう!」
そう言って彼女はちょっとした丘のようなところを指差してみせた。そこは周りに薄暗い街灯しかなく、夜空が良く見える場所であった。
八幡「オーケー」
雪乃と結衣は二人でそこにあったベンチに座り、八幡は立って上を向いていた。
結衣「きれいだねぇ!」
雪乃「そうね。とても綺麗ね。」
結衣「また三人で来れるかな?来年も来たいな。」
雪乃「そうね、時間が合えばいつでも来られるわよ。」
結衣はこの時静かになにかを吹っ切るように、はあっと短い吐息をついた。結衣は密かに、ひとかたならぬ決意が 漲ぎっていた。
結衣「本当にそうかな?これからあたしが言おうとしてること言っても?」
雪乃「何を言うつもりなの?」
結衣「ヒッキー!大事な話があるんだけど、聞いてくれるかな?」
そう言った瞬間どうしよう、と頭の中で呟く。きちんと伝えられるかわからないけれど、頑張るって決めたんだから迷ってなんかいられない。
八幡「ど、どうした改まって。なんからしくないな」
結衣「えっとね、あたし、今のままじゃダメだと思うんだ。この関係性何か変だと思うの。」
八幡「そ、そうか?奉仕部の集まりだぞ」
結衣「そうじゃなくって、春乃さんも言ってたじゃん!共依存って。」
八幡「……」
結衣「あたしはこのモヤモヤした感じを断ち切りたい。そう思ったの。中途半端な感じじゃなくてはっきりさせたいなと思って。」
続け様に結衣は言った。
結衣「あたしはヒッキーのことが正直気になってる。というか好き、かもしれない…」
八幡「え、そ、そうなのか?それって男としてってことか?」
結衣「そう。前にも言ったよね、待っても来ない人は待たないって、こっちから行くの!ってだから今日がその日だと思って。でもゆきのんも言いたいことあるんだよね?」
雪乃「え?私?そんなつもりは…」
結衣「言わなくていいの?あたしは本気だよ?ゆきのんも大事だけど負ける気はないから!」
八幡「え?ちょっとどういうことですか?こんな展開になるなんて微塵も思っていなかったのだが。」
雪乃「そ…そうね、由比ヶ浜さん少し落ち着きましょう。」
結衣「あたしは落ち着いてるよ!いいの?ゆきのん本当に言わなくて?」
雪乃「………」
八幡「あの…雪ノ下さん?」
雪乃「ええ、私も比企ヶ谷君のことが少し気になる。ただこれがどういう感情なのかも自分では分からないわ。」
八幡「………」
結衣「ヒッキーはどう思ってるの?」
八幡「ちょ、ちょっと待ってくれ。あまりに急な話の展開すぎてついていけていない。」
結衣「ヒッキーはどうするのがいいとおもう?」
八幡「どっちかを選べということですか??汗」
結衣「まぁ今すぐにじゃなくていいよ。」
八幡「今すぐは選べない。俺にとってはどちらも大事だ。すぐに答えを出せそうにない。」
雪乃「そうね。私もこんな話になるとは思っていなかったので少し混乱しているわ。」
結衣「そっか。ヒッキーならそういうと思ってた。今どちらかを傷つけるなんて真似できないもんね。」
八幡「………」
結衣「さて、言いたいことも言えたし、帰ろう。」
雪乃「由比ヶ浜さんの切り替えの速さがとても羨ましく思うわ……」
こうして三人は帰りに全く会話もなく、帰路へつくのだった。
自宅の最寄り駅で三人は分かれた。
ついに言ってしまった。言いたいことを彼らに言ってしまった。これで三人の関係は今までの形ではいられないだろう。わかっていてやったのだ。未だに少し混乱してしまっていた。
すると、後ろから走って追いかけてくる人影があった。
八幡「由比ヶ浜!」
結衣「ひ、ヒッキー?!」
彼女は不意を突かれ、素っ頓狂な声が上がってしまった。まさか彼が追いかけてくるなんて微塵も思っていなかったからだ。
八幡「すまん由比ヶ浜!俺も言いたいこと言い忘れたから追いかけてきた。」
答えを期待していいのだろうか?それとも絶望に浸るべきなのだろうか。0.1秒の瞬間、今まで生きてきた16年間の記憶が一気によみがえる。思い返してみても初めてだった。どうしよう、と頭の中で呟く。響く心臓の音がうるさい。
八幡「さっきは選べないとか言ったが、俺の中ではもう答えは決まってる。」
(やっぱり、彼はゆきのんのことが好き。そんなの分かっていた。分かっていたのに涙が堪えられない。)
彼女の目は濡れていた。耳を塞ぎたかった。求めていたはずの答えを聞きたくなかった。不安と恐怖と絶望で首まで心臓が飛び上がったように息苦しい。
八幡「お前の人生歪める権利を俺にくれ。」
結衣は自分の予想していた答えとはまったく違う返答に戸惑った。
結衣「え……?それってどう言う…人生?」
八幡「あ、由比ヶ浜ってバカっぽいからわからないか…」
結衣「む、なんか酷いこと言われた気がした!」
八幡「いいか、恥ずかしいから一回しか言わないぞ!」
結衣「うん。」
八幡は大きく息を吸って、気恥ずかしさを振り払うように咳払いをした。
八幡「お前のことが好きだ。ずっと気になっていた。だから一緒にいて欲しいと思ってる。」
結衣は彼の気持ちを知って、喉へ突き上げてくるような嬉しさを覚える。
結衣「………え?あたしでいいの?」
八幡「お前がいいんだ。最初はいつも周りに合わせてばっかのお前が最近だんだん素を出すようになってきて、頭の悪い発言ばっかりしていた。」
結衣「ん??なんかあたし貶されてない?!ヒッキー酷い!」
八幡「だけどな、そんなお前がだんだん放っておけなくなって、気がついたら目で追うようになっていた。」
結衣「あ、あたしはてっきりヒッキーはゆきのんのことが好きだと思ってた…」
八幡「は?なんでそうなる。」
結衣「ゆきのんだってヒッキーのこと気になってるって言ってたじゃん。」
八幡「あいつのは恋愛感情じゃないだろ。」
結衣「そ、そうかなぁ。そうは思わないけど…」
八幡「まぁそんなのはどうでもいい。俺はお前のことが好きだ。」
結衣「ありがとう。嬉しい!」
彼女は少し泪ぐみながら、彼の方へ身体を預けるように体重をかけた。
八幡「うおっ」
結衣の不意な行動にびっくりした彼は彼女の身体を支えた。
結衣「わ、私も比企ヶ谷八幡のことが大好きです。」
結衣は照れながら微笑んだ。さっきよりはほんの少し、深い微笑みだった。
結衣「えへへ、、ヒッキー、ずっと一緒だよ。」
八幡「ああ、ずっと一緒だ。」
そう言うと彼は華奢 だが色つやが良く、はじけそうな肌をしている彼女をゆっくりと抱きしめて、その余韻に浸った。
結衣「ねぇ、ヒッキー。少し屈んで。」
八幡「ああ、分かった」
結衣「こうするとずっと近いね。」
八幡「ああ、そうだな。」
結衣は間近で見る八幡の顔。こんな近くで見たのは初めてかもしれない。彼の頬はりんごのように赤く染まり、彼の身体に触れているからか、胸の鼓動が高鳴っているのが服越しに分かった。
結衣「ヒッキー、目を瞑って。」
八幡「わかった。」
結衣はそう言うと八幡の唇に自分のそれをゆっくりと押し当てた。心臓がどんどん膨らんで肋骨を突き破るんじゃないかと思うほどドキドキする。なにせ初めての経験だからだ。
八幡「…ん」
八幡はそれを目を見開いて驚いてみせたが、やがて眠気がやってきた赤ん坊のように受け入れた。
寒く真っ黒な夜空に輝きを一切鈍らせない金剛石を散りばめたような夜が彼らを優しく照らした。
-FIN-
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