陳腐な魔王は世界征服の前にお城の普請
ここ三年で十三人の勇者の相手をした。
相手のかっこがつくよう派手にやられたふりをし、封印を体力の三割ほどで抜け出して今日に至る。
____最強の魔王、ゾオン。
じゃあどの辺が陳腐かと言うと世界征服のような大それた対外出兵が出来ない、さらにそれを知っていながら腹黒い妖精共がきらきらのラメ付きの羽をパタパタ必死に振って男どもをそそのかし、いちいち演技をして報酬で生計を立てなければいけないということ。
勇者より面倒な旺盛どもをさっさと倒したいが、大概勇者の茶番に付き合わされてかよわい者をいじめる悪の権化役をしなければいけない。
魔王は今日も勇者との戦闘シーンを演じる……はずだったが。
魔王「最近のやつら、強くね?」
***
勇者「魔王!いざ尋常に勝負!!」
魔王(はぁ…)
ここ最近、挑みにくる勇者の数が増えている。ただ戦うだけならまだしも、やられたふりをするのはきつい。
それに____
最近の勇者は、強い。
こちらも、少々本気を出さないと負けてしまうほどに…
また今回も、封印されてやられるふりをしなければならないのか…
魔王「受けて立つ!!」
多少、ため息混じりの言葉のあとに勇者との戦いが始まった。
数時間後…
魔王「強かった…」
やられるふりをして、捕まったあと封印を抜け出し呟く。
今日は、一段と強かった気がする。
疲れきった体を横にし、魔王は眠りについた。
ガタン____
扉を開ける音が聞こえると、そこには一人の男が立っていた。
大方、予想はできるが…
今日も朝から相変わらずの様子で、男達をそそのかしている妖精たちを見て見ぬふりをして、更に報酬まで考えなければいけない。
朝からうんざりしていたというのに、ここでタイミングよく勇者が来るとはついてない。
また、派手にやられたふりをしなければならないのかと考えてため息をついた時。
勇者「やぁ」
勇者であろう男が、軽く挨拶をしてきた。
・・・。
なんだこいつ?
大概、勇者ならば入った途端に
"お前を倒す!!"
"覚悟しろ!"
"俺は、王の息子なんだ!王の名にかけてぶっ倒す!"
とかなんとか、威勢のいい言葉を吐いて攻撃してくるが…
と言うか、王の名にかけてとかww
流石に、軽く挨拶をしてくるのは驚きだ。
一見、勇者とは思えないような若い黒づくめの男は、先程からニヤニヤと笑みを浮かべている。
この手のタイプは、確実にやりにくいタイプだろうと思いながらも
魔王「おう。」
とだけ返しておいた。
勇者「へぇ…ゾオンさんだっけ?なんだこいつ。とか思ったでしょ?
俺さぁ、言っとくけど戦う気ないからさ。」
魔王「…」
どこからツッコめばいいのやら…
ニヤニヤと笑いながら、勇者はゆっくりと近づいてくる。
勿論、本人が言うように戦う気がないらしく剣も収めたまま。
勇者「あのさ、君やられたふりして戦ってるらしいけど。戦う気本当は無いんでしょ?その他にも、妖精たちへの報酬。悪の権化役でかよわい者いじめ。いじめよくないよ?
まあ、いいや。うんざりしているけれども、どうしようもできずにいつも続けている。どう?図星?」
長いセリフをペラペラと喋りながら、勇者は目の前まで来た。
ここまで言われると、図星すぎてもはや言い返せない。
しかし、どこでその情報を…
魔王「なんで、知ってるんだ?」
勇者「俺、結構情報集めるの得意だからね。そんなことよりさぁ、嫌々つまらない事やってるなら辞めちゃえばいいのに。簡単そうに言ってるって思うかも知れないけど、自分の気持ちに素直になればあっさりと辞められるさ。」
魔王「辞めた後、どうするんだ?ってなるだろ。一応、魔王なんだし…」
勇者「そんなのは、あとでいいよ。とにかくさぁどうするの?ま、実際は辞めようが、辞めまいが俺には大して関係ないけど。」
やりにくいとは思っていたが、ここまでとは…
言い方といい、性格といい絶対。絶っ対捻くれてる。
魔王「はぁ…。今、ここで辞めない。って言ったら勇者はどうするんだ?」
勇者「俺?普通に帰るけど。戦う気ないから。…けどさぁ、せっかく来て話したのに帰るとか勿体無いよね。でも、そうなったらそうなったでしょうがないか。」
魔王「…分かった。辞める」
勇者「あれ?思ったより素直なんだね。いいの?俺の一言で辞めることになっちゃうけど。」
魔王「まぁ、いいや。」
勇者「ふーん。了解っと。それじゃあね〜」
いやいやいや……
こんなあっさり会話終わらせちゃうのかよ。
魔王「え…」
勇者「なに?まだ俺に用あるの?時間惜しいからあるんだったら早くしてね」
魔王「この後、お前はどうするんだ?」
勇者「取り敢えず、そのへんフラフラしながら情報集めて…どうしよっか。モンスターの観察とか?意外と面白いしね。」
魔王「なら、俺も外に出てこれから何かしたいから一緒に行っていいか?」
思わず出た言葉に、驚いたが
考えてみれば、くだらなかった今までの事から開放される事になったのは、こいつのお陰だと思った。
いい奴とは言えないけど…
勇者「君とねぇ…面白そうだね。いいよ。」
勇者「それじゃあ、よろしくね。ゾオンさん。」
魔王「ああ、こちこそ。」
そう言って、勇者が差し伸べた手をとった。
このSSへのコメント