2015-12-10 02:54:05 更新

概要

バイク×ラブコメ オリジナルSS第二章突入です。
第8話公開しました。


前書き

始動編(前章):[http://sstokosokuho.com/ss/read/2800]


第1話

ここまでの登場人物

本多貴志(ほんだたかし)  :本作の主人公...のはず。

河咲光希(かわさきみつき) :貴志の幼馴染。バイク馬鹿。

珠洲城貴音(すずしろたかね):貴志のクラスメイト。美少女。

温宮信士(あつみやしんじ) :貴志のクラスメイト。アニオタ。

本多洋介(ほんだようすけ) :貴志の父親。元バイク乗り。

本多美穂(ほんだみほ)   :貴志の母親。ちゃっかりしている。

河咲 玲(かわさきあきら) :光希の兄貴。光希のバイク馬鹿は大体この人のせい。



先週の確認テストが返ってきた。おかげでクラスではお互いの点数を見せ合いっこしたり見せ合わず相手を牽制したりと騒々しい。


貴志(まあ、こんなもんだな)


信士「貴志、テストどうだった?」


テスト前日に深夜アニメをリアルタイム視聴していた奴の点数がいいわけないと思うがとりあえず相手してやる。


貴志「まあ、お前よりはいいと思うぜ」ペラッ


信士「なんだ、あんまり変わんねぇじゃん」ペラッ


   英 数 国

貴志:81 93 73

信士:82 83 85


おかしい、こんなわけが…


貴志「嘘だと言ってよバーニィー...」


信士「フッフッフ…少し本気を出してしまったな」メガネクイッ


貴志「納得いかねぇ!」


信士「次は中間テストが楽しみだな」メガネクイッ


眼鏡してないくせに眼鏡を上げる動作をする信士は傍から見たらバカだが、この点数だからバカにできない。だけどムカつく。


光希「ねぇねぇ、二人はテストどうだった?あたしはこんな感じー」パラッ


58:73:98


貴志「偏ってんなーお前。こんな点の取り方でよくこの学校入れたな」


光希「う、うるさいな。普段のテストと受験は違うんだよ。それに、国語とかあんたたちより10点上なんだからね」


信士「まあ、僕らの平均的は河咲さんより10点上なんですけどね」メガネクイッ

 

光希「うっ…それはそうだけど…てか、なにその動作ムカつくんだけど」


ほらな。あの似非メガネ動作は誰だってムカつくんだ。まあ、英語と数学の点数についてつっこまなかっただけ信士もいいところあるな。ああ、光希、ヘッドロックはやめてやれ…


さて、珠洲城は…


貴音「…( ゚д゚)……」


おう…放心しておられる。今は話しかけるのはやめておこう。


〜〜〜〜

放課後(駐輪場)


光希「貴志、今日も自転車?」


貴志「うん、当分は教習所いくから自転車だよ」


光希「じゃあ、送り迎えもやるから明日かあたしの後ろに乗らない?バイクの感覚も養えるしさ」


貴志「えー、いいよ。悪いし。免許とったら一緒に通学するからそれまでの楽しみにしておこうぜ」


光希「あ、うん楽しみにしてる…///」


よかった。あんな怖いタンデムはもうしたくないんだ。すまんな光希。


貴志「じゃ、また明日…」


貴音「貴志くーん!!」


光希「?!」


貴志「なんだ、珠洲城か。どうした」


貴音「なんだじゃないよ。私も今日行くのよ。一緒に行きましょ?」


貴志「おう、別に構わないぞ。じゃあな、光希」


貴音「河咲さん、また明日ね」


光希「…えっ…あ、うん。じゃあね…」


光希(えっ…えっ…えーーっ!…二人ってそうなの?…気付かなかった…)


〜〜〜〜

教習所


貴音「貴志くん、今日の教習は何限まで?」


貴志「えっと、実技やって...最終限の学科までいるかな」


貴音「ふむふむ...」


チャイム〜♪


貴音「あ、学科始まっちゃうから、また後でね!」


貴志「あ、うん。それじゃ!」


...ん?...また後で...?


教官「えー、今日の実技ではシフトチェンジをスムーズに行いつつ、的確なギアに入れることとが課題です。狭路、パイロンスラロームもやりますが今日は慣れて、第一段階の見極めまでにできるようになればいいです」


見極めかぁ…難しいのかな…

ただ、シフトチェンジは昨日問題なくできたから俺の今日の主な課題は狭路とスラロームかな。よし、やるぞ!今日の相方は19号車だ。


キュルルル...ブボォン...ボッボッボッボッホ...


はぁ...いいなスーフォア。教習車仕様でハイパーブイテック機能がオミットされているとはいえ、直列4気筒の音は良い。光希のCBRだってモリワキのスリップオンが付いているからエキゾーストノートは悪くなんだけど、やっぱり4気筒の官能的な音には敵わないんじゃないかな。それに400ccだから250cc4気筒のバイオスやHORNETよりも野太さというか迫力があるのも良い。だからこそCB400SF/SBの売上は衰えないのだろう。コイツを買うと一生コイツでバイクライフが終わってしまうと言われているほどいいバイクだ。でも、個人的にはCB-1のほうが欲しかったりする。


慣らし走行が終わったところで狭路の練習に入る。ここでは、目線を常に先のコーナーに持っていくことが重要だ。この行為はタイヤの先など目の前に視線を落とさないので初めのうちは不安になるが慣れれば先を見通すことができて、安全予測もしやすくバイクもふらつかなくなる…らしい。


狭路は特に問題なくクリアできた。なんだ余裕じゃん♪

このままのノリでスラロームも…ってあれ…あれ…あれれ…2つ目のパイロンまではうまく進めたが3つ目からタイミングがずれてきてどんどん曲がりにくくなってしまった…なんだこれ…


教官「目の前のパイロンしか見てなかったでしょ?スラロームも常に先を見て考えながら走らないと今みたいに途中で苦しくなっちゃうよ。」


なるほど…一つ目のパイロンから全体を考えてコースを組み立てないと今みたいに後にツケが回ってきてしまうのか。


その後、何度かチャレンジしてようやくツケが回って苦しくなるということはなくなった…しかし、これでは目標タイムを超えてしまうから減点だな…


教官「減点?ああ、今日は慣れるのが目標だからね。毎回練習するから卒検の頃には余裕でタイム下回れるよ。ちゃんと練習してればね…だから、頑張ってね!」


教官に励まされて今日の教習は終了した。その後の学科はスラロームのイメトレをしていたら気付いたら終わっていた。まあ、後で教本読んで見直せばいいかぁ。ラウンジの前を通って出口に向かっていると


貴音「女の子を待たせるなんて、あんまり良い趣味ではないわね」


珠洲城は実技を終えて帰らずここで待っていたようだ。


貴志「...」


貴音「ちょっちょっと無視して帰ろうとしないでよ。今のはあなたを待っていたってことよ」


貴志「...え?なんで?」


貴音「なんで?って...また後でねって言ったじゃない」プクー


貴志「てっきり、また明日のことかと...」


貴音「...もう...鈍いわね。まあいいわ。とりあえず、お腹ペコペコだから何か食べに行きましょ」


貴志「まさか、奢ってもらうために...?」


貴音「あら、奢ってくれるの?...なによ、冗談だからそんな目しないで。この辺なんか美味しいところある?」


グゥ〜


貴志「確かに、腹減ったな...じゃあ、あそこ行くか」


貴音「すぐに候補が出てくるなんて、ちょっとポイント高いじゃない!」


貴志「ポイントって何のだよ?小町ポイントか?」


貴音「?」


貴志「いや、なんでもない...です...」


貴音「とにかく、早くあなたのオススメのお店にいきましょ?」チャリンチャリン


チャリンコのベルで催促するのはやめてくれ...

とにかく、学年一の美少女と飯を食うことになったわけだが、なぜかワクワクできない...


貴音「はやくぅー」チャリンチャリン


貴志「あーはいはい。今行きますよー」


〜続く〜


第2話

教習が終わり帰ろうとしたら珠洲城の待ち伏せをくらい、腹も減っていたからドラゴンでご飯を食べることになったわけだが…どうしてこうなった。


カランコロン〜♪


マスター「いらっしゃーい。お、タカか。前回来てからまだ一週間も経ってないぞ?」


貴志「まあね。知り合いにオススメのお店案内しろって言われちゃったから」


マスター「ほー、知り合いねえ…チラッ…なに、光希ちゃんから乗り換え?」ズイッ


貴志「なんでそうなるんだよ。高校のクラスメイトで教習所が同じだけだ。それと光希とはそういう関係ではない」


マスター「なんと!あの子もバイク乗るの?最近の女の子はアクティブだねー」


この人も俺の話半分しか聞かねえ…


貴音「こんばんは。珠洲城貴音です。貴志くんがオススメだって言うから連れてきてもらいました」


マスター「いらっしゃいませ。ぜひ、うちの常連さんになってくださいね。それで、お二人ご注文は?」


貴音「貴志くんに任せるわ。お腹ペコペコだから量は多いほどいいわ」


貴志「えー、おまかせって困るんだよなー。じゃあマスター、ナポリタンとオムライス一つずつで」


マスター「紅茶とコーヒーどちらにしますか?」


貴音「レモンティーってできます?…ならそれで」


貴志「あ、俺は…」


マスター「アイスカフェオレね。わかってるから。それではお二人ともしばしお待ちを」


貴音「フフッ…ここのマスターさん面白い人ね」


貴志「段々とめんどくさくなるけどな」


貴音「河咲さんともよく来るの?ここ」


貴志「よくは来ないけど、前に教えたらここのパフェにやみつきになったみたいでしょっちゅう来てるらしい」


貴音「ふーん、なるほどね」ニヤニヤ


貴志「な、なんだよ。ニヤけるような話はしてないだろ」


貴音「別にぃー」


貴志「そういやさ、今日のテスト返ってきた時、呆けてたけどそんなにでき悪かったのか



貴音「あ、それ聞いちゃう?聞いちゃうの?」


貴志「い、いや、話しにくいならいいけど」


貴音「別に結果が悪くて呆けてたわけじゃないわよ。全部の解答が合ってたのに名前書き忘れて0点にされてたからよ」


貴志「あーあ、受験の時はよく大丈夫だったな」


貴音「受験の時は本当に注意してたわ…受験終わって気が抜けちゃったのかしらね。こんなんだと教習の方も心配よ…ハァ…」


貴志「でも、良かったよ。珠洲城にそういう弱点があって」


貴音「なんでよ」


貴志「だって何でもできちゃう完璧超人だとつまらないじゃん?」


貴音「そう…ね。そういうことにしておくわ…フフッ」


ヘイ オムライス ナポリタン オマチッ


貴志「おっきたきた!えっと…どっち食べたい?」


貴音「どっちがあなた的におすすめなの?」


貴志「どっちもだな」


貴音「それじゃ…半分ずつ食べましょ?私も両方食べてみたいし」


マスター「そうなると思いまして...取り皿を」ガシャ


貴音「ありがとうございます。さすがですね、マスター!」


マスター「いやそれほどでも…」テレッ


貴志「マスターありがとう。そんじゃオムライス先に半分取っちゃうね。いただきまーす」


貴音「ならナポリタン先にいただくわね。いただきます」パクッ


貴音「!?」


貴音(なにこれ美味しい…トマトの酸味とコクを閉じ込めつつ、ガーリックとオニオンの香ばしい香りが食欲を刺激させてフォークが止まらない!)


貴志「やはり珠洲城もナポリタンの虜になったか」ニヤッ


貴音「悔しいけど…期待以上よ…すごく美味しい。タバスコをかけるともっと美味しくなるのね」


そう言いながら珠洲城は次のオムライスに手を伸ばしていた。


貴音「…モグモグ…あら、玉子の中に入ってるソースはタルタルね。チキンライスの油っぽさをいい感じに和らげてるし何より玉子に玉子ソースってのが面白いわ。それにこれもすごく美味しい」


マスター「こんなかわいい娘に、美味しい美味しいって食べてもらえてオジサンは嬉しいよ!」ナミダドバー


貴志「俺も連れて来た甲斐があるってもんだ」


貴音「ごちそうさま。…ふぅ…こんなとこにこんな名店があるなんてね。また、来ましょう」


貴志「あ、うん。そのうちね」


貴音「約束よ?…今度はパフェを食べにきましょう。ご飯が美味しい喫茶店のパフェはだいたいアタリなのよ」


さすが女子、デザートには目がないこって。

珠洲城は食後のレモンティーを飲みながら次の来店へ向け目を輝かせていた。

その輝く横顔はまるで一つの芸術かのようにずっと見つめていたくなるものだった。やっぱ、美人だなこいつ。


貴音「あ、もうこんな時間。楽しい時が過ぎるのは早いわね。今日はもうそこの駅に自転車おいて帰るわ…」


貴志「おいおい、そしたら明日は駅からどうするんだよ最寄りはもう一個先だぞ?」


貴音「分かってるわよ。早く起きて一駅分多く漕げばいいだけよ。今日のこの楽しい時間に比べたら安いもんよ」


貴志「そうか、それならいいけど。とりあえず、駅まで付いてくよ」


貴音「あら、意外と紳士なのね。てっきり、ここでじゃあまた明日な!って言われるのかと思った」


貴志「光希は男みたいなもんだからいいけど、珠洲城やクラスの女子達にそういうわけには行かんからな」


貴音「また河咲さんは特別扱いなんだ?」


貴志「なんでそうなるんだよ。くだらいないこと言ってると先帰るぞ、どうせ駅はすぐそこなんだ」


貴音「う…それは…ちょっと困るわね…ごめんなさい。駅まで送ってください」


貴志「良かろう」


貴音「よかった…それじゃマスターごちそうさま、また来ますね」チャリン


マスター「まいどあり!貴音ちゃんまた来てね。待ってるよー!」


カランコロン〜♪


貴志「あーあ、マスター早速お前のファンになっちまったぞ」


貴音「ファンなんて大げさよ。今日はありがとうね。ご飯だけじゃなくて美味しいお店まで教えてくれて。パフェ楽しみにしてるわ」


雑談してるうちにもう駐輪場だ。ドラゴンは駅のロータリーから一歩外なので実はアクセスは悪くない。


チャリンコ ガッチャン


貴音「それじゃあね。貴志くんも自転車気をつけて帰ってね」


貴志「ああ、ありがとうな。気をつけて帰れよ」


貴音「はーい、バイバーイ」


〜〜〜〜

自宅


貴志「ただいまー」ガチャ


美穂「おかえりなさい。ご飯外で食べてきたんでしょー?」ガチャ


リビングから母が顔を出してきた。疲れ果ててる俺は2階の自分の部屋に向かいつつ適当な返事をした。


貴志「うーん。今日はもう疲れたから寝るよー」


美穂「それだったらお風呂だけ入っちゃいなさい」


貴志「わかったー」


美穂「それと、……」


母の声は二階に上がった時にはほとんど聞こえなくなっていたが、恐らくテストの結果見せろとかそういうことだろ。


ガチャ


光希「おそいっ!」


貴志「うわっ…なんでお前が俺んの部屋にいるんだよ!?てか、そこ俺のベットじゃねぇか何寝てんだよ」


光希「それは…その…珠洲城さんとのことについて聞こうと夕飯食べ終わってからずっと待ってたのにあんたが帰ってこないからおばさんが部屋入って待ってて良いって言ってくれたから待ってたんだけどあんたがあまりにも遅くて気付いたら寝ちゃってたのよ!」


貴志「そんなむちゃくちゃな…」


光希「で!あんたは…その…珠洲城さんと、つつ付き合ってんの?!」


貴志「はあ?なんでそうなんだよ」


光希「だだだって、いきなり一緒に帰ろうなんておかしいでしょ」


貴志「ああ、あれは…(あれ?珠洲城が免許取ることって言っていいのか?)」


光希「あれは…なに?」


貴志「(まあ口止めされてないしいいか)あれは、珠洲城が中免取りに通ってるからだよ。お前と同類だよ」


光希「へ…え?マジで?」


貴志「うん、マジ」


光希「へぇー、そっかー。そうだったのかー」


貴志「てかさ、俺らがそう見えたなら…」


光希「ん?」


貴志「俺と珠洲城の組み合わせって似合ってた?」テレッ…


光希「は…?」


貴志「いや、学年一との美少女とお似合いって思われるんだったらありかなーって思って」


光希「…ってない…似合ってないっ!」


貴志「…いや、そんな強く否定しなくてもいいじゃん…まーそう言われると思ってたけど」


光希「うるさい。うるさい。うるさい。とにかく二人は似合ってない!それと付き合ってないのね。わかった。もう帰る」


貴志「なんだよ、そのためだけに待ってたのかよ。変なやつだなぁ」


光希「でも…安心した…」ボソッ


貴志「え、まだ何かあんのか?」


光希「ううん…何でもない。おやすみなさい。貴志」バタンッ


貴志「ほんと変なやつ」


光希はそのままバタバタと階段を降りて母と何か話して帰ってたようだ。母が何故かテンション高そうに話していたのはなんとなくわかったが会話の内容までは聞こえなかった。

明日もあるしもう寝るか。光希のおかげでなんかまたドッと疲れた気がする。ああ、風呂は明日の朝シャワー浴びればいいや。バタンキュー


〜続く〜



第3話


河咲宅


あーもう。驚いたー。紛らわしいことはしないでよね。まあ、でも良かったかな。


貴志の家から戻った光希はブツブツと独りごちながらベットに向かっていた。


んーアイツの部屋で寝ちゃったからかな。全然眠くないや。どうしよう...

そうだ。こういう時は夜走でもしてリフレッシュすれば寝れるかな。よし決めた。

さっさと着替えを済ませた光希はバイクを庭から出して、夜なのでご近所の事を気遣いながら車の通りがある道まで押していた。


ハッ...ハッ...ハァ…


な、なんで手で押すとこんなに重いのコイツ...エンジンかけた時と全然感覚違う...…フゥ...

ここまで、くればさすがに大丈夫だよね。


キュルル...ドゥルルルン...ダッダッダッ...


エンジンをかけると光希の鼓動も高鳴りを始めた。


なんか、夜の道ってワクワクするなぁ...でも、見えにくい分、気をつけないとね。


ドゥルルン...ダッダッダダダドゥルルル...


ヘルメットのシールドをシャッと閉めてスロットを捻り走り出していく。光希はこのシールドの締め方にも拘りを持っている。

夜の幹線道路は通行量が少なく、ストレスフリーに走れる。排気ガスも少ないので、心地よい風が涼しく頭がだんだんと冴えてきた。

街灯の光が尾を曳いて流れていくのを見ると同じ道でも昼間とは全く違う様子だ。光のひとつひとつがクリスマスツリーの電飾のように輝きを持っているかのようだった。


バイパスを抜けて郊外の大学やショッピングモールなど大きい施設ばかりで人気のない道に出た。この道を少し行ったところに三叉路、また少し行くとセブン・イレブンがある。このコンビニは休日はライダーたちの集合場所になり古い機種から新しい機種までズラッっとバイクが並ぶのでなかなか壮観な眺めなのだ。しかし、今いるのは光希のCBRだけだ。

ここまで一時間くらいだろうか、土日ならどんなに頑張っても二時間はかかってしまうので、光希は時計を二度見した。


え、まじ…?確かに車とかほとんどいなかったからススーッってこれたけどこんなに早いの?そりゃ、夜走る方がいいって言う人がいるわけだわ…


夜走の魅力に気付きつつ、光希は店内に入っていく。買うのはもちろんブラックコーヒーだ。


ふふーん、一度やってみたかったんだよね〜夜のパーキングエリアとかで休みながらコーヒー飲むやつ。


ホントはタバコもあると格好がつくんだろうが、保健の授業で散々体に悪いということを知ったので手を出す気にはならなかった。


それに、あれ一箱でガソリン代2リットルちょっとになるし…もったいない…


外に出て駐車場に止まっている自分のCBRを見つめる。月の光でホワイトカラーがいつもと違う艶やかさを纏っている。縁石に腰掛け、ちょこんと体育座りで缶のプル引いた。


パコッ グビッ


うぇ…苦い…やっぱりカフェオレにしておけばよかったかも…


ブボォン…ブボボッボッ…


光希がブラックコーヒーとにらめっこをしていると一台のSS(スーパースポーツ)が駐車場に入ってきた。


ブボボッボッ…キィッ…ブボォン…カチッ…


ああ、あの人エンジン切るときあたしと同じ癖を持ってる。クスッ

インターカラーの5VYかーかっこいいなー。最近は4C8や出目金のR1ばかり見るようになっちゃったもんね。


YZF-R1がバイクの名前で、5VYというのは型式名称だ。R1はヤマハ発動機のトップパフォーマンスを目指して作られたフラッグシップモデルであり、スーパースポーツに分類されるバイクだ。川崎重工ではZX-10R、本田技研工業はCBR1000RR、スズキはGSX-R1000というように他社もリッターSSをフラッグシップモデルとしてラインナップしている。各社の思いが一番詰まったジャンルと言っても申し分ないだろう。

ちなみに、インターカラーとは黄色地に黒オビと白スリットが入ったものでヤマハが昔レース車に使用していたカラーリングだ。カラー名称が沢山あり、統一のためヤマハはスピード・ブロックという名称を使用しているが、ファンの間ではインターカラーやストロボカラーと呼ばれることの方が多い。


あたしはやっぱり5VYのスタイリング好きだなー。4C8はマッシブになっちゃったからなんか違和感がね…


ブボボッボッ…ブボォン…キィーッ…パチン…


彼の仲間だろうか。入ってきたもう一台のSSがR1の隣に止まった。


オマエ ハエーヨ コチトラ イッパイ イッパイ ダゾ


どうやら、仲間らしい。二人ともつなぎを着ており、夕涼みと言うよりは攻めの夜走のようだ。

仲間のバイクは10Rだ。カミキリムシのような昆虫顔で、最近のカワサキでは低排気量から大排気量までこの顔に統一されている。


R1と10Rかぁ…ツナギも着てるし走り屋なんだろうな。もっと、仲間がこれから集まってくるのかなぁ?


二台の方を見ていたらふと10Rの乗り手と目があった。メットを脱いでこちらに近づいてくる。


えっ…なに…あ、イケメンだ。ちょっといいかも…じゃなくて…あ…


10R「ちゃーす。一人で走りにきたの?」


うわあ…これってナンパってやつ?やだなぁ…


10R「…女の子が夜走してるの初めてみたからさ。この先、狭くなってから広がったとこ工事やってたから気をつけてね」


光希「あ、はい。ども」


10R「それでさ…よかったら…」


R1「おい、拓也そのくらいにしておけ。お前はナンパなんかしてるより俺に追いつくことが先だろ」


拓也と呼ばれた10Rの男はR1の人に引きづられるように戻っていった。


R1の人もイケメンかも…ズッズッ…あコーヒー終った…なんか、絡まれるのもやだし今日はもう帰ろうかな。ヨイショッ


キュルルッ…ドゥルルンッ…ダッダッダッ…


うわ…こっち見てるよ…モリワキ管のせいなのかなぁ…


光希は二人にペコリと軽く会釈してコンビニを後にした。


〜〜〜〜

河咲宅


ダダ…ドゥルルンッ…パチンッ…


帰ってきた時には夜中の1時を回っていたので庭にバイクを戻しそーっと自室に戻った。幸いながら、一家全員爆睡していたようだ。


フゥ…お父さんに見つかるといろいろ面倒くさいからね…良かった。うーん…ちょうどいい感じに眠くなってきた…明日の目覚ましつけたし、大丈夫だよね。オヤスミナサーイ…ウトウト…


〜続く〜



第4話


昨日は、珠洲城と飯食ったり、光希がうちに来たりで大変だったな。おかげで今日の授業も眠くてほとんどグッスリでノート取れなかった。そういや珠洲城、今日は教習ないって言ってたな。


と思いながら、帰宅するやつ、部活に向かうやつがいる教室を眺めていたら光希が珠洲城に話しかけていた。


信士「おや、気になる相手たちが話合っているのがそんなに気になるんですか。リア充さん」


貴志「うわっ、お前いつの間に隣に来たんだっ」


信士「たった今だよ」


貴志「もっと存在感出せ。ってか、なんだよ、気になる相手たちって」


信士「またまた〜、見ましたよ昨日学年一の美少女と下校なさるのを。他のクラスなんかじゃ、夜にお前らが隣の駅で別れるところを見たって噂もあるんだしさ。おい、どうなんだよ、裏切り者め!羨ましいじゃねか」


貴志「ああ、それは…やんどころない事情があるんだよ。あと一ヶ月くらいしたらわかるさ」


信士「それはつまり…カップルであることを1ヶ月後に公言すると…そういことなんですな…しねぇリア充!」


貴志「だから違うって。あと一ヶ月おとなしくしてればわかるから」


信士「チッ…それにしても河咲さんも大変だな…」


貴志「なんで光希が絡むんだよ。わけわからん。俺は教習行くわ。んじゃな」


信士「…そのうちわかるよ…んじゃな」


〜〜〜〜


光希「ねぇねぇ、河咲さんて中免通ってんの?」


貴音「ええ…まあ…ああ貴志くんに聞いたのね。河咲さん、お願いなんだけどあんまり人には言わないでもらえるかしら」


光希「えっ…どうして?」


貴音「だって…多くの人はバイクにはあまりよくないイメージ持ってるじゃない?だから、乗り始めるまでは黙っていたいの」


光希「あ、そうなの。わかった。誰にも言わない。その代わりってのも何だけど、河咲さんのバイク選び手伝わせてよ。いろんな車体見に行く時足としてあたしのこと使っていいからさ」


貴音「本当!?それは…すごく嬉しくて助かるわ!あ、私のことは貴音でいいわよ」


光希「よかった!もしよければ、早速バイク屋さん行かない?」


貴音「そうね。今日は教習ないし、ちょうどいいわね。明日のために自転車を駅においていきたいから、駅集合でもいいかしら?」


光希「いいよー、じゃあ、3時に駅前のロータリーで」


貴音「楽しみにしてるわ」


〜続く〜


第5話


駅前ロータリー


ドォルルン…ダッダッダッ…


光希「お待たせ。待たせちゃった?」


光希は貴音にヘルメットを渡しながら聞いた。


貴音「ううん、3分くらいだから全然平気よ。ありがとう。よいしょっと…」


貴音はヘルメットを受け取ると慣れた手つきで顎紐を締めてタンデムシートに乗る。


光希(わわっ…この人ナチュラルに腰に手を回してきたよ。背中にも胸あたってるし…なんか女の子相手なのにドキドキする〜っ)


光希「タンデムグリップはそこだから。どっちかの手はそこ掴んでて」


貴音「了解しました。お手柔らかにおねがいしますね」


光希「それじゃ、いくよー」


ダッダダダッ…ドゥルルル…


駅から北へ少し行くとかなり大きい幹線道路に出る。この道路沿いには車屋とバイク屋が500mに一軒の間隔で並んでいて、今日行くバイク屋はこの国道を進んだところだ。全国チェーンを展開しており、バイクの品数は豊富なので実車を見に行く時は持ってこいなところなのだが、アフターサービスやメンテナンスの評判はあまりよろしくない。白地に青色でオッサンが描かれその下にはBlue Earlと書かれている看板が目印。


ドゥルルル…ダダダッ…ブォォン…カチッ


光希「ついたよー」


貴音「フゥ…河咲さん…あなた、運転上手ね」


光希「そう?ありがとう…えへへ」


光希「あ、あたしのことは光希でいいよ」


貴音「そう。わかったわ光希さん」


光希「なんか照れるね…えへへ…ところでお目当てのバイクは決まってるの?」


貴音「うーん、特には」


光希「じゃ少し回ってみようか。排気量とか決めてる?」


貴音「400か250かな」


光希「ならさ、あたしとお揃いのCBR250Rとかどう?新型は2つ目になって見た目も良くなったし」


貴音「ごめんなさい。ちょっと違う...わ」


光希(もしかして、貴音は感覚で探してるのかな?それなら...)


光希「そしたらさ、ちょっと一人で店内フラついてピンとくるの探そうよ」


貴音「そうね、そうしてもらえると助かるわ」


光希「もしなんか聞きたいことあったら呼んでね」


~~~~

20分経過

~~~~


光希「どう?ピンとくるのはあった?」


貴音「そうね。このお店には私が求めるバイクはいなかったわ」チラッ


光希(キュピーン!)


光希「フッフッフ…見逃してないよ貴音。さっきからこの辺りを行ったり来たりしてたでしょ?」


貴音「べべべ別に、そんなことなんてしてませんことよ?みみ光希さん!?」


光希「あーもうわかりやすいなー。言葉遣いおかしくなってるよ。なに、この中のどれがいいの?」


貴音はまだごまかせるのかと思ってるのか滝のような汗を出しながらそっぽを向いている。


光希「うーん、それじゃぁね…CBR250RR…ZXR250…FZR250R…」


光希はチラチラと貴音の様子を見ながら端からバイクの名前を読み上げていく。


光希「ZXR400R…GSX-R400…RVF400…」


貴音「!ッ…」ピクッ


ああ、なるほどねという得意げな顔で光希は貴音を見た。


光希「わかる。わかるよ〜黄金時代に生まれたぶっ飛びはっちゃけバイクだもんね。あたしもこいつに惹かれたんだよねー。貴音がレーレプ狙いだったとは…気づかなかったな。なんで、隠したの?」


貴音「だ、だって...走り屋バイクで女の子ぽくないじゃない?だから、あとで改めて一人で来ようかなと思って...」


光希「なんだ、そんな事か。それならあたしのCBRだって同じようなもんよ。そういうことなら、ちょっとお店変えるよ」


引っ張られるようにお店から連れ出された貴音は何がなんだかわからなかった。


貴音「ちょ、ちょっと待ってよ。どうゆうこと?私、あの子にビビっときたんだからもう少し見させて欲しいのだけれど」


光希「このお店はあまりアフターサービスとか良くないし値段もぼったくりだよ。さっきのRVFも状態は微妙なのに50万もするし…だから、近所にあるスポーツ系バイク専門のお店に行こうってこと。もっと状態いいのあると思うよ」


光希の説明を聞いて貴音は納得したという思いから、気づけば専門店という響きにニヤつきが止まらなかった。


〜〜〜〜


ドゥルルル…ダダダッ…ブォォン…カチッ


光希「ここがあたしのおすすめのお店。あたしのCBRもここで買ったの」


貴音「MMMオート…なんて読むのこれ?」


光希「あー、あたしはトリプルエムって呼んでるけどどうなんだろ?…こちんわー!おじさんいるー?」


光希の声を聞いて店の奥から店主とみられる中年の男性が出てきた。


店主「おお、お前か。CBRの調子はどうだ?」


光希「良好良好!チェーンメンテも教えてもらったとおりやってるよ」 


店主「いい心がけだ。ちゃんと面倒みるとその分バイクも答えてくれるかな…ん…こちらはお友達かい?」


貴音「はじめまして。珠洲城貴音といいます。本日は河咲さんにつられてバイクを見に来ました」


店主「なんだい。最近はバイクが女の子で流行ってるのか?まあ若いもんが乗ってくれるのは嬉しいよ。店主の森村南(もりむらみなみ)だ」


貴音「えっ…じゃあ…MMMって…」


森村「ああ、私の名前からだよ。スリーエムとでも読んでくれ。ところで、お目当てのバイクは?」


光希「それがね。おじさん。この子、そこのアールでRVF400に一目惚れしちゃって…」


森村「なんと…へぇ…まだまだ若い奴にも見込みのあるのがいるのか、RVFは店の右奥に何台があるよ見ていきな」


店の奥にはRVFが4台置いてあった。中でも右端にあった車体は群を抜いて輝いており、光希と貴音が吸い寄せられるようにその車体を覗き込む。


光希「おおぉ…やけに状態綺麗だと思ってたら、ワンオーナーだし、足回りも手が入ってて、チェーンスプロケも良さそう。オーナーの愛を感じるね。距離は走ってないけどバックステップとFCR入ってるのみると、サーキットで少し走らせただけなん…げっ!?…」


光希が驚きの声を上げた理由はその値段だった。


車両価格:¥538000

乗り出し:¥610000


光希「や、やっぱり…高い…((((;゚Д゚))))」


貴音「そう…なの?…でも状態と機能とか中身考えたら安い方だと思うのだけれど…」


たしかに、600000円というのはかなりの値段だ。だが、このバイクの素性を考えれば決して高すぎるという値段ではない。むしろ、ワンオーナー車なことを考えるとお買い得で、それなりの人の目に止まれば即売り切れである。


光希「たしかに…そうだけど…でも学生が買える値段じゃないでしょ?…」


貴音「ううん。私、これ買えるよ。小さい頃からコツコツためたお金と、お父さんについていって競馬で大穴当てたときのお金があるから、維持費はバイトすれば何とかなるでしょう」


光希「えっ?…マジ?買えちゃうの?これ、買っちゃうの?」


貴音「うん。私決めたわ。この子買います。すいませーん!!」


整備場でうんうん唸ってた森村がでてきた。


森村「お、お嬢ちゃんいい目してるねー。そいつは今週入ってきたばかりの目玉だよ。チェックして特に問題がなかったからその値段にしたんだけど、大丈夫かい?」


貴音「はい。お金はあるので。でも、今、教習中なので免許取るまで置いておいてもらえますか?」


森村「いいよ、そのくらいは。お隣にいる奴だってCBRで同じことしてたからな」


光希「えへへへ~、おじさんあんときはほんと助かったよ」


森村「そういうわけだから構わないけど、手付金は2日以内だがそれでもいいかい?」


貴音「はい!2日もあれば十分です!!」


森村「あとハンコと住民票も」


貴音「はい!!」


光希「貴音良かったね。お目当てのが商談中じゃなくて」


貴音「そうね。これも全部縁だと思うわ。普段の行いがいいからかな?」クスッ


光希「じゃあ、おじさん、納車整備よろしくね!それと、3000kmになったらCBRまた点検しにくるから」


森村「あいよ。気をつけて帰れよ。買われる前にその嬢ちゃんに死なれちゃかなわんからな...ワハハハ」


貴音「そういうことで、安全運転でおねがいしますね。光希さん」


光希「信用ないなー」クスッ


キュルルル...ブォォン...


森村「しかし、女子高校生がRVFとはね...今年の富士二は面白いかもな...フフッ」


はにかみながら去っていく二人の少女の背中を見ながら森村は呟いた。


~続く~


第6話

翌日


光希「貴音…そんなにRVFのことばかり考えててもどうしようもないよ?」


貴音「ビクッ…そ、そんなにわかりやすい?」


光希「うん。後ろから見てたけどずっと上の空だったでしょ?」


貴音「だ、だって、今日は教習でバイク屋さん行けないから気になっちゃって…」


光希「大丈夫大丈夫。私も同じようなときあったけど、こういう日は教習にちゃんと集中した方がいいよ」


貴音「そうね…教習進まないとどっちにしろ乗れないものね…」


光希「そういうこと」


貴音「うん。RVFのためにもがんばる!」


光希「いい心がけだね。じゃ頑張ってきてね」ニヤニヤ


貴音「ありがとー!」


光希(初々しいわねー。あたしの時もこんなんだったのかな…それにしても)チラッ


貴志「ふわあぁあ~~~」


光希(あんな大あくびして...あいつには初々しさってものがないのかねぇ...)


貴志「あっ、やべ。教習に遅れちまう」アセアセ


光希(おい...)


~~~~


翌週


貴志「よぉ、光希」


光希「なに?あんたから絡んでくるとか珍しいじゃない」


貴志「フフン...これ見てみ」チラッ


そう言って貴志はスマホの画面を光希に見せびらかした。


光希「あ、これって一段階合格のハンコじゃん?!進むの早くない?」


貴志「毎日通ってたし、この前の週末に一気に進んだからな。昨日、押してもらったばっかのホヤホヤだぜっ!」ドヤァ


光希「なんか、その顔ムカつくわね」


貴志「そういや、玲さん、グースについてなんか言ってなかった?」


光希「いや、特には聞いてないけど」


貴志「そっか...そかそか。ならいいや。んじゃ、俺これから教習だから」


光希「頑張んなさいよ。は、早くあたしとツーリングできるように...さ」


貴志「ん、ああ。サンキュな」


光希(最近はこうやって放課後にバイクの話をすることが増えたなぁ)


~~~~


翌日


???「ねぇ、珠洲城さんてバイク買うの?」


その質問はあまりにも唐突だった。購買で買った毎日数量限定の爆熱!ゴッドカレーパン!!に完全に気を取られていたからだ。


貴音「え?...え???」


次第に相手の顔が、どこかで見たことあるな、から、クラスメイトだという認識になった。


???「あれ、もしかして僕の名前覚えてない?」(´・ω・`)


貴音「そ、そんなことないわよ。いきなり声をかけられたからびっくりしただけ。ちゃんと覚えているわよ、駆間星也(くませいや)くんでしょ?」


星也「あーよかった。おぼえられてて」


貴音「それで?私になんの用かしら?私はこれからこの数量限定で中々手に入らないレアカレーパンで至福の昼休みを過ごそうとしているのだけれど」


星也「あ、ごめんね。そのカレーパンそんなにレアだったんだ...じゃなくて、家の近所にMMMオートっていうバイク屋さんがあるんだけれどそこでこの前、すずs ムグゥ」


星也が気付いた時には既に背後を取られて、口にカレーパンが詰め込まれていた。そして、貴音が背後から囁いた。


貴音「言うとおりにすれば危害は加えないわ。でも、もし抵抗するようならこのハバネロより10倍辛いゴッドカレーパンの具があなたの口に広がるわ。いいわね?」


星也「モ、モォイ(は、はい)」


星也は貴音の指示に従い階段の屋上への入り口の踊り場まで移動させられた。ここの扉は普段鍵がかかっているので普通の生徒はほとんど寄ってこない。下の階には職員室と特別教室があるくらいだ。


貴音「はい。そこで壁を向いて両手を壁につきなさい。そうそう。いいい子ね。今から質問をするから、それにイエスかノーで答えなさい。いいわね?」


星也「モォイ(はい)」


貴音「あなたは先日、MMMオートにいる私らしき人物を見たのね」


星也「モォイ(はい)」


貴音「その人は1人だった?」


星也「モォイ(はい)」


貴音「いい?駆間くん。それは私じゃないの。とっっても似ているけど別の人物なのよ?」


星也「ヘモォ(でも)」


貴音「返事はイエスかノーって言ったでしょ?それにこの状況で私が叫び声をあげたら駆けつけた先生達はどう思うでしょうね。まるで、あなたが私を襲ったかの様に認識されるわね」


星也の顔が見る見る青ざめていく、まるでもう許してくれと言わんばかりのようだ。


星也「モォイ、モフファミファンファモォッフミファンヘヒファ(はい、僕が見たのはそっくりさんでした)」


貴音「そうよ。あれはそっくりさんなの。だから、私がいいって言うまで人に言いふらしちゃダメよ。私たち二人だけの秘密よ?」


星也「モォイ(はい)」


貴音「はい、それじゃ、両手を上げてコッチに向きなさい。パンを取ってあげるわ」


星也「モォイ(はい)」クルッ


貴音が星也のパンを取ろうと近づいた時、エナメルの床が上履きでキュッと擦れる音がした。


貴音&星也「( ゚д゚)ハッ!」


音のした中階踊り場には隣のクラスの女子二人組がいた。二人は貴音達を見ると何も見てないからというように駆け足で去っていった。


貴音が星也を見ると、彼はしまったなーと言いながら若干ニヤついていた。


貴音「あなた、なぜニヤついているの?」


星也「ニヤついてなんかいませんよ。でも、こんなところで男女でいるとカップルだと誤解されちゃうかなーと思いまs...え?ムグゥ...???...?!!?!ムグゥゥゥウゥゥ...」


貴音は彼が敬語になっているのも気づかず、不服な発言を聞いてしまったので改めてカレーパンを口に突っ込んだ。

パンは勢いのあまり具が口の中に噴出し、星也はあまりの辛さと不意打ちに喘ぎながら意識が吹っ飛んでしまったようだ。

しかし、そんな彼には目もくれず、貴音はまったくもうと言いながら教室に戻っていった。


~続く~



第7話


貴音は教室に入るのを一瞬ためらったが、扉を開けるといつもと変わらないクラス風景だった。

どうやら、あの二人組は噂を流さなかったらしい。しかし、なぜあの女子二人組はあんなところに現れたのだろう。自分たちの様に男女だったら人に見られたくないという思いからあの場所を選ぶのはわかる。現に自分も(目的は異なるが)人目を避けたからあの場所を選んだのだ。ちなみに監視カメラもなかった。だが、なぜ女子同士であの場所に訪れたのだろうか…うーむ...


キーンコンカーンコン


しまった...私としたことがお昼を食べそこねてしまった。


貴音は、カレーパンのお供にかった調整豆乳(フルーツ味)でなんとか空腹を誤魔化すことにした。


~~~~


グゥ~グゥ~


やっと帰りのホームルームが終わり、貴音はさっさと身支度を整えてコンビニに向かおうすると。


貴志「おう、珠洲城。今日は教習あるか?一緒に行こうぜ」


貴音「ええ、いいわよ。でも、私お昼ご飯食べそこねてお腹ぺこぺこだからコンビニ寄らせてね」


貴志「別に構わんけど、昼に何してたの?」


貴音「ん…まぁ…ちょっとね。購買の購入競争に負けたのよ…」


貴志「ああ…うちの購買、パンが異常に旨いせいから争奪戦になるもな。ご愁傷様」


〜〜〜〜

教習所


待合室のテーブルにつくと、コンビニで買った物を貴音はモグモグと幸せそうに食べ始めた。


貴志「それにしても、大分買ったな」


テーブルには、惣菜パンが二種類と調製豆乳(バナナオレ味)、大人のロールケーキが揃っており、夕飯までのつなぎではなくしっかりと1食になるメニューだった。


貴音「そ、そう?お昼の分と思えばそんなでもないでしょ…?」


貴志「そうだけどさ。てか、珠洲城ってドラゴンの時も結構食べてたよね。太らないの?」


貴音「女子高生にそんなこと聞く?」


貴志「いや、まあ...」


貴音「女の子はね。見えないところで頑張ってるの。だから、男子のあなたも頑張りなさい?」


貴志「あ、はい。努力します」


貴音「よろしい」


貴音は満足したようでパンを食べ始めてさらに満足したようだった。

それにしても、コイツはいつ見ても美味そうにご飯を食べるな。こりゃ、富士二で一番お弁当を一緒に食べたい1年女子なだけあるわ。

そんな、女子の満足そうな食事風景を見ていると教習開始の予鈴がなった。途端、貴音は瞬く間にパンを頬張り豆乳で流し込んだ。

まさに神業のような出来事だった。


貴音「ん?ぼうっとしてどうしたの?予鈴鳴ったわよ」


貴志「あ、ああ。今行くよ」


~~~~

駐輪場


貴志「珠洲城と実技被ったの初めてだったけど、案外苦労してないんだな」


貴音「なに、貴志くんは私がヒーコラ言っているところ見たかったの?…Sなの?変態さんなの?」


貴志「ば、バカ。俺はSでも変態でもねぇよ。単純に上手いなと思ったから褒めただけだよ」


貴音「そ、そう。ありがと。でも、SじゃないってことはMなの?」


貴志「もうその話題離れない?」


貴音は、フフッっと、してやったり顔でこちらを見ていた。どうやら、俺は弄ばれたようだ。


貴音「まあ、そんなことより、次回は見極めね。お互いがんばりましょ。バイクも待っていることですしね」


貴志「そうだな。帰りに玲さんにグースの調子聞いてみるか。ってか、乗るバイク決めたの?」


貴音「ん、まあね。お披露目まで秘密にするけどね!!!」


貴志「なんかそのドヤ顔腹立つなぁ。でも、フフッ...楽しみにしてるよ。じゃあまたな」


貴音「度肝を抜枯れる用意しときなさいよ。またね」


貴音はすごく嬉しそうにしながら、駅へと自転車で走りだした。


~続く~


第8話


貴志は教習所から帰ってくるなり河咲家に向かった。


貴志「こんばんわ~、玲さんいますか~?」


光希「おっ…ウチに来るのは久々ね。兄貴なら、外のガレージにいるよ」


貴志「サンキュッ…」ダッ


光希「...まあ分かってたけど、グース以外アウトオブ眼中ですか...」


~ガレージ~


貴志「玲さーん、グースの調子はどうすかー?」


玲「ああ貴志か、順調に仕上がってるぞ。部屋にあったヨシムラのテンプメーターとミクニのFCRキャブも付けておいた」


玲「他にもOH(オーバーホール)ついでにハイスロやら可倒式レバー、対向キャリパその他もろもろしてある」


貴志「え、えーっと…それって初バイクにしてはやり過ぎなんじゃないすか?」


玲「うん?まあ、250だし、無理な運転しなければ普通のバイクと変わらんよ。250ならな...」


貴志「そんなもんなのかなぁ」


玲「ところで、教習は順調なのか?」


貴志「えへへ、この前第一段階突破したし第二段階もそつなくこなしてるよー」


玲「それなら良かった。コイツはちゃんと仕上げておくし、再来週以降ならいつでもオーケーだ」


貴志「ありがとうございます!そしたら、次は見極め終わったら来ますね!」


玲「ああ、待ってるよ」


貴志「はい!じゃあまた!」


~~~~

日曜・教習所


貴音「いよいよ、来週から見極めに向けてのフリー走行ね」


貴志「ああ、おんなじようなタイミングで卒所できそうだな」


貴音「ただ、今日、私の前で急制動やった人がロックして飛んでっちゃったの見たからちょっと不安かも...」


貴志「ああ、あのゼッケン26番の人でしょ。あれ、休憩室から見てたけど逝っちまったなって思っちゃったよ。衝撃のあまり飲んでたマックスコーヒー吹いちまった」


貴音「汚いわねぇ。でも、あの人怪我は大したことなさそうみたいだったし良かった。やっぱりプロテクターって重要なのね」


貴志「ヘルメットに加えて胸プロは最初から揃えておかないとな...」


貴音「あ、それなら、この後、ナップスかにりんかん行かない?ヘルメットのフィッティングとしてもらいましょう!」


貴志「いいよ、暇だし。光希も暇してるだろうから呼んでみるか、どうせなら3人のほうが...って、あれ?」


貴音「むぅーーっ、なんでそこで河咲さん呼ぼうとするかなあ。今日は二人で見に行きましょうよ」


貴志「えーでも...あ!なるほど!」


貴音「分かってくれましたか♪」


貴志「おう、理解した。バイクを秘密にしてるってことはヘルメットもなるべくお披露目まで隠しておきたいもんな!」


貴音「アー、モウソレデイイデス、ハイ」



~~続く~~


後書き

閲覧ありがとうございます。
前回からかなり間が空いてしまいましたが第9話制作中です。
今後もお付き合いよろしくお願いします。
暖機編が長くなってきたのでちょっと早めに切り上げて、彼らを早くバイクに乗せたいですね。


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2015-09-01 18:51:22

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