青の狙撃手
艦これの潜水艦を主人公にした話です。
潜水艦の戦いを描きたかったため、この話を書いてみました。
音のない澄み切った青の世界。
やはり海の中は地上と違って落ち着く。
周囲を見渡すと、眼下にはごつごつとした岩肌が広がっており、頭上からは太陽の光が細く差し込んでいる。
私にとってはこの程度の明かりで充分だが、普段陸上にいる仲間達からしたら暗くて怖いと感じるだろう。
時折小魚が視界を遮っていくが、同じ場所でじっとしていると、何だかこの世界の時が止まってしまったかのように感じる。
その静けさもまた、私にとっては心地良い。
これから戦闘が始まるといった状況にも関わらず、心は落ち着いている。
いったいどのくらいの時が過ぎただろうか。
作戦海域に到着し、その場で待機という指示があってから、私は岩陰に身を潜めることにした。
もうそろそろ海上の仲間達も近くに来る頃だろう。
今回の作戦の目的は、接近してくる敵部隊の殲滅だ。
何としても迎撃すべく、こちらの編成は戦艦一隻に加え、重巡洋艦と軽巡洋艦という、ここ最近の作戦と比べて火力重視のメンバーとなっている。
その中で私の役割は、敵の囮役である。
仲間達よりもさらに全線で一人待機し、敵近づいてきたところで私がまず魚雷を打つ。
その際に敵を一隻でも沈められのが理想だ。
魚雷の攻撃を受けたことにより敵は私の存在に気づき、こちらに注意が向いている隙に私の仲間が一気に接近し敵を討つ。
という作戦だ。
これまで何度も同じ方法で成功を収めてきた。今回も上手く行く。
そう自分に言い聞かせた。
頭上をに目を向けると、前方から黒い影がこちらに迫って来ていた。
(……来たか)
まだ距離はだいぶある。
随伴艦として,幾つかの小さな姿も見受けられる。
敵の編成は戦艦が一隻、駆逐艦もしくは軽巡洋艦が三隻といったところだろうか。
数が多かろうと私にはそんな事は関係ない。
見つからなければいいだけなのだから。
岩陰からゆっくりと離れ、私は敵を見据えた。
腰に手を添えると、そこには無機質の冷たい感触があった。
敵を沈める為に私が使う武器、酸素魚雷だ。左右に二本ずつ装備している。
一本でも敵を沈められる程、威力は充分にある。
数が少ない分無駄撃ちは出来ない。
……だいぶ敵がこちらに近づいてきた。
狙いを定め、いつでも発射出来る体制を整える。
心臓が早鐘をうち、早く魚雷を打ちたい衝動に駆られる。
だがまだ早い。もう少し引き付けなければ。
十秒ほどが過ぎただろうか。
敵の影が狙いの範囲に入った。
(……今だ!)
右の魚雷発射管から、一本魚雷を放った。
泡しぶきをまといながら、一直線に凄まじいスピードで敵目がけて突き進んでいく。
数秒後、大きな爆発音とともに敵へと命中した。
一隻倒せたようだ。
敵はこれで私の存在に気づき、反撃をしてくるだろう。
すかさず私はもう一本魚雷を放った。
水を裂きながら天へと向かって行く。
そして爆発音。
しかし先程とは違って音が軽かった。
致命傷は与えられなかったようだ。
どうするか……。
追撃は仲間に任せて別の敵を狙うべきだろうか。
思案していた時、頭上から一本の白い筋をまとった物がこちらに迫って来ていた。
(爆雷か!)
私は咄嗟にその場を離れた。
その数秒後、さっきまでいた場所で爆発がおこった。
一撃でもまともに食らったらただでは済まないだろう。
身を隠すべく、近くにあった大きな岩影に身を隠そうと、私は進んで行った。
その間も敵の爆雷による攻撃は続いた。
身を躍らせながらそれらを避け、攻撃が止んだ隙をついて一本魚雷を放った。
だが敵も甘くはないらしい。
上手く避けられ、大きな水しぶきを上げるだけの結果になってしまった。
自分の中で焦りが大きくなっていた。戦果を上げなくては……。
冷静になっていなかったせいだろうか。
すぐ近くまで爆雷が迫っているのに、私は気づかなかった。
(なっ!?)
直撃は免れたものの、大きな衝撃が身を襲った。
その勢いで私は、もう近くまで迫っていた岩へと叩き付けられた。
体中の骨が軋み、口からは大量の空気が漏れた。
痺れが襲い、上手く体が動かない。
どうやら敵は、それなりに戦闘経験のある奴のようだ。
これ以上油断していたら、『殺られる』。
頭の中でその言葉が浮かんだ。
とその時、ここまで響くほどの轟音が聞こえた。
(やっと来たか!)
味方の戦艦による砲撃が敵を貫き、一隻が水底へと沈んでいった。
続いて味方の援護射撃が続く。
負けじと敵も応戦し、戦闘は一気に激しさを増した。
私も負けてはいられない。
体の痺れは無くなり、もう動けるようだ。
腕に若干損傷はあるものの、問題はない。
残る魚雷は一発。
確実に当てなくては。
狙いを定めようと敵を見た瞬間、視界の隅を何かが通り過ぎていった。
目を向けてその姿をとらえた瞬間、私は衝撃を受けた。
(仲間が!?)
仲間の一人が水底へと向かって落ちてきていた。
体のあちこちが負傷し、鮮血が尾を引いて溢れている。
まだ意識はあるらしく、見開かれた瞳と視線が合った。
何かにすがるかのようにして、こちらに手を伸ばした。
だがその姿はあっという間に通り過ぎていき、深く暗い水底へと消えていった。
……今までに何人もの仲間の死を見てきた。
もう慣れているつもりだった。
慣れるしかないと思っていた。
だけど私は今、込み上げてくる感情を抑えきれなかった。
(うああぁあああぁぁっ!!)
戦場にいる以上、常に冷静にいなければいけないのかもしれない。
だけど私はそこまで強くない。
仲間を失って悲しくないわけがない。
仇は私が討つから!
敵を睨み付け、魚雷の狙いを定めた。
(今だっ!)
最後の一発を発射しようとしたが、何も起こらなかった。
(故障!? ……さっきのあの時か!?)
先程敵の爆雷を受けて岩に叩き付けられた時に、発射管が故障したのだろう。
このままでは仲間の無念を晴らすことが出来ない。
ならば……。
私は水中を蹴り、敵に向かって一直線に突き進んでいった。
魚雷を脇に抱え、絶対に放さないよう腕に力を込めた。
敵との距離がどんどん縮まっている。
この一撃を……!
と決意した瞬間、狙いをつけていた敵が爆炎を上げながら大きく吹っ飛んだ。
私は呆気にとられ、そのばで急ブレーキをかけた。
味方がやってくれた。そう気づくのに数秒かかった。
海面はもう、すぐそこまで迫っており、太陽の明るさを全身で感じられる。
……いったい私は何をしようとしていたのだろう。
頭がボーッとして上手く思考が働かない。
腕に込めていた力も抜け、抱えていた魚雷がゆっくりと水底へ落ちていった。
とその時、海面から何かが私の腕を掴み、私を水の中から引き上げた。
「命を大事にしろ。君がいなくなると皆が悲しむ」
我が艦隊のリーダーの姿がそこにあった。
周りを見ると敵の姿はなく、仲間の姿のみがあった。
傷ついている仲間もおり、今回の被害はかなりのものとなってしまった。
悲しさや悔しさな色々な感情が溢れ、視界が揺らぎ涙が頬を伝った。
空を見上げると、海の中にも負けない程の澄み切った青が広がっている。
いつかこの綺麗な景色を、心から楽しめる日が来るのだろうか。
早くこの戦いが終わらせなくては。
私はそう心に誓った。
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