魔王が倒された世界で
ハーレムでR-18なお話。ファンタジーな世界で、女装癖のある少年があれこれしたり。
世界は平和になった、と言われたのは最近のこと。
勇者によって人類、全ての生物の敵、魔王が討伐され世界滅亡の危機は去った。
勇者とその仲間、全世界の人々が協力した結果。美しい結束がそこにはあった。
そして脅威を払った世界は、元のあるべき姿へと戻ったのだ。
――そう。
ラル「ヒャッハー!」
人々との間に戦いが絶えない、平和で無秩序な世界に。
ラル「奪え奪え倒せ倒せ! みんなやっちまえ!」
そんな、無秩序な世界を体現するかのように叫び、暴れる人物がとある国のお城に一人。
彼の名はラル。 ……この物語の主人公である。
ラル「っしゃあ!」
石で造られた巨大な城。
その大きな門を通ったちょっと先。松明の灯りが照らすエントランスで、ラルは暴れていた。
相手は見るからに無法者といった見た目の男ども。薄汚れた格好に、無骨な武器。人数は圧倒的に多いが、統率もなくただ敵目掛けて突っ込むだけ。
ラルが加わっている即席の冒険者軍の方がまだ連携がとれているだろう。
冒険者1「お、おい! 女があまり前に出るな!」
冒険者2「っていうか、何を奪うんだよ」
ラル「テンション上げてるだけだっつーの! ほれ、さっさと戦えって! 遠慮すんな、こっちが正義だぜ?」
ラル「しねおらああ!」
無法者たち『どわあああ!?』
冒険者たち(どっちが敵かわからねえ……)
とはいっても、その連携にラルは含まれないのだが。
苛烈な戦場のど真ん中をたった一人で暴走する青年。彼は恐ろしいほどの速度で動き、かわし、かたっぱしから拳を叩き込む。
単純で原始的な、素手と脚――身体を使った格闘による戦闘。
見れば見るほど、異様な光景であった。
無法者A「な、なんだこいつ……!」
無法者B「女のくせに強いぞ!?」
無法者C「ま、まさかこいつ……!」
ざわざわと、狼狽する無法者ら。
自分の正体に気づいたであろう声が聞こえると、ラルはほくそ笑み、エントランスの中央で仁王立ち。
ラル「ふっふっふ。気づいたようだな。そうだ、俺はラル。ラル・ラルサイト。世界一の冒険者とは俺のことだ!」
バッと手を前にかざし、どんと名乗り。
若干馬鹿っぽい動作であったが、本人的には大満足らしい。鼻からふんと息を吐き、彼はふんぞり返る。
それから、ちょっとの間シンと沈黙。数秒空けた後、場は阿鼻叫喚と化した。
無法者D「や、やっぱりだ! こ、こいつ」
無法者E「『破壊神』……!」
無法者F「か、勝てるわけがない!」
ラル「あの、破壊神はやめてほしんだが」
無法者たち『ひいいぃっ!』
最早ラルが話しただけで無法者が怯える始末。
二つ名へのツッコミを入れていたラルだが、ちょっといい気になってきた。
自分が力を持つという状況。それに気をよくしたラルは、自分たちの仲間へと振り向く。
ラル「さぁ、俺に続け! 悪を一網打尽に――」
――が、そこには誰もいなかった。
20人は冒険者がいたのに、すっからかんである。
相当慌てていたのか、落としたらしい武器が床に落ちていた。
ラル「なんでだ……」
それまで調子に乗っていたラルは、一気に落ち込む。
『破壊神』。その名は国へ悪い意味で響き渡っている。敵味方区別なく粉砕する、女装姿の狂人。……という恐ろしすぎる内容で。
関わると自分もやられかねない。仲間らの判断は正しいものだったのだろう。二つ名の噂を基に判断するなら、だが。
ラル「くっそー! てめえらゆるさねえぞ!」
もう暴れるしかない。もう暴れているけれど、それしかない。
ラルは八つ当たり承知で叫び、戦闘を再開。戸惑う無法者らを片っ端から殴りつけ、無力化させていった。
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ラル「……こんなもんか」
少しすると、エントランスは死屍累々。気を失った無法者らで溢れかえる。
ラルは伸びをし、小さく息を吐く。
ラル「にしても、雑魚ばっかだったな。なんでこんなんが城を支配できるんだか……」
国の未来が心配である。
ぼやきつつ周囲を確認。狙いをつけると跳躍。階段の手すりを踏み、器用にそこを登っていく。
城の二階。確かこの先に、王座のある間があった筈。
ラル「……もう誰もいないのか?」
目的地へと進み、すっかり静かになってしまった城にラルは呆れたように呟いた。
これで敵が誰もいなくなったのなら、笑えないお笑いである。この国のお城が、無法者30数人に占拠されたということなのだから。
ラル「ったく、不甲斐ない――」
???「はい、動かないでねー」
呆れ、肩を竦めた瞬間だった。ラルの首筋にナイフが当てられたのは。
ラル(お、俺が不甲斐ねえ……)
首には冷たい、ぞっとする感触。後ろには何者かが。ラルの黒髪を無造作に掴んでいる。
こうなると破壊神たるラルも、何もできやしない。情けない結果にラルは思わず自嘲し、言われた通り大人しくする。
???「何者? てめー」
耳元で囁く声。女性のようだ。
ラル「ラルだ。城の持ち主に依頼を受けた冒険者」
???「冒険者……嘘だろ? 冒険者がこんなちっこい女の子のはずがねえじゃん」
あっけらかんと、緊張感のない口調で言う女性。
脅すようにナイフの先が首筋に食い込み、ラルは痛みに小さく呻く。
ラル「嘘なんて言ってどうすんだ。それに、この状況だ。それ以外に誰が来るってんだよ」
???「そう言われればそうかね。普通はそうだよね、普通は。でもね、今は違うんだよ。分かる?」
ラル「わからん」
???「……」
沈黙。物怖じせず答えるラルに驚いたのか、それとも怒りを抱いたのか。
返答しない声の主に、ラルが疑問を抱くと、不意に後ろから蹴りが入れられる。
ラル「だっ!?」
軽くよろけるラル。前に数歩進み、踏ん張る。そして踏ん張った脚を軸に回転。後ろの人物へと向き直った。
???「……」
するとすぐ目の前にいた、少女。
真っ赤な長い髪をツインテールにした可憐な少女は、ラルが振り向いた瞬間、ほぼノーモーションで瞬間的に彼へ迫ってくる。
さながら弾丸が迫ってくるような、そんな速度。思わずラルは顔を後ろへと仰け反らせ、逃れようとするが遅い。
すぐに少女に掴まり、再度拘束される。今度は両手を壁に押し付けられる形で。
ラル「な、なにしやがんだてめえ」
少女の見た目は、美少女としか言えない整ったものであった。
スラっとしたスレンダーな身体に、くりくりとした可愛らしい目。顔のパーツがまるで人形みたいに理想的な形、位置に作られている。
服装は素朴なワンピースと、ブーツ。それだけ見れば、どこかの田舎村の一般的な少女、に見えなくもない。
そんな少女が間近に、自分を壁に拘束し、ジーッと見つめてくる。
中々ロマンのある状況ではあるが、相手は凶器持ち。到底興奮などできるものではない。
???「――ちっ」
ましてや、舌打ちなどされては命の危機を感じるしかない。
???「紛らわしい位置にいるんじゃねーよ。間違えっちゃったじゃん」
ラル「知るか。間違えたのはそっちだろ。俺は悪くない」
???「あはは、君面白いね。いい度胸だ。キャラが立ってるから、ついつい勘違いしちゃったな」
そう言って、少女はおもむろにラルへと顔を近づける。
何をするつもりだと、ラルが怪訝そうな顔をすると少女はクスッと笑い、首筋の傷を舐めた。
微かな痛みと、くすぐったい感触。未知の感覚にラルが身体を震わせると、手の拘束が解かれた。
???「うん、美味しい。ごうちそうさま。これで許してやるよ」
理不尽なことを言い、少女はラルへ背を向け歩き出す。
戦場である場所を、短いナイフ一本持った少女が闊歩。ラルが思うのもおかしいが、奇妙であった。
???「気のせいだったかー。しゃあない。帰ろー」
腕が立つ人物であることは確か。
腕前一つで名のしれたラルが気配すら察知することができなかったのだ。まともにやりあえば、どうなるかは分からない。
ひとまず命の危機は去ったようだ。壁に手をつき、ラルはホッと一息。
歩いていく少女の背中を見やり、ぼそっと一言もらす。
ラル「変態だな……」
女装している男が言う言葉かと。
ラル「……ん?」
髪を整え、いざ目的地。気を取り直したラルだが、前方を見た瞬間視線に気づく。
一難去ってまた一難。思わず構えをとる。が、ラルはすぐ構えを解いた。
???「……」
ラルを見ているのは、さっきのとは違う一人の少女。
ふんわりとした金髪。青い瞳。小さいと言われるラルよりもちょっと小さく、頭にはティアラ。豪華そうなドレスを身につけていて……一見するとどこかのお姫様のようだ。
怯えた様子でラルのことを見るその少女に、敵意はない。
きっと占拠された城に取り残された、王族の子だろう。ラルは思い、頷く。
ラル「おい、大丈夫か?」
???「う、うん……」
半開きのドアから顔を見せる少女は、こくりと首を縦に振った。
先程の相手とは違い、まともな会話ができそうだ。ラルは近づき、ドアを開く。少女がいた部屋には他に誰もいない。
ラル(そういや、王様とかは逃げたって言ってたな……)
逃げるのはいい。けれどそれで娘を置いていってしまうとは、後で文句を言ってやろう。
少女の頭を撫で、ラルは決意する。
ラル「心配すんな。俺が来たらもう大丈夫だからな」
???「ん、ありがとう」
やんわりと微笑む少女。
可愛らしい少女の笑顔に、ラルは思わずドキッとしてしまう。
ラル「……お前、名前は? 他に城には誰かいないのか?」
ブラン「ブラン。他に誰かいるかは、分からない」
まだ怯えてはいるが意外にもはっきりと答える少女。
ラルは頭の後ろを掻き、頷く。
ラル「そうか。まぁ仕方ないな」
ラル(無人の部屋にこもってたんだろうな……可哀想に)
誰もいない部屋にいたのでは、情報がなくとも仕方ない。
特に疑問もなく、ラルはドアへ振り向く。
ラル「じゃ、ついてきてくれ。安全を確認すんから」
他にもまだ敵はいるだろう。
城を取り戻し、元の持ち主、国王へと返す。それが今回の依頼の目的。
そのためには城の全ての部屋を確認し、安全を確保せねばならない。
それからラルはブランを連れ、城をあちこち歩き周り敵を探した。
が、結局誰も見つからなかった。
無法者らをまとめている人物も皆無で、拍子抜けしてしまうほどなにもない。
まさか、あの赤髪の少女が……とも思うが、もうそれを確かめる手段は無法者たちに聞くしかない。
とりあえずそれらの面倒事は他に任せるとして、ラルは早速依頼完了を報告するべく城を出た。
目的すら曖昧で、主犯格すらはっきりしない事件。
占拠から数時間で、一人の冒険者が解決した問題。
魔王と比較し、あまりにも小規模な話。
けれどこの時、世界の命運をかけた物語はまた始まりを告げていたのだ。
ラル「一人で解決……こりゃ、報酬一杯だな。うへへへ」
女装癖のある、乱暴者。ラルを中心にして。
報告を終え、兵士らが後始末。
王族らも城へ戻り、ようやく一段落がついた頃、城を救った冒険者、ラルは玉座の間に呼び出された。
ラル「――ってことで、無事城を取り戻したわけ」
ブランを連れ、玉座の間の中心で堂々と話すラル。
国王、王妃を含めた王族、家臣の前。普通ならば怖気づきそうな状況である。
が、ラルは堂々と仁王立ち。そしてタメ口。国が国なら即打ち首な態度だ。
ラル「あいつらから、黒幕聞いといてくれ。気になるからな」
国王「うん、そうだな。聞いておく。ご苦労様、破壊神くん」
王妃「お疲れ様。お菓子食べるかい?」
が、国王王妃がもっと失礼というか、フレンドリーなので誰もなにも言えやしない。
豪華できらびやかな格好をした以外、優しいおじさんおばあさん然とした二人はラルの口調や態度を気にした様子すらなく、むしろ上機嫌。
兵士、家臣らは若干呆れ気味だ。
ラル「お菓子はあとでもらう。――で、ちょっと訊きたいんだけど」
首を横に振り、ラルは視線を横に。
自分の隣で、おろおろとした様子で立つブランへと向ける。
ラル「こいつ、お姫様とかじゃねえの?」
国王「知らないねえ」
王妃「可愛い子よね。息子しかいないから、貰っていいならもらうけれど」
ブラン「……」ブンブンブン
すごい拒絶ぶり。
首を勢い良く横に振り、ラルのスカートを掴むブラン。
本人の反応を見るに、どうやら違うらしい。
ラル(どう見てもお姫様なんだけどな……)
そうじゃないなら、何故あの場に……?
さっぱり分からないそれは後回しにすることに。
ラル「わあった。んじゃ報酬だ」
とりあえず今は報酬。
一国の城を取り戻したのだ。期待はできるはず。
国王「報酬か。うん、勿論あげるつもりだよ」
国王は快く頷く。
流石に報酬はなしとはいかないようだ。
金か、それともなにかしらの財産か。期待に目を輝かせるラル。
国王「では、持ってきてくれ」
国王が手を叩いた。
すると王座の間へと誰かが入ってくる。
規則正しい足音を響かせ、ラルへと近づいてきたのは背が高い、顔の整った男性。
絵に描いたような美形で、鎧と剣を身に着けているにのだが、物々しい雰囲気はない。威厳と美しさ。そして力強さ。
ラル「……」
一瞬で気に入らないと思うラルであった。
ブラン「……」
隣のブランは、なんか嬉しそうにその男のことを見ているし。
周りからは感嘆が聞こえてくるし。
ラル(やっぱり顔か……ったく)
色々釈然としないラルである。
ラル「誰だこいつ」
国王「誰だ、って知らないの? 勇者だよ、勇者。勇者クリフ魔王を倒したあの」
ラル「ゆうしゃぁー?」
国王に意外そうに言われ、ラルは男を見てみる。
確かに、ラルを困ったような笑みを浮かべ見ているこの男、主役めいた容姿をしている。
実力だって相当なものだと見てとれた。
ラル「勇者なんていたのかよ。なんで俺ら冒険者に仕事任せてんだこの」
クリフ「あはは、手厳しいね。ごめんね。僕はちょっとわけがあってさ」
文句を口にするラルへ、クリフは苦笑して返す。
爽やかすぎる対応にラルは顔をしかめた。
ラル「ああん? んだよ、その用ってのは」
クリフ「ちょっと、ね。まぁ私用さ。だからこのトラブルを解決してくれた君には僕も深く感謝しているのさ」
チンピラなラルにもこの対応。
突っかかっていたラルだが、若干申し訳なくなってきた。
ラル「そうか。……で、なんでその勇者を呼んだんだよ国王。魔王倒して、勇者はお役目御免だろ」
国王「だね。だから今度は君の仕事仲間として活躍してもらおうと思って」
ラル「――はぁっ!?」
まさかな言葉に、ラルはぎょっと目を見開いた。
勇者が一冒険者であるラルの仕事仲間に。とても常識では考えられない。
ラル「なんで俺がこんないけすかない奴と仕事しねえといけないんだよ!」
クリフ「いけすかない……」
国王「私だってそう思うよ? 物扱いするくらいだし」
クリフ(そういえば運んできたとか……え?)
国王「でもだって、勇者だよ? 勇者と仕事してれば、多分一生食えていけるよ?」
ラル「それでも勘弁だ」
国王「有名人だから美人との出会いも多いだろうし――」
ラル「よし、いいだろう」
即決だった。
張本人のラル、国王以外の人間は完全に取り残され、ぽかんとした顔。
クリフ「え、っと……それで良いのかい? 結構大変だと思うけど? 色々」
ラル「ああ。なにがあろうと俺は後悔しないぜ」
きりっとした顔で、かっこいいセリフ。
だが馬鹿なことを言っている事実に変わりはない。
ブラン「女好きなんだね……」ジトメ
ラル「男なら当然だろ」
きっぱりと口にする。
男。見た目は思い切りそれから外れているラルがそう口にしても説得力は皆無である。
国王「よし、なら決まりだね。勇者と二人、頑張ってくれ」
ラル「おうよ! ――でもいいのか? 自称世界一とはいえ俺、冒険者だぞ」
国王「問題ない問題ない。見た目的にも実力的にも国のアイドルとしてやっていけるさ」
ラル「アイドル?」
国王「最近は男性同士が流行だから――げふん。まぁイメージアップには困らないな」
ラル「おいこらテメェ」
聞き捨てならない台詞に、ラルが再びチンピラモードに。
一歩前に出る――が、それを兵士が遮った。
国王「というわけで契約は成立。拠点と資金は後々送るから、お仕事頑張って」
ラル「あ、おい! 卑怯だぞ国王!」
脇から手を入れられ、持ち上げられるラル。
足をじたばたさせるけれど無意味で、腕を振り回すことも叶わない。
国を救った英雄を子供扱い。ひらひらと手を振り、笑顔で見送る国王と、ばたばた騒ぎながら連れてかれるラル。その後をついていくブラン。
とても国の城、国を治める王の前で繰り広げられているとは思えない、ふざけた茶番。
クリフ「あれがなければ、安心できるんだけど……今度はどうなることやら」
とりあえずクリフは、国王らに頭を下げてラルの後を追った。
ラル「いつかぶん殴ってやるからなー!」
遠くなる賑やかな声。ラルが王座の間から出ると、部屋には静寂が戻った。
国王「国を襲った謎の勢力……これで、事態が好転してくれるといいが」
王妃「多分大丈夫よ。破壊神さんにはあの子がついているもの」
国王「そうだな。巻き込んでしまったことは申し訳ないが――それも運命、か」
国王「魔王を倒しても幕引きといかないのが、現実の辛いところだな」
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