私と龍田
7/27 執筆
ふと思いついたネタを書き起こしてみました。初めてですがよろしくお願いします。
初めまして。ちょいちょい書いてみようかなと思います。
ちょっと後味の悪いお話かも知れないので、ご留意ください。
オチにも期待しないでネ☆
――不思議なことというのはいつ起こるかわからないものだ。
朝ふと気づけば、どういうことであろうか、なんと私の体は龍田と入れ替わってしまっていた。
「あら~。」
目の前の私がそうつぶやく。間延びした声を発し、成人男性がくるくると回転しながら自らの姿を確認するそのさまはとても非現実的で、
その瞳は本当に自分の体なのだろうか、と言うほどに怪しげな光に満ちていた――。
あれから数日が経過した。相変わらず私たちの体は入れ替わったままだ。
無用な混乱を避けるために、他の艦娘たちには何も話してはいない。・・・無論、龍田の姉妹艦である天龍にもである。
「――どうしたよ?」
これからの事を考える私が、どこか虚ろに見えたらしい。心配したであろう天龍から声がかかる。
「・・・ううん。何でもないわ~。」
自分のできる、最大限の演技を行う。どうしても違和感は残ってしまうが、声も姿も龍田なのだから、誰も疑いはしない。
原因を究明することは最優先事項だが、かといって騒ぎを大きくする必要もないだろう。できる事ならばれないのが一番だ。
「そうか?・・・最近なんかオカシイぞ、お前。」
曖昧な笑顔でそれに答える。「まあいいけどさ。じゃあな。」、と天龍は言い残し、遠征へと向かっていった。
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執務においては、建前上は龍田を秘書艦とすることで、私自身が何とかしていた。しかし私の体の方の龍田も仕事を覚えてくれたおかげで、
次第にその殆どを任せることになった。流石に悪く感じたが、
「偶にはお休みなさってください~。それに、その体はわたしの体なんですよぉ?」
と言われてしまっては返す言葉もなく。
自分の体と声であのような口調をされると何とも言えない気分になるが・・・結局はお言葉に甘えることにした。
また、出撃関連については一切出ないこととした。ある程度体が覚えているだろうから、戦闘そのものはできるだろう。
しかし、戦場慣れをしていない私ではとっさの行動がつきかねるという判断からであった。
この体になって一番困るのは入渠の時間だ。
その、なんというか目のやり場に困る。かといって急に時間をずらしたりすれば不審がられるだろうし、ここは役得と思って割り切ることにする。
起つモノが無いのが幸いと言ったところであろうか。ちなみに最初はあたふたと龍田自身に入って良いものなのかと聞いたのだが、
「お互い様ですから~。」
とのことであった。深くは聞かないことにした。
・・・さて、ここ最近の私の行動だが。
昼間はなるべく他の艦娘に合わないようにする。話しているうちにぼろを出すのが怖いというのもあるが、演技がなかなか辛いというのもある。
そして夜だが、相部屋の天龍が眠りについた後、行動を開始する。
とにもかくにも、原因の解明である。龍田には「肌に悪いから夜更かしは厳禁」と言われているが、そうもいっていられない。
できる事と言えば、工廠をのぞいたり、記憶をもとに関連していそうなところを巡るようなことしかできないが、それでもやらないよりはましだろう。
目立たないようライトを使わなかったり、時間が限られていることからかなり調査は難航し、結局私も、そして私の権限を使い原因を探していた龍田
も、何も見つけられないままに実に一か月が経過した。
そう、一か月だ、ちょうど一か月。その今日、信じられないことが起こった。
――龍田が摘発された。
いや、正確には中身は私であるが、とにかく『提督』が『龍田』の、『スパイ活動』を摘発したのだ。
「何かの間違いだ!そうだろ提督!」
天龍が叫ぶ。
私はそれをぼうっと眺める。何が起こっているのか理解できないのだ。
「お前だって違和感を感じていた筈だ。」
私の声で、私が言う。
「それは・・・!」
言葉に詰まる。一番龍田に近かった天龍だからこそ、その違和感は否定できないものだったからだ。そしてその動揺は、スパイ疑惑の揺るがない証拠として昇華する。泣きそうな顔で、私を振り返る。否定してくれよ、そんな表情。でもそれに答えることは、できなかった。
「・・・連れて行け。」
提督の指示に、後ろにいた海兵がしたがう。艦娘とは違う、男性の海兵の太い腕が、私の両肩を押さえつける。
そこで初めて、私は我に返った。
「っ!放せぇっ!」
龍田の声で、龍田が叫ぶ。
しかし、事前に艤装が解除されていたためか、簡単に床に組み伏せられてしまう。
床に顔をしたたかに打ち付ける。頬に痛みが走るが、それを無視してぎっと提督をにらみつける。
「きぃさぁまぁぁぁぁああああ」
上にのしかかった海兵の重みで、絞り出すような声しか出せない。演技をする余裕もない。
「本性を現したか、スパイめ。」
始終冷静を保つ提督と、涙目で私を見つめる天龍。
もはや今の私の行動の全ては、事態を悪化させる事しか出来ない。そうわかってはいるが、感情を止められない。
「騙されるな!そいつはぁ!」
「黙らせろ。」
髪を振り乱しながらそう叫ぶ私の後頭部に、鈍い痛みが走る。そして私の意識はゆっくりと闇の中に落ちて行った。
――あれからどれだけの時間が過ぎたのだろう。
夜間行動していた時の映像等の証拠品から、「スパイに間違いない」と判断された私は、ありもしないスパイ疑惑の“取り調べ”と言う名の拷問を受け続け、心身ともに壊れ果てていた。
そしてそんな私を見た上層部の判断は「解体」。これ以上は無駄と判断しての事だろう。
解体と言っても、いつもの艤装の解体と言う意味ではない。もっと恐ろしい・・・そう、今回は「処刑」を意味する。しかし。
今はもはや、そんなことはどうでもよかった。
今、私の脳内を支配するのは、「本当に私は私だったのか?」という疑問である。べつに、哲学的な疑問でも、倫理的な疑問でもない。
本当に私は「提督」だったのか?本当に「龍田」と意識が入れ替わったのか?・・・そういう単純な疑問。
冷静に考えてみろ、実に非科学的だ、おかしい、ありえない・・・。なら、なら―――
――――なら、本当にオカシイのは“わたし”だった?
わたし、は、最初、から、「軽巡洋艦 龍田」で、あって、「龍田と入れ替わった」という、「提督」の、記憶を、上書きされ、て、
「なぁんだ。」
独りごちる。
「壊れていたのは、わたしの方、だったのねぇ。」
全てに合点がいく。それでも、誰が、いつ、何の目的で、と言う疑問は残るが・・・わたしの知るところではない。
「ふふっ」
ぎゅっと、自らの膝を抱く。体育座りのような体制で、龍田は笑う。
もしかしたら本当に深海棲艦がスパイ目的で記憶を改竄したのかもしれない。それに気づくなんて、さすがは提督だ。
「あははっ」
これ以上、そんな提督と、あの子に・・・自らの姉に、迷惑はかけられない。わたしが死んで、どこかの誰かの野望が打ち砕かれるなる・・・それなら、
喜んで死のう。
「あははははははははっ!」
暗い独房に、似合わない笑い声が響く。
本当に可笑しそうな、そんな笑い声だった。
その日はやってくる。
その場所に行くには、公道を使う必要があった。なので、彼女は黒塗りの自動車の、後部座席に乗せられた。
両側には、屈強な男性がふたり。彼女を挟み込むように乗り込んでいる。
そうしてドアが閉まると、窓ガラスのスモークの所為で外から中の様子は完全に見えなくなる。
龍田は従順だった。手枷をつけられるときは笑みを浮かべるほどで、輸送官は不気味にすら感じた。
そして車はすべるように発進し、そして。
「・・・おい、あれ見ろよ、どっかの鎮守府のケッコン式だぜ。」
ゆっくりと車を路肩に止め、運転手がそうつぶやく。無論、龍田ではなく、隣の男たちにかけられた言葉だったが、それでも
ふと、視線を窓に向ける。
西洋式の教会。見覚えのある女の子たち、そしてその中心には―――
僅かに龍田の目が見開かれる。
――――天龍、ちゃん。
龍田の驚きは当然の事だった。輪の中心、そこにいたのは真っ白なドレスに身を包んだ、自らの姉だったのだから。
「かぁー、うらやましいねェ、俺もあんな美人と・・・」
「あーんなお遊びしてるくらいなら働けってんだよ全くよお・・・」
「お前もまっとうに生きてりゃ、あんなふうになれたかもしれねーのになあ。」
そんな男たちの声はもう届かない。龍田の視線は更にその隣の人物に注がれる。
・・・提督。
見間違うはずのない顔。
それはこのケッコン式が、自らがかつて居た鎮守府のものであることを示していた。
「・・・そっか。」
顔を伏せ、唇を動かさずにそうつぶやく。天龍の本当に幸せそうな顔・・・しかし時折見せるさみしそうな表情に、罪悪感を感じながらも、
それでも、もう・・・思い残すことは無い。
だけど、もう一度、もう一度だけ・・・あの姿を目に・・・。
そう、顔を上げる。
窓はスモークで隠れているために、こちらからは視線が通るが、外からは全く見えない。見えないはずだ。
「・・・?」
しかしなぜだろうか、目が合ったのだ。提督と。
「―――――ッッッ!!!!」
そして提督は笑ったのだ。こちらを見て。そしてその表情は。
口元を歪ませ、こちらを、わた、わたしを、私を、あざ笑うかの様で。
「あ・・・・・あ、ぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」
“私”を、現実に引き戻すには十分であった。
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「うわッ!なんだコイツ!いきなり!!」
左右の男たちが慌てて押さえつける。
「おい!何してる!早く出せ!出せ!!」
呆けていた運転手に喝が飛ぶ。
急加速した自動車はあっというまに教会から離れていった。
「畜生!畜生ッッッ!!絶対に!絶対に許さないからなァ!!龍田ァアア!!!!」
防音に優れた車内からの声は外に届くこともなく。
そして、教会の鐘の音と共に、幕は降りた。
【おしまい】
ここまで読んでいただき恐悦至極です。
一応続編も考えてみたのですが、あんまりしっくりこなかったので今のとこは没で。
龍田「こんな話を考えてみたの~♪」
みたいなノリのお話だったと思ってください。
それでは。
龍田許すまじ。解体も辞さない。
龍田許すまじ。解体も辞さない。