不人気提督の日常
深海棲艦との戦争が始まって三年。大きな戦闘が起こることも無くなり、人々はある意味平和な日々を過ごしていた。これは、そんな世界にある一つの鎮守府に焦点を当てた物語。
艦娘との関係が中の下ぐらいの提督が、訳あっていろいろとがんばるお話。
このssはフィクションであり、実在の氏名、団体とは関係ありません。
このssには性的な描写、残虐な描写が含まれます。
また、このssは二次創作であり、独自の設定、解釈などが多分に含まれています。
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大丈夫という方は、このままお進みください。
早朝五時、提督の朝は早い。
提督「あー、まだ眠い」
いつも通りの彼の一日が始まった。
提督「さてと、仕事仕事っと・・・」
提督は"海軍士官二種軍衣"という白い士官服に着替え、書類を片付けるために目をこすりながら執務室に向かった。
彼の務める鎮守府では、執務室の隣に提督の寝室があり、普段彼はそこで寝泊りをしている。
彼が寝室を出ると、あるものが目に入った。
この鎮守府が今までしてきたことの年表だ。
そこには、提督の着任から、今年の冬の大規模作戦までが大まかに書かれていた。
提督「ここに来てからもう三年も経つのか」
戦争が始まってから三年半、始めは深海棲艦により制海権を失っていたが、今では艦娘や提督達のおかげである程度落ち着きを見せていた。
提督「さてと、あいつが来るまでどう過ごすかな」
この鎮守府の提督の仕事のほとんどが書類仕事なのだが、今の彼にはそれができなかった。
彼が片付けなければならない書類が、まだここに届いていないのだ。
というのも、提督は秘書艦に書類を持ってきてもらうため、彼女が来るまで彼は時間を持て余してしまうのだ。
もう少し遅くに起きればいい話だが、激戦時の癖が抜けず、いつもこの時間に起きてしまうらしい。
提督「・・・ゲームでもしてるか」
提督「パソコンはどこかな、っと」
・・・ここまで、提督の独り言である。
朝六時、執務室には男の独り言が虚しく響いていた。
提督「そろそろ松明が切れるな・・・一旦帰るか」
提督「っと、もうこんな時間になっていたのか」
彼はパソコンを閉じると、PCを置いていた机の引き出しに入れる。
同じところからハンコとボールペンを取り出すと、彼は秘書艦を待った。
ほどなくして、執務室に軽いノックの音が響いた。
??「司令官、失礼しますね」
その言葉と同時に扉が開き、人の駆逐艦が姿を現す。
??「おはようございます、司令官」
提督「ああ、おはよう如月、今日もよろしく」
書類を手に入ってきた如月に、提督は声をかける。
如月「ええ、よろしくね。司令官」
彼女が持ってきた書類を提督の机に置くと、正面にある秘書艦用の椅子に座った。
こうして、彼等の仕事が始まった。
朝七時、艦娘たちは食堂に集まっていた。
テーブルや椅子が端に寄せられ、部屋の中央には多くの艦娘が集まっていた。
この鎮守府に所属するほぼすべての艦娘が、食堂に集合しているのだ。
彼女たちは会話をしながら、ある一人の男を待っていた。
そんな中、提督は食堂に姿を現した。
艦娘の話し声が止み、食堂が静まり返る。
提督は食堂をぐるっと回り、彼女たちの前まで来た。
提督「えー、皆、おはよう」
彼のどこか気の抜けた声が、静かだった食堂に響いた。
提督「今日も特に予定とかないんで、第三艦隊は遠征。第一哨戒艦隊はいつも通り鎮守府正面の警戒を頼む」
提督「残りの人は演習なり休暇なりして好きに過ごしてくれ」
提督「以上。朝食は早めにとること。」
彼はそう伝えると、食堂を去って行った。
朝九時、執務室では二人が書類とにらみ合っていた。
提督「何の作戦もやってないのに、何だって毎日こんなに書類を書かなくちゃならないんだ…」
如月「ずっとこのままでしょうね…これ以上削れる場所もないし…」
提督「だよなぁ・・・」
提督はため息をつくと、机にある缶コーヒーに手を伸ばした。
執務室から外に出る裏口からすぐにある自動販売機。そこで売っているコーヒーには、千葉特有のものがあった。
如月「司令官はそのコーヒー好きね…前飲んでみた時、かなり甘かったけど」
提督「集中力が切れないように糖分だけは取りたいからな。これが丁度いい」
ラノベのおかげか知名度が上がった甘ったるいコーヒーを飲み、再び書類へと目を向ける。
使った資材の量とそれの補充の要請。必要なことだとわかってはいるが、それにしても書類が多い。
種類ごとに分けられている上、勝手に減っていることも多い。主にボーキサイトが。誰かが勝手にとったのかと聞いてもどうせ犯人は出てこないので、書類偽装なりする必要があるのが面倒だ。
彼がそういう細かいところの調整に追われていると、執務室の扉が力強く叩かれた。
??「提督、オレだ、入るぞ」
ノックをした者は、提督の返事を待たずに乱暴に扉を開ける。
入ってきたのは一隻の軽巡洋艦だった。
天龍「第三艦隊、遠征に行ってくる」
第三艦隊の旗艦、天龍は、艤装を付けた状態できていた。
第三艦隊、天龍に龍田、暁に響と雷や電の六隻で編成されている遠征用の艦隊であり、主に行くのは北方鼠輸送である。
この鎮守府では遠征に行く場合、その艦隊の旗艦が執務室に顔を出してから行くことになっている。
提督「ああ、よろしく。がんばってくれ」
その言葉を聞いた天龍は、おう、といって執務室を去って行った。
形式上の物なので、特にこれと言った意味はない。
??「提督、失礼するよ」
天龍が出ていくのと入れ替わりで、もう一隻が入ってきた。
入ってきたのは航空巡洋艦、最上だった。
最上「第一哨戒艦隊、いつも通り鎮守府正面艦隊に出撃するよ」
彼女はそう言って、提督の机に近づいてくる。
提督「おう、今日も頼む…ってどうした?何か聞きたいことでもあるか?」
自分の方に向かってくる最上に対して提督が問う。
最上「いや、何か新しく注意することはないかなって」
彼女が提督の前まで来てそう言うと、提督は首を横に振った。
提督「いや、新しいことはないよ。戦闘態勢の敵と遭遇したら交戦」
提督「ただ向こうに捕捉されても攻撃の意図を見せなければ一定の距離を保ちつつこっちと相談。いいか?」
彼の発言を聞くと最上は下がり、
最上「解った。それじゃ行ってくるね」
そう言って、彼女は扉を閉めて出て行った。
午後一時、二人は執務室ではなく、食堂に来ていた。
昼こそ艦娘で賑わうこの食堂も、ピークを過ぎて人は疎らになっていた。
そんな食堂で働く軽空母、正確には”元”軽空母がいる。
鳳翔。母性あるれる性格から、多くの提督や艦娘からお艦と呼ばれ、慕われている。
提督「鳳翔、日替わり定食で」
如月「私もそれでお願いします」
いつも通りの注文を終えると、二人は適当な席に座り、会話をしながら料理の完成を待っていた。
如月「今日のメニューは何かしら。苦手なものがないといいけど」
提督「如月は好き嫌いが多いからなぁ…嫌いなものでも食べておいて損はないだろうに」
そんな会話をしていると、無意識に提督の目線が窓の外へ向いた。
ガラスの向こうにあったのは、青い空や海、穏やかな波。そんな平和な光景だった。
提督「・・・ほんと、三年で平和になったもんだな」
不意に、提督がそんなことをつぶやく。
如月「ええ、こんな日が、いつまでも続くといいですね」
彼の瞳に映る光景に、過去の情景が重なった。
黒い雲に覆われた空の元には、おぞましい化物が浮かんでいた。
深海棲艦と呼ばれたそれらは見える物を壊し、逃げ遅れた人々を狙って砲弾を撃つ。
せめてもの抵抗に撃った銃弾は容易に弾かれ、どうやってもかすり傷しか与えられない。
人々は恐れ、怯え、海から逃げるしかなかった。
そんな中見つかったのが、"艦娘"と"妖精"だった。
唯一深海棲艦にまともな損害を与えられる艦娘と、彼女たちをサポートする妖精。
深海棲艦の状況を見るために、偶然海の近くにいた自衛隊員が発見したといわれている。
そこで艦娘と出会った自衛隊員は彼女たちから”提督”と呼ばれ、艦隊の指揮を求めた。
それが、今の鎮守府の体制の元になっているらしい。
提督達と艦娘達の活躍により、海軍は周囲の制海権を奪取し、海は平和になった。
人々は多くの物を失った代わりに、多くの物を取り戻した。
今彼の瞳に映るきれいな海が、その最たる例だ。
如月「司令官、どうかしたの?」
ぼーっとそんなことを考えていた提督は、その声で現実に引き戻された。
不安げな表情を浮かべた如月が、彼の目に映っていた。
提督「ああ、すまん。ちょっと考え事をしていただけだよ」
如月「…そう。あ、そう言えば——」
彼の取り繕うような言葉を聞いた如月は、何かを察したように普段の会話へと戻していった。
数十分後、二人が昼食を取り終え、食器を戻していく。
提督「鳳翔さん、ご馳走様でした」
如月「ご馳走様でした」
鳳翔「お粗末様でした。如月ちゃん、これ二人の分ね」
如月は自分の食器と引き換えに二人分の定食を受け取る。
如月「いつもありがとうございます」
彼女はそう言うと、出口の方へと歩いて行った。
如月「それでは司令官、また執務室で」
提督は両手で食器を持って歩いていく如月を見送ると、鳳翔に声をかけた。
提督「いつもありがとうございます。鳳翔さん。無理なお願いに答えてもらって」
彼は鳳翔に深々と頭を下げる。
鳳翔「いえいえ、こちらこそいろいろとやっていただいてありがとうございます」
鳳翔が切り盛りするこの食堂には、定期的に新鮮な食料が送られてくる。
基本、鎮守府の食堂で出される食事は保存しやすい物が多く、その分味が落ちてしまう。
…のだが、この鎮守府では各所から様々な食材を取り寄せ、それらを使って味を重視したものが作られている。
その原因は、この提督にあった。
「食事の味は士気に関わる」と言った彼は、この鎮守府に来てから最優先で食材の整備に取り掛かった。
だが、それを知っているものは少ない。
色々な事情があり、彼はそれを明かさずに今まで過ごしてきた。
この鎮守府には、そう言った"秘密"が数多く存在する。
艦娘達に隠された秘密は、いつか明かされる時が来るのだろうか?
提督「では、俺もこれで」
彼はそう言うと、食堂を去って行った。
それから程なくして、二人は執務室での仕事を再開した。
無言の中、ペンと紙が擦れる音だけが執務室を満たす。
部屋の窓から見える外の景色は平和な海で、トラブルなんてどこにも無い。
こんな何もない日々こそがこの提督の日常であり、彼が作り上げたこの鎮守府の在り方だ。
数時間後、二人に充てられた仕事は終わり、執務室には二人の声が響いていた。
提督「やっと終わった…無駄に疲れるんだよなぁ」
如月「ふふ、では、私はこれで戻りますね」
提督「ああ、今日もお疲れ様、明日もよろしく」
如月「お疲れ様でした」
如月は一礼した後、執務室を去って行った。
提督「あー、疲れた」
提督「さてと、朝の続きでもするかな・・・」
これが、彼の作り上げた日常である。
だが、この日常は大本営の気まぐれによりいともたやすく崩れ去った。
早朝五時、提督はいつも通りに起きた。
いつもの服に着替え、執務室に向かった。
提督「さてと、ゲームでもするかな」
こうして、また彼のいつも通りの一日が始まった・・・そのハズだった。
同時刻、大淀は大本営から書類を受け取っていた。
だが、その日の書類は大淀にとって違和感のあるものだった。
いつもよりも書類が少ないのだ。
いや、少し少ない程度であれば問題は無い。紙束の厚さなんて大本営の事情によって左右される。
それに、この鎮守府は最初に比べたら書類を減らした方だった。
提督が変わってから日を追うごとに書類の数は減って行ったし、元に比べれば半分くらいまで減っていた。
だが、今日は昨日に比べて書類が三割にも満たなかった。
何があったのか、と大淀は思った。
大規模作戦?提督の不正?もしくは提督の左遷?
彼女は自分の考えられる可能性を追いながら、鎮守府へと戻って行った。
それから数十分後、鎮守府では二人の艦娘が話していた。
一人は大淀。先程書類を受け取り、鎮守府に戻ってきたばかりの艦娘。
もう一人は如月。書類を受け取り、執務室へと向かおうと思っていた艦娘。
だが、彼女たちは突きつけられた事実に愕然し、その足を止めていた。
如月「嘘…ですよね?どうしてこんなに書類が少ないんですか?」
如月は大淀を見つめながらそう言った。
大淀「いいえ、これで全部なんです」
彼女は書類の束を如月に渡す。それがどんなことを呼ぶかも解らないが、彼女にできるのはそれくらいだった。
大淀から書類を受け取った如月は、何かを決意した様子でそれを受け取った。
如月「…解りました。これは、責任をもって預かります」
彼女はそう言うと、大淀へ背を向け、執務室へと歩み始めた。
数分後、彼女は提督のいる執務室にたどり着いた。
如月「し、司令官?、失礼しますね」
提督「?おはよう、如月」
如月「ええ、お、おはようございます」
提督は如月の態度がおかしいことに気が付いた。が、それ以上に大きな異変に気が付いた。
提督「な、なぁ、如月?」
彼は如月が持っている束を指して言った。
その声はひどく震えていて、今にも消えそうな程だった。
如月「ごめんなさい、如月にもわからなくて…」
提督「そう、か…まぁ、仕方ない。今考えてもどうしようもないだろうしな」
提督は束を手に取ると、半分に分けた。
提督「ほら、如月の分。さて、取り掛かるか」
如月が提督から自分の分を受け取ると、二人は仕事を始めた。
数分後
提督「…は?なんだよ、コレ」
静かだった執務室に、提督の震える声が響く。
その声の震え方は、先ほどのものとは違い、怒りが強く含まれていてた。
如月「司令官?何があったの?」
如月の声に、提督は血走った眼で答えた。
提督「今日、朝礼が終わり次第大本営に向かう。いいな?」
如月「…解ったわ。私も付いていけばいいのね?」
彼は如月の返答を聞く前に動き出していた。先程まで見ていたのであろう書類を鞄へと詰める。
提督「ああ、できるだけ急いでくれ。時間が惜しい」
それを聞いた如月も支度を始める。先程までの静かな部屋とは違い、ピリピリとした空気が流れていた。
提督は自分の支度を終えると、急いで執務室を出て行った。
時刻は六時半、提督はある部屋の前まで来ていた。
艦娘寮、つまりは艦娘達の暮らすいくつかの棟の一つに来ていた。
戦艦・空母棟の一室。長門型の部屋の前に提督は居る。
提督「おーい、長門、陸奥。俺だ、提督だ」
彼は軽くノックをしてから扉に向かって声を出す。
先程執務室で発していた声とは違い、いつもの少しのんびりとした声だった。
それからしばらくして、目の前の扉がゆっくりと開く。
長門「ん、どうした提督。まだ朝礼には早いと思うが」
扉を開けたのは戦艦長門。ビックセブンの一人であり、この鎮守府のエースである。
提督「朝早くにすまん。ちょっと頼みたいことがあってな」
長門「ふむ、そうか…解った。とりあえず中に入ってくれ」
入室を促した長門に、提督は首を横に振った。
提督「いや、時間のかかる話じゃないんだ」
提督はそう言うと、ある一枚の紙を長門に見せた。
提督「今朝方、大本営から送られてきた物だ」
提督から紙を受け取ると、長門はその書類に目を通した。
長門「これは一体…成程、そういうことか」
長門は一瞬険しい顔をしたかが、すぐに合点がいったようだった。
提督「ま、そういうことで大本営に向かうことになった。夕方には戻る」
長門「夕方か…それまで鎮守府はどうするつもりだ?如月は連れて行くんだろう?」
提督「ああ。だから、長門に臨時の提督をやってもらいたい」
それを聞いた長門は、少し驚いたかと思うと、真剣な顔つきになった。
長門「今日は予定も無いし、別に構わない。が、具体的に何をすればいいんだ?」
提督「基本的には今日消費した資材と遠征で入手した資材の集計。それと、四回ずつの開発と建造だな」
提督「レシピは任せる。新規艦が出ればあとで報告。そうでなければ改修へ回してくれ」
建造とは、提督達が艦娘を得る手段の一つである。
四種類の資材と開発資材をドックに入れ、妖精の力により艦娘を作り出す行為だ。
だが、一人の提督の元に同じ艦娘が来ることは一度もない。
同じ艦娘が建造されることはあるが、その場合は艤装のみが建造され、それを動かす艦娘は出てこない。
それにより、すでに着任している艦娘が建造された場合は、近代化改修に回されることが多い。
長門「解った。そうしよう…それで、報酬は?」
長門は先ほどの真剣な表情のまま提督に尋ねた。
その言葉を聞いた提督は、同じく真剣な表情で答える。
提督「…間宮チケット二枚、MVP二回分でどうだ?」
間宮チケットとは、間宮のお菓子を一つ無料で食べることのできるチケットだ。間宮のお菓子は味、見た目ともにかなりの出来だが、高い物はかなり高い。
提督から艦娘に渡されるこのチケットは、無論競争率が高い。
主に演習でのMVPや特別な任務に就いているものにのみ渡されるため、普通の艦娘は演習にかなりのやる気を出していた。
だが、このチケットには有効期限が設定されている。
提督は艦娘にこのチケットを渡す際、ある機械に通してからそれを渡す。
駐車券などによく使われる穴をあける機械。それにより、正式に提督から渡されたものかどうかや、いつ渡された物かが分かるようになっている。
長門「二枚?一日演習を怠れば遅れを取り戻すのに一週間はいる。それにやる事は元は提督の仕事だ。そのことも含めれば十枚が妥当じゃないか?」
長門の強気な提案に、提督は反抗を続ける。
提督「なら四枚だ。何も、一週間ぶっ続けで演習をするわけじゃないだろう?二日で一枚。これでいいんじゃないか?」
長門「なら八枚だな。慣れない仕事をする上に演習の時間も使うんだ。これが妥当だろう」
提督「ふむ、なら仕事の効率化のために陸奥も参加してもらおう。そのうえで一人当たり四枚、合計八枚でどうだ?」
長門「おや、わざわざ提督の仕事をする、という点を忘れていないか?一人当たり五枚、合計十枚だ」
提督「間宮チケット四枚に食堂一時間食べ放題券を二枚、一人当たり合計十二枚だ。これ以上は負けられん」
長門「ふむ、分かった、その条件で受けようじゃないか」
提督「…通帳どこやったかなぁ…」
満足げに頷く長門とボロボロの提督。それは、まさに勝者と敗者の差を表していた。
朝七時、食堂。
提督「えー、皆、おはよう。早速だが、これから俺は大本営へ向かうことになった」
いつもとは違い、提督は早口で物事を進めていく。
提督「遠征は第四艦隊が、第二哨戒艦隊も任務にあたってくれ」
提督「行くときの報告は今日は必要ない」
提督「また、俺がいない間、一時的に鎮守府の指揮権を長門に移す。何かあれば長門に報告してくれ」
彼はそれだけ言うと、急ぎ足で食堂を去って行った。
数時間後、提督の車で二人は大本営へとたどり着く。
大本営の駐車場に車を止めると、入り口に立っていた憲兵に話しかけた。
提督「銚子鎮守府の提督だ。横須賀の元帥に呼び出された。ここにいるはずだ」
憲兵「き、急にそんなことを言われても・・・」
いきなりの来訪に憲兵が同様していると、提督達の後ろから声がした。
??「やぁ、不人気くん。待っていたよ」
彼はゆっくりと三人の元に近づいてくる。
提督とさほど年の変わらないように見える外見と、その見た目に反する階級は、彼が普通の軍人ではないことを示していた。
提督「待っていた、か。なら、時間の指定ぐらいやってもらえると助かるんだが?」
提督「如月、紹介しよう。こいつは元帥。俺と同期の軍人で、横須賀鎮守府の提督だ」
元帥。横須賀鎮守府にて初めて艦娘の指揮を行う"提督"の役職に就いた者である。
彼は去年25歳という若さで元帥まで昇進し、今も対深海棲艦の戦闘において前線にて戦っている。
結果彼は伝説の提督とも呼ばれ、多くの提督にとっての目標にもなっているらしい。
提督「んで、コイツが如月だ」
如月「如月と申します。提督共々、よろしくお願いします」
如月の態度は普段の提督に対するものとは違い、礼儀正しい態度だった。
元帥「元帥だ。直接会うのは初めてだが、君の話は不人気くんからよく聞いているよ」
如月の態度に答えるように、丁寧に挨拶を返す元帥。そこだけ見れば、模範的な元帥の在り方だろう。
提督「挨拶はこの辺で十分だろう、わざわざここまで来たんだ。早く本題のことを話そう」
元帥「そう焦るな。せっかく来たんだから、もう少しゆっくりするといい」
元帥は提督と如月の間を抜け、建物内へ入って行く。
元帥「ここでは話しづらいこともある。応接室まで案内しよう」
返事も聞かずに歩く彼に、二人はついていくしかなかった。
その場には、事態の呑み込めない憲兵が取り残されていた。
元帥「ようこそ、不人気くん、如月くん」
そういって、元帥は秘書官の金剛に出させた紅茶を飲む。
それの対面に座る提督も同じく紅茶に口をつける。
元帥「さて、どうだね。銚子鎮守府は」
銚子鎮守府とは、不人気提督が着任している鎮守府で、もともと漁のためにあった港を改造して作られている。
そのため、少し海に出て釣りをすると様々な魚が釣れる。
新鮮な魚が釣れるため、鎮守府では魚料理も多く振舞われている
元帥「君があそこについて三年だが、鎮守府の様子はどうなんだ?」
元帥「・・・特に、駆逐艦の子たちは」
先ほどのへらへらした態度とは違い、真剣なまなざしで提督を見つめる元帥。
その問いに応えるべく、提督は鎮守府での状態を元帥に伝える。
提督「かなり安定してきたと思う。時間はかかったが、ようやく肩の荷が下りそうだよ」
提督の答えを聞き、元帥は安心したような態度をとる。
だが、その表情とは裏腹に提督の表情は険しい物であった。
提督「…だが、それでも前任の野郎が残していった傷は完治できそうにない」
元帥「そう、か…ここまで来たら、もうどうにでもならんのだろうな」
提督「艦娘も人間もさほど変わらない。無理なのは解りきってたろう」
そういって、二人は再び紅茶を飲む。まるで重くなった空気を濁すように。
その空気のまま、元帥は話し始める。
元帥「さて、本題に移ろうか」
その言葉を聞いた提督は、再び元帥を睨みつける。
提督「そうか。なら、これがどういうことか、説明してもらおうか?」
そういって、提督は一枚の紙をテーブルに叩きつける。
銚子鎮守府の提督へ
君の所属する鎮守府に置いて、艦娘に関する実験を行うことになった。
これは大本営からの命令であり、これに拒否をする権限は貴官にはない。
日本国海軍に所属する提督として、最大限の協力を期待する。
なお、実験の内容は直前まで貴官に明かされることはない。
また、本実験にて行われる内容は艦娘保護法に抵触しない特別な事例である。
艦娘の人権等は考慮されないという点に関しては注意していただきたい。
以上、元帥より
簡潔にまとめられた丁寧な文は、これから鎮守府にて行われる残虐な実験を想像させるには十分だった。
元帥「・・・そのままの意味だが?」
淡々とそう告げる元帥。それに対し、提督は見るからに激昂していた。
提督「ふざけるな!」
そういって、元帥の胸倉をつかむ。
提督「自分で何を言っているのかわかっているのか?これ以上艦娘に対して何をするつもりだ!」
元帥「おいおい、落ち着けよ提督」
元帥はいつもと変わらない態度で話す。
元帥「艦娘に関して、我々が理解できていない部分は多数存在する」
元帥「だが、それを知らないまま放置するというのが現実的ではないのは君にもわかるだろう?」
元帥「それを調べるために、君の鎮守府が選ばれただけだよ」
そういって、提督を煽る元帥は、ずっとへらへらと笑っている。
提督「艦娘は我々にとって大事な仲間だ。彼女たちに対して、非人道的な行為は許されないハズだ」
元帥「おいおい、あれは兵器だぞ?道具に対して愛着がわくだけならいいが、それに対しての行為に人道なんてあると思っているのか?」
その言葉を皮切りに、今まで黙って座っていた如月が主砲を元帥へと向ける。
元帥の頭を正確に狙う彼女の瞳は、静かな殺意を纏っていた。
彼女は口を開くことはなく、ただただ元帥を狙っている。
だが、如月と同じように黙っていた金剛が、元帥をかばうように如月の前に立った。
如月「金剛さん、どいてください。そいつを撃てません」
珍しく攻撃的な感情をさらけ出す如月に、金剛は小声で話した。
金剛「まあまあ、落ち着てくだサーイ。アレは、ちょっとした冗談デース」
柔らかい声音と予想外の発言に、如月は困惑しながら主砲を下す。
金剛「まぁ、見ていてくだサーイ」
提督「人の代わりに前線に出て戦っている彼女たちに対して、何をするつもりだ」
そういって、提督は元帥に向かって殴り掛かる。
だが、その拳は元帥にあたることはなく、直前で制止した。
提督「・・・さて、この辺でいいだろう」
そういって、提督は再びソファーに座る。
元帥「ふう、いやぁ疲れた。今回の反応も面白かったな」
元帥も提督に答えるように、服装を直してから椅子に座る。
提督は何事もなかったかのように紅茶を飲んでいる。その表情は平穏そのものだ。
イマイチ状況の呑み込めない如月は、崩れるようにして彼の横に座る。
提督「すまなかったな如月。改めて紹介しよう」
提督「こいつは元帥。俺の幼馴染で、冗談と艦娘が大好きな元帥だ」
彼が如月の頭を撫でながら元帥を示すと、彼は不満げな声を上げた。
元帥「おい、こいつって言ったか?俺はお前よりも上だってのに、その言い様はなんだよ」
提督「"一応"な。年同じなのに何言ってるんだよ、偉そうに」
元帥「ああ、そりゃ俺の方が偉いからな」
提督「畜生、ガキの頃は俺の方が成績は上だったんだがなぁ…どこで差がついたんだか」
元帥「お前は運が絶望的に低いからなぁ…扶桑姉妹といい勝負じゃないか?」
提督「うっせ。俺は不幸でも地道にやるんだよ」
そう言って、おっさん二人が思い出話に無駄な花を咲かせていると、金剛がそれを止めに入る。
金剛「本題に入るといったのは何秒前デースか?」
元帥「おお、すまんな。さて、この書類の話をしようか」
その言葉で、ようやく本題に関する話が始まった。
元帥「君の鎮守府では様々なイベントを行ってもらう」
元帥は一束の書類をテーブルに出すと、二人に向かって話し始めた。
元帥「イベントと言っても、大規模なものではない。最大でも海軍内で完結する範囲で済ませるつもりだ」
元帥「だが、行うイベントに関してはこちらで指定させてもらう」
元帥「無論、必要な道具や資金はこちらで用意する」
元帥「こんなところだが、質問はあるか?」
元帥が二人に視線を投げかけると、提督が口を開く。
提督「そのイベントは、具体的に何をするんだ?」
元帥「これをするに当たって我々が知りたいのは、艦娘の日々の生活によって溜まる疲労やストレスがイベントでどう変化するのかということだ」
元帥「例えば食堂での飲み会、カラオケ大会などが今のところ計画されている」
その言葉を聞いた提督は、少し思考した後に口を開いた。
提督「ふむ、問題はなさそうだな…だが、一応一つ条件を出させてくれ」
元帥「何だ?余程のものでなければ問題無いが」
提督「…彼女たちを傷つけるようなことは、しないでくれ」
そう言った彼は、紅茶に口をつけ、重い口調で告げる。
提督「解っているとは思うが、よろしく頼む」
元帥「・・・ああ、わかっているとも」
提督「よし、ならよかった。如月からは何かあるか?」
如月「質問という程のことでもないのですが、一つ確認をさせて頂いていいですか?」
元帥「おう、何だ、言ってみてくれ」
如月「こう、18禁なイベントとかはありますか?」
元帥に促された如月は平然とそう言った。
元帥「ブフォ!」
この言葉に元帥は噴き出し、提督も耐えてはいるものの手が震えている。
元帥「お、お前の所の如月はなかなかクレイジーだな…」
元帥は「もう一杯頼む」と金剛に伝え、口を拭きながらそう言った。
提督「ハハハ…いろんな意味で自慢の嫁だよ全く」
如月「もう、お嫁さんだなんて…そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃない」
提督「如月には恥じらいをもってほしいがな」
元帥「…まぁ、ソレ系の企画はとりあえずはナシだ。流石にそんな企画は通さんよ」
元帥「何より、君の隣にいる男が許可をしないだろう」
如月「ふふっ、そうね、あなたは意地でもそんなことしないものね?」
如月が提督に目線を向けると、提督はため息をつく。
提督「当たり前だ。そんなことをしてもキズが深まるばかりだろうが」
提督「全く。それで、如月はそれ以外は無いんだな?」
提督が如月に問うと、如月は微笑みながら答えた。
如月「えぇ。問題ありませんわ」
如月が納得した様子を見せると、元帥は満足気に立ち上がった。
元帥「さて、交渉成立だな。これからよろしくな、不人気」
元帥が手を差し出すと、提督もそれに答えるように立ち上がると、その手を取った。
提督「こちらこそよろしく、元帥」
彼らは固い握手を交わす。それは、彼らが協力関係に至ったという証だった。
二人が大本営を後にし、車に乗ろうとすると、元帥が二人に声をかけた。
元帥「あ、そうだ不人気、ちょっと待て」
元帥が提督を呼び止めると、二人は歩みを止め、振り返る。
提督「ん、何だ?話し忘れてたことでもあったのか?」
元帥「久しぶりに飯食いに行こうぜ、昼飯ってことで」
提督「飯食うって…この辺はもう店なんて残ってないだろ」
戦争が始まってから、沿岸部はとても危険な地域になった。それにより、沿岸部に住んでいたほぼすべての人は内陸部に避難、海軍関係者以外は沿岸部には近寄りすらしなかったのだ。
戦争初期、深海棲艦による一般人への被害が相次いだ事により政府がそのような対策を取らざるを得なかった。
元帥「それがな、最近新しいラーメン屋ができたんだよ」
元帥「最近はこの辺も平和になってきたからな。避難していた人たちが帰ってきたんだ。」
提督「へぇ、そうなのか…それじゃぁ行くか」
数分後、とあるラーメン屋
提督「そういえば、そっちの調子はどうなんだ?」
麺をすすりながら提督が問う。
その問いに、スープを飲みながら元帥が答える。
元帥「あー、うちは相変わらずギスギスしてるよ」
提督「それは大概お前のせいだろうが」
元帥が指揮する横須賀鎮守府は、数ある鎮守府の中でもトップクラスの功績を持っており、上層部からも期待されている。
そのため艦娘からも慕われていて、鎮守府は常に修羅場だそうだ。
提督「五重婚だったか?そのうち後ろから刺されるぞ?」
元帥「甘い、六重婚だ提督。あと昨日刺されかけたから言わないで」
如月「あら、六重だなんて・・・夜の方は大丈夫ですか?」
元帥「いろいろとルールを決めたから、今は大丈夫だよ」
如月「"今"は、ねぇ?昔はどうだったのかしら?」
提督「食事中に何の話をしてんだお前らは」
不穏な空気が漂ってきた会話に提督がくぎを刺す。
如月「あら、ごめんなさい司令官」
元帥「そういえば、お前の浮ついた話は聞いたことないな」
元帥がぼやく。
提督「そりゃそうだ。んなもんないからな」
提督が胸を張ってからスープを飲む。
元帥「ほーん?」
提督「俺は如月一筋だからな」
それを聞いた元帥は思わず噴き出す。
だが、一方如月はというと・・・
如月「うふふ、うれしいわ司令官。今夜は二人で、ね?」
余裕な表情を見せる如月。
提督「不意を突いたつもりだったんだがなぁ・・・」
如月「その程度では、私は驚きませんよ?」
二人だけの空気になりかけていたところに、元帥が問を投げかけた。
元帥「そういえば、そっちの方はどうなんだよ」
提督「そっちって、何のことだ?」
元帥「何って、そりゃナニのことだよ」
元帥の言葉に、提督は思わず噴き出す。
提督「お、おまっ、それは、ほら、な?」
提督が言葉に詰まっていると、元帥が追撃をかける。
元帥「だって、ほら、如月が嫁艦なんだろ?だったら、その、あるじゃん?」
それを聞いて提督がどうするか悩んでいると、如月が元帥に告げた。
如月「それが、提督がなかなか手を出してくれなくて…」
それを聞いた元帥は、目を見開いて提督に詰め寄った。
元帥「ハァ!?お前、如月を嫁にしながらまだ童貞なのかよ!」
提督「声がでかいんだよこの馬鹿が!」
提督は元帥に右ストレートを叩き込むと、スープを一口飲んでから言った。
提督「仕方ないだろ、こっちはそんな余裕ないんだよ畜生…」
提督「くっそ…駆逐艦とケッコンしていないお前に何が分かるってんだ…」
提督が一人でぶつぶつ言っていると、如月が元帥に口を開いた。
如月「そういえば、気になっていたことがあるんですが」
元帥「うん?どうした、何でも答えるぞ?」
如月「元帥は提督の事、不人気って呼んでいますよね?」
如月「どうしてでしょうか?」
元帥は少し思案してから答える。
元帥「だって、ほら、艦娘からの人気低いじゃん?」
如月「あー…」
元帥「それに、ほかの特徴もないしてないしさ」
如月「…」
元帥「ほかの提督からの人気も無いし、下手するとそもそも覚えられてすらいないし」
元帥「だから、不人気提督」
如月「成程、ありがとうございます、元帥」
如月が若干遠い目をしながら礼を言うと、提督が立ち上がる。
提督「さて、もう出るぞ。ほら、さっさと立ったたった」
元帥「おう、本当の事言われてるんだから流そうとするなよっと」
如月「もう、司令官もせっかちね」
文句を言いながら二人が提督に続く。
こうして、三人は鎮守府へと戻って行った。
提督「会計は元帥な」
元帥「あ、お前やりやがったな!」
…今度こそ、三人は鎮守府へと戻って行った。
case1,如月の日常
大本営に向かった次の日の朝。如月はある場所へ向かっていた。
艦娘寮の内の一軒、駆逐艦棟の地下だ。
普通の艦娘には知らされていない場所だ。
そこに如月は、二人分の朝食をもって向かっていた。
トレイによって両手が塞がっているにも関わらず、器用に進んでいく。
それは、日々の訓練の賜物だろうか。バランス感覚は常人を遥に越えているようだった。
そんな中、如月はある部屋の前で歩みを止めた。
「001」と書かれたプレートを認めると、鍵のかかっていないドアを開け、中に入って行った。
如月「ほら、二人とも。朝よ?起きなさーい」
そう言って、如月はトレイをテーブルに置くと、二人の少女が寝ている二段ベッドに向かう。
如月「もう、二人ともお寝坊さんねぇ…」
そう言って、如月は艤装を取り出す。
如月が普段使う12cm砲だ。勿論、普通に打てば壁に穴が開くどころでは済まないだろう。
だが、如月はそれを容赦なく打ち放った。
しかし、打ち出されたのは砲弾ではなく、ただの空気のみだった。
如月が用意したのは、寝起きドッキリ用の砲だった。
そこそこの爆発音が部屋に響くと、今まで寝ていた二人が起きた。
??「んぅ、何ですかなんですか~?」
??「うえっ、もしかしてもう朝?萎えるなぁ~」
如月「はーい、おはよう。睦月ちゃん、漣ちゃん。朝ごはん持ってきたわよー」
テンションの低い二人とは裏腹に、如月はせっせと準備を進める。
如月「ほら、今日からは朝礼に参加するんだから、早く着替えて着替えて」
睦月「五分、あとごふんだけ寝させてにゃしぃ…」
睦月型一番艦、如月の姉の睦月は、眠そうな目を擦りながらそう言った。
漣「ふわぁ、あーねっむ…漣はもうだめです。ここは任せて先にいけぇ!」
綾波型九番艦の漣は、目の下に隈を作りながらベッドから出てきた。
睦月「二人ともおはようにゃしぃ」
漣「おはよう…顔洗ってくる」
睦月は目が覚めたようで、元気に挨拶をする。
だが、漣はまだ眠いらしく、洗面所へと向かっていった。
如月「朝七時に食堂に集合だからね。ちゃんと来るのよ?」
如月がそういうと、洗面所の方から水の音と共に声が聞こえてきた。
漣「いよっし完全復活!って、今何時だっけ」
如月「もう六時ね。そこまで急がなくて大丈夫よ」
睦月「いただきまーす」
一方、睦月は如月の持ってきた朝食を食べ始める。
程なくして、漣は睦月の反対側に座る。
如月はそれを穏やかな表情で確かめてから、ゆっくりと立ち上がった。
如月「さて、と、私はもう行くけど、何か不安なことはある?」
その時、テーブルでカタン、と物の落ちる音がした。
睦月「ごめん・・・ちょっと、いい?」
睦月は震える手で落とした箸を茶碗の上に戻し、如月に話しかける。
彼女の濡れた瞳は如月を捉えてはいるが、その瞳に光は無かった。
睦月「やっぱり、まだ、こわい」
睦月は、絞り出すように声を紡ぐ。
睦月「提督と会うのがこわい」
一言出す度に、彼女の身の震えは増していく。
睦月「提督と会って、何かされたらどうしようって」
崩れそうになりながら、彼女は立ち上がる。
睦月「考えて、考えて、考える度に怖くなって」
縋りつくように、如月の方へと歩き出す。
睦月「ねぇ、如月ちゃん、"提督"は、いいひと、なんだよね?」
睦月は問いを重ねる。
睦月「"前の提督"とは、ちがう、よね?」
その問いに、如月は優しい声音で応える。
如月「うん、大丈夫。大丈夫よ、睦月ちゃん」
そういって、如月は睦月の頭を優しくなでる。
彼女が昔、提督にそうしてもらった様に。
如月「司令官は、皆をしっかりと見てくれているわ。だから、大丈夫」
如月がそう告げると、睦月はゆっくりと如月から離れていく。
睦月「・・・わかった。如月ちゃんを、信じるよ」
睦月が先程座っていた場所に戻ったのを確認した如月は、漣の方を向いた。
如月「漣ちゃんは、何かあるかしら?」
漣「聞きたいことは睦月が聞いてくれたし、漣からは一つだけ、いいかな」
如月「ん、いいわよ」
漣「漣が聞きたいのは、吹雪の事。大丈夫なの?あのヤンデレ」
漣の問いに、如月は暗い口調で答える。
如月「うーん、まだしばらくダメそうね。まぁ、今後に期待かしらね」
漣「昔はあんな子じゃなかったのになぁ・・・信じて送り出した吹雪が前の提督の元でどうなったんだか」
如月「ふふっ、なら、とりあえずは二人とも大丈夫そうね」
睦月「うん!ありがとう、如月ちゃん!」
いつの間にか泣き止んでいた睦月は、如月に礼を言うと、再びご飯を食べ始めた。
如月「それじゃ、そろそろ私は行くわね」
そういって、如月は玄関へと向かっていく。
如月「行ってきます、二人とも」
睦月「行ってらっしゃい、如月ちゃん!」
漣「行ってらっしゃーい」
叢雲は急いでいた。
今は早朝五時半。まだ窓の外は暗く、昼間は騒がしい鎮守府内もしんと静まり返っている。
そんな中、彼女はある場所へ向かっていた。
無防備な寝間着姿で歩く彼女は、目の下に隅すら作っていた。
そんな早朝、普通ならまだ寝ている時間だが、彼ならこの時間にはもう起きているのだろう。
三年前に改修がなされた執務室。そこにいるであろう司令官に、彼女は用があった。
異常なほど離された執務室の前に叢雲がたどりつくと、中から呑気な声が漏れ出てきた。
「演奏スキル上げきっついなぁ・・・」
寝不足の早朝からそんな声を聞いた叢雲は、イライラに任せて扉を勢い良く開けた。
叢雲「朝からアンタは何やってんのよ!」
蹴り開けられたのかと思うほどの開き方をした扉に目を向けた提督は、そこに叢雲の姿を認めた。
提督「ああ、なんだ、叢雲か。ドア位ゆっくり開けたらどうだ?」
叢雲の怒りにあふれた言動をものともせず、彼はマイペースに彼女に語り掛けた。
そんな提督の態度を見た叢雲の怒りは、ゆっくりと膨れあがっていった。
わざわざ毎月こんな時間に執務室まで来させておいて、この男は毎回毎回のんびりとしているのだ。
日々の演習も相まって寝不足の叢雲の怒りを買うには十分だった。
コイツをどうしてやろうか。今日くらい懲らしめてやった方がいいんじゃないか。
だが、何とか落ち着きを取り戻す。
叢雲「はぁ。そんなことより、私たちの要求リスト、書いてきたわよ」
そう言って突き出した叢雲の手には、かわいらしい字でびっしりと書かれたA4用紙があった。
提督「ああ、ありがとう。いつもすまんな」
そういって出された紙を受け取ると、提督は思わず声を漏らす。
提督「・・・ずいぶん多いな。一体いくらかかるんだ?」
叢雲「別に、全部やれってわけじゃないわよ?冗談で言った物もあるでしょうし。ほら、例えばこことか」
提督「デスクトップPCにモニター二つ、WI-FIとワイヤレスマウスにコントローラーまであるんだが」
叢雲が持ってきた紙とは、月一で提督に欲しいものを要求できるこの鎮守府特有のシステム、通称要求書である。
これが作られたのには大事な理由があったのだが、今では艦娘たちが遊び半分で欲しい物を主張するシステムになっている。
ゲーミングPCからぬいぐるみまで何でもかんでも書いてあるのだが、艦娘も本当にもらえるとは思っていない。
艦娘は、これを提督との交流の場としても使っているようだった。
というのも、この提督、艦娘との最低限の関係以外を持たないのだ。
これは、今時の鎮守府の運営としては珍しい物だった。
艦娘が発見されてからしばらくは、艦娘を兵器として運用しようとする提督も少なくなかった。
艦娘には常に艤装の整備、それがなければ睡眠をとらせる。
人型になった艦船は、人による整備が必要なくなっただけでなく、修理も容易になった。
それができる艦娘を兵器として運用することで、最大の効率で作戦を行うことができる、と考えていた。
だが、そこには誤算がいくつかあった。
一つ、建造のコスト
艦娘の建造は妖精が行っているのだが、できる艦娘はランダムだ。
もちろん、すでに鎮守府にいる艦娘が建造されることもある。
その場合艤装のみが出てくるので、新戦力を欲していた場合は資源が無駄になる。
種類が多く、比較的に必要資材の少ない駆逐艦なら問題ないが、戦艦や空母だとその問題は顕著だ。
二つ、運用への道
艦娘には大本営から"練度"という数値を付けられる。
それは艦娘の戦闘や遠征の結果を判断し、艦娘の今の実力を示すものだ。
だが、これを上げるのには相当の時間と資源が必要になる。
戦場に出すには高練度でなければほかの艦娘との連携が取れないので、低練度の艦娘は演習に力を注ぐ必要が出てくる。
これにより、低コストの駆逐艦でさえも使い捨てとして運用できず、兵器としての運用は難しい。
三つ、艦娘の感情
おそらく、一番大きな要因といえるだろう。
艦娘が持つ感情、それは見た目通りの少女が持つそれと大差はない。
面白ければ笑うし、悲しければ泣く。
艦娘の多くは思春期の子供といっても過言ではないだろう。
そんな彼女たちを兵器として扱うのは、当然反感を買ってしまう。
それが続き、大きな反乱がおきた鎮守府もあった。
提督は砲撃により死亡、多くの艦娘が行方をくらました。
そのような事態を起こさないためにも、彼女たちには人権が与えられている。
要求されたものを二人で見ていると、控えめに執務室の扉が叩かれる。
「司令官、失礼します」
如月「おはようございます・・・って、あら?」
すでに時刻は朝六時。如月がいつも通りに執務室に来た。
だが、如月にとって予想外の光景がそこには広がっていた。
PCの操作をしながら一枚の紙を見ている提督、これはまぁいつも通りだ。
だが、目の下に隈を作った寝間着姿の叢雲がいるとは思わなかった。
如月は考える。この状況が出来上がった原因を。
如月は考える。ここで何が起こっていたのか。
如月は考える。この状況で、自分が言うべき言葉を。
考えて、考えて、考えた。
その末に出てきたセリフはこうだ。
如月「司令官、浮気ですか?」
その声音は、自分でも身震いするほど低く、冷たかった。
提督「すまない、如月」
そういって、提督は頭を下げる。
如月「そう、ですか・・・」
そういって、如月は左手の指輪に手を置き、
指輪を外した。
一方そのころ、もう一人はというと・・・
叢雲「え?いや、あの、ええ!?」
困惑していた。
いきなり始まったこの状況に、彼女は適応できなかった。
叢雲(何?なんなのよこの状況?)
叢雲(え、私のせい?私のせいなの?)
叢雲は良く分からない事態に困惑していた。
だが、その時。
パン
と、乾いた音が鳴った。
提督「さて、最初だしこんなもんかなっと」
そういって手をたたいた提督は、立ち上がり声をかける。
提督「お疲れ様、叢雲」
困惑している叢雲に、提督が後ろを指す。
それに従い振り返ると、左手に指輪をつけた如月が小さな看板を持っていた。
叢雲「ドッキリ大成功・・・ですってぇ?」
始めは状況が呑み込めずにうろたえていた叢雲は、今では額に青筋を浮かべている。
如月「司令官、今の演技、どうでしたか?」
提督「ああ、よかったよ如月。中々に俺のSAN値がすり減ったよ」
叢雲「イチャイチャしてんじゃないわよ!」
そうやって持っていた紙を机に叩きつけると、提督に掴みかかる。
叢雲「いったいどういうつもりなの?」
そう言う叢雲の目には、"怒り"よりも"心配"や"悲しみ"を提督は感じた。
まるで今にでも崩れそうなジェンガに触れるのを止めようとする目。
提督「大丈夫だ、何が言いたいのかは分かってるさ」
そう言って、提督は目を伏せる。
提督「だがな、今のやり方だと、きっとかさぶたを作っているだけなんだ」
提督「傷が深くなることはなくても、あの傷は治ってくれはしない」
提督「もし何かの拍子ではがれてしまえば、もっとひどいことになるかもしれない」
提督「いい加減、俺たちはやらなくちゃちゃいけないんだ」
提督「あいつらの傷を、癒してやらなきゃな」
提督「それが、俺のやるべきことなんだ」
提督「ああ、青葉、今のはカットでお願い」
青葉「えー、なんでですか?」
どこにいたのだろうか、いつの間にか如月の後ろにいた青葉が不満げに声を漏らす。
提督「今回は大本営に提出する映像なんだぞ?」
青葉「ぶー、良いですよ、カットして保存しておきますよっと」
提督「一体何に必要なんだよ…」
如月「提督を脅すのには使えるかもしれないわよ?」
冗談めかして如月が微笑む。
提督「ハハハ・・・青葉、それ今日中に提出な」
青葉「えぇ!?私の時間を何だと思ってるんですか!」
提督「どうせロクなことに使わんだろうが。少しは人のために働け」
そう言って青葉を部屋から追い出すと、叢雲が提督に詰め寄る。
叢雲「で、アンタは一体何がしたかったの?」
提督「朝礼で話すから待ってろ」
提督がそう言うと、如月が持ってきていた朝食を食べ、仕事に入った。
叢雲は納得いかないと思いながらも、自分の部屋に戻った。
case2,軽巡洋艦の日常
珍しく、朝の食堂には全ての艦娘がそろっていた。
鎮守府の中でもレアキャラと化している子や、始めて見るような子までいた。
何故こんな状況になったのだろうか。
原因は、早朝の放送だった。
提督「艦娘の皆様へ、ご連絡いたします」
提督「今日の朝礼は全員強制参加です」
提督「来なかった艦娘には・・・どうしよう」
提督「まぁ、なんか考えとく」
それだけの短い放送だったが、一部の艦娘にとっては死活問題だった。
先ほど那珂に起こされた川内も、そのうちの一人だった。
昨日も昼に起きて朝に寝る普段の生活をしていた川内には、ダメージが大きかった。
それに対して朝からテンションの高い那珂が、自分の妹だとは思えなかった。
那珂「珍しいよねー、朝礼に出ろ、なんて」
神通「一体、なんの用事なんでしょうか?」
川内「夜戦に比べれば大したことじゃないわよ」
川内「・・・那珂は元気ねぇ、私の分も出てよ。夜戦に備えて寝てるから」
神通「普段出てないんだから、今日ぐらい・・・って」
あくびをしながら自室に戻るため振り返る川内。
だが、そこに立ちふさがる影が一つ。
??「来なかった罰は、夜戦禁止ってのがいいかな」
川内「あ、いや、そのー、提督?」
提督「どうした?」
川内「提督は・・・難聴系主人公だったりしないかなぁ?」
提督「想像に任せるが」
川内「・・朝礼に出ます」
川内が諦めて前を向くと、横から提督がのそのそと出てきた。
その姿はどこか気怠げだったが、艦娘達の前に立ち、彼女たちを見回すとその表情は柔らかい物になった。
提督「急な呼び出しに応じてくれてありがとう」
提督「普段は全く会わない者にも会えて、ホッとしている」
提督「今日はいつも通りの朝礼の前に、皆に伝えなければいけないことがある」
その言葉に、食堂にいた艦娘達がどよめく。
また大規模作戦が始まるのではないか。
新しい艦娘が来たのではないか。
中には、いい加減提督と如月がケッコンカッコガチをするんじゃないかと予想する者もいた。
だからこそ、提督の発言は予想外だった。
提督「この鎮守府で、イベントをやることになった」
イベント、と聞くと、読者の方々は何を思い浮かべるだろうか?
今年の春イベやコミケ、某イカゲーを思いつく方もいるだろうか。
ここにいるアイドル(自称)や、夜戦主義を掲げている軽巡洋艦も、自分勝手に思いをはせていた。
だが、そんな野望は提督の心無い(当社比)一言によって打ち砕かれる。
提督「イベント提案、企画は大本営に一任してるから、自分たちで考える必要はない」
その言葉に、一部の艦娘が反対する。
那珂「そんな、那珂ちゃんのソロライブは!?」
川内「大規模夜戦演習は!?」
提督「そんなめんど・・・無駄なことをするとでも思ったか?」
那珂「面倒って言った!今面倒って言った!」
提督「さて、話を続けるぞ」
case3,重巡洋艦の日常
銚子鎮守府にて行われることになった大規模イベント。
この企画は様々なイベントに艦娘が参加することによってどんな反応を示すかを見る目的で始められた。
提督や艦娘にとっても出撃や訓練の後の癒しとなるためにイベントの開催は喜ばれた。
だが、一つ大きな疑問があった。
何故この鎮守府なのか?と
このイベントは将来的に数多くの鎮守府が参加する予定である。
だが、銚子鎮守府は大した戦果を挙げたわけでもなく、資材の供給や、新人の育成を担っているわけでもない。
所謂、あってもなくても変わらない鎮守府。
だからこそ、不人気鎮守府。
良くも悪くも目立たない、存在感のない鎮守府。
その疑問は他の鎮守府の者だけではなく、銚子鎮守府に所属している者たちも思っている。
青葉「と、言うわけで!」
青葉「私青葉は今、執務室に来ています!」
提督「何がどう言うわけか詳しく」
青葉「そんなことはどうだって良いんです!」
提督「いや良くないからね?カメラ回してまで何がしたいの?」
衣笠「青葉ー、カメラ重いんだけどー」
青葉「早いよ、まだまだこれからだよ?」
衣笠「えー」
提督「仕事がまだ山のようにあるんで早くしてくれませんかねぇ?」
青葉「ふっふっふ・・・昼飯を食べてゆっくりゲームができると思ったら大間違いですよ?」
提督「まだ飯食ってねぇよ畜生・・・今日はいつも以上に仕事があるんだよ」
青葉「あれ、如月さんの姿が見えませんが・・・ついでに色々聞こうと思ってたんですけど」
提督「ああ、如月なら飯を届けに行ったよ」
青葉「そうですか・・・って、どこに届けるんですか?」
提督「あ、マズイ、失言だった」
青葉「どこに、どこにですか?まさか最近噂されている如月さん似の幽霊と関係が・・・」
提督「おーい、本題を忘れてないか?」
青葉「あ、そうでした」
青葉「それでは、インタビューを開始します!」
青葉「この鎮守府は、他鎮守府に比べて駆逐艦が少ないようですが、何か理由があるのでしょうか?」
提督「いきなりそれか・・・別に、駆逐艦が少ないわけじゃないんだ」
提督「ただ人前に出てこないだけで、この鎮守府にいるんだ」
青葉「成程・・・では次の質問です」
青葉「イベントの開催に伴い、この鎮守府をしっかりと調べさせてもらいました」
青葉「すると、ある人物が浮かび上がってきたのです」
青葉「具体的に言うと、提督の前任者がいた、ということなのですが、どうでしょう?」
提督「ホント、青葉の調査には恐れ入るよ」
提督「そうだよ、この鎮守府の提督は俺が二人目だ」
青葉「ふむ・・・では、前任者がやめたのが早かったのはなぜだったのですか?」
提督「あー、それ聞くよなぁ」
提督「・・・今日の夜、飲み会イベントがあるだろ?」
青葉「ありますねぇ」
提督「そこで話してもいいか?流石に素面じゃ恥ずかしいんだ」
青葉「うーん、まあ収穫は大きかったですし、良いですよ」
提督「そりゃありがたい、それじゃぁまた夜に」
青葉「ええ、それでは」
そう言って、青葉が音も無く執務室から消えると、入れ替わるかのように如月が入ってきた。
如月「失礼します」
如月「ただいま戻りました。先程そこで青葉さんと会ったのですが、ここに来ていたんですか?」
提督「お帰り如月。どうだった、元気そうだったか?」
如月「ええ。一時期はどうなるかと思っていたけれど、あれなら今夜も大丈夫そう」
提督「朝も朝礼に来てもらったのに、夜までもか・・・」
提督「やはり元帥に頼んで、日付を変えてもらうべきだったか」
如月「大丈夫よ、もう、二年半も経っているんだもの」
如月「それで、司令官?」
提督「なんだ?」
如月「まだ、青葉さんと何があったのか、聞いてないのだけれど?」
提督「・・・インタビューだよ」
提督「今回のイベントに合わせて、この鎮守府についての記事を作るんだと」
提督「その過程で、ここの三年前まで見つかったみたいだ」
如月「まぁ、隠していたわけでも無いですし、何かのタイミングで出さなければいけないことですしね」
提督「だから、ちょうどいいタイミングだし、いい加減公表しようかと思っている」
如月「それがいいでしょうね」
その時、執務室にノックの音が響いた。
提督「お、来たかな?」
如月「入ってきて大丈夫ですよ」
その声を聴き、大きな扉がゆっくりと開けられた。
case4,護る者たちの日常
??「駆逐艦叢雲、到着したわよ」
??「駆逐艦不知火、ただいま参りました」
??「駆逐艦響、来たよ」
??「駆逐艦荒潮、到着よ~」
提督「さて、そろったか」
如月「それでは、第10回、代表会議を開始します」
提督「ではまず、担当艦の近況についてだ。如月」
如月「はい、担当艦は睦月、漣です」
如月「二人とも元気そう。今夜は参加できそうよ」
提督「よし、では次、叢雲」
叢雲「私の担当艦は吹雪、時雨よ」
叢雲「吹雪は大丈夫そうだけど、時雨は微妙ね。ギリギリまで様子を見ておきたいわ」
提督「了解。次、不知火」
不知火「担当艦は陽炎と雪風です」
不知火「陽炎は問題ない。雪風は少し辛そうだが、何とかします」
提督「ふむ、響」
響「今はВерныйだよ、司令官。担当艦は暁、雷、電の三人」
響「三人とも大丈夫だが、できるだけ四人で行動した方がいいだろうね」
提督「解った。荒潮」
荒潮「あら~、私が最後かしら」
荒潮「担当は朝潮と霞よ~」
荒潮「二人とも大丈夫そう。今夜は行けそうね、うふふふ♪」
提督「そうか。把握した」
提督「さて、これで全員か・・・」
提督「気になるのは時雨と雪風か」
提督「十分前には連絡してくれ。席は用意しておくから」
叢雲「解ったわ」
不知火「了解しました」
提督「響たちの席はすでに固めてあるから安心してくれ」
響「あぁ、やっぱり直す気はないんだね」
提督「それと、薄々解ってはいると思うが今夜皆に"これ"を公表しようと思ってる」
提督「だが、流石にこればっかりは俺一人では決められない。異議はあるか?」
・・・
提督「無いみたいだな。あ、言い忘れたが、五人とも壇上に上がってもらうからな」
如月「あら、そうなの?なら少し準備が必要ねぇ」
提督「準備って、何をするつもりだ?」
叢雲「あー、アレ?一応完成してるけど・・・本当にやるの?」
荒潮「うふふふ・・・努力したものにはそれ相応の評価が必要、そうでしょう?」
響「クク・・・面白いことになりそうだね、まったく」
不知火「では、準備はお願いします」
提督「俺を仲間外れにして何の話をしてるのかな君たちは」
提督「何かやるんだったらほどほどにな」
如月「ふふ、わかってますよ、司令官。如月にお任せください」
提督「いやな予感しかしないが・・・まあいいや、解散!」
夜七時、普通の企業からすると広すぎると思えるような鎮守府の食堂。
その広い食堂は、若い年齢に見える女性たちで埋まっていた。
だが、考え方を変えると悲しいことになるのは気にしないほうがいいだろうか。
女が三人寄ると姦しいとはよく言うが、この人数になると煩いという言葉が適当だろう。
その中で、外見だけなら唯一の男性と呼べる者の声が響く。
提督「えー、本日は集まってくれてありがとう」
提督「・・・毎回コレ言ってる気がするんだよなぁ」
提督「まぁいいや。本日はお待ちかね、銚子鎮守府大規模イベント第二回、飲み会イベントだ」
提督「仲のいい友人と飲み明かすも良し、今まで交流のなかった者と話すもよしだ」
提督「明日は出撃はおろか遠征も無い。二日酔いになっても安心だ」
隼鷹「ヒャッハー!酒が飲める飲めるぞー!酒が飲めるぞー!」
提督「まぁ、うん、すでに飲んでるやつもいるが、乾杯をしたいと思う」
提督「コホン、えーでは、戦争の早期終結、この鎮守府の繁栄、そして俺の睡眠時間の安定化を祈って」
提督「乾杯ィ!」
艦娘「乾杯!」
提督「っと、あとは頼むよ」
如月「ええ、解りました」
提督が舞台裏に引いていくと、代わりに出てきたのは五隻の駆逐艦。
ほとんどの艦娘から見ると、彼女たち五人に何の関係があるのか、分からなかった。
だからこそ、酒を飲みながらも、多くの者が注目していた。
如月「銚子鎮守府、第一艦隊旗艦および、秘書艦の如月です」
如月「私たち五人は、今まである隠し事をしてきました」
如月「それを今日、この場で公表したいと思います」
そう告げる如月の声色は重く、普段の様子と比べても、ただ事では無いことは容易に理解できるだろう。
如月「この鎮守府は、ほかの鎮守府と比較すると、駆逐艦が少ないと言われています」
如月「軽巡洋艦と比較すると、活動している駆逐艦は半分程度です」
如月「ですが、書類上は軽巡洋艦と私たち駆逐艦の数はほぼ同等」
如月「ならば、残りの駆逐艦はどこにいるのでしょうか?」
如月「彼女たちは・・・ここにいます」
如月がそう言うと、舞台裏から10人ほどの駆逐艦が出てきた。
如月「彼女たちは、今まで人前に出てこられるような状態ではありませんでした」
如月「数年間のリハビリを終え、ようやくこのような場に出ることができました」
如月「できれば、彼女たちを暖かく迎えてくださると幸いです」
その言葉を皮切りに、食堂は拍手で埋め尽くされた。
新たな仲間を迎え入れるこの鎮守府の雰囲気はとても穏やかで、復帰する彼女たちにもいい環境だ。
紹介された艦娘達が自分の席に戻ると、再び提督が前に出てきた。
提督「えー、これで報告を終わる」
提督「あとはもう自由時間なので、好き勝手やってくれ」
提督「以上!」
そう言うと、提督は再び舞台裏に入っていった。
水平線が見えた。
どこから引かれ、どこで引き終わっているのか。
自分の目ではそれを確かめることはできないのだろう。
こんなにきれいな水平線を見たのは、何年ぶりだろうか。
夜の海を、月明かりだけが照らしていた。
水平線が歪んだ。
ここまで来るのに、どれだけの苦難があっただろうか。
一体どれだけの艦娘が沈んだのか。
初めてここを見た時、月なんて全く見えなかった。
黒い雲と深い霧に覆われ、艤装のない彼には見る術がなかったのだ。
それから三年。
彼女たちのおかげでここまで来ることができた。
食堂は相変わらず酒飲みで溢れていて、外にいても騒がしさが伝わってくる。
だが、彼はその中には居ない。
彼は舞台裏にある裏口から外に出ていた。
外に出ると、灯台へと続く道と砂浜がある。
その灯台の足元に彼は独り座っている。
彼は右手の缶ビールを煽ると、体重を背中に預けた。
視界から月は消え、黒い空に無数の星々がちりばめられていた。
星に関しての知識など、子供のころに見たプラネタリウムでの話をかろうじて覚えている程度だった。
だが、その程度の知識でも解ることはある。
三年前に比べ、見える星の数が少なく感じるのだ。
それはなぜだろうか。
時間を持て余している彼は、その疑問が自分の退屈を紛らわすことを期待して、瞼を閉じた。
ああ、やっぱり。と、如月は思った。
食堂の騒がしさとは裏腹に、人気のない静かな灯台のふもと。
あたりは暗く、灯台がより一層輝いている。
その灯台の足元には、白い軍服を着た男が横たわっていた。
本来なら、だれもいないはずのこの場所。
ここに彼が寝ている理由など、だれにもわからないだろう。
ただ、この二人を除けばの話だが。
如月は無防備に寝ている提督の近くまで来ると、かがんで声をかけた。
如月「司令官、こんなところで寝たら、風邪ひいちゃうわよ?」
その如月の声に、彼の意識は呼び覚まされた。
その声に答えるように、提督は閉じていた瞼を開いた。
途端に開けた彼の瞼には、如月の顔が映った。
困惑した提督は、何か言わねばと焦り、口を開いた。
提督「・・・如月か、おはよう」
だが、ぼやけた意識の中でひねり出した言葉は、かなり間抜けな言葉だった。
如月はそれを聞くと、顔を上げて提督に告げる。
如月「まだ夜よ、司令官」
提督はそれを聞くと、しまった、というような表情をしてから、体を起こした。
如月のおかげで、提督は現状を把握した。
彼は如月の方に振り返ると、声をかけた。
提督「どうしてここに来たんだ?」
その質問に、如月は優しい表情で答えた。
如月「司令官、一人だと泣いちゃうと思ってね」
確かにその通りだ、と提督は思った。
眠る直前、彼は涙を流していた。
その事実に気付くと、提督は照れ隠しのように言った。
提督「如月はなんでも知ってるな」
その言葉に、如月は正しく答える。
如月「何でもは知らないわ、司令官のことだけ」
照れもせずに答える如月に、提督は続ける。
提督「さてと、そろそろ戻ったらどうだ。睦月が心配してるだろう?」
そう言って提督は立ち上がると、鎮守府に戻って行く。
それに如月が続くと、提督に言った。
如月「司令官も一緒に飲まない?皆歓迎してくれるわよ?」
提督はそれを聞くと、振り返り穏やかに言った。
提督「解ってるだろ?」
如月には分かる。彼が善意で言っていることが。
だが、彼女にも引けない理由があった。
如月「あの子たちが、本当にそれを望んでいると?」
如月は思い出す。かけがえのない親友の笑顔を。
如月「慎重に物事を進めるのは、確かに大切だと思う。けど、」
感情的に訴える如月。その言葉に、提督は答える。
提督「あの子たちの傷がどれだけ深いのか、俺自身も解ってるわけじゃない」
提督「確かに、あの子たちは快方に向かいつつはある」
提督「だが、あの子たちにとって一番害になる"提督"が、彼女たちに近づくのはまだ早い」
提督「俺はな、怖いんだ」
提督「俺のせいで、あの子たちがこれ以上傷つくのが」
そう言った提督の目には、普段まとっているのとはまた違う優しさが、如月には見て取れた。
如月も、彼の言っていることを分かってはいた。
睦月たちが提督を怖がっていることも。
今あの子たちと提督を引き合わせても、失敗する可能性が捨てきれないことも。
そして、提督がそれを一番恐れていることを。
だからこそ、如月は悩んでいた。
その理由は、昼の会話にあった。
昼、駆逐艦棟の空き部屋
物置のように使われている部屋に、小柄な少女が五人集まっていた。
皆、愛用のPCの方を向きながら話し合いをしている。
叢雲「さて、あの子たちは大丈夫。映像の方も問題なしっと」
叢雲「後どうにかしないといけないのは、司令官のことね」
そう言って、叢雲は頭を抱える。
それを見た響が、如月に問いかける。
響「如月、司令官はやっぱり、出る気はなさそうかい?」
不安げに聞く響に、如月は悩みながら答える。
如月「今のところは、うん。出てはくれなさそう」
その言葉を聞くと、五人はまた悩み始める。
不知火「いっそのこと、食堂まで連行してはどうでしょう。説得するよりも楽そうです」
そう言って、不知火は部屋にあるロープを手に取る。
不知火「司令官程度なら、艤装がなくても勝てますし」
そう言って、不知火は絡まったロープをほどく。
だが、それに対して荒潮が声を上げた。
荒潮「だめよ~、ロープは縛られる人の気持ちも考えないと」
そう言って、荒潮は自分のポケットをあさる。
ポケットから出した手には、なぜか手錠が握られていた。
荒潮「行動を制限するなら、両手両足だけで十分よ~」
そう言って、荒潮はもう一つ手錠を取り出す。
響「まぁ冗談はその辺にしておいて、実際どうやって司令官に来てもらえばいいんだろうね」
荒潮から手錠を取り上げた響は、悩む仕草をしながらそう言った。
如月「まぁ、私の方で説得してみるわ」
如月「それで無理そうだったら…お願いするわ」
そう言って、如月は席を立った。
執務室に向かうのその足は、いつもより重く感じられた。
如月は昼の会話を思い出しながら、その場を立ち去ろうとする提督の姿を見つめる。
皆はどこに隠れているのだろうか?
先程見せたロープに手錠。おそらく見せていない物も少なくはないだろう。
これからの展開を想像すると笑みがこぼれるが、それを止める術はないだろう。
如月は、仲間が提督を捕らえるのを待っていた。
提督は、如月からの反論がないことを確認してから、鎮守府に向かう。
たとえどれだけ時間がかかったとしても、時間をかけ、慎重に事を進める必要がある。と、提督は考えている。
人の心は簡単に傷ついてしまう。だからこそ、扱いがとても難しい。
提督(今急ぐ必要はない。まだ時間は十分にあるハズだ)
彼は考えながら、速度を上げた。
しかし、
その加速は、不意に途切れてしまう。
足元に何かが当たったようだった。それを確認しようと目線を動かすよりも早く、彼の視界はどんどん狭まって行った。
提督は気づいた。足に何かが当たり、それで転んだのだと。
しかし、顔への衝撃と同時に、その思考は止まってしまった。
急に止まった提督の意識は、ゆっくりと覚醒していった。
かなりキツイ酒の匂いと、だんだんと大きくなる騒がしい声。
声が大きくなるほどに、彼の意識もはっきりとしてきた。
だが、それと同時に彼は気づく。
目を開けているはずなのに、視界が真っ暗なのだ。
何が起きているかを探ろうとしても、手は動かず、軽い金属音が鳴るだけだった。
提督(なんだ?金縛りにでもなっているのか?)
それにしては妙だ。金縛りにしては、胴体の部分は容易に動く。
これでは金縛りというよりも、普通に縛られているようではないか。
提督(…ん?じゃぁ今って、縛られてるんじゃないのか?)
そう思って、提督はできるだけ激しく動いてみる。
そうすると、両手が何かに引っかかり、同時に大きめの金属音がした。
良くも悪くも、これで誰かしら自分に気付いてくれるだろう。
??「お、提督、ようやく起きたのか」
そして、思惑通りに提督の聞きなれた声が聞こえた。
提督「ん、長門か!頼む、とりあえずこれを外してくれ!」
そう言って、提督は声のする方にどうにか近づこうとする。
だが、声の主長門は彼に、
長門「待ってろ、今あいつらを呼んでくる」
といって席を立ち何処かに歩いて行ったようだ。
提督「おい、ちょ、せめて目隠しぐらいは外してけよ!」
そう言いながら提督がじたばたしていると、不意に目隠しが外された。
急に開けた彼の視界に入ってきたのは、長門の姉妹艦、陸奥の顔だった。
陸奥「あら、おはよう提督。まだ夜だけどね」
提督「え?あぁ、おはよう」
陸奥の急な言葉に、困惑しながらも提督は答えた。
陸奥「もう、長門ったら、人の話聞かないんだから」
陸奥はそう言うと、長門が行ったであろう方向に視線を向ける。
提督「すまん、邪魔をしたな」
提督はそう言いながら、自分の状態を確認する。
目の前には先ほどまで自分につけられていたであろうアイマスク。背中に手を回し、手錠か何かでで動きにくくなっている。
足はロープで縛られており、這うくらいでしか移動ができなくなっている。
陸奥「あはは、気にしなくていいわよ。それにしても、どうしてここまでされたのかっていうのは、分かってるの?」
提督の方に向き直った陸奥は、拘束されている姿を見てそう言った。
この言葉に、提督は少し思案してから答える。
提督「まぁ、一応あるにはあるが…ここまでやるのか」
提督は難しい顔でそういうと、深いため息をついた。
陸奥「まぁ、原因が分かってるならよかったわ」
陸奥は手元のビールを呷りながらそう言った。
陸奥「っと、帰ってきたわね」
その言葉に提督が反応して周りを見ると、長門が一人の駆逐艦を連れて帰ってきていた。
響「司令官、ようやく起きたのかい?」
ウォッカを片手に携えて顔を覗き込んできた彼女は、彼の部下であり、着任時にいた艦娘の一人の響だった。
提督「ああ、響か。早くこれを外してくれないか?かなり邪魔なんだが」
提督は不自由な状態の中、何とか響の方へ体を向けてそう言うと、響は考えてから言った。
響「一つ、約束をしてくれるなら外してもいいかな」
響「これからはちゃんと飲み会に参加すること、いいかい?」
響の言葉を聞いた提督は、諦めたように答えた。
提督「解ったよ、めんどくさいが参加させてもらうよ」
提督がそう言うと、響は満足げに頷き、ポケットから取り出した鍵で手錠を外し、足元のロープをほどく。
提督は自分を拘束していたものがすべて外れたことを確認すると、立ち上がり、体を伸ばした。
提督「あーきつかった、さてと、これで自由だ」
提督はそう言うと、適当な方向に歩き始めた。
響「あ、司令官、待ってよ、おいてかないでよ」
響はそういって、提督の後ろをトコトコとついていった。
騒がしい室内で、一人の少女はコップを片手に一つの紙の束に目を通していた。
銚子鎮守府の提督、通称"不人気提督"について。
26歳独身、階級は少将。如月とケッコンカッコカリをしている。
防衛大学を卒業後、海上自衛隊に所属、その後、海上自衛隊が海軍に改名した際もそのまま勤務。
成績は普通、運動神経はやや低め。友人は少ないが、良好な関係を築いている。
本人の趣味で心理学を学んでいて、人の大まかな感情を読むのに長けている。
性格は明るく、仲のいい者には砕けた口調で話す。
一年間大本営にて情報処理を行っていた。
しかし、三年前に何らかの事情で銚子鎮守府に二代目提督として転属、以来続けている。
特にこれといった問題行動は無し。だが大規模作戦には参加しておらず、鎮守府周辺の哨戒が主な任務となっている。
また不人気提督という呼び名は、前述したように戦果を挙げていないためか一部を除く艦娘からあまり好意的に思われておらず、提督としては珍しいケースなのでそう呼ばれている。
今まで轟沈させた艦娘は0、多くの艦娘を有しているが、すべて建造可能な者に留まっている。
他の提督と比べれば目立った特徴はなく、雑誌などでも注目されていない。
また、この鎮守府の一代目提督に関する情報は大本営により厳しく制限されている。
??「(いくら調べても、これ以上は出てきませんね…やっぱり、本人に直接聞くしかないですかね)」
手に持っていたビールを飲むと、青葉は周りを見渡した。
青葉「(それにしても、司令官はどこに行ってるんですか!飲み会で話すと言っておきながらどっか行っちゃいましたし!)」
彼女はイライラしながら、残りのビールを飲みほした。
提督「(さてと、どうしたものかな…)」
彼は食堂内を見渡した。
艦娘達がアルコールを片手に談笑する景色を見ながら、彼は自分の居場所を探していた。
この鎮守府では基本的に、艦娘同士で物事をやり繰りしている。
例えば演習だ。
普通の鎮守府では提督がスケジュールを考え、演習用の艦隊を編成し、艦隊の指揮を旗艦に任せる。
だがこの鎮守府では、月での演習ノルマが決まっている以外は、すべて彼女たちに委ねられていた。
どんな艦隊とどんな艦隊がどこで演習をし、何をもって勝利とするのか。それを自分たちで考えるため、彼女たちはある程度自由に訓練ができた。
そのような方針を取った結果、鎮守府内では演習の編成にちょっとしたグループができていた。
その中でも多いのが、大戦時の編成だ。過去に共闘したこのとある仲間と組むことが多く、それ故交流も深まった。
だからこそ、提督は言った。
"提督「仲のいい友人と飲み明かすも良し、今まで交流のなかった者と話すもよしだ」"
艦娘同士の交流の幅が狭まらないように、彼は皆の前でそういったのだ。
さて、そんな小話はいいとして、本題に移ろう。
提督は、今自分の居場所を探している。それも時間をかけて。
というのも、彼は基本的に艦娘達と交流をしていないのだ。
理由はいろいろとあるのだが、それは今重要ではない。
彼は少ない艦娘としか話さない上、その内の多くは今割と忙しい。
彼は少し考えてから、自分の横にいる艦娘に目を向けた。
駆逐艦響。数少ない提督との交流を持つ者の一人で、あの子たちを守る者の一人でもある。
響「…なんだい司令官、私に何か聞きたいことでもあるの?」
提督が無意識に彼女の方を見ていると、響はそこに疑問を抱いた。
提督「ああ、ちょっとな…あの子たちの様子を教えてくれるか?」
提督が真剣な表情で聞くと、響はそれに笑顔で答えた。
響「みんな元気だよ。少し遠慮しがちだけど、しばらくすればそれも無くなるだろうね」
響はそう言って。提督が言った子たちの方を示す。
そこには、多くの駆逐艦がいた。
吹雪型、綾波型、暁型、睦月型、初春型、白露型、朝潮型に陽炎型。
多くの、もっと多くの艦娘達が彼女の指した先にいた。
中には、昼の話にも出ていた子たちもいた。
彼女たちは皆仲良くこの時間を過ごしていた。
提督はその光景を見ると、安心したように肩の力を抜いた。
提督「あぁ、元気そうだな。あれなら大丈夫そうだ」
彼はそこから視線を外すと、別の方向に歩き出した。
響「あれ、司令官。行かなくていいの?」
響は提督のそれをつかむと、彼を引き留めようとした。
提督「皆楽しそうだしなぁ、わざわざ混ざって邪魔する必要もないだろう」
不満を示す響に対し、提督は頭を撫でてからもう一度歩き出した。
しばらく歩くと、二人はある集団を見つけた。
この飲み会の中でも一際騒がしく、消費されたアルコールの量もトップクラスだろう。
隼鷹や千歳、那智を中心とした飲兵衛集団が、二人の冷めた視線の先にあった。
2017/9/11追記
後書きを見てください…
ハーメルンの方に書くことにしました!
こっちで追ってくれた方々には申し訳ないです
向こうの方が書きやすそうだったので…
向こうではもっと読みやすくなってると思うのでよろしくお願いします
如月ちゃんが秘書艦のSSをあまり見たことなかったので、このSSを見て如月ちゃんのSSを漁ろうと思いました。
あと如月ちゃんってもう少しテンション高いような…?違ったならすいません。
これからも更新頑張ってください。
コメントありがとうございます。
如月のss少ないんですよねぇ…とても辛いです。
もうちょっと如月のssが出たらいいんですが、アニメの影響で不遇キャラのレッテルを張られてそうで怖いです。
如月にはこの後はじけてもらう予定なので、よければ読んでください。
本日、一気に読まさせていただきました!
このss、かなり続きが気になりますね。
不人気提督の前任や如月との馴れ初め、鎮守府内にいる他の艦娘について等、とにかく続きに期待です!!
コメントありがとうございます。
色々あった用事も終わり、ようやくssの続きか書けそうです。
雑な駄文ですが、時間がある時にでも読んでいただければ幸いです。
待ってた
これからこの提督が艦娘とどう絡んでくるのか...
楽しみですな
コメントありがとうございます。
これからは提督と他艦娘との絡みも増えて来ると思います。
しおりでも挟んで、暇なときにでも読んでみてください。
こんにちは
らんぱくと申します。
色々ドキドキさせられる表現があり
読んでいて「!?」記号が頭の上に幾つも浮かびました、特に人体実験の下りが……
更新楽しみにしております。
ではでは
コメントありがとうございます。
ここの提督が不人気なのは、冗談が好きなのもあります。
読みながら、提督の発言のどこまでが嘘かを考えるのも面白いですよ。
少しだけ時間が開いた時でも読んでいただけたら幸いです。
更新お疲れさまです。
元帥とのやりとりで少しドキッとしてしまいましたが、仲よしさんみたいでホッとしましたw
あとこれはあくまでも私の主観ですが、文と文の間にスペースを空けてもらえるともう少し読みやすいかなぁなんて・・・
続き楽しみに待ってます!
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、行の間を開けてみたのですが、如何でしょうか?
これで読みやすくなっていたら幸いです
また、同時に誤字修正も行わせていただきました。
これからも、気長に更新を待っていただければ嬉しい限りです。
すっごい見やすくなりました!
修正ありがとうございます!
とても読みやすい、これからも楽しみにさせてもらいます。期待してます。
コメントありがとうございます。
今後も亀更新ですが、忘れたころに更新されているので、気楽に読んでいってください。
書き方が凄く丁寧で読んでいて面白いです!これからの展開も楽しみにしてますぜ!頑張ってくださいね
コメントありがとうございます。
まだまだ初心者ですが、ゆっくりやっていきたいと思います。
完結まではかなりの時間がかかると思いますが、軽く読んでいってください。
荒潮もいいけど如月もいいですよね!
私も電ほったらかして如月と(キィーンドカァン
電「所詮、クズはクズなのだぁ・・・」
あらあらは陸奥じゃないか?
コメントありがとうございます。
いいですよねー二人とも。
まぁ、自分としては如月の方が好みですが。
コメントありがとうございます。
あー、陸奥も結構あらあら言ってますねぇ・・・
ただ、自分の荒潮イメージはファミ通四コマが強くて、あらあらしか言ってない印象があったんですよね~。
これからも暑さに負けながらだらだらと更新していくつもりなので、間違えてクリックしたときにでも読んでください。
なかなか面白かったです(b*'Д')b
次回作も楽しみです!
コメントありがとうございます。
現在裏で次回作を書いている状態です!
こっちと少し話が繋がると思います。
このssには(きっと)安眠効果があるので、寝たいときに読んでぐっすり寝てくださるとちょうどいいと思います。