2017-03-19 11:19:06 更新

概要

俺ガイルSS第三作。
今度こそラブコメ書きます。

もし宜しければ、批評、コメント頂ければ幸いです。

最新第終章、更新致しました。(8月21日)


前書き

彼氏って何だろう。
彼女って何だろう。

最近、俺、比企谷八幡は贅沢にも、そんな事を考えるようになっていた。

ただ好きなだけでもないし、告白したから何が変わるのかと言われても、別に何も変わらない……

んー、わかんねぇ……
頭痛くなってきたし、そろそろ寝る、か……




プロローグ


やはり、比企谷八幡は風邪である。









「ふぇっくしょん!!」


「……ちょっとお兄ちゃん、ホントに大丈夫なの?」


「ん……心配すんな。いいからさっさと行ってこい……げほ」


「ん……じゃあ、行ってきます」


「おう」


「……ごめんね、お兄ちゃん」



そう言って、小町は玄関のドアを閉めた。



さて、これからどうするか……


俺は今、説明するまでもなく風邪である。

さらに言えば、その中でも俺のは喉風邪。

発熱に加え、一昨日から蚊の泣くような声しかでない。

真面目に筆談とかしてるまである。


「……げほっ」


今日は月曜日。

他の人にとってはごく普通の平日で、当たり前だが学校もある。小町もそうだ。

そう、例外は俺だけ……

そう考えると、何だか得した気分になる。


「……げほげほっ!」


しかし、そんな気分に反して俺の体調はすこぶる悪いようで……


「……げほげほごほっ!!」


ぐ……これはヤバイな、部屋で寝るか……


俺は階段を登った。


い、よいしょっと。

ふう……










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








……それから恐らく数時間後、俺は自室で目を覚ました。


そう、紛れもなくここは俺の部屋なのだが、そこにいたのは……



「……ん」


「あ、起きましたか?先輩」


「……」


「小町ちゃーん、先輩起きたよー!」


「……な、ん」


「あ、先輩喋れないなら無理しなくていいですよ?言いたいことなら大体分かりますから」


「……」


「なぜ、私がここでこうして先輩の介抱をしてるのか……ですよね?」




一色いろは。

彼女は俺の枕元で、そう語りかけるのだった。








第一章

そして、比企谷八幡は実感する。







『何でお前がここに』


「えへへー、来ちゃった!って感じですかね」


『来ちゃったって……』


恐らく小町から聞いているのだろう、一色は俺のこの状態を知っているようで、俺からの会話は全てメールでするよう指示されている。


普段からケータイで文字を打つ習慣がない俺にとっては不便極まりないものだが…仕方ない。


……で、何でこいつが俺の介抱を?



「ん……何かいても立ってもいられなくなったというか、何というか……」


「あ、私が無理言ってお願いしたんだよ?お兄ちゃん」



そう言いながら、ドタドタと階段を上がってくる小町。



「……そうそう!そうなんですよ先輩!」


「まあ、私もまさか聞き入れて貰えるとは思っちゃいなかったけどねー?ラッキーだね、お兄ちゃん」


何故小町が一色に……

そこが気になりはしたが、ここでとやかく言うつもりはない。

というより、今の俺にはそんな余裕がない。


『ありがとな』


「先輩……」


「……ん。それで良いんだよ、お兄ちゃん」


そう言って、小町は俺に冷えピタを貼ってくれた。ひんやりしていてとても気持ちいい。



「……で、本題なんだけどさ、お兄ちゃん」


「……?」


「私、明後日から臨海学校なんだよね……」


「……!」



そうだった。

明後日から小町がいない、ということは……



「まあ、二泊三日だし?その間お兄ちゃんを放置しておくのも別にいいかなーと思ったけど、そうするとお兄ちゃん間違いなく死ぬでしょ?」


「放置って選択肢もあったんだ……」


「だから、小町はこうしていろはさんに泣きついた訳なんだよねー」


『そうか……悪いな一色』


「!……いやいや、まあ小町ちゃんのお願いだし、断れませんから!」


「おぉう、何か気持ち悪いくらい素直だねお兄ちゃん……」


『余裕ねえんだよ』


「あっそ……ならもういっそ余裕なんてなくしたほうが良いんじゃない?」


『なんだそれ』


「わーかってないなあ、この男は。じゃ、小町たちは忙しいから、じゃーね」


「先輩、寂しくなったら、この三日間に限りいつでもメールしてきて良いですからね?」


『じゃあや』


「あ、打ち間違えてる……ふふ。ではでは、また明日です!おやすみなさーい」



そう言って、二人は俺の部屋から出ていった。

くそ、打ち間違えとかもう絶対しねぇぞ……


急に静かになった部屋の中、俺は自分のおでこに張られた冷えピタに癒されながら目を閉じた。




(三日間に限り、か……)


そんな事を考えながら。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





それからぐっすり眠って、俺が目を覚ましたのは午前3時。

変な時間に起きたせいか、めちゃくちゃ喉が乾いていた。


「……ん」


体を起こしたその瞬間、だるさ、熱っぽさ共に若干引いていることに気づいた。

これをひとえに薬と自己免疫力のせいにするのは……何というか、あまりにも恩知らずというものだろう。



『ありがとな』



そう入力した所で、今が深夜であることに気づいた。いつでも、とは言っていたものの、こんな時間にメールが来たとなれば、送られた側はさぞ迷惑に違いない。


(また明日、か)


彼女は明日……厳密に言えば今日もまた来てくれるだろうか。




……いや、来てほしい。




心の中でそう思う自分がいることに気づいて、俺はしんみりと実感した。


やはり、俺にとって一色いろはは大切な「彼女」になったのだと。









第二章


しかし、比企谷八幡は喋れない。







「……ぁー」


午前7時。

一晩寝れば治ってた……なんてこともなく、俺の喉は相変わず絶不調のままで、熱も完全には引いていない。

どうやら、今日も学校は休まざるを得ないようだ。


(……喉乾いたな)


『ポカリ持ってきて』


小町にポカリのおかわりを貰おうと、メールを送る。


数分後、小町はアクエリアスとコップを持ってきてくれた。


「はい。ポカリじゃなくてもいい?」


首を縦に降って肯定する。そして、


【ありがとう】


昨夜作っておいたセリフカード(命名俺)を小町に見せる。


「ん、何それ……うん、気にしなくていいよ、お兄ちゃん!」


そう言って小町は下に降りていった。

どうやらこのセリフカード、略してセリカは想像以上に役立つらしい。他にも作っとこ……


俺がベッドから出ると、一階からいってきまーす、と言う声が聞こえた。反応できないのが少し悔しい。


その後、セリカを何枚か作り終え、ふと、いつもの癖でケータイの画面を開くと……


……メール、か?


『先輩へ


体調はどうですか?少しは良くなりました?


お昼ごはんは袋に入ってるおにぎりでお願いします。ごめんなさい……


夜は私がしっかり看病してあげますからね!


ps.ご両親は今日も帰って来れないって小町ちゃん言ってました』



……純粋に嬉しかった。

心が安心感で満たされていく……そんな感じがした。


(俺の、彼女か……)


しかし、そう心の中で呟いた一瞬、俺の中でもうひとつの思考が生まれた。

いや、思考というより、欲望……独占欲。

そう、それは紛れもなく独占欲である。


俺は瞬間、とてつもなく一色にメールを送りたい衝動に駆られた。


(……気持ち悪りぃ!)


俺はそれを、ケータイを投げ捨てることで回避した。


一色と付き合い始めて一週間。

どうやら、俺はまだ一色のことを信じきれていないようだった。


それと同時に、一色のことを好きになった自分も信じられていなかった。


ああ、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……


一色のことを好きだという気持ちも、


一色が好きだと言ってくれたことも、


一色と付き合っているという結果すらも、


全てまやかしとして捉えている自分がいることに、気が付いてしまったのだ。


俺は、その憎悪を抑え込んで、また眠りについた。







……目が覚めると、そこには小町がいた。


「……っ」


まだ声はでない。

代わりにメールを打った。


『一色は?』


「ん、ああ起きてたんだねお兄ちゃん。いろはさんは……まだ来てないけど。なになに、実は結構期待してた?」


……そうだ。

俺はまだ、「このこと」を小町に打ち明けてはいない。

それだけに、小町がいきなり一色を頼った時にはびっくりしたが……


『バカ言え』


小町にはそう送っておいた。


ケータイの画面を見ると、時刻は午後6時。

この時間なら、別にメールしても構わないだろう。



『一色』



そう送ってから、俺はこのメールが「会話用」ではないことに気付く。



『何ですか?どうせ呼ばれるなら名字より名前のほうがよかったんですけどー(-_-)』



しかし、一色は即座に、俺にメールを返してくれた。



『すまん。用はない』


『用がないなら送ってくるなーって感じですよ(ー。ー#)まあ私が用があるんで丁度良いですけど。


今晩、何か食べられそうなものってありますか?』


『ラーメン』


『うーん、確かに具合悪い時ってラーメン食べたくなりますけど……今日はダーメ!消化に良いもの作るんで、待ってて下さいね!』


『すまん』



一色の怒り顔文字にビビって、その後の会話の内容に安堵して……これだけのメールのやり取りで、俺は相当疲弊してしまった。

怖いのだ。

一色が、俺を見捨てるのではないかと思うと、気が気でない。


何か、何かないか。

俺と一色の関係を確立させられる、何かは……


……しかし、そこに浮かんでくるのは、おぞましく、忌むべき思考ばかり。


考えるのを止め、ベッドに潜り込む。



「……お兄ちゃん?」


『うつるぞ』


「……そだね。じゃ、また呼んでよ」



小町は強かだ。

そう羨む自分がいる。

……妬む自分もいる。


このマイナスの自分を、どうにかして消し去れないものだろうか。


無理だ。

このマイナスは、俺の半分以上をも占めているものだから。


「……お兄ちゃん、お大事に」


【ありがとう】


セリカで応答する。

いや、セリカが応答する。


それは、既に俺の言葉ではない。


比企谷八幡は、喋れない。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「こんばんはー」


「……あ、いろはさん」


私が先輩宅に着くと、リビングにテレビも点けず座っている小町ちゃんがいた。



「どうしたの?小町ちゃん」


「いえ……兄の容態が、ちょっと」


「……!行っていい?」


「良いですけど……」



先輩……そんなに体調が……!


部屋に飛び込むと、そこにはベッドに横たわっている先輩の姿があった。


「先輩!!」


「……ぁ」


先輩の手にはケータイが握られている。


「あ……メールメール!」


私は急いでケータイを開く。

そこには……









『ポカリ飲みたい』









その間、先輩はドヤ顔でこちらを向いていた。





「……くっ、あははは!何ですかそれ!あーあ、心配して損した!」


「……ふっ」


「あ、鼻で笑いましたね今!むー、今度は私が……」


「……げほごほっ」


「あ……だ、大丈夫ですか先輩、無理しないで……」


結構激しく咳き込む先輩。

見てるだけでも、結構辛そう……


「あ、ほら先輩、ポカリですよ」


すぐそこのコンビニで買ってきたポカリを手渡すと、先輩は本当に美味しそうにそれを飲んだ。


自然と顔がにやけてしまう。

多分私、今とんでもなく幸せな顔してるんだろうな……


「……っ、ん」


ポカリを半分ほど飲んだ先輩が、そのボトルをこちらに渡してくる。

ちゃんと蓋が閉まっていることを確認して、私はそれを枕元に置いた。


……がしっ。


「……?」


先輩に左腕をつかまれた。

弱々しい力だけど、私はそれのなすがままに引き寄せられた。


「……な、なんです?先輩」


キスを求めているようでもなかった。

抱きしめようとしている訳でもなさそうだった。

それでも、その引き寄せる先輩の手は左腕から後頭部に位置を変え、私を口元へと運んでいく。


……え、な、なに、を、



「……ありがとな」


「……ぇ?」



耳元でボソッと、そう聞こえた。

動揺していてちゃんと聞き取ることはできなかったけど……

それは、掠れていても優しい、先輩の声だった。


「ん、も、もう!仕方ないなあ、先輩ったら……」


顔が熱を帯びているのがわかる。

あー、もう、ホントにこの人ったら……


「……想像以上ですよ、先輩」


今の場面、私はキスされても嬉しかった。

抱きしめられても嬉しかった。

実際、そうされると思っていた。

でも、先輩はいつものように、私には考え付かない、私の要求以上の物をくれた。


……何て言えばいいのかな、この気持ち。


「……惚れた。そう、惚れましたよ、先輩」


私がそう言うと、先輩は口をぱくぱくさせて何か言ったようだった。


その音のない言葉を、私なりに解釈していいのなら、


きっとその時、先輩は、




『ありがとな』と言ったのだと思う。






一時間後、私がお粥を作って持っていくと、


『ありがとな』


と書かれた画用紙サイズの紙が、先輩の寝ている毛布の上に置いてあった。


……本当に心が通じていたみたいで、とっても嬉しかった。


本当に、私たち繋がれたらいいのにな……


「……ねえ、先輩。先輩はどう思ってるんですか……?」









第三章


また、比企谷八幡は過ちを繰り返す。






「……な、何があったのかしら、一色さん」


「ん?えへへー」


「いろはちゃん、その……何か変なもの食べた?」


「ん?いや、先ほど結衣先輩がくれたクッキー以外は何も……」


「なっ、それどういう意味だし!」


「えへへー、別に?」


「……?」


「その、一色さん、悪いことは言わないから、今日は帰ったほうが……」


「……んー、そうですかね」


「そ、そうだよ……今日のいろはちゃん、何かおかしいもん」


「先輩方がそういうなら……でも、あとちょっとだけ……」



ピロリン♪


「きた!」


「な、何が?」


「何でもないですよー?ではでは、また明日ー!」






「……ゆきのん」


「……さあ、なんだったのかしら」




ふんふふーん♪


今日、私が何でこんなに上機嫌なのかと言うと……


なんと!今日は学校が短縮授業だったのです!


今日はいつもより先輩の面倒を見てあげられる……♪

彼女冥利に尽きる、というやつです!待っててくださいね!先輩!








「ーという訳で、早速来ちゃいました!」


「……」


うん。

いや、嬉しいよ?嬉しいけど!


午後1時。

一色が急にやって来たので、もしや学校サボったのではないかと思い、説明を要求したら……これだった。



「……え?今の説明で何か不満がありましたか?」


……うわーお。全然自覚してねーでやんの、この子。


『その……ばれるだろ』


「え?ばれて何か問題でも?」


……。

一色は現在、俺以外に葉山に告白してフラれたことを明かしていない。つまり、学校内ではまだ「葉山に好意を持っている女子の一人」なのだ。


そこでもし、一色が葉山のことを諦めたと知れれば、今まで「相手が葉山じゃあな……」と一色への好意を諦めていた連中が、「比企谷?誰それ?そんなやつより俺と!」と言い寄ってくる訳である。


……一色がそれになびくとは思いたくないが、それよりも、そんなことになってしまったら一色に負担がかかる。

それに、一色が他の男に言い寄られてるのを想像すると……どうにかなってしまいそうだ。


だから今俺は、葉山があーしさんを女避けに使っていたように、葉山を一色の男避けに使っている。


もし俺が一色と釣り合ってさえいれば、こんなことにはならなかったのに……

……本当にクズだな、俺。


「……?ねえねえ、何でですか?」


幸い、俺のこの目論みはまだ一色にはバレていない。


『……恥ずかしいから』


とだけ、送っておく。


「……何だか、先輩ってやっぱり子供みたいなとこありますよね」


ふいっと顔を反らして、照れたふり。

……罪悪感がない訳でもない。


「ふふ、じゃあ先輩、お昼ご飯何食べたいですかー?」


『ラーメン』


「……むっ、だからダメですってばめん類は!でもまあ、毎食お粥ってのも飽きちゃいますし……ドリアとか?」


『作れんのかお前』


「はい!まあ、私ドリアとかサイゼでしか食べたことないんで、味は多分サイゼみたいになりますけど……」


いやいや、何言ってるんですかこの子。飲食店レベルとか美味すぎのランクに入るでしょうに……


『頼む』


「はい!」


そう言うと、一色はすたこらさっさと一階に降りていった。


(一色の手料理、か……)


……またにやけてしまう所だった。


(ん、ドリア……?あっ)


今気づいた。

材料ねえじゃん。どうするのさ。


(……まさか、買いに行ってる、とか?)


天文学的確率ではあるが、しかし可能性はゼロではない。

俺は急いで一色に確認をとる。


『お前、材料は』


『買ってきたので大丈夫です(^○^)』


……何この子、嫁?俺の嫁なの?

胃袋がっちり掴んでるんだけど?

この調子で給料袋まで掴まれちゃうパターンですか?


……やめとけ気持ち悪い。


そう、俺は一色にとって、あくまで通過点。一色は俺で経験を積み、俺も一色で経験を積む。

そしてお互い、それぞれの道を歩んで行くのだ……


(……いつかは別れる、のか)


そう思うと、心が苦しくなる。

この世に一色の好みの男なんてごまんといるだろう。俺より好条件で、一色が何の不満もなく好きになれる男が。


俺は通過点。

一色の、今後の基準のひとつ。

使い捨て。

都合のいい男。


……でも、俺にとっての一色は、



「せ、んぱーい!……おっとっと。できましたよー!」


一色が出来上がったドリアを持ってきてくれた。

……美味そうだ。


【ありがとな】


「へへー、大したことないですけど、喜んで貰えて何よりです!……それで、そのー」


「……?」


「あの、その紙じゃなくて……昨日の感じで、お願いできますか……?」


「……!?」


っ……!あの恥ずかしいやつをか……?


「……お願い、します」


「……っ!」


あ、う、じゃ、じゃあ……


「……あ、ありがとな」


「……耳元で」


「……!」


あ、あざとい……

駄目だ八幡、理性を保て!


「……」


俺は迫りくる一色の顔を押し返した。


「……むー」


【だからあざといんだよ】


どこかで使うと思って作っていたセリカ第二段を一色に見せ、またベッドに潜る。


「……昨日の先輩も大概でしたよ」


……言うな……。


「……正直言って、私あのとき、その……ゾクッとしたんですからね!」


……?


「だ、だってその、急に来られたらビックリするじゃないですか!い、いくら彼女だからって……何ですかその表情!」


……そ、そうか。

なるほど、一色は、へ、へえ……


「も、もう!早くこれ食べてちゃっちゃと風邪治して下さいね!じゃ!」


バタン。


一色は怒って部屋を出ていってしまった。

……顔を真っ赤にして。


(……。)


……何だろう、この気持ちは。

胸が苦しいっていうか、顔があっついっていうか、考えるだけでやばいっていうか、でもなんか恥ずかしいとは違うっていうか……




何というか、

俺、あいつのこと、好きだ。




「……!?」


な、何言ってんの俺!

気持ち悪っ!気持ち悪っ!

早くドリア食って落ち着け俺!


むせない程度に一気にドリアをほおばる。


……うまっ。

あ、めっちゃ美味い。

ガツガツ……とはいかないものの、食欲があまりないこの状態でも美味しく食べられるな……


……うん、美味い。


結局、俺はそのドリアをものの15分で平らげてしまった。


『美味しかった』


そうメールを送ると、一色が器を取りに来てくれた。


「あ、全部食べたんですねー?偉いです!」


「……」


俺のアホ。

さっきのせいで一色を直視できねぇ。


「む……どーしたんですか先輩。具合悪いなら無理しないで下さいね?」


にじりよってくる一色。

俺は体を捻らせて必死に顔を隠す。


「え……ホントに大丈夫ですか?病院くらいなら連れて行けますけど?」


……違う。やめろ。


「せーんぱい?」


……やめろ、駄目だ俺。


「ねえせーんぱい」


駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ


「……?」


ぐっ……わりぃ一色!




「せーんぱ……むぐっ」


「……っ」













これで2回目だった。


限界……だった。








「…………ふぇ?あ、あの……」



アウトだ。

もうアウトだ。

アホか俺は。


「せ、せーんぱい?」


何やってんのもう。

馬鹿じゃないのか俺は。



「その……今のは、あれですよね、が、我慢できなくなっちゃったーってやつですよね……?」



そうだよその通りだよ俺の馬鹿。

自分が勝手に限界越えて一色に無理やりして……最低だ。


『ごめん 限界だった』


「……。」


許してくれ、なんて言わない。

この謝罪さえも俺の自己満足だ。


「……へ、へー。先輩にも、その、限界とかあるんですねー……ふーん……」


「……」


声はまだ出ない。

俺の思いは伝わらない。


「……先輩、今の」


一色の表情が変わる。













「……最高でしたよ」





そう言って、彼女はまた俺と同じ過ちを繰り返すのだった。











第四章


ふと、比企谷八幡は理解する。








『一色さん』


「……はい」


『何ですかこの状態』


「……見ての通りですけど」


見ての通り……なのは確かなのだが……


ひとつのベッドに一組の男女。

汚れたシーツに乱れた衣服。


要するにスイッチ入っちゃった訳ですね分かります。


……はい。

まっ昼間だぞ馬鹿野郎。


『一色』


「……はぁ、はぁ」


え?


『一色』


「……ふー、ふー」


今気づいたのだが、何だか一色が苦しそうにしている。

駄目だ、全然メール見ねえし……


風邪が、移った?


「……一色」


「ひゃっ!!耳元でささやかないでください変態!!」


バチン。


……聞き間違いか?先輩と変態を聞き間違えたのか俺は?え?気になるんですけど一色さん……


「……いっし」


「変態!!」


変態でした。


いや、先に襲ってきたのはどっちだよ……

我慢できなかった俺も俺だけどさ……


俺を叩いてすぐ、一色はベッドに潜り込んでしまった。これではメールは見れまい……仕方ねえな。


「……」


俺は一色にとあるメッセージを書き残して、ひとり風呂場に向かった。


……ふらふらするが、この状態でベッドに寝るよりはマシだ。

それに……


俺は風呂場でふらふら服を脱ぎ、ふらふらとシャワーを浴びて、ふらふらと湯船に浸かる。


何回ふらふらしてんだ俺。

死んじゃう?俺死んじゃうのん?


……ん?


「……先輩!何やってるんですかもう!」


一色が風呂に入ってきた。

いや、今の「ん?」はそれじゃない。


「そ、そんな状態でお風呂とか、死ぬ気ですかあなたは!」


……今一色にあなたって言われてちょっと嬉しかった。

いや、そういうことでもなく。


俺は一色に、シャワーを浴びて湯船に浸かるよう指示した。風呂場は声が響いて助かる……


その間一色は「ふぇ?」とか「は、え?」とか言ってたが、今はそんなこと言ってられないのだ。


10分後、一色が湯船に入ってきた。


……この時点で俺はもう限界である。いろんな意味で。


俺はそのうち、最重要項だけ一色に告げることにした。

声が届くようにするため、必然的に俺と一色の距離は近くなる。

必然的に。


……当たってることはお互いに譲歩だ。


「なあ一色」


「……はい」


……そんな殊勝にならなくても。


「お前、何か違和感を感じなかったか?」


「違和感……お風呂が広い?」


「近いが遠いな……」


「……先輩が積極的」


「一気に遠くなったな……あと風呂に呼んだのはそういう意味じゃない」


「……ちゃんと洗ってくれたくせに」


「……!」


言うな思い出すから……!


「……ぐだぐだしてもしょうがないから言うが……一色、この風呂」







「誰が沸かしたと思う?」







「……先輩、いや、先輩は……あ」


「……そうだよ」


俺がふらふらしながらも気づいた、最大の違和感。


風呂が、沸いている。


こんなことができる人物がいて、さらにこのタイミングで風呂が沸いている、ということは……


「小町ちゃん……は、臨海学校でいないはずだし……」


「……何も俺ん家にいるのが小町とは限らねえだろ?」


「……え、そ、それじゃあ」


一色も理解したようだ。

そう、つまりこれは……





「……俺の両親に見られ」

「私が沸かしたんですよ」





……は?




「……ぷっ。何て顔してるんですか先輩!あははっ!」


「……」


いや、あははじゃねーよ!

こっちはめちゃくちゃビビってたんだよ馬鹿野郎!無駄に演技するな!


「……まあ、本来なら私だけ入るはずだったから先輩には言いませんでしたけど……大丈夫ですか先輩」


お前のお陰で死にそうだよ……


……いや。というか……

ぅ……これはマジでやばい。


「あ、あれ、先輩?せんぱーい!」


一色……


「せんぱーい!!」


いっし、き……



俺の意識はそこで途切れた。

いや眠りすぎだから俺……





ーーーーーーーーーーーーーーー





……それで、俺が目を覚ましたのが午後7時。あれから三時間後である。


あれ、体の調子がいい。


「……っ、ぁ」


喉の方は相変わらずだが、熱っぽさはとれている。

外出も大丈夫そうだ。

念のためマスクをして、久しぶりに一階に降りる。


リビングのソファに座り、実に四日ぶりにテレビをつける。

おそ松見よ……


しかし、録画番組を選択してopが始まった瞬間、唐突にテレビが消された。

ああ!俺の気力が全力バタンキュー……誰だ!


「アニメはまだ早いですよ?先輩」


……一色だった。


「おはよう、というかおそようございます先輩。ご飯出来てるんでぱっぱと食べちゃってください」


え、何でいるの?


『何で居るんだよ』


「それが……」


一色が外を指さす。

窓の外では雨が……降っていない。

雪は……降るはずがない。


……え、何?


「……見ててくださいね」


「……?」


俺は一色に抱きつかれながら外を見続ける。


……俺も我慢できずに一色を抱きしめてみる。

反撃は食らわなかった。

え、どうしちゃったのこの子……


怖くなったので一色へのホールドを解き、外を眺めることに集中する。


一秒経過。

二秒経過。

三秒経過。

四秒経過。

五秒経過。


ふん、今の私にはこれくらいが限界といったところか……(ラスボス感)


そんなバカやって俺が気を緩ませた瞬間、




ビシャァァァン!!




うおっ!ビックリした!

なるほど、一色は雷が怖かったのか……


「……一色」


「……」


無言。

耳元でささやいても無言。

もちろん反撃はやってこない。

これはマジなやつですね……


「……先輩」


『何だよ』


「……」


一色がキラキラしたあざとい目でこちらを見ている……どうやら断固として自分からは言いたくないらしい。


「……」


……まあ、一色も(目で)こう言ってることだし?

夜に女の子ひとりとか危ないし?何かあったら俺首つるまであるし?


うん。よし。

俺は腹を括ったぞ。


『一色』


「……はい」


『今日は泊まっていけ』


そう送ると、一色の表情が一瞬でにぱっと明るくなった(かわいい)。

やっぱりか……


「……!しょうがないですね!先輩がどうしてもって言うからですよ?」


『わかってる』


「……へへ、ありがとうございます」




……ああもう、明日風邪ぶり返してなけりゃいいけど。

そう思いながら、俺は一色の作った晩飯をいただくべくテーブルについた。


「……」


食事中にケータイはダメだとおかーさんに習っているので、俺は手を合わせていただきますのポーズをとった。


「……はい、召し上がれ!」


通じたようだ。

今日のメニューは……


・豚肉と野菜の炒め物

・カボチャの煮付け

・ホウレン草のごま和え

・白米ご飯


……うん美味い。


俺を配慮してくれてなのか、食事中は完全に無言だったのだが、俺は一色の、一色は俺の表情の変化を眺めるだけで面白かった(らしい)。


「……先輩、食べ終わったら二人で映画見ましょうよ」


『……テレビは駄目なんじゃ』


「アニメはダメですけど、映画は別なのです!」


『そうか』


……「一緒に見たい」ってことか。


一緒に。

それぞれの人生の時間を、一緒に過ごす。

それは言い換えれば、互いの人生を「重ねる」ということだ。


一心同体。

一蓮托生。


彼氏と彼女、もっと言えば、夫婦なんかは、本来そういう関係なのかもしれない。


自分の時間を「捧げている」、俺が今まで嘲笑してきた奴らの関係とは違う「関係」。

俺は多分、そんな関係を今、一色と築けている。


もし、これが未来永劫続いてくれるのなら……



俺は一生をかけて、一色とのこの「関係」を守ると誓おう。





……なんてな。




ーーーーーーーーーーーーーーー




で、その後は飯食って映画みてベッド入って……後は省略していいよね?

うん、省略します。


……で、まあいろいろあって、俺は一色の寝顔を隣で眺めているのだった。


「……すー」


……かわいい。

これが俺の彼女だと思うと、とてつもなく嬉しい。

勇気を出して良かったなと思う。


「……ん」


一色が腕を絡めてきた。

しかしあの衝動は起こらない。

ただ、かわいいなと思っただけ。


「……へへ」


何が嬉しいのか知らんが、一色は寝ながら微笑んでいる。

かわいい。


『……』


一色を起こさないように、一色のケータイを布団でくるんでからメールを送る。

バイブ音も着信音もこれでかなり小さくなっていた。


……よし。

後は一色のケータイを元に戻して……


明日起きたら、果たして一色はどんな顔をするだろうか。

そう思うと、俺はたまらなくゾクゾクするのだった。








第五章




そして、比企谷八幡は覚悟を決める。







「……」


「……」


最近、ヒッキーが学校に来てない。

平塚先生がサボりじゃないって言ってたけど、つまりそれ、ヒッキー今結構ヤバい状態ってことだよね……


「……」


「……」


ヒッキーが休んでもう3日め。

こんな感じであたしもゆきのんも黙っちゃうし、奉仕部の空気は超最悪。

だから……


午後5時30分。

時間を見計らって、あたしはゆきのんにこんな提案をしてみた。


「ねぇねぇゆきのん、もしあれだったら、今からヒッキーのお見舞い行かない?もうこんな時間で、依頼も多分来ないだろうし」


「……そうね、由比ヶ浜さんが行きたいというのなら、私はそれで構わないわ」


そう言いながらも、せっせと片付けを始めるゆきのん。

もう、わかりやすいんだから……


「……うん、そだね。じゃ、あたし小町ちゃんに連絡とってみる!」


「お願いするわ。じゃあ、私は鍵を返してくるから、各自校門前に集合というのはどうかしら」


「うん!わかったオーケー!」


「……意味が重複しているように感じられるのだけれど……」


そう約束して、私たちは部室を出た。




10分後。


「ごめんなさい、待たせてしまったようね」


「全然!大丈夫だよそんな気にしなくて!」


「……そう」


「あ、でさ、小町ちゃんに一応連絡はとれたんだけど……その、小町ちゃん今臨海学校なんだって」


「……そう」


「……でもさ、あたし思ったんだけど、こんなにヤバい状態のヒッキーを小町ちゃんがただぽーんて置いていくかな?」


「……確かに、そうは考えにくいわね」


「で……今日も気になってたんだけど、いろはちゃんさ、最近帰るの早いじゃん?」


「……!ということは」


「……行ってみない?ゆきのん」


「……ええ」




……でも。

この時点でもう、あたしはそのことに気づいてたんだ。

多分だけど、ゆきのんも。








それから結構経って、私たちはヒッキーの家に着いた。

と言っても色々使ったから、一時間もかからなかったけど。


「……じゃあ、押すね」


「ええ」


ピンポーン。


「はーい、どちら様ですか?」


インターホンから聞こえてきたのは、やっぱりいろはちゃんの声だった。


「あ、あの、お見舞いに」


「この家に潜む病原菌からあなたを助けにきたのだけれど」


「……結衣先輩と、雪ノ下先輩」



……がちゃ。

ゆっくりと、ドアが開く。


「……どうぞ!」


「お邪魔します」


「……お邪魔します」


いろはちゃんはあたしたちをリビングに通してくれた。

ヒッキーの家でいろはちゃんに……何だか変な気分だった。


「今お茶でも出しますねー」


「あ、お構いなく!」


……。


とりあえず、あたしたちはヒッキーの病状を聞くことにした。


「で、いろはちゃん、ヒッキーは?」


「ああ、先輩ならまだ寝てますよー?私もついさっき着いたばっかりなんですけど、どうやら先輩お昼食べた後すぐ寝ちゃったようですね。二階でぐっすりでした」


「へ、へぇ……」


……つまりいろはちゃんは、ヒッキーの寝顔見たってことだよね?

あたし、まだ見たことないなぁ……


「……症状と言えば、顕著なのは喉でしょうかね。先輩、冗談じゃなく喋れないんですよ」


「それはかなり深刻な……一色さんは移されたりしていないかしら?」


「はい、不思議なことに」


「……?どういうことかしら」


「いやぁ、先輩たち、特に雪ノ下先輩はもうとっくに感づいているとは思いますが……私、ここ2日間先輩のお世話をしてあげてるんですよ」


……やっぱりそうだったんだ。


「ま、世話してると言っても小町ちゃんに頼まれてですけどねー。はっきり言って生徒会長より大変ですー……」


そう言いながらも、やっぱりいろはちゃんはニコニコしている。

取り繕っている感じじゃない、自然な笑顔だった。


「ふーん」


今の所、あたしはそれしか言えない。言っちゃいけない。

でも、ゆきのんは違うみたいで……


「……それって何だか、あなたと比企谷くんが付き合ってるように見えるわね」


「そーですかー?」


「……」


何も言えない。

もしあたしも、いろはちゃんとヒッキーが、なんて言っちゃったら、もう同じステージに立てないような気がしたから。

……あたしのバカ。


「うーんと、ちょっと待ってて下さいねー」


「……?」


おもむろにケータイを、というか見た感じメールを打ち始めるいろはちゃん。


「……そうですか」


……相手はおそらくヒッキー。

嫌な予感がした。


「……あの、実はそうなんです」


「……は?」


「……」


やっぱり。


「私、その……先輩と付き合ってるんです」


「…………そ、う」


「……」


言葉が出ない。

認めたくない。

信じたくない。

聞きたくない。

知りたくな……


「……由比ヶ浜、さん?」


「あ……ど、どうしたの?」


「……どうかしたのはあなたの方よ……?」


何かが頬を伝って垂れていく感触。あたしの涙だ。

……あたし、いつの間に泣いてたんだろう。


「あ、え、何が……」


「……結衣先輩」


「由比ヶ浜さん……」


バカ。

あたしのバカ。


「あの……えっと」


いろはちゃんが何か言おうとする。

嫌。違うの。何も言わないで。


「……ごめ」

「それは違うと思うわ、一色さん」


……ゆきのん。


「わかっていたのよ、由比ヶ浜さんも、私も」


「……へ」


「わかっていながら、ここに来たのよ。でしょう、由比ヶ浜さん」


「……うん、そうだよ。全部わかってた。いろはちゃんがヒッキーのことを好きなのも、ヒッキーがいろはちゃんのことを好きなのも、だから、いつかはこうなるんだってことも……そのときは諦めなきゃなってことも」


「……」


「でも何だか、本当にそうなんだなって思うと、何か……」


あたしはまた涙を流していた。

わからない。何で泣いてるのか。

ヒッキーが居なくなる寂しさ?

可能性がなくなった絶望?

いや、どれも違う。

多分、あたしが泣くのはもっと薄汚い理由。


ヒッキーと二人っきりでいたい。

ヒッキーの声をもっと聞きたい。

ヒッキーのことをもっと見ていたい。

ヒッキーのことをもっと感じていたい。

そして、あたしだけが知っているヒッキーが欲しい。

そんな薄っぺらい、あたしの独占欲。

あたしは、ヒッキーを独占したかったんだ。


でも、それはもう叶わない。

それが出来るのは、ヒッキーが心を許したいろはちゃんだけ。

ヒッキーの彼女の、一色いろはだけ。

あたしじゃない。

多分、それが悲しくて、許せないんだ。


「……ゆいがはま、さん」


「……ゆきのん」


気がつけばゆきのんも泣いていた。理由は違うかもしれないけど、やっぱりゆきのんもそうだったんだ。

ヒッキーのことが、好きだったんだ。


「……先輩方」


「ごめんねいろはちゃん……あたしたち、卑怯だね」


「いえ。私にも覚えがありますから」


「……そう、知らなかったわ」


「……そのとき、私は言わばお二方に負けたんですよ?葉山先輩は、私より由比ヶ浜先輩たちとの関係と、雪ノ下先輩への恋心を……あ」


「……ん?」


いろはちゃん、今何て?

え、ちょっと待ってゆきのん……


「……?」


……ゆきのんはハンカチで涙を拭きながら、じっと見つめる私たちのことを不思議そうに眺めていた。ゆ、ゆきのん……


「……ねぇゆきのん」


「……なに、かしら」


聞いてなかったみたい。

あ、あっぶな……


「だ、だからその、同情じゃないんですけど、えっと……」


「良いんだよ、いろはちゃん……ね、ゆきのん」


「……そうね。さっきも言った通り、私たちは全部わかった上できているのだから」


「……雪ノ下先輩、結衣先輩」


「だからその、上手く言えなくて申し訳ないのだけれど……」


ゆきのんがあたしの方を見る。

あたしもゆきのんに微笑む。




「「おめでとう、二人とも」」




「……っ、ありがとうございま……え?ふた……り……」




そう。

いろはちゃんが驚いて振り返った先には……


「……っ」


キモいくらいにデレたヒッキーが、何をするでもなく突っ立っているのだった。


本当におめでとう、二人とも。



ーーーーーーーーーーーーーーー



……ありのまま、今起こっていたことを話すぜ……


うちのリビングで何やら話し声がするなと降りてきたら二人が泣いていた……


何が何だかさっぱりだが、どうやらさっきの『先輩、あの二人にならバラしてもいいですか?』という一色のメールに許可をしたのが原因らしい。


……それで「おめでとう」か。

何だか照れくさいな……


「へ、何でここに先輩が!?」


『俺んちだし』


「体調は……!」


『喉以外は大丈夫』


「……!そうですか!」



ええい離れろ恥ずかしい……

てか、見られてるんだぞ?

あいつらガン見だぞおい?


「……そうだ、先輩方。私からひとつだけ、いいですか?」


「……ええ、何かしら」


俺の抵抗など気にもしないどころか、一色はさらに俺との距離を縮めてきた。

何だっていうんだ……?


「……えいっ」


ぎゅっ。

一色が腰に力一杯抱きついてきた。


「……私、この人に世界一幸せにして貰いますから」


……一色?

俺はその言葉の意味がまったく分からなかったが、どうやら雪ノ下たちは理解しているようで……


「……うん!あたしも頑張る!」


「……早とちりはしないように、ね」


……何なんだこいつら。

好きな人でも出来たのか?


「……先輩」


「……?」


「これからも、よろしくお願いします!」


……何なんだ一体?

でもまあ、かわいいから良しとするか……


俺は一色の頭を優しく撫でた。

何故だか、三人とも笑顔を浮かべていた。




ーーーーーーーーーーーーーーー






……その後雪ノ下たちは帰宅。

一色が途中までそれを見送るというので、その間俺はソファーで寝ることにした。

ベッドとはまた違う感触で気持ちいい……







「……んぱい!せーんぱい!」


「……ん」


どれくらい眠っていたのか。

ふと窓の外を見ると、すっかり暗くなっていた。


「ねぇねぇ、起きて下さい先輩!」


「……何だよ」


「そろそろ晩ごはんで……」


そこまで言って、一色の表情が間の抜けたようになった。


「……あっ」


俺も同様だった。


「「声が出てる」」


……治った、のか。


「……よかったですね!じゃ、晩ごはん食べましょ?」


「お、おう」


リアクション薄いのね一色さん。

まあただの風邪だし、そんなもんか……


「……ふふ」


「……どうした」


「いや、何かこうやって先輩とお喋りできるの久し振りだなーって」


「……そうか」


「私、こう見えて結構寂しかったんですからねー?」


「……あざといっての」


……そういえば、このやり取りも本当に久し振りだ。


「先輩!」


「何だよ」


一色が顔を赤らめて言う。


「……今夜は、いっぱいお喋りしましょうね?」


「また泊まるのか?」


「……ダメですか?」


「いや別に良いけどさ、親御さんとか……」


「彼氏の家にお泊まりしてくるって報告はしましたし、許可もちゃんと取りましたよ?何か泣いてましたけど」


「それは、お前……」


「ふふ、今さら?ですよね!」


「……まあ、いやそうだけど……」


ヤバい、俺一色の親御さんに何て謝ればいいんだよ……

いや、もういっそ覚悟を決めるか……?


「……先輩。だから、その、今夜も」


「……その時の気分次第」


「……!じゃ、一緒にお風呂入りますか?」


「見え透いた誘惑をするな。ビッチかお前は……」


「むー……ま、先輩案外チョロ……優しいから大丈夫ですよね!」


「……言い直すな、余計傷つく」


「否定はしないんですねー♪」


……まあ、最後の夜だしな。

そう思って一色を見ると、こいつの顔も真っ赤になっていることに気がついた。


「……じゃ、じゃあ、まずご飯食べますか!」


「……そうだな」


そう言って俺達は、既に料理が並べられているテーブルについた。

今日のメニューは海鮮系。

当然一色の手料理である。


「では、いただきまーす!」


「いただきます」


いつもより賑やかな今日の夕食は、より一段と美味しく感じられるのだった。








第六章


そして、二人の時間は終わりを告げる。








「すー……」


「……」


一色が俺の世話を始めて3日目、つまり正真正銘の最後の日の、午前1時20分。

夜は開けていないものの、やはりどこか「終わった」という消失感があることは否めない。

それは先程一色とのまぐわいを終え、彼女が眠りについてから感じているものである。

実際何が失われたのかと言うと別に何も失われてはいないのだが、それでも何かが抜け落ちたような気がするのは、俺の性格の問題。

前にも言った、独占欲である。


俺はおそらく人より独占欲が強い。それに、想像力もある程度は持ち合わせているだろう。

それがネガティブな方向に働き、つい想像してしまうのだ。

「一色がいなくなった未来」を。

孤独に苛まれ、静寂に包まれる未来を。

しかも、俺のその想像力は脳内に常駐し、隙あらば俺にその未来を予測させてくる。だから俺はぶっちゃけた話、寝ている時以外は殆ど一色のことしか考えられないのだ。気持ち悪いくらいに。


その対策として、俺は敢えてこの3日間の殆どを睡眠に費やしたわけだが、ついにその想像は消えることはなかった。

今もこうしてこっそり一色の手を握っていなければ、俺の頭はまたどこからか不安要素を見いだし、それを火種としてマイナスの未来を想像し始めるに違いない。


俺は、俺が嫌いだ。

いつまでも過去のトラウマに囚われ、存在すらはっきりしない落とし穴にビクビクしながら立ちすくんでいる俺が大嫌いだ。


変わりたいと思った。

だから一色に告白した。

成功例を得るために。

もちろん恋心がなかった訳ではない。

……それで結果、俺は何か変われたのだろうか。


「……っ!」


瞬間、俺はとてつもない不安に襲われた。

答えが見つからないのだ。

変わった、という根拠も。

変わらなかった、という根拠も。


……いや、待てよ。

俺は二日前のことを思い出す。

勢い余ってキスを強要してしまったあの日、そういえば、一色は……


(先輩、今の)


(……最高でしたよ)


もしかすると、俺はあの日偶然にも一色の欲求を満たしていたのかもしれない。

つまりそれは、俺の欲求と一色の欲求が『重なった』ということ……


ぎゅっ。


そのとき、左手を握られる感覚があった。


まさか起こしてしまったのかと焦ったが、見たところ一色は俺の隣で幸せそうに眠り続けている……気のせいだったのか?


「……一色」


「すー……」


左手で頭を撫でながら俺は「彼女」の名を呼ぶ。

その声は、自分でも驚くほど優しいものだった。


「……一色」


「……一色」


「一色……」


しかし、そこまでが俺の限界だった。相手に聞こえるはずがないと知りながらも、名前を呼ぶことはどうしても躊躇われた。


……でも、最後だから。

明日には全てが終わっているはずだから。

そう自分に言い聞かせ、俺は小さな勇気を奮い立たせた。


「……い」


駄目だ。拒絶されるぞ。

俺の想像力が警告する。


「……いろ」


トラウマが脳裏にちらつく。

かつて俺がクラスメイトを名前で呼び、それを冷たくあしらわれた記憶が甦る。


「……っ」


やっぱり、無理だった……



ピロリン♪



……不意に、俺のケータイが鳴った。着信音からして、メールのようだ。

送信元は……


「……!」


……一色。

お前、何で……


「……一色、おい一色」


「……」


何度か体を揺するが、頑なに寝たふりを続ける一色。いいからメールを読め、ということらしい。

よくわからない、その態度に少し怯えながら、俺はおもむろにケータイを操作した。


「…………!」


そのメールの内容は、実に簡潔なものだった。






『責任、とってくださいね』






瞬間、俺は全てが許されたような気がした。


一色の名前を呼ぶことも、

一色を抱くことも、

一色と共に生きていくことも。


許されたと共に、認められた気もした。

俺はそれが堪らなく嬉しかった。



『必ず幸せにする』



俺のその返信に、一色もどうやら満足したようで、


「……んむっ」


「んむ……ぷはっ」


「はむっ」


「!!……んん……ふはっ」


一瞬たりとも、拒む様子は見られなかった。


「……はっ、はっ、先輩、そのっ」


「……っ、んだよ、今さら文句か?」


「いえ、その、えと」


一色が両手を俺の頭に回す。




「私、幸せです」




……はむっ。

一色は俺の答えを待たず、何度も口づけを繰り返した。

情欲や欺瞞を孕まない、優しい口づけだった。






ーーーーーーーーーーーーーーー





……双方始めからそういう意図ではなかったこともあり、結局その次に発展することはなく、俺達が眠りについたのは午前2時。比較的健全な時刻……でもないか。ないな。

そして現時刻は丁度、午前11時を迎えた所である。

そう。

俺は今日も学校を欠席した。

……ずる休みではない。ちゃんと理由のある欠席だ。


実は先程病院に行ってきた所、俺の風邪が感染性だということが発覚した。

つまり学校に「行けない」のである。やったぜ。

……じゃなくて、それじゃ一色が危ないじゃん!ということなのだが、なんと一色は今日も普通に俺の家から登校していった。

あんなにキスしたのに移ってないとか、本気で奇跡レベルである。


……それで俺は今何をしているのかと言うと、二日ぶり、念願のおそ松を見ている。

このアニメ下ネタが多いから、小町がいるとおちおち見てられねえんだよな……

ちなみにただ今13話。

俺はチョロ松推しである。

一色はおそ松推しだと。

「やっぱ頼れるお兄さんタイプがいいですよねー!」とか言ってやがった……ちょっぴり嫉妬した。


まあそれは置いておくとして、俺はついさっき病状が回復したことを小町に報告した。

小町はびっくり……いやそんなビックリしてなかった。

とりあえず電話したところでは、


「……へ、おめでとー。あ、それよりもお兄ちゃんお兄ちゃん、今日は小町きっと疲れて帰ってくるし、何か美味しいものが食べたいなー!せっかくだから手料理だとなお良いんだけど、お兄ちゃん最近美味しい手料理食べなかった?小町も手料理食べたーい!あ、ちなみにいろはさんには予備日として今日まで予定開けといてもらってるけど、どうやら必要なさそうだね!あーあ、いろはさんに無駄な時間開けさせちゃったなー、何かそれはそれで申し訳ないなー」


だと。

……策士め。

本当にかわいい妹である。

じゃ、これから俺がやることは……


俺はおもむろにケータイを操作し、メールを書く。

フリップ入力にも慣れたものだ。といっても、メールは一行以上書いたことないけど。


『今日まで晩飯頼んでもいいか』


そう送信しようとして、俺はあることに気づいた。


(……一色のこと信頼してんだな、俺)


自分の書いた文面を見て、それがどれだけ厚かましい内容かを再確認する。

……少なくとも、他人に送るようなものではない。


と、いうことは。


(一色はもう他人じゃねぇ……か)


こんなこと始めてだ。

俺はやはり「好き」以上の感情を一色に抱いているようだった。




……っと、おそ松を見終わってしまった。次は物語シリーズでも見るか……

そう思って俺が機器からディスクを取り出したそのとき、



ピロリン♪



メールを送ってから3分後。

俺の知る限り最速で、一色からの返信が届いた。







第終章



そして、比企谷八幡は固く決心する。




「たっだいまー」


「ん、お帰り」


「お帰りなさーい!」


午後6時、小町が帰って来た。

両手と背中には二泊三日に見合うたくさんの荷物。俺はそれを受け取り、リビングの片隅に置いた。

一色は料理中である。


「……はーっ!」


「どした小町、亀仙流にでも目覚めたか?」


「……あ、そゆこと。時々分かりづらいんだよなぁお兄ちゃんのギャグ」


「バカ野郎、かめはめ波は亀仙流の奥義だってヤムチャさんが言ってただろ」


「そのわりにはセルとかブウとかも使ってたけどねー」


「セルは悟空の細胞がベースになってるし、ブウは……」


「はいはい、分かった分かった」


お互いに呆れ顔で相手を見つめる。しかしそれは、すぐに笑顔に変わった。


「……お帰り、小町」


「ん、ただいま」


二人でクスクスと笑いあう。

たった3日居なかっただけなのに、随分久し振りに感じた。


「あ、そうだお土産お土産……」


「そういえばお前、どこ行ってきたんだっけ」


「宮城!」


「……結構遠いな」


小町が荷物を漁っていると、料理を終えたのか一色がトコトコとやってきた。


「……ふぅー!」


「……お疲れ。ありがとな」


「へへー……おっ、小町ちゃん何やってるんですかね?」


「お土産、だと」


「もちろんいろはさんの分もありますよー?」


「本当!?ありがとー小町ちゃーん!」


そう言って小町が出してきたのは……


「こ……」


「こけし……?」


「はい、こけしです」


何考えてんだこいつ、こんなん貰って喜ぶ奴がいるか?現に一色固まっちゃってるし……


「……あ、これはカーくん用だよ?おいでーカーくん」


「なー」


小町の呼びかけに応じて、どこからかカマクラがやってきた。

そうか、ネコならこういうの好きかもな……


「それで……はい、お兄ちゃん」


「……おお」


投げ渡されたのは……なんだこれ?


「コーヒー豆。小町が行って美味しかったとこのブレンドを、量り売りしてもらったんだー!」


「……おお、普通に嬉しい。ありがとな」


「笹かまとか牛タンとかより、現地でしか売ってない感あるでしょ?」


何というか、流石だな小町。

こいつのお土産センスには目を見張るものがある……


「……で、こっちがいろはさんのでーす!」


「……わあ!」


そう言って小町が取り出したのは……ブックカバーと、髪飾りだった。

……ブックカバー?


「……一色、お前文庫本なんて読んでるっけ」


「え、まあ……はい、一応」


「ホントかよ……」


もしかして、無理して喜んでる?俺はそんな気がしてならなかったが、小町は何故か一色のその反応を見てなお自信ありげである。


一色はお土産を受け取ると同時に、小町に詰め寄った。



「……小町ちゃん、もしかして知ってた?」


「いろはさんが兄と共通の話題を得るために最近本を読み始めたこと、ですか?」


「ど、どこからそれを……」


「前に結衣先輩から相談を受けた時、ですかね。何かいろはちゃんが頑張ってるーって嘆いてましたから。結構切羽詰まった感じで」


「……そうなんだ」


「でもまあ、小町は相談は受けましたけど、誰にも肩入れした訳じゃないですし。何よりいろはさんは自分の力でお兄ちゃんのハートを射止めた訳ですから、何も気にしなくていいんじゃないですか?」


「……まあ、うん」


「罪悪感なんて感じなくていいんですよ。多分結衣先輩たちもそう思っているだろうし、です!」


「……そうだね、私も本気な訳だし」


「そう言って貰えるなら、お兄ちゃんも安泰ですねー!」



あの、全部聞こえてるんですけど……

でもまあ、あれだ。

聞かなかったことにしよう。

うん。


「あとこれは両親の……はい、これで全部!あー重かった!」


「そんな重量ないんじゃ……」


「お兄ちゃんたちへの『思い』の分だよっ!」


「……あ、そ」


「……いや冗談じゃなく」


「どういうことだよ」


「だって小町家族以外の人にお土産とか始めてなんだよ?やっぱ緊張するもんでさー、気に入ってもらえるかとか心配で……」


「……ま、そうだよな」


「だから、本当に喜んで貰えてよかったー、と肩の荷が降りた訳ですよ!小町の臨海学校は、言わばたった今終了したのです!」


「そ。お疲れさん」


「……ってことでご飯が食べたい」


「……はいよ。つっても作ったの一色だけど」


「お口に合うか分からないけどね……」


ひょこっと出てくる一色。

お前、そんな謙遜するキャラだっけ?


「……安心しろ小町、普通よりは美味い」


「……む、それはどういうことですか先輩!」


「……食ってて、飽きない」


「日本語で言うと最上級ってことだね、お兄ちゃん?」


「まるで俺が独特の言語使ってるような言い方止めろ。間違ってはねぇけど」


その言葉を聞いて、小町が訝しげな目をこちらに向けてきた。

……何?何もねえよ?

いやあるか、うん。あるけども。


「……ははーん、お兄ちゃんもしかしていろはさんルート選択済み?」


「ど、どういうことだし」


「動揺しすぎてキャラ変わってるよ……」


「ぐっ……」


まあ、そりゃそっか。

俺が晩飯頼むとか、それに嫌な顔1つせずに応じてくれるとか、そんな状況見たら誰でも分かるよな……


「あ、あのな、小町」


「うん」


「じ、実はな、俺と一色は……付き合ってるんだ」


「……」


無言で黙り混む小町。

分かってるだろうに、白々しい……いや、まさか本当に分かってなかったのか?

まさかこれ、俺の自滅?


「……おっめでとー!いろはさーん!」


「ありがとー!小町ちゃーん!」


……あれ?そっち?


「いやあ本当によかったですよ、というかありがとうございますこんなゴミ貰ってくれて」


「ううん、私も本当に嬉しい!」


「おい、ゴミいちゃんまでは許容するがゴミはやめろゴミは。それに」


謙譲にしても容赦無さすぎな発言を諌めながら、俺は脳裏に浮かんだ疑問を小町にぶつけた。


「……お前、知ってたの?」


「うん」


うおおおお!!

なんだそれ!お前それ1週間前に教えてくれてれば……っっ!


「それを早く教えて…………なくてもよかった?のか?ん?」


「……何いってんの?」


「……いや、それ知ってれば俺あのとき、あんなに不安にならなくてよかったんじゃないんだろうかとも思って……」


「不安に……え!?お兄ちゃんから告ったの!?」


「そ、そうだけど」


「ええええー!?まぢ!?逆かと思った!!」


「……でも、結果こうなった訳だしいいかなーとも思った」


「小町は何よりもお兄ちゃんの決断にびっくりだよ……トラウマどこ行ったのさ……」


「……いや、なんつーか、モタモタしてると一色が取られそうで嫌だったから……」


「……お兄ちゃん、小町的にポイント高過ぎ」


「私もびっくりしちゃいましたよー……でもまあ、私的には本当にベストシチュエーションだったので、もう即座にok出しちゃったんですけどねー!」


そう言って腕に絡み付く一色。


「……あれ、お兄ちゃんが恥ずかしがらない」


「……まあ、それがこいつとの約束だから、な」


「『好意を素直に受け入れる』、先輩に一番必要なことですよ♪」


「……いろはさんやりますねー」


おっかなびっくり?的な感じで静止してる小町を尻目に、さっきから空腹に襲われていた俺はさっさと椅子に座った。


「……小町、飯」


「あ、はーい……」


「今盛り付けますねー♪」


微妙な反応しか返さない小町と対照的に、楽しそうに晩飯の準備をする一色。

何の気兼ねもなく、それぞれが心地よく暮らすこの空間。

これがいつかは『見慣れた日常』になるのだろうか。

そんなことを思うと、やはり自然と口もとが緩んでしまう。


「……せんぱーい、そんなとこでニヤニヤしないで、ちょっと手伝ってくださいよー!」


「そうだよゴミいちゃん、お姉ちゃんのこと泣かせたら、小町妹辞めるから」


そんな辛辣なことを言われてなお、それを愛しく思う俺がいる。それはとても素晴らしいことなのだろう。


悪意に満ちた嘘や欺瞞ではなく、皆が笑っていられる冗談を交わせる間柄。


俺はずっと、それが欲しかったのだ。


「……冗談じゃないからね、お兄ちゃん」


「……ふぇ!?」


「ほら、早く早く」


「……はいよ」



ひとまず、俺は一色の彼氏になることができた。

しかし、まだ終わってはいない。


そう。

次に俺がやるべきは……


「……一色」


「な、何ですか先輩」





「……待ってろよ」


「……何をですか?」








……彼女が俺のこの言葉の意味を知るのは、それから10年後のことである。


後書き

完、結。
ようやく思い通りのラブコメを書くことができました。自分で読み返して、一色いいなぁ、と思えるくらいには。
これを読んで、何かが読者の方々の心に残れば幸いです。

次回作は、先日京都に行ってきたので、それを題材にまた何か書けたらなと思っています。

それではまた。
次回作もどうぞ宜しくお願いします。


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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2016-09-11 21:22:31 ID: 62fJr4La

エロない方が人くると思うのん
作中に露骨な描写ないしr18いらないのん
あと、最高でした!

2: SS好きの名無しさん 2017-04-11 05:56:30 ID: mOrha4Zv

微妙

3: SS好きの名無しさん 2017-04-11 05:57:00 ID: mOrha4Zv

微妙

4: SS好きの名無しさん 2017-06-30 00:03:18 ID: CdPjTQ4P

絶妙


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1: SS好きの名無しさん 2016-07-28 19:35:00 ID: 5WoPeu4q

むず痒くなる
いろはす最高!

2: SS好きの名無しさん 2016-07-29 09:31:51 ID: 8prftqiF

ピッチっぽく見えても根は純情ないろはす可愛い!!
続き期待してます!!

3: SS好きの名無しさん 2016-09-11 21:23:12 ID: 62fJr4La

最高でした!


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