2021-07-31 18:00:14 更新

概要

両親を亡くし、生きる希望も無くし、自ら命を絶とうとする少女に差し伸べられた救いの手。
その後、ポケモンとの出会いが彼女に生きる希望を与え、人生を大きく変えていくことになる。


前書き

どうも!柔時雨・改です。
この物語は、何年か前に、『 神様の言うことは絶対 』 というタイトルで、綴っていたのですが
作品を進めても 『 あれ?神様要素、全然出て来ねえ 』と自分で作成したり、読み返しているうちに思うようになり、こちらで投稿させていただく際に、思い切ってタイトルを変えてみました。

……以前の 『 神言う 』 みたいな略称ができないけど、まぁ……うん。このタイトルも(仮)のようなもので、もう少し、しっくりくるタイトルは無いか模索中だったりします。

元々は他のサイトさんで投稿していたのですが、手持ちポケモンを変更したくなったり……で、こちらの方で
新しく投稿させていただきたいと思います。

それでは!覘きに来てくださった方、ゆっくりして行ってくださいね。


Episode1 ~ ポケモンとの出会い ~


No.00 † Prologue †

【 フィリア地方 】 に雨が降る。


天国にある泉の底に穴でも開いたのかと思うくらいの集中的豪雨である。


そんな雨に打たれながら、私は人もポケモンも居ない……荒れ果てた名も無きゴーストタウンを歩いていた。

行く充ても無く、ただただ亡霊のようにフラフラと。


「………………ふぅ。」


厚い灰色の雲に覆われていて日の傾きが分からないが、結構な時間歩き続けていたと思う。


流石に感じ始めてきた疲労……雨水を吸って重くなった服が、それを更に倍増させる。


私は無意識のうちに屋根のある場所に歩み寄り、太い柱に凭れ掛るように座り込んだ。


「…………何で……生きているんだろうな、私……」


ふっと手元を見ると、私が今いる建物の砕け散った窓ガラスの破片がある。

それなりに大きくて、鋭利。


「そうだよな……もう……生きる必要なんて無かったんだ……」


自分の中で何かが決定した。同時に私は手元にあったガラスの破片を手に取り、そのまま手首に押し当てる。


「父さん……母さん……今、会いに逝くからな……」


しかし、行動は実行には移されなかった。


ガラスの破片を持つ手を、見ず知らずの男性によって強引に引き離された。

その男性は黒い傘を差し、黒い牧師服に首から黄金色の十字架のネックレスを下げている。


「葬儀が終わった帰路の途中で、まさかこのような場面に出くわせるとは……命は粗末にするものではありませんよ?」

「……うるせぇな……私がドコで何をしようと、私の勝手だろ?それであんたに迷惑を掛けるのかよ?」

「貴女に何があったのかは知りませんが、短絡的な行動は慎みなさい。親族の方が悲しむということくらい、貴方にも分かるでしょう?」

「…………っ!うるせぇんだよ、さっきから!何も知らねぇくせに、偉そうに!!私にはもう……心配してくれる親なんて居ねぇんだよ……」


男性には何の非も無い……そんなことは解っている。


けど、彼が発した言葉に神経を逆撫でされたように思えた私は、その場から立ち上がり……勢いに任せて言葉を発すると同時に、男性の胸倉を掴みあげていた。


そんな状況に置かれながらも、男性は優しい口調で言葉を繋げてきた。


「申し訳ありませんでした。どうやら私は無意識のうちに貴女の気分を害したようですね。ですが、貴女をこのまま見過ごすわけにはいきません。幸い私の教会がこの近くにあります。話の続きはそちらでしましょう。」

「……あんたと話す事なんて何も無い。」


しかし、この状況……今の私には目の前の神父らしき男性を振り切って逃げるだけの体力が無い。

この場でポケモンバトルをしようにも、私は自分のポケモンを1匹も持っていない。

今まで野生のポケモンに襲われる危険性と隣り合わせの状態で、単身此処まで来たのだ。


そんな私に残された私の選択肢は…………


「はぁ…………雨が止むまでだ。」

「え?」

「雨が止むまで、あんたのトコロに世話になる……どうせ私が何を言っても無駄だろうし、何より……抵抗するだけの体力も気力も残ってねぇからな……」


この人の提案に従うことだった。


*****


私達が出会ったゴーストタウンから、やや北西に位置する林の中に小さな教会があった。


彼は此処で神父を務め、冠婚葬祭の時に割と頻繁にお呼びがかかるらしい。


「では……まずは、その濡れた服をどうにかしましょう。」

「え?別に良いよ……放っておけば、そのうち乾くし…………」

「そういうわけにはいきません。少し、待っていてください。」


それだけ言って神父は奥の部屋へと歩いて行った。


『 今のうちに逃げてやろうか 』……そんな考えが私の脳裏を過ったが、まぁ……今は彼の言う事を聞いておこう。


それから自分の命を絶ってしまっても、遅くはない。


「お待たせしました。此処にある女性用の服はこれだけですが、何も着ないという選択肢よりは良いかと……奥に脱衣所がありますから、そちらで着替えてください。タオルは必要なだけ使ってくださって構いませんので。」

「ありがとう……一応、礼を言っておく……」


私は男性から紺色の衣服を受け取ると、言われた通り脱衣所でそれに着替えた。


~数分後~


「……ふむ。服の大きさが気になっていたのですが、丁度良いみたいですね。」

「全体だけ見ればな。ただ、胸のトコロが窮屈で……正直、キツい。」

「おや、それは申し訳ありませんでした。ですが、それが1番大きいサイズなので……」

「まぁいいさ……どうせ、ずっと着るわけじゃねぇんだし。」


そう言いながら私は木製の小さな椅子に腰を下ろした。同時に、目の前の机の上に白い液体が入ったマグカップがそっと置かれる。


「モーモーミルクに砂糖を入れて温めたものです。話はそれを飲みながら、ゆっくりしましょう。」

「…………さっきも言ったけど、あんたと話せるようなことなんて、マジで何も無いからな?」


念押しのように呟きながら、私は用意してもらったホットミルクを一口啜った。

冷えきっていた身体に、じんわりと温もりが広がっていく。


「では、まずは貴女の名前を訊きましょうか?」

「……アーシェ……『 アーシェ・バーンハルウェン 』だ。私も教えたんだ……あんたにも名乗ってもらうぞ。一応、それが礼儀っつうモンじゃねぇか?」

「そうですね、失礼しました。私は『 ヴァン・ルヴァルシュ 』と申します。此処で神父を務めさせていただいている者です。」

アーシェ 「そりゃ見れば判る。っつうか、さっきも聞いたしな。けど……神父ねぇ……こんな辺鄙な森の中に教会なんか建てて、人なんて来るのかよ?さっき私が居た町なんて廃墟だったじゃねぇか。」

ヴァン 「町は別にあそこだけではありません。他の近隣の町村から、それなりにですが人が訪れますよ。」

アーシェ 「ふぅん……」

ヴァン 「それより……アーシェさん。先程、心配してくれる親が居ないと仰っていましたが……宜しければ、話していただけませんか?嫌な事を思い出させることになるでしょうが、それでも……人に話すだけで心持が幾らか救われることだってあるのですよ。」

アーシェ 「他人事だと思って……はぁ…………どっちも死んだんだよ。母さんは私を産んだ翌年に病で、父さんは私が15歳のときに事故でこの世を去った。両親に他の兄弟や親族が居なかったことから私は施設……孤児院……児童養護施設っていうのか?まぁ、そんな感じの場所に送られたんだ。」

ヴァン 「そうでしたか……そして、その施設でも何か遭ったのですね。」

アーシェ 「察しの通りだよ。と言っても、陳腐な人間関係のイザコザってヤツだけどな。父親の死で心を自閉しちまっていた私に話しかけてきてくれていた女の子達に対して、素気ない態度を取ってしまって……徐々にその子等との距離が離れていってさ、事あるごとに何かしら適当な因縁を吹っ掛けてくる男の子達とよく殴り合いの喧嘩をしていたよ。」


自分のポケモンを持っていたらポケモンバトルで白黒付ける事はできただろうが、施設に居るポケモン達は慰安目的のために居るのであって、バトルのために使用するのは御法度だった。

まぁ、そもそもガキ同士のくだらない喧嘩のために、ポケモンを使うつもりは、最初からこれっぽっちも持ち合わせていなかったけど。


アーシェ 「それでもそこで2年と数ヶ月頑張って過ごしてみたが……限界だった。それだけの時間を費やしても環境に馴染めなかった私は、夜中に施設を抜け出して……充ても無く、生きる希望も見出せないまま彷徨っていた。」

ヴァン 「そうでしたか……」

アーシェ 「……って、何で私はこんな事をあんたに話してんだろうな。何も話すつもりは無かったのに。教会の空気がそうしちまった……か?」

ヴァン 「いえ、よく話してくださいました。おかげで、貴女という人物を少しだけ知る事ができました。」

アーシェ 「ふん……」


神父様のしてやったり顔……というわけでもないが、心を見透かされている気がして気に入らない。

とりあえず、素っ気無い態度でミルクを啜る。


ヴァン 「時にアーシェさん。話は変わりますが……貴女は神様を信じますか?」


私の目の前に座っている神父様はカップに両手を添えて、静かに……でも、真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

ここは訊かれたお題に対して素直に答えるのが礼儀ってもんだろう。


アーシェ 「……はっ!いかにも神父様らしい御決まり文句だな!まさかリアルで聞けるとは思ってなかったぜ!ははっ、これでもうこの世に思い残すことは何も無いな!けど……そうだな……その問いに対して、私は声を大にして答えてやる。」


『 私は神様なんて信じない 』……と。


アーシェ 「伝説のポケモンを総称して『 神様 』と呼ぶのか、まったく別の神々しい存在のことを言っているのか……それは私には分からないけど、困っているときに救いの手を差し伸べてくれねぇ存在なんて、私は信じない。お金や何か貰おうとも……力尽くで 『信じろ!』と説得されようと……な。」

ヴァン 「そうですか……私は居ると信じていますけどね。」

アーシェ 「そりゃ、あんたは聖職者なんだから、信仰心ってヤツを持ってねぇとマズいだろ。」

ヴァン 「いえ……まぁ、そうなのですが……そうではなく、神は行く充ても無く自暴自棄になっていた貴女の元へ私を遣わせてくださいました。」

アーシェ 「……都合の良い解釈だな。けど、あんたの言うことも理解できる……と思う。まぁ、だからといって改心するってワケじゃねぇけど。」

ヴァン 「アーシェさん。神様を信じられないのでしたら、人間である私が貴女の救いになってさしあげしょう。」

アーシェ 「…………はいぃ?」

ヴァン 「貴女にとっては大きな御世話かもしれませんが、このまま貴女を見過ごすわけにはいきません。何かやりたい事を見つけるまで、自分の道を見つけるまでの間、この教会の空いている部屋を使用してくださって構いませんよ?これからどうするのか……それをゆっくり考える時間は必要でしょう。」

アーシェ 「……良いのか?私は……あんたの優しさに甘えて、1度甘えちまったら、どこまでも、底無しに堕落するかもだぜ?」

ヴァン 「構いません。むしろ、先程のように命を軽々しく散らすような真似をすることの方が許せませんよ。きっと亡くなられた御両親も、アーシェさんの存命と無病息災を願っているはずです。」

アーシェ 「……っ!」


神父様のその言葉を聞いた瞬間、私の目方から一筋の熱い液体が頬を伝って流れ落ちる。


アーシェ 「あ……あれ?おかしいな……何で、こんな……」

ヴァン 「アーシェさん……」

アーシェ 「そんなことを言われたのは初めてだ……施設の大人達にも言われたことが無い……なぁ、神父様。私は…………まだ、生きていても良いんだな……?」

ヴァン 「えぇ、もちろんです。今日から、此処が貴女の家……貴女が帰ってくる場所です。」

アーシェ 「……わかった。じゃあ、御言葉に甘えて……しばらくの間、ちょっと厄介になる。えっと、その……ありがとう。」/////

ヴァン 「はい。これから宜しくお願いしますね、アーシェさん。」


希望を見出せず、自ら断とうと思った命の灯に差し伸べられた救いの手。


まだ終わらない……まだやり直せる段階だ。


私の物語は今、この瞬間から新しいページを刻み始める。



No.01 † First Contact †

アーシェ 「んぅ……」


寝起きで頭が上手く働かない状態で自分の現状を確認する。

温かいベッドの上に居て……まったく見知らぬ部屋で……あぁそうか。


アーシェ 「私は……助けられたんだったな。」


ようやく昨日の出来事を思い出し、私はベッドから降りて着替えを始めた。

昨日私が着ていた服は現在洗濯中なので、修道服を着る以外の選択肢が無いわけで……


アーシェ 「(やっぱり、胸がキツい……洗濯が終わって乾いたら、速攻で着替えてやる……)」


とりあえず着替えを済ませて階段を降り、礼拝堂の方へ足を運んでみると、ヴァン神父が1人で本を読んでいた。


ヴァン 「……おや?おはようございます、アーシェさん。ゆっくり休めましたか?」ニコッ

アーシェ 「あぁ……うん、おかげさまで。ただ……この後どうやって時間を潰そうか考えている。ポケモンが居てくれれば、いろいろできるんだろうけど、生憎私はポケモンを所持してねぇんでね。」

ヴァン 「あぁ、そうでしたか。でしたら、少し私の手伝いをしていただけませんか?」

アーシェ 「ヴァン神父の?いや……でも、そういう神職……神事?ってのは生半可な気持ちじゃできねぇ……いや、そもそもやっちゃ駄目なんじゃねぇか?ましてや私は信仰心が薄い人間だぜ?やりたい!やりたくない!とか以前に、まともに務まらねぇよ。」

ヴァン 「あ……いえ、神事ではないのです。もう少ししたら、新人トレーナーさんが此処に最初のポケモンを選びに来るのですよ。」

アーシェ 「新人トレーナーが……此処に?最初のポケモンを?そういうのって、ポケモンの研究所でやるんじゃねぇのか?」

ヴァン 「もちろん、そちらでもされていますよ。ですが、研究所から遠く離れた位置にある町村から研究所へ行くまでの間、新人トレーナーさんは今のアーシェさんと同様に丸腰です。」

アーシェ 「あぁ……確かに。」

ヴァン 「野生のポケモン達が絶対に襲ってこないという保証ができない現状を打破するために、このフィリア地方では研究所から各地の要所となる場所に、最初のポケモン達が支給されているのです。」

アーシェ 「なるほど。まぁ、賢明な判断だな。ポケモンに襲われて、しょうもねえ怪我しちまうことを考えれば、ずっと良い。」

ヴァン 「アーシェさん。応接室の机の上に3つのモンスターボールがありますので、持って来ていただけますか?」

アーシェ 「ん……了解。」


私は昨日ヴァン神父と話をした応接室に足を運び、机の上に置いてあった3つのモンスターボールを手に取る。


アーシェ 「これだな……ん?」


おそらく、今手に取った3つが指定されたボールで間違いはない……はずなのだが、少し離れた位置にモンスターボールが1つ、ガラスケースに入った状態で置かれているのに気が付いた。


アーシェ 「これは……ヴァン神父のポケモンか?御丁寧にケースなんかに入れられて……他にそれらしい物が見当たらねぇから、持って来いって言われたのはこの3つだろうけど……念のため、確認のためにコイツも一緒に持って行くか。」


私は3つのモンスターボールと、ガラスケースを抱きかかえてヴァン神父の元に戻った。


アーシェ 「持って来たぜ、ヴァン神父。」

ヴァン 「ありがとうございます、アーシェさん。」

アーシェ 「たぶんコレで合ってると思う……他に見当たらなかったからな。あと、このケースに入ったモンスターボールも候補なのかと思って持ってきた。」

ヴァン 「あぁ。そのケースの方はアーシェさんのポケモンですよ。」

アーシェ 「………………はい?」


ヴァン神父の言葉に一瞬、自分の耳を疑った。


私の……ポケモン?


ヴァン 「先程御自身で仰られていたとおり、アーシェさんも確か、ポケモンを持っていませんでしたよね?この子は訳があって私が保護していたのですが、アーシェさんになら安心して託すことができます。」

アーシェ 「そんな……わざわざ用意してくれなくっても、モンスターボールさえくれたら近所の草叢で適当にゲットするのに……でも、せっかくヴァン神父が用意してくれたんだ……ありがたく、受け取っておくぜ。それにしても……訳あり?」


私はガラスケースからモンスターボールを取り出し、とりあえず前方に向かって軽く投げてみた。


アーシェ 「こ……こいつは……!」



【 アチャモ 】

ひよこポケモン / 高さ : 0.4m / 重さ : 2.5kg / 炎タイプ

お腹に炎袋を持ち、口から飛ばす炎は摂氏1000度。

トレーナーにくっついて、ちょこちょこ歩く。

抱きしめると、ポカポカとっても暖かい。

周りが見えなくなる暗闇は苦手。

♂にはお尻に小さな斑点があり、♀には無いため、そこで見分けることができる。



空中を舞っていたボールが開き、中からアチャモが姿を現した……が、何か違和感がある。


あれ?アチャモってこんな黄色っぽい色してたか?もっとこう……オレンジ色っぽい感じだったと思うんだけど……


アーシェ 「ヴァン神父……えっと、これって……… ( ; ゚ Д ゚ ) 」

ヴァン 「はい。色違いのアチャモですね。特性は【 加速 】です。アーシェさん……可愛がってあげてくださいね。」ニコッ

アーシェ 「いやいや……いやいやいやいや!!(((((( ; ゚ Д ゚ ))))) 色違いで隠れ特性とか、割と洒落にならねぇって!!受け取れねぇよ、こんなレアなポケモン!!絶対近いうちに何か罰が当たっちまう!!」

ヴァン 「そんなことはないと思いますが……それに……」


ボールから出したアチャモが、私の足に擦り寄ってきている。


くっ……!何だ?この可愛らしい生命体は……!?

うわぁ……あぁ……すっげぇ癒される……

この可愛らしいポケモンが、私の荒んだ心のケアをしてくれているのが解る……



ヴァン 「アチャモは貴女をトレーナーと認めてしまったようですし。」

アーシェ 「くっ……ま、まったく!鳥ポケモン特有の刷り込みかもしれねぇけど、ポケモンが認めてくれたっていうんなら、仕方ねぇよな!うん、仕方ない!私がこのアチャモのトレーナーになってやるかな!まったくもぅ……しょうがねぇなぁ!」/////

ヴァン 「デレデレじゃないですか。アチャモを抱き上げて頬擦りして……説得力皆無ですよ。ですが、とても喜んでいただけたみたいで良かったです。」

アーシェ 「あぁ!マジで感謝するぜ、ヴァン神父!凄く基本的な事だけどさ……私、この子を絶対に大切にするよ!」ニコッ

ヴァン 「はい。大切に育ててあげてください。さて……どうやら、メインのお客様がいらしたようですよ。」


アチャモの可愛さにはしゃいで忘れかけていたが、本当の目的はまだ果たせていない。


前方の木製の大きな扉がゆっくりと開き、1人の女の子が教会内に入ってきた。


新人女の子トレーナー 「あ……あの、初めまして!最初のポケモンを頂きに来ました……。」

ヴァン 「えぇ。承っていますよ。アーシェさん、お願いします。」

アーシェ 「おうっ!」


私は自分のパートナーになったアチャモをボールに戻し、一緒に持って来ていた3つのモンスターボールを順番に投げる。


ボールからはそれぞれ順番に 『 モクロー 』、『 アチャモ 』、『 ポッチャマ 』 が姿を現した。



【 モクロー 】

くさばねポケモン / 高さ : 0.3m / 重さ : 1.5kg / 草 ・ 飛行タイプ

昼は光合成で力を溜めて、夜になったら活動開始。

刃物のように鋭い羽を飛ばして攻撃。足の力も強く、キックも侮れない。一切音を立てずに滑空し、敵に急接近。気づかぬ間に強烈な蹴りを浴びせる。

狭くて暗い場所が落ち着くらしく、トレーナーの懐やバッグを巣の代わりにすることもある。



【 ポッチャマ 】

ペンギンポケモン / 高さ : 0.4m / 重さ :5.2kg / 水タイプ

北国の海岸線で暮らす。泳ぎが得意で、10分以上海に潜って、エサを獲る。

長い産毛が寒さを防ぐ。

歩くのは苦手で、こけたりするが、ポッチャマのプライドは高く、気にせず堂々と胸をはる。

プライドが高く、人から食べ物をもらうことを嫌い、世話を焼かれることが嫌い。トレーナーの指示を聞かないので、仲良くなるのが難しい。



アーシェ 「………ものの見事に鳥型のポケモンが揃ったな。ヴァン神父、狙ったのか?」

ヴァン 「いえ、私もこの瞬間まで中のポケモン達を確認していませんでしたから……まったくの偶然です。コホン……とにかく、こちらから貴女のパートナーとなるポケモンを、1匹選んでください。」

新人女の子トレーナー 「はっ……はい!」


女の子が3匹のポケモンを前にじっくり品定めを開始する。


ヴァン 「……ちなみに、アーシェさんならあの3匹から誰を選びますか?」

アーシェ 「ん?そうだな……このフィリアは中央に森林が多いから、環境を活かすならモクローかな。草タイプや虫タイプにも有効打があるし……まぁ、タイプ相性だけで考えるならアチャモも充分イけるか。ポッチャマは……この周辺の環境でのバトルはちょっと厳しいが、南方の砂漠やビーチや、北方の雪山周辺なら活躍できるかも。」

ヴァン 「ほぅ……なるほど。良い見識だと思います。」

アーシェ 「けどまぁ……今私が言った事はあくまで建前であって、本音を言わせてもらうなら、フィーリングによる第一印象で決めるね!ポケモンのタイプ相性云々なんてモンはさ、後々にゲットするポケモン達次第で、どうとでもなるハズだからな。」

ヴァン 「そうですね。私もアーシェさんと同意見です。あの子には、此処で選んだポケモンをきっかけに、多くのことを体験してもらいたいものですね。」ニコニコ

新人女の子トレーナー 「…………よし!決めました!私、ポッチャマと一緒に旅をします!」

ヴァン 「おや?決まりましたか。わかりました。アーシェさん。」

アーシェ 「ん?あぁ……ほら、これがポッチャマの入っていたモンスターボールだ。これからそいつと一緒に頑張りな。」ニコッ

新人女の子トレーナー 「はい!ありがとうございます!」


女の子は私からモンスターボールを受け取ると、早速ポッチャマをボールに戻し……再びボールを軽く投げてポッチャマを呼び出した。


新人女の子トレーナー 「今日から私があなたのトレーナーです。よろしくね、ポッチャマ。」

ポッチャマ 「 (* ・ ∀ ・ )ノ☆・゜:: 」


女の子の呼びかけに、ポッチャマが右手……羽?を振り上げ、元気良く応えた。


新人女の子トレーナー 「それでは、失礼します!早速、行きたかった町に向かおうと思います!」

ヴァン 「道中御気を付けて。貴女の旅に神の御加護があらんことを。」

新人女の子トレーナー 「ありがとうございます!」ペコリッ


軽いお辞儀を済ませた後、女の子はポッチャマと共に元気良く教会を出て行った。


アーシェ 「ポケモンを受け取りに来る子ってのは、あの子だけなのか?」

ヴァン 「はい。本日はあの子だけです。」

アーシェ 「そっか……じゃあ、改めて私のアチャモについて話を聞かせてもらえないか?この子、神父様が保護してたって言ってたけど……」

ヴァン 「はい。実は、そのアチャモ……この森で捨てられていたのです。そして私が保護を。」

アーシェ 「はぁ!?いや、ちょっ……何で!?意味わかんねぇ!だってこの子、色違いで……隠れ特性なんだろ!?手放す理由なんて……」

ヴァン 「アーシェさん。アーシェさんは『 個体値 』という言葉を聞いたことがありますか?」

アーシェ 「え?あ……あぁ、うん。何となく理解してる程度で、口で説明すんのはちょっと難しいけど……『 攻撃V 』とか、そんな感じのヤツだろ?」

ヴァン 「えぇ、そうです。そして、保護した後、ポケモンセンターでいろいろと調べてもらったのですが、どうやらその子、体力と攻撃、特殊防御と素早さの個体値は最高なのですが、防御の個体値があまり高くないそうなのです。」

アーシェ 「俗にいう4Vってヤツか。大方、厳選とやらで5V狙いだったのに、求めていた子と違うから手放したってトコか?」

ヴァン 「憶測ですが、おそらくそうでしょう。」

アーシェ 「まったく……この子達は生き物なんだ。強さを数字で表現できたとしても、理屈とかでは測りきれねぇことだってあるだろうに……」

ヴァン 「そうですね。……アーシェさん、こちらを貴方に差し上げます。」


そう言いながらヴァン神父は私の掌に、銀色の小さな瓶ジュースの蓋を置いた。


アーシェ 「……ヴァン神父、こいつは何の嫌がらせだ?ゴミ捨てして欲しいなら、最初からそう言えって。ちゃんと始末するからさ。」

ヴァン 「違います!違います!それは『 銀の王冠 』という、ちゃんとしたアイテムです。」

アーシェ 「銀の王冠?」

ヴァン 「聞いた話なのですが……その王冠と引き換えにポケモンの個体値を最大まで上げてくれるという場所があるそうです。」

アーシェ 「!」

ヴァン 「いつかアーシェさんが本格的に旅をするようになり、そういった場所へ行く機会があったその時、アチャモ……いえ、その頃には進化してるかもしれませんね。その子の防御力を鍛えてあげたいと思った時にでも、使ってあげてください。」

アーシェ 「なるほど、そういう……わかった。その時が来たら、ありがたく使わせてもらうよ。ありがとう、ヴァン神父。」

ヴァン 「どういたしまして。」ニコッ


私は銀の王冠をとりあえず、手提げ鞄の中に入れ……再び、アチャモの入っているモンスターボールへと視線を落とした。


アーシェ 「これからよろしく、アチャモ。いろんな事を一緒に経験しような。」


モンスターボール越しにそう呟いた瞬間、私の言葉がボールの中に居るアチャモにも聞こえたのだろうか?


手の内にあったモンスターボールが、コクンッと縦に小さく揺れ動いたような気がした。



No.02 † 崩落からの救出 †

教会の礼拝堂で、アチャモをボールから出して自由行動をさせてあげつつ、自分は読書を楽しんでいた麗らかな昼下がり……


ちょうど私の背後にあった木製の扉が勢い良く開き、山男……と思われる男性がワンリキーを抱きかかえ駆け込んできた。


アーシェ 「……っ!?ビックリした……一体、何事?」

山男 「すまん!此処に傷薬かオボンの実はないか?あったら、少し分けて欲しいんだが……」

アーシェ 「あ……あぁ、そのワンリキーに使うんだな。わかった!ちょっと待っててくれ!」


◇◇◇


ヴァン神父の助力も有り、手当てを施したワンリキーは何とか大事にならずに済んだ。


アーシェ 「とりあえず応急処置はしたけど、ちゃんとポケモンセンターで診てもらった方がいいぜ。」

山男 「うむ。この先にある街道沿いのポケモンセンターでちゃんと診てもらうとするよ。」

ヴァン 「それで……一体、何が遭ったというのです?」

アーシェ 「ワンリキーの身体、斬り傷がたくさんあったけど……下山した先のこの森で、ストライクにでも襲われたのか?」

山男 「いや……その怪我は此処から南西にある岩山で、あるポケモンに襲われてな……そいつが放った鋭利な岩で付けられたんだ。」

ヴァン 「此処から南西というと……【 アツァリ山 】ですね。あそこは岩タイプや鋼タイプのポケモンが多く生息していますから……」

アーシェ 「しかも……私達みてぇな一般人より、山の事に長けたおっちゃんのポケモン……それも相性では不利のハズの格闘タイプのポケモンを追い込むほど、強いポケモンか……」

山男 「あぁ……俺もワンリキーなら大丈夫かと思ったんだが……レベル差が大きかったのかもしれんなぁ……」

ヴァン 「興味がありますか?アーシェさん。」ニコッ

アーシェ 「ん……まぁ、少し。何か良いポケモンが居たら、仲間に加えたいなぁ……と、思うくらいには。」

ヴァン 「そうですか。では、アーシェさん。後程貴方にモンスターボールを10個差し上げます。それを持ってアツァリ山へ赴き、新たな出会いを体験してきてください。」

アーシェ 「え?いや、えっと……ありがとうございます、ヴァン神父。」


✝✝✝


……てな過程を経て、私は今、アツァリ山を登っていた。


このアツァリ山は立派な鉱山で、純度の高い鉱物や、ポケモンの進化に必要な石がよく採取されている。

それで、そういう鉱物や、( 私には解らんが )栄養豊富な岩を主食とする鋼タイプや岩タイプのポケモン達が集まり……いつの間にか住み着いたそうだ。

それ故に時折、鉱石を採掘に来た人間と、鉱石を主食とするポケモンとのバトルが勃発することがあるらしい。


アーシェ 「さてと……ゲットしようにも、まずはポケモンを見つけねぇことには、何も始まらねえよな……」

アチャモ 「!∑(゚ Д ゚ )」

アーシェ 「ん?どうした?アチャモ……」


ふっとアチャモと同じ方向へ視線を向けると、その先で緑色の草が渦巻いていた。


アーシェ 「!?∑(゚ Д ゚ ;) 今のは………」



恐る恐るアチャモと一緒に岩陰から、葉っぱが渦巻いたトコロを見ると……

1人の少年トレーナーがポケモンに指示を出していた。


「あの子の使ってるポケモンは確か……ツタージャか。」



【 ツタージャ 】

くさへびポケモン / 高さ :0.6m / 重さ :8.1kg / 草タイプ

知能が高くとても冷静。

太陽の光をたっぷり浴びると動きが鋭くなる。元気をなくすと尻尾が垂れ下がる。

手よりもツルを上手く使う。



男の子トレーナー「よし!もうすぐ倒せるぞ!……ツタージャ!グラスミキサーで纏めて倒してしまえ!!」

ツタージャ「( `・ ω ・)ゞ 」


少年の指示を受けたツタージャが草の渦を巻き起こし、前方に居たポケモンを押し飛ばしたようだが……

私の位置からでは、岩壁がちょうど死角となって、対峙しているポケモンの方が見えない。


アーシェ 「くっ……もうちょい……」



何とか覗き込もうとしていた瞬間……周囲に何か……大きな物と大きな物同士がぶつかり合ったような、大きな音が轟いた。

直後、何かが久世れるような音も聞こえてきた。


おそらく、グラスミキサーを受けたポケモンが岩壁に叩きつけられ、同時にその壁が崩れ落ちて来て……敵対していたポケモンが岩の下敷きになったのではないかと思う。


相手のポケモンを倒したと判断したのか、少年の方も深追いをすることなく、ツタージャをボールに戻すと急いで下山していった。


アーシェ 「え?おい、ちょっ……ポケモンのレベルアップのための経験値が欲しかっただけかもしれねぇけど、対峙してたポケモンをこのまま放置かよ!?」


落石事故……私の中にある思い出したくない記憶が蘇る……


アーシェ 「下敷きになったポケモンを助けないと……!こんなことで命を失わせるわけにはいかないっ!」


私は衝突の衝撃で崩れた岩壁に駆け寄り、積み重なった岩の撤去作業を始めた。

見た目はそこそこ大きいが、女性の私でも何とか持ち上げて動かせる。

アチャモも細い足で岩を蹴って、アチャモなりに手伝ってくれた。


アーシェ 「そういえば……あの子が対峙していたポケモンをちゃんと見てなかったんだよな……」


最初は岩の壁が死角になっていたし、私が駆け寄った時には、そのポケモンは既にグラスミキサーで押し飛ばされていたし……

そんなことを考えながら岩を撤去すること数分……ようやく、岩の下からポケモンの顔が現れた。


アーシェ 「このポケモンは……!」



【 イワーク 】

いわへびポケモン / 高さ :8.8m / 重さ :210.0kg / 岩・地面タイプ

普段は土の中に住んでいる。

地中を大きく丈夫な体をくねらせ、よじらせ、時速80キロで掘りながらエサを探す。

通った跡はディグダの住処になる。

成長すると体の岩石成分が変化して、黒いダイヤモンドのようになる。

脳みそに磁石があるので、土の中を掘り進んでいても方向を間違えない。

年を取るほど体は丸みを帯びる。



アーシェ 「はぁぁ……ポケモンの技ってスゲェな。この巨体を押し飛ばすことができるんだもんな……って、感心してる場合じゃない。とりあえず、呼吸はできるようになったけど……この巨体の殆どはまだ、岩の下なんだよな……」


私はイワークの上に積み上げられた岩を見た。

本来なら自力で吹っ飛ばすことができるんだろうけど……先程のバトルで、効果抜群の技を受けて、体力を大きく消耗しているらしく、イワークは明らかに苦しそうな表情をしている。


アーシェ 「辛いよな……待ってろ!今、傷薬で……って、しまった!そういや、私が所持していた木の実も傷薬も、おっちゃんのワンリキーに使っちまったんだった。」


回復アイテムが無い……しかし、イワークの上に積み上げられた、顔付近にあった物よりも更に大きな落石を、私とアチャモだけでは撤去できそうにない……

となれば、残された手段は……


アーシェ 「悪い、イワーク。今だけ……我慢してくれ。」


私は鞄の中からモンスターボールを1個取り出し、イワークの鼻先にボタンを押し当てた。

同時にボールが上下に開き、イワークを吸い込んで……再び閉じ、私の手の内でしばらくカタカタと揺れ動いていたが、やがてカチッ!と音を立ててその動きが完全に止まった。


あの少年のツタージャにバトルさせるだけさせて、自分は何か美味しいとこ取りしたような形になってしまったけど、そんなことを言っている場合じゃない。


イワークが居なくなったことにより、目の前の瓦礫が音を立てて再度崩落した。


アーシェ 「確か、少し行った街道沿いにポケモンセンターがある……はずなんだよな。」


私はアチャモをボールに戻し、駆け足でポケモンセンターに向かった。


*****


街道沿いポケモンセンター


ナースさんが言うには、私が連れて来たイワークに命の別状は無く、体力を回復させるのと様子見で1日費やすそうだ。


私はその間に、ポケモンセンター内に設置されているテレビ電話を使って、事前に連絡先を聞いておいたヴァン神父の教会へ通話を試みていた。


ヴァン 『なるほど、そのようなことが……』

アーシェ 「まぁ、救出のためとはいえ、一時的にゲットしちまったわけだし……とりあえず、助けたイワークが回復まで此処で寝泊まりしようと思う。とはいっても、明日には回復するらしいんだけど……許可してもらえるかな?」

ヴァン 『えぇ、もちろんです。アーシェさん、最後まで責任をもってイワークに接してあげてくださいね。』

アーシェ 「あぁ。わかってるよ。」


— 通話終了 —


アーシェ 「さてと……イワークの回復が終わるまで、ただ此処で本を読んでるだけってのもアレだし……アツァリ山で特訓でもしようか、アチャモ。」


私の呼びかけに、足元に居たアチャモが力強く、元気よく頷いた。



✝✝✝



翌朝

街道沿いポケモンセンター


ナース 「アーシェさん。お預かりしていたポケモン達はすっかり元気になりましたよ。」

アーシェ 「ありがとうございます。お世話になりました。」


私はハピナスが押して来た担架の上に置かれていたアチャモとイワークが入ったモンスターボールを手に取り……ポケモンセンターを出て、アツァリ山へ向かった。


◇◇◇


アツァリ山 ・ 麓


麓まで戻って来た私はイワークが入ったモンスターボールを手に取り、軽く放り投げて中に居たイワークを呼び出す。


アーシェ 「悪かったな、お前の体力を回復させるためとはいえ、勝手にゲットしちまって。でもまぁ、無事に体力も回復したことだし……また、野生に戻って好きなように生きると良いよ。」


私はそう言って空になったモンスターボールを地面の上に置いた。


しかし、自由になったイワークは一向に山の方へ戻ろうとしない。

それどころか、ジッと静かに私のことを見つめている。


別にイワークは私のことを睨みつけているわけではないんだろうけど……自分よりデカい相手に無言で見つめられる・見下ろされるってのは、なかなかの威圧感がある。


アーシェ 「どうしたんだ?イワーク。山に帰って良いんだぞ?」


おそらくイワークは私の言っていることをちゃんと理解している……と、思う。

理解しているうえで、イワークは吠えたり、暴れたりすることなく、持ち上げていた鎌首をゆっくりと下げて……自分で私が地面の上に置いたモンスターボールのボタンを鼻先で小突いた。


ボタンが押されたことでボールは再び開き、イワークを吸い込むと、1度ゲットしているからだろうか?

揺れ動くことなく、カチッ!と音を立てて完全に停止した。


アーシェ 「え?えぇ?お前、本当に良いのか?私の仲間になってくれるのか?」


拾い上げたモンスターボールが私の手の内で、コクン……と縦に揺れ動いた気がした。


アーシェ 「助けた恩返し……なのかな?まぁ、何でも良いや!ありがとう。これからよろしくな、イワーク!」


アチャモに続き、私に新しい仲間が出来た。

覚えている技や特性はまだ知らない……けど、そんなこと抜きで!純粋に仲間が増えて嬉しいと思う。


アチャモ同様に大事に育ててあげよう。



No.03 † 変人橋の戦い †

カントー地方・ハナダシティ北部に位置する、ポケモンマニアが住むという岬の小屋と呼ばれる場所へ行くために通る橋……『 ゴールデンボールブリッジ 』。

通称 『 金玉橋( こんぎょくばし ) 』。

5人のトレーナー+αと戦って、勝利すると橋の名前の由来ともなっている『 金の玉 』が貰えるという。


まぁ……それが直接どうこうって訳じゃねぇんだけどな。似たような橋が、このフィリア地方にも存在していたりする。


ちょうど私が世話になってる森の教会から東に向かい、『 セローナ 』と呼ばれる町へ行く道中に通らなければいけない橋。

通称『 変人橋 』。

正式名称は 『 プロスパシア ・ ブリッジ 』 というのだが、癖の強いポケモントレーナが3人、橋の3ヶ所に陣取ってしまっているため、いつしかそう呼ばれるようになった。


しかも、こいつ等に勝っても何にも貰えない……が、良い腕試しにはなるため、多くのポケモントレーナーがこの橋を訪れる。


かく言う私も、アチャモとイワークのレベルアップのために、この橋を訪れていた。



アーシェ 「さてと……トレーニングのために外出許可をくださった、ヴァン神父のためにも……ちゃんと成果を上げて戻らねぇとな。」



そう呟きながら、私は自分のポケモン達が入っているモンスターボールに視線を向ける。



【 アーシェ : 手持ちポケモン 】

〇 アチャモ ・ ♂ ・ 加速

火の粉 / つつく / ひっかく / 鳴き声


〇 イワーク ・ ♂ ・ 頑丈

岩落とし / 撃ち落とす / 体当たり / 締め付ける



アーシェ 「よしっ!大丈夫だろう……たぶん。」

「ん?おぉ!挑戦者か?」

アーシェ 「!」


ボールに視線を向けていたところ、橋の手前に居た海パン野郎が声を掛けて来た。

どうやら彼が西から東へ向かう道中だった場合の1番手らしい。


それにしても……もうすぐ冬が訪れる、最近涼しくなってきているこの季節に……屋外で海パン1丁だと!?


確かにすぐ傍、橋の下には川が流れていて、夏場は 『 ちょっと良いなぁ 』 と思うことはあっても、流石に今はそうは思えない。


っていうか、嬉々とした表情を浮かべながら迫って来るな!お前と同類と思われたくねぇんだよ!


アーシェ 「あぁ、うん……挑戦者なんだけどさ……お前、寒くねぇのか?」

海パン野郎 「ふふん!君にはこの俺が寒そうに見えるのか!?」

アーシェ 「いや……この時期なら、私以外も……」

海パン野郎 「水泳や筋トレで完璧なボディを手に入れたこの俺が寒そうだと?ふっ……はははっ!大当たりだ。」

アーシェ 「だろうな。」

海パン野郎 「だが!!これは俺の勝負服!!こんな北風の冷たさなど、周囲の視線の冷やかさに比べれば、どうということはない!!」

アーシェ 「気付いてたのか、周囲の視線に……そりゃそうか。」


何年か前に、そのスタイルで登場したお笑い芸人が居たような気がするが……それはあくまでもネタの上での話。

リアルでこんな姿をしている奴が居たら……それはもう、おまわりさんの出番だろう。


アーシェ 「よく今まで警察に捕まらなかったな。」

海パン野郎 「ん?まぁ、俺の尊敬する警察は、海パン1丁で凶悪事件に立ち向かう刑事も居るくらいだし……」

アーシェ 「そんな奴が居んのか!?何ていうか、もう……お前等の存在そのものが事件だと思ってたけど、世も末だな。まぁいい……とりあえず、バトルを始めよう。そのために私は此処に来たんだから。」

海パン野郎 「ん?そうだな。正々堂々勝負しよう!!」


そりゃお前は不正のやり様が無いよな……海パン一丁だもん。


アーシェ 「それじゃあ、いくぜ……出番だ、アチャモ!」


私が投げたボールが開き、アチャモが元気よく姿を現した。


海パン野郎っつうくらいだ……何かしらの水タイプのポケモンを使ってくるだろう……

いきなり厄介な相手だ。アチャモもイワークも水タイプが弱点だからな。しかも、イワークに至っては4倍だし。


海パン野郎 「アチャモか……ふっふっふ。海パン野郎相手に炎タイプで挑むことが、いかに愚かな事か!実際に味わうがいい!!」


そう言いながら海パン野郎がどこからともなく取り出したモンスターボールを投げ、コイキングを呼び出した。



【 コイキング 】

さかなポケモン / 高さ : 0.9m / 重さ : 10.0kg / 水タイプ

力もスピードも殆どダメ。世界で一番弱くて、情けないポケモン。

とにかく跳ねる。意味も無く跳ねる。跳ねているときに、飛んできたピジョンなどに捕まってしまう。

無闇に跳ねてすぐ襲われるが、コイキングのおかげで多くのポケモンが生き延びられると いう。

遥か大昔は、それなりに強かったが、時が経つにつれて、どんどんどんどん弱くなっていったらしい。

力は弱く頼りないのに、繁殖力だけは物凄い。世界中の水辺で飽きるほど見かけることができる。

♂は髭が黄色く、♀は白いため、そこで見分けることができる。



私とアチャモの目の前の地面の上で、呼び出された相手のコイキングがビチビチと跳ねまわっている。それはもう、ビチビチと……


静かなバトルフィールドに川のせせらぎの音と、コイキングの跳ねる音だけが耳に入り込んでくる。


アーシェ・アチャモ 「「………… (゚ Д ゚ ) 」」

海パン野郎 「ではいくぞ!コイキング、跳ねる!」


海パン野郎は高々と技名を叫んだが……そんなこと、お前に言われるまでも無く、コイキングは私達の目の前で跳ねている。


当然、何も起こらない。


アーシェ 「はぁ……アチャモ、つつく。それから、追撃でひっかく。」

アチャモ 「 ∑(゚ Д ゚ ;) 」


私の攻撃指示を受けたアチャモが、戸惑いの表情を……『 え?本当にこのまま攻撃して良いの? 』 と言いたげな表情で私の顔を見ている。


うん……無抵抗の相手に攻撃するのは私も気が引けるけど、これもポケモンバトルだから……仕方ないことなんだよ。


私も少し困った表情をしていたと思う……けど、とりあえず無言のまま頷き、その動作を確認したアチャモがトテトテとコイキングに歩み寄り、言われた通り 『 つつく 』 と 『 ひっかく 』 で、相手のコイキングを戦闘不能にした。


登場したコイキングが戦場に降り立ち、そして戦闘不能になるまで……5分もかからなかった。


アーシェ 「お前……私のこと、おちょくってんのか!?」

海パン野郎 「いや、すまん!!悪かった!今のは俺の育成が終わって無かっただけで、他意はないんだ!!大丈夫、残りの1匹は育成も終わってるから!!」

アーシェ 「本当だな?信じるぞ、その言葉。」

海パン野郎 「おう!頼むぞ、俺の相棒!」


そう言いながら海パン野郎が投げた2個目のボールが開き、マーイーカが姿を現した。



【 マーイーカ 】

かいてんポケモン / 高さ : 0.4m / 重さ : 3.5kg / 悪 ・ エスパータイプ

発光体の点滅を見つめた相手は目が眩み、 戦意を無くしてしまう。

光を点滅させて獲物をおびきよせると、長い触手で絡め取り、動きを封じる。

仲間と情報交換をするとき、身体の発光体を複雑なリズムで光らせる。



アーシェ 「(まぁ、確かに海に居そうな見た目をしてるけど……水タイプじゃないんだよな……)アチャモ、引き続きお願いできるか?」


私の呼びかけに対し、アチャモが力強く頷く。


アーシェ 「よし、それじゃあ……アチャモ、火の粉!」

海パン野郎 「マーイーカ、サイコウェーブ!」


指示を出したのはほぼ同じタイミング。


その場で踏ん張って放たれたアチャモの火の粉と、相手のマーイーカの放ったサイコウェーブが双方の間でぶつかり合った。


アーシェ 「ちっ……相殺されちまったか。それにしても、サイコウェーブか……」


サイコウェーブの威力は、発射したポケモンのレベルに0.5~1.5の数値をかけ算した数値がランダムで決まる。


相手のポケモンのLv が 50 だった場合、最高威力は75、Lv100 なら最大150なのだそうだが、技を放つポケモンのレベルが影響するうえ、『 ナイトヘッド 』 や 『 地球投げ 』 のような固定ダメージを与えられるわけでもなく、技が当たるまでダメージ量の予想が全くできない。

( 相手のポケモンのLv が 50 だった場合、最低威力は 25 になるらしい )


あのマーイーカのレベル次第では、1発……ギリギリ2発耐えられるかもしれないが、回復用の薬や木の実だって有限だ。


この後に控えている2人のトレーナーとのバトルのためにも、ここで余計なダメージを受けるのは控えたいところ。


アーシェ 「……よし。仕切り直しだ!アチャモ、つつく攻撃!」

海パン野郎 「マーイーカ!!イカサマで攻撃!!」

アーシェ 「お前…………それはひょっとして、ギャグで言ってんのか?だとしたら、猛烈に寒いぜ。今年は寒波の到来が早いな、おい。」

海パン野郎 「ちっ……ちち、違うわい!」/////


まぁ、私が深読みしすぎてるだけなんだろうけどな……。

このポケモンと技の組み合わせを見た時、私と同じ事を思ったトレーナーは世界にどれだけ居るんだろうか……?


海パン野郎の指示を受けて攻撃態勢に入るマーイーカの目の前に、既に加速で素早さが上昇しているアチャモが接近し、つつくを繰り出してマーイーカにダメージを与えた。


身体に嘴が刺さったことにより、苦悶の表情を浮かべたマーイーカだったが、すぐに体勢を立て直し、物理攻撃の姿勢を取ってアチャモへ接近してくる。



アーシェ 「このまま黙ってダメージを受けてやるつもりはない!アチャモ、火の粉で迎え撃て!」


つつくの後、マーイーカから距離を取っていたアチャモが口を開き、迫ってくるマーイーカに向かって火の粉を吹きかけた。


おそらく独断だろう、攻撃を中断しようと一瞬だけ留まったマーイーカに放たれた火の粉が直撃し、そのままマーイーカを戦闘不能へと追い込んだ。


▼▽▼


海パン野郎 「だぁぁぁぁぁ!!負けちまったかぁ!」

アーシェ 「ふふっ、悪いな。1発くらいならダメージを受けてやってもいいかなぁ……とか思ったけど、御情けが入っちまってバトルで勝っても、嬉しくないだろ?」

海パン野郎 「そりゃそうだ。ふっふっふ……久しぶりに楽しい勝負だった。また今度、君がこの橋を訪れる事があったら、勝負してくれ。」

アーシェ 「あぁ。その時までには、コイキングをギャラドスに進化させておいてくれ。」


✝✝✝


海パン野郎とのバトルを終え、橋の中腹まで差し掛かった時、私の眼に1人の少女の姿が映った。


白いフリルの付いた黒主体の服……ゴスロリ服とかいうのか?何かそんな感じの服を着て、膝を立てて橋の上に座っており、手に持っている藁人形を弄繰り回しながら、何か小声で呟いている。


アーシェ 「彼女が次の対戦相手なんだろうけど…………おい、大丈夫か?その……コンディション的に……」

「————————————…………い」

アーシェ 「え?」

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い私からあの方を奪い取ったあの性悪女が憎い憎い憎い今頃本当なら私があの方と一緒にライモンシティの遊園地でデートしていたはずなのに———————………」


大丈夫じゃなかった。

物凄く大丈夫じゃなかった。


対話できるほどの距離に立って初めて気付いた彼女の口から延々と続く呪詛の言葉。


怖い……怖すぎる……。


長く垂れた前髪の隙間から見えた彼女の赤い瞳……それはもう、その眼差しだけで人を殺めてしまえそうな程、冷やかだった。


そして……様々な負の感情が入り乱れた言葉が止み、急に立ち上がった少女は—————


「本当にもう……この世に存在する私以外の全ての女全員死ねばいいのに」


とんでもなく自己中心的で物騒な言葉を吐き捨てた。


アーシェ 「あのなぁ……あんまりそういう事ばっかり言ってると、いつか自分に災いみてぇなのが返ってくるぞ?ほら、よく言うだろ?『人を呪わば穴2つ』って。」

「何よあなた関係無い他人のくせに御節介なのよまあいいわ話しかけてきた以上あなたにはつきあってもらうわよ私の憂さ晴らしに」


そう……句読点で区切らず、会話のどこで息継ぎをしているか解らない呟きを続けながら、オカルトマニアの少女がモンスターボールを構える。


オカルトマニア 「さぁいらっしゃい貴方が最初の生贄よ」

アーシェ 「上等だ。やってみろよ?返り討ちにしてやるぜ!」

オカルトマニア 「チッ——————…………生意気」


舌打ち……たった一瞬のその行為にさえ全力の怨念を込め、負のオーラを発しながら少女が投げたボールが開き、ヒトモシが姿を現した。



【 ヒトモシ 】

ろうそくポケモン / 高さ : 0.3m / 重さ : 3.1kg / ゴースト ・ 炎タイプ

普段炎は消えているが、人やポケモンの生命力を吸い取ると、炎は煌めく。

明かりを灯して道案内をするように見せかけながら、生命力を吸い取っている。

吸い取る命が若ければ若いほど、頭の炎は大きく妖しく燃え上がる。

炎で熱せられた体はほんのり温かい。

迷子の手を引き、霊界へと誘う。



アーシェ 「ヒトモシか……なら、ここは……頼むぞ、イワーク!」


私が投げたモンスターボールが開き、イワークが元気よく姿を現した。

岩タイプを併せ持つこの子だ。ヒトモシに対して、有利に立ち回れるはず。


オカルトマニア 「あら……ずいぶんと相性のいいポケモンを持っているようねこちらの攻撃がゴーストタイプの技くらいしか通らないわ」

アーシェ 「それじゃあ、いくぜ!イワーク、岩落とし!」

イワーク「( `・ ∀ ・)" 」

オカルトマニア 「させないわ……ヒトモシ妖しい光」

アーシェ 「なっ……!?いきなり混乱狙いか!」


オカルトマニアの指示を受けたヒトモシがイワークに向かって妖しい光を放つが、イワークは何事も無かったかのように平然としている。


アーシェ 「イワーク!大丈夫か!?」


私の呼びかけに、振り返ったイワークが力強く頷く。

どうやら運良く、怪しい光を回避することができたらしい。


そのまま、私がさっき出した指示通りイワークは素早く巨躯をくねらせ、空中に出現させた岩をヒトモシに向かって落とした。


岩が直撃し、倒せた!と思ったヒトモシが、橋の上でヨロヨロと起き上がる。


アーシェ 「相性はこっちが有利、ヒトモシの防御力は確か、結構柔っこいはずなのに、レベル差があったか?まぁ、次で決めよう。イワーク、もう1度岩落とし!」

オカルトマニア 「くっ……混乱による自称ダメージを狙ったのだけど失敗したみたいねさっきの岩落としのダメージも洒落にならないし……ここは自主退場して後続に繋ぎましょうヒトモシ呪い」

イワーク 「!?」


イワークより先に動いたヒトモシの背後に突如現れた五寸を遥かに凌駕するほどにデカい釘が、ヒトモシの体を貫き……そして、そのままイワークの体にも突き刺さった。

先程の岩落としによるダメージと、呪いによる自己犠牲により、HPが0になったヒトモシは自主退場。

イワークの2回目の岩落としは不発に終わった。


アーシェ 「攻撃技じゃない!?くそっ……岩落としが不発に終わっちまったか。すまん、イワーク!」

イワーク 「 (´ ・ ω ・) 」ドンマイ!

オカルトマニア 「これでヒトモシは自主退場お疲れ様しっかり仕事をしてくれてありがとう」


オカルトマニアがヒトモシが戻ったボールに語り掛けるその前で、イワークが呪いのダメージを受けて苦しんでいる。


ただ、イワークはまだこの呪いのダメージしか受けてないのが救いか……特性の『 頑丈 』の恩恵は受けられなくなっちまったけど。


「いいわよその『 自分のポケモンが病や呪詛に苦しんでいるのに何の対処も無くて困った 』という表情……でもまだ駄目よ私の憂さ晴らしはまだ終わってないわむしろヒトモシを自主退場にまで追い込まれた事であなたに対する憎しみは増したくらいよ」


そう呟きながら、オカルト少女が投げた2個目の……最後のボールが開き、ゴースが姿を現した。



【 ゴース 】

ガスじょうポケモン / 高さ : 1.3m / 重さ : 0.1kg / ゴースト ・ 毒タイプ

体の95パーセントが薄いガス状の生命体。残りの5パーセントは毒ガスで死んだ者の魂だといわれる。

墓場で発生する ガスに怨念が宿るうちに、やがてポケモンになったといわれている。

体の95パーセントの毒ガスに包まれると、インド象も2秒で倒れる。

強風を受けると、ガス状の体はみるみる吹き飛ばされ、小さくなってしまう。風を避けたゴース達は、軒下に集まる。

廃墟になった建物に怪しい光が灯っていたら、そこに ゴースが潜んでいる。

その姿は殆ど見えないが、ゴースが近くに現れると、微かに甘い臭いがするらしい。



アーシェ 「ゴースか……普段なら、このまま対峙して倒してやるんだが、今イワークのコンディションが悪すぎる。ここは1度ボールに戻して、呪いの解除を……」

オカルトマニア「それを私がさせるとでも対処していないとでも思っていたのかしら御目出たい人ねゴース黒い眼差し」

アーシェ 「しまった!!」

イワーク 「!?∑(゚ Д ゚ ;) 」


ゴースの不気味で冷たい視線がコマタナを捉えた。これでもう、コマタナはあのゴースを倒すまでボールに戻す事ができない。


オカルトマニア 「さぁ苦しみ悶えながら果てなさいそして次のポケモンを出しなさい更なる苦しみを体験してもらうから」

アーシェ 「冗談じゃねぇ!イワーク、こうなりゃ短期決戦だ!!できるだけ早くゴースを倒すぞ!!」

イワーク 「 (。`・ ω ・) ” 」

オカルトマニア 「無駄よゴース舌で舐める」

アーシェ 「イワーク、岩落とし!」


私の指示を受けたイワークが、真っ赤な舌を出したゴースの真上から巨大な岩を叩きつけた。


イワークの攻撃を受け、怯んだのか?いや、岩落としにそんな効果は無いんだけど……ゴースは攻撃を中断し、オカルト少女の傍まで戻る。


アーシェ「ちっ……!今の岩落としで倒し切れなかったのは、やっぱりレベル差かな。まぁ、いいや、次の……ん?」

オカルトマニア 「うふふ……かかったわね」

アーシェ 「えっ……!?」

オカルトマニア 「舌で舐めるは囮だったのよ不発に終わっても問題無いの……あなたのイワークの岩落としを成功させるためねにこれでこちらも成功させられるわゴース金縛り」

アーシェ 「金縛り……しまった!!」


オカルトマニアの指示を受けたゴースの放つ負のオーラが、イワークの巨躯を委縮させる。

この金縛りの効果が解けるまで、イワークは岩落としを使うことができなくなった。


オカルトマニア 「そのイワークのレベルは低いみたいだしあと覚えている技なんてせいぜい体当たりや締め付ける程度でしょ……あらあらゴーストタイプのポケモンに対する友好だが無くなってしまったわね」

アーシェ 「くっ……………いや、そうでもないぜ。」

オカルトマニア 「え……?ふん……どうせハッタリでしょ私は騙されないんだからいきなさいゴース舌で舐める」

アーシェ 「(よしっ!あの技のダメージならまだ耐えられる!)イワーク、撃ち落とす!」

オカルトマニア 「!?もう1つの岩タイプの技!?」


接近してきたゴースの舌で舐めるを耐え抜き、返しで繰り出したイワークが放った大きな岩が、目の前に居たゴースを直撃した。

撃ち落とすの効果も加わったのか……岩落としと撃ち落とすのダメージを受け、戦闘不能になったゴースが橋の上にポテッと落ちた。


▼▽▼


オカルトマニア 「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いまさかゴースに通用する技をもう1つ隠し持っていたとはいくら戦術とはいえこのやるせない思いはどうしたものかしらまぁいいわこれでまた怨念ノートに書き込む内容が増えたんですもの」

アーシェ 「何だよ、その怪しいネーミングのノート……いや、まぁ……実際は、対格闘タイプ用なんだろうけど……何にせよ、お疲れ様、イワーク。よく頑張ってくれた!」


傍に居たイワークに労いの言葉をかけながら、頭を撫でてやる。


オカルトマニア 「さぁ選びなさい私にあなたの名前を教えるか髪の毛を差し出すか」

アーシェ 「何、その2択!?嫌だよ!!名前を教えたら永遠に恨まれそうし、髪の毛の使用方法なんてお前の場合、1つしかねぇだろうしな!!」


その藁人形の中に入れる気満々じゃねぇか!!悪いが、私に丑の刻参りの対象になってやる優しさは持ち合わせていない。


オカルトマニア 「残念まぁいいわその気になればいつだって手に入れられる物だし」

アーシェ 「お前……私に一体、何をする気だ!?」

オカルトマニア 「それは内緒……今知っては面白くないわ」


口角が僅かにつり上がっている……おそらくこれがこいつの笑顔なんだろうけど……何で笑顔を見て怖いと思わなければいけないのか?


同時に 『 笑顔とは本来、威圧がどうとか 』 って、言葉が一瞬だが脳裏を過った。


まぁ、とりあえず……物騒な事は実行に移さないで、そのまま墓場まで持って行ってくれたらいいなぁ。


***


オカルトマニアとのバトルで思いの外消耗してしまったイワークの体力を回復した後、橋を渡り切り、いよいよ3人目と御対面することになった。


牛乳瓶の底を繰り抜いたような眼鏡をかけ、背中には大きなリュックサックを背負い……手にしているモンスターボールを布でピッカピカに拭いている。


「ふふふ……お待ちしておりましたぞ。中々の手慣れのようですな。」

アーシェ 「そうでもねぇよ。まぁ、此処にはポケモン達のレベルアップを目的として来てるからな……それなりには勝たせてもらってるよ。」

「ふっふっふ……いいですね。では、御喋りもそこそこにバトルを始めましょうか。あぁ、そうそう……ボクとのバトルでは、ちょっと特別なルールでやることになるけど、大丈夫かい?」

アーシェ 「特別なルール?」


まぁ、言ってもダブルバトルやトリプルバトル、ローテーションバトルか?あぁ、でも今はもう全部ひっくるめてマルチバトルって言うんだっけ?


それでも、ダブルバトルくらいなら何とかなるだろう。トリプルは手持ちの数的に無理だけど……


「えぇ。ここではアンティルールでバトルしてもらいます。」

アーシェ 「アンティ……ルール?」

「はい。ポケモントレーナーは勝負の前に、互いに手持ちポケモンから1匹を選択します。そして!!勝負が終わった時、勝者は敗者から賭けの商品として選択されたポケモンを譲り受けると言う訳であります!!」

アーシェ 「おまっ!?それって、違法じゃねぇのか?人のポケモンが欲しいなら、双方同意のもとでポケモン交換という手段が——————……」

「その『 双方同意 』というものが、このアンティルールでも成立するのですよ。ボクに話しかけてくるような連中は皆、『 こんな奴に絶対負けるわけがない 』という自信を持って話しかけて来るからね。」


腹が立つニヤけた顔をそのままに、ポケモンコレクターは言葉を続ける。


ポケモンコレクター 「そんな油断している奴等に他のトレーナーから『 譲ってもらった 』強いポケモンを使って勝利する!!そして、ボクは楽して負けた相手の強いポケモンや珍しいポケモンを手に入れる事ができるのです!!これだからポケモンコレクターは止められませんねぇ!!」

アーシェ 「——……よ」

ポケモンコレクター 「はい?」

アーシェ 「楽しいかよ?人とポケモンの絆を無理やり引き裂いてまで、コレクトしていく行為が!楽しいのかって訊いてるんだ!!」

ポケモンコレクター 「えぇ。勝つのはボクですから。わざわざ自分の足で森や洞窟を彷徨わなくても、この方法なら簡単にポケモンを集められますからね!」

アーシェ 「ふざけやがって……いいぜ。そのルールに乗ってやるよ!!私はアンティのルールとして、アチャモを指定する!」

ポケモンコレクター 「あぁ、あのアチャモですか。海パンヤロウさんとのバトルを、この対岸から見ていましたよ。なるほど、あのアチャモなら充分価値がありますね。何より、丁度まだ持っていないポケモンなので嬉しいですよ。是非ともボクのコレクションに……」

アーシェ 「気の早いことで……御託はいいから、お前もアンティに出すポケモンを教えろよ。」

ポケモンコレクター 「せっかちな方ですね……まぁ良いでしょう。もしもボクが負けた場合、その時はポリゴンを差し上げますよ。」

アーシェ 「ポリゴン……」


確か、人工的に作られたポケモンだっけ?そもそも、そのポリゴンは本当にお前が『 自力 』でゲットしたポケモンなのか?


それに、人工的に作られたポケモンには感情が無いとでも思っているのだろうか?もし、そうだとしたら……後で1発、ブン殴ってやる。


アーシェ 「あぁ、うん……いいぜ、その条件で。」


とりあえず、今はこのバトルに集中しないと……

普段の勝負で負けたなら、『 良い勉強をさせてもらった 』と、自分の技量の未熟さを知って次に活かしたりできるが、今回は違う。

今から始まる勝負に負けてしまったら悔しいだけじゃなく、大切な仲間まで失ってしまう事になる。


自分から承諾したとはいえ、負ける事は許されない!!


ポケモンコレクター 「それでは———……いきますよ!!」


そう言いながらコレクターが投げたボールが開き、サイホーンが姿を現した。



【 ハブネーク 】

キバへびポケモン / 高さ : 2.7m / 重さ : 52.5kg / 毒タイプ

先祖代々ザングースと戦ってきた。身体の傷は、激しい戦いの印。

刀のような尻尾は、敵を斬り裂くのと同時に、染み出した猛毒を浴びせる。

尻尾の刃を岩で研ぎ、戦いに備える。



アーシェ 「ハブネークか……ここでアチャモを出さなくても……うん。頼んだぞ、イワーク!」


私の投げたボールが開き、体力を回復したイワークが姿を現す。


ポケモンコレクター 「イワーク……そういえば先程、オカルトマニアさんとのバトルで苦戦を強いられていましたね。」

アーシェ 「余計な事は言わなくていいんだよ。それじゃあ、いくぜ……イワーク、岩落とし!」


私の指示を受けたイワークが、岩落としの体勢に入る。


ポケモンコレクター 「させませんよ!ハブネーク、蛇睨みです!」

アーシェ 「……ッ!補助技で攻めてきやがったか。」


ハブネークの獲物を狙う鋭い眼光が、イワークをしっかりと捕らえた。

同時に筋肉(?)が委縮したのか、純粋に怯んだか……イワークは麻痺状態に陥ってしまう。


アーシェ 「呪われたり、金縛りに遭ったり、舌で舐められたり、麻痺状態になったり……今日は散々だな、イワーク。」

イワーク 「 ( ´ ・ ω ・) 」

ポケモンコレクター 「ふむ……しかし、麻痺状態にはしましたが、ハブネークのメインウェポンである毒技があまり通用しないのも事実……なので、ここはサブウェポンで攻めましょう。ハブネーク、地獄突き!」


物騒な技名が聞こえたと同時に、ハブネークがイワークへと接近し、尻尾の刃の先端を上手く使ってイワークの喉元を突いてきた。


イワークの身体と、ハブネークの尻尾の刃がぶつかり合った時、ガキンッ!という鈍く乾いた金属音が周囲に響き渡る。


アーシェ 「大丈夫か!?イワーク!」

イワーク 「 (。`・ ω ・) ” 」


とりあえず、頷いてくれてはいるけれど、今の攻撃でしばらく声は出せないようだ。

それでも、意思疎通ができているなら問題無い。


「反撃開始だ!イワーク、体当たり!」


指示を聞いたイワークが、痺れに耐えながら可能な限り素早くハブネークに接近し、頭突き……突進?威力はともかく、見た目的に強烈な1撃を叩き込んだ。


ポケモンコレクター 「くっ!痺れて動けないことを期待したのですが、そう上手くいきませんね……まぁ、いいでしょう。ハブネーク!もう1度、地獄突きでコマタナを倒してしまいなさい!」

アーシェ 「させるか!イワーク、岩落とし!」


身体の痺れに耐えながら勢いよく鎌首を持ち上げるイワークに、ハブネークが正面から迫ってくる。

そして、ハブネークが尻尾の先端の刃を繰り出し、再びイワークの身体を強打した。


アーシェ 「イワークの防御力を嘗めるなよ!反撃だ、イワーク!」


ハブネークの地獄突きを2回耐え抜いたイワークが、そのまま痺れて動けなくなることも無く、ハブネークの上に大きな岩を降らせた。

岩はハブネークの長い体の3ヶ所に当たり、体当たりのダメージも合わさって、そのままハブネークを戦闘不能まで追い込んだ。


ポケモンコレクター 「ぬおっ!?くっ……あと1歩、追い込めませんでしたか。」

アーシェ 「よく頑張ってくれたな、イワーク。ふふっ……てめぇのポケモンはあと1匹か?これで私の勝利が近づいたな。」

ポケモンコレクター 「いいえ……いいえ、まだです!まだボクの切り札が残っていますからね!本当の勝利の高笑いをするのであれば、この子を倒してからにしてください!」


そう言ってコレクターが投げた2個目のボールが開き、ポリゴンZ が姿を現した。



【 ポリゴンZ 】

バーチャルポケモン / 高さ : 0.9m / 重さ : 34.0kg / ノーマルタイプ

追加したプログラムがまずかった。

異次元空間を自由に移動出来るようにプログラムを修正したが、ミスしたらしい。

より優れたポケモンにするため、プログラムを追加したが、なぜかおかしな行動 ・ 不安定な挙動が目立つようになった。

プログラムをアップデートした技術者の腕のせいらしい。

実験失敗なのかもしれない。



アーシェ 「ポリゴン……Zだと!?」


バトル開始前、あいつはアンティルールにポリゴンを出すとは言っていた。


そう『 ポリゴン 』を出すのだ……それが初期状態なのか、2なのか、Zなのかは言っていなかった……


こいつがそのアンティの対象かは知らないけど……くそっ!!言葉巧みに騙された気がしてならねぇ。


ポケモンコレクター 「ふっふっふ……麻痺状態な上に、既にダメージを受けているコマタナの相手など造作もないこと……いきますよ。ポリゴンZ、サイコキネシス!」

アーシェ 「くっ……ダメ元でも、諦めねぇぞ!コマタナ、体当たり!」


ポケモンコレクターの指示を受けたポリゴンZに向かって、イワークが正面から突っ込んだ……が、強力な念力により一時的に動きを止められ、宙に浮かされたかと思うと、そのまま勢いを付けて地面に叩きつけられた。


アーシェ 「イワーク!」


これまでの蓄積ダメージも有り、サイコキネシスを受けたイワークは戦闘不能になっていた。


アーシェ 「お疲れ様、イワーク。よく頑張ってくれたな。後は任せて、ゆっくり休んでいてくれ。さてと……」


私は2個目のモンスターボールに視線を落とし、前方へ向き直ると同時にボールを投げた。


ボールが開き、私の最初のパートナーであるアチャモが姿を現す。


ポケモンコレクター 「うおぉぉぉぉ!!ついに出ましたね、色違いアチャモ!ふっふっふ……もうすぐ、もうすぐその子がボクのポケモンになるのです!!」

アーシェ 「させるか!私は信じるアチャモと共に、そのポリゴンZ を倒して勝利して見せる!アチャモ……私はこれからもお前とイワークと一緒に過ごしたい。その願いを維持するために……私に力を貸してくれ!」

アチャモ 「 (。`・ ω ・) ” 」

ポケモンコレクター 「それが貴方とアチャモが交わした最後の言葉となるのです!ポリゴンZ、テクスチャー!」

アーシェ ・ アチャモ 「「!?」」


ポケモンコレクターの指示に従い、ポリゴンZの体が……変化したのか?

見た目では変わった所が解らないけど……とにかく、攻撃技じゃなかったのはこっちにとっては有り難いこと。


アーシェ 「この機を逃すな!アチャモ、火の粉!」


状態変化を遂げ、無防備になっていたポリゴンZに、アチャモが放った火の粉が襲い掛かる。


ノーマルタイプのポリゴンZ には等倍……あと1撃叩きこまなければと思っていた私の目の前で、ちょっと想像していないことが起こった。


ポリゴンZ がどう表現したら良いのか解らない機械音のような奇声を上げて、地面の上を転がりだしたのだ。


ポリゴンZ 『〇∀◆✝@くぁwせdrftgyふじこlp!!』

ポケモンコレクター 「あぁっ!?ポリゴンZ!!」

アチャモ 「?……?? (゚ Д ゚ ;) 」

アーシェ 「あの様子……明らかに効果抜群の技を受けたって感じだよな……考えろ……考えろ、私…………」


確か、テクスチャーって技は2つあって、さっきコレクターが使った基本的な 『 テクスチャー 』 は、そのポケモンが覚えている技の1番上にある技のタイプと同じタイプになるもの。


もう1つの 『 テクスチャー2 』 は、相手が最後に使った技に抵抗できるよう、自分のタイプを変化させる技。


先程の指示がテクスチャー2だった場合、最後に使った技……イワークの体当たりがノーマルタイプの技なので、それに強くなる岩タイプか、鋼タイプに……無効化できるゴーストタイプにでもなっていたのだろうが


彼がさっき指示したのは普通のテクスチャー。


つまり、まだ見ていないポリゴンZ の2つの技のうち、変化対象となった技が……炎タイプが効果抜群……


アーシェ 「ポリゴンZ が覚える技で炎タイプが効果抜群…………ちょっと、技範囲が広くて絞れねぇけど、何にせよ好機ってことに変わりはない!アチャモ、このまま攻めていくぞ!」

アチャモ 「(。`・ ω ・) ” 」

ポケモンコレクター 「あぁぁぁぁ……迂闊だった!こんなことなら冷凍ビームの代わりに、シャドーボールでも覚えさせておくべきだったか!?くっ……仕方ない。タイプは変わってしまったから、特性の適応力も発揮されないが……これがポリゴンZ の最高打点!ポリゴンZ、破壊光線!!」


なるほど、冷凍ビーム……それで氷タイプになっちまったのか。

けど、今はそんなことよりも


アーシェ 「とんでもねぇ技が来るぞ!アチャモ、お前の判断に任せる……避けろ!!」


ポリゴンZが禍々しい光線を一直線に発射し始めたタイミングを見計らい、アチャモは地面を蹴って右側へ跳び、破壊光線を回避した。


ポケモンコレクター 「くぅっ!すばしっこい!」

アーシェ 「好機到来!アチャモ、反動で動けなくなったポリゴンZに、火の粉!」

アチャモ 「(。`・ ω ・) ” 」


私の指示を受け、アチャモは反動で動けずに居たポリゴンZ に向かって火の粉を吹きかけ、そのまま戦闘不能へと追い込んだ。


▼▽▼


ポケモンコレクター 「ぐぬぬぬぬ……己の采配ミスとはいえ、確実だった勝利をみすみす逃してしまうとは……」

アーシェ 「よく頑張ったな!アチャモ、イワーク!この勝利はお前達が頑張ってくれたおかげだ。ありがとう!」

アチャモ ・ イワーク 「「( ≧ ▽ ≦ ) 」」


私は戦闘を終えたアチャモと、戦闘不能から薬で気力を取り戻したコマタナを めいいっぱい労う。


ポケモンコレクター 「…………貴方は本当に、その子達を大切にしているのですね。」

アーシェ 「ん?あぁ。この子達は私の大切なパートナーで、友達だ。仲良くするのは当たり前のことだろ?」

ポケモンコレクター 「友達……ですか。」

アーシェ 「別に私は、ポケモンをコレクトすること自体は良いんじゃないかとは思う。てめぇの今のやり方が気に入らねぇってだけでな。……とりあえずさ、ちょっと時間を掛けて、自分のポケモンと真面目に向き合ってみな?」

ポケモンコレクター 「そう……ですね。えぇ、貴方の言う通り、そうしてみましょう。」

アーシェ 「それじゃ、私はこれで。」

ポケモンコレクター 「あっ……!待ってください!」

アーシェ 「何だ?私はアンティなんてするつもりは最初から無かったからな。てめぇのポリゴンZ を貰うつもりはないぞ?」

ポケモンコレクター 「えぇ。重々承知しています。ただ……ここに、ボクが此処に居座る前に入手した技マシンがあります。戦利品として、こちらを貴方に差し上げましょう。」

アーシェ 「え?いや、そういうつもりも無かったんだけど……いいのか?」

ポケモンコレクター 「はい。ボクはポケモンを集めるのが好きであって、技マシンやアイテムにはそこまで……それに、その技マシンに入っている技は、控えのポケモン達も含めて覚える子には覚えさせましたので。ボクの中では、この技マシンはもう充分に役目を果たしてくれたのです。」

アーシェ 「そっか。そういうことなら、ありがたく頂戴するよ。今度は私がコイツを有効活用させてもらうぜ。」


アーシェは 『 穴を掘る 』 の技マシンを 手に入れた ▼


ポケモンコレクター 「貴方の言う通り、ボクは今の自分のポケモン達との親睦を深め、このアンティを廃業して、また自分の足でポケモン集めをしようと思いま……いえ、します。しばらくは此処を不在にするかもしれませんが。」

アーシェ 「うん。そうした方が良いよ。ふふ……いつか、私もこの子達も強くなって、てめぇも強くなってこの橋に戻って来た時……その時にまた、バトルしようぜ。」

ポケモンコレクター 「ふっふっふ……えぇ、いいですとも。次はボク達が勝たせていただきますからね。」

アーシェ 「そいつはどうかな?今度やっても私が勝ってみせるぜ。」


コレクターと握手を交わし、何とか3人抜きを達成した私は、満足感に浸りながら教会のある森へと踵を返した。


うん。今回の件で2匹とも強くなった……はず。技マシンも貰ったし、戻ったら早速試してみようかな。



No.04 † 孤児とお嬢様 †

アーシェ 「えっと……肉とじゃがいも、人参に玉葱……夕飯はカレーかシチューか?」


この日、私はセローナに夕飯の買い出しに来ていた。


教会の近くの町は廃墟なので、必要な物を買い物するときは、わざわざ森を抜けて変人橋を通り、1番近場の町であるこのセローナまで来る必要があるのだ。


アーシェ 「……え?は?コンニャク!?カレーかシチューに入れるのか?はぁぁ……こんなところで、私と神父様との食文化の違いが………」


いや……あれか?ジパングフードの 『 肉じゃが 』 とかいうやつか?でもあれって確か、肉とジャガイモを油にブチ込んで、素揚げにして食う料理じゃなかったっけ?


アーシェ 「まぁいいや……人が食えない物はできねぇだろ。失敗しても、この材料なら何とか修正できるだろうし……」


若干の不安はあったものの、全ての買い物を終えて帰ろうとした時である。


自分の後方にある広場の方で何かがぶつかった鈍い音と、2人の女の悲鳴が聞こえてきた。


アーシェ 「ん……何だ?」


声がする方を振り向くと、1人の高飛車そうな女と、10歳にも満たないような小さな女の子が尻もちを付いている。


女性 「いたた……もう、何なんですの?」

女の子 「あぅ……あの……ごめんなさい……。」

女性 「え?あ……あぁぁぁぁ!!どうしてくださいますの!?せっかくのドレスに安物のアイスクリームが付いてしまいましたわ!!」


見れば、女性が来ているエグいピンク色のドレスのスカートの部分に、アイスクリーム……よりにもよってチョコレート味っぽいのが付着している。


女の子 「ご……ごめんなさいぃぃぃ……。」


女性のキツい言葉に耐えきれなくなった女の子の目から、大粒の涙が零れ落ちる。


女性 「ごめんなさいで済めば、おまわりさんは要らないのですわ!!まったく……これだから、物の価値も解らない子どもは!!泣けば許してもらえると思ってるんですから、困ったものですわ。」


すすり泣きしている少女相手に、怒りの感情に任せて喚き散らす年上の女性……はぁ、仕方ねぇなぁ。


アーシェ 「ギャーギャー喚くなよ。耳が痛い。」

女性 「なっ……!?」


自分でも何でこんな真似をしたのか、わからない……けど、自分で気が付いた時には既に、私は女性を押しのけ、未だに地面に座り込んだままの女の子の前に、しゃがみ込んでいた。


アーシェ 「よぅ。さっきのアイスは残念だったな。まったく、仕方ねぇ……お姉ちゃんがお金をやるから、次は3段でも、最高5段のヤツでも、好きなアイスを買うと良い。」

女の子 「え……いいの?」

アーシェ 「おう!!その代わり、今度はちゃんと前を見て歩く事。こんなアホみてぇな事は、もう繰り返しちゃいけない。お姉ちゃんと約束できるか?」

女の子 「うん!!約束する!!」

アーシェ 「ふふ……良い子だ。ほら……じゃあ、後のことは姉ちゃんに任せて、アイスを買って来い。」ニコッ

女の子 「ありがとう!!お姉ちゃん!!」ニコッ


私からお金を受け取った女の子はすっかり笑顔になり、来た道を引き返して行った。


女性 「お……御待ちなさい!!」

アーシェ 「んあ?何だ、お前……まだ居たのか。」

女性 「何を勝手な事をされてますの!?私わたくしの話はまだ終わってませんのよ!?」

アーシェ 「本当にうるせぇな……お前の話ってのは、感情に任せてヒステリーに騒ぐ事か?」

女性 「なっ……!?」

アーシェ 「さっきの女の子はちゃんと謝ってたぞ。それをいつまでもギャーギャー喚いて許してやれねぇなんて、心が狭……訂正。心が醜いな。」

女性 「それは……くっ!!では、私のドレスはどうなるというのですか!?今も変わらず汚れたままですのよ!?」

アーシェ 「あぁ?知るか。町中にそんな珍妙な格好で出歩くからだ。汚されたくねぇってんなら、チャリオットにでも乗って移動するか、家の中で大人しくしてろ。」

女性 「珍妙ですってぇぇぇ……!?あなた!!私が誰だか知らないんですの!?大都市 ・ 『 エルセア 』の領主の娘 『 アリア ・ ウィンベル 』 とは、私の事ですのよ!!貴女は……どのような身分の者なのかしら?」

アーシェ 「貴族……なるほど、絵にかいたような典型的なアホだとは思ってたけど、道理で……それにしても、まったく!小さな子を助けるのに、ムカつく馬鹿に逆らうのに……身分が必要なのか?だったら教えてやるよ。私はアーシェ ・ バーンハルウェン。両親を亡くした孤児だ。今はちょっと訳あって教会で保護されてる。」

アリア 「孤児……孤児ですって!?無礼な!!身の程を弁えない下賤の輩が……小さな子を助けて正義の味方気取りですの?忌々しい!!」

アーシェ 「正義の味方?そんな物に興味無ぇよ。私はただ……あの女の子を放っておけなかっただけだ。」

アリア 「本当に腹の立つ女ですわね……!!」

アーシェ 「はんっ!それはお互い様だ。」

アリア 「良いでしょう!!このアリア様が直々に、下賤の輩を躾けて差し上げますわ!丁度お父様からポケモンを借りてきていることですし。」

アーシェ 「何だ?私より恵まれた環境に居るのに、自分のポケモンを持ってねぇのかよ?ふふっ……」

アリア 「うっ……うるさいですわよ!」/////


アリアの投げたモンスターボールが開き、ゴローニャが姿を現す。



【 ゴローニャ 】

メガトンポケモン / 高さ : 1.4m / 重さ : 300.0kg / 岩 ・ 地面タイプ

岩盤のような硬い殻で覆われている。1年に1回脱皮して大きくなる。

脱皮したてのときは、全体が白っぽく柔らかいが、すぐに空気に触れて硬くなる。

ダイナマイトで爆破 しても傷1つ付かない硬い身体だが、湿気や雨は大嫌い。

脱ぎ捨てた殻はすぐに固まってボロボロに砕け散る。殻は土に還り、土壌を豊かにするので、農家が集めている。

年老いると脱皮 しなくなる。長く長く生きたゴローニャの殻は、苔むしていて緑色。

自分で身体を爆発させる。そのパワーで、急な山道もすごいスピードで登っていく。

大きな地震が起こると、山に住んでいるゴローニャが、何匹も麓までゴロゴロ転がり落ちてくることがある。



アーシェ 「ゴローニャか……ここは、お前に任せるぜ!!イワーク!!」


私が投げたボールが開き、イワークが姿を見せた。

同タイプのバトルになるけど……アチャモと対峙させるくらいなら、これでいくか。


アリア 「岩タイプのポケモンで地面タイプのゴローニャに対峙だなんて……これだから無知って怖いですわね。本気を出すまででもありませんわ……さぁ、行きなさいゴローニャ!!体当たり!!」

アーシェ 「はぁっ!?ちっ……!イワーク、穴を掘る!」


アリアの指示を受け、ゴローニャが防御を捨てて捨て身で突っ込んで来る前で、イワークが地面に穴を掘って潜り、ゴローニャの攻撃を回避した。


アリア 「くぅっ!攻撃を回避されてしまいましたか。」

アーシェ 「何だ?頑丈の効果を潰したかったのか?岩タイプのポケモン相手にノーマルタイプの技とは……タイプ相性を御存知でない?しかも、そのゴローニャがアローラの姿とやらで、特性がエレキスキンってヤツだったとしても、効果は全く無いんだけどな……ふふっ、これだから無知って怖いな。」ニヤッ

アリア 「くっ……うぅぅぅ~!!もう、容赦しませんわ!!ゴローニャ!!地震!!」

アーシェ 「ちっ……!有効打があったか……」


アリアの指示を受けたゴローニャがその場でジャンプし、着地すると同時に周囲を大きく揺らがす衝撃波を発生させる。

地中に居るイワークも大ダメージを受けているハズ。


アリア 「おーほっほっほ!地面の中に居るイワークに地震を回避する術はありませんわ!これで戦闘不能ですわね!」

アーシェ 「いいや。まだ……まだだ!」


ゴローニャの地震は終わったのに、再び地面が大きく揺れ……ゴローニャの足元からイワークが出現し、ダメージを与えた。


アリア 「なっ!?まだ倒れてませんでしたの!?」

アーシェ 「特性頑丈の効果だよ。今、私のイワークはHP 1 だけ残っている状態で頑張ってくれてるんだ。」

アリア 「HP 1 !?ならば、ゴローニャ!イワークに体当たりですわ!」


空中に打ち上げられたゴローニャは身体を丸め、そのままイワークの眉間にぶつかった。


ゴローニャの体当たりを受けたイワークが大きく仰け反って倒れ、戦闘不能になった。


アーシェ 「イワーク!!よく頑張ってくれたな。ゆっくり休んでいてくれ。」

イワーク 「 (; - ∀ -)” 」


私はイワークをボールに戻し、2個目のボールを投げてアチャモを呼び出した。


アーシェ 「アチャモ!相手はお前にとって不利な相手だけど、イワークの頑張りを無駄にはできねぇ!頑張って勝つぞ!」

アチャモ 「(。`・ ω ・) ” 」

アリア 「色違いのアチャモですって!?くぅぅ……どうして貴族の私ではなく、孤児である貴女がそんなレアなポケモンを……!?気に入りませんわ。心底、気に入りませんわ!ゴローニャ、体当たり!」

アーシェ 「アチャモ、火の粉!」


アリアの指示を受け、正面から突っ込んでくるゴローニャに、アチャモが火の粉を吹きかけて応戦する。

しかし、まぁ……パワーでゴリ押されてしまい、アチャモも本能的に攻撃を中断し、ギリギリのところでゴローニャの突進を回避した。


アーシェ 「くっ……!やっぱり、岩タイプのポケモン相手に炎タイプの技でゴリ押しは厳しいか……でも、『 つつく 』 や 『 ひっかく 』 よりは、ダメージを与えられているはず……」

アリア 「ゴローニャ!次の攻撃で倒してしまいますわよ!岩落とし!」

アーシェ 「アチャモ、もう1度火の粉!」


私の指示を受けたアチャモが、小さな岩を投げつけようとしていたゴローニャの顔に火の粉を吹きかけた。


投擲しようとしていた小さな岩は、ゴローニャの足元に落ち……ゴローニャ自身も、度重なるダメージについに片膝をついた。


アリア 「なっ……!?ゴローニャ!!何をしているの!?あなた、岩タイプでしょ!?しっかりなさい!!」

アーシェ 「まったくダメージが無いわけじゃないんだ……地味でも、与えるダメージが微々たるものでも……頑張っていれば、きっと勝つ事だってできるはず。」

アリア 「好い気になるのは、まだ早くってよ!!さぁ……ゴローニャ!!もう1度、岩落としですわ!!」


ゴローニャがもう一度岩を放とうとした瞬間、苦しそうな表情を浮かべて再び膝を折り、その場に蹲ってしまった。


アリア 「ゴローニャ!!どうしたんですの!?」

アーシェ 「もしかして………ちょっと失礼。」


バトルの途中ではあるが、私は相手のゴローニャに相手の駆け寄りその体を触ってみた。


アリア 「こっ……こらっ!無礼者!下賤の身の分際で、私のポケモンに触れるんじゃ……」

アーシェ 「熱っ!!あぁ~……こりゃ、今のバトルで火傷を負っちまったな。体が焼け石になっちまってる。」

アリア 「え?火傷ですって!?」

アーシェ 「まぁ、無理もないだろうよ。相性は悪くても、少しずつ炎タイプの技を受けてたんだ。遅かれ早かれ、こうなってただろうさ。」


正直、これくらいのハンデはあっても良いとは思うんだけどな……できればフェアなバトルがしたい。


アーシェ 「おい、お嬢様。お前、火傷直しとか持ってねぇか?有るならゴローニャに—————……」

アリア 「薬?そんな物必要ありませんわ。」

アーシェ 「は?」

アリア 「ゴローニャ、大爆発!!」

アーシェ 「なっ……おまっ……!? くっ……アチャモ、守る!お前だけでも何とか助かれ!」



『 守る 』

教会で見つけた技マシンに入っていた技。ヴァン神父の許可をもらって、加速を安全かつ確実に1段階積ませるために、アチャモに覚えさせておいたけど、まさかこんな形で役に立つとは……

覚えさせておいてよかった。


アチャモ 「 !?∑(゚ Д ゚ ;) 」


私が触れていたゴローニャの全身が白く輝いた……かと思った次の瞬間、周囲のあらゆる物を吹き飛ばす大爆発がセローナの町で巻き起こった。


ここで私も爆発に巻き込まれてアフロにでもなれば笑いの1つでもとれたんだろうけど、そんなこともなく……


特性の加速で素早さが上昇していたアチャモが私の腕の内に跳び込み、そこで守るを発動した。


おかげで、町の広場には多大なる被害が出てしまったが、私とアチャモは無傷。そして……この大爆発を起こした張本人であるゴローニャは、当然私達の目の前で戦闘不能になっていた。


アリア 「あら?無事でしたの?あの爆発であなた事吹き飛んでくだされば、良かったものを…………」

アーシェ 「お前……勝つためには手段を択ばねぇのかもしれねぇけど……大爆発って……」

アリア 「えぇ。それにしても残念ですわあ。一応、この無能なゴローニャはポケモンセンターに連れて行きますけどね。」

アーシェ 「無能って……!?それがお前のために頑張ってバトルをしてくれたポケモンに対して掛けてやる言葉か!?」

アリア 「それでも相手を倒し切れなくては、意味がありませんわ。うふふ……私は貴族!!お金持ちなのですわよ!!家に帰れば、変えのポケモンなどいくらでも居ますし、欲しいポケモンが居れば、お父様にお願いしてゲットして来てもらいますわ!どうです?羨ましいでしょう!?お金とポケモンには困らない貴族の生活!!変えのポケモンは山のように居るのです!!おーほっほっほ!!」


アリアが馬鹿みたいな大笑いをしたと同時に、私の元気な右手は彼女の頬を盛大に叩いていた。


『パァァァンッ!!』という乾いた気持ちの良い音が、その場に轟く……


アリア 「え……?えぇ……??」


自分が何をされたのか解らない……そんな表情を浮かべながらアリアは尻もちをつき、叩かれた頬を押さえている。


アーシェ 「はぁ……私も自分は馬鹿だと思っていたけど……まさか私を上回る奴が居るとはな……私はお前が自慢したようなそんな生活、羨ましいとも何とも思わない。」


私はアチャモをボールに戻し、買っていた食材の安否を確認する……うん。食材に被害は無いみたいで助かった。


アリア 「ちょっと、待ちなさい!!あなた、私に何をしたのか解っていますの!?このアリア様を打って……ただで済むと……」

アーシェ 「黙れ。」

アリア 「ひぃっ……!!」


自分でもゾクっとするほど冷やかな声を出して、いまだに地面にお尻を付けているアリアを軽蔑の眼差しで見下す。


アーシェ 「3つ数えるうちに私の目の前から消えろ。私は……お前みたいに、権力を盾に威張り散らしている馬鹿が大っ嫌いなんだよ。」

アリア 「うっ……うぅぅ……この私に、この仕打ち……そして数々の暴言!!覚えていなさい!!次に何処かで対面した時、必ず貴方を泣かせて差し上げますわ!!」


アリアは半べそを掻きながら、その場から走り……いや、早足で去って行った。


そういや、この町の復興費用はあいつの屋敷にでも請求すりゃ良いのだろうか?素直に金を出すとは思えないが……とりあえず、あいつ自身で姓と名を名乗っていたから、特定するのは簡単だろう。


けどまぁ、そんなことよりも……


アーシェ 「何で私があいつの事を覚えてなきゃならねぇんだ……ったく。5秒で忘れてやる。」


荷物を纏め、私は教会への帰路に立つ。

私が帰らないと、食糧難と空腹に襲われたヴァン神父が餓死するだろうからな……



No.05 † 旅立ちの時 †

教会1階 ・ 礼拝堂

私は借りていた部屋で荷物を纏めた後、礼拝堂に居たヴァン神父に話しかけた。


ヴァン 「おや、アーシェさん。荷物を纏めて……また、何処かへお出かけですか?」

アーシェ 「それなんだけど……神父様、話がある。」

ヴァン 「お話しですか?どうしました?そんなに改まって。」

アーシェ 「いや……その……急な思い付きなんだけど……此処を出て、旅をしようと思うんだ。」

ヴァン 「ほぅ、旅にですか。……理由を、聞かせてもらってもよろしいですか?」

アーシェ 「散々世話になっておきながら、勝手なことだって解ってるし、此処での生活が嫌になった訳じゃねぇんだ。ただ……今の私は世間知らずっつうのかな?自分よりポケモンバトルが強い相手の存在を知らないし、世界で何が起こっているのかも知らない。だから、己の見聞を広めるためとか言ったら……笑うか?」

ヴァン 「いいえ!とても素晴らしい事だと思いますよ。ですが……アーシェさんも薄々気付いているかもしれまんが、世界は危険でいっぱいです。」

アーシェ 「うん。それは何となく解る。平和な世界だけじゃねぇっとことはな。少なくとも、今のフィリアは治安が悪い。」

ヴァン 「ですので……貴方に、これを……」


そう言いながらヴァン神父は、タンスの中から小箱を出し、私に手渡す。

蓋を開けて中身を見ると、十字の形をした髪飾りが入っていた。こういうアイテムを、クロスっていうんだろうな。


ヴァン 「気休め程度ですが……あなたの旅に神の加護がありますように。」

アーシェ 「ヴァン神父……悪いな、あんたにはいつも貰ってばっかりだ。私の我が儘も聞いてくれて……ありがとう、大切にする。」


私は小箱を握りしめ、深々と頭を下げる。


アーシェ 「ヴァン神父……短い間だったけど、ありがとうございました!」

ヴァン 「はい、よく言えました。近くに来た時はまた、その元気な顔を見せてくださいね。」

アーシェ 「また……来ても良いのか?」

ヴァン 「もちろんです!旅路に疲れ、悩んだ時……限界を感じた時、いつでも戻って来てください。来る者は拒まず、去る者は追わずです。」

アーシェ 「そっか……わかった。それじゃあ、行ってきます。」


私はそう言いながら、教会の扉を押し開けた。


ヴァン 「ふふ……『 さよなら 』 ではなく 『 行ってきます 』 ですか。本当に……根は良い子なんですよね。そう……だからこそ…………」


アーシェが去った教会に、黒ずくめの男性が2人、窓を突き破って入ってきた。


ヴァン 「…………珍しいお客ですね。此処にはあなた方が望むような物は何もありませんよ?」

??? 「聖職者なのに嘘はよくないですね……あるはずですよ?伝説のポケモンに関する聖典が……」

ヴァン 「仮にあったとしても、あなた方のような無法者に渡すわけにはいきません。あれはとても大切なものなのです。」

??? 「ごちゃごちゃうるせぇな!何なら、此処をボロボロにしながら探したって良いんだぜ?」

ヴァン 「そんなことはさせません。此処はあの子が戻ってくる大切な場所……聖典共々、私の意地を通してでも守り抜いてみせましょう。」


* * * * *


教会を出発して、森と廃墟を抜け、変人橋が見える位置まで差し掛かったときである。


後方……教会のある森の方から爆発音が聞こえてきた。


アーシェ 「何だ?今の音……クヌギダマでも自爆したのか?いや、それにしては音がデカかったような……」


そんな独り言を呟きながら爆発音が聞こえた後方を見ると……遠方で黒い煙が昇っているのが見えた。


アーシェ 「あの場所は…………そんな、まさか!?」


何だ……?嫌な胸騒ぎがする……


私はまだ付けていない髪飾りの入った小箱を握りしめ、今来た道を急いで引き返した。


◆◆◆


~ 数分後 ~


立ち昇る煙を頼りに教会まで戻ってきた私は我が目を疑った。


つい先程まで何ともなかった教会が……炎に包まれている…………


アーシェ 「何でこんなことに……!?そうだ、神父様!!」


焼け焦げて脆くなった扉を蹴り飛ばし、同時に私の目に跳び込んで来た光景は……焼け崩れる礼拝堂。

そして、教壇に凭れ掛るように座っている神父様と、2人の不審者の姿だった。


アーシェ 「てっ……てめぇ等ぁぁぁ!!神父様に何をしたぁぁぁ!?」

賊1 「おい……戻って来たぞ。どうする?」

賊2 「適当に相手してさしあげなさい。聖典は手に入りました……私は先に戻って、報告しておきますので。」

賊1 「わかった。」


不審者のうち、2階に居た1人が既にボロボロに崩壊していたステンドグラスを割り、外に飛び出して行った。


アーシェ 「待てっ!!」

賊1 「おっと……あいつを追わせる訳にはいかんなぁ。」


外に逃げて行った奴を追おうとしたとき、残りの1人が私の前に立ちはだかる。


アーシェ 「くっ……そこを退け!!」


私は不審者を睨みながら、ボールを構えてアチャモを呼び出す。


アーシェ 「アチャモ、あいつに当てずに……あくまで牽制するために、火の粉!!」

賊1 「なっ!?」


アチャモが放った火の粉が、不審者本人を襲う。

これだけ燃えてしまっているんだ。もう、私1人の力での消火は間に合わない……今更火の粉を使ったところで、何も変わらないだろう。


賊1 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

アーシェ 「神父様!!」


私は教壇に凭れ掛っている神父様に駆け寄った。

近づいて気付いた……ヴァン神父の黒い礼服の腹部の辺りが、おそらく血……なんだろう。赤と黒が混ざり合って、そこだけ変色してしまっている。


ヴァン 「うっ……ごふっ……アーシェ……さん?」

アーシェ 「神父様!!此処で何が遭ったんだ!?あいつ等は……?」

ヴァン 「心配せずとも……アーシェさんには…………これは……私の……」

賊1 「この……女ぁぁぁ!!」

アーシェ 「え……!?」


振り返ろうとした私の背中に、漆黒の球体がめり込む。


アーシェ 「がっ……!?ぐあぁぁぁ!!」


衝撃により前半身を壁に叩きつけられ、痛みで軋む体をなんとか動かしながら振り返ると……引火した服を脱ぎ捨てた不審者が、冷たく鋭い眼差しでこちらを睨んでいた。


その横にはヨマワルがフヨフヨと空中を漂っている。



【 ヨマワル 】

おむかえポケモン / 高さ : 0.8m / 重さ : 15.0kg / ゴーストタイプ

どんなに厚い壁も通り抜ける。闇に紛れて歩き回る夜行性。

狙われたら最後。朝日が昇るまで、ずっと追いかけられることになる。

真っ赤な1つ目に睨まれると、屈強な大人でも体が竦んで動けなくなる。

子どもの泣き声が大好きで、悪い子を驚かせて泣かせる。

言いつけを守らない子どもを見つけると、夜中にどこかへ連れて行くといわれており、『 ママにしかられるような悪い子は、ヨマワルにさらわれる 』 という 言い伝えが残っている。



ヨマワルが放った黒い球体……なるほど、今……私が受けたのは、シャドーボールか。


ポケモンバトルは、いつから相手にダイレクトアタックが可能になったんだ?


賊1 「さっきの火の粉はちょっと焦ったぜ……女だからと思って油断してたら……調子に乗りやがって!!」

アーシェ 「うぐっ……あぁぁぁぁ……はぁ……はぁ……」


言葉を口から出したい……自分の思いを伝えたいのに……攻撃を受けた衝撃で、未だに呼吸が整わない。


賊1 「俺を恨むなよ……大人の世界に首を突っ込んだ自分が悪いんだ。」


不審者が指を 『 パチンッ! 』 と鳴らしたと同時に、ヨマワルが再びシャドーボールを放ってきた。


まだ呼吸が整わず、声が上手く出せない……狙いはアチャモか?くっ……守るの指示が出せない……


アーシェ 「ぐっ……くっ……!!」

ヴァン 「アーシェさん!!」


漆黒の塊が私を直撃する寸前、今にも死にかけていた神父様がよろめきながら、両腕を広げて私の前に立った。


直後……シャドーボールを受けた神父様の体が、私の後方の壁に叩きつけられる。


ヴァン 「…………っ!!」

アーシェ 「しっ……神父様!!」

賊1 「ちっ!死に損ないが……」

アーシェ 「てめぇ……よくも……!!」


私は深呼吸をして呼吸を整え、床や壁を頼りに何とか立ちあがり……燃え盛る教会の中、凍りつくような……相手を蔑むような瞳で不審者を睨む。


アーシェ 「何がどうしてこんなことになったのかは知らねぇけど……神父様に酷い真似をするような奴を許しておくわけにはいかねぇ!!」

賊1 「ふん……立つのがやっとなお前が吠えたところで、怖くも何ともないな……ハハハハハ!!」

アーシェ 「泣かす……てめぇだけは絶対に泣かせてやるっ!!」


私は傍に居たアチャモに優しい視線を向ける。


アーシェ 「アチャモ……今のトレーナーは私だけど、その前は……私と出会う前は神父様と一緒に此処で生活してたんだよな?」

アチャモ 「(。`・ ω ・) ” 」

アーシェ 「その思い出の場所が今、下衆に踏み躙られ、火を点けられて……おまけに神父様はボロボロだ。お前の中に、少しでも此処に思い出とかがあるのなら、頼むっ!!あいつをブッ飛ばすのに力を貸してくれ……私に!力を貸してくれ!!」

アチャモ 「(。`・ ω ・) ”…………!!」


私の呼びかけに頷き、力強く鳴いたアチャモの身体が、突然眩い光に包まれた。


賊1 「何だっ!?」

アーシェ 「ア……チャモ……?」


光に包まれながら……アチャモの体と鶏冠は一回り大きくなり、両手両足が発達していく。


四肢だけではない、爪も嘴も鋭くなっていく過程が目に見える。


そして——————……


光が掻き消えた瞬間、アチャモの姿は完全に変わっていた。



【 ワカシャモ 】

わかどりポケモン / 高さ : 0.9m / 重さ : 19.5kg / 炎 ・ 格闘タイプ

嘴から吐き出す灼熱の炎と、1秒間に10発繰り出せる破壊力抜群のキックで戦う。

戦いになると、体内の炎が激しく燃え上がる。鋭い鳴き声で相手を威嚇し、集中力を高める。

相手がギブアップするまで戦い続ける、強い闘争本能を持つポケモン。

野山を走り回って、足腰を鍛える。



アーシェ 「アチャモ、お前……おめでとう!!ワカシャモに進化したんだな!!」

ワカシャモ 「 (。`・ ω ・) ” 」

アーシェ 「よし……それじゃあ……」


私とワカシャモは、前方に居る不審者とヨマワルを睨みつける。


賊1 「進化したから何だっていうんだ!ヨマワル、もう1度シャドーボール!」

アーシェ 「ワカシャモ!進化して強くなった力を、あいつにお見舞いしてやれ!つつく!」


私の言葉に力強く頷いたワカシャモがヨマワルに素早く駆け寄り、嘴による渾身のつつくを繰り出した。


嘴をモロに受けたヨマワルが盛大に弾き飛ばされる。


賊1 「ヨマワル!ちっ……少し分が悪いか……仕方ない。戻れ、ヨマ——————……」

アーシェ 「逃がすかぁぁぁ!!これでトドメだ……ワカシャモ、火の粉!!」


不審者がボールを構えてヨマワルを戻すよりも先に、ワカシャモがヨマワルに火の粉を吹きかける。


全身を炎に包まれたヨマワルはしばらく苦しみながら宙を漂っていたが、やがて所々燃え落ちている床の上に力無く落ちて……そのまま戦闘不能になった。


賊1 「くっ!!不意の火の粉と、先程のつつくのダメージが響いたか……やむを得ん。ここは撤退——————……」

アーシェ 「てめぇ……これで済んだと思うなよっ!?」

賊1 「はっ!?」

アーシェ 「このっ……歯ぁ食い縛りやがれぇぇぇぇぇ!!」

賊1 「え……?ちょっ……まっ……!!」



ヨマワルをボールに戻して気が抜けていた不審者の顔面に、私の渾身の右ストレートが思いっきりめり込んだ。


賊1 「ぐっはあぁぁぁァァァァァァぁぁぁぁぁ!?」


殴られた不審者が錐揉みで舞いながら、窓ガラスを盛大に突き破って外まで吹っ飛んだ。


アーシェ 「はぁ……はぁ……うくっ……!!はぁ……はぁ……清々した……」

ヴァン 「がっ……ごふぁ!!」

アーシェ 「神父様!!」


後方からの声に気付き、私は壁に寄り掛かっている神父様に急いで駆け寄る。


アーシェ 「神父様!!しっかりしろ!!すぐに此処から出て、医者に向かおう!!いや、その前に応急手当の方が先か?でも、それも外に出てから……」

ヴァン 「あー……しぇ……さん……」


口や鼻、頭から血を流し、目を閉じた状態の神父様が私を呼ぶ。


アーシェ 「何だ!?私は此処に居るぞっ!」

ヴァン 「申し訳ありません……少しでも、あなたの帰る場所を……心の拠り所を守ろうと思ったのですが…………」

アーシェ 「いや、そんな……建物なんて、また造ればいいだろ!それも、あんたが生きてりゃ、何とでもなるさ!」

ヴァン 「そう……ですね……ごふっ!」

アーシェ 「神父様!?」

ヴァン 「はぁ……はぁ……アーシェさん……最期に……あなたに会えて良かった……」

アーシェ 「なっ……!?何だよ、それ!!そんな全てを諦めたような台詞なんか聞きたくねぇ!!とにかく、此処を出よう!!ワカシャモ!ヴァン神父を担いでいく。手を貸してくれ!」

ワカシャモ 「 ( `・ ∀ ・)ゞ 」


私はワカシャモと一緒に神父様を担ぎあげる。


アーシェ 「諦めねぇ……絶対に諦めねぇぞ!!絶対に神父様を助け出す!!」

ヴァン 「アーシェさん……」


▼▽▼


燃えながら崩れて来る瓦礫をワカシャモが蹴り壊し、騒ぎを嗅ぎつけて集まった大勢の人達によって既に始まっていた消火活動の手助けもあり、私達は無事に教会から脱出した。


アーシェ 「はぁ……はぁ……危機一髪……さてと、此処から1番近いのは……森を抜けないで良い分、西方の町が近いか?すぐに病院へ…………」


そんな事を考えながら……私は、あることに気付く。


肩を貸しているため、私のすぐ耳元にある神父様の口や鼻から……呼吸の音が聞こえてこない。


アーシェ 「神父様……?神父様!?」


こちらに……異変に気付いたのか、ヤジウマの方々が私とヴァン神父の傍に駆け寄って来た。


私は神父様を地面の上に下ろし、顔を触り……手首を触り……胸に耳を当ててみる。


結果……体は熱を失い、脈も心臓も……止まっていた。


アーシェ 「うそ……だろ……?そんなっ……神父のくせに悪い冗談はよせよ…………っ!!うぅ……くぅぅぅ………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


『 ヴァン神父様が死んだ 』


この現実を受け入れた時、私は久しぶりに悲鳴のように声を張り上げ、周囲の人の目を気にすることも無く大粒の涙を流して泣いて……



大切な人をまた1人失ったことを知った。



* * * * *



5日後……


私は焼け落ちた教会の前で1人、草の上に胡坐をかきながら、しばらく佇んでいた。


あの後……ヴァン神父の亡骸は遥か最西端の町 ・ 墓地の町 『 リコン 』 へと運ばれ、翌日に葬儀が丁重に行われた。


私も棺に入ったヴァン神父と共に馬車でリコンへと赴き、葬儀の後……ポケモン協会の人と少しだけ話す機会があった。


協会役員 「アーシェ・バーンハルウェンさんですね?」

アーシェ 「………………そぅ……ですが……」

協会役員 「この度の不幸、心中御察し致します。実は私は生前、ヴァン神父殿より、『 自分の身に何か遭った時、現在一緒に暮らしているアーシェさんのことを気にかけてやってほしい 』と頼まれておりまして……」

アーシェ 「まったく、あの人は……」

協会役員 「アーシェさん。あなたはこれから、どうなさるのですか?我々に協力できることでしたら、何でも……」

アーシェ 「何でも?……じゃあ、教会があった場所まで私を送ってくれねぇか?私は当初の目的通り、旅をしたい……そのスタート地点を、あそこにしたいんだ。」

協会役員 「アーシェさん……わかりました。もし、旅先で何か困ったことがありましたら、いつでも我々を頼ってください。こちらが、連絡先になります。」

アーシェ 「ん……ありがと。」



……ってな感じの経緯を経て、此処まで送ってきてもらい、今に至る。


アーシェ 「神様……か。もし、あんた等が本当に居て、これまで信心してこなかった私の祈りでも聞いてくれるってんなら、安らかに眠る神父様の魂をどうか天国へ導いてやってくれ。」


胸の前で十字を切り、手を合わせて心から神様に祈る。


今まで信仰心なんて持ち合わせていなかったのに、こんな時だけ都合のいい……と思われるだろうが、願わくば……ヴァン神父には天国でゆっくりしていてもらいたい。


アーシェ 「神父様……改めて言わせてくれ……短い間だったけど、本当にありがとうございました。この御恩は一生……忘れません。」


零れ落ちそうになる涙を堪え、五芒星が刻まれた十字架を模した髪飾りを付け……立ち上がった私は荷物を持ってセローナに向けて出発した。


木漏れ日に照らされ続ける、恩人との思い出の跡地を背にして……




Episode2~異国の猛者達~


No.06 † お近づきのススメ †

教会の跡地から旅立ったの日の翌日、只今セローナの町でストリートファイト中……

そういう訳だから、物語開始は今しばし待て。


男性トレーナー 「ゴロンダ!!のしかかり!!」



【 ゴロンダ 】

こわもてポケモン / 高さ : 2.1m / 重さ : 136.0kg / 格闘 ・ 悪タイプ

気性が荒く、ケンカっ早いが、弱いものいじめは許さず、仲間への情は厚い。

竹の葉っぱの揺れで、敵の動きを読む。

拳で語るタイプ。ガタガタ言わずにぶん殴り、ダンプカーもふっ飛ばす突進をかます。

その豪快な性質に惚れこむトレーナーも多いが、ゴロンダのトレーナーになりたいなら、拳で語り合うしかない。



アーシェ 「ワカシャモ!!火の粉!!」


相手のボディプレスを回避したワカシャモが、追撃の火の粉をゴロンダの顔に吹きかける。


男性トレーナー 「くっ……火の粉で牽制してきたか……。」

アーシェ 「敵が怯んだこの好機を逃すな!!ワカシャモ、二度蹴り!!」


火の粉を顔面に受けて怯んだゴロンダの背後に、ワカシャモのニ連蹴りが炸裂した。


男性トレーナー 「やりやがったな!!ゴロンダ!奮い立てる!」


相手トレーナーの指示を受け、ゴロンダが自身の攻撃力と特殊攻撃力のステータスを上昇させた。


……ゴロンダに特殊攻撃力は必要無いと思うのは、私だけだろうか?


まぁ、育成方法や技構成は人それぞれだよな。


アーシェ 「自分のステータスを上げてきやがったか。けど、上がったのは攻撃力関係だけで、防御面に関してはそのままのはず……ここは一気に攻め落とす! ワカシャモ、つつく攻撃!」

男性トレーナー 「させるか!ゴロンダ、巴投げ!」


ワカシャモの攻撃を耐えたゴロンダがワカシャモに掴みかかろうと、太く逞しい腕を伸ばしてくる。


アーシェ 「ワカシャモ!!体格的にも、レベル的にも、いろんな意味で、あのパンダマンに1度でも掴まれたら終わりだと思え!!つつくは中断!攻撃を回避して、火の粉で牽制だ!!」

ワカシャモ 「 (。`・ ω ・) ” 」


振り下ろされた両腕を回避し、ゴロンダの背後に回り込んだワカシャモが火の粉を放つ。


男性トレーナー 「くっ!!速い!!」

アーシェ 「特性のおかげで徐々に速くなるし、小回りが利くからな……さぁ、これで終わらせるぞ!!ワカシャモ、二度蹴り!!」


* * * * *


セローナの町・ポケモンセンター。


ナース 「それでは、ワカシャモとイワークをお預かりしますね。」

アーシェ 「あぁ……はい、お願いします。」


先程のバトルやその後続けて挑まれたポケモンバトルで無事に勝利を収めたものの、思いの外ダメージを受けたワカシャモとイワークをナースさんに預けて、近くにあったソファに腰掛ける。


アーシェ 「ふぅ……疲れた。いや、まぁ……実際に疲弊してんのは、ワカシャモとイワークなんだろうけど……さて、とぉ!」


2匹が回復するまでの間、読書を楽しもうと思って荷物の中から本を取り出した……と、ほぼ同じタイミングで、私の目の前の机の上に、モーモーミルクが入った瓶が小さく音を立てて置かれた。


アーシェ 「……ん?」

「うふふ。さっきのポケモンバトル見てたわよ。良い試合だったわね。」


声がする方を見ると、1人の優しそうなお姉さんが立っていた。


緑色のふわふわしたロングヘアー。

カッターシャツの上からキャビンアテンダントを彷彿とさせるような丈の長い藍色の服を着こなしている。


いや……まぁ、そんなことより……


アーシェ 「そいつはどうも……で?これは?」

女性 「それは見物料ってことで。良い試合を見せてもらったお礼……かしら?私からの奢りよ。」

アーシェ 「………………いただきます。」


『 出された物は有り難く頂かなければならない 』


そう古事記にも書かれている。


とりあえず、私はテーブルの上に置かれたキンッキンに冷えたモーモーミルクを一気に飲み干し、読書を再開する。


女性 「もう1本、どう?」

アーシェ 「腹下すわ。遠慮しておく。そんなことり…………見た感じ、あんた……何かの仕事の最中じゃねぇのか?」

女性 「あら?どうしてそう思うの?」

アーシェ 「いや、別に……ただ、何もねぇのに、そんなスーツをピッと着こなして……旅人って感じには見えなかったからさ。私みてぇな、くだらない人間に話しかける時間があるなら、早く仕事に戻った方がいいぜ?」

女性 「うふふ。そうね、ついさっきまで仕事をしていたんだけれど……良いのよ。仕事はもう終わらせて、今は休暇中だから。あっ……そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は『 ティア 』。よろしくね。」

アーシェ 「ん?あぁ……私はアーシェ・バーンハルウェン。最近ポケモントレーナーになったばかりの人間だ。」

ティア 「そうなの。それじゃあ、同じポケモントレーナー同士、仲良くしましょ。アーシェちゃん。」

アーシェ 「……仲良く……ねぇ……」


私は自分の目の前に差し出された右手に視線を落とし、それを握り返すかどうか……一瞬、躊躇してしまう。


ティア 「どうしたの?」


自分の両親、ヴァン神父……私は大切な人を既に3人も亡くしている。


このティアと名乗る女性が、私にとって大切な人になるか……初対面の今、何の保証も確証も無いけれど、それでも……こんな私と親しくして、今後災難に巻き込ませるというのは、つまらない話だ。


アーシェ 「私は……」

ナース 「アーシェさん。お預かりしたポケモンの回復が終わりましたよ。」


何か良い感じのタイミングで流れたナースさんの施設内アナウンスを聞き、私は目の前で笑顔のまま手を差し出していたティアを横目に席を立った。


ティア 「アーシェちゃん?」

アーシェ 「悪いな。別にティアのことが気に入らないとか、そういう話じゃねぇんだ。ただ……私なんかと関わるくらいなら、あんたには自由気ままに旅をして、自分の仕事をちゃんとしてほしい。だから………ごめん、『 よろしく 』 はしない。モーモーミルク、御馳走様でした。」


ティアにそれだけ伝え、ナースさんから元気になったアチャモとイワークが入ったモンスターボールを受け取り、そのままポケモンセンターを後にした。


* * * * *


次の町へ向かう街道。


アーシェ 「………………っておい!?何であんたは私に付いて来てんだよ、ティア!」

ティア 「え?」


私の歩く数歩後ろを、ティアが静かに着いて来ていた。


気配に気づいて私が振り返ると同時に、彼女もピタッ!と動きを止め、私が歩き出したらまた同じように歩き出す……それが、あのポケモンセンターを発ってから数十分くらい続いている。


アーシェ 「いや、そこで小首を傾げられましても……私が何か間違ってることを言ってるみたいじゃねぇか。」

ティア 「だって、アーシェちゃんが言ったんじゃない。『 自由に旅をして、ちゃんと仕事をしろ 』って。だから私は自由に自分の意志でアーシェちゃんに同行しているだけよ?」

アーシェ 「うっ……言った…………確かに言ったけど、そういう意味じゃなくてぇぇぇ…………あぁ~もうっ!」

ティア 「大丈夫?アーシェちゃん。カルシウム足りてる?モーモーミルク、飲む?」

アーシェ 「さっき飲んだわっ!はぁぁぁ……何かもう、1人で騒いでるのがアホらしくなってきた。わかったよ、あ~!はいはい、私の降参ですよ。まったく……だけど、ティア。私の旅に同行してくれるのは良いけど、1つだけ約束!」

ティア 「何かしら?」

アーシェ 「私はただただ気ままに旅をしているだけだ!目的も無ければ、いつ終わる……飽きてやめるかも解らない、そんないい加減な旅だからさ、もし!旅の道中で何か仕事や予定が入った場合は、ティアは迷わずにそっちを優先すること!私の旅に付き合わせて、あんたの人生……っていうか職を台無しにしたくねぇからな。」

ティア 「アーシェちゃん……」

アーシェ 「約束できるのか?できねぇのか?まぁ……私としては、ティアは美人で大人なお姉さんだから、これくらいの約束は守ってもらいてぇところなんだけど……な?」

ティア 「もう……おだてても、モーモーミルクしか出ないわよ?」

アーシェ 「ミルクはもういいって……」

ティア 「そう?美味しいのに……」

アーシェ 「それは知ってる。んで?私の言った約束……守れるのか?守れねぇのか?」

ティア 「えぇ、了解。その約束、ちゃんと守ると約束しましょう。」

アーシェ 「そっか。それじゃあ……」


今度は私からそっと、ティアの前に右手を差し出す。


アーシェ 「さっきは私が拒否しちまって、ごめん。ちょっと、思うところがあって……な。だから改めて……今度は私から。これからよろしく、ティア。いろいろとたくさん迷惑をかけるかもしれねぇが、一緒にゆるゆると、この地を旅しようぜ!」ニコッ

ティア 「えぇ!こちらこそよろしくね、アーシェちゃん。仲良くやっていきましょう。」ニコッ

アーシェ 「そうだな。仲良くやっていくうえで、1つ私の個人情報を教えておく。」

ティア 「あら?何かしら?」

アーシェ 「私はミルクも飲むけど、コーヒーの方が好きだ。」


私が差し出した手を、ティアが優しく……だけど、しっかりと握り返してくれた。


ちょっと前の自分なら、おそらく 『 馴れ合いは好きじゃない 』 とか何とか言って、頑なにティアの同行を拒否、拒絶していたと思う。


知らないうちに、少しずつ私も変わっているのか……なんて、らしくないことを考えつつ……

今は新しく 『 人間 』 の仲間ができたことを、素直に喜ぶとしましょうか。



No.07 † 共闘の何たるかを知れ †

ティアと出会ったポケモンセンターとこれから向かう、最東端に位置する町、『 ハイルドベルグ 』 との間には、大きな鉱山と昔使用されていた坑道がある。


もちろん、ハイルドベルグへ向かうためのちゃんと補正された道もあるのだが、大きく鉱山を迂回しなければならない。


それが嫌ならこの坑道を利用して最短ルートでハイルドベルグへ行けば良いのだが、今はもう使用されていない場所のため、野生のポケモン達が住み着いており、エンカウント率がかなり高くなっている。


そんな場所を今、私はティアと一緒に訪れていた。



ティア 「アーシェちゃん、この場所は…………?」

アーシェ 「ん?あぁ……此処は元々、『 セローナ 』 って町と 『 ルアン 』 って町の間の移動を少しでも楽にしようとして建設されたトンネル……になるはずだった場所……いや、もうなったんだっけか?」

ティア 「元々はトンネルじゃなかったの?」

アーシェ 「どっちかっというと、鉱山がメインかな。ルアン側から鉱石目当てにいざ開拓!って掘り始めた時に、ポケモンの化石や進化に必要な石、果てはタイプ一致技の威力を上げるジュエルとかいうのが大量に見つかってさ。」

ティア 「ポケモンの化石が?」

アーシェ 「うん。んで、予期せぬ発見をしちまったモンだから、そりゃあもう!ルアンに住む学者の先生達がありえねぇ程のハイテンションになって、発掘ハッスルしちまったわけよ。その結果……貴重なアイテムがよく取れるってことで、簡単な坑道意外……本格的なトンネル建設は半永久的に中止。その間にもルアンの学者さん達は縦横無尽にブランチマイニングして、いろんなアイテムをゲットしまくったって話さ。」

ティア 「それじゃあ、今も頑張って探せば、化石や進化の石が見つかったりするの?」

アーシェ 「ん?あぁ……どうだろう?さっきも言ったけど、学者の先生達が必要以上にハッスルしちまったからなぁ……もう殆ど残ってねぇから、『 廃坑 』なんだろうし……」

ティア 「あら……それは残念。」

アーシェ 「しかも、あまりにも短期間に急激な採掘活動を多々繰り返したために、地盤が緩んで落盤事故が起こったこともある。そう……落盤事故が……」

ティア 「アーシェちゃん?」

アーシェ 「あ……こほん。まぁ、落盤事故が起こったのはその1回だけ。その事故がきっかけで落盤撤去後に、内装が補強されて、こうしてトンネルとして、ちゃんと使用できるようになったんだ。」

ティア 「そうだったの。」


こうしてちゃんと開通してるってことは、ルアン側から学者さんが化石とか欲しさに物欲全開で反対側まで穴を掘り進めたってことだよな……?


偉業を成し遂げて凄いとは思うけど、動機が『 物欲 』……なんだよなぁ……


アーシェ 「…………ん?」

ティア 「どうしたの?アーシェちゃん。」

アーシェ 「あそこに怪我をしてるポケモンが居る……」


私は荷物の中から傷薬と木の実を取り出し、岩陰で蹲っていたポケモンにそっと歩み寄った。


アーシェ 「このポケモンは……」



【 キバゴ 】

キバポケモン / 高さ : 0.6m / 重さ : 18.0kg / ドラゴンタイプ

地面に作った巣穴に棲む。牙で樹木に傷をつけて縄張りの目印にする。

大きな牙はまだ脆く折れたりするが、何回も生え変わるごとに硬く丈夫に なっていく。

硬い木の実を牙で砕いて仲間と力を比べあう。大きな牙を打ちつけ、仲間とじゃれあう。



ティア 「あら?こんな所にキバゴが居るなんて珍しいわね。」

アーシェ 「屋外で遊んでいて、此処に迷い込んだか……しかもこいつ、蹲るほどのダメージを受けたみたいで……もしかしたら、毒状態になってるのかもしれない。」

ティア 「あら、それは大変!とりあえず、どっちでも大丈夫なように回復の薬を使いましょう。はい、アーシェちゃん。」

アーシェ 「ありがとう、ティア。」


そう言いながらティアが荷物の中から取り出した回復の薬を受け取り、そのまま野生のキバゴに使用してやった。


しばらくして……


不調だったキバゴは回復したらしく、元気にピョンピョン跳ねまわり、そのままの勢いで私に跳びついてきた。


アーシェ 「え……?」


いきなり突っ込んできたキバゴを受け止めきれず、私はお尻から仰向けの姿勢で坑道内に倒れることに……


アーシェ 「ぐふっ……!?」

ティア 「アーシェちゃん、大丈夫!?」

アーシェ 「だ……大丈夫、大丈夫……ふふっ、すっかり元気になったみてぇだな。」


私はキバゴを両手で抱きかかえ、そのまま地面に下ろし……ティアに手を引っ張ってもらって何とか立ち上がる。


アーシェ 「さてと……何でこんな場所に居るのかは知らねぇけど、元気になったんなら仲間の元に早く帰りな。帰巣本能くらいあるだろ?」

ティア 「あら?その子、ゲットしないの?」

アーシェ 「ん?あぁ。今回はゲットよりもまず、この洞窟を抜けることを優先したい……それに、ゲットじゃなく、怪我の手当てっていう目的は果たせたからな。」


そう言って、まだこちらをジッと見ていたキバゴを残し、私とティアは出口へ向かう道を急ぐことにした。


✝✝☥✝✝


アーシェ 「あっ……そうだ。ティア、今更だけど、貴重品には気をつけろよ。」

ティア 「貴重品に?」

アーシェ 「うん。ほら、見ての通り坑道内は薄暗いだろ?だから、落し物なんかしたら見つけるのは困難だし……それに…………」


私はモンスターボールを投げて、ワカシャモを呼び出す。


アーシェ 「ワカシャモ。あの岩陰に向かって火の粉!」

??? 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


私の指示を受けたワカシャモが火の粉を放ったと同時に、岩陰から1人の男性が飛び出した。


??? 「はぁ……はぁ……あっ、危ねえ……殺す気かぁ!? 」

アーシェ 「とまぁ、こんな感じで物陰に隠れて、他人の貴重品を盗もうとするバカも居るから気をつけろ。」

ティア 「なるほど……充分に気をつけるわ。」

賊A 「ちっ、バレちゃあ仕方ねえな。野郎共!」


目の前の男性の合図で、私達の後方にある岩陰から2人の男性がモンスターボールを構えながら姿を現した。


アーシェ 「ちっ……2人も見落としていたか。」

賊A 「さぁ!姉ちゃん達。痛い目に遭いたくなかったら、黙って金目のモンを置いていきな!」

アーシェ 「このっ!黙って聞いてりゃ良い気になりやがって……でも、ティアを厄介事に巻き込むわけには……仕方ねぇ。ここは連中の条件を……」

ティア 「うふふ。優しいのね、アーシェちゃん。でも……大丈夫。」ニコッ


私の隣で微笑みながら、ティアがモンスターボールを構える。


ティア 「たぶん、アーシェちゃんが思っている以上に戦えるわよ。少なくとも、こういう悪い人達にお仕置きできるくらいには。」

アーシェ 「そうなのか?それじゃあ……そのお言葉に甘えさせてもらおうかな。」


賊A 「何だぁ?俺達とやる気か?面白い冗談だ。野郎共!こいつらを打ち負かして金品を奪い取るぞ!」

賊B 「おう!それによく見りゃ2人共、かなりの美人だぞ。片方は口が悪いが……こりゃあ、金品を奪う以上のことがあっても別に良いよな!?」

賊A 「そんなのお前……良いに決まってんだろうが!!」

賊A・B・C 「「「Fooooooo!!」」」


アーシェ 「……………ティア、どうしよう?前方で変態が騒いでる。」

ティア 「本当にどうしようもないわね。こうなったら、そんな気が二度と起きないよう、徹底的にやってしまいましょうか。」

アーシェ 「うわぁ……おっかねぇな、ティアお姉様は。」

ティア 「あら?アーシェちゃんは私の提案に反対?」

アーシェ 「まさか。大賛成だ!」


ティアは微笑みながら、私は冷ややかな眼差しで、テンションが上がっている男性達の方を見る。


賊A 「よっしゃあああ!やるぞ、野郎共!このバトルに勝ったら、金と良い女が一度に手に入るぞ!」

賊B・C 「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


男性達が投げたモンスターボールが開き、ハブネーク、オーロット、ツンベアーが姿を現した。



【 オーロット 】

ろうぼくポケモン / 高さ : 1.5m / 重さ : 71.0kg / ゴースト ・ 草タイプ

ボクレーの進化系。

森を荒らす者を喰ってしまうといわれるポケモン。森に暮らす生き物達や、体に住み着いたポケモン達には、とても優しい。

根っこを神経の代わりにして、森の木を自在に操る。森を荒らす人間は、死ぬまで森から出られないようにする。

オーロットの棲む森で木を切ると、呪い殺される。木こり達は、オーロットが嫌う炎タイプのポケモンを連れて森に入る。



【 ツンベアー 】

とうけつポケモン / 高さ : 2.6m / 重さ : 260.0kg / 氷タイプ

吐く息を自在に凍らせて、氷のキバやツメを作って戦う。

北の寒い土地で暮らしており、口から吐きだした息を凍らせて、海の上に道を作って歩いたり、泳ぎが得意で、北の海を泳ぎまわって獲物を捕まえる。



アーシェ 「頼む……頑張れ、ワカシャモ!」

ワカシャモ 「 ( `・ ω ・)b 」


既にボールから出ていたワカシャモが、私の声を聞いて力強く頷く。


ティア 「それじゃあ、私も……頼むわね、ドータクン!」


そう言いながらティアが投げたモンスターボールが開き、ドータクンが姿を現した。



【 ドータクン 】

どうたくポケモン / 高さ : 1.3m / 重さ : 187.0kg / 鋼 ・ エスパータイプ

雨雲を呼び、雨を降らせる技をもつ。別世界への穴を開けて、そこから雨を降らしていた。

そのため、豊作の神として祀られており、ドータクンに祈りを捧げると雨が降り、作物を育てると、古代の人々は信じていた。

ときどき地面に埋められていることもあり、2000年以上眠っていたドータクンが工事現場から掘り出され、大ニュースになったことがある。



賊B 「いくぞ!ツンベアー、つらら落とし!」

アーシェ 「ワカシャモ!火の粉!」


ツンベアーが作り出した先端が鋭利な氷塊を、ワカシャモが火の粉を放って粉砕し合う。


賊C 「ちっ……!ハブネーク、ワカシャモにポイズンテール!」


火の粉を放ち終えたワカシャモの傍に這いずってきたハブネークが、毒気を帯びた尻尾を振り上げる。


アーシェ 「くっ……!集中的に私のワカシャモ狙いか……!」

ティア 「あらあら。私を無視しないでもらいたいわね。ドータクン!」


ティアの指示を受けたドータクンがワカシャモとハブネークの間に割り込み、ワカシャモに代わってハブネークが振り下ろしたポイズンテールを受けた。


ティア 「うふふ。鋼タイプに毒技で攻撃?再度お勉強が必要みたいね。」

賊C 「このっ……余計な真似を……!」

アーシェ 「ありがとう、ティア!助かったよ!!」

ティア 「うふふ。どういたしまして。共闘しているんですもの、助け合っていかなきゃね。」

アーシェ 「共闘……助け合い……か……」

ティア 「さぁ、ドータクン!ハブネークに向けてラスターカノン、発射!!」


攻撃後、体勢を立て直すハブネークに、ドータクンが放った眩く輝く鋼属性の光線が襲いかかる。


ラスターカノンを受けたハブネークが衝撃で大きく吹っ飛び、坑道内の壁に叩きつけられて、そのまま戦闘不能となった。


賊C 「なっ……!?俺のハブネークが……1撃で倒されただと!?」

アーシェ 「いや、まぁ……レベルとか育成の仕方なんかを考えたら、それも普通にありえる話だろうけど……すげぇな、ティア。」

ティア 「違うわ、アーシェちゃん。私が凄んじゃなくて、ドータクンが頑張ってくれているのよ。」

アーシェ 「あぁ、そっか……うん、そうだな。」

賊A 「くそっ!ワカシャモは後回しだ!あんな、ちんちくりんはいつでも倒せるからな!先にドータクンを倒すぞ!」

アーシェ 「ちんちくりん?私のワカシャモが……ちんちくりんだと?」

ワカシャモ 「 ( # ゚ Д ゚ ) 」

賊A 「オーロット!ゴーストダイブ!」


男性の指示に従い、オーロットが坑道内の暗闇に溶け込むようにその姿を眩ませる。


ティア 「ゴーストダイブ……マズいわね。オーロットが何処から攻めてくるか解らないわ……」

アーシェ 「( でも……連中、ドータクンを先に狙うって言ってたよな……少なくとも、今の攻撃対象はワカシャモじゃあないわけだ…… )」

賊B 「おいおい、バトルはまだ続いてるんだぜ!ツンベアー、冷凍ビーム!」


オーロットが何処から出てくるかわからない現状の中、男性の指示を受けたツンベアーが、ドータクンに向かって冷凍ビームを発射した。


ティア 「ドータクン!光の壁!」


ティアの指示を受けたドータクンが自身とアチャモを守るように光の壁を張り、冷凍ビームで受けるダメージを緩和する。


賊A 「今だ!オーロット、やれ!!」


光の壁を作り出しているドータクンの背後から、闇に紛れてオーロットの上半身が姿を現し、ゆっくりと樹木の腕を振り上げる。


ティア 「しまった!背後を……!」

アーシェ 「ワカシャモ、オーロットにつつく!」

賊A 「何っ!?」


オーロットがドータクンを攻めようと腕を振り上げて無防備になった瞬間、坑道内の壁を蹴って跳び上がったワカシャモの嘴が、オーロットの額を強襲した。


奇襲を受けたオーロットが振り上げていた腕で額を抑えながら再び闇に溶け込み……男性の傍に再び姿を現す。


アーシェ 「悪いな。私は暗い所でも割と見える方なんでね。オーロットの奇襲を看破させてもらったぜ。」

ティア 「アーシェちゃん、ありがとう!」

アーシェ 「ふふ……どういたしまして。共闘してるんだもん。助け合わねぇと……だろ?」ニコッ

ティア 「アーシェちゃん……」

アーシェ 「さてと。どうだい?ちんちくりんって馬鹿にしたワカシャモに奇襲を看破された気分は?」

賊B 「くそっ……ツンベアー!アクアジェットでワカシャモを倒せ!!」

アーシェ 「アクアジェット!?そんな技まで……氷技だけじゃなかったのか!」

ティア 「大丈夫、私達に任せて!ドータクン!!」


全身に水を纏って素早く突っ込んでくるツンベアーの進路上に、ドータクンが立ちはだかり、そのまま最小限のダメージでツンベアーのアクアジェットを受け止めた。


賊B 「このっ……邪魔するなぁぁぁぁぁ!!」

ティア 「アーシェちゃん!」

アーシェ 「おうっ!ワカシャモ!ツンベアーに向かって火の粉、発射!」


アクアジェットを終えて隙ができていたツンベアーの顔に向かってワカシャモが火の粉を放つ。


ティア 「ドータクン!追撃のラスターカノン……発射!」


火の粉を受けて大きく仰け反ったツンベアーの腹部に、ドータクンが放ったラスターカノンが命中した。


ちょっと不憫にも思うけど……ポケモンバトルということで御勘弁願おう。


そして……ラスターカノンによって体力を削りきられたツンベアーが、音を立てながら伏せるように倒れて、戦闘不能になった。


賊B 「うおぉぉぉぉ!?俺の……俺のツンベアーが!」

アーシェ 「よしっ!これで残すはオーロットだけ……って、あれ?」


ツンベアーを倒し、先程までオーロットが居た場所を見てみたが……そのオーロットの姿が何処にも見当たらない。


アーシェ 「ちっ……!またゴーストダイブか。」

ティア 「どこから出てくるか判らない……この静かな時間が不気味ね。」


しばらくの沈黙の後、ドータクンの背後の空間が歪み、オーロットの樹木の腕がゆっくりと現れた。


アーシェ 「見えた!ワカシャモ、火の粉!!」


素早くドータクンの方を向いたワカシャモが、ドータクンの背後から現れていたオーロットの掌に向かって火の粉を放った。


攻撃を受けたオーロットが火の粉を受けた掌を慌てて引っ込め、再び男性の前に姿を現す。


賊A 「何で……何でそんな簡単に看破しやがるんだ!?お前の目が良いってだけの話じゃ納得できねえぞ!!」

アーシェ 「ん?あぁ。私のワカシャモの特性は加速だからな。少しずつだけど、自身の素早さを上げていく……おかげで、割といろんなことに対して迅速に対処できるんだよ。」

賊A 「くそっ!厄介な特性を……!」

アーシェ 「とはいえ、今のこの子じゃ、あんたのオーロットを戦闘不能にすることができねぇ……パワーが足りないってことは把握しているつもりだ。だから……ティア、とどめは任せた。」

ティア 「えぇ、任されましょう。ドータクン、ラスターカノン!!」


ドータクンが放ったラスターカノンを受けたオーロットが、男性の隣から更に後方へと吹っ飛ばされ、無造作に放置されていた発掘用の道具にぶつかり……そのまま戦闘不能となった。


*****


ティア 「さて……アーシェちゃん、どうする?この人達。」

アーシェ 「こいつ等の後始末は私に任せてくれ。ちょっと手荒なことをするから、ティアは見ねぇ方が良いかもな。」

賊A 「え?おい……おいおいおい!?もう、バトルで勝敗は決まっただろ!?」

アーシェ 「それはそれ、これはこれだ!てめぇ等みたいなゴロツキを野放しにしておくと、私の知らない他の誰かにも迷惑がかかるだろうからな。」

賊A「ひっ……ひぃぃぃぃぃ!」


怯えて逃げ出そうとした1人の男性の脛付近に、ワカシャモ鋭い爪が付きつけられる。


賊A 「ひぅっ……!?」

アーシェ 「逃がさねぇよ。さてと……それじゃあ、お仕置き執行と……いきましょうか!」ニコッ

賊A 「まっ……待て!お前、そのアイテムで俺達に何をする……ちょっ、やめ……アッーーーーー!!」


~ 数分後 ~


アーシェ 「ふぅ……これでよし。お仕置き、完了!」

ティア 「えっと……良いのかしら?あれ……」

アーシェ 「良いの良いの。こうなったのもあいつ等の自業自得なんだから。ほら、早く行こ。」


✝✝✝


男達との戦いを終え、出口から差し込んでいた光を頼りに外に出ると、日はもう西の地平線に沈みかけていた。


まぁ、目視できるところに街道沿いのポケモンセンターがあるので、あそこが本日のお宿になるだろう。


アーシェ 「んっん~!やっと外に出れた。」

ティア 「思っていたより長かったわね。先程のバトルのこともあるし、早くポケモンセンターに……あら?」

アーシェ 「どうした?ティア。まさか……落とし物か?」

ティア 「ううん、そうじゃなくて……アーシェちゃん、後ろ、後ろ。」

アーシェ 「後ろ?」


ティアに言われた通り振り返ってみるが、何も無い。


しかし、ふっと目線を下ろしてみると……


アーシェ「あれっ!?お前、もしかして……さっきのキバゴ?何でこんな所に……仲間の所に戻ったんじゃ……?」

ティア 「どうやら、着いて来ちゃったみたいね。アーシェちゃん、この子に気に入られたんじゃない?」

アーシェ 「マジで?怪我の手当てしてやっただけなんだけどな……でも、現にこうして着いて来ちまってるワケだし……うん。」


私はその場にしゃがみこみ、できるだけキバゴの目線に合わせる。


アーシェ 「キバゴ………お前、私と一緒に来てくれるか?」

キバゴ 「 (。`・ ω ・) ” 」

アーシェ 「そっか……ありがとな。」


そう呟きながら、私は荷物の中から空のモンスターボールを取り出し、キバゴの目の前に突き付ける。


アーシェ 「これからよろしくな、キバゴ。まだまだ至らねぇトコが多いトレーナーだけど、力を貸してくれ。」

キバゴ 「 (〃 ^ ∇ ^) ]


キバゴは元気良く頷き、その小さな手でボールのボタンを押し……自らボールの中へ吸い込まれた。


ボールは私の手の内でしばらくカタカタ揺れ動き、そしてカチッ!と音を立ててその動きを停止した。


アーシェ 「よしっ!キバゴ、ゲットだぜ。」

ティア 「うふふ。おめでとう、アーシェちゃん。」ニコッ

アーシェ 「うん♪ ありがとう、ティア。」ニコッ


私は自分の持っている3つのボールを投げ、ワカシャモ、イワーク、そして今ゲットしたばかりのキバゴを呼び出す。


アーシェ 「ワカシャモ、イワーク。今日から新しく仲間になったキバゴだ。仲良くしてやってくれ。」

ワカシャモ ・ イワーク ・ キバゴ「「「 ( ≧ ▽ ≦ ) 」」」


イワークの時もそうだったが、対面させたポケモン達はすぐに仲良くなった。


うん。私のポケモン達に悪い子は居ないのだ。


ティア 「うふふ。こうしてポケモン達が仲良くじゃれ合う姿って、見てるだけでも癒されるわね。」

アーシェ 「わかる。」


仲間が増えて既存のポケモンと喧嘩することもないし……今だって、イワークが頭にキバゴを乗せて遊んであげてくれている。

喧嘩するようなことがあればその時は止めるけど、極力はポケモン同士のコミュニケーションに任せようと思う。


◆◆◆


街道沿いのポケモンセンター


1泊を終え、出発しようかなぁ……と思っていた時、センター内に設置されているテレビで、とあるニュースが流れていた。


何でも、『 私達が通ってきた坑道内で、窃盗グループの男性3人が穴抜けの紐に縛られた状態で発見された。偶然見つけた屈強な山男達の通報により、そのまま逮捕! 』 とか……


世の中物騒なことがあるんだな……怖い、怖い。



No.08 † 古代ポケモン研究所 †

私とティアは坑道を抜け、学者の町 ・ ルアンを訪れていた。

此処にはありとあらゆる分野で研究をしている学者の方々が各地から集まって来ている。


アーシェ 「この町に来るのも久しぶりだな……。」

ティア 「アーシェちゃん、この町に来た事あるの?」

アーシェ 「うん、まぁ……正確には戻って来た、かな。この町は私の産まれ故郷だもん。15歳くらいまでこの町に住んでた。」

ティア 「あらあら。じゃあ、里帰りなのね。それで?アーシェちゃんのお家はどこ?」

アーシェ 「さぁ………?父さんの研究所は残ってるだろうけど、私の家はなぁ……3年も留守にしてたんだ。もう、とっくに取り壊されてるかもしれねぇな……もし、そうであっても文句は言わねぇけど。」

ティア 「お父さんの研究所?アーシェちゃんのお父さんって……」


ティアが私の家族の事を訊ねようとした瞬間、その質問を遮るように、1人の学者さんが私に声を掛けてきた。


「あの……もし間違っていたら申し訳ありません。アーシェ・バーンハルウェンさん……ですか?」

アーシェ 「え?あぁ……うん。そうだけど。」

「やはりそうでしたか!!あなたの事をずっと探していたのです!!御会いできて良かった……。」

ティア 「アーシェちゃん。知り合い?」

アーシェ 「いや……初対面。」

研究所長 「無理もありません。あなたがこの町を去った時、私もまだ若かったですから……私はあなたの御父上……教授の下で研究をしていた者です。現在はお父様の研究所の所長をさせていただいております。」

アーシェ 「あっ……父さんの研究所の人だったのか……しかも、所長さんとは。」

研究所長 「はい!それでですね、アーシェさん。あなたに御渡ししたい物があるのです。付いて来てもらえますか?」

アーシェ 「え?あぁ……うん、わかった。あっ……この人も一緒で大丈夫かな?」


私は同行者であるティアを指し示す。


研究所長 「はい!もちろん、構いませんよ。」


* * * * *


とりあえず私達は学者さんに案内されて、見覚えのある研究所を訪れた。


アーシェ 「ふふっ、父さんの研究所に来るのも久しぶりだな。ちょっと広くなった?でもまぁ、そんなに変わって無くて安心した。」

ティア 「此処が……あの、此処では一体、何の研究をされているのですか?」

研究所長 「此処ではポケモンの化石の復元、ある時は遠方へ赴き、化石の発掘を主な活動としているのです。」


私は久しぶりに施設の中に足を踏み入れる。


水槽の中ではオムナイトやカブトが沢山漂うように泳いでいて……強化硝子の壁越しには原始の世界を再現されており、カブトプスやアーケオス達が雄叫びを上げている。



【 オムナイト 】

かせきポケモン / 高さ : 1.8m / 重さ : 7.5kg / 岩 ・ 水タイプ

大昔海に住んでいた古代ポケモン。

絶滅したポケモンだが、稀に化石が発見され、そこから生き返らせることができる。

10本の脚を上手にくねらせて泳ぎ、 殻の中に溜めた空気で水中を浮き沈みしていた。

アーケオスのエサだったようで、歯型のついた化石が見つかることも。



【 カブト 】

こうらポケモン / 高さ : 0.5m / 重さ : 11.5kg / 岩 ・ 水タイプ

遠いに昔に海だった地層から発見された、古代生物の化石から再生したポケモン。

海底に隠れては、背中の目で辺りを見ていたようだ。

絶滅 してしまったポケモンだが、ごく一部の地域では、今でも稀に生き続けているカブトを発見できる。

その姿は、3億年変わっていない。



【 カブトプス 】

こうらポケモン / 高さ : 1.3m / 重さ : 40.5kg / 岩 ・ 水タイプ

カブトの進化系。

手足を小さく折りたたみ、甲羅をくねらせておよそ29ノットの速さで泳ぐ。

捕らえた獲物は鎌で切りさき、体液を残さず吸っていたらしい。

獲物が陸上生活を始めたため、カブトプスも水の生活から、地上で暮らせるようにエラや足などが変化を始めていた。

しかし、陸でも活動できるよう身体が変化を始めていたが、間に合わず絶滅してしまった。



【 アーケオス 】

さいこどりポケモン / 高さ : 1.4m / 重さ : 32.0kg / 岩 ・ 飛行タイプ

鳥ポケモンの祖先と いわれる。

飛ぶよりも走る方が得意。時速40キロで駆けぬけた勢いで、大空に羽ばたく。

仲間と協力して獲物をしとめる知能を持つ。獲物を追いつめてから、別の仲間が空から急襲する。

羽毛が細かいので、熟練の職人でなければ復元に失敗するという古代のポケモン。



うん……『 昔 』の……父さんが生きていた、あの頃と同じままだ。


アーシェ 「…………それで?私に渡したい物っていうのは?」

研究所長 「はい……こちらです。」


研究室の1番奥に設置されていた机の上に、片眼鏡とボロボロの白衣、そして……モンスターボールが置かれている。


アーシェ 「これが……私に渡したい物?」

研究所長 「はい。これは教授……あなたのお父さんの物なのです。」

アーシェ 「えっ……!?」

ティア 「アーシェちゃんのお父さんの……?」


* * * * *


ここでちょっとした昔話。


昔、ルアンの隣町にして、大陸最東端の町 『 ハイルドベルグ 』出身の美人で歌の上手いアイドルが居ました。

その人気が確実に、安定したものとなったある時、アイドルは何かのバラエティ番組の洞くつ探検企画で、1人の考古学者と出会いました。


そして……この番組をきっかけに2人は仲良くなり、周囲の反対の声もあったそうですが、何やかんやあったものの、2年の交際期間の末、無事に結婚しました。


やがて2人の間に1人の女の子が誕生したのですが……その数ヶ月後、母親のアイドルは病でこの世を去ってしまいました。

TV業界と、ファンの間で大きな激震が走ったそうです。


……それからは父親が男手1つでその女の子を育てることになりました。


女の子は母親譲りの紅い髪と奇麗な歌声、父親譲りの知恵と勇敢さを兼ね揃え……ややファザコン気味なところもありましたが、何不自由なく健康で元気に育っていきました。


そして、彼女の物心ついた頃に、父親から母親が死んでいる事を話されましたが、まだ小さかった頃の事なので、女の子は特に何とも思っていませんでした。

……涙も出ませんでした。



そんな……女の子が15歳になったある日のことです。



父親の考古学者は、化石の発掘で訪れていたルアンとセローナを繋ぐ坑道の落盤事故に巻き込まれて、この世を去りました。


残された女の子は声を張り上げて泣いて、溺愛していた父親の死を受け入れるしかありませんでした……。



それから……他に身寄りの無かった女の子は、とある施設に送られました。


……が、父親の死によって自暴自棄になっていたことと、その環境に馴染めず施設の男の子達と喧嘩に明け暮れる毎日。


やがて、環境が生み出した男勝りな口調になった女の子は18歳になったある日、ついに 施設から脱走したのです。


そして、そのまま行く当ても無く彷徨って……



* * * * *



研究所長 「———————……その落盤事故の後、洞窟内で発見されたものです。残念ながら教授は助かりませんでしたが、せめて遺品だけでも渡そうと、教授の1人娘である貴方を探していたのです。」

アーシェ 「そう……だったのか……すまねぇ。変な手間かけさせて……私を探してるって知らなかったから。」

研究所長 「気になさらないでください。白衣は……使い物になりませんね。ですが……この片眼鏡とモンスターボールを受け取ってもらえませんか?きっと……教授もそれを望まれているはずです。」

ティア 「アーシェちゃんの過去事情は解りました。そして……えっと……そのモンスターボールには一体何が入っているのですか?」

研究所長 「はい。そのモンスターボールには教授が最後に発掘した化石から復元したポケモンが入っています。」

アーシェ 「父さんが最後に……興味はある……けど……」


私はモンスターボールを持ちながら、硝子の向こうに広がる古の世界を眺めた。


父さんには悪いけど……私には化石から蘇ったポケモンを育てる自信が無い。


アーシェ 「化石ポケモンに対して無知な私が育てるより……此処の整った環境の方が、この古代ポケモンも幸せなはずだ。この子は此処で面倒見てやってほしい。」

研究所長 「アーシェさんがそう仰るのなら……わかりました。責任をもって、こちらで与らせていただきますね。」

アーシェ 「お願いします。……私と父さんとの思い出は、これだけで充分だ。」


私はとりあえず、机の上に置かれていた片眼鏡を手に取り、そのまま右目に装着してみた。

きっとレンズも割れていたはず……それを修理してくれたのか、ただの硝子を押し嵌めただけなのか?度は入ってないようで、不快感も無い。


アーシェ 「どうだ?ティア……似合うか?」

ティア 「えっと……正直に言わせてもらうと……ちょっと微妙かしら?ごめんなさい。」

アーシェ 「ふふ……だろうな。私もそう思う。でも……良いんだ。これで……どこに行くのも父さんと一緒だ。」


私は今まで父さんの遺品を管理してくれていた研究者さんの方を見る。


アーシェ 「本当に……ありがとう。今まで父さんの所持品を保管していてくれて。久しぶりにこの町に来て良かった……。」ニコッ

研究所長 「いえ。私の方も役目を果たせて良かったです。」


これでとりあえず一段落したと思った時だった。


何かの爆発音と、薄くて脆い物が砕け散るような音が研究所内に響き渡った。


研究所長 「何事ですか!?」

研究員A 「大変です!!研究途中だった古代ポケモンが暴れ出し、硝子の壁を突き破って……皆さん、早く逃げてください!!」

研究所長 「そんな馬鹿な!?こういう事態を想定して、此処の硝子は特別強化した物を……くっ!聞いての通りです。アーシェさん、ティアさん、速やかに避難を!!」


アーシェ 「避難?すまねぇ……その誘導には従えねぇなぁ。」


私は研究員さんの忠告を聞かず、モンスターボールを構える。


研究所長 「そんな!危険ですよ!」

アーシェ 「んなことは解ってる!でも……此処は父さんの研究所だ。それを古代ポケモンに滅茶苦茶にされてたまるか!!連中に 『 現代 』 のルールってモンを叩きこんでやる!皆さんは先に逃げてくれ!けど……父さんの娘である私は残って戦う!!仮に逃げるとしても、1番最後だ!!」

研究所長 「アーシェさん……」

アーシェ 「ティアも!此処は危険だから、研究員さん達と一緒に避難を!!」

ティア 「あら?まだ短い付き合いだけど、私は私なりにアーシェちゃんの人柄や考え方というものを少しは理解したつもりだったんだけどなぁ……。ここは『 逃げて 』 じゃなくて、『 一緒に戦ってくれ 』 って、言ってくれると思ってたのに……」

アーシェ 「ティア…………」

ティア 「お父さんの研究所、守りたいんでしょ?」ニコッ

アーシェ 「…………ありがとう。頼む、ティア……父さんの研究所を守るために、私に力を……『 一緒に戦ってくれ 』!!」

ティア 「もちろんよ!お姉さんに任せなさい!」

研究所長 「私も逃げません……アーシェさん、ティアさん、あの子達を戦闘不能にするか、寸前まで追い詰めてください。そうしたら、私が専用の注射器で麻酔を打ち込みますので!」


そう言いながら学者さんは私とティアに、麻酔薬が入った瓶と……岩タイプのポケモンの皮膚を貫くためだけに開発されたと思われる、極太の針が付いた注射器を見せてくれた。


…………岩タイプのポケモンじゃなくて、本当に良かった。


アーシェ 「了解!まぁ、相手次第だけど……やれるだけ、やってみるさ!」


モンスターボールを構えた私達の背後、爆発音が聞こえてきた方からラムパルドとガチゴラスが雄叫びを上げながら姿を見せた。



【 ガチゴラス 】

ぼうくんポケモン / 高さ : 2.5m / 重さ : 270.0kg / 岩 ・ ドラゴンタイプ

古代の王者。1億年前の世界では無敵を誇り、王様のように振舞っていたポケモン。

大アゴの力は凄まじく、分厚い鉄板や自動車も簡単に噛みちぎってしまう。

完全な復元は不可能で、実は 『 全身に羽毛のような毛があるのでは? 』 という説がある。



【 ラムパルド 】

ずつきポケモン / 高さ : 1.6m / 重さ : 102.5kg / 岩タイプ

頭突きが得意な古代のポケモン。ジャングルの木々をなぎ倒し、獲物を捕える暴れん坊。

頭を激しくぶつけあっても、頭蓋骨は厚さ30センチもあるので、気絶したりしない。

そのどんな衝撃にも耐えられる分厚い頭蓋骨に押さえられ、脳みそは 大きく ならなかった。

復元され、進化したラムパルドが逃げだして、頭突きで高層ビルを破壊したという記録がある。

大昔の人は、化石を掘り出し、鋼鉄よりも硬い頭蓋骨で兜を作っていた。

本当に脳みそが小さいので、愚かで滅んだという説もある。



アーシェ 「また厄介な連中が……頼んだぞ!!ワカシャモ!!」

ティア 「出番よ!!頑張って、フライゴン!!」


私とティアの投げたボールが開き、ワカシャモとフライゴンが姿を見せる。



【 フライゴン 】

せいれいポケモン / 高さ : 2.0m / 重さ : 82.0kg / 地面 ・ ドラゴンタイプ

羽ばたく音が女の人の美しい歌声に似ているため、砂漠の精霊と呼ばれるポケモン。

羽ばたきで砂漠の砂を巻き上げて姿を隠す。赤いカバーが砂から目を守る。

美しい歌のような羽音に心を奪われ、砂漠で遭難する人が続出。

羽ばたきで巻き起こした砂嵐にワルビアルを潜ませ、捕まえた獲物は分け合う。



アーシェ 「さてと……」


ワカシャモを出したのは良いけど……父さんの研究所をあんまり荒らしたくないなぁ。


けど、何とかしてラムパルドとガチゴラスを硝子の向こう……研究所中央に広がるジュラシックパークに送り返さなければならない。

硝子を割って穴を開けるのは簡単だ。けど……その後の対処法が思い浮かばない。


アーシェ 「まぁ……とりあえず、てめぇ等!!父さんの研究所で暴れるんじゃねぇ!!」


ワカシャモの二度蹴りが、ラムパルドの石頭……綺麗なスキンヘッドのような頭部に踵落としの要領で Hit した。


そんなワカシャモの前方、ラムパルドの背後から大口を開いたガチゴラスが迫ってくる。


よく見ると、ガチゴラスの牙は、ビリビリと帯電している。


アーシェ 「嘘だろ、おぃ!あいつ、雷の牙を使えるのか!?」

ティア 「アーシェちゃんのワカシャモ狙いね……美味しそうな鶏肉に見えてるのかしら?」

ワカシャモ 「 (((((( ; ゚ Д ゚ ))))) 」

アーシェ 「やめてくれ、ティア……マジで洒落になんねぇ。」

ティア 「うふふ。まぁ……冗談はさておき、安心して。絶対にアーシェちゃんのワカシャモは捕食させてあげないんだから!フライゴン、竜の波動!」


ガチゴラスが今にもワカシャモを捕食しようとした瞬間、ワカシャモの前に颯爽と舞い降りたフライゴンが、ガチゴラスに向かって口からビームの様に放出した波動で強襲する。


効果抜群かつ不意を突かれた攻撃を受けたガチゴラスが、かなり後方の壁まで押し戻された。


アーシェ 「おぉぉ!!ありがとう、ティア!!助かった!!」

ティア 「どういたしまして。それなりの威力は期待できる……と、思うけど……」


強引に押し戻された位置で、ガチゴラスが再びゆっくり立ち上がる。


ティアのポケモンは頼りになる……が、それでも倒し切れない程、眼前の古代ポケモン達は強力ということなのだろう。


アーシェ 「できるだけ短期で決着をつけたい!!ワカシャモ、ガチゴラスに二度蹴り!!」


ワカシャモの放った二度蹴りが、起き上がろうとしていたガチゴラスの大顎に当たり、そのまま恐竜を蹴り上げる。


ティアのフライゴンの竜の波動が体力をごっそり削ってくれたのだろう。


今の二度蹴りで、ガチゴラスを戦闘不能寸前まで追い込んだ。


アーシェ 「今だ!ガチゴラスに麻酔を!」

研究所長 「はいっ!」

アーシェ 「これで残りはラムパルドだけ…………」

研究員B 「きゃあああああああっ!!」

アーシェ 「今度は何だ!?」


ふっと、声がした方を見ると……此処の学者さんの白衣が、同じように脱走したプテラの爪に運悪く引っ掛かったらしく、プテラが飛翔すると同時に共に宙へ舞い上がってしまっていた。



【 プテラ 】

かせきポケモン / 高さ : 1.8m / 重さ : 59.0kg / 岩 ・ 飛行タイプ

琥珀から取り出された遺伝子を研究して復活させた、大昔の獰猛なポケモン。

甲高い声で叫びながら古代の大空を飛んでいたとされ、空の王者だったと 想像されている。

地面に降りると歩くのも遅く、弱かったらしい。ノコギリのような牙で獲物を引き裂き、喰っていた。

琥珀に残された遺伝子から復元させた際、予想以上に凶暴で、犠牲者も出た。

巨大隕石の落下で絶滅した説が根強い。



アーシェ 「くそっ!また別の化石ポケモンが脱走してくるなんて!」

ティア 「あの人とプテラは、私とフライゴンに任せて!アーシェちゃんはラムパルドをお願い!」

アーシェ 「おうっ!そっちは頼んだぜ、ティア!」


古代ポケモンが出て来た場所から、ガラスの内側の古代の世界へ戻って行ったプテラの後を追うため、フライゴンに飛び乗り、同じように古代の世界へ突入したティアを横目で見送り

私とワカシャモは、目の前のラムパルドと対峙する。


ラムパルドは頭部を前にして、研究所の床を右足で数回蹴りながら、こちらに突っ込んで来る気満々の姿勢を示している。


アーシェ 「そうだ!足止めだけで良いなら……!ワカシャモ、お疲れ様!戻って休んでくれ!」

ワカシャモ 「( `・ ∀ ・)ゞ 」


私はワカシャモをボールに戻し、素早く次のボールを構えて投げた。


宙を舞っていたボールが開き、同時に突っ込んできたラムパルドの目の前に、イワークが元気良く姿を現した。


アーシェ 「イワーク、体当たり!」


イワークは力強く頷き、正面から突っ込んで来るラムパルドの頭部を狙うように、自分からぶつかっていった。

ラムパルドの頭部とイワークの頭が激しくぶつかり合い、そのまま鍔迫り合い状態に発展する。


イワークの攻撃力はさほど高くない……けど、防御力に加えて身体のデカさと重さという立派な武器がある。


アーシェ 「ラムパルドの足が止まった!所長さん、今だ!」

研究所長 「はいっ!」


イワークと押され押し返しを繰り返していたラムパルドに、研究所長さんが後ろから尻尾に麻酔を従者した。

割とすぐ効いてきたのか、イワークの目の前でラムパルドが脱力するように倒れた。


見ると気持ち良さそうに鼾をかきながら眠っている。


アーシェ 「ふぅ……ワカシャモやキバゴじゃ、ちょっとコイツを抑えられそうにないと思ったからな……よく頑張ってくれた、イワーク。」

イワーク 「 ( ≧ ▽ ≦ ) 」

アーシェ 「そういえば、ティアの方はどうなったんだろう?まぁ、私が心配するほどのことでもないと……」


ふっと、視線を施設内に広がる古代の世界へ向けた瞬間、ガラスが盛大に砕け、プテラが……続いてフライゴンに乗った状態のティアが飛び出して来た。


プテラの爪に白衣を引っかけてしまっていた学者さんはというと……途中で一体何が遭ったのか、プテラの足でガッチリと捕まってしまっている。


アーシェ 「まだ空中のチェイスは続いてたのか……っていうか、さっきより状況悪化してんじゃねぇか!!何がどうしてそうなった!?……仕方ない。援護するぞ、イワーク!狙いを定めて……タイミングを見計らって……今だっ!撃ち落とす!」


私の指示に対して力強く頷いたイワークが放った大きな岩が、円形の研究所内を周回して戻って来たプテラの左翼にある小さな手を掠めた。

小さなダメージとはいえ、攻撃を受けたプテラはバランスを崩し、しゃくれた顎から研究所の床に不時着した。


アーシェ 「所長さんはプテラに麻酔を!ティアは私と一緒に捕まってる方の学者さんの救助を手伝ってくれ!」

ティア 「わかったわ!」


* * * * *


その後……脱走したラムパルドとガチゴラス、プテラはポケモンセンターで治療後、無事に硝子の向こうの太古の時代へと強制送還されていった。


アーシェ 「ふぅ……すまねぇ。もっと早く事を終わらせるつもりだったんだけど……いろいろ損傷させちまった。」

研究所長 「そんな!!アーシェさんもティアさんも、尽力してくださりありがとうございます!!」

ティア 「私は別に……アーシェちゃんが此処を守りたいって言わなければ、研究員さんの指示に従って避難していたと思うわ。」

アーシェ 「そんなこと言わないで……さっきは、逃げないで一緒に戦うことを申し出てくれて、私は本当に嬉しかった。ありがとう、ティア。」ニコッ

ティア 「アーシェちゃん……!」/////


私の名前を呼んだティアがいきなり……割とガチで抱きついてきた。


アーシェ 「え?ちょっ……ティアお姉様!?」/////

ティア 「あぁん、もう!!可愛いわよ、アーシェちゃん!!大丈夫、何か遭ったらお姉さんが絶対に守ってあげるからね!!」

アーシェ 「いや……守ってもらうだけってのはちょっと……それより!!研究所の修理費だけど……生憎持ち合わせがこれだけしか無くて……」


壊れた研究所の修理費にと、私は最近ポケモンバトルで入手した現時点での所持金全額を研究員さんに渡そうとしたが、丁重に断られた。


『 この程度の破損ならすぐに直せます。それはアーシェさん自身ために使ってください 』……とのことだ。


アーシェ 「あっ、それと…… 『 古代ポケモンの遺伝技の研究は、確実に実ってる 』 ってことだけ、伝えておきます。」

研究所長 「本当ですか!?」

アーシェ 「うん。さっきのガチゴラス、雷の牙を使えていたのを確認した。あの技は確か、アーボックかバンギラス、バクオングかボーマンダと一緒にさせないと覚えねぇからな。」

ティア 「詳しいのね、アーシェちゃん。それも、あなたのお父さんの遺伝子が色濃く出ているのかしら?」

アーシェ 「いや、違うって。この間読んだ本に書いてあったのを、覚えていただけだよ。」

研究所長 「そうでしたか。わかりました、ありがとうございます!今後も引き続き、此処で古代ポケモンの研究を続けさせていただきます。教授の遺志を継ぐためにも……」

アーシェ 「あなた達が居れば、此処も安泰……これからも、此処をよろしくお願いします。」


とりあえず事は無事に収拾したので、私達はこのまま研究所を後にして、ハイルドベルグに向かう事にした。


それにしても……思わぬところで昔の事を思い出してしまった。忘れたくても忘れられない……忘れてはいけない大切な思い出。


うん……大丈夫。私はもう大丈夫だから……父さん、母さん……行ってきます。



No.09 † 虹色の羽を守れ †

ルアンの町から東に向かって徒歩30分。


私達は大陸最東端にある水と緑の町 ・ 『 ハイルドベルグ 』 のポケモンセンターを訪れていた。


アーシェ 「ハイルドベルグ……か。」

ティア 「どうしたの?アーシェちゃん。」

アーシェ 「いや……この町に来たら、行っておきたい場所があったんだ。今から行くけど……ティアも一緒に来る?」

ティア 「えぇ。同行させてもらうわ。」ニコッ


センターを出て、町外れへと続く補正された道を通り……私達は林の中にある建造物を訪れた。


建造物は静かにそこに佇まい、蔦が絡まりながらも神々しさを保っている。


ティア 「アーシェちゃん……此処は?」

アーシェ 「『 繁栄の神殿 』。此処には伝説のポケモン ・ ホウオウが祀られていて、宝玉として虹色の羽が保管 ・ 展示されてるんだ。この町に来たら、見ておきたいと思ってたんだよ。」

ティア 「そうなの!?へぇ、ホウオウが……私はてっきり、あなたのお母さんの家を探すのかと思ってたわ。」

アーシェ 「いや、私もそうしようかなぁと思ったんだけどな……ルアンの学者さんに訊いた話だと、何か色々遭ったらしくって、父さんと結婚する時に後腐れの無いよう、必要な物をルアンに運んだ後日に家を取り壊したんだって。」

ティア 「あら、そうだったの?アーシェちゃんの御両親も色々大変だったのね。」

アーシェ 「そんなことより!!ほら、早く中に入って虹色の羽見ようぜ。」

ティア 「えぇ。」


*** 繁栄の神殿内部 ***


静かな空間の中、両サイドの壁には大昔の塗料を使って描かれた人間とホウオウに関する絵が祭壇の方まで続いている。


ティア 「えっと……これは……?」

アーシェ 「ん?どうした、ティア。」

ティア 「あ……ごめんなさい。この絵と一緒に書かれている文字なんだけど……この地方独自のものなのかしら?仕事柄、その国でしか使われていない言葉や文字は把握しているんだけど……この文字は初めて見るわ。恥ずかしながら、何て書いてあるのか解らなくって……」

アーシェ 「え?あぁ、『 古國語( ここくご ) 』のことか。そりゃ異国から来たティアが読めるわけねぇよ。それはこの地方で現在使用されている文字のベースになった物だもん。この地方に現在住んでる人……それも御高齢の方々でも、殆どの人が読む事の出来ない文字だぜ。」

ティア 「なるほど。象形文字のような物なのね。」

アーシェ 「まぁ、書いてある内容を簡単に纏めると……此処にはホウオウと人間との出会い、人とポケモンがどう接していくべきなのかを説いた物語が、独特な絵と一緒に書かれてる。」

ティア 「……アーシェちゃん、この文字読めるの!?」

アーシェ 「え?ぁ……うん。お父さんの仕事上、目にする機会が多かったし………」


私は壁の絵を眺めながら、神殿の奥にある祭殿に展示されていた虹色の羽に歩み寄る。


アーシェ 「共存の仕方は様々……人としての善と悪の区別をしなければならない。人とポケモンが仲良く接している土地には繁栄を、ポケモンを使って悪い事をたくらむ奴等が多い土地には災いを齎す。この虹色の羽は人とホウオウの約束の証で、人がポケモンと共存するための初心を忘れないためのアイテムでもあるみたいだ。」

ティア 「そうなの……ただ綺麗なだけじゃなく、本当に大切な品物なのね。」

アーシェ 「うん、その通りだよ。だからこそ…………」


私はモンスターボールを投げてキバゴを呼び出した。


同時にキバゴは柱の陰へと駆けて行き、ひっかくを放つ。


ティア 「アーシェちゃん、何を……あら?」


キバゴが攻撃を仕掛けた柱の陰から、1人の男とムウマージが姿を見せた。


男性 「少しびっくりしたぞ……危ねぇなぁ、おい!!」

アーシェ 「警備面が手薄なのは、やっぱりいただけねぇな。こういう輩に貴重な品を盗まれでもしたらどうする気だったんだろう?物も価値を理解してねぇで、ぞんざいな扱いをするから、こういう馬鹿が湧いてくる。」

ティア 「アーシェちゃん……あの人……」

アーシェ 「十中八九、虹色の羽狙いだろう。普通に参拝に来たんなら、あぁして身を隠す必要なんて無いからな。ティア……ハイルドベルグの人達を呼んで来てくれねぇか?」

ティア 「え……?アーシェちゃんは?」

アーシェ 「あいつが此処から逃げねぇように、足止めをする……」

ティア 「危険よ。私も一緒に……」

アーシェ 「私なら大丈夫。ゴーストタイプのポケモン相手なら、何とかなるさ。何より……私はあいつを許せない。未遂だけど、神殿に盗みに入ったっていう行為そのものが……頼む、ティア。私の我が儘を聞いてくれねぇか?」

ティア 「アーシェちゃん……わかったわ。でも、くれぐれも無理だけはしちゃ駄目よ。」

アーシェ 「ん~……それに関しては、あんまりちゃんと約束できねぇけど……一応、気をつけるよ。」


ティアが入口から駆け出していくのを確認してから、再び虹色の羽へと足を運ぼうとしていた男性の方を見る。


アーシェ 「おい、こら。ちょっと待て。」

男性 「あぁ?何だお前、さっきから……俺の邪魔をする気か?」

アーシェ 「うん。邪魔するね。過程はどうあれ虹色の羽を盗もうって言うんなら……私は全力で、お前の邪魔をする!!」

キバゴ 「 (。`・ ω ・) ” 」

男性 「くそっ!!こんなところで時間を食ってられないってのに……ムウマージ!!シャドーボール!!」

アーシェ 「キバゴ、噛みつく!」

キバゴ 「( `・ ∀ ・)ゞ 」


キバゴはその場で跳び上がり、黒い球体を作りかけていたムウマージの細い身体に力いっぱい噛みついた。

作りかけの球体が霧散し、攻撃を受けたムウマージが悲鳴を上げる。


男性 「うおぉ!?しっかりしろ!ムウマージ!」

アーシェ 「このまま追撃を仕掛けるぞ!キバゴ、ダメ押し!」

男性 「このっ……良い気になるなよ、女ぁ!!ムウマージ、10万ボルト!」

アーシェ 「なっ……!?ゴーストタイプの技、ワンウェポンじゃなかったのか!」


床から浮かび上がったムウマージが体から強力な電気を放ち、攻撃を仕掛けようとしたキバゴを強襲する。


「キバゴ!!」


電撃を受けたキバゴがフラフラとその場に立っていたが、すぐに短い足で力強くその場に踏みとどまる。

まぁ、『 効果いまひとつ 』だからいきなり戦闘不能になることは無いとは思っていたけど……それなりのダメージは受けたのかもしれない。

それでも、麻痺状態にならなくて良かった……


男性 「ちっ……余計な時間を費やしちまったぜ。さぁて……虹色の羽を頂いて行くとするか……」


勝利を確信した男が虹色の羽根に歩み寄り、貴重な品へとその汚い手を伸ばす。


アーシェ 「おい!!勝手な事をするな!!」


私は慌てて、虹色の羽と男の間に割って入った。


男性 「おい……そこを退け。まったく……何をムキになってんだよ?たかが羽根1枚で……」

アーシェ 「たかが羽根1枚でも、とても貴重な品物だ。そもそも……お前は虹色の羽を手に入れて何をするつもりだ?」

男性 「俺は依頼されただけだ。虹色の羽を盗って来いって……大都市の領主の娘さんによぉ。何でも、虹色の羽を装飾品に加工するつもりらしい。」


『 大都市の領主の娘 』……そうか、あいつか。こんな馬鹿な依頼をしたのは……本当に救えない奴だ。


アーシェ 「まったく……そんなくだらない理由で……だったら、尚更そんな真似を許すわけにはいかねぇな。そういう邪な心の持ち主が、この虹色に触れちまったら、未来がどうなるか分からねぇ。」

男性 「粋がるのは良いけどよぉ、お嬢ちゃん……口先だけじゃあ、俺は止められねぇぜ!!」


私の背後に突然現れたムウマージが再び黒い球体を作り出す。


アーシェ 「シャドーボールか……キバゴ、もう1度駄目押し!」

男性 「無駄だ!これでくたばれっ!」


ムウマージが放ったシャドーボールを目視で回避したキバゴが、ムウマージに駄目押しを叩きつけた。


男性 「なっ!?」

アーシェ 「おぉ!よく避けた、キバゴ!」


男性の指示に応えようと浮かび上がったムウマージだったが、途中で力尽きて伏せる様に床の上に落ち、そのまま戦闘不能となった。


男性 「そ……そんな、バカな……っ!」

アーシェ 「キバゴの攻撃力を嘗めるなよ!……ふふっ、お疲れ様。よく頑張ってくれたな、キバゴ。」

キバゴ 「 (; ・ ∀ ・)b☆ 」

男性 「おっ……お前!!よくも……!!」

アーシェ 「文句を言われる筋合いはねぇな……これも立派な防衛だ。」

男性 「ふん……まぁいい。今日は失敗したが、またお前が居なくなった頃に、手持ちポケモンを増やして盗りに来ればいいだけのこと……」

アーシェ 「そっか……懲りねぇ奴だな、てめぇも。はぁ……仕方ねぇ。今、その羽に手を出さねぇって言うなら、私はてめぇとムウマージを見逃してやる。」

男性 「ん?随分、おとなしく……」

アーシェ 「でも……外に居る人達はどうかな?」

男性 「え?」


神殿内でのバトルに気付いて駆け付け、そして今の話を聞いていた町の人達が神殿内になだれ込み、そのまま男性を取り押さえた。


そのすぐ後、ティアが連れて来た町の警察やお偉いさんにより、男性は抵抗空しくそのまま御用となった。


ティア 「アーシェちゃん!!大丈夫!?」

アーシェ 「ティア……うん。私は大丈夫。犯人も無事に捕まったみてぇだし……よかった、よかった。」

ティア 「幸い、何処も怪我していないみたいだけど、お姉さん、心配で—————……」


何か言葉を紡ごうとするティアの唇に、私は人差し指を押し当てる。


アーシェ 「これが私のやり方だから……私のキバゴがちょっとダメージを受けちゃったけど、それだけの被害で虹色の羽根が無事だったんだ……それで良いじゃねぇか。」

ティア 「それは……そうかもしれないけど……」

アーシェ 「はい!この話は終わり!!流石に疲れた……私もキバゴと一緒に、ちょっとポケモンセンターで休ませてもらうぜ。」

ティア 「え……えぇ……」


その後……繁栄の神殿襲撃の話題は、私が思っていたよりも速く世間に広がり、その対処も迅速だった。


元気になった翌日、もう一度繁栄の神殿を訪れると、虹色の羽の横に2人の神官さんが立っていた。


神官さんの話によると、此処だけではなく、他の神殿でも交代制で神官……もしくは町のポケモントレーナーの方が配置される事になったそうだ。

貴重品に対する危機感を持つようになった……神殿と宝玉を管理する町の人達は、ほんの少し賢くなったのかもしれない。



No.10 † 泉での遭遇劇 †

フィリア大陸最東端の町・ハイルドベルグから北に進むか、南に進むか話し合った結果、『 フィリアの綺麗な海が見たい 』 というティアの意見により、此処から南下することに決まった。


正直な話、地元民の私も知識はあるものの、実際に南方には行った事が無かったりする。

大陸の東と西を行ったり来たり……前に居た施設は確か北方にあった筈……だから、南方のリゾート地に行くのは、これが本当に初めてなのです。


……とはいえ、そんなすぐに景色が変わるはずもなく、ハイルドベルグを出て南下するしばらくの道中は、樹木が生い茂った森の中の補正されていない道を歩く事になる。


アーシェ 「こりゃ、昼飯は此処で食うことになりそうだな。」

ティア 「そうね。ちょっと早いけど、もう昼食にしましょうか。」


それぞれ支度のために荷物を開き、食料やらアウトドア用品を支度する。


アーシェ 「ん?あ……木の実が残り少ないな。」

ティア 「本当。無くても大丈夫とはいえ、やっぱり、あると何かと助かるのよね。」

アーシェ 「ん~……ちょうど森の中に居るんだし、散歩がてらちょっと探してくるよ。ティアは昼飯の準備の方、よろしく。」

ティア 「えぇ。大丈夫?迷子になっちゃ駄目よ。」

アーシェ 「え?あぁ……うん、たぶん大丈夫だと思う。とりあえず、行ってくる。」


* * * * *


ティアと別れて少し森の中を歩いただけで、まぁ……見つかるわ、見つかるわ。


オボンやモモン、ナナシなど割とメジャーな物から、ソクノやイアの実などのそこそこ珍しい木の実が収穫できた。


アーシェ 「マトマ……マトマの実かぁ……う~ん……あのティアが、辛さで悶える姿も見てみたいような気もするけど、友人にそんな真似するのもなぁ……けどまぁ、ポケモンの中には辛い味が好きな奴も居るそうだし……ポロックの材料に……ん?」


木の実を求めて森の中を歩いていくうちに、気が付くと綺麗な泉の前に出ていた。


アーシェ 「へぇ……此処にも泉があるのか……」


泉の存在を確認し……そして、私は今の自分の姿を見る。

頑張って木の実を集めた代償として、泥や汗でちょっと汚れてしまっていた。


このまま飯を食うのもなぁ……かといって、ポケモンセンターの風呂もまだまだ先だし……


アーシェ 「……周りに人も居ないし……よし!」


私は木の実を地面にそっと置き、着ている物を全て脱いで泉の中に入った。


アーシェ 「冷たっ……でも、はぁぁ……気持ち良いな……」


透明で澄んだ水はとても冷たく、直接肌を刺激する。

全身の力を抜いて、水の上に浮かんで宙を眺めていた時、足の先にある茂みが動く音がしたので、慌てて泉の底に足を着けた。


茂みの揺れが止まり……上手くやり過ごしたかと思った瞬間、茂みの中から1匹のエネコロロが姿を見せた。


アーシェ 「エネコロロ?」



【 エネコロロ 】

おすましポケモン / 高さ : 1.1m / 重さ : 32.6kg / ノーマルタイプ

決まった住処を持たずに、マイペースで自由気ままな暮らしを好むポケモン。

他のポケモンが寝床に近寄って来ても、決して争わずに寝る場所を変える。

夜行性で、日暮れから行動を始める。

流行に敏感な女性トレーナーに好まれる。エネコロロ同士のスタイルや毛並みの美しさを競う。



野生のポケモンか?だったら、結構珍しいし……しかも、よく見たら色違いだ。


マジでゲットしたいけど、荷物は全部ティアの所に置いて来ちまったしなぁ……持参してるモンスターボールには既に3匹の仲間が入っている。


せめて、少しでも近くで眺めようと泉から岸へと出た瞬間———————……


「シャーリー、駄目だろ。勝手に行ったら……」


色違いエネコロロのトレーナーらしき男性が同じ茂みの中から出てきた。


アーシェ・男性 「「あ……」」


その場の空気が一瞬にして凍りついた。絶対零度状態である。


私はエネコロロを見るために、水の中から完全に出た状態で……いきなりの事で、大事な場所を隠す事もできないまま、完璧な全裸を初対面の男性の前に晒してしまい……


男性は男性で、いきなり見ず知らずの女性の一糸纏わぬ姿を目撃してしまい、驚きと戸惑いを隠せないでいる……。


アーシェ 「えっと………その、見られても減るモンじゃねぇとはいえ、そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいんだけど…………」/////

男性 「あ……いや、すまん!まさか女の子が居るとは思わなくって……!!」/////

アーシェ 「いっ、いや!私の方も……ちょっと警戒が緩んでたみたいで……!!あの、服を着るから、少し後ろを向いててくれないか?」/////

男性 「え?あっ……あぁ、わかった!!」/////


男性がシャーリーという名のエネコロロをボールに戻し、慌てて私に背を向けてくれたので、その間に急いで服を着てしまう。


アーシェ 「も……もう、大丈夫。こっち向いてくれて良いぜ……」/////

男性 「その……本当に悪かった!何せ、この地には来たばかりで……南下しようと、この森を突っ切る途中で、野生のポケモン相手に出してたエネコロロが……」

アーシェ 「ん?お前、旅行客なのか?」

男性 「まぁ、そうなるかな……俺は『 コルボー 』。シンオウで働いてたんだが、自分の強さを磨きったくて……な。有給休暇をフル活用して、観光がてら旅をしてるんだ。」

アーシェ 「そうなのか。私はアーシェ・バーンハルウェン。私も今、仲間と一緒に……あ。」

コルボー 「どうした?」

アーシェ 「やっべぇ……そういや、ティアを待たせたままだった。そうだ!せっかくだし、コルボーも一緒にどうだ?さっきのあの調子じゃ、昼飯まだ食ってねぇんだろ?」

コルボー 「え?いや、まぁ……そうなんだけど、良いのか?急に邪魔しちまって。」

アーシェ 「うん。大丈夫、大丈夫。こういうのは人数が多い方が楽しいだろうしな。最悪、足りなかったら私のを分けてやるよ。」


* * * * *


アーシェ 「ごめん、ティア。待たせちまって。」

ティア 「いいのよ。丁度今、できたところだし……あら?そちらの方は?」

アーシェ 「シンオウ地方からのお客さん。森の中で迷子になってたのを助けた。」

コルボー 「迷子って言い方は勘弁してくれ。えっと……初めまして、コルボーといいます。」

ティア 「あらあら、そうなの。私はティアと申します。アーシェちゃんの旅の仲間兼保護者をやってます。」

アーシェ 「旅の仲間ってのは認めるけど、保護者は勘弁してくれねぇかな?」


とりあえず……談笑を含んでの楽しい昼食を済ませ、再出発の準備をする。


アーシェ 「あっ……なぁ、コルボーは南下するんだったよな?」

コルボー 「あぁ。南下したら次は西、北……かな。大陸中央にも行ってみたいとは思うが……とりあえず、本土から呼び戻しの連絡があるまでは、道なりに旅をするつもりだ。」

アーシェ 「そっか!じゃあ、どうせなら私達と一緒に行かないか?進む方も一緒だし……何より、地元民が1人でも居たほうが良いだろ?」

コルボー 「いや……そう言ってくれるのは嬉しいけど、女性だけの旅に野郎を含んで大丈夫なのか?何より、お前の独断で決めてしまってるようだが、ティアの意見は……」

ティア 「私?私もアーシェちゃんの意見に賛成。旅の仲間は多い方が楽しいし……何より、男の人が居てくれると心強いわ。」

コルボー 「そうか?じゃあ、ティアの賛同を得られたようだし……アーシェの勧誘を受けるとするかな。しばらくの間、厄介になる。宜しく頼むぜ、アーシェ、ティア。」

アーシェ 「おう!私達の方こそ、よろしく頼む。」ニコッ

ティア 「宜しくね、コルボーさん。」ニコッ


私はコルボーと握手を交わし……そのまま、コルボーの顔を引き寄せる。


コルボー 「うおっ!?」

アーシェ 「(コルボー。その……さっきの泉の件……ティアには内密に……頼む!お互いのためにも……な?)」ヒソヒソ

コルボー 「(あ……あぁ、わかった。)」ヒソヒソ

ティア 「どうしたの?2人共。」

アーシェ・コルボー 「「いっ……いや、何でも無い!!」」

ティア 「本当?何か、アーシェちゃんの顔が赤いんだけど……」

アーシェ 「気のせい!!全然大丈夫、問題無い!平常運転だから!!ほら、出発しようぜ!!」/////


くっ………思い出しただけで、顔が熱くなってきた。


けどまぁ……うん。衝撃的な出会いだったけど、新しい仲間ができた事は素直に喜ぶべきだろう。


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